説明

出力フィルタおよび電力変換装置

【課題】 出力フィルタのコモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークに印加される電圧を低減し、コモンモードチョークの巻線のターン数を減らすことにより小形化ができる出力フィルタおよび電力変換装置を提供する。
【解決手段】 直流母線の正側,負側に直列に接続した双方向半導体スイッチS1,S3と、直流母線の中性点nおよび電力変換装置のインバータ部108のいずれかの出力相との間に直列に接続した双方向半導体スイッチS2とから構成された中性点切替部104と、帰線端を中性点nに接続したコモンモードフィルタ103と、電圧ベクトル検出回路105とを備えた出力フィルタ107において、中性点切替部104が、電圧ベクトル検出回路105で検出した半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、双方向半導体スイッチS1,S3およびS2を切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置のスイッチング動作で発生する高周波ノイズを低減する出力フィルタおよび電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の出力側における問題として、高周波漏れ電流、伝導EMI(Electro Magnetic Interference:電磁妨害雑音)、放射EMI、モータ軸受の電食(モータ回転中の軸受ボールベアリングの内部を高周波電流が通過することにより、軌道輪と転動体の接触面が損傷する現象。特徴として、波状の磨耗が見られる。)、モータ端子でのサージ電圧が挙げられる。従来では、雑音端子電圧抑制のために例えば特許文献1に示すEMIフィルタを用いていた。また、電力変換装置の出力側での対策は、出力フィルタを付加して対策を行ってきた。従来の電力変換装置のコモンモードフィルタには、例えば特許文献2および3、並びに非特許文献1がある。特許文献2および3、並びに非特許文献1は、コモンモード電流を抑制するためのコモンモードフィルタである。
特許文献2および3、並びに非特許文献1に代表されるコモンモードフィルタは、フィルタの共振周波数を電力変換装置のPWMスイッチングのキャリア周波数よりも低くして、高周波漏れ電流、伝導EMI、放射EMI、モータ軸受の電食を抑制している。
【0003】
図4は、出力側にコモンモードフィルタを付加した従来の電力変換装置の回路構成図である(特許文献2を参照)。図4において、108は電力変換装置のインバータ部、103はコモンモードフィルタ、102はモータ、112は中性点検出用トランスであり、Cpnは平滑コンデンサである。また、Lcはコモンモードチョーク、Cf1およびCf2はコンデンサ、Rfはダンピング抵抗である。
インバータ部108は、ゲート信号に基づいて、平滑コンデンサCpnで平滑化された直流電圧をPWMスイッチングし、コモンモードフィルタ103を介して、負荷であるモータ102に所望の電力を供給する。
従来のコモンモードフィルタ103は、コモンモードチョークLcの各相出力端にコンデンサCf1の一端を接続し、他端を中性点検出用トランス112の各入力端にそれぞれ接続し、共通結線端n1’と帰線端n2’との間に直列接続したコンデンサCf2とダンピング抵抗Rfを挿入して構成している。中性点検出用トランス112は、三相絶縁トランスの1次側巻線をスター結線し2次側巻線をデルタ結線して構成し、各スター結線端を入力端、共通結線端をn1’としている。
また、コモンモードフィルタ103の帰線端n2’は、インバータ部108の直流母線であるP−N間に直列接続された同容量の二つのコンデンサCを挿入して、その二つのコンデンサの接続点に接続されており、この接続点を直流母線の中性点nとしている。
コモンモードフィルタを付加した従来の電力変換装置は、上述のように構成されている。
【0004】
また、図5は、図4の従来技術を用いた場合の電力変換装置のインバータ部108のゲート信号およびコモンモード電圧Vcnを示した図である。図5において、Supはインバータ部のU相上側アームのゲート信号、SvpはV相上側アームのゲート信号、SwpはW相上側アームのゲート信号を示す。
Sup、Svp、および Swpは、それぞれ独立して、ON/OFFさせることが可能であり、Sup、Svp、および SwpそれぞれのON/OFFの状態によって、電力変換装置のインバータ部108の各アームから出力される電圧を合成したベクトルが決定される。この合成された電圧のベクトルを、一般的に電圧ベクトルと呼んでいる。
【0005】
図7は、図4においてコモンモードフィルタ103を付加していない場合のコモンモード電圧およびコモンモード電流の計算結果を示した図である。コモンモードフィルタ103を付加していない場合、図4に示す接地点GNDから見たコモンモード電圧Vc1,Vc2は前記スイッチングの組み合わせにより、ステップ状の電圧波形となり、それに伴いコモンモード電流Icがモータ102から接地線に流れる。
【0006】
また、図8は、従来技術を用いコモンモードフィルタ103を付加した電力変換装置の各部のコモンモード電圧およびコモンモード電流の計算結果を示した図である。同図において(a)はモータ運転周波数f=10Hz時の計算結果であり、(b)はモータ運転周波数f=60Hz時の計算結果を示し、Vc1はコモンモードフィルタの入力端のコモンモード電圧、Vc2はコモンモードフィルタの出力端のコモンモード電圧、Icは接地線に流れるコモンモード電流を示す。
図8(a)におけるコモンモード電圧Vc1の電圧波形と図8(b)におけるコモンモード電圧Vc1の電圧波形とが異なっているのは、モータ運転周波数が変わることによりPWMスイッチングの変調率が異なっているためであり、(a)の変調率の方が(b)の変調率よりも低い場合の例である。
