説明

半導体レーザ装置組立体

【課題】モード同期動作が不安定になるという問題の発生を抑制することができ、しかも、大きな出力を得ることができる半導体レーザ装置組立体を提供する。
【解決手段】半導体レーザ装置組立体は、(A)モード同期半導体レーザ素子10、及び、(B)外部共振器を構成し、1次以上の回折光をモード同期半導体レーザ素子10に戻し、0次の回折光を外部に出力する回折格子100を備えており、モード同期半導体レーザ素子10と回折格子100との間に、モード同期半導体レーザ素子10の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段101を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パルス時間がアト秒台、フェムト秒台のレーザ光を利用した先端的科学領域の研究に、超短パルス・超高出力レーザが盛んに用いられている。そして、超短パルスレーザは、ピコ秒・フェムト秒といった超高速現象の解明という科学的な関心のみならず,高いピークパワーを活用して、微細加工や2光子イメージングといった実用化への応用研究が盛んに行われている。また、GaN系化合物半導体から成り、発光波長が405nm帯の高出力超短パルス半導体レーザ素子が、ブルーレイ(Blu−ray)光ディスクシステムの次の世代の光ディスクシステムとして期待されている体積型光ディスクシステムの光源として、また、医療分野やバイオイメージング分野等で要求される光源、可視光領域全域をカバーするコヒーレント光源として期待されている。
【0003】
超短パルス・超高出力レーザとして、例えば、チタン/サファイア・レーザが知られているが、係るチタン/サファイア・レーザは、高価で、大型の固体レーザ光源であり、この点が、技術の普及を阻害している主たる要因となっている。もしも超短パルス・超高出力レーザが半導体レーザあるいは半導体レーザ素子によって実現できれば、大幅な小型化、低価格化、低消費電力化、高安定性化がもたらされ、これらの分野における広汎な普及を促進させる上でのブレイクスルーになると考えられる。
【0004】
このような405nm帯における高ピークパワー・ピコ秒パルス光源としての全半導体構成を有する半導体レーザ装置組立体は、通常、MOPA(Master Oscillator and Power Amplifier) 構成を有する。具体的には、ピコ秒パルスを発生させる半導体レーザ、及び、発生したピコ秒パルスを増幅する半導体光増幅器(半導体レーザ増幅器,SOA,Semiconductor Optical Amplifier)から構成されている。このMOPA構成におけるピコ秒パルスを発生するパルス光源の1つとして、具体的には、外部共振器を有するモード同期半導体レーザ装置組立体を挙げることができる。
【0005】
このモード同期半導体レーザ装置組立体は、例えば、多電極型モード同期半導体レーザ素子、及び、その光軸上に配された外部共振器によって実現される。多電極型モード同期半導体レーザ素子の一方の端面は、屡々、高反射コート層を備え、外部共振器と対向するミラーを兼ねている。そして、回折格子や誘電多層膜から成るバンドパスフィルターといった波長選択素子を配置することによって、発振波長を選択することが可能である。
【0006】
回折格子を波長選択素子とする場合、外部共振器を回折格子から構成し、1次の回折光を半導体レーザ素子に戻すことで、発振波長を選択することができる。このような配置は、リトロー配置あるいはリットマン配置として知られており、連続発振の波長可変レーザに用いられている(例えば、特開2001−284716、文献:Heim et al,エレクトロニクスレターズ誌,33巻,16号,1387頁,1997年、文献:Struckmeier et al,オプティクスレターズ誌,24巻,22号,1573頁,1999年参照)。一方、バンドパスフィルターを波長選択素子とする場合、半導体レーザ素子と外部共振器との間にバンドパスフィルターを配置し、波長選択性を与える(例えば、特開2002−164614参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−284716
【特許文献2】特開2002−164614
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Heim et al,エレクトロニクスレターズ誌,33巻,16号,1387頁,1997年
【非特許文献2】Struckmeier et al,オプティクスレターズ誌,24巻,22号,1573頁,1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、リトロー配置にあっては、波長分解能を高くするために、回折格子に入射させる光はコリメートされた平行光束である。それ故、外部共振器を有するモード同期半導体レーザ装置組立体にリトロー配置を適用すると、外部共振器の機械的振動等に起因した平行光束のずれが、半導体レーザ素子上にフィードバックされる結像点をずらすことになるといった理由により、モード同期動作が不安定になるという問題がある。
【0010】
一方、バンドパスフィルターを配置する場合、アウトプットカプラとしての部分透過ミラーから成る外部共振器に半導体レーザ素子の光出射端面の像を結像させることで、外部共振器の安定性を向上させることができる。それ故、モード同期動作が不安定になることを抑制することが可能となる。しかしながら、モード同期半導体レーザ素子は、一般に、パルス動作において、パルスの持続時間中に波長が変化する。このような現象はチャーピングと呼ばれる。そして、ピコ秒光パルスに対して、バンドパスフィルターは定常光とは異なる透過特性を示し、予想外の光損失を与えることが判明した。即ち、バンドパスフィルターによって反射され、モード同期半導体レーザ素子に戻されるレーザ光が増加することが判明した。このチャーピングの量は、モード同期半導体レーザ素子の駆動条件(注入電流や逆バイアス電圧)に依存して変化するため、チャーピングの量を予見したバンドパスフィルターを設計することは容易ではない。それ故、バンドパスフィルターを用いた外部共振器を有するモード同期半導体レーザ装置組立体は、構成が単純である一方、大きな出力を得るには適していないといった問題を有する。
【0011】
従って、本発明の目的は、モード同期動作が不安定になるという問題の発生を抑制することができ、しかも、大きな出力を得ることができる半導体レーザ装置組立体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子、及び、
(B)外部共振器を構成し、1次以上の回折光をモード同期半導体レーザ素子に戻し、0次の回折光を外部に出力する回折格子、
を備えており、
モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段を有する。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子、
(B)0次の回折光を外部に出力する回折格子、及び、
(C)回折格子からの1次以上の回折光を反射し、回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻す反射鏡から成る外部共振器、
を備えており、
モード同期半導体レーザ素子と回折格子の間に、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を外部共振器上で焦点を結ばせる結像手段を有する。
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子、
(B)外部共振器、
(C)モード同期半導体レーザ素子と外部共振器の間に配置され、膜厚を連続的に変化させたバンドパスフィルター、及び、
(D)バンドパスフィルターを移動させる移動装置、
を備えており、
バンドパスフィルターに衝突したレーザ光の一部は外部に出力され、
バンドパスフィルターに衝突したレーザ光の残部は、バンドパスフィルターを通過し、外部共振器に入射し、外部共振器で反射され、バンドパスフィルターを通過してモード同期半導体レーザ素子に戻される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段を有する。即ち、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面から出射され、回折格子に入射(衝突)するレーザ光は平行光束ではない。また、本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と回折格子の間に、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を外部共振器上で焦点を結ばせる結像手段を有する。即ち、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面から出射され、回折格子に入射(衝突)するレーザ光は平行光束ではない。それ故、外部共振器に機械的な振動等が与えられても、結像レンズの開口から集光光束がずれない範囲であれば、出射端面とその結像は位置を変えないといった理由により、モード同期動作が不安定になることを抑制することができる。
【0016】
本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と外部共振器(アウトプットカプラ、例えば、部分透過鏡)との間に配置され、膜厚を連続的に変化させたバンドパスフィルター、及び、バンドパスフィルターを移動させる移動装置を備えている。それ故、モード同期半導体レーザ素子の駆動条件(例えば、注入電流や逆バイアス電圧)に依存してチャーピングの量が変化し、その結果、予期せぬ損失が半導体レーザ装置組立体に与えられたとしても、その損失は反射として半導体レーザ装置組立体から取り出されるため、レーザ出力として有効に利用でき、大きな出力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1の(A)、並びに、(B)及び(C)は、実施例1の半導体レーザ装置組立体の概念図、並びに、実施例1の半導体レーザ装置組立体における回折格子の部分を拡大した模式図である。
【図2】図2は、実施例1におけるモード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図3】図3は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図である。
【図4】図4の(A)、並びに、(B)及び(C)は、実施例2の半導体レーザ装置組立体の概念図、並びに、実施例1の半導体レーザ装置組立体における回折格子の部分を拡大した模式図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、実施例3の半導体レーザ装置組立体及びその変形例の概念図である。
【図6】図6は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の変形例の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図7】図7は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の別の変形例の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図である。
【図8】図8は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の更に別の変形例におけるリッジ部を上方から眺めた模式図である。
