説明

刺激効果予測装置、睡眠深度予測装置、刺激効果予測方法及び車両制御装置

【課題】睡眠時の刺激効果を予測する。また、睡眠深度の予測時期に影響されることなく睡眠深度を高精度に予測する。
【解決手段】
後席搭乗者に刺激を与える刺激発生装置3と、後席搭乗者の脳波を計測する脳波計測装置2と、メモリ4と、覚醒時に刺激発生装置3から刺激を与えたときに脳波計測装置2が計測した脳波と、睡眠時に刺激発生装置3から刺激を与えたときに脳波計測装置2が計測した脳波とから、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定するECU5と、を備え、ECU5は、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて後席搭乗者に与える刺激を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時の刺激に対する効果を予測する刺激効果予測装置、刺激効果予測方法及び車両制御装置に関する。また、本発明は、睡眠深度を予測する睡眠深度予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、仮眠している被験者をすっきりと目覚めさせるために、被験者の発汗量から睡眠リズムを推定し、一度レム睡眠に達した後に、刺激装置を作動させて被験者を覚醒させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−028242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、睡眠時は、脳波に含まれるδ波の含有率を調べることで、被験者の睡眠深度を予測することができる。しかしながら、睡眠時に、種類や強度の異なる刺激に対する刺激効果を評価するのが困難であるため、従来は、被験者を所定の睡眠深度に維持するために、どのような種類及び強度の刺激を与えれば良いのか判断することができなかった。また、δ波の含有率に基づいて睡眠深度を予測すると、脳波の判断区間によってδ波の含有率が変動するため、十分な予測精度が確保できないという問題もある。
【0005】
なお、特許文献1に記載された技術は、被験者が眠った後に刺激を提示するのみで、刺激の設定方法や刺激の制御方法に関しては全く記載されておらず、睡眠時における刺激の種類や強度に対する効果についても全く考慮されていない。
【0006】
そこで、本発明は、睡眠時の刺激効果を予測することができる刺激効果予測装置、刺激効果予測方法及び車両制御装置を提供するとともに、睡眠深度の予測時期に影響されることなく、睡眠深度を高精度に予測することができる睡眠深度予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、刺激反応による脳の神経パルスの到達経路は覚醒時も睡眠時も同じであることから、刺激を与えることにより覚醒時及び睡眠時に共通して現れる脳波指標を利用することで、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することが可能であるとの知見に至った。
【0008】
そこで、本発明に係る刺激効果予測装置は、被験者に刺激を与える刺激発生部と、被験者の脳波を計測する脳波計測部と、覚醒時に刺激発生部から刺激を与えたときに脳波計測部が計測した脳波と、睡眠時に刺激発生部から刺激を与えたときに脳波計測部が計測した脳波とから、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定する刺激効果予測部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る刺激効果予測装置によれば、刺激に対して覚醒時と睡眠時とで共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを関連付けることができる。これにより、覚醒時と睡眠時との間で刺激効果の変換を行うことができるため、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を変換することができる。
【0010】
そして、上記刺激効果予測部は、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を選択することが好ましい。この発明によれば、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成することができ、この作成した変換モデルを用いることで、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することができる。そこで、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を求めることで、被験者の睡眠深度を制御することができる。これにより、例えば、被験者の睡眠状態を浅い眠りの状態に維持することができる。
【0011】
また、上記刺激効果予測部は、特定の脳波の振幅に基づいて、刺激効果を補正することが好ましい。通常、覚醒時の閉眼状態などで発生するα波などの特定の脳波は、振幅が大きく変化しない。そこで、例えば、特定の脳波の振幅に対する脳波指標の振幅の相対変化量に基づいて刺激効果を補正することで、脳波計測部の計測誤差や被験者の体調などの影響を排除することができ、睡眠時の刺激効果を適切に予測することができる。
【0012】
そして、上記刺激効果予測部は、覚醒時の刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することが好ましい。睡眠時は、刺激や時間経過などによって睡眠深度などの被験者の状態が頻繁に変化するため、睡眠時における刺激に対する刺激効果を評価するのが困難となる。そこで、睡眠時の刺激効果は覚醒時の刺激効果から予測することができることから、覚醒時の刺激効果に基づいて睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することで、被験者に与える刺激を選択する際に、被験者における睡眠状態の変化の影響を排除することができる。
