説明

加工ヘッドのアプローチ動作を制御するレーザ加工用制御装置

【課題】オーバーシュートを可及的に防止するレーザ加工用制御装置が望まれている。
【解決手段】本発明の一態様によれば、ギャップ基準位置において、前記被加工物をレーザ加工するためのレーザ加工用制御装置であって、前記加工ヘッドと前記被加工物との間のギャップ量を検出するギャップセンサと、ギャップ位置指令を送出するギャップ位置指令演算部と、加工ヘッドを前記ギャップ基準位置まで駆動するサーボ機構部と、前記サーボ機構部の位置偏差量を読取るサーボ位置偏差読取部と、前記サーボ機構部の前記位置偏差量に基づいて、前記サーボ機構部のための補正ポジションゲインを算出するポジションゲイン演算部と、前記サーボ機構部のポジションゲインを、前記ポジションゲイン演算部において算出された前記補正ポジションゲインに切換えるポジションゲイン切換部と、を備える、レーザ加工用制御装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工ヘッドのアプローチ動作を制御するレーザ加工用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工ヘッドと被加工物との間のギャップ量(間隙の長さ)を検出し、レーザ加工に適したギャップ基準位置までの距離を算出することにより、加工ヘッドのアプローチ動作を制御するレーザ加工用制御装置は公知である(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−308979号公報
【特許文献2】特開2006−122939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工ヘッドが目標位置であるギャップ基準位置を越えて駆動される、いわゆるオーバーシュートを可及的に防止するレーザ加工用制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1番目の発明によれば、被加工物から所定距離離間するギャップ基準位置において、加工ヘッドからレーザを照射して前記被加工物をレーザ加工するためのレーザ加工用制御装置であって、前記加工ヘッドと前記被加工物との間のギャップ量を検出するギャップセンサと、前記ギャップセンサと協働して、ギャップ位置指令を送出するギャップ位置指令演算部と、前記ギャップ位置指令に基づいて加工ヘッドを前記ギャップ基準位置まで駆動するサーボ機構部と、前記サーボ機構部の位置偏差量を読取るサーボ位置偏差読取部と、前記サーボ機構部の前記位置偏差量に基づいて、前記サーボ機構部のための補正ポジションゲインを算出するポジションゲイン演算部と、前記サーボ機構部のポジションゲインを、前記ポジションゲイン演算部において算出された前記補正ポジションゲインに切換えるポジションゲイン切換部と、を備える、レーザ加工用制御装置が提供される。
【0006】
本発明の2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記ポジションゲイン演算部が、前記ポジションゲイン及び加工ヘッドのアプローチ速度から理論位置偏差量を算出し、該理論位置偏差量と、前記サーボ位置偏差読取部によって読取られる前記サーボ機構部の前記位置偏差量とに基づいて、前記補正ポジションゲインを算出する、レーザ加工用制御装置が提供される。
【0007】
本発明の3番目の発明によれば、1番目又は2番目の発明において、前記ポジションゲイン演算部が、前記ギャップセンサによって検出される前記ギャップ量に基づいて、前記補正ポジションゲインを調整した調整値を前記補正ポジションゲインとして算出する、レーザ加工用制御装置が提供される。
【0008】
本発明の4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記ポジションゲイン切換部によって切換えられるポジションゲインの変化量に基づいて前記補正ポジションゲインを調整するポジションゲイン調整部をさらに備える、レーザ加工用制御装置が提供される。
【0009】
