説明

動圧軸受装置の製造方法、動圧軸受装置、スピンドルモータおよびディスク駆動装置

【課題】 小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる動圧軸受装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】 シャフトとの相対回転で動圧力を発生させる動圧溝が形成されたスリーブ10は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。スリーブ10には、転写ヘッド30を押圧する転写によって動圧溝が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受装置の製造方法、動圧軸受装置、スピンドルモータおよびディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の各種ディスクを回転駆動するディスク駆動装置の回転駆動機構や、スキャナ装置などに搭載されるポリゴンミラーの回転駆動機構等には、動圧軸受装置を備えるスピンドルモータが採用されている。この種の動圧軸受装置は、シャフトと、シャフトを挿入可能な内周面を備えるスリーブとを備え、シャフトがスリーブに対して相対回転可能に構成されている。また、この種の動圧軸受装置は、シャフトとスリーブとの相対回転で径方向に動圧力を発生させるラジアル動圧溝と、軸方向に動圧力を発生させるスラスト動圧溝とを備えている。
【0003】
一般に、ラジアル動圧溝は、シャフトの外周面またはスリーブの内周面に形成されている。スラスト動圧溝は、シャフトの一端に一体で形成された、あるいは別体で形成されたスラストプレートや、そのようなスラストプレートに対向するスリーブの対向面等に形成されている。これらのラジアル動圧溝やスラスト動圧溝の形成方法として、従来から各種の形成方法が提案されている(たとえば、特許文献1から3参照)。
【0004】
特許文献1には、電極工具を用い、電気分解を利用した化学的な加工方法である電解加工によってラジアル動圧溝およびスラスト動圧溝を形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、転造ヘッドを用いたボール転造によってラジアル動圧溝を形成する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、上パンチと下パンチとコアとから構成される金型を用いたコイニングによってスラスト動圧溝を形成する方法が開示されている。特許文献3に開示されたスラスト動圧溝の形成方法では、スラスト動圧溝を形成するため、スラストプレートの全体に大きな荷重がかけられている。
【0005】
また、動圧軸受装置を構成するスリーブの材質には、一般に、アルミニウム合金A6061や銅合金BsBM、ステンレス鋼SUS430等が採用されている。しかしながら、スリーブの材質に上記の材質を採用した動圧軸受装置では、温度変動に対する径方向および軸方向の動圧力が変動する等の問題が生じる。そこで、この問題を解決するため、アルミニウムとシリコンとを成分に有するアルミシリコン合金で形成されたスリーブを用いた動圧軸受装置が本出願人によって提案されている(たとえば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−305616号公報
【特許文献2】特開2004−257510号公報
【特許文献3】特開2001−317545号公報
【特許文献4】国際公開第2004/010014号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年のディスク駆動装置等に対する小型化の要請に応えるため、ディスク駆動装置に搭載されるスピンドルモータやスピンドルモータに使用される動圧軸受装置は年々小型化していく傾向にある。動圧軸受装置を小型化するためには、使用されるシャフトやスリーブ等の構成部品を小型化、薄型化していく必要がある。しかしながら、上述した特許文献1から3に開示された従来のラジアル動圧溝やスラスト動圧溝の形成方法では、小型化、薄型化するシャフトやスリーブに適切な動圧溝を形成することは困難である。
【0008】
たとえば、特許文献1に開示された電解加工では、加工に用いる電極工具を小さくする必要があり、電極工具自体の製作が困難になる。また、電極工具が小さくなると動圧溝を加工する際のセッティングが難しくなる。そのため、動圧溝の深さや形状が安定しないとういう問題もある。
【0009】
また、特許文献2に開示されたボール転造でも、加工に用いる転造ヘッドを小さくする必要があり、転造ヘッド自体の製作が困難になる。また、転造ヘッドが小さくなるため、転造ヘッドの剛性が低下する。そのため、ラジアル動圧溝を加工する際の加工反力を十分に受けることができず、安定したラジアル動圧溝の加工が困難となる。
【0010】
特許文献3に開示されたコイニングでは、スラスト動圧溝を形成する際に金型によってスラストプレートやスリーブ等の全体に大きな荷重をかける必要がある。そのため、小型化、薄型化するスラストプレートやスリーブ等はスラスト動圧溝を形成する際に大きく変形してしまう。その結果、精度の良い動圧軸受装置を製造することは困難になる。また、動圧軸受装置の製造工程での歩留りが低下する。
【0011】
そこで、本発明の課題は、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる動圧軸受装置の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の課題は、小型であっても適切な動圧溝を形成することができる構成を備えた動圧軸受装置、スピンドルモータおよびディスク駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本出願人は種々の検討を行った。特に、従来からスリーブの材質として検討を続けてきたアルミシリコン合金に着目して、アルミシリコン合金に動圧溝を形成するための種々の検討を行った。その結果、アルミシリコン合金は、スプリングバック率が小さいことを知見するに至った。そして、アルミシリコン合金のようにスプリングバック率の小さな部材を動圧軸受装置に用いることで、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成できることを知見するに至った。
【0013】
本発明は、かかる新たな知見に基づくものであり、シャフトと、シャフトの外周側に配置され、シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、シャフトと外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、動圧溝が、シャフトおよび外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に対して、転写ヘッドを押圧する転写で動圧溝を形成することを特徴とする。
【0014】
ここで、本明細書において、「スプリングバック率」とは、一定条件下で、ある素材を所定の荷重で押圧したときのその素材の変形量と、その荷重を取り除いたときの回復量との比をいい、JISZ2245で規定されるロックウェル硬さ試験の試験方法を用いて以下のように算出される。すなわち、図25に示すように、初試験力をF0、全試験力をFとしたとき、初試験力F0と全試験力Fとの2段階の試験力で、JISZ2245で規定される試験圧子201を測定対象となる試験素材202に押し込み、その後、再び試験圧子201の試験力を初試験力F0に戻す。初試験力F0で試験圧子201を押し込んだときの試験素材202のくぼみは、深さd1のくぼみとなり、試験素材202の表面S0から深さd1の位置を基準位置Sbとする。また、全試験力Fで試験圧子201を押し込んだときの試験素材202のくぼみは、基準位置Sbからさらに深さd2のくぼみとなる。さらに、再び試験圧子201の試験力を初試験力F0に戻したときの試験素材202のくぼみは、基準位置Sbから深さd3のくぼみとなる。以上より、試験圧子201の試験力を全試験力Fから初試験力F0に戻したときの回復量dはd=d2−d3となる。この回復量dがスプリングバック量となる。そして、試験素材202のスプリングバック率は、深さd1と深さd2との和、および、回復量d(スプリングバック量)を用いて{d/(d1+d2)}×100(%)で算出される。
【0015】
また、本明細書において、「相対回転可能」には、シャフトが固定され、外周側部材が回転可能な場合と、シャフトが回転可能で、外周側部材が固定される場合との両者が含まれる。
【0016】
本発明では、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。また、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に対して、転写ヘッドを押圧する転写で動圧溝を形成している。動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材のスプリングバック率が小さいため、シャフトや外周側部材に対する転写ヘッドの押圧を解放した後であっても、動圧溝部分でのスプリングバック量が少なくなる。そのため、動圧溝の転写性が向上し、転写によって精度の高い溝形状を有する動圧溝を形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。また、動圧溝部分でのスプリングバック量が少なくなるため、転写時に、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材に対して、転写ヘッドで余計な荷重をかけなくても、動圧溝を形成することができる。したがって、シャフトや外周側部材が小型化、薄型化しても、転写時の変形を抑制することができる。さらに、転写ヘッドを押圧する転写で動圧溝を形成しているため、動圧溝を形成する際に、転写ヘッドにかかる負荷は主として圧縮力である。したがって、転写ヘッドが小型化しても、転写ヘッドの剛性の確保が容易になる。このように、本発明では、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる。
【0017】
本発明において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に対して、転写ヘッドを軸方向から押圧することが好ましい。このように構成すると、転写ヘッドを軸方向に往復移動させるという簡易な構成で動圧溝を形成することができる。
【0018】
本発明において、少なくとも転写ヘッドの押圧時に、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材を加熱するが好ましい。このように構成すると、加熱によってシャフトや外周側部材の硬度が低下するため、転写で動圧溝を形成する際の転写ヘッドの押圧力を小さくできる。そのため、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の変形を効果的に防止できる。また、動圧溝を形成するための設備の構成を簡素化できる。
【0019】
本発明において、予め加熱された転写ヘッドを用いて、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材を加熱することが好ましい。このように構成すると、動圧溝が形成されるシャフト自体や外周側部材自体を加熱する場合と比較して、シャフトや外周側部材の全体の硬度低下を防止できる。すなわち、転写によって動圧溝が形成される部分の硬度は低下するが、シャフトや外周側部材の全体の硬度は低下しないため、より効果的に、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の変形を防止できる。
【0020】
また、本発明は、上述した新たな知見に基づくものであり、シャフトと、シャフトの外周側に配置され、シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、シャフトと外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、動圧溝が、シャフトおよび外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材とは線膨張係数が相違するとともに、動圧溝のパターン形状が形成された転写ヘッドを用い、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に転写ヘッドを装着した状態で加熱し、加熱後に動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に転写ヘッドを装着した状態で冷却し、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材の線膨張係数と転写ヘッドの線膨張係数との差異を利用して動圧溝を転写で形成することを特徴とする。
【0021】
本発明では、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。また、転写ヘッドの線膨張係数と、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の線膨張係数との差異を利用して動圧溝を転写で形成している。動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材のスプリングバック率が小さいため、転写ヘッドを装着した状態で、シャフトや外周側部材を加熱、冷却した後であっても、動圧溝部分でのスプリングバック量が少なくなる。そのため、動圧溝の転写性が向上し、転写によって精度の高い溝形状を有する動圧溝を形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。また、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の線膨張係数との差異を利用して動圧溝を転写で形成しているため、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材に大きな荷重をかける必要がない。したがって、小型化、薄型化したシャフトや外周側部材であっても、動圧溝を形成する際の変形を抑制することができる。さらに、動圧溝を形成する際に大きな荷重をかける必要がないから、転写ヘッドの剛性がそれほど要求されない。そのため、転写ヘッドが小型化しても、転写ヘッドの剛性の確保が容易になる。このように、本発明では、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる。
【0022】
本発明において、動圧溝は、シャフトの外周面に形成され径方向に動圧力を発生可能なラジアル動圧溝であり、転写ヘッドは、ラジアル動圧溝のパターン形状が形成された内周面を備えるとともに、シャフトの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料から形成され、内周面と外周面とが対向するように、シャフトに転写ヘッドを装着することが好ましい。このように構成すると、シャフトの線膨張係数と転写ヘッドの線膨張係数との差異を利用する簡単な構成で、シャフトの外周面にラジアル動圧溝を形成することができる。
【0023】
本発明において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属部材から形成されていることが好ましい。このように比較的低硬度の金属材料で動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材を形成すると、転写ヘッドの押圧力を小さくできるため、動圧溝を形成するための設備の構成を簡素化できる。また、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材を加熱しなくても、動圧溝の形成が可能になる。または、このように比較的低硬度の金属材料で動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材を形成すると、線膨張係数の相違を利用した転写、すなわち、押圧力が小さな転写であっても、精度の良い動圧溝を形成することができる。
【0024】
