説明

加工方法、加工装置、回折光学素子の加工方法、回折光学素子、フォトニック結晶の加工方法、フォトニック結晶、及びインクジェットプリンタのヘッド

【課題】 高精度な形状加工を行う加工方法を提供する。
【解決手段】 光源から出射したコヒーレント光を、位相又は振幅あるいはその両方を変調することによって、被加工物へ照射する光強度分布の整形を行い所望の形状に加工を行う加工方法であって、所望の形状を複数の像に分割し、それぞれの像に対して計算機合成ホログラムを計算し、その結果に対応した複数の変調パターンを時系列に書き換えながら空間光変調素子に形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により被加工材料に形状加工を行う加工方法に関するものであり、特に高い光利用効率で高精度な平面形状加工あるいは立体形状加工を行う加工方法および、その加工方法を実現する加工装置に関するものである。ここで、加工とは直接被加工物の部分的な除去を行うような形状変化だけではなく、変質や重合などの被加工物の部分的な物性変化あるいは組成の変化も含む。
【背景技術】
【0002】
従来の光を用いて形状加工を行う最も一般的な方法としては、光を集光し加工を行う方法で集光点あるいは被加工物を移動させることによって加工を行う方法や、光をマスクに通しマスクの形状を加工面に投影することによって形状加工を行う方法などが存在する。
さらに前者に関しては、被加工物を照射光の光軸に垂直方向に移動させることによって加工を行う方法と、ガルバノスキャナーなどを用いて集光点を走査する方法がある。ガルバノスキャナーを用いた方法では一般的により高速で高精度な加工が可能となる。しかし、集光点を走査するため広い範囲の加工あるいは、面の加工を行う際にはスループットが低いことが問題である。
後者に関しては、マスクの形状を加工面に縮小して投影する方法をとることによって高精度な形状を一括で加工することができる。また、グレースケールマスクを用いることによって立体的な加工も可能である。この加工方法には以下のような問題がある。
先ず、マスクによって光を遮蔽するため投影する形状によっては光利用効率が非常に低いものとなる。またマスクに照射される光強度のむらが加工形状のむらとなる。
これら加工方法の問題を解決し高い光利用効率で形状一括加工を行う方法としてホログラムを用いた加工方法が提案されている。ここで、計算機合成ホログラムの再生像による加工方法では、高い光利用効率で形状一括加工を行うことができるが、ホログラム再生面(すなわち加工面)においてスペックルノイズが現れ加工形状を劣化させる問題がある。
スペックルノイズが生じる原因は光の干渉によるものであり、これについては下記の非特許文献1中で述べられている。
斯かるスペックルノイズを減少させるために以下のような手法が提案されている。即ち、特許文献1には、入射光のビーム径を最適に調整する手法が示されている。
又特許文献2には、複数のホログラム画像を用意し、被加工物へそれら画像をほぼ同位置で照射し、重ね合わせることで、スペックルノイズを積分化し減少させる方法が示されている。
更に、特許文献3には、ホログラム素子を光軸方向あるいは光軸に垂直方向に微小距離動かすことなどで干渉効果を減少させる方法が示されている。
【非特許文献1】応用物理第69巻1号 57−60(2000)
【非特許文献2】N.Yoshikawa and T.Yatagai, Appl.Opt.33,863-867(1994)
【非特許文献3】J.Fienup,Opt.Eng.19,297-305(1980)
【非特許文献4】谷田貝 豊彦,光情報処理の基礎、丸善(1998)
【特許文献1】特許第3430531号
【特許文献2】特許第3475947号
【特許文献3】特開2001−71168公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記いずれの方法においても、スペックルノイズを減少することはできるものの完全に無くすことはできず、またスペックルノイズの減少量も不足であるという欠点があった。
そこで、本発明は、これら従来のレーザ加工での課題を解決し、高精度な形状加工を行う加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、光源から出射したコヒーレント光を、位相又は振幅あるいはその両方を変調することによって、被加工物へ照射する光強度分布の整形を行い所望の形状に加工を行う加工方法であって、所望の形状を複数の像に分割し、それぞれの像に対して計算機合成ホログラムを計算し、その結果に対応した複数の変調パターンを時系列に書き換えながら空間光変調素子に形成する加工方法を最も主要な特徴とする。
