説明

制振装置

【課題】可動マスの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる制振装置を得ることを目的とする。
【解決手段】制振装置10は、2つの可動マス12A,12Bと、第1弾性部材14と、第2弾性部材16と、アクチュエータ18とを備えている。2つの可動マス12A,12Bは第1弾性部材14によって力学的に直列に連結されており、直列に連結された2つの可動マス12A,12Bのうち、列の先頭(一端)にある可動マス12Aが第2弾性部材16によって振動体30と連結されている。また、第1弾性部材14によって力学的に直列に連結された2つの可動マス12A,12Bのうち、列の後尾(他端)にある可動マス12Bと、当該可動マス12Bと第1弾性部材14によって連結された可動マス12Aとがアクチュエータ18によって連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、ポンプ、搬送装置等の設備機械の振動や、地震等による建物の振動を低減する装置としてハイブリッド・マス・ダンパ(HMD)が知られている。この種のHMDとしては、例えば、特許文献1〜3に開示された能動型制振器が知られている。この能動型制振器では、制振対象物に弾性支持された第1のマス金具と、当該第1のマス金具に弾性支持された第2のマス金具によって2自由度の振動系を構成し、固有振動数を2つ(1次固有振動数、2次固有振動数)にしている。これにより、共振によって制振力が増幅される振動数領域を広くし、制振対象物を制振可能な振動数領域を広くしている。
【0003】
また、HMDではないが、特許文献4には、可動基礎に弾性支持された第1物体と、当該第1物体に弾性支持された第2物体によって2自由度の振動系を構成した振動制御装置が開示されている。この振動制御装置では、アクチュエータによって第1物体及び第2物体を加振することにより、可動基礎から伝播された第1物体及び第2物体の振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−173715号公報
【特許文献2】特開2001−200885号公報
【特許文献3】特開2005−337497号公報
【特許文献4】特開平3−74648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された能動型制振器では、1次固有振動数と2次固有振動数との間隔が狭く、共振によって制振力が増幅される振動数領域を充分に広げることができない。
【0006】
また、特許文献4に開示された振動制御装置は、可動基礎から第1物体及び第2物体へ伝播される振動を低減(除振)するものであり、可動基礎の振動を低減することはできない。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、可動マスの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる制振装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の制振装置は、振動体の加振力を打ち消す制振力を発生する複数の可動マスと、前記可動マスを直列に連結する第1弾性部材と、前記直列の先頭の前記可動マスを前記振動体に該振動体の振動方向へ振動可能に連結する第2弾性部材と、前記直列の後尾の前記可動マスと、該可動マスに前記第1弾性部材で連結された他の前記可動マスとに連結され、前記制振力を増幅するように前記可動マス同士を前記振動方向へ加振するアクチュエータと、を備えている。
【0009】
請求項1に係る制振装置によれば、第1弾性部材によって直列に連結された複数の可動マスのうち、列の先頭の可動マスと振動体とが第1弾性部材によって連結されている。これにより、多自由度の振動系が構成されている。また、直列に連結された列の後尾の可動マスと当該可動マスと第1弾性部材によって連結された可動マスとがアクチュエータによって加振される。
【0010】
このように多自由度の振動系を構成し、かつ、アクチュエータによって列の後尾の可動マスと当該可動マスと隣接する可動マスとを加振することにより、従来(例えば、特許文献1〜3)の構成と比較して、複数の固有振動数の間隔を広げることができる。即ち、可動マスの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる。従って、振動体を制振可能な振動数領域を広げることができる。
