説明

加工データ生成システム、ソルバプログラム

【課題】加工工程決定、ツーリング決定、切削条件決定の各機能を有機的に結合し、CADデータを入力として穴加工のNCデータを一貫生成する。
【解決手段】加工データ生成システムは、加工データ生成手段21を中核とし、加工工程決定手段22、ツーリング決定手段23、切削条件決定手段24、統合データベース25等から構成される。加工データ生成手段21は、製品形状の中から個々の穴の形状を抽出する。加工工程決定手段22は、統合データベース25を参照して要求面粗度や要求精度を満足する個々の穴の加工工程を決定する。ツーリング決定手段23は、加工シミュレーションを行い、個々の穴加工の最適ツーリング形態を決定する。そして、加工データ生成手段21は、アプローチ経路とリトラクト経路を順次決定し、個々の穴加工の部分NCデータに切削条件決定手段24によって決定される最適切削条件を付与し、統合NCデータを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工における穴加工の加工データを作成する加工データ生成システム等に関するものである。特に、本発明は、金型や工作機械部品などの単品加工が主体の部品・製品に関する穴加工の加工データ作成作業の効率化・自動化を実現する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、加工データとしてのNC(Numerical Control)データを作成する作業では、加工工程及び各工程の使用工具、ツーリング、切削条件などを順次決定し、CAM(Computer Aided Manufacturing)システムではこれらの情報を受けて加工に必要な工具の移動経路(NCパス)を計算して、NCデータを作成している。
【0003】
ここで、従来技術では、穴加工に対する加工工程の決定は、主に次の2つの手法が取られている。
(1)CAMシステムを利用し、人が図面を見ながら対話処理にて個々の穴の加工工程を決定する。
(2)CAMシステムへ事前に穴のパターン(穴形状や用途など)に応じた加工工程と各工程の使用工具を登録しておくことで、NCデータ作成時には穴パターンに応じた加工工程と使用工具を割り当てる方式によって個々の穴の加工工程を決定する。
【0004】
例えば、特許文献1〜3では、主に(2)の手法によって加工工程を決定する仕組みが開示されている。また、非特許文献1では、加工形状特徴の依存性に着目した工程設計に関する研究内容が開示されている。また、非特許文献2では、主に(2)の手法によって加工工程を決定する市販のCAMソフトウエアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274160号公報
【特許文献2】特開2010−27018号公報
【特許文献3】特開2008−149382号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】精密工学会誌 Vol.73 No.4〜5,2007 「加工形状特徴の依存性に着目した工程設計に関する研究(第1報〜第3報)」
【非特許文献2】http://www.machinesol.jp/solution/proglesys1.html(2011年2月16日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(1)の手法のように、人が図面をもとに手作業で行う場合においては、加工工程設計は、試行錯誤を伴う人の思考作業が必要であり、熟練を要する時間の掛かる作業である。
また、特許文献1〜3、非特許文献1、2を含めて、(2)の手法による従来技術では、次のような問題がある。
【0008】
(2)の手法の場合であっても、CAMシステムへの穴パターンに応じた加工工程の登録が事前に必要であった。穴パターンは形状と用途などによって変わるため非常に多くのパターンが存在し、登録に手間が掛かる上、新規パターンが生じれば新たな登録が必要になってくるなど、登録されたデータの維持管理にも多くの労力を要していた。
【0009】
また、ツーリングは、主にオペレータが加工工程と使用工具に応じて決定し、CAMシステム上においてNCパス計算を行う前に指定する形で入力していた。このような場合、NCパス計算において干渉が発生しエラーが表示されると、オペレータは干渉が回避できると思われるツーリングを再決定してNCデータ作成作業を続行していた。CAMシステムによっては、ツーリングの干渉を回避したNCパスが計算できるものも存在するが、この場合にはツーリング干渉によって工具が深い場所に入れずに加工残りが発生することになり、この場合にもツーリングを再決定してNCデータ作成作業を続行していた。何れにしても、ツーリングを決めてからNCデータを作成していたため、NCパス計算において干渉と加工残りが頻繁に発生し、試行錯誤を伴いながら作業の後戻りを繰り返す結果となっていた。また、作業の後戻りを避けるために干渉が発生しにくいような細めのツーリングに決定すると、剛性が低いことで加工能率が大きく低下するデメリットが生じていた。
【0010】
また、工具回転数や工具送り速度などの切削条件は、予め工具に応じて登録されたもの、あるいは工具と一部規格化された工具突き出し長に応じて登録されたものを引用する形で決定していた。従って、個別の工具の突出し長やホルダの形態を含めたツーリング形態全般を詳細に考慮して決定されたものではなかった。
【0011】
更に、CAMシステムを用いた一連のNCデータ作成処理は、対話処理によって行われるため、CAMシステムに人が常駐しなければならず、定常的に人手を要すると共に多くの人的工数も費やしていた。加えて、加工工程決定、各工程の使用工具決定、ツーリング決定、切削条件決定は、オペレータの対話処理を介在しての断続的な作業であり、データの流れから見ても非連続的なものであった。
【0012】
以上の通り、加工工程決定、ツーリング決定、切削条件決定の各機能を有機的に結合し、CADデータを入力として穴加工のNCデータを一貫生成する自動化システムは、依然として構築されていない。
【0013】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、加工工程決定、ツーリング決定、切削条件決定の各機能を有機的に結合し、CADデータを入力として穴加工のNCデータを一貫生成することが可能な加工データ生成システム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために第1の発明は、穴形状を含む製品形状データ、及び、素材データを入力する入力手段と、前記製品形状データから加工対象穴を抽出し、前記加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程を決定する加工工程決定手段と、前記部分加工工程及び前記素材データに基づいて、前記加工対象穴ごとに工具形状のみによって工具の移動経路を算出し、前記加工対象穴ごとの加工データである部分加工データを生成する部分加工データ生成手段と、前記部分加工データに基づいて、干渉が発生しないことを条件として、前記加工対象穴ごとに前記工具及び前記工具を支持するホルダの組合せであるツーリングを決定するツーリング決定手段と、前記ツーリングに基づいて、前記加工対象穴ごとに切削条件を決定する切削条件決定手段と、前記部分加工データに前記切削条件を付与し、先行して加工する前記加工対象穴から退避し、直後に加工する前記加工対象穴に到達するまでの工具の移動経路を順次決定することによって、全ての前記加工対象穴を連続して加工する為の加工データである統合加工データを生成する統合加工データ生成手段と、を具備する加工データ生成システムである。
第1の発明によって、製品形状データ及び素材データを入力するだけで、全ての穴を加工する為の加工データである統合加工データを生成できる。特に、加工対象穴ごとの加工データである部分加工データに基づいて、干渉が発生しないことを条件として、ツーリングを決定することによって、工程設計作業の後戻りが生じることがない。
【0015】
また、第1の発明は、前記穴形状の一部を構成する汎用的な形状である要素形状ごとに、穴の仕上り状態を示す仕上り情報に対応付けて、適切な加工手順及び工具種別を示す加工工程情報、又は、工具の能力を示す工具能力情報を予め記憶する記憶手段、を更に具備することが望ましい。
これによって、現場の加工ノウハウを生かすとともに、加工データ生成作業の標準化を図ることができる。
【0016】
また、第1の発明における前記加工工程決定手段は、前記加工対象穴から前記要素形状を抽出し、前記要素形状ごとに前記記憶手段に記憶された記憶内容を検索することによって前記要素形状ごとの加工工程を生成し、予め定められた統合ルールに基づいて、前記要素形状ごとの加工工程の順番を暫定的に決定し、予め定められた補正ルールに基づいて、暫定的に順番が決定された前記要素形状ごとの加工工程を補正することによって、前記部分加工工程を決定することが望ましい。
これによって、要素形状ごとの情報のみから、穴形状全体の加工工程を創出することができるので、穴の全体形状ごとに加工工程のテンプレートを準備する必要がなく、保守性及び拡張性に優れる。
【0017】
また、第1の発明における前記切削条件決定手段は、前記ツーリング決定手段によって決定される前記ツーリングの剛性を推定し、推定される前記ツーリングの剛性に基づいて前記切削条件を決定し、前記統合加工データ生成手段は、前記加工工程決定手段によって決定された前記部分加工工程、及び、前記ツーリング決定手段によって決定された前記ツーリングを変更することなく、前記統合加工データとともに出力することが望ましい。
ツーリングの剛性に基づいて切削条件を決定することによって、切削効率が高い加工データを生成できる。更に、従来は、ツーリングの決定自体に手戻りが発生する可能性があったので、比較的計算時間を要するツーリング剛性の推定処理を組み入れて全体の処理を自動化しても、無駄に終わる可能性があったが、第1の発明では、ツーリングの決定に手戻りが発生しないので、ツーリング剛性の推定処理を組み入れても無駄に終わることがない。従って、工程設計作業時間の増大を招くことなく、切削効率が高い加工データを生成できる。
【0018】
第2の発明は、コンピュータを、穴形状を含む製品形状データ、及び、素材データを入力する入力手段と、加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程及び前記素材データに基づいて、前記加工対象穴ごとに工具形状のみによって工具の移動経路を算出し、前記加工対象穴ごとの加工データである部分加工データを生成する部分加工データ生成手段と、前記部分加工データに前記切削条件を付与し、先行して加工する前記加工対象穴から退避し、直後に加工する前記加工対象穴に到達するまでの工具の移動経路を順次決定することによって、全ての前記加工対象穴を加工する為の加工データである統合加工データを生成する統合加工データ生成手段と、して機能させる為のコンピュータ支援製造プログラムに対するソルバプログラムであって、コンピュータを、前記入力手段によって入力される前記製品形状データから加工対象穴を抽出し、前記加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程を決定する加工工程決定手段と、前記部分加工データ生成手段によって生成される前記部分加工データに基づいて、干渉が発生しないことを条件として、前記加工対象穴ごとに前記工具及び前記工具を支持するホルダの組合せであるツーリングを決定するツーリング決定手段と、前記ツーリング決定手段によって決定される前記ツーリングに基づいて、前記加工対象穴ごとに切削条件を決定する切削条件決定手段と、して機能させる為のソルバプログラムである。
