説明

半導体光素子及びその製造方法

【課題】ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして発光効率を向上させることができる半導体光素子、及び、その製造方法を得る。
【解決手段】本発明に係る半導体光素子は、量子ドット6aを含む活性層6を備えた半導体光素子である。そして、活性層6内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の量子ドット6aの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の量子ドット6aの密度よりも、相対的に大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信や光記録ディスクなどの光源として使用する半導体光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性層に量子ドットを形成した半導体レーザ(例えば、非特許文献1参照)や、吸収層に量子ドットを形成した導波路型受光素子(例えば、非特許文献2参照)が提案されている。また、共振器方向(光の進行方向)に垂直な面内において活性層内の量子ドットの密度を変化させた半導体レーザが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS, VOL.11, No.5, SEPTEMBER/OCTOBER 2005, pp1027-1034
【非特許文献2】IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL.35, NO.6, JUNE 1999, pp936-943
【特許文献1】特開平11−307860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体レーザの活性層内における光子の密度分布は、図17に示すように、回折格子の位相シフト領域の近傍で光子の密度は極大となる。即ち、活性層内において光子の密度分布は共振器方向において一様でない分布をもつ。これに対して、従来の半導体レーザでは、図18に示すように、活性層内の共振器方向において量子ドットの密度が一定であった。
【0005】
従って、活性層内の電子及びホールキャリアは光子の密度が大きい部分ではホールバーニングにより減少し、局所的な利得の低下が生じる。これにより、半導体レーザの発光効率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして発光効率を向上させることができる半導体光素子及びその製造方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る半導体光素子は、量子ドットを含む活性層を備えた半導体光素子であって、活性層内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の量子ドットの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の量子ドットの密度よりも相対的に大きい。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして発光効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体光素子を示す斜視図であり、図2は、図1の半導体光素子の共振器方向における断面図である。この半導体光素子は、量子ドットを含む活性層と、共振器内部に回折格子とを備えたリッジ型分布帰還型レーザである。
【0010】
図示のように、n−GaAs基板1上に、n−GaAsクラッド層2、n−AlGaAs回折格子3、n−GaAs回折格子埋込層4、AlGaAs光閉込層5、AlGaAs中にInAs量子ドットを有する活性層6、p−GaAsクラッド層7、p−GaAsクラッド層8、p−GaAsコンタクト層9が順番に形成されている。また、p−GaAsクラッド層8及びp−GaAsコンタクト層9にはリッジが形成されている。そして、p−GaAsコンタクト層9上及びリッジ内壁がSiO絶縁膜10により覆われている。また、SiO絶縁膜10の開口部を介してp−GaAsコンタクト層9に接続されるようにTi/Pt/Au電極(p側電極)11が形成されている。そして、n−GaAs基板1の裏面にTi/Pt/Au電極(n側電極)12が形成されている。
【0011】
図3は、本発明の実施の形態1に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。図示のように、光子の密度は、位相シフト領域13の近傍で大きくなっている。そこで、図4に示すように、n−AlGaAs回折格子3の位相シフト領域13の近傍において量子ドットの密度が相対的に大きくなるようにする。即ち、活性層内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の量子ドットの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の量子ドットの密度よりも相対的に大きくなるようにする。
【0012】
これにより、光子の密度が大きい部分において、利得を発生する量子ドットの密度が大きくなるため、一つの量子ドットあたりで発生するキャリア密度の低下を従来よりも小さく抑えることができる。従って、ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして、半導体レーザの発光効率を向上させることができる。
【0013】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係る半導体光素子を示す斜視図である。図1と同様の構成要素には同じ番号を付し、説明を省略する。この半導体光素子は、量子ドットを含む活性層と、共振器内部に回折格子とを備えた埋込ヘテロ型分布帰還型レーザである。
【0014】
図示のように、n−AlGaAs回折格子3、n−GaAs回折格子埋込層4、AlGaAs光閉込層5及び活性層6、p−GaAsクラッド層7の両サイドにp−GaAs電流ブロック層14及びn−GaAs電流ブロック層15が形成されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。これにより、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0015】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3に係る半導体光素子は、実施の形態1と同様に量子ドットを含む活性層を備えたファブリーペロー型半導体レーザである。
【0016】
図6は、本発明の実施の形態3に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。図示のように、光子の密度は、光の出射端面の近傍において相対的に大きくなっている。そこで、図7に示すように、出射端面の近傍において量子ドットの密度が相対的に大きくなるようにする。即ち、活性層内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の量子ドットの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の量子ドットの密度よりも相対的に大きくなるようにする。
【0017】
これにより、光子の密度が大きい部分において、利得を発生する量子ドットの密度が大きくなるため、一つの量子ドットあたりで発生するキャリア密度の低下を従来よりも小さく抑えることができる。従って、ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして、半導体レーザの発光効率を向上させることができる。
【0018】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4に係る半導体光素子は、実施の形態1と同様に量子ドットを含む活性層を備えた半導体光増幅器である。
【0019】
図8は、本発明の実施の形態4に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。図示のように、光子の密度は、光の出射端面の近傍において相対的に大きくなっている。そこで、図9に示すように、出射端面の近傍において量子ドットの密度が相対的に大きくなるようにする。即ち、活性層内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の量子ドットの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の量子ドットの密度よりも相対的に大きくなるようにする。
【0020】
これにより、光子の密度が大きい部分において、利得を発生する量子ドットの密度が大きくなるため、一つの量子ドットあたりで発生するキャリア密度の低下を従来よりも小さく抑えることができる。従って、ホールバーニングによる利得の局所的な低下を少なくして、半導体光増幅器の光の増幅効率を向上させることができる。
【0021】
実施の形態5.
