説明

分泌性免疫グロブリンの豊富な乳画分の製造方法

本発明は、S−IgAを含有する乳を分画することにより、IgA(S−IgA)の豊富な組成物を製造するための方法に関する。そのような組成物は、特に、治療を必要とする対象において、粘膜表面(例えば、消化管、泌尿生殖器管、気道、鼻腔または口腔)の感染症および/または炎症の治療および/または予防、肥満およびそれに関連する疾患の治療および/または予防、あるいは食物アレルギーの治療および/または予防のために使用され得る。簡潔に言うと、本発明は、1以上の微多孔膜ろ過工程を用いて、分泌性免疫グロブリンAの豊富な乳画分を製造するための方法を提供する。本発明の方法の好ましいプロトコルは、脱脂、精密ろ過および多数のダイアフィルトレーションサイクルを通した限外ろ過−濃縮の工程を含む。本発明の方法は、予想外に高い収率が達成可能であることの他に、適応性、現在のダイアリーファクトリーにおける適用、およびS−IgAの質および安定性に影響を与えるプロセスパラメータの制御性の点で特に興味深い利益を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌性IgA(S−IgA)を含有する乳を分画することにより、S−IgAの豊富な組成物を製造するための方法に関する。そのような組成物は、特に、治療を必要とするヒトまたは動物において、例えば、医薬、食品または化粧品に前記組成物を組み入れることにより、粘膜表面(例えば、消化管、泌尿生殖器管、気道、鼻腔または口腔)の感染症および/または炎症の1以上の治療および/または予防、肥満およびそれに関連する疾患の治療および/または予防、あるいは食物アレルギーの治療および/または予防のために使用され得る。特に、本発明は、脱脂、ろ過および濃縮の工程を含む、そのような乳画分の製造方法に関する。本発明は、本発明の方法により得られる乳画分、それを含む製品ならびに前記製品の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、科学および医薬における多くの適用が見出されている。ある標的に対する新規の抗体を産生することは、かなり単純である。ほとんどの適用について、抗体は、B細胞産生抗体と不死化細胞株の融合の結果として生じるいわゆるハイブリドーマ細胞株により作られる。そのようなハイブリドーマ細胞は、容易に培養され、抗体は、培養上清から採取され得る。抗体を産生するための他の方法は、免疫化された動物の血清から採取する方法である。家畜の飼育のための技術は普及しており、家畜の飼育施設(housing)は相対的に安価である。
【0003】
家畜の乳腺分泌産物における免疫原特異的抗体の産生は、既に数十年前に可能であることが証明されている。最初に、初乳、すなわち出産後の雌により産生される最初の乳汁において最も良い結果が得られた。初乳の後に雌により産生される乳は、ここでは成熟乳(mature milk)と呼ぶ。初乳は、乳腺の特徴的な生理的および機能的状態から生じる非常に独特の産物である。反芻動物において、初乳と成熟乳の主な組成上の相違は、初乳における非常に高い含量の免疫グロブリンであり、その80〜90%がIgGクラスである。成熟乳における抗体レベルは、初乳において達成されるよりも原理的には低い(約10倍)(Tollemar et al., Bone Marrow Transpl. 23: 283-290 (1999); Bostwick et al., U.S. Pat. No. 5,773,000; Cordle et al., U.S. Pat. No. 5,260,057)。
【0004】
免疫グロブリンA(IgA)は、粘膜の免疫において重要な役割を果たす抗体である。IgAは、いわゆるJ鎖により連結されたIgAモノマーの二量体およびさらにいわゆる分泌成分を含み、約435kDaの分子量を有するS−IgAと呼ばれる特定の形態で分泌液中に見られる。この分泌形態において、それは、涙、唾液、ヒトの初乳/成熟乳、胃腸液、膣液および前立腺および気道上皮からの分泌液を含む粘液分泌における主要な免疫グロブリンである。それらは、消化管、気道、泌尿生殖器管および口腔/鼻腔の粘膜領域中に見られ、病原体の定着を阻害するように作用する。分泌性IgAは、消化管および気道のような過酷な環境においても生存可能であり、身体からの分泌液中で増殖する微生物に対する保護を提供する。これらの性質は、IgAを、健康の改善および/または維持、特に胃腸粘膜および気道粘膜のみならず皮膚の粘膜のような粘膜表面の感染症および/または炎症の治療および/または予防のための製品における適用のために好ましい免疫グロブリンとする。そのような製品の例には、例えば、特殊調製粉乳、臨床栄養、機能性食品および栄養補助食品のような経腸製剤;医薬品、皮膚用製剤、およびエアロゾル製剤が含まれる。それ故、反芻動物の乳中のIgA(分泌)レベルを増大させることに多大な努力を投じることは、驚くべきことではない。
【0005】
米国特許第6,974,573号明細書は、粘膜の通路または気道を介する抗原に対して家畜を過免疫化し、続いて、乳腺または乳腺上のリンパ節を通して前記抗原を投与する方法について論じている。そのようにして得られた乳を直接的に使用すること、または抗原特異的(IgA)抗体を精製するためのさらなる処理について論じている。
【0006】
免疫グロブリンの豊富な画分を得るための乳のような複雑な組成物のろ過分画は、当該分野において述べられており、そのような先行技術文献の大多数はIgGの単離に関するものであるが、これがウシの乳腺分泌産物における主要な免疫グロブリンであるという事実は驚くべきことではない。米国特許出願公開第2004/0167320号明細書は、クロスフローろ過(tangential flow filtration)の改善された方法を用いて複雑な混合物から関心のある分子を分離する方法および装置を開示している。米国特許出願公開第2004/0167320号明細書によると、関心のある適切な分子は、免疫グロブリンを含む。この米国特許出願は、ダイアフィルトレーションを用いた生乳からのIgGの精製の例を含み、その方法の条件およびパラメータが非常に細かく記載されている。しかしながら、非常に多くのS−IgA免疫グロブリンを乳から分離することは記載されていない。
【0007】