これによって、コンピュータ支援製造プログラムを変更しても、加工工程決定手段、ツーリング決定手段及び切削条件決定手段を実現する為のプログラムを変更せずに、コンピュータ支援製造プログラムとのインタフェースのみを修正すれば良く、システムの拡張性に優れる。
【0019】
第2の発明のソルバプログラムは、コンピュータを、更に、前記穴形状の一部を構成する汎用的な形状である要素形状ごとに、穴の仕上り状態を示す仕上り情報に対応付けて、適切な加工手順及び工具種別を示す加工工程情報、又は、工具の能力を示す工具能力情報を予め記憶する記憶手段、として機能させることが望ましい。
これによって、コンピュータ支援製造プログラムを変更しても、既に登録されているデータの再利用が容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、加工工程決定、ツーリング決定、切削条件決定の各機能を有機的に結合し、CADデータを入力として穴加工のNCデータを一貫生成することが可能な加工データ生成システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンピュータのハードウエア構成図
【図2】加工データ生成システムの概要を示す図
【図3】穴の形状の一例を示す図
【図4】穴の加工諸元(穴情報)の例を示す図
【図5】統合データベースの概要を示す図
【図6】工法テーブルの一例を示す図
【図7】加工ステップテーブルの一例を示す図
【図8】加工工程決定手段の処理を示すフローチャート
【図9】加工工程決定手段によって決定される加工工程の一例を示す図
【図10】工具能力テーブルの一例を示す図
【図11】ツーリング決定手段の処理を示すフローチャート
【図12】ツーリング決定手段を説明する図
【図13】切削条件決定手段の処理を示すフローチャート
【図14】加工データ生成手段の処理を示すフローチャート
【図15】加工ステップ決定処理のフローチャート
【図16】削り代テーブルの一例を示す図
【図17】第1の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャート
【図18】暫定加工ステップの一例を示す図
【図19】工具種別優先順位テーブルの一例を示す図
【図20】暫定加工ステップ決定処理のフローチャート
【図21】加工ステップ補正処理のフローチャート
【図22】工程追加要件テーブルの一例を示す図
【図23】加工ステップテーブルの変形例を示す図
【図24】テーブル導出処理のフローチャート
【図25】第2の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャート
【図26】第3の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャート
【図27】加工データ生成システムを実現する為のソフトウエア構成の一例を示す図
【図28】従来技術の加工工程決定アルゴリズムを説明する模式図
【図29】本発明の加工工程決定アルゴリズムを説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
以下では、最初に、図1から図14を参照しながら、加工データ生成システムの構成及び処理の概要について説明する。次に、図15から図26を参照しながら、加工工程決定手段の詳細について説明する。次に、図27を参照しながら、加工データ生成システムを実現する為のソフトウエア構成について説明する。次に、図28、図29を参照しながら、従来技術と本発明の加工工程決定アルゴリズムの違いについて説明する。
【0023】
<1.加工データ生成システムの構成及び処理の概要>
最初に、図1から図14を参照しながら、加工データ生成システムの構成及び処理の概要について説明する。
本発明の加工データ生成システムが具備する各手段は、コンピュータに専用のソフトウエアをインストールすることによって実現される。そこで、最初に、コンピュータのハードウエア構成について説明する。
【0024】
図1は、コンピュータのハードウエア構成図である。図1のハードウエア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
コンピュータ1は、制御部11、記憶部12、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、表示部16、周辺機器I/F部17等が、バス18を介して接続される。
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各装置を駆動制御し、コンピュータ1が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータ1のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部12、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータ1に実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
メディア入出力部13(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)等のメディア入出力装置を有する。
通信制御部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータ1とネットワーク間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワークを介して、他のコンピュータ1との通信制御を行う。ネットワークは、有線、無線を問わない。
入力部15は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。入力部15を介して、コンピュータ1に対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
表示部16は、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータ1のビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
周辺機器I/F(インタフェース)部17は、コンピュータ1に周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部17を介してコンピュータ1は周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部17は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
バス18は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0025】
図2は、加工データ生成システムの概要を示す図である。
図2に示すように、本発明の加工データ生成システムは、加工データ生成手段21を中核とし、更に、加工工程決定手段22、ツーリング決定手段23、切削条件決定手段24、統合データベース25等から構成される。
統合データベース25は、工法データベース26、設備データベース27等を含む。
また、加工データ生成システムは、必要に応じて製品形状設計手段28や治具設定手段29を含めてもよい。
【0026】
コンピュータ1に専用のソフトウエアがインストールされることによって、コンピュータ1の制御部11が、加工データ生成手段21、加工工程決定手段22、ツーリング決定手段23、切削条件決定手段24、製品形状設計手段28、治具設定手段29として機能し、コンピュータ1の記憶部12や外部記憶装置が、統合データベース25として機能する。
【0027】
例えば、加工データ生成システムが複数台のコンピュータ1(以下では、コンピュータ1−1、1−2と表記する。)によって実現される場合を考える。
コンピュータ1−1の製品形状設計手段28によって設計される製品形状は、製品形状データとして、穴加工用のNCデータ(加工データ)を生成するために、コンピュータ1−2の加工データ生成手段21に、コンピュータ1−2の入力手段(例えば、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、周辺機器I/F部17等)を介して入力される。
また、必要に応じて、製品形状は、IGES(Initial Graphics Exchange Specification)やSTEP(Standard for The Exchange of Product model data)などの定められた入出力形式に変換された後、製品形状データとして入力されることもある。
【0028】
また、例えば、加工データ生成システムが1台のコンピュータ1によって実現される場合を考える。
製品形状設計手段28によって設計される製品形状は、製品形状データとして、RAMや記憶部12に保持されるなどして、加工データ生成手段21に受け渡される。
【0029】
製品形状データが入力された後、又は受け渡された後、加工データ生成手段21には、入力手段(例えば、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、周辺機器I/F部17等)を介して、素材の形状諸元及び材質、並びに加工に使用する加工機名が入力される。
【0030】
ここで、素材の形状諸元としては、例えば、ブロック材の場合にはその寸法諸元を、鋳物素材などの場合には製品形状から上積みした厚み量を入力する。また、素材の材質としては、例えば、鋳鉄などの材質名や所定の材質記号を入力する。また、加工機名は、例えば、事前に統合データベース25の加工機テーブルに設定した加工機名のいずれかを入力する。これら素材の形状諸元及び材質、並びに加工機名を入力する入力手段は、例えば、マウスやキーボードなどの入力部15を用いてユーザが入力する場合や、ファイルに一括して記述し、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、周辺機器I/F部17等を介して入力する場合がある。また、事前に記憶部12に記憶されている場合もある。
【0031】
まず、加工データ生成手段21は、入力された素材の形状諸元をもとに、素材形状データを生成する。このとき、素材の形状諸元が製品の形状からの厚みとして指定された場合などでは、製品形状データも参照する。また、加工データ生成手段21が素材形状生成手段(不図示)を含み、素材形状生成手段が素材形状データを生成しても良い。また、素材形状データを生成した後、治具設定手段29が、素材を加工機のテーブルに固定する治具を設定しても良い。治具設定手段29は、予め登録されている治具の形状と、ユーザが入力部15を用いて入力する設置位置に基づいて治具を設定する。
【0032】
次に、加工データ生成手段21は、製品形状の中から図3(詳細は後述)に示すような個々の穴の形状を抽出し、穴の形状にもとづいて穴の加工諸元を生成する。穴の形状抽出は、製品形状の中から穴を構成する面を探索してその集合から穴の種別、穴の形状寸法、基準点位置、基準軸方向などを認識し、また各面の要求面粗度と要求精度(形状精度と寸法精度)を認識する。
【0033】
次に、加工データ生成手段21は、認識した情報から図4(詳細は後述)に示すような個々の穴の加工諸元データを生成して、生成した加工諸元データを加工工程決定手段22に受け渡す。ここで、穴の形状抽出から加工諸元データの作成は、個々の穴ごとに行われる。