本発明において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材に凸部を形成し、この凸部に動圧溝を形成することが好ましい。このように構成すると、凸部を押圧し、変形することで動圧溝を形成することができ、シャフトや外周側部材の全体に大きな荷重をかける必要はない。そのため、動圧溝を形成してもシャフトや外周側部材の変形量を大幅に抑制することができる。したがって、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる。または、このように構成すると、転写ヘッドの線膨張係数と、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の線膨張係数との差異によって発生する荷重は凸部にかかる。そのため、シャフトや外周側部材の全体には、荷重がかからなくなり、動圧溝を形成する際のシャフトや外周側部材の変形をより確実に抑制することができる。
【0025】
本発明において、外周側部材は、シャフトを挿入可能な軸受孔と、この軸受孔の軸方向端で軸受孔に直交する直交面とを備え、凸部を、軸受孔の軸方向端よりも径方向外側で直交面に形成することが好ましい。凸部に動圧溝を形成する際、凸部の径方向内側に若干の膨らみが生じる。そのため、凸部が、軸受孔の軸方向端よりも径方向外側に形成されている場合には、動圧溝を形成する際に凸部に生じる膨らみと、軸受孔に挿入されるシャフトとの干渉を防止することができる。
【0026】
本発明において、外周側部材に凸部を形成するとともに、凸部の径方向内側に面取部を形成することが好ましい。このように構成した場合も、動圧溝を形成する際に凸部の径方向内側に生じる膨らみと、軸受孔に挿入されるシャフトとの干渉を防止することができる。
【0027】
本発明において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、軸方向の一端側に径方向に広がる鍔部を備え、鍔部の両面に凸部を形成するとともに、鍔部の両面に、軸方向に動圧力を発生可能なスラスト動圧溝を形成することが好ましい。このように構成すると、鍔部の両面に形成された凸部を押圧することでスラスト動圧溝を形成できるため、鍔部の変形量を大幅に抑制しつつ、鍔部の両面にスラスト動圧溝を形成することができる。または、このように構成すると、転写ヘッドの線膨張係数と、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材の線膨張係数との差異によって、鍔部の両面に形成された凸部にスラスト動圧溝を形成することができるため、鍔部の変形量を大幅に抑制しつつ、鍔部の両面にスラスト動圧溝を形成することができる。
【0028】
さらに、本発明は、上述した新たな知見に基づくものであり、シャフトと、このシャフトの外周側に配置され、シャフトに対して相対回転可能なスリーブと、シャフトとスリーブとの相対回転で径方向へ動圧力を発生可能なラジアル動圧溝とを備え、ラジアル動圧溝が、シャフトおよびスリーブの少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、ラジアル動圧溝が形成されるシャフトおよび/またはスリーブは、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、スリーブは、シャフトを挿通可能な軸受孔を有し、ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が外周面から径方向外側に突出する外周側加工部、および、ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が内周面から径方向内側に突出する内周側加工部の少なくともいずれか一方を備える加工ヘッドを用い、軸受孔に外周側加工部を挿入して、または、シャフトを内周側加工部に挿入して、ラジアル動圧溝を形成することを特徴とする。
【0029】
本発明では、ラジアル動圧溝が形成されるシャフトおよび/またはスリーブは、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。また、ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が外周面から径方向外側に突出する外周側加工部、および、ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が内周面から径方向内側に突出する内周側加工部の少なくともいずれか一方を備える加工ヘッドを用いて、ラジアル動圧溝を形成している。すなわち、軸受孔に外周側加工部を挿入して、または、シャフトを内周側加工部に挿入して、ラジアル動圧溝を形成している。ラジアル動圧溝が形成されるシャフトやスリーブのスプリングバック率が小さいため、加工ヘッドを軸受孔から抜いた後、またはシャフトを加工ヘッドから抜いた後であっても、ラジアル動圧溝部分でのスプリングバック量は少なくなる。そのため、精度の高い溝形状を有するラジアル動圧溝を形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。また、ラジアル動圧溝部分でのスプリングバック量が少なくなるため、軸受孔に挿入した加工ヘッド、または加工ヘッドへ挿入したシャフトを容易に抜き取ることができる。したがって、加工ヘッドの剛性はそれほど要求されず、加工ヘッドを小型化することが可能になる。このように、本発明では、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる。
【0030】
さらにまた、本発明は、上述した新たな知見に基づくものであり、シャフトと、シャフトの外周側に配置され、シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、シャフトと外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、動圧溝が、シャフトおよび外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は複数の突出部を備え、動圧溝は、複数の突出部間に形成されていることを特徴とする。
【0031】
本発明の動圧軸受装置では、動圧溝が形成されるシャフトや外周側部材が複数の突出部を備え、動圧溝は、複数の突出部間に形成されている。そのため、突出部間に荷重を加えることで動圧溝を形成でき、シャフトや外周側部材の全体に大きな荷重をかける必要はない。したがって、動圧溝を形成してもシャフトや外周側部材の変形量を大幅に抑制することができる。また、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。そのため、突出部間に加えた荷重を解放した後であっても、動圧溝部分でのスプリングバック量が少なくなる。したがって、後加工をしなくても精度の高い溝形状を有する動圧溝を形成することができる。このように、本発明の動圧軸受装置は、小型であっても適切な動圧溝を形成することができる。
【0032】
本発明において、動圧溝が形成されるシャフトおよび/または外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属部材から形成されていることが好ましい。このように構成すると、小さな荷重で動圧溝を形成することができるため、動圧溝の形成が容易になる。
【0033】
本発明の製造方法で製造された動圧軸受装置、または、本発明の動圧軸受装置はスピンドルモータに用いることができる。また、このスピンドルモータを、ディスク駆動装置のディスクを回転させる駆動機構として用いることができる。本発明の製造方法で製造された動圧軸受装置、または、本発明の動圧軸受装置では、小型であっても適切な動圧溝を形成できる。そのため、この動圧軸受装置を用いたスピンドルモータは、優れた特性を有しつつ小型化することができる。また、ディスク駆動装置も優れた特性を有しつつ小型化することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明では、小型の動圧軸受装置であっても適切な動圧溝を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
[実施の形態1]
(ディスク駆動装置およびスピンドルモータの構成)
図1は、本発明の実施の形態1にかかるディスク駆動装置3の概略構成を示す側面図である。図2は、本発明の実施の形態1にかかるスピンドルモータ1を示す側面断面図である。
【0037】
本形態のスピンドルモータ1は、ハードディスク等の各種ディスクを回転駆動するディスク駆動装置の回転駆動機構や、スキャナ装置などに搭載されるポリゴンミラーの回転駆動機構等に用いられるものである。より具体的には、本形態のスピンドルモータ1は、図1に示すように、ハードディスク2を回転駆動するディスク駆動装置3の回転駆動機構に用いられている。
【0038】
ディスク駆動装置3は、たとえば1.8インチといった小径のハードディスク2を駆動するものである。このディスク駆動装置3は、スピンドルモータ1やハードディスク2の他に、ハードディスク2に対して記録再生を行うヘッド4と、ヘッド4を支えるアーム5と、ヘッド4およびアーム5をハードディスク2上の所定の位置に移動させるアクチュエータ6とを備えている。また、ディスク駆動装置3は、上記の構成要素が収納されるケース体7を備えている。このケース体7の内部は、塵や埃等が極度に少ない清浄状態に保たれている。
【0039】
スピンドルモータ1は、図2に示すように、固定されたシャフト9と、シャフト9の外周側に配置されハードディスク2とともに回転する外周側部材としてのスリーブ10とを主要な構成要素とした動圧軸受装置11を備えている。本形態の動圧軸受装置11は、スリーブ10の回転によって、シャフト9とスリーブ10との間にラジアル方向(径方向)の動圧力およびスラスト方向(軸方向)の動圧力を発生させるように構成されている。また、動圧軸受装置11は、動圧発生用の流体として潤滑オイルを使用したオイル動圧軸受装置である。
【0040】
スピンドルモータ1は、固定側の部材として、シャフト9の他に、略円板状の固定フレーム12とステータコア13と駆動コイル14とスラストプレート15とを備えている。
【0041】
固定フレーム12の略中央部分には、円筒状のコアホルダ12aが軸方向へ立ち上がるように形成されている。また、固定フレーム12の略中心部には、シャフト9が固定される固定孔12bが形成されている。ステータコア13は電磁鋼板が積層されて形成されており、径方向外側へ放射状に伸びる複数の突極部13aを備えている。また、ステータコア13は、コアホルダ12aの外周側に取り付けられている。駆動コイル14は、ステータコア13の各突極部13aに巻回されている。
【0042】
シャフト9の一端(図2では上端)には、円環状に形成されたスラストプレート15が圧入、焼嵌め等の固定方法によって固定されている。より具体的には、スラストプレート15の内周面がシャフト9の一端に固定されている。以下では、スラストプレート15の図2における下面をスラストプレート15の下面15aとする。また、シャフト9の他端(図2では下端)は、固定フレーム12の固定孔12bに圧入、焼嵌め等の固定方法によって固定されている。本形態のシャフト9は、ステンレス鋼であるSUS303から形成されている。シャフト9を形成するSUS303の線膨張係数は、17.2×10−6となっている。なお、線膨張係数は、温度変化に対する固体の長さ変化に関する係数であり、Lをある温度θでの固体の長さ、Loを0℃での固体の長さ、θをある温度としたとき、(dL/dθ)/Loで算出される。ここで、dL=L−Lo、dθ=θ−0である。
【0043】
また、スピンドルモータ1は、回転側の部材として、円筒状のスリーブ10の他に、ロータハブ17とヨーク18と駆動マグネット19とカウンタープレート20とクランパ21とを備えている。
【0044】
ロータハブ17は、アルミ等の非磁性の金属材料から有底円筒状に形成されている。すなわち、ロータハブ17は、底部となる基部17aと筒部17bとから構成されている。基部17aの中心部には、スリーブ10へ固定するための固定孔17a1が形成されている。この固定孔17a1がスリーブ10の外周面に挿通されて、ロータハブ17はスリーブ10に固定されている。スリーブ10へのロータハブ17の固定には、圧入、焼嵌め等の固定方法が用いられている。また、基部17aの外周側には、ハードディスク2の載置部17a2が、基部17aの上面から図示下方向へ一段下がった状態で形成されている。
【0045】
ヨーク18は、ステンレス鋼等の磁性材から円筒状に形成されており、ロータハブ17の筒部17bの内周面に固定されている。駆動マグネット19もヨーク18と同様に円筒状に形成されており、ヨーク18の内周面に固定されている。また、駆動マグネット19は、ステータコア13に形成された突極部13aの径方向外側に配置されている。すなわち、本形態のスピンドルモータ1はいわゆるアウターロータ型のモータである。
【0046】
カウンタープレート20は、スラストプレート15よりも大径の円盤状に形成され、円筒形状に形成されたスリーブ10の一端(図2では上端)を塞ぐように、スリーブ10の一端に接着等の固定方法によって固定されている。カウンタープレート20におけるスラストプレート15との対向面(図2では下面)には、たとえば、へリングボーン形状のスラスト動圧溝(図示省略)がエッチング等の形成方法で形成されている。
【0047】
クランパ21は円環状に形成されている。このクランパ21は、ロータハブ17の載置部17a2に載置されたハードディスク2を図示上方向から押さえ込むように、ロータハブ17の基部17aにネジ22によって固定されている。また、クランパ21の中心には貫通孔22aが形成されており、貫通孔22aにはスリーブ10の上端部分が挿入されている。
【0048】
動圧軸受装置11は、シャフト9とスリーブ10の他に、スラストプレート15およびカウンタープレート20を構成要素としている。また、動圧軸受装置11では、シャフト9が、後述するスリーブ10の軸受孔10aに挿入され、かつ、スラストプレート15の下面15aが、後述するスリーブ10の対向面10bに軸方向で対向している。そして、スリーブ10の内周面とシャフト9との間に、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧軸受部24が形成されている。より具体的には、ラジアル動圧軸受部24は、軸方向に離間した状態で2箇所に形成されている。また、スラストプレート15の下面15aとスリーブ10の対向面10bとの間に、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧軸受部25が形成されている。なお、ラジアル動圧軸受部24およびスラスト動圧軸受部25には、動圧発生用流体としての潤滑オイルが充填されている。
【0049】
本形態の動圧軸受装置11では、上述のように、カウンタープレート20のスラストプレート15との対向面にスラスト動圧溝(図示省略)が形成されている。また、後述のようにスリーブ10に、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧溝10cと、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧溝10dとが形成されている。すなわち、シャフト9にはラジアル動圧溝は形成されておらず、また、スラストプレート15にはスラスト動圧溝は形成されていない。
【0050】
(スリーブの構成)
図3は、図2に示すスリーブ10の軸方向断面を示す断面図である。図4は、図3の矢印X方向からスリーブ10の軸受孔10aおよび対向面10bを示す平面図である。図5は、スリーブ10を形成するアルミシリコン合金の特性をまとめた一覧表である。
【0051】
本形態のスリーブ10は、図3に示すように、円筒状に形成され、その寸法はたとえば、内径2.5mm、外径6mm、長さ6mmとなっている。スリーブ10の径方向の中心部は、シャフト9が挿入される軸受孔10aとなっている。この軸受孔10aの軸方向の略中心位置には、内径が広がった拡径部10a1が形成されており、この拡径部10a1は、潤滑オイルのオイル溜めの機能を果たしている。
【0052】
スリーブ10の内周面には、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧溝10cが形成されている。より具体的には、図3に示すように、ヘリングボーン形状の複数のラジアル動圧溝10cが周方向に間隔をあけて隣接するように、スリーブ10の内周面にくぼんだ状態で形成されている。このラジアル動圧溝10cの深さは、たとえば、1.5μmから10μmになっている。また、周方向に間隔をあけて隣接する複数のラジアル動圧溝10cは、軸方向に離間した状態で2箇所に形成されている。このラジアル動圧溝10cが形成された軸方向の位置が、図2に示すラジアル動圧軸受部24の位置になる。なお、スリーブ10の内周面から径方向内側に向かって突出する突出部を設け、この突出部の上面(径方向の内側面)より径方向外側にくぼんだ状態のラジアル動圧溝を形成するようにしても良い。
