説明

円すいころ軸受ならびにデファレンシャル

【課題】内輪2と外輪3との間に複数の円すいころ4が保持器5を介して周方向に転動可能に配設される円すいころ軸受1において、当該軸受1内へのオイル流入量を適正化して、軸受1内部のオイル攪拌抵抗を可及的に小さくし、軸受1の低トルク化を図る。
【解決手段】保持器5の小径側端部に、内輪2の小径側端部(2c)の外周面に非接触密封部となる隙間を作るように対向される延長部5bが設けられている。この延長部5bの軸方向寸法は、保持器5の肉厚より大きく設定されている。保持器5には、その延長部5b側と円すいころ4側との間で潤滑剤が流通する通路6が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオイル等の潤滑剤で潤滑される円すいころ軸受ならびにデファレンシャルに関する。なお、前記の円すいころ軸受は、自動車のデファレンシャルやトランスアクスル等の回転軸の支持に利用される他、工作機械等の回転軸の支持に利用されている。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、一般的に、内輪、外輪、内・外輪間に介装配置された複数の円すいころ、ならびに、複数の円すいころを円周略等間隔に配置した状態で回転自在に保持する保持器を有する構成である。
【0003】
この円すいころ軸受は、比較的コンパクトでありながら、大きなラジアル荷重およびアキシアル荷重を支持することができ、しかも、比較的高速回転で使用することができるので、広く使用されている。
【0004】
この円すいころ軸受をオイル潤滑環境で用いる場合、当該軸受の回転に伴うポンプ作用、つまりオイル送り作用によって、多量のオイルが内輪の小径側端部から軸受内部に流入して大径側より排出されるようになる。その際に、円すいころと内輪との間の転がり抵抗や摺動抵抗の他に、流入オイルの攪拌による抵抗が加担されるために、軸受トルクが増大する傾向となる。
【0005】
これに対し、低トルク化を図るために、例えば特許文献1,2に示す技術では、円すいころ軸受において、保持器の小径側端部を径方向内方に折り曲げて、この折曲げ部を内輪の小径側円筒部や小鍔部に適宜の隙間を介して対向させるようにしたうえで、この隙間について考慮して内外輪間へのオイル流入量を低減させるようにした構造になっている。
【0006】
また、特許文献3に示す技術では、保持器の小径側端部を径方向内方に折り曲げるとともに、この折曲げ部の内径側をさらに軸方向外方へ延出させて、この延出部分を内輪の小径部分の外周面に非接触に対向させるようにして、内外輪間へのオイル流入量を低減させるようにした構造になっている。
【特許文献1】特開2005−69421号公報
【特許文献2】特開2007−138992号公報
【特許文献3】特開2007−225037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3の従来例は、いずれも、保持器の折曲げ部を内輪に近接させることによって、内・外輪間の小径側開口を塞ぐような形態にすることにより、軸受内部へのオイル流入量を低減するようにしたものである。
【0008】
このような従来例において、軸受内部へのオイル流入量を調整するには、保持器の円錐形本体部分と外輪との対向間隔を調整することによって行うようにせざるを得ない。
【0009】
なお、特許文献1,2の従来例では、保持器の小径側端部を径方向内方に折り曲げて、この折曲げ部を内輪の小径側の円筒部や小鍔部に適宜の隙間を介して対向させるようにしてラビリンスシールを形成している。これらの従来例では、ラビリンスシールの非接触対向部分が保持器の板厚に依存するが、軸受が使用される条件によっては十分なシール効果を得るために、前記非接触対向部分の軸方向長さを保持器の折曲げ部の板厚以上とすることが必要になると考えられる。
【0010】
また、上記特許文献3の従来例は、あくまでも軸受内部へのオイル流入量を低減することを重視しており、内輪寄りで潤滑が必要な部分へオイルを供給する点についての記述がない。また、保持器の小径側端部に形成した径方向内向きの折曲げ部の先端に軸方向に延びる延長部を設けているものの、この延長部の軸方向寸法については特に言及されていない。ここに改良の余地がある。
