説明

医療用観察システム

【課題】白飛びや黒潰れをはじめとする異常画像に対する処理を行うのに好適な医療用観察システムを提供すること。
【解決手段】所定の光源からの光を対象物上で走査する手段と、該走査された光の反射光を受光して画像信号を検出する手段と、該画像信号の検出タイミングに基づいて、各画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する手段と、該決定された画素配置に従って各画像情報を空間的に配列して画像を作成する手段と、各画素に対応するタイミングで検出された画像信号の強度値を検知する手段と、該検知された強度値が第一の閾値以上又は第二の閾値以下の値であるとき、該強度値に対応する画素を異常画素と判定する手段と、該判定された異常画素に対して画素単位で所定の処理を施す手段とから医療用観察システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観察対象を走査して観察画像を生成する医療用観察システムに関連し、詳しくは、極細径の光ファイバの先端を共振させて対象物を光走査して画像情報を取得する走査型医療用プローブを有する医療用観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師が患者の体腔内を観察するときに使用する医療機器として電子スコープが一般的に知られている。電子スコープを使用する医師は、電子スコープの挿入部を体腔内に挿入して、挿入部の先端に備えられた先端部を観察対象近傍に導く。医師は、先端部に搭載されたCCD(Charge Coupled Device)等の固体撮像素子により体腔内を撮影するため、電子スコープやビデオプロセッサの操作部を必要に応じて操作する。医師は、各種操作を行った結果得られる体腔内の映像をモニタを通じて観察し検査や施術等を行う。
【0003】
このように電子スコープは、患者の体腔内に挿入されて使用される。そのため、電子スコープに関して、患者の負担を軽減すべく挿入部を細径化させる要望が恒常的にある。電子スコープを細径化させるためには、各種内蔵部品の配置等を工夫する以外に各種内蔵部品自体を小型化させることが望まれる。なお、電子スコープには、固体撮像素子以外に、固体撮像素子の周辺回路やシールド部材、絶縁部材、対物レンズ、照明レンズ、レンズ保持枠、光ファイババンドル等の多数の部品が内蔵されている。
【0004】
電子スコープの内蔵部品のなかでも特に固体撮像素子や光ファイババンドルは外形寸法が大きい。また、対物レンズや照明レンズ等の他の部品の設計上可能な最小寸法は、固体撮像素子の有効画素領域や光ファイババンドルの外形寸法等によって規定される。従って、小型な固体撮像素子や細径な光ファイババンドルを採用する場合には、細径な電子スコープを設計しやすい。しかし、一般に、固体撮像素子を小型化するほど解像度やダイナミックレンジ、SN比等の種々のパラメータに関して所望の性能を満たすことが難しくなる。また、光ファイババンドルを細径化、すなわち光ファイバの本数を削減した場合には、体腔内を照明するために十分な光量を導光できない問題が生じる。そのため、固体撮像素子や光ファイババンドルを安易に小型化や細径化させることはできない。
【0005】
そこで、固体撮像素子自体を不要とした構成を採用することによって、従来型の電子スコープ(つまり固体撮像素子を搭載した電子スコープ)よりも細径化させることが可能な医療用プローブが提案されている。
【0006】
この種の医療用プローブを有する医療用観察システムの一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の医療用プローブは、単一の光ファイバの先端を共振させて所定の走査光により対象物を所定の走査パターンで走査する。かかる医療用プローブは、対象物からの反射光を検出して光電変換しビデオプロセッサに順次出力する。ビデオプロセッサは、光電変換された信号を処理して画像化しモニタに出力する。医師は、このようにして得られた体腔内の映像を、電子スコープを使用した場合と同じくモニタを通じて観察し検査や施術等を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,563,105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来型の電子スコープシステムでは、撮影状況に応じて異常画像が観察視野の一部に現れることがある。代表的な異常画像としては、例えばハレーションの発生に起因するものがある。ハレーションは、電子スコープの先端と観察対象との位置関係や観察対象からの反射光の散乱状態等に応じて発生する。ハレーションが発生した観察視野中の領域は、光検出器の出力の飽和により、コントラストが極度に低下した色味が失われた画像(所謂白飛び)となり、観察対象を正常に再現した画像にはならない。ハレーションが発生したときの対処法として、例えば照明光の光量を一時的に減少させる方法が採用されている。
【0009】
特許文献1に記載の医療用観察システムにおいても、従来型の電子スコープシステムと同じ理由で、ハレーションが観察視野の一部に現れることがある。この場合も照明光の光量を一時的に減少させることにより、ハレーションの発生が抑えられる。しかし、この種の医療用観察システムで使用される照射光は、単一の光ファイバを介して観察対象に照射されるため微弱である。そのため、照明光の光量を減少させた場合には、観察視野のうち元々輝度の低い領域で光量が更に不足して、所謂黒潰れが発生する。すなわち、ハレーションの発生を防ぐために光源を調光すると、観察視野中の暗部の領域の画像再現性が劣化するという別の弊害が生じる。白飛びや黒潰れによる画像再現性の劣化は、医師による正確な検査や施術等を妨げる要因であるため望ましくない。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、白飛びや黒潰れをはじめとする異常画像に対する処理を行うのに好適な医療用観察システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る医療用観察システムは、所定の光を射出する光源と、該光源から射出された光を対象物上で走査する走査手段と、該走査手段により走査された光の反射光を受光して画像信号を検出する画像信号検出手段と、該画像信号検出手段による画像信号の検出タイミングに基づいて、各画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、該画素配置決定手段により決定された画素配置に従って各画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段と、各画素に対応するタイミングで検出された画像信号の強度値を検知する強度値検知手段と、該強度値検知手段により検知された強度値が第一の閾値以上又は第二の閾値以下の値であるとき、該強度値に対応する画素を異常画素と判定する異常画素判定手段と、該異常画素判定手段により判定された異常画素に対して画素単位で所定の処理を施す異常画素処理手段とを有することを特徴としたシステムである。
【0012】
本発明に係る医療用観察システムによれば、異常画素に関する判定が画素単位で精細に行われるため、白飛びや黒潰れをはじめとする種々の原因から生じた異常画像に対して適切な対処をすることができる。