【0011】
請求項2に記載の制振装置は、請求項1に記載の制振装置において、前記振動体の加速度を検出する加速度センサと、前記加速度センサで検出された加速度に応じて、前記アクチュエータの加振力を増減する制御手段と、を備えている。
【0012】
請求項2に係る制振装置によれば、制御手段が、加速度センサで検出された振動体の加速度に応じてアクチュエータの加振力を増減することにより、可動マスの制振力が増幅される。従って、制振可能な振動体の振動数領域を広げることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の構成としたので、可動マスの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係る制振装置の振動モデルを示す模式図であり、(B)は比較例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図である。
【図2】振動体の振動数と、本発明の一実施形態に係る制振装置及び比較例に係る制振装置の制振力の増幅倍率との関係を示すグラフである。
【図3】(A)は本発明の変形例に係る振動モデルを示す模式図であり、(B)及び(C)は比較例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図である。
【図4】振動体の振動数と、本発明の変形例に係る制振装置及び比較例に係る制振装置の制振力の増幅倍率との関係を示すグラフである。
【図5】(A)は本発明の変形例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図であり、(B)〜(D)は比較例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図である。
【図6】振動体の振動数と、本発明の変形例に係る制振装置及び比較例に係る制振装置の制振力の増幅倍率との関係を示すグラフである。
【図7】(A)及び(B)は、本発明の変形例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図である。
【図8】本発明の一実施形態の変形例に係る制振装置の振動モデルを示す模式図である。
【図9】(A)は本発明の実施例に係る制振装置を示す図9(B)の9A−9A線断面図であり、(B)は本発明の実施例に係る制振装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る制振装置について説明する。なお、各図において適宜示される矢印Vは、振動体の振動方向(上下方向)を示している。
【0016】
図1(A)には、一実施形態に係る制振装置10の振動モデルが示されている。この制振装置10は、いわゆるHMD(ハイブリッド・マス・ダンパ)と同様の原理により振動体30の振動を低減(制振)するものである。なお、本実施形態では、振動体30が床スラブで構成されているが、本実施形態に係る制振装置10は、例えば、モータ、ポンプ、搬送装置等のように振動源を有する設備機械等の振動体や、地震等の外力によって振動する建物等の振動体にも適用可能である。
【0017】
制振装置10は、2つの可動マス12A,12Bと、第1弾性部材14と、第2弾性部材16と、アクチュエータ18と、加速度センサ20と、制御手段(制御部)22とを備えている。可動マス12Aは、第2弾性部材16を介して振動体30の上に載置されている。第2弾性部材16は、例えばコイルばね、天然ゴム、合成ゴム、シリコン等の弾性体で構成され、伸縮方向を振動体30の振動方向(矢印V方向)にして振動体30と可動マス12Aとの間に配置されている。この第2弾性部材16によって、可動マス12Aと振動体30とが連結されると共に、可動マス12Aが振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。
【0018】
可動マス12Bは、第1弾性部材14を介して可動マス12Aの上に載置されている。第1弾性部材14は、第2弾性部材16と同様に、例えばコイルばね、天然ゴム、合成ゴム、シリコン等の弾性体で構成され、伸縮方向を振動体30の振動方向(矢印V方向)にして可動マス12Aと可動マス12Bとの間に配置されている。この第1弾性部材14によって、可動マス12Aと可動マス12Bとが連結されると共に、可動マス12Bが振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。
