説明

動力伝達装置の潤滑油供給装置

【課題】回転部材の回転によって鉛直方向上方に潤滑油を供給する供給能力を向上させることができる動力伝達装置の潤滑油供給装置を提供すること。
【解決手段】動力伝達装置の潤滑油供給装置1−1は、潤滑油の貯留部9と、駆動輪の回転と連動して回転して貯留部の潤滑油を送る回転部材7と、回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導く通路部材10と、を備える。通路部材は、回転部材の外周に沿って延在し、回転部材によって送られる潤滑油が流入する第一通路13を形成する第一構成部11と、第一通路から分岐して鉛直方向上方に向けて延在する第二通路14を形成する第二構成部12と、第一通路と第二通路との分岐部に設けられ、かつ回転部材の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の上流側に向けて突出し、第一通路を流れる潤滑油を第二通路に導く誘導部材18と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部材によって鉛直方向上方へ潤滑油を送る技術が提案されている。例えば、特許文献1には、回転部材の回転速度が所定値以下の場合に、回転部材により掻き上げられたオイルをオイル受け部に導く第1のオイル供給路と、回転部材の回転速度が所定値を越える場合に、回転部材の回転により飛ばされたオイルをオイル受け部に導く第2のオイル供給路と、第2のオイル供給路に設けられ、かつ、飛ばされたオイルが第2のオイル供給路を形成する壁面に接触することを抑制するガイド機構とを備えるオイル供給装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−336729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する場合の供給能力を向上させることについて、なお改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができる動力伝達装置の潤滑油供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置の潤滑油供給装置は、潤滑油を貯留する貯留部と、車両の駆動輪と接続され、前記駆動輪の回転と連動して回転して前記貯留部の潤滑油を送る回転部材と、前記回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導く通路部材と、を備え、前記通路部材は、前記回転部材の外周に沿って延在し、前記回転部材によって送られる潤滑油が流入する第一通路を形成する第一構成部と、前記第一通路から分岐して鉛直方向上方に向けて延在する第二通路を形成する第二構成部と、前記第一通路と前記第二通路との分岐部に設けられ、かつ前記回転部材の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の上流側に向けて突出し、前記第一通路を流れる潤滑油を前記第二通路に導く誘導部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記動力伝達装置の潤滑油供給装置において、前記誘導部材における前記流れ方向の上流側は、板状であり、かつ前記回転部材の径方向において前記回転部材の外周面と対向しており、前記誘導部材における前記流れ方向の上流端には、前記流れ方向の下流側に向けて凹む凹み部が形成されていることが好ましい。
【0008】
上記動力伝達装置の潤滑油供給装置において、前記凹み部における前記回転部材の軸方向の幅は、前記流れ方向の上流側から下流側へ向かうに従い減少することが好ましい。
【0009】
上記動力伝達装置の潤滑油供給装置において、前記回転部材は、はすば歯車であり、
前記凹み部は、前記誘導部材における軸方向の所定側に配置されており、前記所定側は、前記車両の前進時における前記回転部材の回転方向前方の歯面が向く側であることが好ましい。
【0010】
上記動力伝達装置の潤滑油供給装置において、更に、前記第一通路における前記分岐部よりも前記流れ方向の下流側に潤滑油が流れることを抑制する抑制構造を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る動力伝達装置の潤滑油供給装置は、回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導く通路部材を備える。通路部材は、回転部材の外周に沿って延在し、回転部材によって送られる潤滑油が流入する第一通路を形成する第一構成部と、第一通路から分岐して鉛直方向上方に向けて延在する第二通路を形成する第二構成部と、第一通路と第二通路との分岐部に設けられ、かつ回転部材の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の上流側に向けて突出し、第一通路を流れる潤滑油を第二通路に導く誘導部材と、を有する。