処理方法およびそのための処理装置
【課題】 液体や膜状物、医薬品原料や試薬原料などの中に含まれるタンパク質を、従来と比較して格段に簡便かつ確実に分解することができる処理方法、およびそのための処理装置を提供する。
【解決手段】 液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法、ならびに、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える処理装置。
【解決手段】 液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法、ならびに、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性を有する粒子を用いて材料中のタンパク質を断片化することによって、洗浄、食品製造、薬品製造などの分野において処理プロセスの改質、品質の確保を行い、さらに優れた品質の製品を製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タンパク質を分解する技術が食品製造あるいは医療分野において利用されている。たとえば、発酵を用いる方法では、タンパク質あるいはデンプンなどをバクテリアや酵素の反応により、アルコールやビタミンに変換することが行われている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、タンパク質分解を食品製造分野に利用した例として、仕込槽で麦芽と温水を混合し所定温度で所定時間経過させてタンパク質を分解させてマイシェ(もろみ状のもの)を形成する工程において所定量のタンパク質分解酵素を添加し、かつ添加量を調整して、麦汁中の遊離アミノ態窒素生成量を制御する発泡酒の製造方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、タンパク質分解を利用しアレルギー性を除去して食品を製造するための技術として、原料タンパク質に、エンドプロテアーゼにより、分解率が20〜30%の範囲で第一の加水分解を実施し、得られたタンパク質加水分解質物を孔径1nm〜5μmの膜を使用して膜分画し、透過画分に、エキソプロテアーゼを含むプロテアーゼにより、分解率を2〜8%増加し、かつ最終的な分解率が25〜35%となる範囲で、第二の加水分解を実施するタンパク質加水分解物の製造方法が開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、タンパク質分解を医療分野に利用した例として、人体の血液を体外循環させ、体外循環させている血液を、電気分解を起こさない範囲内の電圧または電気分解を起こす電圧以上の電圧または磁場をかけている、電極と電極または磁場と磁場の間を通過させて、電圧、電流の直接的な影響かまたは電気分解により発生する塩素などの間接的な影響で、たとえば血液中および血漿成分中などに存在するHIVウイルスのRNAまたは逆転写酵素またはタンパク質分解酵素またはHIVウイルスの表面上にあるエンベロープまたはその他のHIVウイルスの重要な部分を損傷または破壊する、ウイルスを不活化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−117760号公報
【特許文献2】特開2001−333794号公報
【特許文献3】特開平8−56657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1〜3に記載の方法は、いずれも大量のタンパク質を分解する方法としては適しているが、それを実現するための装置が大掛かりになるという問題がある。たとえばタンパク質を分解する方法として酵素を用いる場合、変換効率を上げるため適度な温度条件で反応を生じさせる必要がある。そのため、反応を起こさせるための熱源や温度制御装置などが必要となる。またこの場合、発酵のために長時間を要するという問題もある。
【0007】
一方、タンパク質を含む材料に電圧または電流を印加することによりタンパク質を分解する方法では、当該材料が流動性のないゲルや導電性を有しない場合にはタンパク質分解の効果を得ることができないという問題がある。特に、前記タンパク質を含む材料が膜状に加工されている場合には、当該膜状物を破壊することなく、電圧や電流を印加するための通電電極を安定して接触させにくいという問題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、液体や膜状物、医薬品原料や試薬原料などの中に含まれるタンパク質を、従来と比較して格段に簡便かつ確実に分解することができる処理方法、およびそのための処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法である。
【0010】
本発明の処理方法においては、液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化するのが好ましい。
【0011】
また本発明の処理方法においては、前記反応性を有する粒子を放出後の膜状物または液体を覆うように保護層を形成するのが好ましい。
【0012】
本発明における反応性を有する粒子は、タンパク質に対し、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせることを特徴とするものであることが好ましい。
【0013】
また前記反応性を有する粒子は、空気中で自然消滅する性質を有することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0014】
本発明における前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0015】
本発明の処理方法は、前記タンパク質が微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0016】
また本発明の処理方法は、前記タンパク質がアレルゲン物質を構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、アレルギー性を除去することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0017】
本発明の処理方法において、前記タンパク質を含有する液体または膜状物は、以下の((1)〜(3)のいずれかであるのが好ましい。
【0018】
(1)食品原料
(2)洗浄液または、洗浄液の残存物
(3)医薬品原料または試薬原料(医薬品原料の中でも特にワクチン)
本発明はまた、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える処理装置を提供する。
【0019】
本発明の処理装置において、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有するのが好ましい。
【0020】
また前記タンパク質を含む材料が液体である場合には、本発明の処理装置における前記前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段は、当該液体を循環または攪拌させる機構を有するのが、好ましい。
【0021】
本発明の処理装置において、前記反応性を有する粒子が、空気中で自然消滅することを特徴とするものであることが好ましい。
【0022】
本発明の処理装置における前記反応性を有する粒子は、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0023】
また本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段とを備える洗浄装置も提供する。
【0024】
さらに本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段と、反応性を有する粒子を放出する手段と、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段と、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段と、入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段と演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性の粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段とを備える処理装置も提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る処理方法および処理装置によれば、製造工程において細菌などのタンパク質を効果的にかつ安全に断片化できるので、食品や薬品の製造、あるいは洗浄などに大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、液体または膜状物に反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化する処理方法である。本発明の処理方法によれば、反応性を有する粒子を空気に含ませて放出することにより、対象物の表面に沿って、反応性を有する粒子を拡散あるいは送り出すことが可能で、前記粒子と対象物とを効率よく反応させることができる。また、本発明の処理方法によれば、従来のように大掛かりな装置等を必要とすることなく、簡便かつ確実に上記液体また膜状物中に含まれるタンパク質を断片化することができる。ここで、本発明における「タンパク質の断片化」とは、タンパク質内の分子結合を切断することにより構造的に分離・分解することを指し、化学修飾を伴う分解も包含する。タンパク質を断片化することにより、本来のタンパク質の分子量が変化し、本来の物性および機能を欠失する。これによって、当該タンパク質を含有していた材料におけるアレルギー性の除去、微生物、ウイルスまたはプリオンなどの増殖能力の低下、アミノ酸などの生成などが可能となる。したがって、本発明の処理方法は、食品製造、医薬品製造、試薬製造など、広範な分野への応用が可能である。また、本発明の処理方法によれば、従来の電圧または電流の印加を利用した方法とは異なり、ゲルや導電性を有しない材料であってもその中に含有されるタンパク質を断片化することができ、また、膜状物であっても破壊することなくタンパク質の断片化を行うことができるという利点がある。また本発明の処理方法では、断片化するタンパク質を含有する材料が液体または膜状物であることにより、反応性を有する粒子によりタンパク質を含む材料表面における酸化などの相互作用を効率的に行うことが可能となる。
【0027】
本発明の処理方法における反応性を有する粒子とは、原子または分子が物理的または化学的に高いエネルギー状態となったものを指す。当該反応性を有する粒子の生成方法としては、放電、電界による電子の励起、あるいは電界などにより加速された荷電粒子などを衝突させること、光励起、運動エネルギーを与えることなどが応用可能である。なお、前記反応性を有する粒子は、外部の有機化学物質に化学的反応を及ぼすことが可能である特徴を有するため、タンパク質に対して直接あるいは二次的に、酸化、還元、加水分解、付加反応などの作用を及ぼすことが可能で、タンパク質を断片化、すなわち分解し、タンパク質としての機能を変化させる効果を示すような性質を有する粒子を指す。反応性を有する粒子は、具体的には、プラズマ、イオン、ラジカル、窒素酸化物(NO、NOx)、硫黄酸化物(SOx)、炭化水素類、酸化水素(H2O2、HO2)や、さらには加速した電子、加速した陽子、原子状水素、放射能から放出される高エネルギー原子あるいは分子などが挙げられるが、中でもプラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子を含む空気が好ましく、正イオンと負イオンを反応性の粒子として含む空気が特に好ましい。なお、上述した反応性を有する粒子の生成方法においては、副生成物としてオゾンが発生する場合がある。オゾンは寿命が長く残留性があるため、できるだけ濃度が低いほうが望ましいが、周辺において人体等に影響を及ぼさない量であれば、わずかに含まれていてもよい。
【0028】
前記プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、たとえば電気的に励起することで生成可能であり、比較的寿命が短い粒子であることから放出対象である材料に含有されるタンパク質を迅速に断片化し、さらに短時間で消滅するため放出対象には大きな効果を与えるとともに、放出対象以外に与える影響を小さく抑えることができる。そのため、放出対象の外部に反応性を有する粒子を含む空気が漏れ出るような環境下でも、外部への影響を考慮する必要がない。
【0029】
正イオンおよび/または負イオンとしては、H3O+(H2O)n(nは0または自然数)および/またはO2-(H2O)m(mは0または自然数)を挙げることができ、これらを主体として構成することが好ましい。大気中の酸素や水分などから発生させることができるため環境負荷が低く、またこれらの両者が反応して過酸化水素H2O2、二酸化水素O2H、ヒドロキシラジカル・OHなどのさらに活性な活性種を容易に生成するからである。
【0030】
たとえば、放電電極表面において、沿面放電により生成されたプラズマにより、空気中の酸素(O2)および水(H2O)などの分子がエネルギーを受け、反応性を有する粒子に変換される。なお、正負両イオンは、主としてイオン発生素子の放電現象により発生するものであり、通常、正負の電圧を交互に印加させることにより正負両イオンを同時に発生させ空気中に放出することができる。しかしながら、本発明の処理方法において用いられる正負両イオンの発生方法はこれに限定されるものではなく、正負いずれかの一方の電圧のみを印加し正負いずれかの一方のみのイオンを先に発生させた後、次に逆の電圧を印加し既に送出されたイオンとは逆の電荷をもったイオンを発生させることもできる。なお、これらの正負両イオンの発生に必要な印加電圧は、電極の構造にもよるが3.0〜5.5kV、好ましくは3.2〜5.5kVの範囲とすることができる。
【0031】
放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として放電現象により発生した正負両イオンの組成は、主として正イオンとしてはプラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH3O+(H2O)n(nは0または自然数)を形成する。一方、負イオンとしてはプラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO2-が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりO2-(H2O)m(mは0または自然数)を形成する。
【0032】
そして、空間に放出されたこれらの正負両イオンは細菌などを取り囲み、菌の表面で正負両イオンが以下のような化学反応(1)、(2)によって、活性種である過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
【0033】
H3O++O2-→・OH+H2O2 (1)
H3O++O2-→HO2+H2O (2)
正負両イオンの濃度は、効果を発揮する対象領域において、該正負両イオンの合計数として、50個/m3〜500万個/m3、好ましくは500個/m3〜50万個/m3、さらに好ましくは5000個/m3〜5万個/m3とすることが好適である。50個/m3未満となる場合には十分な殺菌効果が得られない虞があるのに対して、500万個/m3を越える場合には副生するオゾンの濃度が上昇し、さらに設計条件によっては一般に安全とされている基準を超える可能性があり、後述する処理装置の安定性などを考慮すると、特に必要性がない限りは避けることが適当であると考えられる。なお、ここでイオン数の定義としては、小イオンを対象として計数したものであり、空気中の臨界移動度として、1cm2/V・秒としたものである。
【0034】
なお、空気がこのような反応性の粒子を含むか否かは、ガス質量分析検査、ガス濃度検査、変色検査、臭気検査、発光検査、発生音検査などによって、ガス組成を検査する方法が挙げられる。ガス質量分析検査は、従来公知の質量分析装置を利用することができ、ガス濃度検査は、ガスクロマトグラフィやイオンカウンターを利用して計測することができる。また、変色検査や臭気検査は、目視判定や嗅覚検査など官能性検査に付すことができるほか、色差計やニオイセンサなどを利用することもできる。また、発光検査や発生音検査は、これも目視判定や聴覚検査など官能性試験に付すことができるほか、吸光光度計、分光器、光センサ、照度計、マイクロフォンなどを利用することができる。
【0035】
本発明の処理方法において用いる反応性を有する粒子は、その寿命(すなわち、粒子数が時間に対して対数的に減少し、自然対数分の1に減少する時間を寿命と定義する。)がたとえば0.1μ秒〜3000秒であり、自然消滅することが望ましい。好ましくは、1μ秒〜300秒の寿命であるのがより好ましい。反応性を有する粒子の寿命が0.1μ秒未満であると、送風中に粒子が激減し、材料中のタンパク質まで粒子を十分到達させられないためであり、また、寿命が3000秒を越えると、粒子が消滅せず濃度上昇が抑えられず、性能の安定性が保てない可能性がある。ここで、前記反応性を有する粒子の寿命は、当該粒子が生成してから粒子数が時間に対して対数的に減少し、自然対数分の1に減少する時間を指し、たとえばイオンカウンターとイオン発生器である後述する放電手段との間に風洞を配置し、さらに一定流量の空気を流してイオン濃度を測定する方法において、風洞の長さを数種類に変更し、イオン数を比較することで、測定することができる。
