説明

半導体光電極、その製造方法及び光エネルギ変換装置

【課題】 光の吸収効率を高め、さらに電荷の再結合を防止した半導体光電極、及び光電変換効率を高めた光エネルギ変換装置を提供する。
【解決手段】 表面に凹凸を構成した金属基板2と、金属基板2表面に形成された光触媒作用を有する材料から成る半導体層3とを備える半導体光電極。 金属基板の表面の平均粗さは1〜4ミクロンが好ましく、光触媒を有する材料としてはTi,Nb,Ta,W,V,Co,Fe,Ni,及びInの中から選択される少なくとも一種以上の元素を含むことが好ましい。また、半導体層の厚さは0.1〜1ミクロンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光エネルギによって水を分解して水素を生成する水分解水素製造装置に適用される半導体光電極、その製造方法及び半導体光電極を用いた光エネルギ変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギを有効利用するために、太陽エネルギを利用し易い形態に変換・貯蔵する技術の開発が盛んに行われている。太陽電池はその代表例であるが、コストが高いことから普及が進んでおらず、より安価なシステムの開発が望まれている。
【0003】
そこで、光触媒を利用して光エネルギを化学エネルギに変換する技術の研究が進められている。光触媒に太陽光を照射すると、光触媒は、光エネルギを吸収して電子と正孔を生成し、化学反応を引き起こす。光触媒の中でも、特に、二酸化チタン(TiO2)は価電子帯の位置が深いことから、生成する正孔による酸化力は、塩素あるいはオゾンよりも強いとされている。
【0004】
例えば、TiO2を半導体光電極として用いて、水を分解する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
【0005】
これまで、半導体光電極としては、TiO2単結晶あるいはTiO2粉末を焼結してペレット化したTiO2焼結ペレットが使用されているが、TiO2単結晶を使用すると、製造コストが高くなり、また、TiO2焼結ペレットを使用すると、光電変換効率が低くなっていた。
【0006】
そこで、近年、導電性ガラス基板あるいは平滑な金属基板から形成される基板上に半導体層を形成した半導体光電極が開示されている(非特許文献2及び非特許文献3参照)。しかし、基板として導電性ガラスを使用すると、コストが高くなり、さらに基板と半導体層との界面の密着性や安定性が低下してしまうことから、基板として金属基板を用いた半導体光電極の開発が進められている。
【0007】
図9は、金属基板を基板として用いた半導体光電極40の断面を示す図である。半導体光電極40は、Ti板を焼成してTi板上にTiO2層を形成し、基板(Ti板)41上に半導体層(TiO2層)42を形成している。このようにTi板を焼成してその表面に半導体層42(TiO2層)を形成すると、製造コストを削減でき、さらに半導体光電極をフレキシブルにできるという利点を有していた。
【非特許文献1】A. Fujishima and K. Honda, Nature, 238(5358), 37(1972)
【非特許文献2】J.Phys.Chem.,102(1998)7820
【非特許文献3】J.Phys.Chem.,98(1994)5552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の金属基板を用いた半導体光電極の光電変換効率は、それほど高くないことから、半導体層(TiO2層)42を厚くすることで光の吸収効率を高め、光電変換効率を向上させた半導体光電極も開発されている。
【0009】
ところが、半導体層42を層厚にすると、半導体層42中での電荷の移動距離が長くなり、生成した電子と正孔とが再結合する割合が高くなる可能性があった。
【0010】
また、半導体層42中での電荷の移動速度は遅く、電荷の移動距離が長くなると、光電変換効率が低下する要因となっていた。
【0011】
さらに、図9に示すように、従来の半導体光電極40は、その表面が平坦であることから、入射光が反射すると光の吸収効率が低下する要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の半導体光電極は、表面に凹凸を構成した金属基板と、金属基板表面に形成された光触媒作用を有する材料から成る半導体層と、を備えることを要旨とする。
【0013】
本発明の半導体光電極の製造方法は、複数の金属粒子を接合して表面に凹凸を構成した金属基板とした後、金属基板の表面に光触媒作用を有する材料から成る半導体層を形成することを要旨とする。
