説明

分析装置およびカートリッジ

【課題】 分析物に対する触媒となる酵素などが分析物リザーバーに保持されている場合であっても、酵素が水分によって失活することを防止することができる分析装置を提供する。
【解決手段】 被験者から分析物を抽出し、分析する分析装置であって、被験者から抽出される分析物を保持するための液体を保持可能に構成された抽出チャンバと、液体を保持可能に構成された分析物リザーバーと、抽出チャンバと分析物リザーバーとを連通する流路と、抽出チャンバに保持された液体を、この流路を介して分析物リザーバーに移送するためのポンプと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置およびカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の組織液に含まれるグルコースを皮膚を介して抽出する経皮的分析物抽出アセンブリとして、グルコースをリバースイオントフォレシス法により経皮的に抽出するアセンブリが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0003】
これらのアセンブリは、グルコースを反応させてグルコン酸および過酸化水素に変換するための触媒となる酵素であるグルコース酸化酵素(GOD)などが、予めリザーバーに備えられたゲルなどに含まれており、ゲルに抽出されたグルコースがGODなどの酵素を触媒として反応することに起因して発生する電荷を検出することによって、グルコース濃度を測定する。
【0004】
しかし、上記のアセンブリは、ゲルなどが予めリザーバーに備えられているため、アセンブリの使用時にはゲルに含まれる水分が蒸発してしまっていてアセンブリを使用できない場合があるという問題点がある。従って、上記のアセンブリは、長期間保存することが難しい。
【0005】
また、GODなどの酵素は、ゲルや液体などに接触していると水分により短期間で劣化してしまうため、上記アセンブリは保存安定性が悪く、長期保存することが難しいという問題点がある。
【0006】
上記特許文献1では、また、脱水ゲルなどの乾燥状態の導電媒体を用い、導電媒体が皮膚に取り付けられる前に水や電解溶液を添加することによって、導電媒体の成分を安定させることも提案されている。しかし、上記特許文献1には、水や液体を添加するための機構については記載されていない。また、上記特許文献1では、2つのアセンブリのそれぞれに水などを添加する必要があり、操作が煩雑であるという問題点がある。
【0007】
【特許文献1】国際公開WO96/00110号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO97/10356号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述した問題点を解消した、新規な分析装置およびカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の第1の観点による分析装置は、被験者から分析物を抽出し、分析する分析装置であって、被験者から抽出される分析物を保持するための液体を保持可能に構成された抽出チャンバと、液体を保持可能に構成された分析物リザーバーと、抽出チャンバと分析物リザーバーとを連通する流路と、抽出チャンバに保持された液体を、この流路を介して分析物リザーバーに移送するためのポンプと、を備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明の第1の観点による分析装置では、上記のように、前記抽出チャンバに保持された液体をポンプによって前記分析物リザーバーに移送するようになっているので、例えば、分析物に対する触媒となる酵素などが分析物リザーバーに保持されている場合であっても、分析装置の保存中は分析物リザーバーを乾燥した状態にしておき、分析を行う際に抽出チャンバから分析物リザーバーに液体を移送して、分析物を分析することができる。このようにすれば、酵素が水分によって失活することを防止することができるので、分析装置の保存期間を従来のものと比較して長くすることができる。
【0011】
