説明

加熱用ポリエステル樹脂構造体

【課題】 耐熱性、耐衝撃性に優れる加熱用ポリエステル樹脂構造体を提供する。
【解決手段】 ジオール単位中の5〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層(B)を有する加熱用ポリエステル樹脂構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオール単位中に環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を含む樹脂層を有する加熱用ポリエステル樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子レンジやホットベンダーなどで加熱される食品容器に用いられる構造体の材料には耐熱性に優れるポリスチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂などが使用されている。しかし、ポリスチレン樹脂は安全衛生性に、またポリプロピレン樹脂は透明性や印刷性劣るため、安全衛生性、透明性、印刷性などに優れたポリエステル樹脂への代替が強く求められている。
【0003】
しかし、代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートは非晶状態で使用すると耐熱温度は60℃程度であり、加熱すると容易に変形してしまう。このためポリエチレンテレフタレートの容器では、成形時に結晶化、いわゆる熱固定を行って耐熱性を向上させることがあるが、適用範囲が限られている上、工程が増えて生産性やコストが悪化したり、結晶化により意匠性やヒートシール性が低下したりする問題がある。
【0004】
非晶状態でも耐熱性に優れるポリエステル樹脂としてポリエチレンナフタレートが知られているが、該樹脂からなる構造体は実用上十分な耐衝撃性を有しておらず食品容器に用いることができなかった。
【0005】
耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えた容器としてはポリエチレンナフタレート系の樹脂を積層したシート成形体などが提案されているが(特許文献1〜3参照。)、これらの多層シート成形体は耐衝撃性の改善は見られるものの、切断時に亀裂が入るなど耐衝撃性の改善は十分でなく、また透明性が十分でないものもある。更にポリアリレートやポリカーボネートなどビスフェノールAを原材料とした樹脂を多く使用しており、食品を充填する容器としては適していなかった。
【特許文献1】特開平9−156061号公報
【特許文献2】特開平9−254346号公報
【特許文献3】特開平10−180967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記の如き状況に鑑み、耐熱性、耐衝撃性に優れる加熱用ポリエステル樹脂構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ジオール単位中に特定の割合の環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を含む樹脂層を有する加熱用ポリエステル樹脂構造体が耐熱性、耐衝撃性に優れることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ジオール単位中の5〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層(B)を有する加熱用ポリエステル樹脂構造体に関するものである。
なお、本発明において、ポリエステル樹脂のジカルボン酸単位またはジオール単位とは、エステル結合による繰り返し単位を指し、該ポリエステル樹脂のエステル結合を加水分解した際に生成するジカルボン酸またはジオールの名称を挙げ、それらに由来するジカルボン酸単位またはジオール単位と表記する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂構造体は、耐熱性、耐衝撃性に優れ、シート成形体、パウチ、射出成形体、押出ブロー成形体、射出ブロー成形体などの形状で、食品包装分野等において容器を加熱する用途で好適に用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明はジオール単位中の5〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層(B)を少なくとも1層有する加熱用ポリエステル樹脂構造体である。
【0010】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)のジオール単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位は一般式(1)または一般式(2)で表される化合物に由来するジオール単位が好ましい。
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
一般式(1)と(2)において、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。例示するならば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基;シクロヘキシレン基;フェニレン基などが挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基が好ましい。Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。例示するならば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピル基、イソブチル基;シクロヘキシル基;フェニル基などが挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基が好ましい。一般式(1)または(2)の化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
【0014】
また、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては、特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニルプロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;前記ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類のアルキレンオキシド付加物;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アリールアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等に由来するジオール単位が例示できる。ポリエステル樹脂(A)の機械強度、耐熱性、及びジオールの入手の容易さを考慮するとエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等に由来するジオール単位が好ましく、エチレングリコールに由来するジオール単位が特に好ましい。
