説明

動力伝達装置

【課題】回転電機をパイプ部材によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができる小型な動力伝達装置を提供すること。
【解決手段】トランスアクスル10が、ブリーザ孔52の下方の電動モータMと第1のケース12の間のスペースに、電動モータMにオイルを吐出して電動モータMを冷却するオイルパイプ44を有し、このオイルパイプ44の外周部に、オイルパイプ44の長手方向に沿って所定長延在するとともに、オイルパイプ44からオイルパイプ44の短手方向両外方に突出するカバー部材54と、カバー部材54から上方に突出して設けられ、オイルパイプ44の短手方向に沿って延在するリブ55a、55bとが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、回転電機にオイルを供給するパイプ部材を備えたケースにブリーザ孔が形成された動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の動力伝達装置としては、電動モータの回転中心軸とディファレンシャルギヤの回転中心軸と同軸上に設け、バッテリにより駆動される電動モータの駆動力を減速機構からディファレンシャル装置に伝達し、ディファレンシャル装置から左右駆動輪に分配するようにしたモータ式の動力伝達装置が知られている。
【0003】
この動力伝達装置にあっては、動力伝達装置のケースの内部と外部とを連通させて、ケース内のオイルの温度上昇時に増大する内部圧を外部に逃がし、温度下降時には内部圧の低下に伴って外部より外気を吸い込むことにより、ケース内外の気圧差を解消するためのブリーザ装置が設けられている。
【0004】
このブリーザ装置は、通常、ケースの内部と外部とを連通するブリーザ孔と、ブリーザ孔の途中にブリーザ室を形成したものから構成されており、ブリーザ室は、ケース内の潤滑油がブリーザ孔を通じて外部に飛散したり漏出しないようにオイルをケース内に還流する機能を有している。
ところが、ケースの内部にブリーザ装置を設けると、ケースにブリーザ装置を設けるスペースが必要になるため、ケースが大型化して結果的に動力伝達装置が大型化してしまう。
【0005】
これに対して、ケースの内部にブリーザ装置を設けず、動力伝達装置が大型化するのを抑制しつつブリーザ機能を発揮するようにした動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この動力伝達装置は、動力伝達装置のケースを、電動モータを収容する電動モータ収納室と、減速機構とディファレンシャル装置を収納するミッション収納室とに隔壁で仕切り、電動モータ収納室をケースに形成された第1ブリーザ通路および第2ブリーザ通路を介してミッション収納室に連通させ、ミッション収納室をブリーザパイプを介して大気に連通させることにより、電動モータ収納室において発生したブリージングエアと、ミッション収納室において発生したブリージングエアとをミッション収納室で合流させて大気に放出することで、ミッション収納室を二系統のオイルミストを分離する共通のブリーザ室として機能させるようにしている。
【0007】
ところが、この動力伝達装置は、ケースに第1ブリーザ通路および第2ブリーザ通路を形成する必要があるため、ブリーザ通路を確保するスペースが必要になる分だけ、動力伝達装置のケースの構造が複雑になるとともに、ケースが大型化してしまい、結果的に動力伝達装置の小型化を図ることができない。
【0008】
そこで、ケースと駆動モードの間の空間に、ブリーザ装置の代わりにオイルを駆動モータに噴射して駆動モータを冷却するオイルパイプを設置することにより、駆動モータにオイルを供給する構成を設置するスペースをケースと駆動モードの間の空間に設けるようにして、動力伝達装置の小型化を図りつつ、駆動モータを効率よく冷却するように構成することが考えられる。
【0009】
この場合には、オイルパイプの上方のケースにブリーザ孔を設けることにより、ブリーザ孔を通してケースの内外の気圧差を解消することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−121553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ケースと駆動モードの間の空間にオイルパイプを設け、オイルパイプの上方のケースにブリーザ孔を設けた場合には、車両が坂道走行する等して動力伝達装置が傾いた場合に、ケースの底面に貯留されたオイルが動力伝達装置のケースの一方に偏ってしまうことになる。
この場合には、電動モータのロータ等によってオイルが攪拌されることで泡が生成されてケースの内部圧が上昇してしまい、この泡がブリーザ孔から外部に漏出する、所謂、ブリーザ吹きが発生してしまう可能性がある。
【0012】
また、電動モータのロータ等によって撹拌されてケースの上方に飛散されたオイル、あるいは、オイルパイプから駆動用モータに衝突して跳ね返ったオイルがブリーザ孔から漏出されるブリーザ吹きが発生してしまう可能性がある。
