説明

円錐形プーリ式巻掛け変速機、該円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法ならびにこのような円錐形プーリ式巻掛け変速機を備えた車両


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばドイツ連邦共和国特許第102004号明細書、ドイツ連邦共和国特許第015215号明細書およびその他の刊行物に基づき公知であるような円錐形プーリ式巻掛け変速機の形の自動変速機ならびに該円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法ならびにこのような円錐形プーリ式巻掛け変速機を備えた車両に関する。
【0002】
広義の意味での自動変速機とは、パラメータ変換器(Kennungswandler)である。このパラメータ変換器の目下の変速比は目下の運転状態または予想され得る運転状態、たとえば部分負荷、エンジンブレーキおよび周辺パラメータ、たとえば温度、空気圧、空気湿度に関連して自動的に段階式または無段式に変化する。このようなパラメータ変換器には、電気的、ニューマチック的、ハイドロダイナミック的、ハイドロスタティック的な原理またはこれらの原理から混合された原理に基づいたパラメータ変換器が所属している。
【0003】
自動化は、種々の機能、たとえば始動、変速比セレクト、種々の運転状況における変速比変更形式に関係する。この場合、「変速比変更形式」とは、たとえば個々の変速段の順次シフト、変速段の飛び越えシフトおよび調節の速度であると理解することができる。
【0004】
快適性、安全性および許容可能な構成手間を求める要望は自動化度、つまりどれ程多くの機能が自動的に進行するのかを決定する。
【0005】
一般に、運転者は自動的な進行にマニュアル式に干渉することができるか、または自動的な進行を個々の機能に関して制限することができる。
【0006】
現在とりわけ車両製造において使用されるような狭義の意味での自動変速機とは、一般に以下のような構造を有している:
変速機の駆動側もしくは入力側には、制御可能なクラッチ、たとえば湿式または乾式の摩擦クラッチ、ハイドロダイナミック式のクラッチまたはハイドロダイナミック式のコンバータの形の始動ユニットが設けられている。
【0007】
ハイドロダイナミック式のコンバータには、しばしばポンプ部分とタービン部分とに対して並列にロックアップクラッチが接続される。ロックアップクラッチは直接的な動力伝達により効率を向上させ、そして臨界的な回転数における規定されたスリップにより振動を減衰する。
【0008】
この始動ユニットは機械的な無段式または段階式の変速装置を駆動する。この変速装置は前進/後退走行ユニット、メイントランスミッショングループ、レンジグループ、スプリッタグループおよび/またはバリエータ(Variator)を有していてよい。歯車伝動装置グループは、エンジン回転安定性、スペース事情および伝達手段に課せられた要求に応じて、直歯列または斜歯列を備えた平行軸歯車式(カウンタシャフト式)または遊星歯車式に設計される。
【0009】
機械式の変速機の出力エレメントであるシャフトまたは歯車は直接にまたは間接的に中間シャフトもしくは中間段を介して一定の変速比を持ってディファレンシャル変速機へ駆動力を伝達する。このディファレンシャル変速機は別個の変速機として形成されていてよいか、または自動変速機に組み込まれた構成要素である。基本的に、この変速機は車両内での縦向き組込みおよび横向き組込みのために適している。
【0010】
機械式の変速機における変速比を調節するためには、ハイドロスタティック式、ニューマチック式および/または電気式のアクチュエータが設けられている。押しのけ原理に基づいて作動するハイドロリックポンプは始動ユニット、特にハイドロダイナミック式のユニット、機械式の変速機のハイドロスタティック式の作動エレメントのために、かつシステムの潤滑および冷却のために圧力オイルを供給する。必要とされる圧力および圧送容量に応じて、歯車ポンプ、スクリュポンプ、ベーンポンプおよびピストンポンプ(ただしたいていはラジアル構造)が使用される。実際の使用では、歯車ポンプおよびラジアルピストンポンプがこの目的のために普及している。この場合、歯車ポンプはその僅かな構成手間に基づき、そしてラジアルピストンポンプは、より高い圧力レベルおよび一層良好な制御可能性に基づき、それぞれ利点を提供する。
【0011】
