説明

加減速度制御装置、加減速度制御方法

【課題】アクセル操作子にブレーキ操作子の機能を統合した場合の減速操作性を向上させる。
【解決手段】操作量Saに応じて目標加減速度Gaを設定し、操作量Sbに応じて目標加減速度Gbを設定する。そして、目標加減速度Ga設定手段で設定した目標加減速度Gaと目標加減速度Gb設定手段で設定した目標加減速度Gbとを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御する(S104、S105)。そして、統合操作制御モードの場合(S101の判定が“No”)、操作量Saが0よりも大きな閾値thであるときには目標加減速度Gaを0とし、操作量Saが閾値thよりも小さいほど目標加減速度Gaの実数を負側に小さくする(S106)。また、操作量Sbが大きいほど目標加減速度Gbの実数を負側に小さくする(S107)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加減速度制御装置、加減速度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクセルペダルにブレーキペダルの機能を統合し、アクセルペダルの操作だけで車両を加速させたり減速させたりする技術思想がある。
例えば特許文献1に記載の従来技術では、アクセル開度が小さい範囲では、アクセルペダルを踏み戻すほど車両を減速させ、アクセル開度が大きい範囲では、アクセルペダルを踏み増すほど車両を加速させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−137324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、アクセルペダルの可動範囲を、加速制御範囲と減速制御範囲とに区分けしており、減速制御に使用できる範囲が限られているので、コントロール性の観点から、ある程度の減速度までしか発生させることができない。それ以上の減速度が必要であれば、運転者はブレーキペダルを追加で踏み込まなければならないが、ある程度の減速度が既に作用しているので、それを上回る踏み込み量がないと減速度が増加せず、運転者の意図した減速度が得られない。
本発明の課題は、アクセル操作子にブレーキ操作子の機能を統合した場合の減速操作性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、ブレーキ操作子の操作量がゼロのときに、車両に付与する制動力をゼロとし、ブレーキ操作子の操作量の増加に応じて制動力をゼロから増加させ、アクセル操作子の操作量がゼロのときに、車両に付与する駆動力をゼロとし、アクセル操作子の操作量の増加に応じて駆動力をゼロから増加させる。また、アクセル操作子の操作量が所定操作量以下であるときに、アクセル操作子の操作量に応じて所定の制動力を車両に付与すると共に、ブレーキ操作子の操作量がゼロのときであっても、上記所定の制動力の付与を維持する。また、所定の制動力を車両に付与している状態で、ブレーキ操作子の操作量が増加したときに、ブレーキ操作子の操作量に応じて車両に付与する制動力を、上記所定の制動力から増加させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る加減速度制御装置によれば、アクセル操作子の操作量が所定操作量以下であるときは、ブレーキ操作子の操作量がゼロのときであっても、アクセル操作子の操作量に応じて所定の制動力が車両に付与される。この状態で、ブレーキ操作子の操作量が増加すると、ブレーキ操作子の操作量に応じて車両に付与する制動力を、上記所定の制動力から増加させる。したがって、運転者がアクセル操作子の操作を中止するだけで、ある程度の減速度で車両を減速させることができ、さらに追加でブレーキ操作子を操作すれば、運転者が意図したさらに大きな減速度で車両を減速させることができるので、減速操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】加減速度制御装置の概略構成図である。
【図2】ブレーキアクチュエータの概略構成図である。
【図3】加減速度制御処理を示すフローチャートである。
【図4】個別操作制御モード時の目標加減速度Gaの設定に用いるマップである。
【図5】個別操作制御モード時の目標加減速度Gbの設定に用いるマップである。
【図6】統合操作制御モード時の目標加減速度Gaの設定に用いるマップである。
【図7】統合操作制御モード時の目標加減速度Gbの設定に用いるマップである。
【図8】比較例の動作を示すタイムチャートの一例である。
【図9】第1実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
【図10】第2実施形態の加減速度制御処理を示すフローチャートである。
【図11】統合操作制御モード時の目標加減速度Gtの設定に用いるマップである。
【図12】第2実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
【図13】第2実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
《構成》
図1は、加減速度制御装置の概略構成図である。
加減速度制御装置は、車輪回転センサ1と、アクセルセンサ2と、ブレーキストロークセンサ3と、ブレーキ踏力センサ4と、制御モード選択スイッチ21と、コントローラ5と、駆動力制御装置6と、ブレーキアクチュエータ7と、を備える。
車輪回転センサ1は、各車輪の車輪速度を検出する。この車輪回転センサ1は、例えばセンサロータの磁力線を検出回路によって検出しており、センサロータの回転に伴う磁界の変化を電流信号に変換してコントローラ5へ入力する。コントローラ5は、入力した電流信号から車輪速度を判断する。
【0009】
アクセルセンサ2は、アクセルペダル8の操作位置(踏み込み量)を検出する。このアクセルセンサ2は、例えばポテンショメータであり、アクセルペダル8の操作位置を電圧信号に変換してコントローラ5へ入力する。コントローラ5は、入力した電圧信号からアクセルペダル8の操作位置を判断する。アクセルペダル8は、非操作時の非操作位置Sa0からストロークエンドとなる最大操作位置SaMAXの範囲で可動する。
【0010】
ブレーキストロークセンサ3は、ブレーキペダル9の操作位置(踏み込み量)を検出する。このブレーキストロークセンサ3は、例えばポテンショメータであり、ブレーキペダル9の操作位置を電圧信号に変換してコントローラ5へ入力する。コントローラ5は、入力した電圧信号からブレーキペダル9の操作位置を判断する。ブレーキペダル9は、非操作時の非操作位置Sb0からストロークエンドとなる最大操作位置SbMAXの範囲で可動する。
