説明

半導体ウエハの支持具及び支持装置

【課題】凸部を備えた半導体ウエハを支持対象とし、凸部に吸着力を確実に付与して半導体ウエハを支持することに適した支持具及び支持装置を提供すること。
【解決手段】外周に閉ループ状の凸部W1が設けられた半導体ウエハWを支持するための支持具11と、当該支持具11を支持するテーブル12とを備えて支持装置10が構成されている。支持具11は、凸部W1の先端面W2を吸着する吸引孔15が設けられたシート状部材16を備えているともに、中央部に通気孔17を備える。このシート状部材16は、凸部W1の先端面W2に密着可能な弾性と、自粘性とを備えた材料により形成されている。ポンプPを作動して吸引力を凸部W1に付与したときに、エアリークを生ずることなくウエハWが支持具11上に確実に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウエハの支持具及び支持装置に係り、更に詳しくは、半導体ウエハの外周に設けられた凸部に接する状態で当該半導体ウエハを支持することに適した支持具と、この支持具を備えた支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の半導体ウエハ(以下、単に、「ウエハ」と称する)は、デバイス形成効率の向上を図るべく大径化される一方、数十μmの厚みとなるまで裏面研削することが要求される。大径及び極薄化されたウエハは、一層高まる脆弱性により、各種の処理を施す際に割れ等の損傷をもたらすリスクが高いものとなる。
そこで、特許文献1には、デバイスが形成されないウエハ外周側にリング状の凸部を残す状態で裏面研削を行い、当該凸部をウエハの補強として利用する構成が開示されている。
このようなウエハの裏面研削を行う場合には、デバイス形成面側に保護用の接着シートを貼付し、当該接着シート側を研削装置のテーブル上に載置して行われる。この接着シートは、裏面研削を行った後の段階で剥離することが必要となり、当該剥離を行うための支持装置を備えたシート剥離装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−19379号公報
【特許文献2】特開平5−116837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2に記載されたシート剥離装置は、ウエハに仮着された接着シートに剥離用テープを貼付し、当該剥離用テープを引っ張ることで接着シートを剥離するもので、ウエハを支持する支持装置は、テーブルの上面側に多孔質部材を配置して当該ウエハを吸着する構成となっている。
しかしながら、外周に凸部を有するウエハを対象として当該凸部の先端面がテーブル上面に接する向きでウエハを吸着した場合には、ウエハとテーブル上面との間の空間が生ずることにより、当該空間が減圧されてウエハを割ってしまう、という不都合を招来する。
このような場合、例えば、図4に示されるように、接着シートSが仮着されたウエハWの凸部W1の先端面W2がテーブルTの上面に当接する状態でウエハWをテーブルT上に支持し、減圧ポンプPの作動によりテーブルTに設けられた吸引孔T1でウエハWを吸着する、という構成が考えられる。
しかしながら、このような構成では、先端面W2に微細な凹凸が存在している場合に、テーブルTの上面との間に隙間Dが生ずるものとなり、当該隙間からエアリークを生じて吸着力を凸部W1に付与することができなくなり、結果として、接着シートSの剥離不良を生ずる、という不都合を招来する。
【0004】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、外周に凸部を備えたウエハを支持対象とし、凸部に吸着力を確実に付与してウエハを安定して支持することに適した支持具と、この支持具を備えた支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、外周に凸部を有する半導体ウエハの支持具において、前記凸部の先端面に接する領域内に吸着用の吸引孔が設けられたシート状部材を含み、当該シート状部材は、前記先端面に密着可能な弾性を備えた材料により形成される、という構成を採っている。
【0006】
本発明において、前記シート状部材は、自粘性を備えた材料により形成することが好ましい。
【0007】