本発明に係る動力伝達装置の潤滑油供給装置によれば、誘導部材によって第一通路から第二通路に潤滑油を導くことで、回転部材の回転によって鉛直方向上方へ潤滑油を供給する供給能力を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る動力伝達装置を示す正面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係る通路部材を示す斜視図である。
【図4】図4は、実施形態に係る誘導部材の拡大図である。
【図5】図5は、実施形態に係る誘導部材の斜視図である。
【図6】図6は、実施形態に係る誘導部材を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態に係る動力伝達装置の潤滑油供給装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1から図6を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、動力伝達装置の潤滑油供給装置に関する。図1は、実施形態に係る動力伝達装置を示す正面図、図2は、実施形態に係る動力伝達装置の断面図、図3は、実施形態に係る通路部材を示す斜視図、図4は、実施形態に係る誘導部材の拡大図、図5は実施形態に係る誘導部材の斜視図、図6は、実施形態に係る誘導部材を示す他の図である。
【0015】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑油供給装置1−1は、貯留部(図1の符号9参照)と、デフリングギア(図1の符号7参照)と、オイル受け部(図1の符号8参照)と、通路部材(図1の符号10参照)とを備える。デフリングギア7の回転によって貯留部9から送られる潤滑油は、通路部材10によってオイル受け部8に導かれる。通路部材10は、デフリングギア7の外周に沿った第一通路(図1の符号13参照)を形成する第一構成部(図1の符号11参照)、第一通路13から分岐してオイル受け部8に向けて延在する第二通路(図1の符号14参照)を形成する第二構成部(図1の符号12参照)、および誘導部材(図1の符号18参照)を有する。誘導部材18は、第一通路13と第二通路14との分岐部に設けられている。
【0016】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑油供給装置1−1は、誘導部材18を備えることによって、第一通路13の潤滑油をスムーズに第二通路14に導くことができる。よって、デフリングギア7の回転による鉛直方向上方への潤滑油供給能力、例えばオイル受け部8に対する潤滑油の供給能力を向上させることができる。
【0017】
また、図5に示すように、誘導部材18は、凹み部19aを有する。凹み部19aは、潤滑油の流れ方向の下流側ほど幅が狭くなる形状であり、第一通路13から第二通路14に導かれる潤滑油の流れを集中させてオイル受け部8に対する潤滑油の供給能力を向上させることができる。更に、凹み部19aは、デフリングギア7の歯スジの向きによる潤滑油の流れを考慮した位置に配置されている。凹み部19aは、第一通路13における幅方向の一方側、具体的にはデフリングギア7によって送られる潤滑油が集中し、潤滑油の流量および流速が大きくなる側に配置されている。よって、本実施形態の誘導部材18は、第二通路14を介して効率よく鉛直方向上部のオイル受け部8に潤滑油を供給することを可能とする。
【0018】
図1において、符号1は、ハイブリッド車両(図示せず)の動力伝達装置を示す。また、符号1−1は、本実施形態の動力伝達装置の潤滑油供給装置(以下、単に「潤滑油供給装置」とも記載する。)を示す。動力伝達装置1は、ケース2を有する。ケース2内には、カウンタドライブギア3、カウンタドリブンギア4、ドライブピニオンギア5、MG2リダクションギア6、デフリングギア(回転部材)7、オイル受け部8、貯留部9、通路部材10が設けられている。カウンタドライブギア3は、カウンタドリブンギア4よりも車両前後方向の前側に、MG2リダクションギア6およびデフリングギア7は、カウンタドリブンギア4よりも車両前後方向の後側に配置されている。
【0019】