【0013】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、回転電機をパイプ部材によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができる小型な動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る動力伝達装置は、上記目的を達成するため、(1)回転電機と、前記回転電機から伝達される動力を減速機構を介して左右駆動輪に分配するディファレンシャル装置と、底部にオイルが貯留され、前記回転電機と前記ディファレンシャル装置とを収容するケースと、前記回転電機の上方に前記ケースと別体に設けられ、オイルを前記回転電機に供給するパイプ部材と、前記パイプ部材の上方の前記ケースに設けられたブリーザ孔とを備え、前記回転電機の回転中心軸と前記ディファレンシャル装置の回転中心軸とが同軸上に設置される動力伝達装置であって、前記パイプ部材の外周部に取付けられ、前記パイプ部材の長手方向に沿って所定長延在するとともに、前記パイプ部材から前記パイプ部材の短手方向外方に突出するカバー部材と、前記カバー部材から上方に突出して設けられ、前記パイプ部材の短手方向に沿って延在するリブとを有するものから構成されている。
【0015】
この動力伝達装置は、回転電機の回転中心軸とディファレンシャル装置の回転中心軸とが同軸上に設置され、動力伝達装置が長尺となる。このため、車両が前方側または後方側に傾斜するのに伴って動力伝達装置が前方側または後方側に傾斜した場合には、ケースの底部に貯留されたオイルがケースの一方に偏って液面が上昇し、回転電機のロータがオイルに浸かる。
【0016】
このとき、回転電機のロータによってオイルが撹拌されることで大量の泡が発生してケース内の圧力が大きくなったり、オイルがケースの上方に飛散する。
【0017】
本発明では、回転電機とケースの間のスペースに、回転電機にオイルを吐出して回転電機を冷却するパイプ部材を設け、このパイプ部材に、カバー部材およびリブを設けることにより、パイプ部材の下方に到達した泡やオイルがカバー部材によって遮られてブリーザ孔に到達するのを防止することができる。
【0018】
また、パイプ部材から回転電機に供給され、回転電機からパイプ部材に跳ね返ったオイルもカバー部材によって遮られてブリーザ孔に到達するのを防止して内部圧のみをブリーザ孔から逃がすことができる。
【0019】
また、仮に、カバー部材の上面に到達して傾斜するカバー部材を流下する泡やオイルは、リブによって塞き止められてパイプ部材の下方に滴下されるので、ブリーザ孔に到達するのを防止して、内部圧のみをブリーザ孔から逃がすことができる。
【0020】
このように回転電機とケースとの間に回転電機の冷却とブリーザ吹き防止の機能を兼ね備えたパイプ部材を設けることにより、回転電機をパイプ部材によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができる小型な動力伝達装置を提供することができる。
【0021】
上記(1)に記載の動力伝達装置において、(2)前記リブが、前記ブリーザ孔に対して前記パイプ部材の長手方向の両側に位置するように前記カバー部材に設けられるものから構成されている。
【0022】
この動力伝達装置は、リブがブリーザ孔に対してパイプ部材の長手方向の両側に位置するので、車両が前方側または後方側に傾斜するのに伴って動力伝達装置が前方側または後方側に傾斜した場合に、パイプ部材を伝わる泡やオイルをリブによって遮ってブリーザ孔に到達させないようにすることができる。この結果、ブリーザ孔からブリーザ吹きが発生するのをより確実に防止することができる。
【0023】
上記(1)または(2)に記載の動力伝達装置において、(3)前記ケースが、前記パイプ部材の両端部のうちの少なくとも一方が挿通される溝部を有するものから構成されている。
【0024】
この動力伝達装置は、ケースにパイプ部材の両端部のうちの少なくとも一方が挿通される溝部を有するので、ケースにパイプ部材を取付けるためのブラケット等を設けるのを不要にすることができる。このため、ケースにブラケット等を収納する空間を設ける必要がなく、ケースを小型化することができ、結果的に動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0025】
上記(3)に記載の動力伝達装置において、(4)前記回転電機が、回転自在なロータと、前記ロータを取り囲むように前記ロータの外周部に設けられたステータコアおよび前記ステータコアに巻回されるステータコイルを有するステータとを含んで構成され、前記パイプ部材が、前記ステータコアの軸線方向両端から外方に突出する前記ステータコイルのコイルエンドにオイルを吐出する吐出部を有するものから構成されている。
【0026】