【0015】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−カルボキシ−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−1,3−ジオキサン等の脂肪族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が例示できる。ポリエステル樹脂(A)の機械強度、耐熱性、及びジカルボン酸の入手の容易さを考慮するとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が特に好ましい。
【0016】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)には、溶融粘弾性や分子量などを調整するために、本発明の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコールなどのモノアルコール単位やトリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5−ペンタントリオール、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール単位、安息香酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸単位、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸単位、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸単位を含んでもよい。
【0017】
成形性、耐熱性、機械的性能、耐加水分解性などを考慮すると、本発明で用いるポリエステル樹脂(A)は、環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位であり、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位がエチレングリコールに由来するジオール単位であり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸、イソフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位から選ばれる1種類以上のジカルボン酸単位であるポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のジオール単位中、環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は5〜80モル%であることが好ましく、より好ましくは10〜70モル%であり、特に好ましくは15〜60モル%である。環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が上記範囲にある場合、ポリエステル樹脂(A)はガラス転移温度が高くなり耐熱性に優れる。
【0019】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の耐熱性は用途に応じて適宜選択することができるが、ガラス転移温度は85〜150℃であることが好ましく、より好ましくは90〜150℃、特に好ましくは95〜140℃である。ガラス転移温度が上記範囲内にある場合、本発明のポリエステル樹脂構造物は優れた耐熱性を示す。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は構成単位の種類及び割合により変化するが、主に環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位であり、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール構成単位がエチレングリコールに由来するジオール単位であり、ジカルボン酸構成単位がテレフタル酸及び/又は2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である場合、上記範囲のガラス転移温度が達成される。
【0020】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の極限粘度は成形方法や用途に応じて適宜選択することができる。一般的に熱流動性が求められる射出成形で成形する場合には極限粘度が小さいポリエステル樹脂(A)が適する場合が多く、押出成形で成形する場合や機械物性、耐薬品性等が重視される用途では極限粘度が大きいポリエステル樹脂(A)が適する場合が多い。本発明に使用するポリエステル樹脂(A)ではフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値で0.5〜1.5dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.2dl/gであり、更に好ましくは0.6〜1.0dl/gである。極限粘度がこの範囲にある場合、本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は成形性及び機械的性能のバランスに優れる。
【0021】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の溶融粘度も成形方法や用途に応じて適宜選択することができる。極限粘度と同様に、一般的に熱流動性が求められる射出成形で成形する場合には溶融粘度が小さいポリエステル樹脂(A)が適する場合が多く、押出成形で成形する場合や機械物性、耐薬品性等が重視される用途では溶融粘度が大きいポリエステル樹脂(A)が適する場合が多い。溶融粘度の値としては温度240℃、せん断速度100sec−1において300〜7000Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは500〜5000Pa・sである。溶融粘度がこの範囲にある場合、本発明におけるポリエステル樹脂(A)は成形性及び機械的性能のバランスに優れる。溶融粘度はポリエステル樹脂(A)の極限粘度にも依存するが、構成単位にも依存する。具体的には、環状アセタール骨格を有するジオール単位が多いほど溶融粘度は高くなる。