【0019】
このように2つの可動マス12A,12Bは第1弾性部材14によって力学的に直列に連結されており、直列に連結された2つの可動マス12A,12Bのうち、列の先頭(一端)にある可動マス12Aが第2弾性部材16によって振動体30と連結されている。これらの可動マス12A,12B、第1弾性部材14、及び第2弾性部材16によって、2自由度2質点系の振動系が構成されている。なお、図1(A)には、第1弾性部材14及び第2弾性部材16のバネ定数14k,16k及び減衰係数14c,16cがそれぞれ模式的に示されている。
【0020】
ここで、本実施形態では、可動マス12Aと可動マス12Bとがアクチュエータ18によって連結されている。即ち、第1弾性部材14によって力学的に直列に連結された2つの可動マス12A,12Bのうち、列の後尾(他端)にある可動マス12Bと、当該可動マス12Bと第1弾性部材14によって連結された可動マス12Aとがアクチュエータ18によって連結されている。また、可動マス12A及び第1弾性部材14で構成された1自由度の振動系に、可動マス12B及び第2弾性部材16で構成された1自由度の振動系が積層されて2自由度の振動系が構成されていると捉えた場合、この2自由度の振動系の最上層を構成する最上層可動マスとしての可動マス12Bと、当該可動マス12Bと隣接する隣接可動マスとしての可動マス12Aとがアクチュエータ18によって連結されている。
【0021】
アクチュエータ18は可動マス12Aと可動マス12Bとに連結され、これらの可動マス12A,12Bを振動方向(矢印V方向)に加振可能になっている。このアクチュエータ18によって、例えば、可動マス12A,12Bを振動体30と逆位相に振動するように加振し、各可動マス12A,12Bに制振力(慣性力)F,Fを発生させることにより、振動体30の加振力(慣性力)が打ち消されるようになっている。このアクチュエータ18には、フィードバック回路を有する電気回路等で構成された制御手段22が接続されている。制御手段22は、振動体30の加速度(振動加速度)に応じて可動マス12A,12Bの制振力F,Fが増幅するように、アクチュエータ18の加振力(以下、「制御力f」という)をフィードバック制御するものである。
【0022】
具体的には、制御手段22には振動体30の加速度を検出する加速度センサ20が接続されている。加速度センサ20は振動体30に取り付けられており、検出した振動体30の加速度(加速度情報)を制御手段22に出力するようになっている。この加速度に基づいて、制御手段22がアクチュエータ18の制御力fを算出すると共に、算出された制御力fでアクチュエータ18に振動体30を加振させる制御信号を生成し、アクチュエータ18に出力する。この制御信号に基づいて、アクチュエータ18が制御力fで可動マス12A,12Bを加振することにより、各可動マス12A,12Bの制振力F,Fが増幅されるようになっている。
【0023】
なお、アクチュエータ18の制御方法としては、例えば、古典的なPID制御や周波数整形フィルタ、あるいはH制御(H−infinity Control)などの現代制御理論等を用いることができる。また、アクチュエータ18としては、例えば、リニアモータ、ピエゾアクチュエータ、サーボモータ等を用いることができる。
【0024】
次に、比較例と対比しながら本実施形態に係る制振装置の作用及び効果について説明する。
【0025】
図1(B)には、比較例としての制振装置100が示されている。この制振装置100は、アクチュエータ102の配置が本実施形態に係る制振装置10と異なっており、振動体30と可動マス12Aとの間に設けられたアクチュエータ102によって、可動マス12Aが振動体30の振動方向へ加振されるようになっている。また、アクチュエータ102には、当該アクチュエータ102の制御力fを制御する制御手段104が接続されている。なお、制振装置100の他の構成は、本実施形態に係る制振装置10と同様である。
【0026】
また、図2には、振動体30の振動数と、本実施形態に係る制振装置10及び比較例に係る制振装置100の制振力の増幅倍率との関係を表す解析結果(両対数グラフ)が示されている。なお、制振力の増幅倍率とは、振動体30の加振力F(図1(A)参照)に対する制振装置10,100の制振力F,F(図1(A)参照)の増幅倍率である。また、本解析では、各制振装置10,100の固有振動数が10Hzに設定されると共に、各可動マス12A,12Bの質量、第1弾性部材14及び第2弾性部材16のばね定数14k,16k、減衰係数14c,16c等は、PSO(Particle Swarm Optimization)等の組み合わせ最適化手法を用いて、増幅倍率が5倍以上になる振動数領域が最も広くなるように設定されている。
