説明

化合物半導体基板の製造方法

【課題】高精度な化合物半導体単結晶基板を製造できる化合物半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る化合物半導体基板の製造方法は、化合物半導体としてのGaN単結晶のインゴット30を準備するインゴット準備工程と、インゴット30を切断部材で切断してGaN単結晶基板を形成する切断工程とを備え、切断工程は、インゴット30と切断部材との接触部分32の温度を160℃以下に制御してインゴット30を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板の製造方法に関する。特に、本発明は、化合物半導体単結晶を切断する工程を備える化合物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、及び炭化ケイ素(SiC)等の化合物半導体単結晶のインゴットから単結晶基板を製造する方法として、口径150mmφ以上、かつ、長さ300mm以上のインゴットを準備する工程と、インゴットを走行するワイヤに押し当てて切断する工程とを備え、切断する工程は、インゴットの径方向の中心部分においてのみ、切断開始及び切断完了付近よりもワイヤの繰り出し速度を速くする基板の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の基板の製造方法によれば、インゴット中心部におけるワイヤの繰り出し速度を速くしているので、ワイヤの磨耗が小さく、ワイヤのブレを低減することができることから、得られる基板の切断面の反りを小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−188721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の基板の製造方法においては、非常に硬いGaN等の化合物半導体をスライスする場合において、経済的観点から切断速度を速くした場合に、得られる基板の切断面の凹凸が大きくなる場合、又は切断による結晶表面のダメージが大きくなる場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高精度な化合物半導体単結晶基板を製造できる化合物半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、化合物半導体としてのGaN単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、インゴットを切断部材で切断してGaN単結晶基板を形成する切断工程とを備え、切断工程は、インゴットと切断部材との接触部分の温度を160℃以下に制御してインゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法が提供される。
【0008】
また、GaN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaは、9μm以下が好ましい。
【0009】
また、本発明は上記目的を達成するため、化合物半導体としてのAlN単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、インゴットを切断部材で切断してAlN単結晶基板を形成する切断工程とを備え、切断工程は、インゴットと切断部材との接触部分の温度を200℃以下に制御してインゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法が提供される。
【0010】
また、AlN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaは、9μm以下が好ましい。
【0011】
また、本発明は上記目的を達成するため、化合物半導体としてのSiC単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、インゴットを切断部材で切断してSiC単結晶基板を形成する切断工程とを備え、切断工程は、インゴットと切断部材との接触部分の温度を240℃以下に制御してインゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法が提供される。
【0012】
また、SiC単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaは、18μm以下が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る化合物半導体基板の製造方法によれば、高精度な化合物半導体単結晶基板を製造できる化合物半導体基板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造に用いられるワイヤソー装置の概要図である。
【図2】GaN単結晶の熱伝導率の温度依存性を示す図である。
【図3】GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す図である。
【図4】GaAsウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す図である。
【図5】GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を異なる切断速度毎に対比して示す図である。
【図6】AlNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す図である。
