説明

加熱排気装置

【課題】ケースに収納した円筒状金型を誘導加熱するとき、ケース内で発生するガスを良好に排気できる加熱排気装置を提供する。
【解決手段】加熱排気装置1は、両方の端部3が開放した円筒状金型5を内部に収納するケース7と、ケース7の内部に設けられ円筒状金型5にその径方向から対向する電磁誘導コイルと、ケース7の内部の円筒状金型5の端部3の上方に吸気口15をそれぞれ配置した排気ダクト19と、排気ダクト19の終端17に接続した吸引手段21と、排気ダクト19を円筒状金型5に対して昇降させる昇降手段43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス(無継目)製品の遠心成形に使用する円筒状金型を加熱し、シームレス製品の材料に含まれる溶剤の気化したガスを排気する加熱排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレス製品の材料が溶剤を含む熱硬化性樹脂である場合、円筒状金型を所定の温度に加熱し、円筒状金型の熱で熱硬化性樹脂が硬化するに従い溶剤が気化しガスとなる。このようなガスが大気中に漏出しないように、円筒状金型をケースに収納し、ケースに接続した排気ダクトを通して、ケース内のガスはスクラバー等へ送られる。
【0003】
従来、電熱器、又は温風等による円筒状金型の加熱は行われているが、これらに比べ高い効率で円筒状金型の全体を加熱するには、円筒状金型の近傍に電磁誘導コイルを設置し、この電磁誘導コイルによって円筒状金型を誘導加熱することが望ましい。この場合、電磁誘導コイルの冷却が不可欠であるため、電磁誘導コイルのパッケージ内に空気がエアブロワー等で送風される。しかしながら、電磁誘導コイルは誘導加熱された円筒状金型に比較して温度が低く、電磁誘導コイルに触れた溶剤のガスが結露するという問題が起こる。
【0004】
下記の特許文献は、円筒状金型を製造炉に収納することを示している。これは、製造炉に過熱水蒸気を供給することにより、シームレス製品に残留する溶剤を気化させ、そのガスを過熱水蒸気と共に製造炉から排気するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みて為されたものであり、ケースに収納した円筒状金型を誘導加熱するとき、ケース内で発生するガスを良好に排気できる加熱排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、長手方向の端部が開放した円筒状金型を内部に収納するケースと、前記ケースの内部に設けられ、前記円筒状金型にその径方向から対向する電磁誘導コイルと、前記ケースの内部の前記円筒状金型の端部の上方に吸気口をそれぞれ配置し、前記ケースの外側へ終端を延出した排気ダクトと、前記排気ダクトの終端に接続した吸引手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記排気ダクトを前記円筒状金型に対して昇降させる昇降手段を備えることを特徴とする。また、本発明は、前記電磁誘導コイルを前記排気ダクトに連結したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数の前記電磁誘導コイルを備え、これらの電磁誘導コイルのうち一の電磁誘導コイルを、前記円筒状金型の下方に配置し、前記複数の電磁誘導コイルのうち他の電磁誘導コイルを、前記円筒状金型の端部の上方に配置し前記排気ダクトに連結したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記円筒状金型の端部よりも前記電磁誘導コイルが長手方向へ25mm以下の範囲で突出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る加熱排気装置によれば、ケースの内部に設けられた電磁誘導コイルで円筒状金型を誘導加熱し、円筒状金型の内側に供給されるシームレス製品の材料を加熱できる。これにより材料に含まれる溶剤が気化しガスが発生する。排気ダクトの吸気口は、ケースの内部の円筒状金型の端部の上方にそれぞれ配置され、排気ダクトの終端に接続した吸引手段は、ケースの内部を満たす空気を排気ダクトの吸気口から吸引するので、円筒状金型の内側で発生したガスは、直ちに排気ダクトの吸気口へ誘引される。
【0012】
