説明

切断装置と切断方法

【課題】インゴットからウエハーを切断する場合に、切断速度が比較的遅い、ワイヤーが切れ易い、切代が大きくなる、という問題を解消する方法、装置を提供する。
【解決手段】インゴット102を切断しウエハーを切り出すに当たり、切断面に直交する回転軸を中心にインゴット102を回転させ、ワイヤー101又は回転刃による放電加工によりインゴットを切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切断装置と方法に関し、特にインゴットを切断してウェハーを切り出す装置に適用して好適な構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照して、インゴットからウェハーをワイヤー放電加工で切断する例を説明する。ワイヤー101は一本であり、ワイヤー101が矢印方向に送られ、同時に、インゴットを支持している架台が動いて、実質的にワイヤー101が切断方向に動いて、最終的にウェハーへの切断が行われる。放電加工による切断は、ワイヤー101とインゴット102が近くなると、そこで放電が生じ、それによってインゴットとワイヤーの一部分がプラズマになり、インゴットから蒸発したり熱応力によって割れたりして、インゴットから小さな切子となって最終的に切断が行われる。
【0003】
したがって、放電が生じる場所は、ワイヤー101に沿って線上にインゴット102と接触した線状の多くの点で生じる。すなわち、線状全体では、一度には、放電は生ぜず、点のみで放電が生じる。
【0004】
また、一般に、放電加工は、水中か油中で行われている(特許文献1等)。これは、電気絶縁流体の放電破壊が生じることによって切断加工が行われるためである。ただし、気中で行われる場合がある。
【0005】
この加工は、非接触で切断ができる。切り出しているウェハーに発生する力学的な力は大きくないため、ウェハーを薄く切断できる可能性がある。
【0006】
なお、特許文献1には、密閉容器に注入した高絶縁性オイルの上方空間に不活性ガスを充填し、高絶縁性オイルに浸漬したワイヤーと半導体結晶棒との間で放電させて半導体結晶棒を切断する方法として、高絶縁性オイルを加熱しその温度を150℃以上に保持し、半導体結晶棒の抵抗率を低下させた状態で切断する構成が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、インゴットをワイヤーで切断時、溝加工時、ワークに与えるダメージを小さく抑え、切断加工面を結晶面に正確に一致させる切断装置、方法が開示されている。またインゴット切断については特許文献3−5等も参照される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−217036号公報
【特許文献2】特開2004−66734号公報
【特許文献3】特開2003−332273号公報
【特許文献4】特開2006−75952号公報
【特許文献5】特開2007−237348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放電加工による切断は、
切断速度が比較的遅い、
ワイヤーが切れ易い、
という問題点がある。
【0010】
切代を狭くするために細いワイヤーを使うが、細いワイヤーは断線しやすい。
【0011】
さらにインゴットからウェハーを切り出す場合、切代を狭くしたいが、同じ太さのワイヤーでも、運転条件などによっては、切代が大きく異なることがある。
【0012】
インゴットからウェハーへの切断する場合の複数の重要な課題である。
【0013】
したがって、本発明の目的は、切断速度が比較的遅い、ワイヤーが切れ易い、切代が大きくなるという問題を解消する切断装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願で開示される発明は、前記課題を解決するため、概略以下の構成とされる。
【0015】
本発明の1つの側面によれば、インゴットを切断しウェハーを切り出すにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、切断装置が提供される。
【0016】
本発明において、ワイヤー又は回転刃による放電加工により、前記インゴットを切断する。
【0017】
本発明において、前記ワイヤーの送り方向と、前記ワイヤーと前記インゴットの接触部におけるインゴット回転方向が順方向(同一方向を含む、逆方向でない)である。
【0018】
本発明において、前記インゴットの切断部から出る切子を排出するための手段を備える。
【0019】
本発明において、前記ワイヤー放電加工による切断箇所の前記インゴットの切子を排出するための回転円盤を備えた構成としてもよい。前記回転円盤は、前記インゴットの切代において、前記インゴットの切子を排出する回転方向に回転し、前記ワイヤー放電加工による切断箇所の前記インゴットの切子を排出する。
【0020】
本発明において、前記切子を排出するための吸引する手段(吸引パイプ)を備えた構成としてもよい。
【0021】
本発明において、前記インゴットから切断される(切り落とされる)ウェハー下部を支持する支持部材を備えた構成としてもよい。前記支持部材は、前記インゴット及びウェハーを回転させながら支持する構成としてもよい。
【0022】
本発明において、前記ワイヤー又は回転刃と前記インゴットの接触部を光照射する手段を備えた構成としてもよい。
【0023】
本発明において、前記回転刃は外刃であってもよい。あるいは内刃方式であってもよい。前記回転刃は、ダイヤモンド、シリコンカーバイド等の硬質材料の粉末を含む構成としてもよい。
【0024】
本発明において、前記回転刃表面にスリットを備えた構成としてもよい。本発明において、前記回転刃は、金属層の表面、裏面に電気絶縁層を有し、スリット部では、前記電気絶縁層が除去されている。あるいは、スリット部では、前記電気絶縁層は、スリット部以外よりも薄く設定されている構成としてもよい。
【0025】
本発明において、回転軸を共通に複数の回転刃を備えた構成としてもよい。
【0026】
本発明において、プラズマ中に活性フロン系分子やフッ素イオンが生成する絶縁流体中で放電加工するようにしてもよい。
【0027】
