説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】高圧燃料系内の燃料圧力を低下させるために筒内用噴射弁による燃料噴射を行うに際して、トルクショックの発生を抑えることのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関11は、低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射するポート噴射用インジェクタ22と、高圧燃料系170から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内噴射用インジェクタ17とを備える。電子制御装置30は、ポート噴射用インジェクタ22のみによる燃料噴射が行われている状態で高圧燃料系170内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、高圧燃料系170内の燃料圧力が低下し始めるまで筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射する吸気通路用噴射弁と、高圧燃料系から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内用噴射弁とを備える内燃機関が知られている。この内燃機関では、各噴射弁から噴射される燃料量の噴射比率が機関運転状態に応じて種々変更される。
【0003】
ここで、吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が継続して行われていると、筒内用噴射弁に燃料を供給する高圧燃料系内の燃料は機関から受熱して圧力が高くなる。そこで、特許文献1に記載の装置では、高圧燃料系内の燃料圧力が高くなった場合、筒内用噴射弁による燃料噴射を行うことで燃料圧力を低下させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−203414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、機関運転状態に応じて要求された燃料噴射量を筒内用噴射弁から噴射させる場合、燃料圧力が高いほど筒内用噴射弁の噴射時間、つまり筒内用噴射弁を開弁させるための通電時間は短くなる。また、筒内用噴射弁には噴射量を保証するための最小噴射時間が存在し、通常、この最小噴射時間よりも短い噴射時間は設定されない。
【0006】
ここで、上述したように燃料圧力が高くなっている状態において、筒内用噴射弁による燃料噴射を行う場合には、要求された燃料噴射量及び燃料圧力から算出された噴射時間が最小噴射時間よりも短くなる可能性がある。
【0007】
算出された噴射時間が最小噴射時間よりも短い場合には、筒内用噴射弁の噴射時間として、算出された噴射時間ではなく最小噴射時間が設定されるため、実際の噴射時間は、算出された噴射時間と最小噴射時間との差の分だけ長くなる。そのため、要求された燃料噴射量に対してそうした噴射時間の差の分だけ多くの燃料が噴射される。従って、筒内用噴射弁による燃料噴射が行われた直後には空燃比がリッチ化しやすく、こうした空燃比のリッチ化による機関出力の変化によってトルクショックが発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高圧燃料系内の燃料圧力を低下させるために筒内用噴射弁による燃料噴射を行うに際して、トルクショックの発生を抑えることのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射する吸気通路用噴射弁と、高圧燃料系から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、吸気通路用噴射弁及び筒内用噴射弁から噴射される燃料量の噴射比率が変更される内燃機関の燃料噴射制御装置において、吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態で前記高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、前記燃料圧力が低下し始めるまで筒内用噴射弁の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行することをその要旨とする。
【0010】
同構成によれば、吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態、つまり筒内用噴射弁による燃料噴射は行われておらず高圧燃料系内で燃料が滞っている状態では、高圧燃料系内の燃料が受熱によって高圧化しやすい状態になっている。そして実際に高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、燃圧低下処理が実行されることにより、それまで閉弁状態にされていた筒内用噴射弁への通電が開始され、当該筒内用噴射弁が開弁することにより高圧燃料系内の圧力は低下する。
【0011】