【0013】
例えば、異常画素処理手段は、白飛びや黒潰れ等が生じた画素の異常を是正するため、所定の光が対象物における異常画素に対応する部位に向けて射出されるタイミングで減光又は増光されるように光源を駆動制御するように構成される。光源からの射出光の光量制御が画素単位でコントロールされるため、例えば白飛びによる画像再現性の劣化が良好に解消されると共に、黒潰れによる画像再現性の劣化が有効に避けられる。
【0014】
また、例えば、異常画素処理手段は、病変部に対応する画素を異常画素として捉えて、該画素に対応する画像を強調表示するように構成される。病変部が画素単位で判別されるため、病変部を緻密な形状まで再現する精細な輪郭で強調表示することができる。
【0015】
また、本発明に係る医療用観察システムは、所定の治療光を射出する治療用光源を更に有する構成としてもよい。この場合、異常画素処理手段は、治療光が対象物における異常画素に対応する部位に照射されるタイミングで治療用光源を発光制御するように構成される。治療光が照射される範囲が画素単位でコントロールされるため、治療時の生体への負担が最小限に抑えられる。
【0016】
ここで、異常画素判定手段は、強度値検知手段により検知された強度値が所定の参照値に対して第一の所定値以上又は第二の所定位置以下の値であるとき、該強度値に対応する画素を異常画素と判定する構成としてもよい。異常画素処理手段は、異常画素に対応する部位に光が照射されるとき、強度値検知手段により検知された強度値と参照値との差分値に応じて、当該光の減光量又は増光量を制御する構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る医療用観察システムは、強度値検知手段により検知された各画素に対応する強度値を該各画素の参照値として初期的に取得する強度値取得手段を更に有する構成としてもよい。この場合、異常画素判定手段は、強度値取得手段により取得された画素毎の参照値に基づき、異常画素であるか否かの判定を該画素毎に行う。
【0018】
また、本発明に係る医療用観察システムは、強度値検知手段により検知された各画素に対応する強度値を初期的に取得する強度値取得手段と、強度値取得手段により取得された画素毎の強度値の平均値を参照値として計算する参照値計算手段とを更に有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、白飛びや黒潰れをはじめとする異常画像に対する処理を行うのに好適な医療用観察システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態の走査型医療用プローブの内部構成及びプロセッサの一部の構成を模式的に示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態のプロセッサ及びモニタの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第一実施形態の走査型医療用プローブの先端部の模式的な内部構造を示す側断面図である。
【図4】発明の第一実施形態の走査型医療用プローブの先端部の内部構造を示す外観斜視図である。
【図5】観察対象上に形成されるスポットを説明するための図である。
【図6】本発明の第一実施形態において一パルスの結合パルス光を観察対象に照射した場合に光検出器により検出されるアナログ信号を例示する図である。
【図7】本発明の第一実施形態のプロセッサが有するDSPの構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第一実施形態のDSPが有するピーク値検出回路から出力されるデータの概念的に示す図である。
【図9】本発明の第一実施形態のDSPが有する変換回路による画素アドレスの変換処理の具体例を説明するための図である。
【図10】本発明の第一実施形態のプロセッサが有する異常画素検知部の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第一実施形態の医療用観察システムにおいて実行される異常画素処理のフローチャート図である。
【図12】本発明の第二施形態の走査型医療用プローブの内部構成及びプロセッサの一部の構成を模式的に示す模式図である。
【図13】本発明の第二実施形態の医療用観察システムにおいて実行される異常画素処理のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の走査型医療用プローブを有する医療用観察システムについて説明する。
【0022】
図1は、本発明の第一実施形態の走査型医療用プローブ100の内部構成及びプロセッサ200の一部の構成を模式的に示す模式図である。図2は、第一実施形態のプロセッサ200及びモニタ300の構成を示すブロック図である。なお、図2においては、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200との接続関係等を明確にするため、走査型医療用プローブ100の一部の構成も模式的に示している。また、モニタ300は周知の構成を有した受像装置であるため、図2においてモニタ300の詳細な構成は図示省略している。これらの図面に示されるように、第一実施形態の医療用観察システム1は、走査型医療用プローブ100、プロセッサ200、及びモニタ300を有している。
【0023】
プロセッサ200は、走査型医療用プローブ100を駆動制御するとともに走査型医療用プローブ100により取得される観察光に基づき画像信号を生成する信号処理装置と、自然光の届かない体腔内に走査型医療用プローブ100を通じて走査光を照射する光源装置とを内蔵した一体型のプロセッサである。なお、別の実施形態では信号処理装置と光源装置とを別体で構成してもよい。
【0024】
図2に示されるように、走査型医療用プローブ100は、基端部に光学コネクタ部110及び電気コネクタ部120を有している。また、プロセッサ200は、光学コネクタ部210及び電気コネクタ部220を有している。光学コネクタ部110が光学コネクタ部210に差し込まれることにより、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200が光学的に接続される。同じく、電気コネクタ部120が電気コネクタ部220に差し込まれることにより、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200が電気的に接続される。プロセッサ200とモニタ300は、所定のケーブルを介して電気的に接続される。なお、図1においては、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200の接続関係等を分かり易くするため、光学コネクタ部110と210との接続部分を敢えて二つに分けて図示している。
【0025】
このように走査型医療用プローブ100、プロセッサ200、モニタ300がそれぞれ接続されて電源が投入されると、術者は、医療用観察システム1を使用して患者の体腔内を検査、施術等できるようになる。具体的には、術者は、走査型医療用プローブ100の挿入部130を体腔内に挿入して挿入部130の先端130aを観察対象近傍に導き、プロセッサ200の操作部(不図示)を操作する。術者は、このような操作を行った結果得られる体腔内の映像をモニタ300を通じて観察し検査や施術等を行う。
