加速度センサ
【課題】安価に製造でき、かつ感度の高い加速度センサを提供する。
【解決手段】印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、その第1電極と第2電極とに対向して設けられた誘電体とを備え、慣性質量板の位置変化に対応して変化する第1電極と第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定する。
【解決手段】印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、その第1電極と第2電極とに対向して設けられた誘電体とを備え、慣性質量板の位置変化に対応して変化する第1電極と第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性質量体を用いて構成された加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加速度が印加されたときに作用する慣性力を利用した種々のタイプの加速度センサが用いられている。
図6には、対向する2つの電極を持った従来例の基本構成を示す。この例では、慣性質量板102の下面に移動電極102aが設けられ、それに対向するように基板101上に固定電極101aが形成されて、基板101に対して慣性質量板102が変位したときに電極間の静電容量が変化することを利用している。本従来例は、慣性質量板102は、基板101に対向するようにビームと呼ばれる弾性梁103で支持されており、加速度が印加されたときに基板101に対して慣性質量板102が変位し、その変位により生じる静電容量の変化に基づいて加速度を測定するというものである。
【0003】
また、最近では、基板に形成された固定電極と慣性質量体に形成された移動電極を持った加速度センサにおいて、慣性質量体を水平面内で揺動振動するように構成して、センサの線形性を向上させたものや、櫛歯電極を利用したものも提案されている。
しかしながら、これらの電極対向型の加速度センサは、2枚のウエハを貼り合わせたり、深い反応性イオンエッチングが必要になる等、安価に製造することが困難であるという問題があった。
また、慣性質量体は、通常、シリコン等の脆性材料を用いて作製されるので、耐衝撃性に劣るという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、比較的構成が簡単で安価に製造できる加速度センサを実現するために、対向する2つの電極に代えて、基板上に電極を並べて配置し、その電極間に生じるフリンジ電界を利用した加速度センサを先に提案した(特許文献1)。この先に提案した先行例の加速度センサは、図7に示すように、基板101上に2つの固定電極104、105を並べて形成し、その電極間に電位差を与えたときに生じるフリンジ電界に影響を与えるように誘電体からなる慣性質量体110を移動可能に設けて構成している。この先行例において、慣性質量体110は、図6と同様、弾性梁103によって、基板に対して移動可能に支持されている。
【0005】
以上の先行例では、慣性質量体110に加速度が印加されると、慣性力の作用により、基板101と慣性質量体110間の距離が変化して、固定電極104、105間の静電容量が変化し、加速度を測定することが可能となる。この先行例の加速度センサは、高価な設備を用いることなく、いわゆる表面マイクロマシニング技術で作製できることから安価に製造できるという利点がある。
【0006】
また、この先行例の加速度センサでは、慣性質量体110として、常温で蒸着が可能なパリレンと呼ばれているポリパラキシリレンを用いて構成したことにより、以下のような利点もある。
【0007】
すなわち、パリレンは、常温で蒸着が可能であることから、例えば、C−MOS回路からなる演算回路を形成した後に、慣性質量体等を形成することができることから、加速度検出部とC−MOS回路とを基板上に一体で構成することが可能となる。
また、パリレンは、シリコン等の脆性材料と比べて延性を持っているので、耐衝撃等性に優れた加速度センサを提供することが可能になる。
【特許文献1】米国特許公開2004/0239341A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行例の加速度センサは、対向電極で用いられる一次電界とは異なるフリンジ電界を用いているので、感度を高くすることができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、安価に製造でき、かつ感度の高い加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明に係る加速度センサは、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、前記一方の主面に対向して設けられた誘電体とを備え、前記慣性質量板の位置変化に対応して変化する前記第1電極と前記第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成された本発明に係る加速度センサは、加速度に対応して変位する慣性質量板に第1電極と第2電極とを設け、該第1電極と第2電極に対向して誘電体を設けているので、比誘電率の大きい誘電体を容易に基板上に形成することが可能になる。
したがって、本発明によれば、安価に製造できかつ感度の高い加速度センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態の加速度センサについて説明する。
図1は、本発明に係る実施の形態の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
本実施の形態の加速度センサは、図1に示すように、基板1上に弾性梁3によって支持され、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板2と、慣性質量板2の下面に形成された一対の電極2a,2bと、慣性質量板2の下面に対向して設けられた誘電体7とを備えている。
【0013】
すなわち、本実施の形態の加速度センサでは、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板2の下面に一対の電極2a,2bを形成し、固定側の基板1の上に誘電体7を慣性質量板2の下面に近接して設けている。
【0014】
以上のように構成された実施の形態の加速度センサにおいて、2つの電極2a,2b間に電位差を与えると、電極の周りの空間及び誘電体7中に電界を生じ、その電界は図1に模式的に示すような電気力線で表される。
