説明

制振材およびその製造方法

【課題】製造の容易な制振材およびその製造方法の提供。
【解決手段】同種の金属材料にて形成された複数の板材1を重ね合わせた積層体2を、ケース3の下箱31内に載置し、下箱31にケース蓋32を被せる。ケース3内に収容された状態で、積層体2を熱間圧延して、下箱31の底面部31aおよびケース蓋32の上面32aとともに、板材1同士を圧着させる。次に、冷間圧延することにより積層体2の厚みを調整した後、周縁部が切除され制振材4が完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を複数枚重ね合わせて形成された制振材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同種の金属板を複数枚重ね合わせ、金属板の縁部を複数個のリベットにより互いに接合した制振材に関する従来技術があった(特許文献1参照)。この従来技術において、リベットにより接合されたそれぞれの金属板は一体化していないため、外部からの振動に対し各々固有の周波数で振動し、双方が同期することはない。したがって、金属板同士の接合面においては、相対的な振動に起因したずれが発生する。このずれが、双方の金属板間における摩擦熱となって振動エネルギーを消耗させ、制振効果を発揮している。
【特許文献1】特開昭64−5830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上述した制振材は、金属板にリベットの挿入孔を形成し、その後、挿入孔にリベットを挿入させた状態で、リベットをかしめるという製造工程をとる必要があり、製造に手間を要していた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造の容易な制振材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(手段1)手段1に係る制振材は、
同種の金属による板材を複数枚重ね合わせた積層体を圧延することにより、板材を互いに圧着させて形成する。
これにより、板材にリベット孔等を穿孔する必要がなく、また、かしめ等も必要なく、積層体を圧延するのみで製造可能であるため、製造が容易な制振材にすることができる。
【0005】
この制振材は、圧延されたそれぞれの金属板が、板材としての原型を留めた状態で形成されている。したがって、制振材に振動が加わった場合、板材同士の接合面において双方の金属の分子同士が互いに摺動して、振動によるエネルギーを摩擦熱として消耗させる。
また、同種の金属による板材を圧延しているため、異種の金属板を重ね合わせたときのように、制振材が形成された後で、板材の接合面で化学反応が発生することが少なく、双方の板材がその原型を留め、長期間にわたって制振効果が持続する。
【0006】
尚、本発明における同種の金属による板材とは、炭素鋼板とかニッケル板というようなおおまかな範疇での同種の金属を意味し、金属材料の詳細な組成比率あるいは製造条件まで含めたうえでの同種の金属を意味するものではない。
また、圧延とは、熱間圧延および冷間圧延を含んでいる。
【0007】
(手段2)手段2に係る制振材の製造方法は、
同種の金属による板材を複数枚重ね合わせた積層体を圧延することにより、板材を互いに圧着させることで制振材を形成する。
これにより、板材に穿孔する必要がなく、また、かしめ等も必要なく、積層体を圧延するのみで製造可能であるため、容易に制振材を製造することができる。
また、同種の金属による板材を圧延しているため、異種の金属板を重ね合わせたときのように、制振材が形成された後で、板材の接合面で化学反応が発生することが少なく、双方の板材がその原型を留め、長期間にわたって制振効果が持続する制振材が形成できる。
【0008】
尚、本発明における同種の金属による板材とは、炭素鋼板とかニッケル板というようなおおまかな範疇での同種の金属を意味し、金属材料の詳細な組成比率あるいは製造条件まで含めたうえでの同種の金属を意味するものではない。
また、圧延とは、熱間圧延および冷間圧延を含んでいる。
【0009】
(手段3)手段2に係る制振材の製造方法において、
