説明

医療器具の保護コーティング

第1の材料から形成される膨張バルーンであって、同バルーンはその最上面を形成する少なくとも1つのプラズマ重合層を備えることと、その形成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に使用されるコーティング並びにその製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バルーンカテーテルは、カテーテルが膨張可能なバルーンを担持して、体腔を塞いで封止したり、バルーンを加圧し膨張させて血管を拡張させたりする周知の器具である。或いは、バルーンカテーテルは、一般的には医療分野における治療を目的とするものであるが、必ずしもそのような目的に限られる訳ではなく他の所望される目的にも使用され得る。PTCA処置等の血管形成術に使用される膨張バルーンカテーテルの場合には、カテーテルのバルーンは、通常、高い強度を備えた薄い材料から形成されるが、そのような材料は比較的低弾性である。カテーテルのバルーンを形成する材料の例には、2軸配向のポリエチレンテレフタレート(PET)のコポリマー、ナイロン等のポリアミド材料、ポリエーテル−ブロック−アミドのコポリマー等が含まれる。これらの材料は、高い強度を備えた可撓性を有する材料であり、可撓性を備えているものの弾性に欠けるため、外方へ向かって所定の径まで拡張すると、常圧においてそれ以上の拡径が停止されるので、過度の拡張により動脈壁への損傷を回避できるという利点を備える。
【0003】
バルーンによる血管形成術が、極めて薄い材料、高い強度(即ち、高い伸張性)を備え予測可能な膨張特性を有する比較的非弾性的な材料を必要とするので、バルーンがたとえ高い引張強度を有していても、摩耗等により破裂しやすいという共通の問題が生じる。ピンホールや破裂は、カテーテルのバルーンが粗面に接触して使用される場合には頻繁に起こる問題となる。また、バルーンは極めて薄い壁厚を有するように形成されるため、バルーンの型のわずかな傷によっても脆弱な部分が生じやすい。しかしながら、バルーンの壁厚を増加させることは実用的ではない。なぜならば、バルーンが固くなり過ぎると、曲げ弾性率が高くなり収縮時に適切に折り畳めないため、患者の血管系から容易に回収できなくなるからである。
【0004】
さらに、バルーンが薄壁であることが求められるのは、バルーンの壁と胴体部の厚さによりカテーテルの先端部の最小径が限定されて、そのような方法により治療可能な血管の寸法の範囲や血管系内をカテーテルが通過し易いかどうかが決定されるからである。高い強度が求められるのは、バルーンは狭窄部を押し広げるために使用されるので、この作業に必要な高い内部圧力により薄い壁を破裂させないようにするためである。バルーンは膨張した径を調節できるように多少の弾性を備えている必要があり、それにより外科医は個々の病巣を治療するために必要に応じてバルーンの径を変更できるが、その弾性はバルーンの径を容易に調節できるように比較的低くなければならない。圧力のわずかな違いにより、バルーンの径における大きな違いを生じてはならない。
【0005】
高い強度を有する2軸配向のポリエチレンテレフタレート(PET)やナイロン等のポリアミドやポリアミドのコポリマーは、弾性が低くなりがちであり復元力において劣る。バルーンカテーテルは、ポリオレフィンやポリオレフィンのコポリマー等のより弾性を有する材料から形成されてもよいが、通常は、高い引張強度を得るために、バルーンの壁をより厚くする必要がある。
【0006】
コーティングは、バルーンの表面を変化させるために使用されて摩耗抵抗や突刺強度を向上させるが、そのようなコーティングはバルーンの壁厚を増加させるので、その可撓性が減少して剛性や曲げ弾性率が増加する。このように増加した剛性や曲げ弾性率により、患者の血管系からの回収を容易にするためにバルーンを収縮させても適切に折り畳めない。
【0007】
コーティングは、潤滑性を増加させるといった他の目的や治療薬を搬送するために使用され得る。通常、そのようなコーティングは、ディッピング、ブラッシング、ペインティング等の方法により施される。
【0008】
特許文献1は真空蒸着加工により形成されるバルーンを開示している。
また、特許文献2は、医療器具上に中間層をプラズマ重合させ、次にその中間層を生体適合性を有するコーティングと反応させて、その生物学的コーティングを最適な状態で接着させることを開示している。
【0009】
改良されたバルーンカテーテルを提供する材料や方法が依然必要とされている。そのようなバルーンカテーテルは、薄壁ではあるが耐性や摩耗抵抗や引裂抵抗を備える表面を有することにより、ピンホールの形成に対する抵抗力を向上させ、さらに比較的可撓性を備えながらも非弾性的であることにより、バルーンが所定の径まで外方へ拡張した後は常圧においてそれ以上拡張しないようにできるので、過度の拡張に起因する動脈壁への損傷を回避できる。
【特許文献1】米国特許第6287277号明細書