カウンタドライブギア3は、図示しないエンジンの出力軸および第1のモータジェネレータ(MG1)の回転軸と遊星歯車機構を介して接続されており、エンジンの出力は、カウンタドライブギア3およびMG1に分割して入力される。カウンタドリブンギア4およびドライブピニオンギア5は、同軸上に配置され、かつ一体に回転する。カウンタドリブンギア4は、カウンタドライブギア3と噛合っている。MG2リダクションギア6は、第2のモータジェネレータ(MG2)20のロータ21の回転軸22に連結されており、ロータ21と一体に回転する。MG2リダクションギア6は、カウンタドリブンギア4と噛合っている。MG2リダクションギア6は、カウンタドリブンギア4よりも小径であり、MG2(20)の出力は、MG2リダクションギア6からカウンタドリブンギア4に増幅して伝達される。
【0020】
ドライブピニオンギア5は、デフリングギア7と噛合っており、カウンタドリブンギア4に入力されたエンジンの出力トルクおよびMG2(20)の出力トルクは、ドライブピニオンギア5を介してデフリングギア7に伝達される。デフリングギア7は、差動機構23を介して図示しない駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転する。矢印Y1は、車両の前進時におけるデフリングギア7の回転方向を示す。MG2リダクションギア6は、デフリングギア7の鉛直方向上方に配置されている。
【0021】
ケース2内における鉛直方向の下部には、潤滑油(例えば、ATF)を貯留する貯留部9が形成されている。デフリングギア7は、ケース2内の下部に配置されており、貯留部9に潤滑油が貯留された場合に、その貯留された潤滑油にデフリングギア7の一部が浸かる。ケース2内におけるデフリングギア7よりも鉛直方向上方には、オイル受け部8が設けられている。オイル受け部8は、潤滑油を貯留可能に構成されており、オイル受け部8内に流入した潤滑油は、動力伝達装置1の被潤滑部に供給される。オイル受け部8は、ケース2の内壁面から突出するリブ8aによってケース2内の下方の空間と仕切られている。オイル受け部8の潤滑油は、供給孔8bを介してMG2(20)に、供給孔8cを介してMG1にそれぞれ供給されてMG1およびMG2(20)を潤滑・冷却する。なお、オイル受け部8の潤滑油は、動力伝達装置1の他の被潤滑部に供給されてもよい。
【0022】
デフリングギア7は、駆動輪の回転と連動して回転して貯留部9の潤滑油を送る。従来、デフリングギア7等の回転部材によって、貯留部の潤滑油を鉛直方向上方のオイル受け部等の供給先に掻き揚げる技術が知られているが、このような掻き上げ方式では、下記のような状況において供給先に潤滑油が届かなかったり、十分な量が供給されなかったりする問題があった。
(a)低車速度時(デフリングギアの回転数が少ないため)。
(b)供給先がデフ軸からみて高い(高さに対して潤滑油の勢いが足りないため)。
(c)供給先がデフリングギアよりも車両後方にある(潤滑油の飛び出し方向を目標に向けるのが難しいため)。
(d)車両が坂を上っている時(デフリングギア周囲の潤滑油が増え、飛び出す潤滑油の勢いがなくなるため)。
【0023】
本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、デフリングギア7によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導く通路部材10を備えている。より具体的には、通路部材10は、潤滑油をオイル受け部8に導く。これにより、低車速度時や、オイル受け部8がデフリングギア7の回転軸から見て高い位置にある場合であっても、鉛直方向上方へ潤滑油を導き、オイル受け部8に潤滑油を供給することができる。
【0024】
通路部材10は、第一構成部11および第二構成部12を有する。第一構成部11は、デフリングギア7の周方向に沿ってデフリングギア7と対向して設けられ、デフリングギア7との間にデフリングギア7によって送られる潤滑油が流入する通路である第一通路13を形成する。第一構成部11は、デフリングギア7を軸方向に挟んで互いに対向する一対の側壁部11aと、デフリングギア7の外周面7aと径方向に対向し、外周面7aに対応する形状に形成された曲面部11bとを有する。曲面部11bは、デフリングギア7と同心上に配置されており、曲面部11bと外周面7aとの隙間の大きさは、周方向において略一様である。側壁部11a,11aにおける径方向の外側端部は、曲面部11bによって互いに接続されている。つまり、第一構成部11は、デフリングギア7の両側面および外周面7aとそれぞれ対向しており、第一構成部11とデフリングギア7との間には、潤滑油の通路としての第一通路13が形成されている。第一通路13は、デフリングギア7の外周に沿って延在し、デフリングギア7によって送られる潤滑油が流入する油路である。
【0025】
