説明

半導体回路および試験装置

【課題】電源電圧のリップルが信号処理回路に及ぼす影響を低減する。
【解決手段】第1信号処理回路10は、第1信号S1に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号S2を出力する。第2信号処理回路12は、第2信号S2に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第3信号S3を出力する。第1、第2スイッチング電源20、22はそれぞれ、第1、第2信号処理回路10、12に対し電源電圧Vdd1、Vdd2を供給する。第1信号処理回路10が第1信号S1の特性値に与える変化量と、第2信号処理回路12が第2信号S2の特性値に与える変化量はそれぞれ、電源電圧Vdd1、Vdd2に対する依存性を有する。第1、第2スイッチング電源20、22の位相はそれぞれ、第1信号S1の特性値の変化量とその目標値との誤差と、第2信号S2の特性値の変化量とその目標値との誤差がキャンセルするように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号に対してある信号処理を施す半導体回路に関する。
【背景技術】
【0002】
入力信号に対してある信号処理を施し、入力信号の特性値、たとえば位相、振幅、周波数特性に変化を与えて出力する信号処理回路が種々の半導体回路(以下、ICという)に広く利用されている。こうした信号処理回路としては、遅延回路や増幅器、フィルタなどが例示される。
【0003】
近年の半導体製造プロセスの進歩にともない、ICの動作電圧は下降の一途をたどっていおり、1.5V程度の電源電圧で動作するICが主流となっている。こうしたICに適切な電源電圧を供給する電源回路として、DC/DCコンバータなどのスイッチングレギュレータや、シリーズレギュレータ(LDO:Low Drop Outputとも称される)が利用される。
【0004】
エネルギ効率の観点からは、リニアレギュレータよりもスイッチング電源の方が有利であるが、スイッチング電源により生成される電圧にはスイッチング周期と同期したリップルが重畳される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の信号処理回路が信号の特性値に与える変化量は、電源電圧依存性を有する場合がある。たとえば多段接続されたバッファ(インバータ)で構成される遅延回路は、電源電圧によって遅延量が影響を受けることが知られている。こうした信号処理回路の電源電圧をスイッチング電源により生成すると、電源電圧のリップルの影響で信号の特性値に与えられる変化量が変動する。つまり遅延回路の場合、遅延量にジッタが重畳され、増幅器の場合、信号の振幅にリップルが重畳される。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、電源電圧の変動の影響を抑制した半導体回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の半導体回路は、第1信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号として出力する第1信号処理回路と、第2信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第3信号として出力する第2信号処理回路と、第1信号処理回路に電源電圧を供給する第1スイッチング電源と、第2信号処理回路に電源電圧を供給する第2スイッチング電源と、を備える。第1信号処理回路が第1信号の特性値に与える変化量と、第2信号処理回路が第2信号の特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有する。第1スイッチング電源と第2スイッチング電源の位相は、第1信号の特性値の変化量とその目標値との誤差と、第2信号の特性値の変化量とその目標値との誤差がキャンセルするように設定される。
【0008】
「信号処理」とは、遅延、増幅、フィルタリングなどを意味し、「特性値」とは、信号の位相、振幅、周波数などをいう。この態様によると、2つの信号処理回路を直列に接続し、それぞれの電源電圧を別系統から供給するため、各スイッチング電源の位相を適切に設定することにより、電源電圧のリップルに起因する特性値の変動を抑制できる。
【0009】
第1スイッチング電源と第2スイッチング電源は、逆相で動作してもよい。
