説明

半導体センサー装置

【課題】 狭ギャップで気密性を保ち、高信頼性の半導体センサー装置を提供する。
【解決手段】 MEMSチップと気密封止用キャップチップと回路基板とそれらを封止
する樹脂部材とを備え、
キャップチップは、MEMSチップ可動部を取り囲むようにリング状に配設された接
合材と、接合材の内外周に形成された接合材用溝と、接合材の下地のメタライズ層と絶
縁膜とを備え、
メタライズ層は、接合材の直下部と、接合材用溝の内面とその外側に外延した面に形
成され、
絶縁膜は直下部と外延した面に形成され、接合材用溝の内面には形成されず、
MEMSチップにはメタライズ層が形成され、
キャップチップとMEMSチップとが、接合材を介して接合され、キャップチップと
接合材は接合材用溝の内で電気的に接続される半導体センサー装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部を有するMEMS(Micro−Electro−Mechani
cal Systems)チップを有する半導体センサー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス技術に機械加工技術や材料技術などを組み合わせることによって
、半導体基板上に三次元的な微細構造を有するシステムを実現するMEMS技術は、極
めて広汎な分野に応用可能である。特に、自動車や航空機、携帯端末機器、玩具などに
用いられるこれら半導体センサー装置は、加速度や角速度、圧力等の物理量検出分野へ
の適用が注目されている。
【0003】
これらの半導体センサー装置は、MEMS技術で形成された可動部を有しているのが
特徴である。可動部の変化をピエゾ抵抗素子の抵抗変化や静電容量変化で検知し、デー
ター処理することで、加速度や角速度、圧力等の値を得るものである。
半導体センサー装置は微小な可動部を備えるMEMSチップを有する。MEMSチッ
プは、外装となるセラミックス製のケースに入れられる。ただし、セラミックス製ケー
スは小型化に限度があり軽量化も困難であった。そこで、特許文献1には樹脂モールド
技術を用いた樹脂製の外装を有する半導体センサー装置が開示されている。
【0004】
樹脂製の外装の中でMEMSチップの可動部を駆動するためには、適切な隙間を形成
して封止する蓋が必要である。特許文献1のMEMS組立体は、可動部を有するMEM
Sチップと、可動部を気密封止するための蓋となるキャップチップとが接合された構造
となっている。このキャップチップの付加効果として、キャップチップとMEMSチッ
プの可動部との隙間を狭くすると、エアダンピングの効果により、可動部の周波数特性
を制御し、共振を抑える例が特許文献2に記載されている。
【0005】
特許文献3には、キャップチップの帯電を防ぐために、キャップチップがフローティ
ング状態であるのを解消する構成が開示されている。キャップチップがシリコン基板よ
りなり、接合用膜としてTiやAuなどを形成し、MEMSチップ側のシリコンと共晶
接合するものである。接合部が導電性であり、キャップチップと、MEMSチップ側の
シリコン(すなわち可動部)とが電気的に接続されている構成を実現できる。また、キ
ャップチップとMEMSチップともにシリコンを基体としており、熱膨張率差もない。
【0006】
【特許文献1】特開平10−170380号公報
【特許文献2】特開平9−178770号公報
【特許文献3】特開2001−119040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャップチップとMEMSチップの可動部との隙間を狭くすると、不安定動作や気密
性不良による信頼性低下などの問題が生じる。
【0008】
特許文献2に開示されている接合は、ガラスとシリコンを直接接合する陽極接合法を
用いている。しかし、シリコンとガラスの熱膨張率差が大きく、ヒートショック試験に
おいて接合部にクラックが生じて気密性が劣化したり、可動部を支持する梁が折れたり
する不具合が発生した。
【0009】
また、キャップチップとMEMSチップの可動部との隙間(ギャップ)を狭くすると
、両者の間に静電引力が働いて可動部を変位させ、半導体センサー装置の出力信号が変
動してしまうという問題がある。MEMSチップは絶縁性の樹脂部材にてモールドされ
て半導体センサー装置の外装となる。半導体センサー装置をマウントするときに発生す
る摩擦により、外装である樹脂部材に静電気が生じる。キャップチップが電気的にフロ
ーティング状態であると、キャップチップ自身も帯電し、MEMSチップの可動部との
間で電位差が生まれ、静電引力により可動部が変位する。静電引力の強さはキャップチ
ップとMEMSチップの可動部との隙間の距離と反比例するので、隙間が狭い場合は特
にその影響が大きくなる。
【0010】
特許文献3では、気密性の良い共晶接合にはAuの膜厚として20μm程度の厚さを
要し、接合部の厚さが厚くなって、キャップチップとMEMSチップの可動部との隙間
が広くなってしまうため、当初の目的を達せられない。また、Auが厚い分、製造コス
トが高くなり工業的な量産には向いていない。
【0011】
本願発明の目的は、かかる問題を解決し、キャップチップとMEMSチップの可動部
との隙間を狭くしても、気密性を保ち、信頼性の高い半導体センサー装置を提供するこ
とである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の半導体センサー装置は、
半導体基板から形成されて可動部を有するMEMSチップと、半導体基板から形成さ
れてMEMSチップの可動部を気密封止する1つ以上のキャップチップとを有するME