【0036】
寿命がたとえば0.1μ秒〜3000秒である反応性を有する粒子を含む空気を用いることで、タンパク質との反応が急速に進み、所定の安定した効果を得ることができ、また、空間で蓄積することなく、目的とする箇所に安定した量のガスを放出することが可能となる。プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、空間での寿命が比較的短く、上述した範囲の寿命を満たすよう、公知の条件にて適宜調整することが可能である。さらに、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、空間での寿命が短く、固体に接触した場合の寿命も短い。そのため、細胞に接触した場合に、細胞タンパク質を破壊するが、細胞内部にある遺伝子を破壊する可能性が低い。したがって、遺伝子の変化を生じさせにくいことから、様々な突然変異による病原菌の発生や、アレルゲン物質を生じる新しい微生物が生じる可能性が低いため、食品や医薬品などの人体に摂取される物質の製造に応用することに適する。
【0037】
本発明の処理方法において、タンパク質を含有する材料が液体である場合、この液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化するのが好ましい。循環または攪拌させることで、液体中のタンパク質が順次表面に露出された状態でこれに反応性を有する粒子を含む空気を放出することができ、液体中のタンパク質を効果的に断片化することが可能となるためである。
【0038】
また、本発明の処理方法においては、反応性を有する粒子を含む空気を放出した後のタンパク質を含有する膜状物または液体の表面に、保護層を形成するのが好ましい。保護層は膜状物の形態(保護膜)であってもよいし、保護用の部材で覆う形態(保護カバー)、あるいはビンのキャップなどのいずれであってもよい。このように保護層を形成することで、前記材料中のタンパク質を有していた微生物、ウイルスまたはプリオンなどの増殖能力が低減されたまま、タンパク質断片化後の前記材料を保護することができるため、前記材料の変性が長期間生じにくく、前記材料の品質を長期間にわたって安定に保つことができる。保護層の形成材料としては、空気を透過しない材料が望ましく、アルミホイルや鉄などの金属、ビニール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのプラスチックに代表される有機化学物質などを用いることができる。
【0039】
本発明においては、放出対象が含有するタンパク質は微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、処理後の微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制する処理方法が、その好適な例として挙げられる。この処理方法により、放出対象に含有される菌、細菌などの微生物やウイルス、また感染性のタンパク質であるプリオンなどの増殖能力を低減でき、食品製造や医薬品製造の分野に適用することで、処理後の食品、医薬品、試薬などの安全性を高めることが可能となる。
【0040】
また本発明の処理方法は、液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することにより、当該液体または膜状物からアレルギー性を除去することもできる。これは、液体または膜状物中に含有されるアレルゲン物質もタンパク質から形成されていることを利用したものである。
【0041】
本発明の処理方法におけるタンパク質を含有する液体または膜状物は特に制限されるものではないが、当該タンパク質を含有する液体または膜状物が以下の(1)〜(3)のいずれかである場合に、特に有用である。
【0042】
(1)食品原料
(2)洗浄液または、洗浄液の残存物
(3)医薬品原料または試薬原料
また、タンパク質を含有する液体または膜状物が医薬品原料である場合には、当該医薬品原料がワクチンであるのが特に有用である。タンパク質を断片化させる対象がワクチン原料である場合、ワクチン原料に含まれる微生物またはウイルスが有するタンパク質を断片化することによる増殖能力の抑制と同時に、断片化されたタンパク質を利用したワクチンの効果を発揮させ、ワクチンとして免疫力の確保と、前記微生物またはウイルスによりまれに引き起こされる感染症の可能性の低下という効果を両立することできる。
【0043】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の処理方法の第1の実施形態を模式的に示す図である。図1は、本発明の処理方法を食品(具体的にはカマボコ)の製造方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が膜状物である例を段階的に示している。
【0044】
本発明の第1の実施の形態においては、まず、対象物であるカマボコ1を適宜配置し(図1(a))、カマボコ1の表面にたとえばへら3を利用して、表面に染料を含む魚肉入り練り材料を塗布し、膜状物2を形成する(図1(b))。
【0045】
次に、カマボコ1上に形成された膜状物2に、反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、魚肉入り練り材料である膜状物2に含有されるタンパク質を断片化する(図1(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえばイオンを含む空気を用いる。具体的には、カマボコ1と放電手段との距離が30cmの位置となるように後述する本発明の処理装置(図示せず)を設置し、放出手段の送風管4より風速1m/秒で送風を行い、カマボコ1の表面におけるイオン濃度が正イオンについて10万個/cm3、負イオンについて10万個/cm3、放出時間が3分間の条件で放出することができる。
【0046】
このようにカマボコ1上の膜状物2に反応性を有する粒子を含む空気を放出することで、膜状物2を構成する魚肉練り材料に含まれるタンパク質を断片化することにより、内部に存在する微生物の増殖能力を低下させることができる。また、魚肉練り材料に含まれるタンパク質からなるアレルゲン物質を破壊し、人体への影響を下げるという利点もある。なお、前記反応性を有する粒子を含む空気としては、反応性を有する粒子としてイオンを含むものに限定されず、プラズマまたはラジカルを含むものであっても勿論よい。
【0047】
図1に示す例の食品製造方法においては、図1(d)に示すように、上記反応性を有する粒子を含む空気の放出後、膜状物2を保護層6でコーティングする工程をさらに有していてもよい。保護層6でコーティングすることで、タンパク質を断片化した後の膜状物2を大気と接触させないように保護することができる。この場合、膜状物2に菌が含まれていても、前記反応性を有する粒子を含む空気の放出によって菌の増殖能力が抑えられるため、カマボコ1の内部で嫌気性菌などが増殖する虞もない。保護層6の形成材料としては、空気を透過しない材料が望ましく、上記例示したビニールやアルミホイルなどを用いることができる。図1(d)には、保護層6としてビニールを用い、へら7を用いて膜状物2上に塗布する例を示している。
【0048】
図1に示した例の製造方法に適用できる装置としては、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に反応性を有する粒子をを放出する手段とを備え、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有する装置を用いることができる。また、所望により、保護層6を塗布する機構をさらに備えていてもよい。
【0049】
<第2の実施の形態>
図2は、本発明の処理方法の第2の実施形態を模式的に示す図である。図2は、本発明の処理方法を洗浄(具体的には食器の洗浄)方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が洗浄液である例を段階的に示している。
【0050】
本発明の第2の実施の形態においては、まず、食器用の洗浄装置が通常備える適宜の枠体12に、食器11を立てかけるように収容する(図2(a))。なお、図2(a)に示す食器11には、食材の残り13が表面に残存している。
【0051】
次に、洗浄液14を用いて、枠体12内に収容された食器11を洗浄する。洗浄は、たとえば10m/秒の速度で噴出された洗浄液14を用い、約5分間洗浄する。この洗浄工程によって、食器11の表面に残存していた食材の残り13は除去される。
【0052】
そして、洗浄後の食器11に反応性を有する粒子を含む空気15を放出し、食器11表面上の洗浄液14またはその残存物(図示せず)に含有されるタンパク質を断片化する(図2(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえば反応性を有する粒子としてプラズマを含むものを用いることができる。具体的には、酸素ボンベから供給された酸素ガス中で放電することでプラズマを発生させる手段と、食器11の表面でO2+が約0.01ppmの濃度となるようにプラズマを放出する手段とを少なくとも備える装置を用いて実施することができる。なお、O2+はイオンであることから寿命が数秒あるいはそれ以下と見積もられるが、送風を工夫することにより洗浄装置内に上記イオンを充満させることが可能であり、食器11の表面に残存した水または残存物に含まれるタンパク質を断片化する効果を有し、菌などの増殖を抑制することが可能になる。そのため食器11をそのまま洗浄装置内で保存する場合においても、食器11の表面を清潔に保つことができる。なお、O2+の寿命は短いため、外部に対しては短期間で濃度が低下するため、外部への影響は無視できるという効果を得ることができる。
【0053】
なお、上述した本発明の第2の実施の態様において、反応性を有する粒子を含む空気は上述したものに限定されるものではなく、N2+、O2-、NO2-、CO2-などのイオンやOHラジカルなどのラジカル種、あるいはプラズマを含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0054】
<第3の実施の形態>
図3は、本発明の処理方法の第3の実施形態の処理工程を示すフローチャートである。図3は、本発明の処理方法を医薬品または試薬の製造方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が、医薬品原料または試薬原料である例を示している。本発明は、医薬品原料または試薬原料に反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該医薬品原料または試薬原料に含まれるタンパク質を断片化し、当該医薬品原料または試薬原料に含まれる微生物、ウイルスまたはタンパク質の増殖能力を除去することを特徴とする処理方法も提供する。
【0055】
本発明の第3の実施の形態では、まず、培養材料と微生物とを混合する(ステップ3−a)。続く工程では、前記培養材料と微生物との混合物を培養して、化学的成分を生成する(ステップ3−b)。続く工程では、培養後に生成された化学的成分を抽出する(ステップ3−c)。そして、前記工程で得られた抽出物(医薬品原料または試薬原料)に反応性を有する粒子を含む空気を放出する(ステップ3−d)。これによって該抽出物に含まれるタンパク質を断片化し、当該タンパク質を有していた微生物やウイルス、プリオンなどの増殖能力を低下させる。さらに、以上のようにして作成した物質を続く工程にてたとえば無菌包装することで、製品を完成させることができる(ステップ3−e)。
【0056】
上述した本発明の第3の実施形態では、反応性を有する粒子を含む空気を放出することにより医薬品原料、試薬原料中の微生物、ウイルス、プリオンなどの増殖能力を低減させることができ、これら微生物、ウイルス、プリオンなどによる感染症などの危険性を低下できる。
【0057】
なお、本発明の第3の実施形態において、化学的成分の抽出工程(ステップ3−c)と、反応性を有する粒子を含む空気の放出工程(ステップ3−d)とは、順序が逆であってもよい。また、前記抽出工程(ステップ3−c)を省略し、加熱工程などで代替するようにしてもよい。
【0058】
また本発明の第3の実施形態は、たとえば、遺伝子組換え大腸菌などを用いた薬品製造に利用できる。具体的には、培養材料と遺伝子組換え大腸菌を利用し、培養することにより、所定の化学物質を前記大腸菌に生産させる。その後、成分を遠心分離などで抽出し、その液を膜状に形成、あるいは循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を含む空気を放出し、膜状物または液体に含まれるタンパク質を分解させる。この工程により、生存している大腸菌の細胞膜タンパク質が分解され、大腸菌の増殖が以後停止するため、生成した化学物質を薬品、あるいは医薬品として利用することが可能となる。
【0059】
<第4の実施の形態>
図4は、本発明の処理方法の第4の実施の形態を模式的に示す図である。図4は、本発明の処理方法を食品(具体的には牛ハム)の製造方法に適用した例を、段階的に示している。
【0060】
本発明の第4の実施の形態においては、まず、加熱、醸成および味付けを予め行った後の牛肉を分断し、独立した適度な大きさのハムの塊21に加工する(図4(a))。次に、このハムの塊21の表面を洗浄または上薬を塗るなどの処理を行う。図4(b)には、前記処理後、ハムの塊21の表面に液体(洗浄液の残存物)または膜状物22が付着した状態を示している。
【0061】
続いて、ハムの塊21の表面に付着した液体または膜状物22に含まれるタンパク質、または、ハムの塊21自身の表面に存在するタンパク質を不活化するために、反応性を有する粒子を含む空気を放出する(図4(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえば、ラジカル(望ましくはOHラジカル)を放出する。ラジカルを生成する方法としては、放電により直接生成する方法でもよいが、これに限定されるものではない。たとえばH2O2すなわち過酸化水素が分解されOHラジカルに変換される方法を用いてもよいし、イオン化したガスを材料表面で反応させ、OHラジカルを生成する方法を用いてもよい。なお、図4(c)において、23はラジカル放出口、24はラジカルの進路を示している。上記工程後、袋(望ましくは真空パック)25によりハムの塊21を包装し、新たなタンパク質がハムの塊21に付着しないようにする(図4(d))。
【0062】
このような本発明の処理方法の第4の実施形態によれば、菌や細菌などの微生物やウイルスが有するタンパク質を不活化させるだけでなく、BSE(牛海綿状脳症)の原因とされるプリオンと呼ばれるタンパク質の一種などを分解の対象とすることも原理的に可能である。この場合、食品自体にわずかに残存する前記プリオンを表面にて取り除き、食生活の安全性を高めるために本製造技術を利用することが可能である。
【0063】
本発明はまた、上述した本発明の処理方法を実施するための処理装置も提供する。本発明の処理装置は、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に反応性を有する粒子を放出する手段とを、基本的に備える。このような本発明の処理装置は、断片化したいタンパク質を含む材料を気体に面する個所に移動させ、材料に含有されるタンパク質を順次材料表面に露出させながら、反応性を有する粒子を放出することができる。これによって、材料中に含有されるタンパク質を効率よく断片化することが可能となる。
【0064】
本発明の処理装置において、反応性を有する粒子は、本発明の処理方法において上述したように、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせる性質を有することが好ましい。さらに上述したように、この反応性の粒子は、自然消滅する性質を有することが望ましく、その寿命が0.1μ秒〜3000秒であるのがより好ましい。また前記反応性を有する粒子は、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0065】
本発明の処理装置における反応性を有する粒子を発生する手段としては、上述した反応性を有する粒子を含む空気を発生させるために従来より広く用いられてきた放電手段を適宜用いることができ、特に制限されるものではない。たとえば、沿面放電素子、コロナ放電素子、プラズマ放電素子などの各放電素子や、紫外線や電子線を放出する素子を利用したものを挙げることができる。放電手段における電極の形状や材質は、特に制限されるものではなく、従来公知の適宜のものを選択することができる。
【0066】
図5は、本発明の処理装置に好適に用いられる放電手段31を簡略化して示す図である。放電手段31は、たとえば、断面方形状の誘電体32と、誘電体32の一表面に網目状に形成された放電電極33と、誘電体32に埋め込まれた対向電極34と、電源35とを、基本的に備える。誘電体32としては、たとえばアルミナで形成された、約1cm×3cmのサイズのものを好適に用いることができる。放電手段31において、放電電極33および対向電極34は適当な間隔(たとえば0.2mm)を有するように形成される。電源35としては高圧パルス電源を用いることができ、放電電極33および対向電極34に電気的に接続されてなる。
【0067】