請求項2記載の発明では、前記複数の像は、それぞれ離散的な複数の点から構成されている請求項1記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項3記載の発明は、前記コヒーレント光の波長をλ、結像手段の開口数をNAとして、加工部における離散的な複数の点の間隔がλ/NA以上である請求項2記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項4記載の発明は、前記コヒーレント光の強度分布を測定する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項5記載の発明は、光源から出射される光の強度を調整することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項6記載の発明は、光源から出射される光の照射回数或いは照射時間を調整することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項7記載の発明は、前記被加工物に照射する光と前記被加工物との位置を相対的に移動することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項8記載の発明は、加工形態が直接除去加工であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項9記載の発明は、光源が超短パルスレーザ光であることを特徴とする請求項8記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項10記載の発明は、前記被加工物が光源の波長に対して透明であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項11記載の発明は、加工形態に光の多光子吸収過程が利用されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の加工方法を主要な特徴とする。
請求項12記載の発明は、請求項1乃至11の何れか1項に記載の加工方法を実施する加工装置を最も主要な特徴とする。
請求項13記載の発明は、請求項12記載の加工装置を用いた回折光学素子の加工方法を最も主要な特徴とする。
請求項14記載の発明は、請求項13記載の回折光学素子の加工方法により加工された回折光学素子を最も主要な特徴とする。
請求項15記載の発明は、請求項12記載の加工装置を用いたフォトニック結晶の加工方法を最も主要な特徴とする。
請求項16記載の発明は、請求項15記載のフォトニック結晶の加工方法により加工されたフォトニック結晶を最も主要な特徴とする。
請求項17記載の発明は、請求項12記載の加工装置によってノズル穴加工されたインクジェットプリンタのヘッドを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、所望の形状を複数の像に分割し、それぞれの像に対して計算機合成ホログラムを計算し、その結果に対応した複数の変調パターンを時系列に書き換えながら空間光変調素子に形成するようにしているので、高精度な形状加工を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の各実施例を図面に従って説明する。
本発明の加工方法では、コヒーレントな光源から出射した光を、位相あるいは振幅あるいはその両方を変調する空間光変調素子によって、被加工物へ照射する光強度分布の整形を行い、その後結像素子によって所望の形状に加工を行う。空間光変調素子へは、計算機合成ホログラムによって所望の形状が被加工物表面で再生されるように計算されたホログラムデータが入力される。前記、空間光変調素子は位相変調であり、ホログラムが位相変調型ホログラムであることが望ましい。
このとき、前記所望の形状を複数の像に分割し、それぞれの像に対して計算機合成ホログラムを計算し、その結果に対応した複数の計算データを時系列に書き換えながら該空間光変調素子に入力することで、前記複数の像を足し合わせた形状に加工を行う。これら複数の計算機合成ホログラムの計算データは、加工実施中に次々と計算を行っても良いし、あらかじめ複数の計算結果を用意していても良い。
ホログラムデータの計算方法は数多くあり、例えば、位相型ホログラムのひとつであるキノフォームを計算する方法に反復フーリエ変換法やシミュレーテッドアニーリング法などを用いることが可能である。
これらの計算方法に関してはそれぞれ非特許文献2、3の論文に詳しく記載されている。
加工中、光軸、空間光変調素子、被加工物それぞれの相対的な位置関係は固定されていることが望ましい。また、一般的なホログラムは無限遠の回折を表したフラウンホーファ回折を用いて計算を行っている。フラウンホーファ回折はレンズのフーリエ変換作用と同等に考えることができ、レンズの結像によってホログラムを再生することが可能である。この理論に関しては非特許文献4に詳しく説明がされている。
近軸領域では通常の球面レンズであってもフーリエ変換作用の誤差は小さいが、光学系のNAが大きいとき光軸から大きく離れた光も結像に利用される際には、その誤差が像再生の誤差となる。このため、像再生にはフーリエ変換レンズを用いることが有用である。
