説明

初回測位出力位置演算決定方法、プログラム、記憶媒体、測位装置及び電子機器

【課題】初回の測位結果の出力の際に、測位精度の向上とTTFFの短縮とのどちらを優先させるかを、受信環境に応じて適切に判断すること。
【解決手段】初回の測位では、捕捉されたGPS衛星信号を基に現在位置を算出する測位処理(ステップA3)を複数回繰り返し実行する。測位処理の実行毎に、算出した今回の測位位置と前回の測位位置との差(位置差分)ΔPが、連続して所定値以下である回数を位置カウンタで計数するとともに、今回の時刻誤差と前回の時刻誤差との差(時刻差分)ΔTが、連続して所定値以下である回数を時刻カウンタで計数する(ステップA5)。また、APR平均値に応じた変更量で基準閾値を変更することで、位置閾値及び時刻閾値を決定する(ステップA7)。そして、位置カウント値が位置閾値に達し(ステップA9:YES)、且つ時刻カウント値が時刻閾値に達したならば(ステップA11:YES)、今回の測位位置を初回の測位位置として決定し出力する(ステップA13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初回測位出力位置演算決定方法、プログラム、記憶媒体、測位装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとして、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、カーナビゲーション装置等で利用されている。GPSでは、地球周回軌道を周回する複数のGPS衛星それぞれからGPS衛星信号が送出され、GPS受信機では、受信したGPS衛星信号を基に現在位置を算出(測位)する。
【0003】
ところで、捕捉されたGPS衛星信号の中には、マルチパス等の影響を受けているGPS衛星信号が含まれている場合がある。すなわち、マルチパスとは、GPS衛星からの直接波に、建物や地形などを反射・回折した間接波が重畳し、複数の経路から同じ電波を受信することである。このような受信環境はマルチパス環境と呼ばれている。このマルチパスの影響を受けているGPS衛星信号を用いると、現在位置の算出(測位)が正確に行えないおそれがある。つまり、捕捉されたGPS衛星信号のうちから、マルチパス等の影響を受けているGPS衛星信号を除いて測位演算を行う必要がある。そこで、マルチパス等の影響を受けているGPS衛星信号を判別する方法の一つとして、帰納的残差APRを用いた方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−240836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、GPS受信機では、所定時間毎(例えば、1秒毎)に測位演算を繰り返し行い、算出した現在位置を測位結果として出力するが、測位の開始から初回の測位結果の出力までには、通常、数秒程度を要する。この初回の測位位置の出力までに要する時間TTFF(Time to First Fix)と測位精度との間には、TTFFを短縮させると測位精度が低下し、逆に、測位精度の向上を優先させるとTTFFが長くなりがちになるといった関係があり、測位精度とTTFFの短縮とのどちらを優先させたほうが良いかは、受信環境によって異なる。例えばマルチパス環境といった全体的に測位精度が低い受信環境では、TTFFの短縮よりも測位精度を優先させ、TTFFが長くなっても、Zカウントがデコードされて測位精度が改善された後、測位結果を出力したほうが望ましい。これに対して、オープンスカイ環境では、測位精度が高いため、TTFFの短縮を優先させ、Zカウントのデコードを待つことなく測位結果を出力するといったことが可能である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、初回の測位結果の出力の際に、測位精度の向上とTTFFの短縮とのどちらを優先させるかを、受信環境に応じて適切に判断することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行って、測位開始後に最初に測位出力する測位位置を決定する初回測位出力位置演算決定方法であって、受信された衛星信号に基づく測位演算を行って測位位置を算出する測位処理を実行する測位処理ステップと、前記測位処理ステップによる前記測位処理の繰り返し実行回数を可変する繰り返し回数可変ステップと、前記測位処理ステップによる前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、測位出力する初回の測位位置に決定する初回測位出力位置決定ステップとを含むとともに、前記測位処理ステップは、受信された衛星信号に基づいて今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出ステップと、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組の衛星それぞれの、1)擬似距離と、2)当該衛星と前記算出された現在位置候補間の距離である近似距離と、の差分の二乗和であるAPR値を算出するAPR値算出ステップと、前記APR値算出ステップで算出された衛星組それぞれのAPR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出ステップと、前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択ステップとを有し、前記繰り返し回数可変ステップは、前記測位処理ステップにおいて算出されたAPR平均値に基づいて繰り返し実行回数を可変するAPR平均値基準回数可変ステップを有する初回測位出力位置演算決定方法である。
【0007】
また、第9の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行う測位装置であって、受信された衛星信号に基づく測位演算を行って測位位置を算出する測位処理を実行する測位処理部と、前記測位処理部による前記測位処理の繰り返し実行回数を可変する繰り返し回数可変部と、前記測位処理部による前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、最初に測位出力する測位位置に決定する初回測位出力位置決定部とを備えるとともに、前記測位処理部は、受信された衛星信号に基づいて今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出部と、前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組の衛星それぞれの、1)擬似距離と、2)当該衛星と前記算出された現在位置候補間の距離である近似距離と、の差分の二乗和であるAPR値を算出するAPR値算出部と、前記APR値算出部により算出された衛星組それぞれのAPR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出部と、
前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択部とを有し、前記繰り返し回数可変部は、前記測位処理部により算出されたAPR平均値に基づいて繰り返し実行回数を可変するAPR平均値基準回数可変部を有する測位装置である。