【0007】
図4に示すコモンモードフィルタ103の共振周波数は、電力変換装置の運転周波数とキャリア周波数の間になるように設計を行う。そのため、コモンモードフィルタを付加すると、図8に示すようにキャリア周波数より高い成分は減衰され、コモンモードフィルタの出力端でのコモンモード電圧Vc2は低減される。結果として、コモンモード電流Icも低減される。
【0008】
図5に示すVcnは電力変換装置の直流母線の中性点nを基準とした場合の電力変換装置出力側のコモンモード電圧であり、一般的に以下の式で表すことができる。
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3 (1)
ここで、Vun,VvnおよびVwnは、それぞれ中性点nを基準とした場合のU相電圧、V相電圧、およびW相電圧を示す。
例えば、図5に示すように(Sup,Svp, Swp)が(ON,ON,ON)(以下、「V0ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VPn+VPn+VPn)/3
=VPn =VPN/2 (2)
となる。ここで、VPnは中性点nを基準として見たときの直流母線のP側電圧、VPNはP−N間電圧を表わす(以下、同様、図4を参照)。
【0009】
また、(Sup,Svp,Swp)が(ON,OFF,OFF)(以下、「V1ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VPn+VNn+VNn)/3
=VNn/3 =−VPN/6 (3)
となる。ここで、VNnは中性点nを基準として見たときの直流母線のN側電圧を表わす(以下、同様)。
また、(Sup,Svp, Swp)が(ON,ON,OFF)(以下、「V2ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VPn+VPn+VNn)/3
=VPn/3 =VPN/6 (4)
となる。
また、(Sup,Svp, Swp)が(OFF,ON,OFF)(以下、「V3ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VNn+VPn+VNn)/3
=VNn/3 =−VPN/6 (5)
となる。
【0010】
また、(Sup,Svp, Swp)が(OFF,ON,ON)(以下、「V4ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VNn+VPn+VPn)/3
=VPn/3 =VPN/6 (6)
となる。
また、(Sup,Svp, Swp)が(OFF,OFF,ON)(以下、「V5ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VNn+VNn+VPn)/3
=VNn/3 =−VPN/6 (7)
となる。
また、(Sup,Svp, Swp)が(ON,OFF,ON)(以下、「V6ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VPn+VNn+VPn)/3
=VPn/3 =VPN/6 (8)
となる。
また、(Sup,Svp, Swp)が(OFF,OFF,OFF)(以下、「V7ベクトル」という。)のときは、コモンモード電圧Vcnは、
Vcn=(Vun+Vvn+Vwn)/3
=(VNn+VNn+VNn)/3
=VNn =−VPN/2 (9)
となる。
【0011】
その結果、従来のコモンモード電圧Vcnは、図8に示すような4段(±VPN/2, ±VPN/6)のステップ状の電圧Vc1と同様の電圧波形となる。
また、図9は従来のコモンモードフィルタ103を付加した場合のコモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧Vc3とフィルタ電流Ifを示す図である。コモンモードフィルタを設計する際、コモンモードチョークLcが磁気飽和を起こさないように注意する必要がある。
ここで、コモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧Vc3をVc3= Vm・cos (ωt)で近似し、コモンモードチョークLcのコアの断面積をS、巻線のターン数をN、キャリア周波数をfとすると、コモンモードチョークLcのコア内での磁束密度Bは、式(10)で近似できる。
【0012】
【数1】

【0013】
また、コアの最大磁束密度Bmは、式(10)より
【数2】

となる。
【0014】
式(11)より、コモンモードチョークの磁束密度は、Vm、f、N、Sにより決定される。従来の電力変換装置では、Vmは固定値なので、鉄損、銅損、サイズ、コスト等を考慮し、f、N、Sを決定する。
従来のコモンモードフィルタのコモンモードチョークは、上述のようにして設計されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−107571号公報
【特許文献2】特開平09−084357号公報(6頁、図7)
【特許文献3】特許第3466118号(18頁、図18)
