説明

加熱装置およびその制御方法

【課題】複数のヒータを用いた加熱装置において、一部のヒータが断線した場合であっても均熱性を保つことが可能な加熱装置およびその制御方法の提供。
【解決手段】複数のヒータ2の断線箇所を検知する断線検知装置12と、帯状物上の少なくとも1点の温度を測定する放射温度計13と、断線検知装置12により検知した断線箇所情報および放射温度計13により測定した帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて帯状物全体の温度分布をシミュレーションするとともに、このシミュレーション結果に基づいて断線検知装置12により検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正する温度分布シミュレータ・断線補正装置17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗、赤外線や近赤外線などのヒータを複数用いて、表面処理鋼板などの帯状物の加熱・乾燥や、水などの液体が付着した帯状物の乾燥などの帯状物の加熱全般、特に、均熱性が求められる加熱を行うための加熱装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂などの樹脂を溶融亜鉛めっき鋼板上に塗布し、加熱・乾燥させたような表面処理鋼板は、樹脂の硬化または架橋反応を利用して安定性を高めるため、塗布後に100℃以上の高温で乾燥・焼き付け処理を行う必要がある。このような乾燥・焼き付け処理を急速加熱により行う装置として、例えば特許文献1に記載の近赤外線加熱(NIR)を利用した加熱乾燥装置が知られている。
【0003】
この加熱乾燥装置は、内部にフィラメントを含む近赤外線ヒータと、近赤外線ヒータの上面側を覆うように配置された反射板とを備えている。めっき鋼板は、この加熱乾燥装置内に通板されており、近赤外線ヒータの下方を通過する間に、近赤外線ヒータから放射された近赤外線の一部が直接めっき鋼板に当たり、一部が反射板に反射された後にめっき鋼板に当たることで、加熱される。近赤外線ヒータは、長手方向がめっき鋼板の通板方向と平行であり、めっき鋼板の幅方向に沿って複数配置されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−275828号公報
【特許文献2】特許第3181511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このように複数のヒータを用いて表面処理鋼板などの帯状物の加熱を行う場合、複数のヒータのうちの一部が断線すると、その断線箇所近傍の帯状物の温度が低下してしまう。このとき、温度低下が局所的であって、測温部と異なる位置での温度低下の場合、測温部によって温度低下が検出されないので、制御上は温度低下が認識されず、均熱性が悪くなってしまうという問題が生じる。
【0006】
なお、このような複数のヒータを用いた装置において断線を検知する方法としては、例えば特許文献2に記載のように位相制御によるヒータへの供給電力をフィードバック制御するとともに、ヒータへの供給電流の検出値を理論値と比較して断線を検知する方法が知られているが、この方法は断線を検知するだけである。そのため、この方法は、断線を検知した都度、加熱能力の余裕度で決まる閾値で装置を停止し、ヒータを交換しなければならず、被加熱物の条件が大きく変動する表面処理鋼板などの帯状物の場合においては大きな歩留まり低下となる。
【0007】
そこで、本発明においては、複数のヒータを用いた加熱装置において、一部のヒータが断線した場合であっても均熱性を保つことが可能な加熱装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加熱装置は、複数のヒータにより帯状物の加熱を行う加熱装置であって、複数のヒータの断線箇所を検知する断線検知手段と、帯状物上の少なくとも1点の温度を測定する温度測定手段と、断線検知手段により検知した断線箇所情報および温度測定手段により測定した帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて帯状物全体の温度分布をシミュレーションするとともに、このシミュレーション結果に基づいて断線検知手段により検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正する補正手段とを有するものである。
【0009】
