説明

凹版及びその製造方法、印刷方法

【課題】表示品位の高い液晶カラーフィルタを印刷法にて製造する為の凹版を、感光性材料を用いて、技術的に容易に且つ安価に提供する。
【解決手段】(1)ガラスペーストをベース基板31に均一に塗布する工程、(2)ガラスペーストを高温で焼成し、低融点ガラス層32を形成する工程、(3)該低融点ガラス層32の表面にフォトリソ工程にてエッチングマスク34を形成する工程、(4)該低融点ガラス層32をエッチング加工して所望のパターン形状33の開口を形成する工程、(5)前記エッチングマスク34を剥離する工程、上記工程により処理することを特徴とする凹版の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶カラーフィルタをいわゆる反転印刷法(反転印刷法については、後述。)により製造する際に使用する凹版、凹版の製造方法、印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットディスプレイとして、液晶ディスプレイ(LCD)が注目されており、その薄型、軽量、小消費電力、フリッカーレスといった特徴から、ノート型のパーソナルコンピューター(PC)、PC用のモニターを中心に市場が急速に拡大した。また最近は、従来からCRTが主流であったTV向けにも大型のLCDが利用されるようになってきており、32インチ以上の大型のものにも需要が増してきている。
【0003】
その液晶ディスプレイのカラー化においては、カラーフィルタが使用されており、バックライトの白色光をカラーフィルタに透過させることで色彩の表現が可能になる。
【0004】
カラーフィルタは、パターン化された赤・緑・青や、シアン・マゼンダ・イエローの3色、及びこれに黒を加えた4色からなる着色層が透明基板上に形成されたものである。この着色層は従来、感光性顔料分散レジストをフォトリソ処理によって形成されているが、近年、カラーフィルタの低コスト化を実現する為、印刷法によって形成することが提案されている。
【0005】
印刷法は、量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能であり、具体的な方式としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の他に、近年では特に微細なパターンの形成に適した方式として、凹版にインキを塗布、スキージで不要なインキを除去し、凹版内に残ったインキをオフセットブランケットに転写し、被印刷基板に印刷する方法(例えば、特許文献1参照。)や、図2に示すようなオフセットブランケットにインキを塗布、凹版で不要なインキを除去し、オフセットブランケットに残ったインキを被印刷基板に印刷する方法(本明細書において「反転印刷法」と称す。)が知られている。(例えば、特許文献2参照。)
【0006】
これらの印刷法に使用する凹版の製造方法としては、一般的に金属薄膜をマスキング層として使用しフッ酸等の薬液でガラス基板をパターン状に溶解して形成する方法が知られている。また金属材料をエッチング処理して凹凸形状を形成する方法や、ベース基材にめっき等で厚付けした金属膜をエッチング処理して形成する方法が知られている。(例えば、特許文献3参照。)
【0007】
しかしながら、近年液晶TVの製造用マザーガラス基板のサイズも大型化に伴い必要とされる凹版も大型化してきている。大型化に伴い、凹版製造の従来方法で使用してきた基材の入手が制限されるようになっている。ガラス材にマスキング層としての金属膜を形成した基材、大型の一枚ものの金属材料も使用が難しくなって来ており、従来通りの凹版の品質が再現し難くなってきている。
【0008】
詳述すると、ガラス材のマスキング層として、Cr層をスパッタリングにより形成するが、大型のガラス材に適した大型のスパッタリング装置が現状はない。また、大型の1枚ものの金属板も一般的には入手できない。例えば、2m×2mの大型の金属板が必要になる。
【0009】
よって、2枚の金属板を合わせて大型の版を作成することもできるが、こうして得られた凹版を使用してカラーフィルタを印刷する場合、画面内で線幅にバラツキが発生してしまい、開口率、オーバーラップ量が変化するなど、カラーフィルタの表示品質を低下させる原因となっている。
【特許文献1】特開昭62-85202号公報
【特許文献2】特開昭62-85202号公報
【特許文献3】特開平6-179257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題点になされたもので、その目的とするところは、表示品位の高い液晶カラーフィルタを印刷法にて製造する為の凹版を、感光性材料を用いて、技術的に容易に且つ安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、