また、前記シート状部材は、前記半導体ウエハを支持したときに、当該半導体ウエハとの間に形成される空間を外部に連通させる通気孔を備える、という構成を採るとよい。
【0008】
更に、前記シート状部材の外周に、前記半導体ウエハの位置決め部を連設するとよい。
【0009】
また、本発明は、外周に閉ループ状の凸部を有する半導体ウエハの支持具と、当該支持具を支持するテーブルとを含む支持装置であって、前記支持具は、前記凸部の先端面に接する領域内に吸着用の吸引孔が設けられたシート状部材を含み、当該シート状部材は、前記先端面に密着可能な弾性を備えた材料により形成され、前記テーブルは、前記吸引孔に連通する貫通孔を備え、当該貫通孔と前記吸引孔とを通じて前記凸部の先端面に吸着力を付与する、という構成を採っている。
【0010】
前記支持装置において、前記シート状部材は、前記半導体ウエハを支持したときに、当該半導体ウエハとの間に形成される空間に連通する通気孔を備え、前記テーブルは、前記通気孔と外部とを連通させる通路を備える、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウエハの凸部先端面を吸引する吸引孔をシート状部材に設け、当該シート状部材が凸部先端面に密着可能な弾性を備えた材料により形成されているため、ウエハとテーブル上面との間の空間が減圧されてウエハを割ってしまうといった不都合を解消できる上、凸部先端面に微細な凹凸があっても、シート状部材との間でエアリークを生じさせることがなく、吸引孔を介してウエハの吸着を確実に行うことができる。従って、例えば、ウエハに仮着された接着シートを剥離する際に、ウエハを確実に支持して安定した剥離を行うことができる。
また、シート状部材が自粘性を備えた材料により形成されている場合には、シート状部材自体が有する粘着性と、吸引孔を通じた吸着力とが相互に補完し合うように作用し、ウエハの吸着力若しくは支持力を一層高めることが可能となる。しかも、ウエハの加工精度にばらつきがあっても、当該精度に依存することなく安定して支持することができる。
更に、シート状部材に通気孔を設けることで、ウエハとシート状部材との間に生ずる空間内が負圧になるようなことはなく、この負圧を原因とするウエハの割れが回避可能となる。
また、前記シート状部材が位置決め部を備えた構成では、ウエハの支持位置がずれてしまうような不都合を回避でき、凸部先端面に対応する領域内に吸引孔が常に位置するように保つことができる。
更に、前記支持具とテーブルとを備えた支持装置にあっては、支持具がテーブルで支持されるため、支持具が撓み易いものであっても、当該支持具の撓みを防止して安定した面精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る支持装置の概略断面図が示され、図2には、その斜視図が示されている。これらの図において、支持装置10は、支持具11と当該支持具11が載置されるテーブル12とを備えて構成されている。支持具11は、外周に閉ループ状の凸部W1を有するとともに、図1中上面側に接着シートSが仮着された半導体ウエハWを支持するように構成されている。この支持具11は、凸部W1の先端面W2に接する領域内に吸着用の吸引孔15が複数設けられたシート状部材16を含む。このシート状部材16は、先端面W2に密着可能な弾性を備え、且つ、自粘性を備えた材料により形成されている。ここで、「先端面W2に密着可能な弾性」とは、先端面W2に微細な凹凸があっても、この凹凸面に倣うようにシート状部材16の接触面が凹凸に変形して先端面W2とシート状部材16との接触面間にエアリークの要因となる隙間を生じさせない可撓性を有することを意味する。また、「自粘性」は、感圧、感熱粘着剤等を介さなくても、その濡れ性によって先端面W2にシート状部材16が粘着できることを意味し、支持具11は、例えば、シリコーン系、ウレタン系、アクリル系、フッ素系のエラストマを素材として形成することができる。
【0014】
前記シート状部材16は、ウエハWの平面形状に対応する略円形をなし、その中央部に通気孔17を備えているとともに、位置決め部としての環状のリブ18を外周に備え、扁平な皿状に設けられている。通気孔17は、先端面W2がシート状部材16の上面に接する状態でウエハWを支持したときに、当該ウエハWとシート状部材16との間に形成される空間S1を外部に連通させて当該空間S1内が負圧にならないように通気を行うようになっている。
【0015】