本発明の第2の観点によるカートリッジは、被験者から分析物を抽出して分析する分析装置本体に着脱可能なカートリッジであって、被験者から抽出される分析物を保持するための液体を保持可能に構成された抽出チャンバと、液体を保持可能に構成された分析物リザーバーと、抽出チャンバと分析物リザーバーとを連通する流路と、分析装置本体に装着された場合に、抽出チャンバに保持された液体を、この流路を介して分析物リザーバーに移送するための圧力を、分析装置本体から導入するための連通孔と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の観点によるカートリッジでは、上記のように、分析装置本体に装着された場合に、前記抽出チャンバに保持された液体を、前記連通孔を介して本体から導入した圧力によって前記分析物リザーバーに移送するようになっているので、例えば、分析物に対する触媒となる酵素などが分析物リザーバーに保持されている場合であっても、カートリッジの保存中は分析物リザーバーを乾燥した状態にしておき、カートリッジを使用する際に液体供給機構から分析物リザーバーに液体を供給して、分析物を抽出することができる。このようにすれば、酵素が水分によって失活することを防止することができるので、カートリッジの保存期間を従来のものと比較して長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の最良の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0014】
図1(a)は本発明の一実施形態に係る生体成分分析装置1の一部破断平面図である。本実施形態の生体成分分析装置1は、生体成分の一つであるグルコースを分析する装置であり、生体成分抽出カートリッジ11と、この生体成分抽出カートリッジ11を着脱可能に下面側(皮膚側)に保持する分析ユニット15とを備えている。生体成分抽出カートリッジ11は、アクリル等の樹脂からなるカートリッジ本体12と、グルコースを抽出するための抽出用電極13(斜線部)と、センサ部材19と、後述する封止膜14(図4)とによって構成されている。カートリッジ本体12には、2つの取付孔29が設けられている。分析ユニット15は、2本の爪29aを取付孔29に対応する下面側の位置に備えている。2本の爪29aは、互いの間隔が広くなる方向に付勢されている。生体成分抽出カートリッジ11は、2つの取付孔29のそれぞれに爪29aが挿入され、2本の爪29aの付勢力によって支持されることによって分析ユニット15に着脱可能に固定されている。生体成分抽出カートリッジ11は、グルコースの測定の毎に交換して使用される。分析ユニット15には、分析ユニット15を被験者の手首16に固定するためのバンド22と、配管24と、配管24を介して生体成分抽出カートリッジ11に液体を供給する、分析ユニット15に着脱可能なシリンジポンプ25と、グルコース量を算出しその算出したグルコース量から血糖値を算出する制御部31と、定電圧電源32と、算出したグルコース量及び血糖値を表示する表示部38などが設けられている。制御部31は、CPU,ROM,RAMなどを備えるマイクロコンピュータと、アナログデジタル変換回路などを備えている。図1(b)は生体成分分析装置1を被検者の手首16にバンド22により装着した場合の断面図であり、生体成分分析装置1は生体成分抽出カートリッジ11の下面が被検者の手首16の皮膚に密着するように装着される。
【0015】
図2から図4を使用して、生体成分分析装置1についてさらに説明する。図2に示すように、カートリッジ本体12にはセンサ部材19を配置するための略十字型の凹部17が設けられており、この凹部17の略中央部には、カートリッジ本体12の分析ユニット15側(上面側)と皮膚側(下面側)とを貫通する略矩形の貫通孔が設けられている。この貫通孔の分析ユニット15側の開口が第1開口18であり、皮膚側の開口が第2開口20(図4参照)である。センサ部材19は、凹部17に配置され、第1開口18を塞いでいる。センサ部材19の下面の、第1開口18から皮膚側に露出している部分は、計測面43である。この計測面43には、グルコースに対する触媒となる酵素(グルコースオキシターゼ(GOD))、GODが存在することによってグルコースから生成される過酸化水素(H22)に対する触媒となる酵素(ペルオキシターゼ(POD))、および、PODが存在することによってH22から生成される活性酸素(O*)と反応する発色色素(N,N−ビス(2−ヒドロキシ−3−サルフォプロピル)トリジンジカリウム塩)を含有するゲルが塗布され、そのゲルを乾燥させる処理が施されている。
【0016】
封止膜14は、カートリッジ本体12の下面(皮膚側の面)と同じ大きさを有するシートであり、開口20に対応する位置に開口20より大きさが小さい開口を有している。
【0017】
カートリッジ本体12の下面に封止膜14が貼り付けられ、これによって、この封止膜14は、第2開口20の一部を除いて、カートリッジ本体12の下面の全面を覆う。
【0018】
封止膜14の上面の、第2開口20から分析ユニット15側に露出している部分には、抽出用電極13の2本の作用部13bが、第2開口を挟んで設けられている(図4参照)。反応部30は、凹部17の略中央に形成された貫通孔を封止膜14の一部とセンサ部材19とで封鎖することによって形成されるチャンバである。上記のGODおよびPODなどの酵素と発色色素とは、反応部30の内部に露出している計測面43に塗布されることによって、反応部30に保持されている。