【0011】
ブレーキ踏力センサ4は、ブレーキペダル9に作用する運転者の踏力を検出する。このブレーキ踏力センサ4は、例えばブレーキペダル9の表面に設けた歪ゲージであり、抵抗体の歪を電気抵抗の変化として検出し、踏力に比例した電圧信号に変換してコントローラ5へ入力する。コントローラ5は、入力した電圧信号からブレーキペダル9に作用する運転者の踏力を判断する。
【0012】
制御モード選択スイッチ21は、運転者が操作可能なスイッチであり、個別操作制御モードと統合操作制御モードの何れか一方に切換えることができ、その切換え状況をコントローラ5へ入力する。個別操作制御モードとは、コンベンショナルな車両と同じように、アクセルペダル8の操作に応じて車両を加速させ、ブレーキペダル9の操作に応じて車両を減速させる制御モードである。統合操作制御モードとは、アクセルペダル8の操作に応じて車両を加速又は減速させ(ワンペダル方式)、ブレーキペダル9の操作に応じて車両を減速させる制御モードである。
【0013】
コントローラ5は、例えばマイクロコンピュータからなり、各センサからの検出信号に基づいて後述する加減速度制御処理を実行し、駆動力制御装置6とブレーキアクチュエータ7とを駆動制御する。
駆動力制御装置6は、回転駆動源の駆動力を制御する。例えば、回転駆動源がエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料噴射量、点火時期などを調整することで、エンジン出力(回転数やエンジントルク)を制御する。また、回転駆動源がモータであれば、インバータを介してモータ出力(回転数やモータトルク)を制御する。
【0014】
図2は、ブレーキアクチュエータの概略構成図である。
ブレーキアクチュエータ7は、マスターシリンダ10と各ホイールシリンダ11FL〜11RRとの間に介装してある。
マスターシリンダ10は、運転者のペダル踏力に応じて2系統の液圧を作るタンデム式のもので、プライマリ側をフロント左・リア右のホイールシリンダ11FL・11RRに伝達し、セカンダリ側を右前輪・左後輪のホイールシリンダ11FR・11RLに伝達するダイアゴナルスプリット方式を採用している。
【0015】
各ホイールシリンダ11FL〜11RRは、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキに内蔵してある。
ブレーキアクチュエータ7は、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)、スタビリティ制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)等に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものであり、運転者のブレーキ操作に係らず各ホイールシリンダ11FL〜11RRの液圧を増圧・保持・減圧できる。
プライマリ側は、第1ゲートバルブ12Aと、インレットバルブ13FL(13RR)と、アキュムレータ14と、アウトレットバルブ15FL(15RR)と、第2ゲートバルブ16Aと、ポンプ17と、ダンパー室18と、を備える。
【0016】
第1ゲートバルブ12Aは、マスターシリンダ10及びホイールシリンダ11FL(11RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のバルブである。インレットバルブ13FL(13RR)は、第1ゲートバルブ12A及びホイールシリンダ11FL(11RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のバルブである。アキュムレータ14は、ホイールシリンダ11FL(11RR)及びインレットバルブ13FL(13RR)間に連通してある。アウトレットバルブ15FL(15RR)は、ホイールシリンダ11FL(11RR)及びアキュムレータ14間の流路を開放可能なノーマルクローズ型のバルブである。第2ゲートバルブ16Aは、マスターシリンダ10及び第1ゲートバルブ12A間とアキュムレータ14及びアウトレットバルブ15FL(15RR)間とを連通した流路を開放可能なノーマルクローズ型のバルブである。ポンプ17は、アキュムレータ14及びアウトレットバルブ15FL(15RR)間に吸入側を連通し、且つ第1ゲートバルブ12A及びインレットバルブ13FL(13RR)間に吐出側を連通してある。ダンパー室18は、ポンプ17の吐出側に設けてあり、吐出されたブレーキ液の脈動を抑制し、ペダル振動を弱める。
【0017】
また、セカンダリ側も、プライマリ側と同様に、第1ゲートバルブ12Bと、インレットバルブ13FR(13RL)と、アキュムレータ14と、アウトレットバルブ15FR(15RL)と、第2ゲートバルブ16Bと、ポンプ17と、ダンパー室18と、を備えている。
第1ゲートバルブ12A・12Bと、インレットバルブ13FL〜13RRと、アウトレットバルブ15FL〜15RRと、第2ゲートバルブ16A・16Bとは、夫々、2ポート2ポジション切換・シングルソレノイド・スプリングオフセット式の電磁操作弁である。また、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRは、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bは、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成してある。
【0018】
また、アキュムレータ14は、シリンダのピストンに圧縮バネを対向させたバネ形のアキュムレータで構成してある。
また、ポンプ17は、負荷圧力に係りなく略一定の吐出量を確保できる歯車ポンプ、ピストンポンプ等、容積形のポンプで構成してある。
上記の構成により、プライマリ側を例に説明すると、第1ゲートバルブ12A、インレットバルブ13FL(13RR)、アウトレットバルブ15FL(15RR)、及び第2ゲートバルブ16Aが全て非励磁のノーマル位置にあるときに、マスターシリンダ10からの液圧がそのままホイールシリンダ11FL(11RR)に伝達され、通常ブレーキとなる。
【0019】
また、ブレーキペダルが非操作状態であっても、インレットバルブ13FL(13RR)、及びアウトレットバルブ15FL(15RR)を非励磁のノーマル位置にしたまま、第1ゲートバルブ12Aを励磁して閉鎖すると共に、第2ゲートバルブ16Aを励磁して開放し、更にポンプ17を駆動することで、マスターシリンダ10の液圧を第2ゲートバルブ16Aを介して吸入し、吐出される液圧をインレットバルブ13FL(13RR)を介してホイールシリンダ11FL(11RR)に伝達し、増圧させることができる。