このような状態で、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)が変化するように慣性質量板2の位置が変化すると、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)に対応して誘電体7中の電束密度が変化し、電極2a,2b間の静電容量が変化する。
【0015】
従って、本実施の形態の加速度センサにおいては、慣性質量板2に加速度が印加されたときの電極2a,2b間の静電容量の変化量を測定することにより、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)がどのように変化したか検出でき、その検出値に基づいて慣性質量板2に印加された加速度が算出される。
【0016】
以上のように構成された実施の形態の加速度センサは、浮動体である慣性質量板2に電極2a,2bを形成し、固定側に誘電体7を設けている点に特徴があり、本実施の形態の加速度センサでは、このような特徴により、誘電体7として適切な材料の選択が可能となり、感度が高くかつ信頼性の高い加速度センサを構成することが可能になる。
すなわち、本実施の形態の加速度センサでは、固定側に誘電体7を設けることにより、種々の製造方法で誘電体7を形成することが可能となり、かつ誘電体7自身が印加される加速度により変形されることが無いので、脆性な結晶からなる材料を用いることも可能となる。
【0017】
従って、本発明によれば、例えば、強誘電体セラミック等の高い誘電体を用いて構成することが可能となり、感度の高い加速度センサが提供できる。
また、本発明の加速度センサによれば、可動部ではなく固定部に誘電体を設けているので、誘電体が変形されることがなく、例えば、セラミックなどの脆性な誘電体を用いて構成した場合であっても、高い信頼性の確保か可能である。
【0018】
以下、本実施の形態の加速度センサについて詳細に説明する。
まず、最初に、実施の形態の加速度センサに用いる誘電体7の誘電率と加速度の検出感度について説明する。
ここでは、図2に示す電極2aについて対称性を有するモデルに基づいて、シミュレーションを行い、誘電体7の誘電率と加速度の検出感度について確認した。
【0019】
ここでは、図2に示す対称性を有する断面モデルについて、2次元有限要素法を用いてシミュレーションを実施した。
図2に示す断面モデルでは、慣性質量板2の下面に形成された電極2a(幅w)を中央に配置して、電極2aの両側に電極2bを配置した。尚、電極2aと電極2bの間隔は、gとした。
【0020】
また、本シミュレーションにおいて、慣性質量板2は、厚さ、5μm、誘電率、3.15(ポリパラキシリレンの誘電率)とし、誘電体7は、厚さが(g+w)の2倍、誘電率が2600(Pb(ZrTi)O3の誘電率)とした。
また、電界分布は、図2に示す帯状の範囲で計算した。このような範囲に計算領域を制限しても、電極が形成される面(慣性質量板2の下面)から(g+w)の3倍以上離れた領域、及び慣性質量板2の下面から(g+w)の2倍以上離れた領域は、実質的に電界分布はゼロであり、本シミュレーションにより評価する容量の計算に影響を与えることはない。
【0021】
また、電極2aを中央に配置して、その両側の2つの電極2bの、一方の電極2bの中央から他方の電極2bの中央まで電界分布を計算すると、例えば、後述する、電極2aと電極2bが交互に配置された櫛場電極構造における電界分布は、図2に基づいて計算された電界分布の繰り返しで表すことができる。
したがって、このシミュレーション結果に基づいて、感度をより向上させることが可能な櫛場電極構造における評価を容易に行うことができる。
【0022】
以上の図2に示す断面モデルを用いて、シミュレーションした結果を図3(a)(b)に示す。
このシミュレーションでは、電極2aに5V、その両側の電極2bを0V、電極幅w=3μm、電極間隔g=7μmとし、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhを変化させたときの、電極2aと電極2b間の静電容量の変化をシミュレーションした。
この図3において、(a)は、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhが、0.2μm〜4μmの範囲における計算値を示しており、(b)は、(a)において静電容量の変化が顕著な慣性質量板2と誘電体7間のギャップhが、0.2μm〜1μmの範囲を横軸を伸ばして示している。
【0023】
図3において、比誘電率εr=4として示す線が2つあるが、その一方は図7に示す先行例の構成に基づいてシミュレーションしたものである。
【0024】
この図3に示すように、実施の形態1の加速度センサにおいて、誘電体7の誘電率を高くすると、間隔hの変化に対して静電容量の変化を大きくでき、感度を向上させることが可能であることが確認された。
また、図3から、本実施の形態の加速度センサでは、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhは比較的狭くすることが好ましく、1μm以下に設定するより好ましいことがわかる。
この慣性質量板2と誘電体7間のギャップhの好ましい範囲は、櫛場電極構造の場合であっても同様である。
【0025】
次に、本実施の形態の加速度センサの製造方法について説明する。
本製造方法では、まず、基板(例えば、シリコンウエハや石英ウエハからなる)1上に、例えば、バルクのチタン酸ジルコン酸鉛{Pb(Zr,Ti)O3:以下、単にPZTという。}からなる誘電体板7を接合する(図5(a)(b))。ここで、バルクとは、例えば、通常の性質とは異なった物性を示す微粒子や薄膜とは異なり、その物質固有の性質をもつような物質の形態をいい、本明細書においては薄膜として形成したものではないことを意味する。ここでは、バルクPZTを厚さが0.2mmになるように切断したPZT板を誘電体板7として用いた。
【0026】
尚、基板1とPZT板の接合は、後の工程における耐有機溶剤性を考慮すると化学的に安定な接合材を用いることが好ましく、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの接着材を用いることが好ましい。
【0027】
