説明

内部モデル制御装置および内部モデル制御方法

【課題】直列補償によるオープンループ制御を基本とし、モデル化誤差や外乱が発生した場合にのみフィードバック補償を行なうとともに、目標値に対しての行過ぎ量がほぼ皆無であって、しかも外乱に対するドロップ量が少く抑えられるようにした位置制御装置を提供する。
【解決手段】内部モデルフィルタ24によるオープン制御を行なうようにした内部モデル制御装置において、第2のノミナルモデル29と外乱オブザーバフィルタ30とから成る外乱オブザーバ28をさらに付加し、外乱が生じた場合には制御対象20と第2のノミナルモデル29との偏差をコンパレータ31の出力として取出し、外乱オブザーバフィルタ30によってフィードバックし、推定外乱として加算器33によって制御対象20の入力側に印加し、減算器34を介して加えられる外乱と相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内部モデル制御装置および内部モデル制御方法に係り、とくに制御対象と並列にノミナル要素を接続するとともに、制御対象の出力とノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御装置および内部モデル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より提案されている内部モデル制御法(Internal Model Control、以下IMCと略記)は例えば図1に示すようなシステム構成の制御系になる。この制御系は、制御対象1と並列にノミナル要素が設定される。上記制御対象1の出力とノミナル要素2の出力を比較するコンパレータ3がノミナル要素2の後段に接続される。そしてコンパレータ3の偏差がコンパレータ4に供給されるようになっている。またこのシステムは内部モデルフィルタ5を備え、この内部モデルフィルタ5の出力に概念的に外乱が印加されるように加算器6を接続するとともに、加算器6の出力が制御対象1に入力されるようになっている。また上記内部モデルフィルタ5の出力がノミナル要素2に入力される。ここで内部モデルフィルタ5のFはIMCフィルタで、F×P−1 がバイプロパー(分子と分母の次数が同じ状態)なる伝達関数を選択する。従って、IMCの設計パラメータは、内部モデルフィルタ5の帯域幅のみであって、設計が容易な利点を有している。
【0003】
また図1に示す制御構成から明らかなように、IMCでは、モデル化誤差がなければ、P=Pになり、このためにF・P−1 ・P=F・P−1 ・P=Fになる。すなわちIMCモデルでは、モデル化誤差がなければ、目標値rから出力yまでの伝達特性はFになる。この場合にはフィードバックループが作用せず、直列補償によるオープンループ制御になる。これに対して、モデル化誤差や外乱dが存在する場合にのみ、制御対象1の出力とノミナル要素2の出力の差分を利用してフィードバック補償が行なわれることになる。
【0004】
図1に示すようなIMCをモータの位置制御系に応用した結果を以下に示す。ノミナル要素から成るモータモデルPnは、一般的に次式によって表される。すなわち速度から位置への伝達特性である積分特性があることに注意しなければならない。
【0005】
(mm/V)=k/(s・(s+p))
ここで、例えばk =13×105、p =215とする。そしてP=P、また、
F=1/(τs+1)としてステップ応答シミュレーションを行なった結果を図2に示す。ここで、時定数τ =1/(2π×150)としている。図2で示すように、0sで0.05mmのステップ指令を印加し、0.1sでステップ外乱(力)を印加している。以下、目標値と外乱はステップ状を仮定する。また、比較のため同程度の制御帯域幅を持つPID制御系の応答波形を重ねて示す。
【0006】
IMC制御系では、目標値特性においては所望の制御特性が得られているが、外乱特性においては定常偏差が残ってしまう。これに対してPID制御系では、目標値応答においては10%程度のオーバーシュートが見られるが、外乱に対してはドロップ量も小さく、定常偏差も補償できている。参考までに設計したPID制御器並びにIMC制御器の周波数特性を図3に示す。IMC制御器では、PID制御器が有する1型(積分器を1つ有する制御系)の特性が得られていないことが分かる。
【0007】
このIMCの外乱特性について考察する。結論から述べると、IMC制御器は、制御対象が積分特性を有する場合に、低域の制御ゲインが無限大という1型の特性を持たない。すなわち、モデル化誤差がないモデルはない、外乱のないシステムはないという事実に鑑み、位置制御系にIMCを適用した場合に、目標指令に対しても必ず定常偏差が生ずる。
【0008】