ベース基板上に所望のパターン形状の開口を有した低融点ガラス層を有することを特徴とする凹版である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記低融点ガラス層は、低融点ガラスフリットを混練したガラスペーストを焼成してなるものであり、焼成後の膜厚が20μm〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の凹版である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記低融点ガラス層の表面粗さがRz=0.7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
前記低融点ガラス層に有するパターン形状の開口部のエッジ形状が粗さ1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
前記ガラスペーストに含まれる低融点ガラスフリット及び無機フィラーの粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の凹版である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
前記ベース基板の熱膨張率と前記低融点ガラス層の熱膨張率との差が15×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、
請求項1乃至6のいずれかに記載の凹版の製造方法であって、
(1)ガラスペーストをベース基板に均一に塗布する工程
(2)ガラスペーストを高温で焼成し、低融点ガラス層を形成する工程
(3)該低融点ガラス層の表面にフォトリソ工程にてエッチングマスクを形成する工程
(4)該低融点ガラス層をエッチング加工して所望のパターン形状の開口を形成する工程
(5)前記エッチングマスクを剥離する工程
上記工程により処理することを特徴とする凹版の製造方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、
請求項1乃至6のいずれかに記載の凹版を用いた印刷方法であって、
前記ベース基板の熱膨張率と印刷パターンを転写される基板の熱膨張率との差が15×10−7/℃以下であることを特徴とする印刷方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の技術を用いることにより、容易に且つ高精度の印刷用凹版を提供することにより、高品位の画像表示が可能な液晶ディスプレイ用カラーフィルタを安価に生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の凹版は、ベース基板上に低融点ガラス層を有した形態で提供される。最初に低融点ガラス層はペースト組成物としてベース基板の表面に均一に塗布され、次に通常550℃〜600℃の範囲の高温で焼成され、低融点ガラス層を形成する。
【0021】
本発明におけるベース基板は、低融点ガラス層の形成工程の焼成温度に耐えられ、軟化点が低融点ガラス材料よりも高いものでなくてはならない。例えば、ガラス、金属、ポリマー、セラミック等が考えられる。
【0022】
本発明による凹版を液晶ディスプレイ用カラーフィルタの印刷用途で使用するために、カラーフィルタ基板とベース基板とのトータルピッチ制御の面からベース基材の材質を選定する必要がある。
【0023】
カラーフィルタ基板は、対向電極基板とのセルの位置精度を保証する為に、トータルピッチは±3μm以下で制御することが求められている。現在、カラーフィルタ基板と対向電極基板は熱膨張率の同じガラス材料を使用し、露光も熱膨張率の低いクウォーツ製のフォトマスクを使用して、トータルピッチの制御を行っている。
反転印刷法によるカラーフィルタの製造においては、カラーフィルタ基板のトータルピッチの制御には、印刷に使用する凹版のトータルピッチの制御が重要となってくる。凹版のトータルピッチを制御する方法としてはカラーフィルタ基板に近い熱膨張率の材料を使用することが望ましい。現状、液晶カラーフィルタに使用されるガラス基板熱膨張率は3×10-6/℃程度であり、1000mmの基板サイズで1℃温度が変化すると3μmガラス基板の長さが変化する。液晶ディスプレイの要求仕様である±3μmを保証する為には、凹版のベース基材とカラーフィルタ基板のトータルピッチの差は±1.5μm以下で制御する必要があり、熱膨張率の差として15×10-7/℃以下であることが望ましい。