次に、PZT板(誘電体板7)上に、例えば、スパッタリングやCVD法により堆積された多結晶シリコン(Si)またはアモルファスシリコンからなる犠牲層12を形成し、犠牲層12の外周に沿ってスロット12sを形成し、その内側に多数のディンプル12bを形成する(図5B(a)(b))。このスロット12s及びその周りの犠牲層は、最終工程で犠牲層が除去された後、弾性梁3の一端を固定する部分であり、スロット12sは、弾性梁3の固定をより確実にかつ強固にするために設けられる。ここでは、3つのスロット12sを中心が一致するように形成した。また、ディンプル12bは、慣性質量体2の下面に凹凸を形成する為のものであり、慣性質量体2の下面にディンプル12bに対応するバンプが形成される。このように、慣性質量体2の下面に凹凸(バンプ)を形成することにより、慣性質量体2の下面と誘電体7がバンプの上部のみで接触することになって接触面積を小さくでき、慣性質量体2の下面と誘電体7との吸着を防止することができる。
【0028】
次に、スロット12sを覆うように、犠牲層12の外周部分(犠牲層を除去する際に、除去することなく残す犠牲層の外周部分)に、例えば、ポリパラキシリレンからなる保護膜13を形成する(図5C(a)(b))。この保護膜13は、電極パッドが形成される部分の直下とその外周部分に残される犠牲層(例えばアモルファスSi)を後工程におけるエッチング種(例えばXeF2ガス)から保護し、図4で示す配線電極2wa,2wbが形成される部分のスロットを覆って凹凸を無くすために形成される。この保護膜13により電極パッドの下に損傷のない犠牲層を残すことが可能になり、かつ配線電極2wa,2wbの成膜が容易になる。
以上のようにして、弾性梁の端部が固定され、電極2aと電極2bに電圧を印加する配線電極2wa,2wbがその上に形成される土台となるべき固定部が構成される。
【0029】
次に、犠牲層12及び保護膜13の上にAl膜をスパッタリングにより形成し、そのAl膜を混酸エッチングにより所定の形状にパターンニングする。これにより、電極2a,2b及びそれらに電圧を印加するための配線電極2wa,2wbが形成される(図5D(a)(b))。
次に、O2プラズマによるドライエッチングにより、配線電極2wa,2wbの下にある保護膜と電極パッドが形成された外周部分にある保護膜を除いて、保護膜を除去する。
このO2プラズマによるドライエッチングの際、パターニングされたAl膜をマスクとして用いてエッチングしてもよいが、フォトマスクのアライメント誤差により残す必要がある犠牲層が後工程においてサイドからエッチングされてダメージを受ける可能性がある。これを防ぐために、残す必要がある犠牲層にマージンを加えて広い領域で保護し、それ以外の保護膜を除去するために、Al膜とは別にマスクを形成することが好ましい。
【0030】
ここで、電極2aは、複数の電極枝2a2と電極枝2a2の一端がそれぞれ接続される接続電極2a1からなる櫛歯電極であり、その接続電極2a1の一端に配線電極2waが接続される(図4)。また、電極2bは、複数の電極枝2b2と電極枝2b2の一端がそれぞれ接続される接続電極2b1からなる櫛歯電極であり、その接続電極2b1の一端に配線電極2wbが接続される(図4)。以上のように、それぞれ櫛歯電極からなる電極2a,2bは、電極枝2a2と電極枝2b2が交互に位置するように配置される。
このように、電極2a,2bを櫛歯電極とし、電極枝2a2と電極枝2b2を交互に配置することにより、電極2a,2b間の静電容量を高くでき、測定感度を向上させることが可能になる。
【0031】
次に、電極2a、電極2b及び犠牲層12を覆うように、例えば、ポリパラキシリレンからなる構造体用膜を形成して、例えば、O2アッシングでエッチングすることによりパターンニングする。これにより、慣性質量体2と弾性梁3になる構造体部分と、慣性質量体2の周りにあって弾性梁3を基板上に固定するための固定部を形成する(図5E(a)(b)(c))。
この際、弾性梁3の固定端は、犠牲層12のスロット12sを埋めるように形成され、弾性梁3の固定端は基板に強固に固定される。また、ポリパラキシリレンは、等角的(コンフォーマル)な膜の体積が可能であることから、固定端の表面は平坦にできる。
また、O2アッシングにより、電極パッド部分の窓開けも行う。この窓開けは、電極に後工程でワイヤをボンディングしたり、プローバを接触させて信号を検出したりするために必要である。
【0032】
最後に、例えば、XeF2ガスでエッチングすることにより、Siからなる犠牲層12を除去して、慣性質量体2が基板(誘電体7)から離れた状態で弾性梁3によって保持された構造体が形成される(図5F(a)(b)(c))。
【0033】
以上のようにして、下面に電極2a,2bが形成された慣性質量体2が、弾性梁3によって誘電体7上に移動可能に中空で保持されてなる実施の形態の加速度センサが作製される。
【0034】
以上の実施の形態1の加速度センサの製造方法によれば、慣性質量体2を弾性梁3によって誘電体7上に保持する浮動体構造を、犠牲層を用いて作製しているので、慣性質量体2と誘電体7の間隔を1μm以下(好ましくは、0.2μm〜0.5μm)に容易に設定することができ、感度の高い加速度センサを作製することができる。
【0035】
また、本実施の形態の加速度センサの製造方法によれば、慣性質量体2には、例えば、ポリパラキシリレン等のマイクロマシニングプロセスを用いた浮動体形成に適した材料を用いることができる。すなわち、ポリパラキシリレンは、電気絶縁性、誘電特性、耐薬品性に優れ、所望の厚さの膜状に形成することが可能で上記製造方法に適しており、ガラスなどの無機物、金属、プラスチック等に対する密着力に優れているので、信頼性の高い慣性質量体2及び弾性梁を構成することができる。
【0036】
また、誘電体7は、基板上に接合することにより構成しているので、例えば、バルクのPZT板等の誘電率の極めて高い材料を用いて誘電体7を形成することが可能でかつ製造コストを低く抑えることができる。
従って、本実施の形態の加速度センサの製造方法によれば、感度の高い加速度センサを安価に製造することが可能である。
【0037】
以上の実施の形態では、基板1上に誘電体7を接合するようにしたが、本発明はこのような構成に限られるものではなく、基板1及び誘電体7に代えて、強誘電体材料からなる誘電体基板を用いて、基板1と誘電体7とが一体化された構造にしてもよい。このように、基板1と誘電体7の機能が一体化された誘電体基板を用いて構成すると、誘電体7を基板上に接合する工程を省略することができるので、より安価に製造できる。
また、基板1と誘電体7の機能が一体化された誘電体基板を用いて構成すると、誘電体7を基板1の接合部がなくなるので、当該接合部の剥離等の発生がなく、より高い信頼性を有する加速度センサが提供できる。