この場合、第1スイッチング電源により生成される電源電圧と、第2スイッチング電源により生成される電源電圧は、逆相のリップルを有することになる。リップルの振幅が等しく、かつ第1信号処理回路が第1信号の特性値に与える変化量の電圧感度が、第2信号処理回路のそれと等しければ、第1、第2信号それぞれの特性値の変化量の変動がキャンセルする。その結果、全体としての信号の特性値の変化量からリップルを除去し、目標値に近づけることができる。
【0010】
本発明の別の態様もまた、半導体回路に関する。この半導体回路は、第1信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号として出力する第1信号処理回路と、第2信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第3信号として出力する第2信号処理回路と、第1信号処理回路に電源電圧を供給する第1スイッチング電源と、第2信号処理回路に電源電圧を供給する第2スイッチング電源と、を備える。第1信号処理回路が第1信号の特性値に与える変化量と、第2信号処理回路が第2信号の特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有する。第1スイッチング電源と第2スイッチング電源は、逆相で動作する。
【0011】
この場合、第1スイッチング電源により生成される電源電圧と、第2スイッチング電源により生成される電源電圧は、逆相のリップルを有することになる。リップル量の振幅が等しく、かつ第1信号処理回路が第1信号の特性値に与える変化量の電圧感度が、第2信号処理回路のそれと等しければ、第1、第2信号それぞれの特性値の変化量の変動がキャンセルする。その結果、全体としての信号の特性値の変化量からリップルを除去し、目標値に近づけることができる。
【0012】
本発明のさらに別の態様もまた、半導体回路に関する。この半導体回路は、カスコード接続され、それぞれが入力された信号に対して同種の信号処理を施し、その特性値に変化を与える複数の信号処理回路と、複数の信号処理回路ごとに設けられ、対応する信号処理回路に電源電圧を供給する複数のスイッチング電源と、を備える。複数の信号処理回路それぞれが信号の特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有する。複数のスイッチング電源の位相は、複数の信号処理回路が信号の特性値に与える変化量の合計がその目標値と一致するように設定される。
【0013】
この態様によると、複数のスイッチング電源を適切に設定することにより、電源電圧のリップルが信号の特性値の変化量に及ぼす影響を低減できる。
【0014】
信号処理回路がn個(nは2以上の整数)のとき、複数のスイッチング電源の位相は、(360/n)度づつシフトしていてもよい。この場合、信号の特性値の変化量の電源のリップルによる変動を好適に抑制できる。
【0015】
複数の信号処理回路は同じ構成を有してもよい。この場合、各信号処理回路が信号の特性値に与える変化量の電源電圧に対する電圧感度を揃えることができ、電源電圧のリップルに起因した特性値の変化量の変動を抑制できる。
【0016】
複数の信号処理回路それぞれが信号の特性値に与える変化量の電源電圧に対する感度は、略等しくてもよい。この場合、電源電圧のリップルに起因した特性値の変化量の変動を抑制できる。
【0017】
複数の信号処理回路は遅延回路であってもよい。
【0018】
複数の信号処理回路は増幅回路であってもよい。あるいはフィルタであってもよい。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、試験装置に関する。この試験装置は、入力されたクロックに遅延を与える上述のいずれかの態様の信号処理回路を備える。
クロックに与えられる遅延量のジッタを抑制することができ、試験の精度を高めることができる。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のある態様によれば、電源電圧の変動が信号処理に及ぼす影響を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体回路2の構成を示すブロック図である。半導体回路2は全体として、入力信号S1に対して所定の信号処理を施し、出力信号S3を生成する。信号処理の内容は限定されるものではないが、入力信号S1の少なくともひとつの特性値に変化が与えられる。たとえば信号処理が遅延処理であれば、入力信号S1の特性値である位相(エッジのタイミング)に変化が与えられる。そのほか、信号処理が増幅処理であれば、入力信号S1の特性値である振幅に変化が与えられ、信号処理がフィルタリングであれば、入力信号S1の周波数特性に変化が与えられる。本技術は例示されない様々な信号処理にも適用可能である。