以下にその理由を述べる。図1に示すブロック図を等価変換すると、図4のようなブロック図になる。等価変換ブロック図において、内部モデルフィルタ5の出力はz=F(e+z)であり、z=F・e/(1−F)となる。IMCフィルタ5のFの定常ゲインは常に1となるために、eからzへの定常ゲインは無限大になる。すなわち1型(積分特性)を持つことになる。しかしながら、制御対象1が積分特性を有すると、インバース要素7のP−1が微分要素になる。すなわちPが積分特性を有するとともに、P−1が微分特性になり、F/(1−F)の積分特性を相殺してしまう。その結果、目標値rに対しては、モデル化誤差がなければ誤差ゼロの追従が可能だが、外乱dに対しては定常誤差が存在することになる。なおIMCは開ループ系の周波数特性がフィルタ帯域内で、常に−20dB/decとなるように設計される。つまり、制御対象が1型のときには、制御器は1型にならないことが確認できる。
【特許文献1】特開2006−31654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の課題は、高速・高応答・高精度位置制御が可能な内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0010】
本願発明の別の課題は、内部モデル制御に外乱オブザーバを用いて位置制御系に応用した内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0011】
本願発明のさらに別の課題は、直列補償によるオープンループ駆動を基本とし、モデル化誤差や外乱が発生した場合のみフィードバック補償となるようにした内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0012】
本願発明のさらに別の課題は、目標値に対しての行過ぎ量がほぼ皆無になるようにした内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0013】
本願発明のさらに別の課題は、外乱が加わった場合における定常偏差やドロップ量を少く抑えるようにした内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0014】
本願発明のさらに別の課題は、制御器の設計パラメータ数が、制御帯域幅1つで達成できるようにした内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0015】
本願発明のさらに別の課題は、ノミナルモデルに適応機構の導入が容易な内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0016】
本願発明のさらに別の課題は、オープンループ駆動を基本とし、ノミナルモデルさえ高精度に同定できれば、制御帯域幅を極めて広帯域化できるようにした内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0017】
本願発明のさらに別の課題は、制御対象に積分特性を有する位置制御系の高性能な制御が可能な内部モデル制御装置および制御方法を提供することである。
【0018】
本願発明の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想、およびその実施の形態によって明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願の主要な発明は、制御対象と並列に第1のノミナル要素を接続するとともに、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御装置において、
第2のノミナル要素と外乱オブザーバフィルタとを有する外乱オブザーバを設け、前記制御対象の出力と前記第2のノミナル要素の出力の偏差を前記外乱オブザーバフィルタを介して前記制御対象の入力側にフィードバックするようにしたことを特徴とする内部モデル制御装置に関するものである。
【0020】
ここで、前記外乱オブザーバフィルタを介して入力側に外乱の推定値をフィードバックし、該外乱の推定値で前記制御対象に入力される外乱を相殺するとともに、前記制御対象と前記第2のノミナル要素との誤差を補償するようにしてよい。また前記制御対象の前段に内部モデルフィルタが接続され、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差がフィードバックされてコンパレータで目標値と比較されるとともに、該コンパレータの比較出力が前記内部モデルフィルタに入力され、しかも前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差が0の場合には、前記内部モデルフィルタの特性によるオープンループ制御が行なわれてよい。また前記外乱オブザーバフィルタの制御帯域幅が、前記内部モデルフィルタの制御帯域幅と等しくなるように設定されてよい。
【0021】
制御方法に関する主要な発明は、制御対象と並列に第1のノミナル要素を接続するとともに、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御方法において、