ここで、燃圧低下処理では、閉弁状態となっていた筒内用噴射弁に対して高圧燃料系内の燃料圧力が低下し始めるまで通電時間を徐々に増大させるようにしている。従って、筒内用噴射弁の開弁による高圧燃料系内の減圧に際しては、同高圧燃料系内の圧力に抗して筒内用噴射弁の弁体を開弁させることができる最小通電時間にて当該筒内用噴射弁を開弁させることができる。このようにして筒内用噴射弁の開弁時間を可能な限り短くすることができるため、筒内用噴射弁から噴射される燃料量を極力少なくすることができ、これにより筒内用噴射弁を開弁させたときの空燃比のリッチ化を極力抑えることができる。従って、高圧燃料系内の燃料圧力を低下させるために筒内用噴射弁による燃料噴射を行うに際して、空燃比のリッチ化によるトルクショックの発生を好適に抑えることができるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記内燃機関は多気筒内燃機関であって、各気筒毎に筒内用噴射弁が設けられており、前記燃圧低下処理で通電対象とされる筒内用噴射弁は、前記燃圧低下処理の実行毎に変更されることをその要旨とする。
【0013】
周知のように、筒内用噴射弁の先端は燃焼室に曝されているためにデポジット等が付着しやすいが、当該筒内用噴射弁からの燃料噴射を実行することでデポジットの除去あるいは付着抑制といったデポジット抑制効果が得られる。
【0014】
ここで、多気筒内燃機関では各気筒に筒内用噴射弁が設けられているが、各筒内用噴射弁には個体差があり、同一の圧力下で開弁可能な最小通電時間はそれぞれ異なっている。
従って、上記燃圧低下処理の実行に際して、全気筒の筒内用噴射弁で通電時間を徐々に増大させる処理を行うと、上記最小通電時間が最も短い筒内用噴射弁からのみ燃料噴射が行われてこの筒内用噴射弁のみ上述したようなデポジット抑制効果が得られる一方で、他の筒内用噴射弁では上記デポジット抑制効果が得られない。
【0015】
この点、同構成では、燃圧低下処理で通電対象とされる筒内用噴射弁が同燃圧低下処理の実行毎に変更される。例えば、前回の燃圧低下処理において1番気筒に設けられた筒内用噴射弁に通電が行われていた場合、今回の燃圧低下処理においては1番気筒以外の気筒に設けられた筒内用噴射弁に通電が行われる。このようにすれば吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態で高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となる毎に、異なる筒内用噴射弁にて燃圧低下処理が実行されるため、各気筒の筒内用噴射弁においてデポジット抑制効果が得られるようになる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記燃圧低下処理の実行により前記燃料圧力が低下し始めたときの前記通電時間を所定期間維持することをその要旨とする。
【0017】
同構成によれば、上記最小通電時間が所定期間維持されるため、筒内用噴射弁からの燃料噴射量を極力抑えつつ高圧燃料系内の燃料圧力を好適に低下させることができる。
なお、上記所定期間としては、請求項4に記載の発明によるように、燃圧低下処理の実行により燃料圧力が低下し始めてから第1の所定圧よりも低い第2の所定圧以下に燃料圧力が低下するまでの期間である、という構成を採用することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記高圧燃料系には、前記燃料圧力が前記第1の所定圧よりも高い第3の所定圧以上となったときに開弁するリリーフ弁が設けられていることをその要旨とする。
【0019】
同構成によれば、高圧燃料系内の燃料圧力が上記第3の所定圧になる前に上記燃圧低下処理が実行されるため、リリーフ弁の開弁頻度が少なくなる。従って、過度な開弁回数によるリリーフ弁の耐久性低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した一実施形態にあって、これが適用される内燃機関の構造を示す模式図。
【図2】同実施形態にて行われる燃圧低下処理の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態において燃圧低下処理が実行されるときの燃圧の変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明にかかる燃料噴射制御装置を多気筒内燃機関に具体化した一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関11の各気筒12内にはそれぞれピストン13が備えられている。ピストン13は、内燃機関11の出力軸であるクランクシャフト15にコンロッド14を介して連結されており、コンロッド14によりピストン13の往復運動がクランクシャフト15の回転運動に変換される。
【0022】
各気筒12内にあってピストン13の上方には燃焼室16が区画形成されており、この燃焼室16に向かって筒内噴射用インジェクタ17(筒内用噴射弁)が取り付けられている。筒内噴射用インジェクタ17には、高圧ポンプや高圧配管、デリバリパイプ等で構成される周知の高圧燃料系170を通じて高圧化された燃料が供給される。そして、この筒内噴射用インジェクタ17の開弁駆動により、燃料が燃焼室16内に直接噴射供給される(筒内噴射)。
【0023】