図5に示したような沿面放電素子を用いる場合、ある瞬間において正イオンが発生するかあるいは負イオンが発生するかは、放電素子の電極に印加される電圧がプラスであるかマイナスであるかにより定まる。すなわち、電極にマイナスの電圧が印加されると、電極はマイナスに帯電するので、空気中に存在する水蒸気が帯電して負イオンとなる。このため空気中に負イオンが多量に含まれることになる。逆に、電極にプラスの電圧が印加されると、空気中に存在する水蒸気が帯電して正イオンとなる。このため、空気中には正イオンが多量に含まれることになる。具体的には、上記高圧パルス電源からは、正と負からなる高圧パルス電圧(周波数60Hz、尖頭電圧約2kV)が生成され前記電極間に印加される。また、電極に印加する電圧を交流とすることにより、正イオンと負イオンが交互に生成されるようにしてもよい。
【0068】
本発明の処理装置におけるタンパク質を材料表面に露出させるための手段の一例としては、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有するものが挙げられる。このような機構を有することで、タンパク質を含む材料を膜状物に形成した上で、これに反応性を有する粒子を含む空気を放出して、膜状物中のタンパク質を断片化することができる。このような処理装置は、たとえば、図1を参照して上述した本発明の処理方法の第1の実施形態を実施するために好適に用いることができる。前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構は、従来公知の適宜の機構を応用して実現すればよい。
【0069】
また、前記タンパク質を含む材料が液体である場合には、本発明の処理装置における前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段として、当該液体を循環または攪拌させる機構を有するものを挙げることができる。図6は、本発明の好ましい一例の処理装置41を模式的に示す図である。処理装置41は、筐体42中に、上述した放電手段31と、その内部に液体44が収容された容器43と、放電手段31により生成された反応性を有する粒子を含む空気を液体44に放出するための放出手段(図示せず)とを備える。そして、容器43の底部には攪拌子45が載置され、この攪拌子45によって容器43内に収容された液体44が攪拌されて液体44の表面が順次入れ替わるように構成されている。図中白抜きの矢符で示すように、この液体44の表面に反応性を有する粒子を含む空気を放出することで、液体44の表面に順次露出したタンパク質を断片化し、液体44に含有されるタンパク質を効率的に不活化することができる。
【0070】
なお、図6に示した装置では、液体を攪拌させる構成としているが、液体表面にタンパク質を露出させるための手段として、ポンプを用いて溶液を循環させる機構を利用するようにしても勿論よい。
【0071】
本発明の処理装置における反応性を有する粒子を放出する手段(放出手段)としては、上記放電手段で生成された反応性を有する粒子を含む空気を放出対象に放出し得るように流動することができるものであればよく、特に制限されるものではない。たとえば、モータおよびそのモータの軸に取り付けられたファンからなり、モータを駆動することによりファンが回転し、送風するような機構を有する放出手段を好適に用いることができる。
【0072】
また本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段(たとえば、放電手段)と、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段(放出手段)とを備える洗浄装置も提供する。このような本発明の洗浄装置によれば、洗浄表面に付着したタンパク質成分を分解し、清浄な表面を形成するために好ましく適用でき、たとえば、上述した本発明の処理方法の第2の実施形態を実施するために特に好適に用いることができる。
【0073】
本発明の洗浄装置において、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段としては、たとえば、ポンプを用いて物体に熱した水道水を吹き付ける機構、水に界面活性剤を含む水を混ぜた後噴霧器で物体に前記水を吹きつける機構など適宜の公知の機構を適用したものにより実現できる。
【0074】
なお、本発明の洗浄装置における放電手段および放出手段は、本発明の処理装置において上述したものを適宜用いることができる。
【0075】
図7は、本発明の他の例の処理装置51を概念的に示す図である。図7に示す例の処理装置51は、反応性を有する粒子を発生する手段(放電手段52)と、反応性を有する粒子を放出する手段(図示せず)と、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段53と、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段54と、入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段55と、演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性を有する粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段56とを、基本的に備えるものである。
【0076】
図7に示す例の処理装置51において、放電手段52および放出手段としては、上述したのと同様のものを適宜用いればよい。
【0077】
入力手段53は、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力するための手段である。ここで、入力する情報としては、たとえば、微生物、タンパク質またはウイルスの名称が挙げられる。なお、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスが記憶手段に記憶されていないものである場合には、既に記憶されている類似の微生物、タンパク質またはウイルスの名称を入力するようにする。
【0078】
記憶手段54は、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する手段である。記憶手段54は、用事所望の情報にアクセスし得るようなデータベースとして実現される。前記不活化対象物に関する生化学的特長データとしては、たとえば、種々の微生物、ウイルスが有するタンパク質やプリオンなどのタンパク質のデータのほか、莢膜の有無、ペンタグリシン架橋構造の有無、タイコ酸の有無あるいは量、代謝型、酸素利用の特性、カタラーゼの量、シトクロムの量、芽胞形成の有無、色素生成量、細胞構造、生存メカニズムなどのうちの少なくともいずれかのデータが挙げられる。
【0079】
演算手段55は、入力手段53により入力された情報を記憶手段54のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する手段である。すなわち、入力された情報に連動して記憶手段54に格納されたこれに対応するデータが呼び出され、このデータより、本発明の処理装置51で生成する反応性を有する粒子を含む空気に対する、不活化対象である微生物、タンパク質、ウイルスの不活化性能を予測し、不活化動作に適した放出条件等を求める機能を有する。
【0080】
制御手段56は、演算手段55による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性を有する粒子を含む空気を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する手段である。図7に示す例の処理装置51においては、制御手段56は、前記演算手段55により決定された結果に基づき、所定の設定、すなわち自動動作か手動動作のいずれかにより、反応性を有する粒子を含む空気の放出を自動的に行うか、あるいは操作者が手動で反応性を有する粒子を含む空気の放出を作動させるかを選択する。反応性を有する粒子を含む空気の放出を自動的に行う場合には、制御手段56は、演算手段54により予測された結果に応じて放出手段による各種条件を設定し、作動させる。
【0081】
このような図7に示した構成の処理装置51によれば、不活化の効果と、各細胞の構成との関係とを所定の関係式でモデル化することにより、不活化を実際に試験していない細胞であっても、その種類から導かれる細胞の構成などをデータベースなどから入手し、不活化の速度などを予想することが可能になる。そして、あらゆる既存の菌、ウイルス、タンパク質以外の、未知の菌、ウイルス、タンパク質に対しても、既存の科目などから、タンパク質的な性質を既存データベースから予測し、分解性能を少ない誤差で求めることが可能になり、不活化を精度よく行うことができる。したがって図7に示した構成の処理装置51を用いることにより、食生活の安全性のみならず、生活空間の殺菌などに本装置を利用可能で、安全な生活を得るために本処理装置を利用することが可能となる。
【0082】
なお、図7に示した処理装置51における入力手段53は、処理装置51の記憶手段54や演算手段55における情報処理と連動するように情報を入力し得るよう実現された適宜の公知の手段を用いて実現される。また記憶手段54、演算手段55および制御手段56は、たとえば中央演算装置(CPU)、マイクロコンピュータなどで実現できる。また図7に示した処理装置51は、好ましくは、入力手段53により入力された情報や、用事呼び出された記憶手段54に格納されたデータ、手動により反応性を有する粒子を含む空気を放出する場合の操作者に提示すべき情報などを表示するための表示手段を有するように実現される。
【0083】
以下、本発明の処理方法および処理装置に関し、対象物に反応性を有する粒子を含む空気を放出した場合の試験データを開示する。当該試験は、放電により生じさせた反応性を有する粒子を含む空気が付着菌に対して示す殺菌性能を評価試験したものである。
【0084】
<実験例1>
以下の条件で試験を行った。
【0085】
試験方法には、菌をPBS緩衝溶液(pH=7.4)に懸濁させた後、トレイ63内に形成された寒天培地64上に塗布し、所定の処理(放電手段により生成した、正イオンであるH3O+(H2O)n(nは0または自然数)および、負イオンであるO2-(H2O)m(mは0または自然数)を放出および、寒天培地上に前記イオンを自然拡散。)を行った後、72時間、37℃の培養を行い、コロニー数を計測する方法を利用した。第一の試験として、付着菌への放電ガスの殺菌性能を調べるため、菌としてスタフィロコッカス(Staphylococcus:ブドウ球菌)、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus:腸球菌)、サルチナフレイバ(Sarchinaflava)、マイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)を用いて、前記方法により寒天培地上に菌を塗布し、さらに8時間の培養(37℃)を行い、菌のコロニーを形成させた。
【0086】
続いて、図8に示すような、筐体62内に放電手段31および放出手段(図示せず)を備える装置61を用い、放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として放電現象により正負両イオンを発生させ、上述したような反応により生じた過酸化水素H2O2、二酸化水素O2Hまたはヒドロキシラジカル・OHを反応性の粒子として含有する空気を対象に放出した。なお、筐体62は、21cm×14cm×14cmのサイズのものを用いた。このような処理装置61の筐体62内に、前記菌を塗布した寒天培地64を収容したトレイ63を順次載置し、白抜きの矢符で示すように反応性を有する粒子を含む空気を放出し、寒天培地にイオンが行き渡るようにして、反応性を有する粒子を含む空気に暴露させた。イオン濃度は、寒天培地上で正負イオンが各約3,500個/cm3(ただし限界移動度を1cm2/V・cmとして小イオンの濃度を測定)としており、オゾン濃度は0.01ppm未満であった。なお、試験の箱内部にはファンは設けず、イオンは自然対流と自然拡散により暴露するようにした。
【0087】
以上の試験において、引き続いて72時間、37℃の培養を行い、コロニー数および状態を観察した。図9は、その結果を示すグラフである。図9に示すように、イオンを反応性を有する粒子として含む空気を菌に放出すると、放出時間が長くなるにつれて、培養後に得られたコロニー数(CFU;Colony Forming Unit)が減少した。このことから、イオンが付着菌を殺菌する効果があることが分かる。なお、図9においては、菌種により不活化の速度あるいは程度が異なっていることが示されている。このような差が生じる理由として、菌種により細胞の構成(細胞膜の材料、細胞表面および内部の状態、生存の方法など)が異なり、プラズマ、イオンあるいはラジカルなどに対する細胞の耐性が異なることが原因と考えられる。
【0088】
ここで、以上4種の菌における細胞壁の比較を行った結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1には、菌の主な構成要素であるペプチドグリカンタンパク、タイコ酸、多糖類などを構成する代表的な要素と、細胞の特徴について示している。なお、表において、+はその性質を多く有していること、−はその性質が少ないことを示し、+/−はその中間であることを示すものである。
【0091】
表1における項目を次に説明する。
・莢膜は多糖類からなる膜で、たとえば病原性の強い細菌は莢膜多糖類をペプチドグリカン層の外に持っているとされる。
・ペンタグリシン架橋構造(5−Gly−cross bridges in cell wall)は、細胞壁を構成する構造の一つである。
・タイコ酸は、細胞壁に含まれており、アルコールとリン酸基の化合物である。
・代謝型は、原材料となる物質を摂取し、細胞の構成要素の構築やエネルギー生産、あるいは副産物を放出したりする方法である。
・酸素利用については、菌がどのような空気環境を好むかについての項目である。
・カタラーゼは、過酸化水素を分解して酸素と水に変える酵素であり、抗酸化剤として機能する。
・シトクロムは、酸化還元機能を持つヘム鉄を含有するヘムタンパク質の一種である。
・芽胞形成は、細菌が殻につつまれた状態になる性質をいう。
・色素生成は、細胞において自ら色素を生成し、細胞内に蓄積/保持する性質を示す。
【0092】
図9に示したグラフでは、同じ試験条件において、サルチナフレイバおよびマイクロコッカスロゼウスが比較的不活化の時間を要しているのに対して、エンテロコッカスマロドーラトゥスおよびスタフィロコッカスでは急速に不活化が進んでいる。
【0093】
図9において処理時間が100分のところを指標にすると、不活化が遅いものから、サルチナフレイバ、マイクロコッカスロゼウス、スタフィロコッカス、エンテロコッカスマロドーラトゥスの順になる。この不活化の速度の差と表1とを比較すると、サルチナフレイバは、カタラーゼ、芽胞形成、色素生成の特徴を多く有し、さらに耐気性の性質を有していることから、空気中に存在する反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐えやすい性質を有していると考えられ、最も不活化が進まないというモデルが考えられる。また、マイクロコッカスロゼウスは、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成の特徴を多く有していることから、サルチノフレイバに次いで不活化が遅い性質を示すと考えられる。
【0094】
一方、スタフィロコッカスは、カタラーゼ、シトクロムを多く有しているものの、芽胞を形成せず、色素生成が少なく、さらに条件的嫌気性菌であることから、反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐え難い性質を前記2種より示すものと考えられる。
【0095】
次に、エンテロコッカスマロドーラトゥスは、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成などの防御機構が少なく、さらに条件的嫌気性菌であることから、他の3種の菌より反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐えにくい性質を有していることが予想され、実際に最も不活化が大きい結果を得られている。
【0096】
なお、以上の考察では、酸素利用については好気性が不活化に大きな耐性を示し、また、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成についてはこれらが不活化に大きな耐性を示すものと予想され、実際にその傾向を確認できた。
【0097】
一方、その他の項目である、莢膜、ペンタグリシン架橋構造、タイコ酸、代謝型については今回の試験では作用は明確にできないが、他の対照試験により、それらの項目の作用および作用の程度を確認することが可能である。
【0098】
以上に示したように、菌における細胞の構成を調べることにより、イオン、プラズマ、オゾン、ラジカル、またさらにはたとえば酸化や還元作用などを有する化学物質などの反応性を有する粒子を含む空気によって、細胞の不活化の制御が可能である。また、不活化の効果と、各細胞の構成との関係とを所定の計算式でモデル化することにより、不活化を実際に試験していない細胞であっても、その種類から導かれる細胞の構成などをデータベースなどから入手し、不活化の速度などを予想することが可能になる。そして、このことを利用して、図7を参照して上述した処理装置51などを実現することができる。