本発明においては、放電加工が行われる絶縁流体を含む部位を気密とし、前記絶縁流体からのガスの大気中への拡散を防ぐ構成としてもよい。本発明において、絶縁流体の温度を制御する冷却手段を備える。あるいは、絶縁流体からのガスを再び凝固させる手段を装置内に備えた構成としてもよい。
【0028】
本発明において、前記インゴットは、ウェハーの切り出しの前に、前記インゴットの断面が同一径となるように円柱状に加工してもよい。
【0029】
本発明によれば、インゴットを切断しウェハーを切り出すにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する切断方法が提供される。本発明において、ワイヤー又は回転刃による放電加工により、前記インゴットを切断する。本発明に係る方法において、前記ワイヤーの送り方向と、前記ワイヤーと前記インゴットの接触部におけるインゴット回転方向が順方向である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、切断速度が比較的遅い、ワイヤーが切れ易い、切代が大きくなるという問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】放電加工機によるインゴットからウェハーの切断を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施例を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施例を説明する図である。
【図4】本発明の第2の実施例を説明する図である。
【図5】本発明の第3の実施例を説明する図である。
【図6】本発明の第4の実施例を説明する図である。
【図7】本発明の第5の実施例を説明する図である。
【図8】本発明の第5の実施例の回転刃の構成を示す図である。
【図9】本発明の第5の実施例の回転刃(外刃)表面の溝構造を示す図である。
【図10】本発明の第5の実施例の回転刃(外刃)表面の溝構造断面を示す図である。
【図11】本発明の第6の実施例の回転刃(内刃)を説明する図である。
【図12】本発明の第7の実施例の構成(マルチ外刃)を示す図である。
【図13】本発明の第8の実施例の構成を示す図である。
【図14】本発明の第9の実施例のリボン断面形状を示す図である。
【図15】本発明の第9の実施例のリボン断面形状を示す図である。
【図16】本発明の第9の実施例のリボン送り機構の一例を示す図である。
【図17】本発明の第10の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施例について図面を参照して以下に説明する。
【実施例】
【0033】
図2は、本発明の一実施例を説明するための図である。インゴット102をその長手方向に対して直交する面で切断するにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する。
【0034】
インゴット102を回転しながらワイヤー101を図2のように送り、ワーク(インゴットを支持している構造系:図2では不図示)を動かして切断する。ワイヤー101とインゴット12が接触する部分が一カ所になる。
【0035】
図1に示した例では、ワイヤー101が送られて行くが、ワイヤー101の上流で放電が行われた後、下流でも、ワイヤー101の当該放電箇所からかなり近い場所で放電が起こることがある。すると、当該部分のワイヤー101の損傷が大きくなり、最終的には切れることが何度か実験で観察された。
【0036】
ワイヤー放電加工は、ある意味では、確率過程として捉えることができる。ワイヤーの損傷を管理することは原理的に困難であり、ある確率で切れることが予測される。
【0037】
実験によれば、ワイヤー送りを遅くすると、ワイヤーは頻繁に切れ、速くすると切れにくくなる。しかし、ワイヤー送りを速くすると、ワイヤーが多く必要になるので、経済性が悪化する。
【0038】
ワイヤー送りを同じ速さにして、切断速度を上げるとワイヤー断線が生じやすくなることや、ワイヤーの顕微鏡で放電による損傷を観察して確認できる。
【0039】
このように、ワイヤーと加工物が線接触すると、ワイヤーが切れ易いことが理解できる。
【0040】
したがって、この問題を避けるためには、ワイヤーとインゴットが接触する部分を一カ所(点接触)にすることによって、放電によるワイヤーの損傷を管理することができる。すなわち、ワイヤーの同一箇所や極めて近い場所での放電を複数回生じさせないようにすることができる。
【0041】
この結果、ワイヤー切断が生じる確率を大幅に低減して、安定な放電加工を行うことが期待される。
【0042】
更に、点接触のため切子が排出されやすい。
【0043】
図2に示すように、ワイヤー送りと方向とインゴット接触部でのインゴット接線方向の動きは、同じ方向(順方向)となるように揃えると良い。これは、発生した切子が、絶縁流体について動き、絶縁流体はインゴットとワイヤーの動きに沿って動くことから、接触点でのワイヤーの動き方向とインゴットの動き方向が一致した方が、スムーズな切子排出が行われやすいためである。
【0044】
図示されないが、放電加工による切断装置には、ワイヤー送りや、切断方向にインゴットもしくはワイヤー全体を移動させるための制御を行う制御システムが具備される。
【0045】
次に、切断の高速化(速く切ること)について説明する。更に、切代を狭くすることの対策について説明する。
【0046】
図3に示すような、切子の排出を助けるための回転円盤を104を用いて切子の排出を補助する。
【0047】
ワイヤー101の直径が大きいと切代幅が大きくなる。これまで、実験では200ミクロン以下で行ってきた。切代には水や油などの絶縁流体が入り込んでくるが、隙間が狭いので、その間に入り込んだ絶縁流体はそれが接触している物体の動きとほぼ同じ動きをする。このため、ワイヤー101と被加工物であるインゴット102の点接触しているところで発生した切子は、インゴット102の回転方向につられて動くので、切子の動きの矢印として示すような動きをする。切子をそのままにしておくと、切子が回り込んで、再び、切断加工を行っている点接触している点まで回り込んで来ることが予測される。切子が、再度、放電加工している所に到達すると、放電のエネルギーが切子にも吸収されるために、切断速度が落ち、また、インゴットの他の場所にも放電しやすくして、切代が大きくなるためである。