本発明の5番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明において、前記補正ポジションゲインと、予め定められた所定値とを比較し、前記補正ポジションゲインの値が前記所定値を超える場合に、前記補正ポジションゲインを前記所定値にクランプするクランプ部をさらに備える、レーザ加工用制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1番目の発明によれば、アプローチ動作が高速であってサーボ位置偏差量(サーボの遅れ)が顕著に大きい場合でも、加工ヘッドのオーバーシュートを効果的に防止できる。移動指令に対して実際のサーボ機構部の動作に遅れが生じていると、そのサーボ機構部の遅れに起因してオーバーシュートが発生する場合がある。すなわち、加工ヘッドがギャップ基準位置に到達した時点で加工ヘッドの速度をゼロにする速度指令が適切に送出されたとしても、サーボ機構部の遅れが原因となって、加工ヘッドがギャップ基準位置を越えて駆動される場合がある。この1番目の発明によれば、実際のサーボ位置偏差量を取得し、そのサーボ位置偏差量に基づいてポジションゲインを変更することによって、アプローチ動作をしながらサーボ機構部の遅れを調整していくことができる。したがって、前述したオーバーシュートを発生することなく、加工ヘッドを適切なギャップ基準位置に確実に位置決めできるようになる。
【0011】
2番目の発明によれば、理論的に求められるサーボ位置偏差量を考慮して補正ポジションゲインを算出するため、実際のサーボ位置偏差量を理論値であるサーボ位置偏差量に近づけるようにポジションゲインを変更できる。したがって、加工ヘッドのオーバーシュートの原因となりうる移動指令に対するサーボ機構部の遅れをアプローチ動作中に低減ないし解消できるようになる。
【0012】
3番目の発明によれば、目標位置であるギャップ基準位置からの距離に応じて補正ポジションゲインを調整できるので、アプローチ動作の段階に応じてより緻密な制御が可能になる。
【0013】
4番目の発明によれば、ポジションゲインの切換前後の変化量をモニタすることによって、ポジションゲインが急激に変化するのを防止できるようになる。ポジションゲインの急激な変化は、サーボ機構部の挙動、ひいては加工ヘッドの動作を不安定にするため、回避されるのが好ましい。この4番目の発明によれば、必要に応じて補正ポジションゲインを調整することによって、このような問題を防止できる。
【0014】
5番目の発明によれば、ポジションゲイン切換部においてポジションゲインが切換えられたときに、切換後のポジションゲインが過度に大きくなるのを防止できるようになる。ポジションゲインが過度に大きいと、発振しやすくなってサーボ機構部の動作が不安定になりうる。この第5の発明においては、必要に応じて補正ポジションゲインを所定値にクランプすることによって、このような問題を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態の変形例に係るレーザ加工用制御装置の要部を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態の変形例に係るレーザ加工用制御装置の要部の作用を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置を利用した場合における加工ヘッドのアプローチ速度、ポジションゲイン及びギャップ量の時間変化をそれぞれ表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、図1を参照して本発明の実施形態に係る制御装置10の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。
【0017】
制御装置10は、任意の加工プログラムを実行するための位置指令及び速度指令に応答して、後述するサーボモータの回転を制御する数値(NC)制御装置である。制御装置10は、レーザ加工装置(特に加工ヘッド12)をワーク(被加工物)14に対して所定の位置に位置決めするために利用される。レーザ加工装置は、加工ヘッド12からレーザを照射して、ワーク14に対して切断、穿孔、溶接、表面処理、微細加工など種々のレーザ加工を施すために使用される。ワーク14は、例えばステンレス鋼、アルミニウム、鉄などの金属板又はセラミックス、プラスチックその他複合材料などから構成される各種部品である。