【0027】
図2から分かるように、本実施形態に係る制振装置10及び比較例に係る制振装置100では、2自由度の振動系が構成されているため、固有振動数10Hzの前後に2つのピーク(1次固有振動数、2次固有振動数)が現れており、図示しない一般的な1自由度の振動系と比較して可動マス12A,12Bの制振力F,Fが増幅される振動数領域が広くなっている。しかしながら、比較例に係る制振装置100では、例えば、制振力F,Fの増幅倍率が5倍以上になる振動体30の振動数領域が、約9Hz〜11Hzと狭くなっている。
【0028】
これに対して本実施形態に係る制振装置10では、比較例に係る制振装置100と比較して、固有振動数10Hzの前後に現れた2つのピークの間隔(1次固有振動数と2次固有振動数との間隔)が広く、制振力F,Fの増幅倍率が5倍以上になる振動体30の振動数領域が約7Hz〜15Hzとなっており、比較例に係る制振装置100よりも広い振動数領域で可動マス12A,12Bの制振力F,Fが増幅されている。
【0029】
このように本実施形態に係る制振装置10では、最上層可動マスとしての可動マス12Bと隣接可動マスとしての可動マス12Aとの間にアクチュエータ18を設けることにより、可動マス12A,12Bの制振力F,Fを増幅可能な振動数領域を広げることができる。従って、振動体30の振動を広い振動数領域に渡って低減することができる。特に、振動体30が複数の振動モードを有する場合に、その振動を効率的に低減することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る制振装置10では、比較例に係る制振装置100よりも2つのピーク(1次固有振動数、2次固有振動数)における制振力F,Fの増幅倍率が大きくなっている。このように本実施形態に係る制振装置10では、可動マス12A,12Bの制振力F,Fを効率的に増幅することができる。換言すると、本実施形態に係る制振装置10では、より小さなアクチュエータ102の制御力fで、比較例に係る制振装置100と同等以上の制振力F,Fを発生することができる。従って、アクチュエータ102の消費電力等を削減することができる。
【0031】
次に、一実施形態に係る制振装置の変形例について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。また、以下の説明で参照する各図では、加速度センサ20及び制御手段22の図示を省略している。
【0032】
上記実施形態に係る制振装置10では、2つの可動マス12A,12B等によって2自由度の振動系を構成したがこれに限らず、3自由度以上の振動系を構成しても良い。例えば、図3(A)には、3つの可動マス12A〜12C等によって3自由度3質点系の振動系が構成された制振装置50の振動モデルが示されている。
【0033】
制振装置50では、可動マス12Cが第1弾性部材14を介して可動マス12Bの上に載置されており、この第1弾性部材14によって可動マス12Cが振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。即ち、制振装置50では、2つの第1弾性部材14によって3つの可動マス12A〜12Cが力学的に直列に連結されており、直列に連結された3つの可動マス12A〜12Cのうち、列の先頭(一端)にある可動マス12Aが第2弾性部材16によって振動体30に連結されている。これにより、3自由度の振動系が構成されている。
【0034】
また、本変形例に係る制振装置50では、力学的に直列に連結された3つの可動マス12A〜12Cのうち、列の後尾(他端)にある可動マス12Cと、当該可動マス12Cと第1弾性部材14によって連結された可動マス12Bとがアクチュエータ18によって連結されている。また、各可動マス12A〜12Cが構成する3つの1自由度の振動系が積層されて3自由度の振動系が構成されていると捉えた場合、本変形例に係る制振装置50では、可動マス12Cが3自由度の振動系の最上層を構成する最上層可動マスとなり、当該可動マス12Cと隣接する可動マス12Bが隣接可動マスとなる。このアクチュエータ18によって可動マス12B,12Cを振動体30の振動方向へ加振することにより、各可動マス12A〜12Cが制振力を発生するようになっている。また、アクチュエータ18には制御手段22(図1(A)参照)が接続されており、制御手段22が振動体30の加速度に応じてアクチュエータ18の制御力fを制御することにより、可動マス12A〜12Cの制振力が増幅されるようになっている。
