説明

分離用デバイスおよびその製造方法

【課題】サイズの均一なピラーが微細な所定の間隔で配列したピラーアレー構造体を有する生体関連分子等の分離用デバイスを、高スループットにて効率良く製造することが可能な方法、およびその方法により製造された分離用デバイス。
【解決手段】アルミニウム材の陽極酸化により形成される表面にホールアレー構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ22、またはそれを鋳型として作製した複製モールドを、繰り返し使用可能なモールドとして用いてナノインプリント法によりピラーアレー構造体を作製するとともに、作製されたピラーアレー構造体を所定形態の流路内に配置することを特徴とする、物質の分離を行うための分離用デバイスの製造方法、およびその方法により製造された分離用デバイス32。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールで構造が制御されたピラーアレー構造体を用いた物質の分離用デバイスの製造方法とその方法により製造される分離用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の遺伝子情報を解析することにより健康管理や病気の治療に役立てようとする試みにおいて、膨大な遺伝子情報を効率良く瞬時に解析する技術の確立が必須となっている。これら遺伝子解析において行われる、抽出、増幅、分離、検出に関する操作をすべて集積した集積型マイクロチップの作製が検討されている。従来、DNAやたんぱく質などの生体関連分子の分離は、ゲル電気泳動やクロマトグラフィー等により、分子の物理的な大きさに基づき行われてきた。例えばポリマーゲルなどの場合、分子鎖の絡み合いなどから作られる数十nm程度の無数の空隙を有していることから、生体関連分子を流通させた場合には、小さな分子は障害が少なく速い速度で移動し、大きな分子は移動速度が遅くなることから、サイズによる分離を行うことが可能となる。このような原理を利用し、マイクロチップ内に生体関連分子が進行する際の障害となるナノメータースケールの構造体をリソグラフィー技術に基づく微細加工により作製する方法がこれまでに報告されている。例えば、特許文献1においては、核酸が電気泳動する流路内にシリカ微粒子を充填することにより分離を行うためのナノ構造の形成を行っている。また、特許文献2においては、流路を流れに対して平行にいくつかの部屋に分けることにより、各部屋に入る部分に細い入口を設け、被分離分子を分子サイズに従っていくつかの部屋に分画する方法を採っている。
【0003】
最も多く提案されている構造が、被分離分子が移動する流路内に多数の円柱状のピラーが林立している構造(ピラーアレー構造)であり、これらの柱を避けながら被分離分子が移動することにより、分子サイズに基づく分離が行える(例えば、特許文献3〜7)。一般に、被分離分子が移動する流路内に、ピラーアレー構造体を作製する際には、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、干渉露光法により所定のパターンを形成したのち、ドライエッチングで作製する微細加工技術が用いられている。これらの技術を用いれば、ナノスケールで構造が制御されたピラーアレー構造体の作製が可能であるが、作製工程が煩雑であり、多段階にわたる長時間の工程を必要とすることから、スループットが低いといった問題点があった。生体関連分子を汚染の影響なく、精度良く分離を行うためには、分離用デバイスは、使い捨てであることが望ましいが、本手法で作製されたピラーアレー構造体は高価なものとなるため、使い捨て用途には適さないものであった。このような問題点を解決するために、先に述べた微細加工技術によりピラーアレー構造の反転構造となるホールアレー構造の金型を作製し、これをポリマーなどの材料に押し付けることでポリマー表面にピラーアレー構造体を形成するといったナノインプリント法も提案されている(例えば、特許文献3、4)。ナノインプリント法によれば、一度作製した金型は繰り返し使用が可能であることから、高スループットでピラーアレー構造体の作製を行うことが可能であるという特徴を有している。しかしながら、ピラーの長さ、ピラーの間隔が異なる構造体を作製するためには、その都度リソグラフィー技術に基づく微細加工法によって金型を作製する必要があるといった問題点を有していた。
【0004】
ピラーアレー構造体に基づく分離用デバイスの性能は、ピラー間のギャップサイズに依存することから、ギャップサイズが小さい方がより分離精度が高くなる。そのため、小分子を精度よく分離するためには、ピラーとピラーのギャップがナノスケールで制御された構造体が求められる。しかしながら、既存のリソグラフィーに基づく手法では、100nm以下の間隔でピラーが配列した構造体を精度良く作製することは困難であった。また、本プロセスに基づけは、生体関連分子のほかにも、ナノメーターサイズに制御されたギャップの通過によって移動速度に差が出る物質であれば、様々な試料を分離するためのデバイスとして使用することができるが、ナノメーターサイズの微粒子など、微小な試料の分離を高精度に行うためには、ナノスケールでギャップ間隔が制御されたピラーアレー構造体の形成が必須となる。
【0005】
