説明

内燃機関の燃料噴射システム

【課題】低圧燃料ポンプと高圧燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射システムにおいて、吸気通路内に噴射する燃料の圧力を変化させる。
【解決手段】低圧燃料ポンプ1と、高圧燃料ポンプ2と、高圧燃料噴射弁7と、燃料の圧力を設定圧力まで低下させる減圧装置9と、低圧燃料噴射弁12と、を直列に備え、低圧燃料ポンプ1と低圧燃料噴射弁12とを高圧燃料ポンプ2を迂回して連通する連通路17と、連通路17に設けられ低圧燃料ポンプ1側から低圧燃料噴射弁12側へのみ燃料を通過させる逆止弁18と、低圧燃料ポンプ1よりも下流側と上流側とを接続するリターン通路13と、リターン通路13に設けられ低圧燃料ポンプ1よりも下流側の燃料の圧力が設定圧力よりも高い所定圧力以上のときに開いて燃料を流通させ所定圧力未満のときに閉じて燃料の流通を遮断する安全弁14と、をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料を気筒内へ直接噴射する内燃機関の燃料噴射システムにおいて、燃料タンクから燃料を吸い上げる低圧燃料ポンプと、低圧燃料ポンプにより吸い上げられた燃料を気筒内へ噴射可能な圧力まで昇圧させる高圧燃料ポンプと、を備えることが知られている。
【0003】
そして、特許文献1には、低圧燃料ポンプ、高圧燃料ポンプ、高圧デリバリパイプ、低圧デリバリパイプの順に直列に接続し、高圧デリバリパイプの下流側で燃圧を調整する技術が記載されている。この技術によれば、低圧デリバリパイプから吸気通路噴射用インジェクタへ燃料が供給され、高圧デリバリパイプから筒内噴射用インジェクタへ燃料が供給される。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の構成では、吸気通路内に燃料を噴射するときの圧力が固定されているため、利用できる運転状態が限られる。例えば、燃料の圧力が高圧で固定されていると、吸気通路内へ高圧で燃料が噴射されるため、少量の燃料を噴射させることが困難となる虞がある。逆に、燃料の圧力が低圧で固定されていると、吸気通路へ低圧で燃料が噴射されるため、燃料の微粒化の促進などが困難となる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−144666号公報
【特許文献2】特開2006−016989号公報
【特許文献3】特開2003−074441号公報
【特許文献4】特開2010−024853号公報
【特許文献5】特開2008−231919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低圧燃料ポンプと高圧燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射システムにおいて、吸気通路内に噴射する燃料の圧力を変化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明による内燃機関の燃料噴射システムは、
燃料タンク内の燃料を吐出する低圧燃料ポンプと、
前記低圧燃料ポンプから吐出される燃料を昇圧して吐出する高圧燃料ポンプと、
前記高圧燃料ポンプよりも下流側に設けられ該高圧燃料ポンプから吐出される燃料を噴射する高圧燃料噴射弁と、
前記高圧燃料噴射弁よりも下流側で燃料の圧力を設定圧力まで低下させる減圧装置と、
前記減圧装置よりも下流側に設けられ前記高圧燃料噴射弁よりも低圧で燃料を噴射する低圧燃料噴射弁と、
前記高圧燃料ポンプを迂回して、前記低圧燃料ポンプと前記低圧燃料噴射弁とを連通する連通路と、
前記連通路に設けられ、前記低圧燃料ポンプ側から、前記低圧燃料噴射弁側へのみ燃料を通過させる逆止弁と、
前記低圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記高圧燃料ポンプよりも上流側の燃料通路と前記低圧燃料ポンプよりも上流側とを接続するリターン通路と、
前記リターン通路に設けられ、前記低圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記高圧燃料ポンプよりも上流側の燃料の圧力が、前記設定圧力よりも高い所定圧力以上のときに開いて燃料を流通させ、該所定圧力未満のときに閉じて燃料の流通を遮断する安全弁と、