【0048】
実験では、ウェハー・サンプル上に取り着いた切子が増えると、切代が大きくなった。
【0049】
切代が大きくなると、電源からのエネルギーは同じであるから、実際の切断速度は低下する。
【0050】
そこで、切子が再度放電加工点に到達する前に、回転円盤104を用いて、切代の間に挿入して、切子を排出する。
【0051】
回転円盤104は、インゴット102の切断の進行に応じて、インゴット102の未切断部分との距離を一定に保つために動く。
【0052】
回転円盤104は、切断を行うワイヤー101と同期させる制御系が配設される。なお、図3には、回転円盤軸の動作方向が示してある。
【0053】
図4は、切代106とインゴット102、回転円盤104の位置を、ワイヤー101の送り側から見た図である。ワイヤー101は、図に対して垂直方向に移動し、切断方向はインゴット102の回転軸方向になる。そして、ワイヤー101の反対側には切子排出用の回転円盤104が配設され、切断の進行にしたがって、回転円盤進行方向の矢印方向に進み、ワイヤー101とインゴット102が接触している箇所から発生する切子を排出する。
【0054】
なお、回転円盤104は切子の排出用であるため、厚さは切代より薄くなることが必要である。回転方向は排出が行いやすい方でとされる。
【0055】
更に、回転円盤104はインゴット102の未切断部分及びインゴット102自体と接触しないように制御することが望ましい。これによって、切断速度が上がるとともに、切代が減ることが予測される。
【0056】
次に、切子排出を容易にするために吸引パイプの導入と放電を維持し易くするための光の導入を行う。
【0057】
図5は、本発明の別の実施例を示す。まず、切子が出てくる場所は広く分布することは今までの実験ではなかった。
【0058】
このため、切子の出てくる場所に切子を吸引するパイプ107の口を置き、切子を吸引する装置を設置する。一般に、絶縁流体中に不純物が混ざると、例えば純水では電気抵抗率が減少し、放電加工がうまくいかなる。
【0059】
したがって、切子をそのまま絶縁流体中に置いておくことはまずいので、切子が出て来るところに吸引パイプの口を置き、絶縁流体と一緒に切子を吸引し、切子が広く絶縁流体中に分布しないようにする。
【0060】
そして、吸引した後は、フィルターを通じて切子を吸着させ、純水や絶縁油などは元に戻すようにすると、運転コストが低減できる。
【0061】
次に、図5において、光ガイド108で示されていることについて説明を行う。一般に半導体インゴットは、電気抵抗率が高いので、放電加工には向いていないと考えられていた。
【0062】
しかし、半導体のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、光電導性が誘引され、電気伝導が著しく良くなることが知られている。本願発明者は、この性質を利用してSiCの放電加工を行い、これまで、複数の論文や学会発表及び特許出願(特許文献3)をしている。
【0063】
簡単な解析ですぐに分かるが、大きな電極をインゴットに取り付け、放電加工を行うと、放電時には、全体の抵抗の大部分がワイヤー近傍のインゴットの狭い領域に集中する。これは、この部分の電流密度が著しく高くなるからである。したがって、光照射による電気伝導性の向上には、ワイヤーに近接するインゴットに照射することが、最も効果的になる。
【0064】
更に、今までの光照射実験では、光を照射することによって発生するプラズマが安定することも、大きな効果として挙げられる。
【0065】
一般に放電加工で用いるようなプラズマは「Zピンチ」と呼ばれ、プラズマが極めて不安定である。このため、放電加工を行う場合でも、切子やワイヤー表面の傷などは、一定しているといえない。しかし、光を照射することによって、プラズマ放電が安定になり、加工表面状態が改善される。
【0066】
なお、この実施例では、光ガイド108として、図に示しているが、切代よりも光ガイドの太さは細い必要があり、光ファイバーなどが利用される。
【0067】
また、小型LED(Light Emitting Diode)が開発されており、光ガイドの他にLEDを切代の間に入れ込み、切断を行っている部分近くに配置して照射するようにしてもよい。
【0068】
なお、切断の進行によって、切子が出てくる場所が変わってくることや、切断加工を行っている場所が変わるため、光照射を行う光ガイドや吸引パイプの吸引口がそれに応じて移動していく制御機構を設ける。
【0069】
切断の最後に、ウェハーを切り落とすときの注意が必要となる。ウェハーは一定の重さを有する。インゴットからウェハーを切り落としていくと、未切断部分(切り出されるウェハーを支持する部分)が次第に小さくなってくる。その部分に印加される重力による応力が大きくなり、場合によっては、ウェハーが割れることが、今までの実験で何度か観察されてきた。
【0070】
本実施例においては、ウェハーの中心が最後に切り落とす場所になるため、ここでウェハーが割れるようなことになると、極めて深刻な問題になる。
【0071】
そこで、本実施例では、図6に示すような構成をとる。シリコンウェハー支持棒109を備えている。ウェハーを切り落とすための未切断部分が少なくなったら、インゴット102の回転を止め、回転円盤104(図4、図5参照)を取り除き、ウェハー自身の重さを支えるために、ウェハー下部にシリコン(Si)ウェハー支持棒109を設け、ウェハーの荷重をこれによって支持するようにする。なお、この構成以外にも、ウェハーの自重を支持する任意の手法を用いてもよいことは勿論である。
【0072】
このようにして、ウェハー自重を支持すると、未切断部分に大きな応力が発生しないようにすることができる。このため、切り落とし時にウェハー中心部で割れが発生することを予防できる。
【0073】
更に、このようなウェハー割れに対応する方法としては、インゴット全体を水中や油中に沈めるようにしてもよい。
【0074】
これによって、ウェハーやインゴットには浮力が発生するため、空気中での未切断部分に印加される応力よりは低くなっているからである。
【0075】