第2のノミナル要素と外乱オブザーバフィルタとを有する外乱オブザーバを設け、前記制御対象の出力と前記第2のノミナル要素の出力の偏差を前記外乱オブザーバフィルタを介して制御対象の入力側に外乱の推定値として入力し、該推定値によって前記制御対象に加わる外乱を相殺することを特徴とする内部モデル制御方法に関するものである。
【0022】
ここで、前記制御対象の出力が位置であって、内部モデルフィルタによって位置制御が行なわれてよい。また前記第1のノミナル要素、前記第2のノミナル要素、前記内部モデルフィルタ、前記外乱オブザーバフィルタがコンピュータ上にソフトウエアによって構築され、離散化プロセスによって実行されてよい。
【0023】
近年、モーションコントロール分野、とくに半導体製造用の精密ステージ制御等では、超高速・高応答・高精度化の要求が強い。このように高い制御性能が要求される分野では、各種制御理論が応用されているが、設計法並びに調整が困難である場合が多く、またフィードバック補償を前提としていることから、ノイズ増幅の問題から制御帯域の広帯域化においては制限が存在する。本発明では、高い制御性能が要求される位置制御系において、制御対象の逆特性を利用したオープンループ駆動を基本とし、モデル化誤差と外乱に対してのみフィードバック補償を行なう制御系を提案する。これにより、目標値に対する行過ぎ量が皆無であり、広帯域化が容易で、ノイズ特性に優れた制御システムとなる。また本願発明の提案手法は、実装が容易で、オンサイト調整も簡便であり、さらには制御対象の特性変更に対する適応機構の導入も容易である。
【0024】
本願発明の好ましい態様は、積分特性を有する位置制御系に対し、外乱オブザーバ付き内部モデル制御(IMC)を適用している。この制御系の構成は、オープンループ駆動を基本とし、モデル化誤差と外乱が存在した場合のみフィードバック補償を行なう構成である。これによって、制御対象に積分特性を有する位置制御系の高性能な制御が可能になっている。
【0025】
このような態様による外乱オブザーバに基づくIMC制御系は次のような特徴を有する。すなわち直列補償によるオープンループ駆動を基本とし、モデル化誤差や外乱が発生した場合にのみフィードバック補償となる。また目標値に対する行過ぎ量がほぼ皆無になる。また制御器の設計パラメータ数が制御帯域幅1つでよくなる。またIMCと外乱オブザーバのどちらも、制御器構造が同一であって、離散化実現が容易である。また制御器にノミナルモデルを陽に含んでおり、適応機構の導入が容易になる。またオープンループ駆動が基本であるために、ノミナルモデルさえ高精度に同定できれば、制御帯域幅を極めて広帯域化できる。また制御対象が複雑でも、同じ手順で適用できる。
【発明の効果】
【0026】
本願の主要な発明は、制御対象と並列に第1のノミナル要素を接続するとともに、制御対象の出力と第1のノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御装置において、第2のノミナル要素と外乱オブザーバフィルタとを有する外乱オブザーバを設け、制御対象の出力と第2のノミナル要素の出力の偏差を外乱オブザーバフィルタを介して制御対象の入力側にフィードバックするようにしたものである。
【0027】
従ってこのような内部モデル制御装置によると、制御対象の出力と第2のノミナル要素の出力との間に偏差が生じた場合には、この偏差が外乱オブザーバフィルタを介して制御対象の入力側に推定外乱値としてフィードバックされ、この推定外乱値が実際の外乱と相殺されるとともに、モデル化誤差の補償ができる。しかも内部モデル制御それ自体の特性によって、目標値に対する行過ぎ量がほぼ皆無になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。図5は本実施の形態の制御系の構成を示すブロック図であって、ここでは制御対象20と並列になるように第1のノミナル要素21を接続し、さらに制御対象20と第1のノミナル要素21の後段にコンパレータ22を接続している。そしてコンパレータ22をコンパレータ23に接続している。コンパレータ23は目標値とコンパレータ22の偏差との差を求めて、内部モデルフィルタ24に供給するようにしている。
【0029】
さらにこのシステムは、外乱オブザーバ28を備える。外乱オブザーバ28は第2のノミナルモデル29と、外乱オブザーバフィルタ30とを備えている。そして第2のノミナルモデル29の出力側にコンパレータ31が接続され、このコンパレータ31の出力側偏差を外乱オブザーバフィルタ30に供給するようにしている。外乱オブザーバフィルタ30の出力は、加算器33に印加される。またこの加算器33の後段に減算器34が接続される。
【0030】
以上のような構成において、制御対象20の出力と第1のノミナルモデル21の出力の差が存在しない場合には、コンパレータ22の出力が0になる。従ってこの場合にはコンパレータ23に対するフィードバック信号が加えられることがない。従って内部モデルフィルタ24の出力が制御対象20に加えられるだけであって、両者の伝達関数の積F・P−1 ×Pとなる。そしてモデル化誤差がなければ、P=Pnであるから、F・P−1×P=Fとなり、内部モデルフィルタ24の伝達特性によるオープンループ制御が行なわれる。