【0019】
抽出用電極13は、図1の斜線で示すように、生体成分抽出カートリッジ11の両端の2つの円形の端子部13aと、端子部13aにそれぞれ接続される中央の2本の作用部13bとを有する。抽出用電極13は、金属等の導電性材料からなる板を打ち抜くことによって形成され、封止膜14の上面に接着されている。なお、抽出用電極13は、金属等の導電性材料を蒸着することによって形成してもよい。図1に示すように、2つの端子部13aはカートリッジ本体12に設けられた2つの固定穴21にそれぞれ収納され、図4に示すように固定部材21aによって固定されている。抽出用電極13の2つの端子部13aは、分析ユニット15に設けられた定電圧電源32の陰極側に接続されており、この定電圧電源32の陰極側から被検者の皮膚を介してグルコースを抽出するための電流が供給される。また、定電圧電源32の陽極側は、図1(b)に示すように、被検者の皮膚に電気的に接続された陽極33に接続されている。
【0020】
また、図2に示すように、カートリッジ本体12には反応部30からカートリッジ本体12の主に縦方向に延伸する流路23が設けられている。流路23は、図3(b)及び図4に示すように、カートリッジ本体12の下面側に溝状に形成され、封止膜14によってその下面を封鎖されることにより、断面矩形の管状の流路を形成する。図2及び図3(a)に示すように、流路23の上端の連通孔23aは、分析ユニット15に設けられたシリンジポンプ25に配管24を介して接続されている。シリンジポンプ25は複数回の測定に必要な量の生理食塩水を収容しており、ピストン26を押し込むことにより、配管24及び流路23を介して反応部30を満たすのに必要な量の生理食塩水が反応部30に供給される。反応部30に供給された生理食塩水は、被験者から抽出されるグルコースを保持し、計測面43へと供給する。
【0021】
更に、図2に示すように、カートリッジ本体12には反応部30からカートリッジ本体12の主に縦方向に流路23と平行に延伸する排出路27が設けられている。排出路27は、図3(b)及び図3(c)に示すように、カートリッジ本体12の下面側に溝状に形成され、封止膜14によってその下面を封鎖されることにより、断面矩形の管状の排出路を形成している。排出路27は、緩衝空間28を介して外部(大気)に開放されている。
【0022】
図5は、本実施形態の生体成分抽出カートリッジ11に取り付けられているセンサ部材19の断面図を示している。このセンサ部材19は、ガラスからなる基板41を有し、この基板41の皮膚側の表面には基板41より高屈折率の第1光導波路層42が形成されている。第1光導波路層42の中央部の皮膚側の表面には、外周が傾斜した形状を有し第1光導波路層42より高い屈折率を有する第2光導波路層44が形成されている。第1光導波路層42の皮膚側の表面の第2光導波路層44が形成されていない部分には保護膜45が形成され、保護膜45の皮膚側の表面は遮光層47によって覆われている。第2光導波路層44の皮膚側に露出している部分は、計測面43である。
【0023】
分析ユニット15は、図4および図5に示すように、センサ部材19に分析用の光を供給するために、単色光源34と、この単色光源34からの光を基板41を介して第1光導波路層42に導くためのレンズ35とを備えている。第1光導波路層42に導かれた光は第2光導波路層44に入射し、全反射を繰り返して再び第1光導波路層42に導かれ、基板41及びレンズ37を介して受光素子36に入射する。このレンズ37及び受光素子36も、分析ユニット15に設けられている。受光素子36に入射した光は、受光素子36によってその光量に応じた電気信号に変換され、制御部31に入力される。
【0024】
センサ部材19は、計測面43が、カートリッジ本体12の第1開口18に一致するように配置される。
【0025】
グルコースが被験者から抽出され、シリンジポンプ25から反応部30に供給された生理食塩水を介して計測面43に到達すると、計測面に塗布されているGODが触媒として作用し、グルコースが反応してH22とグルコン酸が生成される。そして、計測面に塗布されているPODが触媒として作用し、H22が反応して活性酸素(O*)と水(H2O)が生成される。そして、活性酸素と計測面に塗布されている発色色素が反応することによって、発色する。この発色によって、反応部30内の生理食塩水に接している第2光導波路層44内を全反射しながら通過する光は、吸収された後、受光素子36に達する。従って、受光素子36から出力される電気信号は、計測面43に到達したグルコース量を反映した大きさとなる。
【0026】
なお、上述のグルコースオキシターゼ(GOD)に代えて、ピラノースオキシターゼ、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、グルコース脱水素酵素等を用いることができる。また、発色試薬としては、N,N−ビス(2−ヒドロキシ−3−サルフォプロピル)トリジンジカリウム塩に代えて、3,3',5,5'−テトラメチルベンジリデン等を用いることができる。