【0011】
本発明は、円すいころ軸受において、軸受内へのオイル流入量を適正化して、軸受内部のオイル攪拌抵抗を可及的に小さくし、軸受の低トルク化を図りながら、軸受内部の潤滑必要部位へのオイル供給を良好とすることを目的としている。また、本発明は、前記の円すいころ軸受を、デファレンシャルのドライブピニオンシャフトの支持軸受とすることにより、オイルの攪拌抵抗を軽減して、デファレンシャルの低トルク化を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、内輪と外輪との間に、略円すい筒形状の保持器で保持される複数の円すいころが周方向に転動可能に配設される円すいころ軸受であって、前記保持器の小径側端部に、前記内輪の小径側端部の外周面に対向されて非接触密封部となる隙間を作る延長部が設けられているとともに、この延長部の軸方向寸法が、前記保持器の肉厚より大きく設定されており、前記保持器には、当該軸受の内外に潤滑剤を流通可能とする通路が設けられている、ことを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、内・外輪の径方向対向間の小径端側からオイルが供給されたときに、まず、保持器の延長部と内輪の小径側端部との対向隙間が、いわゆるラビリンスシールのような非接触密封部となっているから、ここからのオイルの流入が制限されることになる。
【0014】
そのため、前記のオイルは、保持器の本体部分(例えば円すい形状部分)と外輪との間の隙間や、保持器に設けた通路から円すいころ軸受内部へ流入することになる。
【0015】
そこで、まず、保持器の本体部分と外輪との間から流入するオイルは、外輪の軌道面に沿って通過することにより、主に外輪と円すいころとの接触部分を潤滑、冷却してから排出される他に、内輪の大径側端部と円すいころの大端面との接触部分へ向けて流動して、当該接触部分を潤滑、冷却してから排出されるようになる。
【0016】
その一方で、保持器の通路から流入するオイルは、周方向に隣り合う円すいころの間を流通して内輪と円すいころとの接触部分を潤滑、冷却する他、前述した内輪の大径側端部と円すいころの大端面との接触部分へ向けて流れて、そこを潤滑、冷却してから、排出されるようになる。
【0017】
ところで、円すいころ軸受内部に流入したオイルは、当該軸受の回転に伴うポンプ作用によって排出側へ送り出されるので、このポンプ作用によって上述したような軸受内部のオイル流通が滞ることがないようになっている。
【0018】
好ましくは、前記内輪の小径側端部には、円すいころの軸方向の移動を規制する小鍔部が設けられているとともに、この小鍔部より軸方向外側に当該小鍔部よりも小径とされる小径円筒部が設けられ、前記保持器の延長部が、前記内輪の小径円筒部に平行に対向配置されるよう円筒形状とされる。
【0019】
この場合、前記内輪の小径円筒部と保持器の延長部とがそれらの回転軸心に沿う形状になっており、この内輪の小径円筒部と保持器の延長部との対向隙間の内奥に、小鍔部という壁が存在することになるから、前記対向隙間からオイルが流入しにくくなる。この他、小鍔部の存在によって、内輪に保持器で保持させた複数の円すいころを組み付けられた状態で、それらを非分離とすることが可能になるから、その組立体を、その使用場所に組み付けるまでの作業性が良好となる。
【0020】
しかも、保持器の通路から流入するオイルは、周方向に隣り合う円すいころの間を流通して内輪と円すいころとの接触部分を潤滑、冷却する他、内輪の小鍔部と円すいころの小端面との間や、内輪の小鍔部と保持器の延長部の付け根部分との間に流れて、そこを潤滑、冷却するようになる。
【0021】
好ましくは、前記通路は、前記保持器の本体部分と前記延長部とを連接するとともに径方向外向きに沿う環状壁部に、軸方向に貫通する孔とされる。
【0022】
この場合、通路が軸方向に沿う孔であるから、オイルが流入しやすくなり、円すいころ軸受内部へのオイル流入量の管理が比較的容易となる。しかも、前記通路を例えばドリル加工等で比較的簡単に形成することが可能になり、製造コストの増加を抑制するうえで有利となる。