【0018】
加工ヘッド12は、ワーク14の表面に対して平行なX軸方向と、図1の紙面厚さ方向に延びるY軸方向と、ワーク14の表面に対して直交するZ軸方向とにおいてそれぞれ独立して駆動制御される。図1では、簡単のため、加工ヘッド12をZ軸方向に駆動するサーボモータ16のみが示されており、X軸方向及びY軸方向の駆動のためのサーボモータは省略されている。なお、X軸方向及びY軸方向の駆動のためのサーボモータを加工ヘッド12に設ける代わりに、例えばワーク14を保持する治具又はテーブル側にサーボモータを設けてもよい。この場合は、ワーク14が、X軸方向及びY軸方向それぞれにおいて加工ヘッド12に対して相対的に駆動制御される。サーボモータ16には、サーボモータ16の回転角度からサーボモータ16のZ軸方向の位置情報を取得するスケール32が備え付けられている。取得されるサーボモータ16のZ軸方向の位置情報は、フィードバック信号52として制御装置10の減算器34にフィードバックされる構成になっている。
【0019】
加工ヘッド12のノズル18近傍にはギャップセンサ20が備え付けられており、ノズル18とワーク14の表面との間の間隙のZ軸方向の長さに相当するギャップ量Gを測定できるようになっている。加工ヘッド12のノズル18は、ギャップセンサ20を利用して、レーザ加工のために適切な距離だけワーク14の表面から離間した位置(以下、「ギャップ基準位置」と称する)に位置決めされる。加工ヘッド12がこのギャップ基準位置に配置された状態でノズル18からレーザが照射され、レーザ加工が行われる。ノズル18は、一連のレーザ加工が終了するまでギャップ基準位置を維持するようにギャップ制御される。すなわち、ワーク14の表面が湾曲していたり、ワーク14の表面に凹凸があるような場合には、加工ヘッド12のノズル18をZ軸方向において位置決めをしながらレーザ加工が続けられる。
【0020】
本発明の実施形態に係る制御装置10についてより具体的に説明する。制御装置10は、任意の加工プログラム22を実行するために、加工ヘッド12の移動量を計算して、X軸方向及びY軸方向における位置指令及び速度指令を含む移動指令を送出する移動量計算部24を備えている。また、制御装置10は、ギャップ位置指令演算部54(後述する)から送出されるZ軸方向の位置指令及び速度指令に基づいて、サーボアンプ30に制御信号を送出するサーボ制御部26を備えている。制御装置10は、ギャップ量を取得してギャップ制御を行うとともにサーボモータ16のポジションゲインの調整を行うギャップ制御部28をさらに備えている。
【0021】
移動量計算部24における処理について説明する。移動量計算部24は、プログラム読出部36と、加工経路解析部38と、補間処理部40と、移動指令出力部42とから構成される。移動量計算部24は、加工プログラム22によって指定されるレーザ加工を実するために必要なX軸方向及びY軸方向の移動指令を出力する機能を有する。
【0022】
先ず、プログラム読出部36において、使用者によって入力された加工プログラム22が読出される。加工プログラム22は、レーザ加工装置を制御してワーク14に必要な加工を行うために必要な情報が含まれたプログラムである。例えば金属板に穿孔する場合には、金属板の板厚、形成される孔の直径、穿孔位置などの情報が含まれる。加工経路解析部38では、加工プログラム22の加工経路の解析が行われ、加工処理を実行するためのX軸方向及びY軸方向それぞれにおける位置情報及び送り速度が取得される。加工経路解析部38から送出される信号は補間処理部40において補間処理される。補間処理された移動指令に関連する指令信号は、移動指令出力部42に送られ、移動指令出力部42からX軸方向及びY軸方向における移動指令が減算器34に正の信号として送出される。移動指令出力部42から送出されるZ軸方向における移動指令はゼロである。減算器34には、X軸方向のサーボモータ(図示せず)の検出位置情報であるフィードバック信号60と、Y軸方向のサーボモータ(図示せず)の検出位置情報であるフィードバック信号62とが負の信号として入力される。したがって、減算器34において、X軸方向及びY軸方向における位置指令と、実際のサーボモータの位置との差、すなわち位置偏差量が算出されるようになっている。なお、減算器34にはZ軸方向の検出位置情報であるフィードバック信号52も入力されるが、このことについては別途後述する。
