説明

化粧料の製造方法

【課題】油性成分の含有量が高い場合においても、油性成分の粒子を均一に微細化させ得る化粧料の製造方法を提供すること。
【解決手段】25℃において固体の油性成分を1種以上含む配合原料を加熱下に混合させて流動体となし、得られた流動体を冷却する工程を有する化粧料の製造方法である。管状のケーシング41内に、駆動軸42と、該駆動軸42に取り付けられた攪拌羽根43とからなる攪拌体44を備え、該駆動軸42が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置40を用いて冷却を行う。振動式攪拌混合装置40内を通過させることで前記流動体を連続的に前記油性成分の固化温度以下まで冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス等の油性成分を含む化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品は、一般に人の身体の外観を美しくするために用いられる。特にマスカラのような化粧品は、これをまつ毛や眉毛にコーティングすることにより、毛の形を整え、目元に存在感を付与することを目的として用いられる。これらの化粧料は、ワックス、皮膜形成剤、顔料などを主な成分とし、化粧品としての良好な使用感、機能性を発揮させるために、種々の性質を持つ原料の配合検討がなされてきた。
【0003】
近年、まつ毛への付着性を高め、カールアップやボリュームアップなどの化粧効果を高めるために、また、化粧効果を持続させるために、ワックスの配合量が増加傾向にある。しかしながらワックスを増量すると、加熱混合工程後の冷却工程中で激しい増粘が起こる。そのため、一般的なアジホモミキサー等のバッチ式混合装置では、配合槽内を均一に攪拌することが困難になる。その結果、ワックス粒子同士が強いネットワーク構造を形成し、それによって化粧料の粘度が非常に高くなり、ワックス粒子の粗大化や分散不良が起こり、使用感の悪化、化粧効果の低下、生産性の低下、品質の振れなどの問題が発生した。
【0004】
これらの問題を解決するために、例えば、二軸ブレンダー(スクリューエクストルーダーミキサー)を用いて、ワックスの融点より高い温度から環境温度へと連続的に冷却しながら、連続的にブレンドする製造方法が提案されている(特許文献1ないし3参照)。しかしながら、これらの方法では、ワックスの融点より高い温度からワックスの固化開始温度までは予備混合液の粘度が低いので、二軸ブレンダーでは十分な攪拌を与えることができず、ワックスの粗大粒子を発生しやすい。また、ワックスが固化を開始し、混合物の粘度が上昇すると、二軸ブレンダーで良好な混練が成される反面、混練により発生する熱で、ワックス粒子の融着が発生し、良好なワックス分散物が得られなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平07−206641号公報
【特許文献2】特開2005−53915号公報
【特許文献3】特開2005−53918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る化粧料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、25℃において固体の油性成分を1種以上含む配合原料を加熱下に混合させて流動体となし、得られた流動体を冷却する工程を有する化粧料の製造方法であって、
管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、該駆動軸が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置を用い、該振動式攪拌混合装置内を通過させることで前記流動体を連続的に前記油性成分の固化温度以下まで冷却する化粧料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、25℃において固体の油性成分の含有量が高い場合においても、油性成分の粒子が均一微細化され、使用感が良好で、つやが高く、仕上がりが良く、化粧効果が高く、安定性の良好な化粧料を、高冷却速度で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の方法に好適に用いられる装置の概略図が示されている。図1に示す装置10は、加熱混合部20及び冷却部30に大別される。加熱混合部20には、目的とする化粧料の配合原料のすべて又は一部が充填され、充填された原料を加熱下に混合するために用いられるものである。冷却部30は、加熱混合された混合物を冷却し、目的とする化粧料を得るために用いられるものである。
【0010】
