説明

加熱装置および加熱方法

【課題】発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して反応容器内の充填率を向上できる加熱装置および加熱方法を提供する。
【解決手段】加熱によりガスを放出する粉体のための加熱装置100であって、粉体の原料Pを収容し、ガスを排出可能に形成された容器110と、容器の周囲に設けられたヒータ120と、ヒータ120による容器110の加熱位置を所定速さ未満で移動させる加熱位置移動部と、を備えることを特徴としている。このように、容器110の加熱位置を所定速さ未満で移動させることで、発生ガス量を抑制し、原料の粉体Pの飛散を防止して反応容器110内の充填率を向上させることができる。また、原料の粉体Pが飛散せず適正な温度履歴を与えることができ、原料に期待した反応を生じさせることができる。また、粉体が飛散しないことから歩留まりが向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱によりガスを放出する粉体のための加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体を加熱し反応させることでガスを放出させながら所望の物質を得る方法が知られている。図9は、従来装置の一例を示す側断面図である。図9に示すように、装置900は、容器910の周りに固定されたヒータ920および断熱材930が設けられており、原料の粉末P全体を同時に加熱する。
【0003】
一方、炉芯管110内の温度分布を制御する技術も知られている。たとえば、特許文献1記載の光ファイバ母材の製造装置は、炉芯管110の外周を囲むように炉芯管の長手方向に沿って並列に配した第一のヒータ、第二のヒータを、独立に温度制御可能にし、光ファイバ用多孔質母材に対して相対的に移動可能とする。これにより、炉芯管110内に任意の温度分布を形成している。
【0004】
また、特許文献2記載の多孔質ガラス母材の透明化方法は、多孔質ガラス母材を炉芯管110内に吊り下げ、炉芯管110の外周に加熱源を配置し、加熱源に対する多孔質ガラス母材の相対位置に応じて相対移動速度もしくは加熱源の加熱温度を調整している。これにより、得られる透明ガラス母材に外径変動を生じさせないように透明化処理をしている。
【0005】
また、特許文献3記載の縦型移動炉は、炉体を垂直方向に連続させた縦型とし、上方から下方に向けて予熱帯、焼成帯、冷却帯を順次形成している。そして、炉体の中心に被焼成品がセットされた窯道具を積層し、炉体上端から炉体下端に向けて被焼成品を移動させる移動経路を構成している。これにより、温度分布が均一で、熱交換効率および加熱効率を高めている。
【0006】
また、特許文献4記載のセラミックスの焼成装置は、被焼成体をセットするセッティング部と被焼成体を焼成する加熱部と被焼成体を取出す取出し部を設け、被焼成体を所定軸の回りに回転させつつ移動するための移動装置を設け、複数の被焼成体をセッティング部から加熱部を経て取出し部まで移動できる構成にしている。これにより、焼成むらがなく均一な組織をもつ製品を焼成できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−320197号公報