【0023】
サーボ制御部26は、加算器44と、位置制御処理部46と、速度制御処理部48と、電流制御処理部50とから構成される。サーボ制御部26は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に関連付けられた各サーボモータを制御するために必要な制御信号をサーボアンプ30に送出する。X軸方向及びY軸方向におけるサーボモータの制御の態様について先ず説明する。本発明との関係ではX軸方向とY軸方向とは相対的な概念にすぎず、個別に説明する必要はないため、ここではX軸方向についてのみ説明するが、Y軸方向についても同様の説明が妥当することは当業者に自明である。減算器34において、前述したようにX軸方向における位置指令と検出位置との差分、すなわち位置偏差量が算出される。この位置偏差量は、位置制御処理部46において速度指令を算出するのに用いられる。なお、ギャップ位置指令演算部54から加算器44に入力される信号は、Z軸方向に関する情報であるため、X軸方向の駆動制御においては無視できる。速度指令は速度制御処理部48に入力される。速度制御処理部48は、入力された速度指令に基づいて電流指令を送出する。電流制御処理部50は、速度制御処理部48から送出された電流指令に基づいて制御信号をサーボアンプに出力する。サーボアンプは、制御信号に基づいてサーボモータに駆動電流を供給する。このとき供給される駆動電流は、サーボモータの必要な回転角度に対応している。以上の処理を繰り返して、加工プログラム22から求められた位置指令と、実際のモータ位置とが合致するまでサーボモータが駆動制御される。
【0024】
次に、Z軸方向におけるサーボ制御部28の機能について説明する。ギャップ位置指令演算部54は、加工ヘッド12のアプローチ動作の段階に応じて異なる処理に基づいて出力値を算出できるように構成されている。例えば、アプローチ動作の初期の段階においては、加工ヘッド12を後述する一定の所定速度V1(図5参照)でワーク14に向かって駆動するように速度指令を出力する。この一定の速度V1によるアプローチ動作は、加工ヘッド12がギャップセンサ20によって検出可能な程度にワーク14に十分に接近するまで継続される。ギャップ位置指令演算部54は、ギャップセンサ20が加工ヘッド12とワーク14との間のギャップ量をいったん検出すると、加工ヘッド12のアプローチ動作の速度を漸次減速するような速度指令を出力する。ギャップセンサ20の検出信号は、A/D変換器58を介してギャップ位置指令演算部54に送出される。この漸次減速する速度指令は、続いてギャップ制御に切換えられる。ギャップ制御の段階においては、所定の(例えば一定の)アプローチゲインと、ギャップセンサ20によって検出されるギャップ基準位置までの距離に応じてアプローチ動作の速度が決定される。例えばアプローチゲイン[1/sec(毎秒)]と、ギャップ基準位置までの距離[mm(ミリメートル)]とを単純に乗算することによって、この速度を決定してもよい。必要に応じて係数をさらに乗算するなどして調整してもよい。このようにして、ギャップセンサ20によって検出されるギャップ量が、ギャップ基準位置に一致するまで加工ヘッド12が駆動制御される。
【0025】
続いて、ギャップ制御部28について説明する。本発明の実施形態に係るギャップ制御部28は、前述したギャップ位置指令演算部54と、ポジションゲイン演算部56と、位置偏差読取部58とから構成される。ポジションゲイン演算部56は、位置偏差読取部58において取得される位置偏差量に基づいて、適切なポジションゲインの値を算出する。位置偏差読取部58によって取得される位置偏差量は、サーボモータ16のZ軸方向における位置偏差量、すなわちZ軸方向におけるサーボ遅れである。この位置偏差量は、Z軸方向におけるサーボモータ16への位置指令と、実際のサーボモータ16の位置との間の差分を計算することによって得られる。Z軸方向の位置指令はギャップ位置指令演算部54において算出される。サーボモータ16の実際の位置は、サーボモータ16に備え付けられたスケール32によって検出される。サーボモータ16の位置情報は、フィードバック信号52としてサーボ制御部26にフィードバックされ、位置偏差読取部58において位置偏差量が読取られるようになっている。