【0099】
<実験例2>
カビへの殺菌性能を調べるため、ペニシリウムクリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、スタキボトリスチャルトラム(Stachybotrys chartarum)、アスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor:コウジカビ)、ペニシリウムカマンベルティ(Penicillium camambertii)、クラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum:黒カビ)に対して、実験例1と同様の実験を行った。図10はペニシリウムクリソゲナム、図11はスタキボトリスチャルトラム、図12はアスペルギルスベルシコロル、図13はペニシリウムカマンベルティ、図14はクラドスポリウムヘルバレムについての結果をそれぞれ示すグラフである。実験の結果、カビに対してもイオンを放出すると放出時間が長くなるにつれて、培養後に得られたコロニー数(CFU:Colony Forming Unit)が減少することが明らかとなった。
【0100】
<実験例3>
カビは熱的衝撃や物理的攻撃に耐性がある胞子形成を行う菌であることより、胞子を形成し始めた時に、それがイオンをブロックして本発明による細菌のタンパク質の分解が起こらなくなる懸念がある。そこで、我々の生活環境で非常に多く見られるカビであるアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor:コウジカビ)とクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum:黒カビ)をシャーレ上で培養し、胞子を一端形成した後、これに実験例1と同様にしてイオンの放出を4時間行い、どのような変化が見られるかを調べた。図15は、実験例3のアスペルギルスベルシコロルとクラドスポリウムヘルバレムについての結果を示す写真である。図15に示すように、上記実験の結果、イオンの放出によりさらなる胞子の形成を阻害し、カビのコロニーを消滅させることがわかった。
【0101】
そこで、上記以外のカビについても同様の実験を行った。結果を表2に示す。表2に示すように、他のカビの場合にも、同様に胞子形成の阻害、コロニーの消滅が観察されることが分かった。このことから、イオンがグラム陽性球菌およびカビ、両者の付着菌を殺菌する効果があることが分かる。
【0102】
【表2】
【0103】
<実験例4>
反応性を有する粒子としてイオンを含む空気を付着菌に放出することによるタンパク質の変化を調べた。実験方法としては、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)をそれぞれ塗布した複数の寒天培地に、実験例1と同様にしてイオンを放出し、放出後15分、30分、60分、90分、120分、240分、480分、960分の時点での膜タンパク質をそれぞれ抽出し、SDS−PAGEにて二次元電気泳動を行った。図16は、実験例4の結果を示す写真である。図16に示すように、イオンを放出することで、病理的な現象として現れるような多数のタンパク質の断片が観察された。この膜タンパク質の断片化および凝集は、イオンの放出時間と対応しており、イオンの放出時間が長くなるほど、膜タンパク質の損傷が大きくなることを示している。
【0104】
以上の結果は以下のようなメカニズムにより説明される。つまり、寒天培地に塗布した菌は、当初は菌が単体で寒天培地の表面に露出しており、空気中のイオンと接触することにより細胞膜が破壊され、細胞内のタンパク質が外へ流れ出ていることが考えられる。このタンパク質の流出により膜の機能不全が起こることが菌の不活化(殺菌)につながると考えられる。実験例1において示した図9では、以上の作用の結果が示されているものと考えられる。
【0105】
<実験例5>
次に、上述した実験において用いてきたイオンにDNAの損傷力がなく、発癌作用がないことを実証した。実験例5では、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)、バチルス(Bacillus:枯草菌)に、実験例1と同様にしてイオンを含む空気を放出し、未放出、放出後1時間、放出後2時間の時点の菌よりそれぞれ常法にて抽出したDNAを電気泳動した。図17は、実験例5の結果を示す写真である。図17において、各レーンは以下を意味している。
【0106】
・EK:エンテロコッカスのイオン未放出
・E1:エンテロコッカスのイオン1時間放出
・E2:エンテロコッカスのイオン2時間放出
・BK:バチルスのイオン未放出
・B1:バチルスのイオン1時間放出
・B2:バチルスのイオン2時間放出
また、図17の中央の2つのレーンには、対照実験として、エンテロコッカス、バチルスからのDNA抽出物それぞれについて、標準の陽性反応が生じる反応を生じさせ、断片化した結果を示している。
【0107】
結果、DNAはイオンの放出を受けても単一なバンドとして現れたことから、一本鎖になっていないことが明らかとなった。つまり、イオンの放出を行っても、DNAには損傷がなく発癌性の危険性はないといえる。なお、本試験では、正イオンとしてH3O(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンとしてO2(H2O)m(mは0または自然数)を主に放出するような放電条件を選んだが、放電により生成される反応性を有する粒子は以上の物質に限られるものではない。上記2種以上の物質、たとえば、N2+、O2+、NO2-、CO2-などのイオンやラジカルなどを含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0108】
以上のように、菌にイオンを含む空気を放出した場合、菌の細胞膜は破壊されたが、内部のDNAが保存されているという結果は以下のように説明される。以上のタンパク質破壊に寄与する物質は、空間に放出された正イオンおよび負イオンであり、これは我々の実験によれば、条件により異なるが空間での寿命が約5〜30秒である。これは、イオンが反応性を有する粒子であり、空気中の塵やイオンと衝突し、反応して消滅することが原因である。そのため、このイオンが細胞に接触すると、細胞と反応が急速に進む一方、その短い寿命のため内部のDNAへは影響を及ぼさないものと考えられる。以上のような効果は、粒子の寿命がイオンと同程度あるいはそれより短い粒子であれば実現可能と考えられ、たとえば空気中での寿命が約1μ秒であるOHラジカルなどでも同様の効果が示されると考えられる。
【0109】
また、タンパク質の破壊のために、上記反応性を有する粒子の必要な濃度について考察を行ってみる。細胞はサイズがおおよそ10μm程度と考えられることから、1cm2の面積の中には、細胞が100万個並んでいることになる。これらのタンパク質を破壊するためには、細胞の量に匹敵する粒子を接触させる必要があるから、反応性を有する粒子の数としては、1cm3中にその数倍、たとえば500万個程度の粒子数があれば一定のタンパク質分解効率を確保することができる。また、空気中の浮遊菌に対しては、たとえば空間での菌が1cm3あたり1個存在する場合、反応性を有する粒子は衝突確率がたとえば1/1000とすると、反応性を有する粒子の数は1cm3中に1,000個程度の粒子数があれば一定の浮遊菌のタンパク質分解効率を確保することができる。
【0110】
以上から、寿命が比較的短い反応性を有する粒子を用いることにより、細胞膜を破壊し、かつDNAを保存することが可能となる。
【0111】
<実験例6>
次に、細菌は自己修復能力があり、殺菌処理が不十分な場合(たとえば紫外線照射時間が短かったり、薬剤投与量が少なかったりした場合)、細菌が生き返り増殖が起こる場合が知られている。そこで、正と負イオンによる細菌不活化の不可逆性の試験を実施した。菌種はエンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)、スタフィロコッカスクロモゲネス(Staphylococcus chromogenes)、マイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)、サルチナフレイバ(Sarcina flava)を用いた。
【0112】
寒天培地上に菌を付着させ、実験例1と同様にして、正負両イオンを含む空気を90分間放出した。イオン処理後の細菌を4℃で3日間低温保存した。これは、細菌に回復時間を与えたこととなる。低温保存した場合と保存しない場合でのイオン放出による残存菌数の経時変化を測定した。図18はエンテロコッカスマロドーラトゥス、図19はスタフィロコッカスクロモゲネス、図20はマイクロコッカスロゼウス、図21はサルチナフレイバについての結果をそれぞれ示すグラフである。4種全ての細菌において低温保存有無による経時変化の有意な差は確認されず、低温保存による細菌の回復はみられなかった。
【0113】
また、寒天培地上に菌を付着させ、実験例1と同様にして、正負両イオンを含む空気を90分間放出した後、培養器で37℃、48時間培養し、細菌のコロニーを発生させた後、さらに21日間37℃で培養し、新たなコロニー発生の有無を調べる実験も併せて行った。結果、21日間培養しても新たなコロニーの発生は確認されず。増殖環境においても、細菌の回復は見られなかった。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0115】
さらに、イオン放出による培地の劣化影響を調べるため、寒天培地上に菌を付着させた後、正負両イオンを含む空気を放出した。その後、イオンを放出していない培地に細菌を移し、細菌の回復を調べたが、細菌の回復はみられなかった。
【0116】
これらより、反応性を有する粒子を含む空気を放出することによる細菌不活化方法は、細菌の自己修復能力をなくし、完全に死滅させる方法であることが分かる。
【0117】
なお、本発明の処理方法は、付着した物体に対して有効であるが、空間に浮遊する菌、ウイルス、タンパク質にも効果が期待できるため、付着物と浮遊物の両方に該反応性を有する粒子を含む空気を放出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の処理方法の第1の実施形態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の処理方法の第2の実施形態を模式的に示す図である。
【図3】本発明の処理方法の第3の実施形態の処理工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の処理方法の第4の実施形態を模式的に示す図である。
【図5】本発明の処理装置に好適に用いられる放電手段31を簡略化して示す図である。
【図6】本発明の好ましい一例の処理装置41を模式的に示す図である。
【図7】本発明の他の例の処理装置51を概念的に示す図である。
【図8】評価試験に用いた処置装置61を模式的に示す図である。
【図9】実験例1の結果を示すグラフである。
【図10】実験例2のペニシリウムクリソゲナム(Penicillium chrysogenum)についての結果を示すグラフである。
【図11】実験例2のスタキボトリスチャルトラム(Stachybotrys chartarum)についての結果を示すグラフである。
【図12】実験例2のアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor)についての結果を示すグラフである。
【図13】実験例2のペニシリウムカマンベルティ(Penicillium camambertii)についての結果を示すグラフである。
【図14】実験例2のクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum)についての結果を示すグラフである。
【図15】実験例3のアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor)とクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum)についての結果を示す写真である。
【図16】実験例4の結果を示す写真である。
【図17】実験例5の結果を示す写真である。
【図18】実験例6のエンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)についての結果を示すグラフである。
【図19】実験例6のスタフィロコッカスクロモゲネス(Staphylococcus chromogenes)についての結果を示すグラフである。
【図20】実験例6のマイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)についての結果を示すグラフである。
【図21】実験例6のサルチナフレイバ(Sarcina flava)についての結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0119】
1 カマボコ、2 膜状物、3 へら、4 送風管、6 保護層、11 食器、12 枠体、13 食材の残り、14 洗浄液、15 反応性を有する粒子を含む空気、21 ハムの塊、22 液体または膜状物、23 ラジカル放出口、24 ラジカルの進路、25 袋、31 放電手段、32 誘電体、33 放電電極、34 対向電極、35 電源、41 処理装置、42 筐体、43 容器、44 液体、45 攪拌子、51 処理装置、52 放電手段、53 入力手段、54 記憶手段、55 演算手段、56 制御手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性を有する粒子を用いて材料中のタンパク質を断片化することによって、洗浄、食品製造、薬品製造などの分野において処理プロセスの改質、品質の確保を行い、さらに優れた品質の製品を製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タンパク質を分解する技術が食品製造あるいは医療分野において利用されている。たとえば、発酵を用いる方法では、タンパク質あるいはデンプンなどをバクテリアや酵素の反応により、アルコールやビタミンに変換することが行われている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、タンパク質分解を食品製造分野に利用した例として、仕込槽で麦芽と温水を混合し所定温度で所定時間経過させてタンパク質を分解させてマイシェ(もろみ状のもの)を形成する工程において所定量のタンパク質分解酵素を添加し、かつ添加量を調整して、麦汁中の遊離アミノ態窒素生成量を制御する発泡酒の製造方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、タンパク質分解を利用しアレルギー性を除去して食品を製造するための技術として、原料タンパク質に、エンドプロテアーゼにより、分解率が20〜30%の範囲で第一の加水分解を実施し、得られたタンパク質加水分解質物を孔径1nm〜5μmの膜を使用して膜分画し、透過画分に、エキソプロテアーゼを含むプロテアーゼにより、分解率を2〜8%増加し、かつ最終的な分解率が25〜35%となる範囲で、第二の加水分解を実施するタンパク質加水分解物の製造方法が開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、タンパク質分解を医療分野に利用した例として、人体の血液を体外循環させ、体外循環させている血液を、電気分解を起こさない範囲内の電圧または電気分解を起こす電圧以上の電圧または磁場をかけている、電極と電極または磁場と磁場の間を通過させて、電圧、電流の直接的な影響かまたは電気分解により発生する塩素などの間接的な影響で、たとえば血液中および血漿成分中などに存在するHIVウイルスのRNAまたは逆転写酵素またはタンパク質分解酵素またはHIVウイルスの表面上にあるエンベロープまたはその他のHIVウイルスの重要な部分を損傷または破壊する、ウイルスを不活化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−117760号公報
【特許文献2】特開2001−333794号公報
【特許文献3】特開平8−56657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1〜3に記載の方法は、いずれも大量のタンパク質を分解する方法としては適しているが、それを実現するための装置が大掛かりになるという問題がある。たとえばタンパク質を分解する方法として酵素を用いる場合、変換効率を上げるため適度な温度条件で反応を生じさせる必要がある。そのため、反応を起こさせるための熱源や温度制御装置などが必要となる。またこの場合、発酵のために長時間を要するという問題もある。
【0007】
一方、タンパク質を含む材料に電圧または電流を印加することによりタンパク質を分解する方法では、当該材料が流動性のないゲルや導電性を有しない場合にはタンパク質分解の効果を得ることができないという問題がある。特に、前記タンパク質を含む材料が膜状に加工されている場合には、当該膜状物を破壊することなく、電圧や電流を印加するための通電電極を安定して接触させにくいという問題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、液体や膜状物、医薬品原料や試薬原料などの中に含まれるタンパク質を、従来と比較して格段に簡便かつ確実に分解することができる処理方法、およびそのための処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法である。