米国特許出願公開第2003/0059512号明細書は、1以上のクロスフローろ過工程を含む、乳および乳産物を分離するための方法および装置が開示されている。特に、米国特許出願公開第2003/0059512号明細書は、脱脂乳をカゼインの豊富な保持(retentate)画分とカゼインを除去した透過(permeate)画分に分離することが提案されており、アルブミンおよび免疫グロブリンのような高分子の豊富な保持画分を形成するのに適したクロスフローろ過モジュールに前記透過画分を流し、例えばクロマトグラフィーまたはクロスフローろ過を用いてさらに分離および精製を行い、アルブミンおよび免疫グロブリンを得る。米国特許出願公開第2003/0059512号明細書は、IgAの豊富な乳画分の調製に関する特定の情報または実施例は含まれておらず、S−IgAの豊富な乳画分については言うまでもない。
【0008】
米国特許第4,644,056号明細書は、初乳または乳を処理することにより、乳酸または初乳の免疫グロブリンの溶液を調製する方法を開示している。この公報によると、初乳をpH4.0〜5.5に酸性化し、平均細孔サイズ0.1〜1.2μmのろ過ユニットにおいてクロスフローろ過に供し、その後、5〜80kDaの分離限界の他のろ過ユニットにおけるさらなるクロスフローろ過により、低分子量の成分を除去する。実施例では、そのようなろ過ユニットを用いて酸性化された初乳を透析し、免疫電気泳動法を用いて溶液中におけるIgA、S−IgAおよびIgMの存在も報告されているが、主にIgGを含有する溶液を得る。それにもかかわらず、米国特許第4,644,056号明細書において開示されている方法は、良好な収量で(初乳でないまたは成熟した)乳からS−IgAの豊富な画分を効率的に調製するのに全く十分でない。
【0009】
IgAおよびIgGとS−IgAとの間で分子量ならびに形状に大きな差があり、S−IgAを単離するために先行技術のIgG単離方法を適用することは全く単純でなく、産業的なスケールでの製造における適用に適した方法を提供するために、効率的な操作および十分な収量が求められている場合にそれが単純でないことは言うまでもない。上記から明らかなように、S−IgAの豊富な(初乳でない)乳画分を効率的に製造するために使用され得る方法に対する必要性は、先行技術によっては満たされていない。本発明の目的は、そのような方法を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、上記必要性を満たす方法の開発に成功した。簡単に言うと、本発明は、1以上の微多孔膜ろ過(microporous membrane filtration)工程を使用して、分泌性免疫グロブリンAの豊富な乳画分を製造するための方法を提供する。本発明自体により得られる濃縮乳画分は、さらなる下流での処理を考慮する必要があるが、医薬、食品または化粧品に組み入れるのに適している。本発明の方法の好ましいプロトコルには、脱脂、精密ろ過および多数の透析サイクルを通す限外ろ過濃縮が含まれる。本発明者らは、本発明の方法が、これらの操作の前に乳の酸性化を必要としないことを見出した。本発明の方法は、免疫グロブリンに有害な高い温度を含むいずれのタイプの操作も含まない。
【0011】
後で実施例に詳細を説明するように、本発明の方法によると、乳中にもともと存在するS−IgAの75%以上、特に85%以上の収率を容易に得ることができる。当業者により理解される場合、好ましい側面において、本発明は、上述した家畜の粘膜を過免疫化する方法に従って得られる乳のような、高い抗原特異的S−IgA含量を有する乳の処理を含む。
【0012】
本発明の方法は、予想外に高い収率が達成可能であることの他に、適応性、現在のダイアリーファクトリー(diary factory)における適用、およびS−IgAの質および安定性に影響を与えるプロセスパラメータの制御性の点で特に興味深い利益を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1つの実施形態に従って分泌性IgA(S−IgA)乳画分を製造するのに必須の工程のフローチャートであり、乳スキミング装置(1)、第1の汚物集合タンク(holding tank)(4)、精密ろ過モジュール(6)、第2の汚物集合タンク(10)、限外ろ過モジュール(11)、噴霧乾燥装置(12)および水源(8)を含む。フローチャートにおいて、(2)はUF透過の流れを意味し、(3)はMF保持の流れを意味し、(7)はMF透過の流れを意味し、(9)はUF保持の流れを意味する。
【図2a】全透過容積に対する精密ろ過透過液中の全S−IgAの累積パーセンテージ。黒丸を伴う線は透過液を意味し、黒四角を伴う線は保持液を意味し、黒三角は透過液および保持液の値を合わせた全S−IgAを意味する。前記パーセンテージは、黒三角の線の平均値として表される。
【図2b】全透過容積に対する精密ろ過透過液中のC.ディフィシルトキシンA特異的S−IgAの累積パーセンテージ。黒丸を伴う線は透過液を意味し、黒四角を伴う線は保持液を意味し、黒三角は透過液および保持液の値を合わせた全C.ディフィシルトキシンA特異的S−IgAを意味する。前記パーセンテージは、黒三角の線の平均値として表される。
【図2c】全透過容積に対する精密ろ過透過液中のC.ディフィシルトキシンA特異的IgGの累積パーセンテージ。黒丸を伴う線は透過液を意味し、黒四角を伴う線は保持液を意味し、黒三角は透過液および保持液の値を合わせた全C.ディフィシルトキシンA特異的IgGを意味する。前記パーセンテージは、黒三角の線の平均値として表される。
【発明の詳細な説明】
【0014】
第1の側面において、本発明は、分泌性IgA(S−IgA)の豊富な乳画分の製造方法を提供し、該方法は、
・55℃未満の温度で乳から脂肪を分離することにより、5.5を超えるpHを有する一定容積の生乳の脂肪含量を0.5wt%未満の値まで低下させることと;
・0.1〜0.45μmの範囲内の平均細孔サイズを有する多孔質膜を用いて、5.5を超えるpHを有する低脂肪乳を精密ろ過し、S−IgAを含有する透過液およびカゼインの豊富な保持液を得ることと;
・精密ろ過透過液を濃縮し、S−IgAの豊富な乳画分を得ることと
を含む。
【0015】
ここで使用する場合、「分泌性IgA」または「S−IgA」という用語は、涙、唾液、初乳および成熟乳、胃腸液を含む粘膜分泌ならびに気道上皮からの分泌において見られるような、2つのIgAモノマーからなる二量体の免疫グロブリンを意味する。上述したように、このIgA二量体は、J鎖ならびにいわゆる分泌成分も含み、結果として約435kDaの分子量となる。
【0016】
