説明

半導体発光素子

【課題】半導体発光素子において、発光効率の低下を抑えつつ発光波長の長波長化を図る。
【解決手段】半導体発光素子10は、二つの量子井戸8、9を備える。第1の量子井戸8は、第1の障壁層(CdTe層1、5)と、第1の障壁層に挟まれた第1の井戸層(PbTe層2、4)とから構成され、第2の量子井戸9は、第1の井戸層と第1の井戸層に挟まれた第2の井戸層(SnTe層3)とから構成される。この構造にしたことより、第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位7が、第1の井戸層のバンドギャップBG内に形成され得るので、第1の量子井戸8の電子サブバンドの基底準位6における電子と、第2の量子井戸9の正孔サブバンドの基底準位7における正孔との再結合による発光を利用して、第1の井戸層のバンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーで発光することが可能になる。従って、発光波長の長波長化を図ることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子が知られている。この半導体発光素子のうち、波長2μm以上で発光する素子には、伝導帯の電子と価電子帯の正孔の再結合に伴う発光を利用する通常タイプと、伝導帯の同一量子井戸内に形成された上位サブバンドと下位サブバンド間、あるいは価電子帯の同一量子井戸内に形成された上位サブバンドと下位サブバンド間の電子遷移(による正孔の遷移)に伴う発光を利用するサブバンド間遷移タイプとがある。
【0003】
後者のサブバンド間遷移タイプの発光素子では、井戸層の幅を通じてサブバンド間のエネルギーを調節することで発光波長を選択でき、発光スペクトルの幅が狭く利得の温度依存性が少ないという利点がある。しかし、サブバンド間に大きなエネルギー差が必要となる短波長発光、典型的には波長5μm以下の発光には、それを可能とする深い量子井戸の形成ができるヘテロ接合材料の候補が少ない。
【0004】
一方、前者の通常タイプの発光素子では、バンドギャップを挟んでの電子と正孔の再結合を利用することが多く、この場合には、バンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーでの発光ができない。このため、長波長光の発光素子は、発光層を狭ギャップ半導体材料で構成する必要がある。ただし、典型的な狭ギャップ半導体であるInAsやInSbでは、直接遷移バンドギャップに、電子よりも有効質量の重い正孔が、軽い正孔と共存する。このため、重い正孔が関与するオージェ再結合と価電子帯間吸収がバンドギャップの減少とともに顕著になり、特に高温での発光効率が大幅に低下する欠点を有する。そこで、直接遷移バンドギャップにおける電子と正孔の有効質量がほぼ等しい、PbTeやPbSeといった狭ギャップIV‐VI族化合物半導体が発光層の材料として重要な候補となる。
【0005】
上記通常タイプ発光素子の発光層(井戸層)にPbTeを用いた場合、PbTeのバンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーで発光させることができない。そこで、さらに長い波長で発光させるためには、PbTeよりもバンドギャップエネルギーが小さい半導体を発光層の材料とする必要がある。そのような材料として、PbTeを同じくIV‐VI族化合物半導体であるSnTeと混晶化させた、Pb1-xSnxTe混晶の使用が候補となる。Pb1-xSnxTe混晶はPbTe(x = 0)とSnTe(x = 1)の中間領域の組成でバンドギャップエネルギーがゼロになるので、Sn組成xを調節して、バンドギャップエネルギーをPbTeの0.31eV(300K)からゼロまで選択することが可能である。
【0006】
上記のPb1-xSnxTe混晶を発光層に用いて、PbTeを発光層に用いた場合よりも発光波長を長波長化する方法は公知である。例えば、非特許文献1に記載された半導体レーザーは、Pb0.93Sn0.07Te混晶の障壁層で挟んだPb0.85Sn0.15Te混晶の量子井戸を発光層に用いて、波長7μm〜10μmの発光を得ている。しかし、PbTeとSnTeの格子定数は、前者が0.646nm、後者が0.631nmと、2%以上異なる。このため、両者が同じ岩塩構造の結晶構造をとるとはいえ、混晶化に伴う歪みや組成の不均一分布によって、Pb1-xSnxTe混晶に非発光性の再結合中心が導入されやすい。