【0024】
半導体回路2は、信号処理回路8、第1スイッチング電源20、第2スイッチング電源22を備える。
【0025】
信号処理回路8は、入力信号S1に対して所定の信号処理を施し、出力信号S3を生成する。信号処理回路8は、第1信号処理回路10および第2信号処理回路12を含む。
第1信号処理回路10は、半導体回路2全体の入力信号である第1信号S1に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号S2として出力する。
第2信号処理回路12は、第2信号S2に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第3信号S3として出力する。第3信号S3は、半導体回路2全体としての出力信号である。
【0026】
つまり信号処理回路8は、カスケード接続された第1信号処理回路10および第2信号処理回路12を含み、入力信号S1に対して2段階で所望の信号処理を施す。
【0027】
以下、理解の容易化を目的として、信号処理が「遅延」である場合を例に具体的に説明する。第1信号S1はたとえばパルス信号であり、半導体回路2は全体として第1信号S1に所定の遅延量τを与える。
【0028】
第1信号処理回路10が第1信号S1の特性値(つまり位相)に与える変化量をτ1、第2信号処理回路12が第2信号S2の特性値(つまり位相)に与える変化量をτ2と書く。つまり半導体回路2は、所定の遅延量τを2段階で分割して与え、1段目の第1信号処理回路10により遅延量τ1を、2段目の第2信号処理回路12により遅延量τ2を与える。τ=τ1+τ2が成り立つ。
【0029】
第1信号処理回路10および第2信号処理回路12は、それぞれ独立した電源端子P1、P2を備え、個別の電源電圧Vdd1、Vdd2が供給可能となっている。第1スイッチング電源20は、第1信号処理回路10に電源電圧Vdd1を供給し、第2スイッチング電源22は第2信号処理回路12に電源電圧Vdd2を供給する。
【0030】
第1信号処理回路10が第1信号S1の特性値(位相)に与える変化量(つまり遅延量τ1)は、電源電圧Vdd1に対して依存性を有する。同様に、第2信号処理回路12が第2信号S2の特性値に与える変化量(遅延量τ2)は、電源電圧Vdd2に対して依存性を有する。図2は、遅延回路である第1信号処理回路10、第2信号処理回路12により与えられる遅延量の電源電圧依存性を示す図である。
【0031】
好ましくは複数の信号処理回路10、12を同じ構成とする。この場合、それぞれが信号の特性値に与える変化量(τ1、τ2)の電圧感度(dτ/dVdd)を揃えることができ、後述する誤差のキャンセルの効果を高めることができる。ただし複数の信号処理回路10、12の構成は異なっていてもよい。
【0032】
たとえば第1信号処理回路10、第2信号処理回路12がそれぞれ、多段接続されたインバータで構成される場合、電源電圧Vdd1、Vdd2に依存して遅延量τ1、τ2が変化する。具体的には電源電圧が高くなるに従い、遅延量は小さくなる。もし第1信号処理回路10、第2信号処理回路12が増幅回路であれば、その利得が電源電圧依存性を有するであろう。
【0033】
第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22は、同期整流型あるいはダイオード整流型のスイッチングレギュレータであってもよいし、あるいはトランスを用いたスイッチングレギュレータであってもよい。また電流能力が許せば、チャージポンプ回路と、チャージポンプ回路の入力電圧をフィードバックにより調節するシリーズレギュレータの組み合わせを用いてもよい。これらの回路は一般的なものであるため、説明は省略する。
【0034】
