説明

冷凍用圧縮機

【課題】塗装膜の剥離や割れを確実に防止すること。
【解決手段】密閉容器(2)の外面に、下塗層(31)、中塗層(32)、上塗層(35)の3層構造の塗膜(30)が塗布されている。下塗層(31)は金属粉末(33)を含有するエポキシ樹脂系塗料が塗布され、中塗層(32)は金属酸化物細片(34)を含有するエポキシ樹脂系塗料が塗布され、上塗層(35)は撥水性樹脂塗料が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍装置に用いられる冷凍用圧縮機の防錆塗装に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧縮機構が収納された密閉容器を備え、屋外の冷凍装置、特に海上輸送用冷凍コンテナに用いられる冷凍用圧縮機が知られている。この種の冷凍用圧縮機は、塩害等の厳しい腐食環境下において充分な耐食性や耐候性を維持するため、密閉容器の表面に防食塗装を施す必要がある。塩害等に対して高い防食作用を有する塗料としては、例えば特許文献1にあるように、船舶や橋梁、海上コンテナ等に用いられるエポキシ樹脂系塗料等の樹脂系塗料が知られている。
【特許文献1】特開2002−69367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、冷凍用圧縮機の密閉容器に上記特許文献1のようにエポキシ樹脂系塗料を単に塗布するだけでは、充分な防食効果を得ることができないという問題があった。この問題について図4を参照しながら以下に説明する。
【0004】
一般に、樹脂系塗料の塗膜には微小な隙間や分子間隙間が存在する(図4(A)参照)。そのため、塗膜近傍の水蒸気や塗布面に付着した水分が次第に分子間隙間を通じて塗膜内部へ浸透する(図4(B)参照)。一方、冷凍用圧縮機では、低温低圧の冷媒が圧縮されて高温高圧の冷媒となる。このため、冷凍用圧縮機の運転時と停止時とで密閉容器の温度が大きく変化する。また、海上輸送用コンテナ等に用いられる冷凍用圧縮機の場合、温度環境が赤道付近の高温地域から高緯度の極寒地域と広範に及ぶ。このように、冷凍用圧縮機の塗膜は温度変化の著しい環境下に晒されるため、塗膜に浸透した水分が例えば冷却されて水、氷に変態し体積膨張する(図4(C)参照)。この体積膨張により、塗膜の剥離や割れが生じやすくなる。そして、高温環境下になると、水や氷は再び水分となり体積収縮する。この体積膨張と体積収縮を繰り返すことにより、塗膜の剥離や割れが助長される。その結果、防食効果が著しく損なわれる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷凍用圧縮機において、樹脂系塗料の塗膜の剥離や割れを防止して防食効果を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、圧縮機構(7)が収納された密閉容器(2)を備えた冷凍用圧縮機を前提としている。そして、本発明は、上記密閉容器(2)の外面側には、樹脂系塗料が塗布され、且つ、該樹脂系塗料の塗布層の表面に撥水性樹脂塗料が上塗層(35)として塗布されているものである。
【0007】
上記第1の発明では、密閉容器(2)の外面側にエポキシ樹脂系塗料等の樹脂系塗料の塗布層が形成され、その塗布層の表面に撥水性樹脂塗料の上塗層(35)が形成されている。つまり、密閉容器(2)の塗膜は、最外層に撥水性樹脂塗料が塗布されている。この塗膜構成では、上塗層(35)が撥水性を有するため、上塗層(35)の表面に水分が接触してもその水分は集合して水滴状(水玉状)となる。そして、水滴(水玉)はある程度の大きさになると上塗層(35)の表面から流下する。このことから、上塗層(35)の表面に水分が接触しても、上塗層(35)に対する水分の接触面積や接触時間が低減される。即ち、上塗層(35)における水分の滞在面積および滞在時間が減少する。その結果、樹脂系塗料の隙間から内部へ浸透する水分量が減少する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記樹脂系塗料が、金属酸化物細片(34)を含有するものである。