を備える。
【0008】
低圧燃料噴射弁は、高圧燃料噴射弁よりも低い圧力で燃料を噴射する。低圧燃料噴射弁は、例えば吸気ポートまたは吸気マニホールド等の吸気通路内に燃料を噴射する。また、高圧燃料噴射弁は、例えば気筒内に燃料を噴射する。低圧燃料ポンプから吐出された燃料は、高圧燃料ポンプにより、高圧燃料噴射弁から噴射するのに適した圧力まで昇圧される。高圧燃料噴射弁から噴射されなかった燃料は、減圧装置により圧力が低下され、低圧燃料噴射弁に供給される。減圧装置では、燃料が、低圧燃料噴射弁から噴射するのに適した圧力まで降圧される。すなわち、低圧燃料噴射弁に供給される燃料の圧力が、減圧装置により調整される。
【0009】
一方、低圧燃料ポンプからの燃料の吐出量を増加させると、低圧燃料ポンプよりも下流側で且つ高圧燃料ポンプよりも上流側の燃料の圧力(以下、フィード圧ともいう。)が上昇する。そして、フィード圧が、減圧装置における設定圧力よりも高くなると、逆止弁が開く。すなわち、フィード圧が設定圧力よりも高くなると、低圧燃料ポンプ側の圧力が、低圧燃料噴射弁側の圧力よりも高くなるため、低圧燃料ポンプから低圧燃料噴射弁へ、高圧燃料ポンプを介さずに燃料が供給される。すなわち、低圧燃料噴射弁へ燃料を供給する経路は、減圧装置を介して燃料を供給する経路と、連通路を介して燃料を供給する経路と、の2通りある。
【0010】
そして、フィード圧を調整することにより、低圧燃料噴射弁へ燃料を供給する経路を切り替えることができる。この2つの経路により供給される燃料の圧力は、夫々異なる。すなわち、減圧装置における設定圧力よりも、連通路を介して供給される燃料の圧力のほうが高い。このため、フィード圧を調整することにより、低圧燃料噴射弁から噴射させる燃料の圧力を変化させることができる。
【0011】
ここで、安全弁は、設定圧力よりも高い所定圧力以上のときに開いて燃料を流通させる。このときには、フィード圧は所定圧力となる。すなわち、低圧燃料ポンプからの燃料の吐出量を増加させてフィード圧を所定圧力以上とすれば、低圧燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力を該所定圧力で一定とすることができる。そして、低圧燃料ポンプから低圧燃料噴射弁へ直接燃料を供給することにより、比較的高い圧力の燃料を供給することが可能となるため、高温再始動時や燃料を微粒化する要求があったとしても、これに対応することができる。
【0012】
また、低圧燃料噴射弁から低圧の燃料を噴射する要求がある場合には、低圧燃料ポンプからの燃料の吐出量を減少させて、フィード圧を設定圧力以下とすれば、逆止弁が閉じるため、低圧燃料噴射弁へは減圧装置を介して設定圧力の燃料が供給される。このときには、フィード圧を可及的に低くして、低圧燃料ポンプの消費電力を低減してもよい。このようにして、低圧燃料噴射弁から噴射させる燃料の圧力を変化させることができる。
【0013】
また、本発明においては、前記低圧燃料ポンプは、電力の供給により作動し、
前記安全弁が開いているか否かを、前記低圧燃料ポンプへ通電するときの電圧または電流の少なくとも一方により判定する判定部を備えることができる。
【0014】
低圧燃料ポンプへ供給する燃料の圧力の切り替えは、低圧燃料ポンプの吐出量を調整す
ることにより行われるため、逆止弁や減圧装置を操作する必要はない。ここで、燃料の圧力が切り替わっているのか否かの判定を、燃料の圧力を検出して行うと、センサを設置する必要があるためにコストが上がる。そこで、低圧燃料ポンプへ供給される電圧または電流の少なくとも一方により、燃料の圧力が切り替わっているか否か判定する。ここで、低圧燃料ポンプへ通電したときの電圧及び電流は燃料の圧力と比例関係にある。したがって、低圧燃料ポンプを流れる電気の電圧または電流の少なくとも一方に基づいて、燃料の圧力を推定することができる。これにより、燃料の圧力が切り替わっているか否か判定することができる。例えば、電圧または電流が所定値以上のときに、逆止弁が開いていると判定することができる。この所定値は、フィード圧が逆止弁の開弁圧力となる電圧または電流の値とすることができる。