スイッチングレギュレータは、スイッチング素子をオン、オフし、コイルもしくはトランスに供給する電流をスイッチングさせる。一般的な降圧型のスイッチングレギュレータの場合、スイッチング素子がオンの期間に、コイルに入力電圧を印加して磁気エネルギを蓄え、スイッチング素子がオフの期間に、コイルの誘導電流によって出力キャパシタを充電する。スイッチング素子のオン、オフの時間比率(デューティ比)を調節することにより、電源の出力電圧が目標値に安定化される。出力電圧を安定化するために、スイッチング素子のデューティ比はPWM(Pulse Width Modulation)方式、PFM(Pulse Frequency Modulation)方式等により制御される。
【0035】
スイッチングレギュレータの出力電圧は巨視的なレベルでは目標値に安定化されているが、実際にはスイッチング素子のオン、オフと同期したリップルが存在する。つまりスイッチング素子がオンする期間は、出力キャパシタが充電されるため出力電圧が上昇し、スイッチング素子がオフする期間は、出力キャパシタが負荷電流によって放電されるため出力電圧が低下する。この繰り返しが、出力電圧のリップルとなって現れる。
【0036】
上述のように、第1信号処理回路10および第2信号処理回路12が信号に与える遅延量τ1、τ2はそれぞれ、電源電圧Vdd1、Vdd2に応じて変化する。つまり電源電圧Vdd1、Vdd2のリップルに応じて遅延量が周期的に変動する。
【0037】
本実施の形態に係る半導体回路2は、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22が異なる位相でスイッチング動作する。具体的には、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22の位相φ1、φ2は、第1信号S1に与えられる遅延量τ1とその目標値τt1との誤差Δτ1(=τ1−τt1)と、第2信号S2に与えられる遅延量τ2とその目標値τt2との誤差Δτ2(=τ2−τt2)がキャンセルするように設定される。
【0038】
最も簡易に誤差Δτ1と誤差Δτ2をキャンセルさせるためには、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22を、逆相で動作させればよい。第1スイッチング電源20、第2スイッチング電源22の制御方式としては、たとえば以下のものが代表的である。
【0039】
すなわち、スイッチングレギュレータの出力電圧と目標値の誤差を増幅し、誤差電圧を生成する。そしてのこぎり波や三角波などの周期電圧を誤差電圧と電圧比較し、スライスする。スライスして得られたパルスを用いて、スイッチング素子のオン、オフを制御する。
【0040】
このようなPWM方式の制御回路を利用する場合、その内部で生成される三角波やのこぎり波の位相を、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22とで180度シフトさせれば、スイッチング動作の位相を逆相とすることができる。
【0041】
また、所定周波数のクロックを用い、フリップフロップのセット、リセットを繰り返すタイプの制御回路を用いる場合、第1スイッチング電源20側と第2スイッチング電源22側で、そのクロックの位相を反転させればよい。
【0042】
以上が半導体回路2の構成である。続いて半導体回路2の動作を説明する。
図3は、図1の半導体回路2の動作を示すタイムチャートである。図3の上段は、電源電圧Vdd1、Vdd2を示し、下段は第1信号処理回路10による遅延量τ1、第2信号処理回路12による遅延量τ2および半導体回路2全体の遅延量τを示す。
【0043】
電源電圧Vdd1、Vdd2は等しく同じ値にレギュレートされているが、逆相でスイッチングするため、逆極性のリップルが現れる。いま、第1スイッチング電源20による遅延量τ1の電圧感度(dτ1/dVdd1)と、第2スイッチング電源22による遅延量τ2の電圧感度(dτ2/dVdd2)が等しいと仮定する。また、電源電圧Vdd1、Vdd2のリップルの振幅ΔVdd1、ΔVdd2は等しいとする。
【0044】
半導体回路2全体の遅延量τは、τ1とτ2の和であるから、
τ=τ1+τ2=τt1+Δτ1+τt2+Δτ2
が成り立つ。遅延量τ1と遅延量τ2は、対応する電源電圧のリップルに応じて逆相で変化するため、それぞれの目標値τt1,τt2との誤差Δτ1、Δτ2の符号は反対となる。その結果、誤差Δτ1、Δτ2が相殺し合い、電源電圧のリップルの影響により遅延量τが変動するのを抑制でき、目標値τt1+τt2に安定化できる。
【0045】
このように、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22の位相を反転させることにより、2つの誤差Δτ1とΔτ2をキャンセルすることができる。