【0008】
この第1又は第9の発明によれば、測位位置を算出する測位処理が繰り返し実行回数分繰り返し実行された場合に、最終的に算出された測位位置が測位出力する初回の測位位置に決定される。また、この繰り返し実行回数は、APR平均値に基づいて可変される。
【0009】
衛星組のAPR値は、当該衛星組に含まれる各衛星の擬似距離ym及び近似距離ypを基に、後述の式(1)に従って算出される。各衛星の近似距離ypは、当該衛星の位置(X,Y,Z)と、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を基に算出された現在位置(x、y、z)とを基に、後述の式(2)に従って算出される。
【0010】
APR値と測位誤差との間には、APR値が大きいほど当該衛星組の測位精度が低いという傾向がある。そして、APR平均値が大きいほど、受信した衛星信号にマルチパス等の影響を受けた衛星信号が含まれた環境、いわゆるマルチパス環境である可能性が高い。つまり、APR平均値から受信環境を判断できる。このため、APR平均値に応じて繰り返し実行回数を可変することで、受信環境に応じた初回の測位位置の測位出力までに要する時間TTFFの短縮を図ることが可能となる。例えば、APR平均値が大きい場合には、マルチパス環境であり測位精度が低い可能性が高い。このような場合には、繰り返し実行回数を多くするように可変することで、測位精度の向上を優先させる。一方、APR平均値が小さい場合いは、オープンスカイ環境であり測位精度が高い可能性が高い。このような場合には、繰り返し実行回数を少なくするように可変することで、TTFFの短縮を図ることができる。
【0011】
なお、他の発明として、今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出ステップと、前記衛星組それぞれについて、前記現在位置候補に基づき当該衛星組の衛星それぞれのAPR値を算出するAPR値算出ステップと、前記衛星組それぞれの前記APR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出ステップと、前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択ステップと、前記APR平均値に基づいて前記測位処理を繰り返し実行する回数を変更するAPR平均値基準回数可変ステップと、前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、測位出力する初回の測位位置に決定する初回測位出力位置決定ステップと、を含む初回測位出力位置演算決定方法を構成することとしてもよい。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の初回測位出力位置演算決定方法であって、前記繰り返し回数可変ステップは、前記測位処理ステップによる測位処理が実行される毎に、今回の測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数を可変するステップである初回測位出力位置演算決定方法である。
【0013】
また、第10の発明は、第9の発明の測位装置であって、前記繰り返し回数可変部は、前記測位処理部による測位処理が実行される毎に、今回の測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数を可変する測位装置である。
【0014】
この第2又は第10の発明によれば、測位処理が実行される毎に、今回の測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数が可変される。APR平均値は、測位処理毎に変動する。このため、測位処理が実行される毎に、当該測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数を可変することで、より適切に繰り返し実行回数を定めることが可能となる。
【0015】
第3の発明は、第1又は第2の発明の初回測位出力位置演算決定方法であって、前記測位処理ステップによる前回の測位処理による測位位置と、今回の測位処理による測位位置との距離差が、所定の近距離条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを含む初回測位出力位置演算決定方法である。
【0016】
また、第11の発明は、第9又は第10の発明の測位装置であって、前記測位処理部による前回の測位処理による測位位置と、今回の測位処理による測位位置との距離差が、所定の近距離条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を備える測位装置である。
【0017】
この第3又は第11の発明によれば、前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合には、今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数が続行される。つまり、測位位置の距離差が近距離条件を連続して満たす回数が繰り返し実行回数に達した場合に、初回の測位位置が出力される。これにより、時系列に沿った測位位置のばらつきが小さくなった時点で、測位出力する初回の測位位置が決定される。
【0018】
第4の発明は、第1又は第2の発明の初回測位出力位置演算決定方法であって、前記現在位置候補算出ステップは、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出するステップであり、前記測位処理ステップは、前記今回測位位置選択ステップで選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出ステップで算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定ステップを有し、前記測位処理ステップによる前回の測位処理による時刻誤差と、今回の測位処理による時刻誤差との差が、所定の近似条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを更に含む初回測位出力位置演算決定方法である。
【0019】
また、第12の発明は、第9又は第10の発明の測位装置であって、前記現在位置候補算出部は、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出し、前記測位処理部は、前記今回測位位置選択部により選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出部により算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定部を有し、前記測位処理部による前回の測位処理による時刻誤差と、今回の測位処理による時刻誤差との差が、所定の近似条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を更に含む測位装置である。
【0020】