【0053】
スリーブ10の一端側(図3では上端側)には、軸受孔10aに直交する(すなわち軸方向に直交する)3つの直交面が形成されている。より具体的には、スリーブ10には、3つの直交面として、スラストプレート15の下面15aと対向する円環状の対向面10bと、カウンタープレート20の突当面となる円環状の突当面10eと、カウンタープレート20を固定する接着剤を塗布するための円環状の塗布面10fとがこの順番で図3の上端側に向かって形成されている。対向面10b、突当面10eおよび塗布面10fはこの順番で径が次第に大きくなるように形成されている。
【0054】
突当面10eは、図2に示すように、カウンタープレート20の外径よりも大きい外径で形成されている。また、スリーブ10の一端(図3では上端)から突当面10eまでの深さはカウンタープレート20の厚さとほぼ同じになっている。そして、カウンタープレート20は、突当面10eに突き当てられた状態で、スリーブ10に接着剤で固定されている。
【0055】
対向面10bには、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧溝10dが形成されている。より具体的には、図4に示すように、ヘリングボーン形状の複数のスラスト動圧溝10dが周方向に間隔をあけて隣接するように、対向面10bと同一面に形成されている。すなわち、対向面10bには、軸方向外側(図3では上側)に突出する複数の突出部10gが形成され、複数の突出部10g間のそれぞれにスラスト動圧溝10dが形成されている。また、対向面10bは、スラスト動圧溝10dよりも径方向内側で円環状に形成された内周側対向面10b1と、スラスト動圧溝10dよりも径方向外側で円環状に形成された外周側対向面10b2とを備えるように形成されている。なお、スラスト動圧溝10dは、必ずしも対向面10bと同一面に形成される必要はなく、対向面10bよりも軸方向に突出した状態や、対向面10bよりも軸方向にくぼんだ状態で形成されても良い。また、図4では便宜上、一部のスラスト動圧溝10d、および一部の突出部10gにのみ符号を付している。
【0056】
複数の突出部10gは、軸受孔10aの図示上側の軸方向端10a2よりも径方向外側に円環状に形成されている。すなわち、突出部10gと軸方向端10a2との間に内周側対向面10b1が形成されている。また、突出部10gは、図4に示すように軸方向から見てヘリングボーン形状に形成されている。さらに、図3に示すように、突出部10gの径方向内側の側面10g1および径方向外側の側面10g2はともに対向面10bに対して略直交するように形成されている。この突出部10gの対向面10bからの高さは、たとえば、1.5μmから10μmになっている。
【0057】
また、本形態のスリーブ10は、たとえば、温度が15℃から25℃の範囲であるとき(以下、この範囲の温度を常温とする)、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されている。また、スリーブ10は、常温で、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる金属材料から形成されている。より具体的には、スリーブ10は、アルミニウムとシリコンを成分に有するアルミシリコン合金から形成されている。特に、本形態のスリーブ10の材料には、70重量%のアルミニウムと30重量%のシリコンとを成分に有するアルミシリコン合金(以下、アルミシリコン合金1とする)、80重量%のアルミニウムと20重量%のシリコンとを成分に有するアルミシリコン合金(以下、アルミシリコン合金2とする)、66〜67重量%のアルミニウムと30重量%のシリコンと3〜4重量%のその他の材質とを成分に有するアルミシリコン合金(以下、アルミシリコン合金3とする)、または、76〜77重量%のアルミニウムと20重量%のシリコンと3〜4重量%のその他の材質とを成分に有するアルミシリコン合金(以下、アルミシリコン合金4とする)が採用されている。これらのアルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4は、アトマイズ法を用いて得られた金属微粉末を使用して製造されている。
【0058】
アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4の特性をまとめると、図5のようになる。すなわち、アルミシリコン合金1では、常温でのビッカース硬度が72Hv、常温でのスプリングバック率が21%、線膨張係数が16.6×10−6となっている。アルミシリコン合金2では、常温でのビッカース硬度が60Hv、常温でのスプリングバック率が17%、線膨張係数が18.8×10−6となっている。アルミシリコン合金3では、常温でのビッカース硬度が79Hv、常温でのスプリングバック率が23%、線膨張係数が16.3×10−6となっている。アルミシリコン合金4では、常温でのビッカース硬度が66Hv、常温でのスプリングバック率が18%、線膨張係数が18.3×10−6となっている。なお、スプリングバック率は、初試験力F0=98.07N(10kgf)、全試験力F=588.4N(60kgf)の条件下で算出されている。
【0059】
本形態では、シャフト9はSUS303で形成されている。そのため、温度上昇があっても、シャフト9とスリーブ10との隙間が大きくならないようにして軸受剛性を低下させないようにするためには、スリーブ10の材料には、SUS303の線膨張係数よりも線膨張係数が小さいアルミシリコン合金1またはアルミシリコン合金3を用いるのが好ましい。
【0060】
なお、図5に示すように、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のスプリングバック率の範囲は17%から23%である。また、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のビッカース硬度の範囲は60Hvから79Hvである。しかしながら、スプリングバック率の測定やビッカース硬度の測定には、通常、±10%程度の誤差が生じる。そのため、スリーブ10が形成される金属材料の特性として、誤差分を見込んで上述した数値範囲を規定している。たとえば、スプリングバック率の上限値は、23%の約1.1倍の値となる25%とし、スプリングバック率の下限値は、17%の約0.9倍の値となる15%としている。同様に、ビッカース硬度の上限値は、79Hvの約1.1倍の値となる87Hvとしている。また、ビッカース硬度の下限値は、60Hvの約0.9倍の値となる55Hvとしている。
【0061】
また、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4では、温度が上昇すると、ビッカース硬度およびスプリングバック率が低下する。たとえば、アルミシリコン合金1では、温度が200℃になるとビッカース硬度は36.9Hvとなり、温度が300℃になるとビッカース硬度は12.7Hvとなり、温度が500℃になるとビッカース硬度は1.78Hvとなる。また、アルミシリコン合金1では、温度が200℃になるとスプリングバック率は10%になり、温度が300℃になるとスプリングバック率は7%になる。
【0062】
ちなみに、参考として、一般に動圧軸受装置のスリーブで採用されうる材料の特性は以下のようになる。たとえば、アルミニウム合金A6061の常温でのビッカース硬度は鍛造品の場合70Hvであり、常温でのスプリングバック率は30%である。また、銅合金BsBMの常温でのビッカース硬度は136Hv、常温でのスプリングバック率は35%である。さらに、ステンレス鋼SUS430の常温でのビッカース硬度は224Hvであり、スプリングバック率は38%である。このように、これらの材料はアルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4と比較して、ビッカース硬度が高く、スプリングバック率も大きくなっている。
【0063】
(動圧軸受装置の製造方法)
以上のように構成された動圧軸受装置11は以下のように製造される。すなわち、まず、動圧軸受装置11を構成するシャフト9、スリーブ10、スラストプレート15およびカウンタープレート20を製造する。そして、スラストプレート15をシャフト9の一端に固定し、スラストプレート15が固定されたシャフト9をスリーブ10の軸受孔10aに挿入する。より具体的には、図2に示すように、対向面10bを上側に向けた状態のスリーブ10の軸受孔10aに、スラストプレート15が固定された一端側を上に向けた状態でシャフト9を挿入する。その後、カウンタープレート20をスリーブ10の一端(図2の上端)に固定して動圧軸受装置11が完成する。
【0064】
以下では、動圧軸受装置11の製造方法のうち、本発明の要部の1つとなるスリーブ10の製造方法について詳細に説明する。なお、スピンドルモータ1は、駆動コイル14を巻回したステータコア13を固定した状態の固定フレーム12に、動圧軸受装置11を構成するシャフト9を固定し、スリーブ10に、駆動マグネット19およびヨーク18を固定したロータハブ17を固定する等によって、製造される。
【0065】
(スリーブの製造方法)
図6は、図3に示すスリーブ10の製造方法のフローチャートである。図7は、図3に示すスリーブ10の加工状態を示す加工状態図であり、(A)は加工前の状態、(B)は外形加工工程S1後の状態、(C)はラジアル動圧溝形成工程S3後の状態、(D)はスラスト動圧溝形成工程S6前の状態、(E)は内径サイジング工程S7時の状態を示す。図8は、本発明の実施の形態1にかかる転写ヘッド30を示し、(A)は底面図、(B)は側面断面図、(C)は(B)のY部を拡大して示す部分拡大図である。
【0066】
まず、外形加工工程で、図7(A)に示すような断面が円形の棒材40に対してスリーブ10の外形加工を行う(ステップS1)。本形態では、この外形加工を切削によって行う。また、棒材40には、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかが用いられている。
【0067】
外形加工工程S1では、図7(B)に示すように、スリーブ10の外周面、対向面10b、突当面10eおよび塗布面10fを形成する。また、外形加工工程S1では、スリーブ10の内周面を粗加工し、同時に拡径部10a1を形成する。さらに、外形加工工程S1では、スリーブ10の軸方向の一端側(図7(B)では右端側)に形成された対向面10bから軸方向外側へ突出する凸部40gを形成する。より具体的には、図7(B)に示すように、径方向に幅D1を有する凸部40gを、内周側対向面10b1と外周側対向面10b2との間に円環状に形成する。すなわち、凸部40gを、後述する内径加工によって完成する軸受孔10aの軸方向端10a2より径方向外側に形成する。また、凸部40gの径方向内側の側面40g1および径方向外側の側面40g2はともに対向面10bに対して略直交するように形成される。なお、この凸部40gに、後述するスラスト動圧溝形成工程S6でスラスト動圧溝10dを形成する。また、凸部40gの一部がスリーブ10の突出部10gとなる。
【0068】
次に、内径加工工程で、外形加工が行われた棒材40に対してスリーブ10の内径加工を行う(ステップS2)。より具体的には、スリーブ10の内周面の仕上加工を行い、スリーブ10の内周面の表面粗さを小さくする。
【0069】
次に、ラジアル動圧溝形成工程で、ラジアル動圧溝10cを形成する(ステップS3)。より具体的には、図7(C)に示すように、複数のボール28を有する転造ヘッド27を回転させながら軸方向へ移動させて、スリーブ10の内周面にボール転造でラジアル動圧溝10cを形成する。上述のように、スリーブ10の内周面には、ヘリングボーン形状の複数のラジアル動圧溝10cが周方向に間隔をあけて隣接するように形成される。また、周方向に間隔をあけて隣接する複数のラジアル動圧溝10cは、軸方向に離間した状態で2箇所に形成される。この工程では、従来と同様のボール転造でラジアル動圧溝10cを形成しているが、本形態では、スリーブ10がアルミシリコン合金であるため、安定したラジアル動圧溝10cを形成することができる。
【0070】
次に、バリ除去工程で、ラジアル動圧溝10cをボール転造で形成する際に生じたバリを除去する(ステップS4)。すなわち、スリーブ10の内周面のバリを除去する。その後、スリーブ切断工程で、素材40からスリーブ10を切断する(ステップS5)。
【0071】
次に、スラスト動圧溝形成工程で、素材40から切断されたスリーブ10にスラスト動圧溝10dを形成する(ステップS6)。より具体的には、図7(D)に示すように、凸部40gに対して軸方向から転写ヘッド30を押圧する転写によって、凸部40gにスラスト動圧溝10dを形成する。
【0072】
ここで、本明細書における「転写」とは、上述したコイニングやプレス機械を用いて行うプレスと比較して、非常に小さな押圧力で転写ヘッド30を押圧して、スラスト動圧溝10dをスリーブ10に形成することや、後述のように熱膨張を利用した非常に小さな押圧力でラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成することをいう。たとえば、本明細書における「転写」では、卓上において人力で転写ヘッド30を押圧しても溝を形成することが可能である。なお、本形態のように、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10の材料として、低硬度でかつスプリングバック率の少ないアルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかが用いられている場合には、非常に小さな押圧力で転写ヘッド30を押圧して、スラスト動圧溝10dをスリーブ10に形成することが容易になる。
【0073】
スラスト動圧溝形成工程S6において用いられる転写ヘッド30は、図7(D)および図8に示すように、スラスト動圧溝10dを形成するための複数の転写凹部30aが形成された先端面30bを有する円柱状の先端部30cと、先端部30cより大径でかつ先端部30cの基端側に連設された円柱状の基部30dとを備えている。
【0074】
基部30dは、図示を省略するアクチュエータに接続されており、転写ヘッド30は軸方向(図7(D)では上下方向)に駆動されるようになっている。先端部30cは、スリーブ10の外周側対向面10b2の外径よりもわずかに小さい外径となるように形成されている。
【0075】
転写凹部30aは、突出部10gとほぼ同様のヘリングボーン形状に形成されている。また、転写凹部30aは、図8に示すように、径方向の幅D2が凸部40gの径方向の幅D1より大きくなるように、先端面30bからくぼんだ状態で形成されている。この転写凹部30aは、突出部10gと同ピッチで周方向に間隔をあけて隣接するように先端面30bに配設されている。そして、先端面30bにおける各転写凹部30aの間のヘリングボーン形状をなす部分がスラスト動圧溝10dを形成するスラスト溝形成部30b1となっている。複数の転写凹部30aは、転写ヘッド30が凸部40gに押圧された際に、凸部40gに対応する位置に配置されるように形成されている。なお、転写凹部30aの深さは、本形態では、突出部10gの高さとほぼ同じとなっているが、突出部10gの高さより浅くしても良いし、突出部10gの高さより深くしても良い。また、図8(A)では、便宜上、一部の転写凹部30aおよび一部のスラスト溝形成部30b1にのみ符号を付している。
【0076】
また、転写凹部30aには、抜きテーパが形成されている。すなわち、転写凹部30aを形成する全ての側面30a1は、図8(C)に示すように、先端面30bに対して直角ではなく、先端面30bに向かってわずかに広がる傾斜面となっている。このように構成することで、転写後には、凸部40gから転写ヘッド30を抜き易くなっている。なお、図8(C)では、便宜上、実際の傾斜よりも大きな傾斜で側面30a1を記載している。
【0077】
以上のような構成を有する転写ヘッド30を用いて、スラスト動圧溝形成工程S6で、スラスト動圧溝10dを形成する。すなわち、図7(D)に示すように、まず、素材40から切断されたスリーブ10を平坦状に形成された所定の載置台31に載置する。その後、図示を省略するアクチュエータによって転写ヘッド30を駆動して、先端面30bが対向面10bに当接するまで、先端面30bに形成された転写凹部30aを凸部40gに押圧してスラスト動圧溝10dを形成する。このときの転写ヘッド30の押圧力は、たとえば、約500kgfである。なお、転写ヘッド30が凸部40gに押圧されると、スラスト動圧溝10dと同時に突出部10gが形成される。