【0009】
上記第2の発明では、上塗層(35)を浸透した水分が樹脂系塗料の塗布層に浸透する際に金属酸化物細片(34)が抵抗となる。これにより、樹脂系塗料の塗布層に対する水分の浸透量が抑制され、また水分の浸透速度が遅くなる。一方、金属酸化物細片(34)が含有されることにより、樹脂系塗料の塗布層表面の凹凸が大きくなり、上塗層(35)との層間密着性が高められる。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記密閉容器(2)の外面には、該密閉容器(2)の素材に対し犠牲防食作用を有する金属粉末(33)を含有する樹脂系塗料が下塗層(31)として塗布され、該下塗層(31)の表面に上記樹脂系塗料が中塗層(32)として塗布されているものである。
【0011】
上記第3の発明では、密閉容器(2)の塗膜が下塗層(31)、中塗層(32)および上塗層(35)の3層で構成されている。下塗層(31)に含有される金属粉末(33)は、密閉容器(2)の金属素材に対し犠牲防食作用を有する。つまり、密閉容器(2)の素材表面で腐蝕作用が起こるとき、金属粉末(33)がアノードとなり密閉容器(2)がカソードとなって両者間に防食電流が生じる。このように、防食電流が生じることでアノードである金属粉末(33)のみが漸次溶解していく。本発明においても、上塗層(35)の撥水性作用により中塗層(32)の隙間から浸透する水分量が減少し、それに伴い下塗層(31)の隙間に浸透する水分量も減少する。
【0012】
第4の発明は、上記第2または第3の発明において、上記撥水性樹脂塗料の上塗層(35)の塗膜厚さが、20μm以上75μm以下である。
【0013】
上記第4の発明では、上塗層(35)の塗膜厚さが20μm以上で75μmとなる。
【0014】
第5の発明は、上記第1乃至第4の何れか1の発明において、上記撥水性樹脂塗料が、フッ素樹脂系塗料またはシリコン樹脂系塗料である。
【0015】
上記第5の発明では、上塗層(35)がフッ素樹脂系塗料またはシリコン樹脂系塗料で構成される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、密閉容器(2)の外面側において、樹脂系塗料の塗布層の表面に上塗層(35)として撥水性樹脂塗料を塗布するようにした。したがって、水分を上塗層(35)の表面に付着しにくくし、また上塗層(35)の表面に水分が付着してもその水分を直ぐ流下させることができる。そのため、上塗層(35)の表面における水分の接触面積や接触時間を低減することできる。その結果、水分が上塗層(35)に浸透し樹脂系塗料の塗布層に浸透して分子間隙間等に侵入する度合いを抑制することができる。よって、海上輸送用冷凍コンテナに用いられる場合等温度変化が著しい環境下においても、塗装膜の剥離や割れを防止でき、防食効果を向上させることができる。
【0017】
また、第2の発明によれば、樹脂系塗料の塗布層に金属酸化物細片(34)を含有させるため、樹脂系塗料の塗布層に対する水分の浸透量を抑制することができ、また水分の浸透速度を遅らせることができる。これにより、上記樹脂系塗料の塗装膜やその下位層の塗装膜の剥離や割れを一層防止でき、防食効果を長く維持することができる。
【0018】
一方、金属酸化物細片(34)が含有されることにより、樹脂系塗料の塗布層表面の凹凸が大きくなり、このままでは水分が塗膜表面に長時間保持されやすくなる。そのため、水分が樹脂系塗料の塗布層に浸透する度合いが増大してしまう。また、上記樹脂系塗料としてエポキシ樹脂系塗料を用いた場合には、紫外線の影響によるチョーキングが発生し、塗布層表面の凹凸がさらに大きくなる。ところが、本発明では、樹脂系塗料の表面に撥水性樹脂塗料の上塗層(35)を塗布するため、塗膜(上塗層(35))の表面が滑らかとなる。そうすると、上塗層(35)の表面に付着した水分は直ぐ流下するので、上塗層(35)の表面に水分が長時間保持されるのを防止することができる。また、フッ素樹脂系塗料やシリコン樹脂系塗料は紫外線の影響によるチョーキングを起こさない高耐候性塗料であるため、これらを撥水性樹脂塗料として上塗層(35)に用いることにより、エポキシ樹脂系塗料のような紫外線による樹脂劣化(チョーキング)の懸念もなくなる。このように、本発明では、塗装膜の耐候性を向上させることができると共に、樹脂系塗料の塗膜間や隙間に侵入する水分量を低減して防食効果を一層向上させることができる。