図10は、本発明の実施の形態5に係る波長変換器である。この波長変換器は、実施の形態4に係る半導体光増幅器を内部に含むマッハツェンダ干渉計である。この波長変換器に、波長λ1の変調光と波長λ2のCW光とを入力すると、半導体光増幅器の相互位相変調作用により、CW光が変調光による位相変調を受けて、素子の出力端から強度変調光として出力される。このような波長変換器に、実施の形態4に係る半導体光増幅器を適用すると、入射光強度を大きくしても、半導体光増幅器内部の出射端近傍でのキャリアの不足が生じず、十分な位相変調を得ることができるため、波長変換器の変換効率が向上することができる。
【0022】
実施の形態6.
本発明の実施の形態6に係る半導体光素子は、量子ドットを含む吸収層を備えた導波路型受光素子である。
【0023】
図11は、本発明の実施の形態6に係る半導体光素子の吸収層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。図示のように、光子の密度は、光の入射端面の近傍において相対的に大きくなっている。そこで、図12に示すように、光強度が大きく、光子の密度の大きい入射端面の近傍において量子ドットの密度が相対的に小さくなるようにする。
【0024】
これにより、入射端面の近傍において吸収係数が小さくなるため、導波路を伝播する光の導波モードは乱されることがなく素子の奥まで光が到達する。また、素子の奥側で量子ドット密度が大きく、光吸収係数が大きくなるため、受光素子の光電変換効率が向上する。
【0025】
実施の形態7.
本発明の実施の形態7に係る半導体光素子の製造方法について図面を用いて説明する。この製造方法を用いることで、実施の形態1に係る半導体光素子を製造することができる。
【0026】
まず、図13に示すように、n−GaAs基板1上に、n−GaAsクラッド層2、n−AlGaAs回折格子3、n−GaAs回折格子埋込層4、AlGaAs光閉込層5を形成する。次に、AlGaAsからなる活性層6をMOCVD法又はMBE法を用いて成長する。この際に、Inを添加すると、AlGaAs層内にInAsからなる量子ドット6aが、共振器方向において分布密度がほぼ均一になるように形成される。
【0027】
次に、均一に量子ドット6aを形成した活性層6上に、共振器方向において膜厚が一様でないZnO膜16を形成する。ここでは、共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分のZnO膜16の膜厚が、光子の密度が相対的に小さい部分のZnO膜16の膜厚よりも相対的に薄くなるようにする。
【0028】
次に、高温で熱処理を加えることにより、活性層6に対してZnO膜16からZnを拡散させる。これにより、量子ドット6aの一部は、活性層6と混晶化して無秩序化し、量子ドット6aとしての機能がほぼ失われる。その度合いは、ZnO膜16の膜厚が厚く、Znの拡散密度が大きい部分でより顕著となる。このように、均一に量子ドットを形成した活性層に対して、共振器方向において一様でない不純物拡散を行うことで、量子ドットの一部を無秩序化し、活性層内の共振器方向における量子ドットの不均一な密度分布を形成することができる。その後、図14に示すように、ZnO膜16を除去する。
【0029】
実施の形態8.