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRY APPLICATIONS、VOL.28、NO.4、p858〜p863、JULY/AUGUST 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の出力フィルタにおいては、コモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークに、コモンモード電圧のキャリア成分のほとんどが印加されるため、磁気飽和を起こしやすく、磁気飽和を起こさせないためにはコモンモードチョークのコアの最大磁束密度をできるだけ小さくする必要があり、最大磁束密度を小さくするには巻線のターン数を増やさなければならず小形化することが難しいという問題があった。また、電流容量が大きな用途に対しては、巻線の電線サイズが大きくなり、コアに電線を巻くことが物理的に困難となるというような問題もあった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、出力フィルタのコモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークに印加される電圧を低減し、コモンモードチョークの巻線のターン数を減らすことにより小形化ができる出力フィルタおよび電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、直流母線の正側に直列に接続した双方向半導体スイッチ1と、前記直流母線の負側に直列に接続した双方向半導体スイッチ3と、前記直流母線間に直列に接続された二つの同一容量のコンデンサの接続点から成る前記直流母線の中性点nおよび電力変換装置のインバータ部のいずれかの出力相との間に直列に接続した双方向半導体スイッチ2とから構成された中性点切替部と、前記インバータ部および負荷であるモータとの間に接続され、かつ帰線端を前記中性点nに接続したコモンモードフィルタと、前記インバータ部の上下アームの半導体スイッチング素子を駆動するゲート信号から電圧ベクトルを検出する電圧ベクトル検出回路と、を備えた出力フィルタにおいて、
前記中性点切替部が、前記電圧ベクトル検出回路で検出した半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、前記双方向半導体スイッチ1,3および2を切替えることを特徴とするものである。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の出力フィルタにおいて、前記中性点切替部が、前記インバータ部の上下アームの半導体スイッチング素子の上側アームが全てオンで下側アームが全てオフの時、または、前記上側アームが全てオフで前記下側アームが全てオンの時に、前記双方向半導体スイッチ2をオンとし、かつ前記双方向半導体スイッチ1および3をオフとし、前記上下アームの半導体スイッチング素子のスイッチングパターンが前記以外の場合は、前記双方向半導体スイッチ2をオフとし、かつ前記双方向半導体スイッチ1および3をオンとすることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の出力フィルタにおいて、前記電圧ベクトル検出回路が前記上下アームの半導体スイッチング素子の上側ゲート信号を3入力AND回路1に入力し、該3入力AND回路1の出力をNOT回路1を介して2入力AND回路の一方の入力に入力し、かつ、下側ゲート信号を3入力AND回路2に入力し、該3入力AND回路2の出力をNOT回路2を介して前記2入力AND回路の他方の入力に入力して、該2入力AND回路の出力を前記双方向半導体スイッチ1および3を駆動する信号とし、前記2入力AND回路の出力をNOT回路3を介して前記双方向半導体スイッチ2を駆動する信号とすることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4に記載の電力変換装置の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の出力フィルタを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1乃至3に記載の発明によると、出力フィルタのコモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークに印加される電圧を低減することが可能となり、コモンモードチョークの巻線のターン数を減らすことにより出力フィルタを小形化することができる。
また、請求項4に記載の発明によると、請求項1乃至3のいずれかに記載の出力フィルタを適用することで、従来、電力変換装置とは別置きとしていた出力フィルタを、電力変換装置に内蔵することが可能となり、低ノイズで省スペースの電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した電力変換装置の全体構成を説明する図
【図2】図1における中性点切替部とその制御部の詳細回路を示す図
【図3】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した電力変換装置の詳細を説明する図
【図4】従来例のコモンモードフィルタを付加した電力変換装置の回路構成図
【図5】従来例の電力変換装置におけるインバータ部のゲート信号およびコモンモード電圧を示す図
【図6】本発明の電力変換装置におけるインバータ部のゲート信号、中性点切替部の半導体スイッチの切替え信号およびコモンモード電圧を示す図
【図7】従来例におけるコモンモードフィルタを付加していない場合のコモンモード電圧およびコモンモード電流の計算結果を示す図
【図8】従来のコモンモードフィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモード電流の計算結果を示す図
【図9】従来のコモンモードフィルタを付加した場合のコモンモードチョークに印加される電圧およびフィルタ電流の計算結果を示す図
【図10】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモード電流の計算結果を示す図