【0015】
また、本発明においては、前記高圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記減圧装置よりも上流側の燃料の圧力の変化速度の上限値を設定する上限値設定部を備えることができる。
【0016】
すなわち、燃料の圧力の変化速度に上限ガードを設ける。ここで、高圧燃料ポンプからの燃料の吐出圧力の変化速度が高くなると、低圧燃料噴射弁における燃料の圧力の変化幅が大きくなるため、低圧燃料噴射弁からの燃料噴射量にばらつきが生じ、空燃比が変動する虞がある。これに対し、高圧燃料ポンプ側の燃料の圧力の変化速度を抑えることにより、低圧燃料噴射弁に供給される燃料の圧力の変化幅を小さくすることができるので、空燃比の変動を抑制できる。
【0017】
また、本発明においては、前記上限値設定部は、前記低圧燃料噴射弁から燃料を噴射する要求のあるときに、前記燃料の圧力の変化速度の上限値を設定することができる。
【0018】
すなわち、低圧燃料噴射弁から燃料を噴射させないのであれば、低圧側の燃料の圧力が変動したとしても、空燃比の変動は発生しない。このような場合には、高圧燃料ポンプから吐出される燃料の圧力の変化速度を高くすることにより、高圧燃料噴射弁から噴射される燃料の圧力を速やかに調整することができる。
【0019】
また、本発明においては、前記高圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記減圧装置よりも上流側の燃料の圧力の変化速度が所定速度を超える場合には、前記低圧燃料噴射弁からの燃料の噴射を禁止する禁止部を備えることができる。
【0020】
このように燃料の噴射を禁止することにより、低圧燃料噴射弁から噴射される燃料量の変動による空燃比の変動を防止することができる。なお、時間が経てば燃料の圧力は安定するので、燃料の圧力が安定する所定期間だけ燃料の噴射を禁止してもよい。所定速度は、前記上限値と同じ値とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低圧燃料ポンプと高圧燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射システムにおいて、吸気通路内に噴射する燃料の圧力を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】内燃機関の燃料噴射システムの概略構成を示す図である。
【図2】高圧燃圧の変化速度が上限ガードを超えているときの、高圧燃圧と、ポート噴射用低圧燃圧と、の推移を示したタイムチャートである。
【図3】高圧燃圧の変化速度が上限ガード以下となっているときの、高圧燃圧と、ポート噴射用低圧燃圧と、の推移を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0024】
<実施例1>
図1は、内燃機関の燃料噴射システムの概略構成を示す図である。図1に示す燃料噴射制御システムは、直列4気筒の内燃機関に適用される燃料噴射制御システムであり、低圧燃料ポンプ1と、高圧燃料ポンプ2とを備えている。なお、内燃機関の気筒数は、4つに限られず、5つ以上であってもよく、或いは3つ以下であってもよい。
【0025】
低圧燃料ポンプ1は、燃料タンク3内に設けられている。低圧燃料ポンプ1は、燃料タンク3に貯留されている燃料を汲み上げるためのポンプであり、電力により駆動されるタービン式ポンプ(ウェスコ式ポンプ)である。低圧燃料ポンプ1には、低圧燃料通路4の一端が接続されており、該低圧燃料通路4の他端は高圧燃料ポンプ2に接続されている。そして、低圧燃料ポンプ1から吐出された燃料は、低圧燃料通路4によって高圧燃料ポンプ2の吸入口へ導かれる。
【0026】
高圧燃料ポンプ2は、低圧燃料ポンプ1から吐出された燃料を昇圧するためのポンプであり、内燃機関の動力(例えば、カムシャフトの回転力)により駆動される往復式のポンプ(プランジャー式ポンプ)である。この高圧燃料ポンプ2からの燃料の吐出量(吐出圧力としてもよい。)は、後述するECU30により調整される。また、高圧燃料ポンプ2の吐出口には、高圧燃料通路5の一端が接続されている。高圧燃料通路5の他端は、高圧デリバリパイプ6に接続されている。