ハイドロリックポンプは変速機の任意の個所で、駆動ユニットにより常時駆動されるメインシャフトまたはセカンダリシャフトに配置されていてよい。
【0012】
始動ユニットと、前進/後進走行ユニットである遊星式前後進切換伝動装置と、ハイドロリックポンプと、バリエータと、中間シャフトと、ディファレンシャルとから成る無段式の自動変速機が知られている。バリエータは2つの円錐形プーリペアと、1つの巻掛け機構とから成っている。各円錐形プーリペアは軸方向にスライド可能な第2の円錐形プーリを有している。これらの円錐形プーリペアの間では、巻掛け機構、たとえば推進用コマ付ベルト、引張チェーンまたはベルトが走行する。第2の円錐形プーリの調節を介して、巻掛け機構の回転半径が変化し、ひいてはこの無段式の自動変速機の変速比が変化する。
【0013】
無段式の自動変速機は、バリエータの円錐形プーリを全ての運転点において所望の速度で調節し得るようにし、さらに十分な基本押付け圧を用いて十分に摩耗なしにトルクを伝達するために高い圧力レベルを必要とする。
【0014】
自動車の場合、快適性を求める要求は一般に極めて高く、特に音響特性に関しての要求も極めて高い。車両運転手および同乗者は特に高級クラスの自動車では、自動車の補機類の運転から発生する不快な騒音を望まない。しかし、内燃機関および変速機のようなその他の補機類は、十分に不快であると感じられる騒音を発生させる。すなわち、たとえば無段調節可能な変速機においてリンクプレートチェーンが使用される場合には騒音が発生し得る。なぜならば、このようなリンクプレートチェーンはリンクプレートとピンとを備えたその構造が原因となって、変速機の運転中に変速機の円錐形プーリへのピンの衝突による繰返し打撃を発生させるからである。音響的な効果は、CVT変速機の場合、一般にこのピン走入(インパクト)に励起原因があるとされる。このような音響的な励起は次いで変速機ハウジング(FEモード)またはシャフト(ねじりモード、曲げモード)の固有周波数において共振を発生させる。
【0015】
別の音響的な効果はCVTチェーンを起点としている。CVTチェーンは張設された張り側のチェーン区分において1つの面のように振動し得る。このことはたとえばスライドレールによって阻止可能である。ねじり摩擦振動は、たとえばクラッチからの10Hzの周波数におけるグラビング(Rupfen)として知られている。摩擦係数曲線がスリップ変化を受けて摩擦係数が低下するように経過すると、グラビングが励起される。この場合、自動変速機においては第1にスチール−ペーパ摩擦係数が重要となる。
【0016】
本発明の根底を成す1つの部分課題は、このような変速機の音響特性を改善し、ひいてはこのような変速機を装備した車両の快適性、特に騒音に関する快適性を改善することにある。本発明の根底を成す別の部分課題は、高周波数の強力なCVT振動の分析により、ひいてはこれに関連した、相応する作用メカニズムの解明により、主として400〜600Hzのオーダの音響範囲にあるこのような振動を最小限に抑えるか、またはできるだけ阻止するために適した対応手段を提供することにある。本発明のさらに別の部分課題は、各構成部分の運転強度を高め、ひいてはこのような自動変速機の寿命を延ばすことにある。本発明のさらに別の部分課題は、このような自動変速機のトルク伝達能力を高めるか、もしくは自動変速機の構成部分により、より大きな力を伝達し得るようにすることにある。さらに別の部分課題としては、このような自動変速機を経済的に製作することができるようにすることが挙げられる。
【0017】
これらの課題部分は、特許請求の範囲に記載されかつ明細書中で図面に関連しても説明された本発明の構成ならびにその改良形により解決される。
【0018】
分析により、各可動プーリの傾倒および/または曲げと連動した巻掛け状態におけるチェーンの運動である振動形態の種類の、シミュレーションによる解明が得られた。振動の周波数を決定する要因はまずチェーン質量および可動プーリの全傾倒・曲げ剛性である。この剛性はプーリ自体の、皿ばね状の不可逆的な変形(Tellerung)、プーリの傾倒、シャフトの弾性に基づいたシャフトの撓みおよび軸受け剛性差に基づいたシャフトの傾斜を含めるものと解される。さらに、摩擦係数レベルおよび摩擦係数経過ならびに回転数および変速比が周波数を決定する要因となる。
【0019】
これらの認識はこの限りでは意想外である。なぜならば、巻掛け円弧の形のチェーンの振動、つまりプーリセットにおけるチェーンの緊締時における振動は、これまで解明されておらず、また、円弧において円錐形プーリに対する摩擦接触がこのような振動を抑止するという、これまで支配的であった考えに矛盾するからである。
