説明

半導体エピウェハの製造方法及びガリウム砒素基板

【課題】基板をフェイスダウンに保持してMOVPEで半導体結晶を成長するに際し、半導体結晶の未成長領域を無くすと共に基板への原料供給の阻害を低減できる半導体エピウェハの製造方法を提供する。
【解決手段】加熱した基板11上に原料ガスを供給し、基板11上に半導体結晶を成長させる半導体エピウェハの製造方法において、基板11は、半導体結晶が成長される成長面12側の周縁部14に面取部15を有しており、フェイスダウンで、かつ面取部15のみが保持され、半導体結晶は、基板11の成長面12を下方に向けて成長されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属気相成長法においてフェイスダウンで半導体結晶を成長する半導体エピウェハの製造方法及びガリウム砒素基板に関する。
【背景技術】
【0002】
MOVPE(Metal−Organic Vaper Phase Epitaxy;有機金属気相成長法)は、原料として有機金属やガスを用いた結晶成長法である。
【0003】
この方法は化合物半導体結晶を成長するのに用いられ、原子層オーダで膜厚を制御することができるため、半導体レーザダイオード、発光ダイオードを初めとするナノテクノロジといった数nmの膜厚制御が必要な分野で用いられる。
【0004】
代表的な半導体結晶成長装置であるMBE(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシ法)と比較し、面内での膜厚の偏差が少なく、高速成長が可能であるほか、超高真空を必要としないために装置の大型化が容易であり、大量生産用の結晶成長装置として、半導体レーザダイオード、発光ダイオードなど光デバイス、パワーアンプなどの電子デバイスの結晶成長に多く用いられている。
【0005】
図5に、MOVPEにより基板上に化合物半導体結晶を作製するためのMOVPE装置50を示す。
【0006】
MOVPEは化合物半導体の作製において、III族元素のIn(インジウム)の原料としてTMI(Tri−Methyl−Indium)や、Ga(ガリウム)の原料としてTMG(Tri−Methyl−Gallium)、Al(アルミニウム)の原料としてTMA(Tri−Methyl−Aluminum)等の有機金属原料51を用いる。
【0007】
V族の原料ガス52にはAs(砒素)の水素化物であるAsH3(アルシン)や、P(燐)の水素化物であるPH3(ホスフィン)、N(窒素)の水素化物であるNH3(アンモニア)など特殊高圧ガスを利用する。
【0008】
有機金属原料51は常温では液体・固体であるが、飽和蒸気圧が高い性質を利用して恒温槽で温度を一定に保った原料中にH2やN2をキャリアガス53として用いてバブリングすることで、結晶成長に十分な量の成長用原料を、安定したガス流量で成長基板に供給することができる。
【0009】
これら有機金属原料51とV族の原料ガス52とキャリアガス53とが混合された原料ガスがインジェクタ54から噴き出して、ヒータ55で加熱された基板(ガリウム砒素基板)56に達すると、分解・化学反応を起こし、結晶情報を引き継いで半導体結晶が成長する。原料ガスの流量比・温度・圧力などを変えることによって様々な組成・物性・構造を持つ半導体を作ることができる。
【0010】
基板56の両面の周縁部57には、図6に示すように、研磨工程や搬送時の些細な衝撃での割れ・欠けを防止するための面取部58が、例えばテーパ角15°、テーパ長さ120〜180μmで形成されている。
【0011】
このような基板56を均熱板59とともに、ディスク60のサセプタ61にセットする場合、基板56の面の向きは、オモテ面(成長面62)を上にして成長する場合(フェイスアップ)と、オモテ面を下にして成長する場合(フェイスダウン)がある。
【0012】
フェイスダウンで成長する場合、従来技術では、基板56を支持し、落下を防止するために、サセプタ61に設けられたツメ部63を使用しており、図5〜7に示すように、基板56の端面(周縁部57)において成長面62がツメ部63に掛かるようにして、数箇所(図7では3箇所)のツメ部63で基板56の端面を引っ掛けて支持する設計となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−42899号公報
【特許文献2】特開2007−266043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、従来技術では基板56の支持に使用するツメ部63が、図6に示すように基板の成長面62であるオモテ面に掛かるようにしているため、ツメ部63に掛かるオモテ面は未成長領域となる問題がある。
