説明

刺繍縫い可能なミシン

【課題】円滑なトレース動作を得ることができる刺繍縫い可能なミシンを提供する。
【解決手段】トレース線21は刺繍模様20の外形線(輪郭線)よりも大きな刺繍模様20を囲む4角形状であり、境界線判定装置3はトレース線21が境界線11内にあるか否かを判定する。境界線判定装置3においてトレース線21の少なくとも一部が境界線11の外側にあると判断された場合、許容範囲設定装置4により許容範囲線12が設定され、許容範囲判定装置5により刺繍模様20が許容範囲線12内に収まるか否か判定され、収まる場合はトレース可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トレース装置を備えた刺繍縫い可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍縫い可能なミシンにおいては、予め用意された模様や或いは新たに作成した文字や形状などの刺繍模様は刺繍枠の大きさの範囲内の大きさである必要があり、通常のミシンでは予め刺繍模様の大きさが刺繍可能であるかを判断している。
またこのような判断に加えて、トレース機能と呼ばれる機能を備えたミシンも普及している。トレース機能は、刺繍縫いを行う前に、刺繍模様に合わせて刺繍枠を動かし(トレース)、使用者が予め刺繍位置や大きさを概略把握できるようにした機能である。また、針と刺繍枠が衝突しないことを実際に確認できるという利点もある。
このトレースを行うトレース線は、刺繍模様の外形線(輪郭線)とするのが理想的であるが、外形線は曲がりが多いため方向転換が多くなる上、曲線も多く全体長も長くなるためトレースに要する時間が長くなる問題がある。また、トレース線を得るためのデータ処理時間やデータ量も増える欠点もある。
そのため、刺繍模様の外形線よりも大きな4角形などの単純なトレース線を設定し、トレースを行うのが普通である。
【0003】
【特許文献1】特公平5−61954号公報
【特許文献2】特公平3−67436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した4角形などの単純なトレース線を使用した場合、刺繍模様自体は刺繍枠範囲に収まっているもののトレース線が刺繍範囲に収まらない場合が生ずる。この場合には、トレース中に針機構と刺繍枠が衝突してしまうため、トレース不能の処理を行っている。また、トレース不能の場合、安全のために縫製作業自体を行えないように制御する構成のものも多く、実際には縫製可能な刺繍模様でありながら、トレース線が範囲外になってしまうために縫製不可能になる問題がある。
本発明は上記従来技術の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の刺繍縫い可能なミシンは、刺繍縫いすべき形状の外形線よりも大きなトレース線に沿って刺繍枠と針とを相対的に移動させるトレース装置を備えた刺繍縫い可能なミシンにおいて、前記トレース線が刺繍可能範囲に基づいて予め決められた境界線内にあるか否か判定する境界線判定装置と、前記境界線内に所定の許容範囲を設定する装置と、前記刺繍縫いすべき形状が前記設定された所定の許容範囲内に収まるか否か判定する許容範囲判定装置と、を備え、前記境界線判定装置により、前記トレース線が前記境界線内にないと判定された時、前記許容範囲判定装置により前記刺繍縫いすべき形状が前記設定された所定の許容範囲内に収まるか否か判定し、収まると判定された時、トレースを実行する、ことを特徴とする。
上記構成により、トレース線が境界線外に突出したときには、境界線の内側に設定された許容範囲内に刺繍縫いすべき形状が収まるか否かの判定がなされ、収まると判定された場合、刺繍縫いすべき形状が確実に境界線の内側にあることが確認できる、この確認に後にトレースの実行を行えば、より安全なトレースが可能になる。そのため、4角形などの単純な形状のトレース線を用いても安全で効果的なトレースを行える。
前記許容範囲を設定する装置は、前記境界線判定装置により、前記トレース線が前記境界線内にないと判定された時に、許容範囲を設定する、ように構成することが可能である。また前記許容範囲を設定する装置は、前記境界線と刺繍縫いすべき形状の座標に基づいて許容範囲を設定する、ように構成しても良いし、或いは境界線から予め決められた所定の位置に許容範囲を設定するように構成することも可能である。
なお前記トレース線は、刺繍すべき形状よりも大きな方形などが望ましい。また前記刺繍すべき形状に基づいて前記トレース線を生成する装置を、更に備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の刺繍縫い可能なミシンによれば、トレース線が境界線外になると、境界線の内側に設定された許容範囲内に刺繍縫いすべき形状が収まるか否かの判定がなされ、刺繍縫いすべき形状が確実に境界線の内側にあることが確認できる。この確認に後にトレースの実行が行われるから、効率的でかつ安全なトレースが可能になる。そのため、4角形などの単純な形状のトレース線であっても境界線外になっても、安全の確認を行った上でトレースが実行されるため、模様輪郭に沿うような複雑なトレース線は不要となる。また用意すべきトレース線の種類は少なくて済みトレース線の選択も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、刺繍装置を備えたミシンであり、制御装置1及び制御プログラム記憶装置40に格納されたプログラム或いは操作ボタン50からの指令により種々の制御を行っている。