ピラー間隔がナノスケールで制御された生体分子分離用ピラーアレー構造体の作製法として、陽極酸化ポーラスアルミナを用いた手法が先に本出願人により提案されている(特許文献8)。陽極酸化ポーラスアルミナは、アルミニウムを酸性浴中で陽極酸化することにより得られるホールアレー構造材料であるが、作製条件を変化させることにより、細孔間隔をナノスケールで制御することが可能であることから、間隔が制御されたピラーアレー構造体の作製を行うための鋳型材料として適している。特許文献8に示された手法では、陽極酸化ポーラスアルミナを用いた鋳型プロセスにより、ナノスケールで構造制御された分離デバイスの作製を行っている。すなわち、貫通孔化処理を施したポーラスアルミナ膜を樹脂中に埋め込み、その後、アルミナ部分を化学的に溶解除去することにより、ピラーアレー構造体の作製を可能としている。この手法によれば、ピラー間隔がナノスケールで高度に制御された構造体が得られることに加え、上下に支持層を有したピラーアレー構造体が得られることから、流路内で分子を移動させた場合においてもピラーが倒れることなく、ピラー同士の間隔を保持できると考えられるため、サイズの小さい分子の分離にも利用可能な分離用デバイスとして期待できる。しかしながら、作製プロセスが鋳型プロセスに基づくものであり、ナノピラーアレー構造体を得るために陽極酸化ポーラスアルミナ鋳型を溶解除去する必要があることから、一つの鋳型から一つのピラーアレー構造体しか得ることができないといった問題点が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−175683号公報
【特許文献2】特開2004−184138号公報
【特許文献3】特開2004−170396号公報
【特許文献4】特開2004−45357号公報
【特許文献5】特開2004−42012号公報
【特許文献6】特開2002−184775号公報
【特許文献7】特開2001−515216号公報
【特許文献8】特開2006−62049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、DNAやたんぱく質などの分子をサイズによって高速で効率良く分離可能なデバイスとして期待されているナノピラーアレー構造体からなる分離用デバイスを作製する際の上記問題点を解決するために、アルミニウム材を陽極酸化することによって得られる陽極酸化ポーラスアルミナをモールドとしてナノインプリント法を利用することにより、ピラー間隔がナノスケールで制御された分離用デバイスを効率良く作製する手法について鋭意検討を行った結果なされたものである。その目的は、サイズの均一なピラーが微細な所定の間隔で配列したピラーアレー構造体を有する生体関連分子等の分離用デバイスを、モールドをピラーアレー構造体作製ごとに溶解させることなく繰り返し使用可能として、高スループットにて効率良く製造することが可能な方法、およびその方法により製造された分離用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る物質の分離を行うための分離用デバイスの製造方法は、アルミニウム材の陽極酸化により形成される表面にホールアレー構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドを、繰り返し使用可能なモールドとして用いてナノインプリント法によりピラーアレー構造体を作製するとともに、作製されたピラーアレー構造体を所定形態の流路内に配置することを特徴とする方法からなる。
【0009】
この方法において、ナノインプリント法とは、繰り返し利用可能なモールドを用い、モールド表面のサブミクロンからナノメータースケールの凹凸パターンを樹脂や無機材料の表面に一括転写を行う手法のことである。この手法によれば、一つのモールドから複数の試料を作製可能であることから、表面にナノメータースケールで制御された凹凸パターンが形成された試料を高スループットで得ることができる。すなわち、本発明では、所定のホールアレー構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドを、繰り返し使用可能なモールドとして用い、ナノメータースケールで制御された多数のピラーが表面に林立したピラーアレー構造体を、繰り返し作製することができる。作製されたこのピラーアレー構造体を所定形態の流路内に配置することにより、この流路内に導入される物質がピラーアレー構造体を通過する際の各被分離物質間の速度差を利用して、物質の分離を行う分離用デバイスを効率良く製造できることとなる。
【0010】
上記本発明に係る分離用デバイスの製造方法においては、所望のナノインプリント法を実行するために、細孔周期が20nm〜1000nmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができ、また、細孔径が10nm〜800nmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができ、さらに、細孔深さが100nm〜100μmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。
【0011】