【0026】
なお、第一実施形態においては、体腔内を観察するために走査型医療用プローブ100単体が体腔内に直接挿入される。別の実施形態においては、例えば先端130aを観察対象近傍にスムーズに導くために挿入部130にガイドワイヤ等を添えて挿入するようにしてもよい。また、例えば電子スコープ等が有する鉗子チャンネルに挿入部130を挿入し通して先端部130aを観察対象近傍に近接させるようにしてもよい。
【0027】
次に、走査型医療用プローブ100及びプロセッサ200の構成を説明しつつ、医療用観察システム1において体腔内の映像がモニタ300に表示されるまでの一連の処理を詳細に説明する。かかる一連の処理は、
(1)観察対象を走査して観察光を取得する処理
(2)観察光に基づき画像を生成し表示する処理
に大別される。
【0028】
まず、「(1)観察対象を走査して観察光を取得する処理」について説明する。プロセッサ200は、観察対象を走査するための光源としてR、R、G、Bの各波長に対応した光を発振するレーザ光源230R、230R、230G、230Bを有している。ここで、R光、R光は共に、R光(近赤外光を含む)の波長域に属するが、ヘモグロビンの状態に依存して吸収率が互いに異なる。具体的には、R光は、赤色付近の光であり、還元ヘモグロビンに対する吸収率が高い。R光は、近赤外光付近の光であり、酸化ヘモグロビンに対する吸収率が高い。よって、R光とR光の両波長の光をヘモグロビンに同時に照射したときの反射スペクトルは、ヘモグロビンの酸化度に依存して変化する。なお、これら4つのレーザ光源は、例えば広帯域であるスーパーコンティニューム光等を発振する単一のファイバレーザと、R、R、G、Bの各波長に対応した波長選択性フィルタとを有する光源ユニットに置き換えてもよい。また、光源は、レーザ光源に限らず例えばLED(Light Emitting Diode)等の他の形態の光源としてもよい。
【0029】
プロセッサ200は、該プロセッサ200の各回路の信号処理タイミング等を統括的に制御するシステムコントローラ240を有している。システムコントローラ240は、ドライバ232R、232R、232G、232Bの各ドライバ回路に所定の変調制御信号を出力する。ドライバ232R、232R、232G、232Bはそれぞれ、入力された変調制御信号に基づきレーザ光源230R、230R、230G、230Bを直接変調する。具体的には、各ドライバ回路は、変調制御信号に基づき、振幅が同一の又は互いに異なる同位相の電流を、対応するレーザ光源に流す。これにより、レーザ光源230R、230R、230G、230Bは、R、R、G、Bの各波長に対応する同一の又は互いに異なる強度のパルス光(以下、「Rパルス光」、「Rパルス光」、「Gパルス光」、「Bパルス光」と記す。)を同期したタイミングで発振する。なお、各レーザ光源から発振されるパルス光の強度は、後述される異常画素に対応する部位に照射されるとき以外は所定強度である。本文中、所定強度は、図示省略された周知の調光回路による調光制御に従って適宜変化する強度として定義される。
【0030】
各レーザ光源から発振されたRパルス光、Rパルス光、Gパルス光、Bパルス光は、光結合器234に入射される。光結合器234は、入射された各パルス光を位相を揃えた状態で結合して射出する。以下、説明の便宜上、光結合器234により結合されたパルス光を「結合パルス光」と記す。
【0031】
光源が単一のファイバレーザと波長選択性フィルタからなる光源ユニットである場合には、各波長のパルス光を同期させるためのタイミング制御が不要である。そのため、レーザ光源周辺の回路構成等を簡素化できるメリットがある。また、既に結合された状態のパルス光が発振されるため、光結合器234が不要になるメリットもある。
【0032】
光結合器234から射出された結合パルス光は、走査型医療用プローブ100が有するシングルモードファイバ112の入射端112aに入射される。シングルモードファイバ112は、光学コネクタ部110から先端部130aに亘って、走査型医療用プローブ100の外皮部材(後述の図3に示されるシース132)に収容されている。入射端112aに入射された結合パルス光は、シングルモードファイバ112内部を全反射を繰り返すことにより伝搬される。伝搬された結合パルス光は、先端部130a内部に配置されたシングルモードファイバ112の射出端112bから射出される。
【0033】
図3に、第一実施形態の先端部130aの模式的な内部構造を側断面図で示す。また、図4に、第一実施形態の先端部130aの内部構造を外観斜視図として示す。なお、以降においては、走査型医療用プローブ100の構成を説明するにあたり、便宜上、走査型医療用プローブ100の長手方向をZ方向、Z方向に直交しかつ互いに直交する二方向をX方向、Y方向と定義する。かかる定義によれば、例えば図3は、走査型医療用プローブ100の中心軸AXを含むY−Z平面での先端部130aの断面図となっている。
【0034】
図3に示されるシース132は、可撓性を有する走査型医療用プローブ100の保護チューブである。シース132は、先端部130aから光学コネクタ部110にまで延びた形状を有し、走査型医療用プローブ100が有する各種内蔵部品を保護している。シース132の外径は、走査型医療用プローブ100が固体撮像素子等を搭載しない構成であるため、従来型の電子スコープの外径に比べて格段に細い。そのため、走査型医療用プローブ100は、従来型の電子スコープに比べてより一層の低浸襲性が達成されている。
【0035】
図3に示されるように、シース132内部には、支持体134が支持されている。シングルモードファイバ112の先端部112cは、支持体134の貫通穴に挿入され通されて片持ち梁の状態で支持されている。支持体134は、アクチュエータ136、138も支持している。アクチュエータ136、138は、圧電アクチュエータであり、圧電素子上の所定位置に電極が形成されている。各電極は、終端が電気コネクタ部120内部に収容された電線(不図示)と接続されている。各電線は、電気コネクタ部120と電気コネクタ部220とを接続させたときに、プロセッサ200が有するX軸ドライバ236X又はY軸ドライバ236Yに接続される。
【0036】
システムコントローラ240は、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yの各ドライバ回路に所定の駆動制御信号を出力する。X軸ドライバ236Xは、駆動制御信号に基づきアクチュエータ136に第一の交流電圧を印加する。Y軸ドライバ236Yは、駆動制御信号に基づきアクチュエータ138に第一の交流電圧と同一周波数であって位相が直交する第二の交流電圧を印加する。
【0037】
アクチュエータ136、138はそれぞれ、第一、第二の交流電圧が印加されたときにX方向、Y方向に共振するように材料及び形状が選択され構成されている。シングルモードファイバ112の射出端112bは、アクチュエータ136及び138によるX方向及びY方向への運動エネルギーが合成されることにより、X−Y平面に近似する面(以下、「XY近似面」と記す。)上において中心軸AXをほぼ中心とする所定半径を有する円の軌跡を描く。