【特許文献2】特開2003−176136号公報
【特許文献3】特開平10−238953号公報
【特許文献4】特開平5−196364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、原料の粉末の全体を同時に加熱すると多量のガスが一度に発生し、ガスにより原料の粉体が飛散する。その結果、反応容器内の充填率を上げることができない。また、飛散した物質が均熱帯から外れ、適正な温度履歴を受けることができず、期待した反応を得ることができない。また、飛散した物質が反応ガスの排出口から排出され、製品の歩留まりが下がる。
【0009】
一方、他分野では容器とその周囲の加熱源との相対速度とを調整するものもあるが、これらはガスの発生を抑制するものではなく、粉体の飛散を防止できない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して反応容器内の充填率を向上できる加熱装置および加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の加熱装置は、加熱によりガスを放出する粉体のための加熱装置であって、粉体の原料を収容し、ガスを排出可能に形成された容器と、前記容器の周囲に設けられたヒータと、前記ヒータによる前記容器の加熱位置を所定速さ未満で移動させる加熱位置移動部と、を備えることを特徴としている。
【0012】
このように、容器の加熱位置を所定速さ以下で移動させることで、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して反応容器内の充填率を向上させることができる。また、原料の粉体が飛散せず適正な温度履歴を与えることができ、原料に期待した反応を生じさせることができる。また、粉体が飛散しないことから歩留まりが向上する。
【0013】
(2)また、本発明の加熱装置は、前記加熱位置移動部が、前記容器および前記ヒータを相対的に移動させる駆動部と、前記駆動部の駆動を制御する駆動制御部とを有することを特徴としている。これにより、容器の加熱位置を移動させて発生ガス量を抑制することができる。また、容器を駆動させる場合には一般的に構成を容易にすることができる。
【0014】
(3)また、本発明の加熱装置は、前記ヒータが、区分ごとに加熱制御可能であり、
前記加熱位置移動部は、前記区分ごとに加熱制御することで、前記容器の加熱位置を移動させることを特徴としている。これにより、機械的な駆動を伴わずヒータの温度制御のみで加熱位置を変えることができ、発生ガス量を抑制することができる。また、装置規模をコンパクトにすることができる。
【0015】
(4)また、本発明の加熱装置は、Ggを単位原料あたりのガス発生量、Ttiを原料の加熱時間、Vtを前記容器の加熱位置の移動速度、Gを重力加速度、dを原料の粒径、ρpを原料の密度、ρgをガスの密度、μをガスの粘性係数としたとき、前記加熱位置移動部は、以下の数式を満たすように前記容器の加熱位置の移動速度Vtを決定することを特徴としている。これにより、原料の粉体が飛散しないように容器の加熱位置の移動速度を制御することができる。なお、Ttiは、Vtに依存する。
【数1】