【0038】
尚、実施の形態の加速度センサでは、平面形状が略正方形である慣性質量体2の対角の4隅を弾性梁3で支えるようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、略正方形の慣性質量体2における各辺の中央部を弾性支持梁で支えるようにしてもよいし、例えば平面形状が円形の慣性質量体2を用いその周辺部の複数の箇所を弾性梁で支えるようにしてもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、4箇所で慣性質量体2を支えるようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、2カ所若しくは3カ所、又は5以上の箇所で慣性質量体2を支えるようにしてもよい。
【0040】
さらに、本実施の形態では、いわゆる両持梁構造で慣性質量体2を支えるようにしたが、本発明においては、比較的ヤング率の高い弾性梁を用いて、片持梁により慣性質量体2を支えるようにしてもよい。
【0041】
また、本実施の形態の加速度センサはさらに、弾性梁3と慣性質量板2と電極2a,2bと誘電体7とを含んでなるセンサ構造体を収納する空間を備えたパッケージを備えていてもよい。
この場合、センサ構造体を収納する空間を真空又は減圧状態にすることにより、慣性質量体2の変位を妨げる空気抵抗を減少させることができ、より測定感度を向上させることが可能になる。
【0042】
以上の実施の形態の加速度センサでは、バルクのPZT板を用いて誘電体7を構成したが、本発明はこれに限られるものではなく、スパッタリング等のいわゆる薄膜形成技術を用いて、例えば強誘電体からなる誘電体7を形成するようにしてもよい。以上のように構成しても、バルクの強誘電体に比べると誘電率は低いが、比誘電率が数百又はそれ以上の誘電体を形成することはでき、従来例に比較すると十分感度を高くできる。
【0043】
また、本実施の形態では、誘電体7としてPZT板を用いた例について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の他の強誘電体を用いても良いし、比較的誘電率の高い常誘電体を用いて構成してもよい。
【0044】
すなわち、本発明は、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板に第1電極と第2電極を形成し、固定側に誘電体を設けたことを特徴とするものであり、かかる技術的思想の範囲内において、種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る加速度センサは、カーナビゲーションシステム、コンベア、エレベータ及びエアバックシステムなどの幅広い用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る実施の形態の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【図2】実施の形態の加速度センサにおける電極間の静電容量を評価するための2次元断面モデルである。
【図3】実施の形態の加速度センサにおける、誘電体と慣性質量体間の間隔に対する静電容量を示すグラフである。
【図4】実施の形態の加速度センサにおける、電極のパターン構成を示す平面図である。
【図5A】実施の形態の加速度センサの製造方法において、基板上に誘電体を接合した後の平面図(a)とそのA−A’線についての断面図(b)である。
【図5B】実施の形態の加速度センサの製造方法において、誘電体上に犠牲層を形成した後の平面図(a)とそのB−B’線についての断面図(b)である。
【図5C】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層の周辺部を覆うように保護膜を形成した後の平面図(a)とそのC−C’線についての断面図(b)である。
【図5D】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層の中央部に一対の電極を形成した後の平面図(a)とそのD−D’線についての断面図(b)である。
【図5E】実施の形態の加速度センサの製造方法において、一対の電極の上に慣性質量体を形成した後の平面図(a)とそのE−E’線についての断面図(b)及びE1−E1’線についての断面図(c)である。
【図5F】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層を除去した後の平面図(a)とそのF−F’線についての断面図(b)及びF1−F1’線についての断面図(c)である。
【図6】従来例の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【図7】特許文献1に開示された加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基板、2 慣性質量板、2a,2b 電極、2wa,2wb 配線電極、2a1,2b1 接続電極、2a2,2b2 電極枝、3 弾性梁、7 誘電体、12 犠牲層、12s スロット、12b ディンプル、13 保護膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性質量体を用いて構成された加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加速度が印加されたときに作用する慣性力を利用した種々のタイプの加速度センサが用いられている。
図6には、対向する2つの電極を持った従来例の基本構成を示す。この例では、慣性質量板102の下面に移動電極102aが設けられ、それに対向するように基板101上に固定電極101aが形成されて、基板101に対して慣性質量板102が変位したときに電極間の静電容量が変化することを利用している。本従来例は、慣性質量板102は、基板101に対向するようにビームと呼ばれる弾性梁103で支持されており、加速度が印加されたときに基板101に対して慣性質量板102が変位し、その変位により生じる静電容量の変化に基づいて加速度を測定するというものである。
【0003】
また、最近では、基板に形成された固定電極と慣性質量体に形成された移動電極を持った加速度センサにおいて、慣性質量体を水平面内で揺動振動するように構成して、センサの線形性を向上させたものや、櫛歯電極を利用したものも提案されている。
しかしながら、これらの電極対向型の加速度センサは、2枚のウエハを貼り合わせたり、深い反応性イオンエッチングが必要になる等、安価に製造することが困難であるという問題があった。