デフリングギア7の周方向における第一構成部11の設置領域は、デフリングギア7の半周よりもわずかに少ない領域であって、かつデフリングギア7の回転方向前方の歯面が鉛直方向の上側を向く領域とされている。言い換えると、デフリングギア7に対して第一通路13が形成される周方向の範囲は、デフリングギア7の回転によって潤滑油が鉛直方向上側に送られる範囲に対応している。これにより、第一通路13における潤滑油の流入口13aは、第一通路13の鉛直方向下端に位置し、デフリングギア7の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の下流側に形成された流出口13bは、第一通路13の鉛直方向上端に位置している。流入口13aにおいて、曲面部11bの外周面はケース2の底面に接しており、デフリングギア7の回転によって送られる潤滑油は、流入口13aから第一通路13に流入する。
【0026】
第二構成部12は、第一通路13と接続されて第一通路13内の潤滑油をオイル受け部8に導く第二通路14を形成している。第二通路14は、第一通路13から分岐してオイル受け部8の流入口81に向けて延在する油路であり、第一通路13から鉛直方向上方に向けて延在している。第二通路14は、第一通路13におけるデフリングギア7の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の流出口13bよりも上流側において第一通路13に接続されている。本明細書では、第一通路13におけるデフリングギア7の回転方向(Y1)に沿った潤滑油の流れ方向を単に「第一通路13の流れ方向」と記載する。また、第一通路13の流れ方向の上流側および下流側を単に「第一通路13の上流側」および「第一通路13の下流側」と記載する。また、特に記載のない限り、「軸方向」とはデフリングギア7の軸方向を示し、「径方向」とはデフリングギア7の径方向を示すものとする。
【0027】
第二通路14は、第一通路13に対して径方向の外側から接続されている。第一構成部11の曲面部11bには、開口部が形成されており、この開口部が、第一通路13と第二通路14との接続部13cであり、かつ第二通路14の流入口となっている。つまり、第二通路14の流入口である接続部13cは、デフリングギア7の外周面7aと径方向に対向している。
【0028】
また、第二通路14は、第一通路13の上流側に向けて開口している。第二構成部12は、第二通路14が内部に形成された断面矩形の煙突状(筒状)に形成されており、接続部13cからオイル受け部8に向けて鉛直方向に延在している。第二構成部12がダクト状(筒状)とされ、第二通路14の両端以外が閉じていることで、第二通路14における潤滑油の移動方向が第二構成部12の軸方向のみに規制され、また油圧の抜けが抑制されることで、潤滑油を鉛直方向上方へ導く力が増加する。第二通路14の流路断面積は、第一通路13の流路断面積よりも大きい。第二通路14の下端は、接続部13cにおいて第一通路13に接続されており、上端はオイル受け部8の流入口81に向けて開口している。
【0029】
デフリングギア7が回転すると、貯留部9の潤滑油は、デフリングギア7に送られて流入口13aから第一通路13に流入する。デフリングギア7により、第一通路13に継続的に潤滑油が送り込まれることで、第一通路13内の油圧が上昇する。つまり、第一通路13は、デフリングギア7の周りの潤滑油を集めて潤滑油の圧力を高くするオイル集中部として機能する。第一通路13の油圧が上昇することで、第一通路13内の潤滑油は、第二通路14をオイル受け部8に向けて上昇する。つまり、デフリングギア7および通路部材10は、潤滑油の油圧を高めて潤滑油を上方に送り出すポンプとして機能する。また、第二通路14は、集中した潤滑油の進行方向をデフリングギア7の回転方向から鉛直方向上方へ導く誘導部として機能する。第二通路14の上端から流出する潤滑油は、流入口81を介してオイル受け部8に流入する。
【0030】
油圧およびデフリングギア7の回転によって第一通路13内をデフリングギア7の回転方向に沿って流れる潤滑油は、第二通路14との接続部13cから流出口13bおよび第二通路14に向けてそれぞれ流れようとするが、本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、第一通路13において接続部13cから流出口13bへ向けて潤滑油が流れることを抑制する抑制構造を備えている。抑制構造は、第一通路13における第二通路14との分岐部よりも第一通路13の下流側に潤滑油が流れることを抑制する。
【0031】
この抑制構造とは、第二通路14が、接続部13cから径方向の外側に向けて延在しており、遠心力を受ける潤滑油が第二通路14に向けて流れやすいこと、第二通路14において、オイル受け部8側が接続部13c側よりも第一通路13の下流側に位置しており、接線方向に沿って第一通路13から第二通路14に潤滑油が流れやすいこと、第二通路14の流路断面積が、第一通路13の流路断面積よりも大きいこと、接続部13cよりも流出口13bが鉛直方向の上側に位置していることなどである。