【0016】
(5)また、本発明の加熱装置は、前記容器は、内部の雰囲気を維持するためにガスを供給するためのガス供給口を更に有することを特徴としている。これにより。ガスにより雰囲気を調整して行う加熱についても原料の粉体の飛散を防止することができ、効果を高めることができる。
【0017】
(6)また、本発明の加熱装置は、前記ヒータの外周には、前記容器の全長にわたる断熱材を更に備えることを特徴としている。これにより、放散熱を低減し、熱損失を小さく抑えることができる。
【0018】
(7)また、本発明の加熱装置は、上記の加熱装置を用いて粉体を加熱する加熱方法であって、排出口側の原料表面における移動速度より、その部分以外における移動速度を大きくすることを特徴としている。これにより、排出口側の原料端部においてすでに反応を終了した生成物が、反応前の原料の粉体が飛散するのを防止することを利用して、全体の反応時間を短縮することができる。
【0019】
(8)また、本発明の加熱方法は、加熱によりガスを放出する粉体のための加熱方法であって、容器内の原料の粉体を原料から放出されるガスにより原料の粉体が飛散し始める速さ未満で徐々に加熱位置を変えながら加熱することを特徴としている。
【0020】
これにより、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して炉芯管内の充填率を向上させることができる。また、原料の粉体が飛散せず適正な温度履歴を与えることができ、原料に期待した反応を生じさせることができる。また、粉体が飛散しないことから歩留まりが向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して炉芯管内の充填率を向上させることができる。また、原料の粉体が飛散せず適正な温度履歴を与えることができ、原料に期待した反応を生じさせることができる。また、粉体が飛散しないことから歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る加熱装置の構成を示す側断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る加熱装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る加熱装置の動作場面を示す側断面図である。
【図4】温度とガス発生量との関係を示すグラフである。
【図5】温度パターンの一例を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る加熱装置の構成を示す側断面図である。
【図7】第2の実施形態に係る加熱装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図8】第3の実施形態に係る加熱装置の構成を示す側断面図である。
【図9】従来装置の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0024】
[第1の実施形態]
(加熱装置の構成)
図1は、加熱装置100の構成を示す側断面図である。加熱装置100は、加熱によりガスを放出する粉体Pを加熱するための装置である。図1に示すように、加熱装置100は、炉芯管110(容器)、ヒータ120および断熱材130を備えている。
【0025】
炉芯管110は、炉芯管本体111(容器本体)およびガスの排出口115を有し、原料の粉体Pを収容する。炉芯管本体111は、有底の円筒形状であり、開口側の端部は、排出口115と結合している蓋116で閉じられている。なお、炉芯管本体111は、円筒形状でなくてもよく、外周の形状が中心軸方向について一定の筒形状であれば、多角筒形状でもよい。
【0026】
排出口115は、原料の粉体Pの反応により発生するガスを排出する。排出口115は、ガス流通管(図示せず)に接続しており、そのガス流通管は、発生したガスを燃焼させたり、除外したりするための処理設備に接続している。
【0027】
原料の粉体Pには、たとえば、Mをアルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属とし、Nを水素、窒素、炭酸または硫黄等としたとき、MNで構成される化合物が挙げられる。原料の粉体Pの一例として炭酸水素ナトリウムを加熱するときには、以下のような反応が発生する。
2NaHCO→NaCO+HO+CO
なお、原料の粉体Pは、加熱によりガスを発生させる粉体であればよく、上記の材料に限定されない。
【0028】
ヒータ120は、炉芯管110の一部の周囲に設けられている。ヒータ120が加熱する領域の一部で所望の温度を保持している範囲は均熱帯と呼ばれる。炉芯管110およびヒータ120の一方を他方に対して所定速さ未満で移動させることで、上記の均熱帯を移動させ、ガスの発生量を抑制することができる。所定速さとは、放出されるガスにより原料の粉体が飛散し始める速さである。加熱位置の移動速度の詳細については後述する。