この本発明に係る分離用デバイスの製造には、上記ピラーアレー構造体を形成する部材と上記流路を形成する部材を別部材に構成し、両部材を貼り合わせて製造する方法を採用することもできるし、ピラーアレー構造体と上記流路を一括成形する方法を採用することもできる。例えば、基板表面に上記ピラーアレー構造体を形成した後、上記流路となる溝を形成した別の基板を貼り合わせる方法を採用することもできるし、ナノインプリント法により、上記ピラーアレー構造体と、該ピラーアレー構造体を内部に含む流路とを一括成形する方法を採用することもできる。一括成形の場合のより具体的な方法として、例えば、アルミニウム材の表面に陽極酸化ポーラスアルミナを形成し、上記ピラーアレー構造体および流路となる部分以外の陽極酸化ポーラスアルミナを溶解除去し、しかる後、ピラーアレー構造体を形成しない流路部分の陽極酸化ポーラスアルミナ表面にマスキング層を形成することで作製したモールドを用いてナノインプリント処理を行うことにより、ピラーアレー構造体が内部に形成された流路を一括成形する方法を採ることができる。この方法では、ナノインプリント処理を行うことにより、上記マスキング層を形成した陽極酸化ポーラスアルミナ部分でピラーアレー構造体の両側の流路部分が成形され、そのマスキング層を形成していない陽極酸化ポーラスアルミナ部分でピラーアレー構造体成形されることになる。また、この方法では、陽極酸化ポーラスアルミナの膜厚は、膜面内において均一であり、その厚さは陽極酸化時間で制御することが可能であるため、任意の深さの流路の形成が可能となる。
【0012】
所定形態の流路を形成する部材には、例えば、ガラスや樹脂を用いることができ、その部材自体の作製の容易さや、ピラーアレー構造体形成部材と流路形成部材との貼り合わせ構造とする場合の貼り合わせの容易さから、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いることが望ましい。例えば、機械加工やフォトリソグラフィー等の手法により作製した流路パターン金型に、PDMSのプレポリマーを流し込み、その後、架橋反応を進行させることで硬化させ、これを剥離することで流路パターンが形成されたPDMSシートを形成することができる。
【0013】
ピラーアレー構造体のピラーの高さと流路の深さは一致させることが好ましく、それによって各ピラーの両端を流路の上面および底面に固定することが可能になる。例えば、ピラーアレー構造体の両端(各ピラーの両端)を上記流路の上面と底面に接合することにより、ピラーアレー構造体の各ピラーの直立構造を保持するようにできる。上記一括成形の場合の具体的な方法として示した、ピラーアレー構造体を形成しない流路部分の陽極酸化ポーラスアルミナ表面にマスキング層を形成することで作製したモールドを用いてナノインプリント処理を行う方法では、プロセスの特性上、ピラーアレーの高さと流路の深さが同じになることから、ピラーアレー構造体の両端を流路の上面と底面に接合し、ピラーアレー構造体の各ピラーの直立構造を保持した構造が容易に得られる。このように各ピラーの直立構造を保持した構造では、流路に被処理物質が流され、該物質の分離処理が行われる際にも、ピラーアレー構造体の各ピラーの直立姿勢、各ピラー間の間隙が目標形態に精度良く維持されることになり、目標とする高い分離性能が安定して維持される。換言すれば、ピラーアレー構造体の各ピラーが流路の上下両側で固定保持されることにより、生体分子の分離を行う際もピラーアレーの直立構造を維持し各ピラー間のナノスケールの間隙を保持することが可能となることから、高精度な分離デバイスとして安定して機能させることが可能となる。
【0014】
本発明に係る分離用デバイスの製造方法では、ナノインプリント法に用いるモールドとしては、陽極酸化ポーラスアルミナ自体を用いることもできるし、それを鋳型として作製した複製モールドを用いることもできる。複製モールドの場合には、例えば、ナノインプリント用モールドとなる陽極酸化ポーラスアルミナの構造を、Ni等の金属に置き換えることにより、耐久性に優れたモールドとすることもできる。金属モールドの作製には、陽極酸化ポーラスアルミナの構造を、例えば、一旦樹脂等の材料に置き換え、その後、得られたネガ型モールドを用いた鋳型プロセスにより出発構造となる陽極酸化ポーラスアルミナと同様の形状を有する金属モールドを得ることができる。構造転写を行う金属には、構造の作りやすさ、硬度、耐久性の点から、Niを用いることが望ましく、陽極酸化ポーラスアルミナから作製したネガ型に、めっきを行い、その後ネガ型を除去することにより作製することが可能である。
【0015】
また、本発明において用いるモールドは、繰り返し利用を行うものであることから、構造転写を行う材料とモールドの離型性が高いことが求められる。そのため、あらかじめフッ素系の表面処理剤を用いて処理し(表面修飾を行い)、表面に物質の付着を生じにくくしたモールドをナノインプリント法に用いることが望ましい。フッ素系の表面処理剤としては、例えば、パーフルオロポリエーテル基を含むフッ素化合物を用いることができる。このような、離型処理により、樹脂、無機材料等へのインプリントを行う際に、繰り返し利用を行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明で作製される分離デバイスは、例えば溶液中に分散したサイズの異なる物質の分離に用いるものであるが、キャピラリー電気泳動のような電解液を使用する際には、ピラーアレー構造体の各ピラー間に電解質溶液を浸透させる必要がある。そのため、表面が親水化されたピラーアレー構造体を用いることが望ましい。ピラーアレー構造体の親水化処理には、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマランプ処理などを用いることができる。
【0017】