また、慣性質量体は、通常、シリコン等の脆性材料を用いて作製されるので、耐衝撃性に劣るという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、比較的構成が簡単で安価に製造できる加速度センサを実現するために、対向する2つの電極に代えて、基板上に電極を並べて配置し、その電極間に生じるフリンジ電界を利用した加速度センサを先に提案した(特許文献1)。この先に提案した先行例の加速度センサは、図7に示すように、基板101上に2つの固定電極104、105を並べて形成し、その電極間に電位差を与えたときに生じるフリンジ電界に影響を与えるように誘電体からなる慣性質量体110を移動可能に設けて構成している。この先行例において、慣性質量体110は、図6と同様、弾性梁103によって、基板に対して移動可能に支持されている。
【0005】
以上の先行例では、慣性質量体110に加速度が印加されると、慣性力の作用により、基板101と慣性質量体110間の距離が変化して、固定電極104、105間の静電容量が変化し、加速度を測定することが可能となる。この先行例の加速度センサは、高価な設備を用いることなく、いわゆる表面マイクロマシニング技術で作製できることから安価に製造できるという利点がある。
【0006】
また、この先行例の加速度センサでは、慣性質量体110として、常温で蒸着が可能なパリレンと呼ばれているポリパラキシリレンを用いて構成したことにより、以下のような利点もある。
【0007】
すなわち、パリレンは、常温で蒸着が可能であることから、例えば、C−MOS回路からなる演算回路を形成した後に、慣性質量体等を形成することができることから、加速度検出部とC−MOS回路とを基板上に一体で構成することが可能となる。
また、パリレンは、シリコン等の脆性材料と比べて延性を持っているので、耐衝撃等性に優れた加速度センサを提供することが可能になる。
【特許文献1】米国特許公開2004/0239341A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行例の加速度センサは、対向電極で用いられる一次電界とは異なるフリンジ電界を用いているので、感度を高くすることができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、安価に製造でき、かつ感度の高い加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明に係る加速度センサは、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、前記一方の主面に対向して設けられた誘電体とを備え、前記慣性質量板の位置変化に対応して変化する前記第1電極と前記第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成された本発明に係る加速度センサは、加速度に対応して変位する慣性質量板に第1電極と第2電極とを設け、該第1電極と第2電極に対向して誘電体を設けているので、比誘電率の大きい誘電体を容易に基板上に形成することが可能になる。
したがって、本発明によれば、安価に製造できかつ感度の高い加速度センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態の加速度センサについて説明する。
図1は、本発明に係る実施の形態の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
本実施の形態の加速度センサは、図1に示すように、基板1上に弾性梁3によって支持され、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板2と、慣性質量板2の下面に形成された一対の電極2a,2bと、慣性質量板2の下面に対向して設けられた誘電体7とを備えている。
【0013】
すなわち、本実施の形態の加速度センサでは、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板2の下面に一対の電極2a,2bを形成し、固定側の基板1の上に誘電体7を慣性質量板2の下面に近接して設けている。
【0014】
以上のように構成された実施の形態の加速度センサにおいて、2つの電極2a,2b間に電位差を与えると、電極の周りの空間及び誘電体7中に電界を生じ、その電界は図1に模式的に示すような電気力線で表される。
このような状態で、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)が変化するように慣性質量板2の位置が変化すると、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)に対応して誘電体7中の電束密度が変化し、電極2a,2b間の静電容量が変化する。
【0015】
従って、本実施の形態の加速度センサにおいては、慣性質量板2に加速度が印加されたときの電極2a,2b間の静電容量の変化量を測定することにより、誘電体7と電極2a,2bの間隔(距離)がどのように変化したか検出でき、その検出値に基づいて慣性質量板2に印加された加速度が算出される。
【0016】
以上のように構成された実施の形態の加速度センサは、浮動体である慣性質量板2に電極2a,2bを形成し、固定側に誘電体7を設けている点に特徴があり、本実施の形態の加速度センサでは、このような特徴により、誘電体7として適切な材料の選択が可能となり、感度が高くかつ信頼性の高い加速度センサを構成することが可能になる。
すなわち、本実施の形態の加速度センサでは、固定側に誘電体7を設けることにより、種々の製造方法で誘電体7を形成することが可能となり、かつ誘電体7自身が印加される加速度により変形されることが無いので、脆性な結晶からなる材料を用いることも可能となる。
【0017】
従って、本発明によれば、例えば、強誘電体セラミック等の高い誘電体を用いて構成することが可能となり、感度の高い加速度センサが提供できる。
また、本発明の加速度センサによれば、可動部ではなく固定部に誘電体を設けているので、誘電体が変形されることがなく、例えば、セラミックなどの脆性な誘電体を用いて構成した場合であっても、高い信頼性の確保か可能である。
【0018】
以下、本実施の形態の加速度センサについて詳細に説明する。
まず、最初に、実施の形態の加速度センサに用いる誘電体7の誘電率と加速度の検出感度について説明する。
