内燃機関用部品およびその製造方法
【課題】潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による内燃機関用部品は、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面101に複数のシリコン結晶粒1、2を有する。摺動面101の十点平均粗さRzJISは0.54μm以上であり、摺動面101の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)は20%以上である。複数のシリコン結晶粒1、2は、複数の初晶シリコン粒1および複数の共晶シリコン粒2を含む。複数の初晶シリコン粒1および複数の共晶シリコン粒2は、マトリックス3から突出している。
【解決手段】本発明による内燃機関用部品は、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面101に複数のシリコン結晶粒1、2を有する。摺動面101の十点平均粗さRzJISは0.54μm以上であり、摺動面101の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)は20%以上である。複数のシリコン結晶粒1、2は、複数の初晶シリコン粒1および複数の共晶シリコン粒2を含む。複数の初晶シリコン粒1および複数の共晶シリコン粒2は、マトリックス3から突出している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックやピストンなどの内燃機関用部品およびその製造方法に関し、特に、シリコンを含むアルミニウム合金から形成された内燃機関用部品およびその製造方法に関する。また、本発明は、そのような内燃機関用部品を備えた内燃機関や輸送機器にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の軽量化を目的としてシリンダブロックのアルミニウム合金化が進んでいる。シリンダブロックには、高い強度や高い耐摩耗性が要求されるので、シリンダブロック用のアルミニウム合金としては、シリコンを多く含有するアルミニウム合金、つまり、過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金が有望視されている。
【0003】
アルミニウム−シリコン系合金から形成されたシリンダブロックでは、摺動面に位置するシリコン結晶粒が強度や耐摩耗性の向上に寄与する。シリコン結晶粒を合金母材の表面に露出させる手法としては、シリコン結晶粒を浮き出させるようなホーニング処理(「浮き出しホーニング」と呼ばれる。)が挙げられる。また、特許文献1には、アルミニウム−シリコン系合金の表面にシリコン結晶粒を浮き出させるようにエッチング処理を行った後、陽極酸化を行うことによって酸化物層を形成し、さらに、この酸化物層上にフッ素樹脂を溶射することによってフッ素樹脂層を形成する技術が開示されている。
【0004】
摺動面に浮き出したシリコン結晶粒の間に潤滑油が保持される(つまりシリコン結晶粒間の窪みが油溜りとして機能する。)ことにより、ピストンがシリンダ内を摺動する際の潤滑性が向上し、シリンダブロックの耐摩耗性や耐焼き付き性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2885407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者は、上述したようなアルミニウム合金製のシリンダブロックを特定の内燃機関に用いた場合には、さらなる耐摩耗性や耐焼き付き性の向上が必要であることを見出した。
【0007】
これまで、アルミニウム合金製のシリンダブロックは、四輪自動車に搭載される内燃機関に用いられてきた。四輪自動車では、潤滑油を強制的にシリンダブロックやピストンに供給する機構(例えばオイルポンプ)が内燃機関に設けられており、また、比較的低い回転速度(具体的には最大回転速度が7500rpm以下)で内燃機関が運転されるので、上記の問題は発生しない。ところが、比較的高い回転速度(具体的には最大回転速度が8000rpm以上)で運転される内燃機関やシリンダへの潤滑油の供給がクランクシャフトの回転に伴う潤滑油のはね上げによってのみ行われる(つまりオイルポンプを備えていない)内燃機関(例えば自動二輪車に搭載される内燃機関)では、アルミニウム合金製のシリンダブロックに焼き付きや顕著な磨耗が発生することがある。また、いっそうの軽量化のためにピストンの材料にもアルミニウム合金を用いると、焼き付きがいっそう発生しやすい。
【0008】
シリンダブロックの耐摩耗性や耐焼き付き性をさらに向上させるためには、内燃機関の始動時における潤滑性を向上させる必要があり、そのためには、摺動面に潤滑油をしっかりと保持する必要がある。本願発明者の検討によれば、上述したような浮き出しホーニング処理やエッチング処理が施されたシリンダブロックでは、潤滑油の保持が十分になされず、内燃機関の始動時にいきなり高速で運転が行われると潤滑性が十分ではないことがわかった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による内燃機関用部品は、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面に複数のシリコン結晶粒を有する内燃機関用部品であって、前記摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、前記摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上である。
【0011】
ある好適な実施形態において、前記複数のシリコン結晶粒は、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含む。
【0012】
ある好適な実施形態において、前記複数の初晶シリコン粒の平均結晶粒径は、12μm以上50μm以下である。
【0013】
ある好適な実施形態において、前記複数の共晶シリコン粒の平均結晶粒径は、7.5μm以下である。
【0014】
ある好適な実施形態において、前記複数のシリコン結晶粒は、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内に第1ピークを有し、且つ、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内に第2ピークを有する粒度分布を持つ。
【0015】
ある好適な実施形態において、前記第1ピークにおける度数は、前記第2ピークにおける度数の5倍以上である。
【0016】
ある好適な実施形態において、前記アルミニウム合金は、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含む。
【0017】
ある好適な実施形態において、前記アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含む。
【0018】
ある好適な実施形態において、本発明による内燃機関用部品は、シリンダブロックである。
【0019】
本発明による内燃機関は、上記構成を有する内燃機関用部品を備えている。
【0020】
ある好適な実施形態において、本発明による内燃機関は、アルミニウム合金製のピストンを備え、前記内燃機関用部品はシリンダブロックである。
【0021】
本発明による輸送機器は、上記構成を有する内燃機関を備えている。
【0022】
本発明による内燃機関用部品の製造方法は、摺動面を有する内燃機関用部品の製造方法であって、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する工程と、前記成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨する工程と、研磨された前記成形体の表面をエッチングすることにより、初晶シリコン粒および共晶シリコン粒が突出した摺動面を形成する工程とを包含する。
【0023】
本発明による内燃機関用部品では、摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であることによって、潤滑油の保持能力が向上し、優れた耐摩耗性および耐焼き付き性が得られる。
【0024】
複数のシリコン結晶粒は、典型的には、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含んでいる。摺動面において、初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒も浮き出していることによって、十点平均粗さRzJISや負荷長さ率Rmr(30)を上記数値範囲内に容易に収め得る。
【0025】
内燃機関用部品の耐摩耗性や強度を向上させる観点からは、複数の初晶シリコン粒の平均結晶粒径は、12μm以上50μm以下であることが好ましく、複数の共晶シリコン粒の平均結晶粒径は、7.5μm以下であることが好ましい。また、複数のシリコン結晶粒は、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内に第1ピークを有し、且つ、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内に第2ピークを有する粒度分布を持つことが好ましく、第1ピークにおける度数が、第2ピークにおける度数の5倍以上であることがさらに好ましい。
【0026】
内燃機関用部品の耐摩耗性や強度を十分に高くするためには、アルミニウム合金は、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含むことが好ましい。
【0027】
また、アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含むことが好ましい。アルミニウム合金が50質量ppm以上200質量ppm以下のリンを含んでいると、シリコン結晶粒の粗大化を抑制することができるので、合金中にシリコン結晶粒を均一に分散させることができる。また、アルミニウム合金のカルシウム含有量を0.01質量%以下とすることによって、リンによるシリコン結晶粒の微細化効果を確保し、耐摩耗性に優れた金属組織を得ることができる。
【0028】
本発明は、摺動面を有する内燃機関用部品全般に広く用いることができ、例えば、シリンダブロック、ピストン、シリンダスリーブ、カム駒などに好適に用いられる。
【0029】
本発明による内燃機関用部品は、各種の輸送機器用の内燃機関に好適に用いられる。
【0030】
本発明による内燃機関用部品の製造方法によれば、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨し、その後、エッチングすることにより摺動面を形成する。そのため、初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒が浮き出した(突出した)摺動面が得られるので、十分な深さを有する油溜りを細かなピッチで形成することができ、耐摩耗性および耐焼き付き性に優れた内燃機関用部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の好適な実施形態におけるシリンダブロック100を模式的に示す斜視図である。
【図2】シリンダブロック100の摺動面を拡大して模式的に示す平面図である。
【図3】シリンダブロック100の摺動面を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】(a)〜(d)は、シリンダブロック100の製造工程の一部を模式的に示す工程断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、浮き出しホーニング処理を行う場合に共晶シリコン粒が潤滑油の保持に寄与しない理由を説明するための図である。
【図8】(a)〜(c)は、鏡面ホーニング処理を経ることなくエッチング処理を行う場合に共晶シリコン粒が潤滑油の保持に寄与しない理由を説明するための図である。
【図9】十点平均粗さRzJISを横軸に、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を縦軸にとって、実施例1〜10と比較例1〜7とをプロットしたグラフである。
【図10】(a)および(b)は、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】(a)および(b)は、実施例2および比較例2の摺動面の断面曲線を示すグラフである。
【図12】(a)および(b)は、実施例2および比較例2の摺動面の負荷曲線を示すグラフである。
【図13】(a)および(b)は、運転試験を行った後の実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面を示す写真である。
【図14】(a)および(b)は、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面に濡れ性試験を行った結果を示す写真である。