また、燃焼室16には、その内部に形成される燃料と空気とからなる混合気に対して点火を行う点火プラグ18が取り付けられている。この点火プラグ18による混合気への点火タイミングは、点火プラグ18の上方に設けられたイグナイタ19によって調整される。
【0024】
更に、上記燃焼室16には、吸気通路20及び排気通路21が連通されている。そして、燃焼室16と吸気通路20との連通部分、すなわち吸気ポート20aには、同吸気ポート20aに燃料を噴射するポート噴射用インジェクタ22(吸気通路用燃料噴射弁)が設けられている。このポート噴射用インジェクタ22には、フィードポンプや低圧配管等で構成される周知の低圧燃料系220を通じて、上記高圧燃料系170内の圧力よりも低圧の燃料が供給される。そして、このポート噴射用インジェクタ22の開弁駆動に伴って、燃料が吸気ポート20aに噴射される(ポート噴射)。また、吸気通路20には燃焼室16に導入される空気量を調量するスロットルバルブが設けられている。
【0025】
また、排気通路21の下流には、混合気の空燃比が所定範囲内の値となっているときに浄化機能を発揮する排気浄化装置100が設けられている。
内燃機関11の機関制御は、電子制御装置30により行われている。電子制御装置30は、機関制御に係る各種処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムや機関制御に必要な情報を記憶するメモリ、筒内噴射用インジェクタ17やポート噴射用インジェクタ22の駆動回路、並びにイグナイタ19等の駆動回路等を備えて構成されている。
【0026】
電子制御装置30には、機関運転状態を検出する各種のセンサが接続されている。例えばクランクセンサ31によって機関出力軸であるクランクシャフト15の位相角、すなわちクランク角が検出され、これに基づいて機関回転速度NEが算出される。またアクセルセンサ33によって、アクセル操作量ACCPが検出される。また、電子制御装置30には、吸気通路20内を流れる空気の量を検出するエアフロメータ34の検出信号が入力され、この検出信号に基づいて吸入空気量GAが検出される。さらに電子制御装置30には、機関冷却水の温度(冷却水温THW)を検出する水温センサ35、実空燃比AFrを検出するために排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサ36、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力(燃圧Pr)を検出する燃圧センサ37等、機関制御に必要なセンサの検出信号が入力されている。そして電子制御装置30は、こうした各種センサの検出信号によって把握される内燃機関11の運転状況に応じて、燃料噴射制御や点火時期制御を始めとする各種機関制御を実施する。
【0027】
電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17及びポート噴射用インジェクタ22からそれぞれ噴射される燃料の噴射比率Rを機関負荷や機関回転速度に基づいて変更することで複数の噴射形態を具現化する。例えば、低負荷運転領域ではポート噴射用インジェクタ22だけを用いて燃料噴射を行い、高負荷運転領域では筒内噴射用インジェクタ17だけを用いて燃料噴射を行う。そして中負荷運転領域では、ポート噴射用インジェクタ22及び筒内噴射用インジェクタ17の双方から燃料噴射を行う。
【0028】
なお、本実施形態では、上記噴射比率Rは、機関負荷や機関回転速度に基づき「0≦R≦1」の範囲内で可変設定される。そして、機関運転状態に基づいて設定される燃料噴射量Qに噴射比率Rを乗算した量がポート噴射用インジェクタ22の燃料噴射量として設定され、燃料噴射量Qに(1−噴射比率R)を乗算した量が筒内噴射用インジェクタ17の燃料噴射量として設定される。従って、例えばR=1のときには、ポート噴射用インジェクタ22を使用したポート噴射のみが実行され、R=0のときには、筒内噴射用インジェクタ17を使用した筒内噴射のみが実行される。
【0029】
また、電子制御装置30は空燃比制御を行う。この空燃比制御は周知の制御であり、同内燃機関11の実空燃比AFrが目標空燃比AFpとなるように基本燃料噴射量Qbをフィードバック補正する空燃比補正値AFHが算出される。そして、基本燃料噴射量Qbに対して空燃比補正値AFHの分だけ燃料噴射量が補正されることにより最終的な燃料噴射量Qが算出される。こうした空燃比制御により、実空燃比AFrが目標空燃比AFpよりもリッチの場合には、燃料噴射量Qを減量する方向に空燃比補正値AFHが変化し、これにより実空燃比AFrはリーン化して目標空燃比AFpに近づいていく。一方、実空燃比Arが目標空燃比AFpよりもリーンの場合には、燃料噴射量Qを増量する方向に空燃比補正値AFHが変化し、これにより実空燃比AFrはリッチ化して目標空燃比AFpに近づいていく。
【0030】
また、電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17の燃料噴射量及び燃圧Prに基づいて筒内噴射用インジェクタ17の開弁時間を設定する。より詳細には、燃料噴射量が多いほど、あるいは燃圧Prが低いときほど筒内噴射用インジェクタ17の噴射時間が長くなるように同噴射時間(筒内噴射時間TAUD)を可変設定する。なお、厳密には、筒内噴射用インジェクタ17への通電時間が変更されることで、当該筒内噴射用インジェクタ17の開弁時間が変化し、これにより噴射時間が変更する。