加熱混合部20は混合タンク21を備えている。混合タンク21は、ジャケット22によって加熱又は冷却され、所定温度に調整される。混合タンク21内には攪拌翼23が設置されている。攪拌翼23は、シャフト24を介して混合タンク21外に設置されたモータ25に接続されており、回転可能になっている。混合タンク21の底部には、該タンク21内で混合された流動体を取り出すための管26が接続されている。管26は弁27を介してモーノポンプ等からなる定量ポンプ28に接続されている。定量ポンプ28は、管29を通じて流動体を冷却部30に定量供給するために用いられる。
【0011】
冷却部30は、振動式攪拌混合装置40を備えている。振動式攪拌混合装置40は、略筒状の構造を有し、その一端側に、管29に接続された流入口31を有し、他端側に吐出口32を有している。吐出口32は吐出用管33に接続されている。加熱混合部20から供給された流動体は、流入口31を通じて振動式攪拌混合装置40内に供給され、該装置40内を通過し、吐出口32を通じて吐出用管33の端部から吐出される。該流動体は、振動式攪拌混合装置40内を通過する間に、更に混合されると共に連続的に冷却される。連続的な冷却を行うために、振動式攪拌混合装置40には、流入口31側から吐出口32側に向けて4つのジャケット34,35,36,37がこの順で取り付けられている。各ジャケットにはそれぞれ冷却水が循環するようになっている。冷却水の温度は、適宣設定することが可能であり、これらのジャケットによって、流動体を流入口31側から吐出口32側に向けて連続的又は段階的に冷却することができる。
【0012】
図2には、振動式攪拌混合装置40の縦断面の模式図が示されている。装置40は、管状のケーシング41内に、駆動軸42と、該駆動軸42に取り付けられた攪拌羽根43とからなる攪拌体44を備えている。駆動軸42は、バイブレータ45aによって軸方向に沿って上下振動するようになされている。
【0013】
ケーシング41は、その横断面が円形である管状のものであり、その下部付近に流入口31が設けられている。ケーシング41の上部付近には吐出口32が設けられている。流入口31から流入した混合物は、ケーシング41内を通り、吐出口32から吐出される。
【0014】
ケーシング41内には、上述の攪拌体44が配されている。攪拌体44の駆動軸42は、ケーシング41の長手方向(縦方向)に延びている。駆動軸42の上端は、ジョイント45bを介してバイブレータ45aに接続されている。バイブレータ45aは、モータ(図示せず)とその出力軸に接続された公知のカム機構(図示せず)を備えている。カム機構は、回転部(図示せず)と揺動部(図示せず)からなる。回転部は、モータの出力軸に対して偏心して取り付けられている。揺動部は、回転部の偏心回転によって揺動するようになっている。そして、揺動部の揺動が駆動軸42に上下振動として伝達される。
【0015】
ケーシング41の内壁には、円環状の仕切部46が複数設けられている。仕切部46は何れも同形であり、ケーシング41の内壁から水平方向へ突出している。仕切部46の中央に形成された円孔には、駆動軸42が挿入される。この円孔の直径は、駆動軸42の直径よりも大きくなっている。隣り合う2つの仕切部によってケーシング41の内部は複数の混合室47が画成される。混合室47は、ケーシング41の長手方向(縦方向)に沿って直列配置される。
【0016】
図3(a)及び(b)には、攪拌体44の要部拡大図が示されている。攪拌体44は、駆動軸42とその周面に螺旋状に取り付けられた攪拌羽根43とを備えている。同図においては、攪拌羽根43は3周の螺旋状に取り付けられている。この状態の攪拌体44を一組として、ケーシング内には、各混合室47内に攪拌体44が配されている。したがって攪拌体44の組数は、混合室47の数と同じになっている。それぞれの組の攪拌体44において、攪拌羽根43の螺旋の方向は同じになっている。
【0017】
それぞれの組の攪拌体44における攪拌羽根43には1個以上の開孔48及び/又は1個以上の切り欠き49が設けられている。開孔48及び切り欠き49は、攪拌体44を駆動軸42の軸心方向からみたときに(図3(a)参照)、上下で隣り合う攪拌羽根どうしで形成位置が一致しないように設けられている。この理由は、軸方向での短絡流の発生を防止して、攪拌混合効果を高めるためである。
【0018】
以上のとおりの構成を有する振動式攪拌混合装置40としては、例えば特開平4−235729号公報に記載のもの等を用いることができる。また振動式攪拌混合装置40として市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えば冷化工業(株)製のバイブロミキサー(登録商標)が挙げられる。
【0019】