本発明の加熱装置によれば、一部のヒータの断線により温度が低下した箇所を、シミュレーションにより断線箇所情報および帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて求めた帯状物全体の温度分布に基づいて、他のヒータの出力を補正することにより補完することができる。
【0010】
また、本発明の加熱装置は、帯状物の温度目標値と温度測定手段により測定した帯状物上の少なくとも1点の温度とから複数のヒータの出力を制御する温度制御手段を有し、補正手段が、断線検知手段により検知した断線箇所が温度測定手段による測温部近傍の場合には、さらに温度目標値を補正するものであることが望ましい。
【0011】
断線箇所が測温部近傍の場合、この測温部近傍を温度目標値に保つようにヒータ出力を制御すると、他の部分の温度が上昇しすぎてしまうため、前述のヒータ出力の補正に加えて温度目標値を低く補正することにより、適切にこの断線により温度が低下した箇所の温度を補完することができる。
【0012】
さらに、本発明の加熱装置は、断線検知手段により検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合に警報を発する警報手段を有するものであることが望ましい。これにより、前述のヒータ出力の補正や温度目標値の補正によっても均熱性が保てない場合に警報を発することができる。
【0013】
また、本発明の加熱装置の制御方法は、複数のヒータにより帯状物の加熱を行う加熱装置の制御方法であって、複数のヒータの断線箇所を検知すること、帯状物上の少なくとも1点の温度を測定すること、検知した断線箇所および測定した帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて帯状物全体の温度分布をシミュレーションすること、このシミュレーション結果に基づいて、検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正することを含む。本発明の加熱装置の制御方法によれば、一部のヒータの断線により温度が低下した箇所を、シミュレーションにより断線箇所および帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて求めた帯状物全体の温度分布に基づいて他のヒータの出力を補正することにより補完することができる。
【0014】
また、本発明の加熱装置の制御方法では、帯状物の温度目標値と測定した帯状物上の少なくとも1点の温度とから複数のヒータの出力を制御すること、検知した断線箇所が帯状物の測温部近傍の場合には、さらに温度目標値を補正することを含むことが望ましい。これにより、前述のヒータ出力の補正に加えて温度目標値を低く補正することにより、適切にこの断線により温度が低下した箇所の温度を補完することができる。
【0015】
さらに、本発明の加熱装置の制御方法では、検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合に警報を発することを含むことが望ましい。これにより、前述のヒータ出力の補正や温度目標値の補正によっても均熱性が保てない場合に警報を発することができる。
【発明の効果】
【0016】
(1)複数のヒータの断線箇所を検知し、帯状物上の少なくとも1点の温度を測定し、検知した断線箇所および測定した帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて帯状物全体の温度分布をシミュレーションし、このシミュレーション結果に基づいて、検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正する構成により、複数のヒータを用いた加熱装置において、一部のヒータが断線した場合であっても、シミュレーションにより帯状物全体の温度分布を求めることで、ヒータが断線したことによる加熱能力への影響を的確に判断し、他の健全なヒータの出力を補正してこの断線したヒータを補完することで、均熱性を向上させることが可能となる。これにより、加熱対象物が表面処理鋼板などの帯状物の場合に、この帯状物の種類・幅・厚み・通過速度が変動したり、この加熱対象物の熱容量が変化したりしても、これに対応して均等性を維持することが可能となる。
【0017】
(2)帯状物の温度目標値と測定した帯状物上の少なくとも1点の温度とから複数のヒータの出力を制御し、検知した断線箇所が帯状物の測温部近傍の場合には、さらに温度目標値を補正する構成により、他の部分の温度を過度に上昇させることなく、適切にこの断線により温度が低下した箇所の温度を補完し、この断線箇所およびその他の部分の均熱性を向上させることができる。
【0018】
