説明

医療装置のための抗菌コーティングならびにその製造方法および使用方法

本発明の実施形態は、組成物が適用された医療装置の表面上での微生物成長を阻止する組成物を使用するための方法、表面に組成物が適用された医療装置、ならびに医療装置をコートするために組成物を使用するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2002年10月18日に出願された米国特許出願第10/273,767号(US−2004−0074785−A1として公開)、2003年7月10日に出願された米国特許出願第10/616,784号、2004年6月4日に出願された米国特許出願第10/861,837号、2005年6月8日に出願された米国特許出願第11/149,119号、2005年12月13日に出願された米国特許出願第11/301,512号、2006年4月4日に出願された米国特許出願第11/397,543号、および2006年7月25日に出願された米国特許出願第11/492,273号に関連し、それらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は医療装置をコートするための抗菌組成物に関する。これらの組成物は、そのような装置の表面上での微生物の成長および/またはバイオフィルムの形成を阻止する(抑制する:inhibit)ように設計された方法において使用される。
【背景技術】
【0003】
細菌、真菌などの感染微生物は、様々な生存および非生存表面、例えば、皮膚、歯、粘膜、血管組織およびインビボで移植されたそれらのものを含む医療装置上で成長することができる。表面に付着されていない、または表面上で成長していない個々の微生物は典型的には、「プランクトン様」と呼ばれる。プランクトン様生物は、様々な限局性および播種性感染の原因となる。プランクトン様微生物が医療移植物の表面などの非生存表面上で成長および播種した場合、それらはその表面の汚染および生物付着を引き起こす可能性がある。多くの場合、微生物は表面上で、ほとんど除去できなくなるところまで成長および蓄積する可能性がある。この蓄積はバイオフィルムの形成を介して起こる。バイオフィルムは典型的には、1つまたは複数の微生物が表面に付着し、それらを取り囲む水和ポリママトリクスを分泌した場合に起こる。バイオフィルム中に存在する微生物は、固着と呼ばれ、微生物を抗菌剤による攻撃から絶縁する保護環境内で成長する。これらの固着コミュニティは非固着性プランクトン様生物を生じさせる可能性があり、この生物は急速に増加し、分散する。
【0004】
プランクトン様生物は典型的には従来の抗菌処理により死滅されるが、これらの従来の処理はしばしば、バイオフィルム内に根付いた固着性コミュニティを根絶することができない。これはおそらく、固着フィルムにより生成された粘液コートが、生物への拡散を制限することにより、および、しばしば、細菌学的作用物質の化学的非活性化により、下層の生物を物理的に保護するという事実のためである。この理由のために、バイオフィルムは、しばしば生じる感染病原体のためのリザーバであり、ヘルスケア産業にとってとてつもない問題を提起すると理解される。バイオフィルムの生物学は、“細菌バイオフィルム(Bacterial biofilms):持続性感染の一般的原因”J.コスターソン(Costerson)、P.スチュワード(Steward)、E.グリーンバーグ(Greenberg)、サイエンス(Science)284:1318−1322(1999)においてより詳細に記載されている。
【0005】
上記のように、移植医療装置に関連する感染には典型的にはバイオフィルムが関係し、この場合、バイオフィルムの固着コミュニティは、侵襲性感染のためのリザーバを提供する。抗体および他の宿主免疫防御は、バイオフィルムに含まれる生物が抗体および関連する免疫応答を誘発したとしても、それらの生物を死滅させるにはかなり無力である可能性がある。さらに、抗生物質は典型的にはプランクトン様生物により引き起こされる感染を治療するが、バイオフィルム内で保護されている固着生物の死滅に対しては著しく効果が低い。結果として、いったん、バイオフィルムが医療装置などの移植物上で構築されると、実際に装置を除去し、交換せずに感染を治療するのは非常に困難である可能性がある。不運にも、たとえ、汚染された医療装置を宿主から除去したとしても、いずれの交換装置も、医療装置が除去された領域内の残留微生物による汚染を特に受けやすくなるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0074785号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイオフィルムに基づく感染および汚染の排除と関連する問題点はよく認識されているので、医療装置の表面上での微生物成長を予防し、または妨害するために多くの技術が開発されている。不運にも、医療装置表面の微生物コロニ形成は、一部には、生物が医療装置の表面上でのバイオフィルムを構築するのを阻止する能力における継続的困難のために、ヘルスケア産業内で重大な問題であり続けている。結果として、当技術分野において、微生物コロニ形成およびバイオフィルム形成を受けやすい様々な医療装置の表面上での微生物成長を阻止するのに有効な方法および組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示した本発明は一般に、医療装置上での微生物成長を阻止するための組成物を使用するための方法、そのような組成物でコートされた少なくとも1つの表面を有する医療装置、ならびに医療装置をこれらの組成物でコートするための方法に関する。これらの組成物の性質は、病原生物の成長を阻止する能力および/または病原生物を死滅させる能力を含む多くの特性を示すように制御することができる。
【0009】
本明細書で開示した発明は多くの実施形態を有する。本発明の典型的な実施形態は、医療装置の表面を、ポリペプチドのためのリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるポリペプチドを含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程を含む、移植可能な医療装置の表面上で微生物の成長を阻止する方法である。本発明の実施形態は、別の抗菌および/または免疫調節性および/または抗炎症組成物を含む第2の層を有する移植可能な医療装置を含む。例えば、第2の層は第4級アミン部分を有するポリマ(例えば、ポリ尿素−シリコーンコポリマ)を含む抗菌組成物を含むことができ、そのため、表面が微生物に暴露されると、微生物の成長は医療装置の表面上でさらに阻止される。典型的には、本発明のそのような実施形態は、医療装置の表面上でバイオフィルムを形成することができる1つまたは複数の微生物の成長を阻止するために使用される。また、第2の層は、医療装置の移植で起こる可能性のあるインビボ炎症応答を阻止する免疫調節剤、例えば、ステロイド(例えば、デキサメタゾン)を含むことができる。本発明のある実施形態は、緑膿菌(シュードモナス・エルジノーサ、Pseudomonas aeruginosa)、肺炎球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ、Streptococcus pneumoniae)、緑色連鎖球菌(ストレプトコッカス・ヴィリダンス、Streptococcus viridans)、インフルエンザ菌(ヘモフィルス・インフルエンザエ、Haemophilus influenzae)、大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス、Staphylococcus aereus)、表皮ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピデルミデス、Staphylococcus epidermidis)またはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の成長を阻止するために使用される。本発明のいくつかの実施形態は、装置が哺乳類に移植された場合に微生物によりインビボでコロニ形成されることが観察される医療装置上の感受性表面を識別し、この感受性表面の少なくとも95%を1つまたは複数の抗菌層でコートし、その後、医療装置を哺乳類に移植し、インビボの微生物成長を阻止する工程をさらに含む。本発明のいくつかの実施形態を使用して、高血糖により特徴づけられる病態、例えば糖尿病を有する個体に移植される医療装置の表面での微生物の成長を阻止することができる。本発明の他の実施形態を使用して、虚血により特徴づけられる病態、例えば心疾患を有する個体に移植される医療装置の表面での微生物の成長を阻止することができる。
【0010】
上記方法の実施形態を使用して、様々な抗菌組成物を様々な表面上に配置することができる。例えば、本発明のある実施形態では、本発明の方法によりコートした医療装置の表面はチタンを含む。また、本発明の方法によりコートした医療装置の表面は別の金属、例えば、ステンレス鋼、および/または医療装置の表面で典型的に見られるそれらの金属類の誘導体または組み合わせを含むことができる。また、表面は非金属材料、例えば、熱可塑性物質および/またはポリマ材料を含むことができる。本発明の典型的な実施形態では、これらの方法によりコートした医療装置(および/または医療装置の個々の構成要素)は、移植可能な医療装置、例えば、分析物感知装置(例えば、グルコースセンサ)、薬剤注入装置(例えば、インスリン注入ポンプ)または心臓管理装置(例えば、ペースメーカまたは電気除細動器)である。1つの特定の例示的な実施形態では、医療装置は、複数の層を備えるグルコースセンサであり、ここで、それらの層の少なくとも1つは電気化学反応性表面領域を有する電極と、分析物の存在下で電極での電流を検出可能に変える分析物感知層と、グルコースセンサの1つまたは複数の層の間の接着を促進する接着促進層と、それ(分析物調節層)を通る分析物の拡散を調節する分析物調節層と、および/または血液グルコースを透過させないカバー層と、を備える。
【0011】
本発明の典型的な実施形態では、第1の層中のポリペプチドは、オキシドレダクターゼ、例えばグルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼであり、第2の層中のポリマ組成物は、抗菌組成物(例えば、ポリ尿素−シリコーンコポリマ)または免疫調節組成物(例えば、デキサメタゾン)である。本方法のある実施形態はさらに、1つまたは複数の別の層を、第1の層と第2の層に近接して、それらから遠位で、それらの上面に、それらの下に、またはそれらの間に配置する工程を含む。そのような別の層は、例えば、第1の層と第2の層との間に配置された接着を促進する組成物および/または第1の層と第2の層の上面に配置された、医療装置のための絶縁保護カバー層として機能する組成物を含むことができる。本発明のある実施形態では、医療装置の表面上にコートさせた別の層は、生分解性ポリマを含む。本発明のいくつかの実施形態では、これらの層はさらに生物活性成分、例えば、抗生物質、レクチン、または抗炎症組成物を含む。
【0012】
本発明の別の例示的な実施形態は、高血糖により特徴づけられる状態(例えば糖尿病)を患う個体において移植される医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止するための方法である。本発明のさらに別の例示的な実施形態は、虚血により特徴づけられる状態(例えば心疾患)を患う個体において移植される医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止するための方法である。本発明のそのような実施形態では、方法は、バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別する工程と、その後、この表面を、インビボでリガンド(例えば、グルコースまたはラクテート)に暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼ(例えば、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼ)を含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程と、を含み、ここで、ポリペプチドにより生成された過酸化水素の量は、ポリペプチドに暴露されたリガンドの量に比例する。本発明のある実施形態では、医療装置はまた、第1の層上に配置され、抗菌組成物および/または抗炎症組成物を含む第2の層でコートされる。複数の層がこのように医療装置上に配置され、そのため、表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に医療装置上でのバイオフィルムの形成が阻止される。本発明の典型的な実施形態では、これらの方法によりコートされた医療装置(および/または医療装置の要素)は、移植可能な医療装置、例えば、分析物感知装置(例えば、グルコースセンサ)、薬剤注入装置(例えば、インスリン注入ポンプ)または心臓管理装置(例えば、ペースメーカまたは電気除細動器)である。
【0013】
典型的には、本発明のそのような実施形態では、第1の層中のオキシドレダクターゼはグルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼであり、方法はさらに、オキシダーゼがグルタルアルデヒド架橋により表面に固定された場合に見られるオキシドレダクターゼ活性に少なくとも等しいオキシドレダクターゼ活性を有するオキシダーゼが得られる手順を用いて、医療装置の表面にオキシダーゼを固定する工程を含む。必要に応じて、本発明のいくつかの実施形態では、第2の抗菌層が、ジイソシアネートと、親水性ポリマジオール、親水性ポリマジアミンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバである、親水性ポリマと、シロキサンと、を含む反応混合物から形成される。本発明のある実施形態は、医療装置上に別の層をコートする工程、例えば、医療装置を、インビボ環境内で予め決められた速度で分解しまたは浸食されることが観察される生分解性ポリマでコートする工程を含む。
【0014】
本発明の別の実施形態は、糖尿病個体に移植された医療装置上での微生物成長を阻止する方法であり、本方法は、医療装置の表面を少なくとも2つの抗菌組成物でコートする工程を含み、抗菌組成物はグルコースオキシダーゼ組成物を有する第1の層であって、グルコースオキシダーゼは第1の層中に配置され、個体内でグルコースに暴露されると過酸化水素を発生させ、第1の層は装置上に配置され、これにより、第1の層内でグルコースオキシダーゼにより生成された過酸化水素はグルコースオキシダーゼから拡散し、医療装置上で成長しようとしている微生物に接触し、その成長を阻止することができ、ここで、グルコースオキシダーゼにより生成された過酸化水素の量は個体内の変動するグルコースレベルに応じて変動する、第1の層と、第4級アミンを有するポリ尿素−シリコーンコポリマ組成物を含む、必要に応じて用いられる第2の層であって、医療装置上に、第2の層内の第4級アミンが、第2の層と接触する微生物の成長を阻止するような位置で配置される第2の層とを含み、そのため、移植された医療装置上での微生物の成長が阻止される。
【0015】
本発明の別の実施形態は、虚血により特徴づけられる病態(例えば、心疾患)を有する個体に移植される、医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止する方法であり、本方法は、バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別する工程と、その後、その表面を、オキシドレダクターゼに対するリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程と、を含み、そのため、表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に医療装置上でのバイオフィルムの形成が阻止される。典型的には、オキシドレダクターゼは医療装置上に、乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素が、個体内での変動する乳酸レベルに応じて変動するような位置で配置される乳酸オキシダーゼであり、乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素は乳酸オキシダーゼから拡散し、医療装置上で成長しようとしている微生物と接触し、その成長を阻止する。本発明のある実施形態では、方法はさらに、医療装置を、抗炎症ステロイド組成物を含む第2の層でコートすることにより、装置が移植された個体において抗炎症応答を阻止する工程を含む。本発明の典型的な実施形態では、医療装置上の表面は、心臓管理システム、例えばペースメーカの電子リード上で見出されるものである。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態は、リガンド(例えば、ラクテート)に暴露されると過酸化水素を発生させる装置上に配置されたオキシドレダクターゼ(例えば、乳酸オキシダーゼ)を含む抗菌組成物でコートした表面を有する移植可能な医療装置であり、ここで、抗菌組成物は装置の表面上に、オキシドレダクターゼにより生成された過酸化水素がオキシドレダクターゼから拡散し、医療装置上で成長しようとしている微生物と接触することができるように配置されており、これにより微生物の成長が阻止される。ある実施形態では、医療装置の表面は、別の生物活性剤、例えばデキサメタゾン組成物を有する第2の層でさらにコートされる。典型的には、医療装置の表面は、心臓管理システム、例えばペースメーカの電子リード上で見出されるものである。
【0017】
本発明の他の目的、特徴および利点は、下記詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を示しているが、例として示したものであり、制限するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内の多くの変更および改変は、本発明の精神から逸脱せずに可能であり、本発明はそのような改変を全て含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】グルコースとグルコースオキシダーゼとの間の周知の反応の概略図を示す。段階的に示されるように、反応には、水中のグルコースオキシダーゼ(GOx)、グルコースおよび酸素が関係する。還元的半反応では、2つのプロトンと電子がβ−D−グルコースから酵素に移動し、d−グルコノラクトンが得られる。酸化的半反応では、酵素が分子酸素により酸化され、過酸化水素が得られる。d−グルコノラクトンはその後、水と反応し、ラクトン環が加水分解され、グルコン酸が生成する。
【図2】本発明の層状組成物でコートすることができる典型的な分析物センサ構造の線図を示す。
【図3】移植可能な医療装置上の抗菌GOx酵素コーティングの概略図である。
【図4A】本発明の組成物でコートされた医療装置の表面の図を示す。これらの図面により示されている本発明の実施形態は、バイオフィルム形成生物により認識され、結合されることができるレクチンを含む。この図面で示したレクチンは、分解可能なコーティング中に配置される。さらに、本発明のこの実施形態では、医療装置の表面は、生物の成長を阻止する作用物質を有するコーティングを含む。図4Aについて説明すると、医療装置の表面は参照番号20により示される。表面20は第1のポリママトリクス22を含み、その中にバイオフィルム化合物および/またはバイオフィルム形成生物に結合することができるレクチン24が配置される。表面20は第2のポリママトリクス26を含み、その中に微生物の成長を阻止することができる1つまたは複数の作用物質28が配置される。典型的には、作用物質28は広域抗生物質製剤である。