本発明で作製される分離デバイスにより分離を行う物質としては、とくに、DNAやたんぱく質のような生体関連分子を用いることができる。
【0018】
本発明における、ナノピラーアレー構造にもとづく分離用デバイスの分離精度を向上させるためには、各ピラー間のギャップサイズをナノメータースケールで精密に制御することが必須となる。各ピラー間のギャップサイズを高度に制御するためには、ピラーが規則的に配列したピラーアレー構造体を作製することが望ましい。そのためには、細孔配列に高規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、または、それを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法に用いる(ナノインプリント用モールドとして用いる)ことが望ましい。
【0019】
このような細孔配列に高規則性を有するナノインプリント用モールドとするためには、例えば次のような方法が有効である。シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜120Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる方法、硫酸を電解液として用い、化成電圧10V〜30Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる方法、リン酸を電解液として用い、化成電圧180V〜200Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる方法を採用できる。このような方法により、より高い規則性を有するピラーアレー構造体を得ることができる。
【0020】
また、定電圧で比較的長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化皮膜を溶解除去し、再び同一条件下で陽極酸化を施すことで作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いることができ、それによって、より高い規則性を有するピラーアレー構造体を得ることができる。
【0021】
さらに、陽極酸化に先立ち、アルミニウムの表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生の開始点として作製した細孔配列を制御した陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いることができ、それによって、より高い規則性を有するピラーアレー構造体を得ることができる。
【0022】
本発明に係る分離用デバイスは、上記のような方法により製造されたものである。上記方法では、ナノインプリント法で用いられるモールドが繰り返し使用可能なモールドであることから、目標とする形態を有する高精度の分離用デバイスが、大量生産する場合にあっても、容易にかつ高スループットで得られる。
【0023】
また、本発明では、前述した方法を用いて製造された、ピラーアレー構造体と該ピラーアレー構造体を含む流路とを一括成形することが可能なナノインプリント用モールドについても提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サイズの均一なピラーが微細な所定の間隔で配列したピラーアレー構造体を有する分離用デバイスを、ナノインプリント法を用いることにより、かつ、そのナノインプリント用モールドをピラーアレー構造体作製ごとに溶解させることなく繰り返し使用可能なモールドとすることにより、高スループットにて効率良く製造することが可能になる。これにより、生体関連分子等の分離に極めて有用な分離用デバイスを安価に提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明における陽極酸化ポーラスアルミナを用いたナノインプリント処理によりピラーアレー構造体の形成を行うプロセスの一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る分離用デバイスの製造方法の一例を示す模式図である。
【図3】本発明に係る分離用デバイスの製造方法の他の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1で得られたピラーアレー構造体の電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図5】実施例2で得られたピラーアレー構造体の電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る分離用デバイスの製造の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明における陽極酸化ポーラスアルミナを用いたナノインプリント処理によりピラーアレー構造体の形成を行うプロセスの一例を模式的に示したものである。アルミニウム材の陽極酸化により形成される表面にホールアレー構造2を有する陽極酸化ポーラスアルミナ1(陽極酸化ポーラスアルミナモールド)を、繰り返し使用可能なモールドとして用い、ナノインプリント法により、ホールアレー構造2内にピラーアレー形成材料3(例えば、樹脂)を充填し、それを基板4ごと陽極酸化ポーラスアルミナモールド1から離型させることにより、基板4上に陽極酸化ポーラスアルミナ1の細孔形態(細孔周期、細孔径、細孔深さ)に対応する微細な形態を有する所定のピラーアレー構造体5が得られる。