板材と同種の金属により形成された平板部と、平板部に立設された規制部とを有する拘束材により、積層体の端にある板材と平板部が互いに平行となって接するとともに、規制部により板材のスライス方向の動きを規制するように積層体を拘束した状態で、積層体と拘束材を圧延することにより、板材を平板部とともに圧着させることで制振材を形成する。
【0010】
これにより、積層体が拘束材の規制部により規制されて、板材が互いにずれることなく圧延されるため、形成された制振材の表面積を十分確保することができ、製造品質を向上させることができる。
また、平板部は、板材と同種の金属により形成されているため、圧延後に平板部を取り去る必要がなく、平板部を板材とともに制振材の一部として使用することができる。
【0011】
(手段4)手段3に係る制振材の製造方法において、
拘束材は、板材と同種の金属により形成された底板および底板に立設された側板を有した収容箱からなり、積層体の端にある板材と底板が互いに平行となって接するように、収容箱内に積層体が載置され、複数枚の板材のスライス方向の動きが側板により規制された状態で積層体と収容箱を圧延することにより、板材を収容箱とともに圧着させることで制振材を形成する。
【0012】
これにより、積層体が収容箱内に載置されて周囲を規制されるため、よりいっそう板材のずれを低減でき、形成された制振材の表面積を十分確保して製造品質を向上させることができる。
また、底板は、板材と同種の金属により形成されているため、圧延後に底板を取り去る必要がなく、底板を板材とともに制振材の一部として使用することができる。
【0013】
(手段5)手段4に係る制振材の製造方法において、
収容箱には、蓋を被せることが可能とされ、蓋は、板材と同種の金属により形成された天井面と、天井面に立設され収容箱の側板の外周面と嵌合する複数の側方部とを有し、側方部および天井面の少なくともいずれかには、内外を連通させる貫通孔が形成されており、積層体が収容箱内に載置された後、収容箱に蓋が被せられ、収容箱が閉塞された状態で圧延されることにより、収容箱および蓋により形成された内部空間が減少して、内部空間の気体が貫通孔を介して外部に排出され、板材を収容箱および蓋とともに圧着させることで制振材を形成する。
【0014】
これにより、収容箱に蓋を被せることで、収容された板材が上下方向にずれることがなく、いっそう製造品質のよい制振材を製造することができる。
また、圧延時に、蓋に形成された貫通孔を介して、気体が収容箱の外部に排出されるため、収容箱内の内圧が高まることがなく、圧延に支障を来たすことがない。
さらに、蓋の天井面は、板材と同種の金属により形成されているため、圧延後に天井面を取り去る必要がなく、天井面を板材とともに制振材の一部として使用することができる。
【0015】
(手段6)手段1に係る制振材において、
板材は同一の金属からなる。
これにより、同一の金属による板材を圧延しているため、板材同士の相性がよく、制振材が形成された後で、板材の接合面で化学反応が発生することがいっそう少なく、双方の板材がその原型を留め、長期間にわたって制振効果が持続する。
尚、本発明における同一の金属による板材とは、金属材料の詳細な組成比率および製造条件まで含めたうえでの同一の金属を意味している。
【0016】
(手段7)手段2乃至5のいずれかに係る制振材の製造方法において、
板材は同一の金属からなる。
これにより、同一の金属による板材を圧延しているため、板材同士の相性がよく、制振材が形成された後で、板材の接合面で化学反応が発生することがいっそう少なく、双方の板材がその原型を留め、長期間にわたって制振効果が持続する。
尚、本発明における同一の金属による板材とは、金属材料の詳細な組成比率および製造条件まで含めたうえでの同一の金属を意味している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1および図2に基づき、本発明の一実施形態による制振材およびその製造方法について説明する。図1に示すように、制振材を製造する場合、最初に、同種の金属による複数の板材1を重ね合わせた積層体2を、ケース3内に収容する(第1工程)。複数の板材1は、これに限られるものではないが、本実施形態においては、すべて同一の金属である炭素鋼板(JIS規格におけるS45C)を使用している。ここで、同一金属とは、その組成や製造条件がほぼ同じ金属をいう。複数の板材1は、同一の金属ではなく、同種の金属(金属材料の詳細な組成比率あるいは製造条件までが同一ではなく、たとえば、炭素鋼板、ニッケル板といった、おおまかな範疇での同種の金属を意味する)であってもよい。