この第4又は第12の発明によれば、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差が算出され、前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合には、今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数が続行される。つまり、時刻誤差の差が近似条件を連続して満たす回数が繰り返し実行回数に達した場合に、初回の測位位置が出力される。これにより、時系列に沿った時刻誤差のばらつきが小さくなった時点で、測位出力する初回の測位位置が決定される。
【0021】
第5の発明は、第1又は第2の発明の初回測位出力位置演算決定方法であって、前記現在位置候補算出ステップは、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出するステップであり、前記測位処理ステップは、前記今回測位位置選択ステップで選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出ステップで算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定ステップを有し、1)前記測位処理ステップによる前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合、或いは、2)前記測位処理ステップによる前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合の何れかに該当する場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、何れにも該当しない場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを更に含む初回測位出力位置演算決定方法である。
【0022】
また、第13の発明は、第9又は第10の発明の測位装置であって、前記現在位置候補算出部は、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出し、前記測位処理部は、前記今回測位位置選択部で選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出部により算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定部を有し、1)前記測位処理部による前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合、或いは、2)前記測位処理部による前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合の何れかに該当する場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、何れにも該当しない場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を更に含む測位装置である。
【0023】
この第5又は第13の発明によれば、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差が算出され、1)前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合、或いは、2)前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合には、今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数が続行される。つまり、測位位置の距離差が近距離条件を連続して満たす回数が繰り返し実行回数に達し、且つ時刻誤差の差が近似条件を連続して満たす回数が繰り返し実行回数に達した場合に、初回の測位位置が出力される。これにより、時系列に沿った測位位置及び時刻誤差のばらつきが小さくなった時点で、測位出力する初回の測位位置が決定される。
【0024】
第7の発明は、測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づき現在位置を測位する測位装置に内蔵されたコンピュータに、上述した何れかの発明の初回測位出力位置演算決定方法を実行させるためのプログラムである。
【0025】
この第7の発明によれば、このプログラムをコンピュータに読み取らせて演算処理を実行させることで、上述した初回測位出力位置演算決定方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0026】
第8の発明は、第7の発明のプログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体である。
【0027】
ここで、記憶媒体とは、記憶されている情報をコンピュータが読み取り可能な、例えばハードディスクやCD−ROM、DVD、メモリカード、ICメモリ等の記憶媒体である。従って、この第8の発明によれば、記憶媒体に記憶されている情報をコンピュータに読み取らせて演算処理を実行させることで、第7の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0028】
第14の発明は、第9〜第13の何れかの発明の測位装置を備えた電子機器である。
【0029】
この第14の発明によれば、第9〜第14の何れかの発明と同様の作用効果を奏する電子機器が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明を適用した携帯電話機を説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0031】
[構成]
図1は、本実施形態の携帯電話機1の内部構成を示すブロック図である。図1によれば、携帯電話機1は、GPSアンテナ10と、測位装置であるGPS受信部20と、ホストCPU(Central Processing Unit)40と、操作部41と、表示部42と、ROM(Read Only Memory)43と、RAM(Random Access Memory)44と、携帯電話用アンテナ50と、携帯電話用無線通信回路部60とを備えて構成される。
【0032】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から送信されたGPS衛星信号を含むRF信号を受信するアンテナであり、受信したRF信号を出力する。
【0033】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10で受信されたRF信号からGPS衛星信号を捕捉・抽出し、GPS衛星信号から取り出した航法メッセージ等に基づく測位演算を行って現在位置を算出する。このGPS受信部20は、RF(Radio Frequency)受信回路部21と、発振回路22と、ベースバンド処理回路部30とを有している。尚、RF受信回路部21とベースバンド処理回路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0034】
発振回路22は、例えば水晶発振器であり、所定の発振周波数を有する発振信号を生成して出力する。
【0035】