【特許文献2】米国特許第5451428号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記した問題を解決することができる医療器具の保護コーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様において、本発明は、患者の体外で操作できるようになされた基端部と先端部とを有する植込み可能な医療器具に関する。同医療器具は、基端部と先端部との間に延びる長尺状の本体と、その本体の先端部に位置するポリマーからなる拡張可能な部分とを備える。さらに、拡張可能な部分は、その最外層を形成する少なくとも1つの第1プラズマ重合層を有する。拡張可能な部分は、血管形成術に使用されるような膨張バルーンである。幾つかの実施例においては、複数のプラズマ重合層が使用される。
【0012】
プラズマ重合層は、ガス状の、高周波を放射する電磁放射線供給源に触れるとプラズマ重合を行うモノマーを使用して形成される。「プラズマ」とは、その中に高い反応性を有するフリーラジカル及び/又はイオンが存在する部分的にイオン化された気体(ガス)のことである。ガス状のモノマーは、医療器具の表面上で縮合及び架橋する。架橋密度は、供給されるモノマーの量や、プラズマ重合が行われる条件により調節できる。
【0013】
本発明において、バルーンの表面に保護コーティングを施すための有用性が見いだされる。
また、本発明において、特定のプラズマ重合されたコーティングにより向上した摩耗抵抗が付与されることが確認された。
【0014】
さらに、本発明は、カテーテルのバルーンの表面に摩耗抵抗を有するコーティングを施すための方法に関する。同方法は、バルーンを少なくとも1つの第1のガス状モノマー組成物に接触させる工程と、そのガス状モノマーを電磁波に接触させてプラズマを生成する工程を含む。モノマーは、カテーテルバルーンの表面上で縮合及び架橋してバルーンの表面に少なくとも1つの第1プラズマ重合層を形成する。第1プラズマ重合層は、カテーテルバルーンの最外層を形成する。
【0015】
また、第2プラズマ重合層も同様にバルーンの表面に施され得る。第2の層は、第1プラズマ重合層とカテーテルバルーンとの間に形成される。一実施例においては、第2の層は摩耗抵抗を有するコーティングであり、第1プラズマ重合層はより軟質のコーティングである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は多くの異なる態様にて実施可能であるが、本明細書においては特定の実施形態について詳細に説明する。この説明は本発明の原理を例示するものであり、本発明を例示された特定の実施形態に限定するものではない。
【0017】
図1において、符号10は本発明に係る膨張バルーンの膨張した状態を示す。各図面においては、線や寸法は同じ縮尺比で示されていない。これらの図面は説明のために示したものである。バルーン10は、本体24、円錐部26、胴体部22を有する。この特定の実施例において、バルーン10の基端部28は、接着剤や溶接といった接合方法により、先端側の外チューブ12に固定され、バルーン10の先端部29は、内チューブ13の先端部に固定されている。本実施例におけるバルーンは、その摩耗抵抗や突刺強度を向上させる材料からなる単一のプラズマ重合層15を備える。
【0018】
当業者には、他に多数のバルーン形状があることや、本発明が特定の一形状に限定されるべきでないことは理解されよう。図面は説明のためにだけ示されるものである。
図2は、図1に示されたバルーンと同じタイプのバルーン構成を示す断面図である。しかしながら、本実施の形態においては、バルーン10は、バルーンと第1プラズマ重合層15との間に位置する第2プラズマ重合層17を備える。第2プラズマ重合層17は、バルーンに摩耗抵抗や突刺強度を付与し、第1のプラズマ重合された外層15は、ステントを把持するための良好な表面を提供する。よって、第1のプラズマ重合された外層15は、第2のプラズマ重合された中間層17よりも比較的軟質である。
【0019】
図3は、本発明による可撓性を有する長尺状のシャフト12と膨張可能なバルーン10とを備えるバルーンカテーテル20を示す。カテーテル20は、基端部30と先端部32とを備える。膨張可能なバルーン10は、長尺状のシャフト12の先端部32に取り付けられている。本明細書に明記する場合を除いて、カテーテル20は、その構成において従来通りであり、バルーンを伸縮させるためにバルーン10の内部と連通する管腔や、膨張カテーテルの分野において常用の他の任意の特徴を備える。バルーン10は、膨張した状態において図示されており、本体24、円錐部26及び胴体部22を有する。バルーンは、本体24、円錐部26及び胴体部22上に単一のプラズマ重合層15を有している。バルーンは、任意で複数のプラズマ重合層を有することも可能である。本実施の形態においては、単一のプラズマ重合層は、堅固な摩耗抵抗を有するコーティングを提供する。医療処置中に、基端部30は、患者の体外に留まり、通常は体外から装置の先端部32を操作するための手段(図示せず)を備える。