例えば、シリコンの密度は2.6g/cm^3(^は冪乗記号 cm^3は立方cm)であり、水の密度は1.0g/cm^3であるため、実効的な重さは、空気中より40%程度低くなり、その分だけ応力も減少する。更に、水より密度の高い絶縁流体を用いれば、この応力は更に低くできる。これについては、後で述べる。
【0076】
なお、未切断部分の大きさが5mm程度以下になれば、今までの経験では、インゴットを回転することなしに、切断加工を行うことにする。これによって、ウェハーの支持構造が容易になるからである。尚、この時はワイヤーとインゴットが線状に接触するが、その長さが5mm以下と短くなっているので、最初に述べたような問題は生じないと考えられる。
【0077】
ここで、再度ワイヤーが切れる問題に戻る。
【0078】
切代を狭くするために、細いワイヤーを用いると、ワイヤーが切れる(切れやすい)という問題が再度浮上する。
【0079】
この対策として、図7に示すように、ワイヤーを用いないで回転刃110を用いる。インゴット102は回転している。
【0080】
すると、インゴット102と回転刃110は点接触するので、この部分でプラズマが発生して放電加工による切断が行われる。この場合には、刃先を「丸のこぎり」のように刃先加工する必要はない。
【0081】
そして、切断が進むに連れ、回転刃110を全体としてインゴット115の方に動かしていく。
【0082】
こうすることで、ワイヤーが切れるという心配は全く無くなる。回転刃として厚さ30um(マイクロメートル)程度のものが利用できる(ワイヤーのように断線の心配は無い)。30umのワイヤーでは断線に絶えず注意することが必要となる。
【0083】
以下の議論では、回転刃もインゴットも絶縁流体中に設置されることを前提に進める。なお、図7には示していないが、接触部を光照射するために光ガイド等を備える。
【0084】
更に、図3で述べたような切子排出のための回転円盤を持ち込む必要もなくなる。
【0085】
図7に示したように、インゴット102の切断部の回転接線方向と、回転刃の接線方向を一致させることが重要になるであろう。切子を排出させる効果は。図3に比べて良くなるものと思料される。これは、図3の例では、インゴットの未切断部分の回転方向が図の上部に向かうが、回転円盤104の回転方向は。図の下部に向かうため、それぞれ方向が異なる。
【0086】
このような場合には、絶縁流体の流れが複雑になり、それに応じて切子の運動は極めて複雑になり、安定して同じ方向に切子が排出され難いことも想定されるが、図7では、どちらも接触点の回転接線方向が揃っているので、切子の排出が自然に行われる。
【0087】
更に、回転刃110を利用すると、ワイヤーを用いる場合よりも、切代が狭くなることも期待できる。ワイヤーを用いると、ワイヤーを支持する部分が切断部を挟んで2カ所設けられる。この部分(ワイヤーを支持する部分)は、加工精度を出すために、極めて重要な部分である。通常は、1ミクロン以下の精度である。同時に電流を流すための「パワーリード」と呼ばれる電車のパンタグラフのような構造が用いられる。
【0088】
しかし、この2点で支持する部分はインゴットの回転による交差がない空間に設置する必要があり、2点の支持点間距離はインゴットの断面直径より長くする必要がある。
【0089】
一方、ワイヤーには、放電加工によるプラズマによって、絶えず小さな力が加わっているため、ワイヤーは微少振動している。
【0090】
一方、ワイヤーの2点支持間隔が長くなると、同じ微少な力が印加されても、微少振動の振幅は大きくなる。このため、この振幅分だけ切代が広くなることが想定される。
【0091】
実際、ワイヤーの材料を弾性係数の低い銅合金を利用する場合と、モリブデンMoのような硬い弾性係数の高いワイヤーでは、同じ放電条件で切断加工を行っても切代は40%以上狭くなることが実験で観察されている。
【0092】
これは、ワイヤーに放電プラズマによる外力が印加されても微少振動する振幅が、Moワイヤーでは小さいためと考えている。
【0093】
一方、図7のような回転刃110では、断面が円のワイヤーに比べて、回転刃110の断面方向には、一方向(回転刃の断面方向)に著しく太くなっていることと等価であるため、ワイヤーに比べてはるかに、この様な外力による振動は小さくなるものと考えられる。結果として、切代が狭くなる、なお、切り落としの際には、図6と同様に、ウェハーの自重の支持対策を行う必要がある。
【0094】
この場合には、切り落としだけ、図6のようにワイヤーを用いてもよいし、回転刃をそのまま利用する場合もある。ただし、どちらもインゴットの回転は止めて行うことになる。丸刃は必要に応じて回転し、場合によっては回転を止めても良い。このような運転条件はインゴットや絶縁流体ほかの色々な条件を検討して決定する。
【0095】
また、細くなった切断部の応力を見積もるために、ウェハー支持棒とウェハーの間にセンサーを挿入して、ウェハー重量を測定することもウェハーの管理を行うようにしてもよい。
【0096】
更に、本発明において用いられる回線刃は、ダイヤモンド回転刃もあるが、基本的には、非接触で切断することや、プラズマによって切るため、回転刃の回転速度は、ダイヤモンドソーに比べて著しくゆっくりしたものになる。よって、インゴットに大きな影響を与えることは、少ないと考えている。また、刃先加工は原則不要である。これは、従来の実験でワイヤー送り速度程度の周回速度があればよいと考えられるからである。なお、回転刃の材料は、基本的に電気が流れることができればよい。近時、ELID(Electrolytic In-process Dressing)研削において、電導性砥石の中にダイヤモンドの粉末を混ぜた材料が使われているが、本実施例において、これを回転刃として利用しても良い。
【0097】
次に、図7の回転刃110の構造について述べる。これは、前述したように、「のこぎりの刃」の様な構造は不要であるが、図8に示すような刃厚方向の構造を用いると、放電加工がスムーズに行うことができる。回転刃は、ダイヤモンド、シリコンカーバイド等の硬質材料の粉末を含む構成としてもよい。硬質材料粉末はシリコンでは僅かに削る。
【0098】