【0038】
所定半径を有する円の軌跡を描く状態でアクチュエータ136及び138に対する交流電圧の印加が停止される。すると、シングルモードファイバ112の先端部112cの振動は徐々に減衰されていく。かかる減衰に伴って、シングルモードファイバ112の射出端112bは、XY近似面上で略渦巻パターンの軌跡を描きながら中心軸AXに向かい、最終的には中心軸AX上で停止する。結合パルス光は、各アクチュエータへの交流電圧の印加停止直後からシングルモードファイバ112の射出端112bが中心軸AX上で停止する迄の期間(以下、「渦巻パターン期間」と記す。)、射出端112bから射出され続ける。
【0039】
シース112の先端は、集光レンズ140により封止されている。そのため、結合パルス光は、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出されて一旦発散するものの、集光レンズ140により集光されて観察対象上にスポットを形成する。かかるスポット径は、例えば数ミクロンオーダであり極めて小さい。なお、射出端112bにはコリメートレンズ(不図示)が取り付けられてもよい。この場合、結合パルス光は、射出端112bから平行光として射出されて集光レンズ140を介して観察対象上にスポットを形成する。
【0040】
図5に、観察対象上に形成されるスポットを説明するための図を示す。走査型医療用プローブ100は、一枚の画像を得るために観察対象上に渦巻パターンSPを描くようにn個のスポットをスポットS、S、S、・・・、Sの順に形成する。各スポットの間隔は、シングルモードファイバ112の射出端112bの運動速度や各レーザ光源の変調周波数等に依存して決まる。渦巻パターンSPは、観察対象上にパルス光で無く連続光を走査した場合を想定して描かれた仮想的な走査軌跡である。
【0041】
なお、実験等を重ねた結果、シングルモードファイバ112の射出端112bが停止した状態から所定半径を有する円の軌跡を描く状態に達する迄にかかる時間は既知である。同じく、渦巻パターン期間が開始され終了する迄にかかる時間も既知である。さらに、渦巻パターン期間中のXY近似面におけるシングルモードファイバ112の射出端112bの位置(又は観察対象上における各スポット形成位置)も既知である。そのため、システムコントローラ240は、かかる既知の情報に基づき、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yに対するタイミング制御(つまり、各アクチュエータに対する交流電圧の印加と停止のタイミング)、及びドライバ232R、232R、232G、232Bに対するタイミング制御(つまり、渦巻パターン期間中における各レーザ光源の変調制御)のそれぞれをフレームレートに応じた周期で繰り返す。
【0042】
図4に示されるように、支持体134の端面134aには、円環状に並ぶ複数の貫通穴が形成されている。各貫通穴には検出用ファイバ142が埋設されている。図4において図示省略するが、各検出用ファイバ142は支持体134の後方で束ねられ、光ファイババンドル142Bを構成している。光ファイババンドル142Bは、先端部130aから光学コネクタ部110に延びて、終端が光学コネクタ部110に収容されている。
【0043】
光ファイババンドル142Bの終端は、光サーキュレータ144により波長選択ファイバ146の一端と結合されている。なお、ファイババンドル142Bは、数十本程度(例えば80本)の光ファイバを束ねたものに過ぎない。そのため、ファイババンドル142Bは、従来型の電子スコープやファイバスコープの光ファイババンドル(例えば数百〜千本の光ファイバを束ねた光ファイババンドル)に比べて遙かに径が細い。また、第一実施形態において、検出用ファイバ142は最低限一本あればよい。検出用ファイバ142が一本の場合には、走査型医療用プローブ100をより一層細径化させることができる。
【0044】
観察対象上に形成された各結合パルス光のスポットは、観察対象にて反射され集光レンズ140を介してシース132内部に入射される。シース132内部に戻された反射パルス光は、各検出用ファイバ142の入射端142aに入射される。入射端142aに入射された反射パルス光は、ファイババンドル142B(検出用ファイバ142)内部を終端に向かって伝搬される。
【0045】
ファイババンドル142B内部を伝搬された反射パルス光は、光サーキュレータ144によりファイババンドル142Bの終端と結合された波長選択ファイバ146の結合端に入射される。なお、光サーキュレータ144は、ファイババンドル142Bからの反射パルス光を波長選択ファイバ146にのみ入射させるように構成されている(つまりファイババンドル142Bからの反射パルス光を後述の光ファイバ148には入射させない。)。
【0046】
波長選択ファイバ146は、光学コネクタ部110内部に蜷局を巻くように収容されている。波長選択ファイバ146の導光路中には、結合端側から順にR、G、Bの各波長に対応するファイバブラッググレーティング146R、146G、146Bが形成されている。従って、波長選択ファイバ146に入射され伝搬される反射パルス光は、まず、ファイバブラッググレーティング146RによりR成分について強い後方反射が引き起こされる。つまり、ファイバブラッググレーティング146Rは、反射パルス光に含まれるR成分のパルス光(以下、「反射Rパルス光」と記す。)のみを反射させて波長選択ファイバ146の結合端側に戻すとともに他の成分を透過させる。ファイバブラッググレーティング146G、ファイバブラッググレーティング146Bにおいても同様の光学的作用が引き起こされる。すなわち、ファイバブラッググレーティング146GにおいてはG光成分(以下、「反射Gパルス光」と記す。)のみが、ファイバブラッググレーティング146BにおいてはB光成分(以下、「反射Bパルス光」と記す。)のみが、それぞれ反射されて波長選択ファイバ146の結合端側に戻される。
【0047】
ファイバブラッググレーティング146R、146G、146Bは、R、G、Bの各波長の反射パルス光に所定の光路差を付与するように位置が決められ形成されている。ここで、光サーキュレータ144は、波長選択ファイバ146からの光を光ファイバ148にのみ入射させるように構成されている(つまり波長選択ファイバ146からの光をファイババンドル142Bには入射させない。)。そのため、波長選択ファイバ146の結合端に所定の時間遅延をもって到達した各波長の反射パルス光は、光ファイバ148に順次入射される。
【0048】
光ファイバ148の終端148aは、光学コネクタ部110と光学コネクタ部210とを接続させたとき、プロセッサ200が有するカップリングレンズ238を介して光検出器250に結合される。従って、反射Rパルス光、反射Gパルス光、反射Bパルス光の各波長の反射パルス光は、所定の時間遅延をもって終端148aから順次射出されて、光検出器250により受光される。
【0049】