「S−IgAの豊富な乳画分」という用語は、本発明の方法により得られる生成物であって、未処理の生乳よりも乾燥物質ベースで相対的に有意に高い量のS−IgAを含む生成物を意味する。特定の方法は、脂質およびカゼインのような大部分の乳成分からS−IgAを分離することに向けられている。前記方法は、小さな乳清タンパク質、単糖および二糖ならびに塩のような小さな有機および無機の乳物質の除去も行う。それ故、本発明によるS−IgAの豊富な乳画分は、典型的に、免疫グロブリン(S−IgA、IgA、IgMおよびIgG)と他の乳清タンパク質の組み合わせ、微量の単糖および二糖、ならびに乳清中に通常見られる他の成分を含む。本発明の方法により得られる生成物は、以下で説明するように、(濃縮された)液体ならびに乾燥固体の形態であってよい。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において、「含む」という動詞およびその活用形は、その用語以下の要素が含まれ、特に限定しない限りその要素が排除されないことを意味するように、非限定的な意味で使用される。さらに、本明細書において、「a」または「an」は、1の要素および1つのみの要素であるということを明確に要求しない限り、1より多い要素が存在する可能性を排除しない。それ故、本明細書において、「a」または「an」は、通常「少なくとも1」を意味する。
【0018】
「生乳」という用語は、ここで使用する場合、哺乳動物から直接得られるような乳を意味する。本発明により処理される前に、生乳は、通常の乳の処理、例えば、貯蔵等のための冷却または冷蔵により処理されてよい。しかしながら、そのような処理は、過剰な温度での処理あるいは免疫グロブリンの劣化を引き起こし得る化学物質および/または酵素の添加を含まない。当業者により理解されるように、加熱により引き起こされる免疫グロブリンへのいずれかのダメージの程度は、適用される温度ならびに乳または乳画分が前記温度に曝露される間の時間に依存することに注意する。本発明の好ましい実施形態において、5、2、1、0.5または0.1分間の間、温度が60℃を超えるいずれかの工程または操作を含まず、好ましくは、温度が55℃もしくはさらに好ましくは50℃を超えるいずれかの工程を含まない。制御の必要性は、前記方法において少なくとも1の低温殺菌工程を含むことを必要とすると考えられる。それ故、本発明のもう1つの実施形態において、前記方法は、乳または乳画分を、典型的には70℃以上の温度に40秒以内、好ましくは30秒以内加熱する工程を含む。
【0019】
上述したように、本発明の方法は、5.5を超えるpH、好ましくは5.6、より好ましくは5.7、最も好ましくは5.8を超えるpHを有する一定容積の生乳の脂肪含量を低下させる工程を含む。前記方法の特に好ましい実施形態によると、生乳のpHは、6〜7.5の範囲内であり、最も好ましくは6.3〜7の範囲内である。当業者に既知であるように、生乳のpHは、通常、6.5〜6.8の範囲内にある。本発明の特に好ましい実施形態によると、前記方法は、カゼインの凝集が生じるような量で酸を添加することを含まない。理論により結合されることを望むことなく、本発明者らは、精密ろ過の前のカゼイン凝集は、MF膜の流れに大きな影響を及ぼし、全体的な方法の効率を低下させると考える。前記方法の間の低いpHに加えて、カゼイン凝集は、免疫グロブリンに対して有害である。最も好ましくは、生乳は、本発明の方法に供される前に酸性化されない。
【0020】
哺乳動物により産生される乳中に含まれる脂肪の95%以上は、0.1〜20μmの範囲の直径を有する小球として存在する。生乳の脂肪含量を低下させるために、当該分野で既知のいずれかの方法を使用することができる。乳からの脂肪小球の分離、いわゆるスキミングは、通常、小球と脂質の間に存在する容量質量差(密度)に基づく。2つのスキミングタイプは、通常区別される:いわゆる自発的スキミングは、凝集した脂肪小球の豊富な層を提供し、操作は、5〜10℃で10〜16時間行われ;遠心性スキミングは、乳全体が円錐状のディスク内で約4000〜5000rpmの遠心性の回転に供され、クリームとスキムミルクを連続的に分離する。本発明の特に好ましい実施形態によると、生乳の脂肪含量は、0.1wt%未満、好ましくは0.075wt%未満のレベルに低下する。乳中に通常存在する脂肪小球は、例えばフィルターの閉塞、流れの減少のようにろ過工程において有害な影響を及ぼし得るため、精密ろ過の前に乳の脂肪含量を低下させることにより、方法の効率を大いに増大させることができる。
【0021】
スキミングの後、5.5を越えるpHを有する乳を精密ろ過(MF;microfiltration)に供する。「精密ろ過」という用語は、ここでは、ろ過工程の共通の意味を有すると解されるべきであり、微多孔膜を介して通過させることを含み、それが保持する分子の大きさの点を除いて、基本的には限外ろ過またはナノろ過と変わりない。精密ろ過は、与えられた細孔サイズの膜を使用して溶液または懸濁液中の成分をそのサイズの違いに基づいて分離する、圧力駆動の分離方法である。ノンメンブラン型フィルターまたはデプスフィルターを使用することにより、大きな粒子を除去することができるが、正確に規定された細孔サイズを有するメンブランフィルターのみが定量的な保持を保証する。
【0022】
本発明によると、0.01〜1.0μmの範囲内の平均細孔サイズを有する微多孔膜が使用される。細孔サイズ(または細孔直径)は、細孔の直径の平均値である。0.1〜0.45μmの平均細孔サイズを有する微多孔膜を使用することが特に好ましい。細孔サイズの範囲は正規分布し、その分布は非常に狭くてよい(例えば、最大と最小の比が2未満であってよい)。細孔サイズの分布が大きい場合および不均一である場合、分布が狭い膜を使用した場合よりも、細孔サイズによる流速の予測がずっとしづらい。好ましくは、細孔サイズの分布は、細孔サイズの標準偏差が平均細孔サイズの20%未満である。他の好ましい実施形態において、細孔サイズの標準偏差は、平均細孔サイズの15、10、5、または2%未満である。MF微多孔膜の細孔サイズの特徴を決定する方法は、当業者により既知である。
【0023】