【0078】
このスラスト動圧溝形成工程S6では、常温状態の凸部40gを転写ヘッド30で押圧しても良いが、本形態のスラスト動圧溝形成工程S6では、凸部40gを加熱するようになっている。より具体的には、予め転写ヘッド30(または先端部30c)を加熱しておき、転写ヘッド30を凸部40gに押圧しながら凸部40gを加熱している。本形態では、転写ヘッド30の加熱温度は、180℃から400℃の範囲で設定されている。なお、凸部40gを加熱する方法としては、転写ヘッド30および載置台31を含めた装置全体を高温環境下におく方法(すなわち、高温環境下でスラスト動圧溝形成工程S6を実施する方法)、予め加熱された載置台31にスリーブ10を載置して凸部40gを加熱する方法、または通電によってスリーブ10のみを加熱する方法等の様々な方法を採用することができる。
【0079】
次に、内径サイジング工程で、スリーブ10の内周面のサイジングを行う(ステップS7)。すなわち、スリーブ10の内径公差、真円度および円筒度を所定の規格範囲内の値として、ラジアル方向の動圧特性を安定させるため、スリーブ10の内周面をサイジングする。スリーブ10の径が小さくなれば小さくなるほど、ラジアル方向の動圧特性は不安定になるため、精度の高いサイジングによって、スリーブ10の内径公差、真円度および円筒度の精度を確保する必要がある。
【0080】
ここで、スリーブ10の内周面のサイジングは、一般には、特開2001−280338号公報等に開示されているように、スリーブ10の軸受孔10aの径より若干大きな外径を有するサイジングヘッドを軸受孔10aに挿通させることで行っている。しかしながら、このサイジング方法では、サイジングヘッドを駆動するための大掛かりな設備が必要となり設備コストが嵩む。また、サイジングヘッドと軸受孔10aとの位置合せが必要となり、加工時のセッティングが大変になる。そこで、本形態では、これらの問題点を解決したサイジング方法として、以下に説明する方法によってスリーブ10の内周面にサイジングを行っている。
【0081】
本形態の内径サイジング工程S7では、図7(E)に示すように、センタレス研磨で表面に仕上加工が施されたサイジング棒33を用いる。サイジング棒33は、スリーブ10の材料として用いられるアルミシリコン合金の線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する材料から形成されている。たとえば、スリーブ10の材料としてアルミシリコン合金1またはアルミシリコン合金3を用いる場合には、サイジング棒33は、SUS303で形成される。また、サイジング棒33の径は、スリーブ10の軸受孔10aに軽圧入できるように、スリーブ10の軸受孔10aの径よりも若干大きく形成されている。なお、サイジング棒33の径をスリーブ10の軸受孔10aの径よりも若干小さく形成しても良い。
【0082】
また、本形態の内径サイジング工程S7では、図7(E)に示すように、サイジング棒33の当接面34aとスリーブ10の載置面34bとを有する載置部34cが形成された載置台34を用いる。当接面34aは、軸方向から見て円形状に形成されている。この当接面34aの径は、サイジング棒33の熱膨張を考慮して、サイジング棒33の外径よりも大きく形成されている。載置面34bは、軸方向から見て円環状に形成されている。この載置面34bの外径は、スリーブ10の熱膨張を考慮してスリーブ10の外径よりも大きく形成されている。また、当接面34aは、載置面34bよりも深い位置(図7(E)では、載置面34bよりも下側)に形成され、当接面34aの径と載置面34bの内径とはほぼ一致している。なお、載置台34には、図示はされていないが、複数の載置部34cが形成されており、複数のスリーブ10を一度に載置できるようになっている。
【0083】
以上のように構成されたサイジング棒33および載置台34を用いて、内径サイジング工程S7で、スリーブ10の内周面のサイジングを行う。まず、複数のスリーブ10を載置台34の各載置部34cに載置する。その後、スリーブ10の軸受孔10aのそれぞれにサイジング棒33の一端が当接面34aに当接するまで、サイジング棒33を軽圧入する。この状態で、サイジング棒33を加熱する。
【0084】
サイジング棒33の加熱方法には、様々な方法を採用することができる。たとえば、サイジング棒33の材料として導電性を有するSUS303を用いた場合には、サイジング棒33に通電してサイジング棒33を加熱する。サイジング棒33への通電は、電極をサイジング棒33に接触させた状態で、図示を省略する通電装置によって行う。上述のように、サイジング棒33はスリーブ10よりも線膨張係数が大きな材料で形成されているため、サイジング棒33を加熱することで、サイジング棒33の外周面はスリーブ10の内周面に圧接される。そのため、スリーブ10の内周面は、センタレス研磨で精度良く仕上げられたサイジング棒33の表面に倣った形状となる。
【0085】
その後、サイジング棒33への通電を停止して、サイジング棒33が冷却された後に、スリーブ10からサイジング棒33を抜き出して内径サイジング工程S7を終了する。なお、加熱によってサイジング棒33やスリーブ10の表面へ被膜が形成されるのを防止するため、真空炉の中に載置台34を設置して、真空状態でサイジング棒33を加熱することが好ましい。
【0086】
以上のように、本形態のサイジング方法では、サイジング棒33と載置台34と通電装置(図示省略)という簡単な構成を用いて、精度の高いサイジングを行うことができる。また、当接面34aの径はサイジング棒33の外径よりも大きく形成され、載置面34bの外径はスリーブ10の外径よりも大きく形成されている。そのため、サイジング時のセッティングが容易になり、生産性が向上する。特に、本形態では、スリーブ10の材料として、スプリングバック率の少ないアルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかが採用されているため、サイジング棒33を冷却した後であっても、スリーブ10の内周は、サイジング棒33に倣った形状となる。すなわち、スリーブ10の内周には、サイジング棒33の表面と同様に精度の高い形状が形成される。その結果、スリーブ10の内径公差、真円度および円筒度の精度が向上し、ラジアル方向の軸受特性が向上する。
【0087】
内径サイジング工程S7が終了すると、内径検査工程でスリーブ10の内径の検査が行われる(ステップS8)。この内径検査工程S8が終了すると、スリーブ10の製造は終了する。
【0088】
(実施の形態1の主な効果)
以上説明したように、本形態では、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10は、常温で、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる金属材料から形成されている。このようにスプリングバック率が小さい金属材料でスリーブ10を形成しているため、転写ヘッド30の押圧を解放した後であっても、スラスト動圧溝10d部分でのスプリングバック量が少なくなる。そのため、転写ヘッド30に形成された転写凹部30aの形状により近い精度の高い突出部10gを形成することができ、その結果、精度の高いスラスト動圧溝10dをスリーブ10に形成することができる。すなわち、スラスト動圧溝10dの転写性が向上し、転写によって精度の高い溝形状を有するスラスト動圧溝10dを形成することができる。したがって、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。
【0089】
また、本形態では、スプリングバック率が小さい金属材料でスリーブ10を形成しているため、スラスト動圧溝10d部分でのスプリングバック量が少なくなり、転写時に、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10に対して、転写ヘッド30で余計な荷重をかけなくても、スラスト動圧溝10dを形成することができる。したがって、スリーブ10が小型化、薄型化しても、転写時の変形を抑制することができる。さらに、転写ヘッド30を押圧する転写でスラスト動圧溝10dを形成しているため、スラスト動圧溝10dを形成する際に、転写ヘッド30にかかる負荷は主として軸方向の圧縮力である。したがって、転写ヘッド30が小型化しても、転写ヘッド30の剛性の確保が容易になる。このように、本形態では、小型の動圧軸受装置11であっても適切なスラスト動圧溝10dを形成することができる。
【0090】
本形態では、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10に対して、転写ヘッド30を軸方向から押圧するように構成されている。そのため、軸方向に転写ヘッド30を往復移動させるという簡易な構成で、スラスト動圧溝10dを形成することができる。
【0091】
本形態では、スラスト動圧溝形成工程S6で凸部40gを加熱している。そのため、凸部40gの硬度が低下して、転写でスラスト動圧溝10dを形成する際の転写ヘッド30の押圧力をより小さくできる。したがって、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10の変形を効果的に防止できる。また、スラスト動圧溝10dを形成するための設備の構成を簡素化できる。さらに、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4は加熱するとスプリングバック率が低下する。そのため、凸部40gを加熱すると、スラスト動圧溝10dの転写性がさらに向上し、転写によってさらに精度の高い溝形状を有するスラスト動圧溝10dを形成することができる。
【0092】
本形態では、予め加熱された転写ヘッド30を用いて、転写ヘッド30の押圧時に凸部40gを加熱している。そのため、スリーブ10自体を加熱する場合と比較して、スリーブ10の全体の硬度低下を防止できる。すなわち、転写が行われる凸部40gの硬度は低下するが、スリーブ10の全体の硬度は低下しないため、より効果的に、スリーブ10の変形を防止できる。
【0093】
本形態では、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10は、常温で、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されている。このように比較的低硬度の金属材料でスリーブ10を形成しているため、転写ヘッド30の押圧力を小さくできる。そのため、スラスト動圧溝10dを形成するための設備の構成を簡素化できる。すなわち、転写によってスラスト動圧溝10dを形成でき、生産性も向上する。なお、本形態では、スリーブ10の凸部40gを加熱してスラスト動圧溝10dを形成しているが、スリーブ10は、常温で、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されているため、スリーブ10を加熱しなくても、ラジアル動圧溝10dの形成は可能である。
【0094】
本形態では、スリーブ10の材料として、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかを採用している。ここで、本形態のシャフト9は、加工性や切削性に優れるSUS303で形成されているため、スリーブ10の材料としては、アルミシリコン合金のシリコン含有率が27%以上となるアルミシリコン合金1またはアルミシリコン合金3を用いることが好ましい。
【0095】
シリコン含有率が27%以上であるアルミシリコン合金の線膨張係数は、SUS303の線膨張係数よりも小さくなる。そのため、シリコン含有率が27%以上であるアルミシリコン合金でスリーブ10を形成すれば、SUS303でシャフト9を形成しても、温度の変動にかかわらず、スリーブ10をシャフト9によって適切に回転可能に支持することができる。すなわち、温度が上がるとシャフト9とスリーブ10との間に存在する動圧発生用の潤滑オイルの粘度は低下するが、線膨張係数の関係からシャフト9とスリーブ10との間の隙間は狭まるため、ラジアル方向の動圧力を適切に保つことができる。また、温度が下がるとシャフト9とスリーブ10との間に存在する動圧発生用の潤滑オイルの粘度は上昇するが、線膨張係数の関係からシャフト9とスリーブ10との間の隙間は広がるため、ラジアル方向の動圧力を適切に保つことができる。このように、温度の変動にかかわらず、シャフト9とスリーブ10との間で発生するラジアル方向の動圧力を適切に保つことができる。したがって、シリコン含有率が27%以上であるアルミシリコン合金でスリーブ10を形成することが好ましい。
【0096】
本形態では、外径加工工程S1で、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10に軸方向に突出する凸部40gを形成している。また、スラスト動圧溝形成工程S6で、凸部40gに対して軸方向から転写ヘッド30を押圧する転写でスラスト動圧溝10dを形成している。このように、本形態では、凸部40gを押圧し、変形することでスラスト動圧溝10dを形成しているため、スリーブ10の全体に大きな荷重をかける必要はない。そのため、スラスト動圧溝10dを形成してもスリーブ10の変形量を大幅に抑制することができる。したがって、小型化、薄型化したスリーブ10に対しても適切なスラスト動圧溝10dを形成することができる。
【0097】
言い換えると、本形態の動圧軸受装置11は、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10に軸方向に突出する複数の突出部10gを備え、この複数の突出部10g間にスラスト動圧溝10dが形成されている。そのため、突出部10g間に転写ヘッド30で荷重を加えることでスラスト動圧溝10dを形成でき、スリーブ10の全体に大きな荷重をかける必要はない。したがって、スラスト動圧溝10dを形成してもスリーブ10の変形量を大幅に抑制することができる。
【0098】
特に、本形態では、コイニングやプレスより非常に小さな押圧力で転写ヘッド30を押圧する転写によってスラスト動圧溝10dを形成しているため、スリーブ10の変形量を大幅に抑制することができる。
【0099】
本形態では、凸部形成工程で、スラスト動圧溝10dが形成されるスリーブ10に、軸方向の一端側に形成された対向面10bから軸方向外側に突出するように凸部40gを形成している。言い換えると、突出部10gは、対向面10bから軸方向外側に突出している。そのため、平坦状の載置台31に載置した状態で、軸方向外側から転写ヘッド30を押圧することでスラスト動圧溝10dを形成することができる。したがって、スラスト動圧溝形成工程S6でのセッティングが容易になる。
【0100】
本形態では、凸部形成工程で、軸受孔10aの軸方向端10a2よりも径方向外側で対向面10bに凸部40gを形成している。すなわち、内周側対向面10b1と外周側対向面10b2との間に凸部40gを形成している。凸部40gにスラスト動圧溝10dを転写で形成する際、スラスト動圧溝10dと突出部10gとの境界部分の径方向両側に若干の膨らみが生じる。そのため、軸受孔10aの軸方向端10a2と凸部40gとの間に内周側対向面10b1を設けることで、スラスト動圧溝10dを形成する際に径方向内側に生じる膨らみと、軸受孔10aに挿入されるシャフト9との干渉を防止することができる。
【0101】
[実施の形態2]
図9は、本発明の実施の形態2にかかるスリーブ50の軸方向断面を示す断面図である。図10は、図9の矢印Z方向からスリーブ50の軸受孔10aおよび対向面10bを示す平面図である。図11は、本発明の実施の形態2にかかる加工ヘッド55の概略を示し、(A)は正面図、(B)は部分側面図である。
【0102】
実施の形態1の構成と実施の形態2の構成とでは、スリーブ50に形成されるラジアル動圧溝50cの形状が相違する。また、そのため、ラジアル動圧溝50cの加工工程や、加工用の治具が相違する。上記の構成以外は、実施の形態1の構成と実施の形態2の構成とは共通するため、共通する構成については図示および説明を省略する。または、共通する構成については共通の符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0103】
