説明

再生金型の製造方法および再生金型

【課題】再生金型の型寿命が比較的長く、また、繰り返し再生を行いやすい再生金型を提供する。
【解決手段】使用済みとなった金型Pを準備する準備工程と、金型Pの型面Fに存在する劣化部Dを除去し、元の型面形状となるように型面Fの面下げを行う面下げ工程と、金型Pの後端部に金型材Hを接合する接合工程と、金型材Hの余剰部分を除去し、元の金型形状に整形する整形工程とを有する再生金型の製造方法とする。上記製造方法では、準備工程の後に、面下げ工程、接合工程を行っても良いし、上記準備工程の後に、接合工程、面下げ工程を行っても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生金型の製造方法および再生金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、鍛造、押出し、プレス等により各種の成形品を成形するために、成形品形状に応じた型面を有する金型が使用されている。
【0003】
一般に、金型は、成形品との間で摩擦を生じたり、成形時に機械的応力を受けたりする。そのため、繰り返し使用しているうちに、型面が劣化し、品質要求を満足する成形品を成形することができなくなる。この時が通常、型寿命とされている。
【0004】
型面の劣化には、多くの種類がある。具体的には、例えば、熱間鍛造やダイカストでは、軟化摩耗、ヒートチェック、溶損等、冷間鍛造では、焼付き、土砂摩耗等、プラスチック成形では、腐食摩耗等の劣化が知られている。
【0005】
多くの金型において、型寿命は、成形面である型面の表層付近に生じた劣化が原因である。そのため、従来より、使用済みとなった金型の型面を補修することにより金型を再生し、この再生金型を再利用することが行われている。このような金型の再生は、比較的高価な金型素材を用いた金型の場合に特に有効である。
【0006】
金型の再生方法としては、一般に、型面の劣化部をグラインダーにて切削し、その部分に金型に適した溶接材を肉盛溶接した後、型面を元の形状に整形する方法が知られている。
【0007】
他にも、特許文献1には、表面硬化処理層を除去した金型表面をリシンク(型面の切削)し、このリシンクした面に対して型彫放電加工し、必要に応じて金型の底部にリシンクプレートを固着する金型の再生方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−210133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来知られる技術は、以下の点で問題があった。
【0010】
すなわち、肉盛溶接により型面を再生した再生金型は、型面が鋳造状態になっている。鋳造部分は、結晶粒が粗く、成分濃度も不均質となりやすい。そのため、再生金型にて生産できる生産量が、新規の金型のそれと比較して、約1/3〜1/2程度に留まるのが通常であり、再生金型の型寿命が比較的短いといった問題があった。このため、金型の再生による製造コストの低減にも自ずと限界があった。
【0011】
一方、特許文献1による再生手法では、繰り返しの再生により金型が薄肉化される。そのため、リシンクの回数に限度がある。また、金型の薄肉化により、成形時に金型が大割れすることが懸念される。とりわけ、金型とリシンクプレートとの固定状態が密接でない場合や、設置時に傾きがある場合等では、上記大割れが生じやすくなるものと考えられる。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、型寿命が比較的長く、また、繰り返し再生を行いやすい再生金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る再生金型の製造方法は、使用済みとなった金型を準備する準備工程と、金型の型面に存在する劣化部を除去し、元の型面形状となるように型面の面下げを行う面下げ工程と、金型の後端部に金型材を接合する接合工程と、上記金型材の余剰部分を除去し、元の金型形状に整形する整形工程とを有し、上記準備工程の後に、上記面下げ工程、上記接合工程を行う、または、上記準備工程の後に、上記接合工程、上記面下げ工程を行うことを要旨とする。
【0014】
ここで、上記金型は鍛造用金型であることが好ましい。
【0015】
また、上記製造方法は、上記後端部に接合された金型材を熱処理することが好ましい。