【0020】
図4は、ステント40と結合している図3のバルーンを示す断面図である。
本発明によるコーティングは、プラズマ重合として知られている技術を使用してバルーンに施されている。プラズマが蒸着されるバルーンは、真空のプラズマ蒸着チャンバ内に配置される。蒸着チャンバは耐圧であり、チャンバ内が真空状態となるように大気圧より低い圧力が付与されることが望ましい。通常の圧力は、10−5バール−10−2バールである。プラズマ重合に使用されるチャンバは、当技術分野において知られている。次に、ガス状のモノマーが、チャンバ内に導入される。エネルギー供給源即ち電磁放射線が高周波をチャンバ内に照射してプラズマを生成する。
【0021】
プラズマ重合は、非平衡イオン化ガスプラズマを使用して行われる。「プラズマ」とは、その中にフリーラジカル及び/又はイオンが存在する部分的にイオン化されたガスのことである。フリーラジカルは、高い反応性を有する化学種であって、帯電せずに(carrying no charge)軌道上に1個の不対電子を有するが、陽イオンは、正に帯電したイオン即ち1個以上の電子を失った原子や原子の集まりのことであり、陰イオンは、負に帯電したイオン即ち1個以上の電子を付加された原子や原子の集まりのことである。
【0022】
しかしながら、ほとんどの重合処理は、プラズマがない状態で完了される。ガス状モノマーは、物品即ちバルーン上で高度に架橋された層として縮合する。このようにして高分子量ポリマーが形成される。
【0023】
イオン化ガスプラズマを生成することは、プラズマを生成する任意の周知の技術により行われてもよい。例えば、ジェイ.アール.ホラハン及びエー.ティー.ベル編集「プラズマ化学の応用技術」ニューヨーク、ウィリー社発行(1974年)(J.R. Hollahan and A.T.Bell,eds.,”Techniques in Applications of Plasma Chemistry”,Wiley,New York,1974)、及び、エム.シェン編集「ポリマーに関するプラズマ化学」ニューヨーク、マーセルデッカー社発行(1976年)(M Shen,ed.”Plasma Chemistry of Polymers”,Marcel Dekker,New York,1976)を参照されたい。例えば、一方法を用いて、イオン化ガスを無線周波数発生器に連結された平行平板型電極の間に真空下で導入する。プラズマは、プラズマ蒸着チャンバの外側又は内側にある平行平板型電極を用いて生成される。他の方法には、イオン化ガスからなるプラズマを生成する電界を形成するために、外部のインダクションコイルを使用する方法、或いは、プラズマを生成するために、離間された状態で逆方向に帯電された電極点をプラズマ真空チャンバへ直接配置する方法が挙げられる。米国特許第6462012号明細書を参照されたい。同特許文献に記載されている内容は、本願においても開示されたものとする。
【0024】
本発明の発明者は、架橋密度の量が制御できることを発見し、電力や真空や流量等のプラズマ加工における条件や、プラズマ加工に使用されるモノマーの種類を変更することで、プラズマ重合層の物理的性質を変更できることを確認した。このようにして、バルーンの耐性やステントの保持性が向上するように、コーティングの硬度を調整することが可能である。例えば、向上した耐性を備えるより硬質のコーティングは、より高い電力とより低い流量により得ることが可能であり、より良好なステントの保持性を備えるために軟化させたコーティングは、より低い電力とより高い流量により得ることができる。
【0025】
より軟質の外層を得るために用いることのできる他の技術は、プラズマを強化した重合により行われるものである。この技術を使用して、通常の重合反応が開始され伝播されて、モノマーの構造に類似する構造を備えたポリマーが得られる。
【0026】
一実施例において、多層からなるバルーンは、向上した耐性を得るためにより硬質のコーティングを施された中間層と、より良好なステント保持性を得るためにより軟質の外層とを備える。
【0027】
ステントの固定は、重要な問題である。薄壁で小径のバルーンは、より薄い壁厚を有するため破裂するリスクがより大きくなる。高い架橋密度を有するプラズマ重合層は、大幅に壁厚やバルーンの径を増加することなく、高い強度と耐性を有するコーティングを提供できる。
【0028】
ポリマーコーティングを施すために、医療器具を密閉式の好適な耐圧性チャンバ内に配置する。そのような反応を得るために使用される任意のチャンバが、本発明において使用されてもよい。チャンバは、例えば、鐘形、立方体、長形、真空チャンバにおいて代表的な他の任意の形状を含むいずれの形状であってもよい。また、チャンバは、鉄鋼、ガラス、ポリマー、セラミックや複合材料等を含む様々な材料から形成されてもよい。
