説明

内燃機関の蒸発燃料処理装置

【課題】蒸発燃料におけるガス放出量を好適に制御して蒸発燃料を好適に燃焼処理する。
【解決手段】エンジンには、燃料の蒸発ガスを吸気管11に供給して燃焼処理する蒸発燃料処理システム30が設けられている。蒸発燃料処理システム30は、性状の異なる2以上の燃料成分を含む蒸発ガスを成分別に吸着する第1吸着部33a及び第2吸着部33bと、該吸着部33a,33bにそれぞれ接続されたパージ管35,36にそれぞれ設けられ吸着部33a,33bからのガス放出量を調節する第1パージ弁38及び第2パージ弁39とを備える。そして、ECU50は、吸着部33a,33bごとにパージ量が調節されるよう第1パージ弁38及び第2パージ弁39の開度をそれぞれ制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の蒸発燃料処理装置に関し、詳しくは燃料の蒸発ガスを内燃機関の吸気系に供給して燃焼処理する内燃機関の蒸発燃料処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンク等で発生した蒸発ガス(燃料蒸発ガス)をキャニスタ内に一時的に貯蔵し、その貯蔵した燃料蒸発ガスを内燃機関の吸気系に供給(パージ)して内燃機関で燃焼処理させる蒸発燃料処理システムが知られている。
【0003】
また、近年、石油資源の枯渇に対する危惧や地球温暖化の緩和等を背景に、ガソリン等の化石燃料の代替としてアルコール燃料が注目を集めており、それ単独であるいはガソリンなどの他の燃料と混合することで内燃機関の燃料として使用されている。アルコールとガソリンとの混合燃料を用いる内燃機関の蒸発燃料処理システムとして、例えば、ガソリン成分を吸着する第1の吸着剤層と、アルコール成分を吸着する第2の吸着剤層とが形成されたキャニスタを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−226263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のキャニスタでは、第1の吸着剤層に吸着した燃料蒸発ガス(ガソリン)と第2の吸着剤層に吸着した燃料蒸発ガス(アルコール)とが同じ孔(特許文献1でいう離脱燃料出口)から放出されるため、アルコール及びガソリンのガス放出量(パージ量)をそれぞれ個別に調節することができない。そのため、キャニスタから放出される燃料蒸発ガスの成分比(ガス濃度)にばらつきが生じることが懸念される。かかる場合、アルコールとガソリンとでは理論空燃比が異なることから、結果として空燃比制御を適正に実施できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、蒸発燃料のガス放出量を好適に制御し、ひいては蒸発燃料を好適に燃焼処理させることができる内燃機関の蒸発燃料処理装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0007】
請求項1に記載の発明は、燃料の蒸発ガスを内燃機関の吸気系に供給して燃焼処理する内燃機関の蒸発燃料処理装置において、性状の異なる2以上の燃料成分を含む蒸発ガスを成分別に吸着する複数の吸着部と、前記複数の吸着部にそれぞれ接続されたガス放出経路にそれぞれ設けられ、前記吸着部からのガス放出量を調節する複数のパージ弁とを備え、前記複数の吸着部ごとに前記パージ弁の開度を制御する。
【0008】
上記構成によれば、性状の異なる複数成分を含む燃料の蒸発ガス(燃料蒸発ガス)が別々の吸着部に吸着されるとともに、その吸着部におけるパージ弁の開度が吸着部ごとに制御されるため、各成分のガス放出量を成分ごとにそれぞれ任意に調節することができる。つまり、従来技術のように、吸着部に別々に吸着した各成分を単一のガス放出経路から放出させる構成では、各成分のガス放出量を成分ごとに個別に調節できないところ、本発明によれば、複数の吸着部にそれぞれガス放出経路を設けるとともに各ガス放出経路にそれぞれパージ弁を設け、そのパージ弁の開度を複数の吸着部ごとに制御するため、各成分のガス放出量を成分ごとに任意に調節することができる。これにより、蒸発燃料におけるガス放出量を好適に制御可能となり、ひいては蒸発燃料を好適に燃焼処理することができる。
【0009】
各吸着部からガス放出を行うのにあたり、その放出ガス(パージガス)における最適な成分比は、内燃機関の運転状態に応じて異なるものと考えられる。その点に鑑み、請求項2に記載の発明は、前記複数の吸着部のうちいずれの吸着部におけるガス放出を行うかを前記内燃機関の運転状態に基づいて設定する。この構成によれば、各成分のそれぞれのガス放出量を内燃機関の運転状態に応じて変更するため、パージガス中の成分比を内燃機関の運転状態に応じて適宜変更することができる。