波長選択ファイバ146は、終端付近で光ファイバ148と束ねられている。波長選択ファイバ146の終端146aは、光学コネクタ部110と光学コネクタ部210とを接続させたとき、終端148aと共に光検出器250に結合される。ファイババンドル142Bからの反射パルス光に含まれるR光に対応する成分のパルス光(以下、「反射Rパルス光」と記す。)は、波長選択ファイバ146を伝搬中、何れのファイバブラッググレーティングによっても反射されること無く波長選択ファイバ146の終端146aから射出されて、光検出器250により受光される。
【0050】
走査型医療用プローブ100は、光ファイババンドル142Bとの結合端からファイバブラッググレーティング146Bまでの波長選択ファイバ146中の導光路長をL1と定義し、波長選択ファイバ146との結合端から終端148aまでの光ファイバ148中の導光路長をL2と定義し、ファイバブラッググレーティング146Bから終端146aまでの波長選択ファイバ146中の導光路長をL3と定義した場合に、
L3>L1+L2
を満たすように構成されている。従って、反射Rパルス光は、反射Bパルス光よりも更に長い時間遅延が与えられて、終端146aから射出される。よって、光検出器250において各波長の反射パルス光は、反射Rパルス光、反射Gパルス光、反射Bパルス光、反射Rパルス光の順に所定の時間遅延をもって受光される。
【0051】
上述したように結合パルス光は、単一のシングルモードファイバ112により導光されて観察対象を照射する。そのため、観察対象にて反射される反射パルス光の光量は非常に少ない。このような微弱な光を確実にかつ低ノイズで検出するため、光検出器250には光電子増倍管等の高感度光検出器が採用されている。
【0052】
以上が「(1)観察対象を走査して観察光を取得する処理」についての説明になる。次に、「(2)観察光に基づき画像を生成し表示する処理」、つまり取得された観察光(各波長の反射パルス光)を画像化してモニタ300に表示させるまでの処理を説明する。
【0053】
光検出器250は、受光された各波長の反射パルス光を光電変換してアナログ信号を生成し後段の回路に出力する。図6に、第一実施形態において、一パルスの結合パルス光を観察対象に照射した場合に光検出器250により検出されるアナログ信号の一例を示す。図6の縦軸は出力電圧値(単位:V)を、横軸は時間(単位:sec)をそれぞれ示している。図6を参照すると、反射Gパルス光の波形λは反射Rパルス光の波形λに対してt−t(sec)の遅延が、反射Bパルス光の波形λは反射Gパルス光の波形λに対してt−t(sec)の遅延が、反射Rパルス光の波形λは反射Bパルス光の波形λに対してt−t(sec)の遅延が、それぞれ付与されていることが分かる。
【0054】
ところで、各ファイバブラッググレーティングは、例えば光検出器250の時間分解能を考慮して、最低限、各波長の反射パルス光の波形が確実に分離(すなわち、図6の出力波形に谷(例えばクランプレベル)が確実に形成)される程度に離れた位置に形成されている。但し、各ファイバブラッググレーティング間を離すほど各波長の反射パルス光の時間遅延量が増加して、高速クロックが要求される仕様(高解像度や高速フレームレート等)を満足することができない等の別の弊害が生じる。従って、各ファイバブラッググレーティングは、これらの事項全てを考慮して適切な間隔をもって形成されている。導光路長L1〜L3の各値も、各ファイバブラッググレーティングと同じく、画像の解像度やフレームレート、光検出器250の時間分解能等を考慮して設定されている。
【0055】
例えば各波長の反射パルス光の波形の半値幅が10nsecである場合を考える。この場合に、各波長の反射パルス光の波形間に谷が現れるようにするためには、各ファイバブラッググレーティングの間隔は例えば1m程度が適切と考えられる。
【0056】
光検出器250により検出された各波長の反射パルス光に応じたアナログ信号は、サンプリング及びホールドされて、A/Dコンバータ252によりデジタル信号列に変換される。変換されたデジタル信号列は、DSP(Digital Signal Processor)254に入力される。
【0057】
図7に、第一実施形態のDSP254の構成をブロック図で示す。図7に示されるように、DSP254は、波形蓄積用メモリ254a、ピーク値検出回路254b、変換回路254c、ピーク値蓄積用メモリ254d、及びピーク値読み出し回路254eを有している。
【0058】
波形蓄積用メモリ254aは、A/Dコンバータ252からのデジタル信号列をラッチする。なお、ラッチされたデジタル信号列は、波形蓄積用メモリ254aの容量を考慮して一定時間経過後順次破棄される。
【0059】
ピーク値検出回路254bは、波形蓄積用メモリ254aにラッチされたデジタル信号列を監視して変極点、つまりピーク値(例えば図6に示される波形λのピーク値P、波形λのピーク値P、波形λのピーク値P、波形λのピーク値P)を検出する。次いで、デジタル信号列中のピーク値が検出された時点、つまり時間(例えば図6に示されるピーク値Pに対応する時間t、ピーク値Pに対応する時間t、ピーク値Pに対応する時間t、ピーク値Pに対応する時間t)を該ピーク値に関連付けて変換回路254cに順次出力する。
【0060】
図8に、ピーク値検出回路254bから出力されるデータの概念図を示す。図8に示されるように、ピーク値検出回路254bは、スポットS〜Sに対応するピーク値Pと時間Tとを関連付けたデータ(以下、「関連付けデータ」と記す。)を変換回路254cに順次出力する。
【0061】
変換回路254cは、関連付けデータの時間Tを例えば固体撮像素子でいうところの画素アドレスに変換する。具体的には、変換回路254cには、各スポットに対応する時間Tと画素アドレスとの変換テーブルが予め保持されている。かかる変換テーブルは、既知の情報である渦巻パターン期間中の各スポットの形成位置及び形成時間に基づき作成されている。変換回路254cは、特定の時間Tに対応する関連付けデータが入力されたとき、変換テーブルに基づき該特定の時間Tを特定の画素アドレスに変換する。
【0062】
図9を用いて、変換回路254cによる画素アドレスの変換処理の具体例を説明する。ここでは、説明の便宜上、関連付けデータの各時間Tを19×19からなる画素アドレスに変換する場合を考える。変換回路254cは、例えばスポットSに対応する時間t11、t21、t31、t41の関連付けデータが入力されたとき、上記変換テーブルに基づき時間t11、t21、t31、t41を画素アドレス(3,10)に変換する。次いで、時間t12、t22、t32、t42の関連付けデータが入力されたとき、上記変換テーブルに基づき時間時間t12、t22、t32、t42を画素アドレス(3,8)に変換する。変換回路254cは、かかる画素アドレスへの変換処理を、入力される関連付けデータに対して順次行う。
【0063】
画素アドレスへの変換処理により、例えば画素アドレス(3,10)には、4つの出力電圧値、つまりピーク値P11、P21、P31、P41が関連付けられたことになる。しかし、これだけでは、ピーク値P11、P21、P31、P41が何れの色情報を有するかが不明である。そこで、変換回路254cは、4つのピーク値に対して適切な色情報を付与する。そのために、変換回路254cは、各波長に対応するファイバブラッググレーティング間の距離、及び導光路長L1〜L3の各長さ関係により予め定められた各波長のピーク値の遅延時間を利用する。
【0064】