【0027】
高圧デリバリパイプ6には、4つの高圧燃料噴射弁7が接続されており、高圧燃料ポンプ2から高圧デリバリパイプ6へ圧送された高圧の燃料が各高圧燃料噴射弁7へ分配される。高圧燃料噴射弁7は、内燃機関の気筒内へ燃料を噴射する。
【0028】
また、高圧デリバリパイプ6には、高圧燃料排出通路8の一端が接続されている。高圧燃料排出通路8の他端は、燃料の圧力を減少させる減圧装置9の入口側に接続されている。減圧装置9は、高圧燃料排出通路8側から減圧燃料通路10側へ燃料が流れるときに、該燃料の圧力が設定圧力となるように、燃料の圧力を低下させる。なお、本実施例では、設定圧力を変化させることはできないものとする。そして、減圧装置9の出口側には、減圧燃料通路10の一端が接続されている。なお、高圧燃料通路5内の燃料の圧力、高圧デリバリパイプ6内の燃料の圧力、高圧燃料排出通路8内の燃料の圧力、高圧燃料噴射弁7から噴射される燃料の圧力は、略同一になる。
【0029】
また、減圧燃料通路10の他端は、低圧デリバリパイプ11に接続されている。低圧デリバリパイプ11には、4つの低圧燃料噴射弁12が接続されており、減圧装置9で減圧された燃料が各低圧燃料噴射弁12へ分配される。低圧燃料噴射弁12は、内燃機関の吸気通路(例えば、吸気ポート又はサージタンク、吸気マニホールド)内へ燃料を噴射する。
【0030】
また、低圧燃料通路4の途中には、低圧リターン通路13の一端が接続されている。低圧リターン通路13の他端は、燃料タンク3に接続されている。なお、低圧燃料ポンプ1よりも上流側に燃料通路が備わる場合には、低圧リターン通路13の他端を、低圧燃料ポンプ1よりも上流側の燃料通路に接続させてもよい。低圧リターン通路13の途中には、低圧安全弁14が設けられている。低圧安全弁14は、低圧燃料通路4内の圧力(フィード圧)が所定圧力を超えたときに開弁する。これにより、低圧燃料通路4内の余剰の燃料が低圧リターン通路13を介して燃料タンク3へ戻される。
【0031】
また、高圧燃料排出通路8の途中には、高圧リターン通路15の一端が接続されている。高圧リターン通路15の他端は、低圧燃料通路4の途中に接続されている。高圧リターン通路15の途中には、高圧安全弁16が設けられている。高圧安全弁16は、高圧燃料排出通路8側から低圧燃料通路4側へ向かう流れを許容し、逆方向の流れを遮断する。そして、高圧安全弁16は、高圧燃料排出通路8内の圧力(高圧燃料圧力)が所定値を超えたときに開弁する。これにより、高圧燃料排出通路8内の余剰の燃料が高圧リターン通路15を介して低圧燃料通路4へ戻される。
【0032】
また、低圧燃料通路4の途中には、連通路17の一端が接続されている。連通路17の他端は、低圧デリバリパイプ11に接続されている。連通路17の途中には、逆止弁18が設けられている。逆止弁18は、低圧燃料通路4側から低圧デリバリパイプ11側へ向かう流れを許容し、逆方向の流れを遮断する。逆止弁18は、低圧燃料通路4内の燃料の圧力が、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力よりも高くなると開く。
【0033】
また、低圧燃料通路4の途中には、リーク絞り通路19の一端が接続され、該リーク絞り通路19の他端は、逆止弁18よりも低圧デリバリパイプ11側の連通路17の途中に接続されている。リーク絞り通路19の途中には、燃料を極少量流通させる絞り20が設けられている。
【0034】
そして、本実施例では、上記した各機器を制御するためのECU30を備えている。ECU30は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどを備えた電子制御装置である。ECU30は、圧力センサ31、アクセルポジションセンサ32、クランクポジションセンサ33などの各種センサと電気的に接続されている。
【0035】
