半導体レーザ及びその製造方法
【課題】 高光出力動作における長寿命化が可能な半導体レーザを提供する。
【解決手段】 基板11上に、n型半導体層13、活性層101、およびp型半導体層24がこの順で積層され、活性層101とp型半導体層24との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層31が形成されており、
中間層31は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層31aと、n型不純物がドープされた拡散抑制層31bとが積層されて構成され、p型半導体層24と隣接する側に拡散抑制層31bが配置されており、基板11とn型半導体層13との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層43が形成されている半導体レーザ。
【解決手段】 基板11上に、n型半導体層13、活性層101、およびp型半導体層24がこの順で積層され、活性層101とp型半導体層24との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層31が形成されており、
中間層31は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層31aと、n型不純物がドープされた拡散抑制層31bとが積層されて構成され、p型半導体層24と隣接する側に拡散抑制層31bが配置されており、基板11とn型半導体層13との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層43が形成されている半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の高密度光ディスク用光源として青紫色の光を発するレーザダイオードに対する要望が高まり、特に、青紫光から紫外光に及ぶ短波長領域で動作可能な窒化ガリウム(GaN)系のIII−V族化合物半導体発光素子の研究開発が盛んに行われている。さらに、その光ディスク装置はレコーダーとして高密度・高速記録用が待望されているため、高光出力で信頼性の高いGaN系半導体レーザが必要となっている。
【0003】
最近、GaN系レーザの長寿命化のために、サファイア基板上に成長したGaN系半導体膜上に二酸化珪素(SiO2)などの絶縁膜を部分的に堆積し、この絶縁膜上にGaN系半導体を選択成長し転位密度を低減する手法が採用されている。この選択成長に関しては、非特許文献1がある。非特許文献1によれば、GaNの<1−100>方向にラインアンドスペース状のSiO2膜を周期的に形成することで、SiO2上を横方向(ELO:Epitaxial Lateral Overgrowth)成長したGaN膜が平坦につながり、低転位基板として利用できるようになることが示されている。
【0004】
このELO選択成長技術をレーザに適用した文献として、非特許文献2および非特許文献3がある。非特許文献2によれば、選択成長によりレーザ構造の活性層部分での転位密度を1E10cm−2程度から1E7cm−2程度に低減できることが示されている。さらに、非特許文献4によれば、GaN系レーザの動作電流と動作電圧を低減して消費電力(動作電流と動作電圧の積)を低減することも、レーザの発熱を抑制することに繋がり、長寿命化に有効であることが示されている。
【0005】
GaN系レーザに限らず、一般に半導体レーザの活性層は、キャリア注入のためにp−n接合で挟まれた構造を有している。このため、活性層付近でのp型ドーパントおよびn型ドーパントの制御すなわち界面急峻性が、レーザ特性向上に重要である。なぜなら、上記ドーパントが活性層に拡散すると、非発光再結合中心として作用し、活性層の発光効率が低下することがあるからである。以下、GaN系半導体のp型ドーパントに関して、従来の制御方法について説明する。
【0006】
GaNのp型ドーパントには、一般的にビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)が使用されている。しかしながら、非特許文献5によれば、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いた結晶成長では、p型ドーパントであるMgが所定の結晶以外にまで拡散する問題があることが示されている。さらに、転位密度が多い場合には、この拡散が顕著であることも示されている。また、非特許文献6では、MgがMOVPE装置の反応炉である石英製のリアクターに吸着するメモリー効果について記載されている。この文献によれば、Mgがメモリー効果を有するため、ドーピング遅れが生じ、Mg濃度分布の界面急峻性が悪化することが示されている。
【0007】
その他、従来のMgの拡散制御方法に関しては、特許文献1および特許文献2に記載がある。
【0008】
我々は、GaN系レーザの長寿命化を図るため、上記非特許文献1、2と同様に、ELO選択成長法によりGaN膜の転位密度低減を試みたが、長寿命化の効果は不十分であった。すなわち、転位密度の低減だけでは、GaN系レーザの長寿命化は図れないことが明らかになった。
【非特許文献1】IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,Vol.4 (1998) 483−489
【非特許文献2】Applied Physics Letters, Vol.77 (2000) 1931−1933
【非特許文献3】IEICE Transuction Electron, Vol.E83−C (2000) 529−535
【非特許文献4】Japanese Journal of Applied Physics Vol.40 (2001) 3206−3210
【非特許文献5】Journal of Crystal Growth, Vol.189/190 (1998) 551−555
【非特許文献6】Journal of Crystal Growth, Vol.145 (1994) 214−218
【特許文献1】特開平6−283825号公報
【特許文献2】特開平11−251687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高光出力動作における長寿命化が可能な半導体レーザ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の前記目的は、基板上に、n型半導体層、活性層、およびp型半導体層がこの順で積層され、前記活性層と前記p型半導体層との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層が形成されており、前記中間層は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層と、n型不純物がドープされた拡散抑制層とが積層されて構成され、前記p型半導体層と隣接する側に前記拡散抑制層が配置されており、前記基板とn型半導体層との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層が形成されている半導体レーザにより達成される。
【0011】
この半導体レーザは、例えば、基板上に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層を形成するステップと、前記半導体層上に、n型不純物がドープされたn型半導体層を形成するステップと、前記n型半導体層上に、InGaNからなる井戸層を含む活性層を形成するステップと、前記活性層上に、窒化ガリウム系化合物からなる中間層を形成するステップと、前記中間層上に、p型不純物がドープされたp型半導体層を形成するステップとを備え、前記中間層を形成するステップは、不純物をドープせずに窒化ガリウム系化合物半導体層を成長させることにより、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層を形成するステップと、前記窒化ガリウム系化合物半導体層の成長途中にn型不純物のドープを開始して拡散抑制層を形成するステップとを含む半導体レーザの製造方法により作製される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高光出力動作における長寿命化が可能な半導体レーザ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。図1に示すように、レーザウエハは、サファイア基板11上に、n型コンタクト層12、n型クラッド層13、第1の光ガイド層14、多重量子井戸活性層101、中間層21、キャップ層22、第2の光ガイド層23、p型クラッド層24およびp型コンタクト層25が順次積層されており、n型不純物がドープされたn型半導体層とp型不純物がドープされたp型半導体層との間に、活性層が挟持された構成となっている。p型不純物は、電気的活性化率が高いことが好ましく、本実施形態ではMgとしている。また、n型不純物は、電気伝導制御性が良好であることが好ましく、本実施形態ではSiとしている。
【0015】
多重量子井戸活性層101は、図2に示すように、光ガイド層14に近い方から順番に、第1のGaNバリア層15、第1のIn0.1Ga0.9N量子井戸16、第2のGaNバリア層17、第2のIn0.1Ga0.9N量子井戸18、第3のGaNバリア層19、および第3のIn0.1Ga0.9N量子井戸20が積層されて構成されている。
【0016】
このレーザウエハは、以下の方法により製造することができる。まず、(0001)面を主面とするサファイア基板11に対して、酸溶液を用いて洗浄を行なう。その後、洗浄した基板11をMOVPE装置(図示せず)の反応炉内のサセプタに保持し、反応炉を真空排気する。続いて、反応炉内を圧力が300Torr(1Torr=133.322Pa)の水素雰囲気として、温度を約1100℃にまで昇温して基板11を加熱し、表面のサーマルクリーニングを約10分間行う。
【0017】
次に、反応炉を約500℃にまで降温した後、基板11の主面上に、供給量7sccmのトリメチルガリウム(TMG)と、供給量が7.5slmのアンモニア(NH3)ガスと、キャリアガスとして水素とを同時に供給することにより、厚さが20nmのGaNよりなる低温バッファ層(図示せず)を成長する。続いて、反応炉を約1000℃にまで昇温し、n型ドーパントとしてシラン(SiH4)ガスを更に供給して、厚さが約4μmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなるn型コンタクト層12を成長する。次に、トリメチルアルミニウム(TMA)を更に供給しながら、厚さが約0.7μmでSi不純物濃度が約5E17cm−3のn型Al0.07Ga0.93Nよりなるn型クラッド層13を成長する。続いて、厚さが約120nmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなる第1の光ガイド層14を成長する。
【0018】
この後、温度を約800℃にまで降温し、キャリアガスを水素から窒素に変更し、トリメチルインジウム(TMI)とTMGを供給して、図2に示すように、それぞれ厚さが約3nmのIn0.1Ga0.9Nよりなる量子井戸16,18,20(3層)と、それぞれ厚さが約9nmのGaNよりなるバリア層15,17,19(3層)とからなる多重量子井戸活性層101を成長する。この際、活性層101の発光効率を向上させるために、バリア層の成長時にSiH4ガスも供給して、バリア層のみにSi不純物濃度が2E18cm−3程度のSiをドーピングしている。
【0019】
続いて、厚さが約15nm(0.015μm)のGaNよりなる中間層21を成長する。本実施形態では、この中間層21は、意図的に不純物を添加しない実質的なアンドープ層とする。
【0020】