【0013】
更に、上記刺激効果予測部は、異なるパラメータの刺激に対する刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することが好ましい。このように、異なるパラメータの刺激に対する刺激効果に基づいて、与える刺激のパラメータを選定するため、例えば、同じ刺激強度の刺激が複数ある場合、そのうち最も高い刺激効果の現れる刺激のパラメータを採用することで、効率的に刺激を発生することができ、また、同じ刺激効果が得られる刺激が複数ある場合、そのうち最も刺激強度の低い刺激を選定することで、刺激効果を低下させることなく、より不快感の少ない刺激を選択することができる。
【0014】
そして、上記刺激効果予測部は、特定のパラメータの刺激を与え続けたときの刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを変更することが好ましい。同じ刺激を与え続けると慣れにより刺激効果が低下するが、特定のパラメータの刺激を与え続けたときの刺激効果に基づいて与える刺激のパラメータを変更することで、慣れによる刺激効果の低下を防止することができる。
【0015】
そして、上記刺激効果予測部は、被験者に与えた刺激に対する脳波の計測結果に基づいて、被験者の睡眠深度を予測することが好ましい。このように、被験者に与えた刺激に対する脳波の反応に基づいて睡眠深度を予測することで、睡眠深度の予測時期に影響されることなく、睡眠深度を高精度に予測することができる。
【0016】
本発明に係る睡眠深度予測装置は、被験者に刺激を与える刺激発生部と、被験者の脳波を計測する脳波計測部と、被験者に与えた刺激に対する脳波の反応に基づいて、被験者の睡眠深度を予測する睡眠深度予測部と、を有することを特徴とする。
【0017】
従来、所定期間中に現れるδ波の含有率から睡眠深度を予測していたが、この従来の予測は、判定区間の設定によってδ波の含有率が変わるため、正確な予測を行うことができなかった。そこで、本発明者らは、睡眠深度の予測精度を向上させるために鋭意研究を重ねた結果、睡眠時に刺激を与えると、睡眠深度によって刺激効果が異なるとの知見に至った。すなわち、睡眠時に刺激を与えると、浅い睡眠であっても深い睡眠であっても現れる脳波指標があり、一方で、浅い睡眠では現れるが深い睡眠では現れない脳波指標があるとの知見に至った。そこで、本発明に係る睡眠深度予測装置によれば、被験者に与えた刺激に対する脳波の反応に基づいて睡眠深度を予測することで、睡眠深度の予測時期に影響されることなく、睡眠深度を高精度に予測することができる。
【0018】
本発明に係る刺激効果予測方法は、覚醒時に刺激を発生させて被験者の脳波を取得するステップと、睡眠時に刺激を発生させて被験者の脳波を取得するステップと、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定するステップと、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る刺激効果予測方法によれば、刺激に対して覚醒時と睡眠時とで共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを関連付けることができる。これにより、覚醒時と睡眠時との間で刺激効果の変換を行うことができるため、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を変換することができる。
【0020】
そして、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を選択することが好ましい。この発明によれば、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成することができ、この作成した変換モデルを用いることで、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することができる。そこで、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を求めることで、被験者の睡眠深度を制御することができる。これにより、例えば、被験者の睡眠状態を浅い眠りの状態に維持することができる。
【0021】
本発明に係る車両制御装置は、搭乗者に刺激を与える刺激発生部と、搭乗者の脳波を計測する脳波計測部と、覚醒時に刺激発生部から刺激を与えたときに脳波計測部が計測した脳波と、睡眠時に刺激発生部から刺激を与えたときに脳波計測部が計測した脳波とから、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定し、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて搭乗者に与える刺激を選択する刺激効果予測部と、を有することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る車両制御装置によれば、刺激に対して覚醒時と睡眠時とで共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを関連付けることができる。これにより、覚醒時と睡眠時との間で刺激効果の変換を行うことができるため、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を変換することができる。