すなわち、変換回路254cは、スポットSに対応する時間t11に検出されたピーク値P11にR色であることを示す色情報を付加する。次いで、時間t11から所定時間(図6ではt−t(sec))遅延した時間t21に検出されたピーク値P21にG色であることを示す色情報を、時間t11から所定時間(図6ではt−t(sec))遅延した時間t31に検出されたピーク値P31にB色であることを示す色情報を、それぞれ付加する。更に、時間t11から所定時間(図6ではt−t(sec))遅延した時間t41に検出されたピーク値P41に近赤外光(便宜上「R色」と記す。)であることを示す色情報を付加する。
【0065】
このようにして、変換回路254cは、画素アドレス(3,10)に関連付けられたR色、G色、B色、R色の各輝度値(別の表現によれば各色の信号の強度値)がピーク値P11、P21、P31、P41である画像情報を生成する。変換回路254cは、かかる色情報付加処理を、入力される関連付けデータに対して順次行う。
【0066】
変換回路254cは、生成された画像情報をピーク値蓄積用メモリ254dに順次出力して書き込む。また、画像情報を有さない画素アドレスに関しては、例えば所定のマスキングデータを生成してピーク値蓄積用メモリ254dに出力して書き込む。ピーク値蓄積用メモリ254dはフレームバッファであり、変換回路254cにより生成されたスポットS〜Sに対応する一フレーム分の画像情報をバッファリングする。ピーク値読み出し回路254eは、システムコントローラ240によるタイミング制御に従い、ピーク値蓄積用メモリ254dにバッファリングされた画像情報を読み出して、映像信号出力回路256に出力する。
【0067】
映像信号出力回路256は、入力された画像情報をNTSC(National Television
Standards Committee)やPAL(Phase Alternating Line)等の所定の規格に準拠した映像信号に変換してモニタ300に出力する。モニタ300には、R色、G色、B色からなる観察対象のカラー映像が表示される。R色の画像は、ユーザ操作による設定に応じて上記のカラー画像に選択的に付加される。R色の画像がカラー画像に付加される設定であるとき、映像信号出力回路256は、例えば他の色の画像と区別できるようにR色の画像に所定の強調表示処理を施す。
【0068】
ここで、走査型医療用プローブ100を通じて観察される画像は、先に述べたように、ハレーションの発生に起因する白飛びやハレーションを抑制するための照明光の減光に起因する黒潰れ等によって画像再現性が劣化することがある。そこで、医療用観察システム1は、ハレーションの発生に起因する白飛びを速やかに解消しつつも黒潰れを生じさせないように、以下に説明される構成を有している。
【0069】
具体的には、プロセッサ200は、DSP254に接続された異常画素検知部258を有している。図10は、異常画素検知部258の構成を示すブロック図である。図10に示されるように、異常画素検知部258は、LUT(Look up Table)258a、比較器258R、258R、258G、258B、異常画素記憶部258R’、258R’、258G’、258B’を有している。図11に、異常画素検知部258がプロセッサ200の他の構成要素と協働して実行する異常画素処理のフローチャート図を示す。異常画素処理は、例えば医療用観察システム1が起動してから停止されるまで継続的に実行される。なお、以降の本文中の説明並びに図面において、処理ステップは「S」と省略して記す。
【0070】
DSP254のピーク値蓄積用メモリ254dは、医療用観察システム1が起動されて最初にバッファリングされた一フレーム分の画像情報をLUT258aに出力する。LUT258aは、図11に示されるように、ピーク値蓄積用メモリ254dからの入力に基づき、画素アドレスと各波長(R、R、G、B)の輝度値とを関連付けた、図8と同様のテーブルを初期的に生成して保持する(S1)。LUT258aに保持された各画素における各波長の輝度値は、正常部位を撮影したときの各画素における各波長の参照輝度値として、以降の処理ステップで利用される。LUT258aに初期的に保持されたテーブルは、例えば医療用観察システム1が停止された時に消去される。なお、以降の処理ステップ(S2〜S8)は、各画素の各波長の画像情報に対してそれぞれ実行される。全画素の全波長の画像情報に対するS2〜S8の処理は、一フレーム周期で繰り返し実行される。
【0071】
S1の処理で生成されるテーブルは、LUT258aに予め保存されていてもよい。この場合の参照輝度値は、例えば経験上求められた値である。参照輝度値を予め用意することにより、S1の処理の実行が省略される。また、参照輝度値の精度を向上させるため、例えばDSP254側の計算回路(不図示)が、複数フレーム分の画像情報を用いて各画素における各波長の平均輝度値を計算し、計算された各平均輝度値を各画素における各波長の参照輝度値として、LUT258aに出力して保持させてもよい。
【0072】
ところで、参照輝度値は、前述のように、画素毎に又は波長毎に個別に設定する必要はない。例えばDSP254側の上記計算回路が、全画素の輝度値の平均値を計算し、計算された平均輝度値を全画素共通で利用される参照輝度値として、LUT258aに出力して保持させてもよい。全画素共通の参照輝度値は、R、R、G、Bの各波長について別個に計算された輝度値としてもよく、或いはR、R、G、Bの全波長の輝度値に基づいて計算された全波長共通の輝度値としてもよい。LUT258aは、参照輝度値を記憶するだけで足り、画素アドレスと参照輝度値とを関連付けたテーブルを記憶する必要がない。そのため、LUT258aは、例えば高解像度や高速フレームレート等に対応したアクセス速度の速い安価な小容量メモリで構成可能である。
【0073】
ピーク値蓄積用メモリ254dは、二フレーム目以降の画像情報を各波長に対応した比較器に出力する。具体的には、ピーク値蓄積用メモリ254dは、各画素のRの輝度値を比較器258Rに所定の順序(例えばスポットS、S、S、・・・、Sに対応する順序)で出力する。ピーク値蓄積用メモリ254dは、各画素のR、G、Bの輝度値についても同様に、比較器258R、258G、258Bの各比較器に所定の順序で出力する。なお、以降においては、各比較器に入力される輝度値は、参照輝度値と区別するため「実測輝度値」と記す。
【0074】
LUT258aは、各画素における各波長の参照輝度値を各比較器に上記と同じ順序(つまり、スポットS、S、S、・・・、Sに対応する順序)で出力する。具体的には、LUT258aは、各画素のRの参照輝度値を比較器258Rに所定の順序で出力する。LUT258aは、各画素のR、G、Bの各波長の参照輝度値についても同様に、比較器258R、258G、258Bの各比較器に所定の順序で出力する。システムコントローラ240は、同一画素アドレスの実測輝度値と参照輝度値とが同期したタイミングで各比較器に入力されるように、各輝度値の出力タイミングを制御している。
【0075】
比較器258R、258R、258G、258Bはそれぞれ、同期したタイミングで入力された実測輝度値と参照輝度値とを比較して、その差分値を異常画素記憶部258R’、258R’、258G’、258B’に出力する(S2)。各比較器は、実測輝度値が参照輝度値より高いときには正の差分値を、実測輝度値が参照輝度値より低いときには負の差分値を、それぞれ出力する。