以上の構成を有する装置10を用いた化粧料の製造方法について説明すると、先ず混合タンク21内に目的とする化粧料の配合原料のすべて又は一部を充填する。化粧料の配合原料の一部を充填する場合には、該配合原料の残部は、後述するように、振動式攪拌混合装置40の途中から供給することができる。
【0020】
混合タンク21に充填される配合原料には、25℃において固体である油性成分が少なくとも含まれている。この油性成分は配合原料中に1種類以上含まれている。配合原料の充填が完了したら、混合タンク21を加熱して配合原料中に含まれている油性成分を溶融状態にする。加熱温度は、油性成分の融点に応じて適宜設定することができる。一般的には最も融点の高い油性成分の融点よりも10℃程度高めに設定することが好ましい。加熱によって固体成分が融解し、配合原料全体が溶融して流動体となる。この状態下に攪拌翼23を回転させることで混合タンク21内を攪拌し、配合原料を十分に均一混合、或いは、乳化分散させる。
【0021】
混合タンク21には、予め加熱溶融した原料を、攪拌羽根23で攪拌下に導入してもよい。また、油性成分と水性成分をそれぞれ予め調製しておき、それらをディスパーやホモミキサー等を用いて混合乳化してもよい。
【0022】
配合原料が十分に混合したら、混合タンク21の底部に取り付けられた弁27を開き、タンク21内の流動体を取り出す。流動体は定量ポンプ28に導入され、その一定量が振動式攪拌混合装置40に供給される。また、定量ポンプ28には、該流動体が振動式攪拌混合装置40内を通過するための押し出し圧力源としての働きもある。振動型攪拌装置40へ導入される流動体の粘度は、導入される温度において、5〜10000mPa・s、特に10〜1000mPa・sであることが好ましい。
【0023】
なお、図1には示していないが、混合タンク21で得られた流動体を直接に振動式攪拌混合装置40へ供給することに代えて、インラインホモミキサーやマイルダー等の連続式分散装置を通過させた後に振動式攪拌混合装置40へ供給してもよい。これらの装置を用いることによって油性成分が一層微細に分散した流動体を得ることができる。
【0024】
振動式攪拌混合装置40には、上述のとおり4つのジャケット34,35,36,37が取り付けられており、それぞれのジャケットには、所定温度の冷却水が循環して、流動体の冷却のための熱交換が行われる。例えば、ジャケット34には熱水が循環し約90℃に保たれており、ジャケット35は約45〜50℃に保たれている。残りの二つのジャケット36,37は何れも0〜10℃に保たれている。つまり振動式攪拌混合装置40には、その流入口31側から吐出口32側に向けて低下する温度勾配が設けられている。
【0025】
振動式攪拌混合装置40においては攪拌体44がその軸方向に沿って上下に振動することで、ケーシング41内を通過する流動体が攪拌体44に沿った流れと、攪拌羽根43に設けられた開孔48及び切り欠き49を通る流れの乱れによって混合される。ジャケット34に対応する位置に存在する流動体は、該ジャケット34が約90℃に保たれていることから流動性が高い状態になっているので、攪拌体44の振動によって混合が促進されて、上述の混合タンク21内での混合に引き続き再分散が行われる。
【0026】
次いで流動体は、ジャケット35に対応する位置まで押し出される。この位置の温度は、ジャケット34に対応する位置の温度よりも低いので、流動体は冷却されて、その流動性が低下する。この場合、流動体は、攪拌体44に沿った流れと、攪拌羽根43に設けられた開孔48及び切り欠き49を通る流れの乱れによって混合されながら冷却されるので、冷却むらが生じにくくなる。また混合されることで熱伝導性が良好になり、冷却速度が二軸ブレンダーを用いた従来法(特許文献1ないし3参照)よりも速くなる。更に振動式攪拌混合装置40内にはデッドスペースが殆ど存在しないので、攪拌むらが生じにくい。しかも振動式攪拌混合装置40は、二軸ブレンダーを用いた従来法と異なり、流動体の流動性が高い場合でも低い場合でも良好な攪拌混合を行うことができる。振動式攪拌混合装置40が有するこれらの利点は、流動体に含まれている油性成分の粒子を均一に微細化できるという好ましい効果をもたらす。その上、振動式攪拌混合装置40は、発熱量が小さいので、固化した油性成分の粒子が融着しやすいという二軸ブレンダーを用いた従来法が有する欠点がなく、油性成分の粒子を良好に分散させることが可能である。発熱量が小さいことは、温度制御が容易であるという点からも有利である。
【0027】
ジャケット35に対応する位置で冷却された流動体は、次いでジャケット36,37に対応する位置へ順次押し出され、当該位置で更に冷却される。このようにして、流動体は連続的に冷却され、目的とする化粧料が、振動式攪拌混合装置40の吐出口32を経て吐出用管33から吐出される。この状態での化粧料の温度は約30℃となる。