【0022】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)を製造する方法は特に制限はなく、従来公知のポリエステルの製造方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。製造時に用いるエステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることができ、これらは反応速度やポリエステル樹脂(A)の色調、安全性、熱安定性、耐候性、自身の溶出性や安全衛生性などに応じて適宜選択される。
【0023】
樹脂層(B)はポリエステル樹脂(A)のみからなっていても良いが、ポリエステル樹脂(A)を含む組成物からなっていても良い。樹脂層(B)中のポリエステル樹脂(A)の含量は、ポリエステル樹脂(A)のジオール単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合や要求性によって適宜選択されれば良いが、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、特に好ましくは30重量%以上である。ポリエステル樹脂(A)の含量が上記範囲にある場合、本発明のポリエステル樹脂構造体は耐熱性に優れたものとなる。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)以外に樹脂層(B)に含むことのできるものは特に限定されるものではないが、好適な例としては、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(C)があり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物、ならびにエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびビスフェノールAから選ばれる1種以上の化合物に由来する単位からなるポリエステル樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−2,6−ナフタレンジカルボン酸−エチレングリコール−1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリアリレートなどが挙げられる。ポリエステル樹脂(C)を含むことで、樹脂層(B)の耐熱性や成形性、耐衝撃性などを調整することができる。ポリエステル樹脂(C)のうち、ポリエステル樹脂(A)との相溶性、機械物性、入手の容易さ、コストなどを勘案するとポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。樹脂層(B)にポリエステル樹脂(C)を含む場合、その含量は1〜90重量%であり、より好ましくは1〜80重量%であり、特に好ましくは1〜70重量%である。
【0025】
また、樹脂層(B)に含むことのできる他のものの例としては、酸素透過率がポリエチレンテレフタレートより小さい酸素バリア性樹脂(D)がある。酸素バリア性樹脂(D)を含むことにより、本発明のポリエステル樹脂構造体は酸素バリア性に優れ、食品包材等に好適に使用できる。酸素バリア性樹脂(D)は従来公知のものを使用することができ、特に制限されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ブタジエングラフトアクリロニトリル−アクリレート共重合体、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−エチレン共重合体、セロハン、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニル、ナイロン6、ナイロン66、キシリレン基含有ポリアミド樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリグリコール酸、ポリエチレンナフタレート、エチレンテレフタレート−エチレンナフタレート共重合体、ポリエチレンイソフタレート、エチレンテレフタレート−エチレンイソフタレート共重合体が挙げられる。中でもキシリレン基含有ポリアミド樹脂が好ましく、キシリレン基含有ポリアミド樹脂の具体例として、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスベラミド、ポリパラキシリレンピメラミド、ポリメタキシリレンアゼラミド等の単独重合体;及びメタキシリレン−パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン−パラキシリレンピメラミド共重合体、メタキシリレン−パラキシリレンセバカミド共重合体、メタキシリレン−パラキシリレンアゼラミド共重合体等の共重合体;あるいはこれらの単独重合体または共重合体の成分とヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、ピペラジン等の脂環式ジアミン、パラ−ビス(2−アミノエチル)ベンゼン等の芳香族ジアミン、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、ε−カプロラクタム等のラクタム、7−アミノヘプタン酸等のω−アミノカルボン酸、パラ−アミノメチル安息香酸等の芳香族アミノカルボン酸等を共重合した共重合体が挙げられる。さらに、m−キシリレンジアミン及び/又はp−キシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と、脂肪族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸とから得られるポリアミドが特に好適に用いることができ、特に、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合して得られたキシリレン基含有ポリアミド樹脂、酸素バリア性、成形性、ポリエステル樹脂(A)との相溶性等に優れており好ましく用いられる。また、上記キシリレン基含有ポリアミド樹脂には、モンモリロナイト等の粘土鉱物やステアリン酸コバルト等の有機遷移金属を添加することにより、樹脂組成物のガスバリア性が向上することがある。樹脂層(B)に酸素バリア性樹脂(D)を含む場合、その含量は1〜90重量%であり、より好ましくは1〜60重量%であり、特に好ましくは1〜40重量%である。
【0026】