【0027】
以上の構成を有する本実施形態の生体成分分析装置1は、以下のようにして使用される。まず、生体成分抽出カートリッジ11を分析ユニット15に装着し、生体成分抽出カートリッジ11の下面の封止膜14が被検者の皮膚に接するように、生体成分分析装置1をバンド22により被験者の手首に固定する。そして、ピストン26を押し込むことにより、生理食塩水がシリンジポンプ25から配管24及び流路23を介して移送され、反応部30内に生理食塩水が満たされる。続いて、定電圧電源32から抽出用電極13に所定電圧(2V)を所定時間(3分間)印加することにより、生体成分であるグルコースを被検者の皮膚を介して反応部30内の生理食塩水に抽出する。反応部30内の生理食塩水に抽出されたグルコースは、生理食塩水内を移動し、計測面43に到達する。
【0028】
すると、前述したように、GODが触媒として作用してグルコースが反応することに起因して発色色素が発色する。このときの光量を受光素子36が検出し、制御部31に光量に応じた電気信号を入力する。制御部31は、この信号に基づいてグルコース量を算出し、この算出したグルコース量から血糖値を算出する。算出されたグルコース量及び血糖値は、表示部38に表示される。
【0029】
なお、本実施形態では、生体成分分析装置1を被験者の手首に装着した後に、シリンジポンプ25から反応部30への生理食塩水の供給を行っているが、本発明はこれに限らず、生体成分分析装置1を被験者の手首に装着する前に、シリンジポンプ25から反応部30内に生理食塩水を供給し、その後、生体成分分析装置1を被験者の手首に装着してもよい。
【0030】
本実施形態の生体成分分析装置1では、生体成分分析装置1を使用していない状態では、酵素と生理食塩水とが分離して保存されており、かつ、酵素を含有しているゲルは乾燥状態であるので、酵素の水分による失活が防止され、生体成分抽出カートリッジ11を長期に亘って保存することが可能となる。また、本実施形態の生体成分分析装置1は、液体である生理食塩水を用いているので、生理食塩水を確実に被験者の皮膚に密着することができる。これによって、被験者から抽出されるグルコースの量が安定し、分析精度が向上する。また、本実施形態の生体成分分析装置1は、カートリッジを長期保存した後でも、シリンジポンプ25から反応部30に生理食塩水を供給して使用することができる。従って、従来のものと比較して、カートリッジを長期保存することが可能となる。また、本実施形態の生体成分分析装置1は、単一の生体成分抽出カートリッジ11を分析ユニット15に装着すれば、グルコースの抽出が可能であるので、操作が簡単である。
【0031】
図6から図8を使用して、他の実施形態の生体成分分析装置2について説明する。前述の生体成分分析装置1では反応部30に於いてグルコースの抽出と検出とを行ったが、本実施形態の生体成分分析装置2は、反応部30とは別に抽出部50を設けた点が、図1〜5の生体成分分析装置1と主に異なる点である。なお、本実施形態の図6〜図8では、図1〜5に対応する同じ要素に対して同じ符号が付してある。
【0032】
生体成分分析装置2では、カートリッジ本体52の凹部17内のほぼ中央に第1凹部58が形成されている。第1凹部58の開口にはセンサ部材19の計測面43が配置されている。従って、生体成分分析装置2では、反応部30は、第1凹部58をセンサ部材19で塞ぐことによって形成されるチャンバである。
【0033】
また、生体成分分析装置2は、第1凹部58に隣接して抽出用凹部59がカートリッジ本体52の下面側に設けられている(図8参照)。
【0034】
封止膜14は、カートリッジ本体52の下面と同じ大きさを有するシートであり、抽出用凹部59の開口に対応する位置に、その開口より大きさが小さい開口を有している。カートリッジ本体52の下面に封止膜14が貼り付けられ、これによって、この封止膜14は、抽出用凹部59の開口の一部を除いて、カートリッジ本体52の下面の全面を覆う。
【0035】
封止膜14の上面の、抽出用凹部59の開口から分析ユニット15側に露出している部分には、抽出用電極13の2本の作用部13bが、この開口を挟んで設けられている。
【0036】
抽出部50は、抽出用凹部59と、その開口の一部を覆う封止膜14とによって形成されるチャンバである。なお、抽出用凹部59の内部にはセンサ部材19は露出していない。また、反応部30と抽出部50とは、流路18aを介して連通している。反応部30は、排出路27及び緩衝空間28を介して外部(大気)に開放されている。抽出部50は、流路23と配管24とを介してシリンジポンプ25に連通している。
【0037】