【0027】
すなわち、陽極酸化ポーラスアルミナ1の細孔周期、細孔径を変化させることにより、ピラー間のギャップサイズを任意に制御することができる。また、陽極酸化ポーラスアルミナ1の細孔深さを変化させることにより、得られるピラーアレー構造体の高さの制御を行うこともできる。ナノインプリント法によるピラーアレー構造体5の形成には、光硬化性のモノマーまたはプレポリマーを用いた光インプリントプロセス、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔および表面にモノマーやプレポリマーを充填したのち、熱により重合反応や架橋反応を進行させ、充填物が硬化したのち剥離を行うプロセス、熱可塑性樹脂を用いた熱インプリントプロセス、さらには、無機材料の前駆体にインプリントを行う手法等を用いることができる。無機材料への構造転写には、スピンオングラスを用いることができ、これによりシリカのナノピラーアレー構造体が形成可能である。ナノインプリントプロセスでは、モールドと、転写物の離型を容易にするために、モールド表面には離型剤(フッ素系またはシラン系の表面処理剤)で離型処理を行うため、インプリント処理によって形成された構造体の表面にも離型剤の一部が付着することがある。このような場合には、ピラーアレー構造体5の表面は、疏水性を示すことになり、電気泳動を行う際の溶液の浸透が困難になる。そこで、ナノインプリント処理により得られたピラーアレー構造体5には、あらかじめ親水化処理を施すことが望ましい。ピラーアレー構造体5の親水化処理には、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマランプ処理を用いることができる。
【0028】
図2は、本発明に係る分離用デバイスの製造方法の一例を示しており、とくに、ナノインプリントプロセスにより形成したピラーアレー構造体11を備えた基板12に対し、該ピラーアレー構造体11を内包する流路13のパターンを形成した流路形成基板14(例えば、PDMS製流路形成基板)を貼り付けることにより、分離デバイス15の製造を行った場合の例を模式的に示したものである。ピラーアレー構造体11を備えた基板12側には、あらかじめ、流路13の入口と出口に対応する位置に、被分離物質の流入用の穴16aと流出用の穴16bを形成しておけばよい。ピラーアレー構造体11のピラーの高さと流路13の深さを一致させておくことにより、ピラーアレー構造体11は、各ピラーが流路の下部(底面)および上部(上面)で固定保持された構造体とすることができる。
【0029】
図3は、ナノインプリントプロセスによりピラーアレー構造体とそのピラーアレー構造体を内部に含む流路とを一括成形するプロセスの例を模式的に示したものである。アルミニウム材21の表面に陽極酸化ポーラスアルミナ22を形成し(ステップS1)、陽極酸化ポーラスアルミナ22の表面に保護膜A(23)および保護膜B(24)でマスキング層を形成して(ステップS2)、ピラーアレー構造体および流路となる部分以外の陽極酸化ポーラスアルミナを溶解除去し(ステップS3)、しかる後、保護膜A(23)を除去し保護膜B(24)をそのまま残して、ピラーアレー構造体を形成しない流路部分の陽極酸化ポーラスアルミナ22の表面に保護膜B(24)でマスキング層を形成することでナノインプリント処理用のモールド25を作製し(ステップS4)、作製した陽極酸化ポーラスアルミナモールド25を用いてナノインプリント処理を行うことにより、保護膜A(23)を除去した部分では陽極酸化ポーラスアルミナモールド25のホールアレイ内に充填された構造転写物26(例えば、樹脂)によりピラーアレー構造体が形成され、保護膜B(24)でマスキングされていた陽極酸化ポーラスアルミナ部分に対応して、それを囲むように構造転写物26により流路が一括成形される(ステップS5)。このとき、構造転写物26上に基板27を配置すれば、該基板27上に、ピラーアレー構造体が作製され、それを内部に含む形態の流路が形成されることになる。ステップS6に天地を逆転して示すように、基板27上に、ナノインプリントにより作製したピラーアレー構造体28を有し、そのピラーアレー構造体28を内部に含む流路29が形成される。この構造体に、流路29の入口と出口に対応する位置に被分離物質の流入用の穴30aと流出用の穴30bを備えた平滑な基板31を貼り付けることにより、分離用デバイス32の製造が完成する。この手法によれば、ピラーの高さと流路の深さを一致させることが可能であるため、得られたパターン上部に平滑な基板31を貼り付けることで、上下二層で保持されたピラーアレー構造体28を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により更に本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