そして、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成することができ、この作成した変換モデルを用いることで、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することができる。そこで、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて搭乗者に与える刺激を求めることで、搭乗者の睡眠深度を制御することができる。これにより、例えば、搭乗者の睡眠状態を浅い眠りの状態に維持することができるため、短期間で効率の良い仮眠を行わせることができ、覚醒後の反応低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、睡眠時の刺激効果を予測することができる。また、本発明によれば、睡眠深度の予測時期に影響されることなく、睡眠深度を高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る車両制御装置の概略構成を示した図である。
【図2】睡眠深度と睡眠状態の変化との関係を示した図である。
【図3】覚醒時における刺激の種類/強度と刺激効果との関係を示した図である。
【図4】睡眠時における刺激の種類/強度と刺激効果との関係を示した図である。
【図5】刺激を与えてから所定時間経過するまでの脳波を示した図である。
【図6】は、音刺激に対する脳波指標を示した図であり、(a)は、覚醒時に計測される脳波を示しており、(b)は、睡眠時に計測される脳波を示している。
【図7】刺激のパラメータを選定する手法を示す図である。
【図8】変換モデルの作成処理を示すフローチャートである。
【図9】刺激パラメータの選定処理を示すフローチャートである。
【図10】刺激と睡眠状態の変化の関係を示した図である。
【図11】刺激効果の補正を説明するための図である。
【図12】脳波指標の振幅と睡眠深度の変化量との関係を示した図である。
【図13】刺激発生処理を示すフローチャートである。
【図14】刺激に対する脳波指標を示した図である。
【図15】刺激の発生タイミングと睡眠深度との関係を示す図である。
【図16】脳波指標の出現有無と睡眠深度との関係を示した図である。
【図17】同じ刺激に対する順応状態を示す図である。
【図18】同じ強度で異なる種類の刺激を示した図である。
【図19】音刺激に対する脳波指標を示した図であり、(a)は、50dBの音声の刺激に対する脳波指標を示しており、(b)は、50dBの単音の刺激に対する脳波指標を示している。
【図20】同じ刺激効果で異なる強度の刺激を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係る刺激効果予測装置、刺激効果予測方法及び車両制御装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、ノンレム睡眠中での眠りの深さを制御する技術であり、本発明に係る刺激効果予測装置、睡眠深度予測装置、刺激効果予測方法及び車両制御装置を、仮眠する後席搭乗者の睡眠深度をノンレム睡眠における浅い眠りの状態(睡眠深度I〜II)に維持させる車両制御装置に適用したものである。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る車両制御装置の概略構成を示した図である。図1に示すように、本実施形態に係る車両制御装置1は、脳波計測装置2と、刺激発生装置3と、メモリ4と、ECU5と、により構成される。
【0027】
脳波計測装置2は、後席搭乗者の頭部に発生する僅かな電位差(数10μV程度)を計測して、後席搭乗者の脳波を計測する装置である。そして、脳波計測装置2は、脳波を計測すると、この脳波をECU5に送信する。
【0028】
刺激発生装置3は、ECU5の制御に基づいて刺激を発生する装置である。なお、本実施形態では、刺激発生装置3は、音の刺激を発生するものとして説明するが、電流、風、匂い、光など、後席搭乗者に刺激を与えることができれば、如何なる刺激を発生させてもよい。
【0029】
メモリ4は、各種情報を蓄積する記憶装置であり、ECU5の指示に基づいて、後述する変換モデルやデータベースなどを記憶するものである。
【0030】
ECU5は、脳波計測装置2、刺激発生装置3及びメモリ4と電気的に接続されており、刺激発生装置3から刺激を発生させるとともに、脳波計測装置2で計測した後席搭乗者の脳波を取得することで、刺激のパラメータを選定し、睡眠時の刺激効果を予測し、仮眠している後席搭乗者の睡眠深度を浅い眠りの状態に維持するものである。
【0031】
図2は、睡眠深度と睡眠状態の変化との関係を示した図である。図2において、W,I,II,III,IVは、国際基準で定められた睡眠深度を示しており、睡眠深度Wは起きている状態(覚醒状態)を示しており、睡眠深度I,IIは、浅い眠りを示しており、睡眠深度III,IVは、深い眠りを示している。図2に示すように、後席搭乗者が入眠すると睡眠深度(睡眠状態)が時々刻々変化する。このとき、仮眠などの短時間睡眠では、深い眠りに入り込むとスッキリ目覚めることができない。そこで、ECU5は、仮眠している後席搭乗者の睡眠状態が深い眠りに達すると、刺激発生装置3から刺激を発生させて、後席搭乗者が深い眠りに入り込まないようにする。
【0032】
図3は、覚醒時における刺激の種類/強度と刺激効果との関係を示した図であり、図4は、睡眠時における刺激の種類/強度と刺激効果との関係を示した図である。図3及び図4において、A,B,C,Dは、それぞれ種類や強度の異なる刺激を示している。図3及び図4に示すように、刺激の種類や刺激の強度に応じて刺激効果が変わり、睡眠時は、刺激の種類や刺激の強度に応じて睡眠状態が変化する。
【0033】
そして、図2に示すように、睡眠深度がIIIに到達した際に刺激を与えると、刺激の種類や強度によって、睡眠深度がIIに復帰したり覚醒したりする。このため、睡眠状態を浅い眠りに維持するためには、刺激の種類や強度に応じた睡眠時の刺激効果を予測する必要があり、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することが望まれる。