【0031】
そして、電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の目標燃圧Ppを機関負荷や機関回転速度等の機関運転状態に基づいて設定する。そして、実際の燃圧Prと目標燃圧Ppとが一致するように筒内噴射用インジェクタ17の燃料供給系を制御する。より具体的には、筒内噴射用インジェクタ17に燃料を吐出する高圧ポンプの吐出量を制御する。
【0032】
さて、本実施形態では、図2に示すように、高圧燃料系170内の燃料圧力が過剰に高いときに、同高圧燃料系内の燃料圧力を低下させる燃圧低下処理を実行するようにしている。なお、本処理は、電子制御装置30によって実行される。
【0033】
本処理が開始されるとまず、現在、ポート100%噴射の実行中か、つまりポート噴射用インジェクタ22のみによる燃料噴射が行われている状態か否かが判定される(S100)。ここでは、上記噴射比率Rが「1」に設定されているときに肯定判定される。
【0034】
そして、ポート100%噴射が実行されていないときには(S100:NO)、本処理は終了される。
一方、ポート100%噴射の実行中のときには(S100:YES)、現在の燃圧Prが第1の判定圧である第1判定値P1以上であるか否かが判定される(S110)。この第1判定値P1としては、高圧燃料系170内の燃料圧力が高いため減圧しなければならないことを好適に判定できる値が設定されている。そして、燃圧Prが第1判定値P1よりも低いときには(S110:NO)、本処理は終了される。
【0035】
一方、燃圧Prが第1判定値P1以上に高いときには(S110:YES)、今回の処理で通電対象となる筒内噴射用インジェクタ17が選択される(S120)。このステップS120では、前回の燃圧低下処理で通電対象とされた筒内噴射用インジェクタ17とは異なる、別の筒内噴射用インジェクタ17が通電対象として選択される。本実施形態では、対電対象となる筒内噴射用インジェクタ17は、本処理が実行される毎に変更される。例えば4気筒内燃機関であれば、1番気筒→2番気筒→3番気筒→4番気筒の順で通電対象とされる筒内噴射用インジェクタ17が変更される。なお、この変更順序は一例であり、他の順序、例えば1番気筒→3番気筒→4番気筒→2番気筒の順で通電対象とされる筒内噴射用インジェクタ17を変更してもよい。
【0036】
次に、通電対象とされた筒内噴射用インジェクタ17の筒内噴射時間TAUD(筒内噴射用インジェクタ17の通電時間)が所定時間ΔTだけ増大される(S130)。なお、ステップS130が初めて実行されるときには、それまで筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射が行われていないため、筒内噴射時間TAUDは「0」となっている。従って、ステップS130で設定される初回の筒内噴射時間TAUDは「ΔT」に相当する時間となる。
【0037】
こうして筒内噴射時間TAUDが設定されると、筒内噴射用インジェクタ17が駆動される(S135)。より詳細には、予め定められたクランク角(例えば吸気行程前半の時期)において筒内噴射用インジェクタ17への通電が開始され、ステップS130で設定された筒内噴射時間TAUDが経過すると筒内噴射用インジェクタ17への通電が停止される。
【0038】
次に、燃圧Prが低下し始めたか否かが判定され(S140)、燃圧Prが低下し始めていないときには(S140:NO)、このステップS140にて肯定判定されるまでステップS130及びステップS135の処理が繰り返し行われる。従って、筒内噴射時間TAUDは、燃圧Prが低下し始めるまで所定時間ΔTづつ徐々に増大されていく。
【0039】
ステップS140にて、燃圧Prが低下し始めたと判定されるときには(S140:YES)、現在設定されている筒内噴射時間TAUD、つまり燃圧Prが低下し始めたときの筒内噴射時間TAUDが維持される(S150)。
【0040】
次に、現在の燃圧Prが第2の判定圧である第2判定値P2以下であるか否かが判定される(S110)。この第2判定値P2は、上記第1判定値P1よりも低い圧力が設定されている。
【0041】
そして、燃圧Prが第2判定値P2よりも高いときには(S160:NO)、燃圧Prが第2判定値P2以下になるまで、ステップS160での判定処理が繰り返される。
一方、燃圧Prが第2判定値P2以下のときには(S160:YES)、筒内噴射時間TAUDが「0」にされて筒内噴射が中止され(S170)、本処理は終了される。
【0042】
次に、図3を併せ参照しつつ、上記燃圧低下処理の実行による燃圧Prの変化を説明する。
噴射比率Rが「1」であってポート噴射用インジェクタ22のみによる燃料噴射が行われている状態では、筒内噴射用インジェクタ17による燃料噴射は行われていない。そのため高圧燃料系170内では燃料が滞っており、図3に示すように、高圧燃料系170内の燃料圧力(燃圧Pr)は機関からの受熱によって高くなっていく。
【0043】