【0026】
ポジションゲイン演算部56は、サーボモータ16の位置偏差量に基づいて補正ポジションゲインを算出する。ここで算出される補正ポジションゲインは位置制御処理部46に送出される。位置制御処理部46はポジションゲイン切換部を備えており、このポジションゲイン切換部が直前のポジションゲインを補正ポジションゲインに切換えるように作用する。一実施形態において、補正ポジションゲインは、理論式から算出される理論値であるサーボモータ16の理論位置偏差量と、位置偏差読取部58において取得される実際の位置偏差量である実位置偏差量に基づいて算出される。一実施形態において、理論位置偏差量と実位置偏差量との比を直前(補正前)のポジションゲインに乗じることによって、補正ポジションゲインが算出される。
【0027】
この実施形態における補正ポジションゲインの算出方法を具体例とともに説明する。サーボモータ16の理論位置偏差量は、次の式(1)から理論的に求められる。
(位置偏差量)=(送り速度)/(ポジションゲイン) ・・・式(1)
【0028】
例えば、送り速度が10000[mm/min(ミリメートル毎分)]であって直前のポジションゲインが50[1/sec(毎秒)]の場合、(位置偏差量)=(送り速度)/ポジションゲイン=10000/(60×50)=3.33[mm(ミリメートル)]になる。実位置偏差量が5.0[mm]であった場合について考える。この場合、位置偏差量の測定値とその理論値との比は、5.0/3.33=1.50となり、この比の値を直前(補正前)のポジションゲインに乗じて、(補正ポジションゲイン)=50×(5.0/3.33)=75[1/sec]が得られる。ここで算出された補正ポジションゲインを直前のポジションゲインに切換える。このようにして、サーボ機構部の遅れが考慮された最適なポジションゲインに基づいて加工ヘッド12が駆動制御されるようになる。したがって、加工ヘッド12のアプローチ動作の速度が大きくサーボ機構部に遅れが発生しやすい場合であっても加工ヘッド12のオーバーシュートを可及的に防止できる。上記の方法で算出される補正ポジションゲインに任意の係数(例えば予め定められる設定値)をさらに乗算して補正ポジションゲインを調整してもよい。
【0029】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置における処理手順について説明する。図2は、本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置10の作用を説明するためのフローチャートである。以下の記載は、特に言及しない限り、加工ヘッド12のZ軸方向におけるアプローチ動作及び位置決めについて述べるものであることに留意されたい。
【0030】
まず、移動量計算部24から移動指令が出力されると、加工ヘッド12をワーク14に向けて移動させるアプローチ動作が開始される(ステップS1)。ステップS1において、加工ヘッド12のアプローチ動作の速度は一定である。この等速でのアプローチ動作は、ギャップセンサ20が加工ヘッド12とワーク14との間の距離を検出可能になる位置まで継続される。加工ヘッド12がワーク14に十分に接近し、ギャップセンサ20によって検出可能な範囲まで到達すると(ステップS2)、アプローチ動作の速度を減速するようにギャップ位置指令演算部54から速度指令が送出される(ステップS3)。アプローチ動作の減速が始まると、サーボ位置偏差量の取得が開始される(ステップS4)。そして、前述したような方法によって、取得されたサーボ位置偏差量から補正ポジションゲインが算出される(ステップS5)。ポジションゲインの切換が次いで行われ、その時点におけるポジションゲインがステップS5において算出された補正ポジションゲインに置換えられる(ステップS6)。続いて、ギャップセンサ20によって、加工ヘッド12がギャップ基準位置に到達したか否かが判定される(ステップS7)。ステップS7における判定結果がNOの場合はステップS4に再び戻り、加工ヘッド12がギャップ基準位置に到達するまで、サーボ遅れを調整する制御(ステップS4からステップS6)が再び繰り返される。ステップS7における判定結果がYESの場合には加工ヘッド12のアプローチ動作を終了し、レーザ加工が続いて行われる。レーザ加工が行われる間においてもギャップ制御が行われ、加工ヘッド12とワーク14の表面との距離がギャップ基準位置に準じて一定に維持される。