【0034】
次に、加工工程決定手段22は、加工データ生成手段21から取得した個々の穴の加工諸元と素材の材質をもとに、工法データベース26(図5参照)の工法テーブル31(図6参照)及び加工ステップテーブル32(図7参照)、並びに、設備データベース27の工具テーブル(図5参照)を参照して、個々の穴の加工諸元として指示された穴の要求面粗度や要求精度を満足する個々の穴の加工工程を図8に示す処理手順(詳細は後述)によって決定する。
工法テーブル31には、素材の材質に応じて所定の要求面粗度や要求精度を満足するような工法に関する情報が登録されており、加工ステップテーブル32には工法に対応する加工ステップに関する情報が登録されている(詳細は後述)。
ここで、加工ステップとは、被加工材料を加工するための工具種別及び加工動作決定に必要な情報である。また、工具種別の情報とは、被加工材料に加工するための工具の種別を表す名称の情報や、被加工材料に加工するための工具の記号を表す情報である。すなわち、工具種別の情報は、被加工材料に加工するための工具の種別を表す名称の情報、及び記号を表す情報の少なくとも一方の情報である。
【0035】
ここで、工法テーブル31及び加工ステップテーブル32は必ずしも必要ではなく、図10に示すような工具能力テーブル33を用いて、加工能率の最も良い工具を決定することも可能であり、実用的でもある。
工具能力テーブル33には、素材の材質に応じた工具の加工能力に関する情報が登録されており、工具の加工能力をもとに加工能率上最適な使用工具を選定することによって加工工程を決定できるようになっている(詳細は後述)。
【0036】
加工工程決定手段22によって決定される加工工程の一例は、図9に示す(詳細は後述)。加工工程決定手段22によって決定された個々の穴の加工工程は、加工データ生成手段21に受け渡される。ここで、加工工程の決定は、個々の穴ごとに行われる。
【0037】
加工データ生成手段21は、加工工程決定手段22から取得した個々の穴の加工工程をもとに穴を加工するための工具の移動経路を計算し、これにもとづいて個々の穴加工の部分NCデータ(部分加工データ)を生成する。ここで、部分NCデータとは個々の穴に対応した、その穴を加工するための部分的なNCデータを意味する。生成した個々の穴加工の部分NCデータは、素材形状データおよび加工工程決定手段22によって決定された個々の穴の加工工程とともに、穴を加工するときの工具とホルダ(工具を把持するものであり、チャックとも言う。)の組合せ形態であるツーリング形態を決定するツーリング決定手段23に受け渡される。ここで、必要に応じて、加工に使用する加工機名と素材の材質も受け渡される。
【0038】
ツーリング決定手段23は、個々の穴の加工工程と個々の穴加工の部分NCデータをもとに、素材形状データを用い、設備データベース27(図5参照)の工具テーブル及びツーリングテーブル、並びに必要に応じて加工機テーブル及び治具テーブルを参照して加工シミュレーションを行うことにより、個々の穴の加工において干渉が無く、最も剛性の高いと予測される個々の穴加工の最適ツーリング形態を図11に示す処理手順(詳細は後述)によって決定する。
ツーリング形態の決定においては、事前に工具とホルダが組み合わされた状態で固定ツーリングとして登録されたツーリングテーブルから決定する手法の他、設備データベース27(図5参照)の工具テーブル及びホルダテーブルの双方を用いて、工具とホルダの組合せ形態も含めて決定する手法も有効である。後者においては、工具の突き出し長や複数のホルダを組み合わせる場合のホルダ突き出し長も決定できる利点がある。
【0039】
ツーリング決定手段23によって決定された個々の穴加工の最適ツーリング形態は、加工データ生成手段21に受け渡される。ここで、最適ツーリング形態の決定は、個々の穴ごとに行われる。
【0040】
加工データ生成手段21は、ツーリング決定手段23から取得した個々の穴加工の最適ツーリング形態を切削条件決定手段24に受け渡し、切削条件決定手段24からツーリング剛性を考慮した個々の穴加工の最適切削条件を取得する。切削条件決定手段24における最適切削条件決定の処理手順は図13に示す(詳細は後述)。
その後、加工データ生成手段21は、全ての穴を加工するためのアプローチ経路とリトラクト経路、すなわち、先行して加工する加工対象穴から退避し、直後に加工する加工対象穴に到達するまでの工具の移動経路を順次決定し、個々の穴加工の部分NCデータに個々の穴加工の最適切削条件を付与し、さらに全ての穴を加工するためのアプローチ経路とリトラクト経路に基づいてこれらを統合して、全ての穴を加工するための統合NCデータを生成し、加工工程、最適ツーリング形態、及び統合NCデータを出力手段(例えば、メディア入出力部13、通信制御部14、表示部16、周辺機器I/F部17)を介して出力する。また、加工データ生成手段21は、加工工程、最適ツーリング形態、及び統合NCデータを記憶部12に記憶させるようにしても良い。
【0041】
以上のように、本発明の加工データ生成システムは、加工データ生成手段21を中核として、加工工程決定手段22、ツーリング決定手段23、切削条件決定手段24及び統合データベース25を有機的に結合することにより、加工工程、ツーリング形態及び切削条件が総合的に吟味された加工データが、人手を介さずに一貫して自動生成できる。加工データ生成システムの中核となる加工データ生成手段21の処理手順は、図14に示す(詳細は後述)。
【0042】
図3は、穴の形状の一例を示す図である。図3に示すように、穴の形状は、汎用的な形状である要素形状の組合せによって構成される。つまり、要素形状は、穴形状の一部を構成する形状である。図3に示す例では、穴の形状は、3つの要素形状の組合せによって構成される。図3に示す各段(1段目、2段目、3段目)が、それぞれ要素形状である。
要素形状は、穴の仕上り状態を示す仕上り情報などを含む穴の加工諸元(穴情報)によって定義される。穴情報は、側面の仕上り状態を表す情報及び側面の面の種別を表す情報、並びに底面の仕上り状態を表す情報及び底面の面の種別を表す情報などを含む。
以下では、要素形状の1例として、図3に示す段毎の形状を例に説明する。
【0043】
仕上り情報には、例えば、面粗度を表す情報、形状精度を表す情報、及び寸法精度を表す情報の少なくとも1つの情報が含まれる。また、側面の面の種別を表す情報には、例えば、一般円筒面、テーパ面、平行ねじ面、及びテーパねじ面の少なくとも1つの情報が含まれる。また、底面の面の種別を表す情報には、例えば、フラット面、工具先端転写面、及び貫通の少なくとも1つの情報が含まれる。
以下の説明では、加工精度として形状精度又は寸法精度を用いた場合を例に挙げて説明する。例えば、穴情報は、穴の基準座標、段数を表すヘッダ部と各段の直径、深さ、側面の面粗度と加工精度、底面の面粗度と加工精度を示す情報である。
【0044】
図4は、穴の加工諸元(穴情報)の例を示す図である。
面粗度の表現方法として、例えば、連続する面粗度範囲を加工法などによる制限などをもとに区分し、「極上」、「上」、「中」、「粗」などのように表現する。各表現が示す粗さの相対的な順番は、「極上」<「上」<「中」<「粗」の順に粗くなっていく。
また、加工精度の表現方法として、同様に、例えば、「極高」、「高」、「並」、「一般」などのように表現する。各表現が示す加工精度の相対的な順番は、「極高」、「高」、「並」、「一般」の順に低くなっていく。ここで、「一般」は、製図規格によって規定される「一般公差」を示す。
【0045】
図5は、統合データベースの概要を示す図である。
図5に示すように、統合データベース25は、工法に関する情報を記憶する工法データベース26、設備に関する情報を記憶する設備データベース27を含む。
工法データベース26は、工法テーブル、加工ステップテーブル、切削条件テーブル、工具能力テーブル、削り代テーブル、工具種別優先順位テーブル、工程追加要件テーブルなどを含む。また、設備データベース27は、加工機テーブル、治具テーブル、工具テーブル、ホルダテーブル、ツーリングテーブルなどを含む。
【0046】
工法テーブル、加工ステップテーブル、工具能力テーブル、削り代テーブル、工具種別優先順位テーブル、工程追加要件テーブルについては、それぞれ、図6、図7、図10、図16、図19、図22を参照しながら後述する。
切削条件テーブルは、工具回転数や工具送り速度などの切削条件に関する情報を記憶する。加工機テーブルは、使用可能な加工機に関する情報を記憶する。治具テーブルは、使用可能な治具に関する情報を記憶する。工具テーブルは、使用可能な工具に関する情報を記憶する。ホルダテーブルは、使用可能なホルダに関する情報を記憶する。ツーリングテーブルは、工具テーブルに記憶されている工具と、ホルダテーブルに記憶されているホルダの中で、組み合わせ可能なツーリング形態に関する情報を記憶する。
【0047】
図6は、工法テーブルの一例を示す図である。
図6に示すように、工法テーブル31には、被加工材料に加工される穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコードとに対応する、指定された穴の側面における面粗度と加工精度及び穴の底面の面粗度と加工精度を満足する工法(工法名)の工法区分コードと付属情報とが登録されている。
尚、底面については、貫通穴の場合や、工具先端形状のままでよい場合(底面の状態について関知しない場合)もあるので、このような場合については、底面の組み合わせコードを別に設ける。例えば、貫通穴の場合には底面貫通として底面の組み合わせコードを別に設ける。
また、工法区分名(工法区分コード)は、指定の面粗度と加工精度とを実現するに適する工法の総称を表す名称を記述するようにしても良い。例えば、「側面粗−貫通」、「側面粗−止まり」など現場のオペレータが通常使用している用語を基に記述するようにしてもよい。
【0048】
面粗度と加工精度とは独立した尺度によって個別に表現されるものである。一方、高い加工精度を求める場合、加工精度に適応した面粗度が必要となり、相互にある程度の相関関係が存在する。これを加工の立場から見た場合、高い加工精度を実現する加工方法を選択した場合、結果として相応の面粗度が得られる。これらのことから側面及び底面の面の仕上り状態(面粗度、加工精度)を表す仕組みとして、被加工材料に加工しようとする穴の面粗度と加工精度との組み合わせを何らかの記号に割り当てておくことによって、この穴を表現することができる。このとき、ねじのような特定の形態を持つ穴についても「ねじ」と表現する面粗度と加工精度とを持つ穴として記号を割り当てるようにしても良い。これはあくまでも面粗度と加工精度とを表現しているものであり、穴の機能や、用途、加工方法について表現しているものではない。
【0049】
更に、工法テーブル31には、前述したように、付属情報が登録されている。付属情報として、例えば、直径及び深さの削り残し量がある。この削り残し量は、例えば、設計値に対して削り残し量を指定したい場合に、工法テーブル31に登録される。削り残し量の表現は、「0.1」、「−0.2」のような実残り量を指定する場合と、「0.1D」、「−0.2D」のような直径に対する係数、又は「0.1L」、「−0.2L」のような深さに対する係数で指定する場合などがある。同様に、何らかの寸法調整を必要とする場合には、対応する付属情報を工法テーブル31に登録するようにしても良い。
以上の通り、工法テーブル31には、被加工材料に加工される穴の側面の仕上り状態を表す情報及び穴の側面の面の種別を表す情報、並びに穴の底面の仕上り状態を表す情報及び穴の底面の面の種別を表す情報に対応する穴の加工に適した工法名が予め登録されている。