圧力センサ31は、高圧デリバリパイプ6に取り付けられており、高圧デリバリパイプ6内の燃料圧力(高圧燃料ポンプの吐出圧力)に相関した電気信号を出力するセンサである。圧力センサ31によれば、高圧燃料噴射弁7から噴射される燃料の圧力を検出できる。アクセルポジションセンサ32は、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)に相関した電気信号を出力する。アクセルポジションセンサ32の出力信号により、内燃機関の負荷が検出される。クランクポジションセンサ33は、内燃機関の出力軸(クランクシャフト)の回転位置に相関した電気信号を出力するセンサである。クランクポジションセンサ33の出力信号により、内燃機関の回転数が検出される。
【0036】
また、ECU30は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、低圧燃料ポンプ1や高圧燃料ポンプ2を制御する。例えば、ECU30は、圧力センサ31の検出値(実燃圧)が目標値に収束するように、高圧燃料ポンプ2からの燃料の吐出量を調整する。その際、ECU30は、高圧燃料ポンプ2の駆動デューティ(ソレノイドの通電時間と非通電時間との比)を変化させることで、実燃圧と目標値との差に基づく比例積分制御(PI制御)を行う。また、ECU30は、高圧燃料噴射弁7及び低圧燃料噴射弁12への通電時間を制御することにより、高圧燃料噴射弁7及び低圧燃料噴射弁12からの燃料噴射量を制御する。
【0037】
ここで、本実施例では、減圧装置9の設定圧力は一定の値であり変更することはできない。すなわち、減圧装置9を通過する燃料を低圧燃料噴射弁12から噴射させる場合には、噴射させる燃料の圧力を変更することができない。ところで、内燃機関が高温状態で始動されるときや、燃料の微粒化の要求が高いときには、低圧燃料噴射弁12から比較的圧力の高い燃料を噴射すると効果的である。このような比較的高い圧力となるように、減圧装置9の設定圧力を決定すると、低圧燃料噴射弁12から比較的低い圧力の燃料を噴射させることが困難となる。そうすると、例えば、低圧燃料噴射弁12から噴射可能な燃料の
最小量(最小噴射量)が大きくなるので、低圧燃料噴射弁12を使用する機会が限られてしまう。
【0038】
これに対し本実施例では、連通路17及び逆止弁18を備えている。そして本実施例では、低圧安全弁14の開弁圧力(所定圧力)を、減圧装置9の設定圧力よりも高くしている。さらに、比較的低い圧力で低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射させる要求があるときには、フィード圧が減圧装置9の設定圧力よりも低くなるように、低圧燃料ポンプ1を駆動する。このときには、低圧燃料通路4側よりも低圧デリバリパイプ11側の圧力のほうが高くなるため、逆止弁18により連通路17における燃料の流通が遮断される。そして、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力は、減圧装置9により調整された後の圧力となる。すなわち、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力は、減圧装置9の設定圧力と等しくなる。この場合、低圧燃料噴射弁12から噴射される燃料の圧力が比較的低い圧力に調整されるので、最小噴射量をより小さくすることが可能となる。
【0039】
なお、比較的低い圧力で低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射させる要求があるときには、低圧燃料噴射弁12から噴射させる燃料の圧力は減圧装置9の設定圧力となるため、フィード圧は必要最低限の値まで低下させてもよい。なお、フィード圧の必要最低限の値は、ベーパが発生しないフィード圧の下限値としてもよい。このようにすることで、低圧燃料ポンプ1の消費電力を可及的に低減することができるため、燃費を向上させることができる。
【0040】