放電加工を行う部分は、電気が流れる必要があるため、金属層が露出している必要があるが、切り終わったインゴットの部分とは放電が生じて欲しくないため、回転刃110の表面に電気絶縁層111を備えている。電気絶縁層111として、回転刃自身の表面を酸化して絶縁層を形成したり、レジスト(=絶縁剤)を塗布して形成してもよい。レジスト(=絶縁剤)は半導体プロセスで用いられるものを利用してもよい。
【0099】
これによって、切り終えたウェハー表面に余分な放電による傷を付けることながなくなり、同時に、回転刃110に余分な傷を付けることなく、放電を行うためのエネルギーを切断以外に使うことが無くなる。
【0100】
なお、図8に記載されている、厚さなどのパラメータについては、現在実験を行っているパラメータを参考にした値であり、この半分以下の厚さで行うことも想定している。
【0101】
一般的には、電圧は、パルス的にしか印加されないので、通常の電気絶縁よりは薄くできる。
【0102】
なお、図8において、電気絶縁層113は金属層112に比べて薄く、金属層112表面に乗っている電気絶縁層113は、放電加工によって金属層112の部分が、切子として回転刃から剥がれていくと、一緒に剥がれていく。したがって、この電気絶縁層113が薄ければ、この層だけが残ることはないものと思料される。
【0103】
このような回転刃110の構造としては、図9に示すように、刃表面に部分的に薄い部分(スリット114)を作るようにしてもよい。これは、「のこぎりの刃」等にもあるように、切子を排出するための溝である。したがって、スリット幅は切子の寸法よりも広くなくてはならない。
【0104】
図10は、スリット(溝)114を備えた回転刃110の断面を示す図である。スリット(溝)114は電気絶縁層113が取り除いて構成されている。したがって、これから、電気絶縁層113の厚さは切子の大きさより厚くなくてはならない。これは、金属層112を薄くすると、回転刃110の強度が落ちるが、切断加工に重大な影響を与える場合には、図10のような構造とする必要がある。
【0105】
電気絶縁層113を除くことによって、この部分で放電が発生することが無いようにする必要があることは、最初に、電気絶縁層113を取り付けた理由から明らかであろう。
したがって、スリット114の部分の電気絶縁層113を完全に除くのではなくて、電気絶縁層113を部分的に薄くするようにしてもよい。
【0106】
また、電気絶縁層113とスリット114の長さなど空間的な周期は、回転刃110とインゴット102の回転速さ、及び放電電源のパルス間隔などによって、総合的に決定される。
【0107】
直線状のスリット114を切子排出するための溝として示してきたが、必ずしも直線だけで構成する必要はない。
【0108】
また、多数の小さな穴を、回転刃全体に設けても良い。
【0109】
放電加工によって、この小さな穴に切子が入り込み、回転してインゴット断面から外に出たときに排出するようにしてもよい。もちろん、このような構造を同時に一緒に用いても良い。
【0110】
回転刃110は、外刃(回転刃の外側周回でインゴットを切ることを示している)を利用しているが、通常、シリコンなどの半導体材料インゴットを切断する場合には、内刃方式を用いることが多い。
【0111】
図11を参照して説明する。この場合、回転刃110は大型となり、インゴット102を囲むようにして、回転刃110の内側で切断加工を行う。インゴット102は、前記実施例と同様に回転する。
【0112】
そして、インゴット102と回転刃110の回転方向は、図示の如く、接触点での接線方向の動きが同じ方向に揃えることによって、切子の排出を容易にする。
【0113】
また、インゴット102を切り落とす時には、ワイヤーや回転外刃を用いたようにウェハーの自重を支える構造物が必要になる。なお、図示されていないが、接触部を光照射するために、光ガイドなどを備えた構成としてもよい。前述したように、切子排出のためにスリット溝や小さな穴を回転刃に配設してもよい。また、切子排出用に吸引パイプ口を切子排出方向に取り付け、フィルターで切子を除いてから絶縁流体に戻すようにしてもよい。
【0114】
内刃方式の場合、回転刃の外側でインゴットは当たらない部分は刃厚を太くすることができる。したがって、回転刃を安定して回転することができる。ダイヤモンドソーのように放電加工に比べて切断する際に大きな外力が掛かるような切断装置では、回転刃の安定が重要であり、内刃方式が用いられる。放電加工であるため、運転条件によっては、外刃方式でも十分に対応できる可能性は高い。
【0115】
上記実施例では、ワイヤーが一本か回転刃は一つであるが、マルチワイヤー構成、回転刃を複数枚利用した構成にも適用できることは勿論である。図12に、回転刃を複数枚利用した構成の一例を示す。この実施例では、一つの回転刃軸111に、複数の回転刃110が取り付けられており、複数の回転刃110を一緒に回転しながら、切断加工を行う。この場合、一つの回転刃に一つの放電加工を行う電源を一つ取り付けるようにする。但し、インゴット102は、アース電位として共通になる。これによって、一つの電源を用いるより安定して放電加工を行うことができる。
【0116】
放電加工でのマルチワイヤーによるシリコンインゴットの切断は、特許文献4、5等があるが、この方法ではワイヤー線が一本であり、何度もインゴットを切断するために使われることなどから、ワイヤー断線が重大な課題となる。図12の構成では、そのような問題はほぼ検討する必要が無くなり、安心して切断加工を行うことができる。なお、それぞれの放電加工を行っている部分に光照射を行うことは、図示されていないが、必要に応じて行う。
【0117】
また、それぞれの切子の排出部に吸引パイプ口を設置し、切断加工の進行に応じて、移動制御させる制御機構を備える。これは、放電加工部分に光照射を行う機構についても同様である。ウェハーの切り落とし(切断)についても、図6に示すようにウェハー指示棒109などが用いられる。更に、この例では、外刃方式で示しているが、内刃方式として、同様なマルチ回転刃を用いても良いことは勿論である。
【0118】
次に、絶縁流体について説明する。従来の放電加工では、純水か絶縁油を用いている。そして、SiC等の放電加工では、一部ガスを用いている。ガスを用いて放電加工でシリコンやSiCインゴットを切断する場合、アルゴンガスを主として、一部を水素やメタンなどの還元性ガスを混合することは、放電加工を進める上で、良好な結果を得てきている。これは、主に加工対象が高温になるため、空気中の酸素による酸化を防ぐことができるからである。