【0028】
なお、目的とする化粧料中に熱に弱い成分が含まれている場合や、熱により化粧料に悪影響を与える成分が含まれている場合には、当該成分を混合タンク21へ充填せず、振動式攪拌混合装置40の途中の位置から該装置40内に供給することで、熱に起因する不都合を回避することが可能である。例えば、ジャケット35に対応する位置においては、流動体はある程度冷却されているので、定量ポンプを用いて当該位置に前記の成分を供給することで、熱に起因する不都合を回避できる。振動式攪拌混合装置40による流動体の攪拌混合は、ほぼピストンフローなので、該装置40の途中から前記の成分を供給しても、該成分と流動体との混合を首尾良く行うことができる。前記の成分としては、例えばある種の活性剤、揮発成分、ラテックス、香料、植物性エキス、ワックス微分散物などの、温度変化しやすい成分が挙げられる。かかる成分の供給のために、振動式攪拌混合装置40の途中に補助注入口を1ヶ所又は複数設けることができる。
【0029】
振動式攪拌混合装置40を用いた冷却においては、平均冷却速度を0.1〜5℃/secに設定することが好ましい。平均冷却速度は、振動式攪拌混合装置40に流動体が入ったときの温度と出たときの温度の差を滞留時間で除した値である。また、振動式攪拌混合装置40の振動数は5〜30ストローク/secの範囲が好ましく、振幅は約6.5mmであることが好ましい。更に、振動式攪拌混合装置40で冷却される間に与えられる総振動量は、50〜100000ストローク、特に200〜20000ストロークであることが好ましい。
【0030】
このようにして得られた化粧料は、ワックス成分が微細に(例えば平均粒子径が20μm以下)分散されているので、塗布性能が良好であり、つやが高く、仕上がりが綺麗で化粧効果が高いものである。また、安定性が高いものである。
【0031】
また、得られた化粧料の25℃における弾性率は、100〜5,000,000Pa、特に1,000〜1,000,000Paであることが好ましい。弾性率は、応力制御型粘弾性測定装置MCR300(Physica社製)を用いて測定する。該装置は、プレート/プレート構造のステンレス鋼ローターを備え、該プレートは、25mmの直径と0.3mmのギャップ(下部プレート(ステータープレート)と上部プレート(ロータープレート)との間の距離)を有する。測定温度25℃、測定周波数1Hz、せん断応力1〜1000Paまで走査して測定し、せん断応力に対してひずみ量が線形領域にある領域の複素弾性率を、前記弾性率とする。
【0032】
次に、本発明で製造される化粧料の原料について説明する。混合タンク21に充填される配合原料には、上述のとおり、25℃において固体である油性成分が少なくとも含まれ、その代表的なものはワックスである。ワックスは、固体/液体の可逆変化をし、30〜150℃の融点を有するものを広く包含する。ワックスの融点は、好ましくは45〜150℃、特に好ましくは50〜150℃である。本発明においては、このワックスを1種、又は弾性率調整の点から2種以上用いることができる。配合原料中に含有されるワックスを含めた油性成分の量は、10〜70質量%、特に15〜60質量%であることが好ましい。化粧料の弾性率を高めることは、該化粧料を例えばマスカラとして用いた場合にカール性が良好になる点から好ましい。化粧料の弾性率を高めるためにはワックスの配合量を高くすればよいが、そのような処方を採用すると、従来法ではワックス粒子の粒径が大きくなってしまう。これに対して本発明の冷却方法を用いると、ワックスの配合量を高くしても、ワックス粒子の粒径を小さくすることが可能になる。
【0033】
前記のワックスの例としては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、シリコーンワックス、セレシン、カルナウバロウ、ライスワックス、ホホバワックス、キャンデリラロウ、鯨ロウ、ミツロウ、雪ロウ等が挙げられる。ワックス以外の油性成分としては、脂肪酸やそのエステル等が挙げられる。
【0034】
本発明により得られる化粧料は、前記の油性成分を含み、例えばO/Wエマルジョン又はW/Oエマルジョンからなる乳化化粧料とすることができる。或いは油性成分からなる油性化粧料とすることができる。
【0035】
乳化化粧料の場合、油相成分としては、前記のワックスのほか、高級アルコール、脂肪酸、揮発油剤などが含まれる。また、水相成分としては、例えば水や水溶性高分子が含まれる。
【0036】
更に、界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、化粧品一般に用いられる非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これら界面活性剤の含有量は0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%が更に好ましい。