【0032】
本実施形態の抑制構造は、通路部材10とデフリングギア7を含んで構成される。接続部13cがデフリングギア7の外周面7aと対向する位置に形成されており、第二通路14が接続部13cから径方向の外側に向けて延在していることにより、デフリングギア7の回転の勢いにより第二通路14に送り込まれる潤滑油は、その勢いによって、第二通路14を上方に移動していくことができる。
【0033】
このように、本実施形態の潤滑油供給装置1−1では、デフリングギア7の回転力によるエネルギー(勢い)だけでなく、デフリングギア7と通路部材10によるポンプ効果をも利用して潤滑油がケース2内の上方に向けて送られる。また、接続部13cから流出口13bへ向けて潤滑油が流れることが抑制されており、第二通路14へ向かう潤滑油の流れが促進されることで、第二通路14を介してケース2内の上部まで潤滑油が送られる。よって、低車速度時や、オイル受け部8がデフリングギア7の回転軸から見て高い位置にある場合等であっても、オイル受け部8に潤滑油を供給することができる。つまり、潤滑油供給装置1−1により、鉛直方向の上方に潤滑油を送る能力が向上する。潤滑油を飛散させることなく、第一通路13に集中させてからオイル受け部8に向けて上方に誘導することで、効率的に潤滑油を鉛直方向上方に送ってオイル受け部8に供給することができる。
【0034】
また、本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、第一通路13を流れる潤滑油を第二通路14に導く誘導部材18を備えている。図5は、本実施形態に係る誘導部材18の斜視図、図6は、本実施形態に係る誘導部材18を示す他の図であり、図4におけるB視図である。本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、誘導部材18によって第一通路13から第二通路14への潤滑油の流れをスムーズなものとし、デフリングギア7の回転による鉛直方向上方への潤滑油の供給能力を向上させることができる。
【0035】
図4に示すように、誘導部材18は、接続部13c、言い換えると第一通路13と第二通路14との分岐部に設けられている。軸方向における誘導部材18の幅は、第一通路13および第二通路14の幅と同様である。つまり、誘導部材18は、第一通路13および第二通路14の幅方向の一端から他端まで設けられている。誘導部材18は、第二構成部12における第一通路13の下流側の内壁面12aに設けられている。言い換えると、誘導部材18は、第一通路13と第二通路14との分岐部における第一通路13の下流側に配置されている。誘導部材18は、内壁面12aから第一通路13の潤滑油の流れ方向の上流側に向けて突出している。
【0036】
誘導部材18は、軸方向視における断面形状が略三角形であり、鉛直方向下側へ向かうに従い第一通路13の潤滑油の流れ方向における厚みが増加する。つまり、誘導部材18は、第二通路14における潤滑油の流れ方向において第一通路13に近づくほど内壁面12aに対して第一通路13の上流側に突出している。このように、誘導部材18の誘導面18aは、内壁面12aと比較して、第一通路13を流れる潤滑油の流れ方向となす角度が小さいため、誘導部材18が設けられない場合よりもスムーズに潤滑油を第一通路13から第二通路14に導くことができる。
【0037】
図5に示すように、誘導部材18において、潤滑油を誘導する誘導面18aは、第一通路13の下流側に向けて凹んだ曲面である。誘導面18は、第一通路13の流れ方向へ向かう潤滑油の流れを徐々に第二通路14の軸線方向に変化させるように湾曲している。つまり、誘導部材18は、デフリングギア7の周方向に流れる潤滑油を鉛直方向上方に向けてジャンプさせるジャンプ台としての機能を有する。これにより、誘導部材18は、スムーズに潤滑油の流れ方向を変えてオイル受け部8に向けて潤滑油を送ることができる。
【0038】
また、誘導部材18は、板状部19を有する。板状部19は、誘導部材18における鉛直方向の下端に設けられている。板状部19は、誘導部材18における他の部分よりも第一通路13の潤滑油の流れ方向の上流側に突出している。板状部19は、デフリングギア7の径方向においてデフリングギア7の外周面7aと対向する板状の構成部である。板状部19の厚さは、例えば、第一通路13の流れ方向に沿って一定とされてもよく、第一通路13の上流側へ向かうに従い厚さが減少していてもよい。誘導部材18は、第一通路13の上流側の部分が流れ方向と平行な板状部19となっていることで、第一通路13における潤滑油の流れを乱すことを抑制しつつ第二通路14に潤滑油を導くことができる。
【0039】