【0010】
各吸着部に吸着された燃料蒸発ガスについては、内燃機関の吸気系に放出されるため、そのガス放出により内燃機関の空燃比変化に影響を及ぼすことが考えられる。また、放出ガス中に理論空燃比が異なる複数成分を含む場合には、放出ガス中の成分比に応じて空燃比変化への影響の度合いが異なるものと考えられる。その点に鑑み、請求項3に記載の発明は、前記内燃機関の空燃比を目標値に一致させるよう空燃比制御を実施する空燃比制御システムに適用され、前記蒸発ガスは、理論空燃比が異なる2以上の燃料成分を含み、前記内燃機関の空燃比を検出する空燃比検出手段を備える。また、前記空燃比検出手段で検出した空燃比に基づいて前記複数の吸着部のうちいずれの吸着部におけるガス放出を行うかを設定する。この構成によれば、内燃機関の空燃比に応じて各成分のガス放出量を変更するため、放出ガスの成分比を内燃機関の空燃比に応じて適宜調節することができる。
【0011】
実空燃比のリーン度合いが大きい場合には、理論空燃比の高い燃料成分を積極的に放出することで、実空燃比がより早期に目標値に一致されるものと考えられる。その点に鑑み、請求項4に記載の発明は、前記空燃比検出手段で検出した空燃比について前記目標値に対するリーン度合いが大きいほど前記2以上の燃料成分のうち理論空燃比が比較的大きい燃料成分が優先して放出されるよう前記パージ弁の開度を制御する。この構成によれば、実空燃比のリーン度合いが大きい場合には、理論空燃比の比較的大きい燃料成分が優先して内燃機関の吸気系に供給されるため、空燃比における目標値からのずれをより早期に解消することができる。ここで、内燃機関の燃料としてアルコールとガソリンとを含む混合燃料が使用される場合、ガソリンが理論空燃比の比較的大きい燃料成分に該当する。
【0012】
内燃機関の高負荷時(例えば車両の加速時や内燃機関の始動時、車両の登坂走行時など)では、内燃機関の出力を高めることが求められるため、燃焼に伴う発熱量が比較的大きい燃料成分が放出ガス中により多く含まれているのが望ましい。その点に鑑み、請求項5に記載の発明は、前記蒸発ガスは、燃焼に伴う発熱量が異なる2以上の燃料成分を含み、前記内燃機関の負荷が高いほど前記発熱量の比較的大きい燃料成分が優先して放出されるよう前記パージ弁の開度を制御する。こうすることで、内燃機関の高負荷時にその出力を効率よく高めることができ、ひいては内燃機関の運転性能を高めることができる。
【0013】
ガソリンとアルコールとでは、理論空燃比や発熱量、揮発性等といった種々の性状が異なる。そのため、ガソリンとアルコールとを含む混合燃料が内燃機関に使用される場合、燃料タンク内の蒸発ガスにおいて、その成分比が変動するものと考えられる。また、各成分のガス放出を単一のガス放出経路から行う従来技術では、燃料蒸発ガスの成分比の変動に加え、ガソリンとアルコールとの性状の相違に起因してパージガスの成分比が変動するものと考えられる。その点に鑑み、請求項6に記載の発明は、前記蒸発ガスは、ガソリン成分とアルコール成分とを含み、前記パージ弁は、前記ガソリン成分が吸着される吸着部のガス放出量を調節する第1パージ弁と、前記アルコール成分が吸着される吸着部のガス放出量を調節する第2パージ弁とを備え、前記第1パージ弁と前記第2パージ弁との開度をそれぞれ制御する。この構成によれば、ガソリンとアルコールとの混合燃料を使用する場合に上記発明が適用されるため、ガソリンとアルコールとにおける各吸着部からのガス放出量をそれぞれ個別に制御することができる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、前記内燃機関は、アルコールを燃料の一成分とする燃料電池エンジンを含み、前記燃料は、アルコール成分を含む。また、前記複数の吸着部のうちアルコール成分が吸着される吸着部と、前記燃料電池エンジン用の燃料貯留部とが前記ガス放出経路により接続されている。この構成によれば、吸着部にて捕集したアルコール成分は燃料電池エンジン用の燃料貯留部に移送されるため、蒸発ガス中に含まれるアルコールを燃料電池エンジンの燃料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、内燃機関である車載多気筒エンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものとしている。このエンジンでは、燃料としてガソリン及びアルコール(例えばエタノールやメタノールなど)の少なくともいずれかが使用される。つまり、当該エンジンでは、ガソリン単独の燃料が使用されたり、あるいはアルコールが任意の割合で混合された混合燃料が使用されたりする。また、当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御等を実施する。このエンジン制御システムの全体概略構成図を図1に示す。