【図15】初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒も浮き出している摺動面を模式的に示す断面図である。
【図16】実質的に初晶シリコン粒のみが浮き出している摺動面を模式的に示す断面図である。
【図17】十点平均粗さRzJISを説明するための図である。
【図18】負荷長さ率Rmr(c)を説明するための図である。
【図19】浮き出しホーニング処理を用いた場合に一定な浮き出し高さが得られない理由を説明するための図である。
【図20】エッチング処理を用いた場合に一定な浮き出し高さが得られる理由を説明するための図である。
【図21】シリコン結晶粒の好ましい粒度分布の例を示すグラフである。
【図22】シリンダブロック100を有する内燃機関150を模式的に示す断面図である。
【図23】図22に示す内燃機関150を備えた自動二輪車を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、主にシリンダブロックを例として説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、摺動面を有する内燃機関用部品に広く用いられる。
【0034】
図1に、本実施形態におけるシリンダブロック100を示す。シリンダブロック100は、シリコンを含むアルミニウム合金、より具体的には、シリコンを多く含む過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金から形成されている。
【0035】
シリンダブロック100は、図1に示すように、シリンダボア102を画定する壁部(「シリンダボア壁」と呼ぶ。)103と、シリンダボア壁103を包囲し、シリンダブロック100の外郭を構成する壁部(「シリンダブロック外壁」と呼ぶ。)104とを有している。シリンダボア壁103とシリンダブロック外壁104との間には、冷却液を保持するウォータジャケット105が設けられている。
【0036】
シリンダボア壁103のシリンダボア102側の表面101が、ピストンと接触する摺動面である。この摺動面101を拡大して図2に示す。図2は、摺動面101を模式的に示す平面図である。
【0037】
シリンダブロック100は、図2に示すように、摺動面101に複数のシリコン結晶粒1、2を有している。これらのシリコン結晶粒1、2は、アルミニウムを含む固溶体のマトリックス(合金母材)3中に分散して存在している。
【0038】
過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金の溶湯を冷却したときに、最初に析出するシリコン結晶粒は「初晶シリコン粒」と呼ばれ、次いで析出するシリコン結晶粒は「共晶シリコン粒」と呼ばれる。図2に示す複数のシリコン結晶粒1、2のうち、比較的大きなシリコン結晶粒1は、初晶シリコン粒である。また、初晶シリコン粒の間に位置する比較的小さなシリコン結晶粒2は、共晶シリコン粒である。
【0039】
摺動面101の断面構造を図3に示す。図3に示すように、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2を含む複数のシリコン結晶粒1、2は、マトリックス3から突出している(つまり浮き出している)。シリコン結晶粒1、2間に形成される窪み4が、潤滑油を保持する油溜りとして機能する。
【0040】
本願発明者は、摺動面101の表面粗さを表すパラメータとして、十点平均粗さRzJISと負荷長さ率Rmrとに着目し、これらを特定の範囲内に設定することによって、摺動面101の潤滑油を保持する能力が大幅に向上することを見出した。
【0041】
具体的には、摺動面101の十点平均粗さRzJISを0.54μm以上とし、摺動面101の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上とすることによって、摺動面101の潤滑油保持能力を十分に高くすることができる。なお、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmrというパラメータそのものの定義については、後の図17および図18を参照しながらの説明を参照されたい。
【0042】
本願発明者は、従来の浮き出しホーニング処理やエッチング処理では十分な潤滑油保持能力が実現できない理由を検討した。その結果、共晶シリコン粒の多くが摺動面から除去され、共晶シリコン粒が潤滑油の保持にほとんど寄与していないために、潤滑油保持能力が低いことがわかった。また、共晶シリコン粒が摺動面から除去されてしまうために、摺動面の表面粗さを上記の数値範囲内にすることが困難であることもわかった。
【0043】
これに対し、本実施形態におけるシリンダブロック100では、摺動面101の共晶シリコン粒2を潤滑油の保持に十分に寄与させることによって、摺動面101の十点平均粗さRzJISを0.54μm以上、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上にし、それによって摺動面101の潤滑油保持能力を大幅に向上させる。
【0044】
本実施形態におけるシリンダブロック100の製造方法を図4、図5および図6を参照しながら説明する。図4および図5は、シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートであり、図6は、製造工程の一部を模式的に示す工程断面図である。
【0045】
まず、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する(工程S1)。成形体を用意する工程S1は、例えば、図5に示す工程S1a〜S1eを含んでいる。
【0046】
まず、シリコンを含むアルミニウム合金を用意する(工程S1a)。シリンダブロック100の耐摩耗性および強度を十分に高くするためには、アルミニウム合金として、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含むアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0047】
次に、用意したアルミニウム合金を溶解炉で加熱して溶解させることによって、溶湯を形成する(工程S1b)。溶解前のアルミニウム合金あるいは溶湯には、100質量ppm程度のリンを添加しておくことが好ましい。アルミニウム合金が50質量ppm以上200質量ppm以下のリンを含んでいると、シリコン結晶粒の粗大化を抑制することができるので、合金中にシリコン結晶粒を均一に分散させることができる。また、アルミニウム合金のカルシウム含有量を0.01質量%以下とすることによって、リンによるシリコン結晶粒の微細化効果を確保し、耐摩耗性に優れた金属組織を得ることができる。つまり、アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含むことが好ましい。
【0048】
続いて、アルミニウム合金の溶湯を用いて鋳造を行う(工程S1c)。つまり、溶湯を鋳型の中で冷却して成形体を形成する。このとき、摺動面近傍を大きな冷却速度(例えば4℃/秒以上50℃/秒以下)で冷却し、耐摩耗性に寄与するシリコン結晶粒を表面近傍に有するシリンダブロックを一体化形成する。この鋳造工程S1cは、例えば、国際公開第2004/002658号パンフレットに開示されている鋳造装置を用いて行うことができる。
【0049】
次に、鋳型から取り出したシリンダブロック100に対し、「T5」、「T6」および「T7」と呼ばれる熱処理のうちのいずれかを行う(工程S1d)。T5処理は、成形体を鋳型から取り出した直後に水冷等により急冷し、続いて、機械的性質の改善や寸法安定化のために所定温度で所定時間だけ人工時効し、その後空冷する処理である。T6処理は、成形体を鋳型から取り出した後に所定温度で所定時間だけ溶体化処理し、続いて水冷し、次いで所定温度で所定時間だけ人工時効処理し、その後空冷する処理である。T7処理は、T6処理に比べて過時効にする処理であり、T6処理よりも寸法安定化を図ることができるが硬度はT6処理よりも低下する。
【0050】
続いて、シリンダブロック100に所定の機械加工を行う(工程S1e)。具体的には、シリンダヘッドとの合せ面やクランクケースとの合せ面の研削等を行う。
【0051】
上述したようにして成形品を用意した後、図6(a)に示すように、成形品の表面、具体的には、シリンダボア壁103の内側表面(すなわち摺動面101となる面)に対してファインボーリング加工を行う(工程S2)。
【0052】
次に、図6(b)に示すように、ファインボーリング加工を施した面に対して粗いホーニング処理を行う(工程S3)。つまり、摺動面101となる面を比較的粒度の小さい(具体的には♯800以上の粒度を有する)砥石を用いて研磨する。この粗ホーニング処理は、例えば、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行うことができる。
【0053】
続いて、図6(c)に示すように、鏡面ホーニング処理を行う(工程S4)。つまり、成形体の表面(摺動面101となる面)を、比較的粒度の大きい(具体的には♯1500以上の粒度を有する)砥石を用いて研磨する。この鏡面ホーニング処理も、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行うことができる。
【0054】
その後、図6(d)に示すように、研磨された成形体の表面をエッチング(例えばアルカリエッチング)することにより、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2が突出した摺動面101を形成する(工程S5)。このエッチング処理により、表面近傍のマトリックス3が所定の厚さだけ除去され、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2の間に油溜り4が形成される。油溜り4の深さは、エッチング液の濃度や温度、エッチング時間(浸漬時間)などにより適宜調整することができる。
【0055】
なお、鏡面ホーニング処理(工程S4)の前に行うサイジング(寸法出し)工程は、例示しているようなファインボーリング加工(工程S2)および粗ホーニング処理(工程S3)の2つの工程に限定されない。1つの工程でサイジングを行ってもよいし、3つ以上の工程でサイジングを行ってもよい。
【0056】
上述したように、本実施形態では、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いた研磨の後にエッチングを行うことにより摺動面101が形成される。つまり、一旦鏡面ホーニング処理による表面の平滑化処理を行った後に、エッチングによる化学的な研削によって油溜り4を形成する。このようにして摺動面101を形成することにより、共晶シリコン粒2を脱落させることなく摺動面101に残存させ得るので、共晶シリコン粒2を潤滑油の保持に十分に寄与させることができる。以下、この理由を従来の浮き出しホーニング処理やエッチング処理と比較しながらより詳しく説明する。
【0057】
浮き出しホーニング処理により摺動面101を形成する場合、まず、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意し(図4に示す工程S1と同じ工程)、次に、図7(a)に示すように成形体の表面にファインボーリング加工を行う。続いて、図7(b)に示すように粗いホーニング処理を行った後、図7(c)に示すように浮き出しホーニング処理を行う。浮き出しホーニング処理は、例えば砥粒が固着された樹脂ブラシを用いて行われ、マトリックス3が主に切削されるように行われる。しかしながら、機械的な研削処理である浮き出しホーニング処理では、図7(c)に模式的に示しているように、マトリックス3に併せて共晶シリコン粒2の一部も除去されてしまう。したがって、共晶シリコン粒2は潤滑油の保持にはあまり寄与しない。
【0058】
また、鏡面ホーニング処理を経ることなくエッチング処理により摺動面101を形成する場合、まず、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意し(図4に示す工程S1と同じ工程)、次に、図8(a)に示すように成形体の表面にファインボーリング加工を行う。続いて、図8(b)に示すように粗いホーニング処理を行った後、図8(c)に示すようにエッチング処理を行う。この場合、粗いホーニング処理によって表面を傷付けられた(ひび割れたり破砕されたりした)共晶シリコン粒2がそのまま浮き出すことになるので、このような共晶シリコン粒2は図8(c)に模式的に示しているようにいずれ摺動面101から脱落してしまう。したがって、やはり共晶シリコン粒2は潤滑油の保持にはあまり寄与しない。
【0059】
これに対し、本実施形態のように、鏡面ホーニング処理を行った後にエッチング処理を行う場合、化学的な研削処理であるエッチング処理では、機械的な研削である浮き出しホーニング処理のように、マトリックス3に併せて共晶シリコン粒2が除去されてしまうことはない。また、エッチング処理の前には鏡面ホーニング処理によって表面が(共晶シリコン粒2の表面も含めて)一旦平滑化されるので、粗ホーニング処理の直後にエッチング処理を行う場合に比べ、その後の共晶シリコン粒2の脱落が少ない。したがって、共晶シリコン粒2が潤滑油の保持に十分に寄与する。