図5および図6に示すように、板状部19は、潤滑油の流れを受ける方向に凹んだ凹み部19aを有する。凹み部19aは、板状部19における第一通路13の流れ方向の上流端、言い換えると板状部19の先端に形成されている。板状部19の先端面19bは、第一通路13の上流側を向く平面である。凹み部19aは、この先端面19bに対して第一通路13の流れ方向の下流側に向けて凹んだ形状である。凹み部19aは、板状部19の先端を切り欠いた切欠部を形成しており、この切欠部は、デフリングギア7の径方向における板状部19よりも外側と内側とを連通している。
【0040】
また、凹み部19aは、デフリングギア7の軸方向における端部から中央部へ向かうに従い第一通路13の流れ方向の下側に向かう。言い換えると、凹み部19aは、第一通路13の下流側へ向かうに従い軸方向の幅が減少する形状とされている。本実施形態の凹み部19aは、径方向視における形状がU字形状あるいは円弧形状である。凹み部19aの形状は、これに限定されるものではない。なお、潤滑油をスムーズに導くことができるように、凹み部19aにおいて軸方向の幅が変化する部分の形状は、曲線であることが好ましい。
【0041】
凹み部19aは、第一通路13から第二通路14に導かれる潤滑油の流れをまとめることができる。板状部19によって第一通路13から第二通路14に導かれる潤滑油の流れは、凹み部19aによって、軸方向における凹み部19aの中央線C2に向けて集められ、中央線C2を通過する流れ(図5,図6において矢印Y2で示す流れ、以下単に「中央線を通過する流れY2」と記載する。)に集約される。凹み部19aに流入する潤滑油は、流れ方向の下流側ほど軸方向の幅が減少する凹み部19aの形状によって、中央線C2に向けて寄せられ、中央線を通過する流れY2に集約される。
【0042】
また、凹み部19aの流れが中央線を通過する流れY2に集約されることから、矢印Y3で示すように、凹み部19aの周囲を流れる潤滑油も中央線を通過する流れY2に寄せられ、中央線を通過する流れY2に合流する。このように、凹み部19aを有する誘導部材18は、第二通路14に導かれる潤滑油の流れを集中させることで、潤滑油の流れをスムーズにすることができる。凹み部19aによって潤滑油の流れが集中し、第二通路14における潤滑油の流れが整えられることで、潤滑油が第二通路14内を分散して流れる場合よりも効率よく鉛直方向上方に潤滑油を供給することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態の潤滑油供給装置1−1では、凹み部19aはデフリングギア7によって送られる潤滑油の流れを考慮した位置に配置されている。これにより、凹み部19aによる潤滑油の誘導効率を高め、デフリングギア7の回転による鉛直方向上方への潤滑油の供給能力を高めることができる。
【0044】
本実施形態のデフリングギア7は、はすば歯車であり、デフリングギア7の歯面は、軸方向の一方側を向いている。図2に示すように、デフリングギア7によって送られる潤滑油は、歯スジの向きにより斜め方向、すなわち軸方向の一方側に押し出される。本実施形態では、デフリングギア7によって潤滑油が車両右側に寄せられる。これは、車両の前進時におけるデフリングギア7の回転方向前方の歯面が車両右側(軸方向の所定側)を向いていることによる。デフリングギア7によって潤滑油が車両右側に押し出されることから、第一通路13において、潤滑油は車両右側に片寄って流れることとなる。つまり、第一通路13における車両右側を流れる潤滑油の流速や流量は、第一通路13における他の部分、例えば車両左側を流れる潤滑油の流速や流量よりも大きくなる。
【0045】
図5および図6に示すように、凹み部19aは、板状部19における車両右側に配置されている。図6に示すように、軸方向における凹み部19aの中央線C2は、板状部19の中央線C1よりも車両右側に位置している。したがって、凹み部19aは、デフリングギア7の歯面によって車両右側に寄せられた潤滑油の流れを効率よく集めて第二通路14に導くことができる。つまり、凹み部19aは、第一通路13において流速および流量が大きい車両右側の潤滑油の流れをさらに集中させて第二通路14に誘導することができる。これにより、潤滑油供給装置1−1によるオイル受け部8に対する潤滑油の供給能力を向上させることができる。なお、本実施形態の板状部19は、その中央線C1が軸方向におけるデフリングギア7の中央線と一致するように配置されている。つまり、凹み部19aの中央線C2は、デフリングギア7の中央線C1よりも車両右側に位置している。
【0046】