【0019】
また、第3の発明によれば、密閉容器(2)の金属素材に対し犠牲防食作用を有する金属粉末(33)を含有させた樹脂系塗料を下塗層(31)として塗布するようにしたので、密閉容器(2)に対する防食効果を高めることができる。また、上塗層(35)の撥水性作用や中塗層(32)の金属酸化物細片(34)によって下塗層(31)に浸透する水分量が抑制されるため、下塗層(31)の犠牲防食作用による消費を抑えることができ、防食効果を長く維持することができる。
【0020】
また、第4の発明によれば、上塗層(35)の最低膜厚を20μm以上とすることで、樹脂系塗料の塗布層表面の凹凸が露出することを防止でき、上塗層(35)全域に亘って撥水性、耐候性を確保することができる。また、上塗層(35)の最高膜厚を75μm以下とすることで外観上問題となる塗料の垂れを防止することができる。
【0021】
また、第5の発明によれば、フッ素樹脂系塗料またはシリコン樹脂系塗料を上塗層(35)として塗布するようにしたので、容易に撥水性作用を得ることができ、また高い耐候性をも得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
本発明の実施形態に係る冷凍用圧縮機(1)(以下、単に圧縮機(1)という。)は、例えば海上輸送用冷凍コンテナの冷凍装置に設けられるものである。この冷凍装置は、上記圧縮機(1)と凝縮器と膨張機構と蒸発器とが配管接続された冷媒回路を備えている。この冷媒回路では、冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
【0024】
〈圧縮機の全体構成〉
図1に示すように、上記圧縮機(1)は、密閉容器(2)を備えている。この密閉容器(2)は、容器が溶接で組み立てられて分解できない全密閉型であるが、容器がボルトで組み立てられて分解可能な半密閉型でもよい。
【0025】
上記密閉容器(2)は、内部がハウジング(3)によって上部側の低圧室(5)と下部側の高圧室(6)とに区画されている。また、密閉容器(2)には、冷媒回路の低温低圧冷媒が低圧室(5)に流入する吸入ポート(24)と、高圧室(6)の高温高圧冷媒が冷媒回路に流出する吐出ポート(25)が設けられている。低圧室(5)には、オルダムリング(10)を備えたスクロール型の圧縮機構(7)が配置されている。高圧室(6)には、電動機(16)と、該電動機(16)に連結された駆動軸(17)と、下部軸受(18)とが収納されている。駆動軸(17)の上端部には、偏心部(19)が形成されており、該偏心部(19)は後述する上記圧縮機構(7)の可動スクロール(9)の軸受け部(14)に係合している。駆動軸(17)の下端部は、下部軸受(18)により回転自在に支持されている。
【0026】
上記圧縮機構(7)は、固定スクロール(8)と可動スクロール(9)を備えている。固定スクロール(8)は、渦巻壁状の固定側ラップ(11)を備えている。可動スクロール(9)は、渦巻壁状の可動側ラップ(12)と可動側鏡板部(13)とを備えている。可動側鏡板部(13)の背面側には、軸受け部(14)が形成されている。また、可動側鏡板部(13)のほぼ中心には、軸受け部(14)に開口する吐出口(15)が形成されている。圧縮機構(7)は、両スクロール(8,9)のラップ(11,12)が互いに噛合し、そのラップ(11,12)同士によって形成される空間が流体室(26)となっている。
【0027】
上記駆動軸(17)の内部には流体流通路(20)が形成されている。流体流通路(20)は、一端が偏心部(19)の上端で開口し、他端が高圧室(6)に開口している。流体流通路(20)の偏心部(19)側の開口部には、流体流通路(20)の径よりもやや大きい径を有する円筒状の座部(21)が形成されている。座部(21)の内側には、スプリング(22)および該スプリング(22)を押し縮めるように円管状のシール部材(23)が収納される。シール部材(23)の径は、吐出口(15)の径よりも大きく設定される。偏心部(19)を可動スクロール(9)の軸受け部(14)に係合させた状態において、座部(21)からスプリング(22)により押し上げられたシール部材(23)の先端面は、吐出口(15)を塞ぐように可動側鏡板部(13)の背面に当接する。