【0034】
そこで、ECU5は、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに脳波に現れる刺激効果の脳波指標を特定し、この特定した脳波指標に基づいて、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成する。
【0035】
ここで、変換モデルの作成について詳しく説明する。
【0036】
まず、図5を参照して、脳波に現れる刺激効果について説明する。図5は、刺激を与えてから所定時間経過するまでの脳波を示した図であり、横軸に、刺激を発生(提示)してからの時間(sec)を示し、縦軸に、脳波計測装置2が計測した脳波の出力(μV)を示す。なお、横軸の刺激を発生してからの時間は、通常、潜時と称される。図5に示すように、脳波は、脳波計測装置2により、人の頭部に発生する僅かな電位差を計測したものであり、自発的に発生するものと、刺激に対して誘発されるものがある。そして、後者の刺激に対して誘発される脳波が、刺激効果を示す脳波指標となる。このため、脳波指標の潜時や振幅を計測することで、刺激効果を評価することができる。
【0037】
脳波指標は、そのピーク(頂点)の極性と、刺激を与えてからピークが現れるまでの潜時との組合せで表される。例えば、N100は、潜時100msec付近で観測される陰性(Negative)方向の脳波指標を示し、P200は、潜時200msec付近で観測される陽性(Positive)方向の脳波指標を示す。なお、脳波をグラフで表す際は、一般的に、陰性(Negative)が上向き、陽性(Positive)が下向きとなっており、P成分は刺激に対する判断を示し、N成分は刺激に対する単純反応を示していると考えられている。
【0038】
次に、図6を参照して、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに脳波に現れる刺激効果の脳波指標について説明する。図6は、音刺激に対する脳波指標を示した図であり、図6(a)は、覚醒時に計測される脳波、図6(b)は、睡眠時に計測される脳波をそれぞれ示している。なお、図6(a)に示す脳波は、覚醒時にぼーっとした状態で音刺激を聞き流すときに計測することができ、図6(b)に示す脳波は、睡眠時に音刺激を知覚することで計測することができる。
【0039】
図6(a)及び図6(b)を比較すると、同一の音刺激を与えた場合に、覚醒時と睡眠時の双方にN350の脳波指標が現れることが分かる。このため、N350を、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標として特定し、この脳波指標の潜時や振幅などを計測することで、同一の刺激を与えた場合の、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果との関係を導き出すことができる。
【0040】
そこで、ECU5は、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れるN350の脳波指標から、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果との関係をデータベースとして構築し、メモリ4に記憶する。
【0041】
そして、ECU5は、構築したデータベースを参照して、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成する。なお、変換モデルは、ニューラルネット、GA−Fuzzy、マハラノビス・タグチ・システム、閾値処理などを利用することで、構築したデータベースから同定することができる。
【0042】
次に、刺激パラメータの選定について詳しく説明する。
【0043】
図7は、刺激のパラメータを選定する手法を示す図である。図7に示すように、ECU5は、まず、後席搭乗者の覚醒時に、様々なパラメータの刺激に対する刺激効果を計測する。刺激のパラメータは、刺激の種類や刺激の強度などを特定するものであり、音刺激の場合は、音声、単音、機械音、音楽などが刺激の種類に関するパラメータとなり、音量、音圧、周波数などが刺激の強度に関するパラメータとなる。
【0044】
次に、ECU5は、変換モデルを用いて、計測した覚醒時の刺激効果を睡眠時の刺激効果に変換することで、睡眠時に各パラメータの刺激を与えたときの刺激効果を予測する。
【0045】
次に、ECU5は、仮眠している後席搭乗者の睡眠状態が浅い眠りの状態で維持されるように、睡眠時の刺激効果と睡眠状態の変化の関係から、所望の刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定する。刺激効果に対する睡眠状態の変化は、“効果なし”、“維持”、“復帰”、“覚醒”の4種類があり、“効果なし”は、刺激を与えても刺激効果が無いことを意味し、“維持”は、刺激を与えても睡眠深度が変わらないことを意味し、“復帰”は、刺激を与えると睡眠深度が覚醒方向に変化することを意味し、“覚醒”は、刺激を与えると覚醒することを意味する。このため、例えば、睡眠深度がIIの場合は、睡眠状態の変化が“維持”となる刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定し、睡眠深度がIIIに到達した場合は、睡眠状態の変化が“復帰”となる刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定する。なお、睡眠時の刺激効果と睡眠状態の変化の関係は、予め、実験などによりデータベース化しておく。
【0046】
そして、ECU5は、選定されたパラメータの刺激を刺激発生装置3から発生させることで、仮眠している後席搭乗者が深い眠りに入り込まないように、後席搭乗者の睡眠状態を浅い眠りの状態に維持する。