【0020】
このような摩擦振動に及ぼすCVTオイルの影響も、これまで解明されていなかった。したがって、CVTオイルはこれまで、時間的に安定的な高い摩擦係数ならびに小さな摩耗を目的にしてのみ開発されてきた。
【0021】
スライド可能なCVT円錐形プーリ(可動プーリ)においてシャフトと可動プーリとの間の傾倒遊びが効率に影響を及ぼすことはたしかに知られているが、しかしこれまで可動プーリの振動性の曲げ運動、傾倒運動またはよろめき運動については解明されていなかった。
【0022】
それゆえに、前記問題を解決するためには、影響因子になり得る1つよりも多いパラメータを考慮し、こうしてたとえばオイルの特定の特性を特定の機械的な構成と組み合わせることが必要となり得る。
【0023】
本発明によれば、前記課題は、入力側の円錐形プーリペアと出力側の円錐形プーリペアとが設けられており、両円錐形プーリペアが、それぞれ1つの固定プーリと1つの可動プーリとを有しており、該固定プーリと該可動プーリとが、それぞれ入力側および出力側のシャフトに配置されていて、トルク伝達のための巻掛け手段を介して結合可能である形式の円錐形プーリ式巻掛け変速機において、挙げられたファクタのうちの少なくとも1つのファクタが、当該変速機の音響特性に関して最適化される:
−オイルの形の粘性媒体もしくはハイドロリック媒体、
−円錐形プーリと巻掛け手段との間の接触範囲の表面性質、
−少なくとも1つの円錐形プーリのジオメトリ(幾何学的形状)、
−少なくとも1つの円錐形プーリの減衰、
−少なくとも1つの円錐形プーリの案内、
ことを特徴とする円錐形プーリ式巻掛け変速機により解決される。
【0024】
この場合、摩擦速度に鈍感な摩擦係数を有するオイルが使用されると有利になり得る。さらに、円錐形プーリと巻掛け手段との間の接触面を、たとえばそのトポグラフィ(Toporgaphie)に関して最適化することが有利になり得る。
【0025】
さらに、剛性最適化された少なくとも1つの円錐形プーリおよび/または減衰された少なくとも1つの円錐形プーリを設けることが有利になり得る。また、半径方向外側に案内された少なくとも1つの円錐形プーリを変速機に組み込むことも、有利であることが判った。
【0026】
さらに本発明は、本発明による変速機を備えた車両に関する。
【0027】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0028】
図1は、円錐形プーリ式巻掛け変速機の一部を示す断面図であり、
図2は、円錐形プーリ式巻掛け変速機の別の実施例を示す、図1にほぼ相当する図面であり、
図3および図4は、摩擦係数の関係を示す線図であり、
図5および図6は、可動プーリの種々の実施例aを示す概略図である。
【0029】
図1には、円錐形プーリ式巻掛け変速機の一部、つまり円錐形プーリ式巻掛け変速機1の、原動機、たとえば内燃機関により駆動される駆動側または入力側の部分しか図示されていない。完全に構成された円錐形プーリ式巻掛け変速機においては、この入力側の部分に、無段調節可能な円錐形プーリ式巻掛け変速機の、相補的に形成された対応する出力側の部分が対応しており、この場合、両部分は、トルク伝達のための、たとえばリンクプレートチェーン2の形の巻掛け手段を介して互いに結合されている。円錐形プーリ式巻掛け変速機1は入力側にシャフト3を有しており、このシャフト3は図示の実施例では、定位置の円錐形プーリまたは固定プーリ4とワンピースに、つまり一体に形成されている。この軸方向位置固定の円錐形プーリ4はシャフト3の軸方向長手方向で、軸方向スライド可能な円錐形プーリまたは可動プーリ5に隣接して向かい合って位置している。
【0030】
図1には、リンクプレートチェーン2が入力側の円錐形プーリペア4,5において半径方向外側の位置で図示されている。この半径方向外側の位置は、軸方向移動可能な円錐形プーリ5が図面で見て右側へ向かって移動させられて、軸方向移動可能な円錐形プーリ5のこの移動運動が、半径方向外側へ向かうリンクプレートチェーン2の運動を生ぜしめることにより得られる。これにより、増速方向への変速機の変速比変更が生ぜしめられる。
【0031】
軸方向移動可能な円錐形プーリ5は自体公知の形式で図平面で見て左側へ向かっても移動され得る。この場合、この位置ではリンクプレートチェーン2が半径方向内側の位置に位置する(符号2aで示す)。この半径方向内側の位置では、減速方向への円錐形プーリ式巻掛け変速機1の変速が生ぜしめられる。