本実施形態の生体成分分析装置2では、以下のようにしてグルコースの分析が行われる。まず、この生体成分抽出カートリッジ51を分析ユニット15に装着し、生体成分抽出カートリッジ51の下面の封止膜14が被検者の皮膚に接するように、生体成分分析装置2をバンド22により被験者の手首に固定する。そして、ピストン26を押し込むことにより、シリンジポンプ25から配管24及び流路23を介して生理食塩水が移送される。これにより、抽出部50内に生理食塩水が満たされる。続いて、定電圧電源32から抽出用電極13に所定電圧(2V)を所定時間(3分間)印加することにより、生体成分であるグルコースを被検者の皮膚を介して抽出部50内の生理食塩水に抽出する。次に、再度ピストン26を押し込むみ、抽出部50内のグルコースが抽出された生理食塩水を反応部30に移送する。反応部30に於いては、前述のように計測面43に塗布した酵素を触媒としてグルコースが反応することに起因して発色色素が発色し、上述と同様に受光素子36によりグルコースの量を反映した信号が出力されることとなる。制御部31は、この信号に基づいてグルコース量を算出し、この算出したグルコース量から血糖値を算出する。算出されたグルコース量及び血糖値は表示部38に表示される。
【0038】
なお、上記2つの実施形態では、被験者がピストン26を押し込むことによって、生理食塩水を反応部30や抽出部50に移送する例について説明したが、本発明はこれに限らず、被験者が測定開始スイッチを押すと、ポンプが自動的に駆動して生理食塩水を反応部30や抽出部50に移送するように構成された生体成分分析装置に本発明を適用してもよい。測定開始スイッチ26は表示部33の近くや分析ユニット15の側面などに設けてもよい。
【0039】
図9および図10を使用して、さらに他の実施形態の生体成分分析装置について説明する。本実施形態では、前述の生体成分分析装置1と比べて、分析ユニット15に設けたシリンジポンプ25に代えて、カートリッジ本体72に液体収容部75が設けられている点が、主に異なっている。なお、本実施形態では、分析ユニットについての説明は省略し、生体成分抽出カートリッジのみ説明する。また、図9及び図10では、図1〜5に対応する同じ要素に対して同じ符号が付してある。
【0040】
本実施形態では、図9に示すように、カートリッジ本体72の流路23の延長上には液体収容部75が設けられている。この液体収容部75は、カートリッジ本体72の上面に設けられた収容凹部76と、この収容凹部76の開口を覆うフィルム77とによって構成され、収容凹部76とフィルム77とによって囲まれた内部に生理食塩水78が収納されている。液体収容部75は連通孔23aを介して流路23に連通しており、流路23の途中には、生理食塩水78が、カートリッジの使用前に反応部30に流入してしまうことを防止するための封止栓23bが設けられている。この封止栓23bは、例えば高分子等の物質を詰めたもので、カートリッジの使用に際しては、熱、光、電気、圧力等により、変形、溶解等することにより、液体収容部75内の生理食塩水78を反応部30に移送し得るように構成されている。なお、封止栓23bは、フィルム77によって収容凹部76を密閉していれば、生理食塩水78が反応部30に流入してしまうことはないため、必ずしも必要ではない。
【0041】
カートリッジの使用に際しては、被験者がフィルム77を剥がす。これによって、収容凹部76に収容されている生理食塩水は、大気圧によって反応部30へと押し出される。
【0042】
本実施形態の生体成分分析装置によれば、生理食塩水78は予め生体成分抽出カートリッジに収納されているので、分析ユニット15にシリンジポンプ25などのポンプを設ける必要がなく、生体成分分析装置を簡単な構成とすることができる。
【0043】
なお、図9に示した実施形態のカートリッジにおいて、液体収容部75に、カッターと、カッターによって破断可能な材料で形成された液体カプセルをカッターの下部に収容し、その液体カプセルに生理食塩水を収容しておいてもよい。この場合、カートリッジの使用に際しては、被験者がフィルム77を下向きに押し込む。これによって、液体カプセルがカッターによって破断し、生理食塩水が液体カプセルから流出する。流出した生理食塩水は、流路23を介して反応部30に流入する。
【0044】
なお、シリンジポンプ25および流路23に代えて、液体収容部75とカッターと液体カプセルと流路23とによって構成される液体供給機構を、分析ユニット15に設けてもよい。
【0045】