実施の形態2のスリーブ50では、図9および図10に示すように、軸方向に伸びる直線状の縦溝からなるラジアル動圧溝50cが内周面に形成されている。より具体的には、図10に示すように、軸方向から見て台形状のラジアル動圧溝50cがスリーブ50の内周面にくぼんだ状態で形成されている。このラジアル動圧溝50cは、スリーブ50の内周面に等角度ピッチでたとえば6箇所に形成されている。また、ラジアル動圧溝50cは、軸方向では、拡径部10a1を挟んだ状態で、すなわち、軸方向に離間した状態で2箇所に形成されている。このラジアル動圧溝50cが形成された軸方向の位置が、図2に示すラジアル動圧軸受部24の位置になる。なお、ラジアル動圧溝50cの深さは、たとえば、1.5μmから10μmになっている。また、図10では、便宜上、一部のラジアル動圧溝50c、一部のスラスト動圧溝10dおよび一部の突出部10gにのみ符号を付している。
【0104】
スリーブ50は、図6に示す製造工程と同様の製造工程で製造されるが、上述のように、本形態と実施の形態1とでは、ラジアル動圧溝50cの加工工程が相違する。すなわち、実施の形態1では、転造ヘッド27を用いてボール転造でラジアル動圧溝10cを形成するが、本形態では、図11に示す加工ヘッド55を用いてラジアル動圧溝50cを形成する。
【0105】
加工ヘッド55は、図11に示すように、円柱状の形成された加工ヘッド55の先端部55aに、ラジアル動圧溝50cの形状に対応する加工突起55gが外周面から径方向外側に突出するように複数形成された外周側加工部55bを備えている。先端部55aの外周面の外径は、軸受孔10aよりも若干小さくなっている。また、加工突起55gは、軸方向から見て台形状をなすように(すなわち、ラジアル動圧溝50cの形状に対応するように)先端部55aの先端側に形成されている。この加工突起55gの外周面をつないで形成される外径は、軸受孔10aの径に比べわずかに大きく形成されている。また、加工突起55gは、ラジアル動圧溝50cと同様に、等角度ピッチでたとえば6箇所に形成されている。なお、加工突起55gは、先端部55aの軸方向全域に伸びるように形成されていても良い。また、図11では、便宜上、一部の加工突起55gにのみ符号を付している。
【0106】
このように構成された加工ヘッド55の外周側加工部55bを軸受孔10aに挿入してラジアル動圧溝50cを形成する。すなわち、図示を省略するアクチュエータによって加工ヘッド55を軸方向に駆動して、外周側加工部55bを軸受孔10aに挿入しながら、ラジアル動圧溝50cを形成する。なお、外周側加工部55bを軸受孔10aに挿入する際に、外周側加工部55bを、予め、180℃から400℃の範囲で加熱しても良い。
【0107】
以上説明したように、実施の形態2では、実施の形態1での効果に加え、以下の効果を有する。すなわち、本形態では、ラジアル動圧溝50cが形成されるスリーブ50は、常温で、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成されている。また、ラジアル動圧溝50cの形状に対応する加工突起55gが径方向に突出するように形成された外周側加工部55bを有する加工ヘッド55を軸受孔10aに挿通して、ラジアル動圧溝50cを形成している。スリーブ50のスプリングバック率が小さいため、加工ヘッド55の外周側加工部55bを軸受孔10aから抜いた後であっても、ラジアル動圧溝50c部分でのスプリングバック量は少なくなる。そのため、精度の高い溝形状を有するラジアル動圧溝50cを形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。また、ラジアル動圧溝50c部分でのスプリングバック量が少なくなるため、軸受孔10aに挿通した加工ヘッド55を容易に抜き取ることができる。したがって、加工ヘッド55の外周側加工部55bの剛性はそれほど要求されず、外周側加工部55bを小型化(細径化)することが可能になる。すなわち、先端部55aを小型化(細径化)することが可能になる。
【0108】
本形態では、常温で、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されたスリーブ50に対して、加工ヘッド55を軸受孔10aに挿入してラジアル動圧溝50cを形成する。このようにスリーブ50は、比較的低硬度の金属材料で形成されているため、小さな力で加工ヘッド55を軸受孔10aに挿入することができる。したがって、加工ヘッド55の構成を簡素化できる。
【0109】
なお、上述のように、外周側加工部55bを軸受孔10aに挿入する際に、外周側加工部55bを、予め加熱する場合には、スリーブ50の内周面の硬度が低下しやすくなるため、縦溝状のラジアル動圧溝50cを形成する際の加工ヘッド55の押圧力をより小さくできる。そのため、ラジアル動圧溝50cを形成するための設備の構成を簡素化できる。さらに、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4は加熱するとスプリングバック率が低下する。そのため、スリーブ50の全体を加熱する加熱方法を採用する場合には、ラジアル動圧溝50cでのスプリングバック量がさらに減少し、さらに精度の高い溝形状を有するラジアル動圧溝50cを形成することができる。
【0110】
[実施の形態3]
(スピンドルモータの構成)
図12は、本発明の実施の形態3にかかるスピンドルモータ61を示す側面断面図である。
【0111】
実施の形態3にかかるスピンドルモータ61は、図12に示すように、ハードディスク2を回転駆動するハードディスク駆動用のモータであり、実施の形態1のスピンドルモータ1と同様にディスク駆動装置3のようなディスク駆動装置に用いられる。なお、スピンドルモータ61が用いられるディスク駆動装置は、たとえば、1インチや0.85インチといったさらに小径のハードディスク2を駆動するものである。
【0112】
スピンドルモータ61は、図12に示すように、固定されたシャフト69と、シャフト69の外周側に配置されハードディスク2とともに回転する外周側部材としてのスリーブ70とを主要な構成要素とした動圧軸受装置71を備えている。本形態の動圧軸受装置71は、スリーブ70の回転によって、シャフト69とスリーブ70との間にラジアル方向(径方向)の動圧力およびスラスト方向(軸方向)の動圧力を発生させるように構成されている。また、動圧軸受装置71は、動圧発生用の流体として潤滑オイルを使用したオイル動圧軸受装置である。
【0113】
スピンドルモータ61は、固定側の部材として、シャフト69の他に、固定フレーム72とステータコア73と駆動コイル74とを備えている。
【0114】
シャフト69は、軸方向の一端(図12では上端)に径方向に広がるように形成された(すなわち軸方向に直交するように形成された)円盤状の鍔部69aを備えている。また、シャフト69の他端(図12では下端)は、後述する固定フレーム72の固定孔72bに圧入、焼嵌め等の固定方法で固定されている。このシャフト69の詳細な構成については、後に説明する。
【0115】
固定フレーム72の外周側部分には、円筒状のコアホルダ72aが軸方向へ立ち上がるように形成されている。また、固定フレーム72の略中心部には、シャフト69が固定される固定孔72bが形成されている。ステータコア73は電磁鋼板が積層されて形成されており、径方向内側へ放射状に伸びる複数の突極部73aを備えている。また、ステータコア73は、コアホルダ72aの内周側に取り付けられている。駆動コイル74は、ステータコア73の各突極部73aに巻回されている。
【0116】
また、スピンドルモータ61は、回転側の部材として、スリーブ70の他に、駆動マグネット79とカウンタープレート80とクランパ81とを備えている。
【0117】
スリーブ70は、クロム系のステンレス鋼(400系のステンレス鋼)やクロム・ニッケル系のステンレス鋼(300系のステンレス鋼)等の磁性を有する金属材料から有底円筒状に形成されている。すなわち、スリーブ70は、底部となる基部70aと筒部70bとを備えている。また、筒部70bの軸方向の略中間位置には、径方向に広がるようにハードディスク2の載置部70cが形成されている。基部70aの中心部には、クランパ81を固定するためのネジ孔70a1が形成されている。筒部70bの内周面には、カウンタープレート80の軸方向の位置決めをするための段部70b1が形成されている。載置部70cはたとえば円環状に形成されている。
【0118】
駆動マグネット79は円筒状に形成されており、載置部70cより図示下側で筒部70bの外周面に固定されている。また、駆動マグネット79は、ステータコア73に形成された突極部73aの径方向内側に配置されている。すなわち、本形態のスピンドルモータ61はいわゆるインナーロータ型のモータである。
【0119】
カウンタープレート80は円筒状に形成されている。このカウンタープレート80は、スリーブ70の筒部70bに形成された段部70b1に突き当てられた状態で、筒部70bの内周面に接着等の固定方法によって固定されている。
【0120】
クランパ81は有底円筒状に形成されており、底部となる基部81aと筒部81bとを備えている。このクランパ81は、スリーブ70の載置部70cに載置されたハードディスク2を図示上方向から押さえ込むように、スリーブ70の基部70aにネジ82によって固定されている。より具体的には、クランパ81では、筒部81bの先端がハードディスク2を押さえ込むように、基部81aがスリーブ70の基部70aに固定されている。ネジ82は、スリーブ70の基部70aに形成されたネジ孔70a1に螺合されている。
【0121】
動圧軸受装置71は、シャフト69とスリーブ70の他に、カウンタープレート80を構成要素としている。また、動圧軸受装置71では、シャフト69の鍔部69aの外周面69a1が、スリーブ70の筒部70bの内周面と対向している。また、動圧軸受装置71では、鍔部69aの一端面(図12では上面)69a2が、スリーブ70の基部70aの内側面と対向し、かつ、鍔部69aの他端面(図12では下面)69a3が、カウンタープレート80の図示上面と対向している。そして、鍔部69aの外周面69a1と、筒部70bの内周面との間に、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧軸受部84が形成されている。また、鍔部69aの一端面69a2と基部70aの内側面との間、および、鍔部69aの他端面69a3とカウンタープレート80の図示上面との間に、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧軸受部85が形成されている。なお、ラジアル動圧軸受部84およびスラスト動圧軸受部85には、動圧発生用流体としての潤滑オイルが充填されている。また、スラスト動圧軸受部85は、本形態のように2箇所にではなく、いずれか一方の1箇所に形成されても良い。
【0122】
本形態の動圧軸受装置71では、後述のようにシャフト69に、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧溝69cと、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧溝69dとが形成されている。すなわち、スリーブ70にはラジアル動圧溝およびスラスト動圧溝は形成されておらず、また、カウンタープレート80にもスラスト動圧溝は形成されていない。
【0123】
(シャフトの構成)
図13は、図12に示すシャフト69を示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【0124】
本形態のシャフト69は、図13に示すように、円柱状の軸部69bと、軸部69bの一端(図13では上端)に形成された鍔部69aを備えている。このシャフト69の寸法はたとえば、軸部69bの径が1mm、鍔部69aの径が4mm、鍔部69aの軸方向の厚さが1mm、全長が3mmとなっている。鍔部69aの中心部には、図12に示すように、軸方向に伸びる潤滑オイルのオイル溜め孔69eが形成されている。
【0125】
シャフト69の鍔部69aの外周面69a1には、ラジアル方向の動圧力を発生させるラジアル動圧溝69cが形成されている。より具体的には、図13(A)に示すように、ヘリングボーン形状の複数のラジアル動圧溝69cが周方向に間隔をあけて隣接するように、鍔部69aの外周面69a1と同一面に形成されている。すなわち、外周面69a1には、径方向外側に突出する複数の突出部69jが形成され、複数の突出部69j間のそれぞれにラジアル動圧溝69cが形成されている。突出部69jは、径方向から見てヘリングボーン形状に形成されている。また、突出部69jの外周面69a1からの高さは、たとえば、1.5μmから10μmになっている。なお、ラジアル動圧溝69a1は、必ずしも外周面69a1と同一面に形成される必要はなく、外周面69a1よりも径方向外側に突出した状態や、外周面69a1よりも径方向内側にくぼんだ状態で形成されても良い。また、図13(A)では、便宜上、一部のラジアル動圧溝69c、および一部の突出部69jにのみ符号を付している。
【0126】
鍔部69aの一端面69a2には、スラスト方向の動圧力を発生させるスラスト動圧溝69dが形成されている。より具体的には、図13(B)に示すように、ヘリングボーン形状の複数のスラスト動圧溝69dが周方向に間隔をあけて隣接するように、一端面69a2と同一面に形成されている。すなわち、一端面69a2には、軸方向外側(図13(A)では上側)に突出する複数の突出部69gが円環状に形成され、複数の突出部69g間のそれぞれにスラスト動圧溝69dが形成されている。また、複数のスラスト動圧溝69dおよび複数の突出部69gは、図13に示すように、一端面69a2の外周端よりも所定距離だけ内側に入った位置に形成されている。なお、スラスト動圧溝69dは、必ずしも一端面69a2と同一面に形成される必要はなく、一端面69a2よりも軸方向に突出した状態で形成されても良いし、一端面69a2よりくぼんだ状態で形成されても良い。また、図13(B)では、便宜上、一部のスラスト動圧溝69dおよび一部の突出部69gにのみ符号を付している。
【0127】
複数の突出部69gは、図13(B)に示すように軸方向から見てヘリングボーン形状に形成されている。より具体的には、図13(A)に示すように、突出部69gの径方向内側の側面69g1および径方向外側の側面69g2はともに一端面69a2に対して略直交するように形成されている。なお、突出部69gの一端面69a2からの高さは、たとえば、1.5μmから10μmになっている。
【0128】
鍔部69aの他端面69a3にも、一端面69a2に形成されたスラスト動圧溝69dと同様のスラスト動圧溝69dが形成されている。すなわち、図13(B)に示すようなヘリングボーン形状の複数のスラスト動圧溝69dとヘリングボーン形状の複数の突出部69gが周方向で交互に隣接するように、他端面69a3に円環状に形成されている。また、他端面69a3においても、一端面69a2と同様に、スラスト動圧溝69dおよび突出部69gは、他端面69a3の外周端よりも所定距離だけ内側に入った位置に形成されている。
【0129】
また、シャフト69は、実施の形態1のスリーブ10と同様に、常温で、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されている。また、シャフト69は、常温で、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる金属材料から形成されている。すなわち、シャフト69は、スリーブ10と同様にアルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかによって形成されている。
【0130】
(動圧軸受装置の製造方法)
以上のように構成された動圧軸受装置71は以下のように製造される。すなわち、まず、動圧軸受装置71を構成するシャフト69、スリーブ70およびカウンタープレート80を製造する。そして、スリーブ70の筒部70bの内周面に、シャフト69を鍔部69a側から挿入する。その後、カウンタープレート80を筒部70bに形成された段部70b1に突き当てた状態で、筒部70bの内周側に固定して動圧軸受装置71が完成する。なお、駆動マグネット79は、動圧軸受装置71が完成した後にスリーブ70の外周面に固定しても良いし、動圧軸受装置71の製造前に予めスリーブ70に固定しておいても良い。
【0131】
以下では、実施の形態1と同様に、動圧軸受装置71の製造方法のうち、本発明の要部の1つとなるシャフト69の製造方法について詳細に説明する。なお、スピンドルモータ61は、駆動コイル74を巻回したステータコア73を固定した状態の固定フレーム72に、動圧軸受装置71を構成するシャフト69を固定し、スリーブ70に駆動マグネット79を固定する等によって、製造される。