【0060】
次に、本実施形態におけるシリンダブロック100を実際に試作し、耐摩耗性の評価試験を行った結果を説明する。
【0061】
下記表1に示す組成のアルミニウム合金を用い、国際公開第2004/002658号パンフレットに開示されているような高圧ダイカスト法によりシリンダブロック100を製造した。
【0062】
【表1】
【0063】
ホーニング処理(粗ホーニング処理および鏡面ホーニング処理)は、冷却のためのオイルを研磨される表面に供給しながら(すなわち湿式ホーニングである。)、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行った。粗ホーニング処理には、粒度が♯600の砥石を用い、鏡面ホーニング処理には、粒度が♯1500または♯2000の砥石を用いた。なお、砥石は、粒度(番手)の数値が大きいほど、その砥粒が細かくなるので、研磨後の表面の平滑性をより高くすることができる。ただし、砥粒が細かくなると、切削速度が低下するので、加工時間は長くなり、生産性は低下する。つまり、本実施形態の製造方法では、生産性の点からは不利な鏡面ホーニング処理をあえて行っている。
【0064】
エッチング処理は、5質量%水酸化ナトリウム溶液を用いて液温70℃の条件で行った。エッチング量(エッチング深さ)は、浸漬時間を変化させることによって調整した。
【0065】
上述したようにして製造したシリンダブロック100と別途に鍛造により製造したアルミニウム合金製ピストンとを用いて内燃機関を組み立てた。この内燃機関が冷たく潤滑油がシリンダにゆきわたっていない状態からいきなり8000rpmの回転速度で5分間運転を行ったときの摺動面101の引っかき傷(つまりスカッフの発生)を目視により観察し、シリンダブロックとしての採用の可否を判定した。その結果を下記表2に示す。表2には、東京精密株式会社製サーフコム1400Dを用いて測定した摺動面101の十点平均粗さRzJISおよび切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)も併せて示している。後に詳述するように、十点平均粗さRzJISは油溜り4の深さを評価するのに用い得るパラメータであり、負荷長さ率Rmr(30)は、摺動面101に浮き出している(つまり脱落せずに残存している)共晶シリコン粒2の個数を評価するのに用い得るパラメータである。
【0066】
【表2】
【0067】
表2からわかるように、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行った実施例1〜10では、十点平均粗さRzJISが0.54μm以上で、かつ、負荷長さ率Rmr(30)が20%以上となっており、スカッフが発生しなかった。なお、実施例1〜5で鏡面ホーニング処理に同じ粒度(♯2000)の砥石を用いているにも関わらず、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の数値がばらついているのは、エッチング時間が異なるためである。また、実施例6〜10で鏡面ホーニング処理に同じ粒度(♯1500)の砥石を用いているにも関わらず、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の数値がばらついているのも、同じ理由である。実施例1〜10におけるエッチング時間(sec)は、表3に示す通りである。
【0068】
【表3】
【0069】
これに対し、粗ホーニング処理、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理も浮き出しホーニング処理も行わなかった比較例1や、粗ホーニング処理の後に浮き出しホーニング処理を行った比較例2では、十点平均粗さRzJISが0.54μm未満で、負荷長さ率Rmr(30)も20%未満であり、スカッフが発生した。
【0070】
さらに、粗ホーニング処理、鏡面ホーニング処理の後に浮き出しホーニング処理を行った比較例3〜6では、いずれも負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であり、また、比較例6を除くと十点平均粗さRzJISも0.54μm未満であり、スカッフが発生した。
【0071】
なお、比較例7では、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行ったにもかかわらず、十点平均粗さRzJISが0.54μm未満であった。これは、エッチング時間が短すぎ、エッチング量が十分ではなかったためである。また、比較例8では、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行ったにもかかわらず、負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であった。これは、エッチング時間が長すぎ、エッチング量が過剰であったために共晶シリコン粒の脱落が発生したからである。実施例1〜10のエッチング時間が表3に示したように10〜40秒であるのに対し、比較例7のエッチング時間は8秒であり、比較例8のエッチング時間は70秒であった。
【0072】
また、粗ホーニング処理の後に直接(つまり鏡面ホーニング処理を行うことなく)エッチング処理を行った比較例9でも、負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であり、スカッフが発生した。
【0073】
図9は、十点平均粗さRzJISを横軸に、負荷長さ率Rmr(30)を縦軸にとって、実施例1〜10と比較例1〜7および9とをプロットしたグラフである。
【0074】
図9からもわかるように、スカッフが発生しなかった実施例1〜10(グラフ中にex1〜ex10と示している。)では、いずれも十点平均粗さRzJISが0.54μm以上で、かつ、負荷長さ率Rmr(30)が20%以上である。これに対し、スカッフが発生した比較例1〜7および9(グラフ中にce1〜7および9として示している。)では、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の少なくとも一方が、上述の数値範囲にはない。したがって、十点平均粗さRzJISを0.54μm以上とし、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上とすることにより、潤滑油の保持能力が向上し、スカッフの発生を防止し得ることがわかる。なお、比較例8として示したように十点平均粗さRzJISが4.0μmを超えると、細かい共晶シリコン粒の脱落が顕著になって潤滑油を保持するための細かい隙間(ピッチの細かい油溜り4)が減少することがある。そのため、十点平均粗さRzJISは4.0μm以下であることが好ましい。
【0075】
図10(a)および(b)に、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面の原子間力顕微鏡(AFM)写真を示す。実施例2の摺動面には、図10(a)に示すように凹凸がほぼ均一に細かなピッチで存在しており、初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2も多数浮き出していることがわかる。これに対し、比較例2の摺動面には、図10(b)に示すように凸部がまばらにしか存在せず、専ら初晶シリコン粒1が浮き出していることがわかる。
【0076】
図11(a)および(b)に、実施例2および比較例2の摺動面の断面曲線を示す。実施例2の摺動面には、図11(a)に示すように十分な深さを有する凹部が細かなピッチで多数存在しており、共晶シリコン粒2が油溜り4を形成していることを裏付けている。これに対し、比較例2の摺動面には、図11(b)に示すように十分な深さを有する凹部は存在しておらず、共晶シリコン粒2が実質的には油溜り4を形成していないことを裏付けている。
【0077】
図12(a)および(b)に、実施例2および比較例2の摺動面の負荷曲線を示す。実施例2の摺動面では、図12(a)に示すように、比較的低い切断レベル(例えば30%付近)においても負荷長さ率Rmrが高く、初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2も多数浮き出していることを裏付けている。これに対し、比較例2の摺動面では、図12(b)に示すように、比較的低い切断レベル(例えば30%付近)においては負荷長さ率Rmrが低く、共晶シリコン粒2があまり浮き出していないことを裏付けている。
【0078】
図13(a)および(b)に、運転試験を行った後の実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面の写真を示す。実施例2の摺動面には、図13(a)に示すように引っかき傷はほとんど存在せず、スカッフが発生していないことがわかる。これに対し、比較例2の摺動面には、図13(b)に示すように、多数の引っかき傷が形成されており、スカッフが発生していることがわかる。
【0079】
図13(a)および(b)にも示したように、実施例2ではスカッフが発生せず、比較例2ではスカッフが発生してしまうのは、実施例2と比較例2とで潤滑油の保持能力に差があるからである。図14(a)および(b)に、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面について、濡れ性試験を行った結果を示す。実施例2の摺動面が、図14(a)に示すように、潤滑油を高くまで(ここでは2.70mmまで)吸い上げるのに対し、比較例2の摺動面は、図14(b)に示すように、潤滑油をあまり高くまで(ここでは0.94mm程度しか)吸い上げない。このことから、実施例2の摺動面は、比較例2の摺動面よりも潤滑油の保持能力が高いことがわかる。
【0080】
ここまで述べたように、摺動面101において初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2を多数浮き出させることにより、潤滑油の保持能力を高くすることができる。図15に模式的に示すように、共晶シリコン粒2が多数浮き出していることにより、十分な深さを有する油溜り4が細かなピッチで形成されるので、潤滑油の保持能力が高くなり、耐焼き付き性が向上する。また、共晶シリコン粒2が多数浮き出していることにより、初晶シリコン1のみが浮き出している場合に比べ、ピストンリング122aに実際に接触する部分の面積が大きくなるので、摺動時に単位面積当たりに加わる荷重が小さくなり、耐摩耗性が向上する。
【0081】
これに対し、図16に模式的に示すように、実質的に初晶シリコン粒1のみが浮き出していると、油溜り4は粗いピッチで形成されるので、潤滑油の保持能力が低くなってしまい、耐焼き付き性も低くなってしまう。また、共晶シリコン粒2がほとんど浮き出していないので、ピストンリング122aに実際に接触する部分の面積が小さく、耐摩耗性も低い。
【0082】
本実施形態では、摺動面101の表面粗さを表すパラメータとして、十点平均粗さRzJISと、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)とに着目している。
【0083】
十点平均粗さRzJISは、図17に示すように断面曲線から基準長さLだけを抜き取った部分において、最高から5番目までの山頂の標高R1、R3、R5、R7およびR9の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高R2、R4、R6、R8およびR10の平均値との差の値であり、下記式で表される。
【0084】
【数1】
【0085】
したがって、十点平均粗さRzJISが大きいということは、油溜り4が十分な深さを有することを意味している。潤滑油の保持能力の点からは十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であることが好ましいことは、実験結果を用いて既に説明した通りである。
【0086】
また、ある切断レベルcにおける負荷長さ率Rmr(c)とは、図18に示すように粗さ曲線から評価長さlnだけを抜き取った部分において、粗さ曲線を山頂線に平行な切断レベルcで切断したときに得られる切断長さの和(つまり負荷長さ)Ml(c)の、評価長さlnに対する比であり、下記式で表される。
【0087】
【数2】
【0088】
したがって、負荷長さ率Rmr(c)は、摺動面101においてどれだけ多くのシリコン粒1、2が浮き出しているかを示す指標であるといえ、負荷長さ率Rmr(c)が大きいということは、多くの共晶シリコン粒2が浮き出していることを意味する。内燃機関の運転初期において、摺動面101の最表面は切断レベル30%に対応した深さ程度までは磨耗するので、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が、実際の運転時において浮き出している共晶シリコン粒2の多寡を示すパラメータといえる。潤滑油の保持能力の点からは切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であることが好ましいことは、実験結果を用いて既に説明した通りである。