そこで、Pb1-xSnxTe混晶を発光層に使用することは、発光効率の減少を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】吉川、外3名、「鉛テルル/鉛錫テルル二重へテロ構造レーザーの77Kでの1500時間を超える連続動作」(Continuous operation over 1500h of a PbTe/PbSnTe double heterostructure laser at 77K)、応用物理論文誌(Applied Physics Letters)、米国、物理学会(American Institute of Physics)、1977年、第31号、p.699−701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、伝導帯の電子と価電子帯の正孔の再結合を利用して発光する半導体発光素子において、発光効率の低下を抑えつつ、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ることが可能な半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1の障壁層と前記第1の障壁層に挟まれた第1の井戸層とを含む第1の量子井戸と、前記第1の井戸層と前記第1の井戸層に挟まれた第2の井戸層とを含む第2の量子井戸とを備え、前記第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位が、前記第1の井戸層のバンドギャップ内に形成され、前記第1の量子井戸の電子サブバンドの基底準位における電子と、前記第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位における正孔とが再結合して発光するものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の半導体発光素子において、前記第1の井戸層の主成分がPbTeであり、前記第2の井戸層の主成分がSnTeであるものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の半導体発光素子において、前記第2の井戸層の厚さが3nm以下であるものである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の半導体発光素子において、前記第2の井戸層の厚さが1nm以下であるものである。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の半導体発光素子において、前記第1の障壁層の主成分が、Pb1-xEuxTe混晶またはCdTeであるものである。
PbTeとEuTeの混晶であるPb1-xEuxTe混晶は、例えば、W.ヘイス(W. Heiss)、外4名、「鉛テルル量子井戸を用いた垂直共振器面発光レーザーの室温以上の温度における中赤外発振」(Above-room-temperature mid-infrared lasing from vertical-cavity surface-emitting PbTe quantum-well lasers)、応用物理論文誌(Applied Physics Letters)、米国、物理学会(American Institute of Physics)、2001年、第78号、p.862−864を一例として、PbTe井戸層に対する好適な障壁層として多数の実施例がある。また、Pb1-xEuxTe混晶以外にも、PbTe井戸層に対する好適な障壁層として、閃亜鉛鉱構造の結晶となるCdTeを使うこともできる。II‐VI族半導体のCdTeは岩塩構造のPbTeと結晶構造が異なるが、立方晶としての結晶構造の格子定数が互いに近接している。このため、高品質なPbTe/CdTeヘテロ接合のエピタキシャル成長が可能である。CdTe障壁層中のPbTe量子井戸からは、電子と正孔の再結合に基づくフォトルミネセンスが観測される。PbTe/CdTe量子井戸構造の特徴は、PbTe/Pb1-xEuxTe量子井戸構造よりも発光効率が高いことである(例えば、小池、眞壁、矢野、外4名、「中赤外線発光素子用PbTe/CdTe量子井戸の分子線エピタキシャル成長とフォトルミネッセンス解析」、材料、日本材料学会、2004年、第53号、p.1328−1333参照)。しかし、結晶温度が250℃より高くなると、2次元の量子井戸構造が不安定になり、自己形成的に球対称な(3次元の)量子ドットへ構造が変化する(例えば、W.ヘイス(W. Heiss)、外9名、「エピタキシャル析出によってコヒーレントに埋め込まれた中心対称性の鉛テルル/カドミウムテルル量子ドット」(Centrosymmetric PbTe/CdTe quantum dots coherently embedded by epitaxial precipitation)、応用物理論文誌(Applied Physics Letters)、米国、物理学会(American Institute of Physics)、2006年、第88号、192109参照)。このことから、目的とする半導体発光素子の使用形態や製造方法に応じて、第1の障壁層にPb1-xEuxTe混晶あるいはCdTeを選択する必要がある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の半導体発光素子では、発光に関与するキャリアを高密度にする目的で、量子井戸構造を用いる。第1の障壁層に注入あるいは光励起され、拡散あるいはドリフトによって第1の量子井戸に移動した電子、若しくは第1の量子井戸に光励起された電子は、第1の井戸層に形成された電子サブバンドの基底準位を占有する。一方、第1の障壁層に注入あるいは光励起され、拡散あるいはドリフトによって第1の量子井戸に移動した正孔、若しくは第1の量子井戸に光励起された正孔は、拡散あるいはドリフトによって第2の量子井戸に移動し、第2の井戸層に形成された正孔サブバンドの基底準位を占有する。この電子と正孔によって、第1の量子井戸の電子サブバンドと第2の量子井戸の正孔サブバンドにおける、電子分布が反転する。これにより、効率のよい発光を行うことができる。