【0132】
(シャフトの製造方法)
図14は、図13に示すシャフト69の製造方法のフローチャートである。図15は、図13に示すシャフト69の加工状態の前半部分を示す加工状態図であり、(A)は加工前の状態、(B)は第1外形加工工程S21後の状態、(C)は第2外形加工工程S23後の状態を示す。図16は、図13に示すシャフト69の加工状態の後半部分を示す加工状態図であり、(A)は動圧溝形成工程S24の加熱工程開始前の状態、(B)は動圧溝形成工程S24の加熱工程終了時の状態を示す。図17は、本発明の実施の形態3にかかる上側転写ヘッド90を示し、(A)は側面断面図、(B)は底面図である。図18は、本発明の実施の形態3にかかる下側転写ヘッド91を示し、(A)は平面図、(B)は側面断面図である。
【0133】
まず、第1外形加工工程で、図15(A)に示すような断面が円形の棒材95に対してシャフト69の1回目の外形加工を行う(ステップS21)。本形態では、この1回目の外形加工を切削によって行う。また、棒材95には、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかが用いられている。
【0134】
第1外形加工工程S21では、図15(B)に示すように、シャフト69の軸部69b、鍔部69aの外周面69a1および鍔部69aの他端面69a3を形成する。また、第1外形加工工程S21では、他端面69a3から軸方向へ突出する凸部95gおよび外周面69a1から径方向外側に突出する凸部95jを形成する。より具体的には、図15(B)に示すように、径方向に幅D3を有する円環状の凸部95gを、他端面69a3の外周端よりも所定距離だけ内側に入った位置で、かつ、径方向内側の側面95g1および径方向外側の側面95g2が他端面69a3に略直交するように形成する。また、円環状の凸部95jを、外周面69a1の図示右端よりも所定距離だけ左側にずれた位置で、かつ、軸方向の両側面が外周面69a1に略直交するように形成する。なお、他端面96a3から突出する凸部95gに、後述する動圧溝形成工程S24でスラスト動圧溝69dを形成する。また、他端面69a3に形成された凸部95gの一部が、シャフト69の他端面69a3に形成される突出部69gとなる。さらに、外周面69a1から突出する凸部95jに、後述する動圧溝形成工程S24でラジアル動圧溝69cを形成する。また、凸部95jの一部が突出部69jとなる。
【0135】
次に、シャフト切断工程で、素材95からシャフト69を切断する(ステップS22)。
【0136】
次に、第2外形加工工程で、シャフト69の2回目の外形加工を行う(ステップS23)。2回目の外形加工も1回目の外形加工と同様に切削によって行う。第2外形加工工程S23では、図15(C)に示すように、シャフト69の鍔部69aの一端面69a2およびオイル溜め孔69eを形成する。また、第2外形加工工程S23では、他端面69a3に形成された凸部95gと同様の凸部95gを一端面69a2から軸方向外側へ突出するように形成する。すなわち、図15(C)に示すように、径方向に幅D3を有する円環状の凸部95gを、一端面69a2の外周端よりも所定距離だけ内側に入った位置で、かつ、径方向内側の側面95g1および径方向外側の側面95g2が一端面69a2に略直交するように形成する。なお、一端面96a2から突出する凸部95gにも、後述する動圧溝形成工程S24でスラスト動圧溝69dを形成する。また、一端面69a2に形成された凸部95gの一部が、シャフト69の一端面69a2に形成される突出部69gとなる。
【0137】
次に、動圧溝形成工程で、ラジアル動圧溝69cおよびスラスト動圧溝69dを形成する(ステップS24)。すなわち、本形態の動圧溝形成工程S24には、ラジアル動圧溝形成工程とスラスト動圧溝形成工程とが含まれる。より具体的には、図16に示すように、鍔部69aの両面に形成された凸部95gに対して、図示上側から上側転写ヘッド90を押圧するとともに図示下側から下側転写ヘッド91を押圧する転写によって、鍔部69aの両面に形成された凸部95gにスラスト動圧溝69dを形成する。また、上側転写ヘッド90と下側転写ヘッド91とをシャフト69に装着した状態で加熱する加熱工程と、加熱工程後、上側転写ヘッド90と下側転写ヘッド91とをシャフト69に装着した状態で冷却する冷却工程とによって、鍔部69aの外周面69a1に形成された凸部95jにラジアル動圧溝69cを形成する。なお、鍔部69aの両面に形成された凸部95gにスラスト動圧溝69dを形成する際には、上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91の両者を上下方向から駆動しても良いが、本形態では、下側転写ヘッド91を固定して上側転写ヘッド90を上側から駆動している。
【0138】
動圧溝形成工程S24において用いられる上側転写ヘッド90は、図16および図17に示すように、ラジアル動圧溝69cを形成するための複数の転写凹部90aと、スラスト動圧溝69dを形成するための複数の上側転写凹部90bとが形成された溝加工孔部90cを有する略円筒状の先端部90dと、先端部90dより小径でかつ先端90dの基端側に連設された円柱状の基部90eとを備えている。また、上側転写ヘッド90は、たとえば、SUS430などのシャフト69の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する金属材料で形成されている。なお、転写ヘッド90は、所定の硬度と線膨張係数を有する材料であれば、金属材料以外の材料、たとえば樹脂材料から形成しても良い。
【0139】
基部90eは、図示を省略するアクチュエータに接続されており、上側転写ヘッド90は軸方向(図17(A)では上下方向)に駆動されるようになっている。
【0140】
溝加工孔部90cは、転写凹部90aと上側転写凹部90bとが形成された大径孔部90fと、大径孔部90fよりも小径に形成された小径孔部90gとから構成され、先端部90dの先端面(図17(A)の下端面)90hから大径孔部90f、小径孔部90gの順番で形成されている。
【0141】
転写凹部90aは、大径孔部90fの内周面90f1に沿って形成されている。より具体的には、突出部69jとほぼ同様のヘリングボーン形状の複数の転写凹部90aが、突出部69jと同ピッチで周方向に間隔をあけて隣接するように、大径孔部90fの内周面90f1からくぼんだ状態で形成されている。そして、内周面90f1における各転写凹部90aの間のヘリングボーン形状をなす部分が、ラジアル動圧溝69cを形成するラジアル溝形成部90f2となっている。すなわち、大径孔部90fの内周面90f1には、ラジアル動圧溝69cのパターン形状が形成されている。複数の転写凹部90aは、上側転写ヘッド90がシャフト69に装着された際に、軸方向で、凸部95jに対応する位置に配置されるように形成されている。なお、転写凹部90aの深さは、突出部69jの高さとほぼ同じか、突出部69jの高さよりもわずかに深くなっている。また、図19(A)では、便宜上、一部の転写凹部90aおよび一部のラジアル溝形成部90f2にのみ符号を付している。
【0142】
上側転写凹部90bは、大径孔部90fと小径孔部90gとの間に形成された段差面90iにおいて、突出部69gとほぼ同様のヘリングボーン形状に形成されている。より具体的には、上側転写凹部90bは、図17(B)に示すように、凸部95gの径方向の幅D3より広い径方向の幅D4を有するように、段差面90iからくぼんだ状態で形成されている。この上側転写凹部90bは、突出部69gと同ピッチで周方向に間隔をあけて隣接するように段差面90iに配設されている。そして、段差面90iにおける各上側転写凹部90bの間のヘリングボーン形状をなす部分が他端面69a3のスラスト動圧溝69dを形成する上側スラスト溝形成部90i1となっている。複数の上側転写凹部90bは、上側転写ヘッド90が他端面69a3に形成された凸部95gに押圧された際に、凸部95gに対応する位置に配置されるように形成されている。なお、上側転写凹部90bの深さは、突出部69gの高さとほぼ同じか、突出部69gの高さよりもわずかに深くなっている。また、図17(B)では、便宜上、一部の上側転写凹部90bおよび一部の上側スラスト溝形成部90i1にのみ符号を付している。
【0143】
図17(A)に示すように、大径孔部90fの深さL1(先端面90hから段差面90iまでの距離)は、常温で、図13(A)に示すシャフト69の鍔部69aの厚さL2(一端面69a2から他端面69a3までの距離)とほぼ同じになっている。また、大径孔部90fの径は、常温で鍔部69aの最大径(すなわち凸部69jが形成された部分の外径)よりも大きくなるように形成されている。
【0144】
小径孔部90gは、上側転写ヘッド90を段部95gに押圧する際の、シャフト69の軸部69bと上側転写ヘッド90との干渉を防止するために設けられている。すなわち、小径孔部90gは、軸部69bとの干渉を防止するための逃げ孔となっている。
【0145】
また、動圧溝形成工程S24において用いられる下側転写ヘッド91は、図16および図18に示すように、スラスト動圧溝69dを形成するための複数の下側転写凹部91bが形成された上端面91aを備え、略円柱状に形成されている。
【0146】
下側転写凹部91bは、上側転写凹部90bと同様に形成されている。すなわち、下側転写凹部91bは、図18(A)に示すように、突出部69gとほぼ同様のヘリングボーン形状で、凸部95gの径方向の幅D3より広い径方向の幅D4を有するように、上端面91aからくぼんだ状態で形成されている。この下側転写凹部91bは、突出部69gと同ピッチで周方向に間隔をあけて隣接するよう形成されている。そして、上端面91aにおける各下側転写凹部91bの間のヘリングボーン形状をなす部分が一端面69a2のスラスト動圧溝69dを形成する下側スラスト溝形成部91a1となっている。複数の下側転写凹部91bは、下側転写ヘッド91が一端面69a2に形成された凸部95gに押圧された際に、凸部95gに対応する位置に配置されるように形成されている。なお、下側転写凹部91bの深さは、突出部69gの高さとほぼ同じか、突出部69gの高さよりもわずかに深くなっている。また、図18(A)では、便宜上、一部の下側転写凹部91bおよび一部の下側スラスト溝形成部91a1にのみ符号を付している。
【0147】
なお、上側転写凹部90bおよび下側転写凹部91bには抜きテーパが形成されている。すなわち、上側転写凹部90bを形成する全ての側面、および、下側転写凹部91bを形成する全ての側面は、実施の形態1における転写凹部30aを形成する全ての側面30a1と同様(図8(C)参照)に、段差面90iあるいは、先端面91aに対して直角ではなく、段差面90iあるいは先端面91aに向かってわずかに広がる傾斜面となっている。また、転写凹部90aにも抜きテーパが形成されている。すなわち、転写凹部90aを形成する全ての側面も、大径孔部90fの内周面90f1に対して直角ではなく、内周面90f1に向かってわずかに広がる傾斜面となっている。
【0148】
以上のような構成を有する上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91を用いて、動圧溝形成工程S24で、ラジアル動圧溝69cおよびスラスト動圧溝69dを形成する。すなわち、図16(A)に示すように、まず、素材95から切断されたシャフト69を、鍔部69aを図示下側に向けた状態で下側転写ヘッド91に載置する。その際には、一端面69a2に形成された凸部95gに対応する位置に下側転写凹部91bが配置されるようにシャフト69の径方向の位置決めを行う。
【0149】
その後、図示を省略するアクチュエータによって上側転写ヘッド90を、その先端面90hが下側転写ヘッド91の上端面91aに当接するまで駆動する。この上側転写ヘッド90の駆動は常温で行う。先端面90hと上端面91aとが当接した状態では、他端面69a3と段差面90iが当接するとともに、一端面69a2と上端面91aとが当接している。すなわち、上側転写ヘッド90を駆動して、他端面69a3と段差面90iが当接し、かつ、一端面69a2と上端面91aとが当接するまで、段差面90iに形成された上側転写凹部90bを他端面69a3に形成された凸部95gに押圧し、上端面91aに形成された下側転写凹部91bを一端面69a2に形成された凸部95gに押圧する。このように上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91を押圧する転写によって、鍔部69aの両面に、スラスト動圧溝69dを形成する。なお、上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91が鍔部69aの両面に形成された凸部95gに押圧されると、スラスト動圧溝69dと同時に突出部69gが形成される。また、大径孔部90fの径は、常温で鍔部69aの最大径よりも大きく形成されているため、上側転写ヘッド90の駆動時に、大径孔部90fの内周面90f1と鍔部69aとの干渉を防止することができるようになっている。
【0150】
上述したように、上側転写ヘッド90の駆動は常温で行われる。そのため、他端面69a3と段差面90iが当接し、かつ、一端面69a2と上端面91aとが当接した状態、すなわち、上側転写ヘッド90と下側転写ヘッド91とをシャフト69に装着した状態では、図16(A)に示すように、大径孔部90fの内周面90f1と鍔部69aの凸部95jとの間には径方向で隙間が存在する。この状態から、シャフト69の線膨張係数と、上側転写ヘッド90との線膨張係数との差異を利用してラジアル動圧溝69cを転写で形成する。
【0151】
すなわち、まず、上側転写ヘッド90と下側転写ヘッド91とをシャフト69に装着したままで加熱する加熱工程を行う。たとえば、約400℃まで加熱する。加熱による熱膨張でシャフト69の鍔部69aは径方向外側に向かって広がっていく。また、上側転写ヘッド90の大径孔部90fの内周面90f1も径方向外側に向かって広がっていく。ここで、上側転写ヘッド90の線膨張係数は、シャフト69の線膨張係数よりも小さいため、大径孔部90fの内周面90f1と鍔部69aの凸部95jとの間に存在した隙間は次第に小さくなっていく。そして、加熱が終了する時点では、図16(B)に示すように、外周面69a1は大径孔部90fの内周面90f1に圧接する。すなわち、外周面69a1に形成された凸部95jが転写凹部90aに圧接して、ラジアル動圧溝69cおよび突出部69jが形成される。
【0152】
その後、上側転写ヘッド90と下側転写ヘッド91とをシャフト69に装着したままで冷却する冷却工程を行う。冷却工程では、大径孔部90fの内周面90f1と鍔部69aの突出部69jとの間に隙間が形成され、内周面90f1と突出部69jとが軸方向で干渉しない状態まで、冷却を行う。冷却後に、上側転写ヘッド90を図示上側に駆動して、ラジアル動圧溝69cおよびスラスト動圧溝69dが形成されたシャフト69を取り出す。
【0153】
なお、上述した加熱工程および冷却工程は、真空炉の中で行うことが好ましい。真空炉の中で(すなわち真空状態で)、加熱工程、冷却工程を行う場合には、上側転写ヘッド90、下側転写ヘッド91およびシャフト69の表面に被膜が形成されるのを防止することができる。
【0154】
また、動圧溝形成工程S24では、予め上側転写ヘッド90のみを加熱しておいて、上側転写ヘッド90を一端面69a2に形成された凸部95gに押圧しながらこの凸部95gを加熱するようにしても良い。
【0155】
次に、外径検査工程でシャフト69の外径検査が行われる(ステップS25)。この外径検査工程S25が終了すると、シャフト69の製造は終了する。
【0156】
(実施の形態3の主な効果)
以上説明したように、実施の形態3では、シャフト69が、常温で、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる金属材料から形成されている。このようにスプリングバック率が小さい金属材料でシャフト69が形成されているため、冷却工程でシャフト69を冷却した後であっても、ラジアル動圧溝69c部分でのスプリングバック量が少なくなる。そのため、ラジアル動圧溝69cの転写性が向上し、転写によって精度の高い溝形状を有するラジアル動圧溝69cを形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。
【0157】