一方、内燃機関が高温状態で始動されるときや、燃料の微粒化の要求が高いときには、比較的高い圧力で低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射させる要求がある。このような要求がある場合には、フィード圧が減圧装置9の設定圧力よりも高くなるように、低圧燃料ポンプ1を駆動する。このときには、低圧燃料通路4側の圧力よりも、低圧デリバリパイプ11側の圧力のほうが低いため、逆止弁18が開く。そして、連通路17を介して、低圧燃料通路4側から低圧デリバリパイプ11側へ燃料が流れる。このときの、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力はフィード圧と同じになり、該低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力は、低圧燃料ポンプ1の吐出量を操作することにより調整される。なお、低圧安全弁14が開くまでフィード圧を上昇させてもよい。そうすると、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力が、低圧安全弁14の開弁圧力である所定圧力となる。このようにして、低圧燃料噴射弁12から噴射される燃料の圧力が比較的高い圧力に調整されるので、燃料の微粒化等を促進させることができる。
【0041】
このように、低圧燃料ポンプ1からの燃料の吐出量を操作することにより、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力を、減圧装置9の設定圧力またはフィード圧の一方に調整することができる。すなわち、低圧燃料噴射弁12から異なる圧力の燃料を噴射させることができる。なお、低圧燃料ポンプ1からの燃料の吐出量は、該低圧燃料ポンプ1の駆動デューティを操作することにより調整できる。また、低圧燃料ポンプ1に供給する電力を操作することにより、低圧燃料ポンプ1からの燃料の吐出量を調整してもよい。
【0042】
フィード圧を減圧装置9の設定圧力よりも高くする場合の該フィード圧は、低圧燃料噴射弁12から噴射させる燃料の圧力の要求値に応じて設定してもよい。また、低圧燃料噴射弁12から比較的高い圧力の燃料を噴射させるときには、フィード圧を操作することにより、低圧燃料噴射弁12から噴射させる燃料の圧力を調整してもよい。また、低圧安全弁14が開弁し得るほどフィード圧が上昇するように低圧燃料ポンプ1の吐出量を増加させて、低圧燃料噴射弁12から比較的高い圧力の燃料を噴射させてもよい。この場合、低圧安全弁14の開弁圧力である所定圧力が、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力となる。このときには、低圧安全弁14を開弁させるように低圧燃料ポンプ1を駆動すれば、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力は一定となるので、低圧燃料ポンプ1の吐出量の
細かい制御が不要となる。
【0043】
低圧安全弁14が開く圧力を、減圧装置9の設定圧力よりも高くすることにより、逆止弁18が開く前に低圧安全弁14が開くことを抑制できる。低圧安全弁14が開く圧力は、減圧装置9の設定圧力よりも高くしつつ、装置の耐久性などを考慮して決定してもよい。
【0044】
なお、低圧デリバリパイプ11には、圧力センサが設けられていないため、実際の燃圧がどのような値になっているのか直接検出することができない。これに対し本実施例では、低圧燃料ポンプ1に通電するときの電圧または電流の少なくとも一方に基づいて、低圧デリバリパイプ11内の燃圧の状態を推定する。
【0045】
ここで、低圧燃料ポンプ1に電力を供給したときに低圧燃料ポンプ1に印加される電圧または電流は、フィード圧に比例する。特に電流値は、燃圧との相関が高い。そして、本実施例では、燃料の吐出能力が許容範囲の下限まで低下している状態の低圧燃料ポンプ1を用いて予め実験を行い、低圧安全弁14の開弁時の電圧及び電流を閾値として測定しておく。そうすると、実際の電圧または電流と、閾値と、を比較することにより、低圧安全弁14が開いているか否か判定することができる。すなわち、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力が比較的高くなっているか否か判定することができる。また、電圧または電流と、フィード圧との関係を予め実験等により求めて、ECU30に記憶させておいてもよい。そして、本実施例では低圧安全弁14が開いているか否かを判定するECU30が、本発明における判定部に相当する。
【0046】
以上説明したように本実施例によれば、低圧燃料噴射弁12から比較的高い圧力の燃料と、比較的低い圧力の燃料と、を噴射させることができる。すなわち、吸気通路内に噴射する燃料の圧力を変化させることができる。これにより、低圧燃料噴射弁12を使用可能な運転状態を広げることができる。