【0015】
上記の半導体発光素子の構造では、第1の井戸層の厚さと第2の井戸層の厚さを調整することにより、第1の量子井戸に形成される電子サブバンドの基底準位と、第2の量子井戸に形成される正孔サブバンドの、基底準位のエネルギー差を、第1の井戸層のバンドギャップエネルギーよりも小さくすることができる。この構造において反転分布した電子と正孔の再結合を利用すれば、第1の井戸層(例えばPbTe)のバンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーの発光が可能になる。すなわち、請求項1の半導体発光素子によれば、発光層に、例えばPbTeから構成される1つの井戸層のみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ることが可能になる。
【0016】
請求項2の発明によれば、第1の井戸層の主成分をPbTeとし、第2の井戸層の主成分をSnTeとしたことにより、第1の量子井戸の内部に第2の量子井戸を形成し、第1の井戸層のバンドギャップを障壁層として、第2の井戸層の価電子帯内に正孔サブバンドを形成することが可能になる。これにより、第1の量子井戸に形成される電子サブバンドの基底準位と第2の量子井戸に形成される正孔サブバンドの基底準位のエネルギー差を小さくすることで、第1の井戸層をなすPbTeのバンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーでの発光が可能になる。すなわち、請求項2の半導体発光素子によれば、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ることが可能になる。また、当該発光層はオージェ再結合や価電子帯間吸収の少ないIV‐VI族半導体のPbTeとSnTeで構成されるため、高温での発光に有利である。さらにまた、PbTeの比誘電率と電子の有効質量は、それぞれ室温で35と0.24m0であり、SnTeの比誘電率と正孔の有効質量は、それぞれ室温で45と0.33m0である(m0は真空中の電子質量)。このため、当該発光層における電子と正孔の(波動関数における)波の広がりを示すボーア軌道半径は300nm程度と非常に大きい。そこで、請求項2の半導体発光素子を用いれば、第1の量子井戸に形成される電子サブバンドの基底準位における電子の波と、第2の量子井戸に形成された正孔サブバンドの基底準位における正孔の波の重なりが大きいので、発光層が所謂タイプIIのヘテロ接合を形成するにも拘わらず、高い発光効率を得ることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、第2の井戸層の厚さを3nm以下としたことにより、発光効率の低下を抑えることができる。この理由について説明する。第1の井戸層を形成するPbTeと、第2の井戸層を形成するSnTeの格子定数には、2%以上の差がある。PbTeの格子定数に整合したSnTe層を、結晶欠陥の発生を抑えてエピタキシャル成長できる臨界膜厚は、結晶成長条件によって変化する。しかし、どのような結晶成長条件においても、臨界膜厚を越えるとSnTe層の格子定数が徐々に緩和して、SnTe層の格子定数が本来の格子定数に近づく。この格子緩和に伴って生ずる結晶欠陥が非発光性再結合中心として働くと、発光効率が低下する。このため、第2の井戸層を構成するSnTe層の実用上の厚さには上限がある。実験の結果、発光効率の低下を抑えることができる第2の井戸層の厚さは、高々3nm程度と推測される。
【0018】
請求項4の発明によれば、第2の井戸層の厚さを1nm以下としたことにより、Pb1-xSnxTe混晶を発光層に使用した場合に比べて、発光効率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)(b)は、本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の断面構造図とエネルギーバンド図。
【図2】同半導体発光素子から観測された発光スペクトルにおける、波長と発光強度の測定温度依存性を示す図。
【図3】同半導体発光素子においてSnTe層の挿入厚さを変化させたときの、測定温度300Kにおける発光スペクトルのピーク波長の変化を示す図。
【図4】(a)(b)は、同半導体発光素子との比較用に作成した、Pb1-xSnxTe混晶を発光層に使用した半導体発光素子の、断面構造図とエネルギーバンド図。
【図5】同比較用の半導体発光素子から観測された、発光スペクトルにおける波長と発光強度の測定温度依存性を示す図。
【図6】同比較用の半導体発光素子において、Pb1-xSnxTe混晶層のSn組成を変化させたときの、測定温度300Kにおける発光スペクトルのピーク波長の変化を示す図。