【0076】
各異常画素記憶部は、各画素に対応する差分値に基づいて、該画素が異常画素であるか否かを判定する(S3)。具体的には、各異常画素記憶部は、実測輝度値と参照輝度値との差分値がa(a>0)以上の値であるとき(S3:YES)、当該画素における光検出器250の出力が飽和している又は飽和寸前である(つまり、ハレーション等が原因で白飛び又は実質的に白飛びした状態にある)ため、輝度が著しく高い異常画素として該画素のアドレスを記憶する(S4)。以下、説明の便宜上、「輝度が著しく高い異常画素」を「高輝度異常画素」と記す。
【0077】
システムコントローラ240は、各画素アドレスと該画素に対応するパルス光の発光タイミングとを関連付けた、変換回路254cと同様の変換テーブルを有している。S5の処理においてシステムコントローラ240は、かかる変換テーブルに基づいて、各異常画素記憶部に記憶された高輝度異常画素のアドレスを、各レーザ光源のパルス光の発光タイミングに変換する。システムコントローラ240は次いで、変換された発光タイミングでパルス光を減光制御させる変調制御信号を生成して、各ドライバ回路に出力する。各レーザ光源は、変調制御信号に基づくドライバ回路による変調制御により、高輝度異常画素に対応するタイミングでは所定強度より低強度のパルス光を発振し、他のタイミング(つまり、高輝度異常画素と判定されなかった画素に対応するタイミング)では所定強度のパルス光を発振する。なお、パルス光の減光量は、実測輝度値と参照輝度値との差分値に応じて設定されるようにしてもよい。図11の異常画素処理は、S5の処理を実行後、S2の処理に復帰する。
【0078】
白飛び又は実質的に白飛びしていた領域に対応する部位には、減光されたパルス光が照射される。そのため、ハレーション等に起因して生じていた白飛び又は実質的な白飛びは速やかに解消されて、画像再現性が改善される。高輝度異常画素以外の領域に対応する部位ではパルス光が減光されないため、光量不足による黒潰れが発生する弊害が有効に避けられる。すなわち、医療用観察システム1によれば、パルス光の光量制御が画素単位でコントロールされるため、白飛びによる画像再現性の劣化が良好に解消されると共に、黒潰れによる画像再現性の劣化が有効に避けられる。
【0079】
医療用観察システム1は、更に、観察視野のうち病変部に対応する領域の画素を異常画素として捉えて、医師による正確な検査や施術等を補助する機能を有している。以下、説明の便宜上、「病変部に対応する領域の画素」を「病変異常画素」と記す。
【0080】
具体的には、S6の処理において各異常画素記憶部は、画素の実測輝度値が参照輝度値に比べて著しく低く、その差分値がb(b<0)以下の値であるときには(S3:NO、S6:YES)、当該画素を病変異常画素として該画素のアドレスを記憶する(S7)。映像信号出力回路256は、例えば異常画素記憶部に記憶された複数の病変異常画素が空間的に連続した画素配置をなすとき、システムコントローラ240と連携処理して、該画素配置に対応する病変部の領域に輪郭強調等を施して、モニタ300に表示させる(S8)。図11の異常画素処理は、S8の処理を実行後、S2の処理に復帰する。なお、実測輝度値と参照輝度値との差分値がaより小さくかつbより大きい値の画素に対しては(S3:NO、S6:NO)、S5のパルス光の減光処理又はS8の強調表示処理の何れの処理も実行されない。すなわち、医療用観察システム1によれば、病変部が画素単位で判別されるため、病変部を緻密な形状まで再現する精細な輪郭で強調表示することができる。
【0081】
例えば医療用観察システム1を使用して生体のヘモグロビン酸素飽和度を検査する場合を考える。生体の還元ヘモグロビン濃度が高いほどR光が吸収されるため、Rの実測輝度値が参照輝度値に比べて低くなる画素が増加する。この結果、モニタ300上で、還元ヘモグロビンの分布が比較的広範囲に亘って強調表示されることとなる。一方、生体の酸化ヘモグロビン濃度が高いほどR光が吸収されるため、Rの実測輝度値が参照輝度値に比べて低くなる画素が増加する。この結果、モニタ300上で、酸化ヘモグロビンの分布が比較的広範囲に亘って強調表示されることとなる。医師は、還元ヘモグロビン又は酸化ヘモグロビンの分布を観察して、生体のヘモグロビン酸素飽和度を検査することができる。
【0082】
S6〜S8の処理は、R、R、G、Bの全ての波長に関して実行する必要は無く、検査目的等を達するのに必要な波長に関してだけ実行すればよい。例えばヘモグロビン酸素飽和度を検査したいときには、Rの波長に関してだけ、又はRとRの二波長に関してだけS6〜S8の処理が実行されてもよい。
【0083】
ところで、ヘモグロビンの酸化度に応じたR光又はR光の吸収率には個人差がある。生体のヘモグロビン酸素飽和度をより一層高精度に検査するため、S6の処理で参照する値bを例えばRの輝度値とRの輝度値の差分値cに置き換えて、図11の異常画素処理を実行するようにしてもよい。この場合、S6の前処理として、各画素の差分値cを計算する処理が追加される。
【0084】
第一実施形態の医療用観察システム1によれば、R、R、G、Bのうち少なくとも一種類の波長に対して高い吸収率を持つ病変部が検知されて、医師による病変部の検査が可能になる。蛍光観察等の特殊光観察を行って他の病変部を検査する場合は、観察対象に照射されるパルス光の波長を検査目的に合わせて適宜選択すればよい。
【0085】
第一実施形態においては、参照輝度値を基準とした実測輝度値の高低に応じて高輝度異常画素又は病変異常画素の判定がなされている。別の実施形態では、図11の異常画素処理を実行するプロセッサ200の各構成要素を簡素化するため、S3及びS4の処理において第一の固定値以上の輝度値の画素を高輝度異常画素とし、S6及びS7の処理において第二の固定値以下の輝度値の画素を病変異常画素として、画一的に判定するようにしてもよい。第一及び第二の固定値は、R、R、G、Bの各波長に対してそれぞれ設定されてもよく、或いは全波長共通に設定されてもよい。
【0086】
図12は、本発明の第二実施形態の走査型医療用プローブ100zの内部構成及びプロセッサ200zの一部の構成を模式的に示す、図1と同様の模式図である。図13は、第二実施形態の医療用観察システム1zにおいて実行される異常画素処理のフローチャート図である。第二実施形態において、第一実施形態の構成と同一の又は同様の構成には同一の又は同様の符号を付して説明を省略する。
【0087】
医療用観察システム1zでは、R、G、Bの三波長のパルス光を使用して画像の生成及び病変部の検知が行われる。プロセッサ200zは、R、G、Bの各波長のパルス光を発振するレーザ光源以外に、病変部の治療に適した治療用レーザ光を発振する治療用レーザ光源230sを有している。図13に示されるように、第二実施形態においても第一実施形態と同様にS1〜S7の処理が実行されて、更に、S8の処理に換えてS9の処理が実行される。但し、第二実施形態の変形例では、S8とS9の処理が併せて実行されるようにしてもよい。
【0088】