(3)検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合に警報を発する構成により、前述のヒータ出力の補正や温度目標値の補正によっても均熱性が保てない場合に警報を発することで、装置の安定稼働を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の実施の形態における帯状物の加熱乾燥装置の概略構成を示す側面断面図、図2は図1のA−A断面図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態における加熱乾燥装置1は、表面処理鋼板(例えば、めっき鋼板)などの帯状物Sに被覆された有機樹脂を加熱乾燥させるための装置であって、内部に発熱体としてのエミッタ2aを有する近赤外線ヒータ(以下、「ヒータ」と称す。)2と、反射板としてのリフレクタ3と、防汚用のガラス4と、加熱乾燥装置1の入口部1aおよび出口部1bにそれぞれ設けられた反射板としてのリフレクタ5,6とを主に備える。
【0021】
帯状物Sは、幅が600〜1270mm程度であり、入口部1aから出口部1bまで30〜65m/minで通過させる。ヒータ2は、図2に示すように、通過させる帯状物Sに対して幅方向にそれぞれ72本配置されている。また、ヒータ2は帯状物Sを挟むように上下にそれぞれ配置されており、帯状物Sの上側(表側)および下側(裏側)で計144本配置されている。さらに、ヒータ2は、加熱乾燥装置1の前段および後段の2段に分けて配置されており、前後段を合わせると合計288本配置されている。
【0022】
なお、ヒータ2は、エミッタ2aが筒形状の石英ガラス管2bの内部に配置され、その周囲にハロゲンなどの気体が充填されたものである。エミッタ2aは、例えば、帯状物Sの通過方向に平行な方向の長さが250mm程度であり、約3〜5kWの出力を有するものを使用できる。また、エミッタ2aは、近赤外線を放射し、その長手方向が帯状物Sの通過方向と平行であり、帯状物Sの幅方向に沿って15〜25mm間隔、本実施形態においては20mm間隔で複数配置されている。
【0023】
このように、隣り合う各エミッタ2aの間隔を帯状物Sの幅方向に沿って15〜25mm間隔としたのは、各エミッタ2aの間隔が15mm未満であると、使用するエミッタ2aの本数が多くなり不経済である上に、ヒータ2の直径を小さくする必要が生じて技術的に困難になるためである。一方、エミッタ2aの間隔が25mm超であると、帯状物Sの幅方向に温度むらが生じたり、現行の技術では製作が困難な高出力のヒータ2が要求されたりするため好ましくない。
【0024】
また、エミッタ2aは、帯状物Sの幅方向の中央を起点として帯状物Sの両側から外側に40〜120mm離隔した位置まで配置されるものとする。これは、帯状物Sの端部の温度低下を防止するために、帯状物Sの端部よりも外側を加熱するためであり、帯状物Sの通過時の幅方向蛇行量を考慮して決定する。また、40〜120mmとしたのは、40mm未満であると、帯状物Sの端部は十分に加熱されず、帯状物Sの中央部と端部との温度差が大きくなりすぎるため好ましくないためである。一方、上限は特に大きな制約はないが、120mmを超えると、帯状物Sの端部は過度に加熱される傾向にあること、また、大きくなりすぎると省エネ上好ましくないため120mmとしている。
【0025】
また、本実施形態に係るエミッタ2aと帯状物Sとの距離は、50〜200mmとなるように構成されている。このように、エミッタ2aと帯状物Sとの距離を50〜200としたのは、エミッタ2aと帯状物Sとの距離が50mm未満であると、帯状物Sが移動中に、上下にばたついて、ヒータ2などの設備破損を生じる恐れがあるからである。一方、エミッタ2aと帯状物Sとの距離が200mmを超えると、加熱効率が悪くなり、大出力のヒータ2やヒータ2の増設が必要となるため好ましくない。
【0026】
リフレクタ3は、ヒータ2による加熱を効率的に行うために設けられた略W字状断面の反射板であり、図2に示すように上側のヒータ2の上面側および下側のヒータ2の下面側をそれぞれ覆うように配置されている。ヒータ2から放射された近赤外線は、一部は直接帯状物Sに当たり、一部はリフレクタ3に反射された後に帯状物Sに当たる。なお、リフレクタ3を略W字状としたのは、帯状物Sをより均一に加熱できるようにするためである。但し、リフレクタ3の形状は、略W字状に限定されず、ヒータ2から放射された近赤外線が反射して帯状物Sに当てることができる構造であれば、いかなる構造のものであっても良い。一方、加熱乾燥装置1の入口部1aおよび出口部1bにそれぞれ配置されたリフレクタ5,6はフラット形状であり、これらは加熱乾燥装置1の内外を断熱するためのものである。
【0027】
ガラス4は、ヒータ2を保護するために、ヒータ2と帯状物Sとの間に配置されたものである。