【図4B】図4Bに示されるように、レクチン24はバイオフィルム(および/またはバイオフィルム形成生物)30を認識し、結合する。図4Bに示されるように、このレクチン−バイオフィルム相互作用を使用して、バイオフィルム形成生物を、バイオフィルム形成生物の成長を阻止することができる1つまたは複数の作用物質28を有する表面20の領域に限局化することができる。
【図4C】図4Cに示されるように、第1のポリママトリクス22は生分解性とすることができ、そのため、レクチン24が結合したバイオフィルム30は医療装置の表面20から脱落する。図4Cで示した本発明の実施形態では、作用物質28を有する第2のポリママトリクス26は、実質的に生分解性ではないものとすることができ、そのため、作用物質28は医療装置の表面に残る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に記載がなければ、本明細書で使用した専門用語、記号および他の科学用語または技術用語は全て、本発明が関連する技術分野における当業者が普通に理解している意味を有するよう意図されている。場合によっては、普通に理解されている意味を有する用語は明確にするために、および/または、参考にするために、本明細書においてさらに規定されており、本明細書におけるそのような定義に含まれるものは、当技術分野において一般に理解されているものとの実質的な相違を示すものと必ずしも解釈すべきではない。本明細書で記載し、または言及した教示および手順の多くは、当業者によりよく理解されており、従来の方法を用いて普通に採用されており、例えば、オースベル(Ausubel)ら、分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、ワイリーインターサイエンス出版社(Wiley Interscience Publishers)(1995)において記載されているものを参照されたい。適当なものとして、市販のキットおよび試薬の使用を伴う手順が、特に記載がなければ、製造者により規定されたプロトコルおよび/またはパラメータにしたがい、一般に実施される。
【0020】
本明細書で開示した本発明の実施形態は、医療装置をコートするための組成物、そのような組成物でコートされた少なくとも1つの表面を有する医療装置、ならびに医療装置をこれらの組成物でコートするための方法を提供する。これらの組成物の特性は、プランクトン様生物などの生物の成長を阻止する能力(例えば、抗菌ポリペプチド類および/または抗菌第4級アミン化合物などの分子による)を含む多くの特徴を示すように制御される。本発明の典型的な実施形態によれば、1つまたは複数のバイオフィルム形成生物の成長を阻止し、これによりそのクリアランスを促進するコーティングを有する移植可能な医療装置を提供する方法が開示される。「バイオフィルム」という用語は、当技術分野で許容される意味にしたがい使用され、微生物および、それらが微生物集団(1つまたは複数)のための細胞固定の方法として、生存および非生存表面上で発生させる細胞外ポリマ(EPS)マトリクスを示す。簡単に言うと、当技術分野において周知のように、微生物は表面に付着し、バイオフィルムを発生させる。バイオフィルム関連細胞は典型的には、細胞外ポリマ(EPS)マトリクスの生成、成長速度の減少、ならびに特定遺伝子の上方制御および下方制御により、それらのプランクトン様対応物から区別される。表面への付着は、成長培地、基層、および細胞表面の様々な特性により調節される複雑な過程である。構築されたバイオフィルム構造は典型的には、微生物細胞とEPSを含み、規定されたアーキテクチャを有し、細胞間での遺伝物質の交換に対して最適環境を提供する。バイオフィルムは、ある感染性疾患における役割および様々な装置関連感染における重要性のために公衆衛生にとって非常に重要である。例えば、ドンラン(Donlan)、Emerg Infect Dis 2002 Sep:8(9):881−90を参照されたい。
【0021】
概して、本発明のバイオフィルム阻止コーティングは典型的には、装置が使用される環境に存在する基質(例えば、グルコースまたはラクテート)に暴露されると、抗菌化合物過酸化水素を生成する抗菌オキシドレダクターゼ(例えば、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼ)を含む。ある実施形態では、バイオフィルム阻止コーティングは、医療装置の少なくとも1つの表面上でバイオフィルム形成を阻止する、および/または、医療装置の少なくとも1つの表面上でバイオフィルム微生物の成長もしくは増殖を阻止する抗菌第4級アミン化合物をさらに含む。医療装置のためのバイオフィルム阻止コーティングは、例えば、医療装置の表面上の実質的に全ての微生物を死滅および/または除去することにより、バイオフィルム形成微生物による装置のコロニ形成を実質的に防止するように調合してもよい。「バイオフィルム微生物」は、医療装置の表面上でのコロニ形成および増殖中にバイオフィルムを形成する広範囲の微生物のいずれか1つを含み、グラム陽性菌(例えば、表皮ブドウ球菌)、グラム陰性菌(例えば、緑膿菌)、および/または真菌(例えば、カンジダ・アルビカンス)が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の典型的な実施形態は典型的にはシュードモナス種(例えば、緑膿菌など)、ストレプトコッカス種(例えば、肺炎球菌、緑色連鎖球菌など)、ヘモフィルス種(例えば、インフルエンザ菌など)、エシェリキア種(例えば、大腸菌など)、腸内細菌(エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)(例えば、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)など)、プロテウス(proteus)種(例えば、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgarisなど)、スタフィロコッカス種(例えば、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌など)、ブラストモナス(Blastomonas)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)およびノカルディオイデス(Nocardioides)種ならびに酵母種、例えばカンジダ・アルビカンスなどを含む生物を標的とする。
【0022】
本発明の実施形態は、医療装置が生物活性剤、例えば抗菌ポリペプチド類および/または抗菌第4級アミン化合物でコートされ、装置の表面上での微生物の成長が阻止される方法を含む。医療装置の表面上での微生物の成長は、上記のように、装置上でのバイオフィルムの形成に至る可能性があるので、微生物の成長を阻止する本発明の実施形態は結果として、バイオフィルムの形成を阻止する。本発明の実施形態は、装置を1つまたは複数の抗菌組成物でコートすることにより、医療装置の少なくとも1つの表面でバイオフィルム微生物が事実上コロニ形成(例えば、成長および増殖)するのを阻止する方法に関する。これらの状況において、熟練者は、そのようなコーティングは、本明細書で開示した作用物質および/または特性の1つまたは複数を有する材料の複数の層を含む可能性があることを理解するであろう。本発明の例示的な実施形態は、微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別し、その後、この表面を、オキシドレダクターゼに対するリガンドに暴露されると過酸化水素を発生するポリペプチドを含む抗菌組成物を有する第1の層と、必要に応じて、その中に配置された第4級アミン部分または抗炎症剤を有するポリマを含む抗菌組成物を有する第2の層とでコートし、微生物の成長を阻止することにより、医療装置の表面上で微生物の成長を阻止する方法である。
【0023】
上記のように、本発明の実施形態は、同族リガンド(例えば、グルコースまたはラクテート)に暴露されると過酸化水素を放出する酵素(典型的には、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼなどのオキシドレダクターゼ)を有する抗菌層を含む。この状況では、「リガンド」という用語は、当技術分野で許容される意味にしたがい使用され、典型的に、酵素またはタンパク質(例えば、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼ)などの別の分子に結合し、典型的にはこの結合過程を介して何か他のものに変換され、または他のもの(例えば、過酸化水素)を生成する、より小さな分子(例えば、グルコースまたはラクテート)を示す。本発明のそのような実施形態を使用して、例えば、個体内に移植される医療装置、例えば、糖尿病患者内に移植されるグルコースセンサ、および/または心疾患患者に移植されるペースメーカシステムをコートすることができる。この状況では、オキシドレダクターゼがそのリガンドに暴露されると発生させる過酸化水素の量はオキシドレダクターゼと反応するリガンドの量に比例するので、過酸化水素を発生させるためのそのような基質に特異的なオキシドレダクターゼ酵素を含む抗菌層は、「知的放出層(intelligent release layer)」として機能し、この場合、オキシドレダクターゼにより生成される過酸化水素抗菌化合物のレベルは、変動するリガンドレベルに応じて変動するであろう。本発明のある実施形態は、そのような層でコートされた装置を、グルコースまたはラクテートなどのリガンドの変動レベルが感染のリスクと相関する環境に選択的に配置することにより(例えば、糖尿病個体または心疾患個体内での移植)、これらの層のこの特性を利用するように設計される。
【0024】
本発明の実施形態は、オキシドレダクターゼとそれらのインビボリガンドとの間の相互作用に基づいている。例えば、図1は、グルコースとグルコースオキシダーゼとの間の反応に基づく本発明の実施形態の概略図を提供する。段階的に示されるように、反応には、水中のグルコースオキシダーゼ(GOx)、グルコースおよび酸素が関係する。還元的半反応では、2つのプロトンと電子がβ−D−グルコースから酵素に移動し、d−グルコノラクトンが得られる。酸化的半反応では、酵素が分子酸素により酸化され、過酸化水素が得られる。d−グルコノラクトンはその後、水と反応し、ラクトン環が加水分解され、グルコン酸が生成する。この状況においては、グルコースオキシダーゼなどのオキシドレダクターゼ酵素に基づく酵素的抗菌システムが、規定された環境において抗菌効果を発生させるために、様々な状況において使用することができることが、当技術分野において知られている(例えば、米国特許第4,617,190号、米国特許第4,150,113号、米国特許第4,269,822号、米国特許第4,178,362号、および米国特許第4,576,817号を参照されたい。これらの内容は参照により組み入れられる)。Hを発生させるポリペプチド類の例示的な列挙が、クラーク(Clark)ら、Biotechnol.Bioeng.Symp.3:377(1972)において見られる。これらのポリペプチド類としては、乳酸オキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、リポアミドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンレダクターゼ、アルデヒドオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グリコール酸オキシダーゼ、L−アミノ酸オキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼが挙げられる(米国特許第4,830,011号もまた、参照されたい。この内容は参照により組み入れられる)。
【0025】
乳酸およびラクテートレベルを分析するために乳酸オキシダーゼなどのポリペプチドオキシドレダクターゼを使用することは、当技術分野において周知である。例えば、米国特許第4,166,763号は、オキシドレダクターゼ、乳酸オキシダーゼがラクテートまたは乳酸の分析において使用され、これにより、乳酸が酸化され、ピルベートおよび過酸化水素が生成する様々な様式を教示する。この状況では、血液中の乳酸のレベルは血液循環の妥当性の指標となり、上昇したラクテートレベルが観察される循環不全の重篤度の生物化学的基準となる。ラクテート(例えば、乳酸の塩またはエステル)は、診断、重篤度の定量化、およびショック状態の予後のために測定することができる。これは、急性心筋梗塞および心筋不全における予後の指標ともなる。スポーツ医学および運動生理学では、血液ラクテートレベルは嫌気的能力を測定し、トレーニングの有効性を評価し、耐久性を予測し、オーバートレーニングを検出するために使用することができる。また、ラクテートおよびピルベートレベルは、正常な個体において、グルコースの投与後、またはインスリン注入後急激に増加する。この上昇は糖尿病においては遅れ、または存在しない。そのため、ラクテートおよびグルコース濃度の両方の決定を使用して、膵性糖尿病と減少した耐糖性を示す他の障害との間で識別することができる。
【0026】
オキシドレダクターゼを含む層の他に、本発明のある実施形態は、第4級アンモニウム部分を含むケイ素−含有コポリマを含む別の抗菌層を有する医療装置を含む。ケイ素−含有第4級アンモニウム部分抗菌剤は、カチオン性抗菌剤と呼ばれる抗菌剤の一般クラスに属する。本明細書で使用されるように、「抗菌剤」は微生物、特に病原微生物の成長を阻止し、および/またはそれらを死滅させる作用物質である。多くの第4級アンモニウム化合物の抗菌剤としての使用が、当技術分野において記載されている(例えば、ゴッテンボス(Gottenbos)ら、バイオマテリアルズ(Biomaterials)2002、23(6):1417−1423;リー(Lee)ら、2004、5(3):877−882;例えば、米国特許第3,560,385号、同第3,794,736号、同第3,814,739号;米国特許第3,730,701号、同第3,794,736号、同第3,860,709号、同第4,282,366号、同第4,394,378号、同第4,408,996号、同第4,414,268号、同第4,504,541号、同第4,615,937号、同第4,620,878号、同第4,631,273号、同第4,692,374号、同第4,842,766号、同第5,064,613号、同第5,358,688号、同第5,359,104号、同第5,411,585号、同第5,954,869号、同第5,959,014号、同第6,113,815号、同第6,120,587号、同第6,146,688号および同第6,572,926号、同第6,221,944号、同第6,469,120号、同第6,632,805号、および同第6,762,172号、ならびに米国特許出願第20060223962号を参照されたい。これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる)。
【0027】
上記のように、本明細書で開示した本発明は、一般に、医療装置上での微生物成長を阻止するための組成物を使用するための方法、そのような組成物でコートされた少なくとも1つの表面を有する医療装置ならびに医療装置をこれらの組成物でコートするための方法に関する。これらの組成物の特性は、病原生物の成長を阻止する、および/またはそれらを死滅させる能力を含む多くの特性を示すように制御することができる。本発明の典型的な実施形態は、医療装置の表面を、リガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるポリペプチドを含む抗菌組成物を有する第1の層、および典型的には、その中に配置された第4級アミン部分および/または抗炎症剤を有するポリマを含む抗菌組成物を有する第2の層でコートする工程を含み、そのため、表面が微生物に暴露された場合、医療装置の表面上で微生物の成長が阻止され、および/または、装置が移植された被験体内で抗炎症応答が阻止される、医療装置の表面上での微生物の成長を阻止する方法である。上記のように、過酸化水素を発生させる多くのポリペプチド類が当技術分野において公知であり、例えば、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、グルタミン酸オキシダーゼおよびL−α−グリセロール−ホスフェートオキシダーゼなどが挙げられる。典型的には、本発明の方法は、医療装置の表面上でバイオフィルムを形成することができる微生物の成長を阻止するために使用される。本発明のある実施形態は、緑膿菌、肺炎球菌、緑色連鎖球菌、インフルエンザ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、またはカンジダ・アルビカンスの成長を阻止するために使用される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態は、装置を哺乳類体内に移植した場合に微生物によりインビボでコロニ形成されることが観察される医療装置上の感受性表面を識別し、この感受性表面の少なくとも75、80、85、90または95%を第1および第2の層でコートし、その後、医療装置を哺乳類体内に移植する更なる工程を含み、そのため、インビボでの微生物成長が阻止される。本発明のある実施形態では、本発明のそのような方法を使用して、高血糖により特徴づけられる病態、例えば糖尿病を有する個体に移植される医療装置の表面での微生物の成長を阻止することができる。本発明の他の実施形態では、本発明のそのような方法を使用して、虚血により特徴づけられる病態、例えば心疾患を有する個体に移植される医療装置の表面での微生物の成長を阻止することができる。当技術分野において公知のように、「心疾患」という用語は、心筋または心臓の血管に影響する障害(例えば、不整脈、冠動脈心疾患、冠動脈疾患、拡張型心筋症、心発作、心不全、肥大型心筋症、僧帽弁逆流、肺動脈弁狭窄など)を示す。本明細書で開示した組成物でコートされた医療装置は、バイオフィルム形成および瘡蓋に抵抗する能力のために長期留置用途のために特に有用である。本明細書で使用されるように、「長期」は3ヶ月を超え、典型的には6ヶ月を超え、より典型的には1年を超える。移植による治療のための被験体は、典型的には哺乳類被験体であり、より典型的にはヒト被験体である。
【0029】
上記方法の実施形態を使用して、様々な抗菌組成物を様々な表面上に配置することができる。本発明のある実施形態では、例えば、本発明の方法によりコートされた医療装置の表面はチタンを含む。また、本発明の方法によりコートされた医療装置の表面は、別の金属、例えば、ステンレス鋼、およびまたは、医療装置の表面で典型的に見出されるそれらの金属の誘導体または組み合わせを含むことができる。また、表面は非金属材料、例えば、熱可塑性材料および/またはポリマ材料を含むことができる。本発明の典型的な実施形態では、これらの方法によりコートされた医療装置(および/または医療装置の要素)は、移植可能な医療装置、例えば、分析物感知装置(例えば、グルコースセンサ)、薬剤注入装置(例えば、インスリン注入ポンプ)または心臓管理装置(例えば、ペースメーカまたは電気除細動器)である。1つの特定の例示的な実施形態では、医療装置は、複数の層を備えるグルコースセンサであり、ここで、それらの層の少なくとも1つは電気化学反応性表面領域を有する電極と、分析物の存在下で電極での電流を検出可能に変える分析物感知層と、グルコースセンサの1つまたは複数の層の間の接着を促進する接着促進層と、それを通る分析物の拡散を調節する分析物調節層と、および/または血液グルコースを透過させないカバー層と、を備える。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、第1の層中のポリペプチドはグルコースオキシダーゼであり、第2の層中のポリマ組成物は、ジイソシアネートと、親水性ポリマと、親水性シリコーンとの反応混合物から形成されるポリマである。本方法のある実施形態はさらに、第1の層と第2の層の上に、それらの下に、またはそれらの間に1つまたは複数の別の層を配置する工程を含む。そのような別の層は、例えば、第1の層と第2の層との間に配置された接着を促進する組成物および/または第1の層および第2の層の上に配置された、医療装置のための絶縁保護カバー層として機能する組成物を含むことができる。本発明のある実施形態では、医療装置の表面上にコートされた別の層は、生分解性ポリマを含む。本発明のいくつかの実施形態では、これらの層はさらに、生物活性成分、例えば、抗生物質、レクチン、または抗炎症組成物を含む。