実施例1〔ナノインプリントプロセスに基づく上下で支持されたピラーアレー構造体の形成〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、500 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1Mの濃度に調整したリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で5分間陽極酸化を行った。その後、10重量%リン酸水溶液に30分間浸漬し、孔径拡大処理を施した。得られた陽極酸化ポーラスアルミナを0.2 重量%のオプツールDSX溶液(ダイキン化成工業社製)に浸漬し離型処理を行った。得られたポーラスアルミナをモールドとし光硬化性モノマー(東洋合成工業社製、PAK-01)を滴下したガラス基板上に押し付け、紫外光を照射することでモノマーの重合固化を行った。樹脂が完全に固化したのち、モールドを剥離することにより、ガラス基板表面にポリマーピラーアレー構造体を得た。この表面にポリジメチルシロキサンを硬化させて作製したシートを貼り付けることにより、上下で保持されたピラーアレー構造体を得た。図4に、得られたピラーアレー構造体41の電子顕微鏡による観察結果を示す。
【0031】
実施例2〔ナノインプリントプロセスによるピラーアレー構造体を有する流路の一括形成〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、500 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1Mの濃度に調整したリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で5分間陽極酸化を行った。その後、10重量%リン酸水溶液に30分間浸漬し、孔径拡大処理を施した。流路およびピラーアレーパターンを形成する部分にマスキングフィルムを形成したのち、試料を酸化クロム 1.8重量%、リン酸6重量%からなる水溶液中に浸漬し、マスキングを行った部分以外のアルミナ層を溶解除去した。その後、マスキング部分を除去し、ピラーアレーの形成を行う部分に再度マスクを形成したのち、Niスパッタを行い同通層を形成した。スパッタ処理による導通層形成ののち、マスキングを除去し、導通層を付与した部分にのみメッキを行いNiを50nm析出させた。これにより、ピラーアレー構造体を形成する部分以外の細孔を封孔した。Niメッキ後の試料表面に実施例1と同様の方法で離型処理を施し、その後、光硬化性モノマーを用いた光インプリントを行うことでピラーアレー構造体を有する流路を作製した。図5に、得られたピラーアレー構造体51の電子顕微鏡による観察結果を示す。
【0032】
実施例3〔DNAのサイズ分離〕
実施例1と同様の手法で作製したピラー高さ15μm、流路深さ15μmのDNA分離デバイスを用いて、500bp、1000bpのDNAの電気泳動を行った。それぞれのDNAは、POPO1を用いて蛍光標識を行い、ピラーアレー構造体を通過した位置において検出した。DNAの電気泳動には、10重量%トリスーホウ酸―EDTA緩衝液を電解液として用い、800Vの条件下で電気泳動を行った。それぞれのDNAの電気泳動について、ピラーアレー構造体を通過するまでに要した時間評価を行った結果、サイズの小さい500bpのDNAの方が、サイズの大きい1000bpのDNAよりも短い時間でピラーアレー構造体を通過することが確認され、本発明で得られた分離用デバイスが、DNAのサイズ分離に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により得られる分離用デバイスは、ピラーアレー構造体を用いて物質の分離を行うことが要求されるあらゆる分野に適用でき、とくに、DNAやたんぱく質などの生体関連分子の分離に有用である。
【符号の説明】
【0034】
1 陽極酸化ポーラスアルミナ
2 ホールアレー構造
3 ピラーアレー形成材料
4 基板
5 ピラーアレー構造体
11 ピラーアレー構造体
12 基板
13 流路
14 流路形成基板
15 分離デバイス
16a、16b 穴
21 アルミニウム材
22 陽極酸化ポーラスアルミナ
23 保護膜A
24 保護膜B
25 陽極酸化ポーラスアルミナモールド
26 構造転写物
27 基板
28 ピラーアレー構造体
29 流路
30a、30b 穴
31 基板
32 分離用デバイス
41、51 ピラーアレー構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材の陽極酸化により形成される表面にホールアレー構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドを、繰り返し使用可能なモールドとして用いてナノインプリント法によりピラーアレー構造体を作製するとともに、作製されたピラーアレー構造体を所定形態の流路内に配置することを特徴とする、物質の分離を行うための分離用デバイスの製造方法。
【請求項2】
細孔周期が20nm〜1000nmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いる、請求項1に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項3】
細孔径が10nm〜800nmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いる、請求項1または2に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項4】
細孔深さが100nm〜100μmの陽極酸化ポーラスアルミナを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項5】
基板表面に前記ピラーアレー構造体を形成した後、前記流路となる溝を形成した別の基板を貼り合わせる、請求項1〜4のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項6】