マイクロシーブ(microsieve)を含むMF膜の異なるタイプは、(商業的に)入手可能であり、セラミック材料、半導体材料または高分子材料からなり、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンもしくはこれらの混合物、窒化ケイ素もしくは他のケイ素ベースの化合物またはこれらの混合物、ポリスルホン、フルオロポリマー、セルロース、ポリオレフィン樹脂およびポリエーテルスルホンが含まれる。本発明の多孔質膜は、セラミック膜であることが好ましい。いずれかの理論により結合されることを望むことなく、本発明者らは、セラミック膜が、高分子膜と比較して、耐性、寿命、経済性、CIPおよび小さな細孔サイズ分布に関して優れていると考える。本発明の方法において適切に使用され得るセラミックの精密ろ過膜の好ましい例には、多孔性アルミナ支持体およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタンのろ過層で構成されるMembraloxセラミック膜が含まれる。
【0024】
MFろ過モードおよび/またはフィルターモジュールの遠心分離に関して、本発明は特に限定されない。2つの異なるモードのろ過は、基本的に区別することができ、すなわち、「デッドエンド(dead-end)」ろ過としても既知のダイレクトフローろ過(direct flow filtration;DFF)は、与えられる流れが膜表面に垂直に適用され、膜を通して液体の100%を通過させようとし、クロスフローろ過としても既知の、タンゼンシャルフローろ過(TFF)は、与えられる流れを膜表面と平行に通過させ、その一部は膜を通過させ(透過液)、残り(保持液)は再循環させて液体の貯蔵部に戻す。これらのろ過方法の1つにおいて使用され得る当該分野で既知の異なるフィルターモジュールの例には、中空繊維モジュール、渦巻形モジュール、管状モジュール、および板状モジュールが含まれる。
【0025】
精密ろ過の間に適用される条件は、全S−IgA収量を増大させるためおよび/または処理時間および/または効率を最適化するために、望ましいように変化させてよい。本発明による典型的な方法において、スキムミルクは、10〜100 l/m2 h、好ましくは10〜60 l/m2h、最も好ましくは20〜50 l/m2hおよび特に30〜35 l/m2 hの流速でろ過される。MF法は、典型的に、ろ過の前の入り口圧力が1〜6 bar、好ましくは2〜4.5 barおよび特に3〜4 barの範囲内である。出口圧力は、典型的に、0.5〜5 bar、好ましくは1〜3.5 barの範囲内である。好ましくは、圧力の適用により、1.5〜5 bar、より好ましくは2〜4.5 bar、最も好ましくは3〜4 barの範囲内の膜内外圧力(transmembrane pressure)を結果として生じる。MF法について、温度は、典型的に、10〜55℃の範囲内、好ましくは15〜40℃の範囲内、最も好ましくは20〜35℃の範囲内、特に25〜30℃の範囲内に維持される。本発明者らは、これらの温度が、流動、S−IgA透過および分子免疫グロブリン安定性の間で至適な歩み寄りを提供すると考える。
【0026】
本発明によると、精密ろ過により、S−IgA含有透過液およびカゼインの豊富な保持液を生じる。当業者により理解されるように、これは、保持液が乳カゼインの大部分を含有し、透過液が乳免疫グロブリンを含む乳清タンパク質の大部分を含むことを意味する。それ故、乾燥固体重量ベースで、透過液中のS−IgA含量は、生乳のS−IgA含量よりも高い。
【0027】
本発明によると、精密ろ過透過液は、続いて濃縮される。「濃縮」という用語は、ここで使用する場合、相当量の水、単糖および二糖、ならびに他の小さな乳成分を透過液画分から除去するいずれかの方法を意味する。当業者に既知のいずれかの方法を適用することができるが、いくつかの実施形態によると、55℃を超える温度での処理を含まないべきであり、好ましくは10〜15℃で行われる。
【0028】
本発明の特に好ましい実施形態において、上述した方法が提供され、精密ろ過透過液は、限外ろ過により濃縮される。限外ろ過(UF)は、膜ろ過であり、静水圧により半透膜に対して液体を押し進める。懸濁された固体および高分子量の溶質が保持される一方、水および低分子量の溶質は膜を通過する。限外ろ過は、保持される分子の大きさが異なる点を除き、基本的には精密ろ過またはナノろ過と変わらない。
【0029】
本発明によると、1〜100kDaの範囲内のフィルターカットオフ値を有する多孔質膜が使用され得る。「分子量カットオフ値(MWCO)」は、通常の意味で使用され、溶液中のあるMWの分子を与えられた割合で保持する微多孔膜の能力を意味する(典型的には、90%保持)。10〜100kDaの範囲内、最も好ましくは50〜100kDaの範囲内の分子量カットオフ値を有する膜を使用することが好ましい。
【0030】
異なるタイプのUF膜は、(商業的に)入手可能であり、セラミック材料、半導体材料または高分子材料からなり、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンもしくはこれらの混合物、窒化ケイ素もしくは他のケイ素ベースの化合物またはこれらの混合物、ポリスルホン、フルオロポリマー、セルロース、ポリオレフィン樹脂およびポリエーテルスルホンが含まれる。本発明の多孔性UF膜は、高分子多孔質膜であることが好ましいが、セラミック膜の使用についても本発明により意図される。UFろ過方法および/またはフィルターモジュールの遠心分離に関して、本発明は特に限定されない。ダイレクトフローろ過(DFF)法およびタンゼンシャルフローろ過(TFF)法のいずれも、本発明の目的に適合し得る。これらのろ過方法の1つにおいて使用され得る当該分野で既知の異なるフィルターモジュールの例には、中空繊維モジュール、渦巻形モジュール、管状モジュール、および板状モジュールが含まれる。
【0031】
限外ろ過の間に適用される条件は、当業者により理解されるように、多数の変数に依存する。特定の条件下で前記方法を行い、最適化することは、当業者の技術の範囲内である。本発明による典型的な方法において、精密ろ過透過液は、1〜50 l/m2h、好ましくは2.5〜40 l/m2hおよび特に5〜30 l/m2hの流速でろ過される。UF法は、典型的に、ろ過の前の入り口圧力が1〜6barの範囲内である。出口圧力は、典型的に、0.5〜5barの範囲内である。好ましくは、圧力の適用により、1.5〜6barの範囲内の膜内外圧力を結果として生じる。UF法について、温度は、典型的に、10〜40℃の範囲内、好ましくは10〜25℃の範囲内に維持される。
【0032】