【0031】
本発明の別の例示的な実施形態は、高血糖により特徴づけられる状態(例えば、糖尿病)を患う個体において移植された医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止するための方法である。本発明のこの実施形態では、本方法は、バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別する工程と、その後、この表面を、オキシドレダクターゼのインビボリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程と、を含み、ここで、オキシドレダクターゼにより生成される過酸化水素の量は、暴露されたリガンドの量に比例する。本発明のこの実施形態では、医療装置は典型的には、第1の層上に配置され、例えば、ポリ尿素−シリコーンコポリマを含む抗菌組成物を有する第2の層でコートされる。複数の層がこのように医療装置上に配置され、そのため、表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に医療装置上でのバイオフィルムの形成が阻止される。本発明の典型的な実施形態では、これらの方法によりコートされた医療装置(および/または医療装置の要素)は、移植可能な医療装置、例えば、分析物感知装置(例えば、グルコースセンサ)、薬剤注入装置(例えば、インスリン注入ポンプ)または心臓管理装置、例えば、ペースメーカまたは電気除細動器(例えば、ペースメーカリードの電極)である。本発明の関連実施形態は、糖尿病個体内に移植された医療装置上での微生物の成長を阻止する方法であり、本方法は、医療装置の表面を少なくとも2つの抗菌組成物でコートする工程を含み、抗菌組成物は、グルコースオキシダーゼ組成物を含む第1の層であって、グルコースオキシダーゼは、個体内でグルコースに暴露されると過酸化水素を発生させ、グルコースオキシダーゼにより生成された過酸化水素の量は個体内で変動するグルコースレベルに応じて変動する、第1の層と、ポリ尿素−シリコーンコポリマ組成物を含む第2の層とを含む。
【0032】
本発明の別の例示的な実施形態は、虚血により特徴づけられる状態(例えば、心疾患)を患う個体内に移植された医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止するための方法である。本発明のこの実施形態では、本方法は、バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別する工程と、その後、この装置を、その同族リガンド(例えば、ラクテート)に暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを(例えば、乳酸オキシダーゼ)含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程とを含み、ここで、ポリペプチドにより生成された過酸化水素の量は、オキシドレダクターゼに暴露されたリガンドの量に比例する。本発明のいくつかの実施形態では、医療装置はまた、抗菌および/または抗炎症組成物、例えば、デキサメタゾンで含浸させたポリマ組成物を含むものを有する第2の層でコートされる。複数の層がこのように医療装置上に配置され、(1)表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に医療装置上でバイオフィルムが形成されるのが阻止され、(2)表面が、装置が移植された被験体内で免疫細胞に暴露された場合に、移植に関連する炎症応答が阻止される。本発明の典型的な実施形態では、これらの方法によりコートされた医療装置(および/または医療装置の要素)は、心臓管理装置、例えば、ペースメーカまたは電気除細動器(例えば、ペースメーカリードの電極)である。
【0033】
本発明のある実施形態では、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼなどのオキシドレダクターゼの抗菌活性は、移植可能な医療装置上でのオキシダーゼの異なる表面固定技術を介して制御様式で操作することができる。特に、オキシドレダクターゼは、多くの異なる技術により医療装置上に配置された層内に固定することができ、使用される特定の技術は固定されたポリペプチドの抗菌活性に影響する可能性がある。この状況において、広範囲のそのような固定技術は当技術分野において公知である(例えば、米国特許第4,894,339号、リュウ(Liu)ら、Anal Chem.1997 Jul 1;69(13):2343−8;インマン(Inman)ら、Biochem J.1972 Sep;129(2):255−62;シャン(Shan)ら、Biosens Bioelectron.2007 Mar 15;22(8):1612−7、Epub 2006;サリミ(Salimi)ら、Biosens Bioelectron、2007 Jun 15;22(12):3146−53、Epub 2007;およびウー(Wu)ら、Biosens Bioelectron.2007 Jun 15;22(12):2854−60、Epub 2007を参照されたい。これらの内容は参照により組み入れられる)。典型的には、本発明のそのような実施形態では、第1の層中のオキシドレダクターゼはグルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼであり、方法は、グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼがグルタルアルデヒド架橋により表面に固定された場合に観察されたオキシドレダクターゼ活性に少なくとも等しいオキシドレダクターゼ活性を有するグルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼが得られる手順を用いて、グルコースオキシダーゼおよび乳酸オキシダーゼを医療装置の表面に固定する工程をさらに含む。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、医療装置上に配置された第2の層は、ジイソシアネートと、親水性ポリマジオール、親水性ポリマジアミンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバである親水性ポリマと、シロキサンとを含む反応混合物から形成される。本発明の1つの例示的な実施形態では、ポリマは、ジイソシアネート、例えば、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)と、親水性ジアミン、例えばO,O’−ビス(2−アミノプロピル)ポリプロピレングリコール−ブロックポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコールと、疎水性シリコーン、例えばビス(3−アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)とを含むポリ尿素−シリコーンコポリマである。本発明のある実施形態は、医療装置上で追加の層をコートする、例えば医療装置を、インビボ環境内で所定の速度で分解することが観察される生分解性ポリマでコートする工程を含む。本発明の他の実施形態では、医療装置上に配置された第2の層は、免疫調節および/または抗炎症剤の反応、例えば、ポリマ材料とブレンドされたステロイド、例えばシリコーンポリマ内に含浸されたデキサメタゾン、ポリマから周囲の組織中にステロイドが徐々に溶出されるように設計されたブレンド組成物により形成される。
【0035】
本発明の1つの実施形態は、高血糖により特徴づけられる症候群、例えば糖尿病を有する個体内に移植されるように設計された、および/または移植されている医療装置(例えば、グルコースセンサおよび/またはインスリン注入装置)の表面上での微生物成長を阻止する方法である。特に、当技術分野においては、外科的処置を受ける糖尿病患者では、術前高血糖は短期感染合併症および病院内での滞在の総長の独立予測因子であること、さらに、術後グルコース調節はこれらの患者における院内感染を予知することが観察されている(例えば、ポンポセリ(Pomposelli)ら、J.Parenter.Enteral.Nutr.1998、22(2):77−81;Ann.Thorac.Surg.1999、67(2):352−360;およびガバナー(Guvener)ら、内分泌ジャーナル(Endocrine Journal)2002、49(5):531−537を参照されたい)。その結果として、本発明のある方法的実施形態は、高血糖個体内での移植のために設計されるが、これは、そのような個体内でのグルコースのより高いレベルは、それに応じて、より高いレベルの過酸化水素を発生させる層内のGOxとなり、このように、上昇した血糖レベルと関連する感染リスクの増加に対抗するからである。
【0036】
本発明の別の実施形態は、虚血により特徴づけられる病態(例えば、心疾患)を有する個体において移植された医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止する方法であり、該方法は、バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される医療装置上の表面を識別する工程と、その後、その表面を、オキシドレダクターゼ(例えば、乳酸オキシダーゼ)に対するリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程とを含み、そのため、その表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に、医療装置上でのバイオフィルムの形成が阻止される。典型的には、オキシドレダクターゼは、医療装置上に、乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素が個体内の変動するラクテートレベルに応じて変動するような位置で配置される乳酸オキシダーゼであり、乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素が乳酸オキシダーゼから拡散し、医療装置上で成長しようとしている微生物と接触し、その成長を阻止する。
【0037】
本発明のある実施形態では、方法は、虚血により特徴づけられる病態(例えば、心疾患)を有する個体において、移植された医療装置に対する生理応答(例えば、抗炎症応答)を阻止する工程をさらに含む。そのような実施形態では、移植された医療装置は、移植された装置に対する個体の生理応答を調節することが公知の作用物質、例として、グルココルチコイド、例えば、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、酢酸デキサメタゾンまたは別のデキサメタゾン誘導体ならびに関連分子、例えば、ベクラメタゾンまたはベタメタゾンを含む第2の層によりコートされる。本発明のそのような実施形態に対して有用な他の作用物質としては、ヘパリン、ヒルジン、トコフェロール、アンジオペプチン、アスピリン、ACE阻害剤、成長因子、オリゴヌクレオチド類、および、より一般的には、抗血小板薬、抗凝固薬、有糸分裂阻害剤、抗酸化剤、代謝拮抗剤、および抗炎症剤が挙げられる(例えば、米国特許第6,203,536を参照されたい。この内容は参照により組み入れられる)。本発明の典型的な実施形態では、医療装置上の表面は、心臓管理システム、例えば、ペースメーカの電子リード上で見られるものである。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態は、リガンド(例えば、ラクテート)に暴露されると過酸化水素を発生させる装置上に配置されたオキシドレダクターゼ(例えば、乳酸オキシダーゼ)を含む抗菌組成物でコートした表面を有する移植可能な医療装置であり、抗菌組成物は医療装置の表面上に配置され、そのため、オキシドレダクターゼにより生成された過酸化水素はオキシドレダクターゼから拡散し、医療装置上で成長しようとしている微生物に接触し、これにより、微生物の成長を阻止することができる。ある実施形態では、医療装置の表面は、デキサメタゾン組成物でさらにコートされる。本発明のいくつかの実施形態では、医療装置の表面は、心臓管理システムの特異部分(例えば、微生物コロニ形成を受けやすいことが観察されるもの)、例えば、ペースメーカの電子リード上で見られるものである。本発明の他の実施形態では、移植可能な医療装置上の表面はペースメーカの他の構成要素上で見出され、ならびにそれらの表面は、様々な移植可能な医療装置、例えば、電気除細動器、神経刺激器、およびECGモニタ上に存在する。そのような医療装置は典型的には、体内で電気信号、例えば、心内電位図(EGM)信号、心電図(ECG)信号、および筋電図(EGM)信号を感知するために使用される1つまたは複数のリードを含む。リードはまた、治療用電気刺激パルスを送達するために、または電気生理学的マッピングにおいて使用される電気パルスを送達するために、または他の診断目的のために使用される(例えば、米国特許出願公開第20070154519A1号および米国特許第6,961,610号を参照されたい。これらの内容は参照により組み入れられる)。
【0039】
本発明の方法は、医療装置を、バイオフィルム形成を阻止するように設計された別の作用物質でコートする工程を含むことができる。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、装置の表面はさらに、バイオフィルム形成生物により認識され、結合されることができるレクチンでコートされる。本発明の1つのそのような実施形態では、レクチンは、被験体内に移植された医療装置の表面から脱落する生分解生組成物層と組み合わせて使用され、これにより、バイオフィルム形成生物によるバイオフィルムコロニの構築が阻止される。そのため、本発明のそのような実施形態は、生物およびバイオフィルム化合物(例えば、バイオフィルムのムコ多糖類)を、被験体の生理学的クリアランス機序、例えば免疫監視および食作用によりそれらのクリアランスを促進する様式で、装置から脱着させることによりバイオフィルム形成をさらに阻止する、装置のための別のコーティングを提供する。さらに、バイオフィルム構成要素は装置から脱落するにつれ、免疫細胞(例えば、B細胞、T細胞、マクロファージなど)に、よりアクセス可能となり、これらは宿主免疫応答をさらに刺激するように機能し、バイオフィルム形成生物の成長を阻止する。
【0040】
本発明のある実施形態では、コーティングは1つまたは複数の分解性および/または浸食性材料から作製され、そのコーティングを有する表面の生物コロニ形成がさらに妨害される。特に、ある状況では、バイオフィルムは、仮に形成されるとしたら、かなり短い期間に形成されることが観察されている。結果として、装置が微生物コロニ形成を最も受けやすい期間の間(例えば、移植直後の最初の数週間または数ヶ月)、バイオフィルムの形成を阻止する生分解性ポリマは、バイオフィルムの構築および/またはバイオフィルム形成の発生を効果的に低減させることができる。結果として、本発明のある典型的な実施形態は、配置されたインビボ環境内で特定の速度で分解する生分解性ポリマ類を含むコーティング組成物を有する装置を使用する。例示的な実施形態は、生分解性ポリマコーティングの50%を超える(典型的には90%を超える)ものが、医療装置の移植後1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月などまでに分解される。
【0041】
本発明の別の実施形態は、そのリガンド(例えば、グルコースまたはラクテート)に暴露されると過酸化水素を生成させるオキシドレダクターゼを含む組成物および/または第4級アミン部分を含む抗菌ポリマ組成物でコートした表面を有する医療装置、および/または微生物成長を阻止するためにそのようなコーティングを使用する方法である。必要に応じて、装置上のコーティングはさらに、医療装置の表面上でバイオフィルムを形成することができる微生物により生成された化合物に結合するレクチンを含む。本発明のそのような実施形態では、レクチンは典型的には生分解性ポリマ内に配置される(例えば、化学的に結合され、または捕捉される)。必要に応じて、そのような実施形態で使用される生分解性ポリマはインビボ環境内で予め決められた速度で分解する生体適合性ポリマである。必要に応じて、組成物は少なくとも1つの殺生剤、例として、従来の抗生物質、例えばβ−ラクタム抗生物質または抗真菌剤、例えばトリアゾールまたは真菌膜内でステロール類に結合するポリエン抗生物質をさらに含む。典型的には、装置は移植可能な装置、例えば薬物送達ポンプ、心臓管理装置、例えば、ペースメーカ、人工内耳、分析物感知装置、カテーテル、カニューレ、などである。
【0042】
本明細書で開示した組成物の様々な並び替えは、当業者により作成可能である。例えば、本発明のある実施形態では、組成物は、必要に応じて異なる特性を有する材料の層から構成される。本発明のある実施形態では、組成物は複数のポリマ類、複数のオキシドレダクターゼ類、複数の第4級アミン化合物類、複数の従来の殺生剤および/または複数のレクチン類(例えば、コムギ胚芽凝集素およびコンカナバリンA)を含む。いくつかの実施形態では、複数のレクチン類はバイオフィルムを形成することができる複数の微生物により生成された複数の化合物類に結合する。特に、バイオフィルムは複数の相互作用する微生物を含む可能性があることが当技術分野において公知である(例えば、リカード(Rickhard)ら、応用微生物学および環境微生物学(Applied and Environmental Microbiology)、2000:431−434およびリカードら、応用微生物学および環境微生物学、2002:3644―3650を参照されたい)。また、複数のレクチン類は単一種の微生物により生成された複数の化合物類に結合する。本発明の他の実施形態では、組成物は複数のポリマ類を含む。本発明の他の実施形態では、組成物は複数の微生物種(例えば、細菌種および真菌種の両方)を死滅させることができる複数の殺生剤を含む。例示的な実施形態では、レクチンおよび/または殺生剤は、緑膿菌、肺炎球菌、緑色連鎖球菌、インフルエンザ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌およびカンジダ・アルビカンスからなる群より選択される微生物を標的とする。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態は、医療装置の表面上でのバイオフィルムの形成を阻止するための方法であり、該方法は、そのリガンドに暴露されると過酸化水素を生成させるオキシドレダクターゼと、分解して、コロニ形成しようとしている生物を表面から脱落させるように設計された生分解性ポリマと、を含む組成物で装置をコートする工程を含む。この方法では、生分解性ポリマはオキシドレダクターゼを捕捉することができる。また、生分解性ポリマは、オキシドレダクターゼを有する層から分離させることができる。典型的には、生分解性ポリマはインビボ環境内で規定された速度で分解するように選択される。
【0044】