【0018】
図2に示すように、ケース3は下箱31(本発明の拘束材および収容箱に該当する)と、下箱31に被せられるケース蓋32(本発明の蓋に該当する)とにより形成されている。
下箱31は、板材1と同一の金属材料(具体的にはS45C)により一体に形成されており、平坦な底面部31a(本発明の平板部および底板に該当する)と、底面部31aの周囲に立設された4つの側部31b(本発明の規制部および側板に該当する)とにより形成されている。底面部31aの平面視による面積および形状は、積層体2の上面の面積および形状とほぼ等しく、積層体2の周端部と側部31bとの間に、積層体2を下箱31内に入れる場合に支障がない程度の、わずかな隙間を有するように形成されている。底面部31aの厚みは、本実施形態においては4.4mmとした。
【0019】
下箱31は、底面部31aの部分だけ板材1と同種または同一の金属材料により形成し、側部31bは板材1とは異なる金属材料等により形成してもよい。また、側部31bは必ずしも壁状に連続的に形成されていなくてもよく、載置された板材1の位置ずれを防止可能なものであれば、複数の杭状のものなど、あらゆる形状のものが適用可能である。
【0020】
一方、ケース蓋32は、板材1と同種の金属材料により一体に形成されており、平坦な上面32a(本発明の天井面に該当する)と、上面32aの外周端において鉛直下方に延びた4つの囲繞部32b(本発明の側方部に該当する)とにより構成されている。上面32aは、囲繞部32bの上部を連結して水平方向に広がっている。上面32aの厚みも、本実施形態においては4.4mmとした。
【0021】
また、対向する囲繞部32b同士の間隔は、ケース蓋32を下箱31に被せたときに、それぞれの囲繞部32bが、側部31bの外周面と嵌合するような距離に形成されている。ケース蓋32は、上面32aの部分だけ板材1と同種の金属材料により形成し、囲繞部32bは板材1とは異なる金属材料等により形成してもよい。また、必ずしも壁状に連続的に形成されていなくてもよく、ケース蓋32の下箱31に対する位置ずれを防止可能なものであれば、複数の杭状のものなど、あらゆる形状のものが適用可能である。
【0022】
また、囲繞部32bの一つには、通気孔32c(本発明の貫通孔に該当する)が形成されている。通気孔32cは、囲繞部32bを貫通しており、ケース蓋32の内外を連通させている。通気孔32cは、ケース蓋32に複数個形成されていてもよく、または、囲繞部32bではなく上面32aに形成されていてもよく、もしくは、囲繞部32bおよび上面32aの双方に形成されていてもよい。また通気孔32cは、ケース蓋32を下箱31に被せた場合に、ケース3内の気体の出入りを許容するものであれば、任意の大きさのものでよい。
【0023】
積層体2は、端にある板材1(最下方にある板材1)と底面部31aとが互いに平行となって接するように下箱31内に載置されることにより、その周囲を取り囲む側部31bによって、水平方向(本発明の板材1のスライス方向に該当する)の移動を規制され、各々の板材1が位置ずれすることがない。尚、図1に示した第1工程においては、板材1と下箱31の側部31bとの間に隙間が表れているが、上述したように、実際の製造工程においては、板材1と側部31bとの間にはわずかな隙間しか形成されていない。
【0024】
積層体2が載置された下箱31には、ケース蓋32が被せられる。これにより、下箱31の上方に位置する開放部が閉塞され、板材1の上下方向の位置ずれも規制された状態で、加熱炉等により加熱し熱間圧延が行われる(第2工程)。積層体2は熱間圧延を行うことにより、隣り合う板材1が互いに圧着して一体化する。また、下箱31およびケース蓋32も、板材1とともに圧着される。
熱間圧延時には、ケース3の内部空間の減少と加熱により、ケース3内の気圧が上昇するが、ケース蓋32に形成された通気孔32cにより、ケース3内の気体が排出されるため、支障なく熱間圧延を行うことができる。
【0025】
次に、熱間圧延後の積層体2に冷間圧延を施し、積層体2の厚み調整を行う(第3工程)。本実施形態においては、25%に圧下率を設定して冷間圧延を行っているが、これに限られるものではない。冷間圧延時においても、通気孔32cによりケース3内の気体が排出されるため、冷間圧延は滞りなく進行される。