本形態では、上側転写ヘッド90の線膨張係数と、シャフト69の線膨張係数との差異を利用してラジアル動圧溝69cを転写で形成している。そのため、シャフト69に大きな荷重をかける必要がない。したがって、シャフト69を小型化しても、あるいは、鍔部69aを薄く形成しても、ラジアル動圧溝69cを形成する際の変形を抑制することができる。また、ラジアル動圧溝69cを形成する際に大きな荷重をかける必要がないから、上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91の剛性がそれほど要求されない。そのため、上側転写ヘッド90および下側転写ヘッド91が小型化しても剛性が不足することもない。その結果、小型化したシャフト69に対しても適切なラジアル動圧溝69cを形成することができる。また、シャフト69の線膨張係数と上側転写ヘッド90の線膨張係数との差異を利用する簡単な構成で、シャフト69の鍔部69aにラジアル動圧溝69cを形成することができる。
【0158】
本形態では、シャフト69が、常温で、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されている。このように比較的低硬度の金属材料でシャフト69を形成しているため、線膨張係数の相違を利用した非常に押圧力の小さい転写であっても、精度の良いラジアル動圧溝69cを形成することができる。
【0159】
本形態では、シャフト69の材料として、アルミシリコン合金1からアルミシリコン合金4のいずれかを採用している。ここで、シャフト69の材料としては、アルミシリコン合金のシリコン含有率が27%未満であるアルミシリコン合金2またはアルミシリコン合金4を用いることが好ましい。
【0160】
シリコン含有率が27%未満であるアルミシリコン合金の線膨張係数は、400系のステンレス鋼や300系のステンレス鋼の線膨張係数よりも大きくなる。ここで、400系のステンレス鋼の線膨張係数は、一般に11×10−6であり、300系のステンレス鋼の線膨張係数は、一般に17×10−6である。そのため、シリコン含有率が27%未満であるアルミシリコン合金でシャフト69を形成すれば、400系のステンレス鋼や300系のステンレス鋼でスリーブ70を形成しても、温度の変動にかかわらず、スリーブ70をシャフト69によって適切に回転可能に支持することができる。したがって、シリコン含有率が27%未満であるアルミシリコン合金でシャフト69を形成する場合には、スリーブ50を形成する材質として400系のステンレス鋼や300系のステンレス鋼を使用することができ、材質の選択の幅が広がる。
【0161】
本形態では、第1外形加工工程S21と第2外形加工工程S23とによって、シャフト69の鍔部69aの両面(一端面69a2および他端面69a3)に凸部95gを形成する。また、動圧溝形成工程S24に含まれるスラスト動圧溝形成工程で、鍔部69aの両面にスラスト動圧溝69dを形成する。そのため、鍔部69aを有するシャフト69であっても、鍔部69aの両面に形成された凸部95gを押圧し、変形することでスラスト動圧溝69dを形成できるため、鍔部69aの変形量を大幅に抑制しつつ、鍔部69aの両面にスラスト動圧溝69dを形成することができる。
【0162】
本形態では、上側転写ヘッド90は、スラスト動圧溝69dを形成するための転写凹部90bに加え、ラジアル動圧溝69cを形成する転写凹部90aを備えている。そのため、実施の形態1のように、ラジアル動圧溝69cを形成するための設備を別途、準備する必要がなく、動圧溝を形成するための設備の構成を簡素化できる。
【0163】
また、本形態では、凸部形成工程で、凸部95gを、一端面69a2の外周端および他端面69a3の外周端よりも所定距離だけ内側に入った位置に形成している。凸部95gにスラスト動圧溝69dを形成する際、スラスト動圧溝69dと突出部69gとの境界部分の径方向両側に若干の膨らみが生じる。そのため、一端面69a2の外周端および他端面69a3の外周端と凸部95gとの間に所定の距離を設けることで、スラスト動圧溝69dを形成する際に径方向外側に生じる膨らみと、スリーブ70の筒部70bの内周面との干渉を防止することができる。
【0164】
[他の実施の形態]
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形可能である。以下、本発明の他の実施の形態を説明する。
【0165】
(動圧溝形成方法の変形例)
上述した実施の形態1では、ラジアル動圧溝形成工程で、ボール転造によってラジアル動圧溝10cを形成していたが、実施の形態3の動圧溝形成工程と同様に、熱膨張を利用してスリーブ10の内周面にラジアル動圧溝10cを形成しても良い。
【0166】
たとえば、図19に示すように、ラジアル動圧溝10cを形成する転写凹部120gが形成された円柱状のラジアル動圧溝形成部120fを有する転写ヘッド120を用いて、ラジアル動圧溝10cを形成しても良い。ラジアル動圧溝形成部120fには、図19に示すように、へリングボーン形状の複数の転写凹部120gが、ラジアル動圧溝形成部120fの外周面に沿って円周方向に間隔をあけて隣接するように、かつ、ラジアル動圧溝形成部120fの外周面からくぼんだ状態で形成されている。この転写ヘッド120は、スリーブ10の線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する材料から形成されている。なお、図19(B)では便宜上、一部の転写凹部120gにのみ符号を付している。
【0167】
一方、図20に示すように、スリーブ10の軸受孔10aには、径方向内側に向かって突出する円環状の凸部10a3を予め形成しておく。この凸部10a3が形成された部分における軸受孔10aの内径は、ラジアル動圧溝形成部120fの外径よりも大きく形成されている。
【0168】
そして、図20に示すように、転写ヘッド120の先端面30bがスリーブ10の対向面10bに当接するまで、先端面30bに形成された転写凹部30gを凸部40gの押圧した状態で、すなわち、転写ヘッド120をスリーブ10に装着した状態で、実施の形態3の動圧溝形成工程S24における加熱工程、冷却工程と同様の加熱工程、冷却工程を行う。転写ヘッド120の線膨張係数は、スリーブ10の線膨張係数よりも大きいため、加熱工程での加熱によって、凸部10a3がラジアル動圧溝形成部120fの外周面に押圧され、ラジアル動圧溝10cが転写で形成される。
【0169】
このように、転写ヘッド120の線膨張係数とスリーブ10の線膨張係数との差異を利用して、スリーブ10にラジアル動圧溝10cを形成することもできる。
【0170】
また、上述した実施の形態1では、転写ヘッド30を押圧してスラスト動圧溝10dを形成していたが、熱膨張を利用してスラスト動圧溝10dを形成しても良い。たとえば、転写ヘッド30をスリーブ10の線膨張係数よりも線膨張係数が小さい材料で形成するとともに、転写ヘッド30の先端面30bと、スリーブ10の対向面10bとの間に所定の間隔を保った状態から、実施の形態3の動圧溝形成工程S24における加熱工程、冷却工程と同様の加熱工程、冷却工程を行うことで、熱膨張を利用してスラスト動圧溝10dを形成することができる。
【0171】
さらに、上述した実施の形態2では、加工ヘッド55の外周側加工部55bを軸受孔10aに挿入して、ラジアル動圧溝50cを形成していたが、実施の形態3の動圧溝形成工程と同様に、熱膨張を利用してラジアル動圧溝50cを形成しても良い。たとえば、加工ヘッド55をスリーブ50の線膨張係数よりも線膨張係数が大きい材料から形成するとともに、加工突起55gを先端部55aの軸方向全域に伸びるように形成する。また、加工突起55gの外周面をつないで形成される外径をスリーブ50の軸受孔10aの径よりも小さく形成する。そして、軸受孔10dに外周側加工部55bを挿入した状態で、実施の形態3の動圧溝形成工程S24における加熱工程、冷却工程と同様の加熱工程、冷却工程を行うことで、熱膨張を利用してラジアル動圧溝50cを形成することができる。
【0172】
さらにまた、上述した実施の形態3におけるスラスト動圧溝69dを熱膨張を利用して形成しても良い。この場合には、たとえば、実施の形態1のスラスト動圧溝10dを熱膨張を利用して形成する上述の方法と同様の方法で、スラスト動圧溝69dを熱膨張を利用して形成することができる。また、上述した実施の形態3におけるラジアル動圧溝69cを熱膨張を利用せずに、押圧することで形成しても良い。たとえば、転写凹部90aと同様の転写凹部が形成された円筒状の部材を円周方向に複数に分割(たとえば、2分割)して転写ヘッドを形成し、この転写ヘッドを、鍔部69aの外周面69a1に径方向外側から押圧することで、ラジアル動圧溝69cを熱膨張を利用しない押圧によって形成することができる。
【0173】
なお、ラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成する際には、転写ヘッドを押圧して形成する場合、熱膨張を利用して形成する場合、および加工ヘッドを挿入して形成する場合のいずれの場合においても、上述した実施の形態1から3におけるスラスト動圧溝の形成と同様に、動圧溝が形成される部分に凸部を形成した後に、この凸部の上面からくぼむように、ラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成しても良いし、凸部を形成せずに、スリーブの内周面や端面等、または、シャフトの外周面や端面等に、くぼんだ状態のラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成しても良い。なお、凸部を形成せずに、くぼんだ状態のラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成する場合には、転写ヘッドに動圧溝形成用の転写突起を形成すれば良い。また、転写ヘッドを押圧してラジアル動圧溝やスラスト動圧溝を形成する場合には、転写ヘッドを予め加熱しても良いし、加熱をしなくても良いが、予め加熱することが好ましい。
【0174】
(動圧軸受装置の変形例)
上述した各形態の動圧軸受装置11、71は、シャフト9、69が固定された状態で、スリーブ10、50、70が回転するように構成されたいわゆる軸固定型の動圧軸受装置であったが、動圧軸受装置は、シャフトが回転するように構成されたいわゆる軸回転型の動圧軸受装置であっても良い。たとえば、図21に示すように、固定されたスリーブ130に対して、シャフト129が回転する動圧軸受装置131であっても良い。
【0175】
この動圧軸受装置131では、シャフト129は、円柱形状の軸部129eと、軸部129eの図示下端に形成された鍔部129aとから構成されている。シャフト129の図示上端には、ロータハブ137が固定されるようになっている。スリーブ130の図示下端には、カウンタープレート140が、鍔部129aの図示下面と対向するように固定されている。
【0176】
シャフト129は、常温でスプリングバック率が15%以上かつ25%以下となるアルミシリコン合金から形成されている。シャフト129には、軸部129eの外周面から突出した状態で周方向に間隔をあけて隣接するように複数の突出部129hが形成されている。そして、複数の突出部129hのそれぞれの間にヘリングボーン形状の複数のラジアル動圧溝129cが形成されている。この周方向に間隔をあけて隣接するように形成された複数のラジアル動圧溝129cは、軸方向に離間した状態で2箇所に形成されている。また、シャフト129には、鍔部129aの上下面のそれぞれから突出した状態で周方向に間隔をあけて隣接するように複数の突出部129gが形成されている。そして、複数の突出部129gのそれぞれの間に、ヘリングボーン形状の複数のスラスト動圧溝(図示省略)が形成されている。
【0177】
この動圧軸受装置131のラジアル動圧溝129cとスラスト動圧溝は、上述した実施の形態と同様の方法で形成することができる。すなわち、転写ヘッドを押圧してスラスト動圧溝を形成するとともに、熱膨張を利用して、ラジアル動圧溝129cを形成することができる。また、ラジアル動圧溝129cとスラスト動圧溝との双方を熱膨張を利用して形成することもできる。さらに、径方向外側から転写ヘッドを押圧してラジアル動圧溝129cを形成するとともに、ラジアル動圧溝129cを形成する転写ヘッドとは異なる転写ヘッドを軸方向から押圧してスラスト動圧溝を形成することもできる。
【0178】
なお、動圧軸受装置131において、スリーブ130を常温でスプリングバック率が15%以上かつ25%以下となるアルミシリコン合金で形成し、スリーブ130にラジアル動圧溝および/またはスラスト動圧溝を形成しても良い。スリーブ130に動圧溝を形成する方法としては、熱膨張を利用しない押圧による転写と、熱膨張を利用する転写のいずれをも採用することができる。
【0179】
また、シャフト129に動圧溝を形成する場合と、スリーブ130に動圧溝を形成する場合とのいずれの場合であっても、凸部を形成して、この凸部の上面からくぼむように動圧溝を形成しても良いし、凸部を形成せずにくぼんだ状態の動圧溝を形成しても良い。凸部を形成せずに、くぼんだ状態の動圧溝を形成する場合には、転写ヘッドに動圧溝形成用の転写突起を形成すれば良い。さらに、転写ヘッドを押圧して動圧溝を形成する場合には、転写ヘッドを予め加熱しても良いし、加熱をしなくても良いが、予め加熱することが好ましい。
【0180】
また、上述した実施の形態2では、スリーブ50には、ラジアル動圧溝50cに加え、スラスト動圧溝10cが形成されていたが、スラスト動圧溝10cは必ずしも形成される必要はない。たとえば、図22に示すように、ロータハブ105とともに回転するシャフト106のスラスト方向の荷重をスラスト板107で受ける構成の動圧軸受装置にスリーブ50を用いる場合には、スリーブ50には、実施の形態2と同様の方法にてラジアル動圧溝50cのみを形成すれば良い。なお、図22では、スリーブ50はスリーブ保持部材108に固定されている。
【0181】
さらに、上述した実施の形態3では、鍔部69aにラジアル動圧溝69cおよびスラスト動圧溝69dが形成されていたが、鍔部69aにスラスト動圧溝69dのみを形成しても良い。たとえば、図23に示すように、スリーブ70が、中心部に軸方向(図23では下側)に伸びる軸部70eを備えるとともに、シャフト69の中心部に、軸部70eが挿入される軸受孔69mが形成された動圧軸受装置71では、鍔部69aにスラスト動圧溝69dのみを形成すれば良い。図23の動圧軸受装置71では、軸部70eの外周面または軸受孔69mの内周面にラジアル動圧溝が形成されている。また、図23では、実施の形態1のスピンドルモータ1のクランパ21と同様の構成を有するクランパ110とネジ111を用いてハードディスク2を固定している。なお、図23の動圧軸受装置71では、シャフト69に対して、軸部70eが回転可能になっている。すなわち、図23では、シャフト69は、軸部70eに対して相対回転可能な外周側部材となっている。
【0182】
(凸部の形状の変形例)
上述した実施の形態1の凸部形成工程で形成したスリーブ10の凸部40gの形状は、上述した形状に限定されない。たとえば、図24(A)に示すように、内周側対向面10b1を形成せずに、凸部40gの径方向内側の側面40g1を軸受孔10aの軸方向端10a2から径方向外側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面としても良い。また、図24(B)に示すように、内周側対向面10b1および外周側対向面10b2を形成せずに、凸部40gの径方向内側の側面40g1を軸方向端10a2から径方向外側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面とし、かつ、凸部40gの径方向外側の側面40g2を径方向内側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面としても良い。さらに、図24(C)に示すように、図24(B)に示す構成に加え、切削加工時の刃物の逃げ部101を設けるようにしても良い。
【0183】
このように、凸部40gの径方向内側の側面40g1を軸方向端10a2から径方向外側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面とする場合、すなわち、凸部40gの径方向内側に面取部を形成する場合には、スラスト動圧溝10dを転写で形成する際に径方向内側に生じる膨らみと、軸受孔10aに挿入されるシャフト9との干渉を防止することができる。
【0184】
