説明

加熱装置

【課題】加熱槽の内壁面のうち少なくとも前面を構成する金属板にバイメタルを用いることで、装置の大型化やコストの高騰及び設計や調整作業の複雑化を伴うことなく、加熱槽の前面における厚さ方向の熱変形を防止し、加熱槽内の温度分布の均一化、熱損失の低減化を実現する。
【解決手段】加熱槽1の内壁面の前面部材41を、高熱膨張材料の外面側材料411と低熱膨張材料の内面側材料412とを接合したバイメタルで構成した。一例として、外面側材料411はSUS304であり、内面側材料412はSUS430である。開口部2の開閉によって前面部材41の外面側と内面側とに温度勾配を生じた場合にも、前面部材41は厚さ方向に変形を生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマディスプレイや液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるガラス基板等の板状の被処理物を加熱処理する際に使用される加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ用のガラス基板の製造工程には、被処理物であるガラス基板を220℃〜230℃程度の処理温度で加熱する処理が含まれる。この加熱処理には、加熱槽を備えた多段枚葉式加熱装置が用いられる。加熱槽には、複数枚の板状の被処理物が間隔を設けて積層して収納される。
【0003】
当該加熱装置の加熱槽は、金属板によって内壁面が構成されており、前面に開口部が形成されている。金属板の外側には、開口部を除く全面に断熱材が配置されている。開口部は、炉口扉によって開閉される。加熱処理時に所定の処理温度に保持された加熱槽の内部に、開口部を経由して被処理物が1枚ずつ搬入出される(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−169169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱槽の内壁面のうち前面には開口部が形成されており、被処理物の搬入出時に開口部が開放されると、内壁面の前面は外気に晒されて一旦温度が低下する。被処理物の搬入出が完了して開口部が閉鎖されると、内壁面の前面は加熱槽内の熱によって再び処理温度まで昇温される。この時、内壁面の前面を構成する金属板の内側面と外側面との間には、金属板の厚さ方向の温度勾配が生じている。
【0005】
従来の加熱装置では、加熱槽の内壁面を単一材料の金属板で構成していたため、温度勾配によって内壁面の前面を構成する金属板の内側面と外側面とに膨張量の差を生じ、加熱槽の前面に厚さ方向の熱変形を生じる。開口部が形成された前面に厚さ方向の熱変形を生じると、開口部と炉口扉との間に隙間ができる。この隙間を介して、加熱槽内の熱気が外部に漏れ出し、加熱槽内に外気が流入することで、加熱槽内の温度分布が不均一になるとともに、熱損失が大きくなる問題がある。開口部の内周面に配置された金属板及び炉口扉の裏側面に配置された金属板にも同様の熱変形を生じる可能性があり、これらの熱変形によっても同様の問題を生じる。
【0006】
この問題を解消すべく、開口部に補強材を配置すると、装置の大型化やコストの高騰を招く。また、加熱処理時に変形した加熱槽の前面の形状に合せて炉口扉を変形させておくことも考えられるが、炉口扉の設計や調整作業が複雑になる。
【0007】
この発明の目的は、加熱槽の内壁面のうち少なくとも前面を構成する金属板にバイメタルを用いることで、装置の大型化やコストの高騰及び設計や調整作業の複雑化を伴うことなく、加熱槽の前面における厚さ方向の熱変形を防止することができ、加熱槽内の温度分布の均一化、熱損失の低減化を実現できる加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明の加熱装置は、第1の金属板を備えている。第1の金属板は、加熱槽の内周面のうちで少なくとも開口部を有する面に配置され、互いに線膨張率の異なる外面側材料と内面側材料とを接合したバイメタルである。第1の金属板において外面側材料の線膨張率が内面側材料の線膨張率よりも大くされている。
【0009】
加熱槽は、内部を所定の処理温度に保持され、開口部を経由して板状の被処理物が1枚ずつ搬入出される。この開口部が形成されている内壁面では、内面側と外面側との間に温度差を生じている。開口部が形成されている内壁面は、外面側材料と内面側材料とを接合したバイメタルで構成されており、内面側材料よりも低温の外面側材料の線膨張率は内面側材料の線膨張率よりも大きくされている。
【0010】
外面側材料の線膨張率及び内面側材料の線膨張率を被処理物の加熱処理時に開口部を有する内壁面に配置された金属板の外面側と内面側との間に生じる温度勾配に基づいて決定することで、外面側材料の膨張量と内面側材料の膨張量とが略一致する。これによって、被処理物の加熱処理中に内壁面が厚さ方向に変形することがない。
【0011】
開口部の内周面を構成する金属板も、外面側材料の線膨張率が内面側材料の線膨張率よりも大きいバイメタルで構成してもよい。
【0012】
外面側材料の線膨張率及び内面側材料の線膨張率を被処理物の加熱処理時に開口部の内周面に配置された金属板の外面側と内面側との間に生じる温度勾配に基づいて決定することで、外面側材料の膨張量と内面側材料の膨張量とが略一致する。これによって、被処理物の加熱処理時に開口部の内周面が内壁面の厚さ方向に変形することがない。