冷間圧延後の積層体2は、その周縁部が切除され、ケース蓋32の囲繞部32bおよび下箱31の側部31bが切り離され、制振材4が完成する(第4工程)。
【0026】
<実施例>
図3乃至図10に基づき、本発明の実施例について説明する。図3は、上述した実施形態による製造方法を用いて形成した制振材4について、その制振特性を測定するために使用した測定装置を示している。
加振器5のインピーダンスヘッド51の先端には、ワーク41が固着されている。ワーク41は、上述した製造方法により形成された制振材4を板状(長さが160mm、幅が10mmの大きさで、厚みが3mm)に切断したものであり、そのほぼ中央部がインピーダンスヘッド51に対して接着されている。
【0027】
加振アンプ6は、入力される加振信号を増幅して加振器5に対し出力している。コントローラー7はFFTアナライザであり、測定者による操作量に基づき、加振アンプ6に対して加振信号を発信している。
検出器8はマスキャンセルアンプであり、加振器5がワーク41に対して加えた荷重と、加えられた荷重によりインピーダンスヘッド51に発生する加速度を検出し、コントローラー7へと出力する信号に関して、インピーダンスヘッド51の重量の影響分をキャンセルする働きを有する。
【0028】
上述した測定装置を用いて、測定者による操作量に応じて、コントローラー7から加振アンプ6に対して加振信号が出力されると、加振アンプ6は増幅信号を加振器5へと送信する。加振器5は、受信した増幅信号をインピーダンスヘッド51の機械的振動に変換し、ワーク41を所定の振幅および周波数で振動させる。
このときにワーク41に対して加えた荷重と、加えられた荷重によりインピーダンスヘッド51に発生する加速度(ワーク41の加速度と等しい)を測定した。ワーク41に対して加えた荷重とインピーダンスヘッド51の加速度の測定は、加振振幅および周波数をそれぞれ別々に変化させて行った。
【0029】
次に、図4に基づき、上述した測定方法によるワーク41の制振特性の求め方について説明する。図4は、ワーク41に対して、所定の振幅および周波数により振動を加えた場合の、加振周波数と伝達関数:|H(jω)|(共振線図)との関係を示している。伝達関数:|H(jω)|は、(インピーダンスヘッド51に発生する加速度)/(ワーク41に対して加えた荷重)と等しく、ワーク41に与えた振動の振幅および周波数に応じて、一意的に求まる。
【0030】
図4に示すように、伝達関数:|H(jω)|から、式:η=(f2−f1)/f0に基づき損失係数ηを求めた。ここで、f0はワーク41の共振周波数であり、f1およびf2は、伝達関数:|H(jω)|が共振点における値よりも3dB低いときの周波数を示している。損失係数ηの値は、大きいほど制振材4の制振性が優れていることを示している。
損失係数:ηは、ワーク41に与えた振動の振幅および周波数を別々に変化させ、各振幅および周波数において測定した。振幅は、当該測定における基準振幅(振幅目盛1.0)、基準振幅の2倍の振幅(振幅目盛2.0)および基準振幅の10の1の振幅(振幅目盛0.1)について測定を行った。尚、振幅目盛の数値は、測定者の操作によるコントローラー7の目盛数を示している。
【0031】
また、ワーク41については、積層された板材1の枚数が、1枚、7枚、16枚、20枚、24枚、30枚、35枚、40枚、60枚の9種類を形成し、それぞれのワーク41について上述した測定を行った。
尚、今回の測定における板材1の積層数毎の圧下率と、イニシャル板厚を以下に記載する。
積層数 圧下率[%] イニシャル板厚[mm]/枚
1 0 22
7 87.2 4.5
16 87.2 1.6
20 89.4 1.0
24 90.9 1.6
30 89.1 1.0
35 90.4 1.0
40 91.5 1.0
60 89.4 0.5
図5乃至図10に示した測定結果によれば、加振振幅に拘わらず、24枚の板材1を積層して形成したワーク41が最も制振性に優れている。尚、図8乃至図10は、いずれも加振周波数が6500Hzのときの、板材1の積層枚数と損失係数:ηとの関係を示したグラフである。
【0032】
本実施形態によれば、同種の金属による板材1を複数枚重ね合わせた積層体2を熱間圧延することにより、板材1を互いに圧着させて制振材4を形成する。