【0119】
そして、アルゴンガスにフロン系ガスを混合すると、切断速度が数倍に速くなった。これは、プラズマによって、フロンガスが分解され、化学的活性フロン系分子やフッ素イオンが生成され、これが切断を進行させるためと考えている。このような現象は、ウェハーのプラズマ・エッチング等でも観察されており、エッチング速度を高くするために、フロン系ガスを混入させることがある。この場合、表面プロセスとして用いられており、面粗度も通常の放電加工より高くなる。
【0120】
液中での放電加工でも、プラズマ中に活性フロン系分子やフッ素イオンが生成されれば、加工速度が速くなり、面粗度が向上することが期待できる。さて、このようなことが期待できる溶液について説明する。
【0121】
一例を下記に示す。これは、住友スリーエム社が発売しているハイドロフルオロエーテル(HFE)で、商品名 ノベックと呼ばれる製品である。これは、電子部品の洗浄や消火液として利用されている。現在4つのタイプがあり、化学式は、
C4F9OCH3,
C4F9OC2H5,
C4F13OCH3,
C3HF6−CH(CH3)O−C3HF6
である。
【0122】
沸点は61℃から131℃、
密度は1.43g/cm^3から1.66g/cm^3
まである。
【0123】
したがって、水よりも大きな浮力がインゴットに作用する。電気抵抗率もほぼ水と同等かそれ以上であるため、放電加工に用いることができる。比誘電率は6〜7程度であるため、水よりは一桁以上低いので、回転刃を用いる方式でも、向かい合う面積の増大による浮遊キャパシタンスの増大による放電加工に供しない電流の増加を抑えることができる(なお、詳細は住友スリーエム社のホームページ等が参照される)。
【0124】
あるいは、パーフルオロコンバウンド(商品名 フッ素系不活性液体、フロリナート)というフッ素系不活性液体を用いてもよい(http://www.mmm.co.jp/emsd/product/pdt_01_02.html)。水に比べて電気抵抗率が極めて高く、絶縁耐力が高い。このため、高い電圧まで印加できる。また、比誘電率が2以下のためノベックに比べて1/4であり、水に比べると1/40となる。電力消費低減に貢献する。
【0125】
このようなハイドロフルオロエーテルが絶縁流体として用いられる。また、このような液体の特性を、放電加工中に一定に保つために、液温を制御する装置が配設される。なお、絶縁流体を安定に用いるためには、切子をフィルターで濾過することや、大気中への拡散を防ぐために、放電加工装置を密閉する構造を取るようにする。またフィルターには、プラズマ発生によりHFEの分解物ができることから、これを吸着する作用も有する。なお、この製品は、人への毒性は低く、火事の際には消化剤として利用できることが認可されている。地球環境問題として話題になっているオゾン破壊係数はゼロであり、温暖化係数も今まで電子部品に用いられてきたフロン系ガスなどに比べて低いため、利用が認められている。絶縁流体がある部分を気密とし絶縁流体からのガスが大気に拡散しないようにする構成としてもよい。
【0126】
なお、沸点が100℃以下の絶縁液体もあり、このような液体は蒸気圧も高い。水や油を利用していたときのように、装置全体が解放されて使うと、大気中に多くの絶縁液体ガスが混入することになる。これを避けるために、装置全体を密閉系にするか負圧を印加することが望ましい。
【0127】
更に、本実施例においては、装置を囲ったケース内に、液体からのガスを再凝縮させるために、冷凍機ヘッドを備え、回収するシステムを備えた構成としてもよい。
【0128】
本発明の別の実施例について説明する。
【0129】
図13は、本発明の別の実施例の構成を示す図である。図13に示す例では、絶縁物で作られた回転円盤に沿って切断を行うワイヤーが流れていき、それによってインゴットを切断する。図13では、ワイヤーは上部から送られてきてプーリーを通じて送られる方向が変わり、回転円盤に沿って回り放電加工を行う。その後、外に送り出される。そして、円盤を作る絶縁物としては、セラミック等が用いられる。また、回転円盤がワイヤーをガイドし易いように、溝などが円盤の円周上に作られている。このようにすると、回転刃が放電によって摩耗することがない。
【0130】
また、インゴットが大きくなり、ワイヤーを支持するガイドの間隔が長くなっても、ワイヤーが振動することは少なくなる。さらに、この回転刃は導電性ではないので、表面を絶縁処理する必要はなくなる。フロン系液体を利用して加工を行うと有毒ガスが発生することがある。
【0131】
本実施例において、この有毒ガスを、大気中に漏れることなく回収する装置が設置される。そして、回収後、有毒ガス処理プロセスに送られる。
【0132】
図14は、本実施例の構成を示す図である。本実施例では、放電ワイヤーをリボン形状にする。放電加工機の放電ワイヤーの断面は一般に円である。円の場合、どちらの方向にも曲げることができるが、細くなると断線しやすい。シリコンインゴットやSiCインゴットは高価であることから、切代が狭い方が良い。このため、細いワイヤーを使うと、断線が頻繁に生じる。したがって、切代は狭く、断線し難いワイヤーを使うことが求められる。この問題の一つの解決方法としては、リボン形状のワイヤーを利用することである。
【0133】
図14に示す例では、リボン断面は厚さは50ミクロン(μm)であるが、幅は300ミクロン(μm)である。切代に対応する側は50ミクロンであるため、切代が狭く、断面は大きいので、切れ難いワイヤーとなる。このようなリボン形状のワイヤーを利用すると、上記の問題は解決する。
【0134】
しかしながら、幅が広い300ミクロン側は、切断加工を行うインゴットと面する。このため、ここで放電が生じると、切代が広くなるので300ミクロン側の表面に絶縁層を付ける対策も必要になることがある。
【0135】
図15に、対策の一例を断面図で示す。絶縁層の材料としてはエナメル等が用いられる。これは、薄く数ミクロンの厚さで表面に塗るだけで絶縁層になるので加工は容易である。また、この絶縁層はリボンが放電加工による損傷で減肉していったときに自動的に取れていくものと思料されるので、放電加工を行う上で大きな問題になることはない。