【図7】本実施形態の半導体発光素子と比較用の半導体発光素子との、発光ピークの相対強度の発光波長依存性を示す比較図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1(a)(b)は、それぞれ本実施形態による半導体発光素子の断面構造図と、この半導体発光素子のエネルギーバンド図である。半導体発光素子10は、第1の量子井戸8と第2の量子井戸9とを有している。第1の量子井戸8は、第1の障壁層をなすCdTe層1、5と、第1の井戸層をなすPbTe層2、4とで構成される。PbTe層2、4は、CdTe層1、5に挟まれている。また、第2の量子井戸9は、第1の井戸層のPbTe層2、4と、第2の井戸層をなすSnTe層3とで構成され、第1の井戸層のPbTe層2、4を障壁層として用いている。SnTe層3は、PbTe層2、4に挟まれている。図1(b)中の6は、第1の量子井戸8の伝導帯に形成される電子サブバンドの基底準位を示し、7は、第2の量子井戸9の価電子帯に形成される正孔サブバンドの基底準位を示す。図1(b)に示されるように、第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位7は、第1の井戸層をなすPbTe層2、4のバンドギャップBG内に形成されている。半導体発光素子10は、第1の量子井戸8の電子サブバンドの基底準位6における電子と、第2の量子井戸9の正孔サブバンドの基底準位7における正孔との、再結合によって発光する。
【0021】
上記の半導体発光素子10における発光のメカニズムについて、もう少し詳細に説明する。半導体発光素子10では、発光に関与するキャリアを高密度にする目的で、量子井戸構造を用いる。CdTe層1、5(第1の障壁層)に注入あるいは光励起され、拡散あるいはドリフトによって第1の量子井戸8に移動した電子、若しくは第1の量子井戸8に光励起された電子は、PbTe層2、4(第1の井戸層)に形成された電子サブバンドの基底準位6を占有する。一方、CdTe層1、5(第1の障壁層)に注入あるいは光励起された正孔、若しくは第1の量子井戸8に光励起された正孔は、拡散あるいはドリフトによって移動し、SnTe層3(第2の井戸層)に形成された正孔サブバンドの基底準位7を占有する。この電子と正孔によって、第1の量子井戸8の電子サブバンドの基底準位6と第2の量子井戸9の正孔サブバンドの基底準位7において、反転した電子分布が形成される。これにより、効率のよい発光を行うことができる。
【0022】
上記の半導体発光素子10を、GaAsの(100)面(GaAsにおける面方位が(100)の面)を基板として、固体ソース分子線エピタキシー法で作製した。GaAs基板上に、CdTe多結晶粒と金属Mnならびに金属Teを分子線源として、CdTeバッファ層、MnTeキャップ層の順に積層後、その場で熱処理を加えて結晶性を改善し、さらにCdTeバッファ層とCdTe/MnTe超格子層を介して厚さ300nmのCdTe層を積層した。成長プロセスの詳細は、小池、田中、李(S. Li)、矢野、「分子線エピタキシー法による(100)面ガリウムヒ素基板上への(100)面方位の高品質カドミウムテルル成長」(High-quality CdTe growth in the (100)-orientation on (100)-GaAs substrates by molecular beam epitaxy)、結晶成長ジャーナル(Journal of Crystal Growth)、オランダ、エルゼビア サイエンス ベーフェー(Elsevier Science B.V.)、2001年、第227/228号、p.671−676に公開されている。このようにして得た最上層のCdTe層は、面方位が(100)の高品位単結晶であり、当該CdTe層を図1(a)における第1の障壁層をなすCdTe層1に用いた。
【0023】
図1(a)に示すCdTe層1を形成後、基板温度を220℃に設定し、PbTe多結晶粒を分子線源として、図1(a)のPbTe層2をp nmの厚さで積層し、次いでSnTe多結晶粒を分子線源として、図1(a)のSnTe層3をs nmの厚さで積層し、さらにPbTe多結晶粒を分子線源として、図1(a)のPbTe層4をp nmの厚さで積層し、最後に図1(a)のCdTe層5を50nmの厚さでキャップした。ここで、2p + s を一定値の10nmに保った。
【0024】
上記半導体発光素子10の、フォトルミネセンス(において発せられる光)の波長と発光強度を、発振波長655nm、出力40mWの半導体レーザーを励起光源として、InSbフォトディテクターあるいはCd1-xHgxTe混晶フォトディテクターと組み合わせた分光システムで測定した。図2は、第2の井戸層のSnTe層3の厚さsが0.63nmの半導体発光素子から観測された発光スペクトルを示し、測定温度は300K〜10Kである。測定温度300K、200K、100K、50K、10Kで測定した各スペクトル11、12、13、14、15は、それぞれの発光強度のピーク値で規格化(正規化)されており、測定温度の異なるスペクトル間の強度比較はできない。