限外ろ過の操作により、保持液としてのS−IgAの豊富な乳画分、ならびに塩およびわずかな有機分子を主に含むS−IgAに乏しい透過液が得られる。
【0033】
典型的に、得られるUF透過液は、乾燥固体重量に基づいて、30〜90wt%、好ましくは40〜85wt%の範囲の量のタンパク質を含む。前記タンパク質は、主に乳清タンパク質である他の乳タンパク質、わずかな単糖および二糖、ならびに他の小さな乳成分と共に、関心のある免疫グロブリンを含む。使用する膜に依存して、UF工程は、10kDa未満、好ましくは50kDa未満、最も好ましくは100kDa未満の分子量を有する乳清タンパク質(ならびに他のタンパク質)の画分をS−IgA含有UF保持液から除去するように最適化されてよい。その目的のために、それぞれ5〜15kDaの範囲内または40〜60kDaの範囲内または80〜120kDaの範囲内のMWCOを有するUF膜を使用することが好ましい。より小さい有機および無機分子も、UF膜を透過することが可能である。それ故、UF濃縮工程により、乳中に含まれる塩ならびに単糖および二糖のような物質の画分も除去することができる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によると、上述した方法は、1以上のダイアフィルトレーションサイクルを含む方法を提供し、精密ろ過保持液はダイアフィルトレーション液と混合され、精密ろ過保持液とダイアフィルトレーション液の混合物は、続く精密ろ過および濃縮の工程に供される。ダイアフィルトレーションを行うためのいくつかの方法が存在する。連続的なダイアフィルトレーションにおいて、ダイアフィルトレーション液は、好ましくはろ液が産生される速度と同じ速度で、MFサンプル提供貯蔵部に加えられる。非連続的なダイアフィルトレーションにおいて、溶液は最初に希釈され、その後、出発容積に再び濃縮される。このプロセスは、その後MFに供される液体から必要な量のS−IgAが得られるまで繰り返される。本発明の方法においては、連続的なダイアフィルトレーション法が使用されることが好ましい。本発明の方法において、各ダイアフィルトレーション容量またはダイアフィルトレーションサイクルと共に、貯蔵部から供給されるMFサンプルにもともと含まれるS−IgAの画分が抽出される。「ダイアフィルトレーション容量」(または「ダイア容量(diavolume)」)は、MF保持液の量と比較した回収されたろ液の容量として定義される。回収されたろ液の容量がダイアフィルトレーションを開始した時の保持液の容量と等しい場合、1ダイア容量が処理されたことになる。従って、「ダイアフィルトレーションサイクル」という用語は、貯蔵部から供給されるMFサンプルから1ダイア容量を処理すること、すなわち除去および回収することを意味する。典型的に、全てのダイアフィルトレーションサイクルにおいて得られるS−IgA MF透過液画分および/または全部のダイアフィルトレーション容量は、上流の濃縮ステップにまとめて供される。
【0035】
本発明においてダイアフィルトレーション液として使用される適切な液体には、水および水溶液が含まれる。好ましくは、ダイアフィルトレーション液は、水または乳の水性画分である。本発明の特に好ましい実施形態によると、ダイアフィルトレーション液は限外ろ過透過液である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によると、少なくとも6のダイアフィルトレーションサイクルを含む上記方法が提供され、最初のMF透過液容量を除き、ダイアフィルトレーションを開始したときのMF保持液容量の6倍のMF透過液容量が回収されることを意味する。より好ましくは、上記方法は、少なくとも6、8、10または12のダイアフィルトレーションサイクルを含み、さらにより好ましくは少なくとも13または14、最も好ましくは少なくとも15のダイアフィルトレーションサイクルを含む。実施上の理由のため、本発明の方法におけるダイアフィルトレーションサイクル数は、30を超えず、好ましくは20を超えない。
【0037】
「体積濃縮倍率(volume concentration factor;VCF)」は、保持液容量に対する最初に提供される容積の比を意味する。例えば、20Lの供給材料のうち、18Lが通過してろ液となり、2Lが保持液として残るまで処理された場合、10倍の濃度になるため、体積濃縮倍率は10である。好ましくは、精密ろ過工程におけるVCFは1.5〜8の範囲内であり、より好ましくは2〜6、最も好ましくは2.5〜4の範囲内である。限外ろ過工程におけるVCFは、典型的に、10〜30の範囲内、最も好ましくは15〜25の範囲内である。
【0038】
さらに好ましい実施形態において、単糖および二糖ならびに他の小さな乳成分を除去するためのUF工程を行う間に、MF透過液が水または水溶液、好ましくは滅菌水で希釈される前記方法が提供される。これは、本発明の方法が上述したようなダイアフィルトレーション液として限外ろ過の透過液を使用する場合に特に興味深い。典型的に、水は、最初のUF濃度を10〜30の範囲内のVCFとした後、透過液の40〜60%の範囲内の容積で添加される。
【0039】
本発明によるダイアフィルトレーション工程が完了した場合、UFサンプル供給貯蔵部中に含まれるS−IgAの豊富な画分は、さらに下流の工程、例えば、水の除去および/またはS−IgAのさらなる精製に供されてよい。
【0040】
本発明の好ましい側面において、最後のダイアフィルトレーション操作の後で得られるS−IgAの豊富な画分が回収された後、例えば減圧蒸発装置を用いて前記画分から水が除去され、および/または前記画分がその微生物含量を低下させるためのさらなるろ過工程に供され、および/または前記画分が噴霧乾燥もしくは凍結乾燥に供され、またはS−IgA精製のためのクロマトグラフィーにおける供給物として使用される上記方法が提供される。
【0041】
上述したさらなるろ過工工程は、典型的に、S−IgAの豊富な画分の微生物負荷を低下させるために適用され、最初の精密ろ過工程が前記微生物負荷を十分な程度に低下できない場合に望ましく、および/またはその後の操作の間に、例えば系の「汚染された」部分に新たな微生物が混入され得るために望ましい。好ましくは、この工程は、0.05〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.3μmの平均細孔サイズを有する微細孔膜を用いたデッドエンド型ろ過を含む。
【0042】