フーリエ変換レンズの用い方としては、フーリエ変換レンズを単体で用い像再生し加工を行う方法でも良いし、フーリエ変換レンズによって再生した像を、複数枚のレンズを用いて縮小投影を行う方法でも良い。
【0007】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に記載の加工方法を図1および図2を用いて説明する。図1中、レーザ光源1−101から出射されたコヒーレントな光1−102は、透過型の液晶空間光変調素子1−103によって空間的に位相変調を受けた後に、焦点距離fを持つレンズ1−104によって被加工物1−105表面に結像させ加工を行う。
第1の実施形態で用いられている液晶空間光変調素子1−103は液晶に加えられる電場を制御することによって、光の振幅を変化させることなく、位相のみを2π以上の範囲で自由に制御することのできるものであり、電場の制御はコントローラ1−106によってなされている。空間光変調素子へ入力する信号は以下のように定める。
図2中の像1−201を所望の加工形状とする。像1−201を2つに分割し、像1−202および像1−203を作成する。像1−202、像1−203それぞれの像に対して、全く個別に反復フーリエ変換法によるキノフォーム計算を行い、ホログラム像1−204および1−205を得る。コヒーレントな光1−102がホログラム像1−204あるいは1−205と同じ位相分布となるよう、調整した信号を空間光変調素子1−103へ入力する。これら1−103への入力信号を時間的に変えながら加工を行う。
空間光変調素子を用いホログラム像再生で加工を行う方法では、マスクパターンを投影する方法に比べて一般的に光利用効率が高いというメリットがある。
特に、相対的に微小な面積を加工する際には、マスクパターンを投影する加工方法では光利用効率が著しく落ちる。また、空間光変調素子が位相変調型の素子であるとき光の利用効率が高く、より望ましい。しかし、ホログラム像再生による加工方法では、再生像の間で干渉効果が生じるためスペックルノイズが発生し加工形状が悪化する問題がある。
第1の実施形態の加工方法では、再生像を複数回に時間的に分けることで干渉によるスペックルノイズの効果を減少させ、高精度な加工が実現される。
また、複数の回折光学素子を変えながら加工を行う方法が特開2000−280085公報に示されているが、複数の回折光学素子を変えたときに、回折光学素子と光軸との位置合わせが新たに必要となり精密な位置合わせが困難である。本実施例の加工方法においては全く位置合わせをせずに複数のパターンを変えながら加工を行うことができる。
【0008】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の加工方法では、複数の像に分割する際に、それぞれの像が離散的な点画像で構成されるようにする。
図1における空間光変調素子1−103へ入力される信号の決定方法を、図3を用いて説明する。所望の加工形状に相当する像301を離散的な複数の点からなる像302から像305に分割する。その後、像302、像303、像304、像305それぞれに対して、反復フーリエ変換法によるキノフォーム計算を行い、ホログラム像306、像307、像308、像309を得る。これらキノフォーム像に対応する信号を空間光変調素子1−103へ時間的に変えながら入力し加工を行う。加工面において干渉効果を最も少なくするためには、加工部における像が離散的な点で成り立っているのが良い。
[第3の実施形態]
第3の実施形態の加工方法では、前期離散的な点の間隔をλ/NA以上としている。ここでλは光の波長、NAは結像光学系の開口数である。
上記第2の実施形態の加工方法では、所望の像を離散的な点から構成される複数の画像に分割している。このとき、離散的な点の間隔は干渉が加工に影響を及ぼさない程度に開いている必要があり、かつ効率良く加工を行うためには前期複数の画像は枚数が少ないほど良く、離散的な点の間隔はなるべく近いほうが良い。レンズのフーリエ変換作用を用いたホログラムにおいて加工部における点像は振幅分布がsinc(λ/NA)で表されることが非特許文献1で述べられている。
これについて、図4を用いて詳しく説明する。例としてホログラム面401が計算機によって合成された多数のセル402によって構成されていると考える。このとき、ホログラム面401に対応する像面403(すなわち加工面)では、再生像はスポット404が複数重ね合わされた状態として表される。
ひとつのスポット404の振幅分布405はsinc(λ/NA)で表される。よってスポット同士で光が重なる部位が生じることとなり、ここで干渉現象が表れる。これによってスペックルノイズが生じることとなる。
sinc関数は無限遠まで広がっており、原理的には複数の点をどこまで離してもごくわずかながら干渉が生じることになる。しかし、sinc関数は中心よりλ/NA離れた点で一旦強度はゼロとなり、点像の間隔としてはλ/NA以上あれば強い干渉は起きない。