【0016】
また、上記金型材は、共材であることが好ましい。
【0017】
また、上記金型は、Ni基合金またはCo基合金より構成されていることが好ましい。
【0018】
この際、上記Ni基合金は、質量%で、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:35〜40%、および、Al:3.0〜4.5%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物より構成されるとともに、下記式(1)で示される溶体化温度T±20℃が1000〜1250℃の範囲内で溶体化処理が施された後、700〜820℃の範囲内で時効処理が施されており、45〜55HRCの硬さを有していることが好ましい。
式(1):T=−348.06+32.04×[Cr]+71.53×[Al]
(但し、T:溶体化温度(℃)、[Cr]:Cr含有率(質量%)、[Al]Al含有率(質量%))
【0019】
本発明に係る再生金型は、面下げにより露出された新たな型面と、金型の後端部に接合された金型材層とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る再生金型の製造方法では、面下げ工程を経ることにより、劣化部のない新たな型面が生成する。また、接合工程を経ることにより、金型の後端部に金型材が接合される。面下げ工程と接合工程は、使用済みの金型を準備する準備工程の後、何れの工程を先に行っても良い。そして、金型材の余剰部分を除去し、元の金型形状に整形することで、新規の金型とほぼ同形状の再生金型を得ることができる。
【0021】
上記製造方法によれば、得られた再生金型は、新規の金型とほぼ同等の型面が新たに露出されている。そのため、再生金型の型寿命を比較的長くすることが可能になる。
【0022】
また、型の後端部に金型材が接合されるので、金型が薄肉化することなく、大割れ等の心配がほとんどない。また、金型材が後ろから継ぎ足されるので、金型の再生を繰り返し行いやすい。
【0023】
したがって、これらのことから型費用を低減しやすくなり、成形品の製造コスト削減に寄与できる。また、廃棄金型の量を極めて少なくすることが可能になることから、地球環境にも優しい。
【0024】
ここで、特に自動車部品等の成型では、成形荷重が非常に高い上、成形時における加熱−冷却の温度差が激しい。そのため、上記金型が、自動車部品等の成型時に使用される温熱間鍛造用金型等の鍛造用金型である場合には、型寿命を大きく向上させることができる。
【0025】
また、後端部に接合された金型材を熱処理する場合には、接合部の調質等を行うことができ、接合部の特性を金型母材の特性に近づけることができる。
【0026】
また、上記金型材が共材である場合には、金型の強度を均一にしやすいなどの利点がある。
【0027】
また、前記金型がNi基合金またはCo基合金より構成されている場合には、比較的高価なNi基合金やCo基合金を多く必要とする新規の金型の生産を抑制することができる。そのため、比較的高価なNi基合金やCo基合金の使用量を削減することができ、型費用の低減による成形品の製造コスト削減に寄与できる。
【0028】
この際、上記Ni基合金が、上述の特定成分割合を有し、特定の溶体化処理および時効処理が施されており、特定の硬さを有している場合には、特に、温熱間鍛造用金型として使用したときに、高い軟化抵抗、耐摩耗性、強度を兼ね備えた金型とすることができる。
【0029】
本発明に係る再生金型は、面下げにより露出された新たな型面と、金型の後端部に接合された金型材層とを有している。そのため、比較的型寿命が長く、新規の金型とほぼ同等の性能を発揮することができる。また、型費用を低減しやすく、成形品の製造コスト削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】準備工程→面下げ工程→接合工程→整形工程の順で使用済みとなった金型の再生を行う手順を示した図である。
【図2】準備工程→接合工程→面下げ工程→整形工程の順で使用済みとなった金型の再生を行う手順を示した図である。
【図3】図1の準備工程において、使用済みの再生金型を準備した場合の金型の再生手順を示した図である。
【図4】図2の準備工程において、使用済みの再生金型を準備した場合の金型の再生手順を示した図である。