熱膨張率がカラーフィルタ基板に近い材料としては、液晶ディスプレイに使用されている低膨張ガラスや、低膨張SUS材が使用可能である。
【0024】
また、ベース基板と低融点ガラス層との熱膨張率のマッチングも必要である。熱膨張率に差が生じた場合、焼成後の低融点ガラス層の冷却時に内部応力が発生し、冷却時もしくはその後の工程中にベース基板、低融点ガラス層もしくは、その境界部分に亀裂等の破損が生じることとなる。本発明を液晶ディスプレイ用カラーフィルタの印刷用途で使用する場合、ガラスペーストの組成を調整して、低融点ガラス層の熱膨張率をベース基板にあわせるのが好ましく、熱膨張率の差としては、15×10-7/℃以下であることが望ましい。
【0025】
一般にガラスペーストはガラスフリット(粒子)およびバインダ系を含んだ組成物である。フリットおよびバインダ系は、ペースト状とするため溶剤等の媒介物に含まれる。場合によっては、熱膨張係数の調整や、流動性の調整等の目的で、ガラスフリット、バインダ系以外に無機成分のフィラーが含まれることもある。
【0026】
一般にバインダは、ガラスを加熱する前にガラスフリットを保持し、ガラス加熱時にはバインダの組成物のほとんどが熱分解性生成物として排出される。ガラスフリットは加熱時にバインダ等の過熱により生じる熱分解性生成物および混入した気泡が除去され、且つ、充分溶融されて、平滑な表面を形成する。低融点ガラス層による凹版表面は、平滑である方がより望ましく、表面に凹凸やうねりがあるとインキ転写不良の原因となるからである。低融点ガラス層形成後の表面粗さは、Rz=0.7μm以下が好ましい。
【0027】
また、ガラスフリットを溶融し形成した低融点ガラス層に開口パターンを加工した場合、加工面にフリット形状が露出し、同時に開口パターンのエッジ形状にもビビリが生じるが、これを凹版に使用するためには、エッジ形状が印刷物に反映されるため、ビビリは小さい方が好ましく、特にカラーフィルタの印刷に使用するためにはエッジ形状の粗さは1μm以下であることが望ましい。
なお、開口パターンのエッジ粗さを1μm以下にするためには、低融点ガラス層の形成に使用するガラスペーストに含まれるガラスフリット及び無機フィラーの粒径をそれぞれ1μm以下にする必要がある。
【0028】
本発明の凹版は、ベース基板上に形成した低融点ガラス層に所望の印刷パターン形状の開口部もしくは凹部を有する構成である。低融点ガラス層に開口部もしくは凹部を形成する方法は、エッチング法が最も適している。他にはサンドブラスト、ウエットブラスト、ドライエッチング等が加工法として考えられるが、加工形状がエッチングよりも劣る等の問題がある。
【0029】
また、ベース基板上に塗布したガラスペーストを乾燥して溶剤等の媒介物だけを除去し、焼成前の状態で開口部もしくは凹部を加工する方式も考えられるが、この方式は開口部もしくは凹部を形成したガラスペースト層を高温で焼成する際に、溶融したガラスの流動によってパターンエッジにダレ・丸まりが発生しパターン形状がぼやけるため、印刷用の凹版としては適していない。
【0030】
本発明の凹版の製造方法における低融点ガラス層の加工方法の実施形態は、マスキング層としてフォトレジストを使用した希釈硝酸によるエッチングである。この方式では、フッ酸と金属膜のマスキング層を使用しないため、大型の凹版、例えば1500mm×1800mm以上の金属膜形成が困難なサイズでも簡易に対応することが可能である。
なお、好ましいエッチングパラメータは、約0.4〜10.0%の範囲の硝酸濃度および約40〜50℃のエッチング液温度によるスプレーエッチングである。
希釈硝酸を用いると、樹脂材料からなるフォトレジストを溶かさずに、低融点ガラス層のみをエッチングすることができる。
【0031】
本発明の凹版は、従来の方法では困難であった大型寸法対応が容易である上、低融点ガラス層が、従来のフッ酸によるガラスエッチングで作製した凹版に近い強度を有するため、繰り返し印刷した場合の耐刷性にも優れており、印刷用凹版としての適性が高い。
【0032】
本発明に用いる印刷方法としては、反転印刷法のほか、凸版印刷法、凹版印刷法をもちいることもできる。反転印刷法としては、上記の方式を用いる。
【実施例1】
【0033】
図3に、図1で示した細線のパターンが基板上に配置された刷版の製版の実施例を示す。画素部パターンはライン巾20μmで設計した。刷版用ベース基材として、低膨張ガラス基板620×750×0.7mmt(コーニング社製1737ガラス熱膨張率:3×10-6/℃)を準備した。
【0034】
図3(a)この基板31に膜厚40μmまで低融点ガラスペーストをスリットコータにて塗布、乾燥後、ピーク温度560℃にて焼成し、膜厚30μmの低融点ガラス層32を形成した。その後、低融点ガラス層の表面に厚さ20μmのネガ形感光性ドライフィルムレジスト34をロールラミネーターにて貼り付けした。