更に、樹脂層(B)には酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、着色剤、補強剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤、増粘剤などの各種添加剤、成形助剤;ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、AS樹脂等の樹脂、又はこれらのオリゴマー;木粉、竹粉、やし殻粉、コルク粉、パルプ粉、架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル、尿素樹脂、カーボン繊維、合成繊維、天然繊維などの有機フィラー;炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー、マイカ、ネフエリンシナイト、合成ケイ酸、石英粉、珪石粉、ケイソー土、硫酸バリウム、軽石粉、シラスバルン、ガラスバルン、フライアッシュバルン、ガラス繊維、セピオライト、鉱物繊維、ウイスカーなどの無機フィラーなどを添加することもできる。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂構造体は樹脂層(B)のみからなっていても良いが、少なくとも樹脂層(B)を一つの層として有する多層構造体であっても良い。樹脂層(B)以外の層は機能、用途、要求性能等により適宜選択されれば良く、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂(C)、酸素バリア性樹脂(D)、回収ポリエステル樹脂(E)、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、AS樹脂等の樹脂層;エチレン−アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、共重合ポリエステル等の接着剤層;印刷層;鉄、アルミニウム、亜鉛等の金属層;酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物層;炭素層;板紙、段ボール等の紙層などが挙げられる。これらの単一の材料からなる層であっても良いし、複数の材料の組成物からなる層であっても良い。
【0028】
上記樹脂層にはポリエステル樹脂(C)と酸素バリア性樹脂(D)とからなる組成物、特には、ポリエチレンテレフタレートとメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合して得られたキシリレン基含有ポリアミド樹脂との組成物も好ましく用いられる。この場合、機械物性、コスト、酸素バリア性等をバランスよく兼ね備え好ましく、更には、本組成物は樹脂層(B)との接着性が高いため、接着剤を介することなく、共押出や共射出によって多層構造体を成形できる。
【0029】
上記樹脂層に用いられる回収ポリエステル樹脂(E)とは規格外製品、シートの端部、打ち抜きカス、使用済みボトル等のポリエチレンテレフタレート製品回収物等を指す。規格外製品、シートの端部、打ち抜きカスなどの場合には、ポリエステル樹脂(A)や酸素バリア性樹脂(D)を含むことがあり、また製品回収物によっては、イソフタル酸単位や2,6−ナフタレンジカルボン酸単位を一部有するポリエチレンテレフタレートや酸素バリア性樹脂(D)を含む場合がある。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂構造体が、少なくとも樹脂層(B)を一つの層として有する多層構造体である場合、その層構成は用途により適宜選択されれば良いが、好適な例としては、樹脂層(B)を最内層に持つ構成である。樹脂層(B)を最内層とすることで、ポリエステル樹脂(A)に由来するヒートシール性や保香性を付与することができる。また、本発明のポリエステル樹脂構造体を食品容器として用いる場合、回収ポリエステル樹脂(E)層は中間層に用いるのが好ましい。これは、回収ポリエステル樹脂(E)は複数回の熱履歴を受けるため、最内層または最外層に用いた場合には、固有粘度低下に伴う機械強度などの諸物性の低下や熱分解によって生ずるアセトアルデヒドの食品への移行などが起き得るためである。多層構造体の層構成の例を具体的に挙げるならば、ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)、酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)、回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)、(ポリエステル樹脂(C)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)、(回収ポリエステル樹脂(E)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)などの樹脂層/樹脂層(B);金属層/樹脂層(B);金属酸化物層/樹脂層(B);紙層/樹脂層(B);印刷層/樹脂層(B)酸素バリア性樹脂(D)層/接着剤層/樹脂層(B);樹脂層/紙層/樹脂層(B);ポリエステル樹脂(C)層/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)、ポリエステル樹脂(C)層/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)、ポリエステル樹脂(C)層/(ポリエステル樹脂(C)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)、ポリエステル樹脂(C)層/(回収ポリエステル樹脂(E)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)などの樹脂層/樹脂層/樹脂層(B);樹脂層/金属層/樹脂層(B);樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/(ポリエステル樹脂(C)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/(回収ポリエステル樹脂(E)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)などの樹脂層(B)/樹脂層/樹脂層(B);樹脂層(B)/紙層/樹脂層(B);樹脂層(B)/接着剤層/酸素バリア性樹脂(D)層/接着剤層/樹脂層(B);ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層、ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層、ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層などの樹脂層/樹脂層(B)/樹脂層/樹脂層(B)/樹脂層;樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/ポリエステル樹脂(C)層/樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/酸素バリア性樹脂(D)層/樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)、樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)などの樹脂層(B)/樹脂層/樹脂層(B)/樹脂層/樹脂層(B);があげられる。