【図5】実施例で準備したパンチ形状の金型の外形を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係る再生金型の製造方法(「本製造方法」ということがある。)、および、本発明の一実施形態に係る再生金型(「本金型」ということがある。)について詳細に説明する。
【0032】
本製造方法は、準備工程と、面下げ工程と、接合工程と、整形工程とを有している。図1は、準備工程→面下げ工程→接合工程→整形工程の順で使用済みとなった金型の再生を行う手順を示したものである。先ず、この図1に記載の手順について説明する。
【0033】
本製造方法において、上記準備工程は、使用済みとなった金型を準備する工程である。ここで、図1(a)に示すように、使用済みとなった金型Pは、成形品の成形に使用された金型であり、成形面である型面Fには、劣化部Dが生じている。つまり、この金型Pは、これを用いてさらなる生産を行えば、要求品質を満たす成形品を得ることができないとして、いわゆる型寿命と判断されたものである。
【0034】
劣化部Dの典型的な例としては、摩耗や割れ等である。具体的には、熱間鍛造やダイカストでは、軟化摩耗、ヒートチェック、溶損等、冷間鍛造では、焼付き、土砂摩耗等、プラスチック成形では、腐食摩耗等を挙げることができる。
【0035】
準備する金型の形状は、特に限定されるものではなく、成形品形状等に応じて選択されるものである。準備する金型の形状としては、例えば、パンチ、ピン、ダイなどの各種の形状を例示することができる。なお、図1では、パンチ形状の金型を用いた例を示している。
【0036】
また、準備する金型の材質も、特に限定されるものではない。準備する金型の材質としては、例えば、各種の熱間工具鋼、冷間工具鋼、高速度工具鋼、プラスチック金型用鋼、マルエージング鋼、ステンレス鋼、Ni基超合金等のNi基合金、Co基超合金等のCo基合金などを例示することができる。
【0037】
これら材質のうち、好ましくは、Ni基超合金等のNi基合金、Co基超合金等のCo基合金などである。金型がNi基合金またはCo基合金より構成されている場合には、比較的高価なNi基合金やCo基合金を多く必要とする新規の金型の生産を抑制することができる。そのため、比較的高価なNi基合金やCo基合金の使用量を削減することができ、型費用の低減による成形品の製造コスト削減に寄与することができる。
【0038】
また、Ni基合金またはCo基合金は、各種工具鋼に比べ、被削性が低く、加工費が高くつきやすい。本製造方法では、新規の金型製造に比べ、加工する部分が少なくて済む。そのため、この観点からも、型費用の低減による成形品の製造コスト削減に寄与することができる。
【0039】
次に、本製造方法において、面下げ工程は、金型の型面に存在する劣化部を除去し、元の型面形状となるように型面の面下げを行う工程である。
【0040】
図1に示す手順では、図1(b)に示すように、準備した使用済み金型Pの劣化部Dを除去し、元の型面形状となるように型面Fの面下げを行うことになる。この面下げにより、新たな型面Fが露出される。
【0041】
図1に示す手順によれば、準備した金型Pの元の長さをLとすると、面下げ工程を経た後の金型Pの長さL1は、面下げした分だけ短くなる(L1<L)。そのため、元の体積に比較して、面下げした分だけ、体積の不足が生じていることになる。
【0042】
上記面下げ方法としては、例えば、放電加工、切削加工、研磨加工などを例示することができる。これらは1または2以上組み合わせても良い。面下げ方法は、利便性や仕上がり面の寸法、粗さの精度などの観点から、使い分けることがことが好ましい。
【0043】
次に、本製造方法において、接合工程は、金型の後端部に金型材を接合する工程である。
【0044】
図1に示す手順では、図1(c)に示すように、上記面下げされた金型Pの後端面(金型Pが取り付けられる装置側の面)に金型材Hを接合することになる。この際、図1に示す手順では、金型材Hは、上記体積の不足分以上の量が接合される。したがって、接合された金型材Hは、余剰部分を含んでいる。これは、不足した体積分とぴったり合う量を接合により補完するのは、難易度が高く、再生コストの上昇を招くからである。
【0045】
図1に示す手順によれば、余剰部分を含む金型材Hの長さをL2とすると、接合工程を経た後の金型Pの長さはL1+L2となっており、L1+L2>Lの関係を満たしていることになる。