前記テーブル12は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、平面視略方形をなす形状に設けられている。このテーブル12は、図1に示されるように、内部にチャンバCを備えた中空体により構成されており、その上面側には、吸引孔15とチャンバCとを連通させる貫通孔20が設けられている一方、底部側には、チャンバCに連通する底部連通孔21が設けられている。底部連通孔21は、減圧装置として作用するポンプPに接続され、当該ポンプPにより、底部連通孔21、チャンバC、貫通孔20及び吸引孔15を通じて先端面W2を吸着するようになっている。また、テーブル12には、一端が図1中上面に開放して他端が側面(図1中紙面平行面)に開放する通気路23が設けられており、当該通気路23は、通気孔17に連通して空間S1内が負圧にならないように通気を行うようになっている。
【0016】
前記支持装置10を用いてウエハWを支持する場合には、テーブル12の上面に支持具11を載置して行われる。この際、特に限定されるものではないが、支持具11を載置する位置は、例えば、支持具11の外周部分と、テーブル12の上面とに図示しないマークをそれぞれ付しておき、これらのマークが対応するように支持具11を載置することで、吸引孔15と連通孔20とが相互に連通するように相対位置を合わせることができる。この際、支持具11は自粘性を有しているため、テーブル12に密着した状態に保たれ、テーブル12の上面で位置ずれを起こすようなことはない。
【0017】
前記支持具11には、接着シートSが仮着されたウエハWが先端面W2を下向きとする姿勢で、図示しない搬送アーム等を介して移載される。このとき、ウエハWは支持具11のリブ18によって位置ずれを生じない状態に保たれる。
ウエハWが支持具11上に載置されると、ポンプPによって吸引孔15を通じて先端面W2に吸着力が付与される。この際、シート状部材16は、先端面W2に密着可能な弾性を備え、且つ、自粘性を備えた材料により形成されているため、先端面W2に凹凸があっても、吸引力の作用によって微細な隙間を埋めるように密着する。従って、吸引力は、先端面W2に確実に及ぶこととなる。一方、ウエハWとシート状部材16との間の空間S1は、通気孔17、通気路23を通じて外部に開放しているため、何らかの要因によって、吸引孔15の吸引力が空間S1内に及ぶようなことがあっても、空間S1内が負圧になることはなく、ウエハWの面位置が凹んで割れてしまうような不都合は生じない。
【0018】
以上の状態で、図示しないシート剥離装置を用い、例えば、接着シートSの上面に剥離用テープを貼付し、当該剥離用テープをウエハWの面に沿って引っ張ることで、ウエハWが支持具11に確実に支持された状態で、接着シートSを径方向一端から他端に向かって剥離することができる。
【0019】
従って、このような実施形態によれば、外周に凸部W1を有する極薄のウエハWを支持対象としたときの、当該ウエハWを確実に支持することができる、という効果を得る。
【0020】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施の形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0021】
例えば、前記実施形態では、ウエハWの外周に設けられた凸部W1は、リング状である場合を図示説明したが、当該凸部W1は、ウエハ外周に沿って断続的に設けられたものであってもよい。この場合には、シート状部材16の通気孔17及びテーブル12の通気路23を設けることを要しない。
【0022】
また、支持具11のリブ18は、シート状部材16の外周に沿って断続的に設けてもよく、また、シート状部材16と一体形成してもよいし、別体の部材で構成してもよい。
【0023】
更に、支持装置10は、例えば、図3に示されるように、支持具11の大きさ(直径)よりも小さい面積となる多孔質部材30を上面側に備えたテーブル12を用いて構成することもできる。この支持装置10は、ポンプPにより、底部貫通孔21、多孔質部材30及び吸引孔15を通じて先端面W2を吸着することができる。この構成においても、多孔質部材30にシート状部材16の下面が密着するため、先端面W2を確実に吸引することができ、従来例で示したような汎用タイプのテーブルTを利用することができる。なお、このような汎用タイプのテーブルTを利用する場合、通気孔17は、同図に示されるように、空間S1からシート状部材16の内部を貫通、すなわち、空間S1からシート状部材16の面方向に貫通孔を設けて外気を導入するように構成してもよい。