【0047】
次に、本実施形態に係る車両制御装置1の処理動作について説明する。
【0048】
まず、図8を参照して、変換モデルの作成処理を説明する。図8は、変換モデルの作成処理を示すフローチャートである。
【0049】
図8に示すように、まず、ECU5は、刺激発生装置3から音刺激を発生させ、脳波計測装置2から後席搭乗者の脳波出力を取得することで、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに脳波に現れる刺激効果の脳波指標を特定する(ステップS1)。なお、ステップS1では、N350の脳波指標を、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに脳波に現れる刺激効果の脳波指標として特定する。
【0050】
次に、ECU5は、後席搭乗者の覚醒時に、刺激発生装置3に音刺激を発生させて、脳波計測装置2から計測した後席搭乗者の脳波出力を取得する。そして、取得した脳波出力から脳波指標を抽出し、この抽出した脳波指標の潜時及び振幅を検証することで、覚醒時の刺激効果を計測する(ステップS2)。
【0051】
次に、ECU5は、後席搭乗者の睡眠時に、刺激発生装置3にステップS2と同じ音刺激を発生させて、脳波計測装置2から計測した後席搭乗者の脳波出力を取得する。そして、取得した脳波出力から脳波指標を抽出し、この抽出した脳波指標の潜時及び振幅を検証することで、睡眠時の刺激効果を計測する(ステップS3)。
【0052】
なお、ECU5は、ステップS2で計測した覚醒時の刺激効果とステップS3で計測した睡眠時に刺激効果とで構成されるデータベースを構築し、このデータベースをメモリ4に記憶させる。
【0053】
そして、ECU5は、構築したデータベースを参照して、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成し、変換モデルの作成処理を終了する(ステップS4)。なお、変換モデルの作成は、上述したように、ニューラルネット、GA−Fuzzy、マハラノビス・タグチ・システム、閾値処理などを利用して、構築したデータベースから同定することにより行う。
【0054】
次に、図9を参照して、刺激パラメータの選定処理について説明する。図9は、刺激パラメータの選定処理を示すフローチャートである。
【0055】
図9に示すように、まず、ECU5は、後席搭乗者の覚醒時に、刺激発生装置3から様々なパラメータの刺激を発生させる(ステップS6)。なお、刺激のパラメータは、上述したように、音声、単音、機械音、音楽などの刺激の種類に関するパラメータと、音量、音圧、周波数などの刺激の強度に関するパラメータとがある。そこで、ECU5は、刺激発生装置3から、音声、単音、機械音、音楽などの種類の音刺激を、音量、音圧、周波数などの刺激強度を変えて発生させる。
【0056】
次に、ECU5は、脳波計測装置2から計測した後席搭乗者の脳波出力を取得し、この脳波に現れた脳波指標の潜時及び振幅を検証することで、ステップS6で発生した刺激に対する刺激効果を評価する(ステップS7)。
【0057】
ここで、図10を参照して、覚醒時の刺激効果を評価する意義について説明する。図10は、刺激と睡眠状態の変化の関係を示した図である。図10に示すように、睡眠時は、刺激を与えると睡眠深度が変化し、また、時間の経過によっても睡眠深度が時々刻々変化する。このように、睡眠時は、刺激を発生させるたびに睡眠状態が変わるため、刺激効果を適切に評価するのが困難となる。一方、覚醒時は、睡眠状態が略一定であるため、刺激効果を適切に評価することが可能となる。そこで、ステップS6及びステップS7において、覚醒時に、様々なパラメータの刺激に対する刺激効果を評価することで、睡眠深度の変化に影響されることなく、刺激そのものの効果を評価することが可能となる。
【0058】
更に、ステップS7では、脳波計測装置2の計測位置や後席搭乗者の体調などにより同一人においても脳波の出力が変わることから、特定の脳波の振幅に基づいて刺激効果を補正し、覚醒時の刺激効果を評価する。
【0059】
図11は、刺激効果の補正を説明するための図である。図11に示すように、通常、覚醒時の閉眼状態などで発生するα波などの特定の脳波は、振幅が大きく変化しない。そこで、このα波の振幅に対する脳波指標の振幅の相対変化量に基づいて刺激効果を補正して、この補正した刺激効果に基づいて、覚醒時の刺激効果を評価する。具体的に説明すると、図11(a)に示すように、ある時点におけるα波の振幅をA、脳波指標の振幅をBとし、図11(b)に示すように、別の時点におけるα波の振幅をA’、脳波指標の振幅をB’とすると、覚醒時の刺激効果を、B/A及びB’/A’で評価する。これにより、脳波の計測方法や体調などによる個人内差を吸収することができる。
【0060】
また、ステップS7では、脳波の計測方法や体調などによる個人内差を吸収しても、人によって脳波の出力が変わることから、脳波の振幅を個人によらない絶対基準を用いて標準化し、覚醒時の刺激効果を評価する。
【0061】
図12は、脳波指標の振幅と睡眠深度の変化量との関係を示した図である。図12に示すように、睡眠深度は、国際基準により個人によらない評価方法となっている。そこで、睡眠深度の変化量を基準として脳波指標の振幅を補正する。これにより、個人間差を吸収することができる。
【0062】
次に、ECU5は、変換モデルを用いて、ステップS7で評価した覚醒時の刺激効果を睡眠時の刺激効果に変換し、睡眠時に各パラメータの刺激を与えたときの刺激効果を予測する(ステップS8)。
【0063】
そして、ECU5は、仮眠している後席搭乗者の睡眠状態が浅い眠りの状態で維持されるように、睡眠時の刺激効果と睡眠状態の変化の関係から、所望の刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定し、刺激パラメータの選定処理を終了する(ステップS9)。なお、ステップS9で選定する刺激のパラメータは、刺激発生装置3で発生させる刺激の初期値となる。