【0046】
ここで、接合する金型材の材質は、金型として使用される材料であれば特に限定されるものではない。もっとも、金型の強度を均一にしやすい、接合性が良い、成分の混合による靱性の劣化がないなどの観点から、接合する金型材は、準備した金型の材質と同系の共材であると良い。
【0047】
また、上記接合方法としては、例えば、摩擦接合、拡散接合、鍛接、ガス圧接、電気抵抗溶接、肉盛溶接などを例示することができる。これら接合方法のうち、金型形状に応じた方法を採用するのが良いが、接合部の靱性、強度などの観点から、摩擦圧接が好ましく、利便性やコストなどの観点から、型形状によらず簡易に施工できる肉盛溶接などが好ましい。
【0048】
なお、接合条件は、金型の材質、接合する金型材の材質等に応じて最適な接合条件を選択すれば良い。
【0049】
次に、本製造方法において、整形工程は、金型材の余剰部分を除去し、元の金型形状に整形する工程である。
【0050】
図1に示す手順では、図1(d)に示すように、金型材Hの余剰部分を除去して金型材Hの長さをL2’とすることで、元の金型の大きさL=L1+L2’に形を整えている。
【0051】
ここで、上記整形工程では、単に金型材の余剰部分を除去するだけで元の金型形状に整形しても良いし、余剰部分の除去とともに、金型形状に精加工する加工を伴っていても良い。
【0052】
上記除去方法としては、各種の切断手段による切断、各種の研磨手段による研磨、放電加工、切削加工などを例示することができる。これらは1または2以上組み合わせることができる。
【0053】
上述した工程を経ることにより、図1(d)に示すように、再生金型RPを得ることができる。
【0054】
上述した図1の手順では、準備工程→面下げ工程→接合工程→整形工程の順で使用済みとなった金型の再生を行う。この手順は、先に面下げを行った後に金型材の接合を行うため、面下げ加工時の位置合わせが行いやすく、面下げ時の精度を高めやすい利点がある。
【0055】
本製造方法は、基本的には、上述した工程を有している。ここで、本製造方法では、接合された金型材を熱処理することが好ましい。接合部の調質等を行うことができるので、接合部の特性を金型母材の特性に近づけることができるからである。
【0056】
図1に示した手順の場合、上記熱処理は、例えば、接合工程(図1(c))の後、かつ、整形工程(図1(d))の前、整形工程(図1(d))の後、整形工程(図1(d))中などの各段階で行うことができる。
【0057】
好ましくは、金型材の余剰部分を切断しやすいなどの観点から、整形工程(図1(d))中、金型材の余剰部を除去した後に、熱処理を施すと良い。なお、整形工程において、精加工を伴う場合には、精加工前後の何れの段階で熱処理を施しても構わない。
【0058】
上記熱処理の種類としては、溶体化処理、時効処理、焼き入れ、焼き戻しなどを例示することができる。これら処理は単独であっても良いし、複数の処理を組み合わせて行っても良い。
【0059】
上記熱処理は、金型材の材質に合わせて最適な処理方法を選択すれば良い。具体的には、例えば、金型材が、Ni基合金、Co基合金、マルエージング鋼、析出硬化系ステンレスなどよりなる場合には、溶体化処理、時効処理などを選択することができる。また、金型材が、工具鋼、マルテンサイト系ステンレスなどよりなる場合には、焼入れ処理、焼戻し処理などを選択することができる。なお、上記熱処理は、例えばガスバーナーやソルト炉などを用いて、接合部近傍に対して部分的に行うことも可能であり、あるいは、炉などを用いて金型全体を熱処理することも可能である。
【0060】
次に、本製造方法の変形例について説明する。図2は、準備工程→接合工程→面下げ工程→整形工程の順で使用済みとなった金型の再生を行う手順を示したものである。
【0061】
図2に示す手順は、図1に示す手順と比較して、接合工程および面下げ工程の順番が逆になっている点で大きく異なっている。したがって、以下では、この異なる点を中心に説明を行う。
【0062】
すなわち、図2に示す手順では、図2(b)に示すように、準備した使用済み金型Pの後端面(金型が取り付けられる装置側の面)に金型材Hを接合することになる。この場合、金型材Hは、後の面下げ工程にて生じる体積の不足分以上の量が接合される。したがって、接合された金型材Hは、図1に示した手順と同様に余剰部分を含んでいる。