【0023】
好ましくは、前記保持器の本体部分が、前記外輪側に近接され、この保持器が前記円すいころにより案内されて前記内・外輪に対して非接触とされる案内形態とされ、前記保持器の延長部と前記内輪の小径側端部との対向隙間をX、また、前記保持器の案内隙間をYとすると、X>Yの関係とされる。
【0024】
この場合、保持器の回転中に、その回転振れによって保持器が内・外輪に対して接触せずに済むとともに、保持器の延長部も内輪の小径側端部(小径円筒部)に接触せずに済むようになり、それによって、無駄なフリクションロスを軽減することが可能になる。
【0025】
また、本発明は、デファレンシャルケース内に、ドライブピニオンシャフトが軸方向に離れた二つの転がり軸受で回転自在に支持され、かつ前記デファレンシャルケース内のオイルが前記両転がり軸受の軸方向対向間から供給されて、当該両転がり軸受内を流通して戻されるような潤滑形態とされるデファレンシャルであって、少なくとも前記ドライブピニオンシャフトのドライブピニオンギヤ側に配置される転がり軸受が、上述した構成の円すいころ軸受とされる、ことを特徴としている。
【0026】
このように、本発明に係る円すいころ軸受の使用対象をデファレンシャルに特定することが可能である。その場合、前記ドライブピニオンシャフトの支持軸受によるオイルの攪拌抵抗が軽減されるので、デファレンシャルを低トルク化するうえで有利となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、円すいころ軸受の低トルク化を図ることが可能になるうえ、円すいころ軸受内部の潤滑必要部位へのオイル供給が可能になって潤滑性を良好とすることが可能になる。また、本発明は、前記の円すいころ軸受を、デファレンシャルのドライブピニオンシャフトの支持軸受とすることにより、オイルの攪拌抵抗を軽減して、デファレンシャルの低トルク化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1から図6に本発明の一実施形態を示している。
【0029】
ここで、本発明の特徴を適用した部分の説明に先立ち、本発明の特徴の適用対象となる円すいころ軸受の概略構成について、図1および図2を参照して説明する。
【0030】
図1および図2に示す円すいころ軸受1は、内輪2と外輪3との間に、複数の円すいころ4を介装配置し、この複数の円すいころ4を保持器5で円周略等間隔に配置した状態で回転自在に保持するようにした構成である。なお、符号7は例えば回転軸等の内径側部材、8は例えばケース等の外径側部材である。
【0031】
内輪2は、略円筒形の厚肉部材からなり、その外周面の軸方向中間領域に円すい形状の軌道面(符号省略)が形成されている。この内輪2において、軌道面の大径側には、径方向外向きに延びる大鍔部2aが設けられており、また、軌道面の小径側には、径方向外向きに延びる小鍔部2bが設けられている。
【0032】
一般的に、内輪2の大鍔部2aは、主として、完成状態での円すいころ軸受1を回転させる際に、円すいころ4の周方向の転動動作を案内するものとされる。一方、内輪2の小鍔部2bは、主として、円すいころ軸受1を組み立てる過程で、外輪3を取り付けていない状態において、内輪2、複数の円すいころ4ならびに保持器5の組立体が分離しないように円すいころ4の軸方向移動を規制するものとされる。
【0033】
外輪3は、略円筒形の厚肉部材からなり、その内周面に円すい形状の軌道面(符号省略)が形成されている。この外輪の軌道面の小径端側には、軸方向に沿う円筒面(符号省略)が設けられている。
【0034】
保持器5は、略円すい筒形状の板材からなり、その円周略等間隔の数ヶ所には、円すいころ4を回転自在に保持するよう収納されるポケット5aが設けられている。
【0035】
次に、本発明の特徴を適用した部分について、図1から図5を参照して詳細に説明する。
【0036】
要するに、上述したような構成の円すいころ軸受1をオイル潤滑形態で使用する場合において、当該軸受1内へのオイル流入量を過不足のないように適正化することにより、軸受1内部のオイル攪拌抵抗を可及的に小さくしたうえで、当該軸受1内部の潤滑必要部位、例えば内輪2の大鍔部2aと円すいころ4の大端部との摺動部分等に必要十分な量のオイルを供給可能とするように工夫している。