【0046】
なお、電源電圧Vdd1とVdd2は必ずしも逆相である必要はない。つまり半導体回路2全体の遅延量τを安定化させるための位相φ1、φ2を、実験やシミュレーションにより最適化してより細かく設定してもよい。
【0047】
また、図3のタイムチャートでは、第1スイッチング電源20および第2スイッチング電源22のスイッチングのデューティ比が等しく50%の場合を説明したが、通常デューティ比は、スイッチング電源の入力電圧と出力電圧に応じて定まり、必ずしも50%となるとは限らない。しかしながら、デューティ比が50%でなくても、第1スイッチング電源20と第2スイッチング電源22のスイッチングの位相を最適化することにより、半導体回路2全体の遅延量τを安定化することは可能であり、十分な効果を得ることができる。
【0048】
さらに図1の半導体回路2によれば、特性値の変動量を目標値に近づけるためにフィードバックを要しないため、発振現象などにより動作が不安定になるのを防止できる。またフィードバック系(クローズドループ系)よりもオープンループ系の方が設計が簡易であるという利点もある。
【0049】
上述の半導体回路2は、2段の遅延回路を有する場合を説明したが、本発明は3段以上の任意の段数の信号処理回路にも拡張可能である。この場合、複数の信号処理回路に供給される電源電圧の位相を互いにシフトさせれば、全体としての遅延量の変動を抑制することができる。当然ながら、3段以上であっても、遅延処理以外にも適用可能である。
【0050】
つまり、この半導体回路2からは以下の技術思想が導かれる。つまり半導体回路(100)は、複数の信号処理回路(10、12)および複数のスイッチング電源(20、22)を備える。
【0051】
複数の信号処理回路(10、12)はカスコード接続され、それぞれが入力された信号に対して同種の信号処理を施し、その特性値に変化を与える。複数のスイッチング電源(20、22)は、複数の信号処理回路(10、12)ごとに設けられ、対応する信号処理回路(10、12)に電源電圧(Vdd1、Vdd2)を供給する。
【0052】
複数の信号処理回路(10、12)それぞれが、信号(S1、S2)の特性値(位相)に与える変化量(τ1、τ2)は、電源電圧(Vdd1、Vdd2)に対する依存性を有する。複数のスイッチング電源(20、22)のスイッチングの位相は、複数の信号処理回路(10、12)が、信号の特性値に与える変化量(τ1、τ2)の合計(τ=τ1+τ2)がその目標値と一致するように設定される。
【0053】
この技術思想によれば、全体として必要な特性値の変化量を、任意の個数nに分割する。電源電圧のリップルの影響を好適に除去するためには、変化量はn等分することが望ましいが、必ずしも個々の変化量は一致する必要はなく、全体としてキャンセルできればそれでよい。
【0054】
信号処理回路がn個(nは2以上の整数)のとき、複数のスイッチング電源の位相を(360/n)度づつシフトさせてもよい。この場合、簡易に電源電圧のリップルの影響をキャンセルできる。
【0055】
上述の実施の形態では、複数の信号処理回路それぞれが信号の特性値に与える変化量の電源電圧に対する感度は等しく、かつそれぞれに供給される電源電圧のリップルの幅ΔVdd1、ΔVdd2が等しい場合を説明した。つまり、
dτ1/dVdd1=dτ2/dVdd2 …(1)
ΔVdd1=ΔVdd2 …(2)
が成り立つ場合である。
【0056】
信号の特性値の変化量のリップル幅Δτ1、Δτ2は、電源電圧Vddの変動幅ΔVddと、特性値の変化量の感度の積で定まるところ、式(1)、(2)の条件下では、
dτ1/dVdd1×ΔVdd1=dτ2/dVdd2×ΔVdd2 …(3)
が成り立ち、特性値の変化量の変動を好適にキャンセルさせることができた。
【0057】
しかしながら、式(1)、(2)が同時に成り立たなくても、式(3)が成り立てば、電源電圧のリップルの影響は好適に除去することができる。さらにいえば、式(3)の右辺と左辺が異なる場合であっても、その値が近ければ、電源電圧のリップルの影響を抑制することができ、本技術の利点を享受できる。
【0058】
以上、実施の形態に係る半導体回路2について説明した。続いて、半導体回路2に適したアプリケーションを説明する。半導体回路2は半導体試験装置(以下、単に試験装置)100に用いることができる。
【0059】
試験装置100の内部にはさまざまな箇所に遅延回路が用いられ、図1の半導体回路2は、こうした遅延回路に好適に利用できる。
