説明

制振構造

【課題】回転体であっても、十分な制振作用を得ることができ、しかも、温度条件や周波数条件に影響されることなく、振動や騒音の発生を抑制することが可能な制振構造を提供することを課題とする。
【解決手段】回転体1の制振構造であって、その回転体1には中空部5が形成されており、その中空部5内には複数の粒状体6と粘弾性体7が充填されており、粒状体6は粘弾性体7中に略均等に分散されている。回転体1は、モータを構成するロータ10のシャフト2や、歯車9である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに用いられるロータのシャフトや、歯車といった回転体の制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを構成するロータのシャフトや、歯車といった回転体は、その回転時に振動や騒音が発生することがあり、従来から問題になっていた。ロータのシャフトの場合、回転時に電磁力の不釣合いが発生することが、歯車の場合、噛み合い振動が発生することが、その原因となっていた。その問題を解消するためには、それら回転体に制振材を設けて制振性を付与することが考えられる。
【0003】
従来から制振性付与のために用いられている制振材としては、粘弾性材や、粒状体を用いた粒状体衝撃ダンパを挙げることができるが、ロータのシャフトや、歯車といった回転体にそれら制振材を採用する場合は、それら回転体に中空部を形成し、その中空部内に制振材を内蔵することで、制振作用を得るという方法を採用することが例示できる。
【0004】
粘弾性材を中空部に内蔵する制振材として採用する場合、粘弾性材は、使用する温度や周波数によって動的粘弾性材特性が変化するという問題があり、その問題を解消するためは、異なる温度特性や周波数特性を持つ粘弾性材をブレンドすることで、広い温度範囲や周波数範囲に対応できるようにしなければならない。しかしながら、その対応には限界があり、ロータのシャフトや、歯車といった回転体の制振材として採用するには適切な材料とはいえない。
【0005】
一方で、特許文献1〜3に記載された粒状体を用いた粒状体衝撃ダンパを制振材として採用することも考えられる。尚、特許文献1に記載された技術は、粒状体を用いて、ターボ流体機械の本体表面、配管、カップリングカバー等からの放射音を効果的に抑制しようとする技術であり、特許文献2に記載された技術は、粒状体を用いて、鉄道車両用台車の駆動系のアンバランスに起因する振動を抑制し、振動に伴う車内騒音を低減しようとする技術であり、特許文献3に記載された技術は、粒状体を用いて、高い制振性能を有するシート状制振材及び制振パネルを得ようとする技術である。
【0006】
この粒状体を制振材として採用する場合は、回転体の中空部に一定の隙間を設けて粒状体を内蔵することになるが、回転体の回転数が高くなるとその遠心力により、粒状体が、中空部の回転体外周側の内壁に押し付けられるようになって全く運動することができなくなる。従って、前記した特許文献1〜3記載の回転しない構造体の場合に、粒状体同士の衝突や、粒状体と内壁との摩擦によって得られる制振作用が、回転体の場合は得られなくなってしまう。
【0007】
【特許文献1】特開平8−93693号公報
【特許文献2】特開2005−289370号公報
【特許文献3】特開2001−12543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これら従来の問題を解決せんとしてなされたもので、回転体であっても、十分な制振作用を得ることができ、しかも、温度条件や周波数条件に影響されることなく、振動や騒音の発生を抑制することが可能な制振構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、回転体の制振構造であって、その回転体には中空部が形成されており、その中空部内には複数の粒状体と粘弾性体が充填されており、前記粒状体は前記粘弾性体中に略均等に分散されていることを特徴とする制振構造である。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記回転体はモータを構成するロータのシャフトであり、複数の粒状体と粘弾性体が充填された前記中空部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造である。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記シャフトの軸方向中心部のみに形成されていることを特徴とする請求項2記載の制振構造である。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記シャフトを形成する外筒と内筒の間に形成されていることを特徴とする請求項2または3記載の制振構造である。
【0013】
請求項5記載の発明は、前記回転体は歯車であり、複数の粒状体と粘弾性体が充填された前記中空部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造である。
【0014】
請求項6記載の発明は、前記中空部は、前記歯車の円周方向に略等間隔で形成された、略同一形状の複数の中空部であることを特徴とする請求項5記載の制振構造である。
【0015】
請求項7記載の発明は、前記中空部内に内蔵された粒状体と粘弾性体の質量ならびに体積、並びに前記粘弾性体中の粒状体密度は、全ての中空部で略同一であることを特徴とする請求項6記載の制振構造である。
【0016】
請求項8記載の発明は、前記粘弾性体は、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンゲルのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の制振構造である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1記載の制振構造によると、回転体が回転すると、中空部内の粒状体はその遠心力によって、回転体の外周方向に多少は移動するものの、中空部内には粒状体と共に粘弾性体が充填されているため、粒状体は中空部の内壁に押し付けられることはなくその位置で振動し、その結果、粘弾性体に生じる応力がその粘弾性体中を伝播し、別の粒状体の振動と相互干渉することにより制振性が発揮されるので、回転体であっても、十分な制振作用を得ることができる。しかも、温度条件や周波数条件に影響されることなく、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0018】
