説明

加飾成形品およびその製造方法

【課題】 貼着工程において成形品本体がつぶれて部分的な変形が生じず、成形品本体の外観性にすぐれた加飾成形品およびそのような加飾成形品を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 加飾成形品1は、加飾シートを成形品本体の少なくとも意匠面となる外表面に一体に接着することにより形成されたものである。成形品本体は非晶性の熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状に形成されている。加飾シートは成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂により構成されている。加飾シートはアクリル樹脂(PMMA)、非晶性コポリエステル樹脂(PETG)、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品本体の少なくとも意匠面となる外表面に加飾シートを一体に接着することにより形成された加飾成形品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、分割金型を用いて熱可塑性樹脂から射出成形又はブロー成形などにより所望の立体形状を有する成形品を形成し、その意匠面に外観向上の目的で加飾シートを一体に貼着することが行われている。
【0003】
加飾シートの貼着方法としては、分割金型内に複数の貫通孔を有する加飾シートを保持して成形時に一体に溶着させるもの(特開平4−148916号公報参照)、成形品を形成した後に不織布をラミネートした加飾シートを溶融軟化させて真空吸引させて接着させるもの(特開平6−23850号公報参照)があった。
【0004】
しかしながら、上記方法では、いずれも加飾シートと成形品の間に空気が溜まるのを防止するために加飾シートには貫通孔及び不織布等の特別な構成を付加する必要があって外観に影響を与えるものであった。特に加飾シートとして透明シートを貼着する場合には、外観に対して顕著な影響を与えることから当該構成を付加することはできなかった。
【0005】
そこで、真空チャンバー内で加飾シートと成形品本体との間の空気を排除して中空二重壁構造の成形品本体と同材質の加飾シートを一体に貼着させるものが好適に用いられる。例えば、特開2004−262089公報、特開2006−7422公報などがある。従来技術によれば、特に中空部を有する立体形状の成形品本体が真空工程および溶融した加飾シートを貼着させる工程において部分的な変形が生じるのを防止するため中空部内に発泡体を充填すること及びリブを形成することさらには中空部内の空気を減圧状態とすることが提案されている。
【特許文献1】特開平4−148916号公報
【特許文献2】特開平6−23850号公報
【特許文献3】特開2004−262089公報
【特許文献4】特開2006−7422公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、加飾シートとして非晶性の熱可塑性樹脂からなる比較的厚手のシートを用いた場合には成形品本体が中空部内に発泡体を充填したもの及びリブを形成したもの又は中空部内の空気を減圧状態としたものであっても貼着工程において成形品本体がつぶれて部分的な変形が生じる問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、成形品本体の外観を向上させる目的で加飾シートを貼着させるにあたって特に深みのある意匠を現出させるため非晶性の熱可塑性樹脂からなる比較的厚手の加飾シートを用い、加飾シートを構成する熱可塑性樹脂として成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂とすることにより、貼着工程において成形品本体がつぶれ部分的な変形が生じず、成形品本体の外観性にすぐれた加飾成形品およびそのような加飾成形品を得るための製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る加飾成形品は、加飾シートを成形品本体の少なくとも意匠面となる表面に一体に接着することにより形成された加飾成形品であって、成形品本体は非晶性の熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状に形成されているとともに、加飾シートは成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る加飾成形品は、請求項1記載の構成において、加飾シートはアクリル樹脂(PMMA)、非晶性コポリエステル樹脂(PETG)、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3に係る加飾成形品は、請求項1記載の構成において、加飾シートは厚さ0.5mm以上の透明なシートであって、成形品本体に接着される裏面側に印刷を施してあることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項4に係る加飾成形品は、請求項1記載の構成において、加飾シートの表面には鉛筆硬度(JIS K5400)が2H以上のハードコート層が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項5に係る加飾成形品は、請求項1記載の構成において、成形品本体は少なくともその一部に中空部を有しており、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリスチレン樹脂(PS)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)からなる群より選ばれる非晶性の熱可塑性樹脂より形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項6に係る加飾成形品は、請求項1記載の構成において、加飾シートが成形品本体の立体形状に沿って一体に接着されており、加飾シートの末端が分割金型の合わせ面に形成されるパーティングラインを覆い、成形品本体の意匠面と反対側の裏面まで巻き込んで接着されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項7に係る加飾成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂からなる加飾成形品の製造方法であって