制御装置1はインターフェース41を介して駆動ドライバ60を制御し、Xモータ61とYモータ62を駆動して刺繍枠10をXY方向に移動させると同時にモータドライバ65を制御してモータ66を介して針機構6を駆動し、刺繍縫いを実行するように構成されている。
63はXY位置センサ、64は上軸センサ、67は針位置センサ、51はLCDコントローラ、52はLCDである。
【0008】
制御装置1には更にトレース線生成装置2と境界線判定装置3及び許容範囲設定装置4と許容範囲判定装置5が接続している。
トレース線生成装置2は、図2に示すように、刺繍模様20の外形線(輪郭線)よりも大きなトレース線21を生成する。この実施形態では刺繍模様20を囲む4角形状になっている。トレース線生成装置2に代えて、予めトレース線21のデータを用意しておくことも可能である。
【0009】
境界線判定装置3はトレース線21が境界線11内にあるか否かを判定する。図2に示すように境界線11は刺繍枠10に基づいて刺繍枠10の内側に設定されたものであり、この境界線11の外にトレース線21の一部或いは全部が延出した場合、トレース動作の際に針機構6と刺繍枠10が衝突する可能性があり、トレース動作不能と判断される。刺繍枠10は刺繍可能範囲であり、境界線11と同心である。
【0010】
許容範囲設定装置4は、許容範囲を設定し、該範囲を示す許容範囲線12を設定する。許容範囲線12は境界線11の内側に設定される。
この設定は、境界線判定装置3においてトレース線21の少なくとも一部が境界線11の外側にあると判断された場合に行われる。
【0011】
許容範囲判定装置5は、許容範囲設定装置4により設定された許容範囲線12に刺繍すべき模様が収まるか否か、即ち許容範囲線12の外側(境界線11側)に刺繍すべき模様の一部又は全部がはみ出さないか否かの判定を行う。この判定により刺繍すべき模様が許容範囲線12内にあれば、刺繍すべき模様は確実に境界線11の内側にあることが確認できるから、安全にトレース動作を実行することが可能になる。
【0012】
許容範囲設定装置4による許容範囲線12の設定動作を説明する。
図2の(A)(B)に示すように、4角形のトレース線21は4つの点abcdを有し、図示するようにb点が境界線11の外側にはみ出しているとする。境界線判定装置3が、b点は境界線11の外側にあると判定すると、許容範囲設定装置4は、境界線11の内側に許容範囲線12を設定する。
許容範囲判定装置5は、この許容範囲線12の内側に刺繍模様20が収まるか否か判定し、収まると判定されたら、安全にトレース可能であることの確認がとれたと判断して、トレースを可能とする。
【0013】
許容範囲設定装置4において許容範囲線12を設定する方法は種々あるが、その一例を説明する。
図3に示すように境界線11からはみ出したトレース線21のb点とb点に直近の刺繍模様20の点Xとを直線Lで結び、Lと境界線11の交点Yとb点との距離Dとする。そして、交点Yから境界線11の内側方向に距離Dの点Zを設定し、この点Zを通る許容範囲線12を設定する。許容範囲線12は境界線11と同心の円である。
【0014】
図4に示す例では、境界線11からはみ出したトレース線21のb点とb点に直近の刺繍模様20の点Xとを直線Lで結び、Lと境界線11の交点Yを求め、交点Y1とb点との距離をDとする。そして、b点に直近の刺繍模様20の点Xから境界線11に垂線を引いて交点Y2を求め、この交点Y2から境界線11の内側方向に距離Dの点Zを設定し、点Zを通る境界線11と同心の円を設定し、これを許容範囲線12としている。
【0015】
図5に示す例は、境界線11からはみ出したトレース線21のb点と刺繍枠10又は境界線の中心Oとを結ぶ直線L1が境界線11と交わる交点Y1を求め、b点とY1との距離をDとする。そして、中心Oとb点に直近の刺繍模様20の点Xとを結ぶ直線L2と境界線11との交点Y2を求め、この交点Y2から境界線11の内側方向に距離Dの点Zを設定し、点Zを通る中心Oを中心とする円を設定し、これを許容範囲線12としている。
【0016】
図6に示す例では、トレース線21のb点が境界線11からはみ出すと、境界線11から予め決められた距離Dの位置に境界線11と同心の円を設定し、これを許容範囲線12としている。
【0017】
図7に刺繍枠が4角形で、刺繍枠10及び境界線11が4角形になる場合を示す。同様に4角形のトレース線21は4つの点abcdを有し、図示するようにb点が境界線11の外側にはみだしており、境界線判定装置3が、b点は境界線11の外側にあると判定すると、許容範囲設定装置4は、境界線11の内側に許容範囲線12を設定する。そして同様に、許容範囲判定装置5は、刺繍模様20が許容範囲線12の内側にあるか否か判定し、内側にあると判定されたら、刺繍模様20は確実に境界線11の内側にあることが確認できるから、安全にトレース動作を実行することが可能になる。