【0050】
図7は、加工ステップテーブルの一例を示す図である。
図7に示すように、加工ステップテーブル32は、工法名に対応する加工ステップ(加工工程)の候補が定義されたテーブルである。加工ステップは、対象穴を加工する際に使用する工具種別を、適用する順番通りに記述して表現する。加工ステップの候補は、加工ステップテーブル32に記述し、1つのステップを1つの工具種別で表現する。加工ステップテーブル32では、1つのステップ(1つの工具種別)を1つの工程と呼ぶ。ここで、対象となる工法名が示す工法は、対象穴の側面の面粗度と加工精度、及び対象穴の底面の面粗度と加工精度を実現できる工法である。工法は、要求される面粗度と加工精度とを実現することができる最終工程(仕上げ工具種別と加工の方式)と最終工程に至るまでに必要な従属工程(工具種別と加工の方式)を記述する。要求される面粗度と加工精度とを実現する工程は複数存在する為、加工効率などを加味した優先順位に従って工程候補を記述する。
以上の通り、加工ステップテーブル32には、穴の加工に適した工法名に対応する穴の加工に適した加工ステップ(加工ステップ候補)が工法名(工法区分)毎に登録されている。
【0051】
図8は、加工工程決定手段の処理を示すフローチャートである。尚、図8は、処理手順の概要を示しており、処理手順の詳細については、図15〜図26を参照しながら後述する。
図8に示すように、制御部11は、穴の加工諸元と素材の材質を入力し(S101)、穴の加工諸元から要求面粗度と要求精度を認知し(S102)、素材の材質に基づいたデータベースの工法テーブル31及び工具テーブルを参照して、要求面粗度と要求精度が満たされる加工工程を決定し(S103)、加工工程を出力する(S104)。出力される加工工程は、RAM又は記憶部12等に記憶される。
【0052】
図9は、加工工程決定手段によって決定される加工工程の一例を示す図である。
図9に示すように、加工工程決定手段22によって決定される加工工程のデータは、穴番号、工程番号、切削モード、工具種別、工具番号、工具径、加工径、開始高さ、終了高さ等を含む。
図9では、穴番号が「H001」〜「H003」の3つの穴に関する加工工程のデータが示されている。例えば、穴番号が「H001」については、工程番号が「1」〜「3」の3つの工程が対応付けられている。また、例えば、工程番号が「1」の工程は、切削モードが「荒」、工具種別が「センタードリル」、工具番号が「T0012」、工具径が「14.000」、加工径が「14.000」、開始高さが「10.0」、終了高さが「−5.5」である。
このように、加工工程決定手段22は、複数の加工対象穴に対して、加工対象穴毎に複数の工程を対応付けた加工工程のデータを出力する。
【0053】
図10は、工具能力テーブルの一例を示す図である。
図10に示すように、工具能力テーブル33には、加工ステップ(工具種別)に対応する、工具能力を表す情報が、工具種別毎に登録されている。
工具能力を表す情報としては、被加工材料に加工される穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用側面コード)、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用底面コード)と、付属情報と、加工能力と、事前加工ステップ(事前工具種別)と、事前加工ステップ(事前工具種別)の加工能力とが、工具能力テーブル33に登録されている。
付属情報としては、例えば、直径及び深さの削り残し量(側面及び底面の仕上げ代)がある。この削り残し量は、例えば、設計値に対して削り残し量を指定したい場合に、工具能力テーブル33に登録される。削り残し量の表現は、工法テーブル31の付属情報の説明と同様である。
加工能力は、例えば、工具が持つ素材除去能力である。また、事前加工ステップ(事前工具種別)は、注目の加工ステップを採用するにあたり、事前の加工ステップ(事前工具種別)として必要なもの意味する。事前加工ステップ(事前工具種別)に付随して、事前工具種別の加工能力が登録される。
図10に示す例では、加工能力を、高い順からA、B、C(3段階のレンジ)によって示している。例えば、適用側面コード「C1」かつ適用底面コード「c1」の適用面状態に対して、工具種別「超硬ドリル」の工具の加工能力が最も高く(A)、工具種別「標準ドリル」の工具の加工能力が次に高く(B)、工具種別「荒用ボーリング」の工具の加工能力が最も低い(C)ことを示している。
【0054】
図11は、ツーリング決定手段の処理を示すフローチャートである。図12は、ツーリング決定手段を説明する図である。尚、図11は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
ツーリング決定手段23は、例えば、特許第3444072号公報に記載の技術などを適用することができる。以下では、図11、図12を参照しながら、ツーリング決定手段23の処理内容について説明する。
【0055】
図11に示すように、制御部11は、素材の形状、取り付け治具の形状、加工工程データ、部分NCデータ、加工機名を入力する(S201)。
次に、制御部11は、素材の形状を加工シミュレーションの実行部にセットし(S202)、取り付け治具の形状を加工シミュレーションの実行部にセットし(S203)、加工機名にもとづいて設備データベース27の加工機テーブルから加工機データを取得して、加工シミュレーションの実行部にセットし(S204)、加工機名にもとづいて設備データベース27のツーリングテーブルからツーリング候補データを取得して、加工シミュレーションの実行部にセットし(S205)、加工工程データから各工程の工具名と部分NCデータ名を読み取り、加工シミュレーションの実行部にセットする(S206)。
【0056】
次に、制御部11は、各工程の加工シミュレーションを実行し、適正ツーリング領域(非干渉領域)を生成する(S207)。
加工シミュレーション処理は、図12に示すS301である。加工シミュレーションの実行部としての制御部11は、初期状態の仮想ツーリング部を工具に設定し、部分NCデータに基づいて工具を移動させていき、工具によってワークを削るとともに、ワークによって仮想ツーリング部を削っていく。図12では、仮想ツーリング部を斜線によって示している。そして、制御部11は、部分NCデータに基づいて最後まで工具を移動させた後の仮想ツーリング部を、適正ツーリング領域(非干渉領域)として生成する。
【0057】
次に、制御部11は、適正ツーリング領域(非干渉領域)をもとにツーリング候補データを参照して、各工程の最適ツーリング形態を決定する(S208)。
最適ツーリング形態の決定処理は、図12に示すS302、S303である。制御部11は、ツーリングテーブル34を参照し、適正ツーリング領域(非干渉領域)に収まる最も剛性の高いツーリングを選定し、最適ツーリングとして決定する。
【0058】
制御部11は、S206〜S208の処理を工程数繰り返し、最適ツーリング形態を出力し(S209)、処理を終了する。出力される最適ツーリング形態は、RAM又は記憶部12等に記憶される。
以上によって、ツーリング決定手段23は、干渉が発生せず、剛性が高いツーリングを決定することができる。
【0059】
図13は、切削条件決定手段の処理を示すフローチャートである。尚、図13は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図13に示すように、制御部11は、素材の材質、使用工具、最適ツーリング形態を入力し(S401)、素材の材質と使用工具に基づいて、工法データベース26の切削条件テーブルから基本切削条件を取得し(S402)、最適ツーリング形態の剛性を推定する(S403)。剛性の推定とは、素材の材質、使用工具、最適ツーリング形態、及び、基本切削条件に基づいて、使用工具のたわみ量などを計算することである。剛性推定処理は、公知の技術を適用することができる。
次に、制御部11は、最適ツーリング形態の剛性に応じて、基本切削条件から最適切削条件を決定し(S404)、最適切削条件を出力し(S405)、処理を終了する。
以上によって、切削条件決定手段24は、実際に利用されるツーリング形態の剛性に応じた最適な切削条件を決定することができる。
【0060】
図14は、加工データ生成手段の処理を示すフローチャートである。図14では、加工データ生成手段21を主体とし、加工データ生成システムの全体の処理の流れを示している。以下では、説明の都合上、加工データ生成手段21を主体とし、その他の手段を区別して記載するが、実際には、制御部11が各手段として機能する。尚、図14は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
【0061】
図14に示すように、加工データ生成手段21は、加工すべき製品の形状を入力し、別途、素材の形状諸元と材質、ならびに加工に使用する加工機名を、入力手段(例えば、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、周辺機器I/F部17等)を介して入力する(S501)。
ここで、加工データ生成手段21へ入力する製品の形状は、製品形状生成手段28において製品の形状データを生成した後、さらに生成した製品の形状データの中の穴の形状データに対して個々の穴の種別、要求面粗度、要求加工精度にもとづいて穴の属性データが付与された製品の形状データであっても良い。また、必要に応じて所定の入出力形式(IGESやSTEPなど)に変換した製品の形状データであっても良い。所定の入出力形式のファイルフォーマットでは、穴の属性データが定義されていないことから、穴の属性データを、所定の入出力形式における「色を表す情報」に変換しても良い。
【0062】
次に、加工データ生成手段21は、入力された素材の形状諸元と必要に応じて製品の形状も含めてこれらをもとに加工前の素材の形状を生成し(S502)、取付け治具を設定し(S503)、製品の形状の中から穴の形状を抽出し(S504)、個々の穴の形状にもとづいて個々の穴の加工諸元を生成し(S505)、生成した個々の穴の加工諸元と素材の材質を加工工程決定手段22に送信する(S506)。
ここで、加工データ生成手段21が加工前の素材の形状を生成した後、必要に応じて、治具設定手段29が、入力された素材の形状に対して素材を加工機に固定するための治具の形状を付与し、以後の処理においては素材の形状に治具の形状が含まれるようにしても良い。
また、製品形状設計手段28が加工前の素材の形状を生成し、加工データ生成手段21への入力情報に加工前の素材の形状が含まれるようにしても良い。この場合、加工データ生成手段21による素材の形状の生成は不要である。
【0063】
加工工程決定手段22は、加工データ生成手段21から取得した個々の穴の加工諸元と素材の材質をもとに、工法に関する情報および工具に関する情報を登録したデータベースを参照することにより、個々の穴の加工諸元で指示された穴の要求面粗度や要求精度が満たされることを条件に個々の穴の加工工程を決定し、決定した個々の穴の加工工程を加工データ生成手段21へ返信する。
ここで、個々の穴の加工工程は、加工手順と工具の情報であり、必要に応じて加工機の情報が含まれるようにしても良い。
【0064】