【0060】
図4は、実施の形態に係る試験装置100の構成例を示すブロック図である。試験装置100は、DUT200から出力される被試験データが期待値と一致するかを判定する。たとえばDUT200はメモリである。
【0061】
試験装置100は、タイミング発生器102、パターン発生器104、波形整形器106、ライトドライバ108、コンパレータ110、論理比較部112を備える。
【0062】
パターン発生器104は、タイミングセット信号(以下、「TS信号」という。)を生成して、タイミング発生器102に供給する。タイミング発生器102は、TS信号により指定されたタイミングデータにもとづいて周期クロックCKp及び遅延クロックCKdを発生して、周期クロックCKpをパターン発生器104に供給し、遅延クロックCKdを波形整形器106に供給する。そして、パターン発生器104は、DUT200が有する複数の記憶領域であるブロックのそれぞれを示すアドレスADD、及び複数のブロックのそれぞれに書き込むべき複数の試験パターンデータDtを発生して、波形整形器106に供給する。
【0063】
波形整形器106は、タイミング発生器102から供給された遅延クロックCKdにもとづいて、パターン発生器104が発生した試験パターンデータDtに応じた試験パターン信号Stを生成する。そして、波形整形器106は、パターン発生器104から供給されたアドレスADD、及び生成した試験パターン信号Stを、ライトドライバ108を介してDUT200に供給する。
【0064】
また、パターン発生器104は、DUT200がアドレスADD及び試験パターン信号Stに応じて出力すべき出力データである期待値データDexpを予め発生して、論理比較部112に供給する。
【0065】
コンパレータ110は、DUT200からアドレスADDに対応するデータDoを読み出し論理比較部112へと出力する。論理比較部112は、DUT200から読み出されたデータDoとパターン発生器104から供給された期待値データDexpとを比較して、DUT200の良否を判定する。
【0066】
図5(a)、(b)は、タイミング発生器102の構成を示すブロック図である。図5(a)はタイミング発生器102の構成を、同図(b)は、タイミング発生器に使用される遅延回路の構成例を示す。図5(a)に示すように、タイミング発生器102は、数百MHzの基準クロックREFCLKから、テストレートに応じたパルスを切り出すパルス選択部103と、選択されたパルスを遅延させる遅延回路4a、4bを備える。
【0067】
パルス選択部103には、基準クロックCLKREFと、基準クロックREFCLKよりも低い周波数のパルス信号(以下、レート信号RATEという)が入力されている。パルス選択部103の機能は簡易的にANDゲートで表現でき、基準クロックREFCLKのエッジを、レート信号RATEで設定されるウィンドウで切り出す。パルス選択部103からはテストレートに応じた周波数のパルスCKrが出力される。
【0068】
遅延回路4a、4bは、パルス選択部103の出力CKrに対して、TS信号に応じた遅延を与え、周期クロックCKp、遅延クロックCKdを生成する。実施の形態に係る半導体回路2の遅延安定化技術は、遅延回路4a、4bの少なくとも一方、好ましくは両方に適用される。
【0069】
図5(b)に示すように、遅延回路4a、4bは、前段に設けられた前置遅延回路30と、後段に設けられた後置遅延回路32を備える。遅延回路4a、4bはそれぞれ、パルスCKrに対して、全体として0〜2nsの可変遅延を与える。前置遅延回路30は、数nsオーダの刻みで粗い遅延(Course Delay)を与え、後置遅延回路32は数十psオーダの刻みで密な遅延(Fine Delay)を与える。
【0070】
図1で説明した半導体回路2の技術は、前置遅延回路30および後置遅延回路32それぞれに適用できる。
【0071】
前置遅延回路30は、複数m個(mは整数)のサブ遅延回路D1〜Dmと、セレクタ31を備える。サブ遅延回路D1〜Dmはカスケード接続されており、それぞれが所定の遅延量τd1〜τdmを与える。サブ遅延回路D1〜Dmの接続ノードにはタップT1〜Tmが設けられており、i番目のタップからは、1段目〜i段目の遅延量τ1〜τiの合成遅延Στdiを受けたパルスが出力される。セレクタ31は、TS信号に応じて複数のタップに発生するパルスのいずれかを選択する。
【0072】