【図11】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した場合のコモンモードチョークに印加される電圧およびフィルタ電流の計算結果を示す図
【図12】従来のコモンモードフィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモードチョークに印加される電圧のFFT解析結果(f=10Hz時)を示す図
【図13】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモードチョークに印加される電圧のFFT解析結果(f=10Hz時)を示す図
【図14】従来のコモンモードフィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモードチョークに印加される電圧のFFT解析結果(f=60Hz時)を示す図
【図15】本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタを付加した場合のコモンモード電圧およびコモンモードチョークに印加される電圧のFFT解析結果(f=60Hz時)を示す図
【図16】モータ運転周波数fを変化させた場合のコモンモードチョークに印加されるキャリア成分の電圧を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実際の電力変換装置には様々な機能や手段が内蔵されているが、図面には本発明に関係する機能や手段のみを記載し説明することとする。また、同一名称には同一符号を付け重複説明を省略する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の中性点切替え手段を備えた出力フィルタを付加した電力変換装置の全体構成を説明する図である。また、図2は図1における中性点切替え手段とその制御部の具体的な回路構成を示したものである。
図1において、100は商用電源、101は電力変換装置、102はモータ、103はコモンモードフィルタ、104は中性点切替部、105は電圧ベクトル検出回路、106はインバータゲート制御回路である。また、107は本発明の出力フィルタであり、コモンモードフィルタ103、中性点切替部104および電圧ベクトル検出回路105から構成されており、インバータゲート制御回路106からのPWM信号を入力として制御される。108は電力変換装置101のインバータ部である。
中性点切替部104は、図2に示すインバータ部108の上側アーム半導体スイッチング素子が(ON、ON、ON)もしくは(OFF、OFF、OFF)の場合、インバータ部108を直流母線から切り離し、インバータ出力部(U相,V相,W相)と直流母線の中性点nとを短絡させる回路である。また、中性点切替部104は、インバータ部108の各アームの半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、図2に示すように、直流母線のP側およびN側にそれぞれ直列に接続された双方向半導体スイッチS1,S3、および直流母線の中性点nとインバータ部108のV相出力との間に接続された双方向半導体スイッチS2を切替えてコモンモードフィルタ103に接続される構成となっている。
なお、双方向半導体スイッチS2は、インバータ部108のV相出力に接続する代わりに、U相またはW相出力に接続してもよい。
【0025】
本発明が従来技術と異なる部分は、電力変換装置のインバータ部108の各アーム半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、インバータ部108を直流母線から切り離し、インバータ出力部と直流母線の中性点nとを短絡させる中性点切替部104を備え、出力フィルタ107におけるコモンモードフィルタ103のコモンモードチョークに印加される電圧を低減し、コモンモードフィルタ103に流れるフィルタ電流を低減できるようにした点である。
【0026】
つぎに、本発明の具体的な動作について説明する。
図2において、105は電圧ベクトル検出回路であり、109〜111はAND回路、112〜114はNOT回路であり、S1、S2、およびS3はIGBTとダイオードで構成した双方向半導体スイッチである。なお、双方向半導体スイッチの回路構成は、これに限定されず他の回路構成でも適用できる。
インバータゲート制御回路106は、不図示のPWM制御回路からPWM信号を受け、インバータ部108にゲート信号を出力すると共に、電圧ベクトル検出回路105に、インバータ部108のU相上側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Sup、V相上側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Svp、およびW相上側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Swpを出力する。また同時に、電圧ベクトル検出回路105に、インバータ部108のU相下側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Sun、V相下側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Svn、およびW相下側アーム半導体スイッチング素子のゲート信号Swnを出力する。
【0027】
電圧ベクトル検出回路105は、2入力のAND回路109と3入力のAND回路110,111、およびNOT回路112,113で構成されており、インバータ部108の上アームのゲート信号Sup、Svp、Swpおよび下アームのゲート信号Sun、Svn、Swnを3入力のAND回路110,111にそれぞれ入力し、双方向半導体スイッチS1、S2,S3の切替え信号とする。