この動力伝達装置は、パイプ部材の吐出部から回転電機のコイルエンドに吐出されたオイルがコイルエンドからパイプ部材に跳ね返った場合であっても、カバー部材によってオイルを遮断してブリーザ孔に到達するのを防止することができ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、回転電機をパイプ部材によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができる小型な動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、電気自動車両のトランスアクスルの断面図である。
【図2】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、パイプ部材の斜視図である。
【図3】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、パイプ部材の上面図である。
【図4】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、図1のA−A方向矢視断面図である。
【図5】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、トランスアクスルが傾斜した状態を示す図である。
【図6】本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図であり、オイルパイプの吐出孔からコイルエンドにオイルを噴射した状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る動力伝達装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図6は、本発明に係る動力伝達装置の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、自動車等の車両の動力伝達装置を構成するトランスアクスル10は、有底筒状の第1のケース12と、第1のケース12の開口端を閉塞する円板状のカバー13と、第1のケース12に収容された回転電機としての電動モータMと、第1のケース12の閉塞端である仕切壁12a側に位置し、第1のケース12に固定された第2のケース14と、第2のケース14に収容されたプラネタリギヤ15と、第2のケース14に収容されたディファレンシャル装置としてのディファレンシャルギヤ16とを含んで構成されている。なお、本実施の形態では、第1のケース12、カバー13および第2のケース14がケースとしてのトランスアクスルケース11を構成している。
【0030】
電動モータMは、複数個の永久磁石が埋め込まれているロータ17と、ロータ17を取り囲むようにロータ17の外周部に設けられ、回転磁界を形成するステータ18とを含んで構成されており、ステータ18は、ステータコア19と、ステータコア19に巻回されるステータコイルとしての三相コイル20とを含んで構成される。
【0031】
ロータ17は、中空のロータシャフト21に結合されており、ロータシャフト21と一体的に回転するようになっている。ステータコア19は、電磁鋼板の薄板を積層して形成され、図示しないボルト等の固定手段によって第1のケース12に固定されている。
【0032】
また、第1のケース12にはボルト23によってガイド部材22が固定されており、ロータシャフト21は、軸受24を介してガイド部材22に回転自在に支持されているとともに、軸受25を介して仕切壁12aの半径方向内周部に回転自在に支持されている。
【0033】
また、ロータシャフト21の内周面には中空のインプットシャフト26の軸線方向一端部の外周部がスプライン嵌合されており、ロータシャフト21とインプットシャフト26とは一体回転するようになっている。
【0034】
また、インプットシャフト26の軸線方向他端部にはサンギヤ27の内周面がスプライン嵌合しており、インプットシャフト26はサンギヤ27と一体回転するようになっている。
【0035】
また、プラネタリギヤ15は、サンギヤ27と、インプットシャフト26と同軸上に設けられ、第2のケース14に回転不能に支持されているリングギヤ28と、サンギヤ27とリングギヤ28との間に配置され、サンギヤ27の外周を自転しながら公転するピニオンギヤ29と、ディファレンシャルギヤ16のデフケース31に結合され、各ピニオンギヤ29のピニオンシャフト29aを支持するプラネタリキャリア30とを含んで構成されている。
【0036】
また、インプットシャフト26は、軸受33、34を介して仕切壁12aおよびプラネタリキャリア30に回転自在に支持されている。また、第2のケース14には円板状のガイド部材32が結合されており、プラネタリキャリア30は、軸受34、35を介してガイド部材32の半径方向内周部およびインプットシャフト26の外周部に回転自在に支持されている。
【0037】