RF受信回路部21は、発振回路22から入力される発振信号を分周或いは逓倍した信号を、GPSアンテナ10から入力されたRF信号に乗算することで、該RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」という)にダウンコンバートし、このIF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して出力する。
【0036】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から入力されるIF信号の中からGPS衛星信号を捕捉・追尾し、データを復号して取り出した航法メッセージや時刻情報等に基づいて、擬似距離の算出演算や測位演算等を行う回路部である。
【0037】
具体的には、先ず、入力されたIF信号に基づくGPS衛星信号の捕捉を行う。GPS衛星信号の捕捉は、IF信号からGPS衛星信号を抽出する処理であり、IF信号に対する相関処理を行う。具体的には、IF信号と擬似的に発生させたレプリカC/Aコード(コードレプリカ)との相関を、FFT演算を用いて算出するコヒーレント処理を行い、このコヒーレント処理の結果である相関値を積算して相関積算値を算出するインコヒーレント処理を行う。これにより、GPS衛星信号に含まれるC/Aコード及び搬送波周波数の位相が得られる。
【0038】
GPS衛星信号を捕捉したならば、次いで、捕捉したGPS衛星信号を追尾する。GPS衛星信号の追尾は、捕捉した複数のGPS衛星信号の同期保持を並列的に行う処理であり、例えば遅延ロックループ(DLL)で実現されてC/Aコードの位相を追尾するコールドループと、例えば位相ロックループ(PLL)で実現されて搬送波周波数の位相を追尾するキャリアループとの処理を行う。そして、追尾した各GPS衛星信号のデータを復号して航法メッセージを取り出し、擬似距離の演算や測位演算等を行って、現在位置を測位する処理を行う。
【0039】
また、このベースバンド処理回路部30は、CPU31と、ROM32と、RAM33とを有するとともに、レプリカC/Aコードの発生回路や、相関演算を行う回路、データの復号回路等の各種回路を含む。
【0040】
CPU31は、ベースバンド処理回路部30の各部や、RF受信回路部21の各部を統括的に制御するとともに、後述のベースバンド処理を含む各種演算処理を行う。
【0041】
ベースバンド処理では、CPU31は、補足・追尾されたGPS衛星信号に含まれる航法メッセージを復号し、復号した航法メッセージに含まれるGPS衛星の軌道情報及び時間情報を基に現在位置を算出する。即ち、GPS衛星それぞれからのGPS衛星信号の送信時刻と、GPS受信機における該GPS衛星信号の受信時刻との差から、GPS衛星信号の送信時の各GPS衛星の位置及びGPS受信機から各GPS衛星までの擬似距離を算出する。そして、現在位置と、GPS衛星とGPS受信機との時刻誤差との4つを未知数とした連立方程式を立て、この連立方程式を解くことで現在位置を算出する。このとき、少なくとも4個以上のGPS衛星からのGPS衛星信号を受信することで、現在位置が算出可能となる。これは、三次元位置である現在位置の各座標値(x,y,z)と、GPS衛星とGPS受信機との時刻誤差Tとの4つを未知数とするからである。
【0042】
具体的には、CPU31は、所定時間間隔(例えば、1秒間隔)で、現在位置Pを算出する測位処理を繰り返し行う。測位処理では、捕捉されたGPS衛星信号から、4個以上のGPS衛星の組合せである「衛星組」を選出する。例えば、8個のGPS衛星信号が捕捉された場合、163個(=)の衛星組が選出される。次いで、選出した衛星組それぞれについて、例えば最小二乗法を用いた測位演算を行うことで、自機の現在位置候補及び時刻誤差候補を算出する。そして、これらの衛星組のうちから、例えば所定の評価基準に従って1つを選択し、選択した衛星組(選択衛星組)の現在位置候補を今回の現在位置Pとして決定するとともに、当該衛星組の時刻誤差候補を今回の時刻補誤差Tとして決定する。評価基準としては、例えば衛星組のGPS衛星の幾何学配置に基づく位置精度劣化指数PDOP(Position Dilution of Precision)や、各GPS衛星信号の信号強度に基づく方法といった公知の手法により実現される。尚ここで、捕捉されたGPS衛星から生成される全ての衛星組のうち、例えば6個以上のGPS衛星からなる数十程度の衛星組を抽出し、抽出した衛星組を対象として測位位置及び時刻誤差を決定することにしても良い。
【0043】
本実施形態では、測位の開始直後(初回の測位)では、上記測位処理を1回以上繰り返して行い、最後の測位処理において算出した現在位置Pを、初回の測位位置として出力(測位出力)する。そして、初回の測位位置を決定し出力した後は、測位処理毎に、算出した現在位置Pを測位位置として出力(測位出力)する。
【0044】
即ち、初回の測位では、各回の測位処理において、現在位置P及び時刻誤差Tを算出すると、算出した今回の現在位置Pと、前回の測位処理において算出した現在位置P0との差(位置差分)ΔPを算出する。そして、算出した位置差分ΔPが予め定められた近距離条件(例えば、200[m]以下)を満たすならば、位置カウンタを「1」加算した値に更新(カウントアップ)し、近距離条件を満たさないならば、位置カウンタをゼロクリアする。ここで、位置カウンタは、測位開始時点ではゼロクリアされている。即ち、このカウント値(位置カウント値)は、位置差分ΔPが連続して所定値以下となった回数を計数する。
【0045】
また、今回の時刻誤差Tと、前回の測位処理において算出した時刻誤差T0の差(時刻差分)ΔTを算出する。そして、算出した時刻差分ΔTが予め定められた近似条件(例えば、0.02[秒]以下)を満たすならば、時刻カウンタを「1」加算した値に更新(カウントアップ)し、近似条件を満たさないならば、時刻カウンタをゼロクリアする。ここで、時刻カウンタは、測位開始時点ではゼロクリアされている。即ち、このカウント値(時刻カウント値)は、時刻差分ΔTが連続して所定値以下となった回数を計数する。
【0046】
また、位置閾値及び時刻閾値を決定する。具体的には、予め定められた基準閾値(例えば、「3」)を、今回の測位処理におけるAPR平均値に応じた変更量で増減させて、位置閾値及び時刻閾値それぞれを決定する。APR平均値は、今回の測位処理において選出した衛星組それぞれの帰納的残差APR(APR値)の平均値である。
【0047】
そして、カウント値それぞれと閾値それぞれとを比較し、位置カウント値が位置閾値に達し、且つ時刻カウント値が時刻閾値に達したならば、今回の現在位置Pを初回の測位位置として決定し出力(測位出力)する。一方、位置カウント値が位置閾値に達していない、或いは時刻カウント値が時刻閾値に達していないならば、続いて、次回の測位処理を行う。
【0048】
ある衛星組についての帰納的残差APR(APR値)は、次式(1)で与えられる。
【数1】

式(1)において、「N」は、当該衛星組に含まれるGPS衛星の個数(衛星数)であり、「i(=1,2,・・・,N)」は、これらのGPS衛星のうちのi番目のGPS衛星を表す。また、「ym」は、i番目のGPS衛星の擬似距離である。また、「yp」は、i番目のGPS衛星の位置(X,Y,Z)と、測位演算により得られた現在位置(x,y,z)との間の距離(近似距離)であり、次式(2)で与えられる。
【数2】