S9の処理においてシステムコントローラ240は、S5の処理と同じく、各画素アドレスと該画素に対応するパルス光の発光タイミングとを関連付けた変換テーブルを参照する。システムコントローラ240は、参照された変換テーブルに基づいて、各異常画素記憶部に記憶された病変異常画素のアドレスを、治療用レーザ光源230sによる治療用レーザ光の発光タイミングに変換する。システムコントローラ240は次いで、変換された発光タイミングで治療用レーザ光を発光制御させる変調制御信号を生成して、治療用レーザ光源230s用のドライバ回路(不図示)に出力する。治療用レーザ光源230sは、変調制御信号に基づくドライバ回路による変調制御により、病変異常画素に対応するタイミングで治療用レーザ光を発振して病変部に照射させる。すなわち、医療用観察システム1によれば、治療用レーザ光が照射される範囲が画素単位でコントロールされるため、治療時の生体への負担が最小限に抑えられる。なお、治療用レーザ光は、連続光又はパルス光の何れであってもよい。
【0089】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば別の実施形態の医療用観察システムは、使用波長を分離する光分離器がファイババンドル142Bの基端に結合され、光分離器によって分離された各波長の反射パルス光が別個の光検出器に検出される構成としてもよい。この場合、光サーキュレータ144、波長選択ファイバ146、光ファイバ148等の光学部品が削減される。
【0090】
別の実施形態の医療用観察システムでは、S3〜S5の処理の代替として又はS3〜S5の処理と併せて、次の処理が実行されるようにしてもよい。すなわち、各異常画素記憶部は、例えば画素の実測輝度値が参照輝度値に比べて著しく低く、その差分値がd(d<0)以下の値であるときに、当該画素を低輝度異常画素として該画素のアドレスを記憶する。次いでシステムコントローラ240は、S5の処理と同じ変換テーブルに基づいて、各異常画素記憶部に記憶された低輝度異常画素のアドレスを、各レーザ光源のパルス光の発光タイミングに変換する。システムコントローラ240は、変換された発光タイミングでパルス光を増光制御させる変調制御信号を生成して、各ドライバ回路に出力する。各レーザ光源は、変調制御信号に基づくドライバ回路による変調制御により、低輝度異常画素に対応するタイミングでは所定強度より高強度のパルス光を発振し、他のタイミング(つまり、低輝度異常画素と判定されなかった画素に対応するタイミング)では所定強度のパルス光を発振する。これにより、例えば光量不足によって黒く潰れていた部位が、他の部位より強い光で照射される。そのため、黒潰れ等が速やかに解消される。なお、パルス光の増光量は、実測輝度値と参照輝度値との差分値に応じて設定されるようにしてもよい。
【0091】
光検出器250は、プロセッサ200又は200zが有する構成に限らない。別の実施形態では、走査型医療用プローブ100又は100zが光検出器250を有する構成としてもよい。
【0092】
また、走査型医療用プローブ100又は100zは、各波長の光に光路差を付与して時間遅延を生じさせる手段として、ファイバブラッググレーティングに代わり、例えば誘電体多層膜フィルタ等の波長選択フィルタを有する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 医療用観察システム
100 走査型医療用プローブ
200 プロセッサ
240 システムコントローラ
254 DSP
258 異常画素検知部
300 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の光を射出する光源と、
前記射出された光を対象物上で走査する走査手段と、
前記走査された光の反射光を受光して画像信号を検出する画像信号検出手段と、
前記画像信号の検出タイミングに基づいて、各該画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、
前記決定された画素配置に従って各前記画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段と、
各前記画素に対応するタイミングで検出された画像信号の強度値を検知する強度値検知手段と、
前記検知された強度値が第一の閾値以上又は第二の閾値以下の値であるとき、該強度値に対応する画素を異常画素と判定する異常画素判定手段と、
前記判定された異常画素に対して画素単位で所定の処理を施す異常画素処理手段と、
を有することを特徴とする医療用観察システム。
【請求項2】
前記異常画素処理手段は、前記光が前記対象物における前記異常画素に対応する部位に向けて射出されるタイミングで減光又は増光されるように前記光源を駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載の医療用観察システム。
【請求項3】
前記異常画素処理手段は、前記異常画素に対応する画像を強調表示することを特徴とする、請求項1または請求項2の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項4】
所定の治療光を射出する治療用光源を更に有し、
前記異常画素処理手段は、前記治療光が前記対象物における前記異常画素に対応する部位に照射されるタイミングで前記治療用光源を発光制御することを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項5】
前記異常画素判定手段は、前記強度値検知手段により検知された強度値が所定の参照値に対して第一の所定値以上又は第二の所定位置以下の値であるとき、該強度値に対応する画素を異常画素と判定することを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項6】
前記異常画素処理手段は、前記強度値検知手段により検知された強度値と前記参照値との差分値に応じて、前記光源から射出される光の減光量又は増光量を制御することを特徴とする、請求項2を引用する請求項5に記載の医療用観察システム。
【請求項7】
前記強度値検知手段により検知された各前記画素に対応する強度値を該各画素の前記参照値として初期的に取得する強度値取得手段を更に有し、
前記異常画素判定手段は、前記取得された画素毎の参照値に基づき、異常画素であるか否かの判定を該画素毎に行うことを特徴とする、請求項5または請求項6の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項8】
前記強度値検知手段により検知された各前記画素に対応する強度値を初期的に取得する強度値取得手段と、
前記取得された画素毎の強度値の平均値を前記参照値として計算する参照値計算手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項5または請求項6の何れか一項に記載の医療用観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−268961(P2010−268961A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123151(P2009−123151)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】