本発明の関連する実施形態は、グルコースなどの分析物に暴露されると過酸化水素を生成させるオキシドレダクターゼを含む組成物、および微生物の成長を阻止する能力に対して選択された第4級アミン部分を含む抗菌ポリマ組成物で表面をコートする工程を含む、装置の表面の微生物コロニ形成を阻止するコーティングを有する医療装置を製造する方法である。本発明のさらに別の実施形態は、グルコースなどのリガンドに暴露されると過酸化水素を生成させるオキシドレダクターゼを含む組成物、および/または第4級アミン部分を含む抗菌ポリマ組成物、生分解性ポリマおよび/または生分解性ポリマに結合されたレクチンなどの別の組成物で表面をコートする工程を含み、レクチンは医療装置の表面上でバイオフィルムを形成することができる微生物により生成された化合物に結合するように選択される、装置の表面の微生物コロニ形成を阻止するコーティングを有する医療装置を製造する方法である。
【0045】
本発明の特定の例示的な実施形態では、組成物によりコートされる表面は、医療装置において普通に使用される材料である、チタンであり、組成物はグルコースオキシダーゼおよび3−アミノプロピルトリエトキシシラン(第4級アミンを有する組成物)を含む。本発明のいくつかの実施形態では、装置はさらに、レクチン、例えば、コンカナバリンA、コムギ胚芽凝集素またはへリックス・アスペルサ(Helix aspersa)、インゲンマメ(ファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris)またはトリカモナス・ブルガリス(Trichamonas vulgaris)から誘導されたレクチンを含む組成物でコートされる(例えば、フランクール(Francoeur)ら、Appl Environ Microbiol 2001、67(9):4329−34;ノイ(Neu)ら、微生物学(Microbiology)、2001 147(pt2):299−313;およびAppl Environ Microbiol 2000、66(8):3487−91を参照されたい)。そのようなレクチン類は、多くの供給元、例えばシグマケミカルカンパニー(Sigma Chemical Company)(例えば、シグマカタログ番号L9640、L6655、L8629、L9040、およびC2010)から市販されている。本発明のこの実施形態では、組成物は、抗生物質ストレプトマイシンをさらに含むことができる。この実施形態では、レクチンは、生物を死滅させる殺生剤(ストレプトマイシン)を有する装置の部分にバイオフィルム形成生物を標的させるように機能することができる。同様に、そのため、レクチンはバイオフィルム形成生物の装置の一部への付着を促進し、その部分は、バイオフィルム形成をさらに阻止するように脱落する。そのような状況では、バイオフィルム形成は一部には装置の未処理表面に比べバイオフィルムに対しより大きな親和性を有する生分解性組成物で、医療装置の表面を処理することにより阻止される。
【0046】
本発明の様々な実施形態および観点を下記で詳細に記載する。
【0047】
<医療装置上でコーティングを形成するための例示的な組成物>
本発明の組成物は、医療装置、特に移植された装置と適合可能な広範囲にわたる材料のいずれか1つ(典型的には、オキシドレダクターゼと、第4級アミンを含むポリマまたはデキサメタゾンなどの抗炎症剤などの別の化合物の両方を含むもの)を本質的に含むことができる。ポリマ類は架橋されてもよく、またはされていなくてもよく、直鎖または分枝、天然または合成、熱可塑性または熱硬化性、または生体安定性、生分解性、生体吸収性または可溶性であってもよい。本明細書で記載した本発明の実施形態は、移植可能な医療装置、例えば、心臓管理システム(例えば、ペースメーカ)、分析物感知装置、薬物送達ポンプ、人工内耳、ステント、カニューレ、などをコートするための、成長阻害剤および/または抗炎症剤を有する様々な型のポリマコーティングを含む。典型的には、ポリマは、スピンコーティング、浸漬または噴霧などの方法により移植可能な装置の表面に適用される。当技術分野において公知の別の方法もまた、この目的のために使用することができる。噴霧法としては、従来の方法ならびにインクジェット型のディスペンサを用いたマイクロデポジション技術が挙げられる。さらに、フォトパターニングを用いてポリマを移植可能な装置上に堆積させ、ポリマを装置の特定の部分のみに配置することができる。
【0048】
医療装置をコートするために使用することができる例示的なポリマ類としては、下記分子が挙げられるが、それらに限定されない:ポリカルボン酸ポリマ類およびコポリマ類、例えばポリアクリル酸類(例として、アクリルラテックス分散物および様々なポリアクリル酸製品、例えば、ヒドロプラス(HYDROPLUS)、マサチューセッツ州ネーティックのボストンサイエンティフィックコーポレーション(Boston Scientific Corporation)から入手可能で、米国特許第5,091,205号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる、および、ヒドロパス(HYDROPASS)、これもまたボストンサイエンティフィックコーポレーションから入手可能);アセタールポリマ類およびコポリマ類;アクリレートおよびメタクリレートポリマ類およびコポリマ類;セルロースポリマ類およびコポリマ類、例えば、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、プロピオン酸セルロース類、酢酸酪酸セルロース類、セロファン類、レーヨン類、レーヨントリアセテート類、およびセルロースエーテル類、例えばカルボキシメチルセルロース類およびヒドロキシアルキルセルロース類;ポリオキシメチレンポリマ類およびコポリマ類;ポリイミドポリマ類およびコポリマ類、例えばポリエーテルブロックイミド類、ポリビスマレインイミド類、ポリアミドイミド類、ポリエステルイミド類、およびポリエーテルイミド類;ポリスルホンポリマ類およびコポリマ類、例えばポリアリールスルホン類およびポリエーテルスルホン類;ポリアミドポリマ類およびコポリマ類、例えばナイロン6,6、ポリカプロラクタム類およびポリアクリルアミド類;樹脂類、例えばアルキド樹脂類、フェノール樹脂類、尿素樹脂類、メラミン樹脂類、エポキシ樹脂類、アリル樹脂類およびエポキシド樹脂類;ポリカーボネート類;ポリアクリロニトリル類;ポリビニルピロリドン類(架橋されたものおよびその他);無水物ポリマ類およびコポリマ類、例えば、無水マレイン酸ポリマ類;ビニルモノマ類のポリマ類およびコポリマ類、例として、ポリビニルアルコール類、ポリハロゲン化ビニル類、例えば、塩化ポリビニル類、エチレン−酢酸ビニルコポリマ類(EVA)、ポリ塩化ビニリデン類、ポリビニルエーテル類、例えば、ポリビニルメチルエーテル類、ポリスチレン類、スチレン−ブタジエンコポリマ類、アクリロニトリル−スチレンコポリマ類、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマ類、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマ類およびスチレン−イソブチレン−スチレンコポリマ類、ポリビニルケトン類、ポリビニルカルバゾール類、およびポリビニルエステル類、例えば、ポリ酢酸ビニル類;ポリベンズイミダゾール類;イオノマ類;ポリアルキルオキシドポリマ類およびコポリマ類、例えばポリエチレンオキシド類(PEO);グリコサミノグリカン類;ポリエステル類、例として、ポリエチレンテレフタレート類および脂肪族ポリエステル類、例えばラクチド(乳酸ならびにd−、l−およびメソラクチドを含む)、ε−カプロラクトン、グルコリド(グリコール酸を含む)、ヒドロキシブチラート、ヒドロキシバレラート、パラ−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、および6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オンのポリマ類およびコポリマ類(ポリ乳酸およびポリカプロラクトンのコポリマは1つの具体例である);ポリエーテルポリマ類およびコポリマ類、例として、ポリアリールエーテル類、例えば、ポリフェニレンエーテル類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン類;ポリフェニレンスルフィド類;ポリイソシアネート類(例えば、米国特許第5,091,205号は、1つまたは複数のポリイソシアネート類でコートされ、そのため、体液に暴露された場合にすぐに滑らかになる医療装置を記載する);ポリオレフィンポリマ類およびコポリマ類、例として、ポリアルキレン類、例えば、ポリプロピレン類、ポリエチレン類(低および高密度、低および高分子量)、ポリブチレン類(例えばポリブト−1−エンおよびポリイソブチレン)、ポリ−4−メチル−ペン−1−エン類、エチレン−α−オレフィンコポリマ類、エチレン−メチルメタクリレートコポリマ類およびエチレン−酢酸ビニルコポリマ類;フッ素化ポリマ類およびコポリマ類、例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロペン)(FEP)、修飾されたエチレンテトラフルオロエチレンコポリマ類(ETFE)、およびポリフッ化ビニリデン類(PVDF);シリコーンポリマ類およびコポリマ類;ポリウレタン類(例えば、ベイヒドロール(BAYHYDROL)ポリウレタン分散物);p−キシレンポリマ類;ポリイミノカーボネート類;コポリ(エーテル−エステル類)、例えば、ポリエチレンオキシド−ポリ乳酸コポリマ類;ポリホスファジン類;ポリアルキレンオキサレート類;ポリオキサアミド類およびポリオキサエステル類(例として、アミン類および/またはアミド基を含むもの);ポリオルトエステル類;バイオポリマ類、例えば、ポリペプチド類、タンパク質類、多糖類および脂肪酸類(およびそれらのエステル類)、例として、フィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチン、キトサン、ゼラチン、デンプン、グルコサミノグリカン類、例えば、ヒアルロン酸;ならびに、上記のブレンドおよびコポリマ類などである。
【0049】
本発明に関連して使用するための典型的なポリマ類としては、エチレン−酢酸ビニルコポリマ類(EVA)およびポリウレタン類およびヒドロゲル類が挙げられる。ヒドロゲルは、親水性および疎水性の両方を有する固体成分(通常ポリマ、およびより一般的には高度に架橋したポリマ)を含む相互に大きく依存している、二相マトリクスである。さらに、マトリクスは分子間力によりマトリクス内で保持されている液体成分(例えば、水)を有する。疎水性はマトリクスに、ある程度の水不溶性を提供するが、親水性は水透過性を提供する。ヒドロゲルのポリマ部分は、水素結合に適した官能性(例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、エーテル結合、カルボン酸およびエステル、など)を含むであろう。さらに、水素結合官能性により提供される水に対する親和性は、ヒドロゲルを油または脂質マトリクスなどの疎水性媒質中に配置した場合であっても、水和ヒドロゲルがそのマトリクス内に水を保持するのに十分な程度でなければならない。ヒドロゲルマトリクス内でのこの水の結合の他に、ヒドロゲルは、水性環境に置かれた場合に水を通さなければならない。例示的なヒドロゲル類が、米国特許第6,462,162号、同第5,786,439号および米国特許第5,770,060号において開示されており、それらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0050】
移植可能な装置をコートする際に使用されるヒドロゲル類としては典型的には、ポリ尿素、ポリウレタンまたはポリウレタン/ポリ尿素の組み合わせが挙げられる。本明細書で使用されるように、「ポリウレタン/ポリ尿素」という用語は、ウレタン結合、尿素結合またはそれらの組み合わせを含むポリマを示す。典型的には、そのようなポリマ類は、ジイソシアネート類をアルコール類および/またはアミン類と結合させることにより形成される。例えば、イソホロンジイソシアネートをPEG600および1,4−ジアミノブタンと、重合条件下で結合させると、ウレタン(カルバメート)結合および尿素結合の両方を有するポリウレタン/ポリ尿素組成物が提供される。そのようなヒドロゲル類は典型的には、ジイソシアネートと、親水性ポリマと、必要に応じて、鎖延長剤との反応から調製される。ヒドロゲル類は非常に親水性なものとすることができ、約25重量%から約400重量%、より典型的には約150%から約400%の水捕捉(water pickup)を有することができる。
【0051】
本発明のこの観点において有用なジイソシアネート類は、生体適合性ポリウレタン類の調製において典型的に使用されるものである。そのようなジイソシアネート類は、ジシェル(Szycher)、医療用ポリウレタン類における進歩についてのセミナ(SEMINAR ON ADVANCES IN MEDICAL GRADE POLYURETHANES)、テクノミックパブリシング(Technomic Publishing)(1995)において詳細に記載されており、芳香族および脂肪族ジイソシアネート類の両方を含む。適した芳香族ジイソシアネート類の例としては、トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートおよびパラフェニレンジイソシアネートが挙げられる。適した脂肪族ジイソシアネート類としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、トランス−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4−シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3−シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)および4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)が挙げられる。典型的な実施形態では、ジイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート、より典型的にはイソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、または4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)である。これらのジイソシアネート類の多くが、アルドリッチケミカルカンパニー(米国ウイスコンシン州ミルウォーキー)などの商業的供給元から入手可能であり、標準合成法により文献手順を用いて容易に調製することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態では、コート組成物は、生物がコロニ形成しようとしている表面から生物を脱落させるように分解するように設計されたポリマを含む。多くのそのようなポリマ類が当技術分野において公知であり、一般に生分解性および/または生物学的浸食性と呼ばれる。この状況では、少なくとも2つの型の分解がそのようなポリマ類により生じる可能性がある。1つの型の分解はバルク分解であり、この場合、ポリマはマトリクス全体でかなり均一に分解する。バルク分解の一般的な機序は、加水分解に安定でないポリマ骨格の加水分解である。第1に、水が固体ポリマ移植物のバルクに浸透し、選択的にアモルファス相中の化学結合を攻撃し、長いポリマ鎖をより短い水溶性断片に変換する。これにより、最初に、分子量(M)が減少するが、物理特性の即時変化はない。第2の型の分解は表面浸食であり、典型的には生物学的浸食と呼ばれる。生物学的浸食は、水が移植物のコーティングに浸透する速度が、ポリマを水溶性材料に変換する速度よりも遅い場合に起こる可能性がある。生物学的浸食により、移植物コーティングが時間と共に薄くなる。
【0053】
普通に使用される生分解性ポリマ類は、典型的には、ポリ(ヒドロキシ酸)の型であり、特に、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびそれらのコポリマ類である。典型的なコポリマはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、短縮形PLGAである。これらの材料は、体内で破壊されて非毒性産物である乳酸およびグリコール酸とされ、吸収性縫合糸として、骨移植物における、および徐放性ミクロスフェアとしての使用に対し食品医薬品局により承認されている。使用される他のポリマ類としては、ポリ(フニマル酸無水物)およびポリ(セバシン酸無水物)が挙げられる。マチオウィッツ(Mathiowitz)、E.、ジェイコブ(Jacob)、J.S.、ジョング(Jong)、Y.S.、カリノ(Carino)、G.P.、チッケリング(Chickering)、D.E.、チャツルベジ(Chaturvedi)、P.、サントス(Santos)、C.A.、ビジャヤラガヴァン(Vijayaraghavan)、K.、モントゴメリ(Montgomery)、S.、バセット(Bassett)、M.およびモレル(Morrel)、C.、潜在的経口薬物送達システムとしての生物学的浸食性ミクロフェア(Biologically Erodible Microspheres as Potential Oral Drug Delivery Systems)、ネーチャー(Nature)、386:410−414,1997。制御薬物送達のためにポリマミクロスフェアを使用することは、多くのレビューの主題となっている。ランガー(Langer)、R.、シーマ(Cima)、L.G.、タマダ(Tamada)、J.A.およびウィンターマンテル(Wintermantel)、E.:「生体材料における今後の方向性(“Future Directions in Biomaterials”)」、生体材料、11:738−745、1990。
【0054】
別の例示的な生物学的浸食性および/または生分解性ポリマ類としては、下記のポリマ類およびコポリマ類が挙げられる:ポリ(無水物)、ポリ(ヒドロキシ酸)類、ポリ(ラクトン)類、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)−コ−ポリ(グリコール酸)、ポリ(オルトカルボネート)、ポリ(カプロラクトン)、フィブリン糊またはフィブリンシーラントのような架橋生分解性ヒドロゲルネットワーク、シクロデキストリン、モレキュラーシーブのようなケージングおよび捕捉分子などである。典型的な生物学的浸食性ポリマ類としては、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)類、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリ無水物類、ポリ(アミノ酸)類、ポリ(オルトエステル)類、ポリアセタール類、ポリシアノアクリレート類、ポリ(エーテルエステル)類、ポリ(ジオキサノン)類、ポリ(アルキレンアルキレート)類、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(オルトエーテル)のコポリマ類、生分解性ポリウレタン類およびコポリマ類およびそれらのブレンド類が挙げられる。例示的な生物学的浸食性ポリマ類は、米国特許出願公開第20020015720号および同第20020034533号にさらに記載されている。
【0055】
ポリマ類は、治療薬または他の作用物質の速度制御された放出を示すなどの追加の所望の特性を有するように設計することができる。広範囲にわたるマイクロカプセル化薬物送達システムが、そのようなポリマ類を使用して治療薬または他の作用物質の速度制御放出のために開発されている。例えば、かなりの研究が治療薬を、放出が拡散制御されるポリエステル類、例えば、ポリ−εカプロラクトン、ポリ(ε−カプロラクトン−コ−DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)およびポリ(ε−カプロラクトン−コ−グリコール酸)に組み入れることに捧げられてきた。例えば、ピット(Pitt)、C.G.、グラッツル(Gratzl)、M.M.、ジェフコート(Jeffcoat)、A.R.、ツヴァイジンガー(Zweidinger)、R.、シンドラー(Schindler)、A.、「持続的薬物送達システム.II.ポリ(ε−カプロラクトン)および関連生分解性ポリエステル類からの放出速度に影響する因子(“Sustained Drug Delivery Systems.II.Factors Affecting Release Rates from Poly(ε−caprolac−tone) and Related Biodegradable Polyesters”)」J.Pharm.Sci.、68,1534(1979)を参照されたい。ポリエステル類の分解は、自己触媒過程によるエステル結合のランダム加水分解的開裂により進行し、鎖開裂速度は化学および形態因子により影響されることが報告されている。