その後、再び反応炉内の温度を約1000℃にまで昇温し、キャリアガスを窒素から水素に戻して、p型ドーパントであるCp2Mgガスを供給しながら、厚さが約20nmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型Al0.18Ga0.82Nよりなるキャップ層22を成長する。次に、厚さが約120nmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型GaNよりなる第2の光ガイド層23を成長する。続いて、厚さが約0.5μmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型Al0.07Ga0.93Nよりなるp型クラッド層24を成長する。最後に、厚さが約0.05μmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型GaNよりなるp型コンタクト層25を成長する。こうして、p型半導体層とn型半導体層との間に中間層21および活性層101が挟持されたレーザウエハが完成する。
【0021】
次に、図1及び図2に示すレーザウエハを用いて、図3に示す半導体レーザを作製する方法を説明する。
【0022】
まず、レーザウエハに対してp型半導体層の活性化加熱処理を行う。その後、ウエハ表面に二酸化珪素(SiO2)よりなる絶縁膜を堆積させる。続いて、この絶縁膜上にレジスト膜を堆積させ、フォトリソグラフィー法によりp型コンタクト層25のリッジ形成位置(リッジ幅:約2μm)のみにレジスト膜を残す。この後、レジスト膜をエッチングマスクとして、レジスト除去部の絶縁膜をフッ酸溶液で除去しp型コンタクト層25を露出させる。続いて、リッジ形成位置以外のp型コンタクト層25とp型クラッド層24の一部とをドライエッチング装置でエッチングし、p型半導体層の残し膜厚を0.1μm程度にする。その後、アセトンなどの有機溶液により、リッジ上のレジスト膜を除去する。
【0023】
次に、n型電極の形成位置以外をSiO2よりなる絶縁膜で覆い、ドライエッチングでn型コンタクト層12を露出させる。そして、p側とn側の電気的分離を行うため、表面にSiO2からなる絶縁膜26を形成した後、リッジ位置のp型コンタクト層25上の絶縁膜をフッ酸溶液で除去する。この後、露出したn型コンタクト層12上に、チタン(Ti)およびアルミニウム(Al)の蒸着によりn型電極27を形成し、露出したp型コンタクト層25上に、ニッケル(Ni)、白金(Pt)および金(Au)の蒸着によりp型電極28を形成する。こうして、図3に示す半導体レーザが得られる。
【0024】
続いて、レーザ共振器端面のへき開工程を行う。まず、サファイア基板11の裏面側から研磨して、総膜厚が100μm程度となるように薄膜化する。その後、共振器端面がサファイア基板の<1−100>方向となるように、基板11をへき開装置(図示せず)でバー状にへき開する。尚、本実施形態ではレーザ共振器長を750μmとした。そして、レーザ共振器の後端面に、3対のSiO2および二酸化チタン(TiO2)の積層体で構成される誘電体多層膜を堆積させ、高反射膜コートとする。
【0025】
最後に、劈開されたバーに対して2次へき開を行い、レーザチップに分離して、レーザキャンにpサイドダウンで実装する。この実装時は、レーザチップを炭化珪素(SiC)からなるサブマウントに半田を介して行う。こうして、半導体レーザ素子を作製することができる。
【0026】
本実施形態に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は、図4に示すように、それぞれ60mA、0.8W/Aであった。
【0027】
また、光出力30mWにおける消費電力(動作電流と動作電圧の積)が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温において30mWの高光出力での一定光出力(APC:Automatic Power Control)による寿命試験を実施した結果を図5に示す。レーザ素子での劣化率(動作電流の増加率)は1時間当たり0.9mA程度であり、約100時間の寿命時間(動作電流が初期電流の2倍になるまでの時間)を確認した。
【0028】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【0029】
比較例
第1の実施形態に係る半導体レーザの比較例として、中間層21にSiをドーピングしてn型GaN層とする他は第1の実施形態と同様の方法により半導体レーザを作製し、Mgの活性層内への拡散状態を比較検討した。n型GaN層からなる中間層のSi不純物濃度は、バリア層と同程度の約2E18cm−3とした。
【0030】
比較例における結晶成長後のレーザウエハに対して、2次イオン質量分析(SIMS)法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図6に示す。
【0031】
図6から、Mgが活性層内に(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)広く拡散している様子がわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸16では約4E17cm−3、第2の量子井戸18では約2E18cm−3、第3の量子井戸20では約1E19cm−3であった。後述するように、第1の実施形態に係るレーザウエハについての測定結果と比較すると、第2の量子井戸18で約10倍、第3の量子井戸20で約4倍のMgが活性層内に拡散していることがわかる。すなわち、第1の実施形態におけるアンドープGaN中間層21に、n型不純物であるSiをドープする(即ち、n型GaN中間層とする)ことにより、Mgの拡散が促進される。
【0032】
この現象は、従来文献「Journal of Applied Physics, Vol.66 (1989) 605−610」を参考にすると以下のように解釈できる。拡散するMg原子は、格子間位置に存在するために容易に拡散し、拡散により置換型位置に存在するSiと出会うと、ドナー・アクセプター相互作用(クーロン相互作用)によりMgSiからなる電気的に中性で安定な複合体を形成する。このため、MgはSiがドープされている領域を容易に拡散するものと思われる。活性層は、バリア層においてSiがドープされているので、比較例のように中間層にSiがドープされていることにより、Mgが活性層中央付近にまで広く拡散したものと推測される。
【0033】
比較例に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々75mA、0.5W/Aであった。上述した第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の測定結果と比較すると、閾値電流およびスロープ効率ともに悪化している。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散により低下したことに起因しているものと思われる。このことを確認するため、本発明者らは以下の実験を行った。
【0034】
本実験においては、第1の実施形態におけるレーザウエハの製造工程において、活性層成長時に意図的にMgをドーピングした半導体レーザ素子(試料A)と、ドーピングしない半導体レーザ素子(試料B)とを作製した。更に、レーザウエハの製造工程において、活性層をSiドープGaN層により形成し、且つ、活性層成長時に意図的にMgをドーピングする他は、第1の実施形態と同様の方法により、半導体レーザ素子(試料C)を作製した。試料A及び試料CのMg不純物濃度は約1E19cm−3とした。
【0035】
そして、上記試料A〜試料Cのフォトルミネッセンス(PL)を測定した。PL測定は、活性層を選択的に光励起して室温で実施した。この結果を図7に示す。但し、試料Aおよび試料Cについては、PL強度を250倍にして表示している。
【0036】
図7に示すように、Mgをドーピングしない試料Bでは、PLピーク波長は約400nmであったが、Mgをドーピングした試料Aでは約435nmと約550nmの2ピークに分離して、その半値幅も広くなっている。この現象は、活性層にMgをドーピングすることにより、InGaN量子井戸内に深い準位が形成され、それが非発光再結合中心になっているものと思われる。また、InGaNの相分離を促し、量子井戸の界面急峻性を低下させている可能性もある。
【0037】
深い準位からの発光(550nm)の各PL強度をピーク強度で規格化した値(規格化強度)は、Mgをドーピングしない試料Bが、13600(550nm)/1300000(400nm)=1.1E−2であるのに対し、Mgをドーピングした試料Aは、1045000(550nm)/433200(430nm)=2.4であった。即ち、試料Aは、Mgをドーピングすることにより深い準位からの発光確率が高くなり、活性層の発光効率が低下していることがわかった。
【0038】
一方、SiドープGaN層からなる活性層にMgをドーピングした試料Cについては、上記規格化強度が、12(550nm)/16200(360nm)=7.4E−4であり、Mgをドーピングしない試料Bよりも低い値であった。このように、Mgのドーピングにより深い準位の規格化強度が高くなることで発光効率が低下するという問題は、活性層にInGaN量子井戸を含むレーザ素子に特有の問題である。従来は、GaN系発光素子の長寿命化対策として、転位密度低減と消費電力低減が唯一の手段と認知されていたが、活性層内の不純物濃度を制御することも重要な要素であることを今回初めて見出した意義は非常に大きい。
【0039】
ところで、試料Cは特開平6−283825号公報に開示された窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの活性層にMgを添加した半導体レーザダイオードと同一である。特開平6−283825号公報では、Mgの拡散に関する問題について言及されているものの、活性層にはSiをドープしたGaNが用いられている。我々の上記実験から明らかなように、特開平6−283825号公報では、SiをドープしたGaNからなる活性層にMgが拡散したとしても、図7に示されるように、約400nmの波長から見て短波長側である約360nmの波長においてPL強度がピークとなる。
【0040】
一方、我々は、InGaNからなる活性層にMgが拡散した場合、試料AのようにPL強度のピークが長波長側の550nm付近に移動し、結果として発光色が黄色となってしまうという課題に着目している。特開平6−283825号公報においては、約400nmの波長から見てPL強度のピークが長波長側に移動し、発光色が黄色となってしまうということは見出されていない。従って、一見したところ本発明と特開平6−283825号公報とは類似しているように見えるが、解決しようとする課題が全く異なる。なお、特開平6−283825号公報において、活性層にInを含んでよいという示唆はない。
【0041】
また、比較例の半導体レーザ素子について、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のものを選別して、室温において30mWの高光出力での一定光出力(APC)寿命試験を実施した結果を図8に示す。
【0042】
図8に示す測定結果を、消費電力が同じ場合の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の測定結果(図5参照)と比較すると、比較例のレーザ素子の劣化率は、第1の実施形態のレーザ素子に比べて10倍程度(1時間当たり9mA程度)であり、急速に劣化が進行することがわかった。すなわち、比較例のレーザ素子は、転位密度は第1の実施形態のものと同程度(約1E10cm−2)であるが、活性層内のMg拡散状態が異なるために、寿命時間に差異が生じていることが明確になった。
【0043】
尚、測定結果を比較する際に消費電力を同じにしたのは、GaN系レーザの寿命時間が消費電力に大きく依存するために、同程度の消費電力でレーザ素子を比較しないと、活性層内のMg拡散状態と寿命時間との相関関係が明確にならないためである。
【0044】
中間層厚みの検討
次に、本実施形態の半導体レーザにおける中間層21の好ましい厚みについて検討する。本実施形態においては、p型半導体層と活性層との間にアンドープ層である中間層21が設けられているので、中間層21の厚みが大きすぎる場合には、p型半導体層から活性層に正孔が効率よく注入されない。そこで、サファイア基板上に、上記と同様にしてn型GaN層及びp型GaN層を積層することによりp−n接合デバイスを作製し、n型GaN層中の正孔の拡散長を評価した。そして、このデバイスをへき開し、pn接合部分を露出させた後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた電子線励起電流法(EBIC)により、へき開されたデバイス断面のp−n接合部分を観察した。その結果、n型GaN層中の正孔の拡散長は、0.2μm程度であった。III−V族窒化物半導体の場合は、他の化合物半導体と比較して電気伝導に寄与する正孔の有効質量が大きいため、その拡散長は0.2μm程度以下と非常に小さな値である。