【0020】
また、第1ゲートバルブ12A、アウトレットバルブ15FL(15RR)、及び第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FL(13RR)を励磁して閉鎖すると、ホイールシリンダ11FL(11RR)からマスターシリンダ10及びアキュムレータ14への夫々の流路が遮断され、ホイールシリンダ11FL(11RR)の液圧が保持される。
【0021】
さらに、第1ゲートバルブ12A及び第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FL(13RR)を励磁して閉鎖すると共に、アウトレットバルブ15FL(15RR)を励磁して開放すると、ホイールシリンダ11FL(11RR)の液圧がアキュムレータ14に流入して減圧される。アキュムレータ14に流入した液圧は、ポンプ17によって吸入され、マスターシリンダ10に戻される。
【0022】
セカンダリ側に関しても、通常ブレーキ・増圧・保持・減圧の動作は、上記プライマリ側の動作と同様であるため、その詳細説明は省略する。
したがって、コントローラ5は、第1ゲートバルブ12A・12Bと、インレットバルブ13FL〜13RRと、アウトレットバルブ15FL〜15RRと、第2ゲートバルブ16A・16Bと、ポンプ17とを駆動制御することによって、各ホイールシリンダ11FL〜11RRの液圧を増圧・保持・減圧する。
【0023】
なお、本実施形態では、ブレーキ系統をフロント左・リア右とフロント右・リア左とで分割するダイアゴナルスプリット方式を採用しているが、これに限定されるものではなく、フロント左右とリア左右とで分割する前後スプリット方式を採用してもよい。
また、本実施形態では、バネ形のアキュムレータ14を採用しているが、これに限定されるものではなく、各ホイールシリンダ11FL〜11RRから抜いたブレーキ液を一時的に貯え、減圧を効率よく行うことができればよいので、重錘形、ガス圧縮直圧形、ピストン形、金属ベローズ形、ダイヤフラム形、ブラダ形、インライン形など、任意のタイプでよい。
【0024】
また、本実施形態では、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bが、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成しているが、これに限定されるものではない。要は、各バルブの開閉を行うことができればよいので、第1ゲートバルブ12A・12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが、励磁したオフセット位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A・16Bが、励磁したオフセット位置で流路を閉鎖するようにしてもよい。
【0025】
次に、コントローラ5で所定時間(例えば10msec)毎に実行する加減速度制御処理について説明する。
図3は、加減速度制御処理を示すフローチャートである。
先ずステップS101では、切換えフラグfsが0にリセットされているか否かを判定する。この切換えフラグfsは、制御モード切換えスイッチ21の切換え状態を表し、初期設定ではfs=0にリセットしてある。判定結果がfs=0のときには、個別操作制御モードを実行するためにステップS102に移行する。一方、判定結果がfs=1のときには、統合操作制御モードを実行するためにステップS106に移行する。
【0026】
ステップS102では、図4のマップを参照し、アクセルペダル8の操作量Saに応じて目標加減速度Gaを設定する。操作量Saとは、アクセルセンサ2で検出したアクセルペダル8の操作位置である。
図4は、個別操作制御モード時の目標加減速度Gaの設定に用いるマップである。
このマップは、横軸が操作量Saであり、縦軸が目標加減速度Gaである。目標加減速度Gaは、便宜上、正値を加速度とし、負値を減速度とする。先ず、操作量Saが0(非操作状態)から予め定められた設定値Sa1の範囲にあれば、目標加減速度Gaが0を維持する。ここで、設定値Sa1までの区間αは、アクセルペダル8の所謂ロスストロークや遊びに相当し、操作フィーリングによって調整するパラメータである。また、操作量Saが設定値Sa1から最大操作量SaMAXの範囲で増加するときに、目標加減速度Gaが0から正側の最大加減速度GaMAXの範囲で増加する。この特性線は、線形でなくとも、非線形としてもよい。
【0027】
最大加減速度GaMAXは、固定値でもよいが、例えば進行方向に対する路面勾配に応じて可変としてもよい。すなわち、進行方向に対する路面勾配が上り勾配であるほど、車両は加速しにくくなるので、上り方向の勾配が大きいほど最大加減速度GaMAXを大きくする。逆に、進行方向に対する路面勾配が下り勾配であるほど、車両が加速しやすくなるので、下り方向の勾配が大きいほど最大加減速度GaMAXを小さくする。このように、路面勾配に応じて最大加減速度GaMAXを可変とすることで、平坦路のときと同等の加速度を得られる。したがって、平坦路のときと同じ感覚でアクセルペダル8を踏み込んでも、加速度の過不足を抑制し、運転者の意図した加速度を達成することができる。
続くステップS103では、図5のマップを参照し、ブレーキペダル9の操作量Sbに応じて目標加減速度Gbを設定する。操作量Sbとは、ブレーキストロークセンサ3で検出したブレーキペダル9の操作位置、及びブレーキ踏力センサ4で検出した運転者の踏力の少なくとも一方である。
【0028】
図5は、個別操作制御モード時の目標加減速度Gbの設定に用いるマップである。
このマップは、横軸が操作量Sbであり、縦軸が目標加減速度Gbである。目標加減速度Gbは、便宜上、正値を加速度とし、負値を減速度とする。先ず、操作量Sbが0(非操作状態)から予め定められた設定値Sb1の範囲にあれば、目標加減速度Gbが0を維持する。ここで、設定値Sb1までの区間αは、ブレーキペダル9の所謂ロスストロークや遊びに相当し、操作フィーリングによって調整するパラメータである。また、操作量Sbが設定値Sb1から最大操作量SbMAXの範囲で増加するときに、目標加減速度Gbが0から負側の最小加減速度GbMINの範囲で減少する。この特性線は、実線で示すような線形でなくとも、一点鎖線で示すように非線形としてもよい。
【0029】