MS組立体と、
前記MEMSチップに配線で接続する回路基板と、
前記回路基板と前記MEMS組立体を封止する樹脂部材とを備える半導体センサー装
置であって、
前記キャップチップは、MEMSチップの可動部を取り囲むようにリング状に配設さ
れた接合材と、接合材の内周と外周の位置に形成された接合材用溝と、接合材の下地と
なるメタライズ層と、メタライズ層の下地となる絶縁膜とを備え、
前記メタライズ層は、接合材の直下部と、接合材用溝の内面と、接合材用溝の外側に
外延した面に形成され、
前記絶縁膜は、接合材の直下部と、接合材用溝の外側に外延した面に形成され、接合
材用溝の内面には形成されておらず、
前記MEMSチップは、前記接合材に対置してメタライズ層が形成されており、
前記キャップチップと前記MEMSチップとが、接合材を介して物理的に接続される
とともに、キャップチップと接合材とが、接合材用溝の内で電気的に接続されているこ
とを特徴とする。
【0013】
MEMSチップに形成した可動部の電位がキャップチップの電位と同電位であり、半
導体センサー装置の外部の固定電位とも同電位であることが好ましい。キャップチップ
とMEMSチップの可動部との隙間を狭くしても、両者に静電引力が発生せず、半導体
センサー装置の出力が安定する。ここで、MEMSチップに形成した可動部の電位と、
キャップチップの電位との差が、ある一定値である場合は、静電引力が働くものの、変
動はないために同様の効果が得られる。キャップチップには、電気抵抗率ρが500Ω
cm以下のSi半導体の基板を用いることができ、好ましくはρ=0.001〜500
Ωcm、より好ましくはρ=5〜20ΩcmのSi半導体基板を用いる。MEMSチッ
プとキャップチップの間には、1〜5μmの隙間を有することが好ましい。
【0014】
キャップチップ側に接合材である半田(例えばAu−Sn共晶半田)が形成されると
ともに、半田を挟むような位置に1対の接合材用溝が形成されている。また、メタライ
ズ層が半田の直下のみならず、接合材用溝の内面(壁面および底面)、および外側に外
延して配設される。一方のMEMSチップ側には、キャップチップ側の接合材に対向す
る位置にメタライズ層が形成される。加重と加熱を与えて両者を押し付けると、接合材
が押しつぶされると同時にメタライズ層上を濡れ広がって接合部を形成する。接合材は
、その表面張力の効果によって接合材用溝のエッジ(溝開口部の角部)にフィレットを
形成する。その様子を図10に示す。このフィレット47の形成により接合部の気密封
止が実現できる。また、接合材40はつぶれて薄くなり、キャップチップ22とMEM
Sチップ2の可動部との隙間を狭くすることが可能となる。
【0015】
接合材用溝31には、つぶれた接合部材40が外に漏れ出さないように収納するポケ
ットの役割もある。接合材用溝31がない場合は図11のようになり、メタライズ層1
6の端部から潰れた接合材40が漏れ出して、隣接する電極パッドと短絡する問題が生
じる(図中の49)。
接合材用溝31があると、余分な接合材40は溝内に収納され、メタライズ層の端部
から漏れ出すこともない。接合材40を潰して薄い接合部を形成するには、接合材用溝
31を設けるのが好ましい。
【0016】
図10の構成では、メタライズ層16Bの下層として酸化膜39を設けているために
、MEMSチップとキャップチップとの電気的な接続されていない。この酸化膜39を
形成しない構成を参考例として作製し、接合したところ、図12のように接合材用溝3
1のエッジにて接合材40である半田とキャップチップ22を構成する半導体基板(た
とえばシリコン)が反応してフィレット47の形状が崩れてしまった(フィレット47
’)。ヒートショック試験を行うとクラック48が生じて気密封止の歩留まりが低下し
た。メタライズ層16Bは密着層であるCr層と、半田との反応を抑制するためのNi
層と、半田濡れ性が良いAu層とで構成される金属多層膜であり、Ni層にて半田との
反応が停止する。しかし、接合材用溝31のエッジは表面張力によって多量の半田が集
まるために、その反応の進行が早く、エッジのNi層とCr層は半田に溶け込まれてし
まい、半田が半導体基板にまで達して、反応を起こしてしまった。
【0017】
そこで、キャップチップ2の平面部、すなわち接合材用溝31でない部分には酸化膜
39を残し、前記接合材用溝31の内面(壁面および底面)には前記絶縁性の酸化膜3
9が除去した構造とした。その場合の接合断面を図13に示す。接合材用溝31のエッ
ジにおいても半導体基板(シリコン)と、接合材との反応が起きない。一方、前記接合
材用溝31の内面(壁面および底面)には前記絶縁性の酸化膜39が除去されているた
め、半導体基板と接合材40との反応が起きるが、その範囲は限定的であり、エッジの
フィレット47形成には影響しない。そのため気密封止が確保できる。なお、前記酸化
膜39に代えて窒化膜を用いることもできる。
【0018】
前記接合材用溝の内面(壁面および底面)の前記絶縁性の酸化膜もしくは窒化膜が除
去する作製プロセスは、下記の理由により容易である。従来は、半導体基板上に接合材
用溝をドライエッチングもしくはウエットエッチングの技術により形成したのち、熱酸
化処理やCVD成膜によって接合材用溝の内面に前記絶縁性の酸化膜もしくは窒化膜を
形成した。この工程の順序を入れ替えて、平板状態の半導体基板に同様の方法で前記絶
縁性の酸化膜もしくは窒化膜を形成した後、ドライエッチングもしくはウエットエチン
グの技術を使って前記絶縁性の酸化膜もしくは窒化膜を開口させ、半導体基板に接合材
用溝を形成する。これにより接合材用溝の内面に酸化膜もしくは窒化膜が除去された状