【図7】SiCウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る化合物半導体基板であるGaN基板の製造に用いられるワイヤソー装置の概要を示す。
【0016】
第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、化合物半導体としてのGaN単結晶からなるインゴット30からGaN単結晶基板を製造する方法である。GaN単結晶基板は、ワイヤソー装置1を用いてインゴット30の切り出し部分を冷却しながらインゴット30を切断することにより製造される。
【0017】
(ワイヤソー装置1の概要)
ワイヤソー装置1は切断部材としてのワイヤソー20を所定の方向に所定の速度で往復運動させるローラー10、ローラー12、及びローラー14と、GaNからなるインゴット30を保持する保持部55と、保持部55をワイヤソー20の方向に連続的に移動可能な送り部50と、少なくともワイヤソー20とインゴット30との接触部分32を冷却する冷却液42を接触部分32に向けて供給する冷却液供給部40とを備える。なお、冷却液42は、図示しない温度制御装置内において所定の循環速度で循環され、インゴット30の種類に応じて予め定められた温度に保持される。
【0018】
(GaN単結晶基板の製造方法)
まず、GaN単結晶からなるインゴット30を準備する(インゴット準備工程)。次に、インゴット30をワイヤソー装置1の保持部55に保持する(保持工程)。続いて、ローラー12乃至ローラー14に沿ってワイヤソー20を予め定められた速度で稼働させる。そして、送り部50を稼働させ、インゴット30をワイヤソー20に向けて所定の送り速度で近づける。この場合に、インゴット30とワイヤソー20との接触部分32に向けて、所定の温度に冷却した冷却液42を冷却液供給部40から吹き付ける。なお、ワイヤソー20の表面に砥粒が接着されていない場合、冷却液42には砥粒を含むスラリを用いることができる。一方、ワイヤソー20の表面に砥粒が接着されている場合、冷却液42には水性の冷却液を用いることができる。
【0019】
そして、インゴット30をワイヤソー20で切断してGaN単結晶基板を形成する(切断工程)。ここで、切断工程において冷却液42の所定の温度は、ワイヤソー20とインゴット30との接触による摩擦熱の放散が促進され、インゴット30の熱膨張が抑制される温度に設定する。具体的に、第1の実施の形態においては、接触部分32の温度が160℃以下、好ましくは140℃以下に制御することができる温度に冷却液42の温度は設定される。これにより、インゴット30とワイヤソー20との接触により発生する摩擦熱によるGaN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaが低減される。すなわち、第1の実施の形態においては、インゴット30をワイヤソー20によって切断、つまり、スライスする場合に接触部分32の温度を所定の温度以下に保つことにより、GaN単結晶の熱伝導率を高めてワイヤソー20とインゴット30との接触による摩擦熱の放散を促進させることにより、インゴット30、及び切断中のGaNウェハの熱膨張が抑制される。
【0020】
(発明者が得た知見)
第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、接触部分32をインゴット30の種類に応じて所定の温度以下に制御する手法であるが、斯かる手法は発明者が得た以下の知見によるものである。
【0021】
すなわち、ワイヤソー装置1は、高速で往復運動するワイヤソー20に化合物半導体単結晶からなるインゴット30をゆっくりと押しつけることによりインゴット30を切断する装置である。この場合において、インゴット30とワイヤソー20とが高速で擦れ合うので、接触部分32において大きな摩擦熱が発生する。摩擦熱が発生すると接触部分32付近の結晶が熱膨張する。ここで、摩擦熱を速やかに放散させない場合、接触部分32の温度が徐々に変化する(例えば、徐々に上昇する)ので、結晶の熱膨張の程度を制御できず、切断して得られる単結晶基板の表面、すなわち、切断面に凹凸が発生する原因になるという知見を本発明者は得た。また、摩擦熱によりインゴット30の内部における温度の不均一が生じた場合、インゴット30から複数枚の単結晶基板を切り出した場合において、単結晶基板毎に切断面の凹凸が大きくばらつく原因にもなるという知見も本発明者は得た。
【0022】
接触部分32における摩擦熱を放散させるには、接触部分32を冷却することが考えられる。例えば、砥粒を含んだスラリを接触部分32に供給しながらインゴット30を切断する遊離砥粒型の切断方法の場合、スラリにより接触部分32を冷却する。また、表面に砥粒が接着されたワイヤソー20によりインゴット30を切断する固定砥粒型の切断方法の場合、冷却液を接触部分32に供給する。そこで、本実施の形態に係るワイヤソー装置1は、所定の温度に制御された冷却液42を接触部分32に供給する冷却液供給部40を備える。
【0023】
ここで、本発明者は、化合物半導体(すなわち、GaN、AlN、及びSiC)の熱伝導率に着目した。化合物半導体結晶の室温における熱伝導率は、表1に示すように、他の化合物半導体(例えば、GaAs等)に比べて非常に大きい。しかしながら、化合物半導体の熱伝導率は、温度が上昇するにつれて減少する。例えば、図2にGaN単結晶の熱伝導率の温度依存性を示す。なお、以下の説明においてGaN、AlN、及びSiCを高熱伝導率の化合物半導体と、GaAs、ZnSe、GaP、及びInPを低熱伝導率の化合物半導体と称する。
【0024】
【表1】

【0025】
図2は、GaN単結晶の熱伝導率の温度依存性を示す。
【0026】