【0016】
図1に示すエンジン10において、吸気管11(吸気通路)の最上流部にはエアクリーナ12が設けられ、エアクリーナ12の下流側には吸入空気量を検出するためのエアフロメータ13が設けられている。エアフロメータ13の下流側には、DCモータ等のスロットルアクチュエータ15によって開度調節されるスロットルバルブ14が設けられている。スロットルバルブ14の開度(スロットル開度)は、スロットルアクチュエータ15に内蔵されたスロットル開度センサにより検出される。
【0017】
スロットルバルブ14の下流側にはサージタンク16が設けられている。このサージタンク16には、吸気管圧力を検出するための吸気管圧力センサ17が設けられている。また、サージタンク16には、エンジン10の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド18が接続されており、吸気マニホールド18において各気筒の吸気ポート近傍には燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0018】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ21及び排気バルブ22が設けられている。この吸気バルブ21の開動作により空気と燃料との混合気が燃焼室23内に導入され、排気バルブ22の開動作により燃焼後の排ガスが排気管24(排気通路)に排出される。
【0019】
エンジン10のシリンダヘッドには気筒毎に点火プラグ27が取り付けられている。点火プラグ27には、点火コイル等よりなる点火装置(図示略)を通じて、所望とする点火時期において高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ27の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室23内に導入した混合気が着火され燃焼に供される。
【0020】
排気管24には、排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化するための三元触媒等の触媒25が設けられている。また、触媒25の上流側には、排出ガスを検出対象として混合気の空燃比(酸素濃度)を検出するための酸素センサ26が設けられている。酸素センサ26について本実施形態では、排出ガス中の酸素濃度に比例する広域の空燃比信号を出力するA/Fセンサである。
【0021】
また、エンジン10には、燃料タンク内で発生した燃料蒸発ガスを捕集して、そのガスをエンジン10にパージする蒸発燃料処理システム30が設けられている。図2に、蒸発燃料処理システム30の概略構成図を示す。図2において、燃料タンク31には導管32の一端が接続され、導管32の他端には燃料タンク31内で発生した燃料蒸発ガスを吸着して捕集するためのキャニスタ33が接続されている。
【0022】
キャニスタ33について、特に本実施形態では、燃料タンク31内に燃料としてガソリンとアルコールとの混合燃料が貯蔵されている場合にその混合燃料を成分別に(ガソリンとアルコールとを別々に)吸着するために、複数の吸着部が設けられている。また、その複数の吸着部の各々にガス放出経路としてのパージ管が接続され、そのパージ管にそれぞれパージ弁が設けられている。
【0023】
具体的には、キャニスタ33は、第1吸着部33aと第2吸着部33bとを有しており、それらの吸着部33a,33bがそれぞれ別の容器に収容されている。このうち第1吸着部33aは、導管32により燃料タンク31と接続され、第2吸着部33bは、導管34により第1吸着部33aと接続されている。また、第2吸着部33bにはパージ管35の一端が接続され、パージ管35の他端には吸気管11(サージタンク16)が接続されている。さらに、第1吸着部33aにはパージ管36の一端が接続され、パージ管36の他端がパージ管35に接続されている。これら第1吸着部33a及び第2吸着部33bの一部には、外気が導入される大気導入孔37が設けられている。
【0024】
パージ管36の中間には第1パージ弁38が設けられ、パージ管35の中間には第2パージ弁39が設けられている。そして、第1パージ弁38を開放することで、第1吸着部33aとサージタンク16とが連通され、第2パージ弁39を開放することで、第2吸着部33bとサージタンク16とが連通される。これらのパージ弁38,39は電磁駆動式であり、各弁の通電制御によりその開度が調節される。