【0037】
具体的に、まず、内輪2の小鍔部2bの軸方向外側には、軸方向外方へ延びる小径円筒部2cが設けられている。この小径円筒部2cは、小鍔部2bよりも小径に形成されている。
【0038】
一方、保持器5の小径側端部には、内輪2の小径円筒部2cの外周面に適宜の隙間を作るように平行に対向される延長部5bが設けられている。
【0039】
この保持器5において、延長部5bと保持器5の本体部分(円すい形状部分)との間には、径方向に沿う環状壁部5cが設けられている。要するに、この環状壁部5cが延長部5bと保持器5の本体部分(円すい形状部分)とを連接する部分である。
【0040】
この保持器5には、軸受の内外に潤滑剤としてのオイルを流通可能とする複数の通路6が設けられている。この各通路6は、図3に示すように、保持器5の環状壁部5cに、軸方向に貫通する孔とされている。通路6の開口形状は、例えば丸とされるが、それ以外にも、例えば楕円、矩形等とすることが可能である。また、通路6の開口面積は、主としてすべての通路6からのトータルのオイル流入量等を考慮して、必要に応じた大きさに設定される。
【0041】
詳しくは、通路6は、保持器5の環状壁部5cにおいて周方向に隣り合う各ポケット5aの間の領域に設置されている。但し、この通路6の形成位置は、各ポケット5aと同位相の領域に設置することも可能であるとともに、各ポケット5aと同位相の領域と各ポケット5aの間の領域との両方に設置することも可能である。また、通路6の設置は、前記各領域の円周方向一つおき、あるいは二つおき等とすることも可能である。
【0042】
そして、内輪2の小径円筒部2cと保持器5の延長部5bとの対向隙間、および延長部5bの付け根部分と内輪2の小鍔部2bの外面との対向隙間は、いわゆるラビリンスシールと呼ばれる非接触密封部とされる。
【0043】
このラビリンスシールとしての密封作用を確保するために、非接触密封部となる隙間の各対向寸法が小さく設定されるとともに、当該隙間において回転軸心Oに沿う軸方向直線部分の長さ寸法が長く設定される。
【0044】
さらに、上述した円すいころ軸受1は、保持器5が円すいころ4により案内される形態とされることによって、保持器5の回転中に、その回転振れによって保持器5が内・外輪2,3に対して接触しないように設定されているとともに、保持器5の延長部5bも内輪2の小径円筒部2cに接触しないように設定されており、これによって、無駄なフリクションロスを軽減するようになっている。
【0045】
参考までに、図4に示すように、保持器5の延長部5bと内輪2の小径円筒部2cとの対向隙間をX、また、保持器5の案内隙間、つまりポケット5aと円すいころ4との対向隙間をYとすると、X>Yの関係に設定されている。
【0046】
しかも、保持器5の本体部分が、外輪3側に近接するように設定されているが、この外輪3と保持器5の本体部分との径方向対向隙間Zは、Z>Xの関係に設定されている。この関係は、保持器5の回転軸心Oと内・外輪2,3の回転軸心Oとを一致させる状態にすることを前提としている。
【0047】
次に、本発明の特徴を適用した円すいころ軸受1についてのオイル潤滑形態でのオイルの流れを説明する。
【0048】
例えば図5に示すように、内・外輪2,3の径方向対向環状空間の小径端側からオイルが供給されたときに、まず、保持器5の延長部5bと内輪2の小径円筒部2cとの対向間隙間が、いわゆるラビリンスシールのような非接触密封部となっているから、ここからのオイル流入が大幅に制限されることになる。
【0049】
そのため、前記のオイルは、図5の二点鎖線矢印で示すように、保持器5の本体部分と外輪3との間の隙間から円すいころ軸受1内部へ流入するとともに、図5の破線矢印で示すように、保持器5に設けた通路6から円すいころ軸受1内部へ流入することになる。
【0050】