【0035】
一方、図3(B)には比較例1としての制振装置110の振動モデルが示されており、図3(C)には、比較例2としての制振装置112の振動モデルが示されている。これらの比較例1,2に係る制振装置110,112は、アクチュエータ102の配置が本実施形態に係る制振装置10と異なっている。
【0036】
即ち、図3(B)に示される制振装置110では、可動マス12Aと可動マス12Bとの間に設けられたアクチュエータ102によって、可動マス12A,12Bが振動体30の振動方向へ加振されるようになっている。また、図3(C)に示される制振装置112では、振動体30と可動マス12Aとの間に設けられたアクチュエータ102によって、可動マス12Aが振動体30の振動方向へ加振されるようになっている。
【0037】
ここで、図4には、振動体30の振動数と、本変形例に係る制振装置50及び比較例1,2に係る制振装置110,112の制振力の増幅倍率との関係を表す解析結果(両対数グラフ)が示されている。なお、本解析では、図2で説明した解析結果と同様に、各制振装置50,110,112の固有振動数が10Hzに設定されると共に、各可動マス12A〜12Cの質量、第1弾性部材14及び第2弾性部材16のばね定数14k,16k、減衰係数14c,16c等は、PSO等の組み合わせ最適化手法を用いて、増幅倍率が5倍以上になる振動数領域が最も広くなるように設定されている。
【0038】
図4から分かるように、本変形例に係る制振装置50では、比較例1,2に係る制振装置110,112と比較して、1次固有振動数と3次固有振動数との間隔が広くなっている。即ち、本変形例に係る制振装置50では、比較例に係る制振装置100よりも広い振動数領域で各可動マス12A〜12Cの制振力が増幅されている。
【0039】
また、本変形例に係る制振装置50では、制振力の増幅倍率が5倍以上となる振動体30の振動数領域が約5.6Hz〜18Hzとなっており、上記実施形態に係る制振装置10の解析結果(図2参照)よりも広い振動数領域に渡って可動マス12A〜12Cの制振力が増幅されている。
【0040】
このように本変形例に係る制振装置50では、最上層可動マスとしての可動マス12Cと隣接可動マスとしての可動マス12Bとの間にアクチュエータ18を設けることにより、各可動マス12A〜12Cの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる。更に、3つの可動マス12A〜12C等によって3自由度の振動系を構成したことにより、2自由度の振動系が構成された制振装置10(図1(A)参照)よりも広い振動数領域に渡って可動マス12A〜12Cの制振力を増幅することができる。
【0041】
次に、図5(A)には、他の変形例として、4つの可動マス12A〜12D等によって4自由度4質点系の振動系が構成された制振装置52の振動モデルが示されている。
【0042】
この制振装置52では、可動マス12Dが第1弾性部材14を介して可動マス12Cの上に載置されており、この第1弾性部材14によって可動マス12Dが振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。即ち、制振装置52では、3つの第1弾性部材14によって4つの可動マス12A〜12Dが力学的に直列に連結されており、直列に連結された4つの可動マス12A〜12Dのうち、列の先頭(一端)にある可動マス12Aが第2弾性部材16によって振動体30と連結されている。これにより、4自由度の振動系が構成されている。
【0043】
また、本変形例に係る制振装置52では、力学的に直列に連結された4つの可動マス12A〜12Dのうち、列の後尾(他端)にある可動マス12Dと、当該可動マス12Dと第1弾性部材14によって連結された可動マス12Cとがアクチュエータ18によって連結されている。また、本変形例に係る制振装置52では、可動マス12Dが4自由度の振動系の最上層を構成する最上層可動マスとなり、可動マス12Cが隣接可動マスとなる。このアクチュエータ18によって可動マス12C,12Dを振動体30の振動方向へ加振することにより、各可動マス12A〜12Dが制振力を発生するようになっている。なお、アクチュエータ18には制御手段22(図1(A)参照)が接続されている。