また、ディファレンシャルギヤ16は、プラネタリキャリア30に結合されたデフケース31と、デフケース31内に設けられ、デフケース31に結合されたピニオンシャフト36aに回転自在に支持されたピニオンギヤ36と、ピニオンギヤ36に噛合するサイドギヤ37a、37bとを含んで構成されている。
【0038】
また、サイドギヤ37aの内周面には左側のドライブシャフト38の一端部がスプライン嵌合しており、サイドギヤ37bの内周面にはインタミディエイトシャフト(以下、インタミシャフトという)39の一端部がスプライン嵌合している。
【0039】
インタミシャフト39は、ロータシャフト21およびインプットシャフト26の内周面に挿通されており、インタミシャフト39の他端部は、ホルダシャフト40の内周面にスプライン嵌合している。
【0040】
このホルダシャフト40の内周面には右側のドライブシャフト41の一端部がスプライン嵌合している。また、ホルダシャフト40は、軸受42、43を介してガイド部材22およびカバー13に回転自在に支持されている。
【0041】
このように構成されるトランスアクスル10は、ロータ17に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイル20によって形成される磁界との相互作用によりロータ17が回転駆動される。
【0042】
ロータ17が回転駆動されると、ロータ17に結合されたロータシャフト21を介してインプットシャフト26が回転し、インプットシャフト26を介してサンギヤ27が回転する。
【0043】
サンギヤ27が回転すると、ロータ17の駆動力がサンギヤ27を介してピニオンギヤ29に伝達され、ピニオンギヤ29がサンギヤ27の回りを公転しながら自転することにより、プラネタリキャリア30によってロータ17の駆動力が増幅される。
【0044】
プラネタリキャリア30が回転すると、プラネタリキャリア30の回転がデフケース31に入力されてデフケース31が回転し、このデフケース31と一体的にピニオンギヤ36が公転することにより、一対のサイドギヤ37a、37bおよび一対のドライブシャフト38およびインタミシャフト39が回転駆動される。このため、ドライブシャフト38およびインタミシャフト39にホルダシャフト40を介して結合されたドライブシャフト41を介して左右の駆動輪が同一回転数で駆動される。
【0045】
また、車両のカーブ走行等によって、左右の駆動輪間に回転抵抗差が生じたときに、ピニオンギヤ36が自転することになって、サイドギヤ37a、37bが差動回転することになるので、デフケース31に入力される回転動力が左右のドライブシャフト38、41を介して左右の駆動輪に差動分配される。
【0046】
このように本実施の形態では、電動モータMの回転中心軸R(ロータシャフト21の回転中心軸)とディファレンシャルギヤ16の回転中心軸R(デフケース31の回転中心軸)が同軸上に設置されている。
【0047】
一方、トランスアクスルケース11の底部にはオイルが貯留されており、車両の停止時のオイルの液面は、ステータ18が浸かる程度の高さになっている。
【0048】
また、トランスアクスルケース11の底部にはストレーナ51が設けられており、トランスアクスルケース11の底部に貯留されるオイルは、ストレーナ51で濾過された後に、図示しないオイル供給管を通してオイルポンプに供給されるようになっている。
【0049】
また、電動モータMの上方には、トランスアクスルケース11と別体のオイルパイプ44が設けられており、このオイルパイプ44は、一端部が第1のケース12の上部に形成された油路46aを構成する溝部に挿通され、他端部が第1のケース12の上部に設けられた閉止部材45によって閉止されている。なお、オイルパイプ44は、パイプ部材を構成している。
【0050】
油路46aは、第1のケース12の上部に形成された油路46bおよび第2のケース14の上部および側部に形成された油路46c、46dに連通している。また、油路46dには図示しないオイルポンプによってオイルが供給されるようになっており、油路46dに供給されるオイルは、油路46c、46b、46aを介してオイルパイプ44に供給される。
【0051】
オイルパイプ44は、油路46aから供給されるオイルを電動モータMの上方で電動モータMの軸線方向、すなわち、インプットシャフト26の軸線方向一端から他端に向かって輸送する。
【0052】
また、オイルパイプ44には吐出孔44a〜44eが形成されており、吐出孔44a、44cは、ステータコア19の軸線方向両端から外方に突出して最も高温となる三相コイル20のコイルエンド20a、20bの鉛直方向上方に位置し、コイルエンド20a、20bにオイルを吐出するようになっている。なお、吐出孔44a、44cは、吐出部を構成している。
【0053】
また、吐出孔44bは、吐出孔44a、44cの間に位置して電動モータMの軸線方向の略中央部の鉛直方向上方に位置しており、吐出孔44bは、電動モータMの軸線方向の略中央部にオイルを吐出するようになっている。