最小加減速度GbMINは、固定値でもよいが、例えば進行方向に対する路面勾配に応じて可変としてもよい。すなわち、進行方向に対する路面勾配が下り勾配であるほど、車両は減速しにくくなるので、下り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GbMINの実数を小さく(絶対値は大きく)する。逆に、進行方向に対する路面勾配が上り勾配であるほど、車両が減速しやすくなるので、上り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GbMINの実数を大きく(絶対値は小さく)する。このように、路面勾配に応じて最小加減速度GbMINを可変とすることで、平坦路のときと同等の減速度を得られる。したがって、平坦路のときと同じ感覚でブレーキペダル9を踏み込んでも、減速度の過不足を抑制し、運転者の意図した減速度を達成することができる。
【0030】
続くステップS104では、下記に示すように、目標加減速度Gaと目標加減速度Gbとを加算して最終的な目標加減速度Gを設定する。
G=Ga+Gb
続くステップS105では、目標加減速度Gに基づいて、駆動力制御装置6とブレーキアクチュエータ7とを駆動制御してから、所定のメインプログラムに復帰する。
【0031】
具体的には、目標加減速度Gが正値であるときには、車両を加速させるために、駆動力制御装置6を介して駆動力を増加させる。一方、目標加減速度Gが負値であるときには、車両を減速させるために、駆動力制御装置6を介して駆動力を制限し、ブレーキアクチュエータ7を介して制動力を増加させる。
ステップS106では、図6のマップを参照し、アクセルペダル8の操作量Saに応じて目標加減速度Gaを設定する。操作量Saとは、アクセルセンサ2で検出したアクセルペダル8の操作位置である。
【0032】
図6は、統合操作制御モード時の目標加減速度Gaの設定に用いるマップである。
このマップは、横軸が操作量Saであり、縦軸が目標加減速度Gaである。目標加減速度Gaは、便宜上、正値を加速度とし、負値を減速度とする。個別操作制御モード時と異なる主な点は、アクセルペダル8の操作量Saだけで、目標加減速度Gaを正側だけでなく、負側にも振れることである。
【0033】
先ず、操作量Saが0よりも大きな予め定められた閾値thであるときには、目標加減速度Gaが0となり、操作量Saが閾値thよりも小さいほど、目標加減速度Gaの実数が負側に小さく(絶対値は大きく)なる。この特性線は、線形でなくとも、非線形としてもよい。また、操作量Saが0から設定値Sa1の範囲にあれば、目標加減速度Gaが最小加減速度GaMINを維持する。ここで、設定値Sa1までの区間αは、アクセルペダル8の所謂ロスストロークや遊びに相当し、操作フィーリングによって調整するパラメータである。
【0034】
最小加減速度GaMINは、固定値でもよいが、例えば進行方向に対する路面勾配に応じて可変としてもよい。すなわち、進行方向に対する路面勾配が下り勾配であるほど、車両は減速しにくくなるので、下り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GaMINの実数を小さく(絶対値は大きく)する。逆に、進行方向に対する路面勾配が上り勾配であるほど、車両が減速しやすくなるので、上り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GaMINの実数を大きく(絶対値は小さく)する。このように、路面勾配に応じて最小加減速度GaMINを可変とすることで、平坦路のときと同等の減速度を得られる。したがって、平坦路のときと同じ感覚でアクセルペダル8を踏み戻しても、減速度の過不足を抑制し、運転者の意図した減速度を達成することができる。
【0035】
一方、操作量Saが閾値thから予め定められた設定値Sa2(th<Sa2)の範囲にあれば、目標加減速度Gaが0を維持する。ここで、閾値thから設定値Sa2までの区間は、前述したα相当とし、操作フィーリングによって調整するパラメータである。また、操作量Saが設定値Sa2から最大操作量SaMAXの範囲で増加するときに、目標加減速度Gaが0から正側の最大加減速度GaMAXの範囲で増加する。この特性線は、線形でなくとも、非線形としてもよい。
【0036】
最大加減速度GaMAXは、固定値でもよいが、例えば進行方向に対する路面勾配に応じて可変としてもよい。すなわち、進行方向に対する路面勾配が上り勾配であるほど、車両は加速しにくくなるので、上り方向の勾配が大きいほど最大加減速度GaMAXを大きくする。逆に、進行方向に対する路面勾配が下り勾配であるほど、車両が加速しやすくなるので、下り方向の勾配が大きいほど最大加減速度GaMAXを小さくする。このように、路面勾配に応じて最大加減速度GaMAXを可変とすることで、平坦路のときと同等の加速度を得られる。したがって、平坦路のときと同じ感覚でアクセルペダル8を踏み込んでも、加速度の過不足を抑制し、運転者の意図した加速度を達成することができる。
【0037】
続くステップS107では、図7のマップを参照し、ブレーキペダル9の操作量Sbに応じて目標加減速度Gbを設定してから前記ステップS104に移行する。操作量Sbとは、ブレーキストロークセンサ3で検出したブレーキペダル9の操作位置、及びブレーキ踏力センサ4で検出した運転者の踏力の少なくとも一方である。
【0038】
図7は、統合操作制御モード時の目標加減速度Gbの設定に用いるマップである。
このマップは、横軸が操作量Sbであり、縦軸が目標加減速度Gbである。目標加減速度Gbは、便宜上、正値を加速度とし、負値を減速度とする。個別操作制御モード時と異なる主な点は、ブレーキペダル9に対する操作初期のロスストロークや遊びに相当するαを排除したことである。
【0039】
先ず、操作量Sbが0(非操作状態)から予め定められた設定値Sb2の範囲で増加するときに、目標加減速度Gbが0から負側の最小加減速度GbMINの範囲で減少する。この特性線は、実線で示すような線形でなくとも、一点鎖線で示すように非線形としてもよい。また、操作量Sbが設定値Sb2から最大操作量SbMAXの範囲にあれば、目標加減速度Gbが0を維持する。ここで、設定値Sb2から最大操作量SbMAXまでの区間は、前述したα相当とし、操作フィーリングによって調整するパラメータである。
【0040】