このため、ケースの内部にガスが拡散することはないので、ケースの内部でガスの結露は起こらない。しかも、ガスが結露しない分、排気ダクトを通り吸引手段に達するガスの量、又は濃度が増すので、ガスの回収を効率よく行うことができる。
【0013】
更に、本発明に係る加熱排気装置によれば、昇降手段が排気ダクトを円筒状金型に対して昇降させるので、例えば互いに直径の異なる複数の円筒状金型の中から選択した円筒状金型をケースに収納した場合、円筒状金型の端部から排気ダクトの吸気口までの高さを所望に調整することができる。このため、円筒状金型の直径の大きさに関わらず、当該加熱排気装置は、溶剤のガスがケースの内部で拡散するのを防止し、上記の効果を達成することができる。
【0014】
更に、本発明に係る加熱排気装置によれば、電磁誘導コイルを排気ダクトに連結しているので、排気ダクトが昇降するときに、電磁誘導コイルを排気ダクトと共に昇降させることができる。このため、上記の排気ダクトの高さ調整を行うのと同時に、電磁誘導コイルを円筒状金型に対向させる間隔も調整することができる。
【0015】
更に、本発明に係る加熱排気装置によれば、円筒状金型の長手方向の全域を一の電磁誘導コイルで加熱することに加え、円筒状金型の端部を他の電磁誘導コイルで加熱することができる。このため、単一の電磁誘導コイルで円筒状金型を誘導加熱するのに比較して、円筒状金型の全体の温度を均一に保つのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る加熱排気装置の動作の一例を示す長手方向の断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る加熱排気装置の動作の一例を示す幅方向の断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る加熱排気装置の動作の他例を示す長手方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る加熱排気装置について図面を参照しながら説明する。シームレス製品の遠心成形を行うための要素には、従来の技術を適用できるので、その図示を省略する。
【0018】
図1に示すように、加熱排気装置1は、長手方向の両方の端部3が開放した円筒状金型5を内部に収納する箱形のケース7と、ケース7の内部に設けられ円筒状金型5の外周面9に対向する複数の電磁誘導コイル11,13と、ケース7の内部の円筒状金型5の端部3の上方に吸気口15をそれぞれ配置しケース7の外側へ終端17を延出した2つの排気ダクト19と、排気ダクト19の終端17に接続した吸引手段21とを備える。
【0019】
円筒状金型5は、その内側に溶剤を含む液状の熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂が供給される。シームレス製品の材料に適用できる熱硬化性樹脂としてポリイミド系樹脂がある。図2に記した2つの円23は、円筒状金型5の外周面9に転がり接触するローラーの外形を表している。これらのローラーは、円筒状金型5を水平姿勢で支持し、電動機の出力を円筒状金型5に回転力として伝達するものである。ケース7は、図1,2に示す側面材25,27、底面材29、及び上面材31を接合して成る函体である。
【0020】
排気ダクト19は、ケース7の上面材31を貫く通気パイプ33の下端に、吸気口15を下向きに開放したフード35を接合したものである。図2に表れたフード35の幅は、円筒状金型5の直径よりも大きいことが好ましく、点37で示した円筒状金型5の幾何学的中心は、フード35の幅を二等分する位置の真下を通ることが好ましい。図1に表れたフード35の厚みを80mm前後に設定するのが好ましい。フード35の幅は、円筒状金型5の直径よりも約20mm広いことが好ましい。また、円筒状金型5の端部3から吸気口15までの高さは、約10mm以内であることが好ましい。この高さは、円筒状金型5の直径を[φ]とし、その幾何学的中心から吸気口15までの高さを[h]とすると、h−φ/2として得られる。
【0021】
吸引手段21として、吸引口から吸引した空気を吐出口から吐出できるエアブロワー、又は空気ポンプ等を適用しても良い。この場合、排気ダクト19の終端17は、一点鎖線39で示したホース等を介して、吸引手段21の吸引口に接続される。吸引手段21の吐出口にはスクラバー等を接続しても良い。また、図示を省略しているが、ケース7の適所には換気孔が形成されており、ケース7の内部を満たす空気が吸引手段21によって吸引される分、ケース7の外側の空気が換気孔を経てケース7の内部に導入される。