【0009】
[第4の実施形態]
第4の実施形態の加工方法では、加工物へ照射されるレーザ光の強度分布を測定する手段を備えており、加工中あるいは加工前に強度分布を測定する。
ホログラム像の計算方法としてシミュレーテッドアニーリング法を例にとって、実施例を説明する。シミュレーテッドアニーリング法は図5(S1〜S9)のようなアルゴリズムによって計算機中で計算が行われる。これに対し、実際に加工面に照射されるレーザ光の強度分布を観測することによって、観測結果と理想像との誤差を用いて、図6のようなアルゴリズムで計算を行うことが可能となる。これによって、より理想像に近い加工が可能となる。
光の強度を加工閾値以下とした状態で、被加工物へ照射する光の強度分布を調べることによって、その強度分布結果をホログラムの計算結果へフィードバックし、より精度の高いホログラム像再生、またその像による加工が可能となる。
[第5の実施形態]
第5の実施形態の加工方法では、光源から出射される光の強度を調整する機構を備えている。
加工に用いる光の全強度に対して加工部におけるフルエンス(単位面積当たりの光強度)はホログラムの面積に反比例する。よって、加工に用いる光の全強度が再生するホログラムの面積に反比例するように調整を行うことで、同じフルエンスで光を照射することが可能となり、深さ方向にむらのない精密な加工を行うことが可能となる。
【0010】
[第6の実施形態]
第6の実施形態の加工方法では、光源から出射される光の照射回数あるいは照射時間を調整する。光源がパルス的に光を放出するものであればパルス数を調整し、連続光のときは照射時間を調整する。照射回数あるいは照射時間を調整するためには、メカニカルシャッター、音響光学素子、電気光学素子などを利用することができる。これら照射回数、または照射時間を調整する素子は、空間光変調素子と同期して制御されていることが好ましい。光の照射時間あるいは照射回数は、第5の実施形態の強度分布を測定する装置からの結果をフィードバックすることによって制御する形態をとることもできる。
異なるホログラムを再生する際に、ホログラムによって照射する光のパルス数あるいは照射時間を変えることによって、立体的な形状加工を容易に行うことが可能である。
[第7の実施形態]
第7の実施形態の加工方法では、被加工物に照射する光と被加工物との位置を相対的に移動する手段を備えている。この移動手段としては、照射する光を走査するガルバノミラーや、被加工物を移動させるステージなどがある。
形状加工と、被加工物に照射する光と被加工物との位置を相対的に移動させることを繰り返すことによって広範囲な面積の形状加工が可能となる。また、被加工物に照射する光と被加工物との位置を光軸と垂直方向に移動させることによって立体的な加工も可能である。
[第8の実施形態]
加工形態が直接除去加工である。光の照射によって、加工物の表面の一部を直接除去して行う加工方法は、簡易で少ないプロセス数で形状加工を行うことができる点で優れている。また、直接除去加工では加工の閾値が存在しており、閾値以下の光がいくら照射しても被加工物へ影響を与えない。ホログラム像を加工に用いる際にはホログラム像再生時に発生するノイズの影響が懸念される。
特に、本実施例の加工方法のように複数回ホログラム像による加工を行う際には、ノイズが積算されて加工に影響をおよぼす可能性がある。しかし、加工形態が直接除去加工であれば、ノイズを加工閾値以下になるように第6の実施形態の強度調整機構によって照射光強度を調整することで、ノイズの影響を全く受けずに加工を行うことが可能となる。
【0011】
[第9の実施形態]
光源が超短パルスレーザ光である。ここで、超短パルスレーザとは、レーザ光の時間的なパルス幅が数ps以下であるレーザのことである。
直接除去加工では、レーザ光の熱が加工部周辺に伝播することによって加工形状が悪化する問題がある。特に、微細な形状を加工する際には熱の伝播による影響が無視できない。
パルス幅が数ps以下の超短パルスレーザ光による加工では、被加工物とレーザ光との相互作用時間が非常に短いため熱の伝播の影響を小さく抑えることができる。また、超短パルスレーザ光では非常に強いエネルギーが瞬間的に発生するため、低エネルギーで加工できる、あるいはダイヤモンドやガラスや酸化物などの難加工材に対しても直接除去加工が可能であるというメリットがある。
[第10の実施形態]
加工形態に光の多光子吸収が利用されている。たとえばn個の光子吸収によって生じる加工では、加工は光エネルギーのn乗に比例した値による。集光したレーザ光は強度分布を持っており、通常はガウスビームで表される。多光子吸収による加工では、ガウスビーム強度分布のn乗の分布に比例した強度分布で加工が行われることになるため、実質的に加工幅が狭くなることになる。これによって、たとえば一般的な回折限界(波長の半分程度)を超えた超微細加工が可能になる。