最小加減速度GbMINは、固定値でもよいが、例えば進行方向に対する路面勾配に応じて可変としてもよい。すなわち、進行方向に対する路面勾配が下り勾配であるほど、車両は減速しにくくなるので、下り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GbMINの実数を小さく(絶対値は大きく)する。逆に、進行方向に対する路面勾配が上り勾配であるほど、車両が減速しやすくなるので、上り方向の勾配が大きいほど最小加減速度GbMINの実数を大きく(絶対値は小さく)する。このように、路面勾配に応じて最小加減速度GbMINを可変とすることで、平坦路のときと同等の減速度を得られる。したがって、平坦路のときと同じ感覚でブレーキペダル9を踏み込んでも、減速度の過不足を抑制し、運転者の意図した減速度を達成することができる。
【0041】
《作用》
先ず、比較例について説明する。
従来から、アクセルペダル8にブレーキペダルの機能を統合し、アクセルペダル8の操作だけで車両を加速させたり減速させたりする技術思想があり、本実施形態の統合操作制御モードのように、アクセルペダル8の操作量Saだけで、車両の加減速を切換えるものがある。
この場合、アクセルペダル8の可動範囲を、加速制御範囲と減速制御範囲とに区分けするが、減速制御に使用できる範囲が限られているので、コントロール性の観点から、ある程度の減速度までしか発生させることができない。したがって、それ以上の減速度が必要であれば、運転者はブレーキペダル9を追加で踏み込まなければならないが、ある程度の減速度が既に作用しているので、それを上回る踏み込み量がないと減速度が増加せず、運転者の意図した減速度が得られない。このように、ブレーキペダル9を踏み込んでいるのに、車両の減速度が増加しないといった空走感を運転者に与えてしまう。
【0042】
図8は、比較例の動作を示すタイムチャートの一例である。
時点t1からアクセルペダル8の操作量Saを閾値thから減少させてゆくと、目標加減速度Gが0から負側に減少してゆき、時点t2で操作量Saが0になると、目標加減速度Gの減少が停止する。さらに、時点t3からブレーキペダル9を踏み込んでも、アクセルペダル8の操作量Saが0のときの負値の目標加減速度Gが既に発生しているので、それを上回る踏み込み量がないと、目標加減速度Gの実数は減少せず、運転者の意図した減速度が得られない。なお、時点t2から時点t3の期間は、ペダル踏み換え期間であり、時点t3から時点t4の期間は、ブレーキペダル9の所謂ロスストロークや遊びを詰めている期間である。
【0043】
次に、本実施形態について説明する。
本実施形態は、統合操作制御モードの場合(S101の判定が“No”)、アクセルペダル8が非操作状態のときには、目標加減速度Gaが負値の最小目標加減速度GaMAXとなる(S102)。また、ブレーキペダル9を踏み込むと、目標加減速度Gbが負側へ減少する(S103)。そして、アクセルペダル8の操作量Saに応じて設定した目標加減速度Gaと、ブレーキペダル9の操作量Sbに応じて設定した目標加減速度Gbとを加算したものを最終的な目標加減速度Gとして設定し(S104)、この最終的な目標加減速度Gに応じて車両の加減速度を制御する(S105)。
【0044】
図9は、第1実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
時点t1からアクセルペダル8の操作量Saを閾値thから減少させてゆくと、目標加減速度Gaが0から負側に減少してゆく。このとき、ブレーキペダル9は非操作状態にあるので、目標加減速度Gbは0を維持する。これら目標加減速度Gaと目標加減速度Gbとを加算した値を最終的な目標加減速度Gとする。時点t2で操作量Saが0になると、目標加減速度Gaが最小加減速度GaMINとなるので、その最小加減速度GaMINがそのまま目標加減速度Gとなる。
【0045】
そして、アクセルペダル8からブレーキペダル9への踏み換え時間があって、時点t3からブレーキペダル9を踏み込むと、その操作量Sbに応じた目標加減速度Gb分が最小加減速度GaMINに上乗せされてゆく。したがって、運転者がアクセルペダル8の操作を中止するだけで、ある程度の減速度(最小加減速度GaMIN)で車両を減速させることができ、さらに追加でブレーキペダル9を操作すれば、運転者が意図したさらに大きな減速度で車両を減速させることができる。すなわち、比較的小さな減速度は、アクセルペダル8によって操作することができ、比較的大きな減速度は、ブレーキペダル9によって操作することができるので、減速操作性が向上する。
【0046】
また、個別操作制御モード時には、ブレーキペダル9に対する操作初期に、所謂ロスストロークや遊びを設定しているが、統合操作制御モード時には、それを排除する。すなわち、操作量Sbが0を超えると、直ちに目標加減速度Gbの実数が負側へと減少する。これにより、アクセルペダル8からブレーキペダル9へと踏み換えても、その踏み込み初期から車両の減速度が増加する。すなわち、上乗せ分となる減速度の立ち上がりタイミングを、時点4から時点3へと早めることができる。
【0047】
ブレーキペダル9の操作量Sbは、ブレーキ踏力センサ4の検出値や、ブレーキストロークセンサ3の検出値を用いる。運転者がブレーキペダル9を踏み込む際、最初に検知できるのは力の要素である。したがって、ブレーキ踏力センサ4の検出値を用いれば、ブレーキペダル9の踏み始めを、より的確に検出することができる。また、ブレーキストロークセンサ3は、ブレーキ踏力センサ4に比べて一般車両への普及率が高いので、ブレーキストロークセンサ3を備えている車両であれば、ブレーキ踏力センサ4を追加しないで済む。何れのセンサを用いるとして、前述した本実施形態の作用効果を得ることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、車両を減速させる制動機構として、液圧を伝達媒体にしたハイドリックブレーキを採用しているが、これに限定されるものではなく、伝達媒体にケーブルやリンク、或いは空気圧を利用した他の如何なる制動機構を採用してもよい。また、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧したり、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧したりする摩擦ブレーキでなくとも、磁力抵抗によって制動力を発生する電磁ブレーキ、空気抵抗によって制動力を発生する空力ブレーキ、発電によって制動力を発生する回生ブレーキ等、他の如何なる制動機構を採用してもよい。
また、本実施形態では、運転者が足で操作するアクセルペダル8について説明したが、これに限定されるものではなく、運転者が手で操作するアクセルレバーに本実施形態を適用してもよい。
【0049】