【0032】
原動機(図示しない)により提供されたトルクは、円錐形プーリ式巻掛け変速機1の図1に示した入力側の部分において、シャフト3に支承された歯車6を介して導入される。この歯車6はシャフト3に、軸方向の力と半径方向の力とを受け止める玉軸受け7の形の転がり軸受けを介して支承されている。この玉軸受け7はシャフト3に、ディスク8とシャフトナット9とを介して位置固定される。歯車6と、軸方向移動可能な円錐形プーリ5との間には、トルクセンサ10が配置されている。このトルクセンサ10には、軸方向で定位置の拡開ディスク11と、軸方向移動可能な拡開ディスク12とを備えた拡開ディスク機構13が対応している。両拡開ディスク11,12の間には、転動体が、たとえば図示のボール14の形で配置されている。
【0033】
歯車6を介して導入されたトルクは、軸方向で定位置の拡開ディスク11と、軸方向移動可能な拡開ディスク12との間の回転角度の形成をもたらす。このことは、拡開ディスク12に配置された転動斜面に基づいて拡開ディスク12の軸方向移動を生ぜしめる。この場合、転動斜面に沿ってボール14が転動し、こうして両拡開ディスク11,12の互いに相対的な軸方向のずれを生ぜしめる。
【0034】
トルクセンサ10は2つの圧力室15,16を有している。両圧力室15,16のうち第1の圧力室15は導入されたトルクに関連した圧力媒体による負荷のために設けられており、第2の圧力室16には、変速機の変速比に関連して圧力媒体が供給される。
【0035】
軸方向で定位置の円錐形プーリ4と、軸方向移動可能な円錐形プーリ5との間でリンクプレートチェーン2を法線力(Normalkraft)によって負荷するために用いられる押圧力を形成するためには、ピストンシリンダユニット17が設けられている。このピストンシリンダユニット17は2つの圧力室18,19を有している。第1の圧力室18はリンクプレートチェーン2の負荷を変速比に関連して変えるために働き、第2の圧力室19はトルクセンサ10の、トルクに関連して制御される圧力室15と相まって、両円錐形プーリ4,5の間でリンクプレートチェーン2を負荷するために用いられる押圧力を増大させるか、または減少させるために働く。
【0036】
シャフト3は前記圧力室への圧力媒体供給のために3つの通路20を有している。これらの通路20を介して、ポンプ(図示しない)によって前記圧力室内に圧力媒体が供給される。流出側の通路21を介して圧力媒体はシャフト3から流出して、循環路に再び供給され得る。
【0037】
圧力室15,16,18,19を負荷することにより、軸方向移動可能な円錐形プーリ5はシャフト3に沿ってトルクおよび変速比に関連してスライドさせられる。シャフト3は軸方向移動可能な円錐形プーリ5を装着するためにセンタリング面22を有している。これらのセンタリング面22は軸方向移動可能な円錐形プーリ5のためのスライドシート(滑り嵌め)として働く。
【0038】
図1から容易に判るように、円錐形プーリ式巻掛け変速機1はシャフト3における円錐形プーリ5の支承個所の範囲にそれぞれ1つの騒音減衰装置23を有している。このためには、騒音減衰装置23が環状体と、減衰性の封入物とを有しているか、または減衰性の封入物からのみ成っていてよい。
【0039】
図1で使用された符号は、別の図面の比較可能な特徴にも適用される。すなわち、図面はこの点では単一体であるとみなされ得る。図面を見易くするために、別の図面では、図1における符号を越える符号しか使用されていない。
【0040】
図2に示した実施例では、3つの通路20のうちの真ん中の通路が、図1に示した実施例に対して変えられた形で形成されている。図面から判るように、図1および図2で見て右側から盲孔として製作される、真ん中の通路20を形成する孔24は、図1の実施例におけるよりも著しく短く形成されている。このような盲孔は製造に手間がかかり、しかも製作において極めて高い精度を要求する。この場合、製造手間ならびにプロセス確実性に関する要求は長さと共に過比例的に増大する。すなわち、このような孔を短くすることは、たとえば製造コストに好都合に作用する。
【0041】
この孔24の底部の範囲では、横方向孔25が分岐している。複数の横方向孔25が全周にわたり分配されて配置されていてよい。図示の事例では、この横方向孔25が半径方向の孔として図示されているが、しかし別の角度で斜孔としても製作され得る。横方向孔25はシャフト3の外周面を、運転状態とは無関係に、つまりたとえば調節された変速比とは無関係に、可動プーリ5によって常時カバーリングされる範囲に位置している個所において貫通している。