具体的には、先に説明したV7ベクトル、すなわち(Sup、Svp、Swp)が(OFF、OFF、OFF)、且つ(Sun、Svn、Swn)が(ON、ON、ON)の時は、電圧ベクトル検出回路105の2つのAND回路110,111の出力が、それぞれ「0」および「1」となり、AND回路109の出力は「0」となるので、中性点切替部104のNOT回路114を介して駆動される双方向半導体スイッチS2をオンにする。また、V0ベクトル、すなわち(Sup、Svp、Swp)が(ON、ON、ON)、且つ(Sun、Svn、Swn)が(OFF、OFF、OFF)の時は、2つのAND回路110,111の出力が、それぞれ「1」および「0」となり、AND回路109の出力は「0」となるので、上述と同様に、双方向半導体スイッチS2をオンにする。また、V1ベクトル〜V6ベクトルの場合は、2つのAND回路110,111の出力が、それぞれ「0」および「0」となり、AND回路109の出力は「1」となるので、双方向半導体スイッチS1およびS3をオンにする信号を出力する。
【0028】
図6は、図2に示す本発明の電力変換装置におけるインバータ部108のゲート信号、中性点切替部104の双方向半導体スイッチの切替え信号およびコモンモード電圧を示す図である。
直流母線の中心点nを基準とした時の各電圧ベクトルにおけるコモンモード電圧Vcnは、式(1)〜(9)より、下記のように与えられる。
V0ベクトルのときは、Vcn=0
V1ベクトルのときは、Vcn=−VPN/6
V2ベクトルのときは、Vcn=+VPN/6
V3ベクトルのときは、Vcn=−VPN/6
V4ベクトルのときは、Vcn=+VPN/6
V5ベクトルのときは、Vcn=−VPN/6
V6ベクトルのときは、Vcn=+VPN/6
V7ベクトルのときは、Vcn=0
すなわち、V1〜V6ベクトルにおいては、中性点切替部104のスイッチS1,S3がONとなり、S2がOFFとなるので、従来例の図4の回路構成と同一であり、式(3)〜(8)と全く同じ動作となる。V0およびV7ベクトルにおいては、中性点切替部104のスイッチS1,S3がOFFとなり、S2がONとなるので、インバータ部108のU相,V相およびW相の各出力は中性点nの電位と同一となりVcn=0となる。
このように、図6に示すように、V0ベクトルおよびV7ベクトル時に直流母線電圧のP側とN側の双方向半導体スイッチS1およびS3をOFFし、インバータ出力部と直流母線の中性点nとの間の双方向半導体スイッチS2をONすることにより、Vcn=0にすることができる。そのため、いずれの電圧ベクトルの場合も、0、+VPN/6、−VPN/6の3種類の値のステップ状の電圧波形となり、図5に示す従来の方式よりもコモンモード電圧Vcnを低減することができる。その結果、本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタは、図3に示すコモンモードフィルタ103のダンピング抵抗Rfを流れるフィルタ電流Ifを小さくすることができる。
【0029】
図10は、図3に示す本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を付加した電力変換装置のコモンモード電圧・電流の計算結果を示した図である。図10(a)はモータ運転周波数f=10Hzの時であり、図10(b)はモータ運転周波数f=60Hzの時である。また、図11は、コモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧およびフィルタ電流Ifの計算結果を示す図である。図11(a)はモータ運転周波数f=10Hzの時であり、図11(b)はモータ運転周波数f=60Hzの時である。
図10に示すように、図3に記載の本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を用いた電力変換装置のコモンモード電圧Vc1は、0、+VPN/6、−VPN/6の3種類の値のステップ状の電圧波形となる。図10(a)および(b)において、コモンモード電圧Vc1の電圧波形が異なるのは、PWMスイッチングの変調率の違いによるものである。図11に示すようにコモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧Vc3も図10に示したVc1と同期した波形となる。フィルタ電流Ifは、コモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧Vc3の大きさの積分値に応じて流れる電流値が決定される。
図8および図9に示す従来技術の出力フィルタである図4のコモンモードフィルタ103を用いた電力変換装置と、本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を用いた電力変換装置のコモンモード電圧・電流およびコモンモードチョークLcに印加される電圧、フィルタ電流Ifを比較すると、本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を用いた電力変換装置はコモンモード電圧Vc1が小さいため、コモンモードチョークLcの端子間に印加される電圧Vc3も小さくなり、結果としてフィルタ電流Ifも小さくなっていることがわかる。
【0030】