【0089】
既に述べたように、従来の浮き出しホーニング処理では、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)を上記の数値範囲内にすることが困難である。この理由を、図19を参照しながら説明する。
【0090】
機械的な研削処理である浮き出しホーニング処理では、シリコン結晶粒1、2が疎な領域と密な領域とで、研削量が異なってしまう。具体的には、図19の右側に示すように、シリコン結晶粒1、2が疎な領域では、深く研削が行われるので、浮き出し高さhが大きいが、図19の左側に示すように、シリコン結晶粒1、2が密な領域では、浅くしか研削が行われないので、浮き出し高さhが小さい。したがって、摺動面101全体で十点平均粗さRzJISを大きくすることが難しい。また、共晶シリコン粒2がマトリックス3に併せて削られてしまうので、負荷長さ率Rmr(30)を高くすることも難しい。
【0091】
これに対し、化学的な研削処理であるエッチング処理では、図20に示すように、シリコン結晶粒1、2の粗密に関わらず、一定の深さまで研削を行うことができ、一定の浮き出し高さhが得られる。そのため、エッチング液の濃度や温度、エッチング時間を調節することにより、十点平均粗さRzJISを容易に大きくすることができる。また、共晶シリコン粒2がマトリックス3に併せて削られることもないので、負荷長さ率Rmr(30)を容易に高くすることができる。
【0092】
続いて、摺動面101におけるシリコン結晶粒1、2の好ましい平均結晶粒径や好ましい粒度分布を説明する。本願発明者は、摺動面101におけるシリコン結晶粒1、2の態様と、シリンダブロック100の耐摩耗性および強度との関係を詳細に検討した結果、シリコン結晶粒1、2の平均結晶粒径を特定の範囲内に設定したり、シリコン結晶粒1、2に特定の粒度分布を持たせたりすることによって、耐摩耗性や強度を大幅に向上できることを見出した。
【0093】
まず、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径を12μm以上50μm以下の範囲内にすることによって、シリンダブロック100の耐摩耗性を向上させることができる。
【0094】
初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が50μmを超える場合、摺動面101の単位面積当りの初晶シリコン粒1の個数が少ない。そのため、内燃機関の運転時に初晶シリコン粒1のそれぞれに大きな荷重がかかり、初晶シリコン粒1が破壊されることがある。破壊された初晶シリコン粒1の破片は、研摩粒子として作用してしまうため、摺動面101が大きく摩耗するおそれがある。
【0095】
また、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm未満である場合、初晶シリコン粒1の、マトリックス3中に埋まっている部分が小さい。そのため、内燃機関の運転時には、初晶シリコン粒1の脱落が起こりやすい。脱落した初晶シリコン粒1は、研摩粒子として作用してしまうため、摺動面101が大きく摩耗するおそれがある。
【0096】
これに対し、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm以上50μm以下である場合、初晶シリコン粒1は摺動面101の単位面積あたりに十分な数存在する。そのため、内燃機関の運転時に各初晶シリコン粒1にかかる荷重は相対的に小さくなるため、初晶シリコン粒1の破壊が抑制される。また、初晶シリコン粒1のマトリックス3に埋まっている部分が十分に大きいので、初晶シリコン粒1の脱落が低減され、そのため、脱落した初晶シリコン粒1による摺動面101の摩耗も抑制される。
【0097】
また、共晶シリコン粒2は、マトリックス3を補強する役割を果たす。そのため、共晶シリコン粒2を微細化することによって、シリンダブロック100の耐摩耗性や強度を向上することができる。具体的には、共晶シリコン粒2の平均結晶粒径を7.5μm以下とすることによって、耐摩耗性や強度を向上する効果が得られる。
【0098】
さらに、シリコン結晶粒1、2に、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内と結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内とにそれぞれピークを有する粒度分布を持たせることによって、シリンダブロック100の耐摩耗性および強度を大きく向上することができる。図21に、好ましい粒度分布の一例を示す。結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内にあるシリコン結晶粒は、共晶シリコン粒2であり、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内にあるシリコン結晶粒は、初晶シリコン粒1である。また、より多くの共晶シリコン粒2を油溜り4の形成に寄与させる観点から、図21にも示しているように、結晶粒径1μm以上7.5μm以下の範囲内にある第1ピーク(共晶シリコン粒2に由来するピーク)における度数が、結晶粒径12μm以上50μm以下の範囲内にある第2ピーク(初晶シリコン粒1に由来するピーク)における度数の5倍以上であることが好ましい。
【0099】
初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2の平均結晶粒径を制御するには、成形体を鋳造する工程(図5に示す工程S1c)において、摺動面101となる部分の冷却速度を調整すればよい。具体的には、摺動面101となる部分が4℃/秒以上50℃/秒以下の冷却速度で冷却されるように鋳造を行うことによって、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm以上50μm以下、共晶シリコン粒2の平均結晶粒径が7.5μm以下となるように、シリコン結晶粒1、2を析出させることができる。
【0100】
上述したように、本実施形態におけるシリンダブロック100は、潤滑油の保持能力に優れた摺動面101を有しているので、各種の輸送機器の内燃機関に好適に用いられる。特に、二輪自動車用の内燃機関などの高回転速度で運転される(具体的には最大回転速度が8000rpm以上の)内燃機関に好適に用いられ、内燃機関の耐久性を大きく向上させることができる。
【0101】
図22に、本発明によるシリンダブロック100を備えた内燃機関150の一例を示す。内燃機関150は、クランクケース110、シリンダブロック100およびシリンダヘッド130を有している。
【0102】
クランクケース110内にはクランクシャフト111が収容されている。クランクシャフト111は、クランクピン112およびクランクウェブ113を有している。
【0103】
クランクケース110の上に、シリンダブロック100が設けられている。シリンダブロック100のシリンダボア内には、ピストン122が挿入されている。ピストン122は、アルミニウム合金(典型的にはシリコンを含むアルミニウム合金)から形成されている。ピストン122は、例えば米国特許第6205836号明細書に開示されているように鍛造により形成し得る。
【0104】
シリンダボア内には、シリンダスリーブははめ込まれておらず、シリンダブロック100のシリンダボア壁103の内側表面にはめっきは施されていない。つまり、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2がシリンダボア壁103の表面に露出している。
【0105】
シリンダブロック100の上に、シリンダヘッド130が設けられている。シリンダヘッド130は、シリンダブロック100のピストン122とともに燃焼室131を形成する。シリンダヘッド130は、吸気ポート132および排気ポート133を有している。吸気ポート132内には燃焼室131内に混合気を供給するための吸気弁134が設けられており、排気ポート133内には燃焼室131内の排気を行うための排気弁135が設けられている。
【0106】
ピストン122とクランクシャフト111とは、コンロッド140によって連結されている。具体的には、コンロッド140の小端部142の貫通孔にピストン122のピストンピン123が挿入されているとともに、大端部144の貫通孔にクランクシャフト111のクランクピン112が挿入されており、そのことによってピストン122とクランクシャフト111とが連結されている。大端部144の貫通孔の内周面とクランクピン112との間には、ローラベアリング(転がり軸受け)114が設けられている。
【0107】
図22に示す内燃機関150は、潤滑油を強制的に供給するオイルポンプを備えていないが、本実施形態におけるシリンダブロック100を備えているので、耐久性に優れている。また、本実施形態におけるシリンダブロック100は、摺動面101の耐摩耗性が高いため、シリンダスリーブを必要としない。そのため、内燃機関150の製造工程の簡略化や、内燃機関150の軽量化、冷却性能の向上が可能となる。さらに、シリンダボア壁103の内側表面にめっきを施す必要もないので、製造コストの低減を図ることもできる。
【0108】
図23に、図22に示した内燃機関150を備えた自動二輪車を示す。自動二輪車では、内燃機関150は高回転速度で運転される。
【0109】
図23に示す自動二輪車では、本体フレーム301の前端にヘッドパイプ302が設けられている。ヘッドパイプ302には、フロントフォーク303が車両の左右方向に揺動し得るように取り付けられている。フロントフォーク303の下端には、前輪304が回転可能なように支持されている。
【0110】
本体フレーム301の後端上部から後方に延びるようにシートレール306が取り付けられている。本体フレーム301上に燃料タンク307が設けられており、シートレール306上にメインシート308aおよびタンデムシート308bが設けられている。
【0111】
また、本体フレーム301の後端に、後方へ延びるリアアーム309が取り付けられている。リアアーム309の後端に後輪310が回転可能なように支持されている。
【0112】
本体フレーム301の中央部には、図22に示した内燃機関150が保持されている。内燃機関150には、本実施形態におけるシリンダブロック100が用いられている。内燃機関150の前方には、ラジエータ311が設けられている。内燃機関150の排気ポートには排気管312が接続されており、排気管312の後端にマフラー313が取り付けられている。
【0113】
内燃機関150には変速機315が連結されている。変速機315の出力軸316に駆動スプロケット317が取り付けられている。駆動スプロケット317は、チェーン318を介して後輪310の後輪スプロケット319に連結されている。変速機315およびチェーン318は、内燃機関150により発生した動力を駆動輪に伝える伝達機構として機能する。
【0114】
図23に示した自動二輪車は、本実施形態におけるシリンダブロック100が用いられた内燃機関150を備えているので、優れた性能を有する。
【0115】
なお、本実施形態では、シリンダブロックを例として説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、摺動面を有する(つまり表面に潤滑油を保持する必要のある)内燃機関用部品に広く用いられる。例えば、本発明は、ピストンやシリンダスリーブ、カム駒に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によると、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法が提供される。
【0117】
本発明による内燃機関用部品は、各種の輸送機器用の内燃機関に好適に用いることができ、高回転速度で運転される内燃機関や潤滑油をポンプで強制的にシリンダに供給しない内燃機関に特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0118】
1 初晶シリコン粒
2 共晶シリコン粒
3 マトリックス
4 油溜り
100 シリンダブロック
101 摺動面
102 シリンダボア
103 シリンダボア壁
104 シリンダブロック外壁
105 ウォータジャケット
150 内燃機関
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックやピストンなどの内燃機関用部品およびその製造方法に関し、特に、シリコンを含むアルミニウム合金から形成された内燃機関用部品およびその製造方法に関する。また、本発明は、そのような内燃機関用部品を備えた内燃機関や輸送機器にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の軽量化を目的としてシリンダブロックのアルミニウム合金化が進んでいる。シリンダブロックには、高い強度や高い耐摩耗性が要求されるので、シリンダブロック用のアルミニウム合金としては、シリコンを多く含有するアルミニウム合金、つまり、過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金が有望視されている。