【0054】
また、吐出孔44d、44eは、吐出孔44cに対して電動モータMの軸線方向外方、すなわち、オイルパイプ44の他端部に併設して設けられており、下方にオイルを吐出するようになっている。
【0055】
ガイド部材22は、電動モータMの軸線方向に対して吐出孔44d、44eの鉛直方向に延在するフランジ部22aと、フランジ部22aの半径方向内方にフランジ部22aと一体的に設けられたボス部22bとを備えている。
【0056】
ボス部22bの半径方向内周部には軸受24、42が設けられており、軸受24は、電動モータMの軸線方向で電動モータMに隣接するとともに、軸受42は、軸受24に対して電動モータMの軸線方向外方に位置している。
【0057】
また、カバー13の半径方向内方には円筒部13aが形成されており、この円筒部13aの内周部とホルダシャフト40の外周部との間には軸受43が介装されている。この軸受43は、軸受42に対して電動モータMの軸線方向外方に位置している。
【0058】
また、ボス部22bには連通孔22cが形成されており、この連通孔22cは、電動モータMの軸線方向において軸受24、42の間に位置し、ボス部22bの半径方向に延在している。
【0059】
また、ガイド部材22のフランジ部22aにはガイドリブ22dが設けられており、このガイドリブ22dは、フランジ部22aから電動モータMの軸線方向の外方に延在している。
カバー13の円筒部13aには連通孔13bが形成されており、この連通孔13bの上方の開口端は、ガイドリブ22d側に開口し、連通孔13bの下方の開口端は、軸受43の軸線方向一端部側に開口している。
【0060】
本実施の形態では、オイルポンプから油路46d、46c、46b、46aを介してオイルパイプ44に供給されたオイルは、吐出孔44a〜44cからコイルエンド20a、20bおよび電動モータMの軸線方向の略中央部の三相コイル20の略中央部に吐出(滴下)される。
【0061】
コイルエンド20a、20bと三相コイル20の軸線方向の略中央部に吐出されたオイルは、三相コイル20の周方向に沿って三相コイル20の下部に流れ落ち、このオイルが三相コイル20を流れ落ちる間に、三相コイル20からオイルに熱が伝わり、ステータ18の冷却が行われる。特に、三相コイル20の中で最も高温となるコイルエンド20a、20bにオイルを供給することにより、三相コイル20が効率よく冷却される。
【0062】
吐出孔44dから吐出されたオイルは、ガイド部材22のフランジ部22aの一方の面に案内されて自由落下し、連通孔22cを通して軸受24、42の軸線方向一端部に供給される。
【0063】
このオイルは、軸受24に供給され、軸受24の軸線方向に沿って移動するとともに、軸受42に供給され、軸受42の軸線方向に沿って移動する。このため、オイルにより軸受24、42が軸線方向に沿って潤滑される。
【0064】
また、吐出孔44eから吐出されたオイルは、ガイド部材22のフランジ部22aの他方の面に案内されて自由落下し、ガイドリブ22dに衝突して電動モータMの軸線方向外方に移動する。
【0065】
このオイルは、ガイドリブ22dの先端から円筒部13aに形成された連通孔13bを通して軸受43の軸線方向一端部に供給される。
【0066】
このオイルは、軸受43に供給され、軸受43の軸線方向に沿って移動するため、オイルにより軸受43が軸線方向に沿って潤滑される。
【0067】
一方、オイルパイプ44の上方に位置する第1のケース12にはブリーザ孔52が形成されている。このブリーザ孔52は、吐出孔44a、44cの間に位置しており、トランスアクスルケース11の内部と外部とを連通する開口から構成されている。
【0068】
また、第1のケース12の上部にはブリーザパイプ53が取付けられており、このブリーザパイプ53は、ブリーザ孔52に連通する一端部と外気に開口する他端部とを備え、トランスアクスルケース11の内部と外部とを連通している。
【0069】
図1〜図4に示すように、オイルパイプ44の外周上部にはくの字形状のカバー部材54が取付けられており、このカバー部材54は、オイルパイプ44の長手方向に沿って所定長延在するとともに、オイルパイプ44からオイルパイプ44の短手方向の両外方に突出している。
【0070】
ここで、カバー部材54の所定長さとは、吐出孔44aから吐出孔44cの手前までの距離に相当する長さである。図1において、カバー部材54の長手方向一端部は、吐出孔44aよりも左側に位置しており、カバー部材54の長手方向他端部は、吐出孔44cの左方の吐出孔44cの手前に位置している。
【0071】
また、図4に示すように、カバー部材54は、ステータ18の外周の円弧に沿ってオイルパイプ44の短手方向の両外方に突出しており、ステータ18に接触することなく、ステータ18に対して微小な隙間を介して近接している。
【0072】
また、カバー部材54の上部には一対のリブ55a、55bが設けられており、このリブ55a、55bは、カバー部材54から上方に突出してオイルパイプ44の短手方向に沿って延在している。