【0037】
前述の各成分以外に、化粧料に通常使用される成分、例えば粉体成分を、前記配合原料に含有させることができる。粉体成分としては、コンジョウ、群青、ベンガラ、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化珪素、カーボンブラック、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイトなどの無機粉体;雲母チタン、酸化鉄雲母チタン、アルミニウムパウダー等の光輝性粉体;有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体;微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン等の複合粉体などが挙げられる。これらの粉体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。冷却に振動式攪拌混合装置を用いた本発明の製造方法によれば、強いせん断力がかからないので、特にせん断力により破砕しやすい光輝性粉体を破砕することなく高分散できるという利点がある。
【0038】
更に、高級アルコール、炭化水素油,シリコーン油などの油剤、水溶性高分子、アルコール類、多価アルコール類、薬剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、香料、酸化防止剤などを前記の配合原料中に含有させることができる。
【0039】
化粧料としてマスカラ液を製造する場合には、ロングラッシュ効果を高めるために、前記配合原料中に繊維を含有させることができる。該繊維としては、木綿、絹、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリオレフィン等の合成繊維の何れを使用してもよい。強度の点からは、ナイロンなどのポリアミド繊維が好ましい。更に必要に応じ、表面処理を施した繊維を使用してもよい。例えば、油相中での分散性を高めるために、シリカ処理、シリコーン処理、フッ素化合物処理、金属石鹸処理、油脂処理等の表面処理を施したものを使用できる。また、まつ毛への付着性の点から、該繊維は、繊度が1〜25texで、長さが0.1〜5mmのものが好ましい。繊維は、十分なロングラッシュ効果を得る点から、前記の配合原料中に0.1〜6質量%含有されることが好ましい。冷却に振動式攪拌混合装置を用いた本発明の製造方法によれば、繊維の分散性が良好になるという利点がある。
【0040】
なお、前記の粉体や繊維など、添加されるその他成分の全含有量は、通常、前記の配合原料に対して、1〜50質量%の範囲で適宜選定される。
【0041】
以上の方法によって製造された化粧料は、まつ毛又は眉毛のメイクアップ用として、具体的にはマスカラとして好適に用いられる。更に、着色顔料を含有したものだけでなく、いわゆるまつ毛用下地剤又はトップコートとしても使用できる。そのほか、皮膚若しくは唇をメイクアップするため又は治療するために用いられ得る軟質ペーストの形態の化粧料として使用することもできる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、振動式攪拌混合装置40を一台用いたが、これに代えて、図4に示すように、振動型攪拌混合装置40、40’を2台以上直列に連結して使用することができる。この場合、下流側に位置する2台目の振動型攪拌混合装置40’の途中から、熱に弱い成分等を供給することで、ワックスが固化するまでの攪拌条件と該成分の混合条件等をそれぞれ別個に適切に選択することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0044】
〔実施例1〕
表1の組成を有するO/Wマスカラを製造した。8〜13の成分を90℃で加熱混合した後、14の成分を添加しディスパーで分散して水相とした。1〜7の成分を95℃で加熱混合し油相とした。水相に油相を攪拌しながら添加しホモミキサーで乳化しO/W乳化物を得た。O/W乳化物を振動式攪拌混合装置(冷化工業(株)製のバイブロミキサー)へ定量ポンプで供給した。O/W乳化物を振動式攪拌混合装置内で攪拌しながら連続的に30℃以下まで冷却した。振動式攪拌混合装置においてはジャケット34の温度は90℃、ジャケット35の温度は45℃、ジャケット36の温度は0℃、ジャケット37の温度は0℃に設定した。平均冷却速度は0.7℃/secであった。また振動式攪拌混合装置の振動数は、20ストローク/sec、振幅は6.5mm、総振動量は1680ストロークであった。したがって、冷却所要時間は84秒であった。攪拌しながら連続的に冷却する過程で、所定量の15の成分を定量ポンプで振動式攪拌混合装置の途中から注入し(温度25℃)、攪拌しながら連続的に冷却を行いO/Wマスカラを得た。得られたO/Wマスカラの25℃における弾性率は30,000Paであった。