、非晶性の熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状の成形品本体を成形し、その後成形品本体および成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)の低い非晶性の熱可塑性樹脂からなる加飾シートを真空チャンバー内に配置し、真空チャンバー内を減圧するとともに加飾シートを加熱軟化させて成形品本体に密着させ、さらに真空チャンバー内に大気を導入することにより加飾シートを成形品本体に形成されたパーティングラインを覆うように接着させるとともに、加飾シートの末端を成形品本体の立体形状に沿って裏面側まで巻き込んで一体に接着し、真空チャンバー内から成形品本体を取り出して加飾シートの余剰部分を切除することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形品本体の外観を向上させる目的で加飾シートを貼着させるにあたって特に深みのある意匠を現出させるため非晶性の熱可塑性樹脂からなる比較的厚手の加飾シートを用い、加飾シートを構成する熱可塑性樹脂として成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂とすることにより、貼着工程において成形品本体がつぶれて部分的な変形が生じず、外観性にすぐれた加飾成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1ないし図3は本発明の一実施の形態に係る加飾成形品を示し、図1は全体斜視図、図2は図1のA−A断面図、図3は図2における細線円Xで囲んだ部分の詳細断面図である。また、図4ないし図6は本発明の一実施の形態に係る加飾成形品の製造方法を示し、図4は成形品本体の表面に加飾シートを貼着する態様を示す断面図、図5は成形品本体を載置した治具を上昇させて成形品本体の表面に加飾シートを接触させた態様を示す断面図、図6は成形品本体の表面に加飾シートを貼着した態様を示す断面図である。
【0017】
図1ないし図3において、1は加飾成形品である。この加飾成形品1は、熱可塑性樹脂の中空二重壁構造体である成形品本体2を主体とし、成形品本体2の意匠面となる表面3に加飾シート4を貼着して美麗に仕上げたものである。成形品本体2にはその裏面5側に補強のための凹状リブ6を形成してある。また、成形品本体2の裏面5側には、その外周端よりやや内側に外周端に沿った凹溝7が形成されている。
【0018】
成形品本体2は、熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状に形成されたもので、ブロー成形、シート成形、射出成形、真空・圧空成形などの製造方法によって成形される。当該熱可塑性樹脂としては加熱溶融した加飾シートを貼着させる際に成形品本体2に変形が生じないように耐熱性の高い熱可塑性樹脂を用いることが必要であり、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリスチレン樹脂(PS)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)からなる群より選ばれる非晶性の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0019】
加飾シート4は、成形品本体2を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂により構成されており、アクリル樹脂(PMMA)、非晶性コポリエステル樹脂(PETG)、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂からなるものである。加飾シート4を構成する熱可塑性樹脂のビカット軟化点は、成形品本体2を構成する熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上低くする必要がある。特に、ビカット軟化点が比較的低く、貼着加工性が良好であることから非晶性コポリエステルを用いることが好適であり、非晶性コポリエステルとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合体成分とする非晶性ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。
【0020】
加飾シート4は、厚さ0.5mm以上の透明なシートであって、成形品本体2に接着される裏面側に印刷を施してある。印刷は適宜公知の印刷方法を用いることができ、透明なシートの裏面側に透明インクを用いてシルク印刷を施したものを加飾シート4として用いることで、着色された成形品本体2の基材面が印刷を施した透明シートを介して透けて見えることにより、成形品の外観に深みのある意匠を現出させることができる。さらに、加飾シート4の表面3には、鉛筆硬度(JIS K5400)が2H以上となるように透明なハードコート層を設けることができる。さらにまた、成形品本体2と加飾シート4とを接着させるために印刷層が設けられた透明なシートの裏面側には透明な粘着剤層を設ける必要がある。
【0021】
本発明に係る加飾成形品1は、成形品本体2の意匠面となる表面3に、図4ないし図6に示す工程で加飾シート4を貼着して構成する。
【0022】
図4ないし図6において、8は治具であって昇降台9を備えている。治具8上には成形品本体2が載置され、その周囲を上下二分割可能な真空チャンバー10で覆う構成をなし、真空チャンバー10内の上部には加熱体(ヒータ)11が配置されている。そして、真空チャンバー10の上下分割部分には、加飾シート4をクランプ12により成形品本体2の表面3と対向するように配置し(図4参照)、この状態において真空チャンバー10内の空気を吸引排気する。
【0023】
図4の状態から、昇降台9を上昇させて、治具9上に載置した成形品本体2の表面3に加飾シート4が密接して緊迫する状態とし(図5参照)、加熱体11により加熱を続けながら加飾シート4の下方の空間からさらに空気を吸引排出し(その構成は図示していない)、成形品本体2の表面3と加飾シート4間の空気を抜いて成形品本体2の表面3に加飾シート4をその貼着のための所要の圧力で密着させる(図6参照)。なお、この工程において真空チャンバー10の上部空間に加圧流体を導入して成形品本体2の表面3に対して加飾シート4を圧着する手段を併用してもよい。そして、真空チャンバー10内の空気を吸引排気する手段では1気圧を超える圧力状態とならないが、加圧手段の併用により大きい圧力を得ることができるので、成形品本体2の表面3の形状がたとえ複雑であっても、加飾シート4をその形状に確実に沿わせて貼着することができる。