これにより、板材1にリベット孔等を穿孔する必要がなく、また、かしめ等も必要なく、積層体2を熱間圧延するのみで製造可能であるため、製造が容易な制振材4にすることができる。
この制振材4は、熱間圧延されたそれぞれの金属板が、板材1としての原型を留めた状態で形成されている。したがって、制振材4に振動が加わった場合、板材1同士の接合面において、双方の金属の分子同士が互いに摺動して、振動によるエネルギーを摩擦熱として消耗させる。
【0033】
また、同種の金属による板材1を圧延しているため、異種の金属板を重ね合わせたときのように、制振材4が形成された後で、板材1の接合面で化学反応が発生することが少なく、双方の板材1がその原型を留め、長期間にわたって制振効果が持続する。
また、同種の金属による板材1を圧着しているため、異種の金属同士を接合した場合のように、加熱時に熱膨張係数の差により、積層体2のそり等が起こり、板材1間の剥離等が発生することがない。
さらに、積層した複数の板材1を圧延して制振材4を形成しているため、制振材4の厚みを小さくすることができ、車両等に搭載する場合にスペースをとらずに便利である。
【0034】
また、本実施形態によれば、板材1と同種の金属により形成された底面部31aおよび底面部31aに立設された側部31bを有した下箱31内に積層体2が載置され、複数枚の板材1の水平方向の動きが側部31bにより規制された状態で積層体1と下箱31を熱間圧延することにより、板材1を下箱31とともに圧着させて形成する。
これにより、下箱31内に載置された積層体1が側部31bにより規制されて、板材1が互いにずれることなく圧延されるため、形成された制振材4の表面積を十分確保することができ、製造品質を向上させることができる。
また、底面部31aは、板材1と同種の金属により形成されているため、圧延後に底面部31aを取り去る必要がなく、底面部31aを板材1とともに制振材4の一部として使用することができる。
【0035】
また、下箱31には、ケース蓋32を被せることが可能とされ、ケース蓋32は、下箱31の側部31bの外周面と嵌合する複数の囲繞部32bと、複数の囲繞部32bの上部を連結して水平方向に広がるとともに板材1と同種の金属により形成された上面32aを有し、囲繞部32bには、内外を連通させる通気孔32cが形成されている。積層体2が下箱31内に載置された後、下箱31にケース蓋32が被せられ、下箱31の上方が閉塞された状態で熱間圧延されることにより、下箱31およびケース蓋32により形成された内部空間が減少して、内部空間の気体が通気孔32cを介して外部に排出され、板材1を下箱31およびケース蓋32とともに圧着させて形成する。
【0036】
これにより、下箱31にケース蓋32を被せることで、収容された板材1が上下方向にずれることがなく、いっそう製造品質のよい制振材4を製造することができる。
また、圧延時に、ケース蓋32に形成された通気孔32cを介して、気体が下箱31の外部に排出されるため、下箱31内の内圧が高まることがなく、圧延に支障を来たすことがない。
さらに、ケース蓋32の上面32aは、板材1と同種の金属により形成されているため、圧延後に上面32aを取り去る必要がなく、上面32aを板材1とともに制振材4の一部として使用することができる。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
下箱31内に載置した積層体2を圧延する場合、板材1が上下方向に位置ずれする恐れがなければ、必ずしもケース蓋32を被せる必要はない。
上述した実施形態による制振材4の製造工程において、熱間圧延後の冷間圧延工程は必ずしも必要ではない。
【0038】
また、積層体の圧延後に、適宜、熱処理等を行ってもよい。
本発明による制振材4は、炭素鋼板以外の金属板同士を重ね合わせた積層体2を、圧延して形成してもよい。
熱間圧延を行う代わりに、積層体に予熱を加えた後に冷間圧延を行ってもよい。
積層体に対する拘束材として、日本国公開特許公報である特開昭63−130285号の図2に示されたような拘束材を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態による制振材の製造方法を示した図。
【図2】圧延時に使用する下箱およびケース蓋を示した斜視図。
【図3】制振材の制振特性の測定装置を示した図。