【0064】
次に、図13を参照して、刺激発生処理について説明する。図13は、刺激発生処理を示すフローチャートである。
【0065】
図13に示すように、車両制御装置1では、まず、仮眠している後席搭乗者の睡眠深度を予測し、睡眠深度がIIIに到達したか否かを判定する(ステップS11)。
【0066】
ここで、図14〜図16を参照して、睡眠深度の予測方法について説明する。図14は、刺激に対する脳波指標を示した図であり、図15は、刺激の発生タイミングと睡眠深度との関係を示す図であり、図16は、脳波指標の出現有無と睡眠深度との関係を示した図である。
【0067】
図14に示すように、刺激発生装置3で刺激を発生させて後席搭乗者に刺激を与えると、脳波計測装置2で計測した脳波出力から、受動性知覚を反映するN100の脳波指標と、受動性認知を反映するN350の脳波指標とが誘発される。ところが、図15の刺激Bのように浅い眠り状態のときに刺激を与えると、N100の脳波指標とN350の脳波指標とが誘発されるのに対し、図15の刺激Aのように深い眠り状態のときに刺激を与えると、N350の脳波指標しか誘発されず、N100の脳波指標が誘発されない。
【0068】
そこで、図16に示すように、ECU5は、後席搭乗者の睡眠時に刺激発生装置3から刺激を発生させ、脳波計測装置2で計測した脳波からN100の脳波指標とN350の脳波指標とが観測された場合は、浅い眠りであると判定し、脳波計測装置2で計測した脳波からN350の脳波指標が観測されたもののN100の脳波指標が観測されなかった場合は、浅い眠りであると判定する。
【0069】
そして、ECU5は、睡眠深度がIIIに達したと判定すると(ステップS11:YES)、刺激発生装置3から、ステップS9で選定したパラメータの刺激を発生させる(ステップS12)。
【0070】
次に、ECU5は、後席搭乗者の睡眠深度を予測し、睡眠深度が覚醒方向に1段階復帰したか否かを判定する(ステップS13)。なお、ステップS13における睡眠深度の予測も、ステップS12で説明した睡眠深度の予測と同様に、後席搭乗者に刺激を与えたときに現れるN100及びN350の脳波指標の出現有無に基づいて判定する。
【0071】
そして、ECU5は、睡眠深度が変化していないと判定すると(ステップS13:NO)、刺激の強度が強くなるように刺激のパラメータを変更し(ステップS14)、ステップS12に戻って、変更したパラメータの刺激を発生する。
【0072】
一方、ECU5は、睡眠深度が1段階復帰したと判定すると(ステップS13:YES)、後席搭乗者が覚醒したか否かを判定する(ステップS15)。
【0073】
そして、ECU5は、後席搭乗者が覚醒したと判定すると(ステップS15:YES)、刺激発生処理を終了する。
【0074】
一方、ECU5は、後席搭乗者が覚醒していないと判定すると(ステップS15:NO)、同じパラメータの刺激を所定回数発生したか否かを判定する(ステップS16)。
【0075】
そして、ECU5は、同じパラメータの刺激を所定回数未満しか発生していないと判定すると(ステップS16:NO)、ステップS11に戻って上述した処理を繰り返す。
【0076】
一方、ECU5は、同じパラメータの刺激を所定回数発生したと判定すると(ステップS16:YES)、刺激のパラメータを変更する(ステップS17)。
【0077】
ここで、図17を参照して、刺激のパラメータを変更する意義について説明する。図17は、同じ刺激に対する順応状態を示す図である。図17に示すように、所定のパラメータの刺激(図17の刺激A)を発生すると、初回は高い刺激効果が現れるが、発生回数が増えるに従い、後席搭乗者がこの刺激に順応していき、その刺激効果が低下してくる。そこで、同じパラメータの刺激を所定回数発生すると、異なるパラメータの刺激(図17の刺激D)を発生することで、刺激効果の低下を抑制して、適切な刺激効果を与えるようにする。なお、変更後のパラメータの刺激に対する刺激効果が、変更前のパラメータの刺激に対する刺激効果と同程度の刺激となるように、刺激のパラメータを変更する。
【0078】
そして、ECU5は、ステップS17において刺激のパラメータを変更すると、ステップS11に戻り、この変更したパラメータの刺激を発生する。
【0079】
このように、第1の実施形態に係る車両制御装置1によれば、刺激に対して覚醒時と睡眠時とで共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを関連付けることができる。これにより、覚醒時と睡眠時との間で刺激効果の変換を行うことができるため、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を変換することができる。
【0080】
そして、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標を特定することで、覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを作成することができ、この作成した変換モデルを用いることで、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測することができる。そこで、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて後席搭乗者に与える刺激を求めることで、後席搭乗者の睡眠深度を制御することができ、後席搭乗者の睡眠状態を浅い眠りの状態に維持することができる。
【0081】
また、特定の脳波の振幅に対する脳波指標の振幅の相対変化量に基づいて刺激効果を補正することで、脳波計測部の計測誤差や後席搭乗者の体調などの影響を排除することができ、睡眠時の刺激効果を適切に予測することができる。