また、図9に示した実施形態のカートリッジにおいて、液体収容部75および流路23を削除した構成としてもよい。この場合、1つの実施形態として、反応部30に露出しているセンサ部材19の計測面43にフィルムをセンサ部材19から除去可能に貼付しておき、反応部30内に生理食塩水を予め収容しておく。この構成によって、センサ部材19の計測面43に塗布されている酵素(GODおよびPOD)および発色色素は、フィルムによって生理食塩水と分離される。カートリッジの使用に際しては、被験者が、このフィルムをセンサ部材19から除去することによって、酵素(GODおよびPOD)および発色色素が生理食塩水と接触する。なお、フィルムは、被験者が抜き取ってもよいし、熱エネルギーや光エネルギーを用いて溶解してもよい。また、生理食塩水に代えてゲルなどの半固体状の物質を使用してもよい。
【0046】
また、図9に示した実施形態のカートリッジから液体収容部75および流路23を削除した構成において、生理食塩水を収容した容器を準備し、その容器を用いて生理食塩水を第2開口20を介して反応部30内に注入するようにしてもよい。図17に容器の一例を示す。容器81は、容器本体82と、蓋83とからなり、容器本体82には、生理食塩水が収容されている。容器本体82は、可撓性を有する樹脂によって形成されている。使用に際しては、被験者が蓋83を取り外し、容器本体の口部85を第2開口20を介して反応部30内に挿入し、容器本体82の側面を掴む。これによって、生理食塩水83が口部85から流出し、生理食塩水83が反応部30に供給される。この場合、反応部30内に、乾燥したスポンジや、乾燥したメッシュ状のシートなどの部材を収納しておき、供給された生理食塩水をこれらの部材によって保持するようにしてもよい。なお、容器から反応部30に生理食塩水を供給するために、スポイトを用いてもよい。
【0047】
図11から図16を使用して、他の実施形態によるグルコースの抽出および分析方法について説明する。本実施形態の抽出および分析方法では、生体成分分析装置1および図11に示すマイクロニードル101を用いる。マイクロニードル101は、図11(a)に示すように、多数の針103をホルダー106によって束ねた構造を有し、本実施形態〜では30本の針103を使用し、ホルダー106の外径が10mm、内径が3mm、ホルダー106の端面106aから突き出している針103の部分の長さが300μmのものを使用している。
【0048】
また、図11(b)に示すように、針103の端面106aから突き出している部分は、円錐形状であり、端面106aに最も近い部分、すなわち円錐の底面の直径が160μmである。
【0049】
本実施形態の分析方法を図12を参照して説明する。ステップS1において、被験者は、挿入装置101の複数の針103を、手首の皮膚に押し当てることによって、抽出孔を形成する。
【0050】
図13は、抽出孔が形成された皮膚の断面を模式的に示している。同図に示すように、皮膚の最外面には、外気に直接接触する表皮113が存在している。この表皮113は、電気抵抗が大きい角質層111と、角質層111の下側に位置する顆粒層112等によって構成される。表皮113の下には真皮114が存在し、真皮114の下には、皮下組織115が存在している。挿入装置101の複数の針103を皮膚に押し当てることによって形成される複数の抽出孔122は、表皮113、すなわち、角質層111と顆粒層112等とを貫通し、真皮114の中間付近または下部には達するが、皮下組織115には達していない。抽出孔122は、皮膚表面における径が最も大きく、皮下組織115に近づくにつれて径が小さくなっている。抽出孔122の皮膚表面における径は、約160μmであり、抽出孔122の深さは、約300μmである。ステップS1において抽出孔122が形成されると、矢印Sで示すように、真皮114に充満している体液が抽出孔122中に滲み出る。なお、この体液には、グルコースが含まれている。
【0051】
ステップS2において、被験者は、図1(b)に示すように、生体成分分析装置1を手首に装着する。このとき、第2開口20(図4参照)と、ステップS1において抽出孔122が形成された皮膚の部位とを一致させる。
【0052】
ステップS3において、被験者は、ピストン26を押し込むことにより、シリンジポンプ25から反応部30内に生理食塩水を移送する。これによって、反応部30が生理食塩水で満たされるとともに、図14に示すように、一部の生理食塩水が反応部30から第2開口20介して複数の抽出孔122内に流入する。生理食塩水が抽出孔122の内部に流入すると、ステップS1での抽出孔122の形成によって抽出孔122中に滲み出ている体液は、図15に示すように、反応部30に存在する生理食塩水の方向(図15のT方向)に移動する。すると、抽出孔122中の生理食塩水に対する体液の濃度が低くなるので、矢印Sで示すように、体液が真皮114から抽出孔122中の生理食塩水に抽出される。
【0053】
ステップS4において、定電圧電源32から抽出用電極13に所定電圧(0.8V)を所定時間(3分)印加する。これによって、抽出孔122に滲み出ている体液は、電荷を帯びているので、図16に示すように、反応部30の方向(図16のT方向)への移動が促進される。なお、体液に含まれているグルコースは、電荷を帯びていないが、電荷を帯びている他の成分の移動に伴ってT方向に移動する。