【0015】
また、ツメ部63の周囲1〜5mm程度の成長面62上においても原料の供給が阻害され、半導体結晶の面内分布(厚さ分布など)を悪化させる原因となっており、特に4インチサイズ以上の基板56を用いる場合に問題であった。
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、基板をフェイスダウンに保持してMOVPEで半導体結晶を成長するに際し、半導体結晶の未成長領域を無くすと共に基板への原料供給の阻害を低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、加熱した基板上に原料ガスを供給し、前記基板上に半導体結晶を成長させる半導体エピウェハの製造方法において、前記基板は、前記半導体結晶が成長される成長面側の周縁部に面取部を有しており、フェイスダウンで、かつ前記面取部のみが保持され、前記半導体結晶は、前記基板の成長面を下方に向けて成長される方法である。
【0018】
前記基板は、前記成長面側の周縁部にのみテーパ加工により形成された前記面取部を有し、前記面取部のテーパ角が13°以上17°以下、テーパ長さが900μm以上1400μm以下であると良い。
【0019】
前記基板は、サセプタに設けられたツメ部により、前記面取部の全周が保持されると良い。
【0020】
また本発明は、半導体結晶が成長される成長面側の周縁部にのみテーパ加工により形成された面取部を有するガリウム砒素基板である。
【0021】
前記ガリウム砒素基板は、4インチサイズ以上の円形状であり、かつ前記面取部のテーパ角が13°以上17°以下、テーパ長さが900μm以上1400μm以下であると良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、基板をフェイスダウンに保持してMOVPEで半導体結晶を成長するに際し、半導体結晶の未成長領域を無くすと共に基板への原料供給の阻害を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るガリウム砒素基板の寸法例を示す部分断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るガリウム砒素基板の寸法例を示す部分断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態を示す下視図である。
【図5】MOVPEによる半導体エピウェハの製造方法を説明する概略断面図である。
【図6】従来の基板の保持方法を説明する部分断面図である。
【図7】従来の基板の保持方法を説明する下視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態を示す部分断面図であり、基板をMOVPE装置のサセプタでフェイスダウンに保持する方法を説明する図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態に係る半導体エピウェハの製造方法では、化合物半導体の結晶成長用の基板11を、半導体結晶が成長される成長面12を下方に向けてフェイスダウンに、サセプタ61に設けられたツメ部13で保持する。基板11の上方には、均熱板59を配置する。
【0027】
基板11は、厚さ450μm、4インチサイズの円形状を有するガリウム砒素基板であり、周縁部14の一部にオリエンテーションフラットが形成されているものを用いる。なお、本発明では4インチサイズ以上のガリウム砒素基板を使用することもできる。
【0028】
また基板11は、成長面12側の周縁部14にのみテーパ加工により形成される面取部15を有しており、サセプタ61に設けられたツメ部13で面取部15のみを保持することで(すなわち、面取部15のみにツメが掛かるようにして)、半導体結晶が成長面12を下方に向けて成長されるようにする。なお、本発明では成長面12とは反対側の面(ウラ面)にもテーパ加工を施した基板を用いることもできるが、成長面12側にのみ面取部15が形成された基板11では、半導体結晶を成長させた後のバックラップ(ウラ面研磨)工程において周縁部14でのチッピング・割れの発生を低減できるため好適である。
【0029】