そして高圧燃料系170内の燃圧Prが第1判定値P1以上に高くなると(図3の時刻t1)、それまで閉弁状態にされていた筒内噴射用インジェクタ17であって図2のステップS120にて通電対象として選択された筒内噴射用インジェクタ17への通電が開始される。より詳細には、通電対象とされた筒内噴射用インジェクタ17の筒内噴射時間TAUDは、通電タイミング毎に所定時間ΔTづつ徐々に増大されていく。そして、筒内噴射時間TAUDが、高圧燃料系170内の燃圧Prに抗して筒内噴射用インジェクタ17の弁体を開弁させることのできる最小通電時間にまで達すると、当該筒内噴射用インジェクタ17が実際に開弁して微少量の燃料が噴射され、燃圧Prが低下し始める(時刻t2)。なお、上述した最小噴射時間は、筒内噴射用インジェクタ17の最小噴射量を保証するために上記最小通電時間よりも長い時間とされている。従って、時刻t2にて筒内噴射用インジェクタ17から噴射される微少の燃料量は、最小噴射時間が設定されたときに筒内噴射用インジェクタ17から噴射される最小噴射量よりも少ない量となっている。
【0044】
また、時刻t2では、筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射が開始されるため、実空燃比AFrは目標空燃比AFpよりもリッチ側に変化し、これにより空燃比補正値AFHは、実空燃比AFrをリーン化させるように変化する。より詳細には、実空燃比AFrと目標空燃比AFpとの偏差に応じて燃料噴射量を減量する方向に空燃比補正値AFHは所定量だけ変化する。なお、このときの実空燃比AFrのリッチ化は、上記最小通電時間による微少量の燃料噴射によって生じるものである。従って、上記最小噴射時間による燃料噴射と比較して、実空燃比AFrのリッチ側への変化量は少なくなる。
【0045】
ちなみに、筒内噴射用インジェクタ17が上記最小通電時間で駆動されているときには、空燃比補正値AFHによってポート噴射用インジェクタ22から噴射される燃料量のみが減量補正され、筒内噴射用インジェクタ17は後述するごとく上記最小通電時間による駆動が維持される。
【0046】
そして、時刻t2にて燃圧Prが低下し始めると、筒内噴射時間TAUDの増大は終了され、筒内噴射時間TAUDは時刻t2時点での噴射時間にて維持される。このようにして筒内噴射時間TAUDが維持されることで筒内噴射用インジェクタ17からは微少量の燃料が継続して噴射され、これにより燃圧Prは低下し続ける。そして、燃圧Prが第2判定値以下にまで低下すると(時刻t3)、筒内噴射時間TAUDは「0」に設定されて、筒内噴射用インジェクタ17への通電が終了される。この通電終了により、燃圧Prの低下が収まる。また、筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射も停止するため、時刻t2にて生じた実空燃比AFrのリッチ化も時刻t2以前のレベルに戻り、これにより空燃比補正値AFHも時刻t2以前の値に戻る。
【0047】
次に、本実施形態の作用を説明する。
高圧燃料系170内の燃圧Prが第1判定値P1以上となったときには(図3の時刻t1)、燃圧低下処理が実行されることにより、それまで閉弁状態にされていた筒内噴射用インジェクタ17への通電が開始され、その後通電された筒内噴射用インジェクタ17が開弁する(図3の時刻t2)ことにより高圧燃料系170内の燃圧Prは低下する。
【0048】
ここで、本実施形態の燃圧低下処理では、閉弁状態となっていた筒内噴射用インジェクタ17に対して、高圧燃料系170内の燃圧Prが低下し始めるまで筒内噴射時間TAUD(通電時間)を徐々に増大させるようにしている。従って、筒内噴射用インジェクタ17の開弁による高圧燃料系170内の減圧に際しては、その高圧燃料系170内の圧力に抗して筒内噴射用インジェクタ17の弁体を開弁させることができる最小通電時間にて当該筒内噴射用インジェクタ17を開弁させることができる。このようにして筒内噴射用インジェクタ17の開弁時間を可能な限り短くすることができるため、筒内噴射用インジェクタ17から噴射される燃料量を極力少なくすることができ、これにより筒内噴射用インジェクタ17を開弁させたときの実空燃比AFrのリッチ化をできる限り抑えることができる。
【0049】
また、燃圧低下処理の実行により燃圧Prが低下し始めたときの筒内噴射時間TAUDを所定期間維持するようにしている。より詳細には、燃圧低下処理の実行により燃圧Prが低下し始めてから第2判定値P2以下にまで燃圧Prが低下するまで、筒内噴射時間TAUDを維持するようにしている。そのため、上記最小通電時間が所定期間維持されるようになり、これにより筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射量を極力抑えつつ高圧燃料系170内の燃圧Prを低下させることができる。
【0050】
また、周知のように、筒内噴射用インジェクタ17の先端は燃焼室16に曝されているためにデポジット等が付着しやすいが、筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射を実行することでデポジットの除去あるいは付着抑制といったデポジット抑制効果が得られる。
【0051】