次に、加工データ生成手段21は、個々の穴の加工工程を加工工程決定手段22から取得し(S507)、加工工程決定手段22から取得した個々の穴の加工工程をもとに穴を加工するための工具経路(工具の移動経路)を計算し(S508)、これにもとづいて個々の穴加工の部分NCデータを生成し(S509)、素材の形状、取り付け治具の形状、加工機名、加工工程決定手段22において決定された個々の穴の加工工程、生成した個々の穴加工の部分NCデータを、穴を加工するときの工具とホルダの組合せ形態であるツーリング形態を決定するツーリング決定手段23へ送信する(S510)。
【0065】
ツーリング決定手段23は、個々の穴の加工工程と個々の穴加工の部分NCデータをもとに素材の形状を用い、工具が登録されたデータベースを参照して、また必要に応じてホルダ、工具とホルダの組合せから成るツーリング、加工機、治具を登録したデータベースを参照して加工シミュレーションを行うことにより、個々の穴の加工において干渉が無く最も剛性の高いと予測される最適ツーリング形態を決定し、決定した個々の穴加工の最適ツーリング形態を加工データ生成手段21へ返信する。
【0066】
次に、加工データ生成手段21は、個々の穴加工の最適ツーリング形態をツーリング決定手段23から取得し(S511)、ツーリング決定手段23から取得した個々の穴加工の最適ツーリング形態を切削条件決定手段24へ送信する(S512)。
【0067】
切削条件決定手段24は、基本切削条件が登録されたデータベースから基本切削条件を取得し、個々の穴加工の最適ツーリング形態にもとづいてツーリングの剛性を推定し、基本切削条件をもとに推定したツーリング剛性に応じた個々の穴加工の切削条件を求めてツーリング剛性を考慮した最適切削条件を決定し、決定したツーリング剛性を考慮した最適切削条件を加工データ生成手段21へ返信する。
【0068】
次に、加工データ生成手段21は、ツーリング剛性を考慮した個々の穴加工の最適切削条件を切削条件決定手段24から取得し(S514)、全ての穴を加工するためのアプローチ経路とリトラクト経路を決定し(S515)、個々の穴加工の部分NCデータに個々の穴加工の最適切削条件を付与し、さらに全ての穴を加工するためのアプローチ経路とリトラクト経路にもとづいてこれらを統合して、全ての穴を加工するための統合NCデータを生成する(S516)。
【0069】
そして、加工データ生成手段21は、加工工程決定手段22によって決定された個々の穴の加工工程、及び、ツーリング決定手段23によって決定された個々の穴加工の最適ツーリング形態を変更することなく、統合NCデータとともに出力し(S517)、処理を終了する。
以上の通り、加工データ生成システムは、加工工程決定、ツーリング決定、切削条件決定の各機能を有機的に結合し、CADデータを入力として穴加工のNCデータを一貫生成することができる。
【0070】
<2.加工工程決定手段の詳細>
次に、図15から図26を参照しながら、加工工程決定手段の詳細について説明する。
【0071】
<2.1 加工工程決定手段の第1の例>
図15〜図22を参照しながら、加工工程決定手段22の第1の例について説明する。第1の例の加工工程決定手段22(制御部11)が実行する処理は、[1a]工法区分決定処理、[2a]加工ステップ決定処理、[3a]暫定加工ステップ決定処理、[4a]加工ステップ補正処理である。
【0072】
[1a]工法区分決定処理では、制御部11は、入力された穴情報が示す各段の側面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報、並びに各段の底面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報に基づいて、工程設計対象となる穴の工法区分(すなわち、穴情報が示す穴の加工に適した工法区分)を、工法テーブル31の登録内容から段毎に決定する。より具体的には、制御部11は、例えば、穴情報が示す側面の面精度と加工精度との組み合わせコード、及び穴情報が示す底面の面精度と加工精度との組み合わせコードに対応する工法名を、工法テーブル31を検索して取得することによって、工法区分を決定する。制御部11は、この工法区分の決定を穴情報が示す段数分繰り返すことにより、段毎に工法区分を決定する。
【0073】
[2a]加工ステップ決定処理では、制御部11は、工法区分決定処理によって各段毎に決定された工法区分に基づいて、各段の加工に適した加工ステップを、加工ステップテーブル32の登録内容から段毎に決定する。更に、制御部11は、事前工程が必要か否かを段毎の個別の加工工程について判定し、事前工程が必要と判定された工程については、この事前工程に対応する加工ステップを追加する工程追加処理を実行するようにしても良い。
【0074】
また、加工ステップ決定処理では、制御部11は、予め定められた適用可能な工具の有無の情報に基づいて、段毎に決定された加工ステップが実施可能であるか否かを判断し、当該加工ステップが実施可能でない場合には、当該実施可能でない加工ステップを実施可能な加工ステップに変更する。ここで、この「予め定められた適用可能な工具の有無の情報」については、例えば、予め使用可能な工具の情報が登録された工具テーブル(図5参照)を検索することによって得られる。この場合、工具テーブルから得られた情報が示す工具は「適用可能な工具」であり、対応する加工ステップは実施可能であると判断することができる。また、工具テーブルにその情報が登録されていない工具は「適用可能でない工具」であり、対応する加工ステップは実施可能でないと判断することができる。これにより、実施可能でない加工ステップが、実施可能な加工ステップに変更されるようになる。
【0075】
図15は、加工ステップ決定処理のフローチャートである。尚、図15は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図15に示すように、制御部11は、段毎に工法名を読み込み(S601)、加工ステップテーブル32から、S601にて読み込んだ工法名に対応する加工ステップ候補を読み込む(S602)。
【0076】
次に、制御部11は、S602にて読み込んだ加工ステップ候補の最終工程を選択し(S603)、対象穴の直径と、最終工程に使用する工具の径を比較し、直近の工具を工具テーブルから探索する(S604)。制御部11は、S604による検索結果が存在する場合(S605の「有」)、S607に進み、S604による検索結果が存在しない場合(S605の「無」)、S606に進む。
【0077】
S606では、制御部11は、検索された工具の径が補正できるかどうか確認する。制御部11は、径補正ができる場合(S606の「Y」)、S607に進み、径補正ができない場合(S606の「N」)、S602から処理を繰り返す。
S607では、制御部11は、対象穴の深さと、検索された工具の工具長さを比較し、工具長さが足りるかどうか確認する。制御部11は、工具長さが足りる場合(S607の「足りる」)、S608に進み、工具長さが足りない場合(S607の「足りない」)、S602から処理を繰り返す。
S608では、制御部11は、従属工程の有無を確認する。制御部11は、従属工程がある場合(S608の「有」)、S609に進み、従属工程がない場合(S608の「無」)、S610に進む。
S609では、制御部11は、従属1工程目の工具径が最終工程より小さいかどうか確認する。制御部11は、最終工程より小さい場合(S609の「Y」)、S610に進み、最終工程より小さくない場合(S609の「N」)、S602から繰り返す。
S610では、制御部11は、加工ステップを記録し、処理を終了する。
【0078】
制御部11は、図15に示す処理の他、段毎の加工ステップにおいて使用する工具が十分に機能を発揮する為に、該加工ステップに事前の加工ステップを追加するようにしても良い。この処理について、更に詳細な説明をする。対象工具が1回の加工で効率良く素材を除去できる量(切削幅、切削深さなどで表される量)には限界があり、これを超える場合は、事前工程の追加が必要となる。例えば、一定以上の大きさの径を持つドリル加工工程前に下穴ドリル加工工程が必要となる。このような工程追加要件は、例えば、図16に示すような削り代テーブル35を適用して決定する。要件項目として、適用工具径の範囲、深さ、及び工具種別などがある。
【0079】
図16は、削り代テーブルの一例を示す図である。図17は、第1の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャートである。尚、図17は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図17に示すように、制御部11は、加工ステップの1つを取り出し(S701)、全ての加工ステップを取り出したかどうか、すなわち、S701において取り出した加工ステップが終了を示す値(例えば、NULL)か否か確認する(S702)。制御部11は、終了の場合(S702の「Y」)、処理を終了し、終了でない場合(S702の「N」)、S703に進む。
S703では、制御部11は、対象穴の加工径、加工深さなどに基づいて工具テーブルを参照し、適用工具を決定する。次に、制御部11は、対象穴の下穴径、下穴深さに基づいて、削り代テーブル35を参照し、事前工程の要否を確認する(S704)。制御部11は、事前工程が要の場合(S704の「Y」)、S705に進み、事前工程が不要の場合(S704の「N」)、S701から処理を繰り返す。
S705では、制御部11は、事前工程の加工ステップを追加する。そして、制御部11は、S701から処理を繰り返す。
【0080】
[3a]暫定加工ステップ決定処理では、制御部11は、予め定められた統合ルールに基づいて、加工ステップ決定処理によって決定された加工ステップの順番を暫定的に決定する。より具体的には、制御部11は、加工ステップ決定処理によって決定された加工ステップの集まりを、後述する統合ルールに従って並び替え、暫定加工ステップを決定する。
【0081】
ここで、統合ルールについて説明する。加工効率向上や、加工現場のルールにより、優先的に使用するべき工具種別(工具)や、工程設計ルールが存在する場合が多い。これを統合ルールという。統合ルールの主なものに以下の例がある。1つ目は、対象となる穴が複数段で構成されている場合、穴の径(直径)と加工深さの比(例えば、複数段で構成される穴の段の中で最小径をもつ段の直径とその段の下面の素材表面からの深さの比)と、予め設定しておいた比率を比較して、穴入り口側の段を優先的に加工するように加工工程を決定する場合と、穴出口側(穴下側)の段を優先的に加工するように加工工程を決定する場合とを選択して加工工程を並び替えることにより、加工工程の順番を決定するルールである。2つ目は、段毎に決定された加工工程において、優先的に使用するべき工具種類の順番(優先度)を、工具種別優先順位テーブル36(図19参照)に予め定めておき、この工具種別優先順位テーブル36が示す優先度に沿って工具の使用順序を並び替えるルールである。3つ目は、段毎に決定された加工工程において、同一の工具種類の中では工具径の大小によって工具の使用順序を並び替えるルールである。統合ルールは、各段毎に、加工ステップ決定処理によって決定された加工ステップの中から優先して加工する段の加工ステップの順番を繰り上げるためのルールを含んでいる。暫定加工ステップ決定処理では、このような統合ルールに基づいて、各段毎に、加工ステップ決定処理によって決定された加工ステップの中から優先して加工する段の加工ステップの順番を繰り上げる。
尚、暫定加工ステップ処理は、2つ目と3つ目のルールを適用しないように構成することができる。
【0082】