本発明の請求項2記載の制振構造によると、モータを構成するロータに振動が発生しても、制振作用により振動や騒音の発生を抑制することができる。更には、粒状体と粘弾性体が充填された中空部は、磁束密度が低いロータのシャフトに形成されているため、モータの性能を損なうこともない。
【0019】
本発明の請求項3記載の制振構造によると、粒状体と粘弾性体を充填する中空部は、ロータのシャフトの全長に亘り形成する必要はなく、用いる粒状体と粘弾性体の量を少なくすることができ、しかも、粒状体と粘弾性体を充填する中空部は、長いシャフトの軸方向中心部に形成するため、釣り合いがとれ、ロータの回転に悪影響を及ぼすことはない。
【0020】
本発明の請求項4記載の制振構造によると、粒状体と粘弾性体を充填する中空部を、ロータのシャフトに容易に形成することができる。
【0021】
本発明の請求項5記載の制振構造によると、歯車が回転することで発生する振動や騒音を制振作用により抑制することができる。
【0022】
本発明の請求項6記載の制振構造によると、複数の粒状体が内蔵された略同一形状の中空部が歯車の全周に亘り略等間隔に配置されるので、バランス良く確実に、制振作用を発揮することができ、振動や騒音の発生をより確実に抑制することができる。
【0023】
本発明の請求項7記載の制振構造によると、更に確実に制振作用を発揮することができ、振動や騒音の発生を更に確実に抑制することができる。
【0024】
本発明の請求項8記載の制振構造によると、温度変化によって粘弾性特性が殆ど変化することのないシリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンゲルのいずれかを粘弾性体として用いることで、温度変化の影響なく確実に制振作用を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。まず、本発明の制振構造をロータのシャフトに採用した実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の制振構造をロータのシャフトに採用した場合の一実施形態を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。図2は本発明の制振構造をロータのシャフトに採用した場合の図1とは異なる実施形態を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。
【0027】
また、図3は、ステータを組み込んだモータを端面から見た概要を示す正面図であり、2がシャフト、10がロータ、11がステータである。
【0028】
図1に示すモータを構成するロータ10のシャフト2は、長尺円筒状の内筒3で成るシャフト本体2aと、その内筒3の軸方向中心部に環装された外筒4から構成されている。外筒4は内筒3より短く、外筒4と内筒3の間には円筒状の中空部5が形成されている。中空部5の両端面は、外筒4の両端面に設けられた円環状の端部キャップ8で閉塞されている。この中空部5内には複数の粒状体6と粘弾性体7が隙間なく充填されている。粒状体6は粘弾性体7中に略均等に分散されており、中空部5内での粒状体6の偏りはない。
【0029】
このように、中空部4内に、粒状体6が粘弾性体7中に略均等に分散されて充填されているので、回転体1であるロータ10のシャフト2が回転し、回転数が高くなって遠心力が作用しても、粒状体6が中空部5のシャフト2外周側の内壁に押し付けられて全く運動できなくなるといったことはない。
【0030】
ロータ10のシャフト2が回転すると、その遠心力によって、粒状体6は静止状態よりシャフト2の外周方向に多少は移動するものの、その振動が抑制されるわけではなく、粒状体6が振動することで、粘弾性体7に生じる応力が粘弾性体7中を伝播し、別の粒状体6の振動と相互干渉することにより制振性が発揮される。
【0031】
この粘弾性体7としては、高粘度(100,000〜1,000,000cst或いはそれ以上の粘度)のオイルや、液状ゴム、架橋させて流動を抑えたエラストマ等を採用することができる。それらの中でも温度により粘弾性特性(複素弾性率)が殆ど変化しないシリコーンオイルまたはシリコーンゴム、或いはシリコーンゲルが好適に用いられる。更には−50℃でも硬化しない耐寒性ゲルを用いることが最適である。すなわち、粘弾性体7は、耐熱性が高く、温度・周波数依存性の低い粘弾性体7とすることが望ましい。また、弾性係数を調整するために、粘弾性体中に多数の気泡を設けても良い。
【0032】
また、粒状体6としては特にその材質を限定することはないが、鉄、アルミ、銅、セラミックのいずれかを主成分とする材料から形成されていることが、容易にその材料を得ることができ、粒状体6の形成も比較的容易にできることから望ましい。
【0033】
粒状体6をセラミックを主成分とする材料といった非磁性材とした場合は、モータの性能に影響を及ぼすことがない。一方、粒状体6を鉄粉や鉄基合金粉末等の軟磁性粉末とした場合は、鉄粉や鉄基合金粉末等の軟磁性粉末を圧粉成形したロータ10のシャフト2に用いる場合、ロータ10の形成材料と同一材料とすることができ、材料調達等の手間を省くことも可能になる。また、粒状体6の形状は球体であることが望ましい。
【0034】
尚、複数の粒状体6と粘弾性体7を充填した中空部5をロータ10本体でなく、ロータ10のシャフト2に形成した理由は、シャフト2は、ロータ10本体に比べて、磁束密度が比較的低い位置であるため、中空部5を形成してもモータの性能を損なうことがないためである。
【0035】