即ち、APR値は、当該衛星組のGPS衛星それぞれの擬似距離ymと近似距離ypとの差分の二乗和として与えられる。
【0049】
図2に、APR値と測位精度との関係を示す実験結果の一例を示す。図2(a)は、「マルチパス環境」での実験結果を示し、図2(b)は、「オープンスカイ環境」での実験結果を示している。但し、自機の現在位置は既知である。図2では、マルチパス環境及びオープンスカイ環境のそれぞれの受信環境において、各回の測位処理の結果を、測位開始から時系列に示している。測位処理の結果として、当該測位処理において選択した衛星組(選択衛星組)と、APR平均値と、水平誤差とを示している。APR平均値は、当該測位処理において選出された各衛星組のAPR値の平均値である。「水平誤差」は、既知である自機の位置と、当該測位処理において算出された現在位置Pとの水平方向の差分である。また、何れの受信環境においても、5回目の測位処理においてZカウントがデコードされている。即ち、4回目以前の測位処理がZカウントのデコード前であり、5回目以降の測位処理がZカウントのデコード後である。
【0050】
図2によれば、APR平均値と水平誤差との間には、APR平均値が大きいほど、水平誤差が大きい、即ち測位精度が低い傾向があると判断できる。
【0051】
また、マルチパス環境とオープンスカイ環境とを比較すると、APR値及び水平誤差は、ともにマルチパス環境のほうがオープンスカイ環境よりも大きい。つまり、APR平均値から受信環境が判断できる。即ち、APR平均値が大きいほど、マルチパス環境である可能性が高く、一方、APR平均値が小さいほど、オープンスカイ環境である可能性が高い。
【0052】
また、それぞれの受信環境において、Zカウントのデコードの前後を比較すると、マルチパス環境では、Zカウントのデコード前では、水平誤差が大きく、その値のばらつきが大きいが、Zカウントのデコード後では、水平誤差が小さくなっているとともに、その値のばらつきが小さくなっている。更に、Zカウントのデコード後では、水平誤差の減少に伴ってAPR平均値も小さくなっている。つまり、マルチパス環境では、Zカウントがデコードされた後に、初回の測位位置を出力することが望ましい。
【0053】
一方、オープンスカイ環境では、Zカウントのデコード前後に関わらず水平誤差に大きな変化がなく、その値のばらつきが小さい上、水平誤差の変化が小さい。また、APR平均値も、Zカウントのデコード前後に関わらず、変化が小さく、その値のばらつきも小さい。つまり、オープンスカイ環境では、Zカウントのデコード前であっても、初回の測位位置を出力させて良いと判断できる。
【0054】
従って、本実施形態では、このようなAPR平均値と測位精度との関係から、初回の測位位置を出力するタイミングを決定している。つまり、位置カウント値が位置閾値に達した否かによって現在位置Pのばらつきが小さくなったか否かを判断し、また、時刻カウント値が時刻閾値に達したことによって時刻誤差Tのばらつきが小さくなったか否かを判断している。そして、現在位置Pのばらつき及び時刻誤差Tのばらつきがともに小さくなったと判断されたタイミングで、初回の測位位置を出力している。
【0055】
また、APR平均値に基づく位置閾値及び時刻閾値の決定を各回の測位処理で行っている。このため、移動中であっても、現在(今回)の測位処理における受信環境に応じて初回の測位位置の出力タイミングを変更している。つまり、APR平均値が大きくマルチパス環境の可能性が高い場合には、位置閾値及び時刻閾値をともに大きく設定し、初回の測位位置を出力するタイミングを遅らせる。また、APR平均値が小さくオープンスカイ環境の可能性が高い場合には、位置閾値及び時刻閾値をともに小さく設定し、初回の測位位置を出力するタイミングを早めている。
【0056】
図1に戻り、ROM32は、CPU31がベースバンド処理回路部30及びRF受信回路部21の各部を制御するためのシステムプログラムや、ベースバンド処理を含む各種処理を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。図3に、ROM32の構成の一例を示す。図3によれば、ROM32には、ベースバンド処理プログラム321と、カウントアップ条件テーブル322と、閾値変更条件テーブル323とが記憶されている。
【0057】
カウントアップ条件テーブル322は、位置カウント及び時刻カウントを増加(カウントアップ)させる条件を定義したデータテーブルである。図4に、カウントアップ条件テーブル322のデータ構成の一例を示す。図4によれば、カウントアップ条件テーブル322は、位置カウンタ及び時刻カウンタそれぞれについて、カウント値を増加(カウントアップ)させる条件が格納されている。即ち、位置カウンタについては、近距離条件として、各回の測位処理における現在位置Pのばらつきが「小さい」とみなせる程度の位置差分ΔPの大きさが定められている。また、時刻カウンタについては、近似条件として、各回の測位処理における時刻誤差Tのばらつきが「小さい」とみなせる程度の時刻差分ΔTの大きさが定められている。
【0058】
閾値変更条件テーブル323は、位置閾値及び時刻閾値を変更する条件を定義したデータテーブルである。図5に、閾値変更条件テーブル323のデータ構成の一例を示す。図5によれば、閾値変更条件テーブル323は、閾値の変更条件323aと、閾値の変更量323bとを対応付けて格納している。変更条件323aには、衛星数、PDOP値及びAPR平均値それぞれの条件値を格納している。上述のように、APR平均値が小さいほどオープンスカイ環境である可能性が高く、逆にAPR平均値が大きいほどマルチパス環境である可能性が高い。このため、APR平均値については、APR平均値が小さい場合には変更量を負値として閾値を下げ、逆にAPR平均値が大きい場合には変更量を正値として閾値を上げるように定められている。また、一般的には、PDOP値が小さいほど測位精度が高い傾向がある。このため、PDOP値については、PDOP値が大きい場合には変更量を負値として閾値を下げるように定められている。また、一般的には、衛星数が多いほど、PDOP値が小さくなって測位精度が高い傾向がある。このため、衛星数については、衛星数が多い場合には変更量を負値として閾値を下げるように定められている。
【0059】
RAM33は、CPU31の作業領域として用いられ、ROM32から読み出されたプログラムやデータ、CPU31が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。図6に、RAM33の構成の一例を示す。図6によれば、RAM33には、衛星位置データ331と、衛星組データ332と、測位結果データ333とが記憶される。
【0060】
衛星位置データ331は、各回の測位処理において捕捉されたGPS衛星の位置についてのデータである。図7に、衛星位置データ331のデータ構成の一例を示す。図7によれば、衛星位置データ331は、捕捉されたGPS衛星331aそれぞれについて、当該GPS衛星信号を基に算出された衛星位置331bを対応付けて格納している。
【0061】
衛星組データ332は、各回の測位処理において選出された衛星組についてのデータである。図8に、衛星組データ332のデータ構成の一例を示す。図8によれば、衛星組データ332は、選出された衛星組332aそれぞれについて、当該衛星組に含まれるGPS衛星332bと、現在位置候補332cと、時刻誤差候補332dと、衛星数332eと、PDOP値332fと、APR値332gとを対応付けて格納している。