【0045】
【表1】

【0046】
〔比較例1〕
前記の表1の組成を有するO/Wマスカラをホモミキサーで冷却することにより製造した。8〜13の成分を90℃で加熱混合した後、14の成分を添加しディスパーで分散して水相とした。1〜7の成分を95℃で加熱混合し油相とした。水相に油相を攪拌しながら添加しホモミキサーで乳化しO/W乳化物を得た。このO/W乳化物をホモミキサーで攪拌しながら冷却し、40℃まで冷却したところで15の成分を添加した。更に30℃以下まで攪拌しながら冷却しO/Wマスカラを得た。平均冷却速度は0.02℃/secであり、冷却所要時間は約60分であった。
【0047】
〔比較例2〕
前記の表1の組成を有するO/Wマスカラをエクストルーダーで冷却することにより製造した。8〜13の成分を90℃で加熱混合した後、14の成分を添加しディスパーで分散して水相とした。1〜7の成分を95℃で加熱混合し油相とした。水相に油相を攪拌しながら添加しホモミキサーで乳化しO/W乳化物を得た。O/W乳化物を二軸エクストルーダーへ定量ポンプで供給し、連続的に混練しながら30℃以下まで冷却した。連続的に混連しながら冷却する過程で、15の成分を所定量、定量ポンプで二軸エクストルーダーの途中から注入し、連続的に混合しながら冷却を行いO/Wマスカラを得た。平均冷却速度は0.2℃/secであり、冷却所要時間は約5分であった。
【0048】
〔評価〕
実施例1並びに比較例1及び2で得られたO/Wマスカラについて、ワックスの粒径を光学顕微鏡で観察し、粗大粒子の有無を判定した。また、マスカラの実使用試験でのカール性、ダマのできにくさ、品質の振れ、保存安定性、作業性を以下の基準で評価した。その結果を以下の表2に示す。更に、実施例1及び比較例1で得られたO/Wマスカラの微分干渉顕微鏡像を図5及び図6に示す。
【0049】
〔カール性及びダマのできにくさ〕
10人の専門パネラーに、まつ毛に自由にマスカラを塗布させ、その仕上がりをパネラー自身に評価させた。評価基準は以下のとおりである。
・カール性
5:かなりカールする
4:ややカールする
3:普通
2:余りカールしない
1:まったくカールしない
・ダマのできにくさ
5:まったくダマができない
4:ダマができにくい
3:普通
2:ややダマができやすい
1:すぐにダマができる
【0050】
〔品質の振れ〕
抜き取りで10箇所硬度測定を行い、その振れ幅を標準偏差で評価した。硬度は、Φ10mmプランジャーを速度60mm/分でバルクに20mm押し込んだときの最大応力値で評価した。評価基準は以下のとおりである。
品質の振れが大きい:標準偏差が5以上
品質の振れが小さい:標準偏差が5未満
【0051】
〔保存安定性〕
40℃環境で1ヶ月静置保存後の硬度変化を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:硬度変化量が30cN未満
△:硬度変化量が30cN以上50cN未満
×:硬度変化量が50cN以上
【0052】
〔作業性〕
3人の専門オペレーターに、マスカラを試作してもらい、作業性を評価させた。評価基準は以下のとおりである。
◎:非常によい
○:ややよい
△:普通
×:悪い
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1で得られたO/Wマスカラは、比較例1及び2で得られたものよりも、ワックスの粗大粒子が少なく、またマスカラとしての特性に優れていることが判る。ワックスの粗大粒子が少ないことは、図5及び図6の結果から明らかである。更に品質の振れが小さく、保存安定性に優れていることも判る。
【0055】
〔実施例2〕
表3の組成を有するW/Oマスカラを製造した。1〜9の成分を95℃で加熱混合した後、14を添加しディスパーで分散して油相とした。これとは別に、10〜13の成分を65℃で加熱混合し水相とした。油相を振動式攪拌混合装置(冷化工業(株)製のバイブロミキサー)へ定量ポンプで供給した。油相を振動式攪拌混合装置内で攪拌しながら連続的に30℃以下まで冷却した。振動式攪拌混合装置においてはジャケット34の温度は95℃、ジャケット35の温度は45℃、ジャケット36の温度は0℃、ジャケット37の温度は0℃に設定した。平均冷却速度は0.5℃/secであった。また振動式攪拌混合装置の振動数は、20ストローク/sec、振幅は6.5mm、総振動量は1800ストロークであった。したがって、冷却所要時間は90秒であった。攪拌しながら連続的に冷却する過程で、所定量の水相を定量ポンプで振動式攪拌混合装置の途中から注入し(温度25℃)、攪拌しながら連続的に冷却を行いW/Oマスカラを得た。得られたW/Oマスカラの25℃における弾性率は30,000Paであった。