態を実現できる。フォトリソ技術によるパターニングが追加で必要とはならず、工数増
大を抑えることができる。
【0019】
回路基板と接続するための電極パッドがMEMSチップに形成されており、電極パッ
ドと接合材とが、MEMSチップの基体である半導体基板に形成された導電性の不純物
添加層を介して電気的に接続されていることが望ましい。
【0020】
電極パッドと接合材とが、MEMSチップ側のメタライズ層で繋がるようにパターン
形成されている場合、接合時に濡れ広がった接合材の一部が電極パッドにまで達して、
電極パッドのAuやAlと反応してしまう。この場合、電極パッドに配線(ボンディン
グワイヤー)が接続できない。これを回避するため、導電性の不純物添加層を半導体基
板に形成し、これを介して電極パッドと接合材とが電気的に接続され、電極パッドが直
接繋がらないようにする。これにより電極パッドと配線(ボンディングワイヤー)との
接続が高い歩留まりで行われる。不純物添加層はP−Siであることが好ましい。
【0021】
MEMS組立体において、MEMSチップの可動部が2つのキャップチップによって
挟まれて気密封止されていることが好ましい。2つのキャップチップの基体がそれぞれ
に前記接合材と電気的に接続されていると共に、MEMSチップに形成した電気回路お
よび電極パッドを介し配線で回路基板あるいは配線基板に電気的に接続されていること
が好ましい。MEMSチップの基体と、前記MEMSチップと対向するキャップチップ
とは、可動部の電位と同電位とし、より好ましくは可動部の電気回路のVccと同電位
にする。
【発明の効果】
【0022】
キャップチップとMEMSチップの可動部との隙間を狭くしても、気密性を保ち、信
頼性の高い半導体センサー装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、これら実施形
態により本発明が必ずしも限定されるものではない。
【0024】
[実施形態1]
本願発明の加速度センサー装置は、可動部を有するMEMSチップ(センサーチップ
)と少なくともセンサーチップ内の可動部を気密封止する上キャップチップ及び下キャ
ップチップで形成されたMEMS組立体の下キャップチップを配線基板上に固着された
回路基板上に固着し、センサーチップと回路基板および回路基板と配線基板を配線で接
続し、配線基板上の回路基板と配線およびMEMS組立体を樹脂部材で封止した半導体
センサー装置である。
【0025】
外部から加速度がセンサーチップに加わると、可動部上に形成したピエゾ抵抗素子等
で形成した電気回路が、外部からの加速度を電流や電圧に変換して出力する。出力の変
化は非常に微小であるため、回路基板には出力を増幅する素子(増幅回路等)を形成す
る。また、前記ピエゾ抵抗素子が温度の影響を受ける場合、温度補正回路等を搭載する
ことが好ましい。
【0026】
MEMS組立体は、センサーチップ、上キャップチップおよび下キャップチップの3
要素を構成要素にもつ。センサーチップ及び上キャップチップと、センサーチップ及び
下キャップチップとは、それぞれ接合部で接合されている。
【0027】
センサーチップは、外部から加速度により変位する可動部、可動部の変位を電気信号
に変換するための変換素子、電気回路、可動部を変位可能に支持するための梁と支持枠
、センサーチップ及び上キャップチップの接合部、センサーチップ及び下キャップチッ
プの接合部、電極パッドを構成要素として有する。これらの接合部や後述する分離溝は
、フォトリソ技術とウエットエッチング、ドライエッチング技術を用いて形成すること
ができる。
【0028】
上キャップチップのセンサーチップ対向面側は、センサーチップと固着する接合部と
、電極パッドの開口部(分離溝)を構成要素として有する。センサーチップと、上キャ
ップチップおよび下キャップチップとを接合してMEMS組立体を得るが、具体的には
チップが複数形成された基板状態で接合するため、複数の上キャップチップが繋がった
状態にある。これをエッチングや研磨加工で分離し個片化して上キャップチップとする
。分離溝を深くしておくことで、短時間のエッチングや研磨加工で上キャップチップを
個片化できる。これらの接合部や分離溝は、フォトリソ技術とウエットエッチング、ド
ライエッチング技術を用いて形成することができる。
【0029】
下キャップチップのセンサーチップ対向面側は、センサーチップと固着する接合部を
構成要素として有する。接合部は、フォトリソ技術とウエットエッチング、ドライエッ
チング技術を用いて形成することができる。
【0030】
接合部には、低融点金属などの導電性の接合材を形成する。接合材を用い、センサー
基板及び上キャップ基板の間を固着し、センサー基板及び下キャップ基板の間を固着し
て気密封止を図るものである。接合材はリフトオフやイオンミリング、エッチング、め
っき等の手法を用いて形成する。
【0031】
導電性の接合材を構成する材料としては、電子部品実装用の半田材として知られるA
u−20〜37.6Sn、Au−90Sn、Sn−9Zn、Sn−3.5Ag、Sn−
3Ag−0.5Cu、Pb−5Sn、Pb−10Sn、Sn−37Pb、Sn−57B
iのいずれかを用いることが好ましい。Au−90Snは、Snを90質量%含有し、
残部が金および不可避不純物である組成を有する合金である。接合材が加熱溶融時に濡
れ広がるために、接合材の下地として、メタライズ層を形成するのが好ましい。メタラ
イズ層はその下地側から、下地層との接着層、半田が接着層に達するのを防ぐための保
護層、半田濡れ性の高い層を積層した多層膜であることが好ましい。下地層との接着層
は、下地層がSi酸化膜の場合には、Cr、Ti、Wなどの金属が好ましい。保護層と