【0010】
本発明の処理方法においては、液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化するのが好ましい。
【0011】
また本発明の処理方法においては、前記反応性を有する粒子を放出後の膜状物または液体を覆うように保護層を形成するのが好ましい。
【0012】
本発明における反応性を有する粒子は、タンパク質に対し、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせることを特徴とするものであることが好ましい。
【0013】
また前記反応性を有する粒子は、空気中で自然消滅する性質を有することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0014】
本発明における前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0015】
本発明の処理方法は、前記タンパク質が微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0016】
また本発明の処理方法は、前記タンパク質がアレルゲン物質を構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、アレルギー性を除去することを特徴とするものであるのが好ましい。
【0017】
本発明の処理方法において、前記タンパク質を含有する液体または膜状物は、以下の((1)〜(3)のいずれかであるのが好ましい。
【0018】
(1)食品原料
(2)洗浄液または、洗浄液の残存物
(3)医薬品原料または試薬原料(医薬品原料の中でも特にワクチン)
本発明はまた、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える処理装置を提供する。
【0019】
本発明の処理装置において、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有するのが好ましい。
【0020】
また前記タンパク質を含む材料が液体である場合には、本発明の処理装置における前記前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段は、当該液体を循環または攪拌させる機構を有するのが、好ましい。
【0021】
本発明の処理装置において、前記反応性を有する粒子が、空気中で自然消滅することを特徴とするものであることが好ましい。
【0022】
本発明の処理装置における前記反応性を有する粒子は、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0023】
また本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段とを備える洗浄装置も提供する。
【0024】
さらに本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段と、反応性を有する粒子を放出する手段と、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段と、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段と、入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段と演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性の粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段とを備える処理装置も提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る処理方法および処理装置によれば、製造工程において細菌などのタンパク質を効果的にかつ安全に断片化できるので、食品や薬品の製造、あるいは洗浄などに大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、液体または膜状物に反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化する処理方法である。本発明の処理方法によれば、反応性を有する粒子を空気に含ませて放出することにより、対象物の表面に沿って、反応性を有する粒子を拡散あるいは送り出すことが可能で、前記粒子と対象物とを効率よく反応させることができる。また、本発明の処理方法によれば、従来のように大掛かりな装置等を必要とすることなく、簡便かつ確実に上記液体また膜状物中に含まれるタンパク質を断片化することができる。ここで、本発明における「タンパク質の断片化」とは、タンパク質内の分子結合を切断することにより構造的に分離・分解することを指し、化学修飾を伴う分解も包含する。タンパク質を断片化することにより、本来のタンパク質の分子量が変化し、本来の物性および機能を欠失する。これによって、当該タンパク質を含有していた材料におけるアレルギー性の除去、微生物、ウイルスまたはプリオンなどの増殖能力の低下、アミノ酸などの生成などが可能となる。したがって、本発明の処理方法は、食品製造、医薬品製造、試薬製造など、広範な分野への応用が可能である。また、本発明の処理方法によれば、従来の電圧または電流の印加を利用した方法とは異なり、ゲルや導電性を有しない材料であってもその中に含有されるタンパク質を断片化することができ、また、膜状物であっても破壊することなくタンパク質の断片化を行うことができるという利点がある。また本発明の処理方法では、断片化するタンパク質を含有する材料が液体または膜状物であることにより、反応性を有する粒子によりタンパク質を含む材料表面における酸化などの相互作用を効率的に行うことが可能となる。
【0027】
本発明の処理方法における反応性を有する粒子とは、原子または分子が物理的または化学的に高いエネルギー状態となったものを指す。当該反応性を有する粒子の生成方法としては、放電、電界による電子の励起、あるいは電界などにより加速された荷電粒子などを衝突させること、光励起、運動エネルギーを与えることなどが応用可能である。なお、前記反応性を有する粒子は、外部の有機化学物質に化学的反応を及ぼすことが可能である特徴を有するため、タンパク質に対して直接あるいは二次的に、酸化、還元、加水分解、付加反応などの作用を及ぼすことが可能で、タンパク質を断片化、すなわち分解し、タンパク質としての機能を変化させる効果を示すような性質を有する粒子を指す。反応性を有する粒子は、具体的には、プラズマ、イオン、ラジカル、窒素酸化物(NO、NOx)、硫黄酸化物(SOx)、炭化水素類、酸化水素(H2O2、HO2)や、さらには加速した電子、加速した陽子、原子状水素、放射能から放出される高エネルギー原子あるいは分子などが挙げられるが、中でもプラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子を含む空気が好ましく、正イオンと負イオンを反応性の粒子として含む空気が特に好ましい。なお、上述した反応性を有する粒子の生成方法においては、副生成物としてオゾンが発生する場合がある。オゾンは寿命が長く残留性があるため、できるだけ濃度が低いほうが望ましいが、周辺において人体等に影響を及ぼさない量であれば、わずかに含まれていてもよい。
【0028】
前記プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、たとえば電気的に励起することで生成可能であり、比較的寿命が短い粒子であることから放出対象である材料に含有されるタンパク質を迅速に断片化し、さらに短時間で消滅するため放出対象には大きな効果を与えるとともに、放出対象以外に与える影響を小さく抑えることができる。そのため、放出対象の外部に反応性を有する粒子を含む空気が漏れ出るような環境下でも、外部への影響を考慮する必要がない。
【0029】
正イオンおよび/または負イオンとしては、H3O+(H2O)n(nは0または自然数)および/またはO2-(H2O)m(mは0または自然数)を挙げることができ、これらを主体として構成することが好ましい。大気中の酸素や水分などから発生させることができるため環境負荷が低く、またこれらの両者が反応して過酸化水素H2O2、二酸化水素O2H、ヒドロキシラジカル・OHなどのさらに活性な活性種を容易に生成するからである。
【0030】
たとえば、放電電極表面において、沿面放電により生成されたプラズマにより、空気中の酸素(O2)および水(H2O)などの分子がエネルギーを受け、反応性を有する粒子に変換される。なお、正負両イオンは、主としてイオン発生素子の放電現象により発生するものであり、通常、正負の電圧を交互に印加させることにより正負両イオンを同時に発生させ空気中に放出することができる。しかしながら、本発明の処理方法において用いられる正負両イオンの発生方法はこれに限定されるものではなく、正負いずれかの一方の電圧のみを印加し正負いずれかの一方のみのイオンを先に発生させた後、次に逆の電圧を印加し既に送出されたイオンとは逆の電荷をもったイオンを発生させることもできる。なお、これらの正負両イオンの発生に必要な印加電圧は、電極の構造にもよるが3.0〜5.5kV、好ましくは3.2〜5.5kVの範囲とすることができる。
【0031】
放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として放電現象により発生した正負両イオンの組成は、主として正イオンとしてはプラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH3O+(H2O)n(nは0または自然数)を形成する。一方、負イオンとしてはプラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO2-が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりO2-(H2O)m(mは0または自然数)を形成する。
【0032】
そして、空間に放出されたこれらの正負両イオンは細菌などを取り囲み、菌の表面で正負両イオンが以下のような化学反応(1)、(2)によって、活性種である過酸化水素H2O2、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
【0033】
H3O++O2-→・OH+H2O2 (1)
H3O++O2-→HO2+H2O (2)
正負両イオンの濃度は、効果を発揮する対象領域において、該正負両イオンの合計数として、50個/m3〜500万個/m3、好ましくは500個/m3〜50万個/m3、さらに好ましくは5000個/m3〜5万個/m3とすることが好適である。50個/m3未満となる場合には十分な殺菌効果が得られない虞があるのに対して、500万個/m3を越える場合には副生するオゾンの濃度が上昇し、さらに設計条件によっては一般に安全とされている基準を超える可能性があり、後述する処理装置の安定性などを考慮すると、特に必要性がない限りは避けることが適当であると考えられる。なお、ここでイオン数の定義としては、小イオンを対象として計数したものであり、空気中の臨界移動度として、1cm2/V・秒としたものである。
【0034】
なお、空気がこのような反応性の粒子を含むか否かは、ガス質量分析検査、ガス濃度検査、変色検査、臭気検査、発光検査、発生音検査などによって、ガス組成を検査する方法が挙げられる。ガス質量分析検査は、従来公知の質量分析装置を利用することができ、ガス濃度検査は、ガスクロマトグラフィやイオンカウンターを利用して計測することができる。また、変色検査や臭気検査は、目視判定や嗅覚検査など官能性検査に付すことができるほか、色差計やニオイセンサなどを利用することもできる。また、発光検査や発生音検査は、これも目視判定や聴覚検査など官能性試験に付すことができるほか、吸光光度計、分光器、光センサ、照度計、マイクロフォンなどを利用することができる。
【0035】
本発明の処理方法において用いる反応性を有する粒子は、その寿命(すなわち、粒子数が時間に対して対数的に減少し、自然対数分の1に減少する時間を寿命と定義する。)がたとえば0.1μ秒〜3000秒であり、自然消滅することが望ましい。好ましくは、1μ秒〜300秒の寿命であるのがより好ましい。反応性を有する粒子の寿命が0.1μ秒未満であると、送風中に粒子が激減し、材料中のタンパク質まで粒子を十分到達させられないためであり、また、寿命が3000秒を越えると、粒子が消滅せず濃度上昇が抑えられず、性能の安定性が保てない可能性がある。ここで、前記反応性を有する粒子の寿命は、当該粒子が生成してから粒子数が時間に対して対数的に減少し、自然対数分の1に減少する時間を指し、たとえばイオンカウンターとイオン発生器である後述する放電手段との間に風洞を配置し、さらに一定流量の空気を流してイオン濃度を測定する方法において、風洞の長さを数種類に変更し、イオン数を比較することで、測定することができる。
【0036】
寿命がたとえば0.1μ秒〜3000秒である反応性を有する粒子を含む空気を用いることで、タンパク質との反応が急速に進み、所定の安定した効果を得ることができ、また、空間で蓄積することなく、目的とする箇所に安定した量のガスを放出することが可能となる。プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、空間での寿命が比較的短く、上述した範囲の寿命を満たすよう、公知の条件にて適宜調整することが可能である。さらに、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかの反応性を有する粒子は、空間での寿命が短く、固体に接触した場合の寿命も短い。そのため、細胞に接触した場合に、細胞タンパク質を破壊するが、細胞内部にある遺伝子を破壊する可能性が低い。したがって、遺伝子の変化を生じさせにくいことから、様々な突然変異による病原菌の発生や、アレルゲン物質を生じる新しい微生物が生じる可能性が低いため、食品や医薬品などの人体に摂取される物質の製造に応用することに適する。
【0037】
本発明の処理方法において、タンパク質を含有する材料が液体である場合、この液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化するのが好ましい。循環または攪拌させることで、液体中のタンパク質が順次表面に露出された状態でこれに反応性を有する粒子を含む空気を放出することができ、液体中のタンパク質を効果的に断片化することが可能となるためである。
【0038】
また、本発明の処理方法においては、反応性を有する粒子を含む空気を放出した後のタンパク質を含有する膜状物または液体の表面に、保護層を形成するのが好ましい。保護層は膜状物の形態(保護膜)であってもよいし、保護用の部材で覆う形態(保護カバー)、あるいはビンのキャップなどのいずれであってもよい。このように保護層を形成することで、前記材料中のタンパク質を有していた微生物、ウイルスまたはプリオンなどの増殖能力が低減されたまま、タンパク質断片化後の前記材料を保護することができるため、前記材料の変性が長期間生じにくく、前記材料の品質を長期間にわたって安定に保つことができる。保護層の形成材料としては、空気を透過しない材料が望ましく、アルミホイルや鉄などの金属、ビニール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのプラスチックに代表される有機化学物質などを用いることができる。
【0039】
本発明においては、放出対象が含有するタンパク質は微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、処理後の微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制する処理方法が、その好適な例として挙げられる。この処理方法により、放出対象に含有される菌、細菌などの微生物やウイルス、また感染性のタンパク質であるプリオンなどの増殖能力を低減でき、食品製造や医薬品製造の分野に適用することで、処理後の食品、医薬品、試薬などの安全性を高めることが可能となる。
【0040】
また本発明の処理方法は、液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することにより、当該液体または膜状物からアレルギー性を除去することもできる。これは、液体または膜状物中に含有されるアレルゲン物質もタンパク質から形成されていることを利用したものである。
【0041】
本発明の処理方法におけるタンパク質を含有する液体または膜状物は特に制限されるものではないが、当該タンパク質を含有する液体または膜状物が以下の(1)〜(3)のいずれかである場合に、特に有用である。
【0042】
(1)食品原料
(2)洗浄液または、洗浄液の残存物
(3)医薬品原料または試薬原料
また、タンパク質を含有する液体または膜状物が医薬品原料である場合には、当該医薬品原料がワクチンであるのが特に有用である。タンパク質を断片化させる対象がワクチン原料である場合、ワクチン原料に含まれる微生物またはウイルスが有するタンパク質を断片化することによる増殖能力の抑制と同時に、断片化されたタンパク質を利用したワクチンの効果を発揮させ、ワクチンとして免疫力の確保と、前記微生物またはウイルスによりまれに引き起こされる感染症の可能性の低下という効果を両立することできる。