【0082】
そして、覚醒時の刺激効果に基づいて睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することで、後席搭乗者に与える刺激を選択する際に、後席搭乗者における睡眠状態の変化の影響を排除することができる。
【0083】
更に、同一のパラメータの刺激を所定回数発生すると、刺激のパラメータを変更することで、慣れによる刺激効果の低下を防止することができる。
【0084】
そして、後席搭乗者に与えた刺激に対する脳波の反応に基づいて睡眠深度を予測することで、睡眠深度の予測時期に影響されることなく、睡眠深度の予測精度を向上させることができる。
【0085】
[第2実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る車両制御装置は、刺激パラメータの選定処理において、異なるパラメータの刺激に対する刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定するものであり、特に、刺激強度が同じ刺激のうち刺激効果が高い刺激のパラメータを選定するものである。このため、以下では、刺激パラメータの選定処理についてのみ説明する。
【0086】
図9に示すように、刺激パラメータの選定処理では、ECU5は、まず、後席搭乗者の覚醒時に、刺激発生装置3から、様々なパラメータの刺激を発生させる(ステップS6)。このとき、図18に示すように、同じ刺激強度で異なる種類の刺激を発生させる。
【0087】
次に、ECU5は、脳波計測装置2から計測した後席搭乗者の脳波出力を取得し、この脳波に現れた脳波指標の潜時及び振幅を検証することで、ステップS6で発生した刺激に対する刺激効果を評価する(ステップS7)。
【0088】
このとき、同じ刺激強度の刺激のうち、最も高い刺激効果の現れる刺激のパラメータを抽出する。
【0089】
図19は、音刺激に対する脳波指標を示した図であり、図19(a)は、50dBの音声の刺激に対する脳波指標、図19(b)は、50dBの単音の刺激に対する脳波指標をそれぞれ示している。また、図19は、同じ強度で異なる種類の刺激を示した図である。図19(a)及び図19(b)に示すように、50dBの同じ強度の刺激を与えた場合の脳波指標を観察すると、単音の刺激に対する刺激効果よりも音声の刺激に対する刺激効果の方が高くなることが分かる。
【0090】
そこで、ECU5は、ステップS7において、同じ刺激強度の複数の刺激に対する刺激効果を比較し、最も高い刺激効果の現れる刺激のパラメータを抽出する。
【0091】
次に、ECU5は、変換モデルを用いて、ステップS7で評価した覚醒時の刺激効果を睡眠時の刺激効果に変換し、睡眠時に各パラメータの刺激を与えたときの刺激効果を予測する(ステップS8)。なお、ステップS8では、ステップS7で抽出した刺激のパラメータを用いる。
【0092】
そして、ECU5は、仮眠している後席搭乗者の睡眠状態が浅い眠りの状態で維持されるように、睡眠時の刺激効果と睡眠状態の変化の関係から、所望の刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定し、刺激パラメータの選定処理を終了する(ステップS9)。
【0093】
このように、第2の実施形態に係る車両制御装置によれば、同じ刺激強度の刺激が複数ある場合、そのうち最も高い刺激効果の現れる刺激のパラメータを採用するため、効率的に刺激を発生することができる。
【0094】
[第3実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る車両制御装置は、刺激パラメータの選定処理において、異なるパラメータの刺激に対する刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定するものであり、特に、刺激効果が同じ刺激のうち刺激強度の低い刺激のパラメータを選定するものである。このため、以下では、刺激パラメータの選定処理についてのみ説明する。
【0095】
図9に示すように、刺激パラメータの選定処理では、ECU5は、まず、後席搭乗者の覚醒時に、刺激発生装置3から、様々なパラメータの刺激を発生させる(ステップS6)。このとき、図20に示すように、異なる刺激強度で同じ刺激効果が得られる刺激を発生させる。
【0096】
次に、ECU5は、脳波計測装置2から計測した後席搭乗者の脳波出力を取得し、この脳波に現れた脳波指標の潜時及び振幅を検証することで、ステップS6で発生した刺激に対する刺激効果を評価する(ステップS7)。
【0097】
このとき、同じ刺激効果が得られる刺激のうち、最も刺激強度が低い刺激のパラメータを抽出する。すなわち、ECU5は、ステップS7において、同じ刺激効果が得られる複数の刺激の刺激強度を比較し、最も刺激強度の低い刺激のパラメータを抽出する。
【0098】
次に、ECU5は、変換モデルを用いて、ステップS7で評価した覚醒時の刺激効果を睡眠時の刺激効果に変換し、睡眠時に各パラメータの刺激を与えたときの刺激効果を予測する(ステップS8)。なお、ステップS8では、ステップS7で抽出した刺激のパラメータを用いる。
【0099】
そして、ECU5は、仮眠している後席搭乗者の睡眠状態が浅い眠りの状態で維持されるように、睡眠時の刺激効果と睡眠状態の変化の関係から、所望の刺激効果が現れる刺激のパラメータを選定し、刺激パラメータの選定処理を終了する(ステップS9)。
【0100】
このように、第3の実施形態に係る車両制御装置によれば、同じ刺激効果が得られる刺激が複数ある場合、そのうち最も刺激強度の低い刺激を選定することで、刺激効果を低下させることなく、仮眠をしていない運転者などに与える煩わしさを低減してより不快感の少ない刺激を選択することができる。