【0024】
また、底部貫通孔21は、減圧装置としてのポンプPに加え、加圧機能を備えた別のポンプにも接続されるように構成し、図示しない切替バルブによって減圧と加圧とを使い分けるように構成することもできる。このような構成では、支持具11上のウエハWを後工程に移載若しくは搬送するときに、吸引孔15より先端面W2に加圧空気を吐出して支持具11からウエハWを分離する動作を補助することができる。
【0025】
更に、支持装置10、及び支持具11は、多関節ロボット等に取り付けて搬送装置を構成する支持装置、及び支持具としてもよい。このように搬送装置に採用した場合、搬送途中でウエハWが割れたり、落下したりすることを確実に防止することができる。
【0026】
また、通気孔17は、空間S1内に連通していればどの位置に設けてもよいし、数に限定はない。また、空間S1内の圧力を図示しない圧力検知手段によって検知し、通気孔17を介して空間S1内を所定の圧力になるように構成してもよく、この場合、加圧若しくは減圧手段を通気孔17に接続し、積極的に圧力制御するようにしてもよい。
【0027】
更に、貫通孔20は、必ずしも吸引口15に対して1:1で対応していなくてもよく、複数の吸引口15に対して1の貫通孔20が対応してもよいし、1の吸引口15に対して複数の貫通孔20が対応してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウエハWを支持した状態における支持装置の概略断面図。
【図2】図1の概略斜視図。
【図3】本発明の変形例を示す図1と同様の概略断面図。
【図4】凸部を有するウエハを吸着する場合の不都合を説明するための概略断面図。
【符号の説明】
【0029】
10 支持装置
11 支持具
12 テーブル
15 吸引孔
16 シート状部材
17 通気孔
18 リブ(位置決め部)
20 貫通孔
23 通気路
S1 空間
W 半導体ウエハ
W1 凸部
W2 先端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に凸部を有する半導体ウエハの支持具において、
前記凸部の先端面に接する領域内に吸着用の吸引孔が設けられたシート状部材を含み、当該シート状部材は、前記先端面に密着可能な弾性を備えた材料により形成されていることを特徴とする支持具。
【請求項2】
前記シート状部材は、自粘性を備えた材料により形成されていることを特徴とする請求項1記載の支持具。
【請求項3】
前記シート状部材は、前記半導体ウエハを支持したときに、当該半導体ウエハとの間に形成される空間を外部に連通させる通気孔を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の支持具。
【請求項4】
前記シート状部材の外周に、前記半導体ウエハの位置決め部が連設されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の支持具。
【請求項5】
外周に閉ループ状の凸部を有する半導体ウエハの支持具と、当該支持具を支持するテーブルとを含む支持装置であって、
前記支持具は、前記凸部の先端面に接する領域内に吸着用の吸引孔が設けられたシート状部材を含み、当該シート状部材は、前記先端面に密着可能な弾性を備えた材料により形成され、
前記テーブルは、前記吸引孔に連通する貫通孔を備え、当該貫通孔と前記吸引孔とを通じて前記凸部の先端面に吸着力を付与することを特徴とする支持装置。
【請求項6】
前記シート状部材は、前記半導体ウエハを支持したときに、当該半導体ウエハとの間に形成される空間に連通する通気孔を備え、前記テーブルは、前記通気孔と外部とを連通させる通気路を備えていることを特徴とする請求項5記載の支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−103287(P2010−103287A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272936(P2008−272936)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】