【0045】
このような実験結果から、活性層に効率良く電気的に正孔を注入するためには、中間層21の厚みを正孔の拡散長(本実施形態においては0.2μm)よりも小さくすべきであることが明らかになった。
【0046】
一方、中間層21の厚みが小さすぎる場合には、p型ドーパントが中間層21を通過して活性層に拡散する。一例として、中間層21の厚みが15nmの場合において、SIMS法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図9に示す。Mgが活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)に拡散している様子がわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸16では約1E17cm−3、第2の量子井戸18では約2E17cm−3、第3の量子井戸20では約3E18cm−3である。
【0047】
更に詳細な検討を行うため、中間層21が種々の厚みのレーザ素子を作製して、以下の実験を行った。一例として、中間層21の厚みが60nmのレーザウエハについて、SIMS法を用いて、Mgの活性層への拡散状態を評価した結果を図10に示す。
【0048】
図10に示す結果(中間層厚み:60nm)を、図9に示す結果(中間層厚み:15nm)と比較すると、中間層21の厚みを大きくすることで、Mgの活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)への拡散が抑制されている様子がわかる。具体的に、拡散したMg濃度は、第1から第3の量子井戸にかけて約1E17cm−3(検出限界程度)である。
【0049】
このように、中間層21の厚みを増加させることにより、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層と活性層との距離が増加するため、活性層内へのMg拡散が抑制される。
【0050】
この中間層厚みが60nmのレーザウエハから作製した半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。また、閾値電流およびスロープ効率は50mA、1.0W/Aであり、中間層厚みが15nmの場合に比べていずれも良好であった。尚、中間層厚みが30nmのレーザ素子についても同様の測定をしたところ、閾値電流およびスロープ効率は55mA、0.9W/Aであり、中間層厚みが15nmの場合に比べていずれも良好であった。この結果は、中間層厚みの増加によりMgの拡散が低減され、活性層の発光効率が向上したためと考えられる。
【0051】
消費電力が0.6W程度の各レーザ素子における光出力30mWのAPC寿命試験では、中間層厚みが30nmのレーザ素子で110時間、中間層厚みが60nmのレーザ素子で125時間程度の寿命時間であった。中間層厚みが15nmのレーザ素子は、上述したように寿命時間が100時間であるため、中間層厚みの増加と共に寿命時間も増加しているものの、顕著な寿命改善が図れなかった。この要因を明らかにするため、中間層厚みが60nmのレーザ素子について、APC寿命試験後のレーザ素子においてSIMS分析を実施した。この結果を図11に示す。
【0052】
図11から、APC寿命試験前のSIMS結果(図10)と比較して、寿命試験によって活性層中にMgが顕著に拡散している様子がわかる。この現象は、転位密度が多い(約1E10cm−2)ために、寿命試験中にpn接合での発熱および内部電界の作用により、p型ドーパントであるMgが転位を介して活性層内に拡散したことに起因すると思われる。
【0053】
ところが、中間層21の厚みが更に増加すると、寿命時間が急激に改善されることがわかった。中間層21が種々の厚みのレーザ素子に対してAPC寿命試験を行った結果を図12示す。中間層の厚みが約100nmまでは、中間層厚みの増加と共に寿命時間も改善されているが、中間層厚みが約100nmを超えると寿命時間が徐々に低下していることがわかる。中間層厚みを200nm(0.2μm)としたレーザ素子も作製したが、室温連続発振には到らなかった。これは、中間層厚みが正孔の拡散長(0.2μm)程度であるため、活性層への正孔の注入効率が大幅に低下したためと推測される。
【0054】
この結果から、中間層21の厚みは、15nm以上180nm以下であることが好ましく、60nm以上160nm以下であることがより好ましく、80nm以上130nm以下であることが更に好ましい。
【0055】
次に、各レーザ素子の発光状態を観察するために、電流注入によりリッジストライプに沿って発光するエレクトロルミネッセンス(EL)光を、電荷結合デバイス(CCD)カメラによりサファイア基板の裏面から観察した。中間層厚みが15nmのレーザ素子では、EL光強度の弱い領域(発光むら)が多数生じているが、中間層厚みが30nm,60nmのレーザ素子では、EL光が均一に改善されていることを確認した。このような発光むらに関する以前の報告例として、第7の文献「第48回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集No.1 28p−E−12 p.369」があるが、この文献によると、発光むらは活性層上に存在するp型AlGaNキャップ層が活性層に大きな歪を生じさせているためと報告している。しかしながら、我々の検討においては、活性層内へのMg拡散が発光むらの主原因であることを初めて見出した。発光むらの低減は、ウエハー面内でのレーザ素子の歩留り向上、ひいては低コスト化に大きく貢献するため、製造面においてもこの現象を見出した意義は非常に大きい。
【0056】
また、中間層厚みが60nmのレーザ素子について、APC寿命試験前後のEL発光像を比較したところ、寿命試験前においても貫通転位に起因すると思われる暗点が多数観察されたが、寿命試験後ではその暗点がより暗くなる(拡大する)傾向が見られた。この現象は、前述したように、寿命試験中にMgが貫通転位を介して活性層内に拡散するために、転位周辺の領域で活性層の発光効率が低下したものと推測される。
【0057】
(第2の実施形態)
図13は、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。第2の実施形態に係るレーザウエハは、図1に示す第1の実施形態に係るレーザウエハにおいて、アンドープ層からなる中間層21を2層構造からなる新たな中間層31とする他は、同様の構成としている。したがって、第1の実施形態に係る半導体レーザ素子と同じ構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0058】
本実施形態のレーザウエハにおける中間層31は、活性層101とキャップ層22との間に形成された厚さ60nmのGaN層であり、厚さ15nmのアンドープ層31aと、厚さ45nmの拡散抑制層31bとが積層された構成となっている。拡散抑制層31bは、例えばSi不純物濃度が3E19cm−3程度の層であり、キャップ層22に隣接している。
【0059】
このレーザウエハは、基本的には第1の実施形態と同様の方法で作製することができるが、中間層31の形成時においては、GaN層の成長中にSiH4ガスの供給量を変化させ、中間層31の膜厚内でSi不純物濃度が厚さ方向に不均一になるようにしている。具体的には、中間層31の成長開始後、厚さ約15nmはアンドープとし、残りの厚さ約45nmについてはSiH4ガスを供給してn型GaN層となるように成長する。
【0060】
結晶成長が終了したレーザウエハにおいて、SIMS法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図14に示す。Mgのドーピングを開始したp型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22の直下に本実施形態の中間層31が存在することにより、Mgの活性層内への拡散が大幅に抑制できていることがわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸26、第2の量子井戸28および第3の量子井戸30で、ともに約1E17cm−3(検出限界程度)である。
【0061】
この測定結果を、第1の実施形態において、アンドープ中間層21の厚みが本実施形態の中間層31全体の厚みと同程度(約60nm)である場合(図10参照)と比較すると、中間層内でのMg濃度は本実施形態の方が多いにも拘わらず、活性層内のMg濃度は同程度であることがわかる。このような現象は、以下のように考察することができる。
【0062】
拡散するMg原子は格子間位置に存在するために容易に拡散し、拡散により置換型位置に存在するSiと出会うと、ドナー・アクセプター相互作用(クーロン相互作用)により、MgSiからなる電気的に中性で安定な複合体を形成する。このため、MgはSiがドープされている領域に拡散し、その位置で安定化するものと思われる。本実施形態の場合は、中間層31の成長後半である厚さ約45nmの領域が、3E19cm−3程度の濃度でSiがドープされた拡散抑制層31bであるため、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22との界面でMgの集積(パイルアップ)が発生する。このため、拡散するMgは上記界面に集中することで、活性層内へのMgの拡散が顕著に抑制される。さらに、中間層31の成長前半である厚さ約15nmの領域がアンドープ層31aであるため、中間層31の成長後半でドープしたSiが、第3の量子井戸20に拡散することが抑制される。
【0063】
本実施形態に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々45mA、1.2W/Aであり、良好な結果が得られた。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散抑制により向上したことに起因すると思われる。
【0064】
また、上記第1の実施形態と同様に、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温における30mWのAPC寿命試験を実施した結果を図15に示す。レーザ素子の劣化率は1時間当たり0.3mA程度であり、寿命時間として250時間を確認した。
【0065】
この結果を、第1の実施形態において、アンドープ中間層21の厚みが本実施形態の中間層31全体の厚みと同程度(約60nm)である場合と比較すると、上述したように第1の実施形態に係るレーザ素子では寿命時間が125時間程度であり、本実施形態に係るレーザ素子は、より長寿命化を図ることができることを確認した。
【0066】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【0067】
中間層におけるSi濃度の検討
次に、中間層31の拡散抑制層31bにおける好ましいSi濃度について検討する。本実施形態において、中間層31のSi濃度がそれぞれ異なる3種類のレーザウエハを作製した(試料D〜試料F)。各レーザウエハにおける拡散抑制層31bのSi濃度は、試料Dが約5E17cm−3、試料Eが約2E18cm−3、試料Fが約1E19cm−3(試料F)とした。尚、約2E18cm−3のSi濃度は、活性層のバリア層のSi濃度と同程度であり、約1E19cm−3のSi濃度は、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層のMg濃度と同程度である。
【0068】
試料D〜試料Fに対して、SIMS法を用いて、Mgの活性層への拡散状態を評価した結果を図16に示す。全てのレーザウエハにおいて、Mgが活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)に拡散している様子がわがる。ただし、Mg拡散の程度は、試料Eが最も顕著であり、次いで試料D、試料Fの順番で拡散が抑制されていることがわかる。特に、試料Fでは、Mgの集積(パイルアップ)が発生しており、Mg拡散を有効に防止できていることがわがる。