以上より、アクセルペダル8が「アクセル操作子」に対応し、ブレーキペダル9が「ブレーキ操作子」に対応し、制御モード切換えスイッチ21が「切換え手段」に対応する。また、操作量Saが「第一の操作量」に対応し、操作量Sbが「第二の操作量」に対応し、目標加減速度Gaが「第一の目標加減速度」に対応し、目標加減速度Gbが「第二の目標加減速度」に対応する。また、ステップS102、S106の処理が「第一の設定手段」に対応し、ステップS103、S107の処理が「第二の設定手段」に対応し、ステップS101、S102、S104、S105の処理、並びに駆動力制御装置6とブレーキアクチュエータ7とが「制御手段」に対応する。
【0050】
《効果》
(1)本実施形態の加減速度制御装置によれば、アクセルペダル8の操作量Saが所定操作量以下であるときは、ブレーキペダル9の操作量Sbがゼロのときであっても、操作量Saに応じて所定の制動力が車両に付与される。この状態で、操作量Sbが増加すると、操作量Sbに応じて車両に付与する制動力を、上記所定の制動力から増加させる。
このように、運転者がアクセルペダル8の操作を中止するだけで、ある程度の減速度で車両を減速させることができ、さらに追加でブレーキペダル9を操作すれば、運転者が意図したさらに大きな減速度で車両を減速させることができるので、減速操作性が向上する。
【0051】
(2)本実施形態の加減速度制御装置によれば、操作量Saに応じて目標加減速度Gaを設定し、操作量Sbに応じて目標加減速度Gbを設定する。そして、目標加減速度Ga設定手段で設定した目標加減速度Gaと目標加減速度Gb設定手段で設定した目標加減速度Gbとを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御する。そして、統合操作制御モードの場合、操作量Saが0よりも大きな閾値thであるときには目標加減速度Gaを0とし、操作量Saが閾値thよりも小さいほど目標加減速度Gaの実数を負側に小さくする。また、操作量Sbが大きいほど目標加減速度Gbの実数を負側に小さくする。
【0052】
このように、アクセルペダル8が非操作のときには、目標加減速度Gaが負値となり、ブレーキペダル9が操作されると、目標加減速度Gbが負側へ減少する。そして、これら目標加減速度Gaと目標加減速度Gbとを加算して車両の加減速度を制御している。したがって、運転者がアクセルペダル8の操作を中止するだけで、ある程度の減速度で車両を減速させることができ、さらに追加でブレーキペダル9を操作すれば、運転者が意図したさらに大きな減速度で車両を減速させることができるので、減速操作性が向上する。
【0053】
(3)本実施形態の加減速度制御装置によれば、個別操作制御モードの場合、操作量Sbが0から設定値Sb1までの範囲にあるときには目標加減速度Gbを0とし、操作量Sbが設定値Sb1よりも大きいほど目標加減速度Gbの実数を負側に小さくする。一方、統合操作制御モードの場合、個別操作制御モードのときよりも、設定値Sb1を小さくする。
このように、統合操作制御モードの場合、個別操作制御モードのときよりも、設定値Sb1を小さくすることで、アクセルペダル8からブレーキペダル9へと踏み換えても、その踏み込み初期から車両の減速度を増加させることができる。
【0054】
(4)本実施形態の加減速度制御装置によれば、統合操作制御モードの場合、設定値Sb1を0にする。
このように、統合操作制御モードの場合、設定値Sb1を0にすることで、アクセルペダル8からブレーキペダル9へと踏み換えても、その直後から車両の減速度を増加させることができる。
【0055】
(5)本実施形態の加減速度制御装置によれば、操作量Sbは、ブレーキペダル9に作用する運転者の踏力である。
このように、運転者の踏力を用いることで、ブレーキペダル9の踏み始めを、より的確に検出することができる。
(6)本実施形態の加減速度制御装置によれば、操作量Sbは、ブレーキペダル9の操作位置である。
このように、ブレーキペダル9の操作位置(ストローク量)を用いることで、踏力センサを備える場合よりも、コストを抑制することができる。
【0056】
(7)本実施形態の加減速度制御方法によれば、操作量Saに応じて目標加減速度Gaを設定し、操作量Sbに応じて目標加減速度Gbを設定する。そして、目標加減速度Ga設定手段で設定した目標加減速度Gaと目標加減速度Gb設定手段で設定した目標加減速度Gbとを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御する。そして、統合操作制御モードの場合、操作量Saが0よりも大きな閾値thであるときには目標加減速度Gaを0とし、操作量Saが閾値thよりも小さいほど目標加減速度Gaの実数を負側に小さくする。また、操作量Sbが大きいほど目標加減速度Gbの実数を負側に小さくする。
【0057】
このように、アクセルペダル8が非操作のときには、目標加減速度Gaが負値となり、ブレーキペダル9が操作されると、目標加減速度Gbが負側へ減少する。そして、これら目標加減速度Gaと目標加減速度Gbとを加算して車両の加減速度を制御している。したがって、運転者がアクセルペダル8の操作を中止するだけで、ある程度の減速度で車両を減速させることができ、さらに追加でブレーキペダル9を操作すれば、運転者が意図したさらに大きな減速度で車両を減速させることができるので、減速操作性が向上する。
《第2実施形態》
《構成》
本実施形態は、統合操作制御モードで、アクセルペダル8からブレーキペダル9へと踏み換える間に、目標加減速度Gを負側へ小さくするものである。
本実施形態は、前述した第1実施形態と装置構成は同一であり、コントローラ5で実行する加減速度制御処理のみが異なる。以下、第一実施形態と異なる点だけを説明し、同一部分については詳細な説明を省略する。
【0058】
図10は、第2実施形態の加減速度制御処理を示すフローチャートである。
本実施形態は、前記ステップS103の処理の後に新たなステップS201を追加し、前記ステップS104の処理を新たなステップS202に変更し、前記ステップS107の処理の後に新たにステップS203〜S207の処理を追加する。
ステップS201では、目標加減速度Gtを0に設定してからステップS202に移行する。
ステップS202では、下記に示すように、目標加減速度Gaと目標加減速度Gbと目標加減速度Gtとを加算して最終的な目標加減速度Gを設定してから前記ステップS105に移行する。
G=Ga+Gb+Gt
【0059】