【0028】
上記圧縮機(1)では、電動機(16)を駆動すると、駆動軸(17)が回転する。この駆動軸(17)の回転により、可動スクロール(9)が固定スクロール(8)に対して公転運動する。その際、可動スクロール(9)はオルダムリング(10)によって自転が阻止された状態で公転運動する。可動スクロール(9)の公転運動に伴い、低圧室(5)の冷媒が圧縮機構(7)の流体室(26)に吸い込まれ閉じ込められる。可動スクロール(9)の公転運動に伴い、流体室(26)の容積が次第に小さくなってゆき、流体室(26)内の冷媒が圧縮される。このように圧縮されて高温高圧となった冷媒は、可動側鏡板部(13)の吐出口(15)から吐出される。吐出された冷媒は、駆動軸(17)の流体流通路(20)を通じて高圧室(6)に流出する。高圧室(6)に流出した高温高圧冷媒は、電動機(16)のステータの外周の隙間を通って吐出ポート(25)から冷媒回路へ送り出される。そして、冷媒回路において冷媒が凝縮、膨張、蒸発の各行程を経た後、再度吸入ポート(24)から低温低圧冷媒が低圧室(5)に吸入されて圧縮される。
【0029】
〈塗膜の構成〉
上記密閉容器(2)の外面側には塗装が施されている。図2に示すように、その塗膜(30)は、密閉容器(2)の素材側から順に形成された下塗層(31)、中塗層(32)および上塗層(35)の3層から構成されている。
【0030】
上記下塗層(31)は、エポキシ樹脂系塗料が塗布されている。この下塗層(31)のエポキシ樹脂系塗料には、密閉容器(2)の素材に対し犠牲防食作用を有する金属粉末(33)が含有されている。また、密閉容器(2)の素材表面は、塗料の密着性を高めるためショットブラスト等の下地処理を行うことが望ましい。本実施形態では、金属粉末(33)として亜鉛粉末が用いられる。この亜鉛粉末は、数ミクロンオーダーの微粉末であることが望ましい。また、本実施形態のようにマトリックス相がエポキシ樹脂系塗料である場合、乾燥塗膜中に亜鉛粉末が60%(質量百分率、以下同じ)以上で80%以下程度含まれていることが好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂系塗料は、炭素−炭素結合がエーテル結合で結合されており、エステル結合を含まないため、水分が存在する環境下においても加水分解されにくい。また、分子内のエポキシ基や水酸基の作用により密着性に優れるといった利点を有する。エポキシ樹脂系塗料の硬化剤としては、主にポリアミド系硬化剤やポリアミン系硬化剤が用いられる。
【0032】
上記中塗層(32)は、下塗層(31)と同様にエポキシ樹脂系塗料が塗布されている。この中塗層(32)のエポキシ樹脂系塗料には、金属酸化物細片(34)が含有されている。この金属酸化物細片(34)は、中塗層(32)を水分が浸透する際に抵抗となり、水分の浸透量や浸透速度を抑制する効果を有する。また、この金属酸化物細片(34)は、紫外線吸収遮蔽効果も有する。さらに、金属酸化物細片(34)を含むことによって塗膜粗さが大きくなり、下塗層(31)との密着性も向上する。金属酸化物細片(34)は、平均粒径10μm以上で60μm以下程度、平均厚さ3μm程度、比重4.7以上で5.2以下のものが好ましく、乾燥塗膜中、40%以上で60%以下程度含まれていることが好ましい。本実施形態に係る金属酸化物細片(34)としては、雲母状酸化鉄(M.I.O:マイカシアス アイアン オキサイド)が好適である。雲母状酸化鉄は、Feを主成分とするフレーク状粒子からなる顔料であり、SiO、Alの他、微量のCaO、MgOを含むものもある。このような金属酸化物細片(34)をエポキシ樹脂系塗料に分散させ、エアレス塗装やハケ塗りで下塗層(31)の表面に塗布することで中塗層(32)が形成される。
【0033】