【0025】
図2中の各スペクトル11〜15に共通して見られる波長4.3μm近傍の領域16における観測光強度の落ち込みは、光学パス(光の経路)の大気に含まれる二酸化炭素による光の吸収に基づくものであり、波長3.4μm近傍の領域17における観測光強度の落ち込みは、光学系の汚染に含まれる炭化水素による光の吸収に基づくものである。これらの落ち込みを除いた実際の発光強度は、いずれの温度においても単一ピーク波長を中心とした釣鐘型の波長依存性を示している。発光波長は温度上昇とともに短波長側へシフトしているが、これは、第1の井戸層を形成するPbTeのバンドギャップエネルギーが、温度上昇とともに増加する、正の温度依存性を持っているためである。
【0026】
図3は、第2の井戸層のSnTe層3の厚さsを0nmから0.95nmまで変化させたときの、測定温度300Kにおける発光スペクトルについて、大気と光学系の吸収を補正したピーク波長を示したものである。図中の複数の白抜きの正方形は、各測定点における実際の測定データを示し、直線21は、これらの測定データの近似直線である。図に示されるように、SnTe層3の挿入厚さsの増加とともにピーク波長が長波長側へシフトしている。これは、第2の量子井戸9に形成される正孔サブバンドの基底準位7が、SnTe層3の厚さsの増加に伴う量子効果の減少によって、SnTe層3の価電子帯のバンド端に近づいたためである(量子力学によれば、量子井戸の幅Lが広くなると(井戸層の厚さが増加すると)、井戸の底から測ったサブバンドの高さは1/L2に比例して低くなるので、正孔サブバンドの基底準位が価電子帯の上端に近づく)。ここでは、第1の量子井戸8の井戸幅が一定値の10nmに保たれているので、第1の量子井戸8に形成される電子サブバンドの基底準位6のエネルギー位置は変化しない。そこで、SnTe層3の厚さsの増加とともに、第1の量子井戸8に形成される電子サブバンドの基底準位6と第2の量子井戸9に形成される正孔サブバンドの基底準位7との間のエネルギー差が減少し、電子サブバンドの基底準位6の電子と正孔サブバンドの基底準位7の正孔の再結合に基づく、発光が長波長側へシフトした。
【0027】
ところで、図3において、s = 0 nmすなわち第1の量子井戸8にSnTe層3を挿入しない場合の発光ピーク波長は、約3μmとなっている。300KにおけるPbTeのバンドギャップエネルギーは0.31eVであるので、量子効果を考慮しても、約3μmという値は、単純な理論値(4μm)よりも短波長側に位置する。これは、小池、原田、板倉、矢野、外5名、「格子タイプの異なるエピタキシーによる鉛テルル/カドミウムテルル量子ドットのフォトルミネッセンス解析」(Photoluminescence characterization of PbTe/CdTe quantum dots growth by lattice-type mismatched epitaxy)、結晶成長ジャーナル(Journal of Crystal Growth)、オランダ、エルゼビア サイエンス ベーフェー(Elsevier Science B.V.)、2007年、第301/302号、p.722−725に開示されているごとく、当該PbTe層2、4が成長面内で2軸性の引っ張り歪みを受けてバンドギャップエネルギーが増加したためである。すなわち、PbTeの熱膨張係数はCdTeの熱膨張係数の約4倍大きいので、障壁層を兼ねた厚いバッファ層のCdTe層1、5に220℃で格子整合して成長した井戸層のPbTe層2、4が、300Kの測定温度において熱歪みを受けて、そのバンドギャップエネルギーが増加したためである。
【0028】
上記のように、PbTeとCdTeの熱膨張係数は大きく異なるが、SnTeとPbTeの熱膨張係数は近い。このため、SnTe層3を第1の井戸層8を形成するPbTe層2、4に挿入しても、熱歪みは殆ど変化しない(熱歪みの大きさはSnTe層3の挿入による影響を殆ど受けない)。言い換えれば、図3に示されたSnTe層3の挿入厚さsの増加に伴う発光ピーク波長の長波長化は、PbTe層2、4の熱歪みによる波長シフトと独立している。そこで、熱膨張係数がPbTeと大きく異なるCdTeの代わりに、熱膨張係数と格子定数がPbTeに近いPb1-xEuxTe混晶を、第1の障壁層(図1中の1、5の障壁層に相当)に用いた場合にも、半導体発光素子10の発光ピーク波長は、図3の結果と同じようにSnTe層3の挿入で長波長化し、かつ、(CdTeを第1の障壁層に用いた場合と比べて熱歪みの影響を受けにくいために、)図3に示される直線21の全体が長波長側へ平行移動する。
【0029】
本発明が解決しようとする課題は、「伝導帯の電子と価電子帯の正孔の再結合を利用して発光する半導体発光素子において、発光効率の低下を抑えつつ、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ること」である。この課題を解決するためには、(1)Pb1-xSnxTe混晶を発光層(井戸層)に使用した場合と同様に、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子よりも発光波長の長波長化を図ることが可能であり、かつ、(2)Pb1-xSnxTe混晶を発光層(井戸層)に使用した場合に比べて、その発光効率の低下を抑えることを可能ならしめる必要がある。