【0054】
ステップS5において、上述と同様に受光素子36によりグルコースの量を反映した信号が出力され、制御部31は、この信号に基づいてグルコース量を算出し、この算出したグルコース量から血糖値を算出する。算出されたグルコース量及び血糖値は表示部38に表示される。
【0055】
なお、上記何れの実施形態に於いても、酵素および発色色素をゲルに含有させた状態でセンサ部材19の計測面43に塗布し、そのゲルを乾燥させておく構成について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、酵素と発色色素とを光架橋性ポリビニルアルコールのような架橋高分子で固定化した構成や、酵素を色素の発色機能を発現する分子構造を持つ公知の脂質分子で固定化した構成も採用することができる。また、酵素をセンサ部材19の計測面43に塗布しておき、発色色素を生理食塩水に溶解しておいてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、酵素および発色色素は、センサ部材19の計測面43に乾燥状態で塗布されているが、本発明はこれに限らず、酵素や発色色素を反応部30の内壁に乾燥状態で塗布してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、光信号に基づいてグルコースを検出する生体成分分析装置に生体成分抽出カートリッジを適用した場合について例示したが、本発明はこれに限らず、酵素電極法による電気信号に基づいてグルコースを検出する生体成分分析装置に本発明を適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、被験者から抽出されたグルコースをセンサ部材まで移動可能に保持するために、導電性の液体である生理食塩水を用いているが、本発明はこれに限らず、非導電性の液体である純水を用いてもよい。この場合、抽出用電極および陽極の両方を反応部30または抽出部50に配置してもよい。
【0059】
なお、上記実施形態では、分析結果としてグルコース量および血糖値を算出する生体成分分析装置について説明したが、本発明はこれに限られず、分析結果として乳酸、尿酸、コレステロールなどの生化学項目を算出する生体成分分析装置に本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の分析装置およびカートリッジは、医療産業の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る生体成分分析装置の一部破断平面図、(b)は(a)の生体成分分析装置を被検者の手首にバンドにより装着した場合の断面図である。
【図2】図1の生体成分抽出カートリッジのカートリッジ本体を表す平面図である。
【図3】(a)は、図2のA−A線矢視断面図、(b)は図2のB−B線矢視断面図、(c)は図2のC−C線矢視断面図をそれぞれ表している。
【図4】図1のP−P線矢視断面拡大図である。
【図5】図1の生体成分分析装置に於いて使用し得るセンサ部材の一例を示す図である。
【図6】(a)は、本発明の他の実施形態に係る生体成分分析装置の一部破断平面図、(b)は(a)の生体成分分析装置を被検者の手首にバンドにより装着した場合の断面図である。
【図7】図6の生体成分分析装置のカートリッジ本体を示す平面図である。
【図8】図6(a)におけるQ−Q線矢視断面拡大図である。
【図9】本発明の更なる実施形態に係る生体成分分析装置に使用されるカートリッジ本体を示す平面図である。
【図10】図9のA−A線矢視断面図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る挿入装置の説明図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る分析方法を示すフローチャートである。
【図13】抽出孔が形成された皮膚の抽出部位の断面を表す模式図である。
【図14】生理食塩水が抽出孔に流入した状態の皮膚の抽出部位の断面を表す模式図である。
【図15】真皮から抽出孔内ににじみ出た体液が、生理食塩水内で拡散している状態の皮膚の抽出部位の断面を表す模式図である。
【図16】抽出孔内の生理食塩水に抽出された体液が、電場の付与によって抽出ユニットに向かって移動している状態の皮膚の抽出部位の断面を表す模式図である。
【図17】本発明の他の実施形態に係るカートリッジに生理食塩水を供給するための容器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2 生体成分分析装置
11 生体成分抽出カートリッジ
12,52,72 カートリッジ本体
13 抽出用電極
13a 端子部
13b 作用部
14 封止膜