【図9】図9の(A)及び(B)は、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図10】図10の(A)及び(B)は、図9の(B)に引き続き、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図11】図11は、図10の(B)に引き続き、実施例1のモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【図12】図12の(A)及び(B)は、回折格子の模式的な一部断面図である。
【図13】図13は、従来の半導体レーザ装置組立体の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本発明の第1の態様〜第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明
2.実施例1(本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体)
3.実施例2(本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体)
4.実施例3(本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体)
5.実施例4(モード同期半導体レーザ素子の変形例)、その他
【0019】
[本発明の第1の態様〜第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明]
本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体にあっては、回折格子を回動させる回動装置を更に備え、回動装置の作動による回折格子の回動によって、モード同期半導体レーザ素子に戻すべきレーザ光の波長を制御する形態とすることが好ましい。ここで、回動装置として、具体的には、圧電素子、モータとギアの組合せ、ヨークコイルを挙げることができる。そして、この場合、回折格子から出力された0次の回折光を反射する反射鏡を更に備え、回動装置の作動による回折格子の回動に起因した、反射鏡によって反射された0次の回折光の光路のずれを補正する補正機構を更に備えていることが好ましい。補正機構として、具体的には、圧電素子、モータとギアの組合せ、ヨークコイルを挙げることができる。
【0020】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面におけるレーザ光の横方向の長さをL1、回折格子上に結したモード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像の横方向の長さをL2としたとき、
1×10≦L2/L1≦1×102
望ましくは、
20≦L2/L1≦50
を満足することが好ましい。あるいは又、回折格子に入射(衝突)するレーザ光の中に含まれる回折格子における格子状のパターンの本数として、1200本乃至3600本、望ましくは2400本乃至3600本を例示することができる。
【0021】
本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、外部共振器を構成する反射鏡は凹面鏡から成る形態とすることができる。そして、この場合、凹面鏡の曲率半径は、回折格子から凹面鏡までの距離と等しいことが望ましい。即ち、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入射(衝突)する回折格子の領域に凹面鏡の曲率中心が含まれることが望ましい。あるいは又、外部共振器を構成する反射鏡は、回動機構付きの平面鏡とすることもできる。更には、これらの好ましい形態、構成を含む本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、回折格子と外部共振器との間には、外部共振器へのレーザ光の入射を規制する複数のアパーチャが配されている構成とすることができ、アパーチャは、例えば、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置から成る形態とすることができる。そして、アパーチャを選択することで、モード同期半導体レーザ素子に戻すべきレーザ光の波長を制御する形態とすることができる。
【0022】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、結像手段はレンズから成る構成とすることができるが、これに限定するものではなく、その他、例えば、凹面鏡、凹面鏡とレンズの組合せを用いることもできる。
【0023】
本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体においては、バンドパスフィルターを通過する位置に依存して、バンドパスフィルターを通過するレーザ光の波長が規定される形態とすることができる。そして、このような形態を含む本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体において、外部共振器は部分透過ミラー(半透過ミラー、ハーフミラー)から成る形態とすることができる。更には、これらの形態を含む本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体においては、モード同期半導体レーザ素子と外部共振器との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を外部共振器上に結像させる結像手段を有する形態とすることができる。ここで、結像手段として、レンズや凹面鏡、凹面鏡とレンズの組合せを挙げることができる。
【0024】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体(以下、これらを総称して、単に『本発明の半導体レーザ装置組立体』と呼ぶ場合がある)において、モード同期半導体レーザ素子は、バイ・セクション型半導体レーザ素子から成り、
バイ・セクション型半導体レーザ素子は、
(a)第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層上に形成された帯状の第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備え、
第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに、分離溝によって分離されている形態とすることができる。
【0025】
そして、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の1×10倍以上、好ましくは1×102倍以上、より好ましくは1×103倍以上である。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第1の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。あるいは又、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、1×102Ω以上、好ましくは1×103Ω以上、より好ましくは1×104Ω以上である。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第2の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。
【0026】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分から発光領域を経由して第1電極に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極と第2電極の第2部分との間に電圧を印加することによって可飽和吸収領域に電界を加えることで、モード同期動作させることができる。
【0027】
このような第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の10倍以上であり、あるいは又、1×102Ω以上である。従って、第2電極の第1部分から第2部分への漏れ電流の流れを確実に抑制することができる。即ち、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)へ印加する逆バイアス電圧Vsaを高くすることができるため、時間幅の短い光パルスを有するシングルモードのモード同期動作を実現できる。そして、第2電極の第1部分と第2部分との間のこのような高い電気抵抗値を、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離するだけで達成することができる。
【0028】
また、第1の構成及び第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、限定するものではないが、
第3化合物半導体層は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有し、
井戸層の厚さは、1nm以上、10nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下であり、
障壁層の不純物ドーピング濃度は、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下である形態とすることができる。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第3の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ場合がある。
【0029】
このように、第3化合物半導体層を構成する井戸層の厚さを1nm以上、10nm以下と規定し、更には、第3化合物半導体層を構成する障壁層の不純物ドーピング濃度を2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下と規定することで、即ち、井戸層の厚さを薄くし、しかも、第3化合物半導体層のキャリアの増加を図ることで、ピエゾ分極の影響を低減させることができ、時間幅が短く、サブパルス成分の少ない単峰化された光パルスを発生させ得るレーザ光源を得ることができる。また、低い逆バイアス電圧でモード同期駆動を達成することが可能となるし、外部信号(電気信号及び光信号)と同期が取れた光パルス列を発生させることが可能となる。障壁層にドーピングされた不純物はシリコン(Si)である構成することができるが、これに限定するものではなく、その他、酸素(O)とすることもできる。
【0030】
ここで、モード同期半導体レーザ素子は、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造、Separate Confinement Heterostructure)を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。あるいは又、斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。
【0031】
また、第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、
第2電極の幅は、0.5μm以上、50μm以下、好ましくは1μm以上、5μm以下、
リッジ構造の高さは、0.1μm以上、10μm以下、好ましくは0.2μm以上、1μm以下、
第2電極を第1部分と第2部分とに分離する分離溝の幅は、1μm以上、モード同期半導体レーザ素子における共振器長(以下、単に『共振器長』と呼ぶ)の50%以下、好ましくは10μm以上、共振器長の10%以下であることが望ましい。共振器長として、0.6mmを例示することができるが、これに限定するものではない。また、リッジ構造の幅として2μm以下を例示することができ、リッジ構造の幅の下限値として、例えば、0.8μmを挙げることができるが、これに限定するものではない。リッジ部の両側面よりも外側に位置する第2化合物半導体層の部分の頂面から第3化合物半導体層(活性層)までの距離(D)は1.0×10-7m(0.1μm)以上であることが好ましい。距離(D)をこのように規定することによって、第3化合物半導体層の両脇(Y方向)に可飽和吸収領域を確実に形成することができる。距離(D)の上限は、閾値電流の上昇、温度特性、長期駆動時の電流上昇率の劣化等に基づき決定すればよい。尚、以下の説明において、共振器長方向をX方向とし、積層構造体の厚さ方向をZ方向とする。