【0014】
本発明の光エネルギ変換装置は、上記半導体光電極を用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体光電極によれば、光の吸収効率を高め、さらに電荷の再結合を防止することができる。
【0016】
本発明の半導体光電極の製造方法によれば、表面に凹凸が形成されて表面積を高めた半導体光電極を容易に製造することができる。
【0017】
本発明の光エネルギ変換装置によれば、光の吸収効率が高く、さらに電荷の再結合を防止できる半導体光電極を用いたため、光電変換効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る半導体光電極、その製造方法及び半導体光電極を用いた光エネルギ変換装置について説明する。
【0019】
本発明の実施の形態に係る半導体光電極1を拡大した断面図を図1に示す。半導体光電極1は、表面に凹凸を形成して高表面積とした金属基板2と、金属基板2表面に形成された半導体層3と、を備える。
【0020】
金属基板2表面の凹凸は、できるだけ平均的に、かつ溝の高さを深く形成することが好ましい。具体的には、金属基板2表面の平均粗さ(Ra)は、1μm〜4μmの範囲とすることが好ましい。この理由は、この範囲にすることで一層高い光電流値が得られるためである。なお、金属基板2表面の平均粗さ(Ra)は、粗さ計(テンコール製アルファステップ)を用いて、以下の数式1に示す式から平均粗さ(Ra)を求めた値であり、数式1中のlは基準長さ、f(x)は金属基板2表面の形状の粗さに沿う曲線を示す。
【数1】

【0021】
また、凹凸変化は、1〜500μmの範囲とするのが好ましく、さらに3〜200μmとすることが好ましい。ここで、凹凸変化とは、(凹凸形状の平均面と最大凸部の距離(x)と、凹凸形状の平均面と最小凹部の距離(y)との合計値(x+y))を意味する。なお凹凸の間隔は500μm以下でできるだけ緻密であることが望ましい。
【0022】
金属基板2としては、元素の単体、又はその元素の複合物(例えば、酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物など)が、光触媒特性又は光電極特性を示す材料を用いることができる。具体的には、Ti、Nb、Ta、W、V、Co、Fe、Ni及びInの中から選択される少なくとも1種以上の元素から金属基板を形成することが好ましい。
【0023】
半導体層3としては、光触媒作用を有する材料を用いることができる。具体的には、TiO2、Nb2O5、Ta2O5、WO3、V2O5、InCuTaO4、InNiTaO4、InCoTaO4、InFeTaO4、InMnTaO4、InTaO4、InNbTaO4、SrTiO3、TaONまたはTiO2:Nを挙げることができるが、例示した材料に限定されるものではない。
【0024】
さらに、半導体層3の厚さは、0.1μm〜1μmとすることが好ましい。半導体層3の厚さが0.1μm未満となり薄くなりすぎると、光の吸収効率が低下し、逆に、その厚さが1μmを超えると電荷の移動距離が長くなり、電荷の移動が遅くなり、また、電荷が再結合してしまうからである。
【0025】
このように半導体光電極1の表面に凹凸を形成すると、入射光4、さらに散乱光5をも半導体層3により吸収することができる。このため、半導体層3の厚さを薄くしても光の吸収効率が低下することはない。また、半導体層3の厚さを薄くすると、電荷の移動距離が短くなり、電荷はすぐに金属基板2に到達する。金属基板2中の抵抗は小さいため、電荷は金属基板2内を高速で移動することになる。また、従来の電極に比べて、半導体層3の実質的な表面積が広くなるため、半導体層3中の電荷密度を低くすることができる。この結果、半導体層3での電荷の再結合を防止することができる。
【0026】
次に、本発明の実施の形態に係る半導体光電極の製造方法を説明する。
【0027】
まず、金属板を機械的研磨した後、化学エッチング処理をして、表面に凹凸を形成する。この時、凹凸の深さは1μm〜500μm、さらに3μm〜200μmとすることが好ましく、また、凹凸の間隔は500μm以下として、凹凸の間隔を狭くすることが好ましい。
【0028】
また、金属基板2は、金属粒子を圧力または熱により接合して、多孔質体として表面に凹凸を形成することもできる。この時に使用する金属粒子の粒径は1μm〜400μm、さらに3μm〜200μmとすることが好ましい。なお、接合する際の圧力や熱は、金属粒子の種類や粒径に応じて変えることが好ましい。このように圧力や熱により金属粒子を接合すると、金属粒子間の界面のネッキング成長が進行して電気的な接触が良くなり、さらに機械的強度に優れた金属基板2とすることができる。