【0022】
電磁誘導コイル11,13は、それぞれのパッケージが図に表れている。電磁誘導コイル11は、円筒状金型5の下方に配置されケース7に位置決めされている。2つの電磁誘導コイル13は、円筒状金型5の両方の端部3の上方にそれぞれ配置され、これらの排気ダクト19を連結する連結材41に支持されている。電磁誘導コイル11,13と円筒状金型5の外周面9との間隔は約10mm以内であることが好ましい。
【0023】
電磁誘導コイル11,13の電源回路はケース7の外側に設けられている。この電源回路から交流電流が電磁誘導コイル11,13に供給されると、円筒状金型5は磁界を印加され温度上昇する。特に、円筒状金型5の端部3は、電磁誘導コイル11,13の双方によって磁界を印加される。電磁誘導コイル13を省略しても円筒状金型5の誘導加熱は行えるが、円筒状金型5の開放した端部3から熱が逃げやすいので、電磁誘導コイル11に加えて電磁誘導コイル13を用いる方が、円筒状金型5の全体の温度を均一に保つのに有利である。
【0024】
更に、加熱排気装置1は、円筒状金型5の端部3から吸気口15までの高さを最適に調整できるように、排気ダクト19を昇降手段43によって所望の高さに昇降させることができる。昇降手段43は、上面材31の上方に配置された昇降部材45と、昇降部材45を上面材31に対して昇降させる駆動源47と、上面材31を貫き昇降部材45に上端を固定されたスライドシャフト49と、上面材31に取付けられスライドシャフト49を昇降自在に案内するガイドブッシュ51とを備える。排気ダクト19の通気パイプ33は昇降部材45に固定されている。スライドシャフト49の下端は連結材41に接合されている。符号53はパッキン材を指している。
【0025】
駆動源47は限定される要素ではないが、例えばギアケース55に電動機を内装し、この電動機の回転に従って作動ロッド57がギアケース55に対して上下方向に作動するアクチュエータを適用しても良い。この場合、ギアケース55を上面材31に固定し作動ロッド57を昇降部材45に接合する。作動ロッド57が上方へ作動するとき、図3に示すように昇降部材45と共に2つの排気ダクト19、及び電磁誘導コイル13が円筒状金型5に対して上昇する。反対に、作動ロッド57が下方へ作動するとき、図1に示すように昇降部材45と共に2つの排気ダクト19、及び電磁誘導コイル13が円筒状金型5に対して下降する。
【0026】
以上に述べた加熱排気装置1によれば、電磁誘導コイル11,13で円筒状金型5を誘導加熱し、円筒状金型5の内側に供給されるシームレス製品の材料を加熱できる。これにより材料に含まれる溶剤が気化しガスが発生する。吸引手段21は、ケース7の内部の空気を排気ダクト19の吸気口15から吸引するので、円筒状金型5の内側で発生したガスは、直ちに排気ダクト19の吸気口15へ誘引される。このため、ケース7の内部にガスが拡散することはないので、ケース7の内部でガスの結露は起こらない。しかも、ガスが結露しない分、排気ダクト19を通り吸引手段21に達するガスの量、又は濃度が増すので、ガスの回収を効率よく行うことができる。
【0027】
また、互いに直径の異なる複数の円筒状金型の中から選択した円筒状金型5をケース7に収納する場合、加熱排気装置1は、円筒状金型5の端部3から吸気口15までの高さを調整できるので、円筒状金型5の直径の大きさに関わらず、溶剤のガスがケース7の内部で拡散するのを防止し、上記の効果を達成することができる。
【0028】
また、電磁誘導コイル13が連結材41を介して2つの排気ダクト19に連結されているので、排気ダクト19が昇降するときに、電磁誘導コイル13を排気ダクト19と共に昇降させることができる。このため、上記の排気ダクト19の高さ調整を行うのと同時に、電磁誘導コイル13を円筒状金型5の外周面9に対向させる間隔も適切に調整することができる。
【0029】
図1,3に示すように、電磁誘導コイル11の全長は円筒状金型5よりも長く、電磁誘導コイル11の端部は、次の理由で円筒状金型5の端部3から長手方向へ突出している。同様に、電磁誘導コイル13の端部も円筒状金型5の端部3から長手方向へ突出している。
【0030】