ここでは、図2に示す電極2aについて対称性を有するモデルに基づいて、シミュレーションを行い、誘電体7の誘電率と加速度の検出感度について確認した。
【0019】
ここでは、図2に示す対称性を有する断面モデルについて、2次元有限要素法を用いてシミュレーションを実施した。
図2に示す断面モデルでは、慣性質量板2の下面に形成された電極2a(幅w)を中央に配置して、電極2aの両側に電極2bを配置した。尚、電極2aと電極2bの間隔は、gとした。
【0020】
また、本シミュレーションにおいて、慣性質量板2は、厚さ、5μm、誘電率、3.15(ポリパラキシリレンの誘電率)とし、誘電体7は、厚さが(g+w)の2倍、誘電率が2600(Pb(ZrTi)O3の誘電率)とした。
また、電界分布は、図2に示す帯状の範囲で計算した。このような範囲に計算領域を制限しても、電極が形成される面(慣性質量板2の下面)から(g+w)の3倍以上離れた領域、及び慣性質量板2の下面から(g+w)の2倍以上離れた領域は、実質的に電界分布はゼロであり、本シミュレーションにより評価する容量の計算に影響を与えることはない。
【0021】
また、電極2aを中央に配置して、その両側の2つの電極2bの、一方の電極2bの中央から他方の電極2bの中央まで電界分布を計算すると、例えば、後述する、電極2aと電極2bが交互に配置された櫛場電極構造における電界分布は、図2に基づいて計算された電界分布の繰り返しで表すことができる。
したがって、このシミュレーション結果に基づいて、感度をより向上させることが可能な櫛場電極構造における評価を容易に行うことができる。
【0022】
以上の図2に示す断面モデルを用いて、シミュレーションした結果を図3(a)(b)に示す。
このシミュレーションでは、電極2aに5V、その両側の電極2bを0V、電極幅w=3μm、電極間隔g=7μmとし、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhを変化させたときの、電極2aと電極2b間の静電容量の変化をシミュレーションした。
この図3において、(a)は、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhが、0.2μm〜4μmの範囲における計算値を示しており、(b)は、(a)において静電容量の変化が顕著な慣性質量板2と誘電体7間のギャップhが、0.2μm〜1μmの範囲を横軸を伸ばして示している。
【0023】
図3において、比誘電率εr=4として示す線が2つあるが、その一方は図7に示す先行例の構成に基づいてシミュレーションしたものである。
【0024】
この図3に示すように、実施の形態1の加速度センサにおいて、誘電体7の誘電率を高くすると、間隔hの変化に対して静電容量の変化を大きくでき、感度を向上させることが可能であることが確認された。
また、図3から、本実施の形態の加速度センサでは、慣性質量板2と誘電体7間のギャップhは比較的狭くすることが好ましく、1μm以下に設定するより好ましいことがわかる。
この慣性質量板2と誘電体7間のギャップhの好ましい範囲は、櫛場電極構造の場合であっても同様である。
【0025】
次に、本実施の形態の加速度センサの製造方法について説明する。
本製造方法では、まず、基板(例えば、シリコンウエハや石英ウエハからなる)1上に、例えば、バルクのチタン酸ジルコン酸鉛{Pb(Zr,Ti)O3:以下、単にPZTという。}からなる誘電体板7を接合する(図5(a)(b))。ここで、バルクとは、例えば、通常の性質とは異なった物性を示す微粒子や薄膜とは異なり、その物質固有の性質をもつような物質の形態をいい、本明細書においては薄膜として形成したものではないことを意味する。ここでは、バルクPZTを厚さが0.2mmになるように切断したPZT板を誘電体板7として用いた。
【0026】
尚、基板1とPZT板の接合は、後の工程における耐有機溶剤性を考慮すると化学的に安定な接合材を用いることが好ましく、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの接着材を用いることが好ましい。
【0027】
次に、PZT板(誘電体板7)上に、例えば、スパッタリングやCVD法により堆積された多結晶シリコン(Si)またはアモルファスシリコンからなる犠牲層12を形成し、犠牲層12の外周に沿ってスロット12sを形成し、その内側に多数のディンプル12bを形成する(図5B(a)(b))。このスロット12s及びその周りの犠牲層は、最終工程で犠牲層が除去された後、弾性梁3の一端を固定する部分であり、スロット12sは、弾性梁3の固定をより確実にかつ強固にするために設けられる。ここでは、3つのスロット12sを中心が一致するように形成した。また、ディンプル12bは、慣性質量体2の下面に凹凸を形成する為のものであり、慣性質量体2の下面にディンプル12bに対応するバンプが形成される。このように、慣性質量体2の下面に凹凸(バンプ)を形成することにより、慣性質量体2の下面と誘電体7がバンプの上部のみで接触することになって接触面積を小さくでき、慣性質量体2の下面と誘電体7との吸着を防止することができる。
【0028】
次に、スロット12sを覆うように、犠牲層12の外周部分(犠牲層を除去する際に、除去することなく残す犠牲層の外周部分)に、例えば、ポリパラキシリレンからなる保護膜13を形成する(図5C(a)(b))。この保護膜13は、電極パッドが形成される部分の直下とその外周部分に残される犠牲層(例えばアモルファスSi)を後工程におけるエッチング種(例えばXeF2ガス)から保護し、図4で示す配線電極2wa,2wbが形成される部分のスロットを覆って凹凸を無くすために形成される。この保護膜13により電極パッドの下に損傷のない犠牲層を残すことが可能になり、かつ配線電極2wa,2wbの成膜が容易になる。
以上のようにして、弾性梁の端部が固定され、電極2aと電極2bに電圧を印加する配線電極2wa,2wbがその上に形成される土台となるべき固定部が構成される。
【0029】
次に、犠牲層12及び保護膜13の上にAl膜をスパッタリングにより形成し、そのAl膜を混酸エッチングにより所定の形状にパターンニングする。これにより、電極2a,2b及びそれらに電圧を印加するための配線電極2wa,2wbが形成される(図5D(a)(b))。
次に、O2プラズマによるドライエッチングにより、配線電極2wa,2wbの下にある保護膜と電極パッドが形成された外周部分にある保護膜を除いて、保護膜を除去する。