また、図1に示すように、リブ55a、55bは、ブリーザ孔52に対してオイルパイプ44の長手方向の両側に位置しており、リブ55a、55bの間にブリーザ孔52が位置している。
【0073】
次に、作用を説明する。
また、本実施の形態のトランスアクスル10は、電動モータMの回転中心軸Rとディファレンシャルギヤ16の回転中心軸Rが同軸上に設置されているため、トランスアクスル10が長尺となる。
【0074】
このため、登坂走行時等のように水平面Eに対してトランスアクスル10の後方に傾斜した場合には(図5参照)、トランスアクスルケース11の底部に貯留されたオイルOがトランスアクスルケース11の左方に偏ってオイルの液面が上昇して、電動モータMのロータ17がオイルに浸かる。
【0075】
このとき、電動モータMのロータ17によってオイルOが撹拌されることで大量の泡が発生してトランスアクスルケース11内の圧力が大きくなったり、オイルがケース第1のケース12の上方に飛散してしまう。
【0076】
本実施の形態では、ブリーザ孔52の下方の電動モータMと第1のケース12の間のスペースに、電動モータMにオイルを吐出して電動モータMを冷却するオイルパイプ44を設け、このオイルパイプ44の外周部に、オイルパイプ44の長手方向に沿って所定長延在するとともに、オイルパイプ44からオイルパイプ44の短手方向両外方に突出するカバー部材54と、カバー部材54から上方に突出して設けられ、オイルパイプ44の短手方向に沿って延在するリブ55a、55bとを設けた。
【0077】
このため、オイルパイプ44の下方に到達した泡やオイルがカバー部材54によって遮られてブリーザ孔52に到達するのを防止することができ、内部圧のみをブリーザ孔52からブリーザパイプ53を介して外部に逃がすことができる。
【0078】
また、図6の矢印a1、a2、a3で示すように、オイルパイプ44からコイルエンド20aに供給され、コイルエンド20aからオイルパイプ44に跳ね返ったオイルもカバー部材54によって遮られてブリーザ孔52に到達するのを防止して、内部圧のみをブリーザ孔52からブリーザパイプ53を介して外部に逃がすことができる。
【0079】
また、図6の矢印a4で示すように、コイルエンド20aから跳ね返ったりすること等によってカバー部材54の上面に到達した泡やオイルは、矢印a4で示すように傾斜するカバー部材54の左方から右方に流下した後に、リブ55aによって塞き止められる。
リブ55aによって塞き止められた泡やオイルは、矢印a5で示すように、カバー部材54の短手方向に沿って流下した後にオイルパイプ44の下方に落下するので、ブリーザ孔52に到達するのを防止することができ、内部圧のみをブリーザ孔52からブリーザパイプ53を介して外部に逃がすことができる。
【0080】
また、平坦走行時にトランスアクスルケース11内のオイルの温度が上昇してトランスアクスルケース11内に泡が発生した場合にも、オイルパイプ44の下方に到達した泡がカバー部材54によって遮られてブリーザ孔52に到達するのを防止して内部圧のみをブリーザ孔52からブリーザパイプ53を介して外部に逃がすことができる。
【0081】
したがって、トランスアクスルケース11から内部圧のみをブリーザ孔52からブリーザパイプ53を介して外部に逃がすことにより、トランスアクスルケース11の内部と外部との気圧差が同じになるように調圧することができる。
【0082】
また、オイルの温度下降時にはトランスアクスルケース11の内部圧の低下に伴ってブリーザパイプ53を介してブリーザ孔52からトランスアクスルケース11内に外気を吸い込むことにより、トランスアクスルケース11の内部と外部との気圧差が同じになるように調圧することができる。
【0083】
このように本実施の形態では、電動モータMとトランスアクスルケース11との間に電動モータMの冷却とブリーザ吹き防止の機能を兼ね備えたオイルパイプ44を設けることにより、電動モータMをオイルパイプ44によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができ、トランスアクスル10の小型化を図ることができる。
【0084】
また、本実施の形態では、リブ55a、55bを、ブリーザ孔52に対してオイルパイプ44の長手方向の両側に位置するようにカバー部材54に設けたので、車両の傾斜に伴ってトランスアクスル10が後方に傾斜した場合に、オイルパイプ44を伝わる泡やオイルをリブ55aによって遮ってブリーザ孔52に到達させないようにすることができる。この結果、ブリーザ孔52からブリーザ吹きが発生するのをより確実に防止することができる。
【0085】
また、降坂走行時等に水平面Eに対してトランスアクスル10の前方に傾斜した場合には、カバー部材54の上面に到達して傾斜するカバー部材54の右方から左方に流下する泡やオイルは、リブ55bによって塞き止められてオイルパイプ44の下方に落下されるので、ブリーザ孔52に到達するのを防止して、内部圧のみをブリーザ孔52から逃がすことができる。