耐熱性、コスト、酸素バリア性などを勘案すると、好ましくは樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)又は、樹脂層(B)/(回収ポリエステル樹脂(E)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)が好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂構造体の形状、形態、成形方法、加工方法は用途や充填される内容物に合ったものであれば良く、特に制限されるものではないが、形状、形態としては例えば、シート、シート成形体、フィルム、パウチ、射出成形体、押出ブロー成形体、射出ブロー成形体、カートン、発泡体等の成形体が挙げられる。また成形法、加工法としては、押出成形、射出成形、発泡成形、射出ブローや押出ブローなどのブロー成形、真空成形や圧空成形や真空圧空成形などの熱成形、インフレーション成形、延伸加工などが挙げられる。広範な用途に用いられること、成形の容易さなどから、本発明のポリエステル樹脂構造体として、特に、押出成形により製造されたシートを熱成形した成形体、射出成形により製造された成形体、ブロー成形により製造された成形体が好ましい。これらの成形体は上述のごとく樹脂層(B)の単層からなる構造体であっても良いし、少なくとも樹脂層(B)を一つの層として有する多層構造体であっても良い。多層構造体の場合、共押出や共射出、ラミネート、蒸着など従来公知の多層化技術を用いることができる。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂構造体の全体の厚みは、用途により適宜選択すれば良いが、一般に10〜7000μmであるのが好ましく、より好ましくは50〜5000μmである。本発明のポリエステル樹脂構造体が多層構造体である場合、各層の厚みは耐熱性や酸素バリア性、コスト等の各種要求性能により適宜選択すれば良いが、一般的に樹脂層(B)の厚みは、2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、且つ全体の厚みに対して1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上の厚みを有していることが良い。上記範囲にある場合、本発明のポリエステル樹脂構造体は種々の加熱に必要な耐熱性を有する。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂構造体に充填される内容物は、特に制限されるものではなく、食品、化粧品、医薬品、トイレタリー、機械・電気・電子部品、オイル、樹脂類などが挙げられるが、本発明のポリエステル樹脂構造体の持つ耐熱性、安全衛生性、透明性、印刷性、耐衝撃性などを勘案すると本発明のポリエステル樹脂構造体は、特に食品を保存するための容器として好適に使用できる。
【0034】
充填される食品は、特に制限されるものではないが、具体例を示すならば、例えば、野菜汁、果汁、お茶類、コーヒー・コーヒー飲料類、乳・乳飲料類、ミネラルウォーター、イオン性飲料、酒類、乳酸菌飲料、豆乳等の飲料;豆腐類、卵豆腐類、ゼリー類、プリン、水羊羹、ムース、ヨーグルト類、杏仁豆腐などのゲル状食品;ソース、醤油、ケチャップ、麺つゆ、たれ、食酢、味醂、ドレッシング、ジャム、マヨネーズ、味噌、漬物の素、すり下ろし香辛料等の調味料;サラミ、ハム、ソーセージ、焼鳥、ミートボール、ハンバーグ、焼豚、ビーフジャーキー等の食肉加工品;蒲鉾、貝水煮、煮魚、竹輪等の水産加工品;粥、炊飯米、五目飯、赤飯等の米加工品;ミートソース、マーボーソース、パスタソース、カレー、シチュー、ハヤシソース等のソース類;チーズ、バター、クリーム、コンデンスミルク等の乳加工品;ゆで卵、温泉卵等の卵加工品;煮野菜・煮豆;揚げ物、蒸し物、炒め物、煮物、焼き物等の惣菜類;漬物;うどん、そば、スパゲッティ等の麺類・パスタ類;果物シラップ漬け等が挙げられる。
【0035】
加熱方法や加熱する理由は、特に制限されるものではないが、加熱方法の具体例として、例えば、電子レンジ、湯煎、加熱空気、水蒸気、紫外線、ボイル、レトルト、ホットベンダーなどが挙げられ、加熱する理由として調理や再加熱、殺菌、保温などが挙げられる。加熱の温度や時間は、方法や理由、充填される内容物等により異なるが、本発明のポリエステル樹脂構造体は、容器の加熱温度は55〜140℃、加熱時間は0.001〜100分の範囲内で好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0037】
本製造例中のポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂構造体の評価方法の評価方法は以下の通りである。
[1]ポリエステル樹脂(A)の評価方法
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合はH−NMR測定にて算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。
【0038】
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
【0039】
(3)極限粘度
極限粘度測定の試料はポリエステル樹脂0.5gをフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(質量比=6:4)120gに加熱溶解し、濾過後、25℃まで冷却して調製した。装置は(株)柴山科学機械製作所製、毛細管粘度計自動測定装置SS−300−L1を用い、温度25℃で測定を行った。
【0040】
(4)溶融粘度
極限粘度は、(株)東洋精機製作所、商品名:キャピログラフ 1Cを用いて測定した。キャピラリの径は1mm、長さは10mmであり、測定条件は測定温度240℃、予熱時間3分、せん断速度100sec−1である。
【0041】
[2]ポリエステル樹脂構造体の評価方法
ポリエステル樹脂構造体の評価方法は以下の通りである。
(1)体積保持率
ポリエステル樹脂構造体を85℃の熱風乾燥機で30分加熱し、熱間前後の体積を測定し体積保持率(%)を算出した。
体積保持率(%)=(加熱後の体積÷加熱前の体積)×100
体積保持率(%)の高いものほど、耐熱性が高いと評価できる。
【0042】
(2)落下試験
水を充填し、アルミ箔積層フィルムで密閉したポリエステル樹脂構造体を1mの高さから15サンプルを自由落下(垂直落下)させた。目視で外観変化のないものを良好、割れもしくは漏れのあるものを不良とし、良好であったものの個数で評価した。
個数の多いものほど、耐衝撃性が高いと評価できる。
【0043】