【0047】
<実施例2>
本実施例においては、高圧燃料ポンプ2の吐出圧力(以下、高圧燃圧という。)の変化速度(単位時間当たりの変化量)に上限値を設定する。すなわち、上限値でガードする(上限ガードを設ける)。なお、高圧燃圧は、高圧燃料通路5内の燃料の圧力、高圧デリバリパイプ6内の燃料の圧力、高圧燃料排出通路8内の燃料の圧力、または、高圧燃料噴射弁7から噴射される燃料の圧力としてもよい。その他の装置等は実施例1と同じため、説明を省略する。
【0048】
ここで、高圧燃圧は、運転状態により例えば4から12MPa程度に変化する。この高圧燃圧の変化は、圧力センサ31により検出され、高圧燃料噴射弁7の通電時間が補正される。このため、高圧燃圧が変化したとしても、高圧燃料噴射弁7から噴射される燃料量の変動は抑制される。
【0049】
しかし、低圧燃料噴射弁12は、一般には、機械式のリリーフ弁で燃料の圧力が調整され、例えば300から400kPaの圧力とされる。この場合、圧力センサによる燃料噴射量の補正はない。ここで、減圧装置9により設定圧力まで減圧される構成では、高圧燃圧が変動したときに、減圧装置9では燃料の圧力の変動を取り除くことができないため、減圧燃料通路10内の燃料の圧力も変動することになる。このため、低圧燃料噴射弁12から噴射される燃料の圧力を調整する機構や、燃料噴射量を補正する手段を持たない場合には、空燃比が変動してしまい、機関性能が低下したり、排気中に有害物質が多く含まれたりする虞がある。
【0050】
これに対して本実施例では、高圧燃圧の変化速度に上限ガードを設けているので、高圧燃圧の変化速度が上限ガード以下に抑えられる。なお、この上限ガードは、低圧デリバリパイプ11内の燃料の圧力(以下、ポート噴射用低圧燃圧ともいう。)の変動が許容範囲内となるような高圧燃圧の変化速度の上限値として予め実験等により求めておく。そして、高圧燃圧の変化速度は、例えば高圧燃料ポンプ2の駆動デューティを小さくしたり、目標となる高圧燃圧の変化速度を制限したりすることにより、低下させることができる。
【0051】
ここで、図2は、高圧燃圧の変化速度が上限ガードを超えているときの、高圧燃圧と、ポート噴射用低圧燃圧と、の推移を示したタイムチャートである。また、図3は、高圧燃圧の変化速度が上限ガード以下となっているときの、高圧燃圧と、ポート噴射用低圧燃圧と、の推移を示したタイムチャートである。図3に示したように、上限ガードを設けている場合には、高圧燃圧の上昇速度及び下降速度が、図2に示した場合と比較して、低くなっている。このため、ポート噴射用低圧燃圧の変動が、図2に示した場合よりも、図3に示した場合の方が小さくなっている。
【0052】
このように、高圧燃圧の変化によりポート噴射用低圧燃圧の変動を抑制することができるため、空燃比の変動を抑制することができる。なお、本実施例においては高圧燃圧の変化速度の上限ガードを設定するECU30が、本発明における上限値設定部に相当する。
【0053】
なお、高圧燃圧の変化速度に上限ガードを設けるのは、低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射する要求があるときに限ってもよい。これは、低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射するときに限るとしてもよい。すなわち、低圧燃料噴射弁12から燃料を噴射しなければ、ポート噴射用低圧燃圧が変動していたとしても、問題はない。また、高圧燃圧の変化速度に上限ガードを設けなければ、高圧燃圧を速やかに変化させることができるため、高圧燃圧を目標値に速やかに合わせることができる。
【0054】