【0030】
図4(a)(b)は、図1(a)(b)に示される本実施形態の半導体発光素子10と比較するために作製した、Pb1-xSnxTe混晶を発光層(井戸層)に使用した半導体発光素子100である。この半導体発光素子100においても、発光層(井戸層)となるPb1-xSnxTe混晶層102を障壁層となるCdTe層101、103で挟み、量子井戸構造でキャリアを閉じ込めている。この半導体発光素子100も、図1(a)(b)に示される本実施形態の半導体発光素子10と同一のプロセスで、GaAsの(100)面(GaAsにおける面方位が(100)の面)を基板として、固体ソース分子線エピタキシー法を用いて作製した。GaAs基板上にCdTeバッファ層、MnTeキャップ層の順に積層後、その場で熱処理を加えて結晶性を改善し、さらにCdTeバッファ層とCdTe/MnTe超格子層を介して厚さ300nmの高品質CdTe層を積層した。当該高品質CdTe層を、図4(a)における障壁層をなすCdTe層101に用いた。
【0031】
図4(a)に示すCdTe層101を形成後、基板温度を220℃に設定し、PbTe多結晶粒とSnTe多結晶粒を分子線源として、井戸層をなすPb1-xSnxTe混晶層102を10nmの厚さで積層した。その後、同一の基板温度で、障壁層をなすCdTe層103を50nmの厚さでキャップした。図4(b)中の104は、量子井戸108の伝導帯に形成される電子サブバンドの基底準位を示し、105は、量子井戸108の価電子帯に形成される正孔サブバンドの基底準位を示す。半導体発光素子100は、量子井戸108の伝導帯に形成される電子サブバンドの基底準位104における電子と、量子井戸108の価電子帯に形成される正孔サブバンドの基底準位105における正孔との、再結合によって発光する。
【0032】
上記半導体発光素子101のフォトルミネセンス(において発せられる光)の波長と発光強度を、発振波長655nm、出力40mWの半導体レーザーを励起光源として、InSbフォトディテクターあるいはCd1-xHgxTe混晶フォトディテクターと組み合わせた分光システムで測定した。図5は、井戸層のPb1-xSnxTe混晶層102のSn組成xが0.2の場合の、半導体発光素子100から観測された発光スペクトルを示し、測定温度は300K〜10Kである。測定温度300K、200K、100K、50K、10Kで測定した各スペクトル111、112、113、114、115は、それぞれの発光強度のピーク値で規格化(正規化)されており、測定温度の異なるスペクトル間の強度比較はできない。
【0033】
図5中の各スペクトル111〜115に共通に見られる、波長4.3μm近傍の領域116における観測光強度の落ち込みは、光学パス(光の経路)の大気に含まれる二酸化炭素による光の吸収に基づくものであり、波長3.4μm近傍の領域117における観測光強度の落ち込みは、光学系の汚染に含まれる炭化水素による光の吸収に基づくものである。これらの落ち込みを除いた実際の発光強度は、いずれの温度においても単一ピーク波長を中心とした釣鐘型の波長依存性を示している。発光波長は温度上昇とともに短波長側へシフトしているが、これは、井戸層を形成するPb1-xSnxTe混晶のバンドギャップエネルギーが、温度上昇とともに増加する、正の温度依存性を持っているためである。
【0034】
図6は、上記の半導体発光素子100において、井戸層のPb1-xSnxTe混晶層102のSn組成x を0から0.35まで変化させたときの、測定温度300Kにおける発光スペクトルについて、大気と光学系の吸収を補正したピーク波長を示したものである。図中の複数の黒丸は各測定点における実際の測定データを示し、直線121は、これらの測定データの近似直線である。図に示されるように、Sn組成xの増加とともにピーク波長が長波長側へシフトしている。これは、発光層(井戸層)となるPb1-xSnxTe混晶層102のバンドギャップエネルギーが、Sn組成xの増加とともに減少するためで、その発光機構と測定温度依存性の詳細な解析は、小池、外3名、「分子線エピタキシー法による(100)面方位ガリウムヒ素基板上に成長した鉛錫テルル/カドミウムテルル量子井戸のフォトルミネッセンス特性」(Photoluminescence properties of Pb1-xSnxTe/CdTe quantum wells grown on (100)-oriented GaAs substrates by molecular beam epitaxy)、結晶成長ジャーナル(Journal of Crystal Growth)、オランダ、エルゼビア サイエンス ベーフェー(Elsevier Science B.V.)(2009年3月出版予定)に記載されている。図6と図3の比較から、半導体発光素子100のPb1-xSnxTe混晶層102のSn組成x=0、0.1、0.2、0.3における発光波長(図6参照)は、本実施形態に係る半導体発光素子10のSnTe層3の厚さs=0nm、0.16nm、0.32nm、0.63nmにおける発光波長と、それぞれほぼ合致していることがわかる。