【0013】
開口部を開閉する炉口扉の内側面も、外面側材料の線膨張率が内面側材料の線膨張率よりも大きいバイメタルで構成してもよい。
【0014】
外面側材料の線膨張率及び内面側材料の線膨張率を被処理物の加熱処理時に炉口扉の内側面に配置された金属板の外面側と内面側との間に生じる温度勾配に基づいて決定することで、外面側材料の膨張量と内面側材料の膨張量とが略一致する。これによって、被処理物の加熱処理中に炉口扉が厚さ方向に変形することがない。
【発明の効果】
【0015】
この発明の加熱装置によれば、加熱槽の内壁面のうち少なくとも開口部が形成されている面を構成する金属板に外面側材料の線膨張率が内面側材料の線膨張率よりも大きいバイメタルを用いることで、装置の大型化やコストの高騰及び設計や調整作業の複雑化を伴うことなく、加熱槽の前面における厚さ方向の熱変形を防止することができる。これによって、加熱槽内の温度分布の均一化、熱損失の低減化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、この発明の加熱装置の実施形態に係る枚葉式加熱装置10の概略の構成を示す外観図である。また、図2は、枚葉式加熱装置10の側面断面図である。枚葉式加熱装置10は、中空直方体形状を呈する加熱槽1を備えている。加熱槽1は、前面側に開口部2が形成されている。開口部2は、炉口扉3によって開閉自在にされている。炉口扉3は、上下に複数に分割された短冊状の部材によって構成されている。加熱槽1の内部には、複数枚のガラス基板等の板状の被処理物20がそれぞれの間に間隔を設けて積層して収納される。炉口扉3と加熱槽1の前面との間に、シール部材7が配置されている。シール部材7は、加熱槽1の前面における開口部2の周縁部に沿って取り付けられている。
【0017】
加熱槽1の内部は、被処理物20の加熱処理中に、例えば220℃〜230℃程度の所定の処理温度に保持される。被処理物20は、加熱槽1内に開口部2を経由して搬入出される。被処理物20の搬入出時には、炉口扉3の複数の部材のうち、被加熱槽1内の被処理物20を搬入出すべき上下方向の位置に対向する部材及びこれより上方の部材を上方に移動させる。開口部2の開放面積を小さくすることで、加熱槽1の内部温度の変動を抑制している。
【0018】
なお、図1に示す例では、炉口扉3は5個の部材によって構成されているが、この個数に限るものではない。
【0019】
枚葉式加熱装置10は、6面体の内壁面を構成する前面部材41、上面部材42、底面部材43、左側面部材44、右側面部材45(図2には現れない。)及び背面部材46の外側に断熱材5を配置している。前面部材41、上面部材42、底面部材43、左側面部材44、右側面部材45及び背面部材46のそれぞれは、金属板で構成されている。上面部材42、底面部材43、左側面部材44、右側面部材45及び背面部材46のそれぞれは、例えばSUS430又はSUS304等の単一組成の板材で構成されている。断熱材5の外側には、さらに金属板で構成された外壁6が配置されている。前面部材41には開口部2に対向する位置に開口47が形成されている。開口部2には、断熱材5は配置されていない。
【0020】
矩形の開口部2の内周面には、上面部材21、底面部材22、左側面部材23及び右側面部材24(図2には現れない。)が配置されている。上面部材21、底面部材22、左側面部材23及び右側面部材24のそれぞれは、金属板で構成されている。開口部2の外側に位置する炉口扉3の内側面には、金属板で構成された内面部材31が配置されている。
【0021】
加熱槽1の内部に被処理物20を搬入出する際に開口部2が開放されると、加熱槽1の開口部2の近傍が外気に晒される。このため、開口部2に近接した前面部材41の全体の温度が低下する。
【0022】
被処理物20の搬入出後に開口部2が閉鎖されると、前面部材41はその内面側から加熱温度に昇温される。このとき、内面側から外面側までの全体が一様に昇温されるわけではなく、前面部材41の内面側と外面側との間に温度勾配を生じ、内面側は外面側より高温になる。
【0023】
図3(A)は、枚葉式加熱装置10の加熱槽1の前面部材41における要部の拡大断面図である。加熱槽1の内壁面の前面部材41は、1.2mm〜1.5mm程度の厚さであり、高熱膨張材料の外面側材料411と低熱膨張材料の内面側材料412とを接合したバイメタルで構成されている。一例として、外面側材料411はSUS304であり、内面側材料412はSUS430である。前面部材41は、この発明の第1の金属板である。
【0024】
断熱材5は、例えばロックウール又はセラミックファイバで構成されている。外壁6は、例えばSUS430の板材で構成されている。
【0025】
図3(B)に示すように、前面部材41に代えて単一の材料の金属板からなる前面部材41Aを備えた場合、内面側と外面側との間の温度勾配によって内面側の膨張量と外面側の膨張量とに大きな差ができる。前面部材41Aは、図中二点鎖線で示すように、厚さ方向に変形する。この変形により、開口部2の周縁部と炉口扉3との間に隙間ができ、炉口扉3が開口部2を閉鎖している状態でも加熱槽1内の熱気が漏出し、外気が加熱槽1内に流入する。
【0026】