【0056】
当技術分野において公知のように、本明細書で記載されているポリマ組成物は、追加のポリマ成分、生物活性剤、反応性化学基などを添加するように操作することができる足場として使用することができる。ポリマ組成物足場に組み入れることができる様々なポリマ類および生物活性剤については下記で詳細に記載する。さらに、有機酸官能基(例えば、カルボン酸またはスルホン酸)を有するポリマ類は本発明のこの観点の例示的な実施形態である(例えば、米国特許第6,231,600号を参照されたい)。この状況では、「有機酸基」という用語は、有機酸性イオン化水素、例えばカルボン酸およびスルホン酸基を含む任意の基を含むことを意味する。「有機酸官能基」という表現は、反応条件下で有機酸基と同様に機能する任意の基、例えば、そのような酸基の金属塩類、特にリチウム、ナトリウムおよびカリウム塩類のようなアルカリ金属塩類、ならびにカルシウムまたはマグネシウム塩類のようなアルカリ土類金属塩類、およびそのような酸基の第4級アミン塩類、特に第4級アンモニウム塩類を含むことを意味する。
【0057】
有機酸官能基を有するポリマは、第1またはその後の水性コーティング組成物中に含有させることができ、コートされる基材の性質に当然払うべき注意を払って選択することができる。典型的には、第1のコーティング組成物中のポリマは、ビニルモノマユニットを含むホモおよびコポリマ類、ポリウレタン類、エポキシ樹脂類、およびそれらの組み合わせから選択されるであろう。第1のコーティング組成物中のポリマは、ポリウレタン類、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリ−イソクロトネート類、エポキシ樹脂類、アクリレート−ウレタンコポリマ類、および有機酸官能基を含むそれらの組み合わせから、典型的に選択される。本発明の方法の特定の典型的な実施形態では、第1のコーティング組成物中のポリマは、その構造内に、内部乳化剤として機能する可能性のある相当量の有機酸官能基を有するホモおよびコポリマ類から選択される。第1のコーティング組成物中で使用してもよいポリウレタン類のクラスはいわゆる水性ポリウレタン類であり、とりわけ、カルボン酸基および/またはスルホン酸基を、必要に応じてそのような基の塩類として含む、いわゆる内部乳化された水性ポリウレタンであり、内部乳化剤が特に典型的であるからである。
【0058】
本明細書で記載されている、ポリマ組成物ならびにそれらを製造および使用する方法は、当技術分野において公知の様々な生物活性剤を組み入れるために使用することができる(例えば、シグワート(Sigwart)ら、J 侵襲的カルジオール(Invasive Cardiol)2001 Feb;13(2):141−2;考察158−70;チャン(Chan)ら、再狭窄のための薬理学の最新情報(Update on Pharmacology for Restenosis)、Curr Interv Cardiol Rep.2001 May;3(2)149−155;および、ホフマ(Hofma)ら、コートしたステントの最近の発展(Recent Development in Coated Stents),Curr Interv Cardiol Rep.2001 Feb;3(1):28−36を参照されたい)。本発明の典型的な実施形態では、生物活性成分は、医療移植物の表面上でバイオフィルムを構築することができる生物に結合するように選択されたレクチンである。本発明の高度に典型的な実施形態では、コーティングは、医療移植物の表面上でバイオフィルムを構築することができる生物の成長を阻止する、および/またはそれらを死滅させるように選択された殺生剤を含む。
【0059】
グルコースオキシダーゼなどのオキシドレダクターゼおよび第4級アミンを含むポリマの他に、本発明のコーティング組成物のいくつかの態様では、バイオフィルム形成生物に結合することができるレクチンを含むことができる。本明細書で使用されるように、「レクチン」はその技術分野で許容される意味にしたがい使用され、当技術分野において細菌および/または酵母細胞などの細胞に結合することができるものとして公知の様々なタンパク質類を示す。そのような高分子を記載している選択された一般的な参考文献に対しては、例えば、キャロウ(Callow)、J.A.およびJ.R.グリーン(Green)(版)1992、細胞認識における展望(Perspectives in Cell Recognition)、ケンブリッジ大学プレス(Cambridge Univ.Press)、ケンブリッジ;ワイス(Weis)ら、Annu Rev Biochem 1996、56:441−473;インバー(Inbar)ら、Crit Rev Biotechnol 1997、17(1):1−20;アーチボールド(Archibald)ら、Biochem J 1971、123(4):665−667;コスタートン(Costerton)ら、1978、どのようにして細菌は固着するか?(How bacteria stick?)Sci.Am.(Jan)238:86−95;オフェック(Ofek)、I.およびR.J.ドイル(Doyle) 1994、細胞および組織への細菌接着(Bactrial Adhesion to Cells and Tissues)、チャップマン(Chapman)およびホール(Hall)、NY.;ピュエプク(Pueppke)、S.G.1984、植物表面への細菌の吸着(Adsorption of bacteria to plant surfaces)、植物−微生物相互作用(Plant Microbe Interactions)、Vol.1におけるpp.215−261;プスタイ(Pusztai)、A. 1991、植物レクチン類(Plant Lections)ケンブリッジ大学プレス、ケンブリッジ;ヴァンダム(Van Damme)、E.J.M.ら 1998、植物レクチンハンドブック(Handbook of Plant Lections):特性および生物医学用途(Properties and Biomedical Applications)、出版チチェスター(Chichester);ニューヨーク:ジョンワイリー(John Wiley);ヴァンダム、E.J.M.、R.J.ドイルおよびM.スリフキン(Slifkin)版.c1994;およびレクチン−微生物相互作用(Lectin−Microorganism Interactions)、出版ニューヨーク;M.デッカー(Dekker)を参照されたい。これらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。さらに、特定の病原体(シュードモナス、スタフィロコッカス、ストレプトコッカス、エシェリキアおよびクラミジア種)に結合する様々なレクチン類が当技術分野において公知である。そのような分子を記載する選択した参考文献に対しては、例えば、ストラスマン(Strathmann)ら、J Microbiol Methods 2002、50(3):237−248;秋山(Akiyama)ら、J Dermatol Sci 2002、29(1):54−61;シザー(Cisar)ら、糖鎖生物学(Glycobiology)1995,5(7);655−662;クーチノ−ロドリゲス(Coutino−Rodriguez)ら、Arch Med Res 2001、32(4):251−257;アイチソン(Aitchison)ら、J Med Microbiol 1986、21(2):161−167;およびムラデノフ(Mladenov)ら、FEMS Immonol Med Microbiol 2002、32(3):249−254を参照されたい。これらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0060】
グルコースオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼなどのオキシドレダクターゼおよび/または第4級アミンを含むポリマの他に、コート組成物のいくつかの実施形態は、バイオフィルム形成生物の成長を阻止することができる従来の殺生剤をさらに含む。本明細書で使用されるように、「殺生剤」はバイオフィルム形成微生物、とりわけ病原菌に有害な任意の作用物質である。コーティング中に含有させてもよい適した殺生剤としては、抗菌剤、抗生物質、抗ミコバクテリア薬、抗真菌剤、抗ウイルス薬などが挙げられるが、それらに限定されない。典型的な抗菌剤としては、ビクアニド類、例えばクロルヘキシジン、ポリミキシン類、テトラサイクリン類、アミノグリコシド類、リファンピシン、バシトラシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、ミコナゾール、キノロン類、ペニシリン類、ノノキシノール9、フシジン酸、セファロスポリン類、ムピロシン、メトロニダゾール、セクロピン類、プロテグリン類、バクテリオシン類、デフェンシン類、ニトロフラゾン、マフェニド、バンコマイシン類、クリンダマイシン類、リンコマイシン類、スホナミド類、ノルフロキサシン、ペフロキサシン、ナリジクス酸、オキソリニン酸(キナロン)、エノキサシン、シプロフロキサシン、およびフシジン酸ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。本発明のための典型的な広域抗菌剤としては、トリクロサン、クロルヘキシジン、スルファジアジン銀、銀イオン類、塩化ベンズアルコニウム、および亜鉛ピリチオン、ならびに広域抗生物質、例えば、キノロン類、フルオロキノロン類、アミノグリコシド類およびスルホンアミド類、ならびに消毒剤、例えば、ヨウ素、メテンアミン、ニトロフラントイン、バリジクス酸および他の酸性化剤、例としてクランベリージュースから抽出される酸類、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
本発明のある実施形態は、1を超えるレクチンおよび/または1を超える殺生剤を含む複数の生物活性剤を有するコーティングを含む。例えば、本発明の典型的な実施形態は、バイオフィルムを形成することができる複数の生物を認識する複数のレクチン類を有するコーティングを含む。この状況では、本発明のある実施形態は、カンジダ・アルビカンスおよび表皮ブドウ球菌などの混合種を含むバイオフィルムの形成を阻止するために、抗生物質および抗真菌剤などの複数の標的殺生剤を使用する(例えば、アダム(Adam)ら、J Med Microbiol 2002 Apr;51(4):344−9を参照されたい)。本発明の他の典型的な実施形態は、異なる特性を有する複数の殺生剤を有するコーティングを含む。例えば、本発明の1つの実施形態は速効性抗菌剤および持続性抗菌剤の両方を有する組成物を提供する。抗菌剤を組み合わせた効果により、微生物感染および耐性が低減される。
【0062】
様々な組成物の生体適合性を検査するための多くのアッセイ法が当技術分野において公知である。結果として、本明細書で開示した本発明の組成物の任意の並び替えは容易に検査することができ、その生体適合性プロファイルが評価できる。例えば、米国特許第4,760,020号は生体適合性のためのインビトロアッセイ法を記載する。ジョンソン(Johnson)ら、J Biomed Mater Res. 1985 May−Jun;19(5):489−508は、インビトロでの材料評価のための生体適合性試験手順を記載する。クーレイ(Courey)ら、J Biomater Appl 1988 Oct;3(2):130−79は、医療装置内でのポリウレタンエラストマ類の性能に影響する因子および相互作用を記載する。タルノック(Tarnok)ら、血球計算(Cytometry)1999 Feb 15;38(1):30−9は、フローサイトメトリによる、血小板活性化および血小板−白血球凝集を用いた、血管内ステントの迅速インビトロ生体適合性アッセイ法を記載する。ゲッケラー(Geckeler)ら、ナチュールヴィッセンシャフテン(Naturwissenschaften)2000 Aug;87(8):351−4は、ヒト骨肉腫細胞を用いたポリマ材料の生体適合性相関を記載する。これらの開示の各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。さらに、本発明のある実施形態を検査するために使用することができる多くの市販の生体適合性アッセイ法、例えば、プロメガ(Promega)により販売されているサイトトックス(CytoTox)96(商標)アッセイ法が、当技術分野において公知である(例えば、プロメガノーツマガジン(Promega Notes Magazine)ナンバー45、1994、p7を参照されたい)。
【0063】
上記のように、本発明の実施形態は、ポリマでコートされた表面、例えば移植された医療装置の表面での、微生物の蓄積を防止するポリマの使用に関し、ここで、そのような蓄積はヒトおよび動物の健康に有害な影響を与える。典型的には、ポリマはポリ尿素−シリコーンコポリマであり、これはジイソシアネート、例えば、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)と、親水性ジアミン、例えば、O,O’−ビス(2−アミノプロピル)ポリプロピレングリコール−ブロックポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコールと、疎水性シリコーン、例えば、ビス(3−アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)とを含む。そのようなポリマ類は、移植可能な医療装置として直接使用することができ、または移植可能な医療装置上にコートすることができ、感染生物のバイオフィルムの形成が防止される。
【0064】
本明細書で記載したポリマコーティング調製物は、当技術分野で典型的に使用される方法、例えば、下記実施例において概説したものにより調製することができる。例えば、反応物の重合は、バルクまたは溶媒系で実施することができる。触媒の使用が典型的ではあるが、要求されてはいない。適した触媒としては、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジアセテート、トリエチルアミンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。典型的には、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)が触媒として使用される。バルク重合は典型的には約25℃(周囲温度)から約50℃の初期温度で実施され、反応物の十分な混合が保証される。反応物を混合すると、発熱が典型的に観察され、温度が約90℃〜120℃まで上昇する。初期発熱後、反応フラスコは約75℃から約125℃まで加熱することができるが、90℃から100℃が典型的な温度範囲である。加熱は通常、1から2時間の間、実施される。バルク重合により調製されたポリマ類を典型的にはジメチルホルムアミドに溶解させ、水から析出させる。THFなどの溶媒中で調製したポリマ類を周囲温度の水中に注ぎ入れ、その後、濾過し、乾燥させ、沸騰水で洗浄し、再乾燥させることができる。
【0065】
溶液重合は同様に実施することができる。溶液重合に適している溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ハロゲン化溶媒、例えば、1,2,3−トリクロロプロパン、およびケトン類、例えば4−メチル−2−ペンタノンが挙げられる。典型的には、THFが溶媒として使用される。重合が溶媒中で実施される場合、反応混合物の加熱は典型的には少なくとも3から4時間、典型的には少なくとも10から20時間の間、実施される。この期間の終了時に、溶液ポリマを、典型的には室温まで冷却させ、DI水中に注ぎ入れる。析出したポリマを典型的には収集し、乾燥させ、熱DI水で洗浄して溶媒および未反応モノマ類を除去し、その後再乾燥させる。乾燥させたポリマは、例えば、米国特許第5,786,439号および米国特許第5,777,060号において記載されているように水捕捉に対して評価することができる。本発明のある実施形態では、本発明のヒドロゲル類は、少なくとも120%、典型的には150%から約400%まで、より典型的には約200%から約400%までの水捕捉を有するであろう。本発明の例示的な実施形態は、約25重量%から約400重量%までの水捕捉を有するポリマコーティングを含む。関連実施形態では、ポリマコーティングは約1×10−9cm/secから約200×10−9cm/secまでのグルコース拡散係数および約5から約2000まで、または必要に応じて、約5から約200までのDoxygen/Dglucose比を有する。
【0066】
本明細書で記載されているように、本明細書で開示したポリマ組成物を生成させるために使用される反応物および反応条件を変更して、最終ポリマ組成物の特性を変えることができる。例えば、拡散係数(例えば、内因性および外因性分析物などの分子がポリママトリクスを通って拡散することができる速度)、1つまたは複数のポリマ成分の分解速度または生物活性剤(1つまたは複数)の放出速度などの特性は、ポリマ類を生成させるのに使用される反応条件(およびこのため、最終ポリマ組成物特性)を操作することにより操作することができる。
【0067】
上記記述より、本発明の基礎となる発見は、ポリマ組成物、例えばケイ素含有ポリマ類、例えばシロキサン類の使用であることは当業者には明らかであろう。シロキサン類は、完全にケイ素、酸素、およびアルキル基からなる有機および無機化合物の両方のクラスである。化学的には、これらはRSiOとして調合され、式においてRはアルキル基である。そのようなケイ素含有ポリマ類は、コーティングを調製するために、他の化合物類、例えば親水性ポリマ類、反応性基を有する化合物類および生物活性組成物と共に(例えば、共有結合により付着させて)使用することができ、コーティング中では、リガンド(例えば、グルコース)および他の反応分子(例えば、酸素)の移動は、各成分の量を変動させることにより制御することができる。これらの成分から生成させたコーティングは典型的には均一であり、インビボ移植用に設計された多くの装置をコートするのに有用である。適した特性を有するポリマ類は調製されると直ちに、そのポリマ類は溶媒中で溶解され、移植可能な装置をコートするために使用されることができる。
【0068】
コートした移植可能な装置の調製は、典型的には、乾燥ポリマを適した溶媒に溶解し、医療装置を、典型的には、例えば、5wt%のポリマの2−プロパノール溶液を用いてスピンコートすることにより達成される。医療装置をコートするための他の適した溶媒の選択は、典型的には、特別なポリマならびに溶媒の揮発性に依存するであろう。他の適した溶媒としては、THF、CHCl、CHCl、DMFまたはそれらの組み合わせが挙げられる。より典型的には、溶媒はTHFまたはDMF/CHClである。
【0069】