【0032】
更には、上記の好ましい形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、第2電極は、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/白金層の積層構造、又は、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/ニッケル層の積層構造から成る形態とすることができる。尚、下層金属層をパラジウムから構成し、上層金属層をニッケルから構成する場合、上層金属層の厚さを、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層から成る構成とすることが好ましく、この場合、厚さを、20nm以上、好ましくは50nm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、又は、下層金属層が第2化合物半導体層に接する下層金属層と上層金属層の積層構造(但し、下層金属層は、パラジウム、ニッケル及び白金から成る群から選択された1種類の金属から構成され、上層金属層は、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチングレートが、下層金属層のエッチングレートと同じ、あるいは同程度、あるいは、下層金属層のエッチングレートよりも高い金属から構成されている)から成る構成とすることが好ましい。また、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチング液を、王水、硝酸、硫酸、塩酸、又は、これらの酸の内の少なくとも2種類の混合液(具体的には、硝酸と硫酸の混合液、硫酸と塩酸の混合液)とすることが望ましい。第2電極の幅は、0.5μm以上、50μm以下、好ましくは1μm以上、5μm以下であることが望ましい。
【0033】
以上に説明した好ましい構成、形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、可飽和吸収領域の長さは発光領域の長さよりも短い構成とすることができる。あるいは又、第2電極の長さ(第1部分と第2部分の総計の長さ)は第3化合物半導体層(活性層)の長さよりも短い構成とすることができる。第2電極の第1部分と第2部分の配置状態として、具体的には、
(1)1つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分と、第2電極の第2部分とが、分離溝を挟んで配置されている状態
(2)1つの第2電極の第1部分と2つの第2電極の第2部分とが設けられ、第1部分の一端が、一方の分離溝を挟んで、一方の第2部分と対向し、第1部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第2部分と対向している状態
(3)2つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2部分の端部が、一方の分離溝を挟んで、一方の第1部分と対向し、第2部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第1部分と対向している状態(即ち、第2電極は、第2部分を第1部分で挟んだ構造)
を挙げることができる。また、広くは、
(4)N個の第2電極の第1部分と(N−1)個の第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分が第2電極の第2部分を挟んで配置されている状態
(5)N個の第2電極の第2部分と(N−1)個の第2電極の第1部分とが設けられ、第2電極の第2部分が第2電極の第1部分を挟んで配置されている状態
を挙げることができる。尚、(4)及び(5)の状態は、云い換えれば、
(4’)N個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]と(N−1)個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]とが設けられ、発光領域が可飽和吸収領域を挟んで配置されている状態
(5’)N個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]と(N−1)個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]とが設けられ、可飽和吸収領域が発光領域を挟んで配置されている状態
である。尚、(3)、(5)、(5’)の構造を採用することで、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面における損傷が発生し難くなる。
【0034】
モード同期半導体レーザ素子は、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、
(A)基体上に、第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体を形成した後、
(B)第2化合物半導体層上に帯状の第2電極を形成し、次いで、
(C)第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成した後、
(D)分離溝を第2電極に形成するためのレジスト層を形成し、次いで、レジスト層をウエットエッチング用マスクとして、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離する、
各工程を具備した製造方法に基づき製造することができる。
【0035】
そして、このような製造方法を採用することで、即ち、帯状の第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成するので、即ち、パターニングされた第2電極をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジストライプ構造を形成するので、第2電極とリッジストライプ構造との間に合わせずれが生じることがない。また、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成する。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層に光学的、電気的特性の劣化が生じることを抑制することができる。それ故、発光特性に劣化が生じることを、確実に防止することができる。
【0036】
尚、工程(C)にあっては、第2化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層を厚さ方向に全部、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層を厚さ方向にエッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層、更には、第1化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよい。
【0037】
更には、前記工程(D)において、第2電極に分離溝を形成する際の、第2電極のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。ER0/ER1がこのような関係を満足することで、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極を確実にエッチングすることができる。
【0038】
また、以上に説明した好ましい構成、形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、積層構造体は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成る構成とすることができる。ここで、AlGaInN系化合物半導体として、より具体的には、GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNを挙げることができる。更には、これらの化合物半導体に、所望に応じて、ホウ素(B)原子やタリウム(Tl)原子、ヒ素(As)原子、リン(P)原子、アンチモン(Sb)原子が含まれていてもよい。また、発光領域(利得領域)及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)は、量子井戸構造を有することが望ましい。具体的には、単一量子井戸構造[QW構造]を有していてもよいし、多重量子井戸構造[MQW構造]を有していてもよい。量子井戸構造を有する第3化合物半導体層(活性層)は、井戸層及び障壁層が、少なくとも1層、積層された構造を有するが、(井戸層を構成する化合物半導体,障壁層を構成する化合物半導体)の組合せとして、(InyGa(1-y)N,GaN)、(InyGa(1-y)N,InzGa(1-z)N)[但し、y>z]、(InyGa(1-y)N,AlGaN)を例示することができる。
【0039】
更には、上記の好ましい構成、形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、第2化合物半導体層は、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有し;超格子構造の厚さは0.7μm以下である構造とすることができる。このような超格子構造の構造を採用することで、クラッド層として必要な高屈折率を維持しながら、モード同期半導体レーザ素子の直列抵抗成分を下げることができ、モード同期半導体レーザ素子の低動作電圧化につながる。尚、超格子構造の厚さの下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができるし、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計として、60層乃至300層を例示することができる。また、第3化合物半導体層から第2電極までの距離は1μm以下、好ましくは、0.6μm以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層から第2電極までの距離を規定することで、抵抗の高いp型の第2化合物半導体層の厚さを薄くし、モード同期半導体レーザ素子の動作電圧の低減化を達成することができる。尚、第3化合物半導体層から第2電極までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができる。また、第2化合物半導体層には、Mgが、1×1019cm-3以上、ドーピングされており;第3化合物半導体層からの波長405nmの光に対する第2化合物半導体層の吸収係数は、少なくとも50cm-1である構成とすることができる。このMgの原子濃度は、2×1019cm-3の値で最大の正孔濃度を示すという材料物性に由来しており、最大の正孔濃度、即ち、この第2化合物半導体層の比抵抗が最小になるように設計された結果である。第2化合物半導体層の吸収係数は、モード同期半導体レーザ素子の抵抗を出来るだけ下げるという観点で規定されているものであり、その結果、第3化合物半導体層の光の吸収係数が、50cm-1となるのが一般的である。しかし、この吸収係数を上げるために、Mgドープ量を故意に2×1019cm-3以上の濃度に設定することも可能である。