【0029】
次に、得られた金属基板2上に半導体層3を形成するが、半導体層3は、使用する原材料に応じてその製造方法が異なる。
【0030】
原材料として単純酸化物を使用する場合には、酸化雰囲気下において(空気中、酸素中)単純酸化物を焼成あるいは電解酸化する。また、原材料として単純金属の窒化物と硫化物を使用する場合には、非酸化雰囲気下(アンモニア、窒素、硫化水素など)において加熱あるいはプラズマ処理をする。例えばTa5+、Ti4+などのd0型の電子配置を有する遷移金属イオンを含むオキシナイトライド(例えば、TaON)、窒素をドープした半導体(例えば、TiO2:N)、オキシサルファイドなどの場合は、一度部分酸化した後に窒化処理あるいは硫化処理をするか、又は、窒化処理あるいは硫化処理をした後に、部分酸化すると良い。さらに、原材料として複合金属半導体を使用する場合には、金属基板2上に複合金属前駆体を塗布し、その後、酸化、窒化又は硫化のいずれかの処理を行い、半導体層3を形成する。
【0031】
半導体層3を形成する際に、後処理として、酸化、水素還元、水蒸気によって処理をするが、後処理をすると半導体層3中の格子欠陥を減少あるいは増やすことができる。なお、半導体層3中の格子欠陥を増やすと導電性が高くなる。
【0032】
さらに、前述した本発明の実施の形態に係る半導体光電極を用いた水分解水素製造装置6の構成を図2に示す。水分解水素製造装置6は、水槽7内に半導体光電極8(作用極)と対極9(例えば、Pt電極、カーボン電極)とを個別に配置し、半導体光電極8と対極9とに導線を接続して外部短絡線10を構成している。また、水槽7内には電解反応の溶液抵抗を下げるための安定な支持電解質11(例えば、Na2SO4水溶液)を貯留しており、半導体光電極8と対極9とを配置した各水槽7の中間位置にイオン交換膜12を取り付けている。本構成の水分解水素製造装置6では、半導体光電極8(作用極)に太陽光13を照射して水の電解を行う。
【0033】
対極9材料は、反応に合わせた材料を選択することができ、水素を発生させるためには、水素発生の過電圧の低いPt電極、カーボン電極が有効であるが、安価なCo-Mo電極を用いても良い。支持電解質11としては、一般的に電解反応の支持電解質として使用されるNaOH、Na2SO4、H2SO4及びNa2HPO4を用いることができる。支持電解質の濃度は、電解の過電圧を低下させるために高濃度にすると良く、0.01mol/L以上とすることが好ましい。また、支持電解質11中に光触媒を容易に分解できる還元性の反応物(例えば、有機物、硫化水素、ヨウ素イオンなど)を含有させても良く、これにより光電変換効率が高まる。特に、支持電解質11中に有機物あるいはレドックス媒体を含有すると、反応基質との反応面積が広くなるため、拡散の影響を受けにくくなる。このため、従来の電極に比べて飛躍的に光電変換効率が高くなる。なお、図2には図示しないが、外部短絡線10にポテンションスタット又はソースメータを設置してバイアス電位を制御しても良い。また、電極の性能をチェックし、又は特殊な化学反応を起こす場合には、太陽光13ではなく人工光源(例えば、キセノンランプなど)を適用しても良い。
【0034】
次に、図2に示した水分解水素製造装置6により水を分解する動作原理を図3により説明する。半導体光電極8に太陽光13を照射すると、図3に示すように、半導体光電極8に光が吸収されて、伝導帯に電子が生成され、価電子帯に正孔が生成する。半導体光電極8の表面に移動した正孔14は、化学式1に示す反応により、水を酸化して酸素15を生成する。
【0035】
HO→2H+1/2O+2e …(化学式1)
一方、生成した電子は、半導体光電極8中の金属基板2に移動した後、外部短絡線10を通り対極9に移動する。この電子(e)は、対極9上で水を還元し、化学式2に示す反応により、水素17を生成する。
【0036】
2H+2e→H …(化学式2)
この結果、水が分解されて、半導体光電極8(作用極)では水素、対極9では酸素がそれぞれ生成する。
【0037】
なお、ここでは、本発明の実施の形態に係る半導体光電極を用いて水分解水素製造装置6を構成した例を挙げたが、半導体光電極は光水電解装置に限定されず、色素増感型太陽電池などの光エネルギ変換装置として適用することもできる。