このO2プラズマによるドライエッチングの際、パターニングされたAl膜をマスクとして用いてエッチングしてもよいが、フォトマスクのアライメント誤差により残す必要がある犠牲層が後工程においてサイドからエッチングされてダメージを受ける可能性がある。これを防ぐために、残す必要がある犠牲層にマージンを加えて広い領域で保護し、それ以外の保護膜を除去するために、Al膜とは別にマスクを形成することが好ましい。
【0030】
ここで、電極2aは、複数の電極枝2a2と電極枝2a2の一端がそれぞれ接続される接続電極2a1からなる櫛歯電極であり、その接続電極2a1の一端に配線電極2waが接続される(図4)。また、電極2bは、複数の電極枝2b2と電極枝2b2の一端がそれぞれ接続される接続電極2b1からなる櫛歯電極であり、その接続電極2b1の一端に配線電極2wbが接続される(図4)。以上のように、それぞれ櫛歯電極からなる電極2a,2bは、電極枝2a2と電極枝2b2が交互に位置するように配置される。
このように、電極2a,2bを櫛歯電極とし、電極枝2a2と電極枝2b2を交互に配置することにより、電極2a,2b間の静電容量を高くでき、測定感度を向上させることが可能になる。
【0031】
次に、電極2a、電極2b及び犠牲層12を覆うように、例えば、ポリパラキシリレンからなる構造体用膜を形成して、例えば、O2アッシングでエッチングすることによりパターンニングする。これにより、慣性質量体2と弾性梁3になる構造体部分と、慣性質量体2の周りにあって弾性梁3を基板上に固定するための固定部を形成する(図5E(a)(b)(c))。
この際、弾性梁3の固定端は、犠牲層12のスロット12sを埋めるように形成され、弾性梁3の固定端は基板に強固に固定される。また、ポリパラキシリレンは、等角的(コンフォーマル)な膜の体積が可能であることから、固定端の表面は平坦にできる。
また、O2アッシングにより、電極パッド部分の窓開けも行う。この窓開けは、電極に後工程でワイヤをボンディングしたり、プローバを接触させて信号を検出したりするために必要である。
【0032】
最後に、例えば、XeF2ガスでエッチングすることにより、Siからなる犠牲層12を除去して、慣性質量体2が基板(誘電体7)から離れた状態で弾性梁3によって保持された構造体が形成される(図5F(a)(b)(c))。
【0033】
以上のようにして、下面に電極2a,2bが形成された慣性質量体2が、弾性梁3によって誘電体7上に移動可能に中空で保持されてなる実施の形態の加速度センサが作製される。
【0034】
以上の実施の形態1の加速度センサの製造方法によれば、慣性質量体2を弾性梁3によって誘電体7上に保持する浮動体構造を、犠牲層を用いて作製しているので、慣性質量体2と誘電体7の間隔を1μm以下(好ましくは、0.2μm〜0.5μm)に容易に設定することができ、感度の高い加速度センサを作製することができる。
【0035】
また、本実施の形態の加速度センサの製造方法によれば、慣性質量体2には、例えば、ポリパラキシリレン等のマイクロマシニングプロセスを用いた浮動体形成に適した材料を用いることができる。すなわち、ポリパラキシリレンは、電気絶縁性、誘電特性、耐薬品性に優れ、所望の厚さの膜状に形成することが可能で上記製造方法に適しており、ガラスなどの無機物、金属、プラスチック等に対する密着力に優れているので、信頼性の高い慣性質量体2及び弾性梁を構成することができる。
【0036】
また、誘電体7は、基板上に接合することにより構成しているので、例えば、バルクのPZT板等の誘電率の極めて高い材料を用いて誘電体7を形成することが可能でかつ製造コストを低く抑えることができる。
従って、本実施の形態の加速度センサの製造方法によれば、感度の高い加速度センサを安価に製造することが可能である。
【0037】
以上の実施の形態では、基板1上に誘電体7を接合するようにしたが、本発明はこのような構成に限られるものではなく、基板1及び誘電体7に代えて、強誘電体材料からなる誘電体基板を用いて、基板1と誘電体7とが一体化された構造にしてもよい。このように、基板1と誘電体7の機能が一体化された誘電体基板を用いて構成すると、誘電体7を基板上に接合する工程を省略することができるので、より安価に製造できる。
また、基板1と誘電体7の機能が一体化された誘電体基板を用いて構成すると、誘電体7を基板1の接合部がなくなるので、当該接合部の剥離等の発生がなく、より高い信頼性を有する加速度センサが提供できる。
【0038】
尚、実施の形態の加速度センサでは、平面形状が略正方形である慣性質量体2の対角の4隅を弾性梁3で支えるようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、略正方形の慣性質量体2における各辺の中央部を弾性支持梁で支えるようにしてもよいし、例えば平面形状が円形の慣性質量体2を用いその周辺部の複数の箇所を弾性梁で支えるようにしてもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、4箇所で慣性質量体2を支えるようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、2カ所若しくは3カ所、又は5以上の箇所で慣性質量体2を支えるようにしてもよい。
【0040】
さらに、本実施の形態では、いわゆる両持梁構造で慣性質量体2を支えるようにしたが、本発明においては、比較的ヤング率の高い弾性梁を用いて、片持梁により慣性質量体2を支えるようにしてもよい。
【0041】
また、本実施の形態の加速度センサはさらに、弾性梁3と慣性質量板2と電極2a,2bと誘電体7とを含んでなるセンサ構造体を収納する空間を備えたパッケージを備えていてもよい。
この場合、センサ構造体を収納する空間を真空又は減圧状態にすることにより、慣性質量体2の変位を妨げる空気抵抗を減少させることができ、より測定感度を向上させることが可能になる。
【0042】
以上の実施の形態の加速度センサでは、バルクのPZT板を用いて誘電体7を構成したが、本発明はこれに限られるものではなく、スパッタリング等のいわゆる薄膜形成技術を用いて、例えば強誘電体からなる誘電体7を形成するようにしてもよい。以上のように構成しても、バルクの強誘電体に比べると誘電率は低いが、比誘電率が数百又はそれ以上の誘電体を形成することはでき、従来例に比較すると十分感度を高くできる。
【0043】
また、本実施の形態では、誘電体7としてPZT板を用いた例について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の他の強誘電体を用いても良いし、比較的誘電率の高い常誘電体を用いて構成してもよい。
【0044】