【0042】
横方向孔25を可動プーリ5のカバーリング範囲へ移すことにより、シャフト3を軸方向で一層短く形成することができる。これにより構成スペースを節約することができる。さらに、シャフト3の短縮によって負荷低減を得ることもできる。
【0043】
通路もしくは横方向孔25の開口部は、たとえば旋削加工部26の、シャフトに設けられたセンタリング面22に隣接した範囲に配置され得る。このことは、可動プーリ5を軸方向移動可能に、ただし相対回動不能にシャフト3に結合している歯列27が、たとえばトルク伝達によって高度に負荷されている場合に特に有利になり得る。
【0044】
しかし多くの場合には、歯列27の負荷は臨界的な設計基準にはならないので、図2に図示されているように横方向孔25の開口部をこの歯列27の範囲に設置することができる。横方向孔25を旋削加工部26ではなく歯列27に配置することにより、より大きな抵抗モーメントが提供されるという利点が得られる。これにより、縁面(Randfaser)、つまり断面の最上層もしくは最下層における曲げ応力が減じられる。さらに、この個所における断面二次モーメントは一層大きくなり、それに対して、横方向孔25により妨げられている臨界的な面はほぼ不変の半径に留まっている。これにより、歯列27の各歯の間での横方向孔25の開口部周辺の臨界的な範囲における応力の著しい低減が得られる。ハイドロリック流体の供給は図1の実施例の場合と図2の実施例の場合とでは同一である。なぜならば、圧力室15,19が互いに接続されていて、可動プーリ5が、歯列27の範囲と圧力室19とを接続する接続孔28を有しているからである。図面では、可動プーリ5が、始動変速比もしくはアンダドライブに相当する最も左側の位置で図示されている。可動プーリ5が図面で見て右側へ向かって固定プーリ4の方向に移動させられても、中空室の一部もしくはチャンバ29の一部は常に横方向孔25もしくは通路の開口部に被さって位置するので、図1に示した実施例の場合と同様に所要の流体供給が常に保証されている。図1に示した実施例の場合と同様に、圧力室16のためには、可動プーリ5の軸方向位置に関連した2つの切換状態が存在する。図示の位置では、制御孔30が露出されているので、この制御孔30に接続された、栓体31によって軸方向で閉鎖された通路20と、この通路20に、図示されていない別の通路を介して接続された圧力室16とは無圧状態であるか、もしくは周辺圧しか有していない。次いで可動プーリ5が固定プーリ4に接近する方向に運動させられると、可動プーリ5は制御孔30に乗り上げ、この場合、規定のストロークを越えるとチャンバ29が制御孔30の開口部に重なる。しかし、チャンバ29内には、トルクに関連した高い圧力が形成されており、この圧力は次いで制御孔30と通路20とを介して圧力室16内へももたらされるので、圧力室16内にも高い圧力が加えられる。こうして、変速比に関連して押圧力を制御する2つの切換状態が実現される。
【0045】
さらに図2に示した実施例では、皿ばね32が設けられている。この皿ばね32は円錐形プーリ式巻掛け変速機1の無圧状態において可動プーリ5を、予め規定された軸方向位置へもたらす。これにより、たとえば車両のレッカ移動等の牽引時における過剰負荷を阻止する円錐形プーリ式巻掛け変速機1の変速比を調節することができる。
【0046】
図3には、摩擦係数の経過を、接触圧(Kontaktpressung)に関連した滑り速度との関係で示す2つの線図が図示されている。この場合、それぞれ横軸には滑り速度が、縦軸には摩擦係数がとられている。鎖線は基準値とみなすことができ、この場合、たとえばμ=0.12であってよい摩擦係数を表している。両線図から判るように、摩擦係数は滑り速度の関数であり、この場合、摩擦係数は滑り速度が増大するにつれて減少傾向を示す。
【0047】
上で既に述べたように、たとえばクラッチにおいては、滑り速度増大と共に低下する摩擦係数はグラビングを生ぜしめ、ひいては快適性の低下を招いてしまう。したがって、滑り速度に関連したこの摩擦係数低下をできるだけ少なく保持することが目標とされなければならない。
【0048】
図3に示した経過は、チェーンのロッカピンと、これらのロッカピンと協働する、円錐形プーリの接触面との間の接触個所において生じる。チェーンもしくは巻掛け手段はこの場合、走行方向において、伝達されるべきトルクにより負荷されていると共に、走行方向に対して直交する方向においても主として圧着力もしくは押圧力により負荷されている。この押圧力はこの場合、伝達されるべきトルクが、滑り抜けを十分に防止されて別のプーリセットへもたらされ得るように設定されなければならない。