【0028】
また、本実施形態における加熱乾燥装置1は、図1に示すように、加熱乾燥装置1の前段部および後段部のエミッタ2aの出力をそれぞれ制御するためのサイリスタユニット10a,10bと、帯状物Sの幅に応じてエミッタ2aの点灯範囲の切替および個別にエミッタ2aのオンオフを行うためのコンタクタ・リレー11a,11bと、エミッタ2aの断線を検知するための故障検知ユニット12a,12bと、加熱乾燥装置1の出口部1bの帯状物Sの幅方向中央部上の1点の温度実績を測定する温度測定手段としての放射温度計13と、放射温度計13の温度実績値等に基づいてサイリスタユニット10a,10bやコンタクタ・リレー11a,11b等を制御する制御装置14とを有する。
【0029】
ここで、サイリスタユニット10a,10bおよびコンタクタ・リレー11a,11bにより、帯状物Sの幅方向の中央を起点として帯状物Sの両端から外側に40〜120mm離隔した位置までの間にあるエミッタ2aを加熱に使用するか否かの制御方法の詳細について説明する。図3は本実施形態に係る加熱乾燥装置1の構成を概略的に示す説明図、図4は本実施形態に係るエミッタ2aの制御方法を示すフロー図、図5は本実施形態に係るエミッタ2aの制御方法を用いた具体例を示す説明図である。
【0030】
図3に示すように、本実施形態における加熱乾燥装置1では、通過している帯状物Sを加熱するためのヒータ2が、加熱乾燥装置1の中心に対して対称にN個ずつ設けられている(ヒータ2−1〜2−N)。また、加熱中にエミッタ2aのコイルの幅が変化したり、帯状物Sがウォーク(蛇行)したりするので、加熱乾燥装置1の前または後ろに、帯状物Sの幅方向の端部の位置を検出する検出部(センサ)20を設けることができる。この検出部20からの信号によって使用するヒータ2−1〜2−Nを選択することとなる。以下、本実施形態に係るエミッタ2aの制御方法について説明する。
【0031】
ここで、エミッタ2aの制御を開始する前に、帯状物Sの幅方向の中央を起点として帯状物Sの両端から外側に所定距離α(=40〜120mm)離隔した位置までの間にあるエミッタ2aで加熱するように制御するため、帯状物Sの両端から外側にはみ出した距離(以下、「はみ出し加熱幅」という)αを、予め定めておく。
【0032】
エミッタ2aの制御の開始後は、まず、予め決定されたはみ出し加熱幅α(図3を参照)を読み込む(ステップS102)。次いで、検出部20により検出された加熱乾燥装置1の中心から帯状物Sの端部までの距離W(図3を参照)を読み込む(ステップS104)。なお、ステップS102とステップS104とは、いずれが先に行われてもよい。
【0033】
次いで、ステップS102とステップS104で読み込んだはみ出し加熱幅αと距離Wとから算出したW+αと、加熱乾燥装置1の中心からi番目(i=1〜N)のヒータ2−iまでの距離(Hi)とを比較する(ステップS106)。このステップS106の処理は、i=1、すなわち加熱装置中心に配置されたヒータ2−1から開始される。
【0034】
ステップS106の処理の判定(ステップS108)の結果、W+αがHi以上である(W+α≧Hi)場合には、i番目のヒータ2−iを使用する(ヒータをONにする)ように制御する(ステップS110)。
【0035】
次に、加熱乾燥装置1の中心からi+1番目のヒータ2−(i+1)までの距離(Hi+1)とW+αとを比較する(ステップS112)。このステップS112の判定(ステップS108)の結果、W+αがHi+1以上である(W+α≧Hi+1)場合には、i+1番目のヒータ2−(i+1)を使用する(ヒータをONにする)ように制御する(ステップS110)。
【0036】
以上のステップS108〜S112の工程は、N番目のヒータ2−Nまで全てのヒータ2−1〜2−NについてステップS108の判定が行われるまで繰り返される。すなわち、加熱乾燥装置1の中央部(1番目)のヒータ2−1から最外部(N番目)のヒータ2−Nまで、順次上記の処理が行われる。ただし、ステップS108の判定の結果、W+αがHi未満である(W+α<Hi)場合には,i番目のヒータ2−iを使用しない(ヒータをOFFにする)ように制御し(ステップS114)、エミッタ2aの制御を終了する。
【0037】
その結果、例えば、図5に示したように、帯状物Sの端部からαmmだけ離隔した位置までにあるヒータ2−1〜2−6までが加熱に使用され(ヒータがONにされ)、帯状物Sの端部からαmmだけ離隔した位置の外側にあるヒータ2−7は加熱に使用されない(ヒータがOFFにされる)ように制御される。なお、図5においては、一例として、ヒータ2の数が片側に7つの場合(N=7の場合)を示してあり,ヒータONの状態を黒塗りで、ヒータOFFの状態を白塗りで示してある。