【0029】
ガス状のモノマーは、バルブや他の適切な開口部から蒸着チャンバ内へ送り込まれる。供給源即ち放射エネルギーがチャンバに付与される。エネルギーをチャンバに付与するための任意の好適な形状が用いられてもよい。電磁波がチャンバ内に放射されて、火花放電によりガスからプラズマが生成される。プラズマは、フリーラジカルやイオン即ち陰イオンや陽イオンを含むガスである。使用できる周波数は、約50−60Hzの交流(AC)、約13.56MHzの無線周波数(RF)、又は、約2.45GHzのマイクロ波周波数を含む。
【0030】
また、本発明による方法により、極めて薄いプラズマ重合されたフィルムがバルーンの表面を覆うので、バルーンの壁厚の増加を最小限に抑制できる。実際に、本実施の態様において使用されるプラズマ重合は、約100−2000Å(約10−200nm)程度の厚さ、より一般的には約300−2000Å(約30−200nm)、さらにより好適には約1000−2000Å(約100−200nm)の厚さであるモノマーと同様の高い架橋密度を有する層を形成するために使用可能である。
【0031】
また、本発明による方法は、硬質から軟質へ移行する性質といった異なる性質を有する多層を施すために使用されてもよい。プラズマ重合層の硬性/軟性は、重合される量即ち架橋密度により調節可能である。同様に、この工程において使用されるモノマーの種類、電力、真空、流量により調節される。
【0032】
電磁放射線を受ける場合は、フリーラジカル及び/又はイオン、即ち陰イオンや陽イオンを有するプラズマを生成できる任意のモノマーが本実施例において使用されてもよい。より詳細には、本明細書において記載されたプラズマ重合層を形成するのに有効なモノマーの例には、炭化水素、含窒素化合物、フッ素含有モノマー、シリコン含有モノマー、酸素含有モノマー、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
好適な炭化水素の例には、反応二重結合や三重結合、芳香族化合物等を有する炭化水素が含まれる。
好適な炭化水素のより具体的な例には、メタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、キシレン、トルエン、及びこれらの混合物等が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
好適な含窒素化合物の例には、アミンやニトリルが含まれる。好適なアミンの例には、ピロール、環状第二級アミン構造が含まれる。
好適なフッ化炭化水素(fluorocarbon)の例には、フルオロアルキル類、ペルフルオロプロパン等のペルフルオロアルキル類、ペルフオロブタン等のペルフルオロアルケン類、フルオロハイドロアルキル類、シクロフルオロアルキル類、フルオロベンゼン等が含まれるが、これらに限定されない。フッ化炭化水素を使用する利点は、バルーン表面の潤滑性や摩耗抵抗や突刺強度を向上できることである。プラズマ重合にフッ素化モノマーを使用することは、米国特許第6495624号明細書に記載されており、同特許文献に記載された内容は本願においても開示されたものとする。
【0035】
好適な酸素含有モノマーの例には、エーテル、エステル、酸が含まれるが、これらに限定されない。
好適なシリコン含有モノマーの例には、シラン、シロキサン、シラゼン(silazene)等が含まれる。好適なシランの例には、ジメチルシラン、トリメチルシラン、アミノプロピルトリエチオキシシレン(aminopropyltriethoxysilane)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
好適なシロキサンの例には、ジメチルシロキサン、トリメチルシロキサン等が含まれるが、これらに限定されない。
また、チタン酸塩ファミリーのメンバーを本明細書に記載のプラズマ重合加工において使用してもよい。
【0037】
ビニルモノマー等の不飽和エチレンを有するモノマーも、本発明において使用できる。不飽和エチレンを有するモノマーの例には、N−ビニルピロリドン(NVP)、ハイドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ビニルポリエチレングリコール(VPEG)やビニルポリプロプレングリコール(VPPG)等のビニル置換ポリエーテル、アルリルアミド(AM)、ジメチルアクリルアミド(DMA)、ハイドロキシプロピルアクリレート等が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
上記の材料の任意の混合物を使用することも可能である。