【0049】
縦軸方向における曲線の各間隔は、圧着もしくは接触圧に関連した摩擦係数のばらつき幅を表している。この場合、下側の線は低い接触圧を表し、それぞれ上側の線は高い接触圧を表す。
【0050】
上側の線図に示した従来の構成と、下側の線図に示した本発明の構成とを比較した場合、まずそれぞれ2つの曲線により仕切られたばらつき範囲が本発明の構成における方が小さいことが判る。このことから、摩擦係数と、目下加えられている接触圧もしくは圧着力との関連性が小さくなっていることが判る。言い換えれば、本発明の構成(下側の線図)は接触圧変化に対して敏感ではないと云える。
【0051】
さらに図3から判るように、下側の線図における曲線の方がフラットに延びており、このことから、摩擦係数と滑り速度との関連性が小さくなっていることが判る。滑り速度との関係における摩擦係数のこのような一層フラットな負の勾配に基づき、摩擦係数の一層安定した特性が達成される。この場合、曲線が準平行に上方から下方へまたは下方から上方へ移動することは、曲線の傾き自体が変化してしまう場合に比べればあまり問題にならない。なぜならば、いかなる傾き変化も摩擦係数と滑り速度との、より大きな関連性を表すからである。
【0052】
図3の下側の線図に示されているような、滑り速度および接触圧との関係における、このように明確に規定された摩擦係数経過は、ベルトもしくはチェーンと円錐形プーリとの間のスチール−スチール接触の摩擦係数経過により励起される振動の抑制をもたらす。このような摩擦係数経過を有する相応するオイルの使用により、振動を直接にその発生個所で抑制することができる。
【0053】
図4に示した線図は、ほぼ図3に示した線図と同様に形成されているが、ただし図4の線図は使用されたオイルとの関係ではなく、表面特性値との関係を示している。図3につき解釈および改善に関して述べたことは図4にも云える。すなわち、下側の線図は特性の著しい改善を示している。
【0054】
図4の上側の線図は、研磨された表面における特性を示しており、図4の下側の線図は本発明による表面特性値における摩擦係数と滑り速度および接触圧との関係を示している。これらの表面特性値は、たとえば仕上げプロセスにより形成可能であり、この場合、摩擦パラメータは適正な経過を有していて、しかもより長い走行時間にわたってこの経過を維持する。すなわち、たとえば騒音現象は平滑な表面においてすぐに発生するのに対して、粗い表面においてはあとで発生するか、最も好都合な場合には全く発生しない。騒音特性に関するこのような改善は、圧着力もしくは接触圧の低減によっても得られる。
【0055】
シミュレーションおよび測定を伴う実験により、軸方向可動のプーリまたは可動プーリの高められた傾倒剛性によって振動特性に、ひいては騒音特性に、有利な影響が与えられることが判った。このことは、特に、ただし限定的ではないが、被駆動側もしくは出力側の可動プーリに関して云える。一般に、特に出力側の円錐形プーリセットの円錐形プーリの口開け(Aufklaffen)を減少させる、高められた曲げ剛性が、騒音に関して重要となる振動振幅を減少させることが判った。この個所における高められた減衰によっても、比較可能な効果を達成することができる。
【0056】
図5および図6には、各1つの可動プーリの概略的なプロファイル(横断面輪郭)しか図示されていない。この場合、それぞれ回転対称的なプロファイルの上側の半部しか図示されていない。
【0057】
図5には、概略的な実施例a)、b)、c)、d)およびe)においてそれぞれプーリ自体の補剛が示されている。この場合、図5および図6には、それぞれ被駆動側もしくは出力側の軸方向可動のプーリもしくは可動プーリ33の一部が概略的に図示されている。この場合、駆動側もしくは入力側の可動プーリ5にも比較可能な構成を転用することができる。
【0058】
図5のa)に示した可動プーリ33は、その巻掛け手段2とは反対の側の範囲に、全周にわたって分配されて配置された複数の補剛リブ34を有している。これらの補剛リブ34は軸方向荷重を受けた可動プーリ33の、半径方向外側へ向かって突出した部分の押しずらしを減少させるか、または最も好都合な場合には阻止する。これにより、プーリセットの口開きが阻止される。
【0059】