本明細書で開示したポリマ組成物の特性を調節する典型的な方法は、1つまたは複数のポリマコーティング層の拡散係数(化合物がコーティングマトリクスを通って拡散する速度に関連する)を制御するものである。この状況では、リガンド拡散係数は、本発明のコーティング組成物に対して決定することができる。拡散係数を決定するための方法は、当業者には公知であり、例えば、米国特許第5,786,439号および米国特許第5,777,060号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。成分の選択によって、第4級アミン部分を有するケイ素ポリマは、ポリ尿素、ポリウレタンまたはポリウレタン/ポリ尿素の組み合わせを含む。本発明の組成物は、生物学的に許容されるポリマ類から調製することができ、その疎水性/親水性バランスは、広範囲にわたって変動させることができ、酸素の拡散係数のグルコースの拡散係数に対する比を制御する、例えば、この比を特定の医療装置、例えば、インビボ用途を対象とした電気化学グルコースセンサの設計要求に合わせることができる。そのような組成物は、従来の方法により、モノマ類の重合および上記ポリマ類により調製することができる。得られたポリマ類はアセトンまたはエタノールなどの溶媒に溶解可能であり、溶液から、浸漬、噴霧、またはスピンコーティングにより膜として形成させてもよい。1つのそのようなコーティング実施形態では、混合物中の反応物の約50モル%を占めるジイソシアネートと、親水性ジオール、親水性ジアミンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバである親水性ポリマと、鎖末端に官能基を有するシリコーンポリマとの反応混合物から、第4級アミン部分を有するケイ素ポリマを形成させることができる。必要に応じて、反応混合物は鎖延長剤を含むであろう。
【0070】
本発明のこの観点において使用することができるジイソシアネート類は、典型的には、生体適合性ポリウレタン類の調製に使用されているものである。そのようなジイソシアネート類は、ジシェル(Szycher)、医療用ポリウレタン類における進歩についてのセミナ、テクノミックパブリシング(1995)において詳細に記載されており、芳香族および脂肪族ジイソシアネート類の両方を含む。適した芳香族ジイソシアネート類の例としては、トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートおよびパラフェニレンジイソシアネートが挙げられる。適した脂肪族ジイソシアネート類としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、トランス−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,4−シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)(BDI)、1,3−シクロヘキサンビス(メチレンイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)および4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)が挙げられる。ある実施形態では、ジイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、または4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)である。これらのジイソシアネート類の多くが、アルドリッチケミカルカンパニー(米国ウイスコンシン州ミルウォーキー)などの商業的供給元から入手可能であり、または、標準合成法により文献手順を用いて容易に調製することができる。本発明の組成物のための反応混合物中で使用するジイソシアネートの量は、残りの反応物の組み合わせに対し典型的には約50モル%である。より特定的には、本発明の組成物の調製において使用されるジイソシアネートの量は、残りの反応物のヒドロキシルまたはアミノ基と反応する必要のある=NCO基の少なくとも約100%を提供するのに十分なものであろう。例えば、xモルのジイソシアネートを使用して調製されるポリマは、aモルの親水性ポリマ(ジオール、ジアミンまたはその組み合わせ)と、bモルの官能化末端を有するシリコーンポリマと、cモルの鎖延長剤とを、x=a+b+cとなるように使用し、cは0とすることができることは理解されている。
【0071】
本明細書で記載した組成物の調製において使用される第2の反応物は親水性ポリマとすることができる。親水性ポリマは、親水性ジオール、親水性ジアミンまたはそれらの組み合わせとすることができる。「親水性ジアミン類」という用語は、末端ヒドロキシル基が反応性アミン基に置換されている、または末端ヒドロキシル基が末端アミン基を有する伸長鎖を生成するように誘導されている上記親水性ジオール類のいずれかを示す。例えば、典型的な親水性ジアミンは、末端ヒドロキシル基がアミノ基で置換されているポリ(アルキレングリコール)である「ジアミノポリ(オキシアルキレン)」である。「ジアミノポリ(オキシアルキレン)」という用語はまた、鎖末端にアミノアルキルエーテル基を有するポリ(アルキレン)グリコール類を示す。適したジアミノポリ(オキシアルキレン)の一例はポリ(プロピレングリコール)ビス(2−アミノプロピルエーテル)である。本発明の組成物において使用されるある量の親水性ポリマは典型的には、使用されるジイソシアネートに対し約10モル%から約80モル%であろう。必要に応じて、その量はジイソシアネートに対し約20モル%から約60モル%である。
【0072】
本発明において使用することができるシリコーンポリマ類は典型的には直鎖であり、優れた酸素透過性を有し、本質的にはグルコース透過性を有さない。必要に応じて、シリコーンポリマは、1、2またはそれ以上の反応性官能基を有するポリジメチルシロキサンである。官能基は、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基またはカルボン酸基とすることができる。いくつかの実施形態では、第1の部分がヒドロキシル基を含み、第2の部分がアミノ基を含むシリコーンポリマ類の組み合わせを使用することができる。必要に応じて、官能基はシリコーンポリマの鎖末端に配置される。多くの適したシリコーンポリマ類は、ダウケミカルカンパニー(Dow Chemical Company)(米国ミシガン州ミッドランド)およびジェネラルエレクトリックカンパニー(General Electric Company)(シリコーン部、米国ニューヨーク州スケネクタディ)などの供給元から市販されている。シリコーンポリマ類は、必要に応じて、約400から約10,000までの分子量を有するもの、より典型的には約2000から約4000までの分子量を有するものとすることができる。反応混合物中に組み入れられるシリコーンポリマの量は、それから生体適合膜が形成される最終的なポリマの所望の特性に依存するであろう。より低いグルコース透過が望ましいそれらの組成物に対しては、より多くの量のシリコーンポリマを使用することができる。また、より高いグルコース透過性が望ましい組成物に対しては、より少量のシリコーンポリマを使用することができる。典型的には、グルコースセンサに対しては、シロキサンポリマの量はジイソシアネートに対し10モル%から90モル%までである。必要に応じて、その量はジイソシアネートに対して約20モル%から約60モル%である。
【0073】
実施形態の1つの群では、生体適合膜の調製のための反応混合物はまた、脂肪族または芳香族ジオール、脂肪族または芳香族ジアミン、アルカノールアミン、またはそれらの組み合わせである鎖延長剤を含む。適した脂肪族鎖延長剤の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エタノールアミン、エチレンジアミン、ブタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。芳香族鎖延長剤としては、例えば、パラ−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、メタ−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、エタキュア(Ethacure)100(登録商標)(2,4−ジアミノ−3,5−ジエチルトルエンの2つの異性体の混合物)、エタキュア300(登録商標)(2,4−ジアミノ−3,5−ジ(メチルチオ)トルエン)、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ポラキュア(Polacure)(登録商標)740M(トリメチレングリコールビス(パラ−アミノベンゾエート)エステル)、およびメチレンジアニリンが挙げられる。上記鎖延長剤の1つまたは複数を組み入れることにより、典型的には、得られた生体適合膜に追加の物理的強度が与えられるが、ポリマのグルコース透過性は実質的には増加しない。必要に応じて、鎖延長剤はより低い(すなわち、10〜40モル%)量の親水性ポリマ類が使用される場合に使用される。いくつかの組成物では、鎖延長剤はジイソシアネートに対して約40モル%から約60モル%で存在するジエチレングリコールである。
【0074】
上記反応物の重合は、バルクまたは溶媒系で実施することができる。触媒の使用が典型的ではあるが、要求されてはいない。適した触媒としては、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジアセテート、トリエチルアミンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。必要に応じて、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)が触媒として使用される。バルク重合は典型的には約25℃(周囲温度)から約50℃の初期温度で実施され、反応物の十分な混合が保証される。反応物を混合すると、発熱が典型的に観察され、温度が約90℃〜120℃まで上昇する。初期発熱後、反応フラスコを約75℃から約125℃で加熱することができるが、90℃から100℃が例示的な温度範囲である。加熱は通常、1から2時間の間、実施される。溶液重合は同様に実施することができる。溶液重合に適している溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ハロゲン化溶媒、例えば、1,2,3−トリクロロプロパン、およびケトン類、例えば4−メチル−2−ペンタノンが挙げられる。必要に応じて、THFが溶媒として使用される。重合が溶媒中で実施される場合、反応混合物の加熱は典型的には3から4時間の間、実施される。
【0075】
バルク重合により調製されたポリマ類を典型的にはジメチルホルムアミドに溶解させ、水から析出させる。水と混和可能ではない溶媒中で調製されたポリマ類は、溶媒の真空ストリッピングにより単離することができる。これらのポリマ類をその後、ジメチルホルムアミドに溶解させ、水から析出させる。水で完全に洗浄した後、ポリマ類を真空で、約50℃で一定重量になるまで乾燥させることができる。膜の調製は、乾燥させたポリマを適した溶媒に溶解し、フィルムをガラスプレート上に塗布(cast)させることにより達成することができる。塗布(casting)に適した溶媒の選択は典型的には、特別なポリマおよび溶媒の揮発性に依存するであろう。必要に応じて、溶媒は、THF、CHCl、CHCl、DMFまたはそれらの組み合わせである。より典型的には、溶媒はTHFまたはDMF/CHCl(2/98体積%)である。溶媒をフィルムから除去し、得られた膜を完全に水和させ、厚さを測定し、水捕捉を決定する。本発明で有用な膜は典型的には約20から約100重量%、必要に応じて30から約90重量%、より典型的には40から約80重量%の水捕捉を有する。
【0076】
本発明の組成物に対し、酸素およびグルコース拡散係数もまた、決定および/または制御することができる。拡散係数を決定するための方法は当業者に公知であり、例が例えば、米国特許第5,770,060号で提供されており、これは参照により組み入れられる。必要に応じて、上記成分の重合混合物を使用して形成させた膜は、約1から約200−10−9cm/secのグルコース拡散係数を有する。ある実施形態では、上記成分の重合混合物を使用して形成させた膜は少なくとも25%の水捕捉および約5から約200のDoxygen/Dglucose比を有する。
【0077】
医療装置をコートする例示的な方法は、ポリマシリコーン材料と架橋剤と、必要に応じて生物学的活性種との溶媒混合物を含むコーティング組成物の複数のかなり薄い外層を連続して適用する工程を含む(例えば、米国特許第6,358,556号を参照されたい)。コーティングはインサイチュで硬化させることができ、コートし、硬化させた装具は、アルゴンガスプラズマによる典型的な前処理とγ放射線電子ビーム、エチレンオキシド、蒸気への暴露を含む工程で滅菌することができる。
【0078】
この状況において、本発明の実施形態は、ある量の生物学的活性材料がステントなどの医療装置の表面上のコーティングとして分散されている生物学的に安定なエラストマ材料のかなり薄い層を作製するためのプロセスを提供する。コートされる典型的なステントは、自己拡張型開口端管状ステント装具である。ポリマ材料を含む他の材料を使用することができるが、典型的な実施形態では、管状ボディは典型的には、血管カテーテルによる経管挿入のために、崩壊せずに屈曲し、容易に軸方向に変形し細長い形状となる、細い単一またはポリフィラメント金属ワイヤの開口ひも(オープンブレード:open braid)から形成される。ステントはインサイチュで緩和させると予め決められた安定な寸法に弾性的に戻ろうとする。
【0079】
ポリマコーティングは典型的には、ポリマ材料、および有機ビヒクルに分散された1つまたは複数の生物学的活性種の混合物、溶液または懸濁液、またはポリマおよび/生物学的活性種のための溶媒またはビヒクル中に含まれるそのような種の溶液もしくは部分溶液として適用される。必要に応じて、異なる生物学的種が異なる層内に配置される。生物活性材料(1つまたは複数)を、ポリマ、溶媒、またはその両方であってもよい担体材料中に分散させる。コーティングは典型的には、連続して適用される1つまたは複数のかなり薄い層として適用される。いくつかの適用では、コーティングはさらに、アンダーコートまたはトップコートとして特徴づけられてもよい。トップコートのアンダーコートに対するコーティング厚比は、所望の効果および/または溶出系によって変動する可能性がある。典型的には、これらは異なる処方を有する。
【0080】
複数のコーティング層を有する装置の例示的な実施形態では、医療装置上のコーティングは1つまたは複数のベースコーティングおよび1つのトップコーティングを含む(例えば、米国特許第6,287,285号を参照されたい)。必要に応じて、ベースコートは結合成分およびグラフト成分を有し、装置の表面に付着するために、また、トップコートに接着するために使用される。特異的には、結合成分はトップコートとグラフト成分の両方に結合し、グラフト成分は装置表面に付着する。典型的には、グラフト成分と結合成分を、溶液などの適した担体中に含んでいるべースコートが最初に装置の表面に適用される。ベースコートは典型的には、重合され、例えば、重合剤に暴露されグラフト成分が重合され、グラフト成分は結合成分に接着され、装置の表面に付着され、装置上でベースコートが形成される。装置はその後、所望の生物活性剤を含むトップコートでコートされる。トップコートは、溶液で適用してもよく、溶液は蒸発させられ、生物活性剤を含むトップコートが形成される。別の実施形態では、装置は連結剤を含むトップコートでコートされ、連結剤は生物活性剤に暴露され、生物活性剤と複合物を形成し、これにより、本発明の生物活性コーティングが形成される。トップコートはベースコートに結合するので、作製された生物活性コーティングは簡単にすり減ることはないであろう。
【0081】
本発明のさらに別の実施形態は、加水分解的に不安定な結合による生物活性剤のポリマへの結合を含み、組織内での作用物質保持が増加し、そのため、生物活性剤の組織内での浸透距離が増加する(米国特許第6,545,681号も参照されたい)。典型的には、生物活性剤複合物は、生体適合性の第2のポリマを含む徐放性マトリクス中で投与される。必要に応じて、第1のポリマは水溶性であり、第2のポリマは水溶性ではない。この状況では、本発明のポリマ組成物は、少なくとも1つの加水分解性結合を含む官能基を有するポリマを含む。そのようなポリマ組成物は、ホモおよびコポリマ類およびそれらのブレンドを含む(コポリマまたはブレンドは加水分解性結合を含んでもよく、または含まなくてもよい少なくとも1つの他のポリマを含む)。「加水分解性」、「加水分解」、などは、水が物質と化学的に反応して、2つまたはそれ以上の新しい物質を形成することができることを意味する。これは典型的には、水分子のイオン化および加水分解される化合物の開裂を伴い、例えば、ポリエステルのエステル基は加水分解され、対応するカルボン酸とアルコールになる。「酸加水分解性結合」および「塩基加水分解性結合」により、結合の加水分解はそれぞれ、酸性材料および塩基性材料により開始され、または触媒されることを意味する。結合は酸および塩基加水分解性の両方であってもよい。さらに、両方の型の結合がポリマ組成物中に存在してもよい。加水分解性結合を含む官能基は、ポリマ鎖の直鎖部分に存在してもよく(すなわち、内部基)、またはポリマ鎖に懸垂されてもよい。
【0082】
酸加水分解性結合を含む例示的な官能基としては、オルト−エステルおよびアミド基が挙げられる。塩基加水分解性結合を含む例示的な官能基としては、α−エステルおよび無水物基が挙げられる。酸加水分解性結合および塩基加水分解性結合の両方を含む官能基としては、カーボネート、エステル、およびイミノカーボネート基が挙げられる。このように、本発明のポリマ組成物中で使用するためのそのような例示的なポリマ類としては、ポリエステル類、セルロースエステル類、ポリエステルポリウレタン類、ポリアミド類、ポリカーボネート類、およびポリアミノ酸類が挙げられる。不安定な結合を含む様々な他の官能基は当技術分野で公知であり、本明細書で記載した方法および組成物において容易に使用することができる(例えば、ピーターソン(Peterson)ら、Biochem. Biophys.Res.Comm.200(3):1586−1591(1994)およびフリール(Freel)ら、J.Med.Chem.43:4319−4327(2000)を参照されたい)。
【0083】
当技術分野において公知の様々な組成物および方法を使用して、本明細書で開示した酸加水分解性結合を含む官能基を有する組成物を生成させることができる。例えば、ある観点では、本発明は、あるpH条件で、同時の、またはその後の頭基開裂を伴う加水分解を受けるオルトエステル脂質類、およびそれらの誘導体を提供する。そのようなものとして、本発明は、米国特許第6,200,599号において見られるような式Iの化合物を含むポリマ化合物を提供する。式Iの化合物は典型的には、オルトエステル官能性またはその誘導体を含む。一般に、オルトエステル官能性は酸誘導加水分解に対して最も感受性が高いもの1つであり、例えば、アセタール類またはエノール−エーテル類よりも酸不安定性が高い。本発明のこの実施形態のオルトエステル類は典型的には、事実上二環式であるが、式Iの化合物はそのようなものに限定されない。典型的には、pHが減少すると、本発明のオルトエステル類は、(i)加水分解され、その後、(ii)分子内エステル転移反応を受け、同時に、またはその後に頭基開裂が起こる。場合によっては、例えば、Rがアルコキシ基であり、Rが水素である場合、式Iの化合物は二環式ではない。しかしながら、これらの化合物はそれらの「自己開裂」特性を保持し、上記2段階分解プロセスに関与することができる。式Iでは、AおよびAは同じかまたは異なるヘテロ原子とすることができる。オルトエステル官能性を形成するヘテロ原子の性質を変更する(例えば、酸素原子を硫黄原子で置換する)ことにより、オルトエステル類は、様々なpHでの加水分解を受けやすくなる。このように、オルトエステルの加水分解が起こるであろうpH値を調整し、またはプログラムすることが可能である。さらに、硫黄を組み入れると、スルホキシドまたはスルホン中間体を介するオルトエステル加水分解の酸化的手段が可能となる。
【0084】