【0025】
導管32の中間にはチェックバルブ41が設けられている。そして、燃料タンク31内の蒸気圧が所定値以上になるとチェックバルブ41の圧力弁が開き、燃料タンク31と第1吸着部33aとが連通される。なお、チェックバルブ41の代わりに電磁駆動弁を設け、その電磁駆動弁への通電を制御することにより燃料タンク31と第1吸着部33aとの連通を制御してもよい。また、大気導入孔37には電磁駆動式の大気開放弁42が設けられており、通電制御によりその開度が調節される。さらに、導管34の中間には電磁駆動式の電磁弁44が設けられており、その開弁時に第1吸着部33aと第2吸着部33bとの間のガス移動が許容され、閉弁時にその移動が禁止される。
【0026】
吸着部33a,33bには、それぞれ吸着性能が異なる吸着剤43a,43bが充填されている。本実施形態では、吸着剤43a,43bとして、分子量の相違を利用して各成分の選択的吸着が可能な吸着剤(例えば活性炭やゼオライト)を用いる。具体的には、第1吸着部33aの吸着剤43aの細孔径が、第2吸着部33bの吸着剤43bの細孔径よりも大きくなっている。これにより、第1吸着部33aで、分子量の比較的大きい成分(ガソリン成分)が選択的に吸着されるとともに、第2吸着部33bで分子量の比較的小さい成分(アルコール成分)が選択的に吸着されるようになっている。
【0027】
蒸発燃料処理システム30において、各弁の開度を調節することにより、燃料タンク31内の燃料蒸発ガスのパージ制御が実施される。具体的には、まず、燃料タンク31内の蒸気圧が所定値以上になりチェックバルブ41が開放されると、燃料タンク31と第1吸着部33aとが連通される。これにより、燃料タンク31内の燃料蒸発ガスが、導管32を通って第1吸着部33aに移送される。このとき、燃料蒸発ガス中のガソリン成分については、第1吸着部33aの吸着剤43aに吸着されるのに対し、アルコール成分については、第1吸着部33aを通過し、導管34を通って第2吸着部33bに移送される。そして、第2吸着部33bの吸着剤43bに吸着される。
【0028】
また、燃料蒸発ガスが吸着部33a,33bに吸着された後、例えば第1パージ弁38及び第2パージ弁39が開弁されると、パージ管35,36に吸気負圧が作用する。その際、大気開放弁42が開放されることにより、大気導入孔37を通じて第1吸着部33a及び第2吸着部33bに外気が導入され、吸着部33a,33b内の吸着剤43a,43bに吸着された燃料蒸発ガスがそれぞれ離脱して吸気管11(サージタンク16)にパージされる。これにより、燃料タンク31内で発生した燃料蒸発ガスが、燃焼室23内で燃焼される。なお、サージタンク16へのパージ中では、第1吸着部33aと第2吸着部33bとの間のガス移動を確実に遮断するために、電磁弁44を閉弁しておくのが好ましい。
【0029】
図1の説明に戻り、その他エンジン10には、冷却水温を検出する冷却水温センサ29や、エンジンの所定クランク角毎に矩形状のクランク角信号を出力するクランク角度センサ28が取り付けられている。
【0030】
ECU50は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)41を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。すなわち、ECU50のマイコン51は、前述した各種センサなどから各々検出信号を入力するとともに、それらの各種検出信号に基づいて燃料噴射量や点火時期等を演算し、燃料噴射弁19や点火装置の駆動を制御する。燃料噴射量の制御として、マイコン51は、酸素センサ26により検出した空燃比が目標値(例えば理論空燃比)に一致するよう空燃比制御を実施する。また、マイコン51は、蒸発燃料処理システム30における各種電磁駆動弁の通電制御を実施してその駆動を制御する。
【0031】
ところで、蒸発燃料処理において、燃料タンク31内にガソリンとアルコールとの混合燃料が貯留されている場合、その混合燃料の蒸発ガスでは、例えばエンジン運転状態や混合燃料におけるガソリンとアルコールとの混合比率などによって、蒸発ガス中の成分比が変動する。また、ガソリンとアルコールとでは、吸着剤に対する吸着性能や脱離性能が異なる。そのため、ガソリンとアルコールとのパージを仮に単一のパージ弁で制御するものとすると、キャニスタ33から放出される燃料蒸発ガス(パージガス)中の成分比(ガス濃度)にばらつきが生じ、空燃比が目標値からずれてしまうおそれがある。つまり、パージガス中の成分比(ガス濃度)が変動すると、それに伴い、実際に燃焼室23内に供給される燃料(燃料噴射弁19からの燃料+パージガス)の成分比が変化する。一方、燃料が性状の異なる複数成分からなる場合、一般にその成分間では理論空燃比が異なり、例えばガソリンとエタノールとでは、ガソリン(理論空燃比14.7)の方がエタノール(理論空燃比9)よりも理論空燃比が大きくなっている。そのため、パージガスの成分比がばらついた状態では、空燃比を目標値に一致させるのに適正な量の燃料が供給されているとは必ずしも言えず、その結果、空燃比が目標値からずれてしまうことが懸念される。