図18は、暫定加工ステップの一例を示す図である。図19は、工具種別優先順位テーブルの一例を示す図である。図20は、暫定加工ステップ決定処理のフローチャートである。尚、図20は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図20に示すように、制御部11は、暫定加工ステップ決定処理の対象、すなわち、加工ステップ決定処理によって決定された加工ステップを取り出し(S801)、加工径と加工深さの比を比較する(S802)。制御部11は、規定値以上の場合(S802の「規定値以上」)、上段優先ソートを行い(S803)、規定値未満の場合(S802の「規定値未満」)、下段優先ソートを行う(S804)。
次に、制御部11は、工具種別優先順位テーブル36を参照し、工具種別優先順に並べ替えを行い(S805)、工具径によるソートを行うことによって(S806)、段毎に行う暫定加工ステップの並べ替えを行い、処理を終了する。
【0083】
[4a]加工ステップ補正処理では、制御部11は、予め定められた補正ルールに基づいて、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された加工ステップを補正することにより加工ステップを決定する。決定された加工ステップは、RAM又は記憶部12等に記憶される。
【0084】
ここで、補正ルールについて説明する。補正ルールには、以下で詳細を説明する3つのルール(ルール1〜3)が含まれている。
ルール1は、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップから、工具種別、工具径、及び加工深さの情報の少なくとも1つに対応して予め定められた優先度に基づいて、優先的に実施すべき加工ステップの順番を繰り上げるためのルールである。加工ステップ補正処理では、ルール1に基づいて、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップから、工具種別、工具径、及び加工深さの情報の少なくとも1つに対応して予め定められた優先度に基づいて、優先的に実施すべき加工ステップの順番を繰り上げる。
ルール2は、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップから、実質的な加工を行わない加工ステップを削除するためのルールである。加工ステップ補正処理では、ルール2に基づいて、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップから、実質的な加工を行わない加工ステップを削除する。
ルール3は、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップについて事前の工程が必要か否かを各加工ステップ毎に判定し、事前の工程が必要と判定された加工ステップについては、この事前の工程に対応する加工ステップを追加するように各加工ステップを補正するためのルールである。加工ステップ補正処理では、ルール3に基づいて、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された各加工ステップについて事前の工程が必要か否かを各加工ステップ毎に判定し、事前の工程が必要と判定された加工ステップについては、この事前の工程に対応する加工ステップを追加するように各加工ステップを補正する。
なお、補正ルールには、上記で説明したルール1〜3の少なくとも1つが含まれるようにしても良い。
【0085】
加工ステップ補正処理を詳細に説明する。暫定加工ステップ決定処理によって順番が決定された暫定的な加工ステップ(暫定加工ステップ)は、段ごとの加工ステップから決定した工具種別の並びを基準として、選択した加工ステップを並べただけの状態から、以下の処理(a)、(b)、(c)によって、実用に適する工具の並びへ置き換える。このとき、工具在庫の有無や、加工工程上事前に必要な工具の追加を行う。処理(a)、(b)、及び(c)について説明する。
(a)暫定加工工程に指定された工具列について追加工程の要否を、例えば、図22に示す工程追加要件テーブル37に従って検査する。工程追加要件テーブル37は、対象工具を使用するにあたり事前に必要とされる工程を選択する要件が記述されたテーブルである。要件としては、例えば、標準ドリルの使用前にはドリルのガイドとなるセンタ穴加工を事前に行う要件などがある。要件の項目には、素材の種類、対象工具種別、適用する工具径の範囲などがある。
(b)暫定加工工程に対して追加工程を洗い出した後、工具種別優先順位テーブル36の内容に基づいて工具種別の優先順位と、工具径の大小によって工具の使用順序を並び替える。これにより工具列が決定される。
(c)決定された工具列を使用順序に従って取り出し、切削に寄与するか否かを工具径、加工深さ、工具先端形状、対象工具が使用される時点での加工部位の形状を比較することで判定する。ここで、切削に寄与すると判定した工具を記録することで最終的な穴の加工ステップを決定し、暫定加工工程の補正を終了する。
そして、制御部11は、決定された最終的な穴の加工ステップをRAM又は記憶部12等に記憶する。
【0086】
図21は、加工ステップ補正処理のフローチャートである。図22は、工程追加要件テーブルの一例を示す図である。尚、図21は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図21に示すように、制御部11は、暫定加工ステップを取り出し(S901)、取り出した暫定加工ステップが最後の加工ステップか否か判定する(S902)。制御部11は、最後の加工ステップの場合(S902の「Y」)、S907に進み、最後の加工ステップではない場合(S902の「N」)、S903に進む。
S903では、制御部11は、工程追加要件テーブル37を参照し、追加加工ステップの有無を判定する。制御部11は、追加工程ステップがある場合(S903の「有」)、S904に進み、追加工程ステップがない場合(S903の「無」)、S901から繰り返す。
S904では、制御部11は、追加工程ステップが暫定加工ステップと同じか否か判定する。制御部11は、追加工程ステップが同じである場合(S904の「Y」)、S901から繰り返し、追加工程ステップが同じでない場合(S904の「N」)、S905に進む。
S905では、制御部11は、加工ステップ追加要件を満たすか否か判定する。具体的には、制御部11は、判定条件として、(1)指定加工径の範囲内か、(2)指定加工深さの範囲内か、(3)素材条件が一致するか、などを判定する。制御部11は、加工ステップ追加要件を満たす場合(S905の「Y」)、暫定加工ステップに追加工程ステップを追加し(S906)、S901から繰り返し、加工ステップ追加要件を満たさない場合(S905の「N」)、追加工程ステップを追加せずに、S901から繰り返す。
S907では、制御部11は、工具種別優先順位テーブル36を参照し、工具種別優先順に並べ替えを行う。次に、制御部11は、工具径によるソートを行い(S908)、加工ステップを取り出し(S909)、取り出した加工ステップが最後の工程か否か判定する(S910)。制御部11は、最後の工程の場合(S910の「Y」)、処理を終了し、最後の工程ではない場合(S910の「N」)、S911に進む。
S911では、制御部11は、S909にて取り出した加工ステップが切削に寄与するか否か判定する。制御部11は、切削に寄与する場合(S911の「Y」)、S909にて取り出した加工ステップを登録し(S912)、S909から繰り返し、切削に寄与しない場合(S911の「N」)、加工ステップを登録せずに、S909から繰り返す。
【0087】
以上、加工工程決定手段22の第1の例について説明した。第1の例の加工工程決定手段22では、工程区分決定処理において、穴情報が示す各段毎の側面の仕上り状態を示す情報及び面の種別を表す情報、並びに各段毎の底面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報に基づいて、穴情報が示す穴の加工に適した工法区分を記憶部12に記憶された記憶内容から各段毎に決定する。加工ステップ決定処理では、各段毎に決定された工法区分に基づいて、各段の加工に適した加工ステップを記憶部12に記憶された記憶内容から各段毎に決定する。暫定加工ステップ決定処理では、予め定められた統合ルールに基づいて、加工ステップ決定処理によって加工ステップが決定された各段の加工の順番を決定することにより、加工ステップの順番を暫定的に決定する。そして、加工ステップ補正処理では、予め定められた補正ルールに基づいて、暫定加工ステップ決定処理によって暫定的に順番が決定された加工ステップを補正することにより加工ステップを決定する。
従って、第1の例の加工工程決定手段22を具備する加工データ生成システムでは、熟練されたオペレータなどによって決定する実態に沿った加工ステップが自動的に決定されるので、熟練されたオペレータによって決定されるような加工ステップを自動的に決定することができる。また、上記各テーブルに登録する内容の表現を、現場のキーワードとすることで、現場のノウハウを反映することができる。また、上記のように構成することで、新規工具の導入や、新規加工法の導入に対し、対応するテーブルの一部を変更することで、対応することができる。
【0088】
<2.2 加工工程決定手段の第2の例>
図10、図23〜図25を参照しながら、加工工程決定手段22の第2の例について説明する。なお、第1の例と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の例では、工具種別に対応する、工具能力を示す情報を工具種別毎に予め記憶しておく点と、穴情報に対応する加工ステップを自動的に導出する点と、導出した穴の加工に適した加工ステップを穴情報毎に予め記憶しておく点とが、第1の例と異なっている。
第2の例の加工工程決定手段22(制御部11)が実行する処理は、[1b]テーブルの導出処理、[2b]加工ステップ決定処理、[3b]暫定加工ステップ決定処理、[4b]加工ステップ補正処理である。
【0089】
図23は、加工ステップテーブルの変形例を示す図である。
加工ステップテーブル32aは、被加工材料に加工される穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用側面コード)、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用底面コード)と、付属情報と、に対応する、加工ステップ(加工工程)の候補が定義されたテーブルである。加工ステップは、対象穴を加工する際に使用する工具種別を適用する順番に記述して表現する。加工ステップの候補は加工ステップテーブル32aに記述し、1つのステップを1つの工具種別で表現する。工法は要求される面粗度と加工精度とを実現することができる最終工程(工具種別と加工種別と切削モード)と最終工程に至るまでに必要な従属工程(工具種別と加工種別と切削モード)を記述する。要求される面粗度と加工精度とを実現する工程は複数存在するため、素材除去能力を加味した優先順位に従って工程候補を記述する。
【0090】
[1b]テーブルの導出処理では、工具能力テーブル33(図10参照)に基づいて、被加工材料に加工される穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用側面コード)、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用底面コード)と、付属情報と、に対応する、加工ステップを、優先順位に従って配置し、事前の加工ステップが必要な場合には、事前加工ステップの優先順位に従って、事前加工ステップを配置することにより、加工ステップ(加工工程)の候補を導出する。テーブルの導出処理では、導出した、穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用側面コード)、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用底面コード)と、付属情報と、に対応する、加工ステップ(加工工程)の候補を、加工ステップテーブル32aに格納する。