【0063】
図2に示す手順によれば、余剰部分を含む金型材の長さがL2であるので、接合工程を経た後の金型Pの長さはL+L2となる。
【0064】
次に、図2に示す手順では、図2(c)に示すように、金型材Hが接合された金型Pの劣化部Dを除去し、元の型面形状となるように型面Fの面下げを行うことになる。この面下げにより、新たな型面Fが露出される。これにより、準備した金型Pの元の長さをLとすると、面下げ工程を経た後の金型Pの長さは、面下げした後の金型Pの長さL1(L1<L)と金型材Hの長さL2との和、L1+L2(L1+L2>L)となる。
【0065】
その後は、図2(d)に示すように、図1(d)と同様にして、金型材Hの余剰部分を除去して金型材Hの長さをL2’とすることで、元の金型の大きさL=L1+L2’に形を整えれば良い。
【0066】
図2に示した手順の場合、上述した熱処理は、例えば、接合工程(図2(c))の後、かつ、整形工程(図2(d))の前、整形工程(図2(d))の後、整形工程(図2(d))中などの各段階で行うことができる。好ましくは、金型材の余剰部分を切断しやすいなどの観点から、整形工程(図2(d))中、金型材の余剰部を除去した後に、熱処理を施すと良い。
【0067】
本製造方法によれば、図1(d)や図2(d)に示したような再生金型RPが得られる。すなわち、この再生金型RPは、面下げにより露出された新たな型面Fと、金型の後端部に接合された金型材層h1とを有している。
【0068】
なお、上記再生金型は、金型材が接合されているので、元の金型と金型材層との境界は必ずしも明瞭でない場合が多い。上記再生金型において、金型材層が接合されているか否かは、例えば、接合部位の表面を研磨し、材種に応じた腐食液を使用して組織を現出することなどにより調査することが可能である。
【0069】
次に、上述した本製造方法の他の変形例について説明する。図3は、図1の変形例であり、図4は、図2の変形例である。
【0070】
すなわち、図3および図4に示す手順は、準備工程において、一旦再生を受けた後に使用済みとなった再生金型を準備する点で、図1および図2に示した手順と大きく異なっている。それ以外の手順は、基本的には、図1および図2に示した手順に準ずるので説明は省略する。
【0071】
つまり、本製造方法では、新規の金型が型寿命となって使用済みとなった金型を準備しても良いし、一旦再生を受けた再生金型が型寿命となって使用済みとなった金型を準備しても良い。図1〜図4から分かるように、再生を繰り返し行った場合には、再生を繰り返した分だけ金型材層が積層された再生金型が得られることになる(図1および図2では、1回再生を行っているため、金型材層h1を有している。図3および図4では、2回再生を行っているため、金型材層h1、h2を有している。)。
【0072】
上述した再生金型の用途は、特に限定されるものではないが、特に、自動車部品等の成形時に使用する鍛造用金型として用いた場合、とりわけ型寿命を大きく向上させることができるため、鍛造用金型として使用することが好ましい。再生金型の用途としては、例えば、温熱間鍛造、ダイカスト、冷間鍛造、プラスチック成形などを例示することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
【0074】
(実施例に係る再生金型の作製)
先ず、使用済みとなった金型として、図5の実線で示したパンチ形状(直径90mm×長さ300mm)を有する温熱間鍛造用金型を準備した。準備した使用済み金型は、自動車部品の成形に使用された金型であり、成形面である型面には、ヒートチェック、摩耗等の劣化部が生じている。つまり、当該金型は、これを用いてさらなる生産を行えば、要求品質を満たす成形品を得ることができないとして、型寿命と判断されたものである。なお、上記準備した金型の材質は、後述の表1に示した通りである。
【0075】
とりわけ、表1に示したNi基超合金には下記のものを用いた。
質量%で、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:35〜40%、および、Al:3.0〜4.5%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物より構成されるとともに、下記式(1)で示される溶体化温度T±20℃が1000〜1250℃の範囲内で溶体化処理が施された後、700〜820℃の範囲内で時効処理が施されており、45〜55HRCの硬さを有するNi基超合金。