【0031】
続いて図3及び図4を参照して本発明の別の実施形態について説明する。図3は、本発明の実施形態の変形例に係るレーザ加工用制御装置の要部を示すブロック図であり、図1のブロック図におけるギャップ制御部28に対応するギャップ制御部80のみを示している。図4は、本発明の実施形態の変形例に係るレーザ加工用制御装置の要部の作用を説明するためのフローチャートである。図4では、図2のフローチャートにおける処理のステップS4からステップS6までの処理に対応するステップS10からステップS17までが示されている。この実施形態においては、サーボ位置偏差量を考慮する前述した方法において、さらに追加の要素を考慮して補正ポジションゲインが算出される。
【0032】
図3に示されるように、本実施形態のギャップ制御部80は、ギャップ位置指令演算部82と、位置偏差読取部84と、ギャップ量演算部86と、ポジションゲイン演算部88と、ポジションゲイン調整部90と、クランプ部92とから構成される。ギャップ位置指令演算部82の作用は、前述した実施形態におけるギャップ位置指令演算部54と同様であるため、説明は省略する。位置偏差読取部84は図1の位置偏差読取部58と同様の作用を有していて、Z軸方向におけるサーボモータの位置指令と、フィードバックされるサーボモータの位置検出情報とに基づいてサーボ位置偏差量を取得する。ギャップ量演算部86は、ギャップセンサ20(図1)の検出値を利用して、加工ヘッド12のギャップ基準位置までの距離を算出する。
【0033】
ポジションゲイン演算部88は、位置偏差演算部84から送出されるサーボ位置偏差量と、ギャップ量演算部86から送出されるギャップ量とに基づいて補正ポジションゲインを算出する。サーボ位置偏差量は、前述した実施形態と同様に、理論式から導かれる理論位置偏差量との比を算出するために利用される。一方、ギャップ量演算部86において算出されたギャップ量は、補正係数を算出するために利用される。一態様において、この補正係数は、理論位置偏差量と実位置偏差量との比にさらに乗算され、補正ポジションゲインの算出に利用されうる。すなわち、補正ポジションゲインは次の式(2)により算出される。
(補正ポジションゲイン)=(ポジションゲイン)×{(実位置偏差量)/(理論位置偏差量)}×(補正係数) ・・・式(2)
【0034】
例えば、補正係数は、ギャップ基準値までの距離に応じて増減する変数であってもよい。一態様において、ギャップ基準値までの距離が小さくなるのに従って漸次小さくなるように設定されうる。補正係数をどのように設定するかは特に限定されない。例えば、補正係数のとりうる最大値と最小値を予め定めておいて、ギャップ基準位置までの距離に応じて比例計算によって補正係数を算出してもよい。このようにギャップ基準位置までの距離に応じて補正ポジションゲインを調整することによって、アプローチ動作の段階に応じてより緻密に加工ヘッド12を駆動制御できるようになる。例えば、目標位置であるギャップ基準位置に十分に接近したときは、間もなく速度指令がゼロになることが予測されるため、ポジションゲインを小さくすることができる。
【0035】
こうして算出された補正ポジションゲインは、ポジションゲイン調整部90に送出される。ポジションゲイン調整部90は、ポジションゲインが急激に変化するのを防止するフィルタ作用を有する。より具体的には、補正ポジションゲインと補正前のポジションゲインとを比較し、変化量が予め定められた所定範囲を超える場合に、補正ポジションゲインを調整する作用を有する。例えば、ポジションゲインの変化量が前記所定範囲を上回る場合、変化量が前記所定範囲内に収まるように補正ポジションゲインが調整される。単純に一定の係数を乗じて補正ポジションゲインを低減するように調整してもよい。このようにすると、ポジションゲインが急激に変化しなくなるので、サーボモータ16の動作に過大な負荷が加わるのを防止でき、加工ヘッド12のアプローチ動作がより安定化する。