【0003】
アルミニウム−シリコン系合金から形成されたシリンダブロックでは、摺動面に位置するシリコン結晶粒が強度や耐摩耗性の向上に寄与する。シリコン結晶粒を合金母材の表面に露出させる手法としては、シリコン結晶粒を浮き出させるようなホーニング処理(「浮き出しホーニング」と呼ばれる。)が挙げられる。また、特許文献1には、アルミニウム−シリコン系合金の表面にシリコン結晶粒を浮き出させるようにエッチング処理を行った後、陽極酸化を行うことによって酸化物層を形成し、さらに、この酸化物層上にフッ素樹脂を溶射することによってフッ素樹脂層を形成する技術が開示されている。
【0004】
摺動面に浮き出したシリコン結晶粒の間に潤滑油が保持される(つまりシリコン結晶粒間の窪みが油溜りとして機能する。)ことにより、ピストンがシリンダ内を摺動する際の潤滑性が向上し、シリンダブロックの耐摩耗性や耐焼き付き性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2885407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者は、上述したようなアルミニウム合金製のシリンダブロックを特定の内燃機関に用いた場合には、さらなる耐摩耗性や耐焼き付き性の向上が必要であることを見出した。
【0007】
これまで、アルミニウム合金製のシリンダブロックは、四輪自動車に搭載される内燃機関に用いられてきた。四輪自動車では、潤滑油を強制的にシリンダブロックやピストンに供給する機構(例えばオイルポンプ)が内燃機関に設けられており、また、比較的低い回転速度(具体的には最大回転速度が7500rpm以下)で内燃機関が運転されるので、上記の問題は発生しない。ところが、比較的高い回転速度(具体的には最大回転速度が8000rpm以上)で運転される内燃機関やシリンダへの潤滑油の供給がクランクシャフトの回転に伴う潤滑油のはね上げによってのみ行われる(つまりオイルポンプを備えていない)内燃機関(例えば自動二輪車に搭載される内燃機関)では、アルミニウム合金製のシリンダブロックに焼き付きや顕著な磨耗が発生することがある。また、いっそうの軽量化のためにピストンの材料にもアルミニウム合金を用いると、焼き付きがいっそう発生しやすい。
【0008】
シリンダブロックの耐摩耗性や耐焼き付き性をさらに向上させるためには、内燃機関の始動時における潤滑性を向上させる必要があり、そのためには、摺動面に潤滑油をしっかりと保持する必要がある。本願発明者の検討によれば、上述したような浮き出しホーニング処理やエッチング処理が施されたシリンダブロックでは、潤滑油の保持が十分になされず、内燃機関の始動時にいきなり高速で運転が行われると潤滑性が十分ではないことがわかった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による内燃機関用部品は、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面に複数のシリコン結晶粒を有する内燃機関用部品であって、前記摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、前記摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上である。
【0011】
ある好適な実施形態において、前記複数のシリコン結晶粒は、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含む。
【0012】
ある好適な実施形態において、前記複数の初晶シリコン粒の平均結晶粒径は、12μm以上50μm以下である。
【0013】
ある好適な実施形態において、前記複数の共晶シリコン粒の平均結晶粒径は、7.5μm以下である。
【0014】
ある好適な実施形態において、前記複数のシリコン結晶粒は、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内に第1ピークを有し、且つ、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内に第2ピークを有する粒度分布を持つ。
【0015】
ある好適な実施形態において、前記第1ピークにおける度数は、前記第2ピークにおける度数の5倍以上である。
【0016】
ある好適な実施形態において、前記アルミニウム合金は、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含む。
【0017】
ある好適な実施形態において、前記アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含む。
【0018】
ある好適な実施形態において、本発明による内燃機関用部品は、シリンダブロックである。
【0019】
本発明による内燃機関は、上記構成を有する内燃機関用部品を備えている。
【0020】
ある好適な実施形態において、本発明による内燃機関は、アルミニウム合金製のピストンを備え、前記内燃機関用部品はシリンダブロックである。
【0021】
本発明による輸送機器は、上記構成を有する内燃機関を備えている。
【0022】
本発明による内燃機関用部品の製造方法は、摺動面を有する内燃機関用部品の製造方法であって、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する工程と、前記成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨する工程と、研磨された前記成形体の表面をエッチングすることにより、初晶シリコン粒および共晶シリコン粒が突出した摺動面を形成する工程とを包含する。
【0023】
本発明による内燃機関用部品では、摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であることによって、潤滑油の保持能力が向上し、優れた耐摩耗性および耐焼き付き性が得られる。
【0024】
複数のシリコン結晶粒は、典型的には、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含んでいる。摺動面において、初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒も浮き出していることによって、十点平均粗さRzJISや負荷長さ率Rmr(30)を上記数値範囲内に容易に収め得る。
【0025】
内燃機関用部品の耐摩耗性や強度を向上させる観点からは、複数の初晶シリコン粒の平均結晶粒径は、12μm以上50μm以下であることが好ましく、複数の共晶シリコン粒の平均結晶粒径は、7.5μm以下であることが好ましい。また、複数のシリコン結晶粒は、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内に第1ピークを有し、且つ、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内に第2ピークを有する粒度分布を持つことが好ましく、第1ピークにおける度数が、第2ピークにおける度数の5倍以上であることがさらに好ましい。
【0026】
内燃機関用部品の耐摩耗性や強度を十分に高くするためには、アルミニウム合金は、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含むことが好ましい。
【0027】
また、アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含むことが好ましい。アルミニウム合金が50質量ppm以上200質量ppm以下のリンを含んでいると、シリコン結晶粒の粗大化を抑制することができるので、合金中にシリコン結晶粒を均一に分散させることができる。また、アルミニウム合金のカルシウム含有量を0.01質量%以下とすることによって、リンによるシリコン結晶粒の微細化効果を確保し、耐摩耗性に優れた金属組織を得ることができる。
【0028】
本発明は、摺動面を有する内燃機関用部品全般に広く用いることができ、例えば、シリンダブロック、ピストン、シリンダスリーブ、カム駒などに好適に用いられる。
【0029】
本発明による内燃機関用部品は、各種の輸送機器用の内燃機関に好適に用いられる。
【0030】
本発明による内燃機関用部品の製造方法によれば、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨し、その後、エッチングすることにより摺動面を形成する。そのため、初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒が浮き出した(突出した)摺動面が得られるので、十分な深さを有する油溜りを細かなピッチで形成することができ、耐摩耗性および耐焼き付き性に優れた内燃機関用部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の好適な実施形態におけるシリンダブロック100を模式的に示す斜視図である。
【図2】シリンダブロック100の摺動面を拡大して模式的に示す平面図である。
【図3】シリンダブロック100の摺動面を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】(a)〜(d)は、シリンダブロック100の製造工程の一部を模式的に示す工程断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、浮き出しホーニング処理を行う場合に共晶シリコン粒が潤滑油の保持に寄与しない理由を説明するための図である。
【図8】(a)〜(c)は、鏡面ホーニング処理を経ることなくエッチング処理を行う場合に共晶シリコン粒が潤滑油の保持に寄与しない理由を説明するための図である。
【図9】十点平均粗さRzJISを横軸に、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を縦軸にとって、実施例1〜10と比較例1〜7とをプロットしたグラフである。
【図10】(a)および(b)は、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】(a)および(b)は、実施例2および比較例2の摺動面の断面曲線を示すグラフである。
【図12】(a)および(b)は、実施例2および比較例2の摺動面の負荷曲線を示すグラフである。
【図13】(a)および(b)は、運転試験を行った後の実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面を示す写真である。
【図14】(a)および(b)は、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面に濡れ性試験を行った結果を示す写真である。
【図15】初晶シリコン粒だけでなく共晶シリコン粒も浮き出している摺動面を模式的に示す断面図である。
【図16】実質的に初晶シリコン粒のみが浮き出している摺動面を模式的に示す断面図である。
【図17】十点平均粗さRzJISを説明するための図である。
【図18】負荷長さ率Rmr(c)を説明するための図である。
【図19】浮き出しホーニング処理を用いた場合に一定な浮き出し高さが得られない理由を説明するための図である。
【図20】エッチング処理を用いた場合に一定な浮き出し高さが得られる理由を説明するための図である。
【図21】シリコン結晶粒の好ましい粒度分布の例を示すグラフである。
【図22】シリンダブロック100を有する内燃機関150を模式的に示す断面図である。
【図23】図22に示す内燃機関150を備えた自動二輪車を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、主にシリンダブロックを例として説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、摺動面を有する内燃機関用部品に広く用いられる。
【0034】
図1に、本実施形態におけるシリンダブロック100を示す。シリンダブロック100は、シリコンを含むアルミニウム合金、より具体的には、シリコンを多く含む過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金から形成されている。
【0035】
シリンダブロック100は、図1に示すように、シリンダボア102を画定する壁部(「シリンダボア壁」と呼ぶ。)103と、シリンダボア壁103を包囲し、シリンダブロック100の外郭を構成する壁部(「シリンダブロック外壁」と呼ぶ。)104とを有している。シリンダボア壁103とシリンダブロック外壁104との間には、冷却液を保持するウォータジャケット105が設けられている。
【0036】
シリンダボア壁103のシリンダボア102側の表面101が、ピストンと接触する摺動面である。この摺動面101を拡大して図2に示す。図2は、摺動面101を模式的に示す平面図である。