式(1):T=−348.06+32.04×[Cr]+71.53×[Al]
(但し、T:溶体化温度(℃)、[Cr]:Cr含有率(質量%)、[Al]Al含有率(質量%))
より具体的なNi基合金組成は、質量%で、C:0.010%、Si:0.06%、Cr:35.1%、Al:3.800%、Fe:0.480%、Co:0.05%、Mo:0.06%、W:0.06%、V:0.06%、Cu:0.01%、Ni:bal.である。
【0076】
次に、上記劣化部を完全に除去するため、放電加工により約15mmの面下げを行った。図5に示した破線部が面下げ後のパンチ形状である。なお、ここでは、パンチ先端部以外にも、パンチ基端部についても放電加工および切削加工を行っている。これは、鍛造装置への設置に関する形状およびパンチの相手型であるダイとの噛み合わせを整合するためである。
【0077】
次に、上記面下げ工程を経た後の金型の後端面に、金型素材と同じ化学組成を有する金型材を接合した。接合方法は、後述の表1に示した通りであり、摩擦圧接または肉盛溶接の何れかを採用した。なお、図5に示すように、金型の後端面には、上記面下げにより不足した体積分以上の金型材が接合されている。
【0078】
次に、上記接合した金型材の余剰部分を切削加工にて除去した。そして、上記余剰部分の除去後、大気炉および真空炉を用いて、その後端部に金型材層が接合された金型を、表1に示すように、接合した金型材の材質に合った所定の条件にて熱処理を施した。上記熱処理後、当該金型を精加工することにより、元の金型の形状に整形した。
【0079】
以上のようにして、面下げにより露出された新たな型面と、金型の後端部に接合された1層の金型材層とを有する各再生金型を得た。
【0080】
(比較例に係る再生金型の作製)
実施例に係る再生金型の作製と同様にして、後述の表1に示した金型材質の使用済み金型を準備した。次いで、準備した使用済み金型の型面表層をグラインダーにて切除した。次いで、比較例1〜6については、表層を除去した型面に、金型素材と同じ化学組成を有する金型材を肉盛溶接した。次いで、溶接による再焼入れ層の焼戻しなどの目的で、表1に示す、各材質に合った条件にて熱処理を施した。次いで、この肉盛溶接した金型材を研削加工することにより、元の型面形状に整形した。これにより、比較例1〜6に係る各再生金型を得た。
【0081】
一方、比較例7〜12については、実施例に係る再生金型の作製と同様にして、後述の表1に示した金型材質の使用済み金型を準備した後、金型の型面を、放電加工により元の型面形状となるように面下げした。その後、放電加工層の除去のため切削加工による精加工を行った。そして、精加工後の金型の後端部にリシンクプレートを治具を用いて設置した。これにより、比較例7〜12に係る各再生金型を得た。
【0082】
(評価)
<型寿命の評価>
得られた再生金型(何れも1回再生品)を用いて、自動車部品(等速ジョイント部品)の実生産を行った。新規の金型による部品の成形数と比較して、ほぼ同数以上(90%以上)の部品の成形が可能であったものを型寿命に優れるとして「A」と評価した。同様に、半数以上(50%以上)の部品の成形ができたが、ほぼ同数の成形までには至らなかった(90%未満)ものを型寿命が良好であるとして「B」と評価した。同様に、半数未満(50%未満)の部品の成形しかできなかったものを型寿命に劣るとして「C」と評価した。
【0083】
<型費用の低減効果>
新規の金型を再生せずに使い捨てた場合に比較して、型廃却までの型費用(=成形品1個当たりにかかる補修費を含む型作製費)の低減率が、50%以上のものを型費用の低減効果に優れるとして「A」と評価した。上記型費用の低減率が、25%以上50%未満のものを型費用の低減効果が良好であるとして「B」と評価した。上記型費用の低減率が、25%未満のものを型費用の低減効果が少ないとして「C」と評価した。
【0084】
表1に、各再生金型の材質、作製条件、評価結果等をまとめて示す。
【0085】
【表1】

【0086】
これらの結果を相対比較すれば、以下のことが分かる。すなわち、比較例1〜6に係る再生金型は、成形面である型面の劣化部分を切除し、その部分に金型材を肉盛溶接している。そのため、型面が鋳造状態となっており、新規の金型の型寿命と比較して、再生金型の型寿命は比較的短く、金型の再生による型費用の低減効果が小さかった。