【0038】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。各実施例では、異なる製造方法を用いて製造した構成の異なる半導体光電極を用いて、図4に示す三電極系の実験装置に適用した実験を行った。三電極系の実験装置18は、図4に示すように、水槽19内に、作用極である半導体光電極20と、対極であるPt電極21とを配置し、半導体光電極20とPt電極21とに外部短絡線22を接続して導通させている。また、別の水槽23内に、作用極の電位を設定及び制御するための基準電極となる参照極を配置しており、この参照極として銀-塩化銀電極(Ag-AgCl電極)24を用いている。2つの水槽19,23はバイコールガラスフリット25により接続されて、半導体光電極20とPt電極21との間の電気的な導通を保っている。半導体光電極20とPt電極21とを接続する外部短絡線22には電流計26を設置し、回路を流れる光電流値を計測している。さらに、外部短絡線22にポテンショスタット27を設置し、ポテンションスタット27とAg-AgCl電極24とを外部短絡線28により接続し、電位に応じて電流を流し、半導体光電極20とAg-AgCl電極24との間の電位差をコントロールしている。各水槽19内には、濃度0.1 mol/LのNa2SO4水溶液を貯留し、このNa2SO4水溶液は、半導体光電極20とPt電極21とに電位差が生じた場合に回路中の電荷移動を担う電解質の役割を果たしている。
【0039】
半導体光電極20が配置された水槽19の外部には、キセノンランプ(500W)29を配置し、キセノンランプ29と半導体光電極20との間にチョッパ30を設置し、チョッパ30により半導体光電極20に照射する光のON、OFFを一定間隔で切り替えている。
【0040】
実施例1〜実施例3
実施例1〜実施例3では、金属基板2として、平均粒径45μmのTi金属粒子をそれぞれネッキングして形成したTi多孔体を使用した。Ti多孔体のRaを測定したところ、平均粗さ(Ra)は約2μmであり、凹凸変化は5μm以上であった。
【0041】
このTi多孔体を空気雰囲気下において500℃〜700℃の範囲で温度を変えて、1時間熱処理をした。熱処理温度として、実施例1では500℃、実施例2では600℃、実施例3では700℃とした。熱処理によりTi多孔質体表面を酸化してTiO2層を形成した。
【0042】
X線回折(XRD)により構造を同定したところ、TiO2はルチル型であることが判明した。また、断面SEM分析の結果から、熱処理温度が高くなるに従い、TiO2層の厚さが増大していた。TiO2層の厚さは、測定場所に応じてばらつきがあるものの、実施例1は100nm、実施例2は200nm、実施例3は600μmであった。
【0043】
比較例1〜比較例3
比較例1〜比較例3では、実施例1〜実施例3により使用したTi多孔板に替えてTi平板を用いた。Ti平板の平均粗さ(Ra)は0.2μm〜0.3μmであり、Ti平板表面には大きな凹凸が形成されず、1μm未満であった。なお、Ti平板を使用した以外は、実施例1〜実施例3に示した製造方法と同様の方法を用いて、半導体光電極を製造した。TiO2層の厚さは、測定場所に応じてばらつきがあるが、比較例1は100nm、比較例2は200nm、比較例3は600μmであった。
【0044】
実施例4、実施例5
実施例4、実施例5では、Ti平板をフォトレジストマスクにてパターンニングしたものをエッチング処理して、表面に凹凸を形成したTi板を使用した。Ti板の表面は、図5(a)に示す形状とした。また、図5(a)に示すTi板表面のA−A'断面図を図5(b)に示した。実施例4では、図5(b)に示すX、Yをそれぞれ25μm、70μmとし、実施例5では、X、Yをそれぞれ40μm、70μmとした。実施例4及び実施例5のTi板のRaを測定したところ、実施例4は3.0μm、実施例5は3.3μmであった。
【0045】
得られたTi板を、空気雰囲気下にて700℃の温度で1時間熱処理し、Ti板表面を酸化してTiO2層を形成した。TiO2層の厚さは、測定場所に応じてばらつきがあるが、実施例4は600μm、実施例5は600μmであった。
【0046】
実施例6
実施例6では、まず、WO3の水和コロイドはNa2WO4水溶液をイオン交換樹脂によりNaイオンをプロトン交換して調製した。この水和コロイド水溶液を等量エタノールと混合した後、減圧蒸留(60℃)して、その体積を1/4に減少させた。その後、1/2量のポリエチレングリコール300(和光純薬製)を加えてスターラを用いて混合し、WO3をコロイド状としたスラリーを得た。
【0047】
得られたスラリーを実施例1で使用したTi多孔板上に塗布した後、500℃で1時間熱処理をして、Ti多孔体上にWO3層を形成した。なおWO3層は粒子の集合体で凹凸はあるが一様の粗さでないため粗さ値は測定できなかった。
【0048】
比較例4
比較例4では、実施例6により製造したスラリーを用いて、このスラリーを比較例1で使用したTi平板上に塗布した後、500℃で1時間熱処理をして、Ti平板上にWO3層を形成した。なおWO3層は粒子の集合体で凹凸はあるが一様の粗さでないため粗さ値は測定できなかった。