しては、半田との反応速度の遅いNi、Cu、Pt、Pdなどが好ましい。半田濡れ性
の高い層としては、半田との反応速度の速いAuが好ましい。多層であるメタライズ層
はスパッタや蒸着、電解めっきや無電解めっきにて形成され、リフトオフやミリング、
エッチングにより所望のパターンが形成される。
【0032】
接合材はセンサーチップ側および上キャップチップ側の両方に形成することが好まし
いが、いずれか片方にのみ形成しても良い。また、接合材は、センサーチップ側および
下キャップチップ側の両方に形成することが好ましいが、いずれか片方にのみ形成して
も良い。ただし、メタライズ層は、接合材との反応のため、センサーチップ側および上
キャップチップ側の両方に形成し、センサーチップ側および下キャップチップ側の両方
に形成することが好ましい。
【0033】
接合材の表面が酸化すると、接合材の濡れ広がりが起きない場合がある。これを防止
するため、Auなどの酸化しにくい材料を表面に形成しておくことが好ましい。
【0034】
接合材を囲むように溝(以下、接合材用溝)が形成されていることが好ましい。上面
から見ると、接合材がリング状に形成されており、接合材の内周と外周に、おのおのリ
ング状の接合材用溝を構成している。メタライズ層は接合材の直下のみならず、接合材
用溝の壁面、底面および外側に外延した面に配設される。接合材が溶融してメタライズ
層上で濡れ広がるが、接合材用溝のエッジ(溝開口の角部)にフィレットを形成してお
くことにより、高歩留まりで気密封止を実現できる。また接合材用溝は、接合材が溝の
外に漏れ出さないだけの十分な体積(断面積)を確保する。
【0035】
接合材用溝は、センサーチップ側、上キャップチップ側若しくは下キャップチップ側
のどちらに形成しても良い。また、接合材が片側のみに形成している場合も、センサー
チップ側、上キャップチップ側若しくは下キャップチップ側のどちらに形成しても良い
。いずれの場合においても、接合すると接合材用溝のエッジ(溝開口の角部)にフィレ
ットを形成するので、高歩留まりで気密封止を実現できる。
【0036】
メタライズ層の下地には、接合材と容易に反応しない下地層が形成されていることが
好ましい。例えば接合材がAu−20〜37.6Snであり、センサーチップ、上キャ
ップチップおよび下キャップチップの基体がシリコンの場合、Au−Siの共晶反応で
接合材と前記基体が反応し、接合後の接合部の厚さにバラツキが出たり、接合部にクラ
ックが生じて気密性が劣化したりするという問題が発生する。これを防ぐためにメタラ
イズ層の下地として酸化膜(シリコン酸化膜など)や窒化膜(窒化珪素膜など)を形成
することが有効である。シリコン酸化膜や窒化珪素膜は密着性が高く容易に形成できる
ため、特に有用である。
【0037】
前記下地層の材料としてシリコン酸化膜や窒化珪素膜を用いた場合、絶縁性であるた
めセンサーチップの可動部と上キャップチップ及び下キャップチップとは電気的にフロ
ーティングしている状態になる。この状態では外部からの静電気の影響を受け、樹脂部
材が帯電すると共に上キャップチップ及び下キャップチップも帯電し、センサーチップ
の可動部を変位させて半導体センサー装置の出力変動を起こす。これを防ぐために接合
材用溝の溝内のシリコン酸化膜もしくは窒化珪素膜を除去し、その上にメタライズ層を
形成することが好ましい。溝内では前記基体と接合材との反応が起きるが、その範囲は
限定的であり、接合部の厚さにバラツキが出たり、接合部にクラックが生じたりするこ
とはない。この構造では、「上キャップチップ又は下キャップチップの基体」「上キャ
ップチップ又は下キャップチップのメタライズ層」「接合材」「センサーチップのメタ
ライズ層」がすべて同電位となる。センサーチップのメタライズ層が窒化珪素膜の開口
部を介してセンサーチップの可動部と接続することにより、「上キャップチップの基体
」と「センサーチップの可動部」は同電位となり、前記出力変動を抑えることができる

【0038】
センサーチップが複数形成されているセンサーチップ基板と、上キャップチップが複
数形成されている上キャップ基板、および下キャップチップが複数形成されている下キ
ャップ基板と、を位置合わせした後、加圧と加熱により接合する。センサーチップ基板
と上キャップ基板及び下キャップ基板のうねり等により形成される隙間に接合材が流れ
ることで隙間を埋め気密性を向上させることができる。このため、大きな圧力を加えて
基板のうねりを矯正する必要がないので、上キャップ基板等を破損する危険性が低くな
る。MEMS組立体内の空間を真空(減圧下)に保つこと、もしくは乾燥窒素や不活性
ガス等を充填気密するため、真空(減圧)雰囲気下や乾燥窒素、不活性ガス雰囲気下で
接合することが好ましい。
【0039】
上キャップ基板および下キャップ基板をウエットエッチングや研磨加工で薄肉化し、
上キャップ基板を個片化した後、MEMS組立体基板をダイヤモンド砥石で切断するこ
とで、MEMS組立体を得ることができる。MEMS組立体基板を個片化し、MEMS
組立体とするのに、ウエットエッチングやダイヤモンド砥石による切断(ダイシング)
を用いる。
【0040】
配線基板(リードフレーム)上にダイアタッチフィルムを用いて回路基板(検出用I
C)を接着する。さらに、回路基板(検出用IC)上にMEMS組立体をダイアタッチ
フィルムで接着する。
【0041】
MEMS組立体と回路基板の間、または回路基板と配線基板の間は、金属の極細線(
ワイヤー)等で接続する。電極パッドと金属の極細線の接続は、超音波溶接もしくは半
田溶接で行うことができる。金属の極細線による接続の代わりに、半田ボールやボール