サブ遅延回路D1〜Dmそれぞれが、図1の半導体回路2に対応し、したがってサブ遅延回路D1〜Dmはそれぞれ、第1信号処理回路10と第2信号処理回路12に分割されている。図5(b)において、サブ遅延回路D1〜Dmはそれぞれ、多段接続された遅延素子を含んで構成され、第1信号処理回路10は前段の遅延素子を含み、第2信号処理回路12が後段の遅延素子を含んでいる。第1信号処理回路10に含まれる前段の遅延素子は、図1の第1スイッチング電源20から電源電圧Vdd1を受け、第2信号処理回路12に含まれる後段の遅延素子は、図1の第2スイッチング電源22から電源電圧Vdd2を受ける。
【0073】
この前置遅延回路30によれば、電源電圧のリップルが、サブ遅延回路D1〜Dmそれぞれの遅延量τd1〜τdmに及ぼす影響を抑制することができる。
【0074】
後段の後置遅延回路32についても、図1の半導体回路2に対応した構成を有している。つまり後置遅延回路32は、第1サブ遅延回路34と第2サブ遅延回路36に分割されて構成される。第1サブ遅延回路34は図1の第1信号処理回路10に相当し、第2サブ遅延回路36は図1の第2信号処理回路12に相当する。第1サブ遅延回路34および第2サブ遅延回路36の構成も特に限定されるものではないが、複数の多段接続された遅延素子を含んで構成され、TS信号に応じて遅延素子の段数が切り換え可能な構成であってもよい。あるいは遅延素子のバイアスが調節に構成されてもよい。
【0075】
後置遅延回路32についても、図1の半導体回路2と同様の構成とすることにより、第1サブ遅延回路34と第2サブ遅延回路36で電源電圧のリップルに起因する遅延量のジッタを相殺することができる。
【0076】
試験装置100は、一般的な電子機器や半導体回路よりも高いタイミング精度が要求され、特にタイミング発生器102のジッタは、試験精度に大きく影響するため、極力抑制する必要がある。従来の試験装置では、タイミング発生器102のジッタを抑制するために、リップルフリーの電源電圧を生成可能なリニアレギュレータを用いるのが一般的であった。しかしながらリニアレギュレータの効率はスイッチングレギュレータのそれに比べて著しく劣るため、試験装置で消費される電力が非常に高くなっていた。
【0077】
あるいは従来の試験装置において、電源回路としてスイッチング電源を用いようとすれば、電源電圧のリップルを除去するために、電源電圧の供給経路にフィルタを設けることも考えられる。しかしながらこの場合、電源回路の負荷が変動すると、電源電圧が負荷変動に応じてスパイクやディップが発生するという副次的な問題が発生する。こうした電源電圧のスイングは、やはり遅延量のジッタとして現れる。
【0078】
実施の形態に係る半導体回路2を、試験装置100内のさまざまな遅延回路に適用することにより、電源回路にスイッチング電源を用いて消費電力を低減することができ、さらにジッタフリーの信号を好適に生成できる。
【0079】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体回路の構成を示すブロック図である。
【図2】遅延回路である第1信号処理回路、第2信号処理回路により与えられる遅延量の電源電圧依存性を示す図である。
【図3】図1の半導体回路の動作を示すタイムチャートである。
【図4】実施の形態に係る試験装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5(a)、(b)は、タイミング発生器の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0081】
2…半導体回路、4a…遅延回路、4b…遅延回路、8…信号処理回路、10…第1信号処理回路、12…第2信号処理回路、20…第1スイッチング電源、22…第2スイッチング電源、30…前置遅延回路、31…セレクタ、32…後置遅延回路、34…第1サブ遅延回路、36…第2サブ遅延回路、D1…サブ遅延回路、100…試験装置、102…タイミング発生器、103…パルス選択部、104…パターン発生器、106…波形整形器、108…ライトドライバ、110…コンパレータ、112…論理比較部、200…DUT、S1…第1信号、S2…第2信号、S3…第3信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号として出力する第1信号処理回路と、
前記第2信号に前記所定の信号処理を施し、その前記特性値に変化を与えて第3信号として出力する第2信号処理回路と、