【0032】
上述したように本実施形態では、キャニスタ33として複数(本実施形態では2つ)の吸着部33a,33bを備える構成とし、燃料の各成分を別個に吸着させている。この構成において、特に本実施形態では、それら吸着部33a,33bのパージ管35,36に、それぞれ第1パージ弁38、第2パージ弁39を設け、それらの開度をそれぞれ別個に制御することでガス放出量を成分ごとに調節する。また、パージ弁の開閉制御にあたり、検出空燃比に基づいて第1パージ弁38及び第2パージ弁39の開度を調節することで、パージされた蒸発燃料により空燃比が変動するのを抑制する。
【0033】
図3は、本実施形態におけるパージ制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、所定周期毎にECU50のマイコン51により実施される。
【0034】
図3において、まずステップS11では、パージ実行条件が成立しているか否かを判定する。パージ実行条件としては、例えばエンジン10の冷却水温度がエンジン10の暖機完了を示す所定温度以上であること、減速による燃料カットの実行中でないこと、エンジン回転速度が所定値以上であること、吸入空気量が所定量以上であること等とする。パージ実行条件が成立している場合にはステップS12へ進み、酸素センサ26により検出した検出空燃比AFを読み込み、ステップS13で、その検出空燃比AFがリーン側の所定値AFleよりも更にリーン側の領域(強リーン領域)にあるか否かを判定する。検出空燃比AFが強リーン領域にある場合にはステップS14へ進み、第1パージ弁38を開弁し、第2パージ弁39を閉弁する。つまり、検出空燃比AFのリーン度合いが比較的大きい場合には、理論空燃比が小さい燃料成分(アルコール成分)のパージ量をゼロとし、理論空燃比が大きい燃料成分(ガソリン成分)のパージ量を所定量にすることで、少ないパージ量でできるだけ早期に実際の空燃比を目標空燃比に近付けるようにする。
【0035】
一方、検出空燃比AFが強リーン領域にない場合には、ステップS15へ進み、検出空燃比AFがリッチ側の所定値AFriよりも更にリッチ側の領域(強リッチ領域)にあるか否かを判定する。そして、検出空燃比AFが強リッチ領域にある場合には、ステップS16へ進み、第1パージ弁38を閉弁し、第2パージ弁39を開弁する。つまり、検出空燃比AFのリッチ度合いが比較的大きい場合には、ガソリン成分のパージ量をゼロとし、アルコール成分のパージ量を所定量にすることで、蒸発燃料のパージによる空燃比変化をできるだけ小さくし、過リッチになるのを抑制する。
【0036】
なお、ガソリンとアルコール(本実施形態ではエタノール)とを比較すると、アルコールはガソリンに比べて揮発性が劣り、燃料タンク31内からの蒸発量が少ない。したがって、アルコールの吸着量又はパージ量がほぼゼロであることが、例えば第2吸着部33bのガス流量を計測する等の公知の方法により推定される場合には、アルコールに代えてガソリンをパージしてもよい。
【0037】
また、検出空燃比AFが強リッチ領域にない場合、つまり空燃比のリーン領域において所定値AFleを境にリッチ側の領域(弱リーン領域)にある場合や、空燃比のリッチ領域において所定値AFriを境にリーン側の領域(弱リッチ領域)にある場合には、ステップS17へ進み、第1パージ弁38及び第2パージ弁39の開閉状態を現状のまま維持する。すなわち、本実施形態では、検出空燃比にヒステリシスを持たせてパージ弁38,39の開閉状態を切り替える。
【0038】
次に、空燃比と各成分のパージ量との関係を、図4を用いて説明する。図4は、空燃比及びパージ量の推移を示すタイムチャートである。図4において、時刻t10でパージ実行条件が成立し、時刻t11で検出空燃比AFが強リーン領域に達すると、第1パージ弁38を開弁するとともに第2パージ弁39を閉弁する。これにより、アルコール成分よりもガソリン成分が優先してサージタンク16にパージされる。その後、検出空燃比AFがリッチ側に移行し、時刻t12で検出空燃比AFが強リッチ領域に達すると、第1パージ弁38を閉弁するとともに第2パージ弁39を開弁する。これにより、ガソリン成分よりもアルコール成分が優先してサージタンク16にパージされる。