【0029】
断熱材130は、ヒータ120の外周に設けられ、ヒータ120の周囲だけでなく炉芯管110の全長にわたる形状であることが好ましい。これにより、放散熱を低減し、熱損失を小さく抑えることができる。排出口115と結合している蓋116は、たとえばシリコン栓であり炉芯管110に対して取り外し可能に設けられている。なお、蓋116は、密閉できるものであればよく、シリコン栓に限定されるものではない。炉芯管110に原料の粉体Pを入れる際または反応後の粉体Pを取り出す際には、蓋116は外される。以上が加熱装置100の構造的構成の説明である。
【0030】
次に、加熱装置100の機能的構成を説明する。図2は、加熱装置100の機能的構成を示すブロック図である。図2に示すように、加熱装置100は、さらに操作部141、制御部142、加熱位置移動部143および加熱制御部146を備えている。操作部141は、粉体Pに特有の反応温度等により設定温度や加熱位置の移動速度を調整するユーザの操作を受け付ける。
【0031】
制御部142は、加熱制御および加熱位置の移動の制御を調整する。たとえばヒータ120の出力を大きくし、ヒータ120の温度を高くする場合には、加熱位置の移動を遅くなるように調整して発生ガス量を抑制できる。加熱位置移動部143は、ヒータ120による炉芯管110の加熱位置を所定速さ未満で移動させる。加熱位置移動部143は、駆動制御部144および駆動部145を有している。
【0032】
駆動制御部144は、駆動部145を制御して、ヒータ120による炉芯管110の加熱位置を所定速さ未満で移動させる。このように、炉芯管110の加熱位置を所定速さ未満で移動させることで、発生ガス量を抑制し、原料の粉体Pの飛散を防止して、粉体Pの炉芯管内の充填率を向上させることができる。また、原料の粉体Pが飛散せず適正な温度履歴を与えることができ、原料に期待した反応を生じさせることができる。また、粉体が飛散しないことから歩留まりが向上する。
【0033】
駆動部145は、駆動制御部144の制御により固定されたヒータ120に対して炉芯管110を駆動する。駆動部145には、たとえばモータが用いられ、モータの駆動力により炉芯管110を吊り上げることができる。その場合には、たとえば1mm/min程度の速さで上昇可能な機構とする。このように炉芯管110を駆動させることで加熱位置を移動させて発生ガス量を抑制することができる。
【0034】
なお、炉芯管110を固定して、ヒータ120を炉芯管110に対して移動させてもよく、両者の相対位置を移動させるならいずれでもよい。いずれかをモータ等の駆動力で移動させることができれば、回転数で制御できるので、制御が容易である。ただし、炉芯管110を移動させる方が簡易な構造となるので好ましい。
【0035】
加熱制御部146は、粉体Pを目標の温度に維持するためにヒータ120の出力を制御する。粉体Pの表面付近であるか否か等も考慮して加熱対象を均熱に維持するように出力を調整できる。温度を維持するための加熱制御の詳細については温度パターンの一例を挙げて後述する。
【0036】
(加熱装置の動作)
以上のように構成される加熱装置100の動作を説明する。図3は、加熱装置100の動作場面を示す側断面図である。まず、開口端から原料の粉体Pを炉芯管110(容器)に入れ、蓋116で封止する。そして、ヒータ120に電力を供給し、原料の粉体Pを反応が進む温度で維持させる。
【0037】
次に、図3に示すように、ヒータ120を固定した状態で、炉芯管110を矢印aの方向(上昇方向)に徐々に移動させることで、炉芯管内の原料の粉体Pを所定の速度未満で加熱位置を変えながら加熱する。このように放出されるガスにより原料の粉体Pが飛散し始める速さ未満の速さで炉芯管110を移動させ、加熱によりガスを放出する粉体Pを加熱する。その結果、発生ガス量を抑制し、原料の粉体Pの飛散を防止して炉芯管110内の充填率を向上できる。
【0038】
なお、排出口115側の原料の粉体Pの表面付近では加熱位置の移動速度を小さくし、その領域以外では移動速度を大きくすることが好ましい。これにより、排出口115側の原料の粉体Pの表面付近において反応を終了した生成物が、内部からの粉体Pの飛散を抑制することを利用して、全体の反応時間を短縮することができる。加熱処理を終えたら、自然冷却して反応生成物を取り出す。
【0039】
(加熱位置の移動速度の算出)
1.必要条件
次に加熱位置の移動速度について説明する。加熱装置100では、以下の数式(1)に示すように炉芯管110(容器)内のガス速度Vgと原料の沈降速度Vfが、Vg<Vfの関係を満たすように炉芯管の移動速度Vtを決めることができる。原料の沈降速度Vfより炉芯管内のガス速度が低ければ、原料は舞い上がらないためである。
【数2】