【0043】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の処理方法の第1の実施形態を模式的に示す図である。図1は、本発明の処理方法を食品(具体的にはカマボコ)の製造方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が膜状物である例を段階的に示している。
【0044】
本発明の第1の実施の形態においては、まず、対象物であるカマボコ1を適宜配置し(図1(a))、カマボコ1の表面にたとえばへら3を利用して、表面に染料を含む魚肉入り練り材料を塗布し、膜状物2を形成する(図1(b))。
【0045】
次に、カマボコ1上に形成された膜状物2に、反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、魚肉入り練り材料である膜状物2に含有されるタンパク質を断片化する(図1(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえばイオンを含む空気を用いる。具体的には、カマボコ1と放電手段との距離が30cmの位置となるように後述する本発明の処理装置(図示せず)を設置し、放出手段の送風管4より風速1m/秒で送風を行い、カマボコ1の表面におけるイオン濃度が正イオンについて10万個/cm3、負イオンについて10万個/cm3、放出時間が3分間の条件で放出することができる。
【0046】
このようにカマボコ1上の膜状物2に反応性を有する粒子を含む空気を放出することで、膜状物2を構成する魚肉練り材料に含まれるタンパク質を断片化することにより、内部に存在する微生物の増殖能力を低下させることができる。また、魚肉練り材料に含まれるタンパク質からなるアレルゲン物質を破壊し、人体への影響を下げるという利点もある。なお、前記反応性を有する粒子を含む空気としては、反応性を有する粒子としてイオンを含むものに限定されず、プラズマまたはラジカルを含むものであっても勿論よい。
【0047】
図1に示す例の食品製造方法においては、図1(d)に示すように、上記反応性を有する粒子を含む空気の放出後、膜状物2を保護層6でコーティングする工程をさらに有していてもよい。保護層6でコーティングすることで、タンパク質を断片化した後の膜状物2を大気と接触させないように保護することができる。この場合、膜状物2に菌が含まれていても、前記反応性を有する粒子を含む空気の放出によって菌の増殖能力が抑えられるため、カマボコ1の内部で嫌気性菌などが増殖する虞もない。保護層6の形成材料としては、空気を透過しない材料が望ましく、上記例示したビニールやアルミホイルなどを用いることができる。図1(d)には、保護層6としてビニールを用い、へら7を用いて膜状物2上に塗布する例を示している。
【0048】
図1に示した例の製造方法に適用できる装置としては、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に反応性を有する粒子をを放出する手段とを備え、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有する装置を用いることができる。また、所望により、保護層6を塗布する機構をさらに備えていてもよい。
【0049】
<第2の実施の形態>
図2は、本発明の処理方法の第2の実施形態を模式的に示す図である。図2は、本発明の処理方法を洗浄(具体的には食器の洗浄)方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が洗浄液である例を段階的に示している。
【0050】
本発明の第2の実施の形態においては、まず、食器用の洗浄装置が通常備える適宜の枠体12に、食器11を立てかけるように収容する(図2(a))。なお、図2(a)に示す食器11には、食材の残り13が表面に残存している。
【0051】
次に、洗浄液14を用いて、枠体12内に収容された食器11を洗浄する。洗浄は、たとえば10m/秒の速度で噴出された洗浄液14を用い、約5分間洗浄する。この洗浄工程によって、食器11の表面に残存していた食材の残り13は除去される。
【0052】
そして、洗浄後の食器11に反応性を有する粒子を含む空気15を放出し、食器11表面上の洗浄液14またはその残存物(図示せず)に含有されるタンパク質を断片化する(図2(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえば反応性を有する粒子としてプラズマを含むものを用いることができる。具体的には、酸素ボンベから供給された酸素ガス中で放電することでプラズマを発生させる手段と、食器11の表面でO2+が約0.01ppmの濃度となるようにプラズマを放出する手段とを少なくとも備える装置を用いて実施することができる。なお、O2+はイオンであることから寿命が数秒あるいはそれ以下と見積もられるが、送風を工夫することにより洗浄装置内に上記イオンを充満させることが可能であり、食器11の表面に残存した水または残存物に含まれるタンパク質を断片化する効果を有し、菌などの増殖を抑制することが可能になる。そのため食器11をそのまま洗浄装置内で保存する場合においても、食器11の表面を清潔に保つことができる。なお、O2+の寿命は短いため、外部に対しては短期間で濃度が低下するため、外部への影響は無視できるという効果を得ることができる。
【0053】
なお、上述した本発明の第2の実施の態様において、反応性を有する粒子を含む空気は上述したものに限定されるものではなく、N2+、O2-、NO2-、CO2-などのイオンやOHラジカルなどのラジカル種、あるいはプラズマを含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0054】
<第3の実施の形態>
図3は、本発明の処理方法の第3の実施形態の処理工程を示すフローチャートである。図3は、本発明の処理方法を医薬品または試薬の製造方法に適用し、断片化させるタンパク質を含有する材料が、医薬品原料または試薬原料である例を示している。本発明は、医薬品原料または試薬原料に反応性を有する粒子を含む空気を放出することによって、当該医薬品原料または試薬原料に含まれるタンパク質を断片化し、当該医薬品原料または試薬原料に含まれる微生物、ウイルスまたはタンパク質の増殖能力を除去することを特徴とする処理方法も提供する。
【0055】
本発明の第3の実施の形態では、まず、培養材料と微生物とを混合する(ステップ3−a)。続く工程では、前記培養材料と微生物との混合物を培養して、化学的成分を生成する(ステップ3−b)。続く工程では、培養後に生成された化学的成分を抽出する(ステップ3−c)。そして、前記工程で得られた抽出物(医薬品原料または試薬原料)に反応性を有する粒子を含む空気を放出する(ステップ3−d)。これによって該抽出物に含まれるタンパク質を断片化し、当該タンパク質を有していた微生物やウイルス、プリオンなどの増殖能力を低下させる。さらに、以上のようにして作成した物質を続く工程にてたとえば無菌包装することで、製品を完成させることができる(ステップ3−e)。
【0056】
上述した本発明の第3の実施形態では、反応性を有する粒子を含む空気を放出することにより医薬品原料、試薬原料中の微生物、ウイルス、プリオンなどの増殖能力を低減させることができ、これら微生物、ウイルス、プリオンなどによる感染症などの危険性を低下できる。
【0057】
なお、本発明の第3の実施形態において、化学的成分の抽出工程(ステップ3−c)と、反応性を有する粒子を含む空気の放出工程(ステップ3−d)とは、順序が逆であってもよい。また、前記抽出工程(ステップ3−c)を省略し、加熱工程などで代替するようにしてもよい。
【0058】
また本発明の第3の実施形態は、たとえば、遺伝子組換え大腸菌などを用いた薬品製造に利用できる。具体的には、培養材料と遺伝子組換え大腸菌を利用し、培養することにより、所定の化学物質を前記大腸菌に生産させる。その後、成分を遠心分離などで抽出し、その液を膜状に形成、あるいは循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を含む空気を放出し、膜状物または液体に含まれるタンパク質を分解させる。この工程により、生存している大腸菌の細胞膜タンパク質が分解され、大腸菌の増殖が以後停止するため、生成した化学物質を薬品、あるいは医薬品として利用することが可能となる。
【0059】
<第4の実施の形態>
図4は、本発明の処理方法の第4の実施の形態を模式的に示す図である。図4は、本発明の処理方法を食品(具体的には牛ハム)の製造方法に適用した例を、段階的に示している。
【0060】
本発明の第4の実施の形態においては、まず、加熱、醸成および味付けを予め行った後の牛肉を分断し、独立した適度な大きさのハムの塊21に加工する(図4(a))。次に、このハムの塊21の表面を洗浄または上薬を塗るなどの処理を行う。図4(b)には、前記処理後、ハムの塊21の表面に液体(洗浄液の残存物)または膜状物22が付着した状態を示している。
【0061】
続いて、ハムの塊21の表面に付着した液体または膜状物22に含まれるタンパク質、または、ハムの塊21自身の表面に存在するタンパク質を不活化するために、反応性を有する粒子を含む空気を放出する(図4(c))。反応性を有する粒子を含む空気としては、たとえば、ラジカル(望ましくはOHラジカル)を放出する。ラジカルを生成する方法としては、放電により直接生成する方法でもよいが、これに限定されるものではない。たとえばH2O2すなわち過酸化水素が分解されOHラジカルに変換される方法を用いてもよいし、イオン化したガスを材料表面で反応させ、OHラジカルを生成する方法を用いてもよい。なお、図4(c)において、23はラジカル放出口、24はラジカルの進路を示している。上記工程後、袋(望ましくは真空パック)25によりハムの塊21を包装し、新たなタンパク質がハムの塊21に付着しないようにする(図4(d))。
【0062】
このような本発明の処理方法の第4の実施形態によれば、菌や細菌などの微生物やウイルスが有するタンパク質を不活化させるだけでなく、BSE(牛海綿状脳症)の原因とされるプリオンと呼ばれるタンパク質の一種などを分解の対象とすることも原理的に可能である。この場合、食品自体にわずかに残存する前記プリオンを表面にて取り除き、食生活の安全性を高めるために本製造技術を利用することが可能である。
【0063】
本発明はまた、上述した本発明の処理方法を実施するための処理装置も提供する。本発明の処理装置は、反応性を有する粒子を発生する手段と、タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、前記露出したタンパク質に反応性を有する粒子を放出する手段とを、基本的に備える。このような本発明の処理装置は、断片化したいタンパク質を含む材料を気体に面する個所に移動させ、材料に含有されるタンパク質を順次材料表面に露出させながら、反応性を有する粒子を放出することができる。これによって、材料中に含有されるタンパク質を効率よく断片化することが可能となる。
【0064】
本発明の処理装置において、反応性を有する粒子は、本発明の処理方法において上述したように、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせる性質を有することが好ましい。さらに上述したように、この反応性の粒子は、自然消滅する性質を有することが望ましく、その寿命が0.1μ秒〜3000秒であるのがより好ましい。また前記反応性を有する粒子は、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。
【0065】
本発明の処理装置における反応性を有する粒子を発生する手段としては、上述した反応性を有する粒子を含む空気を発生させるために従来より広く用いられてきた放電手段を適宜用いることができ、特に制限されるものではない。たとえば、沿面放電素子、コロナ放電素子、プラズマ放電素子などの各放電素子や、紫外線や電子線を放出する素子を利用したものを挙げることができる。放電手段における電極の形状や材質は、特に制限されるものではなく、従来公知の適宜のものを選択することができる。
【0066】
図5は、本発明の処理装置に好適に用いられる放電手段31を簡略化して示す図である。放電手段31は、たとえば、断面方形状の誘電体32と、誘電体32の一表面に網目状に形成された放電電極33と、誘電体32に埋め込まれた対向電極34と、電源35とを、基本的に備える。誘電体32としては、たとえばアルミナで形成された、約1cm×3cmのサイズのものを好適に用いることができる。放電手段31において、放電電極33および対向電極34は適当な間隔(たとえば0.2mm)を有するように形成される。電源35としては高圧パルス電源を用いることができ、放電電極33および対向電極34に電気的に接続されてなる。
【0067】
図5に示したような沿面放電素子を用いる場合、ある瞬間において正イオンが発生するかあるいは負イオンが発生するかは、放電素子の電極に印加される電圧がプラスであるかマイナスであるかにより定まる。すなわち、電極にマイナスの電圧が印加されると、電極はマイナスに帯電するので、空気中に存在する水蒸気が帯電して負イオンとなる。このため空気中に負イオンが多量に含まれることになる。逆に、電極にプラスの電圧が印加されると、空気中に存在する水蒸気が帯電して正イオンとなる。このため、空気中には正イオンが多量に含まれることになる。具体的には、上記高圧パルス電源からは、正と負からなる高圧パルス電圧(周波数60Hz、尖頭電圧約2kV)が生成され前記電極間に印加される。また、電極に印加する電圧を交流とすることにより、正イオンと負イオンが交互に生成されるようにしてもよい。
【0068】
本発明の処理装置におけるタンパク質を材料表面に露出させるための手段の一例としては、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有するものが挙げられる。このような機構を有することで、タンパク質を含む材料を膜状物に形成した上で、これに反応性を有する粒子を含む空気を放出して、膜状物中のタンパク質を断片化することができる。このような処理装置は、たとえば、図1を参照して上述した本発明の処理方法の第1の実施形態を実施するために好適に用いることができる。前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構は、従来公知の適宜の機構を応用して実現すればよい。
【0069】
また、前記タンパク質を含む材料が液体である場合には、本発明の処理装置における前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段として、当該液体を循環または攪拌させる機構を有するものを挙げることができる。図6は、本発明の好ましい一例の処理装置41を模式的に示す図である。処理装置41は、筐体42中に、上述した放電手段31と、その内部に液体44が収容された容器43と、放電手段31により生成された反応性を有する粒子を含む空気を液体44に放出するための放出手段(図示せず)とを備える。そして、容器43の底部には攪拌子45が載置され、この攪拌子45によって容器43内に収容された液体44が攪拌されて液体44の表面が順次入れ替わるように構成されている。図中白抜きの矢符で示すように、この液体44の表面に反応性を有する粒子を含む空気を放出することで、液体44の表面に順次露出したタンパク質を断片化し、液体44に含有されるタンパク質を効率的に不活化することができる。
【0070】
なお、図6に示した装置では、液体を攪拌させる構成としているが、液体表面にタンパク質を露出させるための手段として、ポンプを用いて溶液を循環させる機構を利用するようにしても勿論よい。
【0071】
本発明の処理装置における反応性を有する粒子を放出する手段(放出手段)としては、上記放電手段で生成された反応性を有する粒子を含む空気を放出対象に放出し得るように流動することができるものであればよく、特に制限されるものではない。たとえば、モータおよびそのモータの軸に取り付けられたファンからなり、モータを駆動することによりファンが回転し、送風するような機構を有する放出手段を好適に用いることができる。
【0072】
また本発明は、反応性を有する粒子を発生する手段(たとえば、放電手段)と、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段(放出手段)とを備える洗浄装置も提供する。このような本発明の洗浄装置によれば、洗浄表面に付着したタンパク質成分を分解し、清浄な表面を形成するために好ましく適用でき、たとえば、上述した本発明の処理方法の第2の実施形態を実施するために特に好適に用いることができる。
【0073】
本発明の洗浄装置において、タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段としては、たとえば、ポンプを用いて物体に熱した水道水を吹き付ける機構、水に界面活性剤を含む水を混ぜた後噴霧器で物体に前記水を吹きつける機構など適宜の公知の機構を適用したものにより実現できる。
【0074】
なお、本発明の洗浄装置における放電手段および放出手段は、本発明の処理装置において上述したものを適宜用いることができる。
【0075】
図7は、本発明の他の例の処理装置51を概念的に示す図である。図7に示す例の処理装置51は、反応性を有する粒子を発生する手段(放電手段52)と、反応性を有する粒子を放出する手段(図示せず)と、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段53と、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段54と、入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段55と、演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性を有する粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段56とを、基本的に備えるものである。