バルーンは、当技術分野において周知の任意の好適な材料から形成されてもよい。好適なバルーン材料の例には、ポリエチレン及びそのコポリマー等のポリエステル及びそのコポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル及びそのコポリマー、ナイロンやセラー(登録商標SELAR)等のポリアミド及びポリエーテル−ブロック−アミド(登録商標PEBAX)等のポリアミドのコポリマー、ハイトレル(登録商標HYTREL)ポリエーテルエステル等のエラストマー系ポリエステル及びそのコポリマー等が含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
バルーンは、高圧蒸着チャンバ内に配置され、ガス状の適切なモノマーがチャンバ内に導入され、次にチャンバは電磁放射線を受ける。電磁放射線供給源は、直流、交流、マイクロ波、高周波プラズマ、電子ビーム、ガンマ線等であってもよい。モノマーは、バルーンの表面上で縮合及び架橋する。蒸着の量や架橋密度は、蒸着時間、試料の位置、電力、流量により調節可能である。
【0040】
こうして得られた架橋プラズマコーティングは、バルーンの表面に良好に接着して、薄く極めて高い強度と化学的耐性を備えたパーマネントコーティングを提供する。そのようなコーティングは、バルーンの表面の硬度を増加させるために有効に使用されて、摩耗抵抗を向上させ、ピンホールの形成、漏出、破裂を抑制する。
【0041】
そのようなコーティングは、極めて薄い層(約1000−2000Å(約100−200nm))として蒸着されるので、バルーンの外形に悪影響を及ぼすことはない。
以下の例は、本発明の実施例をさらに示すものであるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】

試験方法
1.摩耗試験
バルーンの端部が、前後に摺動する固定具に連結された。バルーンの中央部分は、ひし形の先端を有するやすり(file)の上面に留まるように配置された。バルーンは、88psi(約91kg/cm)まで膨張された。1−2000グラムの間で変更可能な荷重が、選択されてバルーン上に配置された。バルーンは、やすりの表面を移動されて破裂や漏出がないかどうか観察された。
【0043】
例1
バルーンの機能に関してプラズマコーティングの効果を摩耗試験により評価した。
コーティングを施されたバルーンをコーティングされていない(対照)バルーンと比較した。使用されたモノマーはピロールであった。使用された基本となる対照バルーンは、3.0mmの径を有しており、表1に記載されている。
【0044】
【表1】

バルーンは、異なる5種類のプラズマコーティングの条件を使用してコーティングを施された。各グループには、表1に記載されたように、プラズマ重合層をコーティングされたバルーン(A)と、プラズマ重合層をコーティングされたバルーン(B)の両者が含まれた。各グループに使用された条件は、以下の表2に示す。
【0045】
【表2】

プラズマコーティングを行った後に、バルーンに対して摩耗試験を行い、表3に示すような結果を得た。
【0046】
【表3】

破裂や漏出したバルーンはどちらも不良品として示した。グループ5の試料に対して荷重を増やして、不良品が発生するポイントを探し出した。グループA及びグループBに対して追加の試料について試験を行い、どの荷重においてそれらのバルーンが不良となるかを確認した。グループ2のバルーンについて観察した結果、不良となるバルーンがある一方で不良とはならないバルーンがあることから、バルーンのコーティングが均一でないことが判明した。
【0047】
上記開示は、説明を意図したものであり、網羅することを意図したものではない。本明細書は、当業者に多くの変更および代替物を示唆するであろう。これら全ての代替物および変更物は、添付の請求項の範囲内に含まれることを意図する。当業者には、本願に記述される特定の実施形態の他の同等物が認識でき、これらの同等物もまた請求項に包含されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による少なくとも1つのプラズマ重合層を有するバルーンを示す断面図。
【図2】複数のプラズマ重合層を有する本発明によるバルーンを示す断面図。
【図3】カテーテル装置と組み合わせた少なくとも1つのプラズマ重合層を有する本発明によるバルーンを示す側面図。
【図4】ステントと組み合わせた複数のプラズマ重合層を有する本発明によるバルーンを示す側面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料から形成された膨張バルーンであって、同バルーンの最外層を形成する少なくとも1つの第1プラズマ重合層を有するバルーン。
【請求項2】
前記プラズマ重合層は、炭化水素、アミン、ニトリル、フッ化炭化水素、シラン、シロキサン、シラゼン、チタン、エーテル、エステル、酸、アルコール、及びこれらの混合物から選択されたモノマーの反応により形成される請求項1に記載のバルーン。
【請求項3】
前記少なくとも1つのプラズマ重合層は、少なくとも1つの有機モノマーを使用して形成される請求項1に記載のバルーン。
【請求項4】