また、高圧燃圧の変化速度に上限ガードを設ける代わりに、高圧燃圧の変化速度が所定速度を超える場合に、低圧燃料噴射弁12からの燃料噴射を禁止してもよい。ここでいう所定速度は、上限ガードと同じ値に設定することができる。このように、低圧燃料噴射弁12からの燃料噴射を禁止することにより、ポート噴射用低圧燃圧の変動が許容範囲を超えているときに燃料が噴射されることを抑制できるため、空燃比が変動することを抑制できる。なお、ポート噴射用低圧燃圧は、絞り20の効果により、時間が経てば安定する。したがって、ポート噴射用低圧燃圧が安定するまでの期間だけ、低圧燃料噴射弁12からの燃料噴射を禁止してもよい。この期間は、実験等により最適値を求めることができる。そして、低圧燃料噴射弁12からの燃料噴射を禁止している期間は、その分の燃料を、高圧燃料噴射弁7から噴射させることにより、燃料の不足分を補うことができる。なお、本実施例においては低圧燃料噴射弁12からの燃料の噴射を禁止するECU30が、本発明における禁止部に相当する。
【符号の説明】
【0055】
1 低圧燃料ポンプ
2 高圧燃料ポンプ
3 燃料タンク
4 低圧燃料通路
5 高圧燃料通路
6 高圧デリバリパイプ
7 高圧燃料噴射弁
8 高圧燃料排出通路
9 減圧装置
10 減圧燃料通路
11 低圧デリバリパイプ
12 低圧燃料噴射弁
13 低圧リターン通路
14 低圧安全弁
15 高圧リターン通路
16 高圧安全弁
17 連通路
18 逆止弁
19 リーク絞り通路
20 絞り
30 ECU
31 圧力センサ
32 アクセルポジションセンサ
33 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料を吐出する低圧燃料ポンプと、
前記低圧燃料ポンプから吐出される燃料を昇圧して吐出する高圧燃料ポンプと、
前記高圧燃料ポンプよりも下流側に設けられ該高圧燃料ポンプから吐出される燃料を噴射する高圧燃料噴射弁と、
前記高圧燃料噴射弁よりも下流側で燃料の圧力を設定圧力まで低下させる減圧装置と、
前記減圧装置よりも下流側に設けられ前記高圧燃料噴射弁よりも低圧で燃料を噴射する低圧燃料噴射弁と、
前記高圧燃料ポンプを迂回して、前記低圧燃料ポンプと前記低圧燃料噴射弁とを連通する連通路と、
前記連通路に設けられ、前記低圧燃料ポンプ側から、前記低圧燃料噴射弁側へのみ燃料を通過させる逆止弁と、
前記低圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記高圧燃料ポンプよりも上流側の燃料通路と前記低圧燃料ポンプよりも上流側とを接続するリターン通路と、
前記リターン通路に設けられ、前記低圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記高圧燃料ポンプよりも上流側の燃料の圧力が、前記設定圧力よりも高い所定圧力以上のときに開いて燃料を流通させ、該所定圧力未満のときに閉じて燃料の流通を遮断する安全弁と、
を備える内燃機関の燃料噴射システム。
【請求項2】
前記低圧燃料ポンプは、電力の供給により作動し、
前記安全弁が開いているか否かを、前記低圧燃料ポンプへ通電するときの電圧または電流の少なくとも一方により判定する判定部を備える請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射システム。
【請求項3】
前記高圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記減圧装置よりも上流側の燃料の圧力の変化速度の上限値を設定する上限値設定部を備える請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射システム。
【請求項4】
前記上限値設定部は、前記低圧燃料噴射弁から燃料を噴射する要求のあるときに、前記燃料の圧力の変化速度の上限値を設定する請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射システム。
【請求項5】
前記高圧燃料ポンプよりも下流側で且つ前記減圧装置よりも上流側の燃料の圧力の変化速度が所定速度を超える場合には、前記低圧燃料噴射弁からの燃料の噴射を禁止する禁止部を備える請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−83184(P2013−83184A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222700(P2011−222700)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】