【0076】
図7に示す例の処理装置51において、放電手段52および放出手段としては、上述したのと同様のものを適宜用いればよい。
【0077】
入力手段53は、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力するための手段である。ここで、入力する情報としては、たとえば、微生物、タンパク質またはウイルスの名称が挙げられる。なお、不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスが記憶手段に記憶されていないものである場合には、既に記憶されている類似の微生物、タンパク質またはウイルスの名称を入力するようにする。
【0078】
記憶手段54は、前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する手段である。記憶手段54は、用事所望の情報にアクセスし得るようなデータベースとして実現される。前記不活化対象物に関する生化学的特長データとしては、たとえば、種々の微生物、ウイルスが有するタンパク質やプリオンなどのタンパク質のデータのほか、莢膜の有無、ペンタグリシン架橋構造の有無、タイコ酸の有無あるいは量、代謝型、酸素利用の特性、カタラーゼの量、シトクロムの量、芽胞形成の有無、色素生成量、細胞構造、生存メカニズムなどのうちの少なくともいずれかのデータが挙げられる。
【0079】
演算手段55は、入力手段53により入力された情報を記憶手段54のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する手段である。すなわち、入力された情報に連動して記憶手段54に格納されたこれに対応するデータが呼び出され、このデータより、本発明の処理装置51で生成する反応性を有する粒子を含む空気に対する、不活化対象である微生物、タンパク質、ウイルスの不活化性能を予測し、不活化動作に適した放出条件等を求める機能を有する。
【0080】
制御手段56は、演算手段55による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性を有する粒子を含む空気を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する手段である。図7に示す例の処理装置51においては、制御手段56は、前記演算手段55により決定された結果に基づき、所定の設定、すなわち自動動作か手動動作のいずれかにより、反応性を有する粒子を含む空気の放出を自動的に行うか、あるいは操作者が手動で反応性を有する粒子を含む空気の放出を作動させるかを選択する。反応性を有する粒子を含む空気の放出を自動的に行う場合には、制御手段56は、演算手段54により予測された結果に応じて放出手段による各種条件を設定し、作動させる。
【0081】
このような図7に示した構成の処理装置51によれば、不活化の効果と、各細胞の構成との関係とを所定の関係式でモデル化することにより、不活化を実際に試験していない細胞であっても、その種類から導かれる細胞の構成などをデータベースなどから入手し、不活化の速度などを予想することが可能になる。そして、あらゆる既存の菌、ウイルス、タンパク質以外の、未知の菌、ウイルス、タンパク質に対しても、既存の科目などから、タンパク質的な性質を既存データベースから予測し、分解性能を少ない誤差で求めることが可能になり、不活化を精度よく行うことができる。したがって図7に示した構成の処理装置51を用いることにより、食生活の安全性のみならず、生活空間の殺菌などに本装置を利用可能で、安全な生活を得るために本処理装置を利用することが可能となる。
【0082】
なお、図7に示した処理装置51における入力手段53は、処理装置51の記憶手段54や演算手段55における情報処理と連動するように情報を入力し得るよう実現された適宜の公知の手段を用いて実現される。また記憶手段54、演算手段55および制御手段56は、たとえば中央演算装置(CPU)、マイクロコンピュータなどで実現できる。また図7に示した処理装置51は、好ましくは、入力手段53により入力された情報や、用事呼び出された記憶手段54に格納されたデータ、手動により反応性を有する粒子を含む空気を放出する場合の操作者に提示すべき情報などを表示するための表示手段を有するように実現される。
【0083】
以下、本発明の処理方法および処理装置に関し、対象物に反応性を有する粒子を含む空気を放出した場合の試験データを開示する。当該試験は、放電により生じさせた反応性を有する粒子を含む空気が付着菌に対して示す殺菌性能を評価試験したものである。
【0084】
<実験例1>
以下の条件で試験を行った。
【0085】
試験方法には、菌をPBS緩衝溶液(pH=7.4)に懸濁させた後、トレイ63内に形成された寒天培地64上に塗布し、所定の処理(放電手段により生成した、正イオンであるH3O+(H2O)n(nは0または自然数)および、負イオンであるO2-(H2O)m(mは0または自然数)を放出および、寒天培地上に前記イオンを自然拡散。)を行った後、72時間、37℃の培養を行い、コロニー数を計測する方法を利用した。第一の試験として、付着菌への放電ガスの殺菌性能を調べるため、菌としてスタフィロコッカス(Staphylococcus:ブドウ球菌)、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus:腸球菌)、サルチナフレイバ(Sarchinaflava)、マイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)を用いて、前記方法により寒天培地上に菌を塗布し、さらに8時間の培養(37℃)を行い、菌のコロニーを形成させた。
【0086】
続いて、図8に示すような、筐体62内に放電手段31および放出手段(図示せず)を備える装置61を用い、放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として放電現象により正負両イオンを発生させ、上述したような反応により生じた過酸化水素H2O2、二酸化水素O2Hまたはヒドロキシラジカル・OHを反応性の粒子として含有する空気を対象に放出した。なお、筐体62は、21cm×14cm×14cmのサイズのものを用いた。このような処理装置61の筐体62内に、前記菌を塗布した寒天培地64を収容したトレイ63を順次載置し、白抜きの矢符で示すように反応性を有する粒子を含む空気を放出し、寒天培地にイオンが行き渡るようにして、反応性を有する粒子を含む空気に暴露させた。イオン濃度は、寒天培地上で正負イオンが各約3,500個/cm3(ただし限界移動度を1cm2/V・cmとして小イオンの濃度を測定)としており、オゾン濃度は0.01ppm未満であった。なお、試験の箱内部にはファンは設けず、イオンは自然対流と自然拡散により暴露するようにした。
【0087】
以上の試験において、引き続いて72時間、37℃の培養を行い、コロニー数および状態を観察した。図9は、その結果を示すグラフである。図9に示すように、イオンを反応性を有する粒子として含む空気を菌に放出すると、放出時間が長くなるにつれて、培養後に得られたコロニー数(CFU;Colony Forming Unit)が減少した。このことから、イオンが付着菌を殺菌する効果があることが分かる。なお、図9においては、菌種により不活化の速度あるいは程度が異なっていることが示されている。このような差が生じる理由として、菌種により細胞の構成(細胞膜の材料、細胞表面および内部の状態、生存の方法など)が異なり、プラズマ、イオンあるいはラジカルなどに対する細胞の耐性が異なることが原因と考えられる。
【0088】
ここで、以上4種の菌における細胞壁の比較を行った結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1には、菌の主な構成要素であるペプチドグリカンタンパク、タイコ酸、多糖類などを構成する代表的な要素と、細胞の特徴について示している。なお、表において、+はその性質を多く有していること、−はその性質が少ないことを示し、+/−はその中間であることを示すものである。
【0091】
表1における項目を次に説明する。
・莢膜は多糖類からなる膜で、たとえば病原性の強い細菌は莢膜多糖類をペプチドグリカン層の外に持っているとされる。
・ペンタグリシン架橋構造(5−Gly−cross bridges in cell wall)は、細胞壁を構成する構造の一つである。
・タイコ酸は、細胞壁に含まれており、アルコールとリン酸基の化合物である。
・代謝型は、原材料となる物質を摂取し、細胞の構成要素の構築やエネルギー生産、あるいは副産物を放出したりする方法である。
・酸素利用については、菌がどのような空気環境を好むかについての項目である。
・カタラーゼは、過酸化水素を分解して酸素と水に変える酵素であり、抗酸化剤として機能する。
・シトクロムは、酸化還元機能を持つヘム鉄を含有するヘムタンパク質の一種である。
・芽胞形成は、細菌が殻につつまれた状態になる性質をいう。
・色素生成は、細胞において自ら色素を生成し、細胞内に蓄積/保持する性質を示す。
【0092】
図9に示したグラフでは、同じ試験条件において、サルチナフレイバおよびマイクロコッカスロゼウスが比較的不活化の時間を要しているのに対して、エンテロコッカスマロドーラトゥスおよびスタフィロコッカスでは急速に不活化が進んでいる。
【0093】
図9において処理時間が100分のところを指標にすると、不活化が遅いものから、サルチナフレイバ、マイクロコッカスロゼウス、スタフィロコッカス、エンテロコッカスマロドーラトゥスの順になる。この不活化の速度の差と表1とを比較すると、サルチナフレイバは、カタラーゼ、芽胞形成、色素生成の特徴を多く有し、さらに耐気性の性質を有していることから、空気中に存在する反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐えやすい性質を有していると考えられ、最も不活化が進まないというモデルが考えられる。また、マイクロコッカスロゼウスは、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成の特徴を多く有していることから、サルチノフレイバに次いで不活化が遅い性質を示すと考えられる。
【0094】
一方、スタフィロコッカスは、カタラーゼ、シトクロムを多く有しているものの、芽胞を形成せず、色素生成が少なく、さらに条件的嫌気性菌であることから、反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐え難い性質を前記2種より示すものと考えられる。
【0095】
次に、エンテロコッカスマロドーラトゥスは、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成などの防御機構が少なく、さらに条件的嫌気性菌であることから、他の3種の菌より反応性の高い物質(オゾン、酸素、イオンなど)に耐えにくい性質を有していることが予想され、実際に最も不活化が大きい結果を得られている。
【0096】
なお、以上の考察では、酸素利用については好気性が不活化に大きな耐性を示し、また、カタラーゼ、シトクロム、芽胞形成、色素生成についてはこれらが不活化に大きな耐性を示すものと予想され、実際にその傾向を確認できた。
【0097】
一方、その他の項目である、莢膜、ペンタグリシン架橋構造、タイコ酸、代謝型については今回の試験では作用は明確にできないが、他の対照試験により、それらの項目の作用および作用の程度を確認することが可能である。
【0098】
以上に示したように、菌における細胞の構成を調べることにより、イオン、プラズマ、オゾン、ラジカル、またさらにはたとえば酸化や還元作用などを有する化学物質などの反応性を有する粒子を含む空気によって、細胞の不活化の制御が可能である。また、不活化の効果と、各細胞の構成との関係とを所定の計算式でモデル化することにより、不活化を実際に試験していない細胞であっても、その種類から導かれる細胞の構成などをデータベースなどから入手し、不活化の速度などを予想することが可能になる。そして、このことを利用して、図7を参照して上述した処理装置51などを実現することができる。
【0099】
<実験例2>
カビへの殺菌性能を調べるため、ペニシリウムクリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、スタキボトリスチャルトラム(Stachybotrys chartarum)、アスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor:コウジカビ)、ペニシリウムカマンベルティ(Penicillium camambertii)、クラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum:黒カビ)に対して、実験例1と同様の実験を行った。図10はペニシリウムクリソゲナム、図11はスタキボトリスチャルトラム、図12はアスペルギルスベルシコロル、図13はペニシリウムカマンベルティ、図14はクラドスポリウムヘルバレムについての結果をそれぞれ示すグラフである。実験の結果、カビに対してもイオンを放出すると放出時間が長くなるにつれて、培養後に得られたコロニー数(CFU:Colony Forming Unit)が減少することが明らかとなった。
【0100】
<実験例3>
カビは熱的衝撃や物理的攻撃に耐性がある胞子形成を行う菌であることより、胞子を形成し始めた時に、それがイオンをブロックして本発明による細菌のタンパク質の分解が起こらなくなる懸念がある。そこで、我々の生活環境で非常に多く見られるカビであるアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor:コウジカビ)とクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum:黒カビ)をシャーレ上で培養し、胞子を一端形成した後、これに実験例1と同様にしてイオンの放出を4時間行い、どのような変化が見られるかを調べた。図15は、実験例3のアスペルギルスベルシコロルとクラドスポリウムヘルバレムについての結果を示す写真である。図15に示すように、上記実験の結果、イオンの放出によりさらなる胞子の形成を阻害し、カビのコロニーを消滅させることがわかった。
【0101】
そこで、上記以外のカビについても同様の実験を行った。結果を表2に示す。表2に示すように、他のカビの場合にも、同様に胞子形成の阻害、コロニーの消滅が観察されることが分かった。このことから、イオンがグラム陽性球菌およびカビ、両者の付着菌を殺菌する効果があることが分かる。
【0102】
【表2】
【0103】
<実験例4>
反応性を有する粒子としてイオンを含む空気を付着菌に放出することによるタンパク質の変化を調べた。実験方法としては、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)をそれぞれ塗布した複数の寒天培地に、実験例1と同様にしてイオンを放出し、放出後15分、30分、60分、90分、120分、240分、480分、960分の時点での膜タンパク質をそれぞれ抽出し、SDS−PAGEにて二次元電気泳動を行った。図16は、実験例4の結果を示す写真である。図16に示すように、イオンを放出することで、病理的な現象として現れるような多数のタンパク質の断片が観察された。この膜タンパク質の断片化および凝集は、イオンの放出時間と対応しており、イオンの放出時間が長くなるほど、膜タンパク質の損傷が大きくなることを示している。
【0104】
以上の結果は以下のようなメカニズムにより説明される。つまり、寒天培地に塗布した菌は、当初は菌が単体で寒天培地の表面に露出しており、空気中のイオンと接触することにより細胞膜が破壊され、細胞内のタンパク質が外へ流れ出ていることが考えられる。このタンパク質の流出により膜の機能不全が起こることが菌の不活化(殺菌)につながると考えられる。実験例1において示した図9では、以上の作用の結果が示されているものと考えられる。
【0105】
<実験例5>
次に、上述した実験において用いてきたイオンにDNAの損傷力がなく、発癌作用がないことを実証した。実験例5では、エンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)、バチルス(Bacillus:枯草菌)に、実験例1と同様にしてイオンを含む空気を放出し、未放出、放出後1時間、放出後2時間の時点の菌よりそれぞれ常法にて抽出したDNAを電気泳動した。図17は、実験例5の結果を示す写真である。図17において、各レーンは以下を意味している。
【0106】
・EK:エンテロコッカスのイオン未放出
・E1:エンテロコッカスのイオン1時間放出
・E2:エンテロコッカスのイオン2時間放出
・BK:バチルスのイオン未放出
・B1:バチルスのイオン1時間放出
・B2:バチルスのイオン2時間放出
また、図17の中央の2つのレーンには、対照実験として、エンテロコッカス、バチルスからのDNA抽出物それぞれについて、標準の陽性反応が生じる反応を生じさせ、断片化した結果を示している。
【0107】