ボンドによる接続を用いることもできる。なお、配線基板はプリント回路やリードフレ
ーム等である。配線基板はセンサーチップに形成した電気回路に対応した電極として主
端子を有する。
【0042】
MEMS組立体、回路基板、配線基板及びワイヤーを樹脂で封止するには、エポキシ
樹脂やシリコン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。成型方
法は、液状樹脂を用いたポッティング法もしくは粉体樹脂を用いたトランスファーモー
ルド法を用いることができる。トランスファーモールド法では、MEMS組立体、回路
基板、配線基板及びワイヤーが一体化されたものを金型内に設置し、モールド機のポッ
ドにタブレット状に成型された樹脂を装填しポッドの押出し部を加熱して樹脂を軟化さ
せ、プランジャー(押圧機構)でポッド内の軟化した樹脂を金型内に押圧する。金型内
で樹脂を硬化させた後、金型から樹脂モールド品を取り出し半導体センサー装置を得る
。ポッティング法は、MEMS組立体、回路基板、配線基板及びワイヤーが一体化され
たものを金型内に設置し、液状樹脂を金型内に流し込み樹脂を硬化させた後、金型から
樹脂モールド品を取り出し半導体センサー装置を得る。
【0043】
以下、本願発明の半導体センサー装置としての加速度センサー装置を、図1から図4
を用いて、より具体的に説明する。そのため、センサーチップ基板を加速度センサーチ
ップ基板と同義の用語で、センサーチップを加速度センサーチップと同義の用語として
記載している。
図1は加速度センサーチップ2と上キャップチップ22と下キャップチップ23の分
解斜視図である。
図2は加速度センサーの樹脂パッケージ組立構造、即ち加速度センサー装置1、を示
す半透視上面図である。配線基板26よりも上キャップ側にある樹脂部材を透視する。
図3は加速度センサー装置1の構造を示す断面図である。
図4は加速度センサー装置1の製造プロセスを説明する図である。
【0044】
図1b)は加速度センサーチップ2の斜視図である。左図を表面側、右図を裏面側と
する。センサーチップ2の表面側(左図)にはピエゾ抵抗素子13、14、15と、配
線(図示を省略した。)、電極パッド24、接合部20、梁部12、錘部11、支持枠
部10等が形成されている。支持枠部10から伸びる4本の梁部12が錘部11を支持
している。接合部20は支持枠部10の上に梁部12と錘部11を取り囲むようにリン
グ状に形成される。梁部12にはピエゾ抵抗素子13、14、15が形成されており、
錘部11の変位によって梁部12に生じる歪を電気信号に変換する。
【0045】
加速度センサーチップ2の製作には、約400μm厚のシリコン板に数μmのシリコ
ン酸化層と約6μmのシリコン層を有するSOI(Silicon on Insul
ator)基板を使用した。シリコン層側の面にピエゾ抵抗素子13、14、15の形
状にフォトレジストのパターンを形成した。イオン打ちこみ法でシリコン層にボロンを
1〜3x1018原子/cm3打ち込み、ピエゾ抵抗素子13、14、15を形成し、
ピエゾ抵抗素子13、14、15に接続する配線を、金属スパッタとドライエッチング
装置を用いて形成した。シリコン層とシリコン板をフォトリソ技術とドライエッチング
装置を用いて加工し、シリコン層に形成される梁部12、およびシリコン層からシリコ
ン板に渡って形成される錘部11を形成した。シリコン酸化層はシリコンのドライエッ
チングの際にエッチングストッパーとして機能する。ドライエッチングされるのはシリ
コンのみであるので、シリコン板はドライエッチングされるがシリコン酸化層は残って
いる。ドライエッチング後、弗酸及び弗化アンモニウムの水溶液に漬け、シリコン酸化
層をウエットエッチングで除去した。ドライエッチングはSF6と、酸素ガス及びC4
F8ガスとを交互に導入するプラズマ内で行った。1枚のSOI基板上に多数の加速度
センサーチップ2を作製し、加速度センサー基板2’とした。
【0046】
ピエゾ抵抗素子13、14、15や配線、電極パッド24を形成した後、それらの上
に窒化珪素膜をCVDで(厚さ0.1μm)積層した後、電極パッド24上の窒化珪素
膜をフォトリソ技術、エッチングで除去した。次にリフトオフで電極パッド24および
接合部になる領域を開口した後、金属スパッタで、Cr(厚さ0.05μm)−Ni(
厚さ0.4μm)−Au(厚さ0.5μm)の順で積層膜を形成した。次に電極パッド
24と接合部20以外のフォトレジストと金属膜を除去した。この工程により、電極パ
ッド24と接合部20にメタライズ層16が形成される。
【0047】
加速度センサーチップ2の裏面側(右図)には、錘部11を取り囲むように接合部2
8が形成されている。シリコン基体の表面にリフトオフで接合部28を開口した後、金
属スパッタで、Cr(厚さ0.05μm)−Ni(厚さ0.4μm)−Au(厚さ0.
5μm)の順で積層膜を形成した。次に接合部28以外のフォトレジストと金属膜を除
去した。この工程により、接合部28にメタライズ層16が形成される。
【0048】
図1a)は上キャップチップ22の斜視図である。加速度センサーチップ2の表面に
対向する側の面(右図)に接合部33が形成されている。この接合部33は加速度セン
サーチップ2の接合部20に対向する位置に形成される。接合部33はメタライズ層1
6、接合材用溝および接合材で構成される(図示せず)。複数の上キャップチップ22
が形成される上キャップ基板22’は、加速度センサーチップ2の電極パッドに対向す
る位置に分離溝32を形成する。のちのバックグラインド研削の工程で分離溝の深さに
まで薄肉化することにより上キャップチップ22が個片化する。
【0049】