噴霧乾燥は、液体混合物を小さな液滴に崩壊すること(微粒化)および噴霧乾燥装置における混合物から溶媒を急速に除去することを含むいずれかの方法を意味し、液滴から溶媒を蒸発させるための強力な駆動力を使用する。本発明における噴霧乾燥は、S−IgAの豊富なUF保持液を、100〜200℃、好ましくは125〜175℃の温度で空気中に噴霧することにより適切に行われ得る。
【0043】
「凍結乾燥(freeze-dryingまたはlyophilization)」は、冷却乾燥のいずれかの方法であり、UF保持液を凍結した後、昇華により水を除去または蒸発させることを含む。
【0044】
S−IgAのさらなる精製は、典型的に、イオン交換、疎水性相互作用、組み合わせた方法、親和性クロマトグラフィーおよび/またはサイズ排除クロマトグラフィーあるいはいずれかの他の既知のクロマトグラフィー方法を含んでよく、その全ての方法は、免疫グロブリン精製の分野において一般的に使用されている。本発明の特に好ましい実施形態において、上記方法は、S−IgAの豊富な画分を親和性クロマトグラフィーによる精製に供する付加的なステップを含む。親和性クロマトグラフィーにおいて、タンパク質はリガンドとの可逆的な相互作用に基づいて分離される。本発明の親和性クロマトグラフィー法は、典型的に、免疫グロブリンまたは特に(S−)IgAとリガンドとの特異的な相互作用に基づく。リガンドは、軽鎖(すなわち、κまたはλ鎖)、重鎖(すなわち、α鎖)、分泌成分もしくはJ鎖の領域、または2以上の領域または領域の特異的部分の組み合わせ(例えば、重鎖と分泌成分、重鎖とJ鎖、重鎖と分泌成分とJ鎖)に対して高い親和性を有するリガンドが使用されてよい。そのようなリガンドの適切な例には、源として哺乳動物、鳥類、または他の種に由来する抗体または抗体断片に基づく天然または組織培養のリガンドが含まれ、例えば、モノクローナル抗体、Fab−画分、単鎖可変ドメイン画分または当該分野で既知のいずれかの他のリガンドが含まれる。S−IgAの豊富な画分に特定の抗原に対する抗体が含有されていることが分かっている場合、例えば乳が特定の抗原に対して免疫化された動物から得られた場合、上記の後でさらなる精製が行われてよく、その目的は、高い純度でこれらの抗体を特異的に得ることであり、特異的な抗原は、(S−)IgAの親和性精製のためのリガンドとして使用されてよい。本発明によると、UF保持画分は、任意に濃縮のような適切な前処理を行った後、(S−)IgAとリガンドの特異的結合を生じさせる条件下でクロマトグラフィーカラムに適用される。(S−)IgAとリガンドの結合は、特異的であり、可逆的であり、結合しない物質はカラムを流れる。標的(S−)IgAは、特異的には競合的なリガンドを使用することにより、または非特異的にはpH、イオン強度もしくは極性を変化させることにより、(S−)IgAを溶出させるように条件を変化させることにより回収される。(S−)IgAは、その後、精製され、濃縮された形態で回収される。
【0045】
本発明のもう1つの側面は、上記方法において生乳として使用される乳に関する。好ましい実施形態によると、前記乳は、上述したように、家畜から得られる。本発明の特に好ましい側面において、前記乳は、初乳の段階後の家畜から搾乳される成熟乳であり、好ましくは、家畜は、ウシおよびヤギからなる群より選択される。「成熟乳」および「初乳でない乳」という用語は、ここでは互換性に使用され、初乳の段階後に分泌される乳を意味し、分娩後の最初の4〜7日を含む。正常な成熟乳は、タンパク質の含量が低い点、含まれる抗体において初乳とは異なり、通常、300日まではその成分で一定である。
【0046】
本発明の特に好ましい実施形態において、前記乳は、1以上の抗原で免疫化された動物から得られ、前記免疫化は、前記抗原に対して特異的なS−IgAの乳中への分泌を生じさせるために行われる。典型的に、そのような方法で作られる成熟乳は、少なくとも0.5μg/ml、より好ましくは少なくとも15μg/ml、最も好ましくは少なくとも50μg/mlの量の抗原特異的S−IgAを含有する。高い抗原特異性力価のS−IgAを含有する初乳でない乳を得るための家畜の免疫化については、米国特許第6,974,573号明細書および関連する米国特許第7,074,454号明細書に記載されている。本発明の特に好ましい側面において、動物の免疫化は、前記1以上の抗原を含む第1の組成物を粘膜または気道を介して前記動物に投与して該動物を過免疫化し、続いて前記1以上の抗原を含む第2の組成物を前記動物の乳腺または乳腺上のリンパ節に投与することを含む。この免疫化方法については、米国特許第6,974,573号明細書に記載されており、この文書の開示は、特に、前記方法の詳細な実施例および好ましい実施形態に関するものである。
【0047】
本発明は、いずれかの特異的抗原および/または抗原特異的抗体に限定するものではないが、特に関心のある抗原には、クロストリジウム属、ストレプトコッカス属、ヘリコバクター属、大腸菌属、カンピロバクター属、サルモネラ属、コレラ属、モラキセラ属、Heamophilus属、ウイルス(例えば、ロタウイルス、ノロウイルス)、寄生虫(例えば、gardia lambia)、酵母(例えば、カンジダ属)およびカビに由来するものが含まれる。本発明において関心のある抗原には、例えば、関心のある微生物に由来する、好ましくは上記微生物の1以上に由来する細胞成分、毒素、毒性因子、接着因子、定着因子、酵素、ペプチド、被膜/膜結合性多糖、ならびにウイルス、好ましくは上記ウイルスに由来する毒性因子および外膜タンパク質が含まれる。
【0048】
本発明のもう1つの実施形態は、上述したような方法に関し、前記乳は、活性(過)免疫化を受けていない家畜から得られる。
【0049】
本発明のもう1つの側面は、上述した方法により得られる生成物に関する。当業者により理解されるように、そのような生成物は、典型的に、乾燥粉末および/または濃縮液の形態であり、典型的に、全乾燥重量に基づいて、少なくとも0.02wt%、好ましくは少なくとも0.10wt%および最も好ましくは少なくとも0.25wt%の量のS−IgAを含有する。免疫グロブリンおよび他の乳由来の固体に加えて、本発明の生成物は、相当量の水または他のキャリア物質を含有してよい。いずれかのさらなる精製工程を行うことなく、または精製工程の前に精密ろ過および濃縮を行うことにより得られる生成物は、典型的に、乾燥重量に基づいて5wt%以下のS−IgAを含有する。当業者により理解されるように、本発明の精密ろ過および濃縮工程の後に行われるさらなる精製工程、特に上述した親和性クロマトグラフィー工程は、結果として100wt%以下のS−IgAを含有する生成物を生じ得る。