まず、保持器5の本体部分と外輪3との間から流入するオイルは、図5中の二点鎖線矢印で示すように、外輪3の軌道面に沿って通過することにより、主に外輪3と円すいころ4との接触部分を潤滑、冷却してから排出される他に、ポケット5a内に入り込んでポケット5aの内壁と円すいころ4との接触部分や、内輪2の大鍔部2aと円すいころ4の大端面との接触部分へ向けて流動することにより、これらの接触部分を潤滑、冷却してから排出されるようになる。
【0051】
その一方で、保持器5の通路6から流入するオイルは、図5の破線矢印で示すように、周方向に隣り合う円すいころ4の間を流通して内輪2と円すいころ4との接触部分を潤滑、冷却する他、内輪2の小鍔部2bと円すいころ4の小端面との間や、内輪2の小鍔部2bと保持器5の延長部5bの付け根部分との間に流れて、そこを潤滑、冷却するとともに、前述した内輪2の大鍔部2aと円すいころ4の大端面との接触部分へ向けて流れて、そこを潤滑、冷却してから、排出されるようになる。
【0052】
なお、内輪2の小鍔部2bに対して、円すいころ4の小端面や、保持器5の延長部5bの付け根部分は基本的に非接触に設計されるものの、回転動作中において、過剰なラジアル負荷やアキシアル負荷が作用したとき等に接触する可能性があるので、そのときの接触による発熱や摩耗を軽減するうえで有利となるのである。
【0053】
ところで、円すいころ軸受1内部に流入したオイルは、当該軸受1の回転に伴うポンプ作用によって排出側へ送り出されるので、このポンプ作用によって上述したような軸受1内部のオイル流通が滞ることがないようになっている。
【0054】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した円すいころ軸受1では、内輪2の小径円筒部2cと保持器5の延長部5bとの径方向対向間に微小隙間からなる非接触密封部を作って内輪2と保持器5との径方向対向間を塞ぐような形態にしたうえで、外輪3と保持器5の本体部分との径方向対向隙間および、保持器5の通路6からのオイル流入を許容するような形態にしている。
【0055】
このような形態を採用するにより、円すいころ軸受1内部へのトータルのオイル流入量を過不足なく適正に管理することが可能になるから、オイルの攪拌抵抗を可及的に小さくすることができて、円すいころ軸受1の低トルク化を図ることが可能になる。そのうえで、内輪2の小鍔部2bと円すいころ4の小端面との間、内輪2の小鍔部2bと保持器5の延長部5b付け根部分との間、ならびに内輪2の大鍔部2aと円すいころ4の大端面との間への必要十分な量のオイルを供給することができるから、潤滑不足となりうる箇所の潤滑性を良好に確保することが可能になる。
【0056】
特に、内輪2の小径円筒部2cと保持器5の延長部5bとの間に作る非接触密封部による密封作用については、その軸方向長さと径方向対向隙間とで総合的に管理することによって設計すればよいので、従来例のように軸方向長さが比較的短い非接触密封部でもって十分な密封作用を得るための設計に比べると、容易となる等、実現性、実用性において優れていると言える。
【0057】
ところで、上述した円すいころ軸受1の使用対象の一例を図6に示して説明する。図6には、自動車等に搭載されるデファレンシャルを示している。
【0058】
図例のデファレンシャル50は、フロントエンジン・リヤドライブ(FR)形式の自動車に搭載されるタイプを例に挙げている。
【0059】
図中、51はデファレンシャルケース(デフキャリアとも呼ばれる)、52は差動変速機構、53はドライブピニオンシャフト、54はドライブピニオンギヤである。
【0060】
デファレンシャルケース51は、例えばフロントケース51aと、リヤケース51bとを組み合わせるツーピース構造になっている。このデファレンシャルケース51の内部には、潤滑用のオイルが所定量貯溜されている。
【0061】
差動変速機構52は、ドライブピニオンシャフト53から入力される動力を、必要に応じて左右の車軸(ドライブシャフトと呼ばれる)に分配して車輪(図示省略)に駆動力を出力するもので、デファレンシャルケース51のフロントケース51a側に配設されている。
【0062】
この差動変速機構52は、一般的に公知の構成であるが、本発明の特徴に直接的に関与しない部分であるので、図6においては、リングギヤ52aのみを図示し、その他の構成要素(ピニオンギヤやサイドギヤ等)の詳細な図示や説明を割愛する。