【0031】
また外乱オブザーバ28の第2のノミナルモデル29の出力が制御対象20の出力と等しい場合には、コンパレータ31の出力が0になる。従ってコンパレータ31から外乱オブザーバフィルタ30に信号が加えられることがなく、このために外乱オブザーバフィルタ30を介してのフィードバック制御が行なわれない。これに対して外乱が存在する場合には、制御対象20の出力と第2のノミナルモデル29の出力の偏差がコンパレータ31に生じ、この偏差が外乱オブザーバフィルタ30に供給される。従って外乱オブザーバフィルタ30は推定外乱値を生じ、この推定外乱値が加算器33を介して制御対象20の入力側にフィードバックされる。従って外乱dは、上記推定外乱値と減算器34で相殺されることになる。なお上記外乱の相殺のみならず、制御対象20と第2のノミナルモデル29との間に差分が発生してエラーが生ずる場合にも、この差分が上記の外乱オブザーバフィルタ30のフィードバックによる誤差相当分の補正によって補償される。
【0032】
このような制御動作を、図5に示すブロック図の伝達特性を用いて説明する。外乱オブザーバ付きIMC制御系の目標値応答特性と外乱応答特性とを導出する。図5に示すパラメータを用いて伝達特性を求めると、
y=P(u−d)・・・(1)
u=u+u・・・(2)
=F・P−1(r−e)・・・(3)
=y−y・・・(4)
=P−1・・・(5)
=y−y・・・(6)
=P・・・(7)
=Pu・・・(8)
(3)式へ(4)式と(7)式を代入すると、
=P−1(r−y)・F/(1−F)・・・(9)
また、(5)式へ(6)式と(8)式を代入し、
=Fu−P−1・Fy・・・(10)
(9)式、(10)式を(2)式へ代入し、
u=P−1(r−y)・F/(1−F)+(Fu−P−1・Fy)
u=(F・P−1r−P−1(F+F−F・F)y)・F/((1−F)(1−F))・・・(11)
ここで、F=Fとすると、(11)式は、
u=(r−(2−F)y)・F・P−1/(1−F)・・・(12)
(1)式へ代入すると、
y=(P−1・F−(1−F)d)・P/((1−F)+P・P−1(2−F)F)・・・(13)
(13)式が外乱オブザーバ付き内部モデル制御系の目標値と外乱に対する伝達特性である。ここで、P=Pのとき、
y=F・r−P(1−F)・d・・・(14)
となり、目標値rから出力yへの伝達特性はフィルタFで表され、ステップ状の目標値に対する定常偏差は0になる。また、外乱dから出力yへの伝達特性では、フィルタFの定常ゲインが1であることから、1−Fは微分器を1つ持つ。すなわち(1−F)は微分器を2つ持ち、制御対象Pの有する積分器(1つ)と相殺されても、P(1−F)には微分器が1つ残る。従って、ステップ外乱に対する定常状態での出力yへの伝達ゲインを0にでき、外乱に対しても、定常偏差が残らない。また、P≠Pnのときにも同様に、定常ではF=1であり、
y=(P・P−1/P・P−1)r−P(1−F)・d
となり、目標値に対する定常偏差は残らない。外乱に対しても先と同様に、微分器が1つ残り、定常での伝達ゲインは0になる。
【0033】
このように本実施の形態の制御系は、IMC制御系に外乱オブザーバ28を導入している。外乱オブザーバ28の制御構成も、IMCに極めて類似しており、IMC制御系の設計の軽便さ、オープン駆動型という特徴を最大限に発揮している。ここで外乱オブザーバフィルタ30はフィルタであって、IMCフィルタ24と同一でよい。
【0034】
図5に示すブロック図からも理解されるように、外乱オブザーバ28の制御対象20の出力と第2のノミナルモデル29の出力の差が生じた場合のみ、外乱推定を行なってフィードバック制御を行なうようにしている。IMCにさらに外乱オブザーバ28を導入しても、F(s)=F (s)という条件下では、設計パラメータが増加せず、制御帯域幅を指定するだけでよい。また制御器の離散化実現においても、IMCフィルタ24および外乱オブザーバ28が同一のもの、例えばF×P−1とPとを用いればよく、実現が容易になる。さらに、第2のノミナルモデル29に適応同定機構を与えることによって、経年変化への対応が可能になる。また制御帯域の広帯域化という観点からも、同定モデルの高精度化が必須条件になる。
【0035】
図5に示す構成は、ディスクリート形式で構成してもよいが、コンピュータ上に構成してもよい。この場合には、物理量を扱う制御対象20を除く他の要素を、総てコンピュータ上でソフトウエアによって構築する。そしてこのようなコンピュータによる制御動作の場合には、図6に示すフローチャートに基づいて演算を行なう。このブロック図は、目標値および出力信号が与えられて、制御入力を算出するまでの一制御実行演算の行程を示している。なおこのブロック図において、左右の直列に接続されている演算項目は、順序が入替わっても構わない。
【0036】