【0069】
以上の結果などから、中間層31における拡散抑制層31bのSi濃度を、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22のMg濃度(即ち、本実施形態の場合は約1E19cm−3)と同程度以上にすることで、Mg拡散の抑制が顕著になることが明らかになった。窒化物系III−V族化合物半導体の場合、一般的にp型不純物をドーピングしても、その電気的活性化率が数%程度であるため、p型半導体層の電気伝導率は低くなる傾向がある。p型半導体層の電気伝導率を向上させるには電気伝導に寄与する正孔濃度が1E18cm−3程度必要であるため、電気的活性化率を考慮してp型不純物を1E19cm−3程度以上に多量にドーピングする必要がある。この場合、拡散抑制層31bのn型不純物濃度を少なくとも1E19cm−3以上に制御することで、p型半導体層からのp型不純物の拡散を効果的に抑制することができる。尚、拡散抑制層31bのSi濃度の上限については実用的な範囲で定めればよく、例えば6E19cm−3程度である。
【0070】
中間層を構成する各層厚みの検討
本実施形態では、中間層31(総厚み:60nm)におけるアンドープ層31aの厚みを15nmとし、拡散抑制層31bの厚みを45nmとしたが、アンドープ層31aの厚みに対する拡散抑制層31bの厚みの比を適宜変更して、種々のレーザウエハについて上述したようにMgの活性層への拡散を評価した。尚、拡散抑制層31bのSi濃度は約1E19cm−3とした。
【0071】
この結果、アンドープ層31aの厚みを1としたときに、拡散抑制層31bの厚みが1/11以上11以下である範囲において、Mg拡散を効果的に抑制することができ、1/3以上3以下の範囲において、より顕著な抑制効果を得ることができた。ただし、中間層31の総厚みは、正孔の拡散長以下であることが好ましく、具体的には第1の実施形態と同様に15nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0072】
(第3の実施形態)
図17は、本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。第3の実施形態に係る半導体レーザは、図13に示す第2の実施形態に係る半導体レーザにおいて、基板11上に第1のGaN層41が形成され、この第1のGaN層41上にストライプ状の絶縁パターン42が形成されており、この絶縁パターン42を埋めるように第1のGaN層41上に第2のGaN層43がELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法により形成されている。そして、第2のGaN層43上にn型コンタクト層12が形成されている。その他の構成については第2の実施形態に係る半導体レーザ素子と同じであるので、同様の構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。尚、本実施形態においては、n型コンタクト層12の厚みを約2μmとしている。
【0073】
本実施形態の半導体レーザは、基本的には第2の実施形態と同様の方法で製造することができるが、第2のGaN層43をELO法により形成する方法をメインに、図18を参照しながら以下説明する。
【0074】
まず、基板11上に低温バッファ層(図示せず)を成長した後、反応炉を約1000℃にまで昇温し、厚さが約1μmの第1のGaN層41を成長する(図18(a))。この後、基板11を反応炉から取り出し、第1のGaN層41上に選択成長用の絶縁膜Iを形成する(図18(b))。絶縁膜Iは二酸化珪素(SiO2)とし、プラズマCVD装置で100nm程度堆積させる。
【0075】
続いて、絶縁膜I上にレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィー法により、ラインアンドスペース状のレジストパターンRを形成する(図18(c))。ここで、レジストパターン幅(Ws):レジスト除去幅(Wl)=15μm:3μmとしている。ただし、このストライプ方向は、第1のGaN層41の<1−100>方向である。この後、レジストパターンRをエッチングマスクとして、レジスト除去部の絶縁膜Iをフッ酸溶液で除去し、第1のGaN層41を露出させる。続いて、アセトンなどの有機溶液によりレジストパターンRを除去する。こうして、第1のGaN層41上に絶縁パターン42が形成される(図18(d))。
【0076】
この後、基板11をMOVPE装置の反応炉内のサセプタに再び保持し、反応炉を真空排気する。続いて、反応炉内を圧力が200Torrの水素雰囲気とし、温度を約1000℃にまで昇温して、供給量7sccmのトリメチルガリウム(TMG)と、供給量が7.5slmのアンモニア(NH3)ガスと、キャリアガスとして水素とを同時に供給することにより、第2のGaN層43をELO選択成長する。第2のGaN層43は、選択成長初期には絶縁パターン42の間で成長するが(図18(e))、成長が進行すると絶縁パターン42の上方において横方向成長し(図18(f))、やがて表面が平坦化する(図18(g))。
【0077】
第2のGaN層43の貫通転位密度を平面透過電子顕微鏡(TEM)で評価したところ、隣接する絶縁パターン42間では約1E10cm−2であるのに対し、絶縁パターン42上方のELO部分においては約5E8cm−2となり、ELO選択成長により転位密度が1/20程度に低減できることがわかった。
【0078】
レーザ構造の結晶成長においては、厚さ約5μmの第2のGaN層43上に、n型ドーパントとしてシラン(SiH4)ガスも供給して、厚さが約2μmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなるn型コンタクト層12を成長する。この後は、第2の実施形態と同様の方法により、図17に示すレーザウエハを作製することができる。
【0079】
また、このレーザウエハから半導体レーザ素子を作製するレーザ加工プロセスは、第1の実施形態と同様である。但し、p型コンタクト層25のリッジは、絶縁パターン42直上の低転位密度部分に形成する。
【0080】
本実施形態に係るレーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々35mA、1.4W/Aであり、良好な結果が得られた。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散抑制により向上したことに加え、活性層領域の転位密度が低減されていることに起因すると考えられる。つまり、活性層内の転位密度低減により、非発光再結合中心が減少し、発光効率が向上したためである。
【0081】
また、上記第1の実施形態と同様、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温における30mWのAPC寿命試験を実施した結果を図19に示す。レーザ素子の劣化率は1時間当たり0.03mA程度であり、寿命時間が1000時間以上の安定動作を確認し、劣化進行を大幅に抑制できた。即ち、GaN系発光素子の長寿命化対策として転位密度を低減することが重要であるが、このような長寿命化の効果は、第1及び第2の実施形態に係るレーザ素子のような活性層内の不純物濃度を制御できる構成と組み合わせることで、より顕著なものとなる。
【0082】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図2】図1の部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の電流に対する光出力の変化を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図6】比較例に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図7】波長に対するフォトルミネッセンス(PL)の変化を示す図である。
【図8】比較例に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る他のレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る上記他のレーザウエハについて、寿命試験後の活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る中間層の厚みと寿命時間との関係を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る他のレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図18】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザの製造方法を示す工程図である。
【図19】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
11 基板
13 n型半導体層
24 p型半導体層
31 中間層
31a アンドープ層
31b 拡散抑制層
41 第1のGaN層
43 第2のGaN層
101 活性層
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の高密度光ディスク用光源として青紫色の光を発するレーザダイオードに対する要望が高まり、特に、青紫光から紫外光に及ぶ短波長領域で動作可能な窒化ガリウム(GaN)系のIII−V族化合物半導体発光素子の研究開発が盛んに行われている。さらに、その光ディスク装置はレコーダーとして高密度・高速記録用が待望されているため、高光出力で信頼性の高いGaN系半導体レーザが必要となっている。
【0003】
最近、GaN系レーザの長寿命化のために、サファイア基板上に成長したGaN系半導体膜上に二酸化珪素(SiO2)などの絶縁膜を部分的に堆積し、この絶縁膜上にGaN系半導体を選択成長し転位密度を低減する手法が採用されている。この選択成長に関しては、非特許文献1がある。非特許文献1によれば、GaNの<1−100>方向にラインアンドスペース状のSiO2膜を周期的に形成することで、SiO2上を横方向(ELO:Epitaxial Lateral Overgrowth)成長したGaN膜が平坦につながり、低転位基板として利用できるようになることが示されている。
【0004】
このELO選択成長技術をレーザに適用した文献として、非特許文献2および非特許文献3がある。非特許文献2によれば、選択成長によりレーザ構造の活性層部分での転位密度を1E10cm−2程度から1E7cm−2程度に低減できることが示されている。さらに、非特許文献4によれば、GaN系レーザの動作電流と動作電圧を低減して消費電力(動作電流と動作電圧の積)を低減することも、レーザの発熱を抑制することに繋がり、長寿命化に有効であることが示されている。
【0005】
GaN系レーザに限らず、一般に半導体レーザの活性層は、キャリア注入のためにp−n接合で挟まれた構造を有している。このため、活性層付近でのp型ドーパントおよびn型ドーパントの制御すなわち界面急峻性が、レーザ特性向上に重要である。なぜなら、上記ドーパントが活性層に拡散すると、非発光再結合中心として作用し、活性層の発光効率が低下することがあるからである。以下、GaN系半導体のp型ドーパントに関して、従来の制御方法について説明する。
【0006】
GaNのp型ドーパントには、一般的にビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)が使用されている。しかしながら、非特許文献5によれば、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いた結晶成長では、p型ドーパントであるMgが所定の結晶以外にまで拡散する問題があることが示されている。さらに、転位密度が多い場合には、この拡散が顕著であることも示されている。また、非特許文献6では、MgがMOVPE装置の反応炉である石英製のリアクターに吸着するメモリー効果について記載されている。この文献によれば、Mgがメモリー効果を有するため、ドーピング遅れが生じ、Mg濃度分布の界面急峻性が悪化することが示されている。