即ち、寸法xは、電磁誘導コイル11,13の端部から円筒状金型5の端部3までの距離を示している。円筒状金型5の内側で発生したガスを排気ダクト19へ導くには、寸法xを小さくするのが好ましいが、電磁誘導コイル11,13の端部の位置を円筒状金型5の端部3に揃える(寸法xを0mmにする)と、端部3に磁界が印加され難くなり、円筒状金型5の全体の一様な誘導加熱が妨げられる。そこで、排気ダクト19による良好なガスの吸引と、円筒状金型5の全体の温度の均一化とを達成するために、25mm以下の範囲で寸法xを設定することが好ましい。図示の寸法xは約15mmに相当する。
【0031】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施でき、以下の態様で実施しても良い。例えば、電磁誘導コイル13を省略し、単一の電磁誘導コイル11で円筒状金型5を誘導加熱しても良い。この場合、電磁誘導コイル11を排気ダクト19に連結するようにしても良い。また、電磁誘導コイル11,13は、円筒状金型5に対してその径方向から対向すれば良く、電磁誘導コイル11,13を円筒状金型5の側方に配置しても良い。
【0032】
排気ダクト19は2つである必要はなく、1つの排気ダクト19の下端が2つの吸気口15に分岐するようにしても良い。昇降手段43を省略し、排気ダクト19をケース7の適所に固定しても良い。吸引手段21が吸引する空気の風量は約200リットル/minが適当であるが、吸引手段21であるエアブロワーに供給される電流をインバーター制御し、これにより排気ダクト19の吸気口15から吸引される空気の流量を調整できるようにしても良い。
【0033】
また、円筒状金型5の温度を非接触式の温度計で測定し、この値に基づき電磁誘導コイル11,13の電源回路が円筒状金型5に印加する磁界の強度を調整するようにしても良い。電磁誘導コイル11の端部から円筒状金型5の端部3までの距離と、電磁誘導コイル13の端部から円筒状金型5の端部3までの距離とは、必ずしも一致しなくて良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、精密な電子部品の製造に加え、あらゆる環状の製品を成形するのに有益な技術である。
【符号の説明】
【0035】
1…加熱排気装置、3…端部、5…円筒状金型、7…ケース、9…外周面、11,13…電磁誘導コイル、15…吸気口、17…終端、19…排気ダクト、21…吸引手段、23…円、25,27…側面材、29…底面材、31…上面材、33…通気パイプ、35…フード、41…連結材、43…昇降手段、45…昇降部材、47…駆動源、49…スライドシャフト、51…ガイドブッシュ、55…ギアケース、57…作動ロッド。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の端部が開放した円筒状金型を内部に収納するケースと、
前記ケースの内部に設けられ、前記円筒状金型にその径方向から対向する電磁誘導コイルと、
前記ケースの内部の前記円筒状金型の端部の上方に吸気口をそれぞれ配置し、前記ケースの外側へ終端を延出した排気ダクトと、
前記排気ダクトの終端に接続した吸引手段とを備えることを特徴とする加熱排気装置。
【請求項2】
前記排気ダクトを前記円筒状金型に対して昇降させる昇降手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱排気装置。
【請求項3】
前記電磁誘導コイルを前記排気ダクトに連結したことを特徴とする請求項2に記載の加熱排気装置。
【請求項4】
複数の前記電磁誘導コイルを備え、これらの電磁誘導コイルのうち一の電磁誘導コイルを、前記円筒状金型の下方に配置し、前記複数の電磁誘導コイルのうち他の電磁誘導コイルを、前記円筒状金型の端部の上方に配置し前記排気ダクトに連結したことを特徴とする請求項2に記載の加熱排気装置。
【請求項5】
前記円筒状金型の端部よりも前記電磁誘導コイルが長手方向へ25mm以下の範囲で突出することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の加熱排気装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−11522(P2011−11522A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159868(P2009−159868)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】