【0091】
テーブルの導出処理を詳細に説明する。テーブルの導出処理では、制御部11が、以下の(1)〜(6)の処理を実行することによって、加工ステップテーブル32aを導出する。
(1)予め用意した、穴の側面における面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用側面コード)、及びこの穴の底面の面粗度と加工精度との組み合わせコード(適用底面コード)と、付属情報と、の複数の組み合わせから、対象とする組み合わせを、対象の穴情報として決定する。
(2)対象の穴情報に対応する加工ステップ(工具種別)を、工具能力テーブル33から検索し、優先順位に従って、順に配置する。
(3)工具能力テーブル33において、検索された加工ステップに、事前加工ステップ(事前加工種別)が登録されている場合には、事前加工ステップを、優先順位に従って、順に配置する。
(4)対象の穴情報に対応する加工ステップ(工具種別)の候補として、配置された順番に従って、加工ステップの候補及び事前加工ステップの候補を、加工ステップテーブル32aに登録する。
(5)他の穴情報があれば、上記(1)〜(4)の処理と同様に、加工ステップ(工具種別)の候補を検索して登録する。
(6)加工ステップの候補及び事前加工ステップの候補が穴情報毎に登録された加工ステップテーブル32aを、記憶部12等に記憶する。
【0092】
図24は、テーブル導出処理のフローチャートである。尚、図24は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図24に示すように、制御部11は、穴情報を決定し(S1001)、対応する工具を配置し(S1002)、事前加工に必要な工具を配置し(S1003)、工具が配置された加工ステップを加工ステップテーブル32aに登録する(S1004)。
次に、制御部11は、全ての穴情報に対して処理が終了したか否か判定する(S1005)。制御部11は、全ての穴情報に対して処理が終了していない場合(S1005の「N」)、S1001から繰り返し、全ての穴情報に対して処理が終了している場合(S1005の「Y」)、加工ステップテーブル32aを記憶部12に記憶し(S1006)、処理を終了する。
【0093】
[2b]加工ステップ決定処理では、制御部11は、入力される穴情報が示す各段毎の側面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報、並びに各段毎の底面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報に基づいて、加工ステップテーブル32aから、各段の加工に適した加工ステップを、各段毎に決定する。更に、加工ステップ決定処理では、事前工程が必要か否かを各段毎に個別の加工工程について判定し、事前工程が必要と判定された工程については、この事前工程に対応する加工ステップを追加する工程追加処理を実行するようにしても良い。
また、加工ステップ決定処理では、予め定められた適用可能な工具の有無の情報に基づいて、各段毎に決定された加工ステップが実施可能であるか否かを判断し、当該加工ステップが実施可能でない場合には、当該実施可能でない加工ステップを実施可能な加工ステップに変更する。
【0094】
第2の例の加工ステップ決定処理について具体的に説明する。第2の例の加工ステップ決定処理では、以下の(1)〜(8)の処理を実行することによって、加工ステップを決定することにより、各段の加工に適した加工ステップを決定する。
(1)入力される穴情報に基づいて、各段毎に、側面及び底面の組み合わせコードに指定された加工ステップ(加工工程)候補の登録順に従って、加工ステップテーブル32aから検索を開始する。
(2)加工ステップ候補の最終工程に使用する工具の種類と対象穴の直径と加工可能深さを比較する。工具の種類については、予め使用可能な工具の情報が登録された(定められた)工具テーブル(図5参照)を検索することで得られる。
(3)一致する工具が無ければ次の加工ステップ候補を上記と同様に検索する。
(4)側面及び底面の組み合わせコードに指定された加工ステップ候補に適用可能な工具(使用可能な工具)が存在しない場合は、加工工程が存在しない旨を表すエラーコードを呼び出し側へ回答した後、対象穴の工程設計を中止して、次の穴情報の読み込みへ移る。
(5)最終工程に適用可能な工具が存在する場合、従属工程工具の有無を検査する。なお、工程候補によっては従属工程が存在しない場合もある。
(6)従属工程工具の有無は最終工程で加工する加工径よりも工具径が小さいことを必要条件とする。
(7)従属工程に適用可能な工具が存在しない場合、次の加工ステップ候補を検索する。
(8)上記(1)〜(7)によって選択した各段毎の加工ステップで使用する工具が十分に機能を発揮するために該加工ステップに事前の加工ステップを追加する。なお、このようにして加工ステップを追加する処理については省略可能である。また、上記(8)の処理は、第1の例と同様である。
【0095】
図25は、第2の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャートである。尚、図25は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図25に示すように、制御部11は、最初に、段ごとの穴情報を読み込む(S1101)。以降のS1102〜S1110に示す処理手順は、図15に示す第1の例のS602〜S610と同様である為、説明を省略する。尚、参照するテーブルや処理内容は、前述の説明の通り、第1の例と異なる。
【0096】
[3b]暫定加工ステップ決定処理、及び、[4b]加工ステップ補正処理については、第1の例の[3a]暫定加工ステップ決定処理、及び、[4a]加工ステップ補正処理と同様であるため、説明を省略する。
このように、第2の例の加工工程決定手段22では、工具能力テーブル33を用いて、穴情報毎に、穴の加工に適した加工ステップを自動的に導出して加工ステップテーブル32aとして記憶し、記憶した加工ステップテーブル32aを用いて、各段の加工ステップを決定することができる。
【0097】
<2.3 加工工程決定手段の第3の例>
図26を参照しながら、加工工程決定手段22の第3の例について説明する。なお、第1の例と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第3の例では、工具種別に対応する、工具能力を示す情報を工具種別毎に予め記憶しておく点と、加工ステップテーブルを用いずに、各段の加工ステップを決定している点とが、第1の例と異なっている。
第3の例の加工工程決定手段22(制御部11)が実行する処理は、[1c]加工ステップ決定処理、[2c]暫定加工ステップ決定処理、[3c]加工ステップ補正処理である。
【0098】
[1c]加工ステップ決定処理では、入力された穴情報が示す各段毎の側面の仕上り状態を表す情報及び面の種別を表す情報、並びに各段毎の底面の仕上がり状態を表す情報及び面の種別を表す情報に基づいて、工具能力テーブル33から、穴情報の組み合わせコード(適用側面コード及び適用底面コード)と、付属情報と、に対応する、加工ステップ(工具種別)を、優先順位に従って各段毎に選択する。
更に、加工ステップ決定処理では、工具能力テーブル33に基づいて、事前工程が必要か否かを各段毎の個別の加工工程について判定し、事前工程が必要と判定された工程については、この事前工程に対応する加工ステップを、優先順位に従って選択して追加するようにしても良い。
また、加工ステップ決定処理では、予め定められた適用可能な工具の有無の情報に基づいて、各段毎に決定された加工ステップが実施可能であるか否かを判断し、当該加工ステップが実施可能でない場合には、当該実施可能でない加工ステップを実施可能な加工ステップに変更する。
【0099】
第3の例の加工ステップ決定処理について詳細に説明する。第3の例の加工ステップ決定処理では、以下の(1)〜(8)を実行することによって、加工ステップを決定することにより、各段の加工に適した加工ステップを決定する。
(1)入力される穴情報に基づいて、各段毎に、側面及び底面の組み合わせコードに対応する加工ステップ(工具種別)候補を、優先順位に従って、工具能力テーブル33から検索する。
(2)加工ステップ候補の最終工程に使用する工具の種類と対象穴の直径と加工可能深さを比較する。工具の種類については、予め使用可能な工具の情報が登録された(定められた)工具テーブル(図5参照)を検索することで得られる。
(3)一致する工具が無ければ、次の優先順位の加工ステップ候補を上記と同様に検索する。
(4)側面及び底面の組み合わせコードに対応する加工ステップ候補に適用可能な工具(使用可能な工具)が存在しない場合は、加工工程が存在しない旨を表すエラーコードを呼び出し側へ回答した後、対象穴の工程設計を中止して、次の穴情報の読み込みへ移る。
(5)最終工程に適用可能な工具が存在する場合、従属工程工具の有無を検査する。なお、最終工程によっては従属工程が存在しない場合もある。
(6)従属工程工具の有無は最終工程で加工する加工径よりも工具径が小さいことを必要条件とする。
(7)従属工程に適用可能な工具が存在しない場合、次の加工ステップ候補を検索する。
(8)上記(1)〜(7)によって選択した各段毎の加工ステップで使用する工具が十分に機能を発揮するために該加工ステップに事前の加工ステップを追加するようにしても良い。(8)の処理は、第1の例と同様である。
【0100】
図26は、第3の例の加工ステップ決定処理の一部の処理のフローチャートである。尚、図26は、処理手順の一例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
図26に示すように、制御部11は、最初に、段ごとの穴情報を読み込む(S1201)。以降のS1202〜S1210に示す処理手順は、図15に示す第1の例のS602〜S610と同様である為、説明を省略する。尚、参照するテーブルや処理内容は、前述の説明の通り、第1の例と異なる。
【0101】
[2c]暫定加工ステップ決定処理、及び、[3c]加工ステップ補正処理については、第1の例の[3a]暫定加工ステップ決定処理、及び、[4a]加工ステップ補正処理と同様であるため、説明を省略する。
このように、第3の例の加工工程決定手段22によれば、加工ステップテーブルを用いずに、工具能力テーブル33に基づいて、各段の加工ステップを決定することができる。
【0102】
<3.加工データ生成システムを実現する為のソフトウエア構成>
次に、図27を参照しながら、本発明の加工データ生成システムを実現する為のソフトウエア構成について説明する。
図27は、加工データ生成システムを実現する為のソフトウエア構成の一例を示す図である。
【0103】