図2に示すモータを構成するロータ10のシャフト2は、長尺円筒状の外筒4で成るシャフト本体2aと、その外筒4の軸方向中心部に挿入固定された内筒3から構成されている。内筒3は外筒4より短く、外筒4と内筒3の間には円筒状の中空部5が形成されている。中空部5の両端面は、外筒4と内筒3の間に設けられた円環状の端部キャップ8で閉塞されている。この中空部5内には複数の粒状体6と粘弾性体7が隙間なく充填されている。粒状体6は粘弾性体7中に略均等に分散されており、中空部5内での粒状体6の偏りはない。
【0036】
この図2に示す実施形態で得られる作用、並びにその他の構成については、図1に示す実施形態と同様である。
【0037】
以上、図1並びに図2で内筒3と外筒4の長さが異なる実施形態を示したが、内筒3と外筒4が共に同一長さの長尺であっても良い。この場合、複数の粒状体6と粘弾性体7が充填される中空部5は、ロータ10のシャフト2全長に亘って形成されることになる。
【0038】
次に、本発明の制振構造を歯車に採用した実施形態について説明する。
【0039】
図4は、本発明の制振構造を歯車に採用した場合の一実施形態を示し、(a)は正面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。尚、図4(a)の円周方向に略等間隔で形成された円形は曲面状の隆起であり、その内側に中空部5が形成されている。
【0040】
図4に示す歯車9はその外周に歯が形成された平歯車である。この歯車9の全周には、円周方向に略等間隔に並べて略同一断面形状の複数の中空部5が形成されており、それら中空部5内には、複数の粒状体6と粘弾性体7が隙間なく充填されている。粒状体6は粘弾性体7中に略均等に分散されており、中空部5内での粒状体6の偏りはない。
【0041】
このように、中空部5内に、粒状体6が粘弾性体7中に略均等に分散されて充填されているので、回転体1である歯車9が回転し、回転数が高くなって遠心力が作用しても、粒状体6が中空部5の歯車9の外周側の内壁に押し付けられて全く運動できなくなるといったことはない。
【0042】
歯車9が回転すると、その遠心力によって、粒状体6は静止状態より歯車9の外周方向に多少は移動するものの、その振動が抑制されるわけではなく、粒状体6が振動することで、粘弾性体7に生じる応力が粘弾性体7中を伝播し、別の粒状体6の振動と相互干渉することにより制振性が発揮される。
【0043】
尚、粒状体6並びに粘弾性体7は、本発明の制振構造をロータ10のシャフト2に採用した実施形態で、先に説明した材料と同様の材料で形成されていることが望ましい。
【0044】
また、中空部5内に内蔵された粒状体6と粘弾性体7の質量ならびに体積、および粘弾性体7中の粒状体6の密度、並びに各粒状体6の形状は、全ての中空部5で同一であることが、制振効率の面から望ましい。
【0045】
尚、歯車9として平歯車の事例を用いて説明したが、本発明の制振構造は、はす歯歯車、山歯歯車、かさ歯車等、他の歯車においても採用できることについては勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の制振構造をロータのシャフトに採用した場合の一実施形態を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。
【図2】本発明の制振構造をロータのシャフトに採用した場合の異なる実施形態を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。
【図3】ステータを組み込んだモータを端面から見た概要を示す正面図である。
【図4】本発明の制振構造を歯車に採用した場合の一実施形態を示し、(a)は正面図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…回転体
2…シャフト
2a…シャフト本体
3…内筒
4…外筒
5…中空部
6…粒状体
7…粘弾性体
8…端部キャップ
9…歯車
10…ロータ
11…ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の制振構造であって、その回転体には中空部が形成されており、その中空部内には複数の粒状体と粘弾性体が充填されており、前記粒状体は前記粘弾性体中に略均等に分散されていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記回転体はモータを構成するロータのシャフトであり、複数の粒状体と粘弾性体が充填された前記中空部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造。
【請求項3】
前記中空部は、前記シャフトの軸方向中心部のみに形成されていることを特徴とする請求項2記載の制振構造。
【請求項4】
前記中空部は、前記シャフトを形成する外筒と内筒の間に形成されていることを特徴とする請求項2または3記載の制振構造。
【請求項5】
前記回転体は歯車であり、複数の粒状体と粘弾性体が充填された前記中空部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の制振構造。
【請求項6】
前記中空部は、前記歯車の円周方向に略等間隔で形成された、略同一形状の複数の中空部であることを特徴とする請求項5記載の制振構造。
【請求項7】
前記中空部内に内蔵された粒状体と粘弾性体の質量ならびに体積、並びに前記粘弾性体中の粒状体密度は、全ての中空部で略同一であることを特徴とする請求項6記載の制振構造。
【請求項8】
前記粘弾性体は、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンゲルのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90966(P2010−90966A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260725(P2008−260725)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】