【0136】
また放電加工を行うとワイヤーも損傷を受けて減っていくが、図15に示したように、アークプラズマが発生する場所は50ミクロン側になるので、何度でも利用できる。ワイヤー加工よりもリボン加工の方は高価になるので、このように、何度も利用することは、経済性の点でも好適とされる。
【0137】
図16は、本発明の別の実施例として、リボン加工の例を示す図である。一般の放電加工では、ワイヤーは放電加工部を一度通しただけで捨てるワンスルー(one through)である。
【0138】
これに対して、本実施例では、図15に示すように、50ミクロン側で放電が生じ、損傷が生じてもまだ300ミクロンと厚いことから、原理的に何度も利用できる。図16に示した例は、ワイヤー(リボン)を循環させ、インゴットを固定しているが、インゴットを回転させるようにしてもよい。インゴットを回転させることで、リボンとの接触部が点になり、放電加工を容易化する。
【0139】
更に、このような構造は、リボン材料を銅合金などからタングステンやモリブデンに変えることによって特性は更に向上する。銅合金の場合、一度放電が生じると、ワイヤーに大きな損傷が生じる。一般の放電加工において、特殊な場合には、高融点金属であるタングステンやモリブデンが使われている。高融点金属であるタングステン等を利用すると、表面の損傷は、銅合金製ワイヤーに比べて小さい。
【0140】
本実施例においても、リボン材料として高融点金属を用いた場合、数多く通しても安定して切断加工ができる。
【0141】
リボン形状の場合、断面積が大きくなるため、張力を大きくすることができる。切断加工をする際に位置決めの精度を上げることができる。あるいは、切代がワイヤー振動によって広がることを防ぐことができる。
【0142】
本実施例のリボンは両端部を接合することが望ましい。一般にワイヤーの場合にはワンスルー(one through)のため端部には、特段の注意が払われていない。帯ノコギリ等では両端部が接合し輪を構成しているものもある。インゴット切断用のダイヤモンドソーでも同様である。
【0143】
なお、接合部は強度が十分でない場合がある。そこで、放電加工時、接合部がインゴットの内部に入っているときには、一時的に放電を止める制御を行う。接合部がインゴットの内部に入っているとき、切断加工は行われない。インゴットとリボンの相対位置を一時的に変えないようにする制御が行われる。
【0144】
本実施例の変形として、リボン両端部の接合が困難な場合、放電加工装置のワイヤー送り機構を改良し、リボン両端部を接合しない場合であっても、リボン両端部が接合されている場合と同じ状況でワイヤー(リボン)を送るような機構を備えてもよいことは勿論である。
【0145】
更に、接合部を設けないときには、図17に示すように、リボンを往復運動することによって切断を行う。この場合は何度も同じ場所を通ることになるので、高融点金属を利用する。リボンは直線状であり、図16のように曲がり部が存在しない。このため疲労劣化が少ない。但し、リボンを直線状にするために張力を印加する。
【0146】
また、直線状に誘導するためのガイドを設けることが必要とされ、図17では切断加工部を一点(点状)とするためにインゴットをリボンの動きに合わせて回転するようにした例である。回転は往復運動となる。かかる構成には、切断制御を容易化し、切子の排出も容易化する。なお、一方向に移動するときに放電を行い、切断するように制御しても良い。図17においてリボンが右から左に動くときだけ放電を行い、リボンが左から右に動くときには放電を止めるようにしてもよい。一方、インゴットの回転は同一向きに回転するような制御を行うようにしてもよい。この場合には、右から左に回転を行う。
【0147】
上記リボンを利用した切断装置は、複数のリボンを備え複数のリボンを用いて同時にウエハー加工する放電加工装置にも適用できることは勿論である。
【0148】
なお、上記の特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0149】
101 ワイヤー
102 インゴット
103 インゴット回転軸
104 回転円盤
105 回転円盤軸
106 切代
107 パイプ
108 光ガイド
109 シリコンウェハー支持棒
110 回転刃
111 回転刃軸
112 金属層
113 電気絶縁層
114 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットを切断しウェハーを切り出すにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、ことを特徴とする切断装置。
【請求項2】
ワイヤー又は回転刃による放電加工により、前記インゴットを切断する、ことを特徴とする請求項1記載の切断装置。
【請求項3】
前記ワイヤーの送り方向と、前記ワイヤーと前記インゴットの接触部におけるインゴット回転方向が順方向である、ことを特徴とする請求項1又は2記載の切断装置。
【請求項4】
前記インゴットの切断部から出る切子を排出するための手段を備えた、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項5】
前記ワイヤー放電加工による切断箇所の前記インゴットの切子を排出するための回転円盤を備えている、ことを特徴とする請求項4記載の切断装置。
【請求項6】
前記回転円盤は、前記インゴットの切代において、前記インゴットの切子を排出する回転方向に回転し、前記ワイヤー放電加工による切断箇所の前記インゴットの切子を排出する、ことを特徴とする請求項5記載の切断装置。
【請求項7】
前記切子を排出するための吸引する手段を備えている、ことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項8】
前記インゴットから切断されるウェハー下部を支持する支持部材を備えている、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項9】
前記支持部材は、前記インゴット及びウェハーを回転させながら支持する、ことを特徴とする請求項8に記載の切断装置。
【請求項10】