図2を参照すると分かるようにGaN単結晶の熱伝導率は、200℃において室温の約1/2に減少しており、800℃では室温の約1/4程度に減少する。GaAs、GaP等の低熱伝導率を示す他の化合物半導体の熱伝導率も温度の上昇につれて減少するので、200℃、800℃等の高温であってもGaN、AlN、及びSiCの熱伝導率はGaAs等に比べて相対的に大きい。しかしながら、高熱伝導率の化合物半導体の熱伝導率と、低熱伝導率の化合物半導体の熱伝導率との差は小さくなる。したがって、接触部分32の温度が高温の場合には、切断対象たるインゴット30を構成する化合物半導体の種類によらず、摩擦熱の放散には大きな差が生じない。しかしながら、摩擦熱を適切に放散させ、接触部分32の温度を下げた場合、高熱伝導率の化合物半導体の熱伝導率は非常に大きくなるので、摩擦熱を適切に放散させ得るという知見を本発明者は得た。
【0027】
そこで、本発明者は、接触部分32を冷却すると共に、インゴット30を構成する化合物半導体の種類に応じて接触部分32の温度を所定の温度以下に制御することにより、摩擦熱を速やかに放散させて、摩擦熱による結晶の熱膨張の変動を抑制できることに想到したものである。
【0028】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、化合物半導体としてのGaNからなるインゴット30とワイヤソー20との接触部分32の温度を適切な温度(具体的には、160℃以下)に制御するので、GaN単結晶の熱伝導率の低下が抑制され、インゴット30の切断中に発生する摩擦熱が効率よく放散される。これにより、切断中のインゴット30の熱膨張収縮を抑制でき、切断中におけるGaN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaが抑制されるので、インゴット30から得られるGaN単結晶基板の切断面の凹凸を小さくでき、高精度で高速な切断を実現できる。
【0029】
また、第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法によれば、切断面の凹凸を抑制できると共に、切断面の結晶のダメージを抑制できるので、スライス後の研磨工程における表面の除去量を少なくでき、1つのインゴットから切り出せる単結晶基板の枚数を増加させることができると共に、その後の研磨工程に要する時間も短縮することができる。したがって、第1の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法によれば、低コストでGaN単結晶基板を提供することができる。
【0030】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、化合物半導体としての窒化アルミニウム(AlN)単結晶の基板を製造する方法である。第2の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、第1の実施の形態と異なり、切断対象がAlNからなるインゴット30であり、接触部分32の温度を200℃以下に制御する点を除き、第1の実施の形態と同様の工程を備える。すなわち、第2の実施の形態においては、ワイヤソー装置1によりAlNからなるインゴットを切断する場合における当該インゴットとワイヤソー20との接触部分の温度を200℃以下、好ましくは160℃以下に制御する。
これにより、AlNからなるインゴットとワイヤソー20との接触により発生する摩擦熱によるAlN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaを低減する。
【0031】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、化合物半導体としての炭化ケイ素(SiC)単結晶の基板を製造する方法である。第3の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、第1の実施の形態と異なり、切断対象がSiCからなるインゴット30であり、接触部分32の温度を240℃以下に制御する点を除き、第1の実施の形態と同様の工程を備える。すなわち、第3の実施の形態においては、ワイヤソー装置1によりSiCからなるインゴットを切断する場合における当該インゴットとワイヤソー20との接触部分の温度を240℃以下、好ましくは200℃以下に制御する。これにより、SiCからなるインゴットとワイヤソー20との接触により発生する摩擦熱によるSiC単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaを低減する。
【0032】
[変形例]
第1〜第3の実施の形態においてはGaN、AlN、及びSiCについてのみ説明したが、高熱伝導率・硬質脆性材料についても第1〜第3の実施の形態に係る化合物半導体基板の製造方法を適用できる。また、インゴット30のスライスの方向はc面に平行な場合のみならず、任意の結晶面のスライスに適用できる。
【実施例1】
【0033】
実施例1においてはGaNからなるインゴットからGaN単結晶を製造した。具体的に、φ50mm、厚さ10mmのc面を主面とするGaN単結晶のインゴット30を、固定砥粒型のワイヤソー20を用いてスライスした。ワイヤソー20としては、線径250μmのダイヤモンド電着ワイヤソーを用いた。そして、ワイヤソー20とインゴット30との接触部分32に、一定温度に制御した水性冷却液を吹きかけながらインゴット30をスライスした。なお、水性冷却液としては、水を主成分とする冷却液を用いることができる。また、ワイヤソー20のワイヤ走行速度は330m/min、切断速度(すなわち、送り部50の送り速度)は2mm/hに設定した。その結果、厚さ約0.6mmのGaNウェハを10枚切り出すことができた。