【0036】
クランプ部92は、入力される補正ポジションゲインを予め定められた上限値と比較する。そして、補正ポジションゲインが上限値を超えるとき、補正ポジションゲインが上限値にクランプされ、算出された補正ポジションゲインに代えて上限値が補正ポジションゲインとして出力される。このように上限値を超えないように補正ポジションゲインを調整することによって、ポジションゲインが過度に大きくなってサーボモータ16が発振するのを防止できる。
【0037】
以上、補正ポジションゲインに調整を加える種々の方法について説明したが、上記方法のうちいずれか1つのみを利用してもよいし、1つ又は2つ以上を組合せて利用してもよい。
【0038】
次に図4を参照して、図3に示されるギャップ制御部80における補正ポジションゲインの算出過程について説明する。図4において、図2に関連して既に説明された事項と重複する部分は省略して示されている。先ず、補正ポジションゲインを算出するために利用されるサーボ位置偏差量を取得する(ステップS10)。それとともに、前述したようにギャップ量演算部86において、ギャップセンサ20の検出値に基づいてギャップ量が算出される(ステップS11)。次いで、それらサーボ位置偏差量及びギャップ量に基づいて、前記式(2)から補正ポジションゲインが算出される(ステップS12)。続いて、補正前、すなわち直前のポジションゲインと、ステップS12で算出された補正ポジションゲインとの比較が行われ、補正前後のポジションゲインの変化量が所定範囲内であるか否かについて判定される(ステップS13)。ポジションゲインの変化率が予め定められた所定範囲を超える場合、すなわちポジションゲインが過度に急激に変化しようとする場合には、補正ポジションゲインが再調整される(ステップS14)。ポジションゲインの変化量が所定範囲内である場合には、調整不要と判断されて、直接ステップS15に進む。ステップS15では、ポジションゲインが上限値を超えるか否かについて判定される。ポジションゲインが上限値以下であると判定された場合には、入力された補正ポジションゲインがそのまま補正ポジションゲインとして位置制御処理部46(図1)に送出される。補正ポジションゲインが上限値を超えると判定された場合には、補正ポジションゲインを上限値にクランプするクランプ処理が行われる(ステップS16)。この場合は、クランプされた上限値が補正ポジションゲインとして位置制御処理部46に送出される。位置制御処理部46において、ポジションゲインが補正ポジションゲインに切換えられる(ステップS17)ことについては既に述べた。
【0039】
図5は、本発明の実施形態に係るレーザ加工用制御装置を利用した場合における加工ヘッド12の速度V、ポジションゲインPG及びギャップ量Gの時間特性の一例を示すグラフである。図5は3つのグラフを縦に並べて記載されている。各グラフの横軸は、移動指令を受けた時点t0からの経過時間を表している。グラフの縦軸は、一番上のグラフから順番に速度V、ポジションゲインPG、ギャップ量Gを表しており、それぞれ加工ヘッド12がアプローチ動作を開始してからギャップ基準位置に到るまでの過程における各値の変化を表したものである。
【0040】
3つのグラフにまたがって鉛直方向に引かれた破線のうち破線t1は、一定の速度V1でのアプローチ動作が開始する時点を表している。破線t2は、一定の速度V1でのアプローチ動作が終了し、加工ヘッド12が一定の減速度で減速し始める時点を表している。換言すると、ギャップセンサが加工ヘッド12とワーク14との間のギャップ量を検出するのに十分な範囲まで加工ヘッド12が接近したことを意味している(図5におけるギャップ量G1はギャップセンサ20の検出範囲の上限を表す)。破線t3は、一定の減速度による速度制御から、ギャップセンサ20の出力に応じて定まるギャップ制御による速度制御に切換わる時点を示している。破線t4は、加工ヘッド12がギャップ基準位置G2に到達した時点を表している。
【0041】