多光子吸収を利用した加工方法では、回折限界以下の微細な加工が可能である。また、レーザ光の波長に対して吸収を持たない材料であっても、多光子吸収をおこさせることによって加工が可能である。
【0012】
[第11の実施形態]
被加工物が光源の波長に対して透明である。図7に第11の実施形態の加工装置を示す。被加工物として光重合性樹脂1301を用いる。光源Ti:Sapphireレーザ1302より出射されたパルス幅120fsを持つコヒーレント光1303はλ/2波長板1304および偏光ビームスプリッタ1305を通すことによって強度調整される。
前記ビームは液晶を用いた透過型空間光変調素子1306によって位相変調を受けた後に、対物レンズ1307によって光重合性樹脂1301の内部または表面に結像され加工が行われる。ここで、加工とは重合反応であり、液体である光重合性樹脂は光照射した部分のみが多光子吸収によって固化する。
また、被加工物は光軸と垂直方向(図中z方向)に可動なステージ1308に固定されており、ステージ1308を動かしながら加工を行うことで3次元的な形状加工が行える。これら加工中、空間光変調素子1306への入力信号は随時変えられながら行われる。
被加工物が透明であるとき、被加工物内部に加工面が来るように、前記結像光学系あるいは前記移動手段を調整することによって、加工物内部を加工することが可能である。このとき、加工形態としては第11の実施形態の多光子吸収過程が用いられる。
平面形状一括して加工する方法ではマスクを用い、マスク形状を縮小投影する一般的であるが、この方法では投影面の前後いずれかに投影面以上に光強度の強い面が表れるため、投影面で物体内部を加工することは不可能である。このため、透明体内部に形状加工を行う際には光を集光照射し、集光点あるいは加工物をスキャンすることで行われてきた。
この方法では、加工に時間がかかりスループットが低い問題があったが、本実施例の方法ではパターン一括で加工が行えるため、短時間でしかも精密な加工が可能である。
【0013】
[第12の実施形態]
第12の実施形態は、第1の実施形態から12記載の加工方法を実現するための加工装置である。
図8は、第12の実施形態の加工装置を示す。光源としてパルス幅120fsのTi:Sapphireレーザ1401を用いる。光源1401より出射されたコヒーレント光1402はλ/2波長板1403および偏光ビームスプリッタ1404を通すことによって強度調整される。
前記ビームは液晶を用いた透過型空間光変調素子1405によって位相変調を受けた後に、ダイクロイックミラー1406および対物レンズ1407によって被加工物1408表面に結像され加工が行われる。または、被加工物はx,y,z3軸方向に可動なステージ1409に固定されている。被加工物表面および、加工物表面に照射される光強度は結像レンズ1410を通してCCD1411へ取り込まれ、モニタ1412で観察することができる。
レーザ1401にはシャッター1413が備え付けられており、空間光変調素子1405のコントローラ1414およびシャッター1413およびステージ1409はひとつの制御装置1414によって同時制御されている。また、制御装置1414は空間光変調素子1405へ入力するためのホログラム計算を行うこともできるようになっている。
[第13の実施形態]
第13の実施形態は、第12の実施形態の加工装置によって作製した回折光学素子である。第12の実施形態の加工装置を用いることで、高精度な回折光学素子を容易に作製することが可能である。
【0014】
[第14の実施形態]
第14の実施形態は、第12の実施形態の加工装置によって作製したフォトニック結晶である。第14の実施形態におけるフォトニック結晶例を図9に示す。
フォトニック結晶1601は、光硬化性樹脂を第12の実施形態の加工装置で光照射することによって作製される。フォトニック結晶1601は多数の微小球1602によって構成されており、多数の球1602はダイヤモンド結晶構造をとるように配置されている。フォトニック結晶1601内部には曲線状の線欠陥1603が作られており、極微細な光導波路として機能する。
第12の実施形態の加工装置を用いることによって周期的な構造を持つフォトニック結晶を高精度に容易に加工することが可能である。
特に、第11の実施形態の透明体を被加工物とすることによって3次元的な周期構造を持ったフォトニック結晶を作製可能である。
従来レーザによって3次元的なフォトニック結晶を作製する方法としては複数の光をお互いに角度をつけて照射することで加工を行う方法があった。
しかし、この方法では加工形状に制限があり、欠陥を含むフォトニック結晶の作製は不可能であった。第12の実施形態の加工装置を用いることによって多様なフォトニック結晶の作製および、欠陥を含んだフォトニック結晶の作製が可能である。
[第15の実施形態]