【0050】
上述した生成物は、全ての種類の健康維持および/または健康改善のための製品、特にそれを必要とする対象における粘膜および/または皮膚の感染症および/または炎症の予防および/または治療において使用するための医薬品、化粧品および/または食品に組み入れるのに非常に適している。前記対象はヒトであってよいが、動物であってもよい。好ましい実施形態において、前記対象はヒトである。本発明によるそのような製品の好ましい例には、錠剤、カプセル剤、散剤、および丸剤のような固体の医薬経口剤形ならびに典型的に経口または局所投与のための、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏およびエアロゾル製剤のような半固体もしくは液体の製剤が含まれる。1つの実施形態において、前記製品は、経腸製剤、特に特殊調製粉乳、臨床栄養、機能性食品および/または栄養補助食品である。ここで使用する場合、「栄養補助食品」および「機能性食品」という用語は、日々の食事の一部として消費されるが、ベーシックな栄養機能を超えて生理学的利益を有する、および/または慢性疾患のリスクを低減することが示された食品および飲料を意味する。もう1つの実施形態において、前記製品は、クリーム、ローションまたは軟膏のような、皮膚に適用するための治療用組成物または化粧用組成物である。さらにもう1つの実施形態において、製品は、下気道に投与するために提供されるか(例えば、エアロゾル製剤)、または上気道に投与するために提供される(例えば、飲用溶液)。さらにもう1つの実施形態において、口腔および/または鼻腔の粘膜に投与するための組成物、例えば、溶液、懸濁液、または軟膏が提供される。さらにもう1つの実施形態において、泌尿生殖器管に投与するための本発明による組成物は、例えば、クリーム、ローションまたは他の液体製剤として提供される。
【0051】
それ故、本発明のさらなる側面は、上記方法により得られる生成物を含む錠剤、カプセル剤、散剤、丸剤、溶液、懸濁液、液体または固体の食品、飲料、ローション、クリーム、軟膏およびエアロゾル製剤ならびに前記生成物のいずれかを調製するための上記方法により得られる生成物の使用に関する。前記生成物は、一般的に健常人に対して使用されてよく、典型的に、例えば、粘膜表面(例えば、消化管、泌尿生殖器管、気道、鼻腔または口腔)の感染症および/または炎症の1以上の治療および/または予防、肥満およびそれに関連する疾患の治療および/または予防、あるいは食物アレルギーの治療および/または予防のために使用される。
【実施例】
【0052】
例1:
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)およびその毒素(トキシンAおよびトキシンB)に対して標的化された特異的な免疫グロブリンを含有する生乳を、3頭のホルスタイン(Holstein-Friesian)牛から採取した。乳は搾乳後に冷却せず、直接40℃に加熱した。125 L/hの出力を有するClair Milky 遠心分離機において40℃の生乳を処理し、クリーム状の乳を分離した。得られたスキムミルク(40L)を精密ろ過パイロットプラントのシステムタンクに入れた。2.52 m2 の全ろ過面積を有する7勾配気孔率のEP3730 Membralox 0.1μmフィルターを具備した TetraPak MSF-7パイロットプラントを、カゼインと乳酸タンパク質を分離するために使用した。この工程における乳の温度は、25〜30℃に維持した。
【0053】
限外ろ過は、50 KDa のフィルター分子量カットオフおよび2.0 m2のフィルター面積で行った。この工程の透過液は、精密ろ過のためのダイアフィルトレート液として使用する。限外ろ過は室温で行い、精密ろ過におけるダイアフィルトレーションを行うのに十分なダイアフィルトレーション液が作られるような方法で流束を回収した。限外ろ過を通過する流れは、約40 L/m2hであった。
【0054】
実験の始めに、パイロットプラントを水で処理した。勾配気孔率フィルターモジュールの使用は、膜面積全体にわたる均一な膜内外圧力(transmembrane pressure)を保証した。実験は、3.75 barのろ過前の入口圧力および2.55 barのろ過後の出口圧力で行った。結果として3.15 barの膜内外圧力および 1.2 barの圧力低下を生じた。この圧力は、実験の進行の間ほとんど変化しなかった。透過液と保持液の流れは、システムタンクに向けた。10分間の安定化の後、パイロットプラントの死容積(dead volme)に存在する水(15 L)とスキムミルクを混合し、透過液の流れを回収容器に向け、透過液を10 L回収した。10 Lごとに、透過液と保持液を分析のために取得した。透過液を40 L回収した後、パイロットプラントのシステムタンクは空になり、スキムミルクの濃縮物がパイロットプラントの死容積を占めた。そのとき、10 Lの限外ろ過透過液をシステムタンクに加えた。300 Lの透過液で実験が停止するまでこれを繰り返した。
【0055】
透過液300 Lにおいて、効率的な17,3ダイアフィルトレーションが乳について行われ、最初の40 Lの透過液は乳の濃縮物であった。濃縮段階におけるスキムミルクの濃縮係数は0.73〜2.67の範囲であり、ダイアフィルトレーションの間は1.60〜2.67である。透過液300 Lにおいて、全S-IgA、C.ディフィシルトキシンA特異的S-IgA およびC.ディフィシルトキシンA特異的IgGは、それぞれ96.6%、97.1%および105.4%のパーセンテージで浸透液中に存在する。予想通り、全S-IgA とC.ディフィシルトキシンA特異的S-IgA は、同様の透過曲線を有する。しかしながら、これらの曲線は、C.ディフィシルトキシンA特異的IgG よりも緩やかである。IgGレベルは、140 Lの透過液、すなわち6.7のダイアフィルトレーションにおいて、すでに97%であった。S-IgAの場合、同じレベルに到達するまでに約10以上のダイアフィルトレーションを必要とする。IgG (2つの軽鎖および2つの重鎖からなる)、S-IgA (さらにJ鎖および分泌性成分を含む二量体) およびIgM kDa (J鎖により結合した五量体構造)の分子量は、それぞれ180、435 KDa および900 kDaである。S-IgA およびIgG の構造は、IgGが球状タンパク質であると考えられるのに対して、Fc 部分上に尾-尾(tail-to-tail)構造を有するS-IgAはよりホルター(halter)様形状を有する点で異なる。この形状および大きさの違いは、乳から高い収量でS-IgAをろ過するために必要なダイアフィルトレーションにおける差異において最も高い確率で一定の役割を果たす。上述したパラメータ(25〜30℃, Pi 3.75 bar, Po 2.55 bar)で精密ろ過膜を通過した流れは、30〜35 L/m2hであった。