【0044】
一方、図5(B)〜図5(D)には、比較例1〜3としての制振装置120,122,124の振動モデルがそれぞれ示されている。これらの比較例1〜3に係る制振装置120,122,124は、本変形例に係る制振装置52とアクチュエータ102の配置が異なっている。
【0045】
即ち、図5(B)に示される比較例1としての制振装置120では、可動マス12Bと可動マス12Cとの間にアクチュエータ102が設けられ、図5(C)に示される比較例2としての制振装置122では、可動マス12Aと可動マス12Bとの間にアクチュエータ102が設けられ、図5(D)に示される比較例3としての制振装置124では、振動体30と可動マス12Aとの間にアクチュエータ102が設けられている。
【0046】
ここで、図6には、振動体30の振動数と、本変形例に係る制振装置52及び比較例1〜3に係る制振装置120,122,124の制振力の増幅倍率との関係を表す解析結果(両対数グラフ)が示されている。なお、本解析では、図2で説明した解析結果と同様に、各制振装置120,122,124の固有振動数が10Hzに設定されると共に、各可動マス12A〜12Dの質量、第1弾性部材14及び第2弾性部材16のばね定数14k,16k、減衰係数14c,16c等は、PSO等の組み合わせ最適化手法を用いて、増幅倍率が5倍以上になる振動数領域が最も広くなるように設定されている。
【0047】
図6から分かるように、本変形例に係る制振装置52では、比較例1〜3に係る制振装置120,122,124と比較して、1次固有振動数と4次固有振動数との間隔が広くなっている。即ち、本変形例に係る制振装置52では、比較例に係る制振装置120,122,124よりも広い振動数領域で可動マス12A〜12Dの制振力が増幅されている。
【0048】
また、本変形例に係る制振装置52では、制振力の増幅倍率が5倍以上となる振動体30の振動数領域が約4.5〜22Hzとなっており、3自由度の振動系が構成された制振装置50(図3(A)参照)よりも広い振動数領域に渡って可動マス12A〜12Dの制振力が増幅されている。
【0049】
このように本変形例に係る制振装置52では、最上層可動マスとしての可動マス12Dと、隣接可動マスとしての可動マス12Cとの間にアクチュエータ18を設けることにより、各可動マス12A〜12Dの制振力を増幅可能な振動数領域を広げることができる。更に、4つの可動マス12A〜12C等によって4自由度の振動系を構成したことにより、上記変形例に係る制振装置50(図3(A)参照)よりも更に広い振動数領域に渡って可動マス12A〜12Dの制振力を増幅することができる。
【0050】
以上のことから、振動系の自由度が大きくなるに従って、複数の可動マス12A,12B等の制振力を増幅可能な振動数領域が広がることが分かる。従って、振動体30が発生する振動の振度数領域に応じて、可動マス12A,12B等の数を増減して振動系の自由度を増減することにより、振動体30の振動を効率的に低減することができる。
【0051】
次に、上記実施形態では、振動体30が上下方向(図1(A)において矢印V方向)に振動する場合を例に説明したがこれに限らない。例えば、図7(A)には、水平方向(矢印V方向)に振動する振動体30の振動を低減する制振装置54の振動モデルが示されている。
【0052】
この制振装置54では、可動マス12Aが第2弾性部材16を介して水平方向(矢印V方向)へ振動可能に振動体30に支持され、可動マス12Bが第1弾性部材14を介して水平方向へ振動可能に可動マス12Aに支持されている。また、最上層可動マスとしての可動マス12Bと、隣接可動マスとしての可動マス12Aとの間にはアクチュエータ18が設けられており、このアクチュエータ18によって各可動マス12A,12Bが水平方向に加振されるようになっている。
【0053】
このように各可動マス12A,12Bは振動体30の振動方向へ振動可能に振動体30に支持されていれば良く、また、アクチュエータ18は可動マス12A,12Bを振動体30の振動方向へ加振可能であれば良い。
【0054】
次に、上記実施形態では、床スラブ等の振動体30の上に制振装置10を設置した場合を例に説明したがこれに限らない。例えば、図7(B)には、床スラブ等の振動体30の下面に設置された制振装置56が示されている。
【0055】