図27は、図2に示す加工データ生成システムの構成と対応する。3次元CAMソフトウエア40(コンピュータ支援製造プログラム)は、コンピュータ1を、加工データ生成手段21、治具設定手段29として機能させる為のプログラムである。尚、治具設定手段29は、必須ではない。工程設計ソルバプログラム41は、コンピュータ1を、加工工程決定手段22として機能させる為のプログラムである。ツーリング決定ソルバプログラム42は、コンピュータ1を、ツーリング決定手段23として機能させる為のプログラムである。切削条件決定ソルバプログラム43は、コンピュータ1を、切削条件決定手段24として機能させる為のプログラムである。3次元CADソフトウエア45及び3次元幾何モデルデータベース46は、コンピュータ1を、製品形状設計手段28として機能させる為のプログラムである。尚、統合データベース25は、図2に示すものと同様である。
【0104】
ここで、ソルバプログラムとは、コンピュータ1に、特定の解析処理(本発明では、工程設計処理、ツーリング決定処理、及び切削条件決定処理)を実行させる為に、中核となるソフトウエア(本発明では、3次元CAMソフトウエア40)から呼び出されるプログラムである。
特定の解析処理をソルバプログラムによって実現する利点は、3次元CAMソフトウエア40を容易に変更可能なことである。つまり、新たな3次元CAMソフトウエア40を導入する場合でも、解析処理を実現する為のプログラムを変更せずに、3次元CAMソフトウエア40とのインタフェース(受け渡されるデータ、ソルバプログラムの呼出しルールなど)のみを修正すれば良い。
尚、本発明を実現する為には、ツーリング決定ソルバプログラム42は、工程設計ソルバプログラム41の処理結果を入力データとし、切削条件決定ソルバプログラム43では、工程設計ソルバプログラム41及びツーリング決定ソルバプログラム42の処理結果を入力データとすることになる。
【0105】
また、統合データベース25に含まれるテーブル定義は、前述した通り、3次元CADソフトウエア40に依存しないようにすることが望ましい。そして、統合データベース25に対するデータアクセス処理は、図27に示すように、工程設計ソルバプログラム41、ツーリング決定ソルバプログラム42、及び切削条件決定ソルバプログラム43が実行することが望ましい。
これによって、新たな3次元CAMソフトウエア40を導入する場合でも、データアクセス処理のプログラムを変更することなく、既に統合データベース25に登録されているデータを再利用することができる。
【0106】
また、図27に示す各プログラムやデータベースは、単一のコンピュータ1にインストールされても良いし、複数のコンピュータ1にそれぞれインストールされても良い。
例えば、3次元CADソフトウエア45がインストールされたコンピュータ1をCAD端末とする。また、3次元CADソフトウエア40、工程設計ソルバプログラム41、ツーリング決定ソルバプログラム42、及び切削条件決定ソルバプログラム43がインストールされたコンピュータ1をCAM端末とする。3次元幾何モデルデータベース46及び統合データベース25がインストールされたコンピュータ1をデータベースサーバとする。そして、加工データ生成システムは、1又は複数のCAD端末、1又は複数のCAM端末、並びに、1又は複数のデータベースサーバから構成されるものとしても良い。
【0107】
<4.従来技術と本発明の加工工程決定アルゴリズムの違い>
次に、図28、図29を参照しながら、従来技術と本発明の加工工程決定アルゴリズムの違いについて説明する。
図28は、従来技術の加工工程決定アルゴリズムを説明する模式図である。図29は、本発明の加工工程決定アルゴリズムを説明する模式図である。
【0108】
図28に示すように、従来技術の加工工程決定アルゴリズムでは、[1]穴パターン毎に手順書を準備し、穴種別の割付を行い、準備されている手順書とパターンマッチングすることによって、加工工程を決定する。そして、[2]工程の変更(例えば、各工程に利用される工具や加工種別の変更など)が必要な場合、関係する全ての手順書を変更する必要がある。
一方、図29に示すように、本発明の加工工程決定アルゴリズムでは、穴の全体形状は、部分形状の集合と捉えて、穴形状を要素に分解して考える。そして、[1]要素毎の基本工程をデータベースに登録しておき、設計情報(粗度、精度など)に基づいてデータベースを参照して要素毎の工程(暫定解)を創出し、ノウハウが詰まったデータベースを参照して暫定解を論理演算にて最適化することによって最終加工工程を決定する。そして、[2]工程の変更が必要な場合であっても、基本工程のみを変更するだけで良い。
このように、従来技術は、工程割当て型のアルゴリズムであるのに対し、本発明は、工程創出型のアルゴリズムであるという点が異なる。また、従来技術は、工程の変更に対するメンテナンス作業の負荷が高いのに対し、本発明は、工程の変更に対するメンテナンス作業の負荷が低いという点が異なる。
【0109】
前述した本発明の構成の一部又は全部によって、以下の作用が奏する。
(1)前述した加工工程決定手段を含み、かつ各手段の適正な配置と組合せによって、CADデータを入力するのみで人手を介さずに穴加工のNCデータが一貫自動生成されることにより、CAMオペレータの作業工数が著しく低減し、対話処理による入力や操作などの人的ミスも防止される。また、人の熟練度に依存しない安定した品質のNCデータが生成される。
(2)前述したツーリング決定手段をNCデータ生成後に配置し、NCデータは工具形状(主に工具刃形)のみで計算し、生成したNCデータを使ってツーリングを決定することで、作業の後戻りが無くなる。
(3)加工工程決定やツーリング決定が工法テーブル、工具テーブル、ホルダテーブルなどのデータベース情報をもとに実行されるので、一元化された情報にもとづく加工が行われ、システム管理を容易にし、かつ加工の標準化が推進される。
(4)加工ノウハウをデータベースに集約することで、一定品質の現場ノウハウが保存され、かつ継続的に維持されて技術の継承に繋がる。
【0110】
また、前述した作用によって、以下の効果が奏する。
(1)人的な作業工数が著しく低減され、また安定した品質のNCデータが生成される。
(2)作業の後戻りが無くなり、最適なツーリング決定が一回で完結する。
(3)加工の標準化や工具の標準化が推進され、治工具などの在庫が減り設備費の削減に繋がる。
(4)現場ノウハウの保存と継承が推進される。
【0111】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る加工データ生成システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0112】
21………加工データ生成手段
22………加工工程決定手段
23………ツーリング決定手段
24………切削条件決定手段
25………統合データベース
26………工法データベース
27………設備データベース
31………工法テーブル
32、32a………加工ステップテーブル
33………工具能力テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴形状を含む製品形状データ、及び、素材データを入力する入力手段と、
前記製品形状データから加工対象穴を抽出し、前記加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程を決定する加工工程決定手段と、
前記部分加工工程及び前記素材データに基づいて、前記加工対象穴ごとに工具形状のみによって工具の移動経路を算出し、前記加工対象穴ごとの加工データである部分加工データを生成する部分加工データ生成手段と、
前記部分加工データに基づいて、干渉が発生しないことを条件として、前記加工対象穴ごとに前記工具及び前記工具を支持するホルダの組合せであるツーリングを決定するツーリング決定手段と、
前記ツーリングに基づいて、前記加工対象穴ごとに切削条件を決定する切削条件決定手段と、
前記部分加工データに前記切削条件を付与し、先行して加工する前記加工対象穴から退避し、直後に加工する前記加工対象穴に到達するまでの工具の移動経路を順次決定することによって、全ての前記加工対象穴を連続して加工する為の加工データである統合加工データを生成する統合加工データ生成手段と、
を具備する加工データ生成システム。
【請求項2】
前記穴形状の一部を構成する汎用的な形状である要素形状ごとに、穴の仕上り状態を示す仕上り情報に対応付けて、適切な加工手順及び工具種別を示す加工工程情報、又は、工具の能力を示す工具能力情報を予め記憶する記憶手段、
を更に具備する請求項1に記載の加工データ生成システム。
【請求項3】
前記加工工程決定手段は、
前記加工対象穴から前記要素形状を抽出し、
前記要素形状ごとに前記記憶手段に記憶された記憶内容を検索することによって前記要素形状ごとの加工工程を生成し、
予め定められた統合ルールに基づいて、前記要素形状ごとの加工工程の順番を暫定的に決定し、
予め定められた補正ルールに基づいて、暫定的に順番が決定された前記要素形状ごとの加工工程を補正することによって、前記部分加工工程を決定する
請求項2に記載の加工データ生成システム。
【請求項4】
前記切削条件決定手段は、前記ツーリング決定手段によって決定される前記ツーリングの剛性を推定し、推定される前記ツーリングの剛性に基づいて前記切削条件を決定し、
前記統合加工データ生成手段は、前記加工工程決定手段によって決定された前記部分加工工程、及び、前記ツーリング決定手段によって決定された前記ツーリングを変更することなく、前記統合加工データとともに出力する
請求項1乃至3に記載の加工データ生成システム。
【請求項5】
コンピュータを、
穴形状を含む製品形状データ、及び、素材データを入力する入力手段と、
加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程及び前記素材データに基づいて、前記加工対象穴ごとに工具形状のみによって工具の移動経路を算出し、前記加工対象穴ごとの加工データである部分加工データを生成する部分加工データ生成手段と、
前記部分加工データに前記切削条件を付与し、先行して加工する前記加工対象穴から退避し、直後に加工する前記加工対象穴に到達するまでの工具の移動経路を順次決定することによって、全ての前記加工対象穴を加工する為の加工データである統合加工データを生成する統合加工データ生成手段と、
して機能させる為のコンピュータ支援製造プログラムに対するソルバプログラムであって、
コンピュータを、
前記入力手段によって入力される前記製品形状データから加工対象穴を抽出し、前記加工対象穴ごとの加工工程である部分加工工程を決定する加工工程決定手段と、
前記部分加工データ生成手段によって生成される前記部分加工データに基づいて、干渉が発生しないことを条件として、前記加工対象穴ごとに前記工具及び前記工具を支持するホルダの組合せであるツーリングを決定するツーリング決定手段と、
前記ツーリング決定手段によって決定される前記ツーリングに基づいて、前記加工対象穴ごとに切削条件を決定する切削条件決定手段と、
して機能させる為のソルバプログラム。
【請求項6】
コンピュータを、更に、
前記穴形状の一部を構成する汎用的な形状である要素形状ごとに、穴の仕上り状態を示す仕上り情報に対応付けて、適切な加工手順及び工具種別を示す加工工程情報、又は、工具の能力を示す工具能力情報を予め記憶する記憶手段、
として機能させる為の請求項5に記載のソルバプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−190113(P2012−190113A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51304(P2011−51304)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】