【0007】
その他、従来のMgの拡散制御方法に関しては、特許文献1および特許文献2に記載がある。
【0008】
我々は、GaN系レーザの長寿命化を図るため、上記非特許文献1、2と同様に、ELO選択成長法によりGaN膜の転位密度低減を試みたが、長寿命化の効果は不十分であった。すなわち、転位密度の低減だけでは、GaN系レーザの長寿命化は図れないことが明らかになった。
【非特許文献1】IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,Vol.4 (1998) 483−489
【非特許文献2】Applied Physics Letters, Vol.77 (2000) 1931−1933
【非特許文献3】IEICE Transuction Electron, Vol.E83−C (2000) 529−535
【非特許文献4】Japanese Journal of Applied Physics Vol.40 (2001) 3206−3210
【非特許文献5】Journal of Crystal Growth, Vol.189/190 (1998) 551−555
【非特許文献6】Journal of Crystal Growth, Vol.145 (1994) 214−218
【特許文献1】特開平6−283825号公報
【特許文献2】特開平11−251687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高光出力動作における長寿命化が可能な半導体レーザ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の前記目的は、基板上に、n型半導体層、活性層、およびp型半導体層がこの順で積層され、前記活性層と前記p型半導体層との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層が形成されており、前記中間層は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層と、n型不純物がドープされた拡散抑制層とが積層されて構成され、前記p型半導体層と隣接する側に前記拡散抑制層が配置されており、前記基板とn型半導体層との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層が形成されている半導体レーザにより達成される。
【0011】
この半導体レーザは、例えば、基板上に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層を形成するステップと、前記半導体層上に、n型不純物がドープされたn型半導体層を形成するステップと、前記n型半導体層上に、InGaNからなる井戸層を含む活性層を形成するステップと、前記活性層上に、窒化ガリウム系化合物からなる中間層を形成するステップと、前記中間層上に、p型不純物がドープされたp型半導体層を形成するステップとを備え、前記中間層を形成するステップは、不純物をドープせずに窒化ガリウム系化合物半導体層を成長させることにより、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層を形成するステップと、前記窒化ガリウム系化合物半導体層の成長途中にn型不純物のドープを開始して拡散抑制層を形成するステップとを含む半導体レーザの製造方法により作製される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高光出力動作における長寿命化が可能な半導体レーザ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。図1に示すように、レーザウエハは、サファイア基板11上に、n型コンタクト層12、n型クラッド層13、第1の光ガイド層14、多重量子井戸活性層101、中間層21、キャップ層22、第2の光ガイド層23、p型クラッド層24およびp型コンタクト層25が順次積層されており、n型不純物がドープされたn型半導体層とp型不純物がドープされたp型半導体層との間に、活性層が挟持された構成となっている。p型不純物は、電気的活性化率が高いことが好ましく、本実施形態ではMgとしている。また、n型不純物は、電気伝導制御性が良好であることが好ましく、本実施形態ではSiとしている。
【0015】
多重量子井戸活性層101は、図2に示すように、光ガイド層14に近い方から順番に、第1のGaNバリア層15、第1のIn0.1Ga0.9N量子井戸16、第2のGaNバリア層17、第2のIn0.1Ga0.9N量子井戸18、第3のGaNバリア層19、および第3のIn0.1Ga0.9N量子井戸20が積層されて構成されている。
【0016】
このレーザウエハは、以下の方法により製造することができる。まず、(0001)面を主面とするサファイア基板11に対して、酸溶液を用いて洗浄を行なう。その後、洗浄した基板11をMOVPE装置(図示せず)の反応炉内のサセプタに保持し、反応炉を真空排気する。続いて、反応炉内を圧力が300Torr(1Torr=133.322Pa)の水素雰囲気として、温度を約1100℃にまで昇温して基板11を加熱し、表面のサーマルクリーニングを約10分間行う。
【0017】
次に、反応炉を約500℃にまで降温した後、基板11の主面上に、供給量7sccmのトリメチルガリウム(TMG)と、供給量が7.5slmのアンモニア(NH3)ガスと、キャリアガスとして水素とを同時に供給することにより、厚さが20nmのGaNよりなる低温バッファ層(図示せず)を成長する。続いて、反応炉を約1000℃にまで昇温し、n型ドーパントとしてシラン(SiH4)ガスを更に供給して、厚さが約4μmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなるn型コンタクト層12を成長する。次に、トリメチルアルミニウム(TMA)を更に供給しながら、厚さが約0.7μmでSi不純物濃度が約5E17cm−3のn型Al0.07Ga0.93Nよりなるn型クラッド層13を成長する。続いて、厚さが約120nmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなる第1の光ガイド層14を成長する。
【0018】
この後、温度を約800℃にまで降温し、キャリアガスを水素から窒素に変更し、トリメチルインジウム(TMI)とTMGを供給して、図2に示すように、それぞれ厚さが約3nmのIn0.1Ga0.9Nよりなる量子井戸16,18,20(3層)と、それぞれ厚さが約9nmのGaNよりなるバリア層15,17,19(3層)とからなる多重量子井戸活性層101を成長する。この際、活性層101の発光効率を向上させるために、バリア層の成長時にSiH4ガスも供給して、バリア層のみにSi不純物濃度が2E18cm−3程度のSiをドーピングしている。
【0019】
続いて、厚さが約15nm(0.015μm)のGaNよりなる中間層21を成長する。本実施形態では、この中間層21は、意図的に不純物を添加しない実質的なアンドープ層とする。
【0020】
その後、再び反応炉内の温度を約1000℃にまで昇温し、キャリアガスを窒素から水素に戻して、p型ドーパントであるCp2Mgガスを供給しながら、厚さが約20nmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型Al0.18Ga0.82Nよりなるキャップ層22を成長する。次に、厚さが約120nmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型GaNよりなる第2の光ガイド層23を成長する。続いて、厚さが約0.5μmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型Al0.07Ga0.93Nよりなるp型クラッド層24を成長する。最後に、厚さが約0.05μmでMg不純物濃度が約1E19cm−3のp型GaNよりなるp型コンタクト層25を成長する。こうして、p型半導体層とn型半導体層との間に中間層21および活性層101が挟持されたレーザウエハが完成する。
【0021】
次に、図1及び図2に示すレーザウエハを用いて、図3に示す半導体レーザを作製する方法を説明する。
【0022】
まず、レーザウエハに対してp型半導体層の活性化加熱処理を行う。その後、ウエハ表面に二酸化珪素(SiO2)よりなる絶縁膜を堆積させる。続いて、この絶縁膜上にレジスト膜を堆積させ、フォトリソグラフィー法によりp型コンタクト層25のリッジ形成位置(リッジ幅:約2μm)のみにレジスト膜を残す。この後、レジスト膜をエッチングマスクとして、レジスト除去部の絶縁膜をフッ酸溶液で除去しp型コンタクト層25を露出させる。続いて、リッジ形成位置以外のp型コンタクト層25とp型クラッド層24の一部とをドライエッチング装置でエッチングし、p型半導体層の残し膜厚を0.1μm程度にする。その後、アセトンなどの有機溶液により、リッジ上のレジスト膜を除去する。
【0023】
次に、n型電極の形成位置以外をSiO2よりなる絶縁膜で覆い、ドライエッチングでn型コンタクト層12を露出させる。そして、p側とn側の電気的分離を行うため、表面にSiO2からなる絶縁膜26を形成した後、リッジ位置のp型コンタクト層25上の絶縁膜をフッ酸溶液で除去する。この後、露出したn型コンタクト層12上に、チタン(Ti)およびアルミニウム(Al)の蒸着によりn型電極27を形成し、露出したp型コンタクト層25上に、ニッケル(Ni)、白金(Pt)および金(Au)の蒸着によりp型電極28を形成する。こうして、図3に示す半導体レーザが得られる。
【0024】
続いて、レーザ共振器端面のへき開工程を行う。まず、サファイア基板11の裏面側から研磨して、総膜厚が100μm程度となるように薄膜化する。その後、共振器端面がサファイア基板の<1−100>方向となるように、基板11をへき開装置(図示せず)でバー状にへき開する。尚、本実施形態ではレーザ共振器長を750μmとした。そして、レーザ共振器の後端面に、3対のSiO2および二酸化チタン(TiO2)の積層体で構成される誘電体多層膜を堆積させ、高反射膜コートとする。
【0025】
最後に、劈開されたバーに対して2次へき開を行い、レーザチップに分離して、レーザキャンにpサイドダウンで実装する。この実装時は、レーザチップを炭化珪素(SiC)からなるサブマウントに半田を介して行う。こうして、半導体レーザ素子を作製することができる。
【0026】
本実施形態に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は、図4に示すように、それぞれ60mA、0.8W/Aであった。
【0027】
また、光出力30mWにおける消費電力(動作電流と動作電圧の積)が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温において30mWの高光出力での一定光出力(APC:Automatic Power Control)による寿命試験を実施した結果を図5に示す。レーザ素子での劣化率(動作電流の増加率)は1時間当たり0.9mA程度であり、約100時間の寿命時間(動作電流が初期電流の2倍になるまでの時間)を確認した。
【0028】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【0029】
比較例
第1の実施形態に係る半導体レーザの比較例として、中間層21にSiをドーピングしてn型GaN層とする他は第1の実施形態と同様の方法により半導体レーザを作製し、Mgの活性層内への拡散状態を比較検討した。n型GaN層からなる中間層のSi不純物濃度は、バリア層と同程度の約2E18cm−3とした。
【0030】
比較例における結晶成長後のレーザウエハに対して、2次イオン質量分析(SIMS)法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図6に示す。
【0031】