次に図5に示されるような外乱オブザーバ付きIMC制御系(DIMCと略記)に対するステップ応答シミュレーションの結果を図6に示す。シミュレーション条件は、τ=1/(2π×150)とした。また0sで0.05mmのステップ指令を印加し、0.1sでステップ外乱(力)を印加している。また目標値と外乱はステップ状を仮定する。また外乱オブザーバフィルタ30の帯域幅は、内部モデルフィルタ24の帯域幅と同じ2π×150(rad/s)とした。
【0037】
PIDおよびIMCの応答も同時に示すが、目標値応答は、DIMCの場合に、IMCと同様にフィルタ特性通りのオーバーシュートのない応答が得られている。またDIMCは、ステップ外乱印加時にも定常偏差がなく(外乱に対して1型)、またPIDよりもドロップ量も少く抑えられていることが確認される。
【実施例】
【0038】
次に上記の外乱オブザーバ付きIMC制御系(DIMC)による制御を半導体製造用の精密ステージの制御に用いた実施例を説明する。図8に示すようにこの制御装置はステージ42を備え、一対のリニアガイド43によってそれらの長さ方向に移動自在に支持される。そしてステージ42は非共振型超音波モータ44によってリニアガイド43に沿って送られて移動されるようになっている。非共振型超音波モータ44は上述のDIMC制御を行なうコンピュータを内蔵するコントローラ45によって制御されるようになっている。
【0039】
コントローラ45にはリニアスケール46の出力から位置情報を読込むリニアエンコーダ47の出力と、リミットセンサ48の出力とがそれぞれ入力される。さらにコントローラ45は操作用パソコン49と接続される。
【0040】
上記非共振型超音波モータ44は駆動脚51、52を備えている。これらの駆動脚51、52はそれぞれ図9に示すように、伸縮変形部53と剪断変形部54とを備えている。伸縮変形部53はその伸縮方向、すなわち長さ方向に分極され、これに対して剪断変形部54は横方向に分極されている。
【0041】
ここで駆動脚51の伸縮変形部53に電圧が加えられると伸張し、この駆動脚51の先端側の部分がステージ42に接触する。そしてこの状態において剪断変形部54を剪断変形させることによって、駆動脚51の先端部が送り方向にステージ42に駆動力を与える。なおこのときに反対側の駆動脚52の伸縮変形部53が収縮しているために、駆動脚52はその先端部がステージ42から離間している。そしてこのように先端部がステージ42から離間している駆動脚52の剪断変形部54は、次の駆動に備えて反対方向に剪断変形を行なっている。
【0042】
このような動作が2本の駆動脚51、52に交互にかつ順次繰返されることによって、図8のステージ42が矢印で示すリニアガイド43の長さ方向に移動される。そしてその位置がリニアスケール46と対接するリニアエンコーダ47によって読出され、コントローラ45に入力される。
【0043】
このような構成に係る精密ステージであって、100mmストロークで、計測分解能が100nmの精密ステージの位置決めに応用した試験結果を示す。印加指令は、図7に示したシミュレーションの場合と同様に0.05mmのステップ位置指令である。実験結果が図10に示される。同図には、PIDおよびIMC制御系の応答結果も同時に示す。IMCでは、摩擦(ステップ外乱相当)の影響から、目標値にすら定常偏差を生じている。また、PIDでは、摩擦の影響からシミュレーションほどのオーバーシュートは見られない。しかしながら、過渡状態では大きな振動的な特性が見られ(図11の制御入力参照)、帯域幅の拡大の限界であると思われる。さらに、整定(追従)には0.2s以上の時間を有する(制御入力の減少が、最大静止摩擦を超えたら目標値へ向かって移動し始める)。これに対して、DIMCでは、シミュレーションと比較し目標値に対して若干のオーバーシュートはあるものの、摩擦外乱の影響に対してもその補償ができ、素早く目標値に追従できていることが確認される。図12は、制御開始後の20サンプル分の位置応答を示す。11サンプルで目標値まで到達していることが確認される。
【0044】
以上本願発明を図示の実施の形態および実施例によって説明したが、本願発明は上記実施の形態および実施例によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。例えば本願発明は、必ずしも位置制御のみに限定されることなく、その他の制御に広く適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明は、高速・高応答・高性能が要求される位置制御系全般(制御対象が積分特性を有する)に適用することができる。例えば、精度が要求される半導体製造装置、電子線測長装置、電子線描画装置、DVDマスタリングに導入可能である。本技法の導入によって、生産性の向上や、素子の微細化が期待できる。他にも、NC工作機、産業用ロボット等の位置制御機構を有するほとんどの制御分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の内部モデル制御装置のブロック図である。