分離溝32の形成はドライエッチングにて実施したが、これに限定されない。別の実
施形態として、シリコン酸化膜の加工をフッ化水素系の溶液を用いたウエットエッチン
グで行い、シリコンの加工を水酸化カリウム水溶液又はTMHA(水酸化テトラメチル
アンモニウム水溶液)を用いたウエットエッチングに置き換えた。いずれの場合も分離
溝32は100μm以上の深さとした。
【0050】
図1c)は下キャップチップ23の斜視図である。加速度センサーチップ2の裏面に
対向する側の面(右図)に接合部34が形成されている。この接合部34は加速度セン
サーチップ2の接合部28に対向する位置に形成される。接合部34はメタライズ層1
6、接合材用溝および接合材で構成される(図示せず)。下キャップ基板23’に複数
の下キャップチップ23を形成する。
【0051】
加速度センサー基板2’は基板状態で上キャップ基板22’および下キャップ基板2
3’と接合し(図4b))、上キャップ基板及び下キャップ基板をバックグラインド研
削により300μm削り(即ち上キャップ基板及び下キャップ基板の厚さを100μm
とし)、上キャップ基板22’が分離溝32で分割された状態の基板、即ち上キャップ
基板及び下キャップ基板を薄肉化したMEMS組立体基板45を得た(図4c))。
【0052】
別の実施形態として67℃に加熱した40wt%水酸化カリウム水溶液にMEMS組
立体基板45を浸漬して、上キャップ基板及び下キャップ基板を300μmエッチング
し、薄肉化したMEMS組立体基板45を得た。
【0053】
MEMS組立体基板45の下キャップ基板側にダイアタッチフィルム(上DAF)6
1aを貼り、図4c)に一点鎖線で示したダイシングライン90でダイシングすること
で個片化したMEMS組立体21を得た(図4d))。
【0054】
厚さ125μmの配線基板(リードフレーム)26上に、加速度センサーチップ2か
らの信号の増幅や温度補正等を行う回路基板(検出用IC)25を、ダイアタッチフィ
ルム(下DAF)61bで固定した。配線基板26は複数個配列した状態で用意した。
回路基板25の上に個片化したMEMS組立体21をダイアタッチフィルム(上DAF
)61aで固着した(図4e))。本工程で利用したダイアタッチフィルム(上DAF
)は図4d)でのダイシング工程前に貼り付けた上DAF61aである。
【0055】
MEMS組立体21の電極パッド24と回路基板25の電極パッド(24’)、及び
回路基板25の電極パッド24’と配線基板26は、各々、超音波ボンダーを用いて直
径25μmの金の裸ワイヤー27で接続した(図4f))。
【0056】
MEMS組立体21と回路基板25、配線基板26が組立てられた構造体を、トラン
スファーモールド法を用いエポキシ樹脂(モールド樹脂)29で、被覆するように、成
型した。その結果、図3の断面図に示す構成を得た。完成後の加速度センサー装置1に
おいて環境温度変化の影響を抑制するために、トランスファーモールドに用いるエポキ
シ樹脂(モールド樹脂)29の熱膨張係数はMEMS組立体21の主な構成部材である
シリコンの熱膨張係数に近接していることが望ましい。本発明の加速度センサー装置に
おいては熱膨張係数が約6×10−6/℃の樹脂を用いた。
【0057】
トランスファーモールド作業は次の手順、条件で行った。MEMS組立体21と回路
基板25、配線基板26が組立てられた構造体を、成型用金型内の所定の位置に保持し
た。モールド機のポッドにタブレット状に成型された樹脂を装填し、ポッドの押出し部
を加熱して樹脂を軟化させ、プランジャー(押圧機構)でポッド内の軟化した樹脂を金
型内に押圧する。金型内に175℃の樹脂を5MPaの圧力で押圧した。成型時間は2
分とした。金型内で樹脂を硬化させた後、金型から樹脂モールド品を取り出し(図4g
))、ダイシングにて個片化することで加速度センサー装置1を得た(図4h))。一
度のトランスファーモールド作業で、50個の加速度センサー装置1が得られる金型を
用いた。
【0058】
MEMS組立体21の接合部の構造についてさらに詳細に述べる。図5は上キャップ
チップ22とセンサーチップ2と下キャップチップ23が接合する前の接合部を示す断
面図である。センサーチップ2の表面のシリコン層36上には絶縁物である窒化珪素膜
35が形成され、その上にメタライズ層16Aが接合部20と電極パッド部24を繋ぐ
ように形成されている。窒化珪素膜35の一部はドライエッチングにて開口して開口部
41を形成しており、前記メタライズ層16Aがシリコン層36と接して電気的に接続
している。
【0059】
上キャップチップ22の接合部33には、2つのリング状の接合材用溝31が凹状に
形成される。続いて、接合材用溝31の内面(溝の側面と底面)以外の平面部にはシリ
コン酸化膜39が形成される。さらにメタライズ層16Bは接合材用溝31に挟まれた
部分と、接合材用溝31の壁面、底面および外側に外延して配設される。さらに接合材
用溝31に挟まれた部分には接合材40が形成される。
【0060】
上キャップチップ22はt=400μmのシリコン基板を用いて作製する。まず、シ
リコン基板を熱処理してシリコン酸化膜39(厚さ0.5μm)を形成し、その片面に
接合材用溝31のレジストパターンを形成した。ドライエッチングによりレジスト開口
した箇所のシリコン酸化膜39を除去し、続いてSF6ガスと、酸素ガス及びC4F8
ガスの混合ガスとを交互に導入するプラズマ内でのドライエッチングによりシリコンを
除去し、深さ8〜15μmの接合材用溝31を形成した。
2つの接合材用溝との間に接合材40としてAu−Sn合金半田を電解めっきにて厚
さ5μm形成した。さらにAu−Sn合金半田の酸化防止としてAu膜44(厚さ0.