図5のb)に示した可動プーリ33の構成では、可動プーリ33の半径方向外側へ突出した範囲が厚肉化されており、この場合、この範囲の肉厚さは半径方向外側へ向かって増大している。このことは、可動プーリ33の、巻掛け手段2とは反対の側の輪郭の相応する形成により達成される。この輪郭は図5のb)にはなだらかに描かれているが、しかし肉厚さが複数の段階で増大するように変えることもできる。
【0060】
軸方向において可動プーリ33を補剛するためには、図5のc)に示したように半径方向外側にも補剛つば35が設けられていてよい。図5のd)には、半径方向外側に配置された補剛つば35に対して付加的に別の補剛つば36が示されている。この補剛つば36は半径方向でさらに内側に配置されており、したがって場合によっては2つの圧力室の間の隔壁としても働くことができる。
【0061】
図5のc)および図5のd)には、補剛つば35,36が、可動プーリ33に結合され得る別個の部分もしくは別個の円環体として図示されている。図5のe)には、補剛つば35および/または補剛つば36を可動プーリ33とワンピースに、つまり一体に形成する実施例が図示されている。この場合、製作に適した設計を考慮することができるので有利である。
【0062】
図5のf)および図5のg)には、シャフトにおけるプーリの結合部の補剛が図示されている。この場合、まず最初に可動プーリ33のハブ37が、可動プーリ33の半径方向外側へ突出した部分に補剛リング38を介して結合されているので、この範囲の変形が少なくとも減じられる。さらに、複数の補剛リブ34が設けられており、これらの補剛リブ34は一方では補剛リング38に、他方では可動プーリ33のハブ37にそれぞれ結合されている。
【0063】
図6のa)、b)、c)、d)およびe)には、出力側の軸方向可動のプーリまたは可動プーリ33のための原理的な減衰手段が図示されている。しかし、これらの減衰手段は入力側の軸方向可動のプーリまたは可動プーリ5に対しても適用可能である。
【0064】
図6のa)には、まずハブ37が個々の摩擦板に分割されている実施例が示されている。この場合、この摩擦板ユニットは、ハイドロリック媒体を介して加えられる圧着圧により押し合わされ、ひいては減衰を生ぜしめる。
【0065】
図6のb)に示した実施例では、付加的に補剛つば35が摩擦板ユニットとして形成されている。この摩擦板ユニットはやはり圧着圧により押し合わされる。図6のc)に示した実施例では、半径方向でさらに内側に位置する補剛つば36も摩擦板ユニットとして形成されていてよい。この場合、この補剛つば36はやはり互いに異なる圧力室の間の分離部もしくは隔壁として利用され得る。図6のc)の実施例においては、択一的にハブ37も再び個々の摩擦板に分割されていてよい。
【0066】
図6のd)および図6のe)には、それぞればね39が示されている。これらのばね39は付加的な半径方向の押圧によって個々の摩擦板円筒体の間の摩擦を高める。これにより、同時に減衰作用も増大される。図6のe)に示した実施例においても、ハブ37を摩擦板ユニットとして形成することが可能となる。
【0067】
図6のf)および図6のg)には、別の解決手段が示されている。この解決手段は、可動プーリの傾倒方向を変えることにある。可動プーリの半径方向内側の範囲もしくはそのハブ37を介して行われる可動プーリの汎用の案内形式の場合、この可動プーリの半径方向外側の範囲が傾倒方向における最大変位量を示す。このことを阻止するために原理的には可動プーリを外側で案内することが可能である。これにより、可動プーリは半径方向外側の範囲で外側案内部40に接触し、ひいてはこの半径方向外側の範囲では変位し得なくなる。傾倒はその場合、可動プーリ33の半径方向内側の範囲に生じる恐れがあるが、このことを防止するためには再び上で説明したような手段を講じることができる。ただしこの場合、両案内部の間での可動プーリ33のひっかかりもしくは歪みが回避されるように配慮しなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】円錐形プーリ式巻掛け変速機の一部を示す断面図である。
【図2】円錐形プーリ式巻掛け変速機の別の実施例を示す、図1にほぼ相当する図面である。
【図3】摩擦係数と滑り速度との関係を、それぞれ従来の構成(上側の線図)と本発明の構成(下側の線図)とにつき示した示す線図である。
【図4】表面特性値における摩擦係数と滑り速度との関係を、それぞれ従来の構成(上側の線図)と本発明の構成(下側の線図)とにつき示した示す線図である。