【0037】
シリンダブロック100は、図2に示すように、摺動面101に複数のシリコン結晶粒1、2を有している。これらのシリコン結晶粒1、2は、アルミニウムを含む固溶体のマトリックス(合金母材)3中に分散して存在している。
【0038】
過共晶組成のアルミニウム−シリコン系合金の溶湯を冷却したときに、最初に析出するシリコン結晶粒は「初晶シリコン粒」と呼ばれ、次いで析出するシリコン結晶粒は「共晶シリコン粒」と呼ばれる。図2に示す複数のシリコン結晶粒1、2のうち、比較的大きなシリコン結晶粒1は、初晶シリコン粒である。また、初晶シリコン粒の間に位置する比較的小さなシリコン結晶粒2は、共晶シリコン粒である。
【0039】
摺動面101の断面構造を図3に示す。図3に示すように、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2を含む複数のシリコン結晶粒1、2は、マトリックス3から突出している(つまり浮き出している)。シリコン結晶粒1、2間に形成される窪み4が、潤滑油を保持する油溜りとして機能する。
【0040】
本願発明者は、摺動面101の表面粗さを表すパラメータとして、十点平均粗さRzJISと負荷長さ率Rmrとに着目し、これらを特定の範囲内に設定することによって、摺動面101の潤滑油を保持する能力が大幅に向上することを見出した。
【0041】
具体的には、摺動面101の十点平均粗さRzJISを0.54μm以上とし、摺動面101の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上とすることによって、摺動面101の潤滑油保持能力を十分に高くすることができる。なお、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmrというパラメータそのものの定義については、後の図17および図18を参照しながらの説明を参照されたい。
【0042】
本願発明者は、従来の浮き出しホーニング処理やエッチング処理では十分な潤滑油保持能力が実現できない理由を検討した。その結果、共晶シリコン粒の多くが摺動面から除去され、共晶シリコン粒が潤滑油の保持にほとんど寄与していないために、潤滑油保持能力が低いことがわかった。また、共晶シリコン粒が摺動面から除去されてしまうために、摺動面の表面粗さを上記の数値範囲内にすることが困難であることもわかった。
【0043】
これに対し、本実施形態におけるシリンダブロック100では、摺動面101の共晶シリコン粒2を潤滑油の保持に十分に寄与させることによって、摺動面101の十点平均粗さRzJISを0.54μm以上、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上にし、それによって摺動面101の潤滑油保持能力を大幅に向上させる。
【0044】
本実施形態におけるシリンダブロック100の製造方法を図4、図5および図6を参照しながら説明する。図4および図5は、シリンダブロック100の製造工程を示すフローチャートであり、図6は、製造工程の一部を模式的に示す工程断面図である。
【0045】
まず、シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する(工程S1)。成形体を用意する工程S1は、例えば、図5に示す工程S1a〜S1eを含んでいる。
【0046】
まず、シリコンを含むアルミニウム合金を用意する(工程S1a)。シリンダブロック100の耐摩耗性および強度を十分に高くするためには、アルミニウム合金として、73.4質量%以上79.6質量%以下のアルミニウム、18質量%以上22質量%以下のシリコン、および2.0質量%以上3.0質量%以下の銅を含むアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0047】
次に、用意したアルミニウム合金を溶解炉で加熱して溶解させることによって、溶湯を形成する(工程S1b)。溶解前のアルミニウム合金あるいは溶湯には、100質量ppm程度のリンを添加しておくことが好ましい。アルミニウム合金が50質量ppm以上200質量ppm以下のリンを含んでいると、シリコン結晶粒の粗大化を抑制することができるので、合金中にシリコン結晶粒を均一に分散させることができる。また、アルミニウム合金のカルシウム含有量を0.01質量%以下とすることによって、リンによるシリコン結晶粒の微細化効果を確保し、耐摩耗性に優れた金属組織を得ることができる。つまり、アルミニウム合金は、50質量ppm以上200質量ppm以下のリンと、0.01質量%以下のカルシウムとを含むことが好ましい。
【0048】
続いて、アルミニウム合金の溶湯を用いて鋳造を行う(工程S1c)。つまり、溶湯を鋳型の中で冷却して成形体を形成する。このとき、摺動面近傍を大きな冷却速度(例えば4℃/秒以上50℃/秒以下)で冷却し、耐摩耗性に寄与するシリコン結晶粒を表面近傍に有するシリンダブロックを一体化形成する。この鋳造工程S1cは、例えば、国際公開第2004/002658号パンフレットに開示されている鋳造装置を用いて行うことができる。
【0049】
次に、鋳型から取り出したシリンダブロック100に対し、「T5」、「T6」および「T7」と呼ばれる熱処理のうちのいずれかを行う(工程S1d)。T5処理は、成形体を鋳型から取り出した直後に水冷等により急冷し、続いて、機械的性質の改善や寸法安定化のために所定温度で所定時間だけ人工時効し、その後空冷する処理である。T6処理は、成形体を鋳型から取り出した後に所定温度で所定時間だけ溶体化処理し、続いて水冷し、次いで所定温度で所定時間だけ人工時効処理し、その後空冷する処理である。T7処理は、T6処理に比べて過時効にする処理であり、T6処理よりも寸法安定化を図ることができるが硬度はT6処理よりも低下する。
【0050】
続いて、シリンダブロック100に所定の機械加工を行う(工程S1e)。具体的には、シリンダヘッドとの合せ面やクランクケースとの合せ面の研削等を行う。
【0051】
上述したようにして成形品を用意した後、図6(a)に示すように、成形品の表面、具体的には、シリンダボア壁103の内側表面(すなわち摺動面101となる面)に対してファインボーリング加工を行う(工程S2)。
【0052】
次に、図6(b)に示すように、ファインボーリング加工を施した面に対して粗いホーニング処理を行う(工程S3)。つまり、摺動面101となる面を比較的粒度の小さい(具体的には♯800以上の粒度を有する)砥石を用いて研磨する。この粗ホーニング処理は、例えば、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行うことができる。
【0053】
続いて、図6(c)に示すように、鏡面ホーニング処理を行う(工程S4)。つまり、成形体の表面(摺動面101となる面)を、比較的粒度の大きい(具体的には♯1500以上の粒度を有する)砥石を用いて研磨する。この鏡面ホーニング処理も、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行うことができる。
【0054】
その後、図6(d)に示すように、研磨された成形体の表面をエッチング(例えばアルカリエッチング)することにより、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2が突出した摺動面101を形成する(工程S5)。このエッチング処理により、表面近傍のマトリックス3が所定の厚さだけ除去され、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2の間に油溜り4が形成される。油溜り4の深さは、エッチング液の濃度や温度、エッチング時間(浸漬時間)などにより適宜調整することができる。
【0055】
なお、鏡面ホーニング処理(工程S4)の前に行うサイジング(寸法出し)工程は、例示しているようなファインボーリング加工(工程S2)および粗ホーニング処理(工程S3)の2つの工程に限定されない。1つの工程でサイジングを行ってもよいし、3つ以上の工程でサイジングを行ってもよい。
【0056】
上述したように、本実施形態では、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いた研磨の後にエッチングを行うことにより摺動面101が形成される。つまり、一旦鏡面ホーニング処理による表面の平滑化処理を行った後に、エッチングによる化学的な研削によって油溜り4を形成する。このようにして摺動面101を形成することにより、共晶シリコン粒2を脱落させることなく摺動面101に残存させ得るので、共晶シリコン粒2を潤滑油の保持に十分に寄与させることができる。以下、この理由を従来の浮き出しホーニング処理やエッチング処理と比較しながらより詳しく説明する。
【0057】
浮き出しホーニング処理により摺動面101を形成する場合、まず、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意し(図4に示す工程S1と同じ工程)、次に、図7(a)に示すように成形体の表面にファインボーリング加工を行う。続いて、図7(b)に示すように粗いホーニング処理を行った後、図7(c)に示すように浮き出しホーニング処理を行う。浮き出しホーニング処理は、例えば砥粒が固着された樹脂ブラシを用いて行われ、マトリックス3が主に切削されるように行われる。しかしながら、機械的な研削処理である浮き出しホーニング処理では、図7(c)に模式的に示しているように、マトリックス3に併せて共晶シリコン粒2の一部も除去されてしまう。したがって、共晶シリコン粒2は潤滑油の保持にはあまり寄与しない。
【0058】
また、鏡面ホーニング処理を経ることなくエッチング処理により摺動面101を形成する場合、まず、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意し(図4に示す工程S1と同じ工程)、次に、図8(a)に示すように成形体の表面にファインボーリング加工を行う。続いて、図8(b)に示すように粗いホーニング処理を行った後、図8(c)に示すようにエッチング処理を行う。この場合、粗いホーニング処理によって表面を傷付けられた(ひび割れたり破砕されたりした)共晶シリコン粒2がそのまま浮き出すことになるので、このような共晶シリコン粒2は図8(c)に模式的に示しているようにいずれ摺動面101から脱落してしまう。したがって、やはり共晶シリコン粒2は潤滑油の保持にはあまり寄与しない。
【0059】
これに対し、本実施形態のように、鏡面ホーニング処理を行った後にエッチング処理を行う場合、化学的な研削処理であるエッチング処理では、機械的な研削である浮き出しホーニング処理のように、マトリックス3に併せて共晶シリコン粒2が除去されてしまうことはない。また、エッチング処理の前には鏡面ホーニング処理によって表面が(共晶シリコン粒2の表面も含めて)一旦平滑化されるので、粗ホーニング処理の直後にエッチング処理を行う場合に比べ、その後の共晶シリコン粒2の脱落が少ない。したがって、共晶シリコン粒2が潤滑油の保持に十分に寄与する。
【0060】
次に、本実施形態におけるシリンダブロック100を実際に試作し、耐摩耗性の評価試験を行った結果を説明する。
【0061】
下記表1に示す組成のアルミニウム合金を用い、国際公開第2004/002658号パンフレットに開示されているような高圧ダイカスト法によりシリンダブロック100を製造した。
【0062】
【表1】
【0063】
ホーニング処理(粗ホーニング処理および鏡面ホーニング処理)は、冷却のためのオイルを研磨される表面に供給しながら(すなわち湿式ホーニングである。)、特開2004−268179号公報に開示されているようなホーニング装置を用いて行った。粗ホーニング処理には、粒度が♯600の砥石を用い、鏡面ホーニング処理には、粒度が♯1500または♯2000の砥石を用いた。なお、砥石は、粒度(番手)の数値が大きいほど、その砥粒が細かくなるので、研磨後の表面の平滑性をより高くすることができる。ただし、砥粒が細かくなると、切削速度が低下するので、加工時間は長くなり、生産性は低下する。つまり、本実施形態の製造方法では、生産性の点からは不利な鏡面ホーニング処理をあえて行っている。
【0064】
エッチング処理は、5質量%水酸化ナトリウム溶液を用いて液温70℃の条件で行った。エッチング量(エッチング深さ)は、浸漬時間を変化させることによって調整した。
【0065】
上述したようにして製造したシリンダブロック100と別途に鍛造により製造したアルミニウム合金製ピストンとを用いて内燃機関を組み立てた。この内燃機関が冷たく潤滑油がシリンダにゆきわたっていない状態からいきなり8000rpmの回転速度で5分間運転を行ったときの摺動面101の引っかき傷(つまりスカッフの発生)を目視により観察し、シリンダブロックとしての採用の可否を判定した。その結果を下記表2に示す。表2には、東京精密株式会社製サーフコム1400Dを用いて測定した摺動面101の十点平均粗さRzJISおよび切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)も併せて示している。後に詳述するように、十点平均粗さRzJISは油溜り4の深さを評価するのに用い得るパラメータであり、負荷長さ率Rmr(30)は、摺動面101に浮き出している(つまり脱落せずに残存している)共晶シリコン粒2の個数を評価するのに用い得るパラメータである。