ここで、内燃機関11には各気筒に筒内噴射用インジェクタ17が設けられているが、各筒内噴射用インジェクタ17には個体差があり、同一の圧力下で開弁可能な最小通電時間はそれぞれ異なっている。
【0052】
従って、上述した燃圧低下処理の実行に際して、全気筒の筒内噴射用インジェクタ17で通電時間を徐々に増大させる処理を行うと、上記の最小通電時間が最も短い筒内噴射用インジェクタ17からのみ燃料噴射が行われてこの筒内噴射用インジェクタ17のみ上述したようなデポジット抑制効果が得られる。その一方で、燃料噴射が行われない他の筒内噴射用インジェクタ17では上記デポジット抑制効果が得られない。
【0053】
この点、本実施形態では、燃圧低下処理で通電対象とされる筒内噴射用インジェクタ17が同燃圧低下処理の実行毎に変更される。このようにすればポート噴射用インジェクタ22のみによる燃料噴射が行われている状態で高圧燃料系170内の燃圧Prが第1判定値P1以上となる毎に、異なる筒内噴射用インジェクタ17にて燃圧低下処理が実行されるため、各気筒の筒内噴射用インジェクタ17においてデポジット抑制効果が得られるようになる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ポート噴射用インジェクタ22のみによる燃料噴射が行われている状態で高圧燃料系170内の燃圧Prが第1判定値P1以上となったときには、高圧燃料系170内の燃圧Prが低下し始めるまで筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行するようにしている。
【0055】
そのため、筒内噴射用インジェクタ17の開弁による高圧燃料系170内の減圧に際しては、筒内噴射用インジェクタ17の開弁時間を可能な限り短くすることができ、筒内噴射用インジェクタ17から噴射される燃料量は極力少なくなり、筒内噴射用インジェクタ17を開弁させたときの空燃比のリッチ化は極力抑えられるようになる。従って、高圧燃料系170内の燃料圧力を低下させるために筒内噴射用インジェクタ17による燃料噴射を行うに際して、実空燃比AFrのリッチ化によるトルクショックの発生を好適に抑えることができるようになる。
【0056】
(2)燃圧低下処理で通電対象とされる筒内噴射用インジェクタ17は、燃圧低下処理の実行毎に変更される。従って、各気筒の筒内噴射用インジェクタ17においてデポジット抑制効果が得られるようになる。
【0057】
(3)燃圧低下処理の実行により燃圧Prが低下し始めたときの筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を所定期間維持するようにしている。そのため、筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射量を極力抑えつつ高圧燃料系170内の燃圧Prを好適に低下させることができる。
【0058】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・燃圧低下処理で通電対象とされる筒内噴射用インジェクタ17を、燃圧低下処理の実行機会毎に変更するようにした。しかし、燃圧低下処理の実行に際して、全気筒の筒内噴射用インジェクタ17で通電時間を徐々に増大させるようにしてもよい。この場合でも上記(1)及び(3)に記載の効果を得ることができる。
【0059】
・燃圧Prが上記第1判定値P1よりも高い第3判定値(第3の所定圧)以上となったときに開弁するリリーフ弁を高圧ポンプやデリバリパイプといった上記高圧燃料系170に設けるようにしてもよい。
【0060】
この場合には、高圧燃料系170内の燃圧Prが上記第3判定値になる前に上述した燃圧低下処理が実行されるため、リリーフ弁の開弁頻度が少なくなる。従って、過度な開弁回数によるリリーフ弁の耐久性低下を抑えることができる。なお、上述した燃圧低下処理が実行できない場合や、急激な圧力上昇により燃圧低下処理による減圧が間に合わない場合などにおいてはリリーフ弁が開弁することで高圧燃料系170内の減圧を行うことができる。
【0061】
・上述したように、筒内噴射用インジェクタ17の開弁によって高圧燃料系170内の燃圧Prが低下するときには、同筒内噴射用インジェクタ17から燃料が噴射されることで実空燃比AFrはリッチ化し、このリッチ化によって空燃比補正値AFHは燃料噴射量を減量する方向に変化する。
【0062】
従って、上記実施形態の燃圧低下処理では、高圧燃料系170内の燃圧Prが低下し始めるまで筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を徐々に増大させるようにしたが、これに代えて内燃機関11の実空燃比AFrがリッチ側に変化するまで筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を徐々に増大させるようにしてもよい。また、燃料噴射量を減量する方向に空燃比補正値AFHが所定量だけ変化するまで筒内噴射用インジェクタ17の通電時間を徐々に増大させるようにしてもよい。これらの変形例でも、上記実施形態に準ずる作用効果を得ることができる。
【0063】
・上記実施形態における内燃機関11は多気筒内燃機関であった。この他、単気筒内燃機関にも本発明は同様に適用することができる。なお単気筒内燃機関に適用する場合には、図2のステップS120の処理は省略する。