【0087】
また、比較例7〜12に係る再生金型は、成形面が新規の金型とほぼ同等の型面であり1回再生した後の型寿命は優れる。ただし、リシンクプレートを用いて鍛造装置へ設置することができるのは、せいぜい3回の再生までである。そのため、総合的に見ると型費用の低減効果は小さかった。なお、再生回数が少ないのは、リシンクした金型が所定の長さ以下となると、鍛造装置への設置ができなくなるなど、製造上の不具合が生じるためである。
【0088】
これらに対して、実施例1〜12に係る再生金型は、本発明に係る再生金型の製造方法を用いて作製されている。そのため、得られた再生金型の型寿命を比較的長くすることできる。また、型の後端部に金型材が接合されるので、金型が薄肉化することなく、金型の再生を繰り返し行いやすい。また、型費用を低減しやすく、成形品の製造コスト削減に寄与することができる。さらには、特に、自動車部品等の成形時に使用する温熱間鍛造用金型として用いた場合、型寿命を大きく向上させることができる。この点は、従来の再生金型に用いられていたリシンクプレートに比べ大きな利点がある。
【0089】
以上、本発明に係る再生金型の製造方法および再生金型について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。
【符号の説明】
【0090】
P 使用済みとなった金型
F 型面
D 劣化部
H 金型材
h1 金型材層
h2 金型材層
RP 再生金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みとなった金型を準備する準備工程と、
金型の型面に存在する劣化部を除去し、元の型面形状となるように型面の面下げを行う面下げ工程と、
金型の後端部に金型材を接合する接合工程と、
前記金型材の余剰部分を除去し、元の金型形状に整形する整形工程とを有し、
前記準備工程の後に、前記面下げ工程、前記接合工程を行う、または、
前記準備工程の後に、前記接合工程、前記面下げ工程を行うことを特徴とする再生金型の製造方法。
【請求項2】
前記金型は鍛造用金型であることを特徴とする請求項1に記載の再生金型の製造方法。
【請求項3】
前記後端部に接合された金型材を熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の再生金型の製造方法。
【請求項4】
前記金型材は、共材であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の再生金型の製造方法。
【請求項5】
前記金型は、Ni基合金またはCo基合金より構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の再生金型の製造方法。
【請求項6】
前記Ni基合金は、質量%で、
C :0.1%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:2.0%以下、
Cr:35〜40%、および、
Al:3.0〜4.5%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物より構成されるとともに、
下記式(1)で示される溶体化温度T±20℃が1000〜1250℃の範囲内で溶体化処理が施された後、700〜820℃の範囲内で時効処理が施されており、
45〜55HRCの硬さを有することを特徴とする請求項5に記載の再生金型の製造方法。
式(1):T=−348.06+32.04×[Cr]+71.53×[Al]
(但し、T:溶体化温度(℃)、[Cr]:Cr含有率(質量%)、[Al]Al含有率(質量%))
【請求項7】
面下げにより露出された新たな型面と、金型の後端部に接合された金型材層とを有することを特徴とする再生金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−214385(P2010−214385A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61366(P2009−61366)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】