【0040】
2.単位時間、単位原料当たりの発生ガス量の計算
次に、単位原料が所定の温度パターンで加熱されたときの発生ガス量を算出する。まず、温度変化に対する単位時間・単位原料当たりの発生ガス量を考慮する。図4は、温度とガス発生量との関係を示すグラフである。たとえば、ある温度における単位時間・原料単位重量当たりのガス発生量Gtiは、温度Tteを用いて以下の式で表せる。
【数3】

【0041】
次に、時間に対する温度の変化を考慮する。図5は、温度パターンの一例を示す図である。横軸が時間Tti、縦軸が温度Tteを示している。昇温完了時間Tti1までについて、時間Ttiにおける温度Tteは、たとえば以下の式で表すことができる。
【数4】

【0042】
そして、式(2)に式(3)を代入することで、昇温完了までの時間Tti1における単位時間あたりのガス量を算出できる。
【数5】

【0043】
したがって、昇温完了時間Tti1までに単位原料当たりが発生する総ガス量は以下の数式で表すことができる。
【数6】

【0044】
時間Tti1以降(温度保持状態時)に原料から発生する単位時間当たりのガス量は、式(4)より以下のように算出できる。
【数7】

【0045】
次に、炉芯管110の内部空間の断面積と加熱位置の移動速度から単位時間あたり新たに加熱を開始する原料重量を算出する。ガスが発生し終わる時間までの間は、常に新たに原料が加熱され始める。なお、ガスが発生し終わる時間経過後はいくら原料を加熱してもガスは発生しない。また、そのガスが発生し終わる時間までに加熱されている原料の重量を計算すれば、合計のガスの発生量がわかる。そして、合計のガスの発生量がわかれば、炉芯管110の内部空間の断面積より、ガスの流速を算出できる。
【0046】
まず、総発生ガス量Ggを求める。図5に示す温度パターンの例につき、単位原料あたりのガス発生量を用い、ガスが発生し終わるまでの時間Ttigendとして、式(5)と(式(6)×昇温完了後ガスが発生し終わるまでの時間)の合計を求める。
【数8】

ここまでの計算で、単位原料がある温度パターンにて反応ガスを放出し終わるまでの時間を算出できる。
【0047】
未知数はTtigendのみであるが、これは、ヒータ温度と加熱位置の移動速度に応じて決まる。その他は既知の数値である。温度パターンによっては昇温完了時間Tti1までにガスの放出を終える場合もあり得る。総発生ガス量Ggは、一般式として次のように表現できる。
【数9】

【0048】
3.炉芯管内のガス流速
単位時間に、新たに加熱を開始する(加熱領域に入る)原料の重量WTtiは、炉芯管110の上昇速度Vt、炉芯管110の内部空間の断面積A(m)、原料の密度ρpを用いて以下のように算出できる。
【数10】

【0049】
ガスが発生し終えるまでにガス発生に寄与する原料の量Gtotalは、以下の通り、式(8)×単位原料当たりのガス発生量で求められる。したがって、炉芯管110内で発生するガス量Gtotalは以下のようにして求められる。
【数11】

【0050】
したがって、炉芯管110内のガス流速Vgは、炉芯管110の内部空間の断面積Aおよび炉芯管内で発生するガス量Gtotalを用いて以下のように求められる。
【数12】

【0051】
4.原料沈降速度
一方、原料沈降速度(原料が吹き飛ばないガス流速の試算)は、原料の沈降速度Vf、原料粒径d、原料密度ρp、ガスの密度ρg、ガスの粘性係数μ、重力Gを用いて以下の式で求められる。
【数13】

【0052】
5.加熱位置の移動速度が満たすべき条件
昇温パターンが数段に分かれる場合は適宜式(4)〜(6)の要領で単位時間当たりのガス発生量を計算し、(7)式に追加すればよい。そして、得られた以下の式を満たす速度Vtで容器の加熱位置の移動速度を制御する。なお、時間Ttiは、加熱位置の移動速度Vtに依存しており、装置の構成によりTtiとVtの関係が異なる。Vtを容器の加熱位置の移動速度、Gを重力加速度、dを原料の粒径、ρpを原料の密度、ρgをガスの密度、μをガスの粘性係数、Ggを単位原料あたりのガス発生量としたとき、次の関係が成り立つ。
【数14】

【0053】
なお、原料の粉体Pが反応によりガスを発生し切り、反応速度に対して加熱位置の移動速度Vtが十分に小さい場合には、単位原料あたりのガス発生量Ggは時間によらず一定と考えてよい。加熱位置移動部143は、以下の数式を満たすように炉芯管110の加熱位置の移動速度Vtを決定する。これにより、原料の粉体が飛散しないように炉芯管110の加熱位置の移動速度を制御することができる。このように炉芯管110の内部空間の断面積当たりのガスの発生量が粉体Pの飛ばない量になるように速度を設定している。
【数15】