第15の実施形態は、インクジェットプリンタのヘッドである。公知のインクジェットプリンタのヘッドが、第12の実施形態に示す加工装置によって非常に多数の周期的穴形状を高精度に容易に加工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、数μmから数百nmの分解能を必要とする高精度部品加工、特にMEMSや回折光学素子などの2次元あるいは3次元の形状加工品、あるいはフォトニック結晶、プリント基板、インクジェットヘッドなどの微細な多数の穴形状を持つ部品の加工に応用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態の説明図である。
【図2】第1の実施形態の説明図である。
【図3】第2の実施形態の説明図である。
【図4】第3の実施形態の説明図である。
【図5】第4の実施形態のフロー図である。
【図6】第4の実施形態のフロー図である。
【図7】第11の実施形態の説明図である。
【図8】第12の実施形態の説明図である。
【図9】第14の実施形態の説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1−101 レーザ光源、1−102 コヒーレントな光、1−103 空間光変調素子、1−104 レンズ、1−105 被加工物、1−106 空間光変調素子のコントローラ、1−201 所望の加工形状に相当する像、1−202 1−201の形状を分割した形状1、1−203 1−201の形状を分割した形状2、1−204 1−202を再生するキノフォーム、1−205 1−203を再生するキノフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射したコヒーレント光を、位相又は振幅あるいはその両方を変調することによって、被加工物へ照射する光強度分布の整形を行い所望の形状に加工を行う加工方法であって、
所望の形状を複数の像に分割し、それぞれの像に対して計算機合成ホログラムを計算し、その結果に対応した複数の変調パターンを時系列に書き換えながら空間光変調素子に形成するようにしたことを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記複数の像は、それぞれ離散的な複数の点から構成されていることを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項3】
前記コヒーレント光の波長をλ、結像手段の開口数をNAとして、加工部における離散的な複数の点の間隔がλ/NA以上であることを特徴とする請求項2記載の加工方法。
【請求項4】
前記コヒーレント光の強度分布を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項5】
光源から出射される光の強度を調整することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項6】
光源から出射される光の照射回数或いは照射時間を調整することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項7】
前記被加工物に照射する光と前記被加工物との位置を相対的に移動することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項8】
加工形態が直接除去加工であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項9】
光源が超短パルスレーザ光であることを特徴とする請求項8記載の加工方法。
【請求項10】
前記被加工物が光源の波長に対して透明であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項11】
加工形態に光の多光子吸収過程が利用されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の加工方法を実施することを特徴とする加工装置。
【請求項13】
請求項12記載の加工装置を用いたことを特徴する回折光学素子の加工方法。
【請求項14】
請求項13記載の回折光学素子の加工方法により加工されたことを特徴とする回折光学素子。
【請求項15】
請求項12記載の加工装置を用いたことを特徴とするフォトニック結晶の加工方法。
【請求項16】
請求項15記載のフォトニック結晶の加工方法により加工されたフォトニック結晶。
【請求項17】
請求項12記載の加工装置によってノズル穴加工されたインクジェットプリンタのヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−212698(P2006−212698A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31103(P2005−31103)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】