1μm)を形成した。Au−Sn合金半田の下地として、Cr(厚さ0.05μm)−
Ni(厚さ0.4μm)−Au(厚さ0.2μm)の順でスパッタ法により積層・形成
しイオンミリングにてパターニングした膜を、メタライズ層16Bとした。
【0061】
センサーチップ2には接合材40に対向する位置にメタライズ層16A(Cr(厚さ
0.05μm)−Ni(厚さ0.4μm)−Au(厚さ0.5μm))が形成されてい
る。メタライズ層16Aの下地は窒化珪素膜35を形成した。
【0062】
前記の通りに作製した上キャップチップ22および下キャップチップ23とセンサー
チップ2とを適切に位置合わせし加重及び加熱を掛けて接合してMEMSチップとした
。この際に、基板状態にて接合する。接合材40は溶融して潰れると同時に、上キャッ
プチップ22側のメタライズ層16Bとセンサーチップ2側のメタライズ層16Aと合
金化反応を起こし、一体となった合金はメタライズ層16となり、電気的に同電位とな
る。上キャップチップ22の基体であるシリコンは接合材用溝31の内面にてメタライ
ズ層16と接しており、一方のセンサーチップ2のシリコン層36は窒化珪素膜の開口
部41を介してメタライズ層16と接しており、これらが同電位となる。可動部である
錘部11はSOI基板のシリコン層36、シリコン酸化膜38、シリコン板37で構成
されている。このうちシリコン層36のみが、上キャップチップ22の基体であるシリ
コンと同電位となり、シリコン板37はフローティング状態にある。しかし、上キャッ
プチップ22との静電引力は、距離の近いシリコン層36との間で強く、距離の離れて
いるシリコン板37との間には殆ど働かない。よって、錘部11のシリコン層36のみ
同電位した本実施形態でも十分な効果が期待できる。
【0063】
このようにして作製したMEMS組立体21を用いて、加速度センサー装置1を作製
したところ、外部からの静電気の影響は少なく安定した動作が可能であった。例えば加
速度センサー装置1に帯電した樹脂棒を近づけても、出力変動は殆ど無かった。
【0064】
接合材用溝31の内面ではシリコンと接合材40との反応層が見られたが、その領域
は小さかった。接合材用溝31のエッジにフィレットも形成されており、気密性は良好
であった。また、接合材40は薄くつぶれており、センサーチップ2の可動部とキャッ
プチップとの隙間を2μmにすることができ、十分なエアダンピング効果を得ることが
できた。また、過度の衝撃の与えても梁は破壊されず、高信頼の加速度センサー装置を
得ることができた。なお、図5において、接合部20(センサーの上キャップ側)の構
成部材はメタライズ層16Aに相当する。接合部33(上キャップ)の構成部材は、メ
タライズ層16B、接合部材40、接合部材用溝31、Au膜44、シリコン酸化膜3
9に相当する。接合部28(センサーの下キャップ側)の構成部材は、メタライズ層1
6Cに相当する。接合部34(下キャップ)の構成部材は、メタライズ層16D、接合
部材40、接合部材用溝31、Au膜44、シリコン酸化膜39に相当する。
【0065】
図6は比較例の接合部の断面である。上キャップチップ22の接合材用溝31の内面
にもシリコン酸化膜39が形成されている。またセンサーチップ2の窒化珪素膜35に
は開口部41が無く、電極パッド24および接合部20のメタライズ層は絶縁されてい
る。この比較例の場合、上キャップチップ22の基体であるシリコンとセンサーチップ
2のシリコン層が電気的に絶縁している。
【0066】
このようにして作製したMEMS組立体21を用いて、加速度センサー装置1を作製
したところ、外部からの静電気の影響を受け出力値が安定しない不具合が発生した。例
えば加速度センサー装置に帯電した樹脂棒を近づけたところ、出力値が変化してしまっ
た。
【0067】
図7は他の比較例の接合部の断面である。上キャップチップ22の接合材用溝31の
内面と平面部の両方にシリコン酸化膜39がなく、基体のシリコン上にメタライズ層1
6Bが形成されている。またセンサーチップ2の窒化珪素膜35がなく、シリコン層3
6上にメタライズ層16Aが形成されている。
【0068】
この比較例の場合、上キャップチッ22の基体であるシリコンとセンサーチップ2の
シリコン層36が電気的に接続されるものの、ヒートショック試験にて接合材用溝31
のエッジからクラックが進展し、気密封止が破られるという結果となった。ヒートショ
ック試験は、−45〜85℃、20分保持、温度変化時間5分以内、500サイクルの
条件で行った。
【0069】
また、本願発明の他の比較例として、メタライズ層のCr層とNi層の間にCu層(
厚さ0.3μm)挿入した構成で、接合部を形成したところ、センサーチップ2の可動
部とキャップチップとの隙間を2.6μmにすることができた。この比較例でも十分な
エアダンピング効果を得ることができた。このようにCu層を挟むことで接合部の厚さ
を調整することができた。Cu層は膜応力が低く、CrやNiとの密着性もよいため、
接合部厚さ調整層としては好適である。また、接合時の加重と加熱を制御することで、
その接合部の厚さを制御でき、同等の効果を得ることができた。
【0070】
[実施形態2]
本願発明の別の実施形態を図8を用いて説明する。図8は第2の実施形態の上キャッ
プチップ22とセンサーチップ2と下キャップチップ23が接合する前の接合部を示す
断面図である。窒化珪素膜35の開口部41の直下のシリコン層36とシリコン酸化膜
38も除去し、シリコン板37が露出した状態で、メタライズ層16Aを形成した。こ
れによりメタライズ層16Aと支持枠部10のシリコン板37とシリコン層36は同電
位となる。また、錘部11に窒化珪素膜35の開口部41’の直下のシリコン層36と
シリコン酸化膜38も除去し、シリコン板37が露出した状態で、メタライズ層16A
を形成した。これによりメタライズ層16Aと錘部11のシリコン板37とシリコン層
36は同電位となる。上キャップチップ22の構造は実施形態1と同じである。
【0071】
上キャップチップ22も下キャップチップ23と同様に接合材用溝31の内面のメタ
ライズ層16Bを介して、センサーチップ2のシリコン板37と同電位とさせる。この
構造により、上キャップチップ22の基体であるシリコン、センサーチップ2のシリコ
ン層36と支持枠部10および錘部11のシリコン板37、下キャップチップ23の基
体であるシリコンがすべて同電位となる。
【0072】
このようにして作製したMEMS組立体21を用いて、加速度センサー装置1を作製
したところ、外部からの静電気の影響は少なく安定した動作が可能であった。例えば加
速度センサー装置1に帯電した樹脂棒を近づけても、出力変動は殆ど無かった。
【0073】
外部からの静電気の影響を最も受けるのは、樹脂部材29と接する面積の大きい上キ