【図2】従来の内部モデル制御装置のステップ応答波形を示すグラフである。
【図3】従来の内部モデル制御装置の周波数特性を示すグラフである。
【図4】図1に示す内部モデル制御系の等価変換されたブロック図である。
【図5】本発明の一実施の形態の制御系のブロック図である。
【図6】コンピュータ上のソフトウエアによる制御動作を示すフローチャートである。
【図7】図5に示すシステムのステップ応答波形を示すグラフである。
【図8】ステージの位置決め装置のブロック図である。
【図9】非共振型超音波モータの動作原理を示す要部正面図である。
【図10】ステージ位置決め装置のステップ応答波形を示すグラフである。
【図11】同制御入力波形を示すグラフである。
【図12】制御開始後のサンプルの位置応答を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 制御対象
2 ノミナル要素
3、4 コンパレータ
5 内部モデルフィルタ
6 加算器
7 インバース要素
20 制御対象
21 第1のノミナル要素
22、23 コンパレータ
24 内部モデルフィルタ
28 外乱オブザーバ
29 第2のノミナルモデル
30 外乱オブザーバフィルタ
31 コンパレータ
33 加算器
34 減算器
42 ステージ
43 リニアガイド
44 非共振超音波モータ
45 コントローラ
46 リニアスケール
47 リニアエンコーダ
48 リミットセンサ
49 操作用パソコン
51、52 駆動脚
53 伸縮変形部
54 剪断変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象と並列に第1のノミナル要素を接続するとともに、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御装置において、
第2のノミナル要素と外乱オブザーバフィルタとを有する外乱オブザーバを設け、前記制御対象の出力と前記第2のノミナル要素の出力の偏差を前記外乱オブザーバフィルタを介して前記制御対象の入力側にフィードバックするようにしたことを特徴とする内部モデル制御装置。
【請求項2】
前記外乱オブザーバフィルタを介して入力側に外乱の推定値をフィードバックし、該外乱の推定値で前記制御対象に入力される外乱を相殺するとともに、前記制御対象と前記第2のノミナル要素との誤差を補償することを特徴とする請求項1に記載の内部モデル制御装置。
【請求項3】
前記制御対象の前段に内部モデルフィルタが接続され、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差がフィードバックされてコンパレータで目標値と比較されるとともに、該コンパレータの比較出力が前記内部モデルフィルタに入力され、しかも前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差が0の場合には、前記内部モデルフィルタの特性によるオープンループ制御が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の内部モデル制御装置。
【請求項4】
前記外乱オブザーバフィルタの制御帯域幅が、前記内部モデルフィルタの制御帯域幅と等しくなるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の内部モデル制御装置。
【請求項5】
制御対象と並列に第1のノミナル要素を接続するとともに、前記制御対象の出力と前記第1のノミナル要素の出力の偏差を入力側にフィードバックするようにした内部モデル制御方法において、
第2のノミナル要素と外乱オブザーバフィルタとを有する外乱オブザーバを設け、前記制御対象の出力と前記第2のノミナル要素の出力の偏差を前記外乱オブザーバフィルタを介して制御対象の入力側に外乱の推定値として入力し、該推定値によって前記制御対象に加わる外乱を相殺することを特徴とする内部モデル制御方法。
【請求項6】
前記制御対象の出力が位置であって、内部モデルフィルタによって位置制御が行なわれることを特徴とする請求項5に記載の内部モデル制御方法。
【請求項7】
前記第1のノミナル要素、前記第2のノミナル要素、前記内部モデルフィルタ、前記外乱オブザーバフィルタがコンピュータ上にソフトウエアによって構築され、離散化プロセスによって実行されることを特徴とする請求項6に記載の内部モデル制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−46785(P2008−46785A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220657(P2006−220657)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(505290726)有限会社テック・コンシェルジェ熊本 (4)
【Fターム(参考)】