ステップS203では、アクセルペダル8の操作が解除されたか否かを判定する。具体的には、1サンプリング前の操作量Sa(n-1)が0より大きく、且つ今回サンプリングした操作量Sa(n)が0であるときに、アクセルペダル8の操作が解除されたと判断する。ここで、アクセルペダル8が操作中であるときにはステップS204に移行する。一方、アクセルペダル8の操作が解除されているときにはブレーキペダル9が踏み込まれる可能性があると判断してステップS205に移行する。
【0060】
ステップS204では、目標加減速度Gtを0に設定してから前記ステップS202に移行する。
ステップS205では、ブレーキペダル9の操作量Sbが0であるか否かを判定する。判定結果がSb=0のときには、まだブレーキペダル9は踏み込まれていないと判断してステップS206に移行する。一方、判定結果がSb>0のときには、ブレーキペダル9が踏み込まれていると判断してステップS207に移行する。
【0061】
ステップS206では、図11のマップを参照し、アクセルペダル8の操作が解除されてからの経過時間Tに応じて目標加減速度Gtを設定してから前記ステップS202に移行する。
図11は、統合操作制御モード時の目標加減速度Gtの設定に用いるマップである。
このマップは、横軸が操作量Sbであり、縦軸が目標加減速度Gbである。目標加減速度Gbは、便宜上、正値を加速度とし、負値を減速度とする。先ず経過時間Tが0から予め定められた設定値T1の範囲で増加するときに、目標加減速度Gtが0から負側の最小加減速度GtMINの範囲で減少する。そして、経過時間Tが設定値T1を超えたら、目標加減速度Gtが最小加減速度GtMINを維持する。
【0062】
設定値T1は、アクセルペダル8の操作を解除した際の減少速度dSaに応じて可変とする。アクセルペダル8の減少速度dSaは、操作量Saの単位時間当たりの変化量である。減少速度dSaが速いほど、設定値T1を小さくする。すなわち、減少速度dSaが速いほど、目標加減速度Gtの変化率(減少率)が大きくなる。
ステップS207では、目標加減速度の前回値Gt(n-1)を今回値Gt(n)としてから前記ステップS202に移行する。
なお、ブレーキペダル9が踏み込まれ、その後、ブレーキペダル9の操作が解除されたときには、目標加減速度Gtを0にリセットする。
【0063】
《作用》
本実施形態では、アクセルペダル8の操作を終了してから(S203の判定が“Yes”)、ブレーキペダル9が非操作である(S205の判定が“Yes”)間に、つまりペダル踏み換え期間に、目標加減速度Gtを設定する(S206)。そして、この目標加減速度Gtを最終的な目標加減速度Gに上乗せする(S202)。そして、ブレーキペダル9が踏み込まれたときに(S205の判定が“No”)、目標加減速度Gtの減少を停止し、その時点の目標加減速度Gtを維持する(S207)。
【0064】
図12は、第2実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
時点t1からアクセルペダル8の操作量Saを閾値thから減少させてゆき、時点t2で操作量Saが0になる。この時点t2では、目標加減速度Gtは、目標加減速度Gaに従って最小目標加減速度aMINとなる。
そして、この時点t2から経時的に目標加減速度Gtが0から負側へと減少してゆくので、ブレーキペダル9を踏み込む前から目標加減速度Gを減少させることができる。したがって、運転者がアクセルペダル8の操作を解除した直後から、車両の減速度を増加させることができる。
【0065】
また、アクセルペダル8の操作を解除した際の減少速度dSaを検出し、その減少速度dSaが速いほど、目標加減速度Gtの減少率を大きくする。これは、運転者が早くアクセルペダル8を踏み戻すほど、直後にブレーキペダル9を踏み込むことが予期でき、運転者の減速意志に合わせて、速やかに車両の減速度を増加させるためである。そして、ブレーキペダル9が踏み込まれた時点t3で、目標加減速度Gtの減少を停止し、その時点の目標加減速度Gtを維持する。
但し、アクセルペダル8の操作を解除してから、ブレーキペダル9を踏み込むとは限らないので、アクセルペダル8の操作を解除してからの経過時間Tが設定値T1に達した時点で、目標加減速度Gtの減少を停止し、その時点の目標加減速度Gtを維持する。
【0066】
図13は、第2実施形態の動作を示すタイムチャートの一例である。
時点t2からの経過時間Tが設定値T1に達した時点で、目標加減速度Gtが最小加減速度GtMINとなり、必要以上に目標加減速度Gtが減少することはない。したがって、運転者の減速意志に合わせて、目標加減速度Gを設定することができる。
以上より、目標加減速度Gtが「第三の目標加減速度」に対応し、ステップS203〜S207の処理が「第三の設定手段」に対応する。
【0067】
《効果》
(1)本実施形態の加減速度制御装置によれば、統合操作制御モードの場合、運転者がアクセルペダル8の操作を終了してからブレーキペダル9の操作を開始するまでの期間に、予め定められた変化率で0から負側に減少する目標加減速度Gtを設定する。そして、目標加減速度Gaと目標加減速度Gbと目標加減速度Gtとを加算した目標加減速度Gに応じて、車両の加減速度を制御する。
このように、アクセルペダル8の操作を終了した時点から目標加減速度Gtを設定し、これを最終的な目標加減速度Gに上乗せすることにより、運転者がブレーキペダル9を踏み込む前から、車両の減速度を増加させることができる。
【0068】
(2)本実施形態の加減速度制御装置によれば、操作量Saの減少速度が速いほど、目標加減速度Gtの変化率を大きくする。
このように、操作量Saの減少速度が速いほど、目標加減速度Gtの変化率を大きくすることで、運転者の減速意志に合わせて、速やかに車両の減速度を増加させることができる。
(3)本実施形態の加減速度制御装置によれば、操作量Saが0になってから予め定められた設定時間T1が経過した時点で、目標加減速度Gtを保持する。
このように、設定時間T1が経過した時点で、目標加減速度Gtを保持することで、運転者が望んでいないのに、車両の減速度が不必要に増加することを防止できる。
【符号の説明】
【0069】
1 車輪回転センサ
2 アクセルセンサ
3 ブレーキストロークセンサ
4 踏力センサ
5 コントローラ
6 駆動力制御装置
7 ブレーキアクチュエータ
8 アクセルペダル
9 ブレーキペダル
21 制御モード選択スイッチ
10 マスターシリンダ
11FL〜11RR 各ホイールシリンダ
12A・12B ゲートバルブ
13FL〜13RR インレットバルブ
14 アキュムレータ
15FL〜15RR アウトレットバルブ
16A・16B ゲートバルブ
17 ポンプ
18 ダンパー室
fs 切換えフラグ
GaMAX 最大加減速度
GaMIN 最小加減速度
GbMIN 最小加減速度
Sa 操作量