この場合には、実用的な正孔濃度が得られる上での上限のMgドープ量は、例えば8×1019cm-3である。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層、及び、p型化合物半導体層を有しており;第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離は、1.2×10-7m以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離を規定することで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制することができ、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させることができる。尚、第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、5×10-8mを挙げることができる。また、リッジ部の両側面には、SiO2/Si積層構造から成る積層絶縁膜が形成されており;リッジ部の有効屈折率と積層絶縁膜の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2である構成とすることができる。このような積層絶縁膜を用いることで、100ミリワットを超える高出力動作であっても、単一基本横モードを維持することができる。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、例えば、ノンドープGaInN層(p側光ガイド層)、ノンドープAlGaN層(p側クラッド層)、MgドープAlGaN層(電子障壁層)、GaN層(Mgドープ)/AlGaN層の超格子構造(超格子クラッド層)、及び、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が積層されて成る構造とすることができる。第3化合物半導体層における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは、2.4eV以上であることが望ましい。また、第3化合物半導体層(活性層)から出射されるレーザ光の波長は、360nm乃至500nm、好ましくは400nm乃至410nmであることが望ましい。ここで、以上に説明した各種の構成を、適宜、組み合わせることができることは云うまでもない。
【0040】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、モード同期半導体レーザ素子を構成する各種のGaN系化合物半導体層を基板に順次形成するが、ここで、基板として、サファイア基板の他にも、GaAs基板、GaN基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl24基板、InP基板、Si基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。主に、GaN系化合物半導体層を基板に形成する場合、GaN基板が欠陥密度の少なさから好まれるが、GaN基板は成長面によって、極性/無極性/半極性と特性が変わることが知られている。また、モード同期半導体レーザ素子を構成する各種のGaN系化合物半導体層の形成方法として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法,MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法等を挙げることができる。
【0041】
ここで、MOCVD法における有機ガリウム源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)ガスやトリエチルガリウム(TEG)ガスを挙げることができるし、窒素源ガスとして、アンモニアガスやヒドラジンガスを挙げることができる。また、n型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、n型不純物(n型ドーパント)としてケイ素(Si)を添加すればよいし、p型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、p型不純物(p型ドーパント)としてマグネシウム(Mg)を添加すればよい。また、GaN系化合物半導体層の構成原子としてアルミニウム(Al)あるいはインジウム(In)が含まれる場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いればよいし、In源としてトリメチルインジウム(TMI)ガスを用いればよい。更には、Si源としてモノシランガス(SiH4ガス)を用いればよいし、Mg源としてシクロペンタジエニルマグネシウムガスやメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いればよい。尚、n型不純物(n型ドーパント)として、Si以外に、Ge、Se、Sn、C、Te、S、O、Pd、Poを挙げることができるし、p型不純物(p型ドーパント)として、Mg以外に、Zn、Cd、Be、Ca、Ba、C、Hg、Srを挙げることができる。
【0042】
第1導電型をn型とするとき、n型の導電型を有する第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、タングステン(W)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、錫(Sn)及びインジウム(In)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましく、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Pt/Auを例示することができる。第1電極は第1化合物半導体層に電気的に接続されているが、第1電極が第1化合物半導体層上に形成された形態、第1電極が導電材料層や導電性の基板を介して第1化合物半導体層に接続された形態が包含される。第1電極や第2電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD法にて成膜することができる。
【0043】
第1電極や第2電極上に、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、パッド電極を設けてもよい。パッド電極は、Ti(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましい。あるいは又、パッド電極を、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。
【0044】
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子においては、前述したとおり、第1電極と第2部分との間に逆バイアス電圧を印加する構成(即ち、第1電極を正極、第2部分を負極とする構成)とすることが望ましい。尚、第2電極の第2部分には、第2電極の第1部分に印加するパルス電流あるいはパルス電圧と同期したパルス電流あるいはパルス電圧を印加してもよいし、直流バイアスを印加してもよい。また、第2電極から発光領域を経由して第1電極に電流を流し、且つ、第2電極から発光領域を経由して第1電極に外部電気信号を重畳させる形態とすることができる。そして、これによって、レーザ光パルスと外部電気信号との間の同期を取ることができる。あるいは又、積層構造体の一端面から光信号を入射させる形態とすることができる。そして、これによっても、レーザ光パルスと光信号との間の同期を取ることができる。また、第2化合物半導体層において、第3化合物半導体層と電子障壁層との間には、ノンドープ化合物半導体層(例えば、ノンドープGaInN層、あるいは、ノンドープAlGaN層)を形成してもよい。更には、第3化合物半導体層とノンドープ化合物半導体層との間に、光ガイド層としてのノンドープGaInN層を形成してもよい。第2化合物半導体層の最上層を、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が占めている構造とすることもできる。
【0045】
本発明の半導体レーザ装置組立体を、例えば、光ディスクシステム、通信分野、光情報分野、光電子集積回路、非線形光学現象を応用した分野、光スイッチ、レーザ計測分野や種々の分析分野、超高速分光分野、多光子励起分光分野、質量分析分野、多光子吸収を利用した顕微分光の分野、化学反応の量子制御、ナノ3次元加工分野、多光子吸収を応用した種々の加工分野、医療分野、バイオイメージング分野といった分野に適用することができる。
【実施例1】
【0046】
実施例1は、本発明の第1の態様に係る半導体レーザ装置組立体に関する。実施例1の半導体レーザ装置組立体の概念図を図1の(A)に示し、実施例1の半導体レーザ装置組立体における回折格子の部分を拡大した模式図を図1の(B)及び(C)に示す。また、実施例1におけるモード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図(XZ平面にて切断したときの模式的な端面図)を図2に示し、共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図(YZ平面にて切断したときの模式的な断面図)を図3に示す。尚、図2は、図3の矢印I−Iに沿った模式的な端面図であり、図3は、図2の矢印II−IIに沿った模式的な断面図である。
【0047】
実施例1の半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子10、及び、
(B)外部共振器を構成し、1次以上の回折光(実施例1においては、具体的には、1次の回折光)をモード同期半導体レーザ素子10に戻し、0次の回折光を外部に出力する回折格子100、
を備えている。ここで、回折格子100は、外部共振器を構成し、且つ、アウトプットカプラとして機能し、更には、波長選択素子として機能する。そして、モード同期半導体レーザ素子10と回折格子100との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段101を有する。
【0048】
発光波長405nm帯の実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10は、第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子から成り、しかも、バイ・セクション型半導体レーザ素子から成る。ここで、バイ・セクション型半導体レーザ素子は、
(a)第1導電型(実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4においては、具体的には、n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4においては、具体的には、p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層50上に形成された帯状の第2電極62、並びに、
(c)第1化合物半導体層30に電気的に接続された第1電極61、
を備えている。