【0064】
その他、上記実施形態あるいはその変更例から把握することができる技術思想について、以下にその効果とともに記載する。
(イ)低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射する吸気通路用噴射弁と、高圧燃料系から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、吸気通路用噴射弁及び筒内用噴射弁から噴射される燃料量の噴射比率が変更される内燃機関の燃料噴射制御装置において、吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態で前記高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、前記内燃機関の実空燃比がリッチ側に変化するまで筒内用噴射弁の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【0065】
(ロ)低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射する吸気通路用噴射弁と、高圧燃料系から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、吸気通路用噴射弁及び筒内用噴射弁から噴射される燃料量の噴射比率が変更される内燃機関に適用されて、同内燃機関の実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量をフィードバック補正する空燃比補正値が算出される内燃機関の燃料噴射制御装置において、吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態で前記高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、燃料噴射量を減量する方向に前記空燃比補正値が所定量だけ変化するまで筒内用噴射弁の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【0066】
上記(イ)や(ロ)に記載の構成によっても、請求項1に記載の発明に準じた作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
11…内燃機関、12…気筒、13…ピストン、14…コンロッド、15…クランクシャフト、16…燃焼室、17…筒内噴射用インジェクタ、18…点火プラグ、19…イグナイタ、20…吸気通路、20a…吸気ポート、21…排気通路、22…ポート噴射用インジェクタ、30…電子制御装置、31…クランクセンサ、33…アクセルセンサ、34…エアフロメータ、35…水温センサ、36…空燃比センサ、37…燃圧センサ、100…排気浄化装置、170…高圧燃料系、220…低圧燃料系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧燃料系から供給される燃料を吸気通路に噴射する吸気通路用噴射弁と、高圧燃料系から供給される燃料を燃焼室内に直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、吸気通路用噴射弁及び筒内用噴射弁から噴射される燃料量の噴射比率が変更される内燃機関の燃料噴射制御装置において、
吸気通路用噴射弁のみによる燃料噴射が行われている状態で前記高圧燃料系内の燃料圧力が第1の所定圧以上となったときには、前記燃料圧力が低下し始めるまで筒内用噴射弁の通電時間を徐々に増大させる燃圧低下処理を実行する
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は多気筒内燃機関であって、各気筒毎に筒内用噴射弁が設けられており、
前記燃圧低下処理で通電対象とされる筒内用噴射弁は、前記燃圧低下処理の実行毎に変更される
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃圧低下処理の実行により前記燃料圧力が低下し始めたときの前記通電時間を所定期間維持する
請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記所定期間は、前記燃圧低下処理の実行により前記燃料圧力が低下し始めてから前記第1の所定圧よりも低い第2の所定圧以下に前記燃料圧力が低下するまでの期間である
請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記高圧燃料系には、前記燃料圧力が前記第1の所定圧よりも高い第3の所定圧以上となったときに開弁するリリーフ弁が設けられている
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72380(P2013−72380A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212659(P2011−212659)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】