前記炭化水素は、メタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びこれらの混合物である請求項2に記載のバルーン。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプラズマ重合層は、少なくとも1つのピロールモノマーにより形成される請求項1に記載のバルーン。
【請求項6】
前記モノマーは、フルオロアルキル類、フルオロハイドロアルキル類、シクロフルオロアルキル類、フルオロベンゼン、及びこれらの混合物から選択されたフッ化炭化水素である請求項1に記載のバルーン。
【請求項7】
前記バルーンと前記少なくとも1つの第1プラズマ重合層との間に第2プラズマ重合層を備える請求項1に記載のバルーン。
【請求項8】
前記第2プラズマ重合層は、前記少なくとも1つの第1プラズマ重合層よりも硬質である請求項7に記載のバルーン。
【請求項9】
体外で操作するようになされた基端部と先端部とを有する植込み可能な医療器具であって、
同医療器具の基端部と先端部との間に延びるポリマーからなる長尺状の本体と、
同長尺状の本体の先端部に位置されるポリマーからなる拡張可能な部分とを備え、
同拡張可能な部分は、前記バルーンの最外層を形成する少なくとも1つの第1プラズマ重合層からなることを特徴とする医療器具。
【請求項10】
前記拡張可能な部分は膨張バルーンである請求項9に記載の医療器具。
【請求項11】
前記バルーンは、前記バルーンと前記第1プラズマ重合層との間に中間層を形成する少なくとも1つの第2プラズマ重合層を有する多層からなるバルーンであって、前記第1プラズマ重合層は前記第2プラズマ重合層よりも軟質である請求項10に記載の医療器具。
【請求項12】
前記中間層は、ピロールモノマーの反応により形成される請求項11に記載の医療器具。
【請求項13】
前記膨張バルーンの周囲に配置されたステントをさらに備える請求項10に記載の医療器具。
【請求項14】
カテーテルバルーンの表面に摩耗抵抗を有するコーティングを施すための方法であって、
(a)同バルーンを少なくとも1つの第1のガス状モノマー組成物に接触させる工程と、
(b)同ガス状モノマーを電磁波に接触させてプラズマを生成し、同モノマーは同カテーテルバルーン上で縮合及び架橋して少なくとも1つの第1プラズマ重合層を形成する工程とを有し、同少なくとも1つの第1プラズマ重合層は、同カテーテルバルーンの最外層を形成することを特徴とする方法。
【請求項15】
前記モノマーは、炭化水素モノマー、シリコン含有モノマー、フッ化炭化水素モノマー、不飽和エチレンを有するモノマー、チタン酸塩、及びこれらの混合物から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記モノマーは、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、及びこれらの混合物から選択される炭化水素モノマーである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記モノマーは、フルオロアルキル類、フルオロハイドロアルキル類、シクロフルオロアルキル類、フルオロベンゼン類、及びこれらの混合物から選択されたフッ化炭化水素である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記モノマーはピロールである請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記モノマーは有機モノマーである請求項14に記載の方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法であって、
(c)前記バルーンを少なくとも1つの第2のガス状モノマー組成物に接触させる工程と、
(d)同少なくとも1つの第2のガス状モノマーを電磁波に接触させてプラズマを生成し、同モノマーは前記カテーテルバルーン上で縮合及び架橋して少なくとも1つの第1プラズマ重合層を形成する工程とを有し、
工程(c)及び(d)は、工程(a)及び(b)に先立って行われることと、同少なくとも1つの第1プラズマ重合層は、前記カテーテルバルーンの最外層を形成することとを特徴とする方法。
【請求項21】
前記第2プラズマ重合層は、前記第1プラズマ重合層よりも硬質である請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−518449(P2007−518449A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520161(P2006−520161)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016777
【国際公開番号】WO2005/014075
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】