ナノインプリント法により、前記ピラーアレー構造体と、該ピラーアレー構造体を内部に含む流路とを一括成形する、請求項1〜4のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項7】
アルミニウム材の表面に陽極酸化ポーラスアルミナを形成し、前記ピラーアレー構造体および流路となる部分以外の陽極酸化ポーラスアルミナを溶解除去し、しかる後、ピラーアレー構造体を形成しない流路部分の陽極酸化ポーラスアルミナ表面にマスキング層を形成することで作製したモールドを用いてナノインプリント処理を行うことにより、ピラーアレー構造体が内部に形成された流路を一括成形する、請求項6に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項8】
ピラーアレー構造体の両端を前記流路の上面と底面に接合し、ピラーアレー構造体の各ピラーの直立構造を保持する、請求項1〜7のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項9】
フッ素系の表面処理剤で表面修飾を行ったモールドをナノインプリント法に用いる、請求項1〜8のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項10】
ピラーアレー構造体の表面を親水化処理する、請求項1〜9のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項11】
分離を行う物質がDNAやたんぱく質などの生体関連分子である、請求項1〜10のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項12】
細孔配列に高規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナモールド、または、それを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法に用いる、請求項1〜11のいずれかに記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項13】
シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜120Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる、請求項12に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項14】
硫酸を電解液として用い、化成電圧10V〜30Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる、請求項12に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項15】
リン酸を電解液として用い、化成電圧180V〜200Vにおいて作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる、請求項12に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項16】
定電圧で陽極酸化を施した後、一旦酸化皮膜を溶解除去し、再び同一条件下で陽極酸化を施すことで作製した高い細孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる、請求項12に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項17】
陽極酸化に先立ち、アルミニウムの表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生の開始点として作製した細孔配列を制御した陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製した複製モールドをナノインプリント法のモールドとして用いる、請求項12に記載の分離用デバイスの製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の方法により製造された分離用デバイス。
【請求項19】
請求項6または7に記載の方法を用いて製造された、ピラーアレー構造体と該ピラーアレー構造体を含む流路とを一括成形することが可能なナノインプリント用モールド。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−228188(P2010−228188A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76368(P2009−76368)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本分析化学会 電気泳動分析研究懇談会の主催により、2008年11月13日から14日に開催された、第28回キャピラリー電気泳動シンポジウムにおける発表 社団法人日本表面科学会の主催により、2008年11月13日から15日に開催された、第28回表面科学学術講演会における発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】