【0049】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10は、具体的には、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造)を有する半導体レーザ素子である。より具体的には、このモード同期半導体レーザ素子10は、ブルーレイ光ディスクシステム用に開発されたインデックスガイド型のAlGaInNから成るGaN系半導体レーザ素子であり、リッジ構造(リッジストライプ構造)を有する。そして、第1化合物半導体層30、第3化合物半導体層40、及び、第2化合物半導体層50は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、以下の表1に示す層構成を有する。ここで、表1において、下方に記載した化合物半導体層ほど、n型GaN基板21に近い層である。尚、第3化合物半導体層40における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。尚、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10は、n型GaN基板21の(0001)面上に設けられており、第3化合物半導体層40は量子井戸構造を有する。n型GaN基板21の(0001)面は、『C面』とも呼ばれ、極性を有する結晶面である。
【0050】
[表1]
第2化合物半導体層50
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)55
p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層54
p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)53
ノンドープAlGaNクラッド層52
ノンドープGaInN光ガイド層51
第3化合物半導体層40
GaInN量子井戸活性層
(井戸層:Ga0.92In0.08N/障壁層:Ga0.98In0.02N)
第1化合物半導体層30
n型GaNクラッド層32
n型AlGaNクラッド層31
但し、
井戸層(2層) 10.5nm ノン・ドープ
障壁層(3層) 14nm ノン・ドープ
【0051】
また、p型GaNコンタクト層55及びp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の一部は、RIE法にて除去されており、リッジ構造(リッジ部56)が形成されている。リッジ部56の両側にはSiO2/Siから成る積層絶縁膜57が形成されている。尚、SiO2層が下層であり、Si層が上層である。ここで、リッジ部56の有効屈折率と積層絶縁膜57の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2、具体的には、7×10-3である。そして、リッジ部56の頂面に相当するp型GaNコンタクト層55上には、第2電極(p側オーミック電極)62が形成されている。一方、n型GaN基板21の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。
【0052】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10にあっては、第3化合物半導体層40及びその近傍から発生した光密度分布に、Mgドープした化合物半導体層である、p型AlGaN電子障壁層53、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層54及びp型GaNコンタクト層55が出来るだけ重ならないようにすることで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制している。そして、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させている。具体的には、第3化合物半導体層40からp型AlGaN電子障壁層53までの距離dを0.10μm、リッジ部(リッジ構造)の高さを0.30μm、第2電極62と第3化合物半導体層40との間に位置する第2化合物半導体層50の厚さを0.50μm、第2電極62の下方に位置するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の部分の厚さを0.40μmとした。
【0053】
そして、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10において、第2電極62は、発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分62Aと、可飽和吸収領域42に電界を加えるための第2部分62B(可飽和吸収領域42に逆バイアス電圧Vsaを加えるための第2部分62B)とに、分離溝62Cによって分離されている。ここで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(『分離抵抗値』と呼ぶ場合がある)は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の1×10倍以上、具体的には1.5×103倍である。また、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(分離抵抗値)は、1×102Ω以上、具体的には、1.5×104Ωである。
【0054】
また、実施例1あるいは後述する実施例2の半導体レーザ装置組立体において、回折格子100は、ホログラフィック型の回折格子から成り、溝が3600本/mm、形成されている。
【0055】
図12の(A)に示すように、波長λの光が反射型の回折格子に角度αで入射し、角度βで回折するものとする。ここで、角度α,βは回折格子の法線からの角度であり、反時計回りを正とする。するとグレーティング方程式は次のとおりとなる。ここで、Nは、回折格子1mm当たりの溝の本数(回折格子周期の逆数)であり、mは回折次数(m=0,±1,±2・・・である。
sin(α)+sin(β)=N・m・λ
【0056】
溝の斜面に対して、入射光とm次の回折光が鏡面反射の関係にあるとき、m次の回折光にエネルギーの大部分が集中する。このときの溝の傾きをブレーズ角と呼び、θBで表すと、
θB=(α+β)/2
となる。また、このときの波長をブレーズ波長といい、λBと表すと、
λB={2/(N・m)}sin(θB)・cos(α−θB
となる。ここで、図12の(B)に示すように、入射光の方向に+1次の回折光が戻るときの波長をλ1で表すと、このとき、α=β=βBとなるので、結局、
λ1=(2/N)sin(θB) (A)
となる。このときの配置がリトロー配置と呼ばれる。
【0057】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10において、結像手段101と対向する光出射端面には、無反射コート層(AR)が形成されている。一方、モード同期半導体レーザ素子10における光出射端面と対向する端面には、高反射コート層(HR)が形成されている。可飽和吸収領域42は、モード同期半導体レーザ素子10における光出射端面と対向する端面の側に設けられている。無反射コート層(低反射コート層)として、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造を挙げることができる。
【0058】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4におけるモード同期半導体レーザ素子10のパルス繰返し周波数を1GHzとした。尚、外部共振器長さX’によって光パルス列の繰り返し周波数fが決定され、次式で表される。ここで、cは光速であり、nは導波路の屈折率である。
f=c/(2n・X’)
【0059】
実施例1の半導体レーザ装置組立体において、結像手段101は、正のパワーを有するレンズ、具体的には、焦点距離4.5mmの非球面の凸レンズから成る。また、モード同期半導体レーザ素子10の光出射端面に対向する端面と回折格子100との間の距離(X’)は150mmである。ここで、実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面におけるレーザ光の横方向の長さをL1、回折格子上に結したモード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像の横方向の長さをL2としたとき、
1=1.6μm
2=53μm
であり、
20≦L2/L1≦50
を満足している。
【0060】
ところで、モード同期半導体レーザ素子10から出射されるレーザ光の波長は或る波長範囲を有する。そして、実施例1においては、回折格子100を回動させる回動装置(図示せず)を備えている。ここで、回動装置は圧電素子から構成され、圧電素子に電圧を印加することで生じる圧電素子の変位によって、回折格子100を回動させる。回動装置によって、回折格子100は、図1の紙面に垂直な軸線(図示せず)を中心として回動させられる。尚、図1の(C)には、回折格子100を回動させる前に回折格子100に入射角ψ0にて入射したレーザ光を実線で示し、回折格子100から出力された0次の回折光を点線で示し、回折格子100を時計方向にθ0度回動させた後の回折格子100から出力された0次の回折光を実線で示す。そして、回折格子100の回動の結果、上記の式(A)におけるθBに変化が生じ、λ1に変化が生じる。即ち、1次の回折光をモード同期半導体レーザ素子10に戻すが、この1次の回折光の波長を変えることができ、回折格子100は波長選択素子として機能する。こうして、回動装置の作動による回折格子100の回動によって、モード同期半導体レーザ素子に戻すべきレーザ光の波長を制御することができる。更には、回折格子100から出力された0次の回折光を反射する反射鏡102を更に備え、回動装置の作動による回折格子100の回動に起因した、反射鏡102によって反射された0次の回折光の光路のずれを補正する補正機構(図示せず)を更に備えている。補正機構は、具体的には、圧電素子から成る。反射鏡102によって反射されたレーザ光(0次の回折光)は、コリメートレンズ103によってコリメートされて、平行光束とされ、レーザ出力として供される。
【0061】
回折格子100の角度を変えて選択波長を変化させると、これに伴い、図1の(C)に図示するように、0次の回折光が出力される方向が変化する。そこで、回折格子100と平行な関係を保持する反射鏡102を配置し、波長選択に伴う0次の回折光の変化を抑制する。回折格子100と平行に設置された反射鏡102は、回折格子100との間の距離が次式(B)に従うように調整される補正機構を備えており、回折格子100の角度変化に伴う0次の回折光の出射位置の変化を補正することができる。具体的には、補正機構によって、反射鏡102は、図1の紙面に垂直な軸線(図示せず)を中心として回動させられ、回折格子100と平行な位置関係を維持し、しかも、反射鏡102は回折格子100の方向に平行移動せられる。
【0062】
0・sin(ψ0)/sin(θ0+ψ0) (B)
【0063】
ここで、
0:基準とする波長が出力されるときの回折格子100と反射鏡102との間の距離(間隔)
ψ0:基準とするとする波長が出力されるときの回折格子100へのレーザ光の入射角
θ0:基準とする波長に対する回折格子100の角度変化量
である。
【0064】
回折格子100に入射する光束と反射鏡102から出射する光束は互いに平行であり、それぞれの光束の間隔は次式で与えられる。
2d0・sin(ψ0+θ0
光束の間隔はθ0に依存するため、θ0の変化に応じて光束の間隔が変化しないように回折格子100と反射鏡102を、互いに平行な関係を保持しつつ、その間隔を変化させればよく、これは上記の式(B)で与えられる。反射鏡102を回折格子100の方向に平行移動するためには、例えば、反射鏡102を回折格子100と同じ回動する台の上に配置し、回動台の回動に合わせて回折格子100との間隔が上式(B)を満足するように、圧電素子等を用いて反射鏡102を動かせばよい。
【0065】
回折格子100からモード同期半導体レーザ素子10に戻るレーザ光は、回折格子100によって空間的に分散されるため、上述したとおり、回折格子100の角度θ0を適宜設定することでモード同期半導体レーザ素子10に戻されるレーザ光の波長を選択することができる。そして、回折格子100からの0次の回折光(回折格子100における反射光)を、外部共振器としての回折格子100から、出力として取り出す。