【0066】
【表2】
【0067】
表2からわかるように、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行った実施例1〜10では、十点平均粗さRzJISが0.54μm以上で、かつ、負荷長さ率Rmr(30)が20%以上となっており、スカッフが発生しなかった。なお、実施例1〜5で鏡面ホーニング処理に同じ粒度(♯2000)の砥石を用いているにも関わらず、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の数値がばらついているのは、エッチング時間が異なるためである。また、実施例6〜10で鏡面ホーニング処理に同じ粒度(♯1500)の砥石を用いているにも関わらず、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の数値がばらついているのも、同じ理由である。実施例1〜10におけるエッチング時間(sec)は、表3に示す通りである。
【0068】
【表3】
【0069】
これに対し、粗ホーニング処理、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理も浮き出しホーニング処理も行わなかった比較例1や、粗ホーニング処理の後に浮き出しホーニング処理を行った比較例2では、十点平均粗さRzJISが0.54μm未満で、負荷長さ率Rmr(30)も20%未満であり、スカッフが発生した。
【0070】
さらに、粗ホーニング処理、鏡面ホーニング処理の後に浮き出しホーニング処理を行った比較例3〜6では、いずれも負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であり、また、比較例6を除くと十点平均粗さRzJISも0.54μm未満であり、スカッフが発生した。
【0071】
なお、比較例7では、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行ったにもかかわらず、十点平均粗さRzJISが0.54μm未満であった。これは、エッチング時間が短すぎ、エッチング量が十分ではなかったためである。また、比較例8では、鏡面ホーニング処理の後にエッチング処理を行ったにもかかわらず、負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であった。これは、エッチング時間が長すぎ、エッチング量が過剰であったために共晶シリコン粒の脱落が発生したからである。実施例1〜10のエッチング時間が表3に示したように10〜40秒であるのに対し、比較例7のエッチング時間は8秒であり、比較例8のエッチング時間は70秒であった。
【0072】
また、粗ホーニング処理の後に直接(つまり鏡面ホーニング処理を行うことなく)エッチング処理を行った比較例9でも、負荷長さ率Rmr(30)が20%未満であり、スカッフが発生した。
【0073】
図9は、十点平均粗さRzJISを横軸に、負荷長さ率Rmr(30)を縦軸にとって、実施例1〜10と比較例1〜7および9とをプロットしたグラフである。
【0074】
図9からもわかるように、スカッフが発生しなかった実施例1〜10(グラフ中にex1〜ex10と示している。)では、いずれも十点平均粗さRzJISが0.54μm以上で、かつ、負荷長さ率Rmr(30)が20%以上である。これに対し、スカッフが発生した比較例1〜7および9(グラフ中にce1〜7および9として示している。)では、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)の少なくとも一方が、上述の数値範囲にはない。したがって、十点平均粗さRzJISを0.54μm以上とし、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)を20%以上とすることにより、潤滑油の保持能力が向上し、スカッフの発生を防止し得ることがわかる。なお、比較例8として示したように十点平均粗さRzJISが4.0μmを超えると、細かい共晶シリコン粒の脱落が顕著になって潤滑油を保持するための細かい隙間(ピッチの細かい油溜り4)が減少することがある。そのため、十点平均粗さRzJISは4.0μm以下であることが好ましい。
【0075】
図10(a)および(b)に、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面の原子間力顕微鏡(AFM)写真を示す。実施例2の摺動面には、図10(a)に示すように凹凸がほぼ均一に細かなピッチで存在しており、初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2も多数浮き出していることがわかる。これに対し、比較例2の摺動面には、図10(b)に示すように凸部がまばらにしか存在せず、専ら初晶シリコン粒1が浮き出していることがわかる。
【0076】
図11(a)および(b)に、実施例2および比較例2の摺動面の断面曲線を示す。実施例2の摺動面には、図11(a)に示すように十分な深さを有する凹部が細かなピッチで多数存在しており、共晶シリコン粒2が油溜り4を形成していることを裏付けている。これに対し、比較例2の摺動面には、図11(b)に示すように十分な深さを有する凹部は存在しておらず、共晶シリコン粒2が実質的には油溜り4を形成していないことを裏付けている。
【0077】
図12(a)および(b)に、実施例2および比較例2の摺動面の負荷曲線を示す。実施例2の摺動面では、図12(a)に示すように、比較的低い切断レベル(例えば30%付近)においても負荷長さ率Rmrが高く、初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2も多数浮き出していることを裏付けている。これに対し、比較例2の摺動面では、図12(b)に示すように、比較的低い切断レベル(例えば30%付近)においては負荷長さ率Rmrが低く、共晶シリコン粒2があまり浮き出していないことを裏付けている。
【0078】
図13(a)および(b)に、運転試験を行った後の実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面の写真を示す。実施例2の摺動面には、図13(a)に示すように引っかき傷はほとんど存在せず、スカッフが発生していないことがわかる。これに対し、比較例2の摺動面には、図13(b)に示すように、多数の引っかき傷が形成されており、スカッフが発生していることがわかる。
【0079】
図13(a)および(b)にも示したように、実施例2ではスカッフが発生せず、比較例2ではスカッフが発生してしまうのは、実施例2と比較例2とで潤滑油の保持能力に差があるからである。図14(a)および(b)に、実施例2および比較例2のシリンダブロックの摺動面について、濡れ性試験を行った結果を示す。実施例2の摺動面が、図14(a)に示すように、潤滑油を高くまで(ここでは2.70mmまで)吸い上げるのに対し、比較例2の摺動面は、図14(b)に示すように、潤滑油をあまり高くまで(ここでは0.94mm程度しか)吸い上げない。このことから、実施例2の摺動面は、比較例2の摺動面よりも潤滑油の保持能力が高いことがわかる。
【0080】
ここまで述べたように、摺動面101において初晶シリコン粒1だけでなく共晶シリコン粒2を多数浮き出させることにより、潤滑油の保持能力を高くすることができる。図15に模式的に示すように、共晶シリコン粒2が多数浮き出していることにより、十分な深さを有する油溜り4が細かなピッチで形成されるので、潤滑油の保持能力が高くなり、耐焼き付き性が向上する。また、共晶シリコン粒2が多数浮き出していることにより、初晶シリコン1のみが浮き出している場合に比べ、ピストンリング122aに実際に接触する部分の面積が大きくなるので、摺動時に単位面積当たりに加わる荷重が小さくなり、耐摩耗性が向上する。
【0081】
これに対し、図16に模式的に示すように、実質的に初晶シリコン粒1のみが浮き出していると、油溜り4は粗いピッチで形成されるので、潤滑油の保持能力が低くなってしまい、耐焼き付き性も低くなってしまう。また、共晶シリコン粒2がほとんど浮き出していないので、ピストンリング122aに実際に接触する部分の面積が小さく、耐摩耗性も低い。
【0082】
本実施形態では、摺動面101の表面粗さを表すパラメータとして、十点平均粗さRzJISと、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)とに着目している。
【0083】
十点平均粗さRzJISは、図17に示すように断面曲線から基準長さLだけを抜き取った部分において、最高から5番目までの山頂の標高R1、R3、R5、R7およびR9の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高R2、R4、R6、R8およびR10の平均値との差の値であり、下記式で表される。
【0084】
【数1】
【0085】
したがって、十点平均粗さRzJISが大きいということは、油溜り4が十分な深さを有することを意味している。潤滑油の保持能力の点からは十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であることが好ましいことは、実験結果を用いて既に説明した通りである。
【0086】
また、ある切断レベルcにおける負荷長さ率Rmr(c)とは、図18に示すように粗さ曲線から評価長さlnだけを抜き取った部分において、粗さ曲線を山頂線に平行な切断レベルcで切断したときに得られる切断長さの和(つまり負荷長さ)Ml(c)の、評価長さlnに対する比であり、下記式で表される。
【0087】
【数2】
【0088】
したがって、負荷長さ率Rmr(c)は、摺動面101においてどれだけ多くのシリコン粒1、2が浮き出しているかを示す指標であるといえ、負荷長さ率Rmr(c)が大きいということは、多くの共晶シリコン粒2が浮き出していることを意味する。内燃機関の運転初期において、摺動面101の最表面は切断レベル30%に対応した深さ程度までは磨耗するので、切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が、実際の運転時において浮き出している共晶シリコン粒2の多寡を示すパラメータといえる。潤滑油の保持能力の点からは切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であることが好ましいことは、実験結果を用いて既に説明した通りである。
【0089】
既に述べたように、従来の浮き出しホーニング処理では、十点平均粗さRzJISおよび負荷長さ率Rmr(30)を上記の数値範囲内にすることが困難である。この理由を、図19を参照しながら説明する。
【0090】
機械的な研削処理である浮き出しホーニング処理では、シリコン結晶粒1、2が疎な領域と密な領域とで、研削量が異なってしまう。具体的には、図19の右側に示すように、シリコン結晶粒1、2が疎な領域では、深く研削が行われるので、浮き出し高さhが大きいが、図19の左側に示すように、シリコン結晶粒1、2が密な領域では、浅くしか研削が行われないので、浮き出し高さhが小さい。したがって、摺動面101全体で十点平均粗さRzJISを大きくすることが難しい。また、共晶シリコン粒2がマトリックス3に併せて削られてしまうので、負荷長さ率Rmr(30)を高くすることも難しい。
【0091】
これに対し、化学的な研削処理であるエッチング処理では、図20に示すように、シリコン結晶粒1、2の粗密に関わらず、一定の深さまで研削を行うことができ、一定の浮き出し高さhが得られる。そのため、エッチング液の濃度や温度、エッチング時間を調節することにより、十点平均粗さRzJISを容易に大きくすることができる。また、共晶シリコン粒2がマトリックス3に併せて削られることもないので、負荷長さ率Rmr(30)を容易に高くすることができる。
【0092】
続いて、摺動面101におけるシリコン結晶粒1、2の好ましい平均結晶粒径や好ましい粒度分布を説明する。本願発明者は、摺動面101におけるシリコン結晶粒1、2の態様と、シリンダブロック100の耐摩耗性および強度との関係を詳細に検討した結果、シリコン結晶粒1、2の平均結晶粒径を特定の範囲内に設定したり、シリコン結晶粒1、2に特定の粒度分布を持たせたりすることによって、耐摩耗性や強度を大幅に向上できることを見出した。
【0093】
まず、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径を12μm以上50μm以下の範囲内にすることによって、シリンダブロック100の耐摩耗性を向上させることができる。
【0094】