【図4】制振材の共振線図を示したグラフを表した図。
【図5】振幅目盛が1.0のときの周波数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【図6】振幅目盛が2.0のときの周波数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【図7】振幅目盛が0.1のときの周波数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【図8】振幅目盛が1.0のときの板材の積層枚数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【図9】振幅目盛が2.0のときの板材の積層枚数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【図10】振幅目盛が0.1のときの板材の積層枚数と損失係数との関係を示したグラフを表した図。
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は板材、2は積層体、4は制振材、31は下箱(拘束材、収容箱)、31aは底面部(平板部、底板)、31bは側部(規制部、側板)、32はケース蓋(蓋)、32aは上面(天井面)、32bは囲繞部(側方部)、32cは通気孔(貫通孔)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種の金属による板材を複数枚重ね合わせた積層体を圧延することにより、前記板材を互いに圧着させて形成したことを特徴とする制振材。
【請求項2】
同種の金属による板材を複数枚重ね合わせた積層体を圧延することにより、前記板材を互いに圧着させることで制振材を形成することを特徴とする制振材の製造方法。
【請求項3】
前記板材と同種の金属により形成された平板部と、該平板部に立設された規制部とを有する拘束材により、
前記積層体の端にある前記板材と前記平板部が互いに平行となって接するとともに、前記規制部により前記板材のスライス方向の動きを規制するように前記積層体を拘束した状態で、前記積層体と前記拘束材を圧延することにより、
前記板材を前記平板部とともに圧着させることで制振材を形成することを特徴とする請求項2記載の制振材の製造方法。
【請求項4】
前記拘束材は、前記板材と同種の金属により形成された底板および該底板に立設された側板を有した収容箱からなり、
前記積層体の端にある前記板材と前記底板が互いに平行となって接するように、前記収容箱内に前記積層体が載置され、複数枚の前記板材のスライス方向の動きが前記側板により規制された状態で前記積層体と前記収容箱を圧延することにより、
前記板材を前記収容箱とともに圧着させることで制振材を形成することを特徴とする請求項3記載の制振材の製造方法。
【請求項5】
前記収容箱には、蓋を被せることが可能とされ、
前記蓋は、
前記板材と同種の金属により形成された天井面と、該天井面に立設され前記収容箱の前記側板の外周面と嵌合する複数の側方部とを有し、前記側方部および前記天井面の少なくともいずれかには、内外を連通させる貫通孔が形成されており、
前記積層体が前記収容箱内に載置された後、前記収容箱に前記蓋が被せられ、前記収容箱が閉塞された状態で圧延されることにより、前記収容箱および前記蓋により形成された内部空間が減少して、前記内部空間の気体が前記貫通孔を介して外部に排出され、
前記板材を前記収容箱および前記蓋とともに圧着させることで制振材を形成することを特徴とする請求項4記載の制振材の製造方法。
【請求項6】
前記板材は同一の金属からなることを特徴とする請求項1記載の制振材。
【請求項7】
前記板材は同一の金属からなることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の制振材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−64132(P2010−64132A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235108(P2008−235108)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】