本発明の実施の形態8に係る半導体光素子の製造方法について図面を用いて説明する。この製造方法を用いることで、実施の形態1に係る半導体光素子を製造することができる。
【0030】
まず、図15に示すように、n−GaAs基板1上に、n−GaAsクラッド層2、n−AlGaAs回折格子3、n−GaAs回折格子埋込層4、AlGaAs光閉込層5を形成する。次に、AlGaAsからなる活性層6をMOCVD法又はMBE法を用いて成長する。この際に、Inを添加すると、AlGaAs層内にInAsからなる量子ドット6aが、共振器方向において分布密度がほぼ均一になるように形成される。
【0031】
次に、均一に量子ドット6aを形成した活性層6上に、共振器方向において膜厚が一様でないレジスト17を形成する。ここでは、共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分のレジスト17の膜厚が、光子の密度が相対的に小さい部分のレジスト17の膜厚よりも相対的に厚くなるようにする。
【0032】
次に、活性層6に対してレジスト17を介してSiをイオン注入する。その後、高温で熱処理を加えることにより、量子ドット6aの一部は、活性層6と混晶化して無秩序化し、量子ドット6aとしての機能がほぼ失われる。その度合いは、レジスト17の膜厚が薄く、Siイオンの注入される密度が大きい部分でより顕著となる。このように、均一に量子ドットを形成した活性層に対して、共振器方向において一様でないイオン注入を行うことで、量子ドットの一部を無秩序化し、活性層内の共振器方向における量子ドットの不均一な密度分布を形成することができる。その後、図16に示すように、レジスト17を除去する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1に係る半導体光素子を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る半導体光素子の共振器方向における断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る半導体光素子の活性層内における量子ドットの共振器方向の密度分布を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る半導体光素子を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る半導体光素子の活性層内における量子ドットの共振器方向の密度分布を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る半導体光素子の活性層内における量子ドットの共振器方向の密度分布を示す図である
【図10】本発明の実施の形態5に係る波長変換器である。
【図11】本発明の実施の形態6に係る半導体光素子の吸収層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態6に係る半導体光素子の活性層内における量子ドットの共振器方向の密度分布を示す図である
【図13】本発明の実施の形態7に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図14】本発明の実施の形態7に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図15】本発明の実施の形態8に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図16】本発明の実施の形態8に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図17】従来の半導体光素子の活性層内における光子の共振器方向の密度分布を示す図である。
【図18】従来の半導体光素子の活性層内における量子ドットの共振器方向の密度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
3 回折格子層
6 活性層
6a 量子ドット
16 ZnO膜
17 レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを含む活性層を備えた半導体光素子であって、
前記活性層内の共振器方向において、光子の密度が相対的に大きい部分の前記量子ドットの密度が、光子の密度が相対的に小さい部分の前記量子ドットの密度よりも相対的に大きいことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記半導体光素子は、共振器内部に回折格子を更に備えた分布帰還型半導体レーザであり、
前記量子ドットの密度は、前記回折格子の位相シフト領域の近傍において相対的に大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記半導体光素子はファブリーペロー型半導体レーザであり、
前記量子ドットの密度は、光の出射端面の近傍において相対的に大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記半導体光素子は半導体光増幅器であり、
前記量子ドットの密度は、光の出射端面の近傍において相対的に大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記半導体光増幅器は、マッハツェンダ型干渉計の内部に含まれることを特徴とする請求項4に記載の半導体光素子。
【請求項6】
量子ドットを含む吸収層を備えた導波路型受光素子であって、
前記吸収層内の共振器方向において、前記量子ドットの密度は、光の入射端面の近傍において相対的に小さいことを特徴とする半導体光素子。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体光素子を製造する方法であって、
共振器方向において分布密度が均一になるように前記活性層内に前記量子ドットを形成する工程と、
均一に前記量子ドットを形成した前記活性層に対して、共振器方向において一様でない不純物拡散又はイオン注入を行うことで、前記量子ドットの一部を無秩序化し、前記活性層内の共振器方向における前記量子ドットの密度分布を形成する工程とを有することを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項8】
前記活性層をAlGaAsにより形成し、前記量子ドットをInAsにより形成し、
均一に前記量子ドットを形成した前記活性層上に、共振器方向において膜厚が一様でないZnO膜を形成し、
前記活性層に対して前記ZnO膜からZnを熱拡散させることで、前記量子ドットの一部を無秩序化し、前記活性層内の共振器方向における前記量子ドットの密度分布を形成することを特徴とする請求項7に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項9】
前記活性層をAlGaAsにより形成し、前記量子ドットをInAsにより形成し、
均一に前記量子ドットを形成した前記活性層上に、共振器方向において膜厚が一様でないレジストを形成し、
前記活性層に対して前記レジストを介してSiをイオン注入した後、熱処理を加えることで、前記量子ドットの一部を無秩序化し、前記活性層内の共振器方向における前記量子ドットの密度分布を形成することを特徴とする請求項7に記載の半導体光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−98299(P2008−98299A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276837(P2006−276837)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】