図6から、Mgが活性層内に(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)広く拡散している様子がわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸16では約4E17cm−3、第2の量子井戸18では約2E18cm−3、第3の量子井戸20では約1E19cm−3であった。後述するように、第1の実施形態に係るレーザウエハについての測定結果と比較すると、第2の量子井戸18で約10倍、第3の量子井戸20で約4倍のMgが活性層内に拡散していることがわかる。すなわち、第1の実施形態におけるアンドープGaN中間層21に、n型不純物であるSiをドープする(即ち、n型GaN中間層とする)ことにより、Mgの拡散が促進される。
【0032】
この現象は、従来文献「Journal of Applied Physics, Vol.66 (1989) 605−610」を参考にすると以下のように解釈できる。拡散するMg原子は、格子間位置に存在するために容易に拡散し、拡散により置換型位置に存在するSiと出会うと、ドナー・アクセプター相互作用(クーロン相互作用)によりMgSiからなる電気的に中性で安定な複合体を形成する。このため、MgはSiがドープされている領域を容易に拡散するものと思われる。活性層は、バリア層においてSiがドープされているので、比較例のように中間層にSiがドープされていることにより、Mgが活性層中央付近にまで広く拡散したものと推測される。
【0033】
比較例に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々75mA、0.5W/Aであった。上述した第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の測定結果と比較すると、閾値電流およびスロープ効率ともに悪化している。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散により低下したことに起因しているものと思われる。このことを確認するため、本発明者らは以下の実験を行った。
【0034】
本実験においては、第1の実施形態におけるレーザウエハの製造工程において、活性層成長時に意図的にMgをドーピングした半導体レーザ素子(試料A)と、ドーピングしない半導体レーザ素子(試料B)とを作製した。更に、レーザウエハの製造工程において、活性層をSiドープGaN層により形成し、且つ、活性層成長時に意図的にMgをドーピングする他は、第1の実施形態と同様の方法により、半導体レーザ素子(試料C)を作製した。試料A及び試料CのMg不純物濃度は約1E19cm−3とした。
【0035】
そして、上記試料A〜試料Cのフォトルミネッセンス(PL)を測定した。PL測定は、活性層を選択的に光励起して室温で実施した。この結果を図7に示す。但し、試料Aおよび試料Cについては、PL強度を250倍にして表示している。
【0036】
図7に示すように、Mgをドーピングしない試料Bでは、PLピーク波長は約400nmであったが、Mgをドーピングした試料Aでは約435nmと約550nmの2ピークに分離して、その半値幅も広くなっている。この現象は、活性層にMgをドーピングすることにより、InGaN量子井戸内に深い準位が形成され、それが非発光再結合中心になっているものと思われる。また、InGaNの相分離を促し、量子井戸の界面急峻性を低下させている可能性もある。
【0037】
深い準位からの発光(550nm)の各PL強度をピーク強度で規格化した値(規格化強度)は、Mgをドーピングしない試料Bが、13600(550nm)/1300000(400nm)=1.1E−2であるのに対し、Mgをドーピングした試料Aは、1045000(550nm)/433200(430nm)=2.4であった。即ち、試料Aは、Mgをドーピングすることにより深い準位からの発光確率が高くなり、活性層の発光効率が低下していることがわかった。
【0038】
一方、SiドープGaN層からなる活性層にMgをドーピングした試料Cについては、上記規格化強度が、12(550nm)/16200(360nm)=7.4E−4であり、Mgをドーピングしない試料Bよりも低い値であった。このように、Mgのドーピングにより深い準位の規格化強度が高くなることで発光効率が低下するという問題は、活性層にInGaN量子井戸を含むレーザ素子に特有の問題である。従来は、GaN系発光素子の長寿命化対策として、転位密度低減と消費電力低減が唯一の手段と認知されていたが、活性層内の不純物濃度を制御することも重要な要素であることを今回初めて見出した意義は非常に大きい。
【0039】
ところで、試料Cは特開平6−283825号公報に開示された窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの活性層にMgを添加した半導体レーザダイオードと同一である。特開平6−283825号公報では、Mgの拡散に関する問題について言及されているものの、活性層にはSiをドープしたGaNが用いられている。我々の上記実験から明らかなように、特開平6−283825号公報では、SiをドープしたGaNからなる活性層にMgが拡散したとしても、図7に示されるように、約400nmの波長から見て短波長側である約360nmの波長においてPL強度がピークとなる。
【0040】
一方、我々は、InGaNからなる活性層にMgが拡散した場合、試料AのようにPL強度のピークが長波長側の550nm付近に移動し、結果として発光色が黄色となってしまうという課題に着目している。特開平6−283825号公報においては、約400nmの波長から見てPL強度のピークが長波長側に移動し、発光色が黄色となってしまうということは見出されていない。従って、一見したところ本発明と特開平6−283825号公報とは類似しているように見えるが、解決しようとする課題が全く異なる。なお、特開平6−283825号公報において、活性層にInを含んでよいという示唆はない。
【0041】
また、比較例の半導体レーザ素子について、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のものを選別して、室温において30mWの高光出力での一定光出力(APC)寿命試験を実施した結果を図8に示す。
【0042】
図8に示す測定結果を、消費電力が同じ場合の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の測定結果(図5参照)と比較すると、比較例のレーザ素子の劣化率は、第1の実施形態のレーザ素子に比べて10倍程度(1時間当たり9mA程度)であり、急速に劣化が進行することがわかった。すなわち、比較例のレーザ素子は、転位密度は第1の実施形態のものと同程度(約1E10cm−2)であるが、活性層内のMg拡散状態が異なるために、寿命時間に差異が生じていることが明確になった。
【0043】
尚、測定結果を比較する際に消費電力を同じにしたのは、GaN系レーザの寿命時間が消費電力に大きく依存するために、同程度の消費電力でレーザ素子を比較しないと、活性層内のMg拡散状態と寿命時間との相関関係が明確にならないためである。
【0044】
中間層厚みの検討
次に、本実施形態の半導体レーザにおける中間層21の好ましい厚みについて検討する。本実施形態においては、p型半導体層と活性層との間にアンドープ層である中間層21が設けられているので、中間層21の厚みが大きすぎる場合には、p型半導体層から活性層に正孔が効率よく注入されない。そこで、サファイア基板上に、上記と同様にしてn型GaN層及びp型GaN層を積層することによりp−n接合デバイスを作製し、n型GaN層中の正孔の拡散長を評価した。そして、このデバイスをへき開し、pn接合部分を露出させた後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた電子線励起電流法(EBIC)により、へき開されたデバイス断面のp−n接合部分を観察した。その結果、n型GaN層中の正孔の拡散長は、0.2μm程度であった。III−V族窒化物半導体の場合は、他の化合物半導体と比較して電気伝導に寄与する正孔の有効質量が大きいため、その拡散長は0.2μm程度以下と非常に小さな値である。
【0045】
このような実験結果から、活性層に効率良く電気的に正孔を注入するためには、中間層21の厚みを正孔の拡散長(本実施形態においては0.2μm)よりも小さくすべきであることが明らかになった。
【0046】
一方、中間層21の厚みが小さすぎる場合には、p型ドーパントが中間層21を通過して活性層に拡散する。一例として、中間層21の厚みが15nmの場合において、SIMS法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図9に示す。Mgが活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)に拡散している様子がわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸16では約1E17cm−3、第2の量子井戸18では約2E17cm−3、第3の量子井戸20では約3E18cm−3である。
【0047】
更に詳細な検討を行うため、中間層21が種々の厚みのレーザ素子を作製して、以下の実験を行った。一例として、中間層21の厚みが60nmのレーザウエハについて、SIMS法を用いて、Mgの活性層への拡散状態を評価した結果を図10に示す。
【0048】
図10に示す結果(中間層厚み:60nm)を、図9に示す結果(中間層厚み:15nm)と比較すると、中間層21の厚みを大きくすることで、Mgの活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)への拡散が抑制されている様子がわかる。具体的に、拡散したMg濃度は、第1から第3の量子井戸にかけて約1E17cm−3(検出限界程度)である。
【0049】
このように、中間層21の厚みを増加させることにより、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層と活性層との距離が増加するため、活性層内へのMg拡散が抑制される。
【0050】
この中間層厚みが60nmのレーザウエハから作製した半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。また、閾値電流およびスロープ効率は50mA、1.0W/Aであり、中間層厚みが15nmの場合に比べていずれも良好であった。尚、中間層厚みが30nmのレーザ素子についても同様の測定をしたところ、閾値電流およびスロープ効率は55mA、0.9W/Aであり、中間層厚みが15nmの場合に比べていずれも良好であった。この結果は、中間層厚みの増加によりMgの拡散が低減され、活性層の発光効率が向上したためと考えられる。
【0051】
消費電力が0.6W程度の各レーザ素子における光出力30mWのAPC寿命試験では、中間層厚みが30nmのレーザ素子で110時間、中間層厚みが60nmのレーザ素子で125時間程度の寿命時間であった。中間層厚みが15nmのレーザ素子は、上述したように寿命時間が100時間であるため、中間層厚みの増加と共に寿命時間も増加しているものの、顕著な寿命改善が図れなかった。この要因を明らかにするため、中間層厚みが60nmのレーザ素子について、APC寿命試験後のレーザ素子においてSIMS分析を実施した。この結果を図11に示す。
【0052】
図11から、APC寿命試験前のSIMS結果(図10)と比較して、寿命試験によって活性層中にMgが顕著に拡散している様子がわかる。この現象は、転位密度が多い(約1E10cm−2)ために、寿命試験中にpn接合での発熱および内部電界の作用により、p型ドーパントであるMgが転位を介して活性層内に拡散したことに起因すると思われる。
【0053】
ところが、中間層21の厚みが更に増加すると、寿命時間が急激に改善されることがわかった。中間層21が種々の厚みのレーザ素子に対してAPC寿命試験を行った結果を図12示す。中間層の厚みが約100nmまでは、中間層厚みの増加と共に寿命時間も改善されているが、中間層厚みが約100nmを超えると寿命時間が徐々に低下していることがわかる。中間層厚みを200nm(0.2μm)としたレーザ素子も作製したが、室温連続発振には到らなかった。これは、中間層厚みが正孔の拡散長(0.2μm)程度であるため、活性層への正孔の注入効率が大幅に低下したためと推測される。