時点t2から時点t3までの期間において、加工ヘッド12の速度Vは、前述したようにギャップ位置指令演算部54によって出力される一定の設定減速度に従って減速される。時点t3から時点t4までの期間において、加工ヘッド12は、ギャップセンサ20による検出値に基づいて算出されるギャップ基準位置G2までの距離と、設定値である一定のアプローチゲインとから算出されるアプローチ速度に従って駆動される。このアプローチ速度の計算はギャップ位置指令演算部54においてなされる。時点t3は、速度V1から一定の減速度で減速させて得られる速度と、ギャップ制御によって一定のアプローチゲインに基づいて算出される速度とが交差する時点である。
【0042】
図5に示されるように、ポジションゲインPGは、加工ヘッド12の速度Vが低下し始める時点t2まで一定の設定値が用いられる。時点t2から時点t4までの間は、前述したポジションゲインPGの補正処理が行われ、補正されたポジションゲインPGが使用される。
【符号の説明】
【0043】
10 制御装置
12 加工ヘッド
14 ワーク
16 サーボモータ
20 ギャップセンサ
24 移動量計算部
26 サーボ制御部
28 ギャップ制御部
46 位置制御処理部
48 速度制御処理部
50 電流制御処理部
54 ギャップ位置指令演算部
56 ポジションゲイン演算部
58 位置偏差読取部
80 ギャップ制御部
82 ギャップ位置指令演算部
84 位置偏差演算部
86 ギャップ量演算部
88 ポジションゲイン演算部
90 ポジションゲイン調整部
92 クランプ部
G ギャップ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物から所定距離離間するギャップ基準位置において、加工ヘッドからレーザを照射して前記被加工物をレーザ加工するためのレーザ加工用制御装置であって、
前記加工ヘッドと前記被加工物との間のギャップ量を検出するギャップセンサと、
前記ギャップセンサと協働して、ギャップ位置指令を送出するギャップ位置指令演算部と、
前記ギャップ位置指令に基づいて加工ヘッドを前記ギャップ基準位置まで駆動するサーボ機構部と、
前記サーボ機構部の位置偏差量を読取るサーボ位置偏差読取部と、
前記サーボ機構部の前記位置偏差量に基づいて、前記サーボ機構部のための補正ポジションゲインを算出するポジションゲイン演算部と、
前記サーボ機構部のポジションゲインを、前記ポジションゲイン演算部において算出された前記補正ポジションゲインに切換えるポジションゲイン切換部と、
を備える、レーザ加工用制御装置。
【請求項2】
前記ポジションゲイン演算部が、前記ポジションゲイン及び加工ヘッドのアプローチ速度から理論位置偏差量を算出し、該理論位置偏差量と、前記サーボ位置偏差読取部によって読取られる前記サーボ機構部の前記位置偏差量とに基づいて、前記補正ポジションゲインを算出する、請求項1に記載のレーザ加工用制御装置。
【請求項3】
前記ポジションゲイン演算部が、前記ギャップセンサによって検出される前記ギャップ量に基づいて、前記補正ポジションゲインを調整した調整値を前記補正ポジションゲインとして算出する、請求項1又は2に記載のレーザ加工用制御装置。
【請求項4】
前記ポジションゲイン切換部によって切換えられるポジションゲインの変化量に基づいて前記補正ポジションゲインを調整するポジションゲイン調整部をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工用制御装置。
【請求項5】
前記補正ポジションゲインと、予め定められた所定値とを比較し、前記補正ポジションゲインの値が前記所定値を超える場合に、前記補正ポジションゲインを前記所定値にクランプするクランプ部をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86172(P2013−86172A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232103(P2011−232103)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【特許番号】特許第5166589号(P5166589)
【特許公報発行日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】