【0038】
以上のステップS102〜S114までの処理は、一定時間(例えば、1秒未満の短時間)で繰り返される。
【0039】
次に、本実施形態における加熱乾燥装置1の制御方法について説明する。図6は図1の加熱乾燥装置1の制御ブロック図である。
【0040】
図6において、点線で囲まれた部分は、帯状物Sの前段および後段のそれぞれ上側および下側に配置された72本のヒータ2を1単位とした制御ブロックであり、ヒータ2と、位相制御手段としての位相制御装置15と、断線検知手段としての断線検知装置12とから構成される。この制御ブロックは、72本のヒータ2を1単位として複数ブロック有する。位相制御装置15は、上述のように幅に応じたエミッタ2aの点灯範囲を切り替えるとともに、位相制御によりヒータ2の出力を制御するものであり、図1のサイリスタユニット10a,10bおよびコンタクタ・リレー11a,11b等により構成される。断線検知装置12は、複数のヒータ2の断線箇所を検知するものであり、図1の故障検知ユニット12a等により構成される。
【0041】
また、温度制御コントローラ16および温度分布シミュレータ・断線補正装置17は、図1の制御装置14内に構成されている。温度制御コントローラ16は、帯状物Sの温度目標値と放射温度計13により測定した帯状物S上の1点の温度とから複数のヒータ2のベース出力を制御するものである。温度分布シミュレータ・断線補正装置17は、断線検知装置12により検知した断線箇所情報および放射温度計13により測定した帯状物S上の1点の温度に基づいて帯状物S全体の温度分布をシミュレーションするとともに、断線検知装置12により検知した断線箇所の周りの健全なヒータ2の出力を補正するものである。
【0042】
なお、温度分布シミュレータ・断線補正装置17による帯状物S全体の温度分布のシミュレーションは、通常の輻射伝熱の計算ができるプログラムにより行うことができ、伝熱空間の角関係を計算して求める方法、ヒータ2から放射された近赤外線が帯状物Sの上下の表面または加熱乾燥装置1内面に完全に吸収されるまで、自由光線だけでなく複合的な反射も考慮して追跡し、吸収されるエネルギ分布を導出する方法、または、それらの方法から求められた結果をテーブルにして近似式で補完する方法、あるいは、これらの組み合わせなどを用いることができる。要は、ヒータ2の断線有無・断線している場合の断線箇所・ヒータ2への投入電力・加熱される帯状物Sのサイズ・密度・比熱・輻射率・通過速度などから加熱乾燥装置1の出口部1b側の温度測定位置における帯状物Sの幅方向の温度分布と補正すべき温度の量を計算できるプログラムにより行えばよい。
【0043】
上記構成の加熱乾燥装置1では、温度制御コントローラ16が、予め設定された帯状物Sの温度目標値と放射温度計13により測定した帯状物S上の幅方向中央部1点の温度実績値とから複数のヒータ2のベース出力をフィードバック制御する。位相制御装置15は、この温度制御コントローラ16からのベース出力指令に基づいて幅に応じたエミッタ2aの点灯範囲を切り替えるとともに、位相制御によりエミッタ2aの出力を制御する。
【0044】
このとき、断線検知装置12は、温度制御コントローラ16からのベース出力指令とヒータ2の電流実績とを監視して、断線を検知した場合にはヒータ2の断線箇所情報を温度分布シミュレータ・断線補正装置17へ出力する。一方、温度分布シミュレータ・断線補正装置17は、断線箇所情報および帯状物S上の1点の温度と、通過条件(幅・厚み・ヒータ2に対する位置関係)に基づいて帯状物S全体の温度分布をシミュレーションする。そして、温度分布シミュレータ・断線補正装置17は、このシミュレーションにより求めた温度分布に基づいて断線箇所の周りの健全なヒータ2に対する出力補正を行う。
【0045】
これにより、本実施形態における加熱乾燥装置1では、一部のヒータ2の断線により温度が低下した箇所を、シミュレーションにより断線箇所情報および帯状物S上の1点の温度に基づいて求めた帯状物S全体の温度分布に基づいて他のヒータ2の出力を補正することにより補完することができ、均熱性を保つことができる。
【0046】
また、この加熱乾燥装置1では、温度分布シミュレータ・断線補正装置17は、断線箇所が放射温度計13による測温部近傍の場合には、この測温部近傍を温度目標値に保つようにヒータ2の出力を制御すると、他の部分の温度が上昇しすぎてしまうため、前述のヒータ出力の補正に加えて温度目標値を低く補正する。これにより、帯状物Sの幅方向中央部のヒータ2が断線した場合であっても、適切にこの断線により温度が低下した箇所の温度を補完することができる。