前記第1信号処理回路に電源電圧を供給する第1スイッチング電源と、
前記第2信号処理回路に電源電圧を供給する第2スイッチング電源と、
を備え、
前記第1信号処理回路が前記第1信号の前記特性値に与える変化量と、前記第2信号処理回路が前記第2信号の前記特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有し、
前記第1スイッチング電源と前記第2スイッチング電源の位相は、前記第1信号の前記特性値の変化量とその目標値との誤差と、前記第2信号の前記特性値の変化量とその目標値との誤差がキャンセルするように設定されることを特徴とする半導体回路。
【請求項2】
前記第1スイッチング電源と前記第2スイッチング電源は、逆相で動作することを特徴とする請求項1に記載の半導体回路。
【請求項3】
第1信号に所定の信号処理を施し、その特性値に変化を与えて第2信号として出力する第1信号処理回路と、
前記第2信号に前記所定の信号処理を施し、その前記特性値に変化を与えて第3信号として出力する第2信号処理回路と、
前記第1信号処理回路に電源電圧を供給する第1スイッチング電源と、
前記第2信号処理回路に電源電圧を供給する第2スイッチング電源と、
を備え、
前記第1信号処理回路が前記第1信号の前記特性値に与える変化量と、前記第2信号処理回路が前記第2信号の前記特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有し、
前記第1スイッチング電源と前記第2スイッチング電源は、逆相で動作することを特徴とする半導体回路。
【請求項4】
カスコード接続され、それぞれが入力された信号に対して同種の信号処理を施し、その特性値に変化を与える複数の信号処理回路と、
前記複数の信号処理回路ごとに設けられ、対応する前記信号処理回路に電源電圧を供給する複数のスイッチング電源と、
を備え、
前記複数の信号処理回路それぞれが信号の前記特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有し、
前記複数のスイッチング電源の位相は、前記複数の信号処理回路が前記信号の前記特性値に与える変化量の合計がその目標値と一致するように設定されることを特徴とする半導体回路。
【請求項5】
信号処理回路がn個(nは2以上の整数)のとき、前記複数のスイッチング電源の位相は、(360/n)度づつシフトしていることを特徴とする請求項4に記載の半導体回路。
【請求項6】
カスコード接続され、それぞれが入力された信号に対して同種の信号処理を施し、その特性値に変化を与える複数の信号処理回路と、
前記複数の信号処理回路ごとに設けられ、対応する前記信号処理回路に電源電圧を供給する複数のスイッチング電源と、
を備え、
前記複数の信号処理回路それぞれが信号の前記特性値に与える変化量は、電源電圧に対する依存性を有し、
信号処理回路がn個(nは2以上の整数)のとき、前記複数のスイッチング電源の位相は、(360/n)度づつシフトしていることを特徴とする半導体回路。
【請求項7】
複数の前記信号処理回路は同じ構成を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の半導体回路。
【請求項8】
複数の前記信号処理回路それぞれが信号の特性値に与える変化量の電源電圧に対する感度は、略等しいことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の半導体回路。
【請求項9】
前記信号処理回路は遅延回路であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の半導体回路。
【請求項10】
前記信号処理回路は増幅回路であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の半導体回路。
【請求項11】
入力されたクロックに遅延を与える請求項9に記載の半導体回路を備えることを特徴とする試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−239361(P2009−239361A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79234(P2008−79234)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】