Sb 操作量
SaMAX 最大操作量
SbMAX 最大操作量
th 閾値
Sa1 設定値
Sb1 設定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作子の操作量がゼロのときに、車両に付与する制動力をゼロとし、前記ブレーキ操作子の操作量の増加に応じて制動力をゼロから増加させ、
アクセル操作子の操作量がゼロのときに、車両に付与する駆動力をゼロとし、前記アクセル操作子の操作量の増加に応じて駆動力をゼロから増加させる加減速度制御装置において、
前記アクセル操作子の操作量が所定操作量以下であるときに、前記アクセル操作子の操作量に応じて所定の制動力を車両に付与すると共に、前記ブレーキ操作子の操作量がゼロのときであっても、前記所定の制動力の付与を維持し、
前記所定の制動力を車両に付与している状態で、前記ブレーキ操作子の操作量が増加したときに、前記ブレーキ操作子の操作量に応じて車両に付与する制動力を、前記所定の制動力から増加させることを特徴とする加減速度制御装置。
【請求項2】
アクセル操作子に対する運転者の操作量を第一の操作量と定義し、ブレーキ操作子に対する運転者の操作量を第二の操作量と定義し、前記第一の操作量に応じて車両を加速させ、且つ前記第二の操作量に応じて車両を減速させる制御モードを個別操作制御モードと定義し、前記第一の操作量に応じて車両を加速又は減速させ、且つ前記第二の操作量に応じて車両を減速させる制御モードを統合操作制御モードと定義し、
前記個別操作制御モード及び前記統合操作制御モードの何れか一方に切換える切換え手段と、
前記第一の操作量に応じて第一の目標加減速度を設定する第一の設定手段と、
前記第二の操作量に応じて第二の目標加減速度を設定する第二の設定手段と、
前記第一の目標加減速度設定手段で設定した第一の目標加減速度と前記第二の目標加減速度設定手段で設定した第二の目標加減速度とを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御する制御手段と、を備え、
前記目標加減速度の正値を加速度と定義し、負値を減速度と定義し、
前記切換え手段が前記統合操作制御モードに切換えている場合、
前記第一の設定手段は、前記第一の操作量が0よりも大きな予め定められた閾値であるときには前記第一の目標加減速度を0とし、前記第一の操作量が前記閾値よりも小さいほど前記第一の目標加減速度の実数を負側に小さくし、前記第二の設定手段は、前記第二の操作量が大きいほど前記第二の目標加減速度の実数を負側に小さくすることを特徴とする請求項1に記載の加減速度制御装置。
【請求項3】
前記切換え手段が前記個別操作制御モードに切換えている場合、
前記第二の設定手段は、前記第二の操作量が0から予め定められた設定値までの範囲にあるときには前記第二の目標加減速度を0とし、前記第二の操作量が前記設定値よりも大きいほど前記第二の目標加減速度の実数を負側に小さくし、
前記切換え手段が前記統合操作制御モードに切換えている場合、
前記第二の設定手段は、前記個別操作制御モードのときよりも、前記設定値を小さくすることを特徴とする請求項2に記載の加減速度制御装置。
【請求項4】
前記切換え手段が前記統合操作制御モードに切換えている場合、
前記第二の設定手段は、前記設定値を0にすることを特徴とする請求項3に記載の加減速度制御装置。
【請求項5】
前記切換え手段が前記統合操作制御モードに切換えている場合、
運転者が前記アクセル操作子の操作を終了してから前記ブレーキ操作子の操作を開始するまでの期間に、予め定められた変化率で0から負側に減少する第三の目標加減速度を設定する第三の設定手段を備え、
前記制御手段は、前記第一の目標加減速度設定手段で設定した第一の目標加減速度と前記第二の目標加減速度設定手段で設定した第二の目標加減速度と前記第三の設定手段で設定した第三の目標加減速度とを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御することを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の加減速度制御装置。
【請求項6】
前記第三の設定手段は、前記第一の操作量の減少速度が速いほど、前記第三の目標加減速度の変化率を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の加減速度制御装置。
【請求項7】
前記第三の設定手段は、前記第一の操作量が0になってから予め定められた時間が経過した時点で、前記第三の目標加減速度を保持することを特徴とする請求項5又は6に記載の加減速度制御装置。
【請求項8】
前記第二の操作量は、前記ブレーキ操作子に作用する運転者の操作力であることを特徴とする請求項2〜7の何れか一項に記載の加減速度制御装置。
【請求項9】
前記第二の操作量は、前記ブレーキ操作子の操作位置であることを特徴とする請求項2〜8の何れか一項に記載の加減速度制御装置。
【請求項10】
アクセル操作子に対する運転者の操作量を第一の操作量と定義し、ブレーキ操作子に対する運転者の操作量を第二の操作量と定義し、前記第一の操作量に応じて車両を加速させ、且つ前記第二の操作量に応じて車両を減速させる制御モードを個別操作制御モードと定義し、前記第一の操作量に応じて車両を加速又は減速させ、且つ前記第二の操作量に応じて車両を減速させる制御モードを統合操作制御モードと定義し、前記個別操作制御モード及び前記統合操作制御モードの何れか一方に切換え可能とし、
前記第一の操作量に応じて第一の目標加減速度を設定すると共に、前記第二の操作量に応じて第二の目標加減速度を設定し、前記第一の目標加減速度と前記第二の目標加減速度とを加算した目標加減速度に応じて、車両の加減速度を制御し、
前記目標加減速度の正値を加速度と定義し、負値を減速度と定義し、
前記統合操作制御モードに切換えている場合、
前記第一の操作量が0よりも大きな予め定められた閾値であるときには前記第一の目標加減速度を0とし、前記第一の操作量が前記閾値よりも小さいほど前記第一の目標加減速度の実数を負側に小さくし、前記第二の操作量が大きいほど前記第二の目標加減速度の実数を負側に小さくすることを特徴とする加減速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−10429(P2013−10429A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144469(P2011−144469)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】