【0034】
ここで、冷却液42の温度、冷却液42の循環速度、及びインゴット30への冷却液42の吹き付け位置を調整して、インゴット30とワイヤソー20との接触部分32の温度を100℃から220℃の間で変化させ、切り出して得られたGaNウェハの切断面の算術平均うねりWaを比較した。算術平均うねりWaとは、JIS B 0601:2001で規定される算術平均うねりをいう。算術平均うねりWaは、レーザ変位計を用い、得られたGaNウェハの切断面の表面形状を測定することにより算出した。測定条件は次の通りである。
(1)レーザ変位計のレーザスポット径:2μm
(2)カットオフ波長λc:0.08mm
(3)輪郭曲線フィルタ波長λf:40mm
(4)測定長さ:5mm(基準長さ) x 9(回数) = 45mm
GaNウェハの中心を通る直線上において、GaNウェハの中心とGaNウェハの中心から両側にそれぞれ5mm、10mm、15mm、20mmの間隔で離れた8点の計9点の位置で、GaNウェハを切断した方向(ワイヤソーのワイヤが走行した方向に対して垂直方向)にレーザを移動させて測定した。GaNウェハの切断面は、表面と裏面の2つがあるが、どちらの面を測定しても同様な算術平均うねりWaの測定結果となった。
なお、接触部分32の温度は、インゴット30の接触部分32の近傍に熱電対を埋め込んで測定した。また、接触部分32の温度は、冷却液42の温度、冷却液42の種類、冷却液42の吹き付け量、冷却液42の吹き付け位置を調整して制御した。
【0035】
図3は、GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す。
【0036】
GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaは接触部分32の温度の低下に伴って減少した。特に、接触部分32の温度が180℃以下において算術平均うねりWaの急激な減少が始まり、接触部分32の温度が160℃以下においては算術平均うねりWaが9μm以下になり飽和した。すなわち、接触部分32の温度が100℃以上160℃以下において算術平均うねりWaが9μm以下であるという良好な結果が得られた。また、接触部分32の温度が140℃以下において算術平均うねりWaが6μm未満であるという良好な結果が得られた。
【0037】
一方、比較としてGaAsインゴットに対して実施例1と同様の実験を実施した。その結果を図4に示す。
【0038】
図4は、GaAsウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す。
【0039】
GaNの場合と同様に温度の低下に伴ってGaAsウェハの切断面の算術平均うねりWaが小さくなる傾向を示した。しかしながら、GaNのように算術平均うねりWaが急激に減少することはなかった。
すなわち、インゴット30がGaNの場合、GaAs等の低熱伝導率の化合物半導体とは異なり、接触部分32の温度を低下させることによってアズスライスウェハ、すなわち、インゴット30のスライスにより得られるGaNウェハの切断面の算術平均うねりWaが急激に減少する領域があり、特に、接触部分32の温度を140℃以下にすることによって算術平均うねりWaを非常に小さくすることができることが示された。
【実施例2】
【0040】
実施例2では、GaNからなるインゴット30からGaNウェハを製造する場合に、切断速度を1mm/h、2mm/h(すなわち、実施例1と同一速度)、及び4mm/hの範囲で変化させて、実施例1と同様にしてGaNウェハを製造して、GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaを比較した。その結果を図5に示す。
【0041】
図5は、GaNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を異なる切断速度毎に対比して示す。
【0042】
図5を参照すると分かるように、切断速度が大きいほど算術平均うねりWaは大きいものの、何れの切断速度においても接触部分32の温度を160℃以下に保つことによって算術平均うねりWaが18μm以下という良好な結果が得られることが示された。
【実施例3】
【0043】
実施例3においてはAlNからなるインゴットからAlN単結晶を製造した。具体的に、φ1.5インチ、厚さ20mmのAlN単結晶のインゴット30を、固定砥粒型のワイヤソー20を用いてスライスした。ワイヤソー20としては、線径250μmのダイヤモンド電着ワイヤソーを用いた。そして、ワイヤソー20とインゴット30との接触部分32に、一定温度に制御した水性冷却液を吹きかけながらインゴット30をスライスした。
なお、ワイヤソー20のワイヤ走行速度は330m/min、切断速度は2mm/hに設定した。その結果、厚さ約0.6mmのAlNウェハを21枚切り出すことができた。
【0044】
ここで、冷却液42の温度、冷却液42の循環速度、及びインゴット30への冷却液42の吹き付け位置を調整して、インゴット30とワイヤソー20との接触部分32の温度を120℃から260℃の間で変化させ、切り出して得られたAlNウェハの切断面の算術平均うねりWaを比較した。なお、接触部分32の温度は実施例1と同様に、インゴット30の接触部分32の近傍に熱電対を埋め込んで測定した。
【0045】
図6は、AlNウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す。
【0046】