【0054】
この結果から、中間層21の厚みは、15nm以上180nm以下であることが好ましく、60nm以上160nm以下であることがより好ましく、80nm以上130nm以下であることが更に好ましい。
【0055】
次に、各レーザ素子の発光状態を観察するために、電流注入によりリッジストライプに沿って発光するエレクトロルミネッセンス(EL)光を、電荷結合デバイス(CCD)カメラによりサファイア基板の裏面から観察した。中間層厚みが15nmのレーザ素子では、EL光強度の弱い領域(発光むら)が多数生じているが、中間層厚みが30nm,60nmのレーザ素子では、EL光が均一に改善されていることを確認した。このような発光むらに関する以前の報告例として、第7の文献「第48回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集No.1 28p−E−12 p.369」があるが、この文献によると、発光むらは活性層上に存在するp型AlGaNキャップ層が活性層に大きな歪を生じさせているためと報告している。しかしながら、我々の検討においては、活性層内へのMg拡散が発光むらの主原因であることを初めて見出した。発光むらの低減は、ウエハー面内でのレーザ素子の歩留り向上、ひいては低コスト化に大きく貢献するため、製造面においてもこの現象を見出した意義は非常に大きい。
【0056】
また、中間層厚みが60nmのレーザ素子について、APC寿命試験前後のEL発光像を比較したところ、寿命試験前においても貫通転位に起因すると思われる暗点が多数観察されたが、寿命試験後ではその暗点がより暗くなる(拡大する)傾向が見られた。この現象は、前述したように、寿命試験中にMgが貫通転位を介して活性層内に拡散するために、転位周辺の領域で活性層の発光効率が低下したものと推測される。
【0057】
(第2の実施形態)
図13は、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。第2の実施形態に係るレーザウエハは、図1に示す第1の実施形態に係るレーザウエハにおいて、アンドープ層からなる中間層21を2層構造からなる新たな中間層31とする他は、同様の構成としている。したがって、第1の実施形態に係る半導体レーザ素子と同じ構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0058】
本実施形態のレーザウエハにおける中間層31は、活性層101とキャップ層22との間に形成された厚さ60nmのGaN層であり、厚さ15nmのアンドープ層31aと、厚さ45nmの拡散抑制層31bとが積層された構成となっている。拡散抑制層31bは、例えばSi不純物濃度が3E19cm−3程度の層であり、キャップ層22に隣接している。
【0059】
このレーザウエハは、基本的には第1の実施形態と同様の方法で作製することができるが、中間層31の形成時においては、GaN層の成長中にSiH4ガスの供給量を変化させ、中間層31の膜厚内でSi不純物濃度が厚さ方向に不均一になるようにしている。具体的には、中間層31の成長開始後、厚さ約15nmはアンドープとし、残りの厚さ約45nmについてはSiH4ガスを供給してn型GaN層となるように成長する。
【0060】
結晶成長が終了したレーザウエハにおいて、SIMS法を用いて、p型ドーパントであるMgの活性層への拡散状態を評価した結果を図14に示す。Mgのドーピングを開始したp型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22の直下に本実施形態の中間層31が存在することにより、Mgの活性層内への拡散が大幅に抑制できていることがわかる。具体的には、拡散したMg濃度は、第1の量子井戸26、第2の量子井戸28および第3の量子井戸30で、ともに約1E17cm−3(検出限界程度)である。
【0061】
この測定結果を、第1の実施形態において、アンドープ中間層21の厚みが本実施形態の中間層31全体の厚みと同程度(約60nm)である場合(図10参照)と比較すると、中間層内でのMg濃度は本実施形態の方が多いにも拘わらず、活性層内のMg濃度は同程度であることがわかる。このような現象は、以下のように考察することができる。
【0062】
拡散するMg原子は格子間位置に存在するために容易に拡散し、拡散により置換型位置に存在するSiと出会うと、ドナー・アクセプター相互作用(クーロン相互作用)により、MgSiからなる電気的に中性で安定な複合体を形成する。このため、MgはSiがドープされている領域に拡散し、その位置で安定化するものと思われる。本実施形態の場合は、中間層31の成長後半である厚さ約45nmの領域が、3E19cm−3程度の濃度でSiがドープされた拡散抑制層31bであるため、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22との界面でMgの集積(パイルアップ)が発生する。このため、拡散するMgは上記界面に集中することで、活性層内へのMgの拡散が顕著に抑制される。さらに、中間層31の成長前半である厚さ約15nmの領域がアンドープ層31aであるため、中間層31の成長後半でドープしたSiが、第3の量子井戸20に拡散することが抑制される。
【0063】
本実施形態に係る半導体レーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々45mA、1.2W/Aであり、良好な結果が得られた。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散抑制により向上したことに起因すると思われる。
【0064】
また、上記第1の実施形態と同様に、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温における30mWのAPC寿命試験を実施した結果を図15に示す。レーザ素子の劣化率は1時間当たり0.3mA程度であり、寿命時間として250時間を確認した。
【0065】
この結果を、第1の実施形態において、アンドープ中間層21の厚みが本実施形態の中間層31全体の厚みと同程度(約60nm)である場合と比較すると、上述したように第1の実施形態に係るレーザ素子では寿命時間が125時間程度であり、本実施形態に係るレーザ素子は、より長寿命化を図ることができることを確認した。
【0066】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【0067】
中間層におけるSi濃度の検討
次に、中間層31の拡散抑制層31bにおける好ましいSi濃度について検討する。本実施形態において、中間層31のSi濃度がそれぞれ異なる3種類のレーザウエハを作製した(試料D〜試料F)。各レーザウエハにおける拡散抑制層31bのSi濃度は、試料Dが約5E17cm−3、試料Eが約2E18cm−3、試料Fが約1E19cm−3(試料F)とした。尚、約2E18cm−3のSi濃度は、活性層のバリア層のSi濃度と同程度であり、約1E19cm−3のSi濃度は、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層のMg濃度と同程度である。
【0068】
試料D〜試料Fに対して、SIMS法を用いて、Mgの活性層への拡散状態を評価した結果を図16に示す。全てのレーザウエハにおいて、Mgが活性層内(第3の量子井戸20から第1の量子井戸16に向けて)に拡散している様子がわがる。ただし、Mg拡散の程度は、試料Eが最も顕著であり、次いで試料D、試料Fの順番で拡散が抑制されていることがわかる。特に、試料Fでは、Mgの集積(パイルアップ)が発生しており、Mg拡散を有効に防止できていることがわがる。
【0069】
以上の結果などから、中間層31における拡散抑制層31bのSi濃度を、p型Al0.18Ga0.82Nキャップ層22のMg濃度(即ち、本実施形態の場合は約1E19cm−3)と同程度以上にすることで、Mg拡散の抑制が顕著になることが明らかになった。窒化物系III−V族化合物半導体の場合、一般的にp型不純物をドーピングしても、その電気的活性化率が数%程度であるため、p型半導体層の電気伝導率は低くなる傾向がある。p型半導体層の電気伝導率を向上させるには電気伝導に寄与する正孔濃度が1E18cm−3程度必要であるため、電気的活性化率を考慮してp型不純物を1E19cm−3程度以上に多量にドーピングする必要がある。この場合、拡散抑制層31bのn型不純物濃度を少なくとも1E19cm−3以上に制御することで、p型半導体層からのp型不純物の拡散を効果的に抑制することができる。尚、拡散抑制層31bのSi濃度の上限については実用的な範囲で定めればよく、例えば6E19cm−3程度である。
【0070】
中間層を構成する各層厚みの検討
本実施形態では、中間層31(総厚み:60nm)におけるアンドープ層31aの厚みを15nmとし、拡散抑制層31bの厚みを45nmとしたが、アンドープ層31aの厚みに対する拡散抑制層31bの厚みの比を適宜変更して、種々のレーザウエハについて上述したようにMgの活性層への拡散を評価した。尚、拡散抑制層31bのSi濃度は約1E19cm−3とした。
【0071】
この結果、アンドープ層31aの厚みを1としたときに、拡散抑制層31bの厚みが1/11以上11以下である範囲において、Mg拡散を効果的に抑制することができ、1/3以上3以下の範囲において、より顕著な抑制効果を得ることができた。ただし、中間層31の総厚みは、正孔の拡散長以下であることが好ましく、具体的には第1の実施形態と同様に15nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0072】
(第3の実施形態)
図17は、本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。第3の実施形態に係る半導体レーザは、図13に示す第2の実施形態に係る半導体レーザにおいて、基板11上に第1のGaN層41が形成され、この第1のGaN層41上にストライプ状の絶縁パターン42が形成されており、この絶縁パターン42を埋めるように第1のGaN層41上に第2のGaN層43がELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法により形成されている。そして、第2のGaN層43上にn型コンタクト層12が形成されている。その他の構成については第2の実施形態に係る半導体レーザ素子と同じであるので、同様の構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。尚、本実施形態においては、n型コンタクト層12の厚みを約2μmとしている。
【0073】
本実施形態の半導体レーザは、基本的には第2の実施形態と同様の方法で製造することができるが、第2のGaN層43をELO法により形成する方法をメインに、図18を参照しながら以下説明する。
【0074】
まず、基板11上に低温バッファ層(図示せず)を成長した後、反応炉を約1000℃にまで昇温し、厚さが約1μmの第1のGaN層41を成長する(図18(a))。この後、基板11を反応炉から取り出し、第1のGaN層41上に選択成長用の絶縁膜Iを形成する(図18(b))。絶縁膜Iは二酸化珪素(SiO2)とし、プラズマCVD装置で100nm程度堆積させる。
【0075】
続いて、絶縁膜I上にレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィー法により、ラインアンドスペース状のレジストパターンRを形成する(図18(c))。ここで、レジストパターン幅(Ws):レジスト除去幅(Wl)=15μm:3μmとしている。ただし、このストライプ方向は、第1のGaN層41の<1−100>方向である。この後、レジストパターンRをエッチングマスクとして、レジスト除去部の絶縁膜Iをフッ酸溶液で除去し、第1のGaN層41を露出させる。続いて、アセトンなどの有機溶液によりレジストパターンRを除去する。こうして、第1のGaN層41上に絶縁パターン42が形成される(図18(d))。
【0076】