【0018】
図8に許容範囲線12の設定方法を示す。この例は前記した図3の方法と同じであり、境界線11からはみ出したトレース線21のb点とb点に直近の刺繍模様20の点Xとを直線Lで結び、Lと境界線11の交点Yとb点との距離をDとする。そして交点Yから境界線11の内側方向に距離Dの点Zを設定し、この点Zを通る許容範囲線12を設定する。許容範囲線12は境界線11の一辺と平行な線である。
【0019】
図9は、図6に示す方法と同じ方法であり、トレース線21のb点が境界線11からはみ出すと、境界線11の内側に予め決められた距離Dの位置に境界線11と平行な枠を設定し、これを許容範囲線12としている。
【0020】
図10により動作を説明する。
制御装置1は、刺繍枠10の枠情報を取得し(ステップS1)、該刺繍枠10に対応する境界線11情報を読み込む(ステップS2)。そして刺繍すべき模様のデータを取得し(ステップS3)、該模様のステッチ座標が境界線11内に収まるか否か確認する(ステップS4)。
【0021】
そして、トレース線生成装置2で生成された又他から読みとったトレース線21の座標を取得し(ステップS5)、境界線判定装置3において該トレース線21の各座標が境界線11に収まるか否かを判定する(ステップS6)。トレース線21が境界線11に収まる場合トレースを実行する(ステップS11)。
トレース線21が境界線11に収まらない場合は、許容範囲設定装置4により許容範囲線12を設定する(ステップS7)。そして許容範囲判定装置5により刺繍模様20の座標の中、はみ出したトレース点に直近の座標をチェックし、この座標が許容範囲線12の内側にあるか否か判定する(ステップS8)。内側にない場合は、動作を終了する。許容範囲線12内に収まると判定された場合には、他のステッチ座標についても同じ判定を実行し、刺繍模様20の全てのステッチ座標が許容範囲線12の内側に収まると判定されたら(ステップS9、S10)、トレースを実行する(ステップS11)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図4】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図6】本発明の他の実施形態の動作を示す説明図。
【図7】本発明の他の実施形態の動作を示す説明図。
【図8】本発明の他の実施形態の動作を示す説明図。
【図9】本発明の他の実施形態の動作を示す説明図。
【図10】本発明の一実施形態の動作を示すフローチャート図。
【符号の説明】
【0023】
1:制御装置、2:トレース線生成装置、3:境界線判定装置、4:許容範囲設定装置、5:許容範囲判定装置、6:針機構、10:刺繍枠、11:境界線、12:許容範囲線、20:刺繍模様、21:トレース線、40:制御プログラム記憶装置、41:インターフェース、50:操作ボタン、51:LCDコントローラ、52:LCD、53:模様記憶装置、60:駆動ドライバ、61:Xモータ、62:Yモータ、63:XY位置センサ、64:上軸センサ、65:モータドライバ、66:モータ、67:針位置センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫いすべき形状の外形線よりも大きなトレース線に沿って刺繍枠と針とを相対的に移動させるトレース装置を備えた刺繍縫い可能なミシンにおいて、
前記トレース線が刺繍可能範囲に基づいて予め決められた境界線内にあるか否か判定する境界線判定装置と、
前記境界線内に所定の許容範囲を設定する装置と、
前記刺繍縫いすべき形状が前記設定された所定の許容範囲内に収まるか否か判定する許容範囲判定装置と、を備え、
前記境界線判定装置により、前記トレース線が前記境界線内にないと判定された時、前記許容範囲判定装置により前記刺繍縫いすべき形状が前記設定された所定の許容範囲内に収まるか否か判定し、収まると判定された時、トレースを実行する、
ことを特徴とする刺繍縫い可能なミシン。
【請求項2】
前記許容範囲を設定する装置が、前記境界線判定装置により、前記トレース線が前記境界線内にないと判定された時に、許容範囲を設定する、
請求項1の刺繍縫い可能なミシン。
【請求項3】
前記許容範囲を設定する装置が、前記境界線と刺繍縫いすべき形状の座標に基づいて許容範囲を設定する、
請求項1の刺繍縫い可能なミシン。
【請求項4】
前記許容範囲を設定する装置が、前記境界線から予め決められた所定の位置に許容範囲を設定する、
請求項1の刺繍縫い可能なミシン。
【請求項5】
前記トレース線は、刺繍すべき形状よりも大きな方形を形成する、
請求項1の刺繍縫い可能なミシン。
【請求項6】
前記刺繍すべき形状に基づいて前記トレース線を生成する装置を、更に備えた請求項1の刺繍縫い可能なミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−201537(P2009−201537A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43790(P2008−43790)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】