【0049】
実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例4の各半導体光電極について、光電流測定試験により光電流値を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
なお、光電流測定試験は、参照極に対する半導体光電極の電位を0.05 V/sの操作速度で変化させるポテンシャルスイープ法を用いた。この結果、半導体光電極に光を照射した場合のみ、Ag/AgCl基準で0 V付近から水の分解に伴う光電流が確認された。なお、以下、電位はAg/AgClを基準として標記する。
【0051】
光電流値を測定したところ、電圧が貴になるに伴い光電流値の値は徐々に増加していた。実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例3について、0.8 Vとして光電流値を測定した結果を図6に示す。図6に示すように、実施例及び比較例の両者ともに、熱処理温度が高くなるに伴いTiO2層が厚くなるため、光吸収特性が高まり、光電流値が増大することが判明した。また、同一温度で熱処理した場合には、比較例に比べて実施例の光電流値は、いずれも約1.5倍〜3.0倍の高い光電流値を示していた。これは、Ti平板を使用した比較例1〜比較例3に比べて、Ti多孔体を使用した実施例1〜実施例3では、半導体光電極表面に凹凸が形成されるため、散乱光をも吸収することができるからである。また、半導体層の実質的な表面積が広がり、半導体層中の電荷密度を低くすることにより、電荷の再結合を防ぐこともできるからである。さらに、電子は半導体層よりも金属基板中を移動すると、抵抗が小さく有利であるため、金属基板を大面積化すると、半導体層から金属基板までの電荷の移動距離を短くできるからである。
【0052】
次に、実施例4、実施例5及び比較例3について、光電流値を測定した結果を図7に示す。図7に示すように、表面に凹凸を形成したTi板を使用した実施例4及び実施例5は、Ti平板を使用した比較例3に比べて、光電流値は約2倍増加していることが判明しており、前述した実施例1〜実施例3と同様であった。よって比較例3に比べて実施例4、5の光電流値が高く、表面粗さの影響、つまり凹凸変化を設けることが有効な手段であることが示された。
【0053】
さらに、実施例6及び比較例4について、光電流値を測定した結果を図8に示す。なお、実施例6及び比較例4では、WO3の光吸収特性のみを切り分けて考えるために、TiO2の光吸収波長ではなく、WO3の光吸収波長である420 nm以上の光のみを照射して、光電流値を測定した結果を図8に示す。図8に示すように、多孔体を用いた実施例6の方が平板を用いた比較例4に対して光電流値が約1.8倍であり、多孔体と平板とで有意な差が現れた。表面に凹凸を形成した半導体光電極は、表面を平坦とした半導体光電極に比べて光吸収特性が良いという事実は、金属基板を酸化して得た金属酸化物を光触媒とする光電極のみではなく、凹凸を形成した金属基板上にその金属の酸化物とは異なる光触媒を形成した場合でも成り立つことが判明した。
【0054】
以上本発明の詳細について述べてきたが、本発明の思想に合致するものであれば、これらの構成及び文言に限定されるものではない。例えば、実施例1では、Ti多孔質体を焼結したものを基板として使用したが、平板上にTi多孔質体を形成して最表面に凹凸を形成した半導体光電極を用いても良い。また、本発明の実施の形態では、金属基板上に光触媒を担持する方法として、ペースト状とした光触媒を金属基板上に塗布した後、熱処理をしたが、この方法に限定されず、物理蒸着法または化学蒸着法を用いて、金属基板上に光触媒を担持しても良い。
【0055】
さらに、図2に示した水分解水素製造装置6では、半導体光電極8と対極9との間に電位を印加するデバイスを設置していないが、外部短絡線10上に電圧印加用のデバイスを設置した構成としても良く、また、2つの水槽7間でpH差をつけて濃度のバイアスをかける構成としても良い。
【0056】
また、本発明ではホールにより酸化される物質として水を例に挙げたが、酸化される物質は水に限定されず、例えば、工場廃水など有機物を含む電解質を用いてその有機物を犠牲試薬として酸化することも考えられる。さらに、実施例4、実施例5では、表面に凹凸を形成する方法として化学エッチング法を例に挙げたが、これに限定されず、イオンエッチング、LIGAプロセス、陽極酸化による多孔穴形成により、表面に凹凸を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体光電極の拡大断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体光電極を用いた水分解水素製造装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示す水分解水素製造装置により水を分解する動作原理を説明する図である。