【0039】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の優れた効果を有する。
【0040】
ガソリンとアルコールとの混合燃料が燃料タンク31内に貯留されている場合に、燃料タンク31内の蒸発ガスのうちガソリン成分を第1吸着部33aに吸着し、アルコール成分を第2吸着部33bにそれぞれ別の吸着部に吸着するとともに、第1パージ弁38及び第2パージ弁39の開度をそれぞれ個別に制御するため、各成分のパージ量を成分ごとに任意に調節することができる。これにより、蒸発燃料におけるパージ量を好適に制御可能となり、ひいては蒸発燃料を好適に燃焼処理することができる。
【0041】
また、ガソリンとアルコールとの混合燃料でエンジンを駆動する場合に上記構成を適用可能なため、各燃料成分のパージ量を成分ごとに任意に調節することにより得られる効果が高い。つまり、ガソリンとアルコールとでは性状が相違する等の理由により、燃料タンク31内の蒸発ガス及び吸着部からのパージガスの成分比が変動する。また、ガソリンとアルコールとでは理論空燃比が異なるため、パージガスの成分比が変動すると空燃比が変動することが考えられる。そのため、ガソリンとアルコールとの混合燃料を使用するエンジンでは、ガソリンとアルコールとのパージ量を別々に調節することが好ましく、これにより、蒸発燃料の燃焼処理を実施するのにあたり、空燃比制御を好適に実施することができる。
【0042】
第1吸着部33aと第2吸着部33bとのいずれの吸着部における蒸発ガスをパージするかを検出空燃比に基づいて決定するため、ガソリンのパージ量とアルコールのパージ量とを検出空燃比に応じて適宜調節することができる。特に本実施形態では、検出空燃比が強リーン領域にある場合に、理論空燃比がより大きい燃料成分(ガソリン)のパージを優先して実行するため、空燃比における目標値からのずれをより早期に解消することができる。また、検出空燃比が強リッチ領域にある場合に、理論空燃比がより小さい燃料成分(アルコール)のパージを優先して行うため、蒸発燃料のパージによる空燃比変化をできるだけ小さくすることができる。その結果、過リッチになるのを抑制しつつ燃料蒸発ガスの燃焼処理を実施することができる。
【0043】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0044】
・上述した実施形態では、エンジン運転状態を示すパラメータを検出空燃比AFとし、その検出空燃比AFに基づいて各成分のパージ量を調節する構成としたが、検出空燃比に代えて又はこれに加えて、エンジン負荷に基づいて各成分のパージ量を調節する構成としてもよい。具体的には、エンジン負荷が高いほど理論空燃比の大きい燃料成分(ガソリン)を優先してパージする。こうすれば、エンジン10の高負荷時にエンジン出力を効率よく高めることができ、ひいてはエンジン10の運転性能を高めることができる。具体的には、例えばスロットル開度とエンジン回転速度とをパラメータとし、スロットル開度が所定開度以上であること、及びエンジン回転速度が所定値以上であること、の両条件を満たす場合にガソリン成分を優先してパージし、上記いずれかの条件を満たさない場合にアルコール成分を優先してパージする。
【0045】
・上述した実施形態において、エンジン始動期間では、理論空燃比の小さい成分に比べて理論空燃比の大きい燃料成分を優先してパージさせる構成としてもよい。例えば、アルコールとガソリンとの混合燃料であれば、エンジン始動期間においては、アルコールに比べてガソリンを優先してパージさせる。こうすれば、パージガスにおけるガソリン成分の比率が高くなるため、エンジン10の始動性を向上させることができる。
【0046】
・上述した実施形態では、検出空燃比に基づいてガソリン及びアルコールのいずれのパージを実行するかを決定し、そのパージ実行時にパージ量を一定とする構成としたが、そのパージ量を、例えば検出空燃比に基づいて連続的又は段階的に可変にしてもよい。具体的には、例えば図5に示すように、検出空燃比AFが強リーン領域になった時刻t21から、強リッチ領域になる時刻t22までガソリンのパージ量を増加させる構成としてもよい。また、検出空燃比AFが強リッチ領域になった時刻t22から、強リーン領域になる時刻までアルコールのパージ量を増加させる構成としてもよい。
【0047】