【0066】
モード同期半導体レーザ素子10の共振器長を600μm、第2電極62の第1部分62A、第2部分62B、分離溝62Cのそれぞれの長さを、580μm、10μm、10μmとした。このようなモード同期半導体レーザ素子10を備えた実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、第2電極62の第1部分62Aに流す電流を90ミリアンペア、第2電極62の第1部分62Aに印加する逆バイアス電圧を18ボルトとしたとき、12.2ミリワットの平均パワーが得られた。
【0067】
一方、同じモード同期半導体レーザ素子10を用い、同じ駆動条件において、図13に示すようなバンドパスフィルター(Δλ=0.8nm)と部分透過ミラー(反射率20%)の組合せから成る半導体レーザ装置組立体にあっては、7.7ミリワットの平均パワーが得られたに過ぎなかった。
【0068】
実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段を有する。即ち、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面から出射され、回折格子に入射するレーザ光は平行光束ではない。それ故、モード同期動作が不安定になることを抑制することができる。
【0069】
ところで、上述したとおり、第2化合物半導体層50上に、1×102Ω以上の分離抵抗値を有する2電極62を形成することが望ましい。GaN系半導体レーザ素子の場合、従来のGaAs系半導体レーザ素子とは異なり、p型導電型を有する化合物半導体における移動度が小さいために、p型導電型を有する第2化合物半導体層50をイオン注入等によって高抵抗化することなく、その上に形成される第2電極62を分離溝62Cで分離することで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を1×102Ω以上とすることが可能となる。
【0070】
ここで、第2電極62に要求される特性は、以下のとおりである。即ち、
(1)第2化合物半導体層50をエッチングするときのエッチング用マスクとしての機能を有すること。
(2)第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化を生じさせることなく、第2電極62はウエットエッチング可能であること。
(3)第2化合物半導体層50上に成膜したとき、10-2Ω・cm2以下のコンタクト比抵抗値を示すこと。
(4)積層構造とする場合、下層金属層を構成する材料は、仕事関数が大きく、第2化合物半導体層50に対して低いコンタクト比抵抗値を示し、しかも、ウエットエッチング可能であること。
(5)積層構造とする場合、上層金属層を構成する材料は、リッジ構造を形成する際のエッチングに対して(例えば、RIE法において使用されるCl2ガス)に対して耐性があり、しかも、ウエットエッチング可能であること。
【0071】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例4にあっては、第2電極62を厚さ0.1μmのPd単層から構成した。
【0072】
尚、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層54の厚さは0.7μm以下、具体的には、0.4μmであり、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さは2.5nmであり、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さは2.5nmであり、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計は160層である。また、第3化合物半導体層40から第2電極62までの距離は1μm以下、具体的には0.5μmである。更には、第2化合物半導体層50を構成するp型AlGaN電子障壁層53、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層54、p型GaNコンタクト層55には、Mgが、1×1019cm-3以上(具体的には、2×1019cm-3)、ドーピングされており、波長405nmの光に対する第2化合物半導体層50の吸収係数は、少なくとも50cm-1、具体的には、65cm-1である。また、第2化合物半導体層50は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層(ノンドープGaInN光ガイド層51及びノンドープAlGaNクラッド層52)、並びに、p型化合物半導体層を有しているが、第3化合物半導体層40からp型化合物半導体層(具体的には、p型AlGaN電子障壁層53)までの距離(d)は1.2×10-7m以下、具体的には100nmである。
【0073】
以下、図9の(A)、(B)、図10の(A)、(B)、図11を参照して、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3におけるモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明する。尚、図9の(A)、(B)、図10の(A)、(B)は、基板等をYZ平面にて切断したときの模式的な一部断面図であり、図11は、基板等をXZ平面にて切断したときの模式的な一部端面図である。
【0074】
[工程−100]
先ず、基体上、具体的には、n型GaN基板21の(0001)面上に、周知のMOCVD法に基づき、第1導電型(n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層40)、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体を形成する(図9の(A)参照)。
【0075】
[工程−110]
その後、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成する。具体的には、真空蒸着法に基づきPd層63を全面に成膜した後(図9の(B)参照)、Pd層63上に、フォトリソグラフィ技術に基づき帯状のエッチング用レジスト層を形成する。そして、王水を用いて、エッチング用レジスト層に覆われていないPd層63を除去した後、エッチング用レジスト層を除去する。こうして、図10の(A)に示す構造を得ることができる。尚、リフトオフ法に基づき、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成してもよい。
【0076】
[工程−120]
次いで、第2電極62をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして(具体的には、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして)、リッジ構造を形成する。具体的には、Cl2ガスを用いたRIE法に基づき、第2電極62をエッチング用マスクとして用いて、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングする。こうして、図10の(B)に示す構造を得ることができる。このように、帯状にパターニングされた第2電極62をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジ構造を形成するので、第2電極62とリッジ構造との間に合わせずれが生じることがない。
【0077】
[工程−130]
その後、分離溝を第2電極62に形成するためのレジスト層64を形成する(図11参照)。尚、参照番号65は、分離溝を形成するために、レジスト層64に設けられた開口部である。次いで、レジスト層64をウエットエッチング用マスクとして、第2電極62に分離溝62Cをウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極62を第1部分62Aと第2部分62Bとに分離溝62Cによって分離する。具体的には、王水をエッチング液として用い、王水に約10秒、全体を浸漬することで、第2電極62に分離溝62Cを形成する。そして、その後、レジスト層64を除去する。こうして、図2及び図3に示す構造を得ることができる。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化が生じることがない。それ故、モード同期半導体レーザ素子の発光特性に劣化が生じることがない。尚、ドライエッチング法を採用した場合、第2化合物半導体層50の内部損失αiが増加し、閾値電圧が上昇したり、光出力の低下を招く虞がある。ここで、第2電極62のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、
ER0/ER1≒1×102
である。このように、第2電極62と第2化合物半導体層50との間に高いエッチング選択比が存在するが故に、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極62を確実にエッチングすることができる。尚、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。
【0078】
第2電極を、厚さ20nmのパラジウム(Pd)から成る下層金属層と、厚さ200nmのニッケル(Ni)から成る上層金属層の積層構造としてもよい。ここで、王水によるウエットエッチングにあっては、ニッケルのエッチングレートは、パラジウムのエッチングレートの約1.25倍である。
【0079】
[工程−140]
その後、n側電極の形成、基板の劈開等を行い、更に、パッケージ化を行うことで、モード同期半導体レーザ素子10を作製することができる。
【0080】
一般に、半導体層の抵抗R(Ω)は、半導体層を構成する材料の比抵抗値ρ(Ω・m)、半導体層の長さX0(m)、半導体層の断面積S(m2)、キャリア密度n(cm-3)、電荷量e(C)、移動度μ(m2/V秒)を用いて以下のように表される。
【0081】
R=(ρ・X0)/S
=X0/(n・e・μ・S)
【0082】
p型GaN系半導体の移動度は、p型GaAs系半導体に比べて、2桁以上小さいため、電気抵抗値が高くなり易い。よって、幅1.5μm、高さ0.35μmといった断面積が小さいリッジ構造を有する半導体レーザ素子の電気抵抗値は、上式から、大きな値となることが判る。
【0083】
製作したモード同期半導体レーザ素子10の第2電極62の第2部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を4端子法にて測定した結果、分離溝62Cの幅が20μmのとき、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は15kΩであった。また、製作したモード同期半導体レーザ素子10において、第2電極62の第1部分62Aから発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極61と第2電極62の第2部分62Bとの間に逆バイアス電圧Vsaを印加することによって可飽和吸収領域42に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作させることができた。即ち、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上であり、あるいは又、1×102Ω以上である。従って、第2電極62の第1部分62Aから第2部分62Bへの漏れ電流の流れを確実に抑制することができる結果、発光領域41を順バイアス状態とし、しかも、可飽和吸収領域42を確実に逆バイアス状態とすることができ、確実にシングルモードのセルフ・パルセーション動作を生じさせることができた。
【実施例2】
【0084】