【0035】
図7は、図1(a)(b)に示される本実施形態の半導体発光素子10と、図4(a)(b)に示される比較用の半導体発光素子100とについて、発光ピークの相対強度の発光波長依存性を比較したものである。図7中の複数の白抜きの正方形は、本実施形態の半導体発光素子10についての各測定点における実際の測定データを示し、曲線31は、これらの測定データの近似曲線である。また、図7中の複数の黒丸は、比較用の半導体発光素子100についての各測定点における実際の測定データを示し、直線131は、これらの測定データの近似直線である。図7中の全ての測定データに対応する測定は、300Kで、同一励起光源、同一励起光強度、同一測定装置における同一配置の、同一条件で行われた。このため、図7中の縦軸の発光ピークの相対強度は、半導体発光素子の発光効率に比例している。図7から、図1(a)(b)に示される本実施形態の半導体発光素子10と、図4(a)(b)に示される比較用の半導体発光素子100とは、いずれも発光波長が長くなると発光効率が低下することが分かる。
【0036】
ただし、発光効率が大幅に低下する波長は、本実施形態の半導体発光素子10と比較用の半導体発光素子100とで、異なっている。図7に示されるように、図1(a)(b)に示される本実施形態の半導体発光素子10では、発光ピーク波長が4.4μmになるまで(すなわち、SnTe層3の厚さsが0.8nmになるまで(図3参照))は殆ど発光効率が低下せず、その値を越えた後で急激に低下する。一方、比較用の半導体発光素子100では、発光ピーク波長が3.15μmになった時点(すなわち、Pb1-xSnxTe混晶層のSn組成xが0.05になった時点(図6参照))で、既に発光効率の低下が見られ、その後もSn組成xの増加とともに連続的に発光効率が低下する。比較用の半導体発光素子100の測定データについては、図7中の黒丸に相当するデータしか採取していないが、図7に示される近似曲線31と近似直線131とから、2つの半導体発光素子10、100の発光効率は、発光波長が4.5μm〜5μmの辺りで交差すると予想され、それより短波長側では本実施形態の半導体発光素子10の発光素子の発光効率が、比較用の半導体発光素子100よりも高い。図3の結果から、2つの半導体発光素子10、100の発光効率の交差が予想される4.5μm〜5μmの発光波長は、本実施形態の半導体発光素子10において、SnTe層3の厚さsが約1nmの場合に相当している。
【0037】
比較用の半導体発光素子100の発光波長の長波長化に伴う(Sn組成xの増加に伴う)発光効率の低下は、発光層の混晶化に伴う歪みや組成の不均一分布によって、非発光性の再結合中心が導入されたためである。本実施形態の半導体発光素子10の発光波長の長波長化に伴う(SnTe層3の厚さsの増加に伴う)発光効率の低下は、SnTe層3の格子緩和が始まって、SnTe層3に非発光性再結合中心として働く結晶欠陥が発生したことが原因である。格子定数が一致していないヘテロ接合において、下地の格子定数に整合したエピタキシャル成長が可能な臨界膜厚は、結晶成長条件によって変化する。ただし、その変動幅は高々数倍の範囲であることから、本実施形態の半導体発光素子10の発光効率を高く保つためには、図1(a)に示されるSnTe層3の厚さsを、3nm以下、好ましくは1nm以下に保つことが必要である。
【0038】
上記のように、本実施形態による半導体発光素子10によれば、Pb1-xSnxTe混晶を発光層(井戸層)に使用した半導体発光素子100に比べて、発光効率の低下を抑えることができ、しかも、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ることができる。
【0039】
上記の本実施形態による半導体発光素子10が有する効果について、より詳細に説明する。この半導体発光素子10によれば、第1の井戸層PbTe層2、4に挟まれた第2の井戸層であるSnTe層3を設けたことにより、第1の量子井戸8の内部に第2の量子井戸9を形成し、第1の井戸層(PbTe層2、4)のバンドギャップBGを障壁層として第2の井戸層(SnTe層3)の価電子帯内に正孔サブバンドを形成することが可能になる。これにより、第1の井戸層の厚さと第2の井戸層の厚さを調整して、第1の量子井戸8に形成される電子サブバンドの基底準位6と第2の量子井戸9に形成される正孔サブバンドの基底準位7とのエネルギー差を小さくすることで、第1の井戸層をなすPbTe層2、4のバンドギャップエネルギーよりも小さいエネルギーでの発光を可能ならしめる。すなわち、本実施形態による半導体発光素子10によれば、発光層(井戸層)にPbTeのみを用いた通常タイプの半導体発光素子に比べて、発光波長の長波長化を図ることができる。また、当該発光層はオージェ再結合や価電子帯間吸収の少ないIV‐VI族半導体のPbTeとSnTeで構成されるため、高温での発光に有利である。
【0040】