・上述した実施形態では、強リーン領域に入る場合にガソリンのパージに切り替え、強リッチ領域に入る場合にアルコールのパージに切り替える構成としたが、1つの判定値(例えばストイキ)を用いていずれの燃料成分のパージを実行するかを切り替える構成としてもよい。あるいは、リーン側の所定値AFle及びリッチ側の所定値AFriの少なくともいずれかと、ストイキとを基準にして、いずれの燃料成分のパージを実行するかを切り替える構成としてもよい。例えば図6に示すように、検出空燃比AFが強リーン領域に入る時刻31からストイキに達する時刻t32までは、ガソリンのパージを優先して実行する。また、検出空燃比AFがストイキよりもリッチ側になった時刻t32以降では、アルコールのパージを優先して実行する。この構成によれば、空燃比のリーン度合いが高くなった場合に、理論空燃比がより大きい燃料成分(ガソリン)が積極的にパージされるため、空燃比をストイキ近傍に迅速に戻すことができる。また、空燃比がストイキよりもリッチ側になった場合に、理論空燃比がより小さい燃料成分(アルコール)が優先してパージされるため、目標空燃比からのずれを抑制しつつ、燃料蒸発ガスの燃焼処理を好適に実施することができる。なお、上記構成において、空燃比がストイキよりもリッチ側の場合にはパージ弁38,39を共に閉弁してパージを実行しない構成としてもよい。
【0048】
・上述した実施形態では、燃料中の各成分をそれぞれ異なる吸着部33a,33bに吸着させるのにあたり、分子量の相違を利用するために、細孔径の異なる吸着剤を吸着部33a,33bに充填する構成としたが、燃料中の各成分を別の吸着部に吸着させるための構成はこれに限定しない。例えば、燃料中の各成分における極性の相違を利用して各成分を別個の吸着部33a,33bに吸着させてもよい。例えばガソリンとアルコールとの混合燃料の場合、ガソリンが非極性であるのに対し、アルコールは極性を有する。したがって、極性が比較的低いか又は非極性の吸着剤(例えば活性炭)を第1吸着部33aに充填し、極性が比較的高い吸着剤(例えばシリカゲル)を第2吸着部33bに充填するとよい。また、他の手法として、蒸発燃料を加圧又は減圧したりあるいは蒸発燃料の温度を上昇又は下降させたりすることで各燃料成分の状態量を変化させ、これにより各燃料成分における吸着剤への吸着を選択的に実施してもよい。
【0049】
・上述した実施形態では、第1吸着部33aでガソリン成分を吸着させた後、第2吸着部33bでアルコール成分を吸着させる構成としたが、いずれの燃料成分を先に吸着させるかは、吸着部内の吸着剤に応じて適宜設定すればよい。例えば、燃料成分の極性の相違を利用して各成分を別の吸着部33a,33bに吸着させる場合、第1吸着部33aの吸着剤43aを極性の高いものとし、第2吸着部33bの吸着剤43bを極性の低い又は非極性のものとする。こうすれば、第1吸着部33aでアルコールが吸着された後、第2吸着部33bでガソリンが吸着される。
【0050】
・上述した実施形態では、キャニスタ33において2つの吸着部(第1吸着部33a及び第2吸着部33b)を備える構成としたが、その数は特に限定せず、分別する燃料中の成分の数に合わせて3つ以上の吸着部を備える構成としてもよい。その場合、吸着部ごとにパージ弁を設けることで、3以上の成分のガス放出量(パージ量)をそれぞれ個別に調節することができる。また、上記実施形態では、第1吸着部33aと第2吸着部33bとをそれぞれ別の容器に収容する構成としたが、第1吸着部33aと第2吸着部33bとが1の容器内に並設される構成としてもよい。このとき、その容器に対し、第1吸着部33a用のパージ管と第2吸着部33b用のパージ管とをそれぞれ接続するとともに、それらのパージ管に対しパージ弁をそれぞれ設置することで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
・上記実施形態では、混合燃料としてガソリンとアルコール(エタノール)とを含む燃料を用いる場合について説明したが、ガソリン及びアルコール以外の成分を含む燃料を用いてもよい。例えば、炭素数の比較的大きい成分(例えば炭素数5以上の炭化水素)と炭素数の比較的小さい成分(例えば炭素数4以下の炭化水素)とを含む燃料を使用する場合に本発明を適用してもよい。
【0052】
・上記実施形態において、アルコール(例えばメタノール)を燃料とする燃料電池エンジンを備える場合、第2吸着部33bに吸着されたアルコールについては、燃料電池エンジンの燃料貯留部にパージする構成としてもよい。つまり、第2吸着部33bに接続されるパージ管35の他端をサージタンク16に接続する代わりに、燃料電池エンジン用の燃料貯留部に接続する構成とする。この構成によれば、第2吸着部33bにて捕集したアルコール成分が燃料電池エンジン用の燃料貯留部に移送されるため、燃料蒸発ガス中に含まれるアルコールを燃料電池エンジンの燃料として使用することができる。