【0024】
次いで真空チャンバー10内に大気を導入することにより、加飾シート4を成形品本体2に形成されたパーティングライン13を覆うように接着させるとともに、加飾シート4の末端を成形品本体2の立体形状に沿って裏面5側まで巻き込んで一体に接着する。そして、真空チャンバー10を開いて成形品本体2を取り出して加飾シートの余剰部分を切除する。
【0025】
[実験例]
上記工程にて加飾シートを成形品本体に接着させた。加飾シートを構成する熱可塑性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂(C−PET)、アクリル樹脂(PMMA)、非晶性コポリエステル樹脂(PETG)、塩化ビニル樹脂(PVC)を用い、成形品本体を構成する非晶性の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリスチレン(PS)を用いて加飾状態の評価を行った。 以下の評価基準により結果を表1に示した。
○:変形が生じることなく外観の良好な加飾成形品が得られた。
△:加飾シートが成形品の立体形状に沿わない部分があり外観の低下が生じた。
×:成形品本体が潰れて変形による外観の低下が生じた。
特に、外観性および加工性の観点から加飾シートとして1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分とする非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体(イーストマンケミカル社製 PETG6763)より構成される透明シートをABS樹脂より成形された成形品本体に接着させたものが最も好ましく、好適な加飾成形品を得ることができた。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係る加飾成形品を示す全体斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2における細線円Xで囲んだ部分の詳細断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る加飾成形品の製造方法を示し、成形品本体の表面に加飾シートを貼着する態様を示す断面図である。
【図5】成形品本体を載置した治具を上昇させて成形品本体の表面に加飾シートを接触させた態様を示す断面図である。
【図6】成形品本体の表面に加飾シートを貼着した態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 加飾成形品
2 成形品本体
3 成形品本体の表面
4 加飾シート
5 成形品本体の裏面
6 凹状リブ
7 凹溝
8 治具
9 昇降台
10 真空チャンバー
11 加熱体(ヒータ)
12 クランプ
13 パーティングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾シートを成形品本体の少なくとも意匠面となる表面に一体に接着することにより形成された加飾成形品であって、
成形品本体は非晶性の熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状に形成されているとともに、
加飾シートは成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)が低い非晶性の熱可塑性樹脂により構成されている
ことを特徴とする加飾成形品。
【請求項2】
加飾シートはアクリル樹脂(PMMA)、非晶性コポリエステル樹脂(PETG)、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項3】
加飾シートは厚さ0.5mm以上の透明なシートであって、
成形品本体に接着される裏面側に印刷を施してある
ことを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項4】
加飾シートの表面には鉛筆硬度(JIS K5400)が2H以上のハードコート層が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項5】
成形品本体は少なくともその一部に中空部を有しており、
ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリスチレン樹脂(PS)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)からなる群より選ばれる非晶性の熱可塑性樹脂より形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項6】
加飾シートが成形品本体の立体形状に沿って一体に接着されており、
加飾シートの末端が分割金型の合わせ面に形成されるパーティングラインを覆い、成形品本体の意匠面と反対側の裏面へ巻き込んで接着されている
ことを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項7】
熱可塑性樹脂からなる加飾成形品の製造方法であって、
非晶性の熱可塑性樹脂により分割金型を用いて立体形状の成形品本体を成形し、
その後成形品本体および成形品本体を構成する熱可塑性樹脂よりもビカット軟化点(ASTM−D1525)の低い非晶性の熱可塑性樹脂からなる加飾シートを真空チャンバー内に配置し、
真空チャンバー内を減圧するとともに加飾シートを加熱軟化させて成形品本体に密着させ、
さらに真空チャンバー内に大気を導入することにより加飾シートを成形品本体に形成されたパーティングラインを覆うように接着させるとともに、加飾シートの末端を成形品本体の裏面側へ巻き込んで一体に接着し、
真空チャンバー内から成形品本体を取り出して加飾シートの余剰部分を切除する
ことを特徴とする加飾成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−12674(P2008−12674A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182752(P2006−182752)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】