[3]原料樹脂
実施例、比較例で使用した樹脂を以下に記す。
(1)ポリエチレンテレフタレート:日本ユニペット(株)製、RT−543C(表中PETと略記)
(2)ポリアミド樹脂:三菱ガス化学(株)製、MXナイロン 6011
(3)ポリエチレンナフタレート:東洋紡績(株)製、PN−550(表中PENと略記)
【0044】
<製造例1〜4>
〔ポリエステル樹脂(A1〜A4)の合成〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル製造装置に表1に記載の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分に対し酢酸マンガン四水和物0.03モル%の存在下、窒素雰囲気下で215℃迄昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、ジカルボン酸成分に対して、酸化アンチモン(III)0.02モル%とリン酸トリメチル0.06モル%を加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に270℃、0.1kPa以下で重縮合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂(A1〜A4)を得た。評価結果を表1に示す。
尚、表中の略記の意味は下記の通りである。
DMT:テレフタル酸ジメチル
NDCM:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル
EG:エチレングリコール
SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
DOG:5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン
【0045】
表1
製造例番号 製造例1 製造例2 製造例3 製造例4
モノマー仕込量(モル)
ジカルボン酸成分(モル)
DMT 201.8 174.6 275.9 208.0
NDCM 0.0 0.0 14.5 0.0
ジオール成分(モル)
SPG 62.6 80.3 17.6 0.0
EG 341.1 356.2 508.4 330.7
DOG 0.0 0.0 0.0 43.7
ポリエステル樹脂の評価結果
ポリエステル樹脂 A1 A2 A3 A4
環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合(モル%)
31 46 5 19
ガラス転移温度(℃) 104 113 90 89
極限粘度(dl/g) 0.70 0.66 0.67 0.73
溶融粘度(Pa・s) 2150 2950 1860 2100
【0046】
<実施例1>
〔シート及び熱成形による成形体(ポリエステル樹脂構造体)の製造〕
シリンダー径が40mmの二軸押出機からポリエステル樹脂(A2)(a層を構成)、シリンダー径が40mmの押出機からポリエチレンテレフタレート45重量部、ポリアミド樹脂10重量部、a層に使用した樹脂と同じポリエステル樹脂(A2)45重量部の組成物(b層を構成)、シリンダー径が30mmの押出機からポリエチレンテレフタレート(c層を構成)を押出し、層構成がa層/b層/c層の順となるようにフィードブロックを介して多層溶融状態を形成させ、80℃のロールで冷却しながらシート化した。各層の厚みは、a層/b層/c層でそれぞれ400/1300/300(μm)であり、全厚みは2000μmであった。得られたシートを浅野研究所製の連続圧空真空成形機で深絞り成形し、口径70mm、底部口径60mm、深さ100mmの容器(ポリエステル樹脂構造体)を得た。体積保持率の測定及び落下試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0047】
<実施例2>
実施例1のb層で用いるポリエチレンテレフタレートに替えて、実施例1で容器を打ち抜いたカスを粉砕した樹脂を使用した以外は実施例1と同様にシート及び容器(ポリエステル樹脂構造体)を製造し、体積保持率の測定及び落下試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0048】
<比較例1〜2>
ポリエステル樹脂(A2)に替えてポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレートを使用した以外は実施例1と同様にシート及び容器(ポリエステル樹脂構造体)を製造し、体積保持率の測定及び落下試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0049】
表2
実施例、比較例番号 実施例1 実施例2 比較例1 比較例2
a層に使用したポリエステル樹脂
A2 A2 PET PEN
容器(ポリエステル樹脂構造体)の評価結果
体積保持率(%) 99 100 93 100
落下試験 15 15 15 5
【0050】
<実施例3〜4>
〔射出成形体(ポリエステル樹脂構造体)の製造〕
ポリエステル樹脂(A1)またはポリエステル樹脂(A3)をFANAC製射出成形機(型式:AS100B)にて射出成形し、口径50mm、深さ45mmのリブ付の半球状の容器(ポリエステル樹脂構造体)を得た。体積保持率の測定及び落下試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0051】
<比較例3〜4>
ポリエステル樹脂(A1)に替えてポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレートを使用した以外は実施例3と同様に容器(ポリエステル樹脂構造体)を製造し、体積保持率の測定及び落下試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0052】
表3
実施例、比較例番号 実施例3 実施例4 比較例3 比較例4
a層に使用したポリエステル樹脂
A1 A3 PET PEN
容器(ポリエステル樹脂構造体)の評価結果
体積保持率(%) 100 98 96 100
落下試験 15 15 15 4
【0053】
<実施例5〜6>
〔ブロー成形体(ポリエステル樹脂構造体)の製造〕
(株)名機製作所製、射出成形機(型式:M200)を使用し、ポリエステル樹脂(A1)またはポリエステル樹脂(A4)をスキン層原料、ポリアミド樹脂をコア層原料として共射出法により2種5層、重量30gの多層プリフォームを成形した。次に、クルップコーポプラスト社(ドイツ)製、ブロー成形機(型式:LB−01)を使用し、ブロー成形により容積500mLのボトル(ポリエステル樹脂構造体)(耐圧仕様、ペタロイド底型)を成形した。体積保持率の測定及び落下試験を行った。結果を表1に示した。
【0054】
<比較例5〜6>