図12は従来技術の出力フィルタであるコモンモードフィルタ103を用いた場合において、モータ運転周波数f=10Hz時の各部のコモンモード電圧Vc1、Vc2、Vc3のFFT解析結果を示す図であり、図13は本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を用いた場合において、モータ運転周波数f=10Hz時の各部のコモンモード電圧Vc1、Vc2、Vc3のFFT解析結果を示す図である。また、図14は従来技術の出力フィルタであるコモンモードフィルタ103を用いた場合において、モータ運転周波数f=60Hz時の各部のコモンモード電圧Vc1、Vc2、Vc3のFFT解析結果を示す図であり、図15は本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107を用いた場合において、モータ運転周波数f=60Hz時の各部のコモンモード電圧Vc1、Vc2、Vc3のFFT解析結果を示す図である。また、図16は図12〜15に示したFFT解析結果を元にコモンモードチョークLcの端子間に印加されるキャリア成分の電圧を示す図である。
本発明の中性点切替部を備えた出力フィルタ107は、図16に示すようにコモンモードチョークLcに印加されるキャリア成分の電圧を低減できることがわかる。
【0031】
このように、本発明はコモンモードフィルタの帰線端を、直流母線の中性点に接続した出力フィルタにおいて、インバータ部の各アームの半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、双方向半導体スイッチを切替える中性点切替え手段を備えるので、出力フィルタのコモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークに印加される電圧を低減することができ、結果としてコモンモードチョークの巻線のターン数を減らすことにより、出力フィルタの小形化ができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
コモンモードフィルタに用いるコモンモードチョークのサイズを小さくすることができるので、本発明の出力フィルタ全体としてのサイズも小さくなる。そのため従来は、一般的に、電力変換装置とは別置きとしていた出力フィルタを、電力変換装置内に配置することが可能となり、出力フィルタ内蔵型の電力変換装置として低ノイズで省スペース化が要求される用途への適用が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
100 商用電源
101 電力変換装置
102 モータ
103 コモンモードフィルタ
104 中性点切替部
105 電圧ベクトル検出回路
106 インバータゲート制御回路
107 出力フィルタ
108 インバータ部
109,110,111 AND回路
112,113,114 NOT回路
112 中性点検出用トランス
Cpn 平滑コンデンサ
Lc コモンモードチョーク
Cf1,Cf2,C コンデンサ
Rf ダンピング抵抗
S1,S2,S3 双方向半導体スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流母線の正側に直列に接続した双方向半導体スイッチ1と、前記直流母線の負側に直列に接続した双方向半導体スイッチ3と、前記直流母線間に直列に接続された二つの同一容量のコンデンサの接続点から成る前記直流母線の中性点nおよび電力変換装置のインバータ部のいずれかの出力相との間に直列に接続した双方向半導体スイッチ2とから構成された中性点切替部と、
前記インバータ部および負荷であるモータとの間に接続され、かつ帰線端を前記中性点nに接続したコモンモードフィルタと、
前記インバータ部の上下アームの半導体スイッチング素子を駆動するゲート信号から電圧ベクトルを検出する電圧ベクトル検出回路と、を備えた出力フィルタにおいて、
前記中性点切替部は、前記電圧ベクトル検出回路で検出した半導体スイッチング素子のスイッチング状態に基づいて、前記双方向半導体スイッチ1,3および2を切替えることを特徴とする出力フィルタ。
【請求項2】
前記中性点切替部は、前記インバータ部の上下アームの半導体スイッチング素子の上側アームが全てオンで下側アームが全てオフの時、または、前記上側アームが全てオフで前記下側アームが全てオンの時に、前記双方向半導体スイッチ2をオンとし、かつ前記双方向半導体スイッチ1および3をオフとし、
前記上下アームの半導体スイッチング素子のスイッチングパターンが前記以外の場合は、前記双方向半導体スイッチ2をオフとし、かつ前記双方向半導体スイッチ1および3をオンとすることを特徴とする請求項1に記載の出力フィルタ。
【請求項3】
前記電圧ベクトル検出回路は前記上下アームの半導体スイッチング素子の上側ゲート信号を3入力AND回路1に入力し、該3入力AND回路1の出力をNOT回路1を介して2入力AND回路の一方の入力に入力し、かつ、下側ゲート信号を3入力AND回路2に入力し、該3入力AND回路2の出力をNOT回路2を介して前記2入力AND回路の他方の入力に入力して、該2入力AND回路の出力を前記双方向半導体スイッチ1および3を駆動する信号とし、前記2入力AND回路の出力をNOT回路3を介して前記双方向半導体スイッチ2を駆動する信号とすることを特徴とする請求項1に記載の出力フィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の出力フィルタを備えたことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−259245(P2010−259245A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107597(P2009−107597)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】