【0047】
また、本実施形態における加熱乾燥装置1では、断線検知装置12により検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合には、パトライトやサイレンなどの警報手段により警報を発する構成とすることが可能である。これにより、温度分布シミュレータ・断線補正装置17によるヒータ出力の補正や温度目標値の補正によっても均熱性が保てない場合に警報を発し、装置の安定稼働を図ることができる。
【0048】
なお、本実施形態における加熱乾燥装置1は、放射温度計13により帯状物S上の1点を測定する構成であるが、数点を測定する構成とすることも可能である。なお、温度測定箇所は多い方が正確な温度分布を求めることができるので望ましいが、測定箇所が増え過ぎると温度分布シミュレータ・断線補正装置17に掛かる負荷が高くなるので、3〜5点以下あるいは7〜10点以下とするのが好ましい。
【実施例】
【0049】
次に、本実施形態における加熱乾燥装置1の均熱性を確認するための実験を行った。なお、帯状物Sとして溶融亜鉛めっき鋼板を使用した。
【0050】
まず、最大幅の帯状物S通板時の均熱性およびウォークの影響について検証した。図7は、最大幅の帯状物Sの幅は1270mm、帯状物Sの両外側に85mm離間した位置までヒータ2により加熱を行った際の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)はウォークがない場合の図、(b)はウォークが50mmある場合の図である。
【0051】
次に、加熱効率が最も悪い最小幅の帯状物S通板時の均熱性およびウォークの影響について検証した。図8は、最小幅の帯状物Sの幅は600mm、帯状物Sの両外側に100mm離間した位置までヒータ2により加熱を行った際の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)はウォークがない場合の図、(b)はウォークが50mmある場合の図である。
【0052】
ヒータ2の健全時は、幅方向中央部1点の測定温度に基づくフィードバック制御によって、最大幅の帯状物S通板時の幅方向の温度差は、図7に示すように許容値(±5℃以内)に十分収まっており問題はなかった。また、最小幅の帯状物S通板時の幅方向の温度差についても、図8に示すように許容値(±5℃以内)に収まっており問題はなかった。
【0053】
また、断線警報レベルについて検証した。図9は、帯状物Sの両外側に離間した位置までのヒータ2による加熱幅が最も少ない最大幅の帯状物Sの通板時に、帯状物Sのエッジ部分のヒータ2が断線、かつ断線した側に50mmウォークした場合の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)は2本断線した場合の図、(b)は3本断線した場合の図である。
【0054】
図9から分かるように、帯状物Sのエッジ部の2本が断線した場合には温度差の許容値(±5℃以内)に収まっており、問題はなかったが、帯状物Sのエッジ部の3本が断線した場合、温度低下が激しく、周辺の健全なヒータ2の出力を補正しても、温度差の許容値を超えていた。この場合、警報手段により警報を発するようにすることで、装置の安定稼働を図ることができる。
【0055】
また、図10は、加熱効率が最も悪い最小幅の帯状物Sの通板時に、幅方向の中央部のヒータ2が断線した場合の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)は2本断線した場合の図、(b)は3本断線した場合の図である。図10から分かるように、幅方向の中央部のヒータ2の2本が断線した場合には温度差の許容値(±5℃以内)に収まっており、問題はなかったが、帯状物Sのエッジ部の3本が断線した場合、この幅方向中央部近傍のヒータ出力を上昇させると、他の部分の温度が上昇しすぎてしまい、上限側が許容値を超えていた。この場合も、警報手段により警報を発するようにすることで、装置の安定稼働を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の加熱装置およびその制御方法は、表面処理鋼板の加熱・乾燥や、水などの液体が付着した鋼板の乾燥などの鋼板の加熱全般、特に、均熱性が求められる加熱を行うための装置およびその制御方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態における帯状物の加熱乾燥装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本実施形態に係る加熱乾燥装置の構成を概略的に示す説明図である。