【0062】
測位結果データ333は、各回の測位処理における算出結果のデータである。図9に、測位結果データ333のデータ構成の一例を示す。図9によれば、測位結果データ333は、測位開始からの各回の測位処理それぞれについて、測位時刻333aと、選択衛星組333bと、測位位置333cと、時刻誤差333dと、衛星数333eと、PDOP値333fと、APR平均値333gとを対応付けて格納している。
【0063】
カウンタデータ334は、位置カウンタ及び時刻カウンタそれぞれの現在のカウンタ値を格納する。データ335は、現在の位置閾値及び時刻閾値それぞれを格納する。
【0064】
ホストCPU40は、ROM43に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯電話機1の各部を統括的に制御する。具体的には、主に、電話機としての通話機能を実現するとともに、ベースバンド処理回路部30から入力された携帯電話機1の現在位置を地図上にプロットしたナビゲーション画面を表示部42に表示させるといったナビゲーション機能を含む各種機能を実現するための処理を行う。
【0065】
操作部41は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、利用者による操作に応じた操作信号をホストCPU40に出力する。この操作部41の操作により、測位の開始/終了指示等の各種指示が入力される。表示部42は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、ホストCPU40から入力される表示信号に基づく表示画面(例えば、ナビゲーション画面や時刻情報等)を表示する。
【0066】
ROM43は、ホストCPU40が携帯電話機1を制御するためのシステムプログラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。RAM44は、ホストCPU40の作業領域として用いられ、ROM43から読み出されたプログラムやデータ、操作部41から入力されたデータ、ホストCPU40が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0067】
携帯電話用アンテナ50は、携帯電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。携帯電話用無線通信回路部60は、RF変換回路やベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話用の通信回路部であり、ホストCPU40の制御に従って無線信号の送受信を行う。
【0068】
[処理の流れ]
図10は、ベースバンド処理の流れを説明するためのフローチャートである。この処理は、CPU31がベースバンド処理プログラム321を実行することで実現される。尚、ベースバンド処理に先立ち、GPSアンテナ10によるRF信号の受信やRF受信回路部21によるIF信号へのダウンコンバートを経てデジタル化されたIF信号が、ベースバンド処理回路部30に入力される状態にあるものとする。
【0069】
図10によれば、CPU31は、先ず、初期設定として、位置カウンタ及び時刻カウンタをゼロクリアする(ステップA1)。次いで、測位演算処理を行い、今回の現在位置P及び時刻誤差Tを算出する(ステップA3)。
【0070】
図11は、測位演算処理の流れを説明するためのフローチャートである。図11によれば、CPU31は、捕捉されたGPS衛星信号を基に、各GPS衛星の位置を含む衛星情報を算出する(ステップB1)。次いで、捕捉されたGPS衛星信号を基に、4個以上のGPS衛星から成る衛星組を選出し(ステップB3)、選出した衛星組それぞれを対象としたループAの処理を行う。
【0071】
ループAでは、対象の衛星組の各GPS衛星の位置を基に、例えば最小二乗法を用いた測位演算を行って、現在位置候補及び時刻誤差候補を算出する(ステップB5)。また、対象の衛星組に含まれるGPS衛星の数(衛星数)を算出する(ステップB7)。そして、算出した現在位置候補を基に、対象の衛星組のPDOP値を算出し(ステップB9)、更に、APR値を算出する(ステップB11)。ループAはこのように行われる。
【0072】
全ての衛星組を対象としたループAを終了すると、続いて、各衛星組のAPR値の平均値であるAPR平均値を算出する(ステップB13)。また、各衛星組それぞれをPDOP値等を用いて評価する評価処理を行う(ステップB15)。そして、評価結果に基づいて衛星組の1つを選択し、選択した衛星組の現在位置候補を今回の測位位置として決定するとともに、当該衛星組の時刻誤差候補を今回の時刻誤差として決定する(ステップB17)。以上の処理を行うと、測位演算処理を終了する。
【0073】
測位演算処理が終了すると、CPU31は、続いて、カウント処理を行う(ステップA5)。
【0074】
図12は、カウント処理の流れを説明するためのフローチャートである。図12によれば、CPU31は、前回の測位位置と今回の測位位置との差(位置差分)ΔPを算出する(ステップC1)。そして、算出した位置差分ΔPがカウントアップ条件を満たす(即ち、所定値以下)ならば(ステップC3:YES)、位置カウンタを「1」加算した値に更新し(ステップC5)、カウントアップ条件を満たさないならば(ステップC3:NO)、位置カウンタをゼロクリアする(ステップC7)。
【0075】
また、前回の時刻誤差と今回の時刻誤差との差(時刻差分)ΔTを算出する(ステップC9)。そして、算出した時刻差分ΔTがカウントアップ条件を満たす(即ち、所定値以下)ならば(ステップC11:YES)、時刻カウンタを「1」加算した値に更新し(ステップC13)、カウントアップ条件を満たさないならば(ステップC11:NO)、時刻カウンタをゼロクリアする(ステップC15)。以上の処理を行うと、カウント処理を終了する。
【0076】
カウント処理が終了すると、CPU31は、続いて、閾値変更処理を行う(ステップA7)。
【0077】
図13は、閾値変更処理の流れを説明するためのフローチャートである。図13によれば、CPU31は、初期設定として、位置閾値及び時刻閾値をともに基準閾値「3」に設定する(ステップD1)。次いで、閾値変更条件テーブル323を参照して、衛星数を基に、位置閾値及び時刻閾値を変更する(ステップD3)。また、PDOP値を基に、位置閾値及び時刻閾値を変更し(ステップD5)、更に、APR平均値を基に、位置閾値及び時刻閾値を変更する(ステップD7)。以上の処理を行うと、閾値変更処理を終了する。
【0078】
閾値変更処理が終了すると、CPU31は、続いて、位置カウント値と位置閾値、時刻カウント値と時刻閾値とをそれぞれ比較する。そして、位置カウント値が位置閾値未満である(ステップA9:NO)、或いは時刻カウント値が時刻閾値未満ならば(ステップA11:NO)、ステップA3に戻り、次回の測位を行う。一方、位置カウント値が位置閾値以上であり(ステップA9:YES)、且つ時刻カウント値が時刻閾値以上ならば(ステップA11:YES)、今回の現在位置Pを、初回の測位位置として決定し出力する(ステップA13)。ここまでが、初回の測位である。
【0079】