【0056】
図2A、2Bおよび2Cに、全S-IgA, C.ディフィシルトキシンA特異的S-IgA およびIgGのそれぞれの透過を示す。表1には、IgGおよびS-IgAの回収のために行ったダイアフィルトレーションの数における違いを示す。
【表1】

【0057】
ここに記載した実施例および実施形態は、説明することのみを目的としており、種々の修飾または変化が当業者に示唆され、それは本明細書および付属の特許請求範囲の精神および範囲内に含まれると解されるべきである。ここに引用した全ての出版物、特許、および特許出願は、全ての目的について本明細書中に参照として組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌性IgA(S−IgA)の豊富な乳画分の製造方法であって;
55℃未満の温度で乳から脂肪を分離することにより、5.5を超えるpHを有する一定容積の生乳の脂肪含量を0.5wt%未満の値まで低下させることと;
0.1〜0.45μmの範囲内の平均細孔サイズを有する多孔質膜を用いて、5.5を超えるpHを有する低脂肪乳を精密ろ過し、S−IgAを含有する透過液およびカゼインの豊富な保持液を得ることと;
精密ろ過透過液を濃縮し、S−IgAの豊富な乳画分を得ることと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記精密ろ過の間の乳のpHは6〜7.5の範囲内である方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記精密ろ過の透過液は、1〜100kDa、好ましくは50〜100kDaの範囲内のフィルターカットオフ値を有する多孔質膜を用いた限外ろ過を行うことにより濃縮され、保持液としてのS−IgAの豊富な乳画分およびS−IgAに乏しい透過液を得る方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記方法は、1以上のダイアフィルトレーションサイクルを含み、前記精密ろ過保持液はダイアフィルトレーション液と混合され、前記精密ろ過保持液とダイアフィルトレーション液の混合物は、続いて精密ろ過工程および濃縮工程に供される方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、1以上のダイアフィルトレーションサイクルを含み、限外ろ過透過液がダイアフィルトレーション液として使用される方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の方法であって、少なくとも6のダイアフィルトレーションサイクルを含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、少なくとも15のダイアフィルトレーションサイクルを含む方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、前記精密ろ過はセラミック膜を用いて行われ、前記限外ろ過は高分子膜を用いて行われる方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、前記方法は、2分間より長い間の60℃を超える温度での工程または操作を含まない方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、最後のダイアフィルトレーション操作の後に得られる限外ろ過保持液は、回収され、噴霧乾燥されるか、凍結乾燥されるか、またはS−IgA精製のためのクロマトグラフィー工程における供給液として使用される方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法であって、前記乳は、初乳段階の後で家畜、好ましくはウシおよびヤギからなる群より選択される家畜から搾乳した成熟乳である方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記哺乳動物は、1以上の抗原に対して特異的なS−IgAの乳中への分泌を引き起こすように前記抗原で免疫化された方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記動物の免疫化は、前記1以上の抗原を含む第1の組成物を粘膜または気道を介して前記動物に投与して該動物を過免疫化し、続いて前記1以上の抗原を含む第2の組成物を前記動物の乳腺または乳腺上のリンパ節に投与することを含む方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法により得られる生成物。
【請求項15】
請求項14に記載の生成物を含む組成物であって、前記組成物は、医薬、食品および化粧品からなる群より選択される組成物。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【公表番号】特表2011−523410(P2011−523410A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509426(P2011−509426)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050248
【国際公開番号】WO2009/139624
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510302803)ダブリュ.・ヘルス・エル.ピー. (1)
【氏名又は名称原語表記】W. Health L.P.
【住所又は居所原語表記】Winterbotham Trust Partnership Limited, Marlborough and Queen Streets, P.O. Box N−3026, Nassau, Bahamas
【Fターム(参考)】