【0056】
【表3】

【0057】
〔比較例3〕
表3の組成を有するW/Oマスカラを調製した。1〜9の成分を95℃で加熱混合した後、14の成分を添加しディスパーで分散して油相とした。これとは別に、10〜13の成分を65℃で加熱混合し水相とした。油相をアジホモミキサーで攪拌しながら冷却し、65℃まで冷却したところで水相を添加し、乳化しながら30℃以下まで冷却し、W/Oマスカラを得た。平均冷却速度は0.02℃/secであり、冷却所要時間は約60分であった。
【0058】
〔比較例4〕
表3の組成を有するW/Oマスカラを調製した。1〜9の成分を95℃で加熱混合した後、14の成分を添加しディスパーで分散して油相とした。これとは別に、10〜13の成分を65℃で加熱混合し水相とした。油相を二軸エクストルーダーへ定量ポンプで供給し、連続的に混練しながら30℃以下まで冷却した。連続的に混連しながら冷却する過程で、水相を所定量、定量ポンプで二軸エクストルーダーの途中から注入し、連続的に乳化しながら冷却を行いW/Oマスカラを得た。平均冷却速度は0.2℃/secであり、冷却所要時間は約5分であった。
【0059】
〔評価〕
実施例2並びに比較例3及び4で得られたW/Oマスカラについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を以下の表4に示す。更に、実施例2及び比較例3で得られたW/Oマスカラの微分干渉顕微鏡像を図7及び図8に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示す結果から明らかなように、実施例2で得られたW/Oマスカラは、比較例3及び4で得られたものよりも、ワックスの粗大粒子が少なく、またマスカラとしての特性に優れていることが判る。ワックスの粗大粒子が少ないことは、図7及び図8の結果から明らかである。更に品質の振れが小さく、保存安定性に優れていることも判る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の製造方法を実施する好適な装置を示す概略図である。
【図2】図1に示す振動式攪拌混合装置の縦断面の模式図である。
【図3】図1に示す振動式攪拌混合装置における攪拌体の要部拡大図である。
【図4】本発明の製造方法を実施する別の好適な装置を示す概略図である。
【図5】実施例1で得られたO/Wマスカラの微分干渉顕微鏡像である。
【図6】比較例1で得られたO/Wマスカラの微分干渉顕微鏡像である。
【図7】実施例2で得られたW/Oマスカラの微分干渉顕微鏡像である。
【図8】比較例3で得られたW/Oマスカラの微分干渉顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0063】
10 装置
20 加熱混合部
30 冷却部
40 振動式攪拌混合装置
41 ケーシング
42 駆動軸
43 攪拌羽根
44 攪拌体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃において固体の油性成分を1種以上含む配合原料を加熱下に混合させて流動体となし、得られた流動体を冷却する工程を有する化粧料の製造方法であって、
管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、該駆動軸が軸方向に振動するようになされている振動式攪拌混合装置を用い、該振動式攪拌混合装置内を通過させることで前記流動体を連続的に前記油性成分の固化温度以下まで冷却する化粧料の製造方法。
【請求項2】
25℃において固体の前記油性成分を10〜70質量%含む前記配合原料を用いる請求項1記載の化粧料の製造方法。
【請求項3】
前記化粧料の25℃における弾性率が100〜5,000,000Paである請求項1又は2記載の化粧料の製造方法。
【請求項4】
前記振動式攪拌混合装置を用いた冷却工程における平均冷却速度を0.1〜5℃/secとする請求項1ないし3の何れかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の製造方法で得られた化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−214212(P2008−214212A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51073(P2007−51073)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】