初回の測位が終了すると、続いて、2回目以降の測位を開始する。即ち、測位演算処理(図11参照)を行い(ステップA15)、算出した現在位置Pを測位結果として出力する(ステップA17)。次いで、測位を終了するか否かを判定し、終了しないならば(ステップA19:NO)、ステップA15に戻り、次回の測位を行う。測位を終了するならば(ステップA19:YES)、ベースバンド処理を終了する。
【0080】
[変形例]
以上、本発明を適用した一実施形態を説明したが、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0081】
(A)Zカウントのデコード
例えば、Zカウントがデコードされた後は、マルチパス環境であっても、時刻誤差Tのばらつきはほぼゼロとなる。このため、Zカウントがデコードされた場合には、カウント値と閾値との比較を行わず、現在位置Pを測位位置として決定し出力することにしても良い。
【0082】
(B)ホストCPU
また、ベースバンド処理回路部30のCPU31が行う処理の一部又は全部を、ホストCPU40がソフトウェア的に行うことにしても良い。
【0083】
(C)測位装置
また、上述の実施形態では、測位装置を備えた電子機器の一種である携帯電話機を説明したが、例えば携帯型のナビゲーション装置や車載用のナビゲーション装置、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0084】
(D)衛星測位システム
また、上述の実施形態では、GPSを利用した場合を説明したが、例えばGLONASS(GLObal Navigation Satellite System)といった他の衛星測位システムにも同様に適用可能なのは勿論である。
【0085】
(E)記録媒体
また、ベースバンド処理プログラム321をCD−ROM等の記録媒体に記録して、携帯電話機等の電子機器にインストールする構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】携帯電話機の内部構成図。
【図2】ARP平均値と測位誤差との関係を示す実験結果の一例。
【図3】ROMの構成図。
【図4】カウントアップ条件テーブルのデータ構成例。
【図5】閾値変更条件テーブルのデータ構成例。
【図6】RAMの構成図。
【図7】衛星位置データのデータ構成例。
【図8】衛星組データのデータ構成例。
【図9】測位結果データのデータ構成例。
【図10】ベースバンド処理のフローチャート。
【図11】ベースバンド処理中に実行される測位演算処理のフローチャート。
【図12】ベースバンド処理中に実行されるカウント処理のフローチャート。
【図13】ベースバンド処理中に実行される閾値変更処理のフローチャート。
【符号の説明】
【0087】
1 携帯電話機、20 GPS受信部、21 RF受信回路部、22 発振回路、30 ベースバンド処理回路部、31 CPU、32 ROM、321 ベースバンド処理プログラム、322 カウントアップ条件テーブル、323 閾値変更条件テーブル、33 RAM、331 衛星位置データ、332 衛星組データ、333 測位結果データ、334 カウンタデータ、335 閾値データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行って、測位開始後に最初に測位出力する測位位置を決定する初回測位出力位置演算決定方法であって、
受信された衛星信号に基づく測位演算を行って測位位置を算出する測位処理を実行する測位処理ステップと、
前記測位処理ステップによる前記測位処理の繰り返し実行回数を可変する繰り返し回数可変ステップと、
前記測位処理ステップによる前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、測位出力する初回の測位位置に決定する初回測位出力位置決定ステップと、
を含むとともに、
前記測位処理ステップは、
受信された衛星信号に基づいて今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出ステップと、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組の衛星それぞれの、1)擬似距離と、2)当該衛星と前記算出された現在位置候補間の距離である近似距離と、の差分の二乗和であるAPR値を算出するAPR値算出ステップと、
前記APR値算出ステップで算出された衛星組それぞれのAPR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出ステップと、
前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択ステップと、
を有し、
前記繰り返し回数可変ステップは、前記測位処理ステップにおいて算出されたAPR平均値に基づいて繰り返し実行回数を可変するAPR平均値基準回数可変ステップを有する、
初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の初回測位出力位置演算決定方法であって、
前記繰り返し回数可変ステップは、前記測位処理ステップによる測位処理が実行される毎に、今回の測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数を可変するステップである初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の初回測位出力位置演算決定方法であって、
前記測位処理ステップによる前回の測位処理による測位位置と、今回の測位処理による測位位置との距離差が、所定の近距離条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを含む初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の初回測位出力位置演算決定方法であって、
前記現在位置候補算出ステップは、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出するステップであり、
前記測位処理ステップは、前記今回測位位置選択ステップで選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出ステップで算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定ステップを有し、
前記測位処理ステップによる前回の測位処理による時刻誤差と、今回の測位処理による時刻誤差との差が、所定の近似条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを更に含む、
初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の初回測位出力位置演算決定方法であって、
前記現在位置候補算出ステップは、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出するステップであり、
前記測位処理ステップは、前記今回測位位置選択ステップで選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出ステップで算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定ステップを有し、