上記上塗層(35)は、下塗層(31)および中塗層(32)と異なり、撥水性樹脂塗料が塗布されている。この撥水性樹脂塗料は、塗膜表面で水分をはじく性質を有している。本実施形態では、撥水性樹脂塗料として、フッ素樹脂系塗料やシリコン樹脂系塗料が用いられる。
【0034】
ここで、上記塗膜(30)の構成において撥水性を有する上塗層(35)を塗布せずに中塗層(32)を上塗層とした場合、その上塗層の表面に付着した水分(水、水蒸気)は該上塗層の内部へ浸透し分子間隙間に侵入する。その状態のまま冷凍コンテナが例えば極寒地へ輸送された場合、分子間隙間に侵入した水や水蒸気が冷却されて氷や水となり体積膨張する。これにより、塗膜の剥離や割れが生じてしまう。さらに、高温地域へ輸送された場合、分子間隙間の氷や水が再び水や水蒸気となり体積収縮する。この体積膨張と体積収縮とを繰り返すことにより、塗膜の剥離や割れが顕著となる。その結果、塗膜による防食効果が損なわれてしまう。
【0035】
ところが、本実施形態の塗膜(30)の構成によれば、上塗層(35)が撥水性を有するため、密閉容器(2)の周囲に存在する水分(水蒸気)が上塗層(35)の表面に付着し難くなる。また、上塗層(35)の表面に水分が付着した場合でも、その上塗層(35)の撥水作用により水分はある程度集合して水滴状(水玉状)となる。そして、水滴(水玉)はある程度の大きさになると上塗層(35)の表面から流下する。このことにより、上塗層(35)の表面に水分が接触しても、上塗層(35)に対する水分の接触面積や接触時間が低減される。そのため、上塗層(35)に接触した水分が該上塗層(35)を浸透して中塗層(32)に到達する量が低減される。その結果、水分が中塗層(32)を浸透して該中塗層(32)と下塗層(31)との隙間や分子間隙間に侵入する量が低減される。このように、上塗層(35)に撥水性をもたせることにより、上塗層(35)の表面、即ち塗膜(30)の表面に対する水分の滞在面積や滞在時間が低減され、水分がエポキシ樹脂系塗料の塗膜間に侵入する度合いが抑制される。
【0036】
また、一般に、上記中塗層(32)のようにエポキシ樹脂系塗料がハケ塗り等で塗布された場合、その塗膜表面の凹凸は比較的大きい。特に、本実施形態のように金属酸化物細片(34)を含有するエポキシ樹脂系塗料の場合は、その塗膜表面の凹凸が一段と大きくなる。そのような塗膜表面においては、周囲の水分が付着しやすくなり、また付着した水分もなかなか流下せず保持されやすい。つまり、塗膜表面に対する水分の接触時間が比較的長い。そのため、水分が塗膜に浸透する度合いが増大する。その点、本実施形態では、中塗層(32)の表面に塗布する上塗層(35)として撥水性樹脂塗料を用いるため、単にハケ塗等で塗布した場合でも塗膜(30)の表面(上塗層(35)の表面)が比較的滑らかとなる。したがって、塗膜(30)の表面に付着した水分は一層流下しやすくなる。よって、塗膜(30)の表面に対する水分の接触時間が一層低減され、水分がエポキシ樹脂系塗料の塗膜間に侵入する度合いが一層抑制される。
【0037】
また、本実施形態では、上塗層(35)の塗膜厚さが20μm以上で75μm以下に形成されている。なお、望ましくは30μmである。この塗膜厚さの下限値(20μm)は、中塗層(32)表面の凹凸が露出しない程度の値に設定されている(図4左部参照。)。また、塗膜厚さの上限値(75μm)は、塗布時に塗料の垂れを生じない程度の値に設定されている(図4右部参照。)。
【0038】
また、下塗層(31)の塗膜厚さは75μm以上で120μm以下に設定され、中塗層(32)の塗膜厚さは75μm以上で150μm以下に設定されている。そして、下塗層(31)、中塗層(32)および上塗層(35)の合計の塗膜厚さは、170μm以上で345μm以下に設定されている。これら塗膜厚さの数値の理由は、上塗層(35)においては撥水性および耐候性を確保し、外観を整え得る値である。中塗層(32)においては、水の浸透を抑え得る値で、且つ、温度変化による塗膜自身の体積変化により割れを発生させない値である。下塗層(31)においては、密閉容器(2)表面のショットブラストによる凹凸の露出をなくし、犠牲防食効果を密閉容器(2)の表面全域において確保し得る値である。