前記ワイヤー又は回転刃と前記インゴットの接触部を光照射する手段を備えている、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項11】
前記回転刃は外刃又は内刃方式である、ことを特徴とする請求項2記載の切断装置。
【請求項12】
前記回転刃表面にスリットを備えている、ことを特徴とする請求項11記載の切断装置。
【請求項13】
前記回転刃は、金属層の表面、裏面に電気絶縁層を有し、スリット部では、前記電気絶縁層が除去されているか、スリット部以外よりも薄く設定されている、ことを特徴とする請求項12記載の切断装置。
【請求項14】
回転軸を共通に複数の回転刃を備えている、ことを特徴とする請求項2記載の切断装置。
【請求項15】
プラズマ中に活性フロン系分子やフッ素イオンが生成する絶縁流体中で放電加工する請求項1乃至14のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項16】
前記回転刃は、硬質材料粉末を含む、ことを特徴とする請求項14記載の切断装置。
【請求項17】
前記複数の回転刃には、それぞれ個別に電源が接続される、ことを特徴とする請求項14記載の切断装置。
【請求項18】
放電加工が行われる絶縁流体を含む部位を気密とし、前記絶縁流体からのガスの大気中への拡散を防ぐことを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項19】
前記絶縁流体の温度を制御する冷却手段を備えたことを特徴とする請求項18記載の切断装置。
【請求項20】
前記絶縁流体からのガスを再び凝固させる手段を装置内に備えたことを特徴とする請求項19記載の切断装置。
【請求項21】
前記インゴットは、ウェハーの切り出しの前に、前記インゴットの断面が同一径となるように円柱状に加工される、ことを特徴とする請求項1乃至20のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項22】
インゴットを切断しウェハーを切り出すにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、ことを特徴とする切断方法。
【請求項23】
ワイヤー又は回転刃による放電加工により、前記インゴットを切断する、ことを特徴とする請求項22記載の切断方法。
【請求項24】
前記ワイヤーの送り方向と、前記ワイヤーと前記インゴットの接触部におけるインゴット回転方向が順方向である、ことを特徴とする請求項22又は23記載の切断方法。
【請求項25】
前記インゴットの切断部から出る切子を排出する、ことを特徴とする請求項22乃至24のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項26】
前記ワイヤー放電加工による切断箇所の前記インゴットの切子を回転円盤で排出する、ことを特徴とする請求項25記載の切断方法。
【請求項27】
前記切子を排出するために吸引する、ことを特徴とする請求項25又は26記載の切断方法。
【請求項28】
前記インゴットから切断されるウェハー下部を支持する、ことを特徴とする請求項22乃至27のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項29】
絶縁物からなる回転刃に沿ってワイヤーが送られ、回転刃をインゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、ことを特徴とする切断装置。
【請求項30】
前記ワイヤーの送り方向と、前記ワイヤーと前記インゴットの接触部におけるインゴット回転方向が順方向である、ことを特徴とする請求項29記載の切断装置。
【請求項31】
インゴットを切断しウェハーを切り出すにあたり、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、ことを特徴とする切断装置。
【請求項32】
フロン系絶縁流体中での放電加工で発生する有毒ガスを除去する手段を備えた請求項15記載の切断装置。
【請求項33】
放電加工用のワイヤーの断面形状がリボン形状とされ、ワイヤー表面のうち断面長辺側の表面に絶縁材料を備えている、ことを特徴とする請求項2、3、30のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項34】
放電加工用のワイヤーの断面形状がリボン形状とされ、前記ワイヤー表面のうち断面長辺側の表面に絶縁材料を備えている、ことを特徴とする切断装置。
【請求項35】
前記ワイヤー又は回転刃による放電加工により、インゴットを切断し、前記インゴットを切断面に直交する回転軸を中心に回転させ、放電加工により前記インゴットを切断する、ことを特徴とする請求項34記載の切断装置。
【請求項36】
前記ワイヤーは高融点金属を含む請求項34又は35記載の切断装置。
【請求項37】
断面がリボン形状のワイヤーの断面短辺側で放電が生じる、請求項34乃至36のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項38】
断面形状がリボン形状の前記ワイヤー両端部が接合された請求項34乃至37のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項39】
前記ワイヤー両端の接合部では、放電を止める請求項38記載の切断装置。
【請求項40】
前記リボン形状のワイヤーを循環させ、前記ワイヤー両端の接合部では、放電を止める請求項38記載の切断装置。
【請求項41】
前記リボン形状のワイヤーの送り方向を切断対象に対して一方向及び/又はその逆方向とし、前記ワイヤーの送り方向のうちの一方向について放電を行う請求項40記載の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−46792(P2010−46792A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171494(P2009−171494)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(597008728)株式会社ワイ・ワイ・エル (16)
【Fターム(参考)】