結果、DNAはイオンの放出を受けても単一なバンドとして現れたことから、一本鎖になっていないことが明らかとなった。つまり、イオンの放出を行っても、DNAには損傷がなく発癌性の危険性はないといえる。なお、本試験では、正イオンとしてH3O(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンとしてO2(H2O)m(mは0または自然数)を主に放出するような放電条件を選んだが、放電により生成される反応性を有する粒子は以上の物質に限られるものではない。上記2種以上の物質、たとえば、N2+、O2+、NO2-、CO2-などのイオンやラジカルなどを含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0108】
以上のように、菌にイオンを含む空気を放出した場合、菌の細胞膜は破壊されたが、内部のDNAが保存されているという結果は以下のように説明される。以上のタンパク質破壊に寄与する物質は、空間に放出された正イオンおよび負イオンであり、これは我々の実験によれば、条件により異なるが空間での寿命が約5〜30秒である。これは、イオンが反応性を有する粒子であり、空気中の塵やイオンと衝突し、反応して消滅することが原因である。そのため、このイオンが細胞に接触すると、細胞と反応が急速に進む一方、その短い寿命のため内部のDNAへは影響を及ぼさないものと考えられる。以上のような効果は、粒子の寿命がイオンと同程度あるいはそれより短い粒子であれば実現可能と考えられ、たとえば空気中での寿命が約1μ秒であるOHラジカルなどでも同様の効果が示されると考えられる。
【0109】
また、タンパク質の破壊のために、上記反応性を有する粒子の必要な濃度について考察を行ってみる。細胞はサイズがおおよそ10μm程度と考えられることから、1cm2の面積の中には、細胞が100万個並んでいることになる。これらのタンパク質を破壊するためには、細胞の量に匹敵する粒子を接触させる必要があるから、反応性を有する粒子の数としては、1cm3中にその数倍、たとえば500万個程度の粒子数があれば一定のタンパク質分解効率を確保することができる。また、空気中の浮遊菌に対しては、たとえば空間での菌が1cm3あたり1個存在する場合、反応性を有する粒子は衝突確率がたとえば1/1000とすると、反応性を有する粒子の数は1cm3中に1,000個程度の粒子数があれば一定の浮遊菌のタンパク質分解効率を確保することができる。
【0110】
以上から、寿命が比較的短い反応性を有する粒子を用いることにより、細胞膜を破壊し、かつDNAを保存することが可能となる。
【0111】
<実験例6>
次に、細菌は自己修復能力があり、殺菌処理が不十分な場合(たとえば紫外線照射時間が短かったり、薬剤投与量が少なかったりした場合)、細菌が生き返り増殖が起こる場合が知られている。そこで、正と負イオンによる細菌不活化の不可逆性の試験を実施した。菌種はエンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)、スタフィロコッカスクロモゲネス(Staphylococcus chromogenes)、マイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)、サルチナフレイバ(Sarcina flava)を用いた。
【0112】
寒天培地上に菌を付着させ、実験例1と同様にして、正負両イオンを含む空気を90分間放出した。イオン処理後の細菌を4℃で3日間低温保存した。これは、細菌に回復時間を与えたこととなる。低温保存した場合と保存しない場合でのイオン放出による残存菌数の経時変化を測定した。図18はエンテロコッカスマロドーラトゥス、図19はスタフィロコッカスクロモゲネス、図20はマイクロコッカスロゼウス、図21はサルチナフレイバについての結果をそれぞれ示すグラフである。4種全ての細菌において低温保存有無による経時変化の有意な差は確認されず、低温保存による細菌の回復はみられなかった。
【0113】
また、寒天培地上に菌を付着させ、実験例1と同様にして、正負両イオンを含む空気を90分間放出した後、培養器で37℃、48時間培養し、細菌のコロニーを発生させた後、さらに21日間37℃で培養し、新たなコロニー発生の有無を調べる実験も併せて行った。結果、21日間培養しても新たなコロニーの発生は確認されず。増殖環境においても、細菌の回復は見られなかった。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0115】
さらに、イオン放出による培地の劣化影響を調べるため、寒天培地上に菌を付着させた後、正負両イオンを含む空気を放出した。その後、イオンを放出していない培地に細菌を移し、細菌の回復を調べたが、細菌の回復はみられなかった。
【0116】
これらより、反応性を有する粒子を含む空気を放出することによる細菌不活化方法は、細菌の自己修復能力をなくし、完全に死滅させる方法であることが分かる。
【0117】
なお、本発明の処理方法は、付着した物体に対して有効であるが、空間に浮遊する菌、ウイルス、タンパク質にも効果が期待できるため、付着物と浮遊物の両方に該反応性を有する粒子を含む空気を放出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の処理方法の第1の実施形態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の処理方法の第2の実施形態を模式的に示す図である。
【図3】本発明の処理方法の第3の実施形態の処理工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の処理方法の第4の実施形態を模式的に示す図である。
【図5】本発明の処理装置に好適に用いられる放電手段31を簡略化して示す図である。
【図6】本発明の好ましい一例の処理装置41を模式的に示す図である。
【図7】本発明の他の例の処理装置51を概念的に示す図である。
【図8】評価試験に用いた処置装置61を模式的に示す図である。
【図9】実験例1の結果を示すグラフである。
【図10】実験例2のペニシリウムクリソゲナム(Penicillium chrysogenum)についての結果を示すグラフである。
【図11】実験例2のスタキボトリスチャルトラム(Stachybotrys chartarum)についての結果を示すグラフである。
【図12】実験例2のアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor)についての結果を示すグラフである。
【図13】実験例2のペニシリウムカマンベルティ(Penicillium camambertii)についての結果を示すグラフである。
【図14】実験例2のクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum)についての結果を示すグラフである。
【図15】実験例3のアスペルギルスベルシコロル(Asperigillus versicolor)とクラドスポリウムヘルバレム(Cladosporium herbarum)についての結果を示す写真である。
【図16】実験例4の結果を示す写真である。
【図17】実験例5の結果を示す写真である。
【図18】実験例6のエンテロコッカスマロドーラトゥス(Enterococcus malodoratus)についての結果を示すグラフである。
【図19】実験例6のスタフィロコッカスクロモゲネス(Staphylococcus chromogenes)についての結果を示すグラフである。
【図20】実験例6のマイクロコッカスロゼウス(Micrococcus roseus)についての結果を示すグラフである。
【図21】実験例6のサルチナフレイバ(Sarcina flava)についての結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0119】
1 カマボコ、2 膜状物、3 へら、4 送風管、6 保護層、11 食器、12 枠体、13 食材の残り、14 洗浄液、15 反応性を有する粒子を含む空気、21 ハムの塊、22 液体または膜状物、23 ラジカル放出口、24 ラジカルの進路、25 袋、31 放電手段、32 誘電体、33 放電電極、34 対向電極、35 電源、41 処理装置、42 筐体、43 容器、44 液体、45 攪拌子、51 処理装置、52 放電手段、53 入力手段、54 記憶手段、55 演算手段、56 制御手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記反応性を有する粒子を放出後の膜状物または液体を覆うように保護層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記反応性を有する粒子は、タンパク質に対し、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記反応性を有する粒子は、空気中で自然消滅する性質を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
前記タンパク質が微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の処理方法。
【請求項8】
前記タンパク質がアレルゲン物質を構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、アレルギー性を除去することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の処理方法。
【請求項9】
前記タンパク質を含有する液体または膜状物が食品原料である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項10】
前記タンパク質を含有する液体が洗浄液、もしくは洗浄液の残存物である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項11】
前記タンパク質を含有する液体または膜状物が医薬品原料または試薬原料である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項12】
前記医薬品原料がワクチンである、請求項11に記載の処理方法。
【請求項13】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、
前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える、処理装置。
【請求項14】
前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有する、請求項13に記載の処理装置。
【請求項15】
前記タンパク質を含む材料が液体であり、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が当該液体を循環または攪拌させる機構を有する、請求項13に記載の処理装置。
【請求項16】
前記反応性を有する粒子が、空気中で自然消滅することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の処理装置。
【請求項17】
前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の処理装置。
【請求項18】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、
前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段とを備える、洗浄装置。
【請求項19】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
反応性を有する粒子を放出する手段と、
不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段と、
前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段と、
入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段と、
演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性の粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段とを備える、処理装置。
【請求項1】
液体または膜状物に反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体または膜状物に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
液体を循環または攪拌させながら反応性を有する粒子を放出することによって、当該液体に含まれるタンパク質を断片化することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記反応性を有する粒子を放出後の膜状物または液体を覆うように保護層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記反応性を有する粒子は、タンパク質に対し、酸化、還元、加水分解および付加反応から選ばれるいずれかの反応を生じさせることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記反応性を有する粒子は、空気中で自然消滅する性質を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
前記タンパク質が微生物、ウイルスまたはプリオンを構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、微生物、ウイルスまたはプリオンの増殖を抑制することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の処理方法。
【請求項8】
前記タンパク質がアレルゲン物質を構成するタンパク質であって、前記タンパク質を断片化することにより、アレルギー性を除去することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の処理方法。
【請求項9】
前記タンパク質を含有する液体または膜状物が食品原料である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項10】
前記タンパク質を含有する液体が洗浄液、もしくは洗浄液の残存物である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項11】
前記タンパク質を含有する液体または膜状物が医薬品原料または試薬原料である、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項12】
前記医薬品原料がワクチンである、請求項11に記載の処理方法。
【請求項13】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
タンパク質を含む材料中のタンパク質を材料表面に露出させるための手段と、
前記露出したタンパク質に前記反応性を有する粒子を放出する手段とを備える、処理装置。
【請求項14】
前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が、前記タンパク質を含む材料を物体表面に塗布する機構を有する、請求項13に記載の処理装置。
【請求項15】
前記タンパク質を含む材料が液体であり、前記タンパク質を材料表面に露出させるための手段が当該液体を循環または攪拌させる機構を有する、請求項13に記載の処理装置。
【請求項16】
前記反応性を有する粒子が、空気中で自然消滅することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の処理装置。
【請求項17】
前記反応性を有する粒子が、プラズマ、イオンおよびラジカルから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の処理装置。
【請求項18】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
タンパク質を含む洗浄液を物体表面に接触もしくは噴霧する手段と、
前記接触もしくは噴霧した後の物体表面に反応性を有する粒子を放出する手段とを備える、洗浄装置。
【請求項19】
反応性を有する粒子を発生する手段と、
反応性を有する粒子を放出する手段と、
不活化対象物である微生物、タンパク質またはウイルスに関する情報を入力する入力手段と、
前記不活化対象物に関する生化学的特長データを予め記憶する記憶手段と、
入力手段により入力された情報を記憶手段のデータを照合し、不活化対象物の不活化性能を予測する演算手段と、
演算手段による結果に基づき、不活化対象物が有するタンパク質を断片化するような条件で反応性の粒子を当該不活化対象物に放出するように放出手段を制御する制御手段とを備える、処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−75733(P2006−75733A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262863(P2004−262863)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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