さらにまた、PbTeの比誘電率と電子の有効質量は、それぞれ室温で35と0.24m0であり、SnTeの比誘電率と正孔の有効質量は、それぞれ室温で45と0.33m0である(m0は真空中の電子質量)。このため、当該発光層における電子と正孔の(波動関数における)波の広がりを示すボーア軌道半径は300nm程度と非常に大きい。そこで、本半導体発光素子10によれば、第1の量子井戸8に形成される電子サブバンドの基底準位における電子の波と、第2の量子井戸9に形成された正孔サブバンドの基底準位における正孔の波の重なりが大きいので、発光層が所謂タイプIIのヘテロ接合を形成するにも拘わらず、高い発光効率を得ることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、第1の井戸層にPbTe層2、4を用い、第2の井戸層にSnTe層3を用いたが、第1の井戸層及び第2の井戸層の材料はこれらに限定されるものではなく、第1の量子井戸に形成される電子サブバンドの基底準位と第2の量子井戸に形成される正孔サブバンドの基底準位のエネルギー差を、第1の井戸層のバンドギャップエネルギーより小さくすることが可能な、エネルギーバンド構造を有する材料の組み合わせであればよい。このようなバンド構造を可能とする材料系の他の一例として、第1の量子井戸の障壁層にAl1-xGaxSb混晶層を、第1の井戸層にInAs層を、第2の井戸層にGaSb層を、用いることもできる。また、上記実施形態では、第2の量子井戸9であるSnTe層3を第1の量子井戸8の中央に配置したが、第2の量子井戸の配置は、第1の量子井戸の中央に限定されるものではない。さらにまた、上記実施形態では第1の量子井戸8の井戸幅を10nmに設定したが、第1の量子井戸の井戸幅は10nmに限定されるものではなく、広くも狭くもすることができる。
【0042】
また、図1(a)に示されるCdTe層1、5とPbTe層2、4とSnTe層3とで構成される素子構造を繰り返して積層することにより、PbTe層とSnTe層とで構成される発光層を近接して積層してもよい。さらにまた、上記実施形態では、第1の量子井戸8の中に1つの第2の量子井戸9を形成したが、複数の第2の量子井戸9を第1の量子井戸8の中に形成しても構わない。また、上記の実施形態では、第1の量子井戸の障壁層にCdTeを用いたが、第1の量子井戸の障壁層を、Pb1-xEuxTe混晶、又は、Pbの一部をCaやSrに置換もしくはTeの一部をSeやSに置換したPb1-xEuxTe混晶、あるいは、CaやSrを混入したPb1-xEuxTe混晶で構成してもよいし、Mnを混入したCdTeで構成してもよい。
【0043】
なお、上記形態では、半導体発光素子10の結晶作製方法に分子線エピタキシーを用いたが、それに制限されることはなく、他の結晶作製方法、例えば気相化学堆積法や液相成長法を用いても構わない。
【符号の説明】
【0044】
10 半導体発光素子
1、5 CdTe層(第1の障壁層)
2、4 PbTe層(第1の井戸層)
3 SnTe層(第2の井戸層)
6 電子サブバンドの基底準位(第1の量子井戸の電子サブバンドの基底準位)
7 正孔サブバンドの基底準位(第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位)
8 第1の量子井戸
9 第2の量子井戸
BG バンドギャップ(第1の井戸層のバンドギャップ)
s 厚さ(第2の井戸層の厚さ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の障壁層と、前記第1の障壁層に挟まれた第1の井戸層とを含む第1の量子井戸と、
前記第1の井戸層と、前記第1の井戸層に挟まれた第2の井戸層とを含む第2の量子井戸とを備え、
前記第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位が、前記第1の井戸層のバンドギャップ内に形成され、
前記第1の量子井戸の電子サブバンドの基底準位における電子と、前記第2の量子井戸の正孔サブバンドの基底準位における正孔とが再結合して、発光することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1の井戸層の主成分がPbTeであり、前記第2の井戸層の主成分がSnTeであることを特徴とする、請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2の井戸層の厚さが3nm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2の井戸層の厚さが1nm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1の障壁層の主成分が、Pb1-xEuxTe混晶またはCdTeであることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−212626(P2010−212626A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59963(P2009−59963)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】