15 分析ユニット
17 凹部
18 第1開口部
18a 連通部
19 センサ部材
20 第2開口
22 バンド
23 流路
23a 連通孔
23b 封止栓
25,75 液体収容部
26 測定開始スイッチ
27 排出路
28 緩衝空間
29 取付孔
30 反応部
31 制御部
32 定電圧電源
34 単色光源
35,37 レンズ
36 受光素子
38 表示部
41 基板
42 第1光導波路層
43 計測面
44 第2光導波路層
45 保護膜
47 遮光層
50 抽出部
58 第1凹部
59 抽出用凹部
76 収容凹部
77 フィルム
78 収容物質


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から分析物を抽出し、分析する分析装置であって、
被験者から抽出される分析物を保持するための液体を保持可能に構成された抽出チャンバと、
液体を保持可能に構成された分析物リザーバーと、
抽出チャンバと分析物リザーバーとを連通する流路と、
抽出チャンバに保持された液体を、この流路を介して分析物リザーバーに移送するためのポンプと、を備えた分析装置。
【請求項2】
分析物リザーバーは、分析物を検出するためのセンサ部材を備え、センサ部材は、その計測面が分析物リザーバーに保持された液体と接触するように配置されることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
センサ部材は、その計測面に分析物に対する触媒となる酵素を乾燥状態で保持していることを特徴とする請求項2記載の分析装置。
【請求項4】
センサ部材を介して得られる分析物に基づく信号を出力する信号出力器を備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
信号出力器は、センサ部材に光を照射する光源と、センサ部材を介して検出した光に基づく信号を出力する光検出器とを含むことを特徴とする請求項4記載の分析装置。
【請求項6】
抽出チャンバは、分析物を被験者から抽出チャンバに保持された液体に移行させるための電極を備え、分析装置はこの電極に接続される電源を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項7】
電源から電極への通電により分析物が抽出チャンバに保持された液体に移行した後、抽出チャンバ内の液体は、ポンプにより流路を介して分析物リザーバーに移送されることを特徴とする請求項6記載の分析装置。
【請求項8】
電源から電極への通電の前に、抽出チャンバに液体がポンプによって供給されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
分析物がグルコースであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に載の分析装置。
【請求項10】
被験者から分析物を抽出して分析する分析装置本体に着脱可能なカートリッジであって、
被験者から抽出される分析物を保持するための液体を保持可能に構成された抽出チャンバと、
液体を保持可能に構成された分析物リザーバーと、
抽出チャンバと分析物リザーバーとを連通する流路と、
分析装置本体に装着された場合に、抽出チャンバに保持された液体を、この流路を介して分析物リザーバーに移送するための圧力を、分析装置本体から導入するための連通孔と、を備えたカートリッジ。
【請求項11】
分析物リザーバーは、分析物を検出するためのセンサ部材を備え、センサ部材は、その計測面が分析物リザーバーに保持された液体と接触するように配置されることを特徴とする請求項10記載のカートリッジ。
【請求項12】
センサ部材は、その計測面に分析物に対する触媒となる酵素を乾燥状態で保持していることを特徴とする請求項11記載のカートリッジ。
【請求項13】
抽出チャンバは、分析物を被験者から抽出チャンバに保持された液体に移行させるための電極を備え、カートリッジは、分析装置本体に装着された場合に、分析装置本体の電源と電極を接続するための端子を備えることを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載のカートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−183409(P2008−183409A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34326(P2008−34326)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【分割の表示】特願2005−25127(P2005−25127)の分割
【原出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】