1)前記測位処理ステップによる前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合、或いは、2)前記測位処理ステップによる前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合の何れかに該当する場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、何れにも該当しない場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数ステップを更に含む、
初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項6】
今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出ステップと、
前記衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出ステップと、
前記衛星組それぞれについて、前記現在位置候補に基づき当該衛星組の衛星それぞれのAPR値を算出するAPR値算出ステップと、
前記衛星組それぞれの前記APR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出ステップと、
前記衛星組それぞれの前記現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択ステップと、
前記APR平均値に基づいて前記測位処理を繰り返し実行する回数を変更するAPR平均値基準回数可変ステップと、
前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、測位出力する初回の測位位置に決定する初回測位出力位置決定ステップと、
を含む初回測位出力位置演算決定方法。
【請求項7】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づき現在位置を測位する測位装置に内蔵されたコンピュータに、請求項1〜6の何れか一項に記載の初回測位出力位置演算決定方法を実行させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載されたプログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【請求項9】
測位用の衛星から送出される衛星信号を受信し、該受信した衛星信号に基づく現在位置の測位演算を行う測位装置であって、
受信された衛星信号に基づく測位演算を行って測位位置を算出する測位処理を実行する測位処理部と、
前記測位処理部による前記測位処理の繰り返し実行回数を可変する繰り返し回数可変部と、
前記測位処理部による前記測位処理が前記繰り返し実行回数分実行された場合に、最終的に算出された測位位置を、最初に測位出力する測位位置に決定する初回測位出力位置決定部と、
を備えるとともに、
前記測位処理部は、
受信された衛星信号に基づいて今回の測位処理に用いる衛星の組合せである衛星組を選出する衛星組選出部と、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて現在位置候補を算出する現在位置候補算出部と、
前記選出された衛星組それぞれについて、当該衛星組の衛星それぞれの、1)擬似距離と、2)当該衛星と前記算出された現在位置候補間の距離である近似距離と、の差分の二乗和であるAPR値を算出するAPR値算出部と、
前記APR値算出部により算出された衛星組それぞれのAPR値を平均することで、今回の測位処理のAPR平均値を算出する平均値算出部と、
前記算出された衛星組それぞれの現在位置候補の中から択一的に現在位置候補を選択して、今回の測位処理による測位位置とする今回測位位置選択部と、
を有し、
前記繰り返し回数可変部は、前記測位処理部により算出されたAPR平均値に基づいて繰り返し実行回数を可変するAPR平均値基準回数可変部を有する、
測位装置。
【請求項10】
請求項9に記載の測位装置であって、
前記繰り返し回数可変部は、前記測位処理部による測位処理が実行される毎に、今回の測位処理の際に算出されたAPR平均値に基づき繰り返し実行回数を可変する測位装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の測位装置であって、
前記測位処理部による前回の測位処理による測位位置と、今回の測位処理による測位位置との距離差が、所定の近距離条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を備える測位装置。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の測位装置であって、
前記現在位置候補算出部は、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出し、
前記測位処理部は、前記今回測位位置選択部により選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出部により算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定部を有し、
前記測位処理部による前回の測位処理による時刻誤差と、今回の測位処理による時刻誤差との差が、所定の近似条件を満たさない場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、満たす場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を更に含む、
測位装置。
【請求項13】
請求項9又は10に記載の測位装置であって、
前記現在位置候補算出部は、現在位置候補の算出とともに、当該衛星組に含まれる各衛星の衛星信号を用いて時刻誤差を算出し、
前記測位処理部は、前記今回測位位置選択部で選択された現在位置候補が前記現在位置候補算出部により算出された際に算出された時刻誤差を、今回の測位処理による時刻誤差とする今回時刻誤差決定部を有し、
1)前記測位処理部による前回の測位処理による測位位置と今回の測位処理による測位位置との距離差が所定の近距離条件を満たさない場合、或いは、2)前記測位処理部による前回の測位処理による時刻誤差と今回の測位処理による時刻誤差との差が所定の近似条件を満たさない場合の何れかに該当する場合には今回までの繰り返し回数をリセットして繰り返し回数の計数をやり直し、何れにも該当しない場合には繰り返し回数の計数を続行する繰り返し回数計数部を更に含む、
測位装置。
【請求項14】
請求項9〜13の何れか一項に記載の測位装置を備えた電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−281552(P2008−281552A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37115(P2008−37115)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】