【0063】
ドライブピニオンシャフト53は、その軸方向に離れた二箇所がそれぞれ転がり軸受55,56を介してデファレンシャルケース51のフロントケース51aの所要位置に回転自在に支持されている。
【0064】
このドライブピニオンシャフト53は、横置き姿勢とされており、その内端側には、ドライブピニオンギヤ54が一体に形成されている。このドライブピニオンギヤ54は、差動変速機構52のリングギヤ52aに噛合されている。
【0065】
また、ドライブピニオンシャフト53の外端側には、図示しない推進軸(プロペラシャフト等と呼ばれる)が連結されるフランジ継手57が取り付けられている。つまり、このドライブピニオンシャフト53が駆動力の入力軸となっている。
【0066】
前述した二つの転がり軸受55,56のうちのいずれか一方、あるいは両方が、上述したような構成の円すいころ軸受1とされる。
【0067】
その場合、この二つの円すいころ軸受とされる転がり軸受55,56は、いわゆる外向き組み合わせとされた状態で組み込まれる。両転がり軸受55,56の相対位置を規定するために、それらの内輪(符号省略)間に筒形のスペーサ58が介装されている。
【0068】
参考までに、二つの転がり軸受55,56のうち、動力伝達方向の上流側つまりフランジ継手57側に位置する方がフロント側(またはテール側)と呼ばれ、動力伝達方向の下流側つまりドライブピニオンギヤ54側に位置する方がリヤ側(またはヘッド側)と呼ばれる。一般的に、フロント側の転がり軸受55よりリヤ側の転がり軸受56の方が負荷容量の大きい大型サイズとされる。
【0069】
ところで、ドライブピニオンシャフト53の外端側の外周面と、デファレンシャルケース51のフロントケース51aにおける小端側内周面との対向間には、デファレンシャルケース51の外部へのオイル漏洩を防止するためのオイルシール59が装着されている。このオイルシール59は、図に詳細に記載していないが、例えば内径側にフランジ継手57の外周面に接触するシールリップを有するタイプとされる。
【0070】
上述したデファレンシャル50は、デファレンシャルケース51の底側に存在するオイルをリングギヤ52aで跳ね上げて一対の転がり軸受55,56間の環状空間に導くようにしたオイルはねかけ潤滑方式が採用されている。
【0071】
図示するように、デファレンシャルケース51のフロントケース51aにおける上半分の頂上部には、オイル供給路51cが設けられている。このオイル供給路51cは、リングギヤ52aで跳ね上げられたオイルを受け入れてから、このオイルを一対の転がり軸受55,56間における環状空間の上方に吐出させるものである。
【0072】
なお、図示していないが、デファレンシャルケース51のフロントケース51aにおける一側の所定位置には、フロント側の転がり軸受55より動力伝達方向上流に存在するオイルをデファレンシャルケース51のリヤケース51b側へ戻すためのオイル還流路が設けられている。
【0073】
このようなデファレンシャル50において、ドライブピニオンシャフト53を支持する一対の転がり軸受55,56の少なくともいずれか一方を、上述した実施形態の円すいころ軸受1にすれば、当該軸受によるオイルの攪拌抵抗が軽減されるので、デファレンシャル50を低トルク化するうえで有利となる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0075】
(1)本発明は、上記実施形態で説明したような単列タイプの円すいころ軸受1に限らず、複列タイプの円すいころ軸受にも適用できる。
【0076】
(2)本発明の円すいころ軸受1の適用対象としては、上記実施形態で説明したようなデファレンシャルのみに特定されるものではなく、その他の自動車用機器の回転軸支持に用いる円すいころ軸受も例に挙げることが可能であるとともに、いろいろな工作機械の回転軸支持に用いる円すいころ軸受も例に挙げることが可能である。
【0077】
(3)上記実施形態では、内輪2に小鍔部2bを設けているものを例に挙げているが、この小鍔部2bを設けていない内輪2を用いる円すいころ軸受も本発明に含まれる。
【0078】