【0053】
・上述した実施形態では、酸素センサ26として広域の空燃比信号を出力するA/Fセンサを用いる構成としたが、理論空燃比(ストイキ)を境にしてリッチ側とリーン側とで異なる電圧信号を出力するO2センサを用いる構成としてもよい。この構成においては、検出空燃比がリッチの場合にアルコールのパージを優先して実施し、検出空燃比がリーンの場合にガソリンのパージを優先して実施するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】蒸発燃料処理システムの概略構成を示す図。
【図3】パージ制御の処理手順を示すフローチャート。
【図4】空燃比と各燃料成分のパージ量の推移を示すタイムチャート。
【図5】他の実施形態の空燃比と各燃料成分のパージ量の推移を示すタイムチャート。
【図6】他の実施形態の空燃比と各燃料成分のパージ量の推移を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0055】
10…エンジン、11…吸気管、16…サージタンク、30…蒸発燃料処理システム、31…燃料タンク、33…キャニスタ、33a…第1吸着部、33b…第2吸着部、35,36…パージ管、38…第1パージ弁、39…第2パージ弁、41…チェックバルブ、43a,43b…吸着剤、50…電子制御ユニット(ECU)、51…マイコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の蒸発ガスを内燃機関の吸気系に供給して燃焼処理する内燃機関の蒸発燃料処理装置において、
性状の異なる2以上の燃料成分を含む蒸発ガスを成分別に吸着する複数の吸着部と、
前記複数の吸着部にそれぞれ接続されたガス放出経路にそれぞれ設けられ、前記吸着部からのガス放出量を調節する複数のパージ弁と、
前記複数の吸着部ごとに前記パージ弁の開度を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記複数の吸着部のうちいずれの吸着部におけるガス放出を行うかを前記内燃機関の運転状態に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
前記内燃機関の空燃比を目標値に一致させるよう空燃比制御を実施する空燃比制御システムに適用され、
前記蒸発ガスは、理論空燃比が異なる2以上の燃料成分を含み、
前記内燃機関の空燃比を検出する空燃比検出手段を備え、
前記制御手段は、前記空燃比検出手段で検出した空燃比に基づいて前記複数の吸着部のうちいずれの吸着部におけるガス放出を行うかを設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記空燃比検出手段で検出した空燃比について前記目標値に対するリーン度合いが大きいほど前記2以上の燃料成分のうち理論空燃比が比較的大きい燃料成分が優先して放出されるよう前記パージ弁の開度を制御することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
前記蒸発ガスは、燃焼に伴う発熱量が異なる2以上の燃料成分を含み、
前記制御手段は、前記内燃機関の負荷が高いほど前記発熱量の比較的大きい燃料成分が優先して放出されるよう前記パージ弁の開度を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項6】
前記蒸発ガスは、ガソリン成分とアルコール成分とを含み、
前記パージ弁は、前記ガソリン成分が吸着される吸着部のガス放出量を調節する第1パージ弁と、前記アルコール成分が吸着される吸着部のガス放出量を調節する第2パージ弁とを備え、
前記制御手段は、前記第1パージ弁と前記第2パージ弁との開度をそれぞれ制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、アルコールを燃料の一成分とする燃料電池エンジンを含み、
前記燃料は、アルコール成分を含み、
前記複数の吸着部のうちアルコール成分が吸着される吸着部と、前記燃料電池エンジン用の燃料貯留部とが前記ガス放出経路により接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−287533(P2009−287533A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144082(P2008−144082)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】