ャップチップ22である。一方の、下キャップチップ23は樹脂部材29と接する面積
が少ないため、その影響は小さいが、錘部11と、錘部11に対向する下キャップチッ
プ23との隙間が狭い場合、静電引力が強くなり、出力変動が大きくなる。本実施形態
では、錘部11と下キャップチップ23の基体であるシリコンとが同電位であり、その
出力変動を抑えることが可能である。
【0074】
[実施形態3]
本願発明の別の実施形態を図9を用いて説明する。図9は第3の実施形態の上キャッ
プチップ22とセンサーチップ2と下キャップチップ23が接合する前の接合部を示す
断面図である。センサーチップ2の電極パッド24と接合部20にはそれぞれ別個にメ
タライズ層16Aが形成されており、別個の窒化珪素膜の開口部41、41’’にてシ
リコン層36と接している。開口部の直下のシリコン層は互いに高濃度にボロンを添加
した導電層で繋がっており、電極パッド24と接合部20のメタライズ層16Aは電気
的に接続させる。上キャップチップ22の構成は実施形態1と同じである。
【0075】
上キャップチップ22とセンサーチップ2が接合すると、上キャップチップ22の基
体であるシリコンがセンサーチップ2のシリコン層36と同電位となる。このMEMS
組立体を用いて、加速度センサー装置1を作製したところ、外部からの静電気の影響は
少なく安定した動作が可能であった。
【0076】
本実施形態はメタライズ層と接合材との反応速度が速い場合に有効である。例えばメ
タライズ層16のAuは半田濡れ性が良く、接合材であるAu−Sn合金と極めて早く
反応する。実施形態1のように電極パッド24と接合部20のメタライズ層16が繋が
っている場合、上キャップチップ22とセンサーチップ2が接合するときに、電極パッ
ド部24のメタライズ層16のAuまで反応してしまう。この場合、後工程のワイヤー
ボンディングができない不良となってしまう。本実施例では、電極パッド24と接合部
20にはそれぞれ別個にメタライズ層16が形成されるため、電極パッド24のメタラ
イズ層16のAuとAu−Sn合金が反応することはないため、ワイヤーボンディング
の不良を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】MEMS組立体の分解斜視図である。
【図2】加速度センサー装置の半透視斜視図である。
【図3】加速度センサー装置の構造を示す断面図である。
【図4】加速度センサー装置の製造プロセスを説明する図である。
【図5】本願発明の1実施形態のMEMS組立体の構造を示す断面図である。
【図6】比較例の1実施形態のMEMS組立体の構造を示す断面図である。
【図7】比較例の1実施形態のMEMS組立体の構造を示す断面図である。
【図8】本願発明の1実施形態のMEMS組立体の構造を示す断面図である。
【図9】本願発明の1実施形態のMEMS組立体の構造を示す断面図である。
【図10】比較例の接合部の様子を示す断面図である。
【図11】比較例の接合部の様子を示す断面図である。
【図12】比較例の接合部の様子を示す断面図である。
【図13】本願発明の1実施形態の接合部の様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 加速度センサー装置、
2 加速度センサーチップ(センサーチップ)、
2’ 加速度センサー基板(センサー基板)、
10 支持枠部、
11 錘部、
12 梁部、
13 X軸用のピエゾ抵抗素子、14 Y軸用のピエゾ抵抗素子、
15 Z軸用のピエゾ抵抗素子、
16 メタライズ層、
16A 16B 16C 16D メタライズ層、
20 接合部、
21 MEMS組立体、
22 上キャップチップ、22’ 上キャップ基板、
23 下キャップチップ、23’ 下キャップ基板、
24 24’ 電極パッド、
25 回路基板(検出用IC)、
26 配線基板(リードフレーム)、
27 ワイヤー、
28 接合部、
29 樹脂部材、
31 接合材用溝、
32 分離溝、
33 接合部、
34 接合部、
35 窒化珪素膜、
36 シリコン層、
37 シリコン板、
38 シリコン酸化膜(センサーチップ)、
39 シリコン酸化膜(キャップチップ)、
40 接合材、
41 41’ 窒化珪素膜の開口部、
44 Au膜、
45 MEMS組立体基板、
47 フィレット、47’ 形の崩れたフィレット、
48 クラック、49 漏れた接合材、
50 接合部材用溝の中に残ったガス溜り、
61a 上DAF(上ダイアタッチフィルム)、
61b 下DAF(上ダイアタッチフィルム)、
90 ダイシングライン、
90’ ダイシングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板から形成されて可動部を有するMEMSチップと、半導体基板から形成さ
れてMEMSチップの可動部を気密封止する1つ以上のキャップチップとを有するME
MS組立体と、
前記MEMSチップに配線で接続する回路基板と、
前記回路基板と前記MEMS組立体を封止する樹脂部材とを備える半導体センサー装
置であって、
前記キャップチップは、MEMSチップの可動部を取り囲むようにリング状に配設さ
れた接合材と、接合材の内周と外周の位置に形成された接合材用溝と、接合材の下地と
なるメタライズ層と、メタライズ層の下地となる絶縁膜とを備え、
前記メタライズ層は、接合材の直下部と、接合材用溝の内面と、接合材用溝の外側に
外延した面に形成され、
前記絶縁膜は、接合材の直下部と、接合材用溝の外側に外延した面に形成され、接合
材用溝の内面には形成されておらず、
前記MEMSチップは、前記接合材に対置してメタライズ層が形成されており、
前記キャップチップと前記MEMSチップとが、接合材を介して物理的に接続される
とともに、キャップチップと接合材とが、接合材用溝の内で電気的に接続されているこ
とを特徴とする半導体センサー装置。
【請求項2】
回路基板と接続するための電極パッドがMEMSチップに形成されており、電極パッ
ドと接合材とが、MEMSチップの基体である半導体基板に形成された導電性の不純物
添加層を介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体セン
サー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−60541(P2010−60541A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229607(P2008−229607)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(506334171)トレックス・セミコンダクター株式会社 (19)
【Fターム(参考)】