【図5】可動プーリの種々の実施例a)〜g)を示す概略図である。
【図6】可動プーリのさらに別の種々の実施例a)〜g)を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1 円錐形プーリ式巻掛け変速機
2 リンクプレートチェーン
2a リンクプレートチェーンの半径方向内側の位置
3 シャフト
4 固定プーリ
5 可動プーリ
6 歯車
7 玉軸受け
8 ディスク
9 シャフトナット
10 トルクセンサ
11 軸方向で定位置の拡開ディスク
12 軸方向で移動可能な拡開ディスク
13 拡開ディスク機構
14 ボール
15 第1の圧力室
16 第2の圧力室
17 ピストンシリンダユニット
18 第1の圧力室
19 第2の圧力室
20(3つの)通路(供給部)
21 通路(流出側)
22 センタリング面
23 騒音減衰装置
24 (真ん中の)孔
25 横方向孔
26 旋削加工部
27 歯列
28 接続孔
29 中空室/チャンバ
30 制御孔
31 栓体
32 皿ばね
33 可動プーリ(出力側)
34 補剛リブ
35 補剛つば(外側)
36 補剛つば(内側)
37 ハブ
38 補剛リング
39 ばね
40 外側案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐形プーリ式巻掛け変速機(1)であって、入力側の円錐形プーリペアと出力側の円錐形プーリペアとが設けられており、両円錐形プーリペアが、それぞれ1つの固定プーリ(4)と1つの可動プーリ(5,33)とを有しており、該固定プーリ(4)と該可動プーリ(5,33)とが、それぞれ入力側および出力側のシャフト(3)に配置されていて、トルク伝達のための巻掛け手段(2)を介して結合可能である形式のものにおいて、以下に挙げられたファクタのうちの少なくとも1つのファクタが、当該変速機の音響特性に関して最適化される:
−オイルの形の粘性媒体もしくはハイドロリック媒体、
−円錐形プーリと巻掛け手段との間の接触範囲の表面性質、
−少なくとも1つの円錐形プーリのジオメトリ(幾何学的形状)、
−少なくとも1つの円錐形プーリの減衰、
−少なくとも1つの円錐形プーリの案内、
ことを特徴とする円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項2】
摩擦速度に鈍感な摩擦係数を有するオイルが使用される、請求項1記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項3】
円錐形プーリと巻掛け手段との間の最適化された接触面が設けられている、請求項1または2記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項4】
剛性最適化された少なくとも1つの円錐形プーリが設けられている、請求項1から3までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項5】
減衰された少なくとも1つの円錐形プーリが設けられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項6】
半径方向外側に案内された少なくとも1つの円錐形プーリが設けられている、請求項1から5までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機が設けられていることを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−510938(P2008−510938A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528577(P2007−528577)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001414
【国際公開番号】WO2006/021183
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(390009070)ルーク ラメレン ウント クツプルングスバウ ベタイリグングス コマンディートゲゼルシャフト (236)
【氏名又は名称原語表記】LuK Lamellen und Kupplungsbau  Beteiligungs KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−77815 Buehl, Baden, Germany
【Fターム(参考)】