【0086】
なお、本実施の形態では、トランスアクスル10が前方側に傾斜した場合には、電動モータMのロータ17がオイルに浸からないので、ロータ17からロータ17の上方のブリーザ孔52側に泡が飛んだり、オイルが飛散されることが少なくなるので、カバー部材54の他端部は、吐出孔44cに対して左方に位置している。
【0087】
但し、カバー部材54の他端部を吐出孔44cに対して右方側に位置させてもよく、カバー部材54をトランスアクスルケース11と電動モータMの間の空間に位置するオイルパイプ44の長手方向の全てに亘って設けてもよい。
【0088】
また、本実施の形態では、オイルパイプ44の一端部を第1のケース12の上部に形成された油路46aを構成する溝部に挿通したので、オイルパイプ44の一端部をトランスアクスルケース11に取付ける閉止部材45に相当するブラケット等を設けるのを不要にすることができる。
このため、トランスアクスルケース11にブラケット等を収納する空間を設ける必要がなく、トランスアクスルケース11を小型化することができ、結果的にトランスアクスル10の小型化を図ることができる。なお、カバー13に溝部を形成し、オイルパイプ44の他端部をこの溝部に挿通するようにしてもよい。
【0089】
また、本実施の形態の潤滑構造では、電動モータMによって駆動輪を駆動する電気自動車両のトランスアクスル10に適用しているが、モータと発電機とからなる回転電機および内燃機関を有するハイブリッド車両のトランスアクスルに潤滑構造を適用してもよい。
【0090】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0091】
以上のように、本発明に係る動力伝達装置は、回転電機をパイプ部材によって効率的に冷却しつつ、ブリーザ吹きが発生するのを防止することができ、動力伝達装置を小型化することができるという効果を有し、回転電機にオイルを供給するパイプ部材を備えたケースにブリーザ孔が形成された動力伝達装置等として有用である。
【符号の説明】
【0092】
10 トランスアクスル(動力伝達装置)
11 トランスアクスルケース(ケース)
16 ディファレンシャルギヤ(ディファレンシャル装置)
17 ロータ
18 ステータ
19 ステータコア
20 三相コイル(ステータコイル)
44 オイルパイプ(パイプ部材)
44a、44c 吐出孔(吐出部)
52 ブリーザ孔
54 カバー部材
55a、55b リブ
M 電動モータ(回転電機)
R 回転電機の回転中心軸、ディファレンシャル装置の回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、前記回転電機から伝達される動力を減速機構を介して左右駆動輪に分配するディファレンシャル装置と、底部にオイルが貯留され、前記回転電機と前記ディファレンシャル装置とを収容するケースと、前記回転電機の上方に前記ケースと別体に設けられ、オイルを前記回転電機に供給するパイプ部材と、前記パイプ部材の上方の前記ケースに設けられたブリーザ孔とを備え、前記回転電機の回転中心軸と前記ディファレンシャル装置の回転中心軸とが同軸上に設置される動力伝達装置であって、
前記パイプ部材の外周部に取付けられ、前記パイプ部材の長手方向に沿って所定長延在するとともに、前記パイプ部材から前記パイプ部材の短手方向外方に突出するカバー部材と、
前記カバー部材から上方に突出して設けられ、前記パイプ部材の短手方向に沿って延在するリブとを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記リブが、前記ブリーザ孔に対して前記パイプ部材の長手方向の両側に位置するように前記カバー部材に設けられることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記ケースが、前記パイプ部材の両端部のうちの少なくとも一方が挿通される溝部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記回転電機が、回転自在なロータと、前記ロータを取り囲むように前記ロータの外周部に設けられたステータコアおよび前記ステータコアに巻回されるステータコイルを有するステータとを含んで構成され、
前記パイプ部材が、前記ステータコアの軸線方向両端から外方に突出する前記ステータコイルのコイルエンドにオイルを吐出する吐出部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−138989(P2012−138989A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288148(P2010−288148)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】