この制振装置56では、可動マス12Aが、第2弾性部材16によって振動体30の下面に吊り下げられると共に、振動体30の振動方向(矢印V方向)へ振動可能に支持されている。また、第1弾性部材14によって、可動マス12Bが可動マス12Aの下面に吊り下げられると共に、振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。即ち、2つの可動マス12A,12Bは第1弾性部材14によって力学的に直列に連結されており、直列に連結された2つの可動マス12A,12Bのうち、列の先頭(一端)にある可動マス12Aが第2弾性部材16によって振動体30と連結されている。
【0056】
ここで、各可動マス12A,12Bが構成する1自由度の振動系が積層されて2自由度の振動系が構成されていると捉えた場合、本変形例に係る制振装置56では、可動マス12Bが2自由度の振動系の最上層可動マスとなり、可動マス12Aが隣接可動マスとなる。即ち、多自由度の振動系の最上層とは、可動マス12A,12Bの物理的な位置関係(上下関係)を意味するものではなく、振動体30から伝達される振動の伝達経路上、振動体30から最も遠い可動マス12Bと第1弾性部材14で構成された振動系を意味する。従って、本変形例に係る制振装置56では、可動マス12B及び第1弾性部材14によって構成された振動系が、振動の伝達経路上振動体30から最も遠い振動系となり、この振動系を構成する可動マス12Bが最上層可動マスとなる。
【0057】
また、例えば、図8に示されるように、振動体30が水平方向(矢印V方向)に振動する場合は、可動マス62A,62Bを水平方向に連結しても良い。即ち、制振装置60では、2つの可動マス62A,62Bが水平方向に配列されると共に、これらの可動マス62A,62Bが第1弾性部材14によって力学的に直列に連結されている。また、直列に連結された2つの可動マス62A,62Bのうち、列の先頭(一端)にある可動マス62Aが、第2弾性部材16によって振動体30に設けられた支柱32に連結されている。これらの可動マス62A,62B、第1弾性部材14、及び第2弾性部材16によって、2自由度2質点系の振動系が構成されている。なお、可動マス62A,62Bは、レール64に沿って振動体30の振動方向へ移動可能になっている。
【0058】
この変形例に係る制振装置60では、可動マス62B及び第1弾性部材14によって構成された振動系が、振動の伝達経路上振動体30から最も遠い振動系となり、この振動系を構成する可動マス62Bが最上層可動マスとなる。
【0059】
次に、本発明の一実施例について説明する。
【0060】
図9(A)及び図9(B)には、制振装置70が示されている。この制振装置70は、可動マスとしての3つの下台座72、中間台座74、及び上台座76と、第1弾性部材としての第1ゴム78,80と、第2弾性部材としての第2ゴム82と、アクチュエータ18と、図示しない加速度センサ及び制御手段を備えている。
【0061】
可動マスとしての下台座72は断面略C形状に構成され、開口を上に向けた状態で振動体30の上に配置されている。下台座72の下面における各コーナー部には、当該下面における一般面に対して上方へ凹む第2ゴム取付部72Aが設けられている。各第2ゴム取付部72Aと振動体30との間には、第2ゴム82が配置されている。第2ゴム82は合成ゴムで構成され、伸縮方向を振動体30の振動方向にして配置されている。この第2ゴム82によって下台座72が振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。
【0062】
下台座72の上には、可動マスとしての中間台座74が配置されている。中間台座74は、下台座72の開口内に収納される断面略C形状の本体部74Aを備え、当該本体部74Aの開口を上に向けた状態で配置されている。この本体部74Aの開口部側端部には、当該開口部側端部の外面から下台座72の開口側端部の上方へ延出する第1ゴム取付部74Bが設けられている。この第1ゴム取付部74Bと下台座72の開口側端部との間には、複数(本実施例では、4つ)の第1ゴム78が設けられている。第1ゴム78は合成ゴムで構成され、伸縮方向を振動体30の振動方向にして配置されている。この第1ゴム78によって中間台座74が振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。
【0063】