【0054】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、炉芯管110(容器)とヒータ120との相対位置を移動させることで、加熱位置を移動させているが、原料の粉体P全体の範囲にわたるように設けられたヒータ内の区分ごとに加熱を制御することで、加熱位置を移動させてもよい。図6は、加熱装置200の構成を示す側断面図である。図6に示すように、加熱装置200は、原料の粉体P全体の範囲にわたって設けられたヒータ220とそれを覆うように設けられた断熱材230を備えている。ヒータ220は、均熱帯SKを分けた各区分A〜Jについて出力を制御可能となっている。
【0055】
図7は、加熱装置200の機能的構成を示すブロック図である。加熱装置200は、さらに加熱位置移動部243を備えており、加熱位置移動部243は、ヒータ220および加熱制御部246を有している。加熱制御部246は、ヒータ220の区分ごとに加熱を制御可能であり、各区分A〜Jを所望の温度に制御することができる。たとえば、最初、区分Aを800℃、区分Bを1000℃、区分Cを800℃に目標温度を設定し、その他をOFFにして加熱し、5分後に、区分AをOFF、区分Bを800℃、区分Cを1000℃、区分Dを800℃に目標温度を設定し、その他をOFFにして加熱する。このように区分ごとに加熱を制御することで、機械的な駆動を伴わずヒータの加熱制御のみで加熱位置を変えることができ、発生ガス量を抑制することができる。
【0056】
[第3の実施形態]
上記の実施形態では、加熱装置200は、雰囲気に関わらず粉体Pが反応することで発生したガスを排出しているが、反応時の雰囲気を調整するためにガスを供給しつつ、発生したガスとともに供給するガスを排出することとしてもよい。図8は、雰囲気調整ガスが供給される加熱装置300の構成を示す側断面図である。
【0057】
図8に示すように、炉芯管310は、内部の雰囲気を維持するためにガスを供給するためのガス供給口318をさらに有している。これにより。ガスにより雰囲気を調整して行う加熱についても原料の粉体Pの飛散を防止することができ、効果を高めることができる。ガス供給口318は、フィルタ319で炉芯管本体311の内部と仕切られており、フィルタ319はガスを通過させるが、粉体Pは通過させない。また、図8に示す例では、鉛直下方から雰囲気ガスを導入しているが、鉛直上方から導入してもよい。なお、ガスを供給する場合における加熱位置の移動速度は、粉体Pから発生するガスの流速(式(10))に供給された分のガスの流速を加算して求めることができる。
【0058】
なお、以上の実施形態では、原料の粉体Pを鉛直上方から下方に向けて加熱位置を移動させるが、下方から上方に向けて加熱位置を移動させてもよい。上方から下方に向けて加熱位置を移動させる場合には、下方部分の加熱中に上方に流れるガスで、反応生成物が別の反応を起こすおそれがあるが、下方から上方に向けて加熱位置を移動させる場合にはそのような意図しない反応を避けることができる。
【実施例1】
【0059】
上記の第1の実施形態の構成を有する加熱装置100を作製した。そして、840.0gの炭酸水素ナトリウムを原料の粉体Pとして炉芯管110に封入し、ヒータ120の出力を制御して加熱した。設定温度は、400℃とし、炉芯管110の上昇速度を3.5×10−5m/sして、加熱位置を移動させた。加熱終了後に、蓋116を開けて、反応生成物を取りだしたところ、いずれの位置にある粉体についても外観上、内部まで十分に反応していた。また、密度を密度計(島津製作所製アキュピック1330)で測定すると、2.51×10kg/mであり、十分に反応していることが分かった。取り出した反応生成物を計量すると、471.9gであった。理論上得られる反応生成物の質量の89%が得られたことが分かった。
【0060】
一方、上記の例と同様の条件で、炉心管の上昇速度を4.7×10−5m/sとして加熱を行ったところ、いずれの位置にある粉体についても外観上、内部は十分に反応していたものの、排出口に近い表面には未反応の粉体が残留していた。表面の粉体について密度を測定すると2.39×10kg/mであり、反応が十分でないことが分かった。取り出した反応生成物の質量を計量すると、408.0gであった。これは、理論上得られる反応生成物の質量の77%でしかなかった。炉芯管内の充填率が小さいことが分かった。この結果、加熱位置100の移動速度を制御することで、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して炉芯管内の充填率を向上できることが実証された。
【実施例2】
【0061】