本実施形態の誘導部材18では、板状部19の先端面19bが第一通路13の流れ方向と直交しているが、これに限定されるものではない。先端面19bは、例えば、径方向の外側ほど第一通路13の流れ方向の下流側に向かうように傾斜していてもよい。このようにすれば、第一通路13から第二通路14へ導く潤滑油の流れをよりスムーズとすることができる。これと同様に、板状部19における凹み部19aの面は、径方向の外側ほど第一通路13の流れ方向の下流側に向かうように傾斜していてもよい。
【0047】
本実施形態では、第一通路13を形成する第一構成部11と、第二通路14を形成する第二構成部12とが一体であるが、これには限定されない。第一構成部11と第二構成部12とが独立していてもよい。例えば、ケース2が第一構成部11として第一通路13を形成し、第二構成部12がケース2とは独立した部材として第二通路14を形成していてもよい。
【0048】
本実施形態では、潤滑油供給装置1−1が、ハイブリッド車両の動力伝達装置に設けられる場合を例に説明したが、これには限定されない。潤滑油供給装置1−1は、他の種類、例えばMT(手動変速機)の動力伝達装置に適用されてもよい。
【0049】
本実施形態では、第一構成部11が、デフリングギア7の両側面および外周面7aのそれぞれと対向していたが、これには限定されず、デフリングギア7の少なくとも1つの面と対向していればよい。
【0050】
また、本実施形態では、第二構成部12が煙突状(筒状)であったが、これには限定されず、潤滑油をオイル受け部8に導くことができる形状であればよい。なお、本実施形態では、通路部材10によって鉛直方向上方へ導かれた潤滑油がオイル受け部8を介して被潤滑部に供給されたが、これに限定されるものではない。通路部材10によって鉛直方向上方へ導かれた潤滑油は、オイル受け部8を介さずに直接被潤滑部に供給されてもよい。本実施形態の潤滑油供給装置1−1は、動力伝達装置1の上部に配置されたMG2等の被潤滑部に直接潤滑油を供給する場合にも適用可能である。
【0051】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0052】
1−1 動力伝達装置の潤滑油供給装置
1 動力伝達装置
7 デフリングギア(回転部材)
8 オイル受け部
9 貯留部
10 通路部材
11 第一構成部
12 第二構成部
13 第一通路
13c 接続部(分岐部)
14 第二通路
18 誘導部材
19a 凹み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する貯留部と、
車両の駆動輪と接続され、前記駆動輪の回転と連動して回転して前記貯留部の潤滑油を送る回転部材と、
前記回転部材によって送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導く通路部材と、
を備え、
前記通路部材は、
前記回転部材の外周に沿って延在し、前記回転部材によって送られる潤滑油が流入する第一通路を形成する第一構成部と、
前記第一通路から分岐して鉛直方向上方に向けて延在する第二通路を形成する第二構成部と、
前記第一通路と前記第二通路との分岐部に設けられ、かつ前記回転部材の回転方向に沿った潤滑油の流れ方向の上流側に向けて突出し、前記第一通路を流れる潤滑油を前記第二通路に導く誘導部材と、
を有する
ことを特徴とする動力伝達装置の潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記誘導部材における前記流れ方向の上流側は、板状であり、かつ前記回転部材の径方向において前記回転部材の外周面と対向しており、
前記誘導部材における前記流れ方向の上流端には、前記流れ方向の下流側に向けて凹む凹み部が形成されている
請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記凹み部における前記回転部材の軸方向の幅は、前記流れ方向の上流側から下流側へ向かうに従い減少する
請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記回転部材は、はすば歯車であり、
前記凹み部は、前記誘導部材における軸方向の所定側に配置されており、
前記所定側は、前記車両の前進時における前記回転部材の回転方向前方の歯面が向く側である
請求項2または3に記載の動力伝達装置の潤滑油供給装置。
【請求項5】
更に、前記第一通路における前記分岐部よりも前記流れ方向の下流側に潤滑油が流れることを抑制する抑制構造を備える
請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167792(P2012−167792A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31268(P2011−31268)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】