【0101】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、後席搭乗者の睡眠状態を制御するものとして説明したが、睡眠状態の制御対象者は、車両に搭乗する者であれば誰であってもよく、仮眠する運転者や、助手席搭乗者などであってもよい。
また、上記実施形態では、本発明に係る刺激効果予測装置を車両制御装置に搭載するものとして説明したが、例えば、睡眠室における睡眠用や医療施設における医療用などの様々な分野において、変換モデルを作成して睡眠時の刺激効果を予測し、被験者を浅い眠りの状態に維持させるものとしてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、車両制御装置1において変換モデルを作成するものとして説明したが、予め、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる脳波指標を計測して変換モデルを作成しておき、車両制御装置1では、この作成された変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測するものとしてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、刺激に対する脳波指標の観測有無に基づいて睡眠状態を判断するものとして説明したが、従来のように、脳波に含まれるδ波の含有率に基づいて判断してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1…車両制御装置(刺激効果予測装置、睡眠深度予測装置)、2…脳波計測装置、3…刺激発生装置、4…メモリ、5…ECU(刺激効果予測部、睡眠深度予測部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に刺激を与える刺激発生部と、
前記被験者の脳波を計測する脳波計測部と、
覚醒時に前記刺激発生部から刺激を与えたときに前記脳波計測部が計測した脳波と、睡眠時に前記刺激発生部から刺激を与えたときに前記脳波計測部が計測した脳波とから、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定する刺激効果予測部と、
を有することを特徴とする刺激効果予測装置。
【請求項2】
前記刺激効果予測部は、
覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる前記脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を選択することを特徴とする請求項1に記載の刺激効果予測装置。
【請求項3】
前記刺激効果予測部は、
特定の脳波の振幅に基づいて、前記刺激効果を補正することを特徴とする請求項2に記載の刺激効果予測装置。
【請求項4】
前記刺激効果予測部は、
覚醒時の刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することを特徴とする請求項2又は3に記載の刺激効果予測装置。
【請求項5】
前記刺激効果予測部は、
異なるパラメータの刺激に対する刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを選定することを特徴とする請求項4に記載の刺激効果予測装置。
【請求項6】
前記刺激効果予測部は、
特定のパラメータの刺激を与え続けたときの刺激効果に基づいて、睡眠時に与える刺激のパラメータを変更することを特徴とする請求項4に記載の刺激効果予測装置。
【請求項7】
前記刺激効果予測部は、
被験者に与えた刺激に対する脳波の計測結果に基づいて、被験者の睡眠深度を予測することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の刺激効果予測装置。
【請求項8】
被験者に刺激を与える刺激発生部と、
前記被験者の脳波を計測する脳波計測部と、
被験者に与えた刺激に対する脳波の反応に基づいて、被験者の睡眠深度を予測する睡眠深度予測部と、
を有することを特徴とする睡眠深度予測装置。
【請求項9】
覚醒時に刺激を発生させて被験者の脳波を取得するステップと、
睡眠時に刺激を発生させて前記被験者の脳波を取得するステップと、
刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定するステップと、
を有することを特徴とする刺激効果予測方法。
【請求項10】
覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる前記脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて被験者に与える刺激を選択することを特徴とする請求項9に記載の刺激効果予測方法。
【請求項11】
搭乗者に刺激を与える刺激発生部と、
前記搭乗者の脳波を計測する脳波計測部と、
覚醒時に前記刺激発生部から刺激を与えたときに前記脳波計測部が計測した脳波と、睡眠時に前記刺激発生部から刺激を与えたときに前記脳波計測部が計測した脳波とから、刺激に対して覚醒時及び睡眠時に共通して現れる刺激効果の脳波指標を特定し、覚醒時と睡眠時とで同一の刺激を与えたときに現れる前記脳波指標に基づいて作成された覚醒時の刺激効果と睡眠時の刺激効果とを変換する変換モデルを用いて、覚醒時の刺激効果から睡眠時の刺激効果を予測し、刺激効果と睡眠深度の変化との関係に基づいて搭乗者に与える刺激を選択する刺激効果予測部と、
を有することを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−92536(P2011−92536A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250782(P2009−250782)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】