また、図24(D)に示すように、内周側対向面10b1および外周側対向面10b2を形成するとともに、凸部40gの径方向内側の側面40g1を軸方向端10a2から径方向外側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面としても良い。さらに、図24(E)に示すように、内周側対向面10b1および外周側対向面10b2を形成するとともに、凸部40gの径方向内側の側面40g1を軸方向端10a2から径方向外側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面とし、かつ、凸部40gの径方向外側の側面40g2を径方向内側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面としても良い。さらにまた、図24(F)に示すように、内周側対向面10b1および外周側対向面10b2を形成するとともに、凸部40gの径方向外側の側面40g2を径方向内側に向かって次第に広がるように傾斜する傾斜面としても良い。
【0185】
さらに、実施の形態3における凸部95gの径方向内側の側面95g1や径方向外側の側面95g2も同様に、傾斜面としても良い。また、径方向外側の側面95g2を傾斜面とする場合、すなわち、凸部95gの径方向外側に面取部を形成する場合には、凸部95gを一端面69a2の外周端から形成しても良い。また、この場合には、凸部95gを他端面69a3の外周端から形成しても良い。
【0186】
(その他の変形例)
図21に示す軸回転型の動圧軸受装置130では、シャフト129の軸部129eにヘリングボーン形状のラジアル動圧溝129cが形成されていたが、シャフト129に形成されるラジアル動圧溝は、上述した実施の形態2のような縦溝からなるラジアル動圧溝であっても良い。この場合には、縦溝からなるラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が内周面から径方向内側に突出する内周側加工部を有する円筒状の加工ヘッドを用いてラジアル動圧溝を形成すれば良い。すなわち、加工突起が形成された部分の内径がシャフト129の軸部129eの径よりも小さく形成された内周側加工部に、シャフト129の軸部129eを挿入してラジアル動圧溝を形成すれば良い。このように構成した場合にも、精度の高い溝形状を有するラジアル動圧溝を形成することができる。その結果、溝形状の精度を上げるための後加工が不要になり、生産性も向上する。また、縦溝からなるラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が内周面から径方向内側に突出する内周側加工部を有する円筒状の加工ヘッドを用い、熱膨張を利用して、縦溝からなるラジアル動圧溝をシャフト129に形成しても良い。
【0187】
上述した各形態では、スリーブ10、50およびシャフト69の外形を切削で加工していたが、スリーブ10、50およびシャフト69の外形をMIM(メタルインジェクションモールド)によって形成しても良い。
【0188】
さらに、上述した各形態では、スラスト動圧溝10d、69dの形状はヘリンボーン形状であったが、スラスト動圧溝10d、69dの形状はへリングボーン形状には限定されず、スパイラル形状等の様々な形状とすることができる。さらにまた、上述した各形態では、動圧軸受装置11、71は、動圧発生用流体として潤滑オイルを使用したオイル動圧軸受装置であったが、動圧軸受装置11、71は、動圧発生用流体として空気を使用するエア動圧軸受装置であっても良い。
【0189】
また、上述した各形態では、動圧溝が形成されるシャフトやスリーブは、常温でのビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属材料から形成されていたが、常温でのビッカース硬度は、87Hvより大きくても良い。この場合には、動圧溝が形成されるシャフトやスリーブを加熱して、硬度を下げてから、転写ヘッドを押圧して動圧溝を形成することが好ましい。さらに、上述した各形態では、動圧溝が形成されるシャフトやスリーブはアルミシリコン合金であったが、常温でアルミシリコン合金と同様のスプリングバック率(すなわち、常温でスプリングバック率が15%以上かつ25%以下)の部材であれば、アルミシリコン合金以外の部材で、動圧溝が形成されるシャフトやスリーブを形成することができる。
【0190】
さらにまた、上述した実施の形態3では、シャフト69と固定フレーム72とは別体で形成され、固定フレーム72にシャフト69が固定されていたが、シャフト69と固定フレーム72とをアルミシリコン合金によって一体で形成しても良い。また、図23に示すような軸回転型の動圧軸受装置131において、スリーブ130をアルミシリコン合金で形成する場合には、スリーブ130が固定されるフレームとスリーブ130とをアルミシリコン合金によって一体で形成しても良い。
【0191】
さらに、本発明の動圧軸受装置は、燃料電池等の回転駆動部分にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるディスク駆動装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかるスピンドルモータを示す側面断面図である。
【図3】図2に示すスリーブの軸方向断面を示す断面図である。
【図4】図3の矢印X方向からスリーブの軸受孔および対向面を示す平面図である。
【図5】スリーブを形成するアルミシリコン合金の特性をまとめた一覧表である。
【図6】図3に示すスリーブの製造方法のフローチャートである。
【図7】図3に示すスリーブの加工状態を示す加工状態図であり、(A)は加工前の状態、(B)は外形加工工程後の状態、(C)はラジアル動圧溝形成工程後の状態、(D)はスラスト動圧溝形成工程前の状態、(E)は内径サイジング工程時の状態を示す。
【図8】本発明の実施の形態1にかかる転写ヘッドを示し、(A)は底面図、(B)は側面断面図、(C)は(B)のY部を拡大して示す部分拡大図である。
【図9】本発明の実施の形態2にかかるスリーブの軸方向断面を示す断面図である。
【図10】図9の矢印Z方向からスリーブの軸受孔および対向面を示す平面図である。
【図11】本発明の実施の形態2にかかる加工ヘッドの概略を示し、(A)は正面図、(B)は部分側面図である。
【図12】本発明の実施の形態3にかかるスピンドルモータを示す側面断面図である。
【図13】図12に示すシャフトを示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図14】図13に示すシャフトの製造方法のフローチャートである。
【図15】図13に示すシャフトの加工状態の前半部分を示す加工状態図であり、(A)は加工前の状態、(B)は第1外形加工工程後の状態、(C)は第2外形加工工程後の状態を示す。
【図16】図13に示すシャフトの加工状態の後半部分を示す加工状態図であり、(A)は動圧溝形成工程の加熱工程前の状態、(B)は動圧溝形成工程の加熱工程終了時の状態を示す。
【図17】本発明の実施の形態3にかかる上側転写ヘッドを示し、(A)は側面断面図、(B)は底面図である。
【図18】本発明の実施の形態3にかかる下側転写ヘッドを示し、(A)は平面図、(B)は側面断面図である。
【図19】本発明の他の実施の形態にかかる転写ヘッドを示し、(A)は底面図、(B)は側面の部分断面図である。
【図20】図19に示す転写ヘッドを用いてラジアル動圧溝を加工する状態を示す加工状態図である。
【図21】本発明の他の実施の形態にかかる動圧軸受装置を示す断面図である。
【図22】本発明の他の実施の形態にかかる動圧軸受装置を示す断面図である。
【図23】本発明の他の実施の形態にかかるスピンドルモータを示す断面図である。
【図24】本発明の他の実施の形態にかかる凸部を示す拡大断面図である。
【図25】スプリングバック率を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0193】
1、61 スピンドルモータ
2 ハードディスク(ディスク)
3 ディスク駆動装置
9、69、129 シャフト
10、50、70、130 スリーブ(外周側部材)
10a 軸受孔
10a2 軸方向端
10b 対向面(直交面)
10c、50c、69c、129c ラジアル動圧溝(動圧溝)
10d、69d スラスト動圧溝(動圧溝)
10g、69g、69j、129g、129h 突出部
11、71、131 動圧軸受装置
30、120 転写ヘッド
40g、95g、95j 凸部
55 加工ヘッド
55b 外周側加工部
55g 加工突起
69a、129a 鍔部
69a1 外周面(シャフトの外周面)
90 上側転写ヘッド
90f1 内周面(転写ヘッドの内周面)
91 下側転写ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、該シャフトの外周側に配置され、上記シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、上記シャフトと上記外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、
該動圧溝が、上記シャフトおよび上記外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材に対して、転写ヘッドを押圧する転写で上記動圧溝を形成することを特徴とする動圧軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材に対して、前記転写ヘッドを軸方向から押圧することを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記転写ヘッドの押圧時に、前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項4】
予め加熱された前記転写ヘッドを用いて、前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材を加熱することを特徴とする請求項3記載の動圧軸受の製造方法。
【請求項5】
シャフトと、該シャフトの外周側に配置され、上記シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、上記シャフトと上記外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、
該動圧溝が、上記シャフトおよび上記外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材とは線膨張係数が相違するとともに、上記動圧溝のパターン形状が形成された転写ヘッドを用い、上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材に上記転写ヘッドを装着した状態で加熱し、
加熱後に上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材に上記転写ヘッドを装着した状態で冷却し、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材の線膨張係数と上記転写ヘッドの線膨張係数との差異を利用して上記動圧溝を転写で形成することを特徴とする動圧軸受装置の製造方法。
【請求項6】
前記動圧溝は、前記シャフトの外周面に形成され径方向に動圧力を発生可能なラジアル動圧溝であり、
前記転写ヘッドは、上記ラジアル動圧溝のパターン形状が形成された内周面を備えるとともに、前記シャフトの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料から形成され、
上記内周面と上記外周面とが対向するように、前記シャフトに前記転写ヘッドを装着することを特徴とする請求項5記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項7】
前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属部材から形成されていることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の動圧軸受の製造方法。
【請求項8】
前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材に凸部を形成し、該凸部に前記動圧溝を形成することを特徴とする請求項1から7記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項9】
前記外周側部材は、前記シャフトを挿入可能な軸受孔と、該軸受孔の軸方向端で該軸受孔に直交する直交面とを備え、
前記凸部を、上記軸受孔の軸方向端よりも径方向外側で上記直交面に形成することを特徴とする請求項8記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項10】
前記外周側部材に前記凸部を形成するとともに、前記凸部の径方向内側に面取部を形成することを特徴とする請求項8または9記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項11】
前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材は、軸方向の一端側に径方向に広がる鍔部を備え、
上記鍔部の両面に前記凸部を形成するとともに、上記鍔部の両面に、軸方向に動圧力を発生可能なスラスト動圧溝を形成することを特徴とする請求項8から10いずれかに記載の動圧軸受装置の製造方法。
【請求項12】
シャフトと、該シャフトの外周側に配置され、上記シャフトに対して相対回転可能なスリーブと、上記シャフトと上記スリーブとの相対回転で径方向へ動圧力を発生可能なラジアル動圧溝とを備え、
該ラジアル動圧溝が、上記シャフトおよび上記スリーブの少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置の製造方法において、
上記ラジアル動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記スリーブは、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、
上記スリーブは、上記シャフトを挿通可能な軸受孔を有し、
上記ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が外周面から径方向外側に突出する外周側加工部、および、上記ラジアル動圧溝の形状に対応する加工突起が内周面から径方向内側に突出する内周側加工部の少なくともいずれか一方を備える加工ヘッドを用い、
上記軸受孔に上記外周側加工部を挿入して、または、上記シャフトを上記内周側加工部に挿入して、上記ラジアル動圧溝を形成することを特徴とする動圧軸受装置の製造方法。
【請求項13】
シャフトと、該シャフトの外周側に配置され、上記シャフトに対して相対回転可能な外周側部材と、上記シャフトと上記外周側部材との相対回転で動圧力を発生可能な動圧溝とを備え、
該動圧溝が、上記シャフトおよび上記外周側部材の少なくともいずれか一方に形成された動圧軸受装置において、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、スプリングバック率が15%以上かつ25%以下となる部材から形成され、
上記動圧溝が形成される上記シャフトおよび/または上記外周側部材は複数の突出部を備え、上記動圧溝は、上記複数の突出部間に形成されていることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項14】
前記動圧溝が形成される前記シャフトおよび/または前記外周側部材は、温度が15℃から25℃の範囲であるとき、ビッカース硬度が55Hv以上かつ87Hv以下となる金属部材から形成されていることを特徴とする請求項13記載の動圧軸受装置。
【請求項15】
請求項1から12いずれかに記載の動圧軸受装置の製造方法により製造された動圧軸受装置、あるいは、請求項13または14記載の動圧軸受装置を備えることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項16】
請求項15記載のスピンドルモータを、ディスクを回転させる駆動機構として備えることを特徴とするディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2006−292024(P2006−292024A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111352(P2005−111352)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(502260672)
【出願人】(504116663)GAST JAPAN 株式会社 (5)
【Fターム(参考)】