AlNウェハの切断面の算術平均うねりWaは接触部分32の温度の低下に伴って減少した。特に、接触部分32の温度が220℃以下において算術平均うねりWaの急激な減少が始まり、接触部分32の温度が200℃以下においては算術平均うねりWaが9μm以下になって飽和した。すなわち、接触部分32の温度が120℃以上200℃以下において良好な結果が得られた。したがって、AlNからなるインゴット30の場合においても実施例1と同様に、接触部分32の温度を低下させることによりアズスライスウェハの切断面の算術平均うねりWaが急激に減少する領域があり、特に、接触部分32の温度を160℃以下にすることによって算術平均うねりWaを6μm以下に非常に小さくすることができることが示された。
【実施例4】
【0047】
実施例4においてはSiCからなるインゴットからSiC単結晶を製造した。具体的に、φ3インチ、厚さ30mmの6H−SiC単結晶のインゴット30を、固定砥粒型のワイヤソー20を用いてスライスした。ワイヤソー20としては、線径250μmのダイヤモンド電着ワイヤソーを用いた。そして、ワイヤソー20とインゴット30との接触部分32に、一定温度に制御した水性冷却液を吹きかけながらインゴット30をスライスした。なお、ワイヤソー20のワイヤ走行速度は330m/min、切断速度は2mm/hに設定した。その結果、厚さ約0.6mmのSiCウェハを32枚切り出すことができた。
【0048】
ここで、冷却液42の温度、冷却液42の循環速度、及びインゴット30への冷却液42の吹き付け位置を調整して、インゴット30とワイヤソー20との接触部分32の温度を150℃から300℃の間で変化させ、切り出して得られたSiCウェハの切断面の算術平均うねりWaを比較した。なお、接触部分32の温度は実施例1と同様に、インゴット30の接触部分32の近傍に熱電対を埋め込んで測定した。
【0049】
図7は、SiCウェハの切断面の算術平均うねりWaと接触部分の温度との関係を示す。
【0050】
SiCウェハの切断面の算術平均うねりWaは接触部分32の温度の低下に伴って減少した。特に、接触部分32の温度が240℃以下において算術平均うねりWaが18μm以下となり、算術平均うねりWaの急激な減少が始まり、接触部分32の温度が200℃以下においては算術平均うねりWaが12μm未満になって飽和した。すなわち、接触部分32の温度が150℃以上240℃以下において良好な結果が得られた。したがって、SiCからなるインゴット30の場合においても実施例1及び実施例3と同様に、接触部分32の温度を低下させることによりアズスライスウェハの切断面の算術平均うねりWaが急激に減少する領域があり、特に、接触部分32の温度を200℃以下にすることによって算術平均うねりWaを非常に小さくすることができることが示された。
【0051】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0052】
1 ワイヤソー装置
10、12、14 ローラー
20 ワイヤソー
30 インゴット
32 接触部分
40 冷却液供給部
42 冷却液
50 送り部
55 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体としてのGaN単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、
前記インゴットを切断部材で切断してGaN単結晶基板を形成する切断工程とを備え、
前記切断工程は、前記インゴットと前記切断部材との接触部分の温度を160℃以下に制御して前記インゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記GaN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaが9μm以下である請求項1に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
化合物半導体としてのAlN単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、
前記インゴットを切断部材で切断してAlN単結晶基板を形成する切断工程とを備え、
前記切断工程は、前記インゴットと前記切断部材との接触部分の温度を200℃以下に制御して前記インゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記AlN単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaが9μm以下である請求項3に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
化合物半導体としてのSiC単結晶のインゴットを準備するインゴット準備工程と、
前記インゴットを切断部材で切断してSiC単結晶基板を形成する切断工程とを備え、
前記切断工程は、前記インゴットと前記切断部材との接触部分の温度を240℃以下に制御して前記インゴットを切断する化合物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記SiC単結晶基板の切断面の算術平均うねりWaが18μm以下である請求項5に記載の化合物半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−9700(P2011−9700A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65786(P2010−65786)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】