【0039】
〈評価試験〉
次に、本発明に係る圧縮機(1)の耐食性の評価に関する冷熱湿潤サイクル評価試験の結果について図3を参照しながら説明する。
【0040】
この評価試験では、2層コーティングの試験片と、本発明に係る3層コーティングの試験片とを用いて行った。2層コーティングの試験片は上述した下塗層(31)と中塗層(32)の2層構造の塗膜が形成されたものであり、3層コーティングの試験片は上述した下塗層(31)と中塗層(32)と上塗層(35)の3層構造の塗膜が形成されたものである。また、この評価試験は、各試験片に水分を付着させた状態で、その周囲環境を高温高湿(80℃/98%RH)の状態と低温低湿(−40℃/0〜20%RH)の状態とに繰り返し晒すようにした。そして、高温高湿から低温低湿への1回の切換、または低温低湿から高温高湿への1回の切換を1サイクルとしてカウントした。
【0041】
図3に示すように、2層コーティングの試験片では、約150サイクルで塗膜の塗装の「膨れ」が生じ、約400サイクルで塗膜の「割れ」が生じ、約420サイクルで塗膜の「錆び」が生じた。塗膜の「錆び」は、犠牲防食によって錆びた亜鉛粉末の浮きが発生した。これに対し、3層コーティングの試験片では、少なくとも620サイクル以上行っても塗膜の「膨れ」、「割れ」および「錆び」の何れも生じなかった。以上の試験結果により、上塗層(35)として撥水性樹脂塗料を塗布した場合、水分がエポキシ樹脂系塗料の塗膜間に侵入する度合いが確実に低減されていることが分かる。
【0042】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、密閉容器(2)の外面側において、樹脂系塗料であるエポキシ樹脂系塗料の塗膜(中塗層(32))の表面に撥水性樹脂塗料を上塗層(35)として塗布するようにした。したがって、密閉容器(2)の周囲に存在する水分が塗膜(30)の表面に付着しにくくし、また塗膜(30)の表面に水分が付着してもその水分を直ぐ流下させることができる。そのため、塗膜(30)の表面に対する水分の接触面積や接触時間を低減することできる。その結果、水分がエポキシ樹脂系塗料の塗膜を浸透して分子間隙間等に侵入する度合いを抑制することができる。よって、海上輸送用冷凍コンテナに用いられる場合等温度変化が著しい環境下においても、塗膜(30)の剥離や割れを防止でき、防食効果を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、上塗層(35)の塗膜厚さを20μm以上に設定しているため、中塗層(32)の表面が露出するのを確実に防止できる。そのため、水分が中塗層(32)の内部へ浸透する度合いを一層抑制することができる。また、上塗層(35)の塗膜厚さを75μm以下に設定しているため、上塗層(35)の塗布時に塗料の垂れを確実に防止できる。そのため、圧縮機(1)の外観が損なわれない。
【0044】
また、中塗層(32)には金属酸化物細片(34)が含有されているため、水分が上塗層(35)を浸透しても、その水分が中塗層(32)ないし下塗層(31)を浸透する量および速度を抑えることができる。これにより、下塗層(31)の犠牲防食による消費を抑え、防食効果をより長く維持することができる。
【0045】
一方、金属酸化物細片(34)を含有することにより中塗層(32)の表面の凹凸が大きくなり、このままでは水分が塗膜表面に長時間保持されやすくなる。ところが、本実施形態では、中塗層(32)の表面に撥水性樹脂塗料の上塗層(35)を形成するため、塗膜(30)の表面が滑らかとなり、水分が長時間保持されるのを防止することができる。また、中塗層(32)にはエポキシ樹脂系塗料が用いられているため、紫外線の影響によるチョーキングが発生し、塗布層表面の凹凸がさらに大きくなる。ところが、上塗層(35)に用いられるフッ素樹脂系塗料およびシリコン樹脂系塗料は耐候性に優れるため、中塗層(32)においてチョーキングが発生する虞がなくなり、中塗層(32)の表面の凹凸がさらに大きくなることを抑制できる。これらによって、エポキシ樹脂系塗料の塗膜間に侵入する水分量をより低減できる。よって、防食効果を一層向上させることができる。なお、中塗層(32)の表面の凹凸が大きいことにより、中塗層(32)と上塗層(35)の層間密着性に優れる。