これに対して、前面部材41は、低温側となる外面側に高熱膨張材料を配したバイメタルで構成されている。内面側を高温側にして外面側との間に温度勾配を生じた場合にも、内面側の膨張量と外面側の膨張量とに大きな差を生じることがなく、前面部材41は、厚さ方向に大きな変形を生じることがない。
【0027】
特に、開口部2の開閉によって前面部材41の前面側と背面側との間に生じる温度勾配での外面側材料411の膨張量と内面側材料412の膨張量とが略同一となるように、外面側材料411及び内面側材料412の材質を選択することで、前面部材41の厚さ方向の変形を完全に防止できる。炉口扉3が開口部2を閉鎖している状態では、加熱槽1内の熱気が漏出したり外気が加熱槽1内に流入することがない。加熱槽1内の温度分布を均一に維持することができ、熱損失の低減化を実現できる。
【0028】
図4は、加熱槽1における開口部2の下面部分の拡大断面図である。開口部2の内周面の下面部材22は、高熱膨張材料の外面側材料221と低熱膨張材料の内面側材料222とを接合したバイメタルで構成されている。一例として、外面側材料221はSUS304であり、内面側材料222はSUS430である。前面部材41は、低温側となる外面側に高熱膨張材料を配したバイメタルで構成されている。
【0029】
開口部2の開閉によって内面側を高温側にして外面側との間に温度勾配を生じた場合にも、下面部材22は、内面側の膨張量と外面側の膨張量とに大きな差を生じることがなく、開口部2の前後方向に大きな変形を生じることがない。
【0030】
開口部2の内周面の上面部材21、左側面部材23及び右側面部材24も下面部材22と同様に構成されている。上面部材21、下面部材22、左側面部材23及び右側面部材24は、この発明の第2の金属板である。開口部2の開閉によって内面側を高温側にして外面側との間に温度勾配を生じた場合にも、開口部2の内周面の全体に大きな変形を生じることがない。炉口扉3が開口部2を閉鎖している状態では、加熱槽1内の熱気が漏出したり外気が加熱槽1内に流入することがない。加熱槽1内の温度分布を均一に維持することができ、熱損失の低減化を実現できる。
【0031】
炉口扉3の加熱槽1側の面に配置されている内面部材31を、この発明の第3の金属板として、高熱膨張材料の外面側材料311と低熱膨張材料の内面側材料312とを接合したバイメタルで構成してもよい。被処理物20の搬入出時に開口部2を開閉した際に内面部材31の外面側と内面側とに温度勾配を生じた場合にも、内面部材31及び炉口扉3の厚さ方向の変形を防止することができる。シール部材7によるシール性が維持され、加熱槽1内の温度分布をより均一に維持することができ、熱損失をさらに低減できる。
【0032】
また、加熱槽1の内壁面を構成する上面部材42、底面部材43、左側面部材44、右側面部材45及び背面部材46の一部又は全部を、前面部材41と同様のバイメタルで構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施形態に係る枚葉式加熱装置の概略の構成を示す外観図である。
【図2】上記枚葉式加熱装置の側面断面図である。
【図3】(A)は、上記枚葉式加熱装置の加熱槽の前面部材における要部の拡大断面図である。(B)は、同前面部材を単一材料によって構成した場合の変形状態を説明する図である。
【図4】上記加熱槽における開口部の下面部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 加熱槽
2 開口部
3 炉口扉
5 断熱材
5 ボート
6 外壁
7 シール部材
41 前面部材
411 外面側材料
412 内面側材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の処理温度に保持された加熱槽の内部に開口部を経由して板状の被処理物が搬入出される加熱装置であって、
前記加熱槽の内壁面を金属板で構成し、前記金属板のうち少なくとも前記開口部を有する面に配置された第1の金属板が互いに線膨張率の異なる外面側材料と内面側材料とを接合したバイメタルであり、前記第1の金属板において前記外面側材料の線膨張率が前記内面側材料の線膨張率よりも大きいことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記開口部の内周面を構成する第2の金属板であって、互いに線膨張率の異なる外面側材料と内面側材料とを接合したバイメタルからなる第2の金属板をさらに備え、前記第2の金属板において前記外面側材料の線膨張率が前記内面側材料の線膨張率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記開口部を開閉する炉口扉であって、内側面を第3の金属板で構成した炉口扉をさらに備え、前記第3の金属板が互いに線膨張率の異なる外面側材料と内面側材料とを接合したバイメタルからなり、前記第3の金属板において前記外面側材料の線膨張率が前記内面側材料の線膨張率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−315707(P2007−315707A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147227(P2006−147227)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】