ポリエステル樹脂(A1)に替えてポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレートを使用した以外は実施例5と同様にボトル(ポリエステル樹脂構造体)を製造し、体積保持率の測定及び落下試験を行った。
【0055】
表4
実施例、比較例番号 実施例5 実施例6 比較例5 比較例6
a層に使用したポリエステル樹脂
A1 A4 PET PEN
ボトル(ポリエステル樹脂構造体)の評価結果
体積保持率(%) 100 99 92 100
落下試験 15 15 15 3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単位中の5〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層(B)を有する加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項2】
環状アセタール骨格を有するジオール単位が一般式(1):
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
または一般式(2):
【化2】

(式中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項3】
環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である請求項2記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項4】
樹脂層(B)中にポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(C)を含む請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(C)が、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物、ならびにエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびビスフェノールAから選ばれる1種以上の化合物に由来する単位からなるポリエステル樹脂である請求項4記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(C)がポリエチレンテレフタレートである請求項5記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項7】
樹脂層(B)中に酸素透過率がポリエチレンテレフタレートより小さい酸素バリア性樹脂(D)を含む請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項8】
酸素バリア性樹脂(D)がメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合して得られたキシリレン基含有ポリアミド樹脂である請求項7記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項9】
少なくとも樹脂層(B)を一つの層として有する多層構造体である請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項10】
樹脂層(B)以外の層として、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(C)を含む層を有する請求項9記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項11】
ポリエステル樹脂(C)が、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物、ならびにエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびビスフェノールAから選ばれる1種以上の化合物に由来する単位からなるポリエステル樹脂である請求項10記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項12】
ポリエステル樹脂(C)がポリエチレンテレフタレートである請求項10記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項13】
樹脂層(B)以外の層として、酸素透過率がポリエチレンテレフタレートより小さい酸素バリア性樹脂(D)を含む層を有する請求項9記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項14】
酸素バリア性樹脂(D)がメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合して得られたキシリレン基含有ポリアミド樹脂である請求項13記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項15】
回収ポリエステル樹脂(E)を含む層を有する請求項9記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項16】
樹脂層(B)が構造体の最内層である請求項9記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項17】
樹脂層(B)/回収ポリエステル樹脂(E)層/樹脂層(B)の3層構造を有する請求項16記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項18】
樹脂層(B)/(回収ポリエステル樹脂(E)および酸素バリア性樹脂(D)の組成物)層/樹脂層(B)の3層構造を有する請求項16記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項19】
押出成形により製造されたシートを熱成形した成形体である請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項20】
射出成形により製造された成形体である請求項1に記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項21】
ブロー成形により製造された成形体である請求項1に記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。
【請求項22】
食品を保存するための容器である請求項1記載の加熱用ポリエステル樹脂構造体。

【公開番号】特開2006−111718(P2006−111718A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299983(P2004−299983)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】