図2,3に、テーパ加工により基板11の周縁部14に形成される面取部15の形状・寸法の例を示している。本実施の形態では、図2に示すように、厚さ450μmの4インチサイズの基板11に対し、テーパ長さ1000μm、テーパ高さ225μmで、テーパ角が約12.68°となるように面取部15を形成する。ただし、より好ましくは、例えば図3に示すようにテーパ長さ900μm以上1400μm以下、テーパ角13°以上17°以下の範囲内で面取部15を形成すると良い。このようにされることで、基板11の直径のバラツキを±0.3mm、ツメ部13の機械加工の精度を±0.5mmと仮定しても、基板11が落下しないようにすることができる。
【0030】
以上の条件を満たす基板11(ガリウム砒素基板)が、本発明のエピウェハの製造方法に使用するのに好適である。
【0031】
本実施の形態では面取部15を保持するツメ部13の形状を、図4に示すように、基板11のオモテ面(成長面12)には掛からずに、かつ基板11が落ちない程度に極力小さく(厚さを薄く)する。その一方で、厚さを薄くすることで低下する強度を補うべく、基板11の全周を保持できるように、基板11の外周形状に合わせた形状とする。
【0032】
このような基板11をサセプタ61のツメ部13に保持させ、図5に示したようなMOVPE装置50にセットし、基板11を均熱板59を介してヒータ55で加熱しつつ、有機金属原料51とV族の原料ガス52とキャリアガス53とを供給することで、原料ガスが基板上で分解・化学反応して半導体結晶が成長し、半導体エピウェハが製造される。
【0033】
以上のように、本発明においては、MOVPEにより半導体エピウェハを製造するに際し、半導体結晶を成長させる成長面側の周縁部に面取部を形成した基板を用い、フェイスダウンで、かつ面取部のみを保持し、基板の成長面を下方に向けて半導体結晶を成長させるようにする。
【0034】
このようにされることで、従来方法ではサセプタのツメ部が掛かることで未成長領域となっていた部分を無くし、基板の成長面全体で半導体結晶を成長させることができる。また、基板の成長面がより下方側に位置するようになるため、原料ガスの供給がツメ部に阻害されることを抑制することができる。
【0035】
さらに、サセプタのツメ部を、基板の面取部の全周を保持するような形状としたときには、ツメ部の強度を保ちつつ極力小さくする(薄くする)ことができるようになり、ツメ部による原料供給の阻害をより抑制できる。
【0036】
さらにまた、基板の成長面側にのみ面取部を形成する場合には、両面に面取部を形成する従来の基板と比較して端面が鈍く厚くなるため、半導体結晶を成長させた後の基板のウラ面研磨工程(バックラップ工程)において、鋭い端面で発生しやすいチッピング・割れを低減することもできる。
【0037】
本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、種々の変更を加え得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
11 基板
12 成長面
14 周縁部
15 面取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した基板上に原料ガスを供給し、前記基板上に半導体結晶を成長させる半導体エピウェハの製造方法において、
前記基板は、前記半導体結晶が成長される成長面側の周縁部に面取部を有しており、フェイスダウンで、かつ前記面取部のみが保持され、
前記半導体結晶は、前記基板の成長面を下方に向けて成長されることを特徴とする半導体エピウェハの製造方法。
【請求項2】
前記基板は、前記成長面側の周縁部にのみテーパ加工により形成された前記面取部を有し、前記面取部のテーパ角が13°以上17°以下、テーパ長さが900μm以上1400μm以下である請求項1記載の半導体エピウェハの製造方法。
【請求項3】
前記基板は、サセプタに設けられたツメ部により、前記面取部の全周が保持される請求項1又は2記載の半導体エピウェハの製造方法。
【請求項4】
半導体結晶が成長される成長面側の周縁部にのみテーパ加工により形成された面取部を有することを特徴とするガリウム砒素基板。
【請求項5】
4インチサイズ以上の円形状であり、かつ前記面取部のテーパ角が13°以上17°以下、テーパ長さが900μm以上1400μm以下である請求項4記載のガリウム砒素基板。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−234924(P2012−234924A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101511(P2011−101511)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】