上記の第3の実施形態の構成を有する加熱装置300を作製した。そして、840.0gの炭酸水素ナトリウムを原料の粉体Pとして炉芯管110に封入し、COガスを流速2.0×10−3/minで供給しつつ、ヒータ120の出力を制御して加熱した。設定温度は、400℃とし、炉芯管110の上昇速度を3.5×10−5m/sとして、加熱位置を移動させた。加熱終了後に、蓋116を開けて、反応生成物を取りだしたところ、いずれの位置にある粉体についても外観上、内部まで十分に反応していた。また、密度を密度計(島津製作所製アキュピック1330)で測定すると、2.50×10kg/mであり、十分に反応していることが分かった。取り出した反応生成物を計量すると、445.1gであった。理論上得られる反応生成物の質量の84%が得られたことが分かった。
【0062】
一方、上記の例と同様の条件で、COガスを流速2.0×10−3/minで供給しつつ、炉心管の上昇速度を4.7×10−5m/sとして加熱を行ったところ、いずれの位置にある粉体についても外観上、内部は十分に反応していたものの、排出口に近い表面には未反応の粉体が残留していた。表面の粉体について密度を測定すると2.42×10kg/mであり、反応が十分でないことが分かった。取り出した反応生成物の質量を計量すると、376.5gであった。これは、理論上得られる反応生成物の質量の71%でしかなかった。炉芯管内の充填率が小さいことが分かった。この結果、ガス供給のある場合でも加熱位置100の移動速度を制御することで、発生ガス量を抑制し、原料の粉体の飛散を防止して炉芯管内の充填率を向上できることが実証された。
【符号の説明】
【0063】
100 加熱装置
110 炉芯管(容器)
111 炉芯管本体(容器本体)
115 排出口
116 蓋
120 ヒータ
130 断熱材
141 操作部
142 制御部
143 加熱位置移動部
144 駆動制御部
145 駆動部
146 加熱制御部
200 加熱装置
220 ヒータ
230 断熱材
243 加熱位置移動部
246 加熱制御部
300 加熱装置
310 炉芯管(容器)
311 炉芯管本体(容器本体)
318 ガス供給口
319 フィルタ
A-J 区分
P 粉体
SK 均熱帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によりガスを放出する粉体のための加熱装置であって、
粉体の原料を収容し、ガスを排出可能に形成された容器と、
前記容器の周囲に設けられたヒータと、
前記ヒータによる前記容器の加熱位置を所定速さ未満で移動させる加熱位置移動部と、を備えることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記加熱位置移動部は、前記容器および前記ヒータを相対的に移動させる駆動部と、
前記駆動部の駆動を制御する駆動制御部とを有することを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記ヒータは、区分ごとに加熱制御可能であり、
前記加熱位置移動部は、前記区分ごとに加熱制御することで、前記容器の加熱位置を移動させることを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項4】
Ggを単位原料あたりのガス発生量、Ttiを原料の加熱時間、Vtを前記容器の加熱位置の移動速度、Gを重力加速度、dを原料の粒径、ρpを原料の密度、ρgをガスの密度、μをガスの粘性係数としたとき、
前記加熱位置移動部は、以下の数式を満たすように前記容器の加熱位置の移動速度Vtを決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の加熱装置。
【数1】

【請求項5】
前記容器は、内部の雰囲気を維持するためにガスを供給するためのガス供給口を更に有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項6】
前記ヒータの外周には、前記容器の全長にわたる断熱材を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかの加熱装置を用いて粉体を加熱する加熱方法であって、
排出口側の原料表面における移動速度より、その部分以外における移動速度を大きくすることを特徴とする加熱方法。
【請求項8】
加熱によりガスを放出する粉体のための加熱方法であって、
容器内の原料の粉体を原料から放出されるガスにより原料の粉体が飛散し始める速さ未満で徐々に加熱位置を変えながら加熱することを特徴とする加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153807(P2011−153807A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17276(P2010−17276)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】