実施例2は、本発明の第2の態様に係る半導体レーザ装置組立体に関する。実施例2の半導体レーザ装置組立体の概念図を図4の(A)に示し、実施例2の半導体レーザ装置組立体における回折格子の部分を拡大した模式図を図4の(B)及び(C)に示す。
【0085】
実施例2の半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子10、
(B)0次の回折光を外部に出力する回折格子100、及び、
(C)回折格子100からの1次以上の回折光を反射し、回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻す反射鏡から成る外部共振器110、
を備えており、
モード同期半導体レーザ素子10と回折格子100の間に、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光を外部共振器110上で焦点を結ばせる結像手段101を有する。ここで、回折格子100はアウトプットカプラとして機能し、回折格子100及び外部共振器110は波長選択素子として機能する。
【0086】
実施例2の半導体レーザ装置組立体において、結像手段101は、正のパワーを有するレンズ、具体的には、凸レンズから成る。また、外部共振器110を構成する反射鏡は凹面鏡から成る。尚、凹面鏡の曲率半径は、回折格子100から凹面鏡までの距離と等しい。即ち、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光が入射(衝突)する回折格子100の領域に凹面鏡の曲率中心が含まれる。更には、回折格子100と外部共振器110との間には、外部共振器110へのレーザ光の入射を規制する複数のアパーチャ111が配されている。アパーチャ111は、具体的には、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置112から成る。また、回折格子100によって外部に出力されたレーザ光(0次の回折光)は、必要に応じて反射鏡102によって反射され、コリメートレンズ103によってコリメートされて、平行光束とされ、レーザ出力として供される。
【0087】
モード同期半導体レーザ素子10から出射されるレーザ光の波長は或る波長範囲を有する。従って、回折格子100において回折された1次の回折光は、モード同期半導体レーザ素子10から出射されるレーザ光の波長に依存して、図4の(C)に示すように、多数の領域で外部共振器110に衝突し得る。ここで、図4の(C)に示すように、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置112の所望のセグメント111においてレーザ光を透過させることによって、モード同期半導体レーザ素子10から出射された、所望の波長を有するレーザ光のみが、凹面鏡から成る外部共振器110に衝突し、外部共振器110によって反射され、透過型液晶表示装置112の所望のセグメント111を再び通過し、回折格子100に衝突し、モード同期半導体レーザ素子10に戻される。このように、アパーチャ111を選択することで、モード同期半導体レーザ素子10に戻すべきレーザ光の波長を制御することができる。
【0088】
実施例2の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と回折格子の間に、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を外部共振器上で焦点を結ばせる結像手段を有する。即ち、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面から出射され、回折格子に入射(衝突)するレーザ光は平行光束ではない。それ故、モード同期動作が不安定になることを抑制することができる。また、モード同期半導体レーザ素子から出射され、回折格子に衝突するレーザ光の面積を、実施例1よりも広くすることができ、回折効率の向上を図ることができるし、波長選択性も実施例1より拡大する。また、可動機構も不要である。
【実施例3】
【0089】
実施例3は、本発明の第3の態様に係る半導体レーザ装置組立体に関する。実施例3の半導体レーザ装置組立体の概念図を図5の(A)に示す。
【0090】
実施例3の半導体レーザ装置組立体は、
(A)モード同期半導体レーザ素子10、
(B)外部共振器120、
(C)モード同期半導体レーザ素子10と外部共振器120の間に配置され、膜厚を連続的に変化させたバンドパスフィルター121、及び、
(D)バンドパスフィルター121を移動させる移動装置122、
を備えている。
【0091】
そして、バンドパスフィルター121に衝突したレーザ光の一部は、出力光1(図5の(A)参照)として、外部に出力される。図5の(A)に示した例では、外部に出力されたレーザ光(出力光1)は、反射鏡125によって反射され、所望の領域に導出される。一方、バンドパスフィルター121に衝突したレーザ光の残部は、バンドパスフィルター121を通過し、外部共振器120に入射し、外部共振器120で反射され、バンドパスフィルター121を通過してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。尚、バンドパスフィルター121を通過してモード同期半導体レーザ素子10に戻されるレーザ光の一部は、バンドパスフィルター121によって反射される。このときのバンドパスフィルター121によって反射されたレーザ光の出射方向は、出力光1の出射方向と反対向きの方向であり、このようなバンドパスフィルター121によって反射されたレーザ光は、例えば、光検出器から構成されたモニター出力光として用いることができる。尚、参照番号124は、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光を平行光とするためのレンズを示す。
【0092】
バンドパスフィルター121は、例えば、低誘電率を有する誘電体薄膜と、高誘電率を有する誘電体薄膜とを積層することで得ることができるし、膜厚の連続的な変化は、例えば、斜めスパッタリング法等に基づき誘電体薄膜を成膜することで達成することができる。
【0093】
移動装置122は圧電素子から成り、圧電素子に電圧を印加することで生じる圧電素子の変位によって、バンドパスフィルター121を、図5の(A)の矢印の方向に移動させる。このように、バンドパスフィルター121を移動させることで、誘電体薄膜積層体における異なる膜厚の領域に、モード同期半導体レーザ素子10から出射したレーザ光を衝突させることができるので、出力光1の波長を選択することができる。即ち、バンドパスフィルター121は波長選択素子として機能し、しかも、アウトプットカプラとしても機能する。尚、波長選択に伴う出力光の方向、位置ずれは生じない。
【0094】
従来の技術にあっては、モード同期半導体レーザ素子における波長選択素子としてバンドパスフィルターを用いると、予想外の光損失を与えることが判明したが、この光損失は、主に、バンドパスフィルターからの反射光に起因するものであり、この反射光はモード同期半導体レーザ素子への戻り光である。一方、実施例3にあっては、波長選択素子であるバンドパスフィルターからの反射光を出力光1として取り出すことで、強い平均光出力、例えば、従来の技術と比較して1.5倍乃至2倍程度、強い平均光出力を得ることができる。
【0095】
尚、外部共振器120を、例えば、反射率20%程度の部分透過ミラー(半透過ミラー、ハーフミラー)から構成してもよく、これによって、外部共振器120に衝突したレーザ光の一部を外部に取り出すことができる(図5の(A)においては、出力光2で示す)。例えば、第2電極62の第1部分62Aに流す電流を110ミリアンペア、第2電極62の第1部分62Aに印加する逆バイアス電圧を13ボルトとしたとき、出力光1の光出力が20ミリワット、出力光2の光出力が10ミリワットといった平均光出力を得ることができた。
【0096】
モード同期半導体レーザ素子10と外部共振器120との間に、具体的には、外部共振器120とバンドパスフィルター121との間に、モード同期半導体レーザ素子10の光出射端面の像を外部共振器上に結像させる、正のパワーを有するレンズ、具体的には、凸レンズから成る結像手段123を配置してもよく(図5の(B)参照)、このような結像手段123を配置することで、モード同期動作をより一層安定させることができる。
【0097】
実施例3の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に配置され、膜厚を連続的に変化させたバンドパスフィルター、及び、バンドパスフィルターを移動させる移動装置を備えている。それ故、モード同期半導体レーザ素子の駆動条件(注入電流や逆バイアス電圧)に依存してチャーピングの量が変化しても、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面から出射されたレーザ光の、バンドパスフィルターに衝突する位置を変化させることができるので、モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光に対するバンドパスフィルターの特性の最適化を図ることができ、大きな出力を得ることが可能となる。
【実施例4】
【0098】
実施例4は実施例1において説明したモード同期半導体レーザ素子の変形であり、第3の構成のモード同期半導体レーザ素子に関する。実施例1においては、モード同期半導体レーザ素子10を、極性を有する結晶面であるn型GaN基板21の(0001)面、C面上に設けた。ところで、このような基板を用いた場合、活性層40にピエゾ分極及び自発分極に起因した内部電界によるQCSE効果(量子閉じ込めシュタルク効果)によって、電気的に可飽和吸収が制御し難くなる場合がある。即ち、場合によっては、セルフ・パルセーション動作及びモード同期動作を得るために第1電極に流す直流電流の値及び可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧の値を高くする必要が生じたり、メインパルスに付随したサブパルス成分が発生したり、外部信号と光パルスとの間での同期が取り難くなることが判った。
【0099】
そして、このような現象の発生を防止するためには、活性層40を構成する井戸層の厚さの最適化、活性層40を構成する障壁層における不純物ドーピング濃度の最適化を図ることが好ましいことが判明した。
【0100】
具体的には、GaInN量子井戸活性層を構成する井戸層の厚さを、1nm以上、10.0nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下とすることが望ましい。このように井戸層の厚さを薄くすることによって、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。また、障壁層の不純物ドーピング濃度を、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下とすることが望ましい。ここで、不純物として、シリコン(Si)あるいは酸素(O)を挙げることができる。そして、障壁層の不純物ドーピング濃度をこのような濃度とすることで、活性層のキャリアの増加を図ることができる結果、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。
【0101】
実施例4においては、表2に示した層構成における3層の障壁層(Ga0.98In0.02Nから成る)と2層の井戸層(Ga0.92In0.08N)から成るGaInN量子井戸活性層から構成された活性層40の構成を以下のとおりとした。また、参考例4のモード同期半導体レーザ素子においては、表2に示した層構成における活性層40の構成を以下のとおりとした。具体的には、実施例1と同じ構成とした。
【0102】
[表2]
実施例4 参考例4
井戸層 8nm 10.5nm
障壁層 12nm 14nm
井戸層の不純物ドーピング濃度 ノン・ドープ ノン・ドープ