(4)上記実施形態では、内輪2の小径円筒部2cの外周面と保持器5の延長部5bとをそれらの回転軸心Oに沿うようにした例を挙げているが、それらは前記回転軸心Oに対して適宜傾いて形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る円すいころ軸受の一実施形態を示す上半分の断面図である。
【図2】図1の円すいころ軸受を内輪の小径端側から見た図である。
【図3】図1の保持器単体を簡略的に示す斜視図である。
【図4】図1の(4)−(4)線断面の矢視図である。
【図5】図1の円すいころ軸受におけるオイルの流通経路等を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態である円すいころ軸受の使用対象の一例である自動車用のデファレンシャルで、縦方向に断面にした図である。
【符号の説明】
【0080】
1 円すいころ軸受
2 内輪
2b 内輪の小鍔部
2c 内輪の小径円筒部
3 外輪
4 円すいころ
5 保持器
5b 保持器の延長部
5c 保持器の環状壁部
6 保持器の通路
50 デファレンシャル
51 デファレンシャルケース
51a フロントケース
51b リヤケース
52 差動変速機構
52a リングギヤ
53 ドライブピニオンシャフト
54 ドライブピニオンギヤ
55 フロント側の転がり軸受
56 リヤ側の転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に、略円すい筒形状の保持器で保持される複数の円すいころが周方向に転動可能に配設される円すいころ軸受であって、
前記保持器の小径側端部に、前記内輪の小径側端部の外周面に対向されて非接触密封部となる隙間を作る延長部が設けられているとともに、この延長部の軸方向寸法が、前記保持器の肉厚より大きく設定されており、
前記保持器には、当該軸受の内外に潤滑剤を流通可能とする通路が設けられている、ことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円すいころ軸受において、
前記内輪の小径側端部には、円すいころの軸方向の移動を規制する小鍔部が設けられるとともに、この小鍔部より軸方向外側に当該小鍔部よりも小径とされる小径円筒部が設けられ、
前記保持器の延長部が、前記内輪の小径円筒部に平行に対向配置されるよう円筒形状とされる、ことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、
前記通路は、前記保持器の本体部分と前記延長部とを連接するとともに径方向外向きに沿う環状壁部に、軸方向に貫通する孔とされる、ことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の円すいころ軸受において、
前記保持器の本体部分が、前記外輪側に近接され、この保持器が前記円すいころにより案内されて前記内・外輪に対して非接触とされる案内形態とされ、
前記保持器の延長部と前記内輪の小径側端部との対向隙間をX、また、前記保持器の案内隙間をYとすると、X>Yの関係とされる、ことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項5】
デファレンシャルケース内に、ドライブピニオンシャフトが軸方向に離れた二つの転がり軸受で回転自在に支持され、かつ前記デファレンシャルケース内のオイルが前記両転がり軸受の軸方向対向間から供給されて、当該両転がり軸受内を流通して戻されるような潤滑形態とされるデファレンシャルであって、
少なくとも前記ドライブピニオンシャフトのドライブピニオンギヤ側に配置される転がり軸受が、請求項1から4のいずれか一つに記載の円すいころ軸受とされる、ことを特徴とするデファレンシャル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−168064(P2009−168064A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4285(P2008−4285)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】