【0035】
図3(b)前記ドライフィルムレジスト34を画素パターン33部が遮光された露光用フォトマスク35にて、±0.5℃に温度制御された露光機(トプコン社製)を用いて露光処理した。
【0036】
図3(c)露光後、アルカリ系の現像液で現像処理した。
【0037】
図3(d)現像によって画素部パターン及びアライメント部が開口したドライフィルムレジスト34をエッチングマスクとして、低融点ガラス層32に1%硝酸溶液を液温50℃でスプレー噴射してエッチング加工を行った。
【0038】
図3(e)エッチング後、ドライフィルムレジスト34をアルカリで剥離して刷版を得た。こうして得られた刷版は、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、版深30μm、トータルピッチ±2μmで形成できた。また、この刷版を用いて低膨張ガラス基板550×650×0.7mmt(コーニング社製1737ガラス熱膨張率:3×10-6/℃)に印刷した色パターンは、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、パターンの中抜け無く、トータルピッチ±2μmで制御することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による凹版の部分断面図である。
【図2】本発明による凹版を用いた印刷工程の説明図である。
【図3】本発明の実施例1を示す工程説明図である。
【符号の説明】
【0040】
11、31・・・刷版ベース基材
12、32・・・低融点ガラス層
13、33・・・画素パターン
34・・・ドライフィルムレジスト
21・・・印刷用刷版
22・・・印刷インキ
23・・・オフセットブランケット
24・・・オフセットブランケット胴
25・・・インキパターン
26・・・ガラス基板
35・・・露光用フォトマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板上に所望のパターン形状の開口を有した低融点ガラス層を有することを特徴とする凹版。
【請求項2】
前記低融点ガラス層は、低融点ガラスフリットを混練したガラスペーストを焼成してなるものであり、焼成後の膜厚が20μm〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の凹版。
【請求項3】
前記低融点ガラス層の表面粗さがRz=0.7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版。
【請求項4】
前記低融点ガラス層に有するパターン形状の開口部のエッジ形状が粗さ1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版。
【請求項5】
前記ガラスペーストに含まれる低融点ガラスフリット及び無機フィラーの粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の凹版。
【請求項6】
前記ベース基板の熱膨張率と前記低融点ガラス層の熱膨張率との差が15×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の凹版。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の凹版の製造方法であって、
(1)ガラスペーストをベース基板に均一に塗布する工程
(2)ガラスペーストを高温で焼成し、低融点ガラス層を形成する工程
(3)該低融点ガラス層の表面にフォトリソ工程にてエッチングマスクを形成する工程
(4)該低融点ガラス層をエッチング加工して所望のパターン形状の開口を形成する工程
(5)前記エッチングマスクを剥離する工程
上記工程により処理することを特徴とする凹版の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の凹版を用いた印刷方法であって、
前記ベース基板の熱膨張率と印刷パターンを転写される基板の熱膨張率との差が15×10−7/℃以下であることを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−76039(P2007−76039A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263609(P2005−263609)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】