すなわち、本発明は、印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板に第1電極と第2電極を形成し、固定側に誘電体を設けたことを特徴とするものであり、かかる技術的思想の範囲内において、種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る加速度センサは、カーナビゲーションシステム、コンベア、エレベータ及びエアバックシステムなどの幅広い用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る実施の形態の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【図2】実施の形態の加速度センサにおける電極間の静電容量を評価するための2次元断面モデルである。
【図3】実施の形態の加速度センサにおける、誘電体と慣性質量体間の間隔に対する静電容量を示すグラフである。
【図4】実施の形態の加速度センサにおける、電極のパターン構成を示す平面図である。
【図5A】実施の形態の加速度センサの製造方法において、基板上に誘電体を接合した後の平面図(a)とそのA−A’線についての断面図(b)である。
【図5B】実施の形態の加速度センサの製造方法において、誘電体上に犠牲層を形成した後の平面図(a)とそのB−B’線についての断面図(b)である。
【図5C】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層の周辺部を覆うように保護膜を形成した後の平面図(a)とそのC−C’線についての断面図(b)である。
【図5D】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層の中央部に一対の電極を形成した後の平面図(a)とそのD−D’線についての断面図(b)である。
【図5E】実施の形態の加速度センサの製造方法において、一対の電極の上に慣性質量体を形成した後の平面図(a)とそのE−E’線についての断面図(b)及びE1−E1’線についての断面図(c)である。
【図5F】実施の形態の加速度センサの製造方法において、犠牲層を除去した後の平面図(a)とそのF−F’線についての断面図(b)及びF1−F1’線についての断面図(c)である。
【図6】従来例の加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【図7】特許文献1に開示された加速度センサの基本構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基板、2 慣性質量板、2a,2b 電極、2wa,2wb 配線電極、2a1,2b1 接続電極、2a2,2b2 電極枝、3 弾性梁、7 誘電体、12 犠牲層、12s スロット、12b ディンプル、13 保護膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、前記一方の主面に対向して設けられた誘電体とを備え、前記慣性質量板の位置変化に対応して変化する前記第1電極と前記第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定する加速度センサ。
【請求項2】
前記誘電体は、基板上に設けられた誘電体板からなり、
前記慣性質量板は、前記基板上に弾性梁によって支持されている請求項1記載の加速度センサ。
【請求項3】
前記弾性梁は、一端が前記慣性質量板に接続され、他端が前記誘電体板に固定部を介して接続されている請求項2記載の加速度センサ。
【請求項4】
前記誘電体は、誘電体基板からなり、
前記慣性質量板は、前記誘電体基板上に弾性梁によって支持されている請求項1記載の加速度センサ。
【請求項5】
前記第1電極は複数の第1電極枝を有する櫛歯電極であり、前記第2電極は複数の第2電極枝を有する櫛歯電極であり、隣接する前記第1電極枝間に前記第2電極枝が配置された請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【請求項6】
前記慣性質量体は、ポリパラキシリレンからなる請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【請求項7】
前記誘電体は、強誘電体セラミックからなる請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【請求項1】
印加される加速度によって位置が変化する慣性質量板と、その慣性質量板の一方の主面に設けられた第1電極と第2電極と、前記一方の主面に対向して設けられた誘電体とを備え、前記慣性質量板の位置変化に対応して変化する前記第1電極と前記第2電極の間の静電容量に基づいて、前記加速度を測定する加速度センサ。
【請求項2】
前記誘電体は、基板上に設けられた誘電体板からなり、
前記慣性質量板は、前記基板上に弾性梁によって支持されている請求項1記載の加速度センサ。
【請求項3】
前記弾性梁は、一端が前記慣性質量板に接続され、他端が前記誘電体板に固定部を介して接続されている請求項2記載の加速度センサ。
【請求項4】
前記誘電体は、誘電体基板からなり、
前記慣性質量板は、前記誘電体基板上に弾性梁によって支持されている請求項1記載の加速度センサ。
【請求項5】
前記第1電極は複数の第1電極枝を有する櫛歯電極であり、前記第2電極は複数の第2電極枝を有する櫛歯電極であり、隣接する前記第1電極枝間に前記第2電極枝が配置された請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【請求項6】
前記慣性質量体は、ポリパラキシリレンからなる請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【請求項7】
前記誘電体は、強誘電体セラミックからなる請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載の加速度センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2007−333618(P2007−333618A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167086(P2006−167086)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】
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