米国特許第6,300,458号において記載されているように、ヒドロキシポリカーボネート類(HPC)は、生物医学領域にさらなるヒドロキシル官能性ポリマ類を提供し、これらのポリマ類は生物活性剤または炭水化物ポリマ類に化学的に、または水素結合を介して結合し、その後の許容される副産物への生分解性により作用物質の送達および有用性を促進する。特定の実施形態では、ペンタエリトリトールのモノケタールジオールから環状カーボネート(CC)がCHCl中、60℃で、CHCl中、60℃のEtZn触媒を用いて、4時間重合され、定量的収率の高分子量の結晶ポリマ(PCC)が得られ、溶融ピーク199℃、Tg99℃である。PCCは80%酢酸で容易に加水分解され、水不溶性であるが、水膨潤性であるHPC、ポリ[5,5−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキサン−2−オン]が得られ、M=3.1×10である。HPCはPBS−1X緩衝液(Ph7.4、37℃)中、16時間以内で、ペンタエリトリトールとおそらくCOにインビトロで完全に分解する。この迅速な分解速度は、HPCのCC、ε−カプロラクトン、またはL−ラクチドとのランダムコポリマ類では減少する。HPCおよびPCCはそのままで、および上記コポリマ類として、またはエチレンオキシドもしくは他の望ましいコモノマ類と共に、重要な生体材料用途を有する可能性がある。PCCおよびCCコポリマ類はそのままで、または加水分解もしくはインビトロ酵素攻撃により提供されるHPC産物への変換により、生物医学領域にとって魅力的な特性を有する。
【0085】
この状況において、本発明の実施形態は、5,5−ビス(ヒドロキシメチル)1,3−ジオキサン−2−オン(以後、「BHMDO」と呼ぶ)の高い重量平均分子量(>5,000)のポリマ類およびコポリマ類ならびにこれらのポリマ類およびコポリマ類を製造するためのプロセスを含む。これらのポリマ類は生体適合性であり、様々な生物医学用途に対し有用である。そのようなホモポリマ類は結晶であり、高い融点(約160〜190℃)を有し、優れた機械的特性を提供する。同時に、それらは親水性であり、水で膨潤可能であり(例えば37℃で約100%)、これにより生分解性が増強される。ヒドロキシル基により簡単に修飾でき、非親水性バイオポリマ類に対して重要な利点となっている。例えば、適合なヒドロキシル基反応により、作用物質を化学的に結合させ、加水分解的に不安定な結合を形成させることができ、または、身体酵素により開裂可能な小さなペプチド結合を化学的に結合された生物活性剤と共に用いて、解剖学的形態に適当な作用物質を標的させることができる。ヒドロキシル基は炭水化物ポリマ類、例えば、核酸、およびタンパク質類との水素結合を提供し、これらのポリマ類の治療目的のための特定部位に向かう方向性を、そのままでまたは修飾したものとして、促進する。特性はコポリマ類(一般に約1%から約99%までのBHMDO)により広範囲に変動させることができ、特性を変化させ、様々な生物医学用途を可能にする。
【0086】
本発明の関連実施形態は、所望の機械的特性を有する浸食性であるが生体適合性であるポリマ類を提供する。この状況において、ポリマ類HPCおよびPLCはまた、一時的な足場またはコーティングのための魅力的な材料である可能性がある。これらのポリマ類の特徴は、それらの表面浸食を受ける傾向である。不均一な加水分解は理論的には、生分解中、マトリクスの機械的強度および物理的完全性をよりよく保存し、これは予測可能な性能の観点から非常に望ましい。関連プロセスに対する制御を最大化するために、表面から分解し、作用物質分子の浸透を阻止するポリマ系を有することが望ましい。そのような不均一分解を達成するには、表面での加水分解速度が、水のバルク内への浸透速度よりもずっと速いことが要求される。典型的な実施形態は、疎水性骨格と、水に不安定な結合とを有するポリマ組成物である。
【0087】
本発明の関連実施形態は、生物活性剤または作用物質を生物環境において制御された様式で放出するための別の組成物および方法を提供する。1つのそのような組成物は、連続する生体適合性ゲル層と、規定された微粒子と送達される作用物質とを含む不連続の粒子層とを含む二相ポリマ作用物質送達組成物である(例えば、米国特許第6,287,588号を参照されたい)。典型的にはそのような実施形態では、生物活性剤を含む微粒子は、生体適合性ポリマゲルマトリクス内に放出可能なように同伴される。生物活性剤の放出は、微粒子層のみで、または微粒子とゲルマトリクスの両方で含まれてもよい。作用物質の放出はある期間にわたって延長され、送達は調節および/または制御される可能性がある。さらに、第2の作用物質を微粒子および/またはゲルマトリクスのいくらかに負荷させてもよい。
【0088】
本発明のそのような実施形態では、ポリマ類のインビボ分解の主機序は内因性酵素もまたある役割を果たす加水分解である(例えば、メイヤーズ(Meyers)ら、J.Med.Chem.2000、43、4319−4327を参照されたい)。加水分解に影響する重要な因子としては、水透過性、化学構造、分子量、形態、ガラス転移温度、添加物、および他の環境因子、例えば、pH、イオン強度、移植部位などが挙げられる。持続送達の期間は数日から1年まで、当業者によりポリマおよび作製方法を適切に選択することにより、調節することができる。
【0089】
本発明の実施形態は、1つまたは複数の生物活性剤の放出が多相性であるものを含む。例えば、この放出は初期バーストまたは、コーティング層の表面に、もしくは表面近くに存在する作用物質の即時放出、放出速度が遅くなり、または時として生物活性剤が放出されない第2相、および生物活性剤(または別の生物活性剤)の残りのほとんどが、浸食が進行するにつれ放出される第3相を含むことができる。いずれの作用物質も、当技術分野において公知のように、ポリママトリクスに組み入れられる(例えば、微粒子中へのマイクロカプセル化による)のに適している限り、本発明により記載されている送達システムを使用することができる。
【0090】
上記のように、本発明はレクチン類および成長阻害剤を含む全ての型の生物活性剤に適用することができる。場合によっては、生物活性剤の機能性または物理的安定性はまた、様々な添加物をポリペプチドまたはタンパク作用物質の水溶液または懸濁液に添加することにより増加させることができる。添加物、例えばポリオール類(糖類を含む)、アミノ酸類、界面活性剤、ポリマ類、他のタンパク質類およびある塩類もまた、使用してもよい。これらの添加物は本発明の微粒子/ポリマゲル系に容易に組み入れることができ、その後、ゲル化過程を受ける。
【0091】
本質的に、微生物コロニ形成および/またはバイオフィルム形成および/または瘡蓋を経験するいずれの医療装置も、本発明の実施に適しており、分析物感知装置、例えば電気化学グルコースセンサ、薬物送達装置、例えばインスリンポンプ、聴力を増加させる装置、例えば人工内耳、尿接触装置(例えば、尿道ステント、尿路カテーテル)、血液接触装置(例えば、心血管ステント、静脈アクセス装置、弁、移植血管、血液透析および胆管ステント)、ならびに体組織および組織液接触装置(例えば、バイオセンサ、移植物および人工臓器)が挙げられる。医療装置としては、永久カテーテル(例えば、中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期トンネル中心静脈カテーテル、短期中心静脈カテーテル、末梢挿入中心静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、肺動脈スワンガンツカテーテル、尿路カテーテル、および腹膜カテーテル)、長期尿路装置、組織結合尿路装置、移植血管、血管カテーテルポート、創部排液チューブ、脳室内カテーテル、水頭症シャント、大脳および脊髄シャント、心臓弁、心臓補助装置(例えば、左心室補助装置)、ペースメーカカプセル、失禁装置、陰茎移植物、小さなまたは一時的な関節置換、尿路拡張器、カニューレ、エラストマ類、ヒドロゲル類、手術器具類、歯科器具類、チューブ類、例えば、静脈内チューブ、呼吸チューブ、歯科水ライン、歯科排液チューブ、および栄養チューブ、織物、紙、指示ストリップ(例えば、紙製指示ストリップまたはプラスチック製指示ストリップ)、接着剤(例えば、ヒドロゲル接着剤、ホットメルト接着剤、または溶媒系接着剤)、包帯、整形外科的移植物、および医療分野で使用される任意の他の装置が挙げられるが、それらに限定されない。医療装置はまた、ヒトまたは他の動物に挿入または移植してもよい、または挿入もしくは移植部位近くの皮膚などの挿入もしくは移植部位に配置されてもよい任意の装置を含み、それらはバイオフィルムに埋め込まれた微生物によるコロニ形成を受けやすい少なくとも1つの表面を含む。医療装置はまた、手術室、緊急治療室、病室、診療所、および浴室において、バイオフィルムに埋め込まれた微生物が医療装置の少なくとも1つの面上で成長または増殖しないようにする、またはバイオフィルムに埋め込まれた微生物を医療装置の少なくとも1つの表面、例えば、器具の表面から除去するまたは取り除くのが望ましい、または必要である可能性のある任意の他の表面を含む。
【0092】
医療装置は、当業者に公知の任意の適した金属材料または非金属材料から形成されてもよい。金属材料の例としては、チタン、およびステンレス鋼、およびそれらの誘導体または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。非金属材料の例としては、熱可塑性またはポリマ材料、例えば、ゴム、プラスチック、ポリエステル類、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ゴアテックス(Gortex:登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ダクロン(Dacron、商標)(ポリエチレンテトラフタレート)、テフロン(Teflon:登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ラテックス、エラストマ類およびゼラチン、コラーゲンまたはアルブミンで密閉されたダクロン(商標)、ならびにそれらの誘導体または組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。医療装置はバイオフィルム阻止組成物を適用するための少なくとも1つの表面を含む。典型的には、バイオフィルム阻止組成物は、バイオフィルム形成生物にアクセス可能な医療装置の部分全体に適用される。
【0093】
上記で示したように、本発明のポリマ組成物は、様々な移植可能な装置と共にすると有用である。本発明は、移植可能な装置の構造ではなく、むしろ、装置要素を被覆または被包するための本発明の膜の使用に依存する。本発明の典型的な実施形態は、装置基材の感受性表面上の治療用の生体適合性コーティングを含む。本明細書で使用されるように「感受性表面」という用語は、産業環境にあるか医療環境にあるかに関係なく、物体と流体との間の界面を提供する任意の表面を示す。本明細書で理解されるように、表面はさらに、その機械構造が、さらなる処理なしで、微生物の付着と適合可能な面を提供する。健康的な意味合いを有する微生物成長および/またはバイオフィルム形成は、全ての健康関連環境においてそれらの表面を伴う可能性がある。
【0094】
感受性表面はさらに、ヘルスケア環境において個人により着用または運搬される医療器具、医療用衣服およびバイオハザードまたは細菌戦用途のための防護服の一部の内面および外面を含む。そのような表面は、医学的手順のために、または、酸素、噴霧器内の可溶化薬物、および麻酔薬の投与を含む呼吸器官治療において使用される医療装置、チューブおよびキャニスターを調製するために使用される領域におけるカウンタトップおよび治具を含む可能性がある。別の表面としては、手袋、エプロンおよびフェースシールドなどの感染生物に対する生物学的バリアとして意図される表面が挙げられる。液体と接触する表面は特に、微生物成長および/またはバイオフィルム形成を受けやすい。例として、加湿酸素を患者に送達するために使用されるそれらのリザーバおよびチューブは感染病原体が生息するバイオフィルムを有する可能性がある。歯科用ユニット水ラインは同様に、その表面上にバイオフィルムを有する可能性があり、歯科において使用される流動水および噴霧化水システムの連続汚染に対するリザーバを提供している。
【0095】
本発明によれば、感受性表面上での微生物の成長、播種および/または蓄積(バイオフィルムの形成が挙げられるが、それに限定されない)を予防、阻止または排除するための方法は、そのような表面を本発明の組成物と、そのような成長、播種および/または蓄積を予防、阻止または排除するのに十分な量、すなわち有効量で、接触させる工程を含む。
【0096】
本明細書で記載したヒドロゲル類は、様々な移植可能な装置と共に使用すると特に有用であり、そのような装置は、周囲の水層を提供すると好都合である。例えば、グルコースオキシダーゼを使用し、グルコースと酸素との反応を実行させるグルコースセンサが当技術分野において公知であり、作製は当技術分野における技術の範囲内にある。例えば、米国特許第5,165,407号、同第4,890,620号、同第5,390,671号および同第5,391,250号を参照されたい。各々の開示は参照により本明細書に組み入れられる。例えば、糖尿病患者のグルコース濃度をモニタするためのセンサがシチリ(Shichiri)ら、「ヒトボランティアにおける皮下グルコース濃度の針型グルコースセンサ−測定のインビボ特性(“In Vivo Characteristics of Needle−Type Glucose Sensor−Measurements of Subcutaneous Glucose Concentrations in Human Volunteers”)」Horm.Metab.Res.、Suppl.Ser.20:17−20(1988);ブルッケル(Bruckel)ら、「酵素グルコースセンサおよびウィック法を用いた皮下グルコース濃度のインビボ測定(“In Vivo Measurement of Subcutaneous Glucose Concentrations with an Enzymatic Glucose Sensor and a Wick Methods”)」Klin.Wochenschr.67:491−495(1989);ならびにピックアップ(Pickup)ら、「糖尿病におけるインビボ分子センシング:直接電子移動を有する移植可能なグルコースセンサ(“In Vivo Molecular Sensing in Diabetes Mellitus:An Implantable Glucose Sensor with Direct Electron Transfer”)」Diabetologia 32:213−217(1989)において記載されている。他のセンサが、例えば、リーチ(Reach)ら、移植可能な装置における進歩(ADVANCES IN IMPLANTABLE DEVICES)、A.ターナー(Turner)(版)、JAIプレス、ロンドン、第1章(1993)に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0097】
様々な特許、特許出願、学術論文などが明細書全体で引用されている(例えば、米国特許第6,475,434号または米国特許出願公開第20030031644号)。明細書中の全ての引用文献の開示は、参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【実施例】
【0098】
<実施例1:表皮ブドウ球菌に対する抗菌酵素コーティングの評価>
医療装置などのポリマ材料はしばしば、組み入れられた、または結合された抗菌剤で処理される。溶出抗菌処理とは対照的に、表面に結合された抗菌剤は最大活性のためには微生物細胞と接触する必要がある。この実験では、接種材料の処理表面との均一接触を提供する寒天スラリ接種ビヒクルの使用を伴った。グルコースオキシダーゼを有する様々な生物活性表面に対し、表皮ブドウ球菌に対するその抗菌活性について評価した。
【0099】
評価は、グルコースオキシダーゼでコートしたチタン試験表面の抗菌活性を試験することにより実施した。表面は、試験表面との細菌接種暴露24時間後の初期接種数から細菌数を減少させる能力(対数減少)について評価した。結果を下記の通りに評価した。
<2.00対数減少=低い抗菌活性
2.00〜3.00対数減少=中程度の抗菌活性
>3.00対数減少=高い抗菌活性
【0100】
この実施例における結果により示されるように、グルコースオキシダーゼ(GOx)などの抗菌酵素は、移植可能な医療装置上にコートさせることができ、ヒトまたは動物体内に移植されると、感染性バイオフィルム形成を防止する。酵素は、生体高分子および合成ポリマ類との化学的または物理的固定により固定することができる。図3に示されるように、装置が移植されると、グルコースオキシダーゼはグルコースと相互作用し、消毒剤過酸化水素を放出し、感染性微生物を死滅させる。グルコースオキシダーゼの抗菌活性は、移植可能な医療装置上でのグルコースオキシダーゼの異なる表面固定技術により、制御様式で操作することができる。
【0101】
「微生物評価のための方法および材料」
・3−アミノプロピルトリエトキシシラン、接着促進剤(AP) UCT
・ブラシ
・ポリ尿素−シリコーングルコース制限膜(GLM)
・グルコースオキシダーゼ(Gox)、80000ユニット カルザイム(Calzyme)
・グルタルアルデヒド、グレードI、25%水溶液(グルコース輸送体) シグマ
・アルブミン、ヒト血清、25% バクスター(Baxter)
・テトラヒドロフラン(THF)、99.9%、無水、阻害剤を含まない シグマ
・リン酸緩衝液(PBS) AP8081021
・過酸化物検出ストリップ(0.05ppm−100ppm) ウォータワーク(WaterWork)
・ツイーン(Tween)40 シグマ
・表皮ブドウ球菌(ATCC 35984)
・トリプシン大豆ブロス
・トリプシン大豆寒天プレート
・寒天−寒天
・NaCl
・グルコース
・中和ブロス−トリプシン大豆ブロス
・超音波処理水浴、47Khz
【0102】
[試料調製]
(グループ1:ベアTiディスク−AP−GOx−GLM)
チタンディスクをイソプロピルアルコールで清浄にし、APをTiディスクの1つの側上にブラシを用いて適用し、その後、2時間室温で硬化させ、これをその後、Tiディスクの反対側で繰り返した。40μlのツイーン40を1mlのPBSに溶解することにより、30ku GOx溶液を調製した。HSA、その後にGOxを混合し、GOx溶液を生成させ、グルタルアルデヒドを用いてディスクの両側で架橋させる。架橋後、ディスクをその後すすぎ、分配させたTHFに溶解したポリ尿素−シリコーンポリマでコートし、15分間硬化させる。ディスクをその後すすぎ、空気乾燥させる。
【0103】
(グループ2:ベアTiディスク−AP−GOx−GLM)
上記のようにGOxとしての適用を繰り返し、Tiディスクの1つの側に両側用のブラシで、APを適用する。2時間室温で硬化させ、ディスクをその後すすぎ、その後に分配させたポリ尿素−シリコーンポリマでコートし、15分間硬化させる。ディスクをその後すすぎ、空気乾燥させる。
(グループ3:ベアTiディスク)
(グループ4:ポリウレタン55D)
【0104】
[抗菌試験手順]
1.1 トリプシン大豆ブロス中、37℃で18時間、細菌培養物を成長させる。
1.2 NaCl 0.85gと、グルコース0.1gと、寒天−寒天0.3gとをデモナイズドウォータ(demonized water)100ml中に溶解させることにより寒天スラリを調製する。寒天が溶解するまでホットプレート上で加熱する。オートクレーブ滅菌する。
1.3 細菌懸濁液を、1.0マクファーランド濁度標準を用いて1〜5×10細胞/mlに調節する(〜3×10細胞/mLに等しい)。
1.4 滅菌綿棒を滅菌0.85%食塩水中に浸漬させ、表面を予め湿らせる。これにより接種材料の広がりが促進される。
1.5 調節した細菌懸濁液1.0mLを44℃に平衡化させた寒天スラリに移す。
1.6 接種材料0.2mLを各試験/対照表面上にピペットで取る。
1.7 寒天をゲル化させ、その後37℃の加湿チャンバ内に24±2時間の間入れる。
1.8 暴露後、各表面を、中和ブロス10mLを含む各チューブに移す。