中間台座74の上には、可動マスとしての上台座76が配置されている。上台座76は平板状に構成され、中間台座74の開口内に収納されている。この上台座76と中間台座74との間には、複数(本実施例では、4つ)の第1ゴム80が設けられている。第1ゴム80は伸縮方向を振動体30の振動方向にして配置されており、この第1ゴム80によって上台座76が振動体30の振動方向へ振動可能に支持されている。
【0064】
このように3つの下台座72、中間台座74、及び上台座76は第1ゴム78,80によって力学的に直列に連結されており、直列に連結された3つの下台座72、中間台座74、及び上台座76のうち、列の先頭(一端)にある下台座72が第2ゴム82によって振動体30と連結されている。これらの下台座72、中間台座74、上台座76、第1ゴム78,80、及び第2ゴム82によって、3自由度3質点系の振動系が構成されている。
【0065】
また、上台座76の下面には、棒状のスライド部材84が設けられている。このスライド部材84は、中間台座74及び下台座72にそれぞれ形成された貫通孔86,88にベアリング90を介してスライド可能に挿入されている。このスライド部材84によって、上台座76、中間台座74、及び下台座72の水平方向の相対移動が規制されるようになっている。
【0066】
ここで、第1ゴム78,80によって力学的に直列に連結された3つの下台座72、中間台座74、及び上台座76のうち、列の後尾(他端)にある上台座76と、当該上台座76と第1ゴム80によって連結された中間台座74とがアクチュエータ18によって連結されている。このアクチュエータ18によって中間台座74及び上台座76を加振し、各下台座72、中間台座74、及び上台座76に制振力を発生させることにより、振動体30の振動の加振力が打ち消されるようになっている。従って、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、制振装置70では、上台座76が3自由度の振動系の最上層を構成する最上層可動マスとなり、当該上台座76と隣接する中間台座74が隣接可動マスとなる。
【0067】
また、制振装置70では、下台座72の開口内に中間台座74の本体部74Aを収納すると共に、中間台座74の開口内に上台座76を収納することにより、装置高さHを低くすることができる。従って、制振装置70の設置自由度が向上する。
【0068】
以上、本発明の一実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこうした実施形態及び実施例に限定されるものでなく、上記一実施形態、各種の変形例、及び実施例を適宜組み合わせても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
10 制振装置
12A 可動マス
12B 可動マス
12C 可動マス
12D 可動マス
14 第1弾性部材
16 第2弾性部材
18 アクチュエータ
20 加速度センサ
22 制御手段
30 振動体
50 制振装置
52 制振装置
54 制振装置
56 制振装置
60 制振装置
62A 可動マス
62B 可動マス
70 制振装置
72 下台座(可動マス)
74 中間台座(可動マス)
76 上台座(可動マス)
78 第1ゴム(第1弾性部材)
80 第1ゴム(第1弾性部材)
82 第2ゴム(第2弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体の加振力を打ち消す制振力を発生する複数の可動マスと、
前記可動マスを直列に連結する第1弾性部材と、
前記直列の先頭の前記可動マスを前記振動体に該振動体の振動方向へ振動可能に連結する第2弾性部材と、
前記直列の後尾の前記可動マスと、該可動マスに前記第1弾性部材で連結された他の前記可動マスとに連結され、前記制振力を増幅するように前記可動マス同士を前記振動方向へ加振するアクチュエータと、
を備える制振装置。
【請求項2】
前記振動体の加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサで検出された加速度に応じて、前記アクチュエータの加振力を増減する制御手段と、
を備える請求項1に記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29137(P2013−29137A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164492(P2011−164492)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】