【図4】本実施形態に係るエミッタの制御方法を示すフロー図である。
【図5】本実施形態に係るエミッタの制御方法を用いた具体例を示す説明図である。
【図6】図1の加熱乾燥装置の制御ブロック図である。
【図7】ヒータ健全時の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)はウォークがない場合の図、(b)はウォークが50mmある場合の図である。
【図8】ヒータ健全時の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)はウォークがない場合の図、(b)はウォークが50mmある場合の図である。
【図9】帯状物のエッジ部分のヒータが断線、かつ断線した側に50mmウォークした場合の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)は2本断線した場合の図、(b)は3本断線した場合の図である。
【図10】幅方向の中央部のヒータが断線した場合の幅に対する温度分布を示す図であって、(a)は2本断線した場合の図、(b)は3本断線した場合の図である。
【符号の説明】
【0058】
S 帯状物
1 加熱乾燥装置
2 ヒータ
2a エミッタ
2b 石英ガラス管
3,5,6 リフレクタ
4 ガラス
10a,10b サイリスタユニット
11a,11b コンタクタ・リレー
12a,12b 故障検知ユニット
13 放射温度計
14 制御装置
15 位相制御装置
16 温度制御コントローラ
17 温度分布シミュレータ・断線補正装置
20 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヒータにより帯状物の加熱を行う加熱装置であって、
前記複数のヒータの断線箇所を検知する断線検知手段と、
前記帯状物上の少なくとも1点の温度を測定する温度測定手段と、
前記断線検知手段により検知した断線箇所情報および前記温度測定手段により測定した前記帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて前記帯状物全体の温度分布をシミュレーションするとともに、このシミュレーション結果に基づいて前記断線検知手段により検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正する補正手段と
を有する加熱装置。
【請求項2】
前記帯状物の温度目標値と前記温度測定手段により測定した前記帯状物上の少なくとも1点の温度とから前記複数のヒータの出力を制御する温度制御手段を有し、
前記補正手段は、前記断線検知手段により検知した断線箇所が前記温度測定手段による測温部近傍の場合には、さらに前記温度目標値を補正するものである
請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記断線検知手段により検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合に警報を発する警報手段を有する請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項4】
複数のヒータにより帯状物の加熱を行う加熱装置の制御方法であって、
前記複数のヒータの断線箇所を検知すること、
前記帯状物上の少なくとも1点の温度を測定すること、
前記検知した断線箇所情報および前記測定した前記帯状物上の少なくとも1点の温度に基づいて前記帯状物全体の温度分布をシミュレーションすること、
このシミュレーション結果に基づいて、前記検知した断線箇所の周りのヒータの出力を補正すること
を含む加熱装置の制御方法。
【請求項5】
前記帯状物の温度目標値と前記測定した前記帯状物上の少なくとも1点の温度とから前記複数のヒータの出力を制御すること、
前記検知した断線箇所が前記帯状物の測温部近傍の場合には、さらに前記温度目標値を補正すること
を含む請求項4記載の加熱装置の制御方法。
【請求項6】
前記検知した断線箇所および断線数から均熱性が保てないと判断された場合に警報を発することを含む請求項4または5に記載の加熱装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−250514(P2009−250514A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98589(P2008−98589)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パトライト
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】