【図4】実施例及び比較例において使用した三電極系の実験装置の構成を示す図である。
【図5】(a)は、実施例4、実施例5及び比較例4において使用したTi平板の上面図であり、(b)は、(a)に示すTi板表面のA−A'断面図である。
【図6】実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例3についての光電流値の測定結果を示す図である。
【図7】実施例4、実施例5及び比較例3についての光電流値の測定結果を示す図である。
【図8】実施例6及び比較例4についての光電流値の測定結果を示す図である。
【図9】従来における半導体光電極の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…半導体光電極,
2…金属基板,
3…半導体層,
4…入射光,
5…散乱光,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を構成した金属基板と、
前記金属基板表面に形成された光触媒作用を有する材料から成る半導体層と、
を備えることを特徴とする半導体光電極。
【請求項2】
前記金属基板の表面の平均粗さRaは、1μm以上4μm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体光電極。
【請求項3】
前記光触媒作用を有する材料は、Ti、Nb、Ta、W、V、Co、Fe、Ni及びInの中から選択される少なくとも1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の半導体光電極。
【請求項4】
前記半導体層の厚さは、0.1μm〜1μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体光電極。
【請求項5】
前記光触媒作用を有する材料は、前記金属基板を形成する金属の化合物と異なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体光電極。
【請求項6】
複数の金属粒子を接合して表面に凹凸を構成した金属基板とした後、前記金属基板の表面に光触媒作用を有する材料から成る半導体層を形成することを特徴とする半導体光電極の製造方法。
【請求項7】
前記金属粒子の粒径は、1μm〜400μmであることを特徴とする請求項6記載の半導体光電極の製造方法。
【請求項8】
前記金属粒子の粒径は、3μm〜200μmであることを特徴とする請求項7記載の半導体光電極の製造方法。
【請求項9】
金属板の表面を粗研磨して凹凸を構成した金属基板とした後、前記金属基板の表面に光触媒作用を有する材料から成る半導体層を形成することを特徴とする半導体光電極の製造方法。
【請求項10】
前記半導体層は、前記金属基板と気体とを化学反応させて形成されることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の半導体光電極の製造方法。
【請求項11】
前記金属基板と気体との化学反応は、酸化、窒化及び硫化のいずれかであることを特徴とする請求項10記載の半導体光電極の製造方法。
【請求項12】
前記半導体層は、前記金属基板の表面に光触媒作用を有する材料を含むスラリーを塗布した後、熱処理して形成されることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の半導体光電極の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体光電極を用いた光エネルギ変換装置。
【請求項14】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体光電極を用いた水分解水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−297300(P2006−297300A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123629(P2005−123629)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】