この後、基板11をMOVPE装置の反応炉内のサセプタに再び保持し、反応炉を真空排気する。続いて、反応炉内を圧力が200Torrの水素雰囲気とし、温度を約1000℃にまで昇温して、供給量7sccmのトリメチルガリウム(TMG)と、供給量が7.5slmのアンモニア(NH3)ガスと、キャリアガスとして水素とを同時に供給することにより、第2のGaN層43をELO選択成長する。第2のGaN層43は、選択成長初期には絶縁パターン42の間で成長するが(図18(e))、成長が進行すると絶縁パターン42の上方において横方向成長し(図18(f))、やがて表面が平坦化する(図18(g))。
【0077】
第2のGaN層43の貫通転位密度を平面透過電子顕微鏡(TEM)で評価したところ、隣接する絶縁パターン42間では約1E10cm−2であるのに対し、絶縁パターン42上方のELO部分においては約5E8cm−2となり、ELO選択成長により転位密度が1/20程度に低減できることがわかった。
【0078】
レーザ構造の結晶成長においては、厚さ約5μmの第2のGaN層43上に、n型ドーパントとしてシラン(SiH4)ガスも供給して、厚さが約2μmでSi不純物濃度が約1E18cm−3のn型GaNよりなるn型コンタクト層12を成長する。この後は、第2の実施形態と同様の方法により、図17に示すレーザウエハを作製することができる。
【0079】
また、このレーザウエハから半導体レーザ素子を作製するレーザ加工プロセスは、第1の実施形態と同様である。但し、p型コンタクト層25のリッジは、絶縁パターン42直上の低転位密度部分に形成する。
【0080】
本実施形態に係るレーザ素子は、電流注入により室温連続発振に到った。この際の閾値電流およびスロープ効率は各々35mA、1.4W/Aであり、良好な結果が得られた。これは、レーザ素子の活性層の発光効率がMg拡散抑制により向上したことに加え、活性層領域の転位密度が低減されていることに起因すると考えられる。つまり、活性層内の転位密度低減により、非発光再結合中心が減少し、発光効率が向上したためである。
【0081】
また、上記第1の実施形態と同様、光出力30mWにおける消費電力が0.6W程度のレーザ素子を選別して、室温における30mWのAPC寿命試験を実施した結果を図19に示す。レーザ素子の劣化率は1時間当たり0.03mA程度であり、寿命時間が1000時間以上の安定動作を確認し、劣化進行を大幅に抑制できた。即ち、GaN系発光素子の長寿命化対策として転位密度を低減することが重要であるが、このような長寿命化の効果は、第1及び第2の実施形態に係るレーザ素子のような活性層内の不純物濃度を制御できる構成と組み合わせることで、より顕著なものとなる。
【0082】
本実施形態においては、中間層を2元混晶のGaNで構成したが、AlGaNやInGaNなどの3元混晶や、AlInGaNなどの4元混晶などの、他の窒化ガリウム系化合物半導体とすることも可能である。また、本実施形態においては、III−V族窒化物半導体レーザについて説明したが、GaAs、InPなどのIII−V族半導体レーザや、ZnSeなどのII−VI族半導体レーザなどの場合も、本実施形態と同様の構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図2】図1の部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザを示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の電流に対する光出力の変化を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図6】比較例に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図7】波長に対するフォトルミネッセンス(PL)の変化を示す図である。
【図8】比較例に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る他のレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る上記他のレーザウエハについて、寿命試験後の活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る中間層の厚みと寿命時間との関係を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係るレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る他のレーザウエハにおける活性層へのMgの拡散状態を示す図である。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザを構成するレーザウエハの断面図である。
【図18】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザの製造方法を示す工程図である。
【図19】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ素子の作動時間に対する動作電流の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
11 基板
13 n型半導体層
24 p型半導体層
31 中間層
31a アンドープ層
31b 拡散抑制層
41 第1のGaN層
43 第2のGaN層
101 活性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n型半導体層、活性層、およびp型半導体層がこの順で積層され、
前記活性層と前記p型半導体層との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層が形成されており、
前記中間層は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層と、n型不純物がドープされた拡散抑制層とが積層されて構成され、前記p型半導体層と隣接する側に前記拡散抑制層が配置されており、
前記基板とn型半導体層との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層が形成されている半導体レーザ。
【請求項2】
前記拡散抑制層におけるn型不純物の濃度が、前記p型半導体層におけるp型不純物の濃度と同程度以上である請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記半導体レーザは、III−V族窒化物半導体レーザであり、前記n型半導体層は、n型不純物としてSiを含み、前記p型半導体層は、p型不純物としてMgを含む請求項1または2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記アンドープ層の厚みを1としたときに、前記拡散抑制層の厚みが1/11以上11以下である請求項1から3のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記中間層の厚みが60nm以上180nm以下である請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記活性層はInGaNからなる井戸層を含む請求項1から5のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項7】
基板上に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層を形成するステップと、
前記半導体層上に、n型不純物がドープされたn型半導体層を形成するステップと、
前記n型半導体層上に、InGaNからなる井戸層を含む活性層を形成するステップと、
前記活性層上に、窒化ガリウム系化合物からなる中間層を形成するステップと、
前記中間層上に、p型不純物がドープされたp型半導体層を形成するステップとを備え、
前記中間層を形成するステップは、不純物をドープせずに窒化ガリウム系化合物半導体層を成長させることにより、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層を形成するステップと、前記窒化ガリウム系化合物半導体層の成長途中にn型不純物のドープを開始して拡散抑制層を形成するステップとを含む半導体レーザの製造方法。
【請求項8】
前記基板上に前記半導体層を形成するステップは、横方向への選択成長により行われる請求項7に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項1】
基板上に、n型半導体層、活性層、およびp型半導体層がこの順で積層され、
前記活性層と前記p型半導体層との間に、窒化ガリウム系化合物半導体からなる中間層が形成されており、
前記中間層は、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層と、n型不純物がドープされた拡散抑制層とが積層されて構成され、前記p型半導体層と隣接する側に前記拡散抑制層が配置されており、
前記基板とn型半導体層との間に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層が形成されている半導体レーザ。
【請求項2】
前記拡散抑制層におけるn型不純物の濃度が、前記p型半導体層におけるp型不純物の濃度と同程度以上である請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記半導体レーザは、III−V族窒化物半導体レーザであり、前記n型半導体層は、n型不純物としてSiを含み、前記p型半導体層は、p型不純物としてMgを含む請求項1または2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記アンドープ層の厚みを1としたときに、前記拡散抑制層の厚みが1/11以上11以下である請求項1から3のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記中間層の厚みが60nm以上180nm以下である請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記活性層はInGaNからなる井戸層を含む請求項1から5のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項7】
基板上に、貫通転位密度が5E8cm−2以下の低転位領域を有する半導体層を形成するステップと、
前記半導体層上に、n型不純物がドープされたn型半導体層を形成するステップと、
前記n型半導体層上に、InGaNからなる井戸層を含む活性層を形成するステップと、
前記活性層上に、窒化ガリウム系化合物からなる中間層を形成するステップと、
前記中間層上に、p型不純物がドープされたp型半導体層を形成するステップとを備え、
前記中間層を形成するステップは、不純物をドープせずに窒化ガリウム系化合物半導体層を成長させることにより、不純物が実質的にドープされていないアンドープ層を形成するステップと、前記窒化ガリウム系化合物半導体層の成長途中にn型不純物のドープを開始して拡散抑制層を形成するステップとを含む半導体レーザの製造方法。
【請求項8】
前記基板上に前記半導体層を形成するステップは、横方向への選択成長により行われる請求項7に記載の半導体レーザの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−194664(P2007−194664A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98714(P2007−98714)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【分割の表示】特願2003−575485(P2003−575485)の分割
【原出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【分割の表示】特願2003−575485(P2003−575485)の分割
【原出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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