【0046】
このように、中塗層(32)に金属酸化物細片(34)を含有させることによって顕著となる弊害(中塗層(32)表面の凹凸増大)、また中塗層(32)にエポキシ樹脂系塗料を用いることによって顕著となる弊害(チョーキングによる樹脂劣化)をも撥水性樹脂塗料の上塗層(35)で抑制することができる。
【0047】
《その他の実施形態》
上述した実施形態については以下のような構成としてもよい。
【0048】
例えば、上記実施形態では、塗膜(30)を3層構造としたが、本発明は、上塗層(35)として撥水性樹脂塗料を塗布すれば、2層構造または4層以上の構造としてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、撥水性樹脂塗料としてフッ素樹脂系塗料やシリコン樹脂系塗料を用いたが、撥水性を有する塗料であればそれ以外のものでもよい。
【0050】
また、上記実施形態において、下塗層(31)および中塗層(32)のマトリックス相としてエポキシ樹脂系塗料以外の樹脂系塗料を用いてもよいし、下塗層(31)の金属粉末(33)や中塗層(32)の金属酸化物細片(34)を省略したものであってもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明は、冷凍装置に用いられる冷凍用圧縮機について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、実施形態に係る冷凍用圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る密閉容器の塗装膜を示す概念図である。
【図3】図3は、冷熱湿潤サイクル評価試験の結果を示す表である。
【図4】図4は、上塗層の塗膜厚さについて説明するための図である。
【図5】図5は、塗膜の割れや剥離が生ずるメカニズムを説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1 冷凍用圧縮機(圧縮機)
2 密閉容器
7 圧縮機構
31 下塗層
32 中塗層
33 金属粉末
34 金属酸化物細片
35 上塗層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(7)が収納された密閉容器(2)を備えた冷凍用圧縮機であって、
上記密閉容器(2)の外面側には、樹脂系塗料が塗布され、且つ、該樹脂系塗料の塗布層の表面に撥水性樹脂塗料が上塗層(35)として塗布されている
ことを特徴とする冷凍用圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記樹脂系塗料は、金属酸化物細片(34)を含有するものである
ことを特徴とする冷凍用圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記密閉容器(2)の外面には、該密閉容器(2)の素材に対し犠牲防食作用を有する金属粉末(33)を含有する樹脂系塗料が下塗層(31)として塗布され、該下塗層(31)の表面に上記樹脂系塗料が中塗層(32)として塗布されている
ことを特徴とする冷凍用圧縮機。
【請求項4】
請求項2または3において、
上記撥水性樹脂塗料の上塗層(35)の塗膜厚さは、20μm以上75μm以下である
ことを特徴とする冷凍用圧縮機。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項において、
上記撥水性樹脂塗料は、フッ素樹脂系塗料またはシリコン樹脂系塗料である
ことを特徴とする冷凍用圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−127272(P2010−127272A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306814(P2008−306814)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】