初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が50μmを超える場合、摺動面101の単位面積当りの初晶シリコン粒1の個数が少ない。そのため、内燃機関の運転時に初晶シリコン粒1のそれぞれに大きな荷重がかかり、初晶シリコン粒1が破壊されることがある。破壊された初晶シリコン粒1の破片は、研摩粒子として作用してしまうため、摺動面101が大きく摩耗するおそれがある。
【0095】
また、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm未満である場合、初晶シリコン粒1の、マトリックス3中に埋まっている部分が小さい。そのため、内燃機関の運転時には、初晶シリコン粒1の脱落が起こりやすい。脱落した初晶シリコン粒1は、研摩粒子として作用してしまうため、摺動面101が大きく摩耗するおそれがある。
【0096】
これに対し、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm以上50μm以下である場合、初晶シリコン粒1は摺動面101の単位面積あたりに十分な数存在する。そのため、内燃機関の運転時に各初晶シリコン粒1にかかる荷重は相対的に小さくなるため、初晶シリコン粒1の破壊が抑制される。また、初晶シリコン粒1のマトリックス3に埋まっている部分が十分に大きいので、初晶シリコン粒1の脱落が低減され、そのため、脱落した初晶シリコン粒1による摺動面101の摩耗も抑制される。
【0097】
また、共晶シリコン粒2は、マトリックス3を補強する役割を果たす。そのため、共晶シリコン粒2を微細化することによって、シリンダブロック100の耐摩耗性や強度を向上することができる。具体的には、共晶シリコン粒2の平均結晶粒径を7.5μm以下とすることによって、耐摩耗性や強度を向上する効果が得られる。
【0098】
さらに、シリコン結晶粒1、2に、結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内と結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内とにそれぞれピークを有する粒度分布を持たせることによって、シリンダブロック100の耐摩耗性および強度を大きく向上することができる。図21に、好ましい粒度分布の一例を示す。結晶粒径が1μm以上7.5μm以下の範囲内にあるシリコン結晶粒は、共晶シリコン粒2であり、結晶粒径が12μm以上50μm以下の範囲内にあるシリコン結晶粒は、初晶シリコン粒1である。また、より多くの共晶シリコン粒2を油溜り4の形成に寄与させる観点から、図21にも示しているように、結晶粒径1μm以上7.5μm以下の範囲内にある第1ピーク(共晶シリコン粒2に由来するピーク)における度数が、結晶粒径12μm以上50μm以下の範囲内にある第2ピーク(初晶シリコン粒1に由来するピーク)における度数の5倍以上であることが好ましい。
【0099】
初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2の平均結晶粒径を制御するには、成形体を鋳造する工程(図5に示す工程S1c)において、摺動面101となる部分の冷却速度を調整すればよい。具体的には、摺動面101となる部分が4℃/秒以上50℃/秒以下の冷却速度で冷却されるように鋳造を行うことによって、初晶シリコン粒1の平均結晶粒径が12μm以上50μm以下、共晶シリコン粒2の平均結晶粒径が7.5μm以下となるように、シリコン結晶粒1、2を析出させることができる。
【0100】
上述したように、本実施形態におけるシリンダブロック100は、潤滑油の保持能力に優れた摺動面101を有しているので、各種の輸送機器の内燃機関に好適に用いられる。特に、二輪自動車用の内燃機関などの高回転速度で運転される(具体的には最大回転速度が8000rpm以上の)内燃機関に好適に用いられ、内燃機関の耐久性を大きく向上させることができる。
【0101】
図22に、本発明によるシリンダブロック100を備えた内燃機関150の一例を示す。内燃機関150は、クランクケース110、シリンダブロック100およびシリンダヘッド130を有している。
【0102】
クランクケース110内にはクランクシャフト111が収容されている。クランクシャフト111は、クランクピン112およびクランクウェブ113を有している。
【0103】
クランクケース110の上に、シリンダブロック100が設けられている。シリンダブロック100のシリンダボア内には、ピストン122が挿入されている。ピストン122は、アルミニウム合金(典型的にはシリコンを含むアルミニウム合金)から形成されている。ピストン122は、例えば米国特許第6205836号明細書に開示されているように鍛造により形成し得る。
【0104】
シリンダボア内には、シリンダスリーブははめ込まれておらず、シリンダブロック100のシリンダボア壁103の内側表面にはめっきは施されていない。つまり、初晶シリコン粒1および共晶シリコン粒2がシリンダボア壁103の表面に露出している。
【0105】
シリンダブロック100の上に、シリンダヘッド130が設けられている。シリンダヘッド130は、シリンダブロック100のピストン122とともに燃焼室131を形成する。シリンダヘッド130は、吸気ポート132および排気ポート133を有している。吸気ポート132内には燃焼室131内に混合気を供給するための吸気弁134が設けられており、排気ポート133内には燃焼室131内の排気を行うための排気弁135が設けられている。
【0106】
ピストン122とクランクシャフト111とは、コンロッド140によって連結されている。具体的には、コンロッド140の小端部142の貫通孔にピストン122のピストンピン123が挿入されているとともに、大端部144の貫通孔にクランクシャフト111のクランクピン112が挿入されており、そのことによってピストン122とクランクシャフト111とが連結されている。大端部144の貫通孔の内周面とクランクピン112との間には、ローラベアリング(転がり軸受け)114が設けられている。
【0107】
図22に示す内燃機関150は、潤滑油を強制的に供給するオイルポンプを備えていないが、本実施形態におけるシリンダブロック100を備えているので、耐久性に優れている。また、本実施形態におけるシリンダブロック100は、摺動面101の耐摩耗性が高いため、シリンダスリーブを必要としない。そのため、内燃機関150の製造工程の簡略化や、内燃機関150の軽量化、冷却性能の向上が可能となる。さらに、シリンダボア壁103の内側表面にめっきを施す必要もないので、製造コストの低減を図ることもできる。
【0108】
図23に、図22に示した内燃機関150を備えた自動二輪車を示す。自動二輪車では、内燃機関150は高回転速度で運転される。
【0109】
図23に示す自動二輪車では、本体フレーム301の前端にヘッドパイプ302が設けられている。ヘッドパイプ302には、フロントフォーク303が車両の左右方向に揺動し得るように取り付けられている。フロントフォーク303の下端には、前輪304が回転可能なように支持されている。
【0110】
本体フレーム301の後端上部から後方に延びるようにシートレール306が取り付けられている。本体フレーム301上に燃料タンク307が設けられており、シートレール306上にメインシート308aおよびタンデムシート308bが設けられている。
【0111】
また、本体フレーム301の後端に、後方へ延びるリアアーム309が取り付けられている。リアアーム309の後端に後輪310が回転可能なように支持されている。
【0112】
本体フレーム301の中央部には、図22に示した内燃機関150が保持されている。内燃機関150には、本実施形態におけるシリンダブロック100が用いられている。内燃機関150の前方には、ラジエータ311が設けられている。内燃機関150の排気ポートには排気管312が接続されており、排気管312の後端にマフラー313が取り付けられている。
【0113】
内燃機関150には変速機315が連結されている。変速機315の出力軸316に駆動スプロケット317が取り付けられている。駆動スプロケット317は、チェーン318を介して後輪310の後輪スプロケット319に連結されている。変速機315およびチェーン318は、内燃機関150により発生した動力を駆動輪に伝える伝達機構として機能する。
【0114】
図23に示した自動二輪車は、本実施形態におけるシリンダブロック100が用いられた内燃機関150を備えているので、優れた性能を有する。
【0115】
なお、本実施形態では、シリンダブロックを例として説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、摺動面を有する(つまり表面に潤滑油を保持する必要のある)内燃機関用部品に広く用いられる。例えば、本発明は、ピストンやシリンダスリーブ、カム駒に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によると、潤滑油の保持能力に優れた摺動面を有する内燃機関用部品およびその製造方法が提供される。
【0117】
本発明による内燃機関用部品は、各種の輸送機器用の内燃機関に好適に用いることができ、高回転速度で運転される内燃機関や潤滑油をポンプで強制的にシリンダに供給しない内燃機関に特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0118】
1 初晶シリコン粒
2 共晶シリコン粒
3 マトリックス
4 油溜り
100 シリンダブロック
101 摺動面
102 シリンダボア
103 シリンダボア壁
104 シリンダブロック外壁
105 ウォータジャケット
150 内燃機関
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面に複数のシリコン結晶粒を有する内燃機関用部品であって、
前記摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、前記摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であり、
前記複数のシリコン結晶粒は、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含み、
前記複数の初晶シリコン粒および前記複数の共晶シリコン粒は、マトリックスから突出している、内燃機関用部品。
【請求項2】
摺動面を有する内燃機関用部品の製造方法であって、
シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する工程と、
前記成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨する工程と、
研磨された前記成形体の表面をエッチングすることにより、初晶シリコン粒および共晶シリコン粒がマトリックスから突出した摺動面を形成する工程と、を包含する、内燃機関用部品の製造方法。
【請求項1】
シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、摺動面に複数のシリコン結晶粒を有する内燃機関用部品であって、
前記摺動面の十点平均粗さRzJISが0.54μm以上であり、前記摺動面の切断レベル30%における負荷長さ率Rmr(30)が20%以上であり、
前記複数のシリコン結晶粒は、複数の初晶シリコン粒および複数の共晶シリコン粒を含み、
前記複数の初晶シリコン粒および前記複数の共晶シリコン粒は、マトリックスから突出している、内燃機関用部品。
【請求項2】
摺動面を有する内燃機関用部品の製造方法であって、
シリコンを含むアルミニウム合金から形成され、表面近傍に初晶シリコン粒および共晶シリコン粒を有する成形体を用意する工程と、
前記成形体の表面を、♯1500以上の粒度を有する砥石を用いて研磨する工程と、
研磨された前記成形体の表面をエッチングすることにより、初晶シリコン粒および共晶シリコン粒がマトリックスから突出した摺動面を形成する工程と、を包含する、内燃機関用部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図10】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図10】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−57627(P2012−57627A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268620(P2011−268620)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【分割の表示】特願2007−329164(P2007−329164)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【分割の表示】特願2007−329164(P2007−329164)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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