障壁層の不純物ドーピング濃度 Si:2×1018cm-3 ノン・ドープ
【0103】
実施例4においては井戸層の厚さが8nmであり、また、障壁層にはSiが2×1018cm-3、ドーピングされており、活性層内のQCSE効果が緩和されている。一方、参考例4においては井戸層の厚さが10.5nmであり、また、障壁層には不純物がドーピングされていない。
【0104】
モード同期は、実施例1と同様に、発光領域に印加する直流電流と可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧Vsaとによって決定される。実施例4及び参考例4の注入電流と光出力の関係(L−I特性)の逆バイアス電圧依存性を測定した。その結果、参考例4にあっては、逆バイアス電圧Vsaを増加していくと、レーザ発振が開始する閾値電流が次第に上昇し、更には、実施例4に比べて、低い逆バイアス電圧Vsaで変化が生じていることが判った。これは、実施例4の活性層の方が、逆バイアス電圧Vsaにより可飽和吸収の効果が電気的に制御されていることを示唆している。但し、参考例4にあっても、可飽和吸収領域に逆バイアスを印加した状態でシングルモード(単一基本横モード)のセルフ・パルセーション動作及びモード同期(モードロック)動作が確認されており、参考例4も本発明に包含されることは云うまでもない。
【0105】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した半導体レーザ装置組立体、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造の構成は例示であり、適宜、変更することができる。また、実施例においては、種々の値を示したが、これらも例示であり、例えば、使用する半導体レーザ素子の仕様が変われば、変わることは当然である。
【0106】
発光領域41や可飽和吸収領域42の数は1に限定されない。1つの第2電極の第1部分62Aと2つの第2電極の第2部分62B1,62B2とが設けられたモード同期半導体レーザ素子の模式的な端面図を図6に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、第1部分62Aの一端が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第2部分62B1と対向し、第1部分62Aの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第2部分62B2と対向している。そして、1つの発光領域41が、2つの可飽和吸収領域421,422によって挟まれている。あるいは又、2つの第2電極の第1部分62A1,62A2と1つの第2電極の第2部分62Bとが設けられたモード同期半導体レーザ素子の模式的な端面図を図7に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2部分62Bの端部が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第1部分62A1と対向し、第2部分62Bの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第1部分62A2と対向している。そして、1つの可飽和吸収領域42が、2つの発光領域411,412によって挟まれている。
【0107】
モード同期半導体レーザ素子を、斜め導波路を有する斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造の半導体レーザ素子とすることもできる。このようなモード同期半導体レーザ素子におけるリッジ部56’を上方から眺めた模式図を図8に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、直線状の2つのリッジ部が組み合わされた構造を有し、2つのリッジ部の交差する角度θの値は、例えば、
0<θ≦10(度)
好ましくは、
0<θ≦6(度)
とすることが望ましい。斜めリッジストライプ型を採用することで、無反射コートをされた端面の反射率を、より0%の理想値に近づけることができ、その結果、半導体レーザ内で周回してしまうレーザ光パルスの発生を防ぐことができ、メインのレーザ光パルスに付随するサブのレーザ光パルスの生成を抑制できるといった利点を得ることができる。
【0108】
実施例においては、モード同期半導体レーザ素子10を、n型GaN基板21の極性面であるC面,{0001}面上に設けたが、代替的に、{11−20}面であるA面、{1−100}面であるM面、{1−102}面といった無極性面上、あるいは又、{11−24}面や{11−22}面を含む{11−2n}面、{10−11}面、{10−12}面といった半極性面上に、モード同期半導体レーザ素子10を設けてもよく、これによって、モード同期半導体レーザ素子10の第3化合物半導体層にたとえピエゾ分極及び自発分極が生じた場合であっても、第3化合物半導体層の厚さ方向にピエゾ分極が生じることは無く、第3化合物半導体層の厚さ方向とは略直角の方向にピエゾ分極が生じるので、ピエゾ分極及び自発分極に起因した悪影響を排除することができる。尚、{11−2n}面とは、ほぼC面に対して40度を成す無極性面を意味する。また、無極性面上あるいは半極性面上にモード同期半導体レーザ素子10を設ける場合、実施例4にて説明したような、井戸層の厚さの制限(1nm以上、10nm以下)及び障壁層の不純物ドーピング濃度の制限(2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下)を無くすことが可能である。
【符号の説明】
【0109】
10・・・半導体レーザ素子、21・・・n型GaN基板、22・・・GaNバッファ層、30・・・第1化合物半導体層、31・・・n型AlGaNクラッド層、32・・・n型GaNクラッド層、40・・・第3化合物半導体層(活性層)、41,411,412・・・発光領域、42,421,422・・・可飽和吸収領域、50・・・第2化合物半導体層、51・・・ノンドープGaInN光ガイド層、52・・・ノンドープAlGaNクラッド層、53・・・p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)、54・・・p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層、55・・・p型GaNコンタクト層(Mgドープ)、56・・・リッジ部、57・・・積層絶縁膜、61・・・第1電極、62・・・第2電極、62A,62A1,62A2・・・第2電極の第1部分、62B,62B1,62B2・・・第2電極の第2部分、62C,62C1,62C2・・・分離溝、63・・・Pd単層、64・・・レジスト層、65・・・開口部、100・・・回折格子、101・・・結像手段、102・・・反射鏡、103・・・コリメートレンズ、110・・・外部共振器、111・・・アパーチャ、112・・・透過型液晶表示装置、120・・・外部共振器、121・・・バンドパスフィルター、122・・・移動装置、125・・・反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)モード同期半導体レーザ素子、及び、
(B)外部共振器を構成し、1次以上の回折光をモード同期半導体レーザ素子に戻し、0次の回折光を外部に出力する回折格子、
を備えた半導体レーザ装置組立体であって、
モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を回折格子上に結像させる結像手段を有する半導体レーザ装置組立体。
【請求項2】
回折格子を回動させる回動装置を更に備え、
回動装置の作動による回折格子の回動によって、モード同期半導体レーザ素子に戻すべきレーザ光の波長を制御する請求項1に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項3】
回折格子から出力された0次の回折光を反射する反射鏡を更に備え、
回動装置の作動による回折格子の回動に起因した、反射鏡によって反射された0次の回折光の光路のずれを補正する補正機構を更に備えている請求項2に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項4】
(A)モード同期半導体レーザ素子、
(B)0次の回折光を外部に出力する回折格子、及び、
(C)回折格子からの1次以上の回折光を反射し、回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻す反射鏡から成る外部共振器、
を備えた半導体レーザ装置組立体であって、
モード同期半導体レーザ素子と回折格子の間に、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を外部共振器上で焦点を結ばせる結像手段を有する半導体レーザ装置組立体。
【請求項5】
外部共振器を構成する反射鏡は凹面鏡から成る請求項4に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項6】
凹面鏡の曲率半径は、回折格子から凹面鏡までの距離と等しい請求項5に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項7】
回折格子と外部共振器との間には、外部共振器へのレーザ光の入射を規制する複数のアパーチャが配されている請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項8】
アパーチャは、多数のセグメントを有する透過型液晶表示装置から成る請求項7に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項9】
アパーチャを選択することで、モード同期半導体レーザ素子に戻すべきレーザ光の波長を制御する請求項7又は請求項8に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項10】
結像手段はレンズから成る請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項11】
(A)モード同期半導体レーザ素子、
(B)外部共振器、
(C)モード同期半導体レーザ素子と外部共振器の間に配置され、膜厚を連続的に変化させたバンドパスフィルター、及び、
(D)バンドパスフィルターを移動させる移動装置、
を備えた半導体レーザ装置組立体であって、
バンドパスフィルターに衝突したレーザ光の一部は外部に出力され、
バンドパスフィルターに衝突したレーザ光の残部は、バンドパスフィルターを通過し、外部共振器に入射し、外部共振器で反射され、バンドパスフィルターを通過してモード同期半導体レーザ素子に戻される半導体レーザ装置組立体。
【請求項12】
バンドパスフィルターを通過する位置に依存して、バンドパスフィルターを通過するレーザ光の波長が規定される請求項11に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項13】
外部共振器は部分透過ミラーから成る請求項11又は請求項12に記載の半導体レーザ装置組立体。
【請求項14】
モード同期半導体レーザ素子と外部共振器との間に、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面の像を外部共振器上に結像させる結像手段を有する請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−89776(P2012−89776A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237094(P2010−237094)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】