1.9 チューブを1分間超音波処理し、続いて1分間ボルテックス(vortex)する。
1.10 10−2希釈まで10倍連続希釈を実施する。
1.11 全てのサンプルに対し、10、10−1および10−2希釈の1.0mLアリコートを2通りに蒔く。
1.12 1担体あたりのコロニ形成単位(CFU)を計算する。
CFU/担体=[(平均細胞数)×(希釈係数)×(希釈剤体積)×(接種体積)]/(蒔いた体積)
【0105】
[結果]
(インビトロH放出試験)
確実に、十分な過酸化水素が生成されるように、グループ1のディスクをPBSに溶解した100mg/dlのグルコース溶液20mlに入れた。H生成量を、H検出ストリップを用いて測定した。5つのディスクを試験した。
【0106】
【表1】

【0107】
(抗菌活性)
【表2】

【0108】
[結論]
グルコースオキシダーゼコーティングは、グルコースの存在下で過酸化水素を放出する。抗菌試験により、グルコースオキシダーゼコートチタンは、チタン対照に比べ、細菌コロニ形成の5.71を超える対数減少を有することが証明された。しかしながら、コーティングプロセスは、グルコースオキシダーゼコーティングのチタン基材上での接着を改善するように最適化する必要がある。
【0109】
<実施例2:表皮ブドウ球菌に対する抗菌活性のためのポリ尿素−シリコーンコポリマ表面の評価>
医療装置などのポリマ材料は組み入れられた、または結合された抗菌剤でしばしば処理される。溶出抗菌処理とは対照的に、表面結合抗菌剤では、最大活性のために微生物細胞との接触が必要とされる。この実験では、接種材料の処理表面との均一接触を提供する寒天スラリ接種ビヒクルの使用を伴った。表皮ブドウ球菌に対する抗菌活性について、様々な処理表面の評価を実施した。
【0110】
評価は、ミニメド(MiniMed)ポリ尿素−シリコーンコポリマ(PSC)技術でコートしたチタン試験表面の抗菌能力を試験するために実施した。表面は、試験表面との細菌接種暴露24時間後の初期接種数から細菌数を減少させる能力(対数減少)について評価した。結果を下記の通りに評価した。
<2.00対数減少=低い抗菌活性
2.00〜3.00対数減少=中程度の抗菌活性
>3.00対数減少=高い抗菌活性
【0111】
「微生物評価のための方法および材料」
[ポリ尿素−シリコーンコポリマ類を製造するための例示的な材料]
・テトラヒドロフラン(THF)、阻害剤を含まない 低湿度
・ポリ(プロピレングリコール−B−エチレングリコール−B−プロピレングリコール)ビス(2−アミノプロピルエーテル)(平均分子量−600)(CAS#6560536−9)(アルドリッチまたはハンツマン(Huntsman)(ジェファミン(Jeffamine)EDとして列挙)、(G8080033)乾燥
・ポリジメチルシロキサン、アミノプロピルジメチル末端(推定分子量−2200から4000g/mlまで)(CAS#106214−84−0)乾燥
・ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)
・4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(CAS#51 24−30−1)
・蒸留水または脱イオン水および窒素ガス
・化学合成実験室設備、例えば、入口/出口を有するジャケット付き樹脂ケトル/フラスコ、アダプタ、凝縮器、機械的撹拌機、シリンジポンプ、水循環温度制御装置、シリンジ、ゴム隔壁、撹拌ロッド&パドル、ビーカ、磁気撹拌棒、マグネチックスターラ/ホットプレートおよびブレンダ
【0112】
[ポリ尿素−シリコーンコポリマ類を製造するための例示的な方法]
適当な反応装置内で、ポリ(プロピレングリコール−P−エチレン−グリコール−P−プロピレングリコール)、ビス(2−アミノプロピル末端)(MW−600)(ジェファミン(Jeffamine)600)とポリジメチルシロキサン、アミノプロピルジメチル末端とを混合させる。反応容器を温め、空気への暴露を最小限に抑えながらTHFを移す。反応溶液を平衡化させる。ジブチルスズ−ビス−(2−エチルヘキサノエート)と4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)を、一定速度で約25分にわたって添加する。添加完了時(−25分)、シリンジを乾燥THFでフラッシングし、反応物に添加させる。温度をその後上昇させ、反応をさらに、例えば12〜18時間進行させる。その後、脱イオン水を反応物に撹拌および加熱しながら、さらに、例えば12〜15時間添加する。
【0113】
温度浴をその後、遮断し、溶液を冷却させる。別に、ブレンダに脱イオン水または蒸留水を充填する。反応混合物を、ブレンダに添加し、ブレンドする。混合物をワイヤスクリーンを通して注ぎ、水を廃棄する。ポリマ析出物をブレンダに戻し、添加した清浄な脱イオン水または蒸留水で洗浄する。ブレンダを30秒間、中速で設定し、混合物をその後、ワイヤスクリーンを通して濾過し、水を廃棄する。この手順を反応混合物の残りに対して繰り返す。ポリマを2つの部分にわけ、各部分をビーカに添加する。ビーカをホットプレート−スターラ上に置き、それぞれに磁気撹拌棒を添加する。混合物を撹拌し、穏やかに沸騰するまで加熱し、ある期間、例えば60〜120分間、維持する。ビーカを除去し、熱いまま細目スクリーンを通して注ぐことによりポリマを分離する。反応容器をコルクリング上に置き、水で満たす。水浴を再接続し、フラスコを約60℃まで少なくとも1時間加熱し、ポリマ残留物をガラスから緩める。ポリマをたたくようにして乾かし、大きな結晶化皿に入れ、真空オーブンに入れ、真空下、12〜18時間などのある時間の間、加熱する。その後、乾燥ポリマの重量を測定し、容器に入れる。
【0114】
[ポリ尿素−シリコーンコポリマコート表面の試験]
(グループ1:ベアTiディスク−PSC)
PSCを上記プロトコルにしたがい作製した。
Tiディスクをイソプロピルアルコールで清浄にした。
THFに溶解した5%(w/w)PSC 100μlを分配し、15分間硬化させる。
PSCコートディスクを0.5ml/分 DiHOの速度で30分間すすぐ。
空気乾燥する。
【0115】
(グループ2:ベアTiディスク−(3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AP)−PSC)
Tiディスクをイソプロピルアルコールで清浄にした。
Tiディスクの1つの側に両側用のブラシを用いてAPを適用する。
2時間室温で硬化させる。
THFに溶解した5%(w/w)PSC 100μlを分配し、15分間硬化させる。
PSCコートディスクを0.5ml/分 DiHOの速度で30分間すすぐ。
空気乾燥する。
【0116】
(グループ3:ベア−Ti対照)
表皮ブドウ球菌(ATCC35984)
トリプシン大豆ブロス
トリプシン大豆寒天プレート
寒天−寒天
NaCl
中和ブロス−トリプシン大豆ブロス
超音波処理水浴、47Khz
【0117】
[手順]
トリプシン大豆ブロス中、37℃で18時間、細菌培養物を成長させる。
NaCl 0.85gと、寒天−寒天0.3gとを脱イオン水100ml中に溶解させることにより寒天スラリを調製する。ホットプレート上で寒天が溶解するまで加熱する。オートクレーブ滅菌する。
細菌懸濁液を、1.0マクファーランド濁度標準を用いて1〜5×10細胞/mlに調節する(〜3×10細胞/mLに等しい)。
滅菌綿棒を滅菌0.85%食塩水中に浸漬させ、表面を予め湿らせる。これにより接種材料の広がりが促進される。
調節した細菌懸濁液1.0mLを44℃に平衡化させた寒天スラリに移す。
接種材料0.2mLを各試験/対照表面上にピペットで取る。
寒天をゲル化させ、その後37℃の加湿チャンバ内に24±2時間の間入れる。
暴露後、各表面を、中和ブロス10mLを含む各チューブに移す。
チューブを1分間超音波処理し、続いて1分間ボルテックスする。
10−2希釈まで10倍連続希釈を実施する。
全てのサンプルに対し、10、10−1および10−2希釈の1.0mLアリコートを2通りに蒔く。
1担体あたりのコロニ形成単位(CFU)を計算する。
CFU/担体=[(平均細胞数)×(希釈係数)×(希釈剤体積)×(接種体積)]/(蒔いた体積)
【0118】
[結果]
【表3】

【0119】
[結論]
PSCコートチタンは、チタン対照に比べ、細菌コロニ形成の5.71を超える対数減少を証明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置の表面上の微生物の成長を阻止する方法であって、前記医療装置の前記表面を、
(a)ポリペプチドのリガンドに暴露されると、過酸化水素を発生させるポリペプチドを含む抗菌組成物を有する第1の層と、
(b)第4級アミン部分を有するポリマを含む抗菌組成物を有する第2の層と、
でコートする工程を含み、
そのため、前記表面が微生物に暴露された場合、前記医療装置の前記表面上で、微生物の成長が阻止される、方法。
【請求項2】
前記装置が哺乳類体内に移植された場合に、微生物によりインビボでコロニに形成されることが観察される前記医療装置上の感受性表面を識別する工程と、
前記感受性表面の少なくとも95%を前記第1および第2の層でコートする工程と、
前記医療装置を哺乳類に移植し、微生物のインビボ成長を阻止する工程と、
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
高血糖により特徴づけられる病態を有する個体に移植される前記医療装置の前記表面での微生物の成長を阻止する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記表面はチタンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第1の層中の前記ポリペプチドはグルコースオキシダーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ポリ尿素−シリコーンコポリマから前記第2の層を形成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の別の層を前記第1の層と前記第2の層との間に配置する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層と前記第2の層との間に配置された別の層は、前記第1の層と前記第2の層との間の接着を促進する組成物である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
医療装置の前記表面上に別の抗生物質組成物を配置する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記医療装置の前記表面上にコートされた層は生分解性ポリマを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記医療装置の前記表面上にコートされた層は、表皮ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピデルミデス、Staphylococcus epidermidis)、緑膿菌(シュードモナス・エルジノーサ、Pseudomonas aeruginosa)、肺炎球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ、Streptococcus pneumoniae)、緑色連鎖球菌(ストレプトコッカス・ヴィリダンス、Streptococcus viridans)、インフルエンザ菌(ヘモフィルス・インフルエンザエ、Haemophilus influenzae)、大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス、Staphylococcus aereus)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群より選択された微生物により生成される化合物に結合するレクチンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記装置は、インビボ分析物のためのセンサまたは薬剤注入装置である、請求項2記載の方法。
【請求項13】
前記装置は複数の層を含むグルコースセンサであり、
前記層の少なくとも1つは、
電気化学反応性表面領域を有する電極と、
分析物の存在下で前記電極での電流を検出可能に変える分析物感知層と、
前記グルコースセンサの1つまたは複数の層の間の接着を促進する接着促進層と、
それを通る分析物の拡散を調節する分析物調節層と、
血液グルコースを透過させず、開口を含むカバー層と、
を備える、請求項12記載の方法。
【請求項14】
医療装置の前記表面上でバイオフィルムを形成することができる微生物の成長を阻止するために使用される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
高血糖を有する個体に移植される医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止する方法であって、
(a)バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される前記医療装置上の表面を識別する工程と、
(b)前記表面を、
オキシドレダクターゼのリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを含み、ポリペプチドにより生成された過酸化水素の量は、前記ポリペプチドに暴露されたリガンドの量に比例する第1の層と、
前記第1の層上に配置され、ポリ尿素−シリコーンコポリマを含む抗菌組成物を有する第2の層と、でコートする工程と、
を含み、そのため、前記表面が前記バイオフィルム形成微生物に暴露された場合、前記医療装置上のバイオフィルムの形成が阻止される方法。
【請求項16】
前記装置は複数の層を含むグルコースセンサであり、
前記層の少なくとも1つは、
電気化学反応性表面領域を有する電極と、
分析物の存在下で前記電極での電流を検出可能に変える分析物感知層と、
前記グルコースセンサの1つまたは複数の層の間の接着を促進する接着促進層と、
それを通る分析物の拡散を調節する分析物調節層と、
血液グルコースを透過させず、開口を含むカバー層と、
を備える、請求項15記載の方法。
【請求項17】
インビボ環境内で予め決められた速度で分解することが観察される生分解性ポリマで、前記医療装置をコートする工程をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記第1の層と前記第2の層との間に接着促進層を配置する工程をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記オキシドレダクターゼはグルコースオキシダーゼであり、前記方法は、前記グルコースオキシダーゼがグルタルアルデヒド架橋により表面に固定された場合に観察されるオキシドレダクターゼ活性に少なくとも等しいオキシドレダクターゼ活性を有するグルコースオキシダーゼが得られる手順を用いて、前記医療装置の前記表面上でグルコースオキシダーゼを固定する工程をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
糖尿病個体に移植される医療装置上での微生物成長を阻止する方法であって、該方法は前記医療装置の表面を少なくとも2つの抗菌組成物でコートする工程を含み、前記抗菌組成物は、
グルコースオキシダーゼ組成物を有する第1の層であって、前記グルコースオキシダーゼは前記第1の層中に配置され、前記個体内でグルコースに暴露されると過酸化水素を発生させ、前記第1の層は前記装置上に配置され、前記第1の層内の前記グルコースオキシダーゼにより生成された過酸化水素は前記グルコースオキシダーゼから拡散し、前記医療装置上で成長しようとしている微生物に接触し、その成長を阻止することができ、ここで、前記グルコースオキシダーゼにより生成された過酸化水素の量は前記個体内の変動するグルコースレベルに応じて変動する、第1の層と、
第4級アミンを有するポリ尿素−シリコーンコポリマ組成物を含む第2の層であって、前記第2の層は、前記医療装置上に、前記第2の層内の前記第4級アミンが、前記第2の層と接触する微生物の成長を阻止するような位置で配置される、第2の層と、
を含み、そのため、移植された医療装置上での微生物の成長が阻止される、方法。
【請求項21】
虚血により特徴づけられる病態を有する個体に移植される医療装置上でのバイオフィルムの形成を阻止する方法であって、前記方法は、
(a)バイオフィルム形成微生物によりコロニ形成されることが観察される前記医療装置上の表面を識別する工程と、
(b)前記表面を、
オキシドレダクターゼに対するリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させるオキシドレダクターゼを含む抗菌組成物を有する第1の層でコートする工程と、
を含み、そのため、前記表面がバイオフィルム形成微生物に暴露された場合に前記医療装置上でのバイオフィルムの形成が阻止される、方法。
【請求項22】
前記医療装置を、抗炎症ステロイド組成物を含む第2の層でコートすることにより、前記装置が移植された個体において抗炎症応答を阻止する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記病態は心疾患である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記医療装置上の前記表面はペースメーカの電子リードである、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記オキシドレダクターゼは乳酸オキシダーゼである、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記乳酸オキシダーゼは前記医療装置上に、
前記乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素が、前記個体内での変動する乳酸レベルに応じて変動し、
前記乳酸オキシダーゼにより生成された過酸化水素は前記乳酸オキシダーゼから拡散し、前記医療装置上で成長しようとしている微生物と接触し、その成長を阻止するような位置で配置される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
オキシドレダクターゼを含む抗菌組成物でコートされた表面を有する移植可能な医療装置であって、オキシドレダクターゼは、前記装置上に配置された前記オキシドレダクターゼに対するリガンドに暴露されると過酸化水素を発生させ、前記抗菌組成物は、前記装置の前記表面上に、前記オキシドレダクターゼにより生成された過酸化水素が前記オキシドレダクターゼから拡散し、前記医療装置上で成長しようとしている微生物と接触することができるように配置されており、これにより前記微生物の成長が阻止される、移植可能な医療装置。
【請求項28】
前記オキシドレダクターゼは乳酸オキシダーゼである、請求項27記載の移植可能な医療装置。
【請求項29】
前記医療装置の表面はデキサメタゾン組成物でさらにコートされる、請求項27記載の移植可能な医療装置。
【請求項30】
抗菌組成物でコートされた前記表面は電子リードに配置される、請求項27記載の移植可能な医療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公表番号】特表2011−502714(P2011−502714A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534176(P2010−534176)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/083395
【国